説明

窒化物半導体結晶とその成長方法、材料、および窒化ガリウム単結晶基板

【課題】結晶性が良好な高濃度硫黄ドープ窒化物半導体結晶を提供する。
【解決手段】HVPE法による窒化物半導体結晶の成長において、硫化水素、メチルメルカプタンおよびジメチルサルファイド等の硫黄原子を含む原料を供給して、下地基板上に窒化物半導体結晶を+c軸方向以外の方向へ成長させることにより、S濃度が1×1018〜1×1020cm-3であり、かつ対称反射のX線ロッキングカーブの半値全幅が100秒以下である窒化物半導体結晶が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体結晶とその成長方法に関する。特に、良好なドーピング方法を用いて、結晶性が良好なn型窒化物半導体結晶を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウムに代表される窒化物半導体は、III-V族窒化物半導体の一種であり、大きなバンドギャップを有し、またバンド間遷移が直接遷移型であることから、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有望な材料である。
【0003】
窒化物半導体は、高融点であり、しかも融点付近の窒素の解離圧が高いことから、融液からのバルク成長が困難である。一方、ハイドライド気相成長法(HVPE法)や有機金属化学気相成長法(MOCVD法)等の気相成長法を用いることによって、窒化物半導体基板を製造できることが知られている。窒化ガリウム半導体基板を製造する場合、例えば、サファイア等の下地基板を気相成長装置のリアクター(成長室)内にセットし、リアクター内に、ガリウム化合物を含有するガスと窒素化合物を含有するガスなどからなる窒化物半導体形成用ガスを供給することにより、下地基板上に窒化ガリウム半導体を数μm〜数cmの厚さにまで成長させる。そして、その後、下地基板などの部分を研磨やレーザーを照射する方法を用いて除去することにより、所望の窒化物半導体基板を得ることができる。前記の気相成長法のうち、HVPE法は他の成長方法に比べて高い成長速度が実現できるという特徴を有することから、窒化物半導体の厚膜成長が必要な場合や、十分な厚みを有する窒化物半導体基板を得るための方法として有効である。
【0004】
n型窒化ガリウム半導体などのn型窒化物半導体を得るためには、リアクター内にドーパントガスを導入して結晶成長させるのが一般的である。例えば、リアクター内にシランガスを導入して結晶成長させることにより、Siをドーパントとして含むn型の窒化ガリウム半導体を得ることができる。しかしながら、この方法で用いるシランガスは爆発性があって危険であるために、安全面で問題があった。このため、ドーパントとしてSi以外の元素を用いたn型窒化ガリウム半導体の製造方法が種々検討されている。
【0005】
例えば、リアクター内に酸素ガスまたは水を導入して結晶成長させることにより、Oをドーパントとして含むn型の窒化ガリウム半導体を得る方法が知られている(特許文献1参照)。ここでは、酸素ガスまたは水を、HClまたはNH3に混合して用いており、n型キャリア濃度(O濃度)が1×1016〜1×1020cm-3である窒化ガリウム半導体基板を製造している。
【0006】
また、他の元素をドーパントとして用いた例として、Sをドーパントとして含むn型の窒化ガリウム半導体を得る方法も知られている(特許文献2参照)。ここでは、H2SとH2の混合ガスを導入して結晶成長させることにより、n型キャリア濃度(S濃度)が5×1017cm-3である窒化ガリウム半導体基板を製造している。
【0007】
さらに、Sをドーパントとして含むn型の窒化ガリウム半導体を得る方法として、MOCVD法による方法も知られている(非特許文献1参照)。ここでは、窒化ガリウム結晶を+c軸方向へ成長させることにより、n型キャリア濃度(S濃度)が1×1017cm-3である窒化ガリウム半導体基板を製造している。この文献には、n型キャリア濃度(S濃度)を2×1019cm-3まで高くした窒化ガリウム半導体も記載されているが、(0002)面X線ロッキングカーブの半値全幅は約300秒と悪くなっている。
【特許文献1】特開2000−44400号公報
【特許文献2】特開2005−213075号公報
【非特許文献1】Materials Science Forum Vols. 258-263 (1997) pp. 1161-1166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、ドーパントとしてSi以外の元素を用いたn型窒化ガリウム半導体の製造方法が種々検討されているが、いずれも以下に示すような課題を有している。
例えば、Oドープ窒化ガリウム半導体には、面内のO濃度がばらつくといった課題があるうえ、高濃度ドープではGa23といった絶縁物のクラスターが形成される危険性がある。また、Sドープ窒化ガリウム半導体には、ホスト原子のN原子に比べてS原子半径が約1.5倍大きいために、N原子サイトにS原子が入りにくく、高濃度ドープのn型窒化ガリウム半導体が得られにくいという課題がある。また、非特許文献1に示すように高濃度ドープのn型窒化ガリウム半導体が得られたとしても、結晶性が悪くて実用性がないという課題もある。
【0009】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、高濃度ドープを行っても結晶性が良好な窒化物半導体を得ることができる結晶成長方法を提供することを本発明の目的として設定した。また、結晶性が良好な高濃度ドープ窒化物半導体結晶を提供することも本発明の目的として設定した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、硫黄原子を含む原料を供給して結晶を特定の方向に成長させることにより課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0011】
[1] 硫黄原子を含む原料を供給して、下地基板上に窒化物半導体結晶を+c軸方向以外の方向へ成長させる工程を含むことを特徴とする窒化物半導体結晶の成長方法。
[2] 前記窒化物半導体結晶を−c軸方向へ成長させることを特徴とする[1]に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[3] 前記窒化物半導体結晶をm軸方向へ成長させることを特徴とする[1]に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[4] 前記窒化物半導体結晶を半極性面の法線方向へ成長させることを特徴とする[1]に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[5] 前記半極性面が(10−1−3)面であることを特徴とする[4]に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[6] 前記原料が、硫化水素、メチルメルカプタンおよびジメチルサルファイドからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[7] HClガスを断続的に供給しながら前記窒化物半導体結晶を成長させることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[8] 前記窒化物半導体結晶の成長後に還元雰囲気で熱処理を行うことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[9] 前記窒化物半導体結晶をHVPE法で成長させることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[10] 前記窒化物半導体結晶がガリウム含有窒化物半導体結晶であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[11] 前記窒化物半導体結晶が窒化ガリウム半導体結晶であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
[12] [1]〜[11]のいずれか一項に記載の成長方法により得られた窒化物半導体結晶。
[13] S濃度が1×1018〜1×1020cm-3であり、かつ対称反射のX線ロッキングカーブの半値全幅が100秒以下である窒化物半導体結晶のみからなる材料。
[14] 前記窒化物半導体結晶がガリウム含有窒化物半導体結晶であることを特徴とする[13]に記載の材料。
[15] 前記窒化物半導体結晶が窒化ガリウム半導体結晶であることを特徴とする[13]に記載の材料。
[16] O濃度が1×1017cm-3以下であることを特徴とするSドープ窒化ガリウム単結晶基板。
[17] Si濃度が1×1017cm-3以下であることを特徴とするSドープ窒化ガリウム単結晶基板。
【発明の効果】
【0012】
本発明の窒化物半導体結晶は、結晶性が良好でn型キャリア濃度が高い。また、本発明の窒化物半導体結晶の成長方法によれば、高濃度でSドープを行っても結晶性が良好な窒化物半導体結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】HVPE装置を示す概略図断面図である。
【図2】サファイア基板上の下地基板上に成長したSドープGaN単結晶膜の断面図(a)と、自立基板上に成長したSドープGaN単結晶膜の断面図(b)である。
【図3】レーザーフラッシュ法による測定の説明図である。
【図4】時間経過に伴う試料の裏面温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の窒化物半導体結晶とその成長方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
(結晶の成長方向)
本発明の窒化物半導体結晶の成長方法は、硫黄原子を含む原料を供給して、下地基板上に窒化物半導体結晶を+c軸方向以外の方向へ成長させる工程を含むことを特徴とする。窒化物半導体結晶を成長させる方向としては、−c軸方向、m軸方向、a軸方向、半極性面の法線方向を挙げることができ、−c軸方向、半極性面の法線方向が好ましく、−c軸方向がより好ましい。ここでいう半極性面としては、具体的に(10−1−3)面、(10−1−1)面、(11−22)面を挙げることができ、(10−1−3)面、(10−1−1)面が好ましく、(10−1−3)面がより好ましい。
【0016】
+c軸方向以外の方向への窒化物半導体結晶の成長は、窒化物半導体結晶が+c軸方向以外の方向に成長するような下地基板の面を選び、その面上に窒化物半導体を成長させることにより行うことができる。以下、窒化ガリウムの下地基板を用いる例を示す。本発明で用いる下地基板は+C面を有するものであってもよいが、その場合は+C面が結晶成長面として利用できない状態にして結晶成長を行う。例えば、+C面全面がサセプターに接合していて+C面上に結晶成長ができない状態にしたうえで、+C面以外の面(例えば−C面)に結晶成長を行うことができる。−c軸方向への結晶成長は下地基板の−C面上に結晶成長させることにより行うことができ、m軸方向への結晶成長は下地基板のM面上に結晶成長させることにより行うことができ、a軸方向への結晶成長は下地基板のA面上に結晶成長させることにより行うことができ、半極性面の法線方向への結晶成長は下地基板の半極性面上に結晶成長させることにより行うことができる。
【0017】
本願において+C面とは六方晶での(0001)面をいい、−C面とは(000−1)面をいう。また、本願においてM面とは、六方晶での(1−100)面およびそれと等価な面をいい、非極性面であり、通常へき開面である。具体的には、(1−100)面、(−1100)面、(01−10面)、(0−110)面、(10−10)面、(−1010)面があるが、いずれでもよい。本願においてA面とは、六方晶での(1−120)面およびそれと等価な面をいう。本願において半極性面とは、(hikl)面のh,i,kのうち少なくとも2つが0でなく、且つlが0でない面をいう。
【0018】
本発明では、下地基板の複数の面上に結晶成長させてもよいが、特定の1つの面上にできるだけ多くの結晶が成長するように下地基板の形状や設置状況を調整したり、結晶成長条件を制御したりすることが好ましい。例えば、平板状の下地基板を用意してその裏面全面をサセプター等に接合して下地基板表面上に結晶が成長するように制御したり、下地基板の特定面上に集中的に原料(反応ガス)を供給するように制御したりすることができる。本発明では、原料が接触可能な下地基板表面積の1%以上を特定の1つの面が占めることが好ましく、40%以上を特定の1つの面が占めることがより好ましく、70%以上を特定の1つの面が占めることが好ましい。
【0019】
(硫黄原子を含む原料)
本発明の窒化物半導体結晶の成長方法では、下地基板上に窒化物半導体結晶を+c軸方向以外の方向へ成長させる際に硫黄原子を含む原料を供給する。
硫黄原子を含む原料は、窒化物半導体の結晶成長の際にSを結晶内に取り込ませることができる原料の中から選択する。例えば、硫化水素(H2S)、メチルメルカプタン(CH3SH)、ジメチルサルファイド((CH32S)を挙げることができ、好ましくは硫化水素(H2S)である。硫黄原子を含む原料は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上を組み合わせて用いる場合は、2種類以上の原料を同時に供給してもよいし、2種類以上の原料を1つずつ順に供給してもよい。
【0020】
硫黄原子を含む原料は、窒化物半導体を結晶成長させるリアクター内に単独で供給してもよいが、通常は不活性ガスと混合して供給する。ここで用いる不活性ガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、Heガス、Neガス、Arガスを挙げることができる。不活性ガスと混合して供給する場合、混合ガス中における硫黄原子を含む原料の濃度は、0.0001〜1質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましく、0.1〜1質量%であることがさらに好ましい。また、硫黄原子を含む原料をリアクター内に供給することによって、窒化物半導体の結晶成長時における硫黄原子を含む原料の分圧は、100〜10000Paとすることが好ましく、100〜1000Paとすることがより好ましく、100〜500Paとすることがさらに好ましい。硫黄原子を含む原料の分圧を制御することによって、結晶成長により得られる窒化物半導体のキャリア濃度を調整することができる。
【0021】
(下地基板)
本発明に用いる下地基板には、結晶成長層との間の格子定数の違いや熱膨張係数差に起因する欠陥や応力を低減する観点から、結晶成長層に近い格子定数を有しており、熱膨張係数差が小さいものを選択することが好ましい。例えば、本発明に用いる下地基板として、GaN、サファイア、Si、ZnO、SiC、スピネルなどの下地基板として一般に用いられているものや、特開2006−237541号公報,特開2006−261649号公報、特開2006−298744号公報に記載されるものを用いることが可能である。本発明に用いる下地基板は、窒化物半導体であることが好ましく、気相成長層と同じ元素組成を有する窒化物半導体であることがより好ましい。さらに好ましいのは、下地基板と結晶成長層がともに窒化ガリウムを主成分とする態様であり、特に好ましいのは、下地基板と結晶成長層がともに窒化ガリウムである態様である。
【0022】
本発明に用いる下地基板の製造方法は特に制限されない。通常用いられる結晶成長法により結晶を成長させた後に必要に応じて面を研削等することにより下地基板を製造することができる。このとき用いることができる結晶成長法として、HVPE法、MOCVD法、MBE法、昇華法、PLD法を挙げることができる。好ましいのはHVPE法、MOCVD法であり、最も好ましいのはHVPE法である。HVPE法の詳細については、下地基板を用いて結晶成長させる際に用いる結晶成長法の説明(後述)を参照することができる。本発明の製造方法では、下地基板の結晶成長に用いる結晶成長法と、下地基板を用いて結晶成長させる際に用いる結晶成長法が同じであることが好ましい。
【0023】
得られた結晶は、必要に応じて研削、スライス、へき開等を行って下地基板としてもよい。研削は、砥石盤、研削盤等を用いて行うことができるが、中でも砥石盤を用いて研削することが好ましい。本発明で用いる下地基板は、直径が5〜80mmであって、厚さが1〜20mmであることが好ましい。
【0024】
(結晶成長工程)
次に、下地基板を用いて窒化物半導体結晶を成長させる工程について説明する。
【0025】
ここで用いることができる結晶成長法として、HVPE法、MOCVD法、MBE法、昇華法等を挙げることができる。好ましいのはHVPE法、MOCVD法であり、最も好ましいのはHVPE法である。
【0026】
結晶成長に用いる装置の詳細は特に制限されない。例えば、図1に示すようなHVPE装置を用いることができる。図1のHVPE装置は、リアクター100内に、下地基板109を載置するためのサセプター107と、成長させる窒化物半導体の原料を入れるリザーバー110とを備えている。また、リアクター100内にガスを導入するための導入管101〜105と、排気するための排気管108が設置されている。さらに、リアクター100を側面から加熱するためのヒーター106が設置されている。
【0027】
リアクター100の材質としては、石英、多結晶BN、ステンレス等が用いられる。好ましい材質は石英である。リアクター100内には、反応開始前にあらかじめ雰囲気ガスを充填しておく。雰囲気ガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0028】
サセプター107の材質としてはカーボンが好ましく、SiCで表面をコーティングしているものがより好ましい。サセプター107の形状は、本発明で用いる下地基板109を設置することができる形状であれば特に制限されないが、結晶成長する際に成長している結晶の上流側に構造物が存在しないものであることが好ましい。上流側に結晶が成長する可能性のある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、その生成物としてHClガスが発生して結晶成長させようとしている結晶に悪影響が及んでしまう。サセプター107の下地基板載置面の大きさは、載置する下地基板109よりも小さいことが好ましい。すなわち、ガス上流側から見たときに、下地基板109の大きさでサセプター107が隠れるくらいの大きさであることがさらに好ましい。ただし、下地基板109の底面(サセプター107と接する面)が窒化物半導体が+c軸方向に成長する面である場合は、下地基板109の底面全体がサセプター107の下地基板載置面に接するようにすることが好ましく、下地基板109の底面形状がサセプター107の下地基板載置面の形状と一致していて底面も下地基板載置面も反応ガスに接しないようにすることがより好ましい。
【0029】
下地基板109をサセプター107に載置するとき、結晶成長させる下地基板109の面(以下、結晶成長面という)はガス流れの上流側(図1ではリアクターの上方)を向くように載置することが好ましい。すなわち、ガスが結晶成長面に向かって流れるように載置することが好ましく、ガスが結晶成長面に垂直な方向から流れるようにすることがより好ましい。
【0030】
リザーバー110には、成長させる窒化物半導体の原料を入れる。例えば、III−V族の窒化物半導体結晶を成長させる場合は、III族源となる原料を入れる。そのようなIII族源となる原料として、Ga、Al、Inなどを挙げることができる。
【0031】
リザーバー110にガスを導入するための導入管103からは、リザーバー110に入れた原料と反応するガスを供給する。例えば、リザーバー110にIII族源となる原料を入れた場合は、導入管103からHClガスを供給することができる。このとき、HClガスとともに、導入管103からキャリアガスを供給してもよい。キャリアガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。キャリアガスは雰囲気ガスと同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0032】
導入管101からは、キャリアガスを供給する。また、導入管102からは、硫黄原子を含む原料を供給する。硫黄原子を含む原料は、上記のようにキャリアガスと混合して混合ガスとして供給してもよい。導入管101および102から供給するキャリアガスとしては、導入管103から供給するキャリアガスと同じものを例示することができる。例えば、導入管101からN2ガスを供給し、導入管102からH2ガスを供給することができる。導入管101または102から供給するキャリアガスと導入管103から供給するキャリアガスは同じものであることが好ましい。
導入管104からは、窒素源となる原料ガスを供給する。通常はNH3ガスを供給する。
【0033】
導入管105からは、エッチングガスを供給することができる。エッチングガスとしては、塩素系のガスを挙げることができ、HClガスを用いることが好ましい。エッチングガスの供給は、断続的(パルス的)に行うことが好ましい。ここでいう断続的とは、エッチングガスを供給するステップ(供給ステップ)とエッチングガスを供給しないステップ(非供給ステップ)が交互に繰り返されることをいう。エッチングガスの供給を断続的に行うことによって、N原子の空孔が形成されやすくなり、S原子が取り込まれやすくなる。このため、高濃度でSドープした窒化物半導体結晶をより容易に製造することができる。また、結晶性がより良好な窒化物半導体結晶を製造することができる。
【0034】
供給ステップにおけるエッチングガスの流量は、総流量に対して0.1%〜3%程度とすることが好ましく、0.5〜1.5%がより好ましい。ガスの流量はマスフローコントロラー(MFC)等で制御することができ、個別のガスの流量は常にMFCで監視することが好ましい。供給ステップにかける時間と非供給ステップにかける時間の比は特に制限されないが、窒化物半導体の結晶成長を行う総時間の10〜80%を供給ステップとすることが好ましく、10〜60%を供給ステップとすることがより好ましく、10〜50%を供給ステップとすることがさらに好ましい。また、1回の供給ステップと1回の非供給ステップからなる1サイクルの長さは、通常は0.1〜10分であり、0.1〜5分が好ましく、1〜3分がより好ましい。1サイクルの長さは、徐々に短くしたり長くしたりしてもよく、まったく変えなくてもよい。好ましいのは、1サイクルの長さを常に一定とする態様である。
【0035】
導入管101〜105から供給する上記ガスは、それぞれ互いに入れ替えて別の導入管から供給しても構わない。また、V族源となる原料ガスとキャリアガスは、同じ導入管から混合して供給してもよい。さらに他の導入管からキャリアガスを混合してもよい。これらの供給態様は、リアクター100の大きさや形状、原料の反応性、目的とする結晶成長速度などに応じて、適宜決定することができる。
【0036】
ガス排出管108は、ガス導入のための導入管101〜105とは反対側のリアクター内壁から排出することができるように設置するのが一般的である。図1では、ガス導入のための導入管101〜105が設置されているリアクター上面とは反対に位置するリアクター底面にガス排出管108が設置されている。ガス導入のための導入管がリアクター右側面に設置されている場合は、ガス排出管はリアクター左側面に設置されていることが好ましい。このような態様を採用することによって、一定方向に向けて安定にガスの流れを形成することができる。
【0037】
HVPE法による結晶成長は、通常は900℃〜1070℃で行い、925℃〜1050℃で行うことが好ましく、950℃〜1030℃で行うことがより好ましく、975℃から1000℃で行うことがさらに好ましい。リアクター内の圧力は10kPa〜200kPaであるのが好ましく、30kPa〜150kPaであるのがより好ましく、50kPa〜120kPaであるのがさらに好ましい。
【0038】
結晶成長を行った後に得られる窒化物半導体結晶に対して、還元雰囲気で熱処理を行うことが好ましい。熱処理は、窒化物半導体結晶を通常600〜1070℃、好ましくは700〜1000℃、より好ましくは750〜950℃の環境下におくことにより行う。熱処理の時間は温度にもよるが、通常1〜30分、好ましくは1〜10分、より好ましくは1〜5分である。熱処理は還元雰囲気で行う必要があるが、ここでいう還元雰囲気とは水素などの還元性ガスの分圧が50%以上である雰囲気をいう。例えば、アニール炉内のH2雰囲気などを挙げることができる。結晶成長後に還元雰囲気で熱処理を行うことによって熱伝導率が高くなる。そして、高濃度でSドープした窒化物半導体をより容易に製造することができるようになる。
【0039】
また、結晶成長を行った後に得られる窒化物半導体結晶は、結晶面の境界に多結晶体を有することがある。ここでいう多結晶体とは、六方晶系の結晶格子を形成することができず、しかるべき位置に原子がいない状態の結晶を意味する。すなわち結晶方位が無秩序な微小な結晶の集合体をいい、非常に小さな単結晶粒の集まりを意味する。このような多結晶体を有する場合は、多結晶体を除去する工程を行った後に、さらに多結晶体を除去した結晶の表面に窒化物半導体結晶を成長する工程を行う。そのようにして得られた窒化物半導体結晶が、なお結晶面の境界に多結晶体を有するときは、再び多結晶体を除去する工程を行い、さらに表面に窒化物半導体結晶を成長する工程を行う。このような操作を繰り返すことによって、多結晶体を有さない窒化物半導体結晶を得ることができる。
【0040】
本発明の製造方法によって得られる窒化物半導体の結晶系は、六方晶系であることが好ましい。また、得られる窒化物半導体結晶は、単結晶であることが好ましい。下地基板の上に成長させる窒化物半導体結晶の厚さは2mm〜10cmが好ましい。結晶成長後に研削、研磨、レーザ照射等を行う場合は、ある程度の大きさの結晶が必要になるため、下地基板の上に成長させる窒化物半導体結晶の厚さは5mm〜10cmが好ましく、1cm〜10cmがより好ましい。
【0041】
(窒化物半導体結晶)
本発明の成長方法によって得られた窒化物半導体結晶は、そのまま用いてもよいし、研削やスライス加工などの処理を行ってから用いてもよい。ここでスライス加工とは、(1)成長した結晶を下地基板として使用できるように結晶成長面表面の品質を均一にする加工や、(2)成長初期部分には内在する転位から発生するストレスがあることを考慮してその部分を切り捨てるために行う加工をいう。スライス加工は、具体的には内周刃スライサー、ワイヤーソースライサー等を用いて行うことができる。本発明では、スライス加工を行うことによって、形状がほぼ同じで、転位密度がより低く、かつ、表面欠陥が少ない結晶を製造することが好ましい。
【0042】
本発明の成長方法を用いることによって、S濃度が1×1018〜1×1020cm-3であり、かつ対称反射のX線ロッキングカーブの半値全幅が100秒以下である窒化物半導体結晶を提供することができる。特に、そのような特徴を有する窒化物半導体結晶のみからなる材料(すなわち、他材料の基板部分を持たない材料)を提供することができる。S濃度は、例えば2×1018〜5×1019cm-3にすることができ、また3×1018〜1×1019cm-3にすることができる。対称反射のX線ロッキングカーブの半値全幅は、100秒以下であることがより好ましく、92秒以下であることがより好ましく、82秒以下であることがさらに好ましく、50秒以下であることが特に好ましい。
【0043】
本発明の窒化物半導体結晶は、III族元素を含む窒化物半導体であることが好ましく、ガリウム含有窒化物半導体結晶であることがより好ましく、窒化ガリウム半導体結晶であることがさらに好ましい。窒化ガリウム半導体結晶は、窒化ガリウム単結晶基板として有用である。本発明の成長方法を用いれば、O濃度が好ましくは1×1017cm-3以下、より好ましくは8×1016cm-3以下、さらに好ましくは6×1016cm-3以下、特に好ましくは2×1016cm-3以下であるSドープ窒化ガリウム単結晶基板を提供することができる。また、Si濃度が好ましくは1×1017cm-3以下、より好ましくは8×1016cm-3以下、さらに好ましくは7×1016cm-3以下であるSドープ窒化ガリウム単結晶基板を提供することもできる。
【0044】
本発明の成長方法により得られた窒化物半導体結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。また、本発明の製造方法により製造した窒化物半導体結晶を下地基板として用いて、さらに大きな窒化物半導体結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0046】
<測定法>
まず、本実施例および比較例において製造したGaN単結晶基板に対する試験方法を以下に記載する。
【0047】
(1)キャリア濃度の測定
GaN単結晶基板中のキャリア濃度は、Hall測定のvan der Pauw法によって決定した。5mm×5mmの正方形の試料を用意し、Ti/Al電極を正方形の頂点に近い表面上に形成し、測定を行った。
【0048】
(2)結晶中の不純物濃度の測定
GaN単結晶基板中の不純物濃度は、SIMS(Secondary Ion-Mass Spectrography)によって測定した。ここでは、一次イオンにCsを用い、加速電圧を14.5keVとした。元素の定量は、基本的に既知の標準試料の分析から決定した相対感度係数(RSF)に基づき計算した。
【0049】
(3)X線ロッキングカーブの半値全幅の測定
GaN単結晶基板の結晶性は、X線ロッキングカーブの半値全幅(FWHM)の値で評価した。X線ロッキングカーブのFWHMはX線回折分析によって決定することができる。X線ロッキングカーブ測定は、線源に4結晶モノクロによるCuKα1線を用いたX線回折装置を用い、まず2θ−ωスキャンによって求めたGaN単結晶基板の(0002)面回折ピーク位置に2θ角度を固定し、ωスキャンによってX線ロッキングカーブを求め、半値全幅を得た。受光光学系には0.5°スリット使用した。
【0050】
(4)熱伝導率の測定
本発明により得られたGaN単結晶基板の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法にしたがって評価した。熱伝導率を直接求めるためには大きな試料を準備して長時間をかけて計測を行う必要があるが、レーザーフラッシュ法によれば、熱拡散率αをレーザーフラッシュ法により計測し、他の方法により求めた密度ρ及び比熱容量Cpから(1)式にしたがって熱伝導率λを算出することができる。
【数1】

レーザーフラッシュ法は、図3に示すように、直径10mm、厚さ1〜5mm程度の円板状試料Sの表面をパルス幅が数百μsのレーザー光により均一に加熱した後の試料Sの裏面温度変化から熱拡散率を算出する測定法である。レーザー光はパルスレーザ301から照射し、検出器302で検出した。断熱条件を仮定した理論解によれば、パルス加熱後の試料Sの裏面温度は図4のように上昇し、試料S内の温度分布が均一化されるのに伴って一定値に収束する。レーザーフラッシュ法は、小さい試料を短時間に測定することができ、解析法が簡明であり、室温から200℃以上の高温に至るまでの計測が可能であるため、熱拡散率の標準的かつ実用的計測法として広く用いられる。
ここで、(1)式の適用において、GaNの密度を6.15(g/cm3)、比熱を40.8(J/mol・K)とした(Barin, I., O. Knaeke, and O. Kubasehewski, Thermochemical Properties of Inorganic Substrates, Springer-Verlag, Berlin, 1977)。
熱拡散率の計測値は、標準試料を使って更正されうる。ここでは、財団法人ファインセラミックセンターから入手可能な多結晶アルミナ(直径10mm、厚さ1mm)を標準試料とした。
試料Sの裏面温度の変化から熱拡散率αを算出するアルゴリズムとしては、t1/2法を使用した。t1/2法では、図4に示すように、試料S裏面の過渡温度上昇の半分まで到達するのに要する時間から(2)式にしたがって熱拡散率αを算出した。ここで、dは試料Sの厚さである。
【数2】

【0051】
<実施例1>
MOCVD法により、表面を窒化したサファイア基板上に、直径2インチ、膜厚3μmのノンドープ−c面GaNテンプレートを成長させた。次いで、基板を図1に示すHVPE装置のリアクター100内に配置して、リアクター内の温度を1040℃まで上げ、SドープGaN単結晶膜を成長させた。この単結晶成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガスG3の分圧を2.69×102Paとし、NH3ガスG4の分圧を6.73×103Pa、0.5質量%のH2Sを含有するH2SおよびH2の混合ガスG2の分圧を3.59×102Paとした。
単結晶成長工程が終了後、室温まで降温し、下地基板上にMOCVD成長GaN膜を介して厚さが約300μmのSドープGaN単結晶膜を得た(図2(a))。サファイア基板を除去し自立基板を得た。自立基板の裏面(Ga面)側から研磨し、ノンドープ領域を除去した。
得られたSドープGaN自立基板について、Hall効果測定を行ったところ、電子キャリア濃度は3×1018cm-3であった。また、(0002)面X線ロッキングカーブの半値全幅は、93秒であった。さらに、SIMS測定を行ったところ、S濃度は5×1018cm-3、O濃度は8×1016cm-3、Si濃度は8×1016cm-3であった。
【0052】
<実施例2>
単結晶成長中に、高純度のHClガスを断続的に基板表面に供給した点を除いて、実施例1と同じ方法により単結晶を製造した。HClガスは、他のガスや固体等と混合・反応させずに、HClガス単体で断続的に基板表面に供給した。ここでいう「断続的に」とは、1分間の供給と1分間の供給停止を交互に繰り返したことを意味する。供給時のHClガスG5の分圧は3.12×102Paとした。
得られたSドープGaN自立基板について、Hall効果測定を行ったところ、電子キャリア濃度は1×1019cm-3であった。また、(0002)面X線ロッキングカーブの半値全幅は、81秒であった。さらに、SIMS測定を行ったところ、S濃度は2×1019cm-3、O濃度は8×1016cm-3、Si濃度は8×1016cm-3であった。
【0053】
<実施例3>
ノンドープ領域を除去した後に、さらにSドープGaN自立基板を、アニール炉内に配置して、H2ガス圧力1.01×105Pa、基板温度850℃で、1分間熱処理を行った点を除いて、実施例1と同じ方法により単結晶を製造した。
得られたSドープGaN自立基板について、Hall効果測定を行ったところ、電子キャリア濃度は5×1018cm-3であった。また、熱処理前の単結晶の熱伝導率は239W/mkであり、熱処理後の単結晶の熱伝導率は294W/mkであった。また、(0002)面X線ロッキングカーブの半値全幅は、93秒であった。さらに、SIMS測定を行ったところ、S濃度は5×1018cm-3、O濃度は8×1018cm-3、Si濃度は8×1018cm-3であった。
【0054】
<実施例4>
ノンドープm面自立GaN基板を準備した。この基板を図1に示すHVPE装置のリアクター100内に配置して、リアクター内の温度を1050℃まで上げ、SドープGaN単結晶膜を成長させた。この単結晶成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガスG3の分圧を1.27×102Paとし、NH3ガスG4の分圧を9.34×103Paとし、0.5質量%のH2Sを含有するH2SおよびH2の混合ガスG2の分圧を4.25×102Paとした。さらに成長中には、高純度のHClガスを、他のガスや固体等と混合・反応させずに(即ち、HClガス単体で)断続的に基板表面に供給した。ここでいう「断続的に」とは、1分間の供給と1分間の供給停止を交互に繰り返したことを意味する。供給時のHClガスG5の分圧は2.12×102Paとした。
単結晶成長工程が終了後、室温まで降温し、下地とした自立基板上に厚さが約300μmのSドープGaN単結晶膜を得た(図2(b))。自立基板の裏面(ノンドープ)側から研磨し、ノンドープ領域を除去した。その後、SドープGaN自立基板を、アニール炉内に配置して、H2ガス圧力1.01×105Pa、基板温度850℃で、1分間熱処理を行った。
得られたSドープGaN自立基板について、Hall効果測定を行ったところ、電子キャリア密度は3×1018cm-3であった。また、(1−100)面X線ロッキングカーブの半値全幅は75秒であった。さらに、SIMS測定を行ったところ、S濃度は3×1018cm-3、O濃度は2×1016cm-3、Si濃度は7×1016cm-3であった。
【0055】
<実施例5>
半極性(10−1−3)面自立GaN基板を準備した。この基板を図1に示すHVPE装置のリアクター100内に配置して、リアクター内の温度を1040℃まで上げ、SドープGaN単結晶膜を成長させた。この単結晶成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガスG3の分圧を2.69×102Paとし、NH3ガスG4の分圧を6.73×103Paとし、0.5質量%のH2Sを含有するH2SおよびH2の混合ガスG2の分圧を3.59×102Paとした。さらに成長中には、高純度のHClガスを、他のガスや固体等と混合・反応させずに(即ち、HClガス単体で)断続的に基板表面に供給した。ここでいう「断続的に」とは、1分間の供給と1分間の供給停止を交互に繰り返したことを意味する。供給時のHClガスG5の分圧は3.12×102Paとした。
単結晶成長工程が終了後、室温まで降温し、下地とした自立基板上に厚さが約300μmのSドープGaN単結晶膜を得た(図2(b))。自立基板の裏面(ノンドープ)側から研磨し、ノンドープ領域を除去した。その後、SドープGaN自立基板を、アニール炉内に配置して、H2ガス圧力1.01×105Pa、基板温度850℃で、1分間熱処理を行った。
得られたSドープGaN自立基板について、Hall効果測定を行ったところ、電子キャリア密度は5×1018cm-3であった。また、(10−13)面X線ロッキングカーブの半値全幅は100秒以下であった。さらに、SIMS測定を行ったところ、S濃度は5×1018cm-3、O濃度は6×1016cm-3、Si濃度は8×1016cm-3であった。
【0056】
<比較例1>
MOCVD法により、サファイア基板上に成長した、膜厚3μmのノンドープ+c面GaNテンプレートを準備した。これを用いて実施例1と同じ方法により、厚さが約300ミクロンのSドープGaN単結晶膜を製造した。
得られたSドープGaN自立基板について、Hall効果測定を行ったところ、電子キャリア濃度は1×1017cm-3であった。また、(0002)面X線ロッキングカーブの半値全幅は、54秒であった。さらに、SIMS測定を行ったところ、S濃度は1×1018cm-3、O濃度は8×1016cm-3、Si濃度は9×1016cm-3であった。
【0057】
<比較例2>
MOCVD法により、表面を窒化したサファイア基板上に、直径2インチ、膜厚3μmのノンドープ−c面GaNテンプレートを成長させた。次いで、基板を図1に示すHVPE装置のリアクター100内に配置して、リアクター内の温度を1040℃まで上げ、SiドープGaN単結晶膜を成長させた。この単結晶成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガスG3の分圧を2.69×102Paとし、NH3ガスG4の分圧を6.73×103Paとし、0.5質量%のSiH4を含有するSiH4およびH2の混合ガスG2の分圧を3.59×102Paとした。
単結晶成長工程が終了後、室温まで降温し、下地基板上にMOCVD成長GaN膜を介して厚さが300μmのSiドープGaN単結晶を得た。サファイア基板を除去し自立基板を得た。自立基板の裏面(Ga面)側から研磨し、ノンドープ領域を除去した。得られたSiドープGaN自立基板について、Hall効果測定を行ったところ、電子キャリア濃度は3×1018cm-3であった。また、(0002)面X線ロッキングカーブの半値全幅は78秒であった。さらに、SIMS測定を行ったところ、S濃度は1×1016cm-3以下、Si濃度は2×1018cm-3、O濃度は1×1018cm-3であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の窒化物半導体結晶の成長方法によれば、高濃度でSドープを行っても結晶性が良好な窒化物半導体結晶を得ることができる。本発明の成長方法では、シランガス等の危険性が高いドーパントガスを用いる必要がなく、また、得られる結晶の面内のS濃度が均一で絶縁物のクラスター形成もない。さらに、本発明の窒化物半導体結晶は、結晶性が良好でn型キャリア濃度が高いため、窒化物半導体自立基板として有用であるとともに、半導体発光素子、半導体レーザー、電子デバイス等の半導体素子形成に効果的に用いられる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0059】
100 リアクター
101〜105 配管
106 ヒーター
107 サセプター
108 排気管
109 下地基板
110 リザーバー
G1 H2キャリアガス
G2 N2キャリアガス
G3 III族原料ガス
G4 窒素原料ガス
G5 HClガス
200 サファイア基板
201 下地基板(MOCVD成長のGaN膜)
202 SドープGaN単結晶膜
211 自立基板
212 SドープGaN単結晶膜
301 パルスレーザ
302 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄原子を含む原料を供給して、下地基板上に窒化物半導体結晶を+c軸方向以外の方向へ成長させる工程を含むことを特徴とする窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項2】
前記窒化物半導体結晶を−c軸方向へ成長させることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項3】
前記窒化物半導体結晶をm軸方向へ成長させることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項4】
前記窒化物半導体結晶を半極性面の法線方向へ成長させることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項5】
前記半極性面が(10−1−3)面であることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項6】
前記原料が、硫化水素、メチルメルカプタンおよびジメチルサルファイドからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項7】
HClガスを断続的に供給しながら前記窒化物半導体結晶を成長させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項8】
前記窒化物半導体結晶の成長後に還元雰囲気で熱処理を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項9】
前記窒化物半導体結晶をHVPE法で成長させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項10】
前記窒化物半導体結晶がガリウム含有窒化物半導体結晶であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項11】
前記窒化物半導体結晶が窒化ガリウム半導体結晶であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の成長方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の成長方法により得られた窒化物半導体結晶。
【請求項13】
S濃度が1×1018〜1×1020cm-3であり、かつ対称反射のX線ロッキングカーブの半値全幅が100秒以下である窒化物半導体結晶のみからなる材料。
【請求項14】
前記窒化物半導体結晶がガリウム含有窒化物半導体結晶であることを特徴とする請求項13に記載の材料。
【請求項15】
前記窒化物半導体結晶が窒化ガリウム半導体結晶であることを特徴とする請求項13に記載の材料。
【請求項16】
O濃度が1×1017cm-3以下であることを特徴とするSドープ窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項17】
Si濃度が1×1017cm-3以下であることを特徴とするSドープ窒化ガリウム単結晶基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49621(P2013−49621A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222738(P2012−222738)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【分割の表示】特願2008−178958(P2008−178958)の分割
【原出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】