説明

磁気抵抗素子の製造方法、磁気デバイスの製造方法、磁気抵抗素子の製造装置および磁気デバイスの製造装置

【課題】磁気抵抗効果の再現性を向上させた磁気抵抗素子の製造方法、磁気デバイスの製造方法、磁気抵抗素子の製造装置および磁気デバイスの製造装置を提供する。
【解決手段】磁気デバイスの製造装置は、磁気回路37を用いてターゲットTの表面に漏洩磁場を形成し、ターゲットTの表面における水平磁場の強度を2000(Oe)〜3000(Oe)にする。そして、基板11にトンネルバリア層を積層するとき、表面における水平磁場が2000(Oe)〜3000(Oe)の下で酸化マグネシウムを主成分とするターゲットTをスパッタさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子の製造方法、磁気デバイスの製造方法、磁気抵抗素子の製造装置および磁気デバイスの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory )やHDD(Hard Disk Drive )などの磁気デバイスには、磁界に応じて素子抵抗を変化させる磁気抵抗素子が利用されている。磁気抵抗素子としては、トンネル磁気抵抗効果(TMR効果:Tunneling Magnetoresistive )を用いることによって数十%以上の高い磁気抵抗変化率(以下単に、MR比
という。)を得るTMR素子が知られている。
【0003】
TMR素子は、自発磁化の方向を強固に固定する固定磁性層と、自発磁化の方向を回転可能にする自由磁性層と、固定磁性層と自由磁性層との間に狭入されるトンネルバリア層とを有する。TMR素子は、二つの磁性層における相対的な磁化の向きを入力信号によって制御させ、相対的な磁化の向きが同じ方向であるか否かによって素子抵抗を大きく変化させる。そして、TMR素子は、入力信号に応じた磁化の方向をメモリ情報として記憶したり、入力磁界に応じた出力電圧をメモリ情報として出力したりする。
【0004】
TMR素子は、携帯端末や電子機器の急速な普及にともない、一層の高集積化と高速化が求められ、微弱な信号を検出するための高いMR比と、処理速度を高速化するための低い素子抵抗とが要求される。TMR素子においては、高いMR比と低い素子抵抗とを両立させるものとして、トンネルバリア層に酸化マグネシウム層(MgO層)を用いる提案がなされている(例えば、特許文献1)。MgO層は、規則的な原子配列を取り易い材料で得られる膜の結晶配向性が(100)面に優先的に配向し、その配向の度合いが高いほど、電子の直進性を向上させて良好なTMR効果を発現させる。
【特許文献1】特開2007−48972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MgO層の製造方法としては、MgOを主成分とするターゲットを利用してMgO層をスパッタ成膜させるマグネトロンスパッタ法が知られている。マグネトロンスパッタ法は、ターゲットの裏面に磁気回路を配設させて、ターゲットの表面から漏れ出る数百(Oe)の磁場によって、ターゲットの表面に高い密度のプラズマを生成させる。そして、スパッタガスのイオンをターゲットに向けて加速して入射させ、ターゲットからスパッタされるMgO粒子を基板の表面に付着させて、基板の表面に高純度のMgO層を堆積させる。
【0006】
しかしながら、マグネトロンスパッタ法を用いるMgO層の製造方法においては、従来から、MgO層の配向性と各種の成膜パラメータとの関係について検討がなされていない。そのため、マグネトロンスパッタ法においては、基板のサイズに対応させて製造装置のサイズを変更する場合、MgO層の配向性の再現性、ひいては、磁気抵抗効果の再現性を十分に得られない問題を招いていた。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされるものであって、その目的は、磁気抵抗効果の再現性を向上させた磁気抵抗素子の製造方法、磁気デバイスの製造方法、磁気抵抗素子の製造装置および磁気抵抗デバイスの製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、MgO層の配向性と各種の成膜パラメータとの関係を検討するなかで、MgO層の(100)面配向は、ターゲットに印加する電力(以下単に、スパッタ電力という。)が小さくなるほど強くなり、また、スパッタ時の圧力(以下単に、スパッタ圧力という。)が低くなるほど強くなることを見出した。
【0009】
図6は、マグネトロンスパッタ法を用いて形成するMgO層のX線回折スペクトルであって、スパッタ電力が350(W )〜100(W )のX線回折強度をそれぞれ縦軸方向に沿って等間隔に区切って示す。図7は、マグネトロンスパッタ法を用いて形成するMgO層のX線回折スペクトルであって、スパッタガスの流量が5(sccm )〜100(sccm )のX線回折強度をそれぞれ縦軸方向に沿って等間隔に区切って示す。
【0010】
図6および図7において、それぞれ回折角度2θが40°付近の位置には、MgO層の(200)面が認められる。MgO層の(200)面配向は、スパッタ電力が350(W)から100(W )になるに連れて強くなる。また、MgO層の(200)面配向は、スパッタガスの流量が100(sccm )から5(sccm )になるに連れて、すなわち、スパッタ圧力が低くなるに連れて強くなることが分かる。
【0011】
一方、スパッタ圧力を過剰に低くすると、一般的に、プラズマの電位が高くなりスパッタ粒子の入射エネルギーを増大させてしまう。高い入射エネルギーのスパッタ粒子は、MgO層の原子配列の規則性を低下させて(100)面配向を弱くさせてしまう。また、スパッタ圧力やスパッタ電力を過剰に低くすると、プラズマの密度が低くなり、放電の不安定化を招いて成膜不良を来たしてしまう。そのため、スパッタ圧力とスパッタ電力の変更だけでは、(100)面配向の再現性を十分に得られない。
【0012】
そこで、スパッタ圧力を低くし、かつ、スパッタ電力を低くする条件の下で、プラズマの電位を増加させることなく安定した放電を提供できれば、(100)面配向に十分な再現性を与えることができると考えられる。
【0013】
一般的に、マグネトロンスパッタ法においては、ターゲットの表面から漏れ出る水平磁場の強度が数百(Oe)に設定されている。本発明者らは、MgO層の(100)面配向と成膜パラメータとの関係に基づいて上記水平磁場の強度に着眼し、MgOターゲットの表面における水平磁場を著しく増大させることにより、(100)面配向の再現性が向上できることを見出した。
【0014】
図8は、ターゲットの表面から漏れ出る水平磁場に対して、放電を維持できる下限のスパッタ圧力を示す。図9は、直流マグネトロンスパッタ法を用い、ターゲットの表面から漏れ出る水平磁場の各々に対し、放電を維持できる下限のスパッタ電圧を示す。
【0015】
図8および図9において、それぞれターゲットの表面から漏れ出る水平磁場を増加させるほど、スパッタ圧力の下限値を低くさせることができ、かつ、スパッタ電圧の下限値を低くさせることができる。すなわち、水平磁場を増加させることによって、スパッタ圧力の下限値を低くでき、かつ、スパッタ電力の下限値を低くできることが分かる。換言すれば、水平磁場を増加させることによって、(100)面配向が強くなる領域に向けてスパッタ条件を拡張できることが分かる。
【0016】
上記問題を解決するため、請求項1に記載の発明は、基板に第一の磁性層を形成する工程と、前記第一の磁性層に酸化マグネシウム層を積層する工程と、前記酸化マグネシウム層に第二の磁性層を積層する工程と、を備えた磁気抵抗素子の製造方法であって、前記酸化マグネシウム層を積層する工程は、酸化マグネシウムを主成分とするターゲットの表面
に2000(Oe)〜3000(Oe)の水平磁場を形成して前記ターゲットをスパッタすること、を要旨とする。
【0017】
請求項1に記載の磁気抵抗素子の製造方法によれば、水平磁場を2000(Oe)以上にする分だけ、スパッタ圧力の下限値を低くさせることができ、各スパッタ圧力の領域において、それぞれスパッタ電力の下限値を低くさせることができる。しがたって、MgO層の(100)面配向が強くなる領域に向けて、MgO層のスパッタ条件を拡張させることができる。また、水平磁場を3000(Oe)以下に抑える分だけ、不要な磁気回路の拡大を抑制させることができる。したがって、MgO層の(100)面配向が強くなる領域に向けてスパッタ条件を拡張でき、MgO層を用いる磁気抵抗素子の磁気抵抗効果の再現性を向上させることができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の磁気抵抗素子の製造方法であって、前記酸化マグネシウムを積層する工程は、前記ターゲットの表面から漏れ出る水平磁場が前記ターゲットの表面で2000(Oe)〜3000(Oe)になるように、前記ターゲットとの表面と磁気回路との間の距離を変更すること、を要旨とする。
【0019】
この磁気抵抗素子の製造方法によれば、ターゲットの表面と磁気回路との間の距離を変更するだけで、ターゲットの表面に2000(Oe)〜3000(Oe)の水平磁場を形成させることができる。したがって、磁気抵抗効果の再現性を簡便な方法で向上させることができる。
【0020】
上記問題を解決するため、請求項3に記載の発明は、磁気抵抗素子を備えた磁気デバイスの製造方法であって、前記磁気抵抗素子を請求項1または2に記載の磁気抵抗素子の製造方法を用いて製造すること、を要旨とする。
【0021】
上記問題を解決するため、請求項4に記載の発明は、基板を搬送する搬送部と、前記搬送部に連結し、前記基板に第一の磁性層を形成する第一成膜部と、前記搬送部に連結し、前記第一磁性層に酸化マグネシウム層を積層する第二成膜部と、前記搬送部に連結し、前記酸化マグネシウム層に第二の磁性層を積層する第三成膜部と、を備えた磁気抵抗素子の製造装置であって、前記第二成膜部は、酸化マグネシウムを主成分とするターゲットと、前記ターゲットの表面に2000(Oe)〜3000(Oe)の水平磁場を形成する磁気回路と、を備えたことを要旨とする。
【0022】
請求項4に記載の磁気抵抗素子の製造装置によれば、第二成膜部が、水平磁場を2000(Oe)以上にする分だけ、スパッタ圧力の下限値を低くさせることができ、各スパッタ圧力の領域において、それぞれスパッタ電力の下限値を低くさせることができる。しがたって、MgO層の(100)面配向が強くなる領域に向けて、MgO層のスパッタ条件を拡張させることができる。また、水平磁場を3000(Oe)以下に抑える分だけ、不要な磁気回路の拡大を抑制させることができ、装置サイズの拡大を抑えることができる。したがって、MgO層の(100)面配向が強くなる領域に向けてスパッタ条件を拡張させるでき、MgO層を用いる磁気抵抗素子の磁気抵抗効果の再現性を向上させることができる。
【0023】
上記問題を解決するため、請求項5に記載の発明は、磁気抵抗素子を備えた磁気デバイスの製造装置であって、前記磁気抵抗素子を製造するために請求項4に記載の磁気抵抗素子の製造装置を備えたこと、を要旨とする。
【発明の効果】
【0024】
上記したように、本発明によれば、磁気抵抗効果の再現性を向上させた磁気抵抗素子の
製造方法、磁気デバイスの製造方法、磁気抵抗素子の製造装置および磁気デバイスの製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。図1は、磁気抵抗素子10を説明する概略断面図である。
(磁気抵抗素子)
図1において、磁気抵抗素子10の基板11には、下地層12、固定磁性層13、トンネルバリア層14、自由磁性層15、保護層16が、基板11側から順に積層されている。
【0026】
下地層12は、基板11の表面荒れを緩和するバッファ層であって上層(固定磁性層13)との接続を円滑にする。また、下地層12は、シード層として機能して上層の結晶配向を規定する。下地層12は、単層構造に限らず、バッファ層とシード層からなる二層構造であってもよい。この下地層12としては、例えばTa、Ti、W、Cr、または、これらの合金を用いることができる。
【0027】
固定磁性層13は、下地層12に積層されるピニング層13aと、ピニング層13aに積層されるピン層13bを有する。ピニング層13aとピン層13bは、それぞれ反強磁性層と強磁性層であって、ピン層13bの磁化方向は、ピニング層13aとの間の相互作用によって一方向に固定される。ピン層13bは、単層構造に限らず、強磁性層/磁気結合層/強磁性層からなる公知の積層フェリ構造であってもよい。ピニング層13aとしては、IrMn、PtMn、PdPtMnを用いることができる。ピン層13bには、NiFe、CoFe、CoFeBを用いることができる。
【0028】
トンネルバリア層14は、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とする絶縁膜であって、その厚さ方向にトンネル電流を流す程度の膜厚を有する。トンネルバリア層14の抵抗値は、固定磁性層13の自発磁化と自由磁性層15の自発磁化との相対的な方向が平行であるか、反平行であるかによって変化する。トンネルバリア層14は、以下に示す磁気デバイスの製造装置を用いて製造される。
【0029】
自由磁性層15は、自発磁化の方向を回転可能にする保磁力を有した強磁性体層である。自由磁性層15は、自発磁化の方向を回転させて、固定磁性層13の自発磁化の方向と平行の自発磁化、あるいは、反平行の自発磁化を有する。自由磁性層15には、CoFeの単層構造、あるいは、CoFeにNiFeを積層した積層構造を用いることができる。
【0030】
保護層16は、外気に対するバリア層であって、バリア性の高い不動態を形成して自由磁性層15の自発磁化を保護する。また、保護層16は、自由磁性層15の表面荒れを緩和するバッファ層であって周辺回路と磁気抵抗素子10の接続を円滑にさせる。保護層16には、Ta、Ti、W、Cr、または、これらの合金を用いることができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、固定磁性層13、トンネルバリア層14、自由磁性層15が、それぞれ第一の磁性層、酸化マグネシウム層、第二の磁性層を構成する。
(磁気デバイスの製造装置)
次に、磁気デバイスの製造装置を構成する磁気抵抗素子の製造装置20を、図2〜図4に従って説明する。図2は、磁気抵抗素子の製造装置20を模式的に示す平面図であり、図3は、酸化マグネシウムチャンバ24を示す側断面図である。
【0032】
図2において、磁気抵抗素子の製造装置20は、搬送部としての搬送チャンバ21を有する。搬送チャンバ21には、一対のロードロックチャンバ(以下単に、LLチャンバと
いう。)22、第一下層チャンバ23A、第二下層チャンバ23B、第三下層チャンバ23Cが連通可能に連結されている。また、搬送チャンバ21には、酸化マグネシウムチャンバ(以下単に、MgOチャンバという。)24、第一上層チャンバ25A、第二上層チャンバ25Bが連通可能に連結されている。
【0033】
搬送チャンバ21は、正八角柱状に形成された有底筒状のチャンバ本体21aを有し、そのチャンバ本体21aの内部には、内部空間(以下単に、搬送室21sという。)が形成されている。このチャンバ本体21aは、その上側が図示しないチャンバリッドに覆われて搬送室21sの真空状態を維持する。搬送チャンバ21は、搬送室21sに搬送ロボット21bを搭載する。搬送ロボット21bは、LLチャンバ22が収容する基板11を搬送室21sに搬入して、第一下層チャンバ23A、第二下層チャンバ23B、第三下層チャンバ23C、MgOチャンバ24、第一上層チャンバ25A、第二上層チャンバ25Bの順に基板11を搬送する。そして、搬送ロボット21bは、成膜処理後の基板11を第二上層チャンバ25BからLLチャンバ22に搬出する。
【0034】
LLチャンバ22は、複数の基板11を収容するステージを有し、図示しない移載機から移載される複数の基板11を収容する。LLチャンバ22は、チャンバ内を所定の圧力まで減圧して搬送チャンバ21に基板11を搬入可能にする。また、LLチャンバ22は、成膜処理後の基板11を収納し、チャンバ内を大気開放して搬出可能にする。
【0035】
第一下層チャンバ23Aは、基板11の表面をスパッタするスパッタチャンバであって、基板11の表面をスパッタ洗浄する。第二下層チャンバ23Bおよび第三下層チャンバ23Cは、それぞれ下地層12および固定磁性層13(ピニング層13a、ピン層13b)を積層するためのターゲットを装着したスパッタチャンバであって、各ターゲット種に対応する膜を積層する。第二下層チャンバ23Bは、例えば、TaターゲットとPtMnターゲットを装着して、下地層12としてのTa層と、ピニング層13aとしてのPtMn層を積層する。第三下層チャンバ23Cは、例えば、CoFeターゲット、Ruターゲット、CoFeBターゲットを装着して、ピン層13bとしてのCoFe層/Ru層/CoFeB層を積層する。
【0036】
MgOチャンバ24は、MgOを主成分とするターゲットを装着するマグネトロンスパッタ式のスパッタチャンバであり、MgOを主成分とするトンネルバリア層14を形成する。
【0037】
図3において、MgOチャンバ24は、搬送チャンバ21に連結されるチャンバ本体31を有し、そのチャンバ本体31の内部に、搬送室21sと連通可能な内部空間(以下単に、スパッタ室31Sという。)を有している。チャンバ本体31は、供給配管ILを介して、スパッタ室31Sと連通するガス供給部32を有している。ガス供給部32は、スパッタガスとしてのアルゴン(Ar)、あるいは、Arと酸素(O)の混合ガスを所定の流量に調整してスパッタ室31Sに供給する。
【0038】
スパッタ室31Sは、排気配管OLを介して、ターボ分子ポンプやドライポンプなどからなる排気システム33に連結されている。排気システム33は、スパッタ室31Sに供給されるAr、あるいはArとOの混合ガスを排気して、スパッタ室31Sの圧力値を10−3(Pa)まで減圧可能にする。
【0039】
スパッタ室31Sには、基板11を載置するためのステージ34が配設されている。ステージ34は、搬送チャンバ21から搬入される基板11を載置して、基板11をスパッタ室31Sの所定の位置に位置決め固定する。スパッタ室31Sの内壁には、略円筒状に形成される坊着板35が、ステージ34の上方を囲うように配設されている。坊着板35
は、スパッタ室31Sでスパッタ成膜が実行されるとき、スパッタ室31Sの内壁に対してスパッタ粒子の付着を防止する。
【0040】
ステージ34の直上には、円盤状に形成されたターゲットTが配設されている。ターゲットTは、MgOを主成分とするターゲットである。ターゲットTの上側には、ターゲット電極36が配設されている。ターゲット電極36は、ターゲットTを基板11に対向させて、ターゲットTと基板11との間の距離を所定の距離に保持させる。ターゲット電極36は、外部電源FGに接続されて、外部電源FGからの所定の高周波電力をターゲットTに供給する。ターゲット電極36は、外部電源FGが高周波電力を供給するとき、スパッタ室31Sにプラズマを生成し、プラズマ空間に対して負電位、すなわちカソードとして機能してターゲットTをスパッタさせる。
【0041】
ターゲット電極36の上側には、磁気回路37が配設されている。磁気回路37は、マグネットプレート38を有し、そのマグネットプレート38の下側には、外側磁石M1と内側磁石M2を搭載している。
【0042】
マグネットプレート38は、円盤状に形成されて、その中心がターゲットTの中心と対向するように配置されている。マグネットプレート38は、磁気回路37に内設される回転モータMの駆動軸に駆動連結されて、回転モータMが駆動するときに、マグネットプレート38の中心を回転中心にして回転運動する。
【0043】
外側磁石M1と内側磁石M2は、それぞれネオジウム−鉄−ボロン系の磁石であり、マグネットプレート38の回転軸に対して偏心したリング状に形成されて、外側磁石M1が、内側磁石M2の周りを囲うように配設されている。外側磁石M1の下側(ターゲットT側)の磁極と内側磁石M2の下側(ターゲットT側)の磁極とは、ターゲットTの表面から所定の距離(例えば、10(mm))だけ上方に離間する位置に配設されて、それぞれが逆極性を有する。例えば、外側磁石M1の下側の磁極がS極であり、内側磁石M2の下側の磁極はN極である。そして、内側磁石M2の下側の磁極から出る磁力線は、ターゲットTを介してスパッタ室31Sに入り、ターゲットTの表面近傍で湾曲して、外側磁石M1の下側の磁極に入る。
【0044】
すなわち、外側磁石M1と内側磁石M2は、ターゲットTの表面に漏洩磁場を形成し、ターゲットTの面方向に沿う磁場(以下単に、水平磁場という。)をターゲットTの表面に形成する。外側磁石M1と内側磁石M2が形成する水平磁場は、回転モータMが回転するとき、ターゲットTの表面の全体にわたり走査される。外側磁石M1と内側磁石M2が形成する水平磁場は、ターゲット電極36がスパッタ室31Sにプラズマを生成するとき、ターゲットTの表面近傍にプラズマを捕捉させてプラズマ密度を増加させる。
【0045】
この際、外側磁石M1と内側磁石M2は、ターゲットTの表面において、水平磁場の強度が2000(Oe)以上であって、かつ、3000(Oe)以下となる漏洩磁場を形成する。例えば、内側磁石M2および外側磁石M1は、それぞれ外側磁石M1の下側の磁極とターゲットTの表面との間の距離、または、内側磁石M2の下側の磁極とターゲットTの表面との間の距離を調整することによって、ターゲットTの表面における水平磁場の強度を2000(Oe)〜3000(Oe)にする。これによって、MgOチャンバ24は、水平磁場の強度を2000(Oe)以上にする分だけ、スパッタ圧力の下限値を低くさせることができ、かつ、スパッタ電力の下限値を低くさせることができる。この結果、MgOチャンバ24は、MgO層の(100)面配向を強くする領域に向けてスパッタ条件を拡張させることができる。
【0046】
MgOチャンバ24は、基板11がスパッタ室31Sに搬入されるとき、ガス供給部3
2に所定の流量のスパッタガスを供給させ、排気システム33にスパッタ室31Sを所定の圧力値に減圧させる。この状態において、MgOチャンバ24は、回転モータMを駆動してターゲットTの表面に強度が2000(Oe)〜3000(Oe)となる水平磁場を形成し、外部電源FGに所定の電力を印加させ、高密度のプラズマによってターゲットTをスパッタさせる。スパッタされるMgO粒子は、基板11の表面に入射して基板11の表面にMgO層を形成する。
【0047】
図2において、第一上層チャンバ25Aおよび第二上層チャンバ25Bは、それぞれ自由磁性層15および保護層16を積層するためのターゲットを装着したスパッタチャンバであって、各ターゲット種に対応した層を積層する。第一上層チャンバ25Aは、例えば、CoFeターゲットを装着して自由磁性層15としてのCoFe層を積層する。第二上層チャンバ25Bは、例えば、Taターゲットを装着して保護層16としてのTa層を積層する。
【0048】
なお、本実施形態においては、第二下層チャンバ23Bおよび第三下層チャンバ23Cが第一成膜部を構成し、MgOチャンバ24が第二成膜部を構成し、第一上層チャンバ25Aおよび第二上層チャンバ25Bが第三成膜部を構成する。
【0049】
(磁気デバイスの製造方法)
次に、上記製造装置20を利用した磁気デバイスの製造方法について説明する。
まず、複数の基板11が、LLチャンバ22にセットされる。製造装置20は、LLチャンバ22および搬送チャンバ21を駆動してLLチャンバ22の基板11を第一下層チャンバ23A、第二下層チャンバ23B、第三下層チャンバ23Cの順に搬送する。製造装置20は、基板11を第一下層チャンバ23Aに搬入すると、第一下層チャンバ23Aを駆動して基板11の表面を洗浄させる。また、製造装置20は、基板11を第二下層チャンバ23Bに搬入すると、第二下層チャンバ23Bを駆動して基板11の表面に下地層12および固定磁性層13を積層する。
【0050】
製造装置20は、基板11に固定磁性層13を積層すると、基板11を第三下層チャンバ23Cから搬出してMgOチャンバ24に搬入する。製造装置20は、基板11をMgOチャンバ24に搬入すると、MgOチャンバ24を駆動して固定磁性層13の上側にMgOを主成分とするトンネルバリア層14を積層する。この際、磁気回路37が、ターゲットTの表面に2000(Oe)〜3000(Oe)の水平磁場を形成させるため、MgOチャンバ24は、そのスパッタ圧力の下限値を低くさせることができ、かつ、スパッタ電力の下限値を低くさせることができる。すなわち、MgOチャンバ24は、MgO層の(100)面配向を強くする領域に向けてスパッタ条件を拡張させることができる。
【0051】
製造装置20は、固定磁性層13の上側にトンネルバリア層14を積層すると、基板11をMgOチャンバ24から搬出して第一上層チャンバ25A、第二上層チャンバ25Bの順に搬送する。製造装置20は、基板11を第一上層チャンバ25Aに搬入すると、第一上層チャンバ25Aを駆動してトンネルバリア層14の上側に自由磁性層15を積層する。また、製造装置20は、基板11を第二上層チャンバ25Bに搬入すると、第二上層チャンバ25Bを駆動して自由磁性層15の上側に保護層16を積層する。
【0052】
製造装置20は、保護層16を積層すると、基板11を第二上層チャンバ25Bから搬出してLLチャンバ22に搬入する。製造装置20は、以後同様に、第一、第二、第三下層チャンバ23A,23B,23C、MgOチャンバ24、第一および第二上層チャンバ25A,25Bをそれぞれ駆動し、全ての基板11に対して、下地層12、固定磁性層13、トンネルバリア層14、自由磁性層15、保護層16を積層し、LLチャンバ22に搬入する。全ての基板11に対して成膜処理を終了すると、製造装置20は、LLチャン
バ22を大気開放し、全ての基板11を製造装置20の外部に搬出させる。
【0053】
(実施例)
次に、実施例をあげて本発明の効果を説明する。
シリコン酸化膜を有したシリコン基板を基板11として用い、基板11を、第一、第二、第三下層チャンバ23A,23B,23Cに順に搬送し、下地層12としてTa層を形成し、固定磁性層13としてPtMn/Co/Ru/CoFeBからなる積層構造を形成した。
【0054】
続いて、基板11をMgOチャンバ24に搬送し、固定磁性層13の上側にMgO層を積層した。この際、ターゲットTとして直径が100(mm )、厚さが5(mm )のMgOターゲットを用い、スパッタ電力としてターゲットTに200(W )の高周波電力を供給した。また、スパッタガスとしてArを用い、スパッタ圧力が1.2×10−2(Pa )
〜2.4×10−1(Pa )になるようにArの流量を調整した。そして、ターゲットT
の表面における水平磁場の強度を2000(Oe)と2600(Oe)に設定した。
【0055】
次いで、基板11を第一、第二上層チャンバ25A,25Bに搬送し、自由磁性層15としてCoFeB層を形成し、保護層16としてTa層を形成し、実施例としての2つの磁気抵抗素子10を得た。そして、磁気抵抗効果測定装置を用い、各実施例の磁気抵抗変化率(MR比)をそれぞれ計測した。実施例のMR比を図4に示す。
【0056】
(比較例)
MgOチャンバ24において、ターゲットTの表面における水平磁場の強度を800(Oe)と1750(Oe)に設定し、その他の条件を実施例と同じにして比較例としての2つ磁気抵抗素子10を得た。そして、磁気抵抗効果測定装置を用い、各比較例のMR比を計測した。比較例のMR比を図4に示す。
【0057】
図4は、水平磁場の強度とMR比の関係を示す図である。
図4において、磁気抵抗素子10のMR比は、水平磁場が2000(Oe)未満の領域(比較例)において200%未満の値を示し、水平磁場が大きくなるに連れてその値を直線的に増加させることが分かる。また、磁気抵抗素子10のMR比は、水平磁場が2000(Oe)以上の領域(実施例)において200%以上の値を示し、水平磁場の増加に関わらずその値を略一定にさせることが分かる。
【0058】
すなわち、水平磁場の強度を2000(Oe)以上にする分だけ、磁気抵抗素子10のMR比を向上させることができ、その値を安定させることができる。ひいては、MR比が200%以上となる磁気抵抗素子10を、高い再現性の下で製造させることができる。
【0059】
(磁気デバイス)
次に、上記磁気デバイスの製造方法を用いて製造した磁気デバイスとしての磁気メモリについて説明する。図5は、磁気メモリ40を示す概略断面図である。
【0060】
磁気メモリ40の基板11には、薄膜トランジスタTrが形成されている。薄膜トランジスタTrの拡散層LDは、コンタクトプラグCP、配線ML、下部電極層41を介して磁気抵抗素子10に接続されている。
【0061】
磁気抵抗素子10は、下部電極層41の上側に積層される固定磁性層13と、固定磁性層13に積層されるトンネルバリア層14と、トンネルバリア層14に積層される自由磁性層15とからなるTMR素子である。
【0062】
磁気抵抗素子10の下側には、下部電極層41の下方に離間するワード線WLが配設されている。ワード線WLは、紙面に対して垂直方向に延びる帯状に形成されている。また、磁気抵抗素子10の上側には、ワード線WLと直交する方向に延びる帯状のビット線BLが配設されている。すなわち、磁気抵抗素子10は、互いに直交するワード線WLとビット線BLとの間に配設されている。
【0063】
磁気抵抗素子10は、下部電極層41の上側に、固定磁性層13、トンネルバリア層14、自由磁性層15を積層し、これら固定磁性層13、トンネルバリア層14、自由磁性層15にエッチングを施すことによって形成されている。固定磁性層13、トンネルバリア層14、自由磁性層15は、それぞれ上記磁気抵抗素子の製造装置20を用いて形成されている。したがって、磁気メモリ40は、磁気抵抗素子10の磁気抵抗効果に高い再現性を与えることができ、その生産性を向上させることができる。
【0064】
以上記述したように、本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)上記実施形態において、磁気抵抗素子の製造装置20は、磁気回路37を用いてターゲットTの表面に漏洩磁場を形成し、ターゲットTの表面における水平磁場の強度を2000(Oe)〜3000(Oe)にする。そして、トンネルバリア層14を積層するとき、表面における水平磁場が2000(Oe)〜3000(Oe)の下で酸化マグネシウムを主成分とするターゲットTをスパッタさせる。
【0065】
したがって、水平磁場を2000(Oe)以上にする分だけ、スパッタ圧力の下限値を低くさせることができ、かつ、スパッタ電力の下限値を低くさせることができる。よって、MgO層の(100)面配向が強くなる領域に向けてスパッタ条件の範囲を拡張させることができる。この結果、所定のMR比を得るためのスパッタ条件の範囲を拡張させることができる。ひいては、磁気抵抗効果の再現性を向上させることができる。
【0066】
(2)また、上記実施形態によれば、MR比が安定する領域においてMgO層を形成させることができる。この結果、高いレベルのMR比を安定して提供させることができ、磁気抵抗効果の再現性をさらに向上させることができる。
【0067】
(3)また、水平磁場を3000(Oe)以下に抑える分だけ、磁気回路37の不要な拡大を避けることができ、製造装置20の大型化を抑制させることができる。
(4)上記実施形態においては、ターゲットTの表面における水平磁場の強度が2000(Oe)〜3000(Oe)になるように、ターゲットTの表面と外側磁石M1との間の距離、または、ターゲットTと内側磁石M2との間の距離を変更させる。したがって、MgOチャンバ24の大規模な変更をともなうことなく、磁気抵抗効果の再現性を簡便な方法で向上させることができる。
【0068】
尚、上記各実施の形態は、以下の態様で実施してもよい。
・上記実施形態においては、スパッタ室31Sにおける垂直磁場の積分値がゼロであってもよい。あるいは、スパッタ室31Sにおける垂直磁場の積分値がゼロでない値を有する、いわゆるアンバランスドマグネトロン方式であってもよい。すなわち、本発明は、垂直磁場の強度に限定されるものではなく、ターゲットTの表面において水平磁場が2000(Oe)〜3000(Oe)となる構成であればよい。
【0069】
・上記実施形態においては、磁気デバイスを磁気メモリ40に具体化した。これに限らず、例えば、磁気デバイスをHDDの読み取りヘッドに具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態の磁気抵抗素子を示す側断面図。
【図2】同じく、磁気デバイスの製造装置を模式的に示す平面図。
【図3】同じく、MgOチャンバを示す側断面図。
【図4】同じく、水平磁場と磁気抵抗変化率の関係を示す図。
【図5】同じく、磁気メモリを示す側断面図。
【図6】同じく、MgOの配向性とスパッタ圧力の関係を示すX線回折スペクトル。
【図7】同じく、MgOの配向性とスパッタ電力の関係を示すX線回折スペクトル。
【図8】同じく、スパッタ圧力と水平磁場の関係を示す図。
【図9】同じく、スパッタ電力と水平磁場の関係を示す図。
【符号の説明】
【0071】
T…ターゲット、…10磁気抵抗素子、11…基板、20…磁気デバイスの製造装置、37…磁気回路、40…磁気デバイスを構成する磁気メモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に第一の磁性層を形成する工程と、
前記第一の磁性層に酸化マグネシウム層を積層する工程と、
前記酸化マグネシウム層に第二の磁性層を積層する工程と、
を備えた磁気デバイスの製造方法であって、
前記酸化マグネシウム層を積層する工程は、酸化マグネシウムを主成分とするターゲットの表面に強度が2000(Oe)〜3000(Oe)の水平磁場を形成して前記ターゲットをスパッタすること、
を特徴とする磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気抵抗素子の製造方法であって、
前記酸化マグネシウムを積層する工程は、前記ターゲットの表面から漏れ出る水平磁場が前記ターゲットの表面で2000(Oe)〜3000(Oe)になるように、前記ターゲットとの表面と磁気回路との間の距離を変更すること、
を特徴とする磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項3】
磁気抵抗素子を備えた磁気デバイスの製造方法であって、
前記磁気抵抗素子を請求項1または2に記載の磁気抵抗素子の製造方法を用いて製造すること、
を特徴とする磁気デバイスの製造方法。
【請求項4】
基板を搬送する搬送部と、
前記搬送部に連結し、前記基板に第一の磁性層を形成する第一成膜部と、
前記搬送部に連結し、前記第一磁性層に酸化マグネシウム層を積層する第二成膜部と、
前記搬送部に連結し、前記酸化マグネシウム層に第二の磁性層を積層する第三成膜部と、を備えた磁気デバイスの製造装置であって、
前記第二成膜部は、
酸化マグネシウムを主成分とするターゲットと、
前記ターゲットの表面に強度が2000(Oe)〜3000(Oe)の水平磁場を形成する磁気回路と、
を備えたことを特徴とする磁気抵抗素子の製造装置。
【請求項5】
磁気抵抗素子を備えた磁気デバイスの製造装置であって、
前記磁気抵抗素子を製造するために請求項4に記載の磁気抵抗素子の製造装置を備えたこと、
を特徴とする磁気デバイスの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−226987(P2008−226987A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60294(P2007−60294)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、「高機能・超低消費電力メモリの開発」 委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】