説明

窒化物単結晶の製造方法

【課題】高品質な窒化物単結晶を生産することが可能な窒化物単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る窒化物単結晶の製造方法は、異種基板1を準備する工程と、上記異種基板1上に窒化物単結晶膜3を形成する工程とを備える。上記異種基板1が前記窒化物単結晶膜3の成膜温度範囲内で昇華する材料からなり、上記窒化物単結晶膜3を形成する工程では、上記異種基板1の昇華温度以下の温度から成膜を開始し、その後、上記異種基板1の昇華温度以上の温度に成膜温度を上げる。窒化物単結晶膜3はAlGa1−xNであり、異種基板1はSiCであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物単結晶の製造方法に関するものであり、より特定的には、高品質な窒化物単結晶を生産することが可能な窒化物単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、化合物半導体単結晶を利用して種々の電子デバイスが作製されている。化合物半導体単結晶のなかでも窒化物単結晶、たとえば六方晶系のAlGa1−xN(0.5≦x≦1)の単結晶は、種種の電子デバイスの作製に用いられる半導体材料である。
【0003】
上述した窒化物単結晶を形成する方法として、たとえば昇華法やPLD(Pulsed Laser Deposition)(パルス・レーザー堆積)法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)(ハイドライド気相成長)法などがよく用いられる。これらの方法を用いて窒化物単結晶を形成する場合においては、当該窒化物単結晶を成長するための基板が必要となる。たとえば六方晶系の窒化ガリウム(GaN)結晶を形成する場合に、基板としてGaNからなる基板を用いることが好ましい。しかしGaN結晶は高価で入手が困難である。このため、たとえば炭化珪素(SiC)からなる基板、ケイ素(Si)からなる基板、サファイア基板などGaNと化学組成の異なる異種基板上にGaN結晶を形成する。なお、ここで異種基板とは、当該基板上に形成しようとする薄膜などを構成する材質と異なる材質からなる基板のことをいう。
【0004】
しかし、異種基板上にGaN結晶などの窒化物単結晶を形成した場合には、最終的に当該異種基板と形成した窒化物単結晶とを分離する必要が生じる。このように基板と、当該基板上に形成した結晶(薄膜)とを分離する方法として、たとえば特開2005−159333号公報(特許文献1)に示す方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−159333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に開示される半導体装置の作製方法としては、たとえばガラス基板上にスパッタ法でタングステン薄膜などの金属膜を形成し、当該金属膜上に酸化シリコン膜を形成する。これらの膜は最終的に剥離することになるが、剥離処理を容易に行なうために、剥離しようとする領域の周縁に沿って外部から局所的に圧力を加える。たとえばスクライバ装置やレーザ光を用いて、金属膜と酸化物膜との界面領域に対して部分的に圧力を加えて損傷を与える。そして当該損傷を起点として、当該損傷に沿って、ガスの風圧、超音波などの物理的手段により、金属膜と酸化物膜とを分離する。このようにして剥離処理が行なわれる。
【0007】
しかしながら上述した方法においては、スクライバ装置やレーザ光を用いて形成した損傷を起点とした分離(剥離)を容易にするため、分離に先立って基板の一部を(基板の主表面に沿った方向に、部分的に)除去する処理が行なわれる。なお、ここで主表面とは、基板の表面のうち最も面積の大きい主要な面をいう。このように基板の一部を除去する処理を行なう必要があるため、上述した方法による剥離処理を行なうと、工程が煩雑になる。
【0008】
また、特に異種基板上に窒化物単結晶(窒化物単結晶膜)を形成すると、形成した窒化物単結晶膜にクラックが形成されることがある。また、形成した窒化物単結晶膜の主表面に湾曲(反り)が発生することがある。これは基板と形成される結晶との熱膨張係数の差や、両者を構成する結晶構造の格子定数の差が大きいためである。たとえばSiC(炭化珪素)基板上に窒化物単結晶としてAlN(窒化アルミニウム)の薄膜を形成すれば、SiCとAlNとの熱膨張係数の差が大きい。このため当該基板と、形成される当該薄膜との界面近傍において、大きな熱応力が発生する。この熱応力により、当該基板と当該薄膜との間に大きな歪みが発生し、当該薄膜にクラックや反りが形成されることになる。クラックなどの不具合が形成された窒化物単結晶は品質が低下しているため、製品として利用することができない。このため当該薄膜にクラックや反りが形成されることにより、窒化物単結晶の歩留まりが低下する。
【0009】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、高品質な窒化物単結晶を高い歩留まりで形成することが可能な、窒化物単結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る窒化物単結晶の製造方法は、異種基板を準備する工程と、異種基板上に窒化物単結晶膜を形成する工程とを備える。上記異種基板が上記窒化物単結晶膜の成膜温度範囲内で昇華する材料からなり、上記窒化物単結晶膜を形成する工程では、上記異種基板の昇華温度以下の温度から成膜を開始し、その後、異種基板の昇華温度以上の温度に成膜温度を上げる、窒化物単結晶の製造方法である。
【0011】
このようにすれば、窒化物単結晶膜を形成する過程において、窒化物単結晶膜を成長させながら、同時に下地基板として用いる異種基板を昇華により除去することができる。ここで、成膜温度を上昇する温度を調整すれば、当該異種基板を除去する速度を制御することができる。窒化物単結晶膜が形成される初期の段階においては、異種基板を下地基板(種基板)として窒化物単結晶膜が形成される。しかしある厚みや体積を有する窒化物単結晶膜が形成されたところで、昇華により下地基板が除去(消滅)された状態となるように成膜温度を調整する。このようにすれば、下地基板が消滅した時点以降においては、下地基板(異種基板)の材質に影響されず、既に形成された窒化物単結晶膜を下地として窒化物単結晶膜がさらに厚くなるよう(所望の厚みや体積となるように)成長される。したがって、最終的に形成される窒化物単結晶膜は、異種基板の影響を受けずに単独で成長したものとなる。つまり、形成される窒化物単結晶膜は、他の材質との熱応力を受けることが少なくなる。このため、形成される窒化物単結晶膜においては、クラックや反りなどの不具合の発生が抑制される。すなわち、上記製造方法を用いれば、高品質な窒化物単結晶膜を高い歩留まりで形成することができる。
【0012】
また上述した方法を用いれば、窒化物単結晶膜を形成しながら同時に異種基板を除去することができる。このため、窒化物単結晶膜を形成し終えた後に異種基板を窒化物単結晶膜から分離する処理を行なう必要がなくなる。したがって、上述した方法を用いることにより、窒化物単結晶を形成するために必要な工程を削減することができる。すなわち上述した方法を用いることにより、工程のタクトタイムを大幅に短縮し、コストを削減することができる。
【0013】
上述した窒化物単結晶の製造方法において、窒化物単結晶膜はAlGa1−xNであることが好ましい。ここでxの値は0.5以上1以下であることが好ましい。なかでも、窒化物単結晶膜は上述したxの値が1であるAlNであり、また、上述した異種基板はSiCであることが好ましい。
【0014】
SiCは2000℃以上に加熱されることにより昇華を始める。このため、形成しようとする窒化物単結晶との熱膨張係数の差が比較的小さく(すなわち窒化物単結晶を形成することが可能であり)、かつ当該窒化物単結晶を形成する成膜温度範囲内の温度で容易に昇華させることが可能な材質を下地基板(異種基板)として用いることが好ましい。また、当該異種基板としては比較的安価なものを用いることがさらに好ましい。以上の要件を備えるSiCからなる基板を異種基板として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高品質な窒化物単結晶を高い歩留まりで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法を構成する工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法を用いて、異種基板の一方の主表面上に窒化物単結晶を形成した態様を示す概略断面図である。
【図3】図1の工程(S20)の手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法を用いて窒化物単結晶を形成する炉の断面を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法は、異種基板を準備する工程(S10)と、窒化物単結晶膜を形成する工程(S20)とを備えている。これらの工程を踏むことにより、図2に示すように、異種基板1の一方の主表面(図2における上側の主表面)上に、窒化物単結晶膜3が配置された基板を形成することができる。窒化物単結晶膜3は、窒化物単結晶として、たとえば主表面に沿った方向に一定の厚みを持つように切り出すことにより、窒化物単結晶基板を形成することができる。以下、図1に示す各工程について説明する。
【0018】
異種基板を準備する工程(S10)は、窒化物単結晶膜を成長させる下地として用いる基板を準備する工程である。当該基板としては、形成しようとする窒化物単結晶とは異なる材質である異種基板1を用いる。これは、形成しようとする窒化物単結晶からなる基板は一般に高価であるためである。すなわち、当該異種基板1を用いることにより、窒化物単結晶の製造工程のコストを削減することができる。
【0019】
ただし、形成しようとする窒化物単結晶との性質が大きく異ならない材質からなる基板を当該異種基板1として用いることが好ましい。つまり、六方晶系の窒化物単結晶を形成するために用いる下地基板としては六方晶系の結晶を用いることが好ましい。
【0020】
また後述するように、本実施の形態では当該異種基板1は窒化物単結晶膜3を形成する過程において昇華により消滅させる。このため加熱により昇華する性質を有する材質を当該異種基板1として用いることが好ましい。ここで異種基板1は、当該窒化物単結晶膜を成膜することが可能な温度範囲内で昇華することが可能な材質であることが好ましい。これらの要件を満たす材質として、当該異種基板1はたとえばSiCの結晶からなる下地基板を用いることが好ましい。
【0021】
本実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法において、下地基板は自立結晶基板であっても、他の基板上に形成された結晶層であってもよい。自立結晶基板は、他の基板上に形成された結晶層に比べて、結晶性がよくまた反りが少ない。このため自立結晶基板を用いれば、結晶性の良好な窒化物単結晶膜3を成長することができる。ただし一般に自立結晶基板は高価である。しかしたとえばSiC基板は比較的廉価であり、大口径の基板の入手が比較的容易である。
【0022】
異種基板1が準備できたところで、窒化物単結晶膜を形成する工程(S20)を行なう。ここで異種基板1であるたとえばSiC基板の一方の主表面上に窒化物単結晶(窒化物単結晶膜3)を結晶成長させる。
【0023】
上述した工程(S20)において形成する窒化物単結晶膜3は、昇華法を用いて形成することが好ましい。窒化物単結晶膜3は一般的にAlGa1−xN(0.5≦x≦1)の化学式で表わされる材質から形成されることが好ましい。すなわち、たとえばxが0.5であるAl0.5Ga0.5Nや、xが1であるAlNを形成することが好ましい。なお、上記化学式中のxが0.5≦x≦1であることが好ましいのは、たとえばxが0であるGaNは、昇華法を用いて成膜することができる温度と、SiCが昇華する温度との温度差が非常に大きく、GaNを成膜する過程でSiCからなる異種基板1を昇華することが困難であるという理由による。また、x=1であるAlNは、異種基板1を構成するSiC上に形成することが比較的容易である。したがって、AlGa1−xN(0.5≦x≦1)のなかでもx=1であるAlNを窒化物単結晶膜3として形成することが特に好ましい。
【0024】
本実施の形態における窒化物単結晶膜3の成膜は、図3のフローチャートに示す手順により行なう。まず成膜開始前の昇温(S21)により、異種基板1と窒化物単結晶膜を形成する原料(窒化物単結晶原料)とを昇温する。工程(S21)においては、当該窒化物単結晶原料が昇華を始める温度に達するまで昇温する。
【0025】
当該窒化物単結晶原料が昇華を始める温度に達したところで、昇温しながら成膜開始(S22)を行なう。窒化物単結晶原料が昇華を始めれば、気化した窒化物単結晶原料が異種基板1の主表面上において冷却により再び固化することにより、異種基板1の主表面上に窒化物単結晶膜3をすることができる。工程(S22)はこのようにして成膜を開始する工程である。ただし工程(S22)においては、成膜中の温度を一定にするのではなく、異種基板1をさらに加熱するため、温度をさらに上昇させる。これが成膜開始後の昇温(S23)である。成膜開始後も昇温を続けることにより、異種基板1を昇華させ、異種基板1を徐々に除去する。このようにすれば、形成される窒化物単結晶膜3の結晶構造などが、異種基板1の結晶構造などの影響を受けることを抑制することができる。そして異種基板1が除去できたところで、成膜のみ(S24)の工程において、窒化物単結晶原料の残留分を昇華させ、既に形成された窒化物単結晶膜3の一方の主表面上に形成させる。
【0026】
以上の工程(窒化物単結晶膜を形成する工程(S20)を構成する、図3の工程(S21)から工程(S24))は、図4に示す昇華炉20を用いて、昇華法により形成することが好ましい。本実施形態における昇華法とは、図4を参照して、形成しようとする窒化物単結晶であるAlN粉末などのAlN原料(窒化物単結晶原料5)を昇華させた後、再度固化させて窒化物単結晶膜3であるAlN結晶を得る方法をいう。昇華法による結晶成長においては、たとえば、図4に示すような高周波加熱方式の縦型の昇華炉20を用いる。この縦型の昇華炉20における反応容器21の中央部には、排気口23cを有する窒化ケイ素(BN)製の坩堝23が設けられ、坩堝23の周りに坩堝23の内部から外部への通気を確保するように加熱体25が設けられている。また、反応容器21の外側中央部には、加熱体25を加熱するための高周波加熱コイル27が設けられている。さらに、反応容器21の端部には、反応容器21の坩堝23の外部にN2ガスを流すためのN2ガス導入口21aおよびN2ガス導入口21cと、坩堝23の下面および上面の温度を測定するための放射温度計29が設けられている。
【0027】
図4を参照して、上記縦型の昇華炉20を用いて、たとえば、以下のようにして本実施形態で用いられる窒化物単結晶膜3を形成することができる。窒化物単結晶膜3がAlN結晶である場合、坩堝23の上部にAlN粉末などの窒化物単結晶原料5をセットし、反応容器21内にN2ガスを流しながら、高周波加熱コイル27を用いて加熱体25を加熱する。このようにして坩堝23内の温度を上昇させて、坩堝23のAlN原料側の温度を、それ以外の部分の温度よりも高く保持することによって、AlNを昇華させる。このようにすれば、坩堝23の下部でAlNが冷却することにより再度固化するため、AlN結晶を窒化物単結晶膜3として形成することができる。ここで、坩堝23の下部にAlN結晶を形成するための異種基板1(たとえば、SiC基板)を配置する。異種基板1の上側の主表面上に、昇華により気化したAlNが冷却することにより固化したAlN結晶がAlN結晶(窒化物単結晶膜3)として形成される。このようにして、異種基板1上にAlN結晶を形成することができる。このように本製造方法においては、異種基板1の上側の主表面上に窒化物単結晶膜3を形成する、いわゆるフェイスアップ方式を用いることが好ましい。
【0028】
ここで、AlN結晶の成長中は、坩堝23の窒化物単結晶原料5側(AlN原料側)の温度は1800℃〜2200℃程度とし、坩堝23の下部の異種基板1の温度をAlN原料側の温度より1℃〜100℃程度低くする。このようにすれば、形成しようとする窒化物単結晶膜3と異種基板1であるSiC基板上の成長であっても、他の成長方法では得られない結晶性のよいAlN結晶が得られる。
【0029】
さらに具体的には、上述した図3の成膜開始前の昇温(S21)において、昇温しながら成膜開始(S22)することが可能な、たとえば1800℃〜2000℃程度にまで昇温する。そして、窒化物単結晶原料5の昇華が始まり成膜が始まったところで(S22)、成膜開始後の昇温(S23)において異種基板1を昇華するためにさらに2300℃〜2500℃程度にまで昇温する。異種基板1が昇華により除去できたところで、当該温度を維持し成膜のみ(S24)を行なうことが好ましい。
【0030】
なお、窒化物単結晶膜3の成膜を行なう速度は、坩堝23の内部の加熱温度により異なる。加熱温度を高くしたり、昇温速度を速くすれば、窒化物単結晶膜3の成膜速度は速くなり、異種基板1が昇華される速度も速くなる。また、加熱温度を高くしたり、昇温速度を速くすれば、窒化物単結晶膜3が形成された後に、異種基板1が昇華されずに残存する領域(面積)をより少なくすることもできる。
【0031】
また、結晶成長中も反応容器21内の坩堝23の外側にN2ガスを、ガス分圧が101.3hPa〜1013hPa程度になるように流し続けることにより、AlN結晶への不純物の混入を低減することができる。
【0032】
なお、坩堝23内部の昇温中は、坩堝23のAlN原料側の温度よりもそれ以外の部分の温度を高くすることが好ましい。このようにすれば、坩堝23内部の不純物を排気口23cを通じて除去することができ、AlN結晶への不純物の混入を低減することができる。
【0033】
上記昇華法によって、転位密度が1×106cm-2以下である結晶性のよいAlN結晶が得られる。なお、昇華法の条件を最適化することによって、AlN結晶の転位密度を1×103cm-2〜1×105cm-2程度まで低減することが可能である。
【0034】
以上の方法によって形成される、図2に示す窒化物単結晶膜3は、成膜が始まる段階においては異種基板1を種基板として形成され始めるが、成膜が進む過程において異種基板1が昇華により徐々に除去され、やがて消滅する。異種基板1が消滅した後においては、窒化物単結晶膜3は既に形成された窒化物単結晶膜3を種基板として、つまり異種基板1の影響を受けずに成長する。したがって、当該方法において形成される窒化物単結晶膜3は、終始異種基板1の一方の主表面上に成長した窒化物単結晶膜に比べて、異種基板1を構成する結晶との格子定数や熱膨張係数の差による影響を受けずに成長する。このため、当該方法において形成される窒化物単結晶膜3は、たとえば異種基板1を構成する結晶との格子定数の差が大きいことに起因する結晶構造の格子不整合が抑制される。また、当該方法において形成される窒化物単結晶膜3は、たとえば異種基板1を構成する結晶との熱膨張係数の差が大きいことにより大きな熱応力が印加される可能性を低減することができる。したがって形成される窒化物単結晶膜3に、熱応力に起因するクラックや反りが発生する可能性を低減することができる。クラックなどの不具合が発生しないため、上記の製造方法を用いて形成した窒化物単結晶膜3の品質や歩留まりを向上することができる。
【0035】
また、図2に示す形成した窒化物単結晶膜3は、最終的な製品として供給する際には異種基板1から分離することが好ましい。しかし上記の製造方法においては、窒化物単結晶膜3を形成しながら同時に異種基板1を昇華させることにより除去する。このため窒化物単結晶膜3を形成した後に、別の工程において異種基板1を除去する処理を行なう必要がない。したがって、上記の製造方法を用いれば、工程のタクトタイムを大幅に削減することができる。このため、当該窒化物単結晶膜3の製造コストを削減することができる。
【実施例1】
【0036】
上述した本実施の形態に係る製造方法(昇華法)により、窒化物単結晶膜3を形成した。実施例1において具体的には、図1の異種基板を準備する工程(S10)において、(0001)面からのオフ角が5°以下である面を主表面に有する4H−SiC基板を異種基板1として合計12枚準備した。なお、上記異種基板1の主表面は、直径が2インチの円形をなす。図1の窒化物単結晶膜を形成する工程(S20)においては、図4に示す昇華炉20を用いて、窒化物単結晶膜3としてAlN結晶を形成した。ここで、工程(S10)において合計12枚準備した異種基板1を、従来から行なわれている温度条件にて加熱することにより窒化物単結晶膜3を形成するサンプルと、本実施の形態に係る、図3のフローチャートに示す手順で昇温することにより加熱するサンプルとに分けて処理を行なった。
【0037】
具体的には、異種基板1を以下に述べる4種類の加熱条件により成膜されるサンプルに分けて成膜を行なった。まず、窒化物単結晶膜3を形成する間は成膜温度を2000℃に固定し、10時間加熱したサンプル1である。なお、ここでいう成膜温度(2000℃)とは、AlNの窒化物単結晶原料5を加熱する温度であり、成膜がなされる異種基板1上の温度は当該成膜温度よりも1〜100℃低い。
【0038】
その他準備したサンプルは以下のとおりである。窒化物単結晶膜3を形成する際、最初は2000℃まで昇温し、AlNの窒化物単結晶原料5が昇華を始めた後、1時間降温することにより成膜温度を1900℃に下げ、その後1900℃で20時間加熱することにより成膜したサンプル2である。また、窒化物単結晶膜3を形成する際、1時間当たり100℃ずつ昇温することにより成膜温度を2100℃にまで上げ、その後2100℃で5時間加熱することにより成膜したサンプル3である。さらに窒化物単結晶膜3を形成する際、1時間当たり100℃ずつ昇温することにより成膜温度を2300℃にまで上げ、その後2300℃で3時間加熱することにより成膜したサンプル4である。
【0039】
すなわち上述したサンプル3およびサンプル4については、本実施の形態の製造方法に従った加熱方法により成膜を行なった。具体的には、まず成膜開始前の昇温(S21)として、AlNの窒化物単結晶原料5が昇華を始める温度(2000℃前後)にまで昇温する。そして窒化物単結晶原料5の昇華が始まった時点を昇温しながら成膜開始(S22)としてそのまま昇温を続ける。すなわち成膜開始後の昇温(S23)により、サンプル3は2300℃まで、サンプル4は2100℃までそれぞれ昇温する。この成膜開始後の昇温(S23)を行なう過程において、異種基板1が昇華する温度に達し、昇華により徐々に除去される。異種基板1がすべて昇華により除去された時点で、AlNの昇華が完了しておらず、成膜が完了していなければ、成膜のみ(S24)において成膜が完了するまで処理が続く。したがって異種基板1がすべて昇華により除去される前に、AlNの昇華が完了すれば、異種基板1はその一部(または全部)が残存することになる。
【0040】
以上の手順により、サンプル1〜サンプル4をそれぞれ3枚ずつ形成する処理を行なった。その結果、サンプル1〜サンプル4のいずれについても、異種基板1の主表面上に、厚み5mmのAlN単結晶が窒化物単結晶膜3として形成された。
【0041】
このようにして形成された各サンプルの窒化物単結晶膜3の最上面(異種基板1と対向する主表面と反対側の主表面)上を、光学顕微鏡を用いて観察した。そして、当該窒化物単結晶膜3にクラックや反りが発生しているか否かを調査した。ここで、100μm以上の長さのクラックが、主表面1cmあたり平均して3個以上形成されていれば、当該窒化物単結晶膜3にクラックが発生していると判断した。また、窒化物単結晶膜3の主表面に直交する方向に関する変位の最大値が5μm以上である場合に、当該窒化物単結晶膜3の主表面に反りが発生していると判断した。以下の表1に、サンプル1〜4のそれぞれの窒化物単結晶膜3の成長後のSiC基板残存面積(%)、クラックが発生した割合、および反りが発生した割合を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1において「成長温度」とは、上述した窒化物単結晶原料5(AlN)を加熱する温度(上述した成膜温度)を示す。この欄において「2000℃」とは2000℃において成膜を行なったサンプル1を示す。以下同様に、「2000℃→1900℃」は、2000℃に昇温した後1900℃まで降温したサンプル2を示す。「2000℃→2100℃」は、2000℃に昇温した後2100℃まで昇温したサンプル3を示す。「2000℃→2300℃」は、2000℃に昇温した後2300℃まで昇温したサンプル4を示す。また「成長後のSiC基板残存面積(%)」とは、窒化物単結晶膜3の形成が完了した時点で異種基板1(SiC基板)が異種基板1の当初の主表面の面積の何%分残存しているかを示す。「クラックが発生した割合」は、各条件により形成されたサンプルに対する、上述した判断基準により窒化物単結晶膜3にクラックが発生していると判断されたサンプルの枚数の割合を示す。なお、サンプル1における当該割合を1として、他のサンプルにおける割合を相対的に表記している。同様に「反りが発生した割合」は、各条件により形成されたサンプルに対する、上述した判断基準により窒化物単結晶膜3に反りが発生していると判断されたサンプルの枚数の割合を示す。「反りが発生した割合」についても、「クラックが発生した割合」と同様に、サンプル1における当該割合を1として、他のサンプルにおける割合を相対的に表記している。
【0044】
表1より、AlNの窒化物単結晶原料5を加熱する温度が終始一定であるサンプル1や、AlNの窒化物単結晶原料5をいったん成膜温度に昇温した後、当該成膜温度以下まで降温したサンプル2については、いずれも成長後のSiC基板残存面積は100%である。すなわちAlNの窒化物単結晶膜3の形成が完了するまで、異種基板1の昇華は起こっていない。この場合における「クラックが発生した割合」や「反りが発生した割合」を1とする。これに対して、サンプル3のように、AlNの成膜温度以上である2100℃にまで昇温したサンプルにおいては、異種基板1が一部昇華により除去され、成膜完了時に70%の異種基板1が残存していた。この場合、「クラックが発生した割合」や「反りが発生した割合」は、サンプル1やサンプル2の0.70倍になった。このことから、異種基板1の一部が昇華により除去された場合は、異種基板1が全く除去されない場合に比べて、形成される窒化物単結晶膜3にクラックや反りが発生する割合が減少することがわかる。さらにサンプル4のように、サンプル3よりさらに高い2300℃にまで昇温したサンプルにおいては、異種基板1がすべて昇華により除去され、成長後のSiC基板残存面積は0%であった。この場合、クラックや反りが発生したサンプルは確認されなかった。
【0045】
以上より、窒化物単結晶膜3の成膜温度範囲内(2000℃前後)の温度で昇華する異種基板1上に、上記成膜温度以上の温度に昇温しながら成膜を行ない、異種基板1の一部または全部を除去すれば、形成される窒化物単結晶膜3にクラックや反りが発生する可能性を低減することができるといえる。すなわち、当該方法により形成される窒化物単結晶膜3は、その品質や歩留まりを向上することができるといえる。
【実施例2】
【0046】
実施例1と同様のサンプルを、異種基板1としてのSiC基板((0001)面からのオフ角が5°以下の主表面)上に、窒化物単結晶膜3としてAlGa1−xNのxが0.9である、Al0.9Ga0.1Nを形成することにより作製した。実施例1と同様の昇華炉20を用いて、4種類の加熱条件を用いて、実施例1と同数のサンプルを準備した。各サンプル1〜4への窒化物単結晶膜3の形成時の加熱温度は実施例1と同様である。しかし形成する窒化物単結晶膜3の材質が実施例1と異なる。このため実施例2においては、成膜される窒化物単結晶膜3の厚みを実施例1と同様に5mmとするため、加熱温度を保持する時間を調整した。
【0047】
具体的には、窒化物単結晶膜3を形成する間は成膜温度を2000℃に固定し、10時間加熱したものがサンプル1である。なお、ここでいう成膜温度(2000℃)とは、Al0.9Ga0.1Nの窒化物単結晶原料5を加熱する温度であり、成膜がなされる異種基板1上の温度は当該成膜温度よりも1〜100℃低い。
【0048】
その他準備したサンプルは以下のとおりである。窒化物単結晶膜3を形成する際、最初は2000℃まで昇温し、Al0.9Ga0.1Nの窒化物単結晶原料5が昇華を始めた後、1時間降温することにより成膜温度を1900℃に下げ、その後1900℃で20時間加熱することにより成膜したサンプル2である。また、窒化物単結晶膜3を形成する際、1時間当たり100℃ずつ昇温することにより成膜温度を2100℃にまで上げ、その後2100℃で5時間加熱することにより成膜したサンプル3である。さらに窒化物単結晶膜3を形成する際、1時間当たり100℃ずつ昇温することにより成膜温度を2300℃にまで上げ、その後2300℃で3時間加熱することにより成膜したサンプル4である。
【0049】
以上の加熱条件についてのみ、実施例2は実施例1と異なる。他の手順や条件などはすべて実施例1に順ずるものとして同様に各サンプルを作製し、調査を行なった。その結果を以下の表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2より、Al0.9Ga0.1Nの窒化物単結晶原料5を加熱する温度が終始一定であるサンプル1や、Al0.9Ga0.1Nの窒化物単結晶原料5をいったん成膜温度に昇温した後、当該成膜温度以下まで降温したサンプル2については、いずれも成長後のSiC基板残存面積は100%である。すなわちAl0.9Ga0.1Nの窒化物単結晶膜3の形成が完了するまで、異種基板1の昇華は起こっていない。この場合における「クラックが発生した割合」や「反りが発生した割合」を1とする。これに対して、サンプル3のように、Al0.9Ga0.1Nの成膜温度以上である2100℃にまで昇温したサンプルにおいては、異種基板1が一部昇華により除去され、成膜完了時に70%の異種基板1が残存していた。この場合、「クラックが発生した割合」や「反りが発生した割合」は、サンプル1やサンプル2の0.75倍になった。このことから、実施例2についても実施例1と同様に、異種基板1の一部が昇華により除去された場合は、異種基板1が全く除去されない場合に比べて、形成される窒化物単結晶膜3にクラックや反りが発生する割合が減少することがわかる。さらにサンプル4のように、サンプル3よりさらに高い2300℃にまで昇温したサンプルにおいては、異種基板1がすべて昇華により除去され、成長後のSiC基板残存面積は0%であった。この場合、クラックや反りが発生したサンプルは確認されなかった。
【実施例3】
【0052】
実施例1、2と同様のサンプルを、異種基板1としてのSiC基板((0001)面からのオフ角が5°以下の主表面)上に、窒化物単結晶膜3としてAlGa1−xNのxが0.5である、Al0.5Ga0.5Nを形成することにより作製した。ここでも実施例2と同様に、加熱温度を保持する時間を実施例1、2に対して変更した。このようにして形成される窒化物単結晶膜3の厚みが5mmとなるように調整した。
【0053】
具体的には、窒化物単結晶膜3を形成する間は成膜温度を2000℃に固定し、10時間加熱したものがサンプル1である。なお、ここでいう成膜温度(2000℃)とは、Al0.5Ga0.5Nの窒化物単結晶原料5を加熱する温度であり、成膜がなされる異種基板1上の温度は当該成膜温度よりも1〜100℃低い。
【0054】
その他準備したサンプルは以下のとおりである。窒化物単結晶膜3を形成する際、最初は2000℃まで昇温し、Al0.5Ga0.5Nの窒化物単結晶原料5が昇華を始めた後、1時間降温することにより成膜温度を1900℃に下げ、その後1900℃で20時間加熱することにより成膜したサンプル2である。また、窒化物単結晶膜3を形成する際、1時間当たり100℃ずつ昇温することにより成膜温度を2100℃にまで上げ、その後2100℃で5時間加熱することにより成膜したサンプル3である。さらに窒化物単結晶膜3を形成する際、1時間当たり100℃ずつ昇温することにより成膜温度を2300℃にまで上げ、その後2300℃で3時間加熱することにより成膜したサンプル4である。
【0055】
以上の加熱条件についてのみ、実施例3は実施例1、2と異なる。他の手順や条件などはすべて実施例1、2に順ずるものとして同様に各サンプルを作製し、調査を行なった。その結果を以下の表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表3より、Al0.5Ga0.5Nの窒化物単結晶原料5を加熱する温度が終始一定であるサンプル1や、Al0.9Ga0.1Nの窒化物単結晶原料5をいったん成膜温度に昇温した後、当該成膜温度以下まで降温したサンプル2については、いずれも成長後のSiC基板残存面積は100%である。すなわちAl0.5Ga0.5Nの窒化物単結晶膜3の形成が完了するまで、異種基板1の昇華は起こっていない。この場合における「クラックが発生した割合」や「反りが発生した割合」を1とする。これに対して、サンプル3のように、Al0.5Ga0.5Nの成膜温度以上である2100℃にまで昇温したサンプルにおいては、異種基板1が一部昇華により除去され、成膜完了時に70%の異種基板1が残存していた。この場合、「クラックが発生した割合」や「反りが発生した割合」は、サンプル1やサンプル2の0.85倍になった。このことから、実施例3についても実施例1、2と同様に、異種基板1の一部が昇華により除去された場合は、異種基板1が全く除去されない場合に比べて、形成される窒化物単結晶膜3にクラックや反りが発生する割合が減少することがわかる。さらにサンプル4のように、サンプル3よりさらに高い2300℃にまで昇温したサンプルにおいては、異種基板1がすべて昇華により除去され、成長後のSiC基板残存面積は0%であった。この場合、クラックや反りが発生したサンプルは確認されなかった。
【0058】
なお、上述した表1、表2、および表3のそれぞれにおける「クラックが発生した割合」および「反りが発生した割合」を比較すると、窒化物単結晶膜3がAlNである表1が最も当該割合が低い。窒化物単結晶膜3がAl0.9Ga0.1Nである表2がこれに次ぎ、窒化物単結晶膜がAl0.5Ga0.5Nである表3が最も当該割合が高い。したがって、異種基板1がSiCからなる基板である場合には、窒化物単結晶膜3の材質は、AlGa1−xNのxの値が大きい方が好ましく、x=1であるAlNが最も好ましいといえる。
【0059】
今回開示された実施の形態および各実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、高品質な窒化物単結晶を生産することが可能な窒化物単結晶を形成する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0061】
1 異種基板、3 窒化物単結晶膜、5 窒化物単結晶原料、20 昇華炉、21 反応容器、21a,21c N2ガス導入口、23 坩堝、23c 排気口、25 加熱体、27 高周波加熱コイル、29 放射温度計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種基板を準備する工程と、
前記異種基板上に窒化物単結晶膜を形成する工程とを備え、
前記異種基板が前記窒化物単結晶膜の成膜温度範囲内で昇華する材料からなり、
前記窒化物単結晶膜を形成する工程では、前記異種基板の昇華温度以下の温度から成膜を開始し、その後、前記異種基板の昇華温度以上の温度に成膜温度を上げる、窒化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物単結晶膜がAlGa1−xNである、請求項1に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化物単結晶膜がAlNであり、前記異種基板がSiCである、請求項1または2に記載の窒化物単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−265132(P2010−265132A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116688(P2009−116688)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発−窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】