説明

磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置

【課題】MR変化率を向上した磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】強磁性体を含む第1磁性層と、強磁性体を含む第2磁性層と、第1磁性層と第2磁性層との間に設けられ、絶縁層161と、絶縁層を貫通する導電部162と、を含む中間層16と、を有する磁気抵抗効果素子の製造方法が提供される。本製造方法は、絶縁層と、絶縁層を貫通する導電部16pと、を含む構造体を形成する工程(ステップS110)と、構造体に、希ガスを含むイオン及びプラズマの少なくともいずれかの照射を行う第1処理工程(ステップS120)と、第1処理工程が施された構造体に対して、酸素及び窒素の少なくともいずれかのガスへの曝露、イオンビーム照射及びプラズマ照射の少なくともいずれかを行う第2処理工程(ステップS130)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistive Effect:GMR)を応用したスピンバルブ膜(Spin-Valve:SV膜)の磁気ヘッドやMRAM(Magnetic Random Access Memory)などの磁気デバイスへの応用の拡大が期待されている。
【0003】
スピンバルブ膜を用いた磁気抵抗効果素子として各種の構成が提案されているが、スピンバルブ膜の面にほぼ垂直方向にセンス電流を通電するCPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR素子が、高記録密度ヘッドに対応できる技術として注目されている。
【0004】
特許文献1には、高いMR変化率を実現するために、磁化固着層と、磁化自由層と、これらの間に設けられた絶縁層とこの絶縁層を貫通する電流パスを含むスペーサとを含む磁気抵抗効果素子の製造方法において、電流パスを形成する第1の金属層と、絶縁層に変換される第2の金属層を形成し、希ガスのイオンビームまたはRFプラズマの照射の前処理を行い、酸化ガスまたは窒化ガスを供給して第2の金属層を絶縁層に変換させるとともに電流パスを形成する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、第2の金属層が絶縁層に変化された後の絶縁層に、イオン、または、プラズマを照射して各層間の密着性を向上させ、信頼性を向上する技術が開示されている。
【0006】
MR変化率のさらなる向上には改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−54257号公報
【特許文献2】特開2008−16739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、MR変化率を向上した磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、強磁性体を含む第1磁性層と、強磁性体を含む第2磁性層と、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する導電部とを含む中間層と、を有する磁気抵抗効果素子の製造方法であって、前記絶縁層と、前記絶縁層を貫通する前記導電部と、を含む構造体を形成する構造体形成工程と、前記構造体に、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むイオン及びプラズマの少なくともいずれかの照射を行う第1処理工程と、前記第1処理工程が施された前記構造体に対して、酸素を含むガスへの曝露、酸素を含むイオンビームの照射、酸素を含むプラズマの照射、窒素を含むガスへの曝露、窒素を含むイオンビームの照射及び窒素を含むプラズマの照射の少なくともいずれかを行う第2処理工程と、を備えたことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の別の一態様によれば、上記の磁気抵抗効果素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気抵抗効果素子が提供される。
【0011】
本発明の別の一態様によれば、上記の磁気抵抗効果素子を一端に搭載するサスペンションと、前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと、を備えたことを特徴とする磁気ヘッドアセンブリが提供される。
【0012】
本発明の別の一態様によれば、上記の磁気ヘッドアセンブリと、前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気抵抗効果素子を用いて情報が記録される磁気記録媒体と、を備えたことを特徴とする磁気記録再生装置が提供される。
【0013】
本発明の別の一態様によれば、上記の磁気抵抗効果素子をマトリクス状に配置したことを特徴とする磁気記録再生装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、MR変化率を向上した磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】磁気抵抗効果素子の製造方法を示すフローチャート図である。
【図2】磁気抵抗効果素子の製造方法を示す工程順模式的断面図である。
【図3】磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子を示す模式的斜視図である。
【図4】磁気抵抗効果素子の動作を示す模式図である。
【図5】磁気抵抗効果素子の動作を示す模式図的断面図である。
【図6】磁気抵抗効果素子の別の製造方法を示すフローチャート図である。
【図7】磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を示すフローチャート図である。
【図8】磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を示す工程順模式的断面図である。
【図9】実施例と比較例に係る磁気抵抗効果素子の特性を示すグラフ図である。
【図10】実施例と比較例に係る磁気抵抗効果素子の特性を示すグラフ図である。
【図11】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法に用いられる製造装置を示す模式図である。
【図12】磁気抵抗効果素子の製造方法を示すフローチャート図である。
【図13】磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子を示す模式的斜視図である。
【図14】磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子を示す模式的斜視図である。
【図15】磁気抵抗効果素子を示す模式的断面図である。
【図16】磁気抵抗効果素子を示す模式的断面図である。
【図17】磁気記録再生装置の一部を示す模式的斜視図である。
【図18】磁気記録再生装置の一部を示す模式的斜視図である。
【図19】磁気記録再生装置を示す模式的斜視図である。
【図20】磁気記録再生装置の一部を示す模式的斜視図である。
【図21】磁気記録再生装置を示す模式図である。
【図22】磁気記録再生装置を示す模式図である。
【図23】磁気記録再生装置の要部を示す模式的断面図である。
【図24】図23のA−A’線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子の構成を例示する模式的斜視図である。
【0018】
まず、図3を用いて、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子101について説明する。なお、以下は、磁気抵抗効果素子の構成の一例であり、本実施形態に係る製造方法が適用される磁気抵抗効果素子は、種々の変形が可能である。
【0019】
図3に表したように、磁気抵抗効果素子101は、強磁性体を含む第1磁性層(本具体例では、ピン層14)と、強磁性体を含む第2磁性層(本具体例では、フリー層18)と、第1磁性層と第2磁性層との間に設けられた中間層16と、を有する。中間層16は、絶縁層161と、絶縁層161を貫通する導電部162と、を含む。
【0020】
本具体例では、第1磁性層及び第2磁性層のいずれか一方の磁化方向は実質的に固着されており、第1磁性層及び第2磁性層のいずれか他方の磁化方向は、第1磁性層及び第2磁性層の前記いずれか他方に印加される外部磁界に対応して変化する。ここでは、第1磁性層が、磁化方向が実質的に固着されているピン層14であり、第2磁性層が、印加される外部磁界に対応して変化するフリー層18である。
【0021】
具体的には、磁気抵抗効果素子101は、下電極11と、上電極20と、下電極11と上電極20との間に設けられた磁気抵抗効果膜10と、を有している。磁気抵抗効果素子101は、例えば、図示しない基板上に設けられる。磁気抵抗効果素子101は、磁気抵抗効果膜10の膜面の垂直方向にセンス電流を流して磁気を検知する磁気抵抗効果素子である。
【0022】
磁気抵抗効果膜10においては、例えば、下地層12、ピニング層(反強磁性層)13、ピン層14、下部金属層15、中間層16(絶縁層161及び導電部162)、上部金属層17、フリー層18、及び、キャップ層(保護層)19が、この順に積層される。すなわち、本具体例の磁気抵抗効果素子101は、ピン層14がフリー層18よりも下側に位置するボトムピン型の磁気抵抗効果素子である。なお、図3においては、見やすさのために、中間層16は、その上下層(下部金属層15及び上部金属層17)から切り離した状態で表されている。
【0023】
なお、ピン層14は、下部ピン層141、反平行磁気結合層(磁気結合層)142及び上部ピン層143を有する。
【0024】
磁気抵抗効果素子101は、第1磁性層(本具体例では、ピン層14)と中間層16との間に設けられた第1非磁性層(本具体例では、下部金属層15)と、第2磁性層(本具体例では、フリー層18)と中間層16との間に設けられた第2非磁性層(本具体例では、上部金属層17)と、をさらに有している。
【0025】
ここで、第1磁性層と第2磁性層とは互いに入れ換えが可能であり、従って、第1磁性層と第2磁性層に連動して、第1非磁性層と第2非磁性層とは互いに入れ換えが可能である。
【0026】
磁気抵抗効果素子101は、スピンバルブ膜を含む。スピンバルブ膜は、2つの強磁性層(本具体例では、ピン層14及びフリー層18)の間に非磁性のスペーサ層16sが挟まれる構成を有する。本具体例では、スペーサ層16sは、下部金属層15、中間層16及び上部金属層17を含む。スピンバルブ膜は、ピン層14、スペーサ層16s(下部金属層15、中間層16及び上部金属層17)、及び、フリー層18を含む。なお、スピンバルブ膜は、スピン依存散乱ユニットと呼ばれることがある。
【0027】
スピンバルブ膜においては、2つの強磁性層の一方(例えばピン層14)の磁化が反強磁性層などで固着され、他方(例えばフリー層18)の磁化が外部磁界に応じて回転可能である。スピンバルブ膜では、ピン層とフリー層の磁化方向の相対角度が変化することで、巨大な磁気抵抗変化が得られる。なお、後述するように、2つの強磁性層の両方が外部磁界に応じて回転可能であっても良い。
【0028】
そして、磁気抵抗効果素子101においては、スペーサ層16sとして、厚み方向に沿って電流を通電する電流パスを含む中間層16を用いている。すなわち、中間層16においては、絶縁層161を導電部162が貫通しており、導電部162が、中間層16の厚み方向に沿って電流を通電する電流パスとなる。この構成により、電流狭窄(CCP:Current-confined-path)効果により、磁気抵抗効果素子101の素子抵抗及びMR変化率の双方を増大できる。この構成を有する素子は、CCP(Current Perpendicular to Plane)−CPP(Current-confined-path)素子と呼ばれることがある。
【0029】
なお、中間層16はNOL(nano-oxide layer)と呼ばれることがある。ただし、「NOL」の名称は、便宜的なものであり、中間層16における絶縁層161は、絶縁層161の厚み方向に沿って電流を通電する電流パス(導電部162)を含む絶縁層であれば良く、絶縁層161には、酸化物だけでなく、例えば、窒化物や酸窒化物などを含め任意の絶縁材料を適用することができる。
【0030】
ピン層14及びフリー層18には、各種の磁性体材料を用いることができる。ピン層14とフリー層18に関しては後述する。
【0031】
中間層16において、絶縁層161には、例えば、主として金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物等が用いられる。例えば、絶縁層161には、Alが用いられる。
【0032】
導電部162は、絶縁層161の膜面垂直方向に電流を通過させる導電体として機能する。すなわち、中間層16は、絶縁層161及び導電部162による電流狭窄構造(CCP構造)を有し、電流狭窄効果によりMR変化率が増大される。導電部162には、主として金属が用いられる。例えば、導電部162には、Cu等の金属が用いられる。
【0033】
図1及び図2に表したように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法には、中間層16を形成する中間層形成工程(ステップS10)を備える。中間層形成工程は、構造体形成工程(ステップS110)と、第1処理工程(ステップS120)と、第2処理工程(ステップS130)と、を有する。
【0034】
図2(a)に表したように、構造体形成工程は、絶縁層161と絶縁層161を貫通する導電部162とを含む構造体16pを形成する工程である。
【0035】
図2(b)に表したように、第1処理工程は、構造体16pに、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むイオン及びプラズマの少なくともいずれかの照射を行う工程である。例えば、構造体16pにArイオンビーム95を照射する。
【0036】
図2(c)に表したように、第2処理工程は、第1処理工程が施された構造体16pに対しての、酸素を含むガスへの曝露、酸素を含むイオンビームの照射、酸素を含むプラズマの照射、窒素を含むガスへの曝露、窒素を含むイオンビーム及び窒素を含むプラズマの照射の少なくともいずれかを行う工程を行うである。
【0037】
上記の酸素を含むイオンビームの照射は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つと、酸素と、を含むイオンビームの照射を含む。上記の酸素を含むプラズマの照射は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つと、酸素と、を含むプラズマの照射を含む。上記の窒素を含むイオンビームの照射は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つと、窒素と、を含むイオンビームの照射を含む。上記の窒素を含むプラズマの照射は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つと、窒素と、を含むプラズマの照射を含む。
第2処理工程においては、例えば、第1処理が施された構造体16pに、酸素ビーム96を照射する。
【0038】
すなわち、構造体形成工程により形成される構造体16pは、絶縁層161と、絶縁層161を貫通する導電部162と、を含む構成を有しているが、構造体16pは、中間層16になる前の状態であり、構造体16pに対して、第1処理工程及び第2処理工程を実施することで、構造体16pは中間層16に変化し、これにより、中間層16の特性が向上し、結果として磁気抵抗効果素子101のMR変化率が向上する。
【0039】
以下では、第1処理工程を「AIT」(After Ion Treatment)ということにする。そして、第2処理工程が、酸素を含むガスへの曝露、酸素を含むイオンビームの照射及び酸素を含むプラズマの照射のいずれかである場合に関して、特に、「AO」(Additional Oxidation)ということにする。以下では、第2処理工程がAOである場合について説明する。
【0040】
以下、構造体16pにAITとAOを組み合わせて実施することでMR変化率が向上する機構について説明する。以下では、説明を簡単にするために、絶縁層161が酸化物である場合の例として説明する。
【0041】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の動作を例示する模式図である。
すなわち、同図は、磁気抵抗効果素子101の動作を例示する模式的断面図であり、スピンバルブ膜の部分を拡大して模式的に示している。
図4に表したように、ピン層14とフリー層18との間に電流CURを流した時、中間層16において、電流CURは導電部162を流れる。すなわち、電流パスCPが導電部162に形成される。そして、電流CURは、導電部162の電流パスCPに集中する。
【0042】
すなわち、電流CURが狭窄されて、伝導電子ELEが導電部162の電流パスCP付近に集中する。導電部162は、電流密度が上昇する領域RG1となり、この領域RG1においては、電流密度が上昇することによりジュール熱が発生し、局所的に高温になる。
【0043】
一方、絶縁層161のうちで電流パスCPに近接する部分は、伝導電子ELEが衝突する可能性が高い領域RG2となる。伝導電子ELEは、この領域RG2の絶縁層161にある確率で衝突し、絶縁層161にダメージを与える。そのため、絶縁層161が酸素などの軽元素を含む絶縁体である場合には、伝導電子ELEによる熱または衝突の運動エネルギーによって、領域RG2の絶縁層161には、欠陥・欠損が生じ易くなる。
【0044】
さらに、絶縁層161の結晶性は、導電部162の金属の結晶性とは異なる。そのため、絶縁層161と導電部162との界面では、格子不整合や未結合手(ダングリングボンド)が存在し、この界面は、原子拡散や破壊などが極めて起こり易い不安定な状態にあると考えられる。
【0045】
MR変化率には、電流パスCPとなる導電部162の内部、絶縁層161のうちの電流パスCP(導電部162)の近傍部分、及び、絶縁層161と導電部162との間の界面の特性が、MR変化率に大きく関係すると考えられる。
【0046】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の動作を例示する模式図的断面図である。
すなわち、同図は、伝導電子ELEが、電流狭窄部分である電流パスCPを通過する際に、MR変化率に影響を与えると考えられる部分を例示している。
【0047】
図5に表したように、MR変化率に影響を与える部分は、電流パス内部P1と、絶縁層161のうちの電流パスCP(導電部162)の近傍部分P2と、絶縁層161と導電部162との間の界面P3と、であると考えられる。この3つの部分の状態が、MR変化率に影響を与える。
【0048】
本実施形態に係る製造方法では、構造体16pにAITを行う。このAITにより、電流パス内部P1の状態を変化させる。具体的には、AITにより、電流パス内部P1である導電部162に含まれる不純物の除去が行われる。
【0049】
例えば、構造体16pの形成時や構造体16pを形成した後に行われる熱処理時に、電流パスCPとなる導電部162中に酸素が残留する。この酸素は、電流パス内部P1である導電部162に含まれる不純物となる。本実施形態に係る製造方法においては、このような構造体16pに対して、AITである希ガスのイオンまたはプラズマ処理を行う。これにより、残留する酸素に希ガスのイオンまたはプラズマを衝突させ、この衝突のエネルギー(ボンバードメント効果)を利用して、導電部162に残留する酸素を絶縁層161の側へ移動させ、導電部162と絶縁層161との分離を促進することできる。
【0050】
すなわち、電流パス内部P1に含まれる酸素などの不純物を除去し、電流パス内部P1の純度を向上することで、MR変化率が向上する。
【0051】
一方、構造体16pに希ガスのイオンまたはプラズマ処理(AIT)を施した場合、例えば、絶縁層161に希ガスのイオンまたはプラズマが衝突することで、絶縁層161において結合されている酸素が弾き飛ばされ、結果として絶縁層161に欠陥や欠損が生成される可能性がある。
【0052】
このようなAITを行った場合における絶縁層の薄膜化や、酸素等の欠陥や欠損は、絶縁層161のうちの電流パスCPの近傍部分P2、及び、絶縁層161と導電部162との間の界面P3の特性を劣化させ、この結果、MR変化率を低下させてしまう。
すなわち、AITを実施することで発生する可能がある悪影響のために、AITだけでは、MR変化率が十分向上しない場合があり得る。
【0053】
このとき、本実施形態に係る製造方法においては、AITとAOとを組み合わせて実施することで、AITで発生する可能性がある悪影響を除去し、AITのみの実施のときよりも、MR変化率をさらに向上させる。
【0054】
すなわち、AITが実施された構造体16pに、さらにAOを実施することで、絶縁層161における酸素欠損状態を補修し、絶縁層161に、より密に酸素を含有させることができ、よりMR変化率が高い中間層16を得ることができる。
【0055】
AITの後にAOを行うことにより、AITの実施における絶縁層161と導電部162の分離の促進と同時に発生する可能性がある絶縁層161の絶縁破壊や酸素欠損による悪影響を抑制し、AITのみの場合に比べて、より大きなMR変化率を得ることができる。
【0056】
このように、構造体16pの形成の後に、構造体16pに第1処理(AIT)と第2処理(例えばAO)と組み合わせて実施することでMR変化率が上昇することを見出し、本発明は、この新たな知見に基づいてなされた。
【0057】
なお、構造体16pを形成するために、例えば後述するようなイオンビーム照射やプラズマ照射の処理が行われることがあるが、この時の処理条件は、構造体16pよりも下側の層(本具体例ではピン層14)の変質(例えば酸化)の影響により例えばMR変化率が低下しないような条件に設定される。
【0058】
例えば、構造体16pの形成においては、構造体16pのうちの絶縁層161の絶縁性が高くなるように、絶縁層161中の酸素濃度が高い条件が望まれるが、構造体16pの形成工程においては、他の層への悪影響(例えばピン層14の酸化によるMR変化率の低下)を考慮するため、結果として絶縁層161中の酸素濃度を十分高めることができない条件が採用されることがある。
【0059】
これに対し、本実施形態に係る製造方法においては、構造体16pを形成した後に、構造体16pにイオンビーム照射やプラズマ照射(例えばAIT)を行うことによって、導電部162と絶縁層161の分離を促進し、絶縁層161中の酸素濃度を高め、そして、AITで生じ得る構造体16pの絶縁性の低下をAOを行うことで抑制し、結果として従来にない高いMR変化率を実現する。
【0060】
すなわち、本実施形態に係る製造方法においてMR変化率が向上するのは、構造体16pへの第1処理(AIT)の実施により、構造体16p中の導電部162及び絶縁層161の分離がより促進されることによりMR変化率が向上し、それと共に、第1処理の際に生じる悪影響(例えば絶縁層161の劣化による絶縁性の低下)を改善することで、MR変化率が向上したものと考えられる。
【0061】
このように、本実施形態に係る製造方法により、MR変化率を向上した磁気抵抗効果素子を製造できる。
今後の磁気記憶装置の使用用途のさらなる拡大と、さらなる高密度記憶化に伴い、磁気記録媒体からの磁気信号が低減し、現状よりも高いMR変化率の実現が要求されるが、本実施形態に係る製造方法によれば、この要求に応える磁気抵抗効果素子が提供できるようになる。特に、CCP−CPP素子は、従来のTMR素子に比べて抵抗が低いため、より高転送レートが要求されるサーバー・エンタープライズ用途のハイエンドの磁気記憶装置に適用可能であり、このようなハイエンドの用途において特に要求される高MR変化率が実現できる。
【0062】
なお、後述するように、構造体16pの形成の際にも酸化処理を行うことがあるが、AITの後にAITと組みとして実施されるAOは、構造体16pの形成の際に行われる酸化処理よりも酸化力が小さい処理とされる。
【0063】
すなわち、強い酸化力のAOを実施した場合には、AITよりも前に実施される構造体16pの形成工程で絶縁層161と導電部162とを分離させた電流パスCP中の酸素不純物を再生成してしまう可能性がある。このため、AITの後のAOは、構造体16pの形成の際行われる酸化処理よりも酸化力が小さい処理とする。
【0064】
例えば、AOの処理条件としては、構造体16pを形成する際に用いられる酸化処理におけるイオンビームのエネルギーよりも少ない加速電圧が用いられる。また、AOにおいては、イオン化しないOガスをチャンバ中に導入する自然酸素フローなどが用いられる。
【0065】
また、過度な不純物生成や、ピン層14などの磁性層の酸化を抑制するために、AOの処理時間は短いことが好ましい。すなわち、AIT後の構造体16pに必要以上の酸素を導入すると、逆にMR変化率が低下する。
【0066】
例えば、AOにおいて、イオンソースではイオン化させるためのRFパワーを供給するが、加速のための印加電圧を用いないで酸素に曝露する条件を用いる。また、AOにおいて、構造体16pの表面へのイオンビームの入射角(ここでは、被処理物の被処理面に対して平行に入射する場合を0度とし、被処理面に垂直に入射する場合を90度とする)を0度に近い角度(例えば0度よりも大きく15度以下)などの浅い角度にする。これにより、AOの酸化力を弱めることができる。イオンビームの照射時間は5秒以上60秒程度以下が好ましい。これにより、AOの酸化力を弱めることができる。
【0067】
また、AOとして、自然酸素フローを用いることも、ピン層14の過剰な酸化を抑制するためには、有効である。自然酸素フローを用いる場合の処理時間は、例えば10秒以上600秒程度以下が好ましい。なお、600秒以上でも、AOの効果は期待できるが、生産性の観点から600秒以下がより好ましい。
【0068】
上記では、第2処理工程が、酸素を含むガスへの曝露、酸素を含むイオンビームの照射、酸素を含むプラズマの照射であるAOである場合として説明したが、第2処理工程は、酸素を含むガスへの曝露、酸素を含むのイオンビームの照射、酸素を含むプラズマの照射、窒素を含むガスへの曝露、窒素を含むイオンビームの照射、及び、窒素を含むプラズマの照射の少なくともいずれかを行う工程とすることができ、第2処理工程において窒素や酸素窒素混合ガスを用いた場合に、上記と同様の効果が得られる。
【0069】
なお、AITとして、例えば、ArイオンビームやArのRFプラズマを構造体16pに照射する場合、構造体16pにArが打ち込まれる。このため、AIT後の構造体16p(中間層16)は、他の層(例えば図1に例示した種々の層)よりもArを多く含有する可能性が高い。例えば、Arを用いたAITを実施した中間層16は、他の層と比べて2倍以上多くのArを含有する場合がある。中間層16と他の層とにおけるAr含有量の差異は、例えば、断面透過型電子顕微鏡写真と併用した組成分析や、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrum)によって膜表面からミリングを行いながら膜組成を分析するデプスプロファイルや三次元アトムプローブ顕微鏡などによる分析によって知ることができる。
【0070】
なお、AITにおいて、Arに換えて他の元素のガスのイオンやプラズマを用いた場合においても、中間層16と他の層とにおける、用いた元素の含有量に差異が生じる可能性が高く、この差異は、上記と同様の分析手法によって知ることができる。
【0071】
AITにおいては、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)及びクリプトン(Kr)よりなる群から選択された少なくとも1つを含むイオン及びプラズマが用いられるが、製造コストの点からArを用いることが望ましい。なお、Arの代わりに、必要に応じて、より質量の大きいXeなどを用いると、特有の効果が得られることがある。
【0072】
AITにおいては、希ガス(上記の群)の、例えばイオンビーム照射を行う。
イオンビーム照射においては、イオンガン等を用いて被処理物(構造体16p、または構造体16p及び上部金属層17)にイオンビームが照射される。
【0073】
イオンビーム照射においては、イオンガン中でガスがイオン化され、電圧(加速電圧)で加速されることで、イオンガンからイオンビームが出射される。このイオン化に、ICP(inductive charge coupled)プラズマなどが用いられる。この場合、プラズマ量は、RFパワーなどによって制御され、被処理物への照射イオン量は、ビーム電流量によって制御される。また、イオンビーム照射のエネルギーは、加速電圧値によって制御される。
【0074】
AITにおけるイオンビーム照射の条件は、例えば、加速電圧を+30V(ボルト)〜+150V、ビーム電流Ibを20mA〜200mA(ミリアンペア)、RFパワーを10W(ワット)〜300Wに設定することが好ましい。RFパワーは、ビーム電流Ibを一定に保つために、イオンソースでプラズマを励起する電力である。なお、これらの条件は、例えばイオンビームエッチングを行う場合の条件と比較して、著しく弱い。
【0075】
なお、上記のイオンビーム照射においては、エッチング量は、例えば0.5nm以下と極微量であり、素子の形状を形成するためのエッチングとはエッチング量が大きく異なる。AITにおけるイオンビーム照射においてはエッチング量が少量であるため、イオンビーム照射によって極微量減少した構造体16の膜厚(0.5nm以下)は、適宜に補正することができる。例えば、構造体16pの形成の際に、その厚さを、エッチング量を考慮して、厚めに成膜することで補正できる。また、例えば、AITの実施よりも後に行われる成膜によって補うこともできる。
【0076】
なお、上記よりも強い条件のイオンビームによって、被処理が過度にエッチングされると、特性に悪影響がある場合がある。AITでの過度なエッチングは、構造体16の消失を招くおそれがある。
【0077】
イオンビーム照射における入射角度を、被処理物の被処理面に対して平行に入射する場合を0度とし、被処理面に垂直に入射する場合を90度としたとき、AITにおけるイオンビーム照射の入射角度は、0度〜90度の範囲で適宜変更する。
【0078】
AITによるイオンビーム照射の処理時間は、15秒〜300秒程度が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長過ぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が低下することがある。これらの観点から、イオンビーム照射の処理時間は30秒〜180秒程度がさらに好ましい。
【0079】
AITにおいては、希ガス(上記の群)を用いたプラズマ処理を行うこともできる。ここで、プラズマ処理を行うことを、「プラズマ照射」という。
【0080】
プラズマ照射においては、プラズマガン等を用いて被処理物にプラズマを照射させる。例えば、RFパワーによって希ガスがプラズマ化され、そのプラズマが被処理物の被処理面に照射される。プラズマ照射における電流及びエネルギーは、RFパワーの値によって制御される。すなわち、プラズマ照射の強度は、RFパワーの値によって決定される。ここで、プラズマ照射においてはRFパワーによって加速電圧及びビーム電流が決定され、イオンビーム照射のように電流とエネルギーとを独立に制御することは困難である。
【0081】
プラズマ照射におけるエネルギー及び時間等は、イオンビーム照射の場合と同等とすることができ、例えば、加速電圧は+30V〜+150V、ビーム電流Ibは20mA〜200mA、RFパワー(ビーム電流を一定に保つためにイオンソースでプラズマを励起するためのRFパワー)は10W〜300Wに設定することが望ましい。プラズマ照射においてエッチングが実質的に生じないために、RFパワーとして、10W〜100Wがより好ましい。RFパワーとして、10W〜50Wを用いることが制御性の向上のために、さらに好ましい。
【0082】
プラズマ照射の処理時間は、15秒〜300秒程度が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長過ぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が低下することがある。これらの観点から、プラズマ照射の処理時間は、30秒〜180秒程度がさらに好ましい。
【0083】
プラズマ照射を用いる場合は、装置のメンテナンス性が優れるため装置の生産性を高くすることができる。一方、イオンビーム照射を用いる場合は、加速電圧、RFパワー及び電流のそれぞれを独立して制御できるため、処理の制御性が高い。これらの特徴を勘案して、適切な方法を採用できる。
【0084】
一方、第2処理においては酸素を含むガスへの曝露、酸素を含むイオンビームの照射、酸素を含むプラズマの照射、窒素を含むガスへの曝露、窒素を含むイオンビームの照射及び窒素を含むプラズマの照射の少なくともいずれかが用いられる。このうち、酸素を含むイオンビームの照射、酸素を含むプラズマの照射、窒素を含むイオンビームの照射及び窒素を含むプラズマの照射に関しては、上記のAITにおける希ガスのイオンビーム照射及びプラズマ照射における希ガスを、酸素または窒素に置き換えたものとすることができるので説明を省略する。
【0085】
また、第2処理として、AOの1つである、酸素を含むイオンビーム処理を用いる場合には、酸素の流量を大きくして、時間処理を短くすることが、エッチングを抑制するために好ましい場合が多い。例えば、酸素の流量は5sccm以上、10sccm以下で、処理時間は5秒以上、60秒以下程度が好ましい。これにより、第2処理によるエッチングを抑制できる。
【0086】
図6は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の別の製造方法を例示するフローチャート図である。
図6(a)に表したように、本実施形態に係る製造方法の1つの例においては、まず、第1非磁性層(例えば下部金属層15)を形成する(ステップS210)。その後、中間層形成工程(S10、すなわち、ステップS110、S120及びS130)を実施し、その後、第2非磁性層(例えば上部金属層17、すなわち非磁性層)を形成する。これにより、スペーサ層16sが形成される。
【0087】
このように、本実施形態に係る製造方法において、中間層形成工程(ステップS10)は、第1磁性層と中間層16との間に設けられた第1非磁性層を形成する工程(ステップS210)と、第2磁性層と中間層16との間に設けられた第2非磁性層を形成する工程(ステップS220)と、の間に実施されることができる。すなわち、本実施形態に係る製造方法は、第2処理工程の後に構造体16の上に非磁性層を形成する工程をさらに備える。
【0088】
すなわち、本具体例では、構造体形成工程(ステップS110)においては、第1磁性層の上に構造体16pが形成される。そして、本製造方法は、第2処理工程が施された構造体16pの上に、第2非磁性層を形成する工程(ステップS220)をさらに備える。
【0089】
また、図6(b)に表したように、本実施形態に係る製造方法の別の例においては、まず、第1非磁性層(例えば下部金属層15)を形成し(ステップS210)、構造体形成工程(ステップS110)を実施し、第2非磁性層(例えば上部金属層17)を形成する。そして、第1処理工程(ステップS120)と第2処理工程(ステップS130)をと行う。これにより、スペーサ層16sが形成される。この方法においては、構造体16pを形成した後に第2非磁性層(例えば上部金属層17)を形成し、第2非磁性層(例えば上部金属層17)を介して、構造体16pに第1処理工程と第2処理工程とを施す。
【0090】
すなわち、本具体例では、構造体形成工程(ステップS110)においては、第1磁性層の上に構造体16pが形成される。そして、本具体例では、構造体16pの上に第2非磁性層を形成する工程(ステップS220)をさらに備え、第2非磁性層を形成する工程の後に、第1処理工程(ステップS120)が実施される。なお、その後、さらに、第2処理工程(ステップS130)が実施される。すなわち、本実施形態に係る製造方法は、第1処理工程の前に前記構造体の上に非磁性層を形成する工程をさらに備える。
【0091】
なお、既に説明したように、第1非磁性層と第2非磁性層とは互いに入れ換えが可能である。従って、本実施形態に係る別の製造方法においては、第1磁性層と中間層16との間に設けられた第1非磁性層を形成する工程(ステップS210)、及び、第2磁性層と中間層16との間に設けられた第2非磁性層を形成する工程(ステップS220)のいずれかが実施される。
【0092】
以下では、構造体16pを形成する構造体形成工程(ステップS110)の一例について説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を例示するフローチャート図である。
図8は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を例示する工程順模式的断面図である。
すなわち、これらの図は、構造体形成工程の一例を示している。
【0093】
図7に表したように、構造体形成工程(ステップS110)は、導電部162となる第1金属膜16aと、絶縁層161に変換される第2金属膜16bと、を成膜する成膜工程(ステップS101)と、第2金属膜16bを絶縁層161に変換して構造体16pを形成する変換工程(ステップS102)と、を含む。
【0094】
すなわち、図8(a)に表したように、例えば、第1磁性層を含む層14sの上に、導電部162となる第1金属膜16aと、絶縁層161となる第2金属膜16bと、を積層して成膜する。第1金属膜16aは、例えばCuである。また、第2金属膜16bはAlである。第2金属膜16bはAlCuでも良い。
【0095】
そして、例えば、図8(b)に表したように、まず、Arイオンビーム91によるPIT(Pre Ion Treatment)を行う。
PITにより、下側の第1金属膜16aの一部が、第2金属膜16bの側に向けて吸い上げられる。そして、第1金属膜16aの一部が、第2金属膜16bを貫通して、導電部162を形成する。
【0096】
その後、図8(c)に表したように、酸素イオンビーム92によるIAO(Ion Assisted Oxidation)を行う。
酸素ガス(この場合は酸素イオンビーム92)によるIAOによって、第1金属膜16a及び第2金属膜16bに対して酸化性の処理が施される。
【0097】
なお、酸素イオンビーム92を用いた処理には、希ガスイオンを照射しながら、酸素ガスを導入する酸化処理も含まれる。
【0098】
この時、第1金属膜16a及び第2金属膜16bに用いる材料の選択により、選択的な酸化が行われる。すなわち、導電部162となる第1金属膜16aには酸化生成エネルギーの高い材料を用い、絶縁層161となる第2金属膜16bには酸化生成エネルギーの低い材料を用いる。つまり、導電部162は絶縁層161に比べて、酸化されにくく還元され易い材料が用いられる。
【0099】
本具体例では、Alである第2金属膜16bが酸化され、Alとなり、絶縁層161が形成される。そして、Cuである第1金属膜16aは比較的酸化され難く、その多くは金属のままであり、酸化されていない(酸化の程度が低い)第1金属膜16aが導電部162となる。
【0100】
これにより、構造体16pが形成できる。ただし、発明はこれに限らず、構造体形成工程は、絶縁層161と絶縁層161を貫通する導電部162とを含む構造体16pを形成する工程であれば任意である。例えば、セルフアセンブルに構造体16pを形成できるAl絶縁体−金属グラニュラー膜を用いても良いし、また、AlCu合金層を堆積し、その後プラズマ酸化のみを用いるという方法も採用できる。
【0101】
第1金属膜16aは、Cu、Au、Agよりなる群から選択された少なくとも1つを含むことができる。
また、第2金属膜16bは、Al、Si、Hf、Ti、Ta、Mo、W、Nb、Mg、Cr及びZrよりなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0102】
これにより、第1金属膜16a及び第2金属膜16bに用いる材料の性質に基づいて、選択的な酸化が行われる。すなわち、導電部162となる第1金属膜16aには酸化生成エネルギーの高い材料が用いられ、絶縁層161となる第2金属膜16bには酸化生成エネルギーの低い材料が用いられる。すなわち、導電部162は絶縁層161に比べて、酸化されにくく還元され易い材料が用いられる。これにより、構造体16pがより形成し易くなる。
【0103】
また、上記のように、変換工程(ステップS102)は、第2金属膜に、Ar、Xe、He、Ne、及びKrからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含むイオン及びプラズマの少なくともいずれかを照射する工程(例えば上記のPIT)、及び、第2金属膜に、O(酸素)及びN(窒素)の少なくともいずれかを含むイオン及びプラズマの少なくともいずれかを照射する工程(例えば上記のIAO)の少なくともいずれかを含むことができる。
【0104】
以下、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の実施例について説明する。
(第1実施例)
第1実施例の磁気抵抗効果素子における磁気抵抗効果膜10の構成は以下である。
以下において、各層の厚さはナノメートル(nm)で表され、合金の組成は、原子パーセント(atomic%)で表される。また、例えば、「Ta[5nm]/Ru[2nm]」の表記は、厚さが5nmのTaの上に、厚さが2nmのRuが設けられている構成を示す。
【0105】
・下電極11
・下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co75Fe25[4.35nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[1.8nm]/Cu[0.25nm]/Fe50Co50[1.8nm]
・下部金属層15:Cu[0.6nm]
・中間層16:Alの絶縁層161及びCuの導電部162(AlCu[1nm])
・上部金属層17:Cu[0.25nm]
・フリー層18:Co60Fe40[2nm]/Ni95Fe[3.5nm]
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ru[10nm]
・上電極20。
【0106】
上記において、下電極11、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15を順次形成した後、構造体16pとして、Cuを成膜した後、Alを成膜し、この後、PITとIAOを実施し、構造体16pを形成した。その後、構造体16pに対して、AIT及びAOを実施し、中間層16を形成した。その後、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19及び上電極20を順次形成し、第1実施例の磁気抵抗効果素子101aが形成された。なお、この製造方法は、図6(a)に例示した方法を採用している。
【0107】
第1実施例においては、AITにおいては、Arプラズマが用いられ、AIT処理の際のRFパワーPAITが20ワット(W)であり、処理時間は120秒である。また、AOにおいては、酸素を含むガスへの曝露(自然酸素フローによる酸素曝露)が用いられ、このときの酸素ガスの流量が10sccmであり、処理時間は300秒である。
【0108】
また、PITには、Arイオンビームが用いられた。また、IAOには、Arイオンビームを用いた酸素処理を用いた。
【0109】
(第1比較例)
第1比較例の磁気抵抗効果素子109aにおける磁気抵抗効果膜10の構成は、第1実施例と同じであるが、第1比較例では、構造体16pを形成した後に、AIT及びAOのいずれも行わない。すなわち、下電極11、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15を順次形成した後、構造体16pとして、Cuを成膜した後、Alを成膜し、この後、PITとIAOを実施し、構造体16pを形成し、その後、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19及び上電極20を順次形成し、第1比較例の磁気抵抗効果素子109aが形成された。
【0110】
(第2比較例)
第2比較例の磁気抵抗効果素子109bにおける磁気抵抗効果膜10の構成は、第1実施例と同じであるが、第2比較例では、構造体16pを形成した後に、AITのみを行い、AOを実施しない。すなわち、下電極11、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15を形成した後、構造体16pとして、Cuを成膜した後、Alを成膜し、この後、PITとIAOを実施し、その後、構造体16pに対して、AITを実施し、中間層16を形成した。その後、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19及び上電極20を順次形成し、第2比較例の磁気抵抗効果素子109bが形成された。第2比較例におけるAITの条件は、第1実施例と同じである。
【0111】
(第3比較例)
第3比較例の磁気抵抗効果素子109cにおける磁気抵抗効果膜10の構成は、第1実施例と同じであるが、第3比較例では、構造体16pを形成した後に、AOのみを行い、AITを実施しない。すなわち、下電極11、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15を形成した後、構造体16pとして、Cuを成膜した後、Alを成膜し、この後、PITとIAOを実施し、構造体16pを形成し、その後、構造体16pに対して、AOを実施し、その後、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19及び上電極20を順次形成し、第3比較例の磁気抵抗効果素子109cが形成された。第3比較例におけるAOの条件は、第1実施例と同じである。
【0112】
図9は、本発明の実施例と比較例に係る磁気抵抗効果素子の特性を例示するグラフ図である。
同図において、横軸は、AITにおけるRFパワーPAITであり、縦軸はMR変化率(MR)である。また、三角印は、AOを行わない条件であり、丸印は、AOを行う条件である。RFパワーPAITが0である条件は、AITを実施しないことに相当する。
【0113】
図9に表したように、第1比較例の磁気抵抗効果素子109a(AITが実施されず、すなわち、RFパワーPAITが0であり、AOも実施されない)においては、MR比(MR)は12.1%であった。なお、この時の素子抵抗RAは、700mΩ・μmであった。
【0114】
また、AITのみを実施した第2比較例の磁気抵抗効果素子109bにおいては、MR変化率(MR)は13.7%であった。第2比較例においては、MR変化率は第1比較例よりも向上するが、その向上の程度(MR変化率の差)は、1.6%であり、向上の程度が小さい。なお、磁気抵抗効果素子109bにおける素子抵抗RAは、400mΩ・μmであった。
【0115】
また、AOのみを実施した第3比較例の磁気抵抗効果素子109cにおいては、MR変化率(MR)は12.8%であった。第3比較例においても、MR変化率は第1比較例よりも向上するが、その向上の程度(MR変化率の差)は、0.7%であり、向上の程度はやはり小さい。なお、磁気抵抗効果素子109cにおける素子抵抗RAは、700mΩ・μmであった。
【0116】
これに対し、RFパワーPAITが20WのAITと、AOと、が実施された第1実施例の磁気抵抗効果素子101aにおいては、MR比(MR)は、16.3%であった。そして、磁気抵抗効果素子101aの素子抵抗RAは500mΩ・μmである。
【0117】
第1〜第3比較例と第1実施例とを比較すると、第1実施例においては、第1〜第3比較例のいずれの場合よりもMR変化率が大きく向上している。
【0118】
そして、第1比較例に対する第1実施例のMR変化率の向上の程度(MR変化率の差)は、4.2%である。すなわち、第1実施例においては、第2比較例及び第3比較例よりもMR変化率が大きく向上する。すなわち、AITのみを実施する第2比較例におけるMR変化率の向上の程度は1.6%であり、AOのみを実施する第3比較例におけるMR変化率の向上の程度は0.7%であり、これらを合計してもMR変化率の向上の程度は、2.3%にしかならない。
【0119】
これに対し、AITとAOとを組み合わせて実施した第1実施例においては、MR変化率の向上の程度が4.3%であり、第2比較例と第3比較例とを合計した時の2.3%の約2倍、MR変化率が向上されている。
【0120】
すなわち、AITとAOとを組み合わせて適用する本実施形態に係る製造方法により、第2比較例及び第3比較例のようにAITのみの実施及びAOのみの実施で得られる効果から予想し得ないほどの高いMR変化率が得られる。
【0121】
このことは、発明者らの今回の実験において初めて見出された現象であり、この新しく得られた知見に基づいて、本実施形態に係る製造方法は生み出された。
【0122】
なお、AITとAOとを組み合わせて実施した場合において、AITのRFパワーPAITが40Wである磁気抵抗効果素子101a4においては、MR変化率が低下し、約5%となっている。そして、AOを実施せずAITのRFパワーPAITが40Wである磁気抵抗効果素子109b4においては、MR変化率は零になっている。このように、AITのRFパワーPAITが大き過ぎるとMR変化率は低下する。これは、大き過ぎるRFパワーPAITのAITにより、構造体16pの絶縁層161の絶縁性が劣化したことが原因と考えられる。なお、このように、RFパワーPAITが大き過ぎる場合においても、AITの後にAOを実施することでMR変化率が高くなることから、強過ぎるAITによって劣化した絶縁層161が、AITの後にAOを実施することで回復したことが原因と考えられ、AITとAOとを組み合わせて実施したときにおける上記の効果が裏付けられる。
【0123】
本具体例においては、AITのRFパワーPAITは例えば20Wに設定される。このように、本実施形態に係る製造方法において、用いるAITの条件は、AO処理との組み合わせで適正に設定され、それにより、最も高いMR変化率が得られる。
【0124】
(第2実施例)
第2実施例の磁気抵抗効果素子における磁気抵抗効果膜10の構成は第1実施例の磁気抵抗効果素子101aと同様である。ただし、第2実施例の場合には、図6(b)に例示した方法が採用される。すなわち、下電極11、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15の順次形成の後、構造体16pとして、Cuを成膜した後、Alを成膜し、この後、PITとIAOを実施し、構造体16pを形成し、その後、上部金属層17を形成し、その後、上部金属層17を介して、構造体16pに対して、AIT及びAOを実施し、中間層16を形成し、その後、フリー層18、キャップ層19及び上電極20を順次形成し、第2実施例の磁気抵抗効果素子が形成される。
【0125】
このように、構造体16pの形成後、上部金属層17を介して、構造体16pに対して、AIT及びAOを実施し、中間層16を形成する方法でも、第1実施例と同等の高いMR変化率が得られる。
【0126】
第1実施例及び第1〜第3比較例では、構造体16pを形成する際のIAOとして、Arイオンビームを用いた酸素処理を実施したが、IAOとして、Xeイオンビームを用いた酸素処理を行った結果について、以下説明する。
【0127】
(第3実施例)
第3実施例の磁気抵抗効果素子101cにおける磁気抵抗効果膜10の構成は、第1実施例と同じであるが、構造体16pを形成する際に用いたIAOとして、Xeイオンビームを用いた酸素処理を用い、AIT処理の際のRFパワーPAITが40Wである。これ以外は、第1実施例と同じである。
【0128】
(第4比較例)
第4比較例の磁気抵抗効果素子109dにおける磁気抵抗効果膜10の構成は、第3実施例と同じであるが、第4比較例では、構造体16pを形成した後に、AIT及びAOのいずれも行わない。
【0129】
(第5比較例)
第5比較例の磁気抵抗効果素子109eにおける磁気抵抗効果膜10の構成は、第3実施例と同じであるが、第4比較例では、構造体16pを形成した後に、AITのみを行い、AOを実施しない。そして、第5比較例におけるAITのRFパワーPAITは、20Wである。
【0130】
(第6比較例)
第6比較例の磁気抵抗効果素子109fにおける磁気抵抗効果膜10の構成は、第3実施例と同じであるが、第6比較例では、構造体16pを形成した後に、AITのみを行い、AOを実施しない。そして、第6比較例におけるAITのRFパワーPAITは、第3実施例と同じ40Wである。
【0131】
(第7比較例)
第7比較例の磁気抵抗効果素子109gにおける磁気抵抗効果膜10の構成は、第3実施例と同じであるが、第7比較例では、構造体16pを形成した後に、AOのみを行い、AITを実施しない。第7比較例におけるAOの条件は、第3実施例と同じである。
【0132】
なお、この他、第3実施例と同じように、AITとAOを実施するが、AITのRFパワーPAITが20Wである磁気抵抗効果素子101dも作製された。
【0133】
図10は、本発明の実施例と比較例に係る磁気抵抗効果素子の特性を例示するグラフ図である。
すなわち、同図は、第3実施例の磁気抵抗効果素子101cと、第4〜第7比較例の磁気抵抗効果素子109d、109e、109f及び109gと、磁気抵抗効果素子101dの特性を例示している。
【0134】
同図において、横軸は、AITにおけるRFパワーPAITであり、縦軸はMR変化率(MR)である。また、逆三角印は、AOを行わない条件であり、四角印は、AOを行う条件である。RFパワーPAITが0である条件は、AITを実施しないことに相当する。
【0135】
図10に表したように、構造体16pを形成した後にAITもAOも実施しない第4比較例の磁気抵抗効果素子109dのMR変化率は、約12%と低い。
また、AOを実施せず、AITを実施し、AITのRFパワーPAITが20Wである第5比較例の磁気抵抗効果素子109eのMR変化率は、約16%であり、比較的高い。
また、AOを実施せず、AITを実施し、AITのRFパワーPAITが40Wである第6比較例の磁気抵抗効果素子109fのMR変化率は、約9%であり、磁気抵抗効果素子109eよりも大きく低下し、非常に低い。
また、AITを実施せず、AOを実施した第7比較例の磁気抵抗効果素子109gのMR変化率は、約7.5%であり、非常に低い。
【0136】
これに対し、AITとAOを組み合わせて実施し、AITのRFパワーPAITが40Wである第3実施例の磁気抵抗効果素子101cのMR変化率は、約17.5%であり第4〜第7比較例のいずれよりも高い。このように、本実施形態に係る製造方法によれば、MR変化率を向上した磁気抵抗効果素子を製造できる。
【0137】
なお、RFパワーPAITが40WのAITを実施し、AOを実施しない第6比較例の磁気抵抗効果素子109fのMR変化率が著しく低いのに対し、第3実施例においては、同じ条件のAITを用いながらAOを実施することで、高いMR変化率を実現している。このことから、AITで劣化した絶縁層161の絶縁性の劣化が、AOによって回復し、これによりMR変化率が向上したものと考えられる。
【0138】
AOを実施せずに、RFパワーPAITが小さい(20W)AITを行った第5比較例の磁気抵抗効果素子109eにおいて比較的高いMR変化率(約16%)が得られており、このようにAITのみを行った場合に、RFパワーを制御することによって比較的高いMR変化率が得られるが、第3実施例のように、AITとAOとを組み合わせて実施することにより、第5比較例よりも高いさらにMR変化率が得られることは、今回初めて得られた知見である。
【0139】
なお、AITとAOとを組み合わせて実施した場合において、AITパワーPAITが20Wである磁気抵抗効果素子101dにおいても、比較的高いMR変化率(約16%)が得られており、第5比較例の磁気抵抗効果素子109eのMR変化率を下回ることはない。
【0140】
このように、本実施形態に係る製造方法において、用いるAITの条件は、AO処理との組み合わせで適正に設定され、それにより、最も高いMR変化率が得られる。
【0141】
すなわち、AOを実施せずAITのみを実施する場合においては、RFパワーPAITが適切でないと(例えば40Wなどのように大き過ぎると)と、MR変化率は著しく低下するのに対し、AITとAOと組み合わせるので、高いMR変化率が得られるRFパワーPAITの範囲が大きく拡大する。これは、AITとAOとを組み合わせて実施することにより、AITの適切な処理条件の範囲が拡大することを意味している。このように、本実施形態に係る製造方法によれば、製造マージンが拡大でき、高い性能の磁気抵抗効果素子を安定して生産できる。
【0142】
本実施形態に係る製造方法において、AITの処理条件(例えばRFパワーPAITや時間など)は、MR変化率が最も高くなるように設定される。そして、図9及び図10に例示したように、そのAITの適切な条件は、例えば構造体16pを形成する際の条件(例えば、IAOの際に用いられるガス種など)に従って適切に選択される。
【0143】
すなわち、例えば構造体16pの形成において、PITとIAOを用い、IAOとして、Arイオンビームを用いた酸素ガス処理を用いる場合(例えば図9の第1実施例)には、AITのRFパワーPAITは例えば20W程度に設定される。
また、例えば構造体16pの形成において、PITとIAOを用い、IAOとして、Xeイオンビームを用いた酸素ガス処理を用いる場合(例えば図10の第3実施例)には、AITのRFパワーPAITは例えば40W程度に設定される。
【0144】
なお、種々の製造条件のばらつきなどを考慮すると、AITにおける適切なRFパワーのPAIT条件は、上記の値のプラスマイナス20%程度の範囲で変更されても良い。
【0145】
以下、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子の構成の例を、図3を参照しながら説明する。
【0146】
下電極11は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部をその膜垂直方向に沿って電流が流れる。この電流によって、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することで、磁気の検知が可能となる。下電極11には、電流を磁気抵抗効果素子に通電するために、電気抵抗が比較的小さい金属層が用いられる。下電極11には、NiFe、Cuなどが用いられる。
【0147】
下地層12は、例えば、バッファ層12a(図示せず)及びシード層12b(図示せず)に区分することができる。バッファ層12aは、例えば下電極11表面の荒れを緩和する。シード層12bは、例えば、その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向及び結晶粒径を制御する。
【0148】
バッファ層12aとしては、Ta、Ti、W、Zr、Hf、Crまたはこれらの合金を用いることができる。バッファ層12aの膜厚は2nm〜10nm程度が好ましく、3nm〜5nm程度がより好ましい。バッファ層12aの厚さが薄過ぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層12aの厚さが厚過ぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層12a上に成膜されるシード層12bがバッファ効果を有する場合には、バッファ層12aを必ずしも設ける必要はない。好ましい一例として、厚さ3nmのTaを用いることができる。
【0149】
シード層12bには、その上に成膜される層の結晶配向を制御できる材料が用いられれば良い。シード層12bとして、fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)またはhcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)やbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属層などが好ましい。例えば、シード層12bとして、hcp構造を有するRuや、fcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13(例えば、PtMn)の結晶配向を規則化したfct構造(face-centered tetragonal structure:面心正方構造)、あるいはbcc(body-centered cubic structure:体心立方構造)(110)配向とすることができる。
これ以外にも、シード層12bには、Cr、Zr、Ti、Mo、Nb、Wやこれらの合金層なども用いることができる。
【0150】
結晶配向を向上させるシード層12bとしての機能を十分発揮するために、シード層12bの膜厚としては、1nm〜5nmが好ましく、より好ましくは、1.5nm〜3nmが好ましい。好ましい一例として、厚さ2nmのRuを用いることができる。
【0151】
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5度〜6度として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
【0152】
シード層12bとして、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NiFe100−x(x=90%〜50%、好ましくは75%〜85%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NiFe100−x100−y(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo)を用いることもできる。NiFeベースのシード層12bでは、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、上記と同様に測定したロッキングカーブの半値幅を3度〜5度とすることができる。
【0153】
シード層12bには、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5nm〜40nmに制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
【0154】
ここでの結晶粒径は、シード層12bの上に形成された結晶粒の粒径によって判別することができ、断面TEMなどによって決定することができる。ピン層14が中間層16よりも下層に位置するボトムピン型スピンバルブ膜の場合には、シード層12bの上に形成される、ピニング層13(反強磁性層)や、ピン層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
【0155】
高密度記録に対応した再生ヘッドでは、素子サイズが、例えば、100nm以下である。素子サイズに対する結晶粒径の比が大きいことは、素子の特性がばらつく原因となる。スピンバルブ膜の結晶粒径が40nmよりも大きいことは好ましくない。具体的には、結晶粒径が5nm〜40nmの範囲が好ましく、5nm〜20nmの範囲がさらに好ましい範囲である。
【0156】
素子面積あたりの結晶粒の数が少なくなると、結晶数が少ないことに起因した特性のばらつきが発生し得るため、結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。特に、絶縁層161中に導電部162を有するCCP−CPP素子では結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。一方、結晶粒径が小さくなり過ぎても、良好な結晶配向を維持することが一般的には困難になる。これら、結晶粒径の上限、及び下限を考慮した結晶粒径の好ましい範囲が、5nm〜20nmである。
【0157】
しかしながら、MRAM用途などでは、素子サイズが100nm以上の場合があり、結晶粒径が40nm程度と大きくてもそれほど問題とならない場合もある。すなわち、シード層12bを用いることで、結晶粒径が粗大化しても差し支えない場合もある。
【0158】
上述した5nm〜20nmの結晶粒径を得るためには、シード層12bとして、Ru(厚さ2nm)や、(NiFe100−x100−y(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo)層の場合には、第3元素Xの組成yを0%〜30%程度とすることが好ましい(yが0%の場合も含む)。
【0159】
一方、結晶粒径を40nmよりも粗大化させて用いるためには、さらに多量の添加元素を用いることが好ましい。シード層12bの材料が、例えば、NiFeCrの場合にはCr量を35%〜45%程度とし、fccとbccの境界相を示す組成を用いて、bcc構造を有するNiFeCr層を用いることが好ましい。
【0160】
前述したように、シード層12bの膜厚は1nm〜5nm程度が好ましく、1.5nm〜3nmがより好ましい。シード層12bの厚さが薄過ぎると結晶配向制御などの効果が失われる。一方、シード層12bの厚さが厚過ぎると、直列抵抗の増大を招き、さらにスピンバルブ膜の界面の凹凸の原因となることがある。
【0161】
ピニング層13は、その上に成膜されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。このうち、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録のために必要な狭ギャップ化に適している。
【0162】
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8nm〜20nm程度が好ましく、10nm〜15nmがより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、3nm〜12nmが好ましく、4nm〜10nmがより好ましい。好ましい一例として、厚さ7nmのIrMnを用いることができる。
【0163】
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層を用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50%〜85%)、(CoPt100−x100−yCr(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗及び面積抵抗の増大を抑制できる。
【0164】
また、ピン層14とフリー層18に、保持力の大きく異なる材料を配置した場合、ピニング層13を省略することもできる。これは、ピン層14自体がCoPt(Co=50%〜85%)、(CoPt100−x100−yCr(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)等の高保持力材料であり、フリー層18がNiFe100−x合金(x=75%〜95%)、Ni(FeCo100−y100−x合金(x=75%〜95%、y=0%〜100%)、CoFe100−x合金(x=85%〜95%)等の低保持力材料とした場合である。
【0165】
ピン層14は、下部ピン層141(例えば、厚さ3.5nmのCo90Fe10)、磁気結合層142(例えば、Ru)、及び上部ピン層143(例えば、厚さ1nmのFe50Co50/厚さ0.25nmのCu/厚さ1nmのFe50Co50/厚さ0.25nmのCu/厚さ1nmのFe50Co50)からなるシンセティックピン層とすることが好ましい一例である。ピニング層13(例えば、IrMn)とその直上の下部ピン層141は一方向異方性(unidirectional anisotropy)をもつように交換磁気結合している。磁気結合層142の上下の下部ピン層141及び上部ピン層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く磁気結合している。
【0166】
下部ピン層141の材料として、例えば、CoFe100−x合金(x=0%〜100%)、NiFe100−x合金(x=0%〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部ピン層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いても良い。
【0167】
下部ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t、すなわち、Bs・t積)が、上部ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部ピン層143の磁気膜厚と下部ピン層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。一例として、上部ピン層143が、膜厚1nmのFe50Co50/膜厚0.25nmのCu/膜厚1nmのFe50Co50/膜厚0.25nmのCu/膜厚1nmのFe50Co50の構成の場合、薄膜でのFeCoの飽和磁化が約2.2T(テスラ)であるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co90Fe10の飽和磁化が約1.8Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部ピン層141の膜厚tは6.6Tnm/1.8T=3.66nmとなる。従って、膜厚が約3.6nmのCo90Fe10を用いることが望ましい。また、ピニング層13としてIrMnを用いる場合には、下部ピン層141の組成はCo90Fe10よりも少しFe組成を増やすことが好ましい。具体的には、例えばCo75Fe25などが望ましい。
【0168】
下部ピン層141に用いられる磁性層の膜厚は1.5nm〜4nm程度が好ましい。これは、ピニング層13(例えば、IrMn)による一方向異方性磁界強度及び磁気結合層142(例えば、Ru)を介した下部ピン層141と上部ピン層143との反強磁性結合磁界強度の観点に基づく。下部ピン層141が薄過ぎるとMR変化率が低下する。一方、下部ピン層141が厚過ぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。好ましい一例として、膜厚3.6nmのCo75Fe25が挙げられる。
【0169】
磁気結合層142(例えば、Ru)は、上下の磁性層(下部ピン層141及び上部ピン層143)に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142としてのRu層の膜厚は0.8nm〜1nmであることが好ましい。なお、上下の磁性層に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いても良い。RKKY(Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8nm〜1nmの代わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3nm〜0.6nmを用いることもできる。磁気結合層142として、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、0.9nmのRuが一例として挙げられる。
【0170】
上部ピン層143の一例として、厚さ1nmのFe50Co50/厚さ0.25nmのCu/厚さ1nmのFe50Co50/厚さ0.25nmのCu/厚さ1nmのFe50Co50のような磁性層を用いることができる。上部ピン層143は、スピン依存散乱ユニットの一部をなす。上部ピン層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、高いMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。特に、中間層16との界面に位置する磁性材料は、スピン依存界面散乱に寄与する点で特に重要である。
【0171】
上部ピン層143としてここで用いた、bcc構造をもつFe50Co50を用いる効果について述べる。上部ピン層143として、bcc構造をもつ磁性材料を用いた場合、スピン依存界面散乱効果が大きいため、高いMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FeCo100−x(x=30%〜100%)や、FeCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性を満たしたFe40Co60〜Fe60Co40が使い易い材料の一例である。
【0172】
上部ピン層143として、高MR変化率を実現し易いbcc構造をもつ磁性層が用いられる場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部ピン層143の膜厚が薄過ぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0173】
本具体例では、上部ピン層143として、極薄Cu積層を含むFe50Co50を用いている。ここで、上部ピン層143は、全膜厚が3nmのFeCoと、1nmのFeCoごとに積層された0.25nmのCuとからなり、合計の膜厚は3.5nmである。
【0174】
上部ピン層143の膜厚は5nm以下であることが好ましい。大きなピン固着磁界を得るためである。大きなピン固着磁界と、bcc構造の安定性の両立のため、bcc構造をもつ上部ピン層143の膜厚は、2.0nm〜4nm程度であることが好ましいということになる。
【0175】
上部ピン層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつコバルト合金を用いることができる。上部ピン層143として、Co、Fe、Niなどの単体金属、またはこれらのいずれか1つの元素を含む合金材料は全て用いることができる。上部ピン層143の磁性材料として、高いMR変化率を得るのに有利なものから並べると、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成をもつニッケル合金の順になる。
【0176】
例えば、上部ピン層143として、磁性層(FeCo層)と非磁性層(極薄Cu層)とを交互に積層したものを用いることができる。このような構造を有する上部ピン層143では、極薄Cu層によって、スピン依存バルク散乱効果と呼ばれるスピン依存散乱効果を向上させることができる。
【0177】
「スピン依存バルク散乱効果」は、スピン依存界面散乱効果と対の言葉として用いられる。スピン依存バルク散乱効果とは、磁性層内部でMR効果を発現する現象である。スピン依存界面散乱効果は、スペーサ層と磁性層の界面でMR効果を発現する現象である。
【0178】
以下、磁性層と非磁性層の積層構造によるバルク散乱効果の向上について説明する。
CCP−CPP素子においては、中間層16の近傍で電流が狭窄されるため、中間層16の界面近傍での抵抗の寄与が非常に大きい。つまり、中間層16と磁性層(ピン層14、フリー層18)の界面での抵抗が、磁気抵抗効果素子全体の抵抗に占める割合が大きい。このことは、スピン依存界面散乱効果の寄与がCCP−CPP素子では非常に大きく、重要であることを示している。つまり、中間層16の界面に位置する磁性材料の選択が従来のCPP素子の場合と比較して、重要な意味をもつ。これが、上部ピン層143として、スピン依存界面散乱効果が大きいbcc構造をもつFeCo合金層を用いた理由である。
【0179】
しかしながら、バルク散乱効果の大きい材料を用いることも無視できず、より高MR変化率を得るためにはやはり重要である。バルク散乱効果を得るための極薄Cu層の膜厚は、0.1nm〜1nmが好ましく、0.2nm〜0.5nmがより好ましい。Cu層の膜厚が薄過ぎると、バルク散乱効果を向上させる効果が弱くなる。Cu層の膜厚が厚過ぎると、バルク散乱効果が減少することがある上に、非磁性のCu層を介した上下磁性層の磁気結合が弱くなり、ピン層14の特性が不十分となる。そこで、本具体例では、0.25nmのCuを用いた。
【0180】
磁性層間の非磁性層の材料として、Cuの換わりに、Hf、Zr、Ti、Alなどを用いても良い。一方、これら極薄の非磁性層を挿入した場合、FeCoなど磁性層の一層あたりの膜厚は0.5nm〜2nmが好ましく、1nm〜1.5nm程度がより好ましい。
【0181】
上部ピン層143として、FeCo層とCu層との交互積層構造に換えて、FeCoとCuを合金化した層を用いても良い。このようなFeCoCu合金として、例えば、(FeCo100−x100−yCu(x=30%〜100%、y=3%〜15%程度)が挙げられるが、これ以外の組成範囲を用いても良い。ここで、FeCoに添加する元素として、Cuの代わりに、Hf、Zr、Ti、Alなど他の元素を用いても良い。
【0182】
上部ピン層143には、Co、Fe、Niや、これらの合金材料からなる単層膜を用いても良い。例えば、最も単純な構造の上部ピン層143として、従来から広く用いられている、2nm〜4nmのCo90Fe10単層を用いても良い。この材料に他の元素を添加しても良い。
【0183】
次に、スペーサ層16sの膜構成について述べる。下部金属層15は、導電部162の材料の供給源として用いられた後の残存層であり、最終形態として必ずしも残存していない場合もある。
【0184】
中間層16は、絶縁層161及び導電部162を有する。なお、前述のように、中間層16、下部金属層15、及び上部金属層17がスペーサ層16sに含まれる。
【0185】
絶縁層161には、酸化物や窒化物や酸窒化物等が用いられる。絶縁層161は、Alのようなアモルファス構造、または、MgOのような結晶構造を有することができる。スペーサ層としての機能を発揮するために、絶縁層161の厚さは、1nm〜5nmが好ましく、1.5nm〜4.5nmの範囲がより好ましい。
【0186】
絶縁層161に用いられる絶縁材料として、Alをベース材料としたものや、これに添加元素を加えたものがある。添加元素として、Ti、Hf、Mg、Zr、V、Mo、Si、Cr、Nb、Ta、W、B、C、Vなどがある。これらの添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜変えることができる。一例として、約2nmのAlを絶縁層161として用いることができる。
【0187】
絶縁層161には、AlのようなAl酸化物の代わりに、Ti酸化物、Hf酸化物、Mg酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、Mo酸化物、Si酸化物、V酸化物なども用いることができる。これらの酸化物の場合でも、添加元素として上述の材料を用いることができる。また、添加元素の量を0%〜50%程度の範囲で適宜に変えることができる。また、絶縁層161には、例えば、Al、Si、Hf、Ti、Mg、Zr、V、Mo、Nb、Ta、W、B、Cをベースとした酸窒化物や、窒化物を用いることができる。すなわち、これらの材料をベースにした任意の絶縁性の材料を絶縁層161に用いることができる。
【0188】
既に説明したように、導電部162は、中間層16の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄する。
導電部162を形成する材料は、Cu以外には、Au、Ag、Al、Ni、Co及びFeの金属、または、これらの元素を少なくとも1つを含む合金とすることができる。一例として、導電部162は、Cuを含む合金層で形成することができる。導電部162には、例えば、CuNi、CuCo、CuFeなどの合金層を用いることができる。導電部162として、50%以上のCuを有する組成の合金を用いることが、高MR変化率と、ピン層14とフリー層18との層間結合磁界(interlayer coupling field, Hin)の低下と、のためには好ましい。
【0189】
導電部162は、絶縁層161と比べて著しく酸素及び窒素の少なくともいずれかの含有量が少ない領域である。例えば、導電部162における酸素及び窒素の少なくともいずれかの含有量は、絶縁層161の2倍以上である。導電部162は、例えば結晶相とすることができる。結晶相は非結晶相よりも抵抗が小さいため、導電部162が結晶相の場合は、導電部162は、電流パスとして機能し易い。
【0190】
上部金属層17は、スペーサ層16sに含まれ、スペーサ層16sの上に成膜されるフリー層18が中間層16の酸化物に接して酸化されないように保護するバリア層としての機能、及び、フリー層18の結晶性を良好にする機能を有する。例えば、絶縁層161の材料がアモルファス(例えば、Al)の場合には、その上に成膜される金属層の結晶性が悪くなるが、絶縁層161の上に、上部金属層17として、fcc結晶性を良好にする層(例えば、Cu層)を配置することで、フリー層18の結晶性を著しく改善することが可能となる。上部金属層17の厚さは、1nm程度以下で良い。
【0191】
中間層16の材料やフリー層18の材料によっては、必ずしも上部金属層17を設けなくても良い。アニール条件の最適化や、中間層16の絶縁層161材料の選択、フリー層18の材料などによって、結晶性の低下を回避し、中間層16上の上部金属層17が省略できる。
【0192】
製造上のマージンを考慮すると、中間層16上に上部金属層17を形成することが好ましい。一例として、上部金属層17として、厚さ0.5nmのCuを用いることができる。
【0193】
上部金属層17には、Cu以外に、Au、Ag、Ruなどを用いることもできる。上部金属層17の材料は、中間層16の導電部162の材料と同一であることが好ましい。上部金属層17の材料が導電部162の材料と異なる場合には界面抵抗が増大することがあるが、両者が同一の材料であれば界面抵抗の増大を抑制できる。
【0194】
上部金属層17の膜厚は、1nm以下が好ましく、0.1nm〜0.5nmがより好ましい。上部金属層17が厚過ぎると、中間層16で狭窄された電流が上部金属層17で広がって電流狭窄効果が不十分になり、MR変化率の低下を招くことがある。
【0195】
フリー層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。フリー層18には、例えば、界面にCoFeを挿入したNiFeとして、厚さ1nmのCo90Fe10/厚さ13.5nmのNi83Fe17の2層の積層膜を用いることができる。高いMR変化率を得るためには、フリー層18のうちで、中間層16との界面側に位置する磁性材料の選択が重要であり、中間層16との界面側には、NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが好ましい。なお、フリー層18にNiFe層を用いない場合には、厚さ4nmのCo90Fe10単層を用いることができる。また、フリー層18として、CoFe/NiFe/CoFeなどの3層の積層膜を用いることができる。
【0196】
フリー層18としてCoFe合金を用いる場合、軟磁気特性が安定であることから、例えば、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10の組成の近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm〜4nmとすることが好ましい。その他、CoFe100−x(x=70〜90)が好ましい。
また、フリー層18として、1nm〜2nmのCoFe層またはFe層と、0.1nm〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したものを用いても良い。
【0197】
中間層16がCu層から形成される場合には、ピン層14と同様に、フリー層18でも、結晶構造がbcc構造のFeCo層を、フリー層18のうちの中間層16との界面側の材料として用いると、MR変化率が向上する。フリー層18のうちの中間層16との界面側の材料として、fccのCoFe合金に換えて、bcc構造のFeCo合金を用いることもできる。この場合、bcc構造が形成され易い、FeCo100−x(x=30〜100)や、これに添加元素を加えた材料を用いることができる。さらにbcc構造を安定とするため、膜厚を1nm以上、さらには1.5nm以上とすることが好ましい。ただしbcc構造の層の膜厚を増やすほど保持力と磁歪が高くなるので、フリー層として使い難くなる。これを解決するには、積層するNiFe合金の組成や膜厚を調整することが有効である。例えば、フリー層18として、厚さ2nmのCo60Fe40/厚さ3.5nmのNi95Feの積層構成を用いることができる。
【0198】
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19には、例えば、複数の金属層の積層膜を用いることができ、例えば、Cu層とRu層の積層膜(厚さ1nmのCu/厚さ10nmのRu)を用いることができる。また、キャップ層19として、Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5nm〜2nm程度が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、フリー層18としてNiFeが用いられる場合に望ましい。RuはNiと非固溶な関係を有するので、上記の構成を採用することで、フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できる。
【0199】
キャップ層19が、Cu/Ru、または、Ru/Cuのいずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5nm〜10nm程度が好ましく、Ru層の膜厚は0.5nm〜5nm程度とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
【0200】
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けても良い。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いても良い。キャップ層は、MR変化率や長期信頼性の観点で適切に選択される。CuやRuは、これらの観点からも望ましいキャップ層の材料の例である。
【0201】
上電極20は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部に、スピンバルブ膜に対して垂直方向の電流が流れる。上電極20には、電気的に低抵抗な材料(例えば、Cu、Au、NiFeなど)が用いられる。
【0202】
図11は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法に用いることができる製造装置の構成を例示する模式図である。
図11に表したように、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法に用いることができる製造装置50aにおいては、搬送チャンバ50を中心として、第1チャンバ(ロードロックチャンバ)51、第2チャンバ52、第3チャンバ53、第4チャンバ54、第5チャンバ55がそれぞれゲートバルブを介して設けられている。この製造装置50aは、成膜と各種の処理を行うものであり、ゲートバルブを介して接続された各チャンバの間で、真空中において基板を搬送することができるので、基板の表面は清浄に保たれる。
【0203】
第2チャンバ52は、例えばプレクリーニング用のチャンバである。
第3チャンバ53及び第4チャンバ54は、例えば、金属成膜用のチャンバであり、多元(例えば5元〜10元)のターゲットを有することができる。第3チャンバ53及び第4チャンバ54における成膜方式は、例えば、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、及び、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法などが挙げられる。
第5チャンバ55では、例えば、酸化物層、窒化物層及び酸窒化物層を形成する。
【0204】
第1処理(AIT)及び第2処理(例えばAO)には、RFプラズマ機構、イオンビーム機構または加熱機構を有するチャンバを利用できる。具体的には、RFバイアス機構を有する第3チャンバ53、第4チャンバ54及び第2チャンバ52などを用いることができる。RFプラズマ機構は、比較的簡便な機構であり、第3チャンバ53及び第4チャンバ54への設置が容易である。第3チャンバ53及び第4チャンバ54において、金属膜の成膜、並びに、AIT及びAOなどのイオンビーム処理などを実施できる。
【0205】
なお、酸化物や窒化物を形成する第5チャンバ55でAIT及びAOを実施すると、例えば、AITやAOの際に、チャンバ内壁に吸着した例えば酸素ガス(または窒素ガス)が脱離し、構造体16p等に混入し、構造体16p等が劣化することがある。第3チャンバ53及び第4チャンバ54のように、成膜時に酸素や窒素を使用しないチャンバは、チャンバ内壁への酸素や窒素の吸着が少なく、真空の質を良好に保ち易い。ただし、チャンバ内に吸着した酸素や窒素を除去すれば、第5チャンバ55でのAIT及びAOの実施も可能である。
【0206】
なお、上記真空チャンバの真空度の値は、例えば、10−9Torr台であり、10−8Torrの前半の値が許容できる。
【0207】
以下、磁気抵抗効果素子101の製造方法の全体の概要の例について説明する。
図12は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図12に表したように、図示しない基板の上に形成した下電極11の上に、下地層12を形成し(ステップS310)、その上に、ピニング層13を形成し(ステップS320)、その上にピン層14を形成する(ステップS330)。そして、スペーサ層16sを形成する(ステップS340)。このスペーサ層16sの形成において、既に説明した中間層形成工程(ステップS10)、第1非磁性層を形成する工程(ステップS210)及び第2非磁性層を形成する工程(ステップS220)が実施される。
【0208】
さらに、この後、フリー層18を形成し(ステップS350)、キャップ層19を形成し(ステップS360)、上電極20を形成し、最後にアニール処理を行う(ステップS370)。
【0209】
例えば、基板を第1チャンバ51(ロードロックチャンバ)にセットし、その後、各種の金属膜の成膜を第3チャンバ53及び第4チャンバ54で行い、例えば酸化などを第5チャンバ55で行う。第3チャンバ53及び第4チャンバ54における到達真空度は、例えば、1×10−8Torr以下とすることが好ましく、5×10−10Torr〜5×10−9Torr程度が一般的である。搬送チャンバ50における到達真空度は、1×10−9Torr〜1×10−8Torrである。第5チャンバ55における到達真空度は8×10−8Torr以下である。
【0210】
例えば、まず、基板上に、下電極11を微細加工プロセスにより形成する。なお、下電極11が形成された基板を用いても良い。そして、下電極11上に、下地層12として、例えば、Ta[5nm]/Ru[2nm]を成膜する。
【0211】
そして、下地層12の上にピニング層13を成膜する。
ピニング層13には、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMn、NiMn及びFeMnなどの反強磁性材料を用いることができる。また、ピニング層13には、CoPt及びCoPdなどのハード磁性材料を用いることもできる。
【0212】
さらに、ピニング層13の上にピン層14を形成する。
ピン層14は、例えば、下部ピン層141(例えばCo90Fe10)、反平行磁気結合層142(例えばRu)、及び、上部ピン層143(例えばCo90Fe10[4nm])を含むシンセティックピン層とすることができる。なお、ピニング層13がIrMnの場合、Fe75Co25を下部ピン層141に用いると、IrMnによるピニング力が増し、磁気的安定性を向上させることができる。また、上部ピン層143として、Fe50Co50に極薄のCuを挿入した構成(例えば、Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm]/Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm]/Fe50Co50[1nm])等を用いると、スピン依存散乱が増して高いMR変化率を得ることができる。
【0213】
次に、中間層16を有するスペーサ層16sを形成する。中間層16を形成する際には、第5チャンバ55を用いる。スペーサ層16sの形成の際に、図6(a)及び(b)に例示した工程を用いる。本具体例では、アモルファス構造を有するAlを含む絶縁層161中に、金属結晶構造を有するCuを含む導電部162を含む中間層16が形成される。ここでは、図6(a)の工程を採用する場合として説明する。
【0214】
中間層16の上に、上部金属層17として、例えば、Cu[0.25nm]を成膜する。上部金属層17の膜厚は、0.2nm〜0.6nm程度が好ましい。上部金属層17の膜厚が厚いとフリー層18の結晶性を向上し易い。ただし、膜厚が厚過ぎると電流狭窄効果が減じてMR変化率が低下する場合がある。そこで、フリー層18の結晶性向上と、MR変化率の維持を両立するために、上部金属層17の膜厚は、0.4nm程度が望ましい。
【0215】
なお、フリー層18において高い結晶性が必要でない場合や、他のなんらかの手段でフリー層18の結晶性を上げることができる場合、上部金属層17は必ずしも必要ではなく、上部金属層17は省略できる。
【0216】
上部金属層17の上に、フリー層18として、例えば、Co90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]を形成する。なお、高いMR変化率を得るために、スペーサ層16sとの界面に位置するフリー層18の磁性材料は適切に選択される。本具体例においては、フリー層18のうちのスペーサ層16sとの界面側の部分には、NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが好ましい。この界面側の部分には、CoFe合金のなかでも特に軟磁気特性が安定なCo90Fe10[1nm]を用いることができる。また、他の組成のCoFe合金を適用しても良い。
【0217】
フリー層18のうちのスペーサ層16sとの界面側の部分に、Co90Fe10に近い組成のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm〜4nmとすることが好ましい。他の組成のCoFe合金(例えば、Co50Fe50)を用いる場合には、膜厚を0.5nm〜2nmとすることが好ましい。スピン依存界面散乱効果を上昇させるために、フリー層18のうちのスペーサ層16sとの界面側の部分に、例えば、Fe50Co50(または、FeCo100−x(x=45〜85))を用いた場合には、フリー層18としての軟磁性を維持するために、フリー層18のうちのスペーサ層16sとの界面側の部分の膜厚をピン層14のような厚い膜厚にすることが困難である。このため、この場合においては、フリー層18のうちのスペーサ層16sとの界面側の部分の膜厚は、0.5nm〜1nmが好ましい。フリー層18のうちのスペーサ層16sとの界面側の部分として、Coを含まないFeを用いる場合には、軟磁気特性が比較的良好なため、膜厚を0.5nm〜4nm程度とすることができる。
【0218】
フリー層18の上記の構成において、CoFe層の上に設けられるNiFe層は、軟磁性特性が安定な材料である。CoFe合金の軟磁気特性はそれほど安定ではないが、CoFe合金の上にNiFe合金を設けることによって軟磁気特性を安定化することができる。なお、フリー層18としてNiFeを用いると、スペーサ層16sとの界面側の部分に、高MR変化率を実現できる材料が使用可能となり、スピンバルブ膜のトータル特性上好ましい。
【0219】
フリー層18に用いられるNiFe合金の組成は、NiFe100−x(x=78〜85%程度)が好ましい。すなわち、一般的に用いられるNiFeの組成であるNi81Fe19よりも、Niリッチな組成(例えば、Ni83Fe17)を用いることが好ましい。これにより、はゼロ磁歪が実現できる。絶縁層161と導電部162とを含む中間層16を有するスペーサ層16sの上に成膜されたNiFeにおいては、メタルCuのスペーサ層上に成膜されたNiFeよりも、磁歪がプラス側にシフトする。このプラス側への磁歪のシフトをキャンセルするために、フリー層18に用いられるNiFeには、Ni組成が通常よりも多い、負側のNiFe組成が用いられる。
【0220】
フリー層18に用いられるNiFe層のトータル膜厚は、2nm〜5nm程度(例えば、3.5nm)が好ましい。
フリー層18としてNiFe層を用いない場合には、フリー層18には、1nm〜2nmの厚さのCoFe層またはFe層と、0.1nm〜0.8nm程度の厚さのCu層と、を、複数層交互に積層した積層膜を用いてもよい。
【0221】
そして、フリー層18の上に、キャップ層19として例えば、Cu[1nm]/Ru[10nm]を積層する。そして、キャップ層19の上にスピンバルブ膜へ垂直通電するための上電極20を形成する。
このようにして、図1に例示した第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子101が製造できる。
【0222】
(第2の実施の形態)
図13は、本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子の構成を例示する模式的斜視図である。
図13に表したように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子102は、ピン層14がフリー層18よりも上に配置されるトップピン型のCCP−CPP素子である。
【0223】
この場合においても、磁気抵抗効果素子102は、強磁性体を含む第1磁性層(本具体例では、ピン層14)と、強磁性体を含む第2磁性層(本具体例では、フリー層18)と、第1磁性層と第2磁性層との間に設けられた中間層16と、を有する。中間層16は、絶縁層161と、絶縁層161を貫通する導電部162と、を含む。
【0224】
本具体例においても、第1磁性層及び第2磁性層のいずれか一方の磁化方向は実質的に固着されており、第1磁性層及び第2磁性層のいずれか他方の磁化方向は、第1磁性層及び第2磁性層の前記いずれか他方に印加される外部磁界に対応して変化する。すなわち、第1磁性層が、磁化方向が実質的に固着されているピン層14であり、第2磁性層が、印加される外部磁界に対応して変化するフリー層18である。
【0225】
そして、この場合には、第1磁性層(本具体例では、ピン層14)と中間層16との間に設けられた第1非磁性層が、上部金属層17となり、第2磁性層(本具体例では、フリー層18)と中間層16との間に設けられた第2非磁性層が、下部金属層15となる。
【0226】
具体的には、磁気抵抗効果膜10においては、例えば、下電極11の上に、下地層12、フリー層18、下部金属層15、中間層16(絶縁層161及び導電部162)、上部金属層17、ピン層14、ピニング層(反強磁性層)13、及び、キャップ層19が、この順に積層され、磁気抵抗効果膜10の上に、上電極20が積層される。
【0227】
このような構成の磁気抵抗効果素子104の製造においても、中間層16を形成する中間層形成工程(ステップS10)として、上記の構造体形成工程(ステップS110)、第1処理工程(ステップS120)、及び、第2処理工程(ステップS130)を含むことができる。
【0228】
トップピン型のスピンバルブ膜の場合においても、ピン層14の過酸化防止、及び、第1処理(AIT)による絶縁層161部分へのダメージの回復の効果が、ボトムピン型と同様に得られる。
【0229】
ボトムピン型と同様に、トップピン型の磁気抵抗効果素子102においても、第1処理及び第2処理として、イオン、プラズマ、酸素曝露、または熱による処理を適宜に採用できる。
【0230】
なお、トップピン型の磁気抵抗効果素子102においても、中間層16の下部金属層15及び上部金属層17の機能については、ボトムピン型の磁気抵抗効果素子101と同様である。すなわち、中間層16の下側の下部金属層15は導電部162の供給源となるが、中間層16の上の上部金属層17は必ずしも必要ではなく、上部金属層17は、必要に応じて設けられる。
【0231】
(第3の実施の形態)
図14は、本発明の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法が適用される磁気抵抗効果素子の構成を例示する模式的斜視図である。
図14に表したように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子103は、2つのフリー層(第1フリー層14a及び第2フリー層18a)の間に中間層16が設けられる。
【0232】
すなわち、磁気抵抗効果素子103は、強磁性体を含む第1磁性層(本具体例では、第1フリー層14a)と、強磁性体を含む第2磁性層(本具体例では、第2フリー層18a)と、第1磁性層と第2磁性層との間に設けられた中間層16と、を有する。中間層16は、絶縁層161と、絶縁層161を貫通する導電部162と、を含む。
【0233】
第1磁性層(第1フリー層14a)の磁化方向は、第1磁性層に印加される外部磁界に対応して変化し、第2磁性層(第2フリー層18a)の磁化方向は、第2磁性層に印加される外部磁界に対応して変化する。
【0234】
具体的には、図示しない基板の上に設けられた下電極11の上に、磁気抵抗効果膜10が設けられ、その上に上電極20が設けられている。そして、磁気抵抗効果膜10においては、例えば、下地層12、第1フリー層14a、下部金属層15、中間層16(絶縁層161及び導電部162)、上部金属層17、第2フリー層18a、及び、キャップ層(保護層)19が、この順に積層される。
【0235】
このように、磁気抵抗効果素子103は、スピンバルブ膜は、2つの強磁性層(第1フリー層14a及び第2フリー層18a)の間に非磁性のスペーサ層16s(下部金属層15、中間層16及び上部金属層17を含む)が挟まれる構成を有する。
【0236】
そして、本具体例の磁気抵抗効果膜10においては、2つの強磁性層(第1フリー層14a及び第2フリー層18a)の両方が外部磁界に応じて回転可能である。すなわち、磁気抵抗効果素子103においては、磁化固着層が設けられていない。
【0237】
このような構成を有する磁気抵抗効果素子103においても、既に説明したように、構造体形成工程の後に、第1処理(AIT)と第2処理(例えばAO)を組み合わせて実施することにより、MR変化率を向上させることができる。
【0238】
この場合も、図6(a)及び(b)に関して説明したように、第1処理及び第2処理は、上部金属層17の形成の後、及び、前のどちらで実施しても良い。
【0239】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、第1〜第3の実施形態に関して説明した磁気抵抗効果素子の製造方法によって製造された磁気抵抗効果素子101、101a、102及び103のいずれかである。以下では、第4の実施形態に係る磁気抵抗効果素子が磁気抵抗効果素子101である場合として説明する。
【0240】
図15及び図16は、本発明の第4の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成を例示する模式的断面図である。
すなわち、これらの図は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子101を磁気ヘッドに組み込んだ状態を例示している。図15は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子101を切断したときの断面図であり、図16は、この磁気抵抗効果素子101を媒体対向面ABSに対して垂直な方向に切断したときの断面図である。
【0241】
図15及び図16に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。
【0242】
図15及び図16に表したように、磁気抵抗効果素子101の磁気抵抗効果膜10の上下には、下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。磁気抵抗効果膜10の両側面には、バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。また、磁気抵抗効果膜10の媒体対向面ABSの側には、保護層43が設けられている。
【0243】
磁気抵抗効果膜10に対するセンス電流は、その上下に配置された下電極11、上電極20によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41により、磁気抵抗効果膜10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果膜10のフリー層18の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気記録再生が可能となる。
【0244】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の素子抵抗RAは、高密度対応の観点から、500mΩ/μm以下が好ましく、300mΩ/μm以下がより好ましい。素子抵抗RAを算出する場合には、磁気抵抗効果素子の抵抗Rにスピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aを掛け合わせる。抵抗Rは、直接測定できる。一方、スピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aは、素子構造に依存する値であるため、その決定には注意を要する。
【0245】
例えば、スピンバルブ膜の全体を実効的にセンシングする領域としてパターニングしている場合には、スピンバルブ膜全体の面積が実効面積Aとなる。この場合、抵抗Rを適度に設定する観点から、スピンバルブ膜の面積を少なくとも0.04μm以下にし、300Gbpsi以上の記録密度では0.02μm以下にする。
【0246】
一方、スピンバルブ膜よりも面積の小さい下電極11または上電極20を形成した場合には、下電極11または上電極20の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。下電極11または上電極20の面積が異なる場合には、小さい方の電極の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。この場合、抵抗Rを適度に設定する観点から、小さい方の電極の面積を少なくとも0.04μm以下にする。
【0247】
図15において磁気抵抗効果素子101の磁気抵抗効果膜10の面積が一番小さいところは上電極20と接触している部分なので、その幅をトラック幅Twとして考える。また、ハイト方向に関しては、図16においてやはり上電極20と接触している部分が一番小さいので、その幅をハイト長Dhとして考える。スピンバルブ膜の実効面積Aは、A=Tw×Dhとして考える。
【0248】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子101では、電極間の抵抗Rを100Ω以下にすることができる。この抵抗Rは、例えばヘッドジンバルアセンブリ(HGA、磁気ヘッドアセンブリ)の先端に装着した再生ヘッド部の2つの電極パッド間で測定される抵抗値である。
【0249】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子101において、ピン層14またはフリー層18がfcc構造である場合には、fcc(111)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がbcc構造をもつ場合には、bcc(110)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がhcp構造をもつ場合には、hcp(001)配向またはhcp(110)配向性をもつことが望ましい。
【0250】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子101の結晶配向性は、配向のばらつき角度で4.0度以内が好ましく、3.5度以内がより好ましく、3.0度以内がさらに好ましい。これは、X線回折のθ−2θ測定により得られるピーク位置でのロッキングカーブの半値幅として求められる。また、素子断面からのナノディフラクションスポットでのスポットの分散角度として検知することができる。
【0251】
反強磁性膜の材料にも依存するが、一般的に反強磁性膜と、ピン層14、スペーサ層16s及びフリー層18と、では格子間隔が異なるため、それぞれの層においての配向のばらつき角度を別々に算出することが可能である。例えば、白金マンガン(PtMn)と、ピン層14、スペーサ層16s及びフリー層18と、では、格子間隔が異なることが多い。白金マンガン(PtMn)は比較的厚い膜であるため、結晶配向のばらつきを測定するのには適した材料である。ピン層14、スペーサ層16s及びフリー層18については、ピン層14とフリー層18とで結晶構造がbcc構造とfcc構造というように異なる場合もある。この場合、ピン層14とフリー層18とはそれぞれ別の結晶配向の分散角をもつことになる。
【0252】
(第5の実施の形態)
本発明の第5の実施形態は磁気記録再生装置である。磁気記録再生装置には、本発明の実施形態に係る製造方法によって製造された磁気抵抗効果素子が搭載されている。すなわち、磁気記録再生装置は、本発明の実施形態に係る製造方法によって製造された磁気抵抗効果素子が搭載された磁気ヘッドを用いている。以下、磁気ヘッドに磁気抵抗効果素子101が搭載される例として説明する。
図17は、本発明の第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の一部の構成を例示する模式的斜視図である。
すなわち同図は、磁気抵抗効果素子が搭載される磁気ヘッドの構成を例示している。
【0253】
図17に表したように、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子101が搭載される磁気ヘッド5は、磁気記録媒体80に対向して設けられる。磁気記録媒体80は、磁気記録層81と、裏打ち層82と、を有する。磁気記録層81は、磁気ヘッド5に対向する。
【0254】
磁気ヘッド5は、磁気記録媒体80に対向する書き込みヘッド部60と、書き込みヘッド部60と併設され、磁気記録媒体80に対向する再生ヘッド部70とを有する。
ただし、磁気ヘッド5には、再生ヘッド部70が設けられれば良く、書き込みヘッド部60は省略可能であり、書き込みヘッド部60は必要に応じて設けられる。なお、以下では、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置として、磁気ヘッド5が書き込みヘッド部60を有する場合であり、磁気記録再生装置が、書き込み動作と再生動作の両方を実施する場合として説明するが、磁気ヘッド5に書き込みヘッド部60に設けられない、すなわち、磁気記録再生装置が再生専用の装置であっても良い。
【0255】
再生ヘッド部70は、第1磁気シールド層72aと、第2磁気シールド層72bと、第1磁気シールド層72aと第2磁気シールド層72bとの間に設けられた磁気再生素子71と、を有する。磁気再生素子71として、本発明の実施形態に係る、例えば磁気抵抗効果素子101が用いられる。
【0256】
磁気再生素子71は、磁気記録層81の磁化の方向を読み取り、磁気記録媒体80に記録された記録情報を読み取る。
【0257】
磁気記録層81の磁気ヘッド5に対向する面に対して垂直な方向をZ軸方向とする。そして、Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。そして、Z軸方向とX軸方向とに対して垂直な方向をY軸方向とする。なお、後述するように、磁気記録媒体80は、例えば円板状とすることができ、磁気記録媒体80の円周に沿って、磁気記録媒体80と磁気ヘッド5との相対的な位置が変化される。上記のX−Y−Z座標系は、磁気ヘッド5の近傍の短い距離の範囲において定義されることができる。
【0258】
例えば、磁気記録媒体80は、Z軸方向に対して垂直な方向に沿って、磁気ヘッド5に対して相対的に移動する。磁気ヘッド5により、磁気記録媒体80の磁気記録層81の各位置の磁化が制御され、磁気記録が行われる。磁気記録媒体80の媒体移動方向は、例えばY軸方向とされる。なお、磁気記録媒体80と磁気ヘッド5との相対的な移動は、磁気ヘッド5の移動によって行われても良く、磁気記録媒体80と磁気ヘッド5とがZ軸方向に対して垂直な方向に沿って相対的に移動すれば良い。
【0259】
磁気ヘッド5は、後述するヘッドスライダ3に搭載され、ヘッドスライダ3の機能により、磁気ヘッド5は、磁気記録媒体80から離間して保持される。
なお、磁気抵抗効果素子101の周囲に図示しない磁気シールドを設け、磁気ヘッド5の検出分解能を規定することができる。
【0260】
図18は、本発明の第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の一部の構成を例示する模式的斜視図である。
すなわち、同図は、本実施形態に係る磁気記録再生装置の一部であるヘッドスライダの構成を例示している。
図18に表したように、磁気ヘッド5は、ヘッドスライダ3に搭載される。ヘッドスライダ3は、Al3及びTiCなどを含み、磁気ディスクなどの磁気記録媒体80の上を、浮上または接触しながら相対的に運動できるように設計され、製作される。
【0261】
ヘッドスライダ3は、例えば、空気流入側3Aと空気流出側3Bとを有し、磁気ヘッド5は、空気流出側3Bの側面などに配置される。これにより、ヘッドスライダ3に搭載された磁気ヘッド5は、磁気記録媒体80の上を浮上または接触しながら相対的に運動する。
【0262】
以下、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置の全体の構成の例について、磁気記録再生装置250を例にして説明する。
図19は、本発明の第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を例示する模式的斜視図である。
図20は、本発明の第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の一部の構成を例示する模式的斜視図である。
すなわち、図20(a)は、磁気記録再生装置250に含まれるヘッドスタックアセンブリ260を拡大して示しており、図20(b)は、ヘッドスタックアセンブリ260の一部である磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)258を例示している。
【0263】
図19に表したように、磁気記録再生装置250は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。記録用媒体ディスク280は、スピンドルモータ4に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印AAの方向に回転する。なお、磁気記録再生装置250は、複数の記録用媒体ディスク280を有していても良い。
【0264】
記録用媒体ディスク280に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ3は、薄膜状のサスペンション254の先端に取り付けられている。
【0265】
記録用媒体ディスク280が回転すると、サスペンション254による押し付け圧力とヘッドスライダ3の媒体対向面で発生する圧力とがつりあい、ヘッドスライダ3の媒体対向面は、記録用媒体ディスク280の表面から所定の浮上量をもって保持される。なお、ヘッドスライダ3が記録用媒体ディスク280と接触するいわゆる「接触走行型」としても良い。
【0266】
サスペンション254は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム255の一端に接続されている。アクチュエータアーム255の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ256が設けられている。ボイスコイルモータ256は、アクチュエータアーム255のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路と、を含む。
【0267】
アクチュエータアーム255は、軸受部257の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ256により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッド5を記録用媒体ディスク280の任意の位置に移動可能となる。
【0268】
図20(a)に表したように、ヘッドスタックアセンブリ260は、軸受部257と、この軸受部257から延出したヘッドジンバルアセンブリ258と、軸受部257からヘッドジンバルアセンブリ258とは反対方向に延出していると共にボイスコイルモータのコイル262を支持した支持フレーム261を有している。
【0269】
また、図20(b)に表したように、ヘッドジンバルアセンブリ258は、軸受部257から延出したアクチュエータアーム255と、アクチュエータアーム255から延出したサスペンション254と、を有している。サスペンション254の先端には、ヘッドスライダ3が取り付けられている。
【0270】
なお、本具体例では、ヘッドジンバルアセンブリ258が2つ設けられる例であるが、ヘッドジンバルアセンブリ258の数は1つでも良い。
【0271】
このように、磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)258は、磁気ヘッド5と、磁気ヘッド5が搭載されたヘッドスライダ3と、ヘッドスライダ3を一端に搭載するサスペンション254と、サスペンション254の他端に接続されたアクチュエータアーム255と、を有する。
【0272】
サスペンション254は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒーター用などのリード線(図示しない)を有し、このリード線とヘッドスライダ3に組み込まれた磁気ヘッド5の各電極とが電気的に接続される。
【0273】
図19に表したように、磁気ヘッド5を用いて磁気記録媒体80への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部290が設けられる。信号処理部290は、例えば、図19に例示した磁気記録再生装置250の図面中の背面側に設けられる。信号処理部290の入出力線は、ヘッドジンバルアセンブリ258の電極パッドに接続され、磁気ヘッドと電気的に結合される。
【0274】
このように、本実施形態に係る磁気記録再生装置250は、磁気記録媒体80及び磁気ヘッド5に加え、磁気記録媒体80と磁気ヘッド5とを離間させ、または、接触させた状態で対峙させながら磁気記録媒体80と磁気ヘッド5とを相対的に移動させる可動部と、磁気ヘッド5を磁気記録媒体80の所定記録位置に位置合わせする位置制御部と、磁気ヘッド5を用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部290と、さらに備えることができる。
【0275】
すなわち、上記の磁気記録媒体80として、記録用媒体ディスク280が用いられる。上記の可動部は、ヘッドスライダ3を含むことができる。また、上記の位置制御部は、ヘッドジンバルアセンブリ258を含むことができる。
【0276】
(第6の実施の形態)
次に、本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置として、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリの例について説明する。すなわち、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(MRAM: magnetic random access memory)などの磁気メモリを実現できる。以下では、磁気抵抗効果素子として第1の実施形態で説明した磁気抵抗効果素子101を用いる場合として説明するが、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子101、101a、102及び103のいずれかを用いることができる。
【0277】
図21は、本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を例示する模式図である。
すなわち、同図は、メモリセルがアレイ状に配置されたメモリセルを有する磁気記録再生装置301の回路構成を例示している。
【0278】
図21に表したように、本実施形態に係る磁気記録再生装置301においては、アレイ中の1ビット(1つのメモリセル)を選択するために、列デコーダ350及び行デコーダ351が設けられている。そして、列デコーダ350に接続されたビット線334と、行デコーダ351に接続されたワード線332と、により、スイッチングトランジスタ330がオンになり、メモリセル(磁気抵抗効果素子101)が一意に選択される。そして、磁気抵抗効果素子101に流れる電流をセンスアンプ352で検出することにより、磁気抵抗効果素子101に含まれる磁気抵抗効果膜10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出す。
【0279】
一方、各メモリセルに情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線323とビット線322とに書き込み電流を流して発生する磁場を各メモリセルに印加する。
【0280】
図22は、本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の別の構成を例示する模式図である。
図22に表したように、本実施形態に係る別の磁気記録再生装置301aにおいては、マトリクス状に配線されたビット線372とワード線384とが、それぞれデコーダ360、361、362により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子101とダイオードDとが直列に接続された構成を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子101以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線372と書き込みワード線383とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
【0281】
図23は、本発明の第6の実施形態に係る磁気記録再生装置の要部を例示する模式的断面図である。
図24は、図23のA−A’線断面図である。
すなわち、これらの図は、磁気記録再生装置301aに含まれる1ビット分のメモリセルの構成を例示している。このメモリセルは、記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。
【0282】
図23及び図24に表したように、記憶素子部分311は、磁気抵抗効果素子101と、これに接続された一対の配線422及び配線424とを有する。磁気抵抗効果素子101は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法により製造される。
【0283】
一方、アドレス選択用トランジスタ部分312には、ビア326及び埋め込み配線328を介して接続されたスイッチングトランジスタ330が設けられている。このスイッチングトランジスタ330は、ゲート370に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子101と配線434との電流経路の開閉を制御する。
【0284】
また、磁気抵抗効果素子101の下方には、書き込み用の配線423が、配線422とほぼ直交する方向に設けられている。これらの配線422、423は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
上記の配線422がビット線322に対応し、配線423がワード線323に対応する。
【0285】
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子101に書き込むときは、配線422、423に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
【0286】
また、ビット情報を読み出すときは、配線422と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子101と、配線424とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子101の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
【0287】
本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置301及び301aは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
【0288】
ここで、フリー層に挿入されたCCP構造を実現するための形成プロセスとして、前述のPIT及びIAO処理を行うことが好ましい。この場合には電流パスを形成する材料が磁性元素を多く含む(Fe,Co,Niのうちいずれかの元素を50%以上含む)ので、下部金属層15、上部金属層17は特に必要にならず、中間層16を形成する材料をそのまま使用することが可能となる。
【0289】
また、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置は、長手磁気記録方式及び垂直磁気記録方式に適用できる。さらに、本発明の磁気記録再生装置は、特定の磁気記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く、一方、磁気記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
【0290】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれは良い。
【0291】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、磁気抵抗効果素子を構成する、第1磁性層、第2磁性層、中間層、絶縁層、導電部、構造体、第1非磁性層及び第2非磁性層等の各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0292】
その他、本発明の実施の形態として上述した磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての磁気抵抗効果素子の製造方法、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0293】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0294】
3…ヘッドスライダ、 3A…空気流入側、 3B…空気流出側、 4…スピンドルモータ、 5…磁気ヘッド、 10…磁気抵抗効果膜、 11…下電極、 12…下地層、 13…ピニング層、 14…ピン層(第1磁性層)、 14a…第1フリー層(第1磁性層)、 14s…第1磁性層を含む層、 16…中間層、 16a…第1金属膜、 16b…第2金属膜、 16p…構造体、 16s…スペーサ層、 17…上部金属層、 18…フリー層(第2磁性層)、 18a…第2フリー層(第2磁性層)、 19…キャップ層、 20…上電極、 41…バイアス磁界印加膜、 42…絶縁膜、 43…保護層、 50…搬送チャンバ、 50a…製造装置、 51〜55…第1〜第5チャンバ、 60…書き込みヘッド部、 70…再生ヘッド部、 71…磁気再生素子、 72a…第1磁気シールド層、 72b…第2磁気シールド層、 80…磁気記録媒体、 81…磁気記録層、 82…裏打ち層、 91…Arイオンビーム、 92…酸素イオンビーム、 95…Arイオンビーム、 96…酸素イオンビーム、 101、101a、101a4、101c、101d、102、103、104、109a、109b、109b4、109c、109d、109e、109f、109g…磁気抵抗効果素子、 141…下部ピン層、 142…反平行磁気結合層、 143…上部ピン層、 161…絶縁層、 162…導電部、 250…磁気記録再生装置、 254…サスペンション、 255…アクチュエータアーム、 256…ボイスコイルモータ、 257…軸受部、 258…ヘッドジンバルアセンブリ(磁気ヘッドアセンブリ)、 260…ヘッドスタックアセンブリ、 261…支持フレーム、 262…コイル、 280…記録用媒体ディスク、 290…信号処理部、 301、301a…磁気記録再生装置、 311…記憶素子部分、 312…アドレス選択用トランジスタ部分、 322、334、372…ビット線、 323、332、383、384…ワード線、 326…ビア、 328…埋め込み配線、 330…スイッチングトランジスタ、 350…列デコーダ、 351…行デコーダ、 352…センスアンプ、 360、361、362…デコーダ、 370…ゲート、 422、423、424、434…配線、 A…実効面積、 AA…矢印、 ABS…媒体対向面、 CP…電流パス、 CUR…電流、 D…ダイオード、 Dh…ハイト長、 ELE…伝導電子、 P1…電流パス内部、 P2…近傍部分、 P3…界面、 PAIT…パワー、 RG1、RG2…領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体を含む第1磁性層と、強磁性体を含む第2磁性層と、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する導電部とを含む中間層と、を有する磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
前記絶縁層と、前記絶縁層を貫通する前記導電部と、を含む構造体を形成する構造体形成工程と、
前記構造体に、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むイオン及びプラズマの少なくともいずれかの照射を行う第1処理工程と、
前記第1処理工程が施された前記構造体に対して、酸素を含むガスへの曝露、酸素を含むイオンビームの照射、酸素を含むプラズマの照射、窒素を含むガスへの曝露、窒素を含むイオンビームの照射及び窒素を含むプラズマの照射の少なくともいずれかを行う第2処理工程と、
を備えたことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記酸素を含むイオンビームの照射は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つと、酸素と、を含むイオンビームの照射を含み、前記酸素を含むプラズマの照射は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つと、酸素と、を含むプラズマの照射を含み、前記窒素を含むイオンビームの照射は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つと、窒素と、を含むイオンビームの照射を含み、前記窒素を含むプラズマの照射は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンよりなる群から選択された少なくとも1つと、窒素と、を含むプラズマの照射を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2処理工程の後に前記構造体の上に非磁性層を形成する工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1処理工程の前に前記構造体の上に非磁性層を形成する工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
前記構造体形成工程は、
前記導電部となる第1金属膜と、前記絶縁層に変換される第2金属膜と、を成膜する成膜工程と、
前記第2金属膜を前記絶縁層に変換して前記構造体を形成する変換工程と、
を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項6】
前記変換工程は、
前記第2金属膜に、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン及びクリプトンからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含むイオン及びプラズマの少なくともいずれかを照射する工程、及び、
前記第2金属膜に、酸素及び窒素の少なくともいずれかを含むイオン及びプラズマの少なくともいずれかを照射する工程、
の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項5記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
請求項7記載の磁気抵抗効果素子を一端に搭載するサスペンションと、
前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと、
を備えたことを特徴とする磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項9】
請求項8記載の磁気ヘッドアセンブリと、
前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気抵抗効果素子を用いて情報が記録される磁気記録媒体と、
を備えたことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項10】
請求項7記載の磁気抵抗効果素子をマトリクス状に配置したことを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−171682(P2011−171682A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36651(P2010−36651)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】