説明

窒化物系半導体光素子を製造する方法、及びエピタキシャルウエハを製造する方法

【課題】窒化ガリウム系半導体領域の半極性主面上に、良好な発光特性を有する窒化物系半導体光素子を製造する方法を提供する。
【解決手段】工程S106では、成長炉10の温度を温度Tに保ち、半極性主面23a上に時刻t4〜t5の期間でInGa1−XN井戸層25aを成長する。工程S107では、井戸層25aの成長完了の直後に、温度Tで、井戸層25aの主面を覆う保護層27aの成長を開始する。保護層27aは、井戸層25aのバンドギャップエネルギより大きく障壁層23のバンドギャップエネルギ以下の窒化ガリウム系半導体からなる。工程S108では、障壁層を成長する前に成長温度Tから成長温度Tに成長炉10の温度を変更する。成長炉10の温度を成長温度Tに保ちながら、時刻t8〜t9で、窒化ガリウム系半導体からなる障壁層29aを保護層27a上に成長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系半導体光素子を製造する方法、及びエピタキシャルウエハを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、窒化物半導体発光素子が記載されている。実施例では、発光ダイオードはc面サファイア基板及びGaN基板上に作製されている。窒化物半導体発光素子の作製では、厚さ2nmのIn0.15Ga0.85N井戸層を摂氏750度で成長した後に、摂氏750度から摂氏1050度に昇温しながら、厚さ3nmのGaN障壁層を成長し、さらに摂氏1050度で厚さ12nmのGaN障壁層を成長する。発光ダイオードのピーク波長は、約460nmである。
【0003】
特許文献2には、III族窒化物発光素子が記載されている。III族窒化物発光素子の発光層は、c面サファイア基板上に形成されており、またAlGaN障壁層とInGaN井戸層とを含む。AlGaN障壁層は摂氏1100度で成長されており、InGaN井戸層は摂氏800度で成長される。
【0004】
特許文献3には、III族窒化物発光素子が記載されている。III族窒化物発光素子の発光層は、a面サファイア基板上に形成されており、またGaN障壁層とInGaN井戸層とを含む。GaN障壁層は摂氏900度で成長されており、InGaN井戸層は摂氏750度で成長される。
【0005】
特許文献4には、c面サファイア基板上に形成された発光ダイオードが記載されている。発光ダイオードの活性層の作製では、InGaN井戸層の成長温度が、InGaN障壁層の成長温度と同じである。この成長温度は摂氏800度である。
【0006】
特許文献5には、c面サファイア基板上に形成された発光ダイオードが記載されている。発光ダイオードの活性層の作製では、InGaN井戸層の成長温度がInGaN障壁層の成長温度と同じであり、この成長温度は摂氏750度である。
【特許文献1】特開2002−43618号公報
【特許文献2】特開平10−12922号公報
【特許文献3】特開平10−135514号公報
【特許文献4】特開平06−268257号公報
【特許文献5】特開平11−224972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4及び特許文献5の発光素子では、InGaN井戸層及びInGaN障壁層は同じ温度で成長されていた。一方、特許文献2及び特許文献3の発光素子では、InGaN井戸層及びInGaN障壁層は異なる温度で成長されていた。ところが、井戸層の成長後に井戸層の成長温度から障壁層の成長温度に昇温中に、井戸層の表面から構成元素の分解が生じていた。この分解によって、井戸層の結晶品質は劣化していた。
【0008】
特許文献1に示される方法では、井戸層の成長後に、井戸層の成長温度から障壁層の成長温度に昇温中の全体にわたってGaN障壁層を成長すると共に、さらに障壁層の成長温度に到達した後に、別のGaN障壁層を成長する。
【0009】
しかしながら、発明者らの知見によれば、窒化ガリウム系半導体のc面主面上への井戸層の成長では、井戸層成長温度から障壁層成長温度へ昇温中、及び障壁層成長温度の成長中にも、井戸層の分解が生じている。発明者らの実験によれば、半極性を示す窒化ガリウム系半導体領域上に、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体の井戸層の成長では、上記のようなc面主面上の井戸層の成長と異なっている。
【0010】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、窒化ガリウム系半導体領域の半極性主面上に、良好な発光特性を有する窒化物系半導体光素子を製造する方法を提供することを目的とし、またこの窒化物系半導体光素子のためのエピタキシャルウエハを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、窒化物系半導体光素子を製造する方法である。この方法は、(a)成長炉の温度を井戸層成長温度に保ちながら、半極性面の主面を有する窒化ガリウム系半導体領域上に、活性層のための井戸層を成長する工程と、(b)前記井戸層の成長完了の直後に、前記井戸層の主面を覆う保護層を成長する工程と、(c)前記保護層を成長した後に、前記保護層の主面上に前記活性層のための障壁層を障壁層成長温度で成長する工程とを備える。前記保護層の厚さは前記障壁層の厚さより小さく、前記障壁層成長温度は前記井戸層成長温度より高く、前記障壁層成長温度は、前記井戸層成長温度より大きな第1の温度以上であり、前記障壁層の成長は、前記成長炉の温度が前記第1の温度に到達したときに開始され、前記保護層の成長温度は、前記井戸層成長温度以上第1の温度未満の温度範囲であり、前記井戸層は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなり、前記障壁層は、前記井戸層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窒化物半導体からなり、前記保護層は、前記井戸層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窒化ガリウム系半導体からなり、前記井戸層の主面は半極性面を有し、前記保護層の主面は半極性面を有し、前記障壁層の主面は半極性面を有する。
【0012】
この方法によれば、井戸層が、窒化ガリウム系半導体領域の主面(半極性面)上に成長される。この主面上への井戸層の成長完了の直後に、保護層が、井戸層の主面を覆うように成長される。この後に、障壁層は、井戸層成長温度より大きな障壁層成長温度で保護層上に成長される。一方、c面主面上に成長された井戸層は、半極性面上に成長された井戸層の分解に比べて生じやすい。故に、障壁層を井戸層成長温度より大きな障壁層成長温度で成長するとき、保護層に覆われた井戸層の分解は、c面主面上の井戸層に比べて小さくなる。したがって、半極性面上の井戸層によれば、良好な発光特性を有する窒化物系半導体光素子を製造できる。
【0013】
本発明に係る方法は、前記保護層を成長した後に、半導体の成長なしに、前記成長炉の温度を前記井戸層成長温度から前記第1の温度に昇温する工程を更に備えることができる。前記保護層は、前記成長炉の温度の変更を開始する前に、前記井戸層成長温度で成長される。
【0014】
この方法によれば、保護層が成長炉の温度の変更を開始する前に成長される。これ故に、成長炉の温度の上昇が井戸層上に保護層を成長した後に開始される。井戸層は保護層で覆われた後に、井戸層の成長温度よりも高温にさらされる。
【0015】
本発明に係る方法では、前記保護層は、前記成長炉の温度を前記井戸層成長温度から昇温しながら成長される。
【0016】
この方法によれば、井戸層の成長完了の直後に、保護層は、成長炉の温度を井戸層成長温度から昇温しながら成長される。昇温の開始と共に保護層の成長が開始されるので、半極性を示す主面を有する井戸層の分解は、c面主面上に成長された井戸層に比べて生じにくい。また、昇温中に保護層の成長が行われるので、保護層の結晶性は、成長が進むにつれて良くなる。
【0017】
本発明に係る方法では、前記保護層は、前記成長炉の温度を前記井戸層成長温度から前記第1の温度へ変更する全期間にわたって成長され、前記障壁層は、前記保護層の成長の直後に続けて成長される。
【0018】
この方法によれば、井戸層の成長完了の直後に、保護層は、成長炉の温度を障壁層成長温度以下の第1の温度へ井戸層成長温度から昇温しながら成長される。保護層の性能(井戸層を保護する性能)は、保護層を成長中に比較的に低い温度で成長される保護層の一部分によっても提供される。この保護能は、成長無しの残りの温度変更期間を半導体層を成長する期間に置き換えても、失われるものではない。つまり、成長炉の温度の上昇が、保護層を成長しながら行われるので、半極性を示す主面を有する井戸層の分解は、c面主面上に成長された井戸層に比べて生じにくい。また、昇温中に保護層の成長が行われるので、保護層の成長が進むにつれて、保護層の結晶性は良くなる。
【0019】
本発明に係る方法では、前記保護層は、前記成長炉の温度を前記障壁層成長温度より小さい第2の温度へ前記井戸層成長温度から昇温しながら成長される。当該方法は、前記保護層を成長した後に、窒化ガリウム系半導体を成長することなく、前記成長炉の温度を前記第2の温度から前記第1の温度に向けて昇温する工程を更に備えることができる。前記井戸層成長温度から前記第2の温度への平均昇温速度は、前記第2の温度から前記第1の温度への平均昇温速度より大きいことができる。
【0020】
この方法によれば、保護層を成長した後に成長炉の温度が昇温される。保護層の成長が昇温期間の一部分において行われ、またこの期間の温度変更速度が大きい。これ故に、保護層は、成長期間が経過するにつれて、より高い温度で成膜される。したがって、良好な結晶品質の保護層が成長可能である。
【0021】
本発明に係る方法は、前記障壁層成長温度は一定に保たれることができる。この方法によれば、障壁層の全体が、障壁層がその性能を名実共に獲得可能な成長温度以上の温度で成長される。また、障壁層成長温度は一定に保つことによって、障壁層成長温度と井戸層成長温度との差が大きくなることを防げる。
【0022】
本発明に係る方法では、前記第1の温度から前記第1の温度より大きな第3の温度に変更しながら、前記障壁層の少なくとも一部分を成長することができる。
【0023】
この方法によれば、障壁層の少なくとも一部分が、成長炉の温度を変更しながら成長されるけれども、障壁層の全体は、障壁層がその性能を名実共に獲得可能な成長温度以上の温度で成長される。
【0024】
本発明に係る方法では、前記井戸層成長温度から前記第1の温度への平均昇温速度は、前記第1の温度から前記第3の温度への平均昇温速度よりも大きいことができる。
【0025】
この方法によれば、井戸層成長温度から障壁層成長温度への昇温の大部分は、保護層のための成長期間に行われる。これ故に、障壁層の成長開始のときには、成長炉の温度を十分に高くできる。
【0026】
本発明に係る方法では、前記保護層の成長におけるガリウム原料の供給量は、前記障壁層の成長におけるガリウム原料の供給量より小さい。この方法によれば、ガリウム原料の供給量に応じて、保護層及び障壁層の成長速度が調整される。
【0027】
本発明に係る方法は、六方晶系半導体InAlGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T≦1)からなる基板を準備する工程を更に備えることができる。前記基板の前記主面は、該六方晶系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜している。この方法によれば、半極性の実現には、成長用基板の主面の傾斜角を規定することが良い。
【0028】
本発明に係る方法は、前記成膜に先立って、前記基板の前記主面に熱処理を行って前記基板に、改質された主面を形成する工程を更に備えることができる。前記熱処理は、アンモニア及び水素を含むガスの雰囲気中で行われ、前記窒化ガリウム系半導体領域が、前記基板の前記改質された主面上に設けられる。
【0029】
この方法によれば、主面の傾斜によって、半極性の主面には、c面主面とは異なる表面構造が提供される。成膜に先立つ熱処理を基板の主面に施すことによって、c面主面では生じ得ない改質が半極性の主面に生じる。
【0030】
本発明に係る方法は、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域を前記基板上にエピタキシャルに成長する工程を更に備えることができる。前記第1導電型窒化ガリウム系半導体領域の主面は、前記窒化ガリウム系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして50度より大きく80度未満の範囲の角度で傾斜している。
【0031】
この方法によれば、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域の主面の構造は、基板主面の傾斜によって形成可能である。基板の六方晶系半導体InAlGa1−S−TN半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして50度より大きく80度未満の範囲の角度で傾斜するとき、つまり傾斜角が比較的大きいとき、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体の成長に良い。
【0032】
本発明に係る方法では、前記基板は、c軸方向に伸びる貫通転位の密度が第1の貫通転位密度より大きい複数の第1の領域と、c軸方向に伸びる貫通転位の密度が第1の貫通転位密度より小さい複数の第2の領域とを含み、前記第1および第2の領域は交互に配置されており、前記基板の前記主面には前記第1および第2の領域が現れている。この方法によれば、貫通転位密度より小さい第2の領域が半導体デバイスの作製に利用可能である。
【0033】
本発明に係る方法では、前記第2の領域の前記貫通転位の密度は1×10cm−2未満であることができる。この方法によれば、低転位の活性層を成長可能である。
【0034】
本発明に係る方法では、前記基板はGaNからなることができる。この方法によれば、良好な結晶品質のエピタキシャル成長が可能である。
【0035】
本発明に係る方法では、前記窒化ガリウム系半導体領域の前記主面は、窒化ガリウム系半導体領域のa軸方向に傾斜していることができる。この方法によれば、m面における劈開が可能になる。また、本発明に係る方法では、前記窒化ガリウム系半導体領域の前記主面は、窒化ガリウム系半導体領域のm軸方向に傾斜していることができる。この方法によれば、インジウムの採り込み効率が良好であり、この結果、良好な発光特性が得られる。さらに、本発明に係る方法では、前記窒化ガリウム系半導体領域の前記主面は、窒化ガリウム系半導体領域の<12−30>軸方向に傾斜していることができる。
【0036】
本発明に係る別の側面は、窒化物系半導体光素子のためのエピタキシャルウエハを製造する方法である。この方法は、(a)六方晶系半導体InAlGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T≦1)からなり、半極性の主面を有する基板を準備する工程と、(b)前記基板の主面上に、半極性面の主面を有する窒化ガリウム系半導体領域を形成する工程と、(c)成長炉の温度を井戸層成長温度に保ちながら、前記窒化ガリウム系半導体領域上に、活性層のための井戸層を成長させる工程と、(d)前記井戸層の主面を覆う保護層を成長する工程と、(e)前記保護層を成長した後に、前記保護層の主面上に前記活性層のための障壁層を障壁層成長温度で成長する工程を備えることができる。前記保護層の厚さは前記障壁層の厚さより小さく、前記障壁層成長温度は前記井戸層成長温度より高く、前記障壁層成長温度は、前記井戸層成長温度より大きな第1の温度以上であり、前記障壁層の成長は、前記成長炉の温度が前記第1の温度に到達したときに開始され、前記保護層の成長温度は、前記井戸層成長温度以上であり第1の温度未満の温度範囲であり、前記井戸層は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなり、前記障壁層は、前記井戸層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窒化物半導体からなり、前記保護層は、前記井戸層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窒化ガリウム系半導体からなり、前記井戸層の主面は半極性面を有し、前記保護層の主面は半極性面を有し、前記障壁層の主面は半極性面を有する。
【0037】
この方法によれば、井戸層が、窒化ガリウム系半導体領域の主面(半極性面)上に成長される。この主面上への井戸層の成長完了の直後に、保護層が、井戸層の主面を覆うように成長される。この後に、障壁層は、井戸層成長温度より大きな障壁層成長温度で保護層上に成長される。一方、c面主面上に成長された井戸層は、半極性面上に成長された井戸層の分解に比べて生じやすい。故に、障壁層を井戸層成長温度より大きな障壁層成長温度で成長するとき、保護層に覆われた井戸層では、半極性面上の井戸層の分解はc面主面上の井戸層に比べて小さくなる。したがって、良好な発光特性を有する窒化物系半導体光素子を窒化ガリウム系半導体領域の半極性主面上に製造できる。
【0038】
本発明に係る方法は、前記成膜に先立って、前記基板の前記主面に熱処理を行って前記基板に、改質された主面を形成する工程を更に備えることができる。前記熱処理は、アンモニア及び水素を含むガスの雰囲気中で行われる。前記基板の前記主面は、該六方晶系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして50度より大きく80度未満の範囲の角度で傾斜している。
【0039】
この方法によれば、主面の傾斜によって、半極性の主面にはc面主面とは異なる表面構造が提供される。成膜に先立つ熱処理を基板の主面に施すことによって、c面主面では得られない主面の改質が生じる。また、窒化ガリウム系半導体領域の主面の構造は基板主面の傾斜によって形成可能である。基板の六方晶系半導体InAlGa1−S−TN半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして50度より大きく80度未満の範囲の角度で傾斜するとき、つまり傾斜角が比較的大きいとき、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体の成長に良い。
【0040】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、窒化ガリウム系半導体領域の半極性主面上に、良好な発光特性を有する窒化物系半導体光素子を製造する方法が提供され、またこの窒化物系半導体光素子のためのエピタキシャルウエハを製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明の窒化物系半導体光素子を製造する方法及びエピタキシャルウエハを製造する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。引き続く説明では、例えば<0001>軸に対して逆向きの結晶軸は、<000−1>で表される。
【0043】
(第1の実施の形態)
図1〜図4は、本実施の形態に係る窒化物系半導体光素子を製造する方法及びエピタキシャルウエハを製造する方法における主要な工程を示す図面である。図1(a)に示されるように、工程S101では、窒化物系半導体光素及びエピタキシャルウエハを製造するための基板11を準備する。基板11は、例えば六方晶系半導体InAlGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T≦1)からなることができる。基板11は主面11a及び裏面11bを有する。図1(a)を参照すると、基板11の六方晶系半導体のc軸の方向を示すベクトルVC+及び主面11aの法線ベクトルVNが記載されており、ベクトルVC+は{0001}面の向きを示している。ベクトルVC−は、ベクトルVC+とは反対の方向を向いており、また{000−1}面の向きを示している。この基板11によれば、成長用の主面が傾斜角(オフ角)αを有するので、基板11の主面11aに半極性を提供できる。基板11の主面11aは、該六方晶系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして10度以上の角度で傾斜しており、また85度以下の角度で傾斜している。六方晶系半導体は、例えばGaN、AlN等であることができる。主面11aの傾斜角が10度以上であるとき、十分なピエゾ電界低減効果が得られる。主面11aの傾斜角が85度以下であるとき、良好な結晶品質が得られ発光特性が良好である。
【0044】
基板11のエッジ上に2点間の距離の最大値は45mm以上であることができる。このような基板は例えばウエハと呼ばれている。基板11の裏面11bは、基板11の主面11aと実質的に平行であることができる。また、基板11はGaNからなるとき、良好な結晶品質のエピタキシャル成長が可能である。
【0045】
引き続く工程では、この基板11の主面11a上に、半導体結晶がエピタキシャルに成長される。上記の傾斜角の主面11aの基板11は、活性層を成長する下地のエピタキシャル半導体領域の主面が窒化ガリウム系半導体のc面から10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜するように、エピタキシャル半導体領域を形成することを可能にする。
【0046】
基板11の主面11aは、六方晶系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして50度より大きく80度未満の範囲の角度で傾斜していることができる。六方晶系半導体の主面11aの構造は、基板主面の傾斜に依存している。基板の六方晶系半導体InAlGa1−S−TN半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして50度より大きく80度未満の範囲の角度で傾斜するとき、つまり傾斜角が比較的大きいとき、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体の成長に良い。具体的には、主面11aの傾斜角が50度より大きいとき、井戸層の分解が生じにくい。主面11aの傾斜角が80度未満であるとき、インジウムの採り込み効率が良好である。
【0047】
また、基板11の主面11aの傾斜の方向に関しては、主面11aが基板11の六方晶系半導体のa軸方向に傾斜するとき、基板11上に作製されたエピタキシャル基板は、m面における劈開が可能になる。また、基板11の主面11aが基板11の六方晶系半導体のm軸方向に傾斜するとき、インジウムの採り込み効率が良好であり、この結果、良好な発光特性が得られる。さらに、基板11の主面11aが基板11の六方晶系半導体の<12−30>軸方向に傾斜するとき、さらにインジウムの採り込み効率が良好である。
【0048】
基板11を成長炉10に配置する。図1(b)に示されるように、工程S102では、成膜に先立って、成長炉10にガスG0を供給しながら基板11に熱処理を行って、改質された主面11cを形成する。この熱処理は、アンモニア及び水素を含むガスの雰囲気、或いは窒素を含むガスの雰囲気中で行われることができる。熱処理温度T0は、例えば摂氏800度以上1200度以下であることができる。熱処理時間は、例えば10分程度である。この工程によれば、主面11aの傾斜によって、半極性の主面にはc面主面とは異なる表面構造が形成される。成膜に先立つ熱処理を基板11の主面11aに施すことによって、c面主面では得られない半導体主面に改質が生じる。窒化ガリウム系半導体からなるエピタキシャル成長膜が、基板11の改質された主面11c上に堆積される。
【0049】
この方法によれば、この熱処理により、基板11の主面11cにマイクロステップが形成され、マイクロステップは、複数のテラスからなる。マイクロステップの密度は、例えば2.0×10cm−1以上であることができ、また3.3×10cm−1であることができる。マイクロステップの高さは、例えば0.3nm以上であることができ、また10nm以下であることができる。マイクロステップの長さは、例えば0.3nm以上であることができ、また500nmであることができる。
【0050】
図1(c)に示されるように、工程S103では、熱処理の後に、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域13を基板11の表面11c上にエピタキシャルに成長する。この成長のために、原料ガスG1を成長炉10に供給する。窒化ガリウム系半導体領域13の主面13aは、窒化ガリウム系半導体のc面から10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜している。また、基板11の主面11cの構造を引き継いで、主面13aには、同様にマイクロステップが形成されている。第1導電型窒化ガリウム系半導体領域13は、一又は複数の窒化ガリウム系半導体層(例えば、窒化ガリウム系半導体層15、17、19)を含むことができる。例えば、窒化ガリウム系半導体層15、17、19は、それぞれ、n型AlGaN層、n型GaN層およびn型InGaN層であることができる。窒化ガリウム系半導体層15、17、19は、基板11の主面11c上に順にエピタキシャルに成長される。n型AlGaN層は例えば基板11の全表面を覆う中間層であり、n型GaN層は例えばn型キャリアを供給するための層であり、n型InGaN層は例えば活性層のための緩衝層である。
【0051】
第1導電型窒化ガリウム系半導体領域の主面の構造は、基板主面が傾斜することに起因して提供される。故に、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域13のエピタキシャル成長では、主面13aは、下地の基板11の主面11cの構造を引き継ぎ、基板11におけるオフ角に対応して、該窒化ガリウム系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして傾斜する。例えば、基板11の主面11cの傾斜角が50度より大きく80度未満の範囲であるとき、つまり傾斜角が比較的大きいとき、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体の成長に良い。
【0052】
次の工程では、図2〜図3に示されるように、窒化物系半導体発光素子の活性層21を作製する。活性層21は、370nm以上650nm以下の波長領域にピーク波長を有する発光スペクトルを生成するように設けられる。以下、活性層21の量子井戸構造を作製する手順を、図5を参照しながら詳細に説明する。図5は、活性層の形成における原料ガス及び成長炉の温度の変化を表すタイムチャートである。成長炉の温度は、例えば成長炉のサセプタといった成長炉内の部材の温度としてモニタされる。原料ガスとしては、ガリウム源、インジウム源及び窒素源が使用される。ガリウム源、インジウム源及び窒素源は、それぞれ、例えばTMG、TMI、及びNHである。
【0053】
図5に示されるように、時刻t0において、活性層の下地となる窒化ガリウム系半導体の堆積が完了する。時刻t0〜t1の期間において、成長炉10の温度を、活性層のための半導体成長のための温度に変更する。
【0054】
工程S104では、図2(a)に示されるように、窒化ガリウム系半導体からなるエピタキシャル半導体領域23を形成する。エピタキシャル半導体領域23は緩衝層(窒化ガリウム系半導体層19)上に成長される。エピタキシャル半導体領域23は、例えば活性層21の量子井戸構造のための障壁層である。この障壁層はInGa1−YN(インジウム組成Y:0≦Y≦0.05、Yは歪み組成)からなり、障壁層はGaN、InGaN、及びAlGaN等であることができる。障壁層の成長は、例えば摂氏700度以上摂氏900度以下の温度範囲内の成長温度Tで行われる。本実施例では、ガリウム源及び窒素源を含む原料ガスG2を成長炉10に供給してGaNを成長する。この成長は、図5における時刻t1〜t2の間に成長温度Tで成長される。GaN障壁層DB1の厚さは例えば15nmである。
【0055】
エピタキシャル半導体領域23は、主面13a上に成長されるので、エピタキシャル半導体領域23の表面は、主面13aの表面構造を引き継ぐ。窒化ガリウム系半導体のc面から10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜した主面23aを有している。
【0056】
時刻t2で、ガリウム原料の供給を停止して窒化ガリウム系半導体の堆積を停止させる。障壁層23を成長した後に、工程S105では、図2(b)に示されるように、井戸層を成長する前に成長温度Tから成長温度Tに成長炉の温度を変更する。温度の変更は、図5における時刻t2〜t4の間に行われる。この変更期間中に、例えばアンモニアといった窒素源ガスG3を成長炉10に供給する。障壁層の成長における窒素源の供給量が、井戸層の成長における窒素源の供給量と異なるとき、窒素源の供給量を変更して井戸層の成長における窒素源の供給量に合わせる。この変更期間中の少なくとも一部分において、障壁層の成長における窒素原料の流量から井戸層の成長における窒素原料の流量に窒素原料の流量が変更される。この変更は、図5の時刻t2〜t3の期間に行われる。
【0057】
時刻t4で、成長炉10の温度が井戸層の成長温度Tに到達する。工程S106では、図2(c)に示されるように、成長炉10の温度を井戸層成長温度Tに保ちながら、エピタキシャル半導体領域23の半極性主面23a上に、時刻t4〜t5の期間で量子井戸構造のための井戸層25aを成長する。井戸層25aはInGa1−XN(インジウム組成X:0<X<1、Xは歪み組成)といった、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなる。井戸層25aは、障壁層23のバンドギャップエネルギより小さいバンドギャップエネルギを有する。図5に示されるように、井戸層25aの成長温度Tは成長温度Tより低い。本実施例では、ガリウム源、インジウム源及び窒素源を含む原料ガスG4を成長炉10に供給してInGaNを成長する。井戸層25aの主面は、エピタキシャル半導体領域23の主面上にエピタキシャルに成長されるので、井戸層25aの表面は、エピタキシャル半導体領域23の表面構造を引き継ぐ。また、エピタキシャル半導体領域23の主面の傾斜角に応じて、窒化ガリウム系半導体のc面から10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜する。井戸層25aの成長は、例えば摂氏650度以上摂氏850度以下の温度範囲内の成長温度Tで行われる。InGaN井戸層の厚さDは例えば2.5nmである。
【0058】
時刻t5で、井戸層25aの成長が完了する。工程S107では、図3(a)に示されるように、井戸層25aの成長完了の直後に、井戸層25aの主面を覆う保護層27aを温度Tで成長する。保護層27aは、井戸層25aのバンドギャップエネルギより大きい窒化ガリウム系半導体からなる。保護層27aは、例えばGaN、InGaN、及びAlGaN等からなることができる。保護層27aは、例えばInGa1−ZN(インジウム組成Z:0≦Z<1、Zは歪み組成)からなる。また、保護層27aは、障壁層23のバンドギャップエネルギ以下の窒化ガリウム系半導体からなることができる。
【0059】
本実施例では、温度Tとして井戸層成長温度Tが用いられる。このため、保護層27aは、成長炉10の温度を井戸層成長温度Tに保ちながら、井戸層25aの半極性主面上に、時刻t5〜t6の期間で成長される。堆積の無い期間に井戸層25aの表面を成長炉内の雰囲気にさらすことないように、保護層27aの成長は井戸層25aの成長完了直後に開始される。図5に示されるように、保護層27aの成長温度Tは井戸層25aの成長温度Tと同じである。この方法によれば、保護層27aが成長炉10の温度の変更を開始する前に成長されるので、成長炉10の温度の上昇が井戸層25a上に保護層27aを成長した後に開始される。井戸層25aは保護層27aで覆われた後に高温にさらされる。
【0060】
本実施例では、ガリウム源及び窒素源を含む原料ガスG5を成長炉10に供給してGaNを成長する。保護層27aの主面は、井戸層25aの主面上にエピタキシャルに成長されるので、保護層27aの表面は、井戸層25aの表面構造を引き継ぐ。このエピタキシャル半導体領域25aの主面の傾斜角に応じて、窒化ガリウム系半導体のc面から10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜している。保護層27aの成長は、例えば摂氏650度以上摂氏850以下の温度範囲内の成長温度Tで行われる。保護層27aの厚さDは障壁層23の厚さDより小さく、また保護層27aの厚さDは井戸層25aの厚さDより小さい。保護層27aの厚さDは例えば1.0nmである。
【0061】
時刻t6で、ガリウム原料の供給を停止して窒化ガリウム系半導体の堆積を停止させる。保護層27aを成長した後に、工程S108では、図3(b)に示されるように、障壁層を成長する前に成長温度Tから成長温度Tに成長炉10の温度を変更する。温度の変更は、図5における時刻t6〜t7〜t8の間に行われる。この変更期間中に、例えばアンモニアといった窒素源ガスG6を成長炉10に供給する。保護層27aの成長における窒素源の供給量が、障壁層の成長における窒素源の供給量と異なるとき、窒素源の供給量を変更して井戸層の成長における窒素源の供給量に合わせる。この変更期間中の少なくとも一部分において、障壁層の成長における窒素原料の流量から井戸層の成長における窒素原料の流量に窒素原料の流量が変更される。この変更は、図5における時刻t6〜t7の間に行われる。この期間の温度変更は、時間と共に温度上昇速度を小さくして、時刻t6〜t7の間の温度プロファイルは上に凸の形状を成す。この昇温プロファイルによって、成長温度Tまでの到達安定時間を短くすることができ、井戸層の劣化を抑制することができる。例えば、温度上昇の期間内の一時刻に先立つ前期間の温度変化の平均速度は、上記の時刻の後の後期間の温度変化の平均速度よりも大きく、ここで、平均速度は期間の始点と終点とを直線で近似することにより得られる。
【0062】
この方法によれば、井戸層25aが、半極性の主面23a上に成長される。この主面23a上への井戸層25aの成長完了の直後に、保護層27aが、井戸層25aの主面を覆うように成長される。この後に、成長炉10の温度が、障壁層を成長するために、井戸層成長温度Tより大きな障壁層成長温度Tへ変更される。一方、c面主面上に成長された井戸層の分解、つまり井戸層結晶と保護層結晶の混晶化、または井戸層結晶のIn偏析は、半極性面上に成長された井戸層に比べて生じやすい。故に、井戸層25aを成長した後に次の障壁層を成長温度Tで成長するとき、保護層27aに覆われた井戸層25aの分解は、c面主面上の井戸層に比べて小さくなる。したがって、良好な発光特性を有する窒化物系半導体光素子が、窒化ガリウム系半導体領域の半極性面上に製造される。
【0063】
時刻t8において、成長炉10の昇温が完了する。保護層27aを成長した後に、図3(c)に示されるように、成長炉10の温度を成長温度Tに保ちながら、時刻t8〜t9で、窒化ガリウム系半導体からなる障壁層29aを成長する。成長温度Tは成長温度Tより高い。また、成長温度Tは、良好な結晶品質を有する障壁層の成長を可能にする第1の温度T以上であり、成長炉の温度が温度Tに到達したとき、障壁層29aの成長が開始される。保護層27a、27b、27cの成長温度Tは、井戸層成長温度T以上第1の温度T以下の温度範囲であり、本実施例では保護層27a〜27cの成長温度Tは成長温度Tと同じである。障壁層29aの厚さDB2は保護層27aの厚さDよりも大きい。井戸層及び障壁層でもない保護層27aを薄くして、障壁層29aの厚さを大きくできる。本実施例では、障壁層29aは例えばGaNからなり、障壁層29aの厚さDB2は例えば14nmである。障壁層29aの主面は、保護層27aの主面上にエピタキシャルに成長されるので、窒化ガリウム系半導体のc面から10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜している。障壁層29aの表面は、井戸層25aの表面構造を引き継いている。
【0064】
同様に成長を行って、図4(a)に示されるように活性層21を形成する。繰り返しの工程S110で、温度Tから温度Tへの降温(期間t9〜t10〜t11)、井戸層の成長(期間t11〜t12)、保護層の成長(期間t12〜t13)、温度Tから温度Tへの昇温(期間t13〜t14〜t15)、及び障壁層の成長(期間t15〜t16)を繰り返して、量子井戸構造を完成させる。図5に示されるように、量子井戸構造は、障壁層23、29a、29b、29c、井戸層25a、25b、25c、保護層27a、27b、27cを含む。
【0065】
保護層27a〜27cの膜厚Dは0.5nm以上5nm以下であることができる。井戸層25a〜25cの膜厚は1nm以上10nm以下であることができる。また、InGa1−XN井戸層25a、25b、25cのインジウム組成Xは、0.01より大きいことができる。井戸層25a〜25cのInGa1−XNは0.4より小さいことができる。この範囲のインジウム組成のInGaNの成長が可能となり、波長370nm以上650nm以下の発光素子を得ることができる。保護層27a〜27cをGaN、障壁層23、29a、29b、29cをInGa1−YN(インジウム組成Y:0≦Y<1、Yは歪み組成)とすることもできる。
【0066】
図4(b)を参照すると、工程S111では、活性層21上に、第2導電型窒化ガリウム系半導体領域31を基板11の表面11c上にエピタキシャルに成長する。この成長は、成長炉を用いて行われ、第2導電型窒化ガリウム系半導体層31の成長温度T2は井戸層25a〜25cの成長温度Tよりも高い。第2導電型窒化ガリウム系半導体領域31は、例えば電子ブロック層33、第1のp型コンタクト層35及び第2のp型コンタクト層37を含むことができる。電子ブロック層33は例えばAlGaNからなることができる。p型コンタクト層35、37はp型GaNからなることができる。第2のp型コンタクト層37のドーパント濃度N37は第1のp型コンタクト層35のドーパント濃度N35よりも大きい。本実施例では、電子ブロック層33、p型コンタクト層35、37の成長温度は、例えば摂氏1100度である。第2導電型窒化ガリウム系半導体領域31の形成の工程において、図4(b)に示されるエピタキシャルウエハEが完成する。必要な場合には、半導体レーザの光ガイドのために一対の光ガイド層を成長することができる。一対の光ガイド層は活性層を挟む。これらの光ガイド層は、例えばInGaNまたはGaNからなることができる。
【0067】
また、p型コンタクト層35、37の成長速度は、井戸層25a〜25c及び障壁層23、29a〜29cの成長速度よりも大きい。活性層21を形成した後に、井戸層25a〜25cの成長温度Tよりも高温で行われるp型コンタクト層35、37の成長時間を短くできる。
【0068】
エピタキシャルウエハEにおいて、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域13、活性層21、及び第2導電型窒化ガリウム系半導体層31は、基板11の主面11aの法線軸の方向に配列されていることができる。該六方晶系半導体のc軸の方向は基板11の主面11aの法線軸の方向と異なる。エピタキシャル成長の成長方向はc軸方向である一方で、この成長方向は、法線軸の方向に積層される半導体層13、21、31の積層方向と異なる。
【0069】
次の工程では、エピタキシャルウエハE上に電極を形成する。第1の電極(例えば、アノード電極)がコンタクト層37上に形成されると共に、第2の電極(例えば、カソード電極)が基板裏面13b上に形成される。
【0070】
電極の形成の後に、m面またはa面劈開を行って共振器面として作製することができる。劈開によって形成されたm面またはa面を共振器面とする半導体レーザの作製が可能となる。また、基板11におけるc軸傾斜の方向と基板11の窒化ガリウム系半導体のm軸またはa軸の方向とは89度以上91度以下の範囲であることができる。基板主面11aにおけるc面からm軸またはa軸方向に傾斜した角度が−1度以上+1度以下の範囲を超えると、レーザとしての特性の低下が顕著になる。なお、エピタキシャル半導体領域23の主面23aの傾斜の方向が窒化ガリウム系半導体のm軸の方向であれば、a面を劈開面として使用できる。また、傾斜の方向が窒化ガリウム系半導体のa軸の方向であれば、より壁開容易なm面を劈開面と使用することができる。
【0071】
図6は、実施の形態において使用可能なGaN基板の一構造を示す図面である。基板11は、c軸方向に伸びる貫通転位密度が第1の貫通転位密度より大きい複数の第1の領域12aと、c軸方向に伸びる貫通転位密度が第1の貫通転位密度より小さい複数の第2の領域12bとを含むことができる。基板11の主面11aには第1および第2の領域12a、12bが現れている。基板11の主面11aにおいて、第1および第2の領域12a、12bの幅は、それぞれ、例えば30マイクロメートル、370マイクロメートルである。第1および第2の領域12a、12bは所定の方向に交互に配置されている。基板が窒化ガリウムからなるとき、所定の方向は該窒化ガリウムのa軸の方向であることができる。
【0072】
第1の領域12aは高転位密度の欠陥集中領域の半導体部であり、第2の領域12bは低転位密度の欠陥低減領域の半導体部である。基板11の低転位密度の領域に窒化物系半導体発光素子を作製することによって、発光素子の発光効率、信頼性を向上させることができる。第2の領域12bの貫通転位密度は1×10cm−2未満であると、実用に十分な信頼性をもつ半導体レーザが得られる。
【0073】
(実施例1)オフ角
引き続き本実施の形態の実施例を説明する。有機金属気相成長法を用いて発光ダイオード(LED)の作製を行った。有機金属気相成長のためのガリウム原料、インジウム原料、アルミニウム原料、及び窒素原料として、それぞれ、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)及びアンモニアを用いた。n型及びp型ドーパントとして、SiH及びCpMgを用いた。図7には、主要な製造条件が示されている。GaNウエハ41を準備した。引き続き、図7及び図8を参照しながら、LED構造の作製を説明する。GaNウエハ41の主面はGaNウエハ41のc面に対して75度の角度で傾斜している。GaNウエハ41を成長炉に配置した後に、アンモニア及び水素の雰囲気中で熱処理を行った。熱処理温度は摂氏1050度であり、熱処理時間は10分程度であった。
【0074】
熱処理の後に、TMG(24.4μmol/分)、TMA(4.3μmol/分)、NH(5slm)、SiHを成長炉に供給して、GaNウエハ41上にn型AlGaN層43を摂氏1100度で成長した。n型AlGaN層43の厚さは50nmであった。n型AlGaN層43の成長速度は9.8nm/分であった。n型AlGaN層43のAl組成は0.12であった。
【0075】
次いで、TMG(243.8μmol/分)、NH(7.5slm)、SiHを成長炉に供給して、n型AlGaN層43上にn型GaN層45を摂氏950度で成長した。n型GaN層45の厚さは2000nmであった。n型GaN層45の成長速度は129.6nm/分であった。
【0076】
TMG(24.4μmol/分)、TMI(2.1μmol/分)、NH(6slm)、SiHを成長炉に供給して、n型InGaN層47をn型GaN層45上に摂氏840度で成長した。n型InGaN層47の厚さは100nmであった。n型InGaN層47の成長速度は6.7nm/分であった。n型InGaN層47のIn組成は0.02であった。
【0077】
次いで、活性層49を成長した。TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層49aをn型InGaN層47上に摂氏870度で成長した。アンドープGaN層49aの厚さは15nmであった。GaN層49aの成長速度は6.7nm/分であった。
【0078】
続けて、成長炉の温度を摂氏870度から摂氏745度に変更した。TMG(15.6μmol/分)、TMI(58.0μmol/分)、NH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープInGaN層49bをGaN層49a上に摂氏745度で成長した。InGaN層49bの厚さは2.5nmであった。InGaN層49bの成長速度は3.6nm/分であった。アンドープInGaN層47のIn組成は0.20であった。
【0079】
次いで、成長炉の温度を摂氏745度に維持しながら、TMG(15.6μmol/分)、NH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層49cをInGaN層49b上に摂氏745度で成長した。GaN層49cの厚さは1nmであった。GaN層49cの成長速度は例えば3.6nm/分であった。
【0080】
アンドープGaN層49cを成長した後に、成長炉の温度を摂氏745度から摂氏870度に変更した。この後に、TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層49dをGaN層49c上に摂氏870度で成長した。GaN層49dの厚さは14nmであった。GaN層49dの成長速度は6.7nm/分であった。
【0081】
井戸層49b、保護層49c及び障壁層49dの成長を繰り返して、活性層49を形成した。この後に、TMG(13.0μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層(N2−GaN層)51を活性層49上に摂氏870度で成長した。GaN層51の厚さは3nmであった。GaN層51の成長速度は4.5nm/分であった。また、TMG(98.7μmol/分)、NH(5slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層53をGaN層51上に摂氏1100度で成長した。GaN層53の厚さは10nmであった。GaN層53の成長速度は60.0nm/分であった。
【0082】
次いで、TMG(24.4μmol/分)、TMA(2.3μmol/分)、NH(6slm)、CpMgを成長炉に供給して、p型AlGaN層55をGaN層53上に摂氏1100度で成長した。AlGaN層55の厚さは20nmであった。AlGaN層55の成長速度は5.9nm/分であった。p型AlGaN層55のAl組成は0.07であった。
【0083】
TMG(98.7μmol/分)、NH(5slm)、CpMgを成長炉に供給して、p型GaN層57をp型AlGaN層55上に摂氏1100度で成長した。GaN層57の厚さは25nmであった。GaN層57の成長速度は58.2nm/分であった。また、TMG(67.0μmol/分)、NH(5slm)、CpMgを成長炉に供給して、p型GaN層59をp型GaN層57上に摂氏1100度で成長した。GaN層59の厚さは25nmであった。GaN層59の成長速度は36.3nm/分であった。これらの工程によってエピタキシャルウエハが作製された。このエピタキシャルウエハ上にアノード61a及びカソード61bを形成した。図8に示されるLEDが得られた。図8には、オフ角75度を示すc面Scが描かれており、c軸、a軸およびm軸の示す結晶座標系CR並びにX軸、Y軸およびZ軸の示す位置座標系Sが示されている。Z軸が半導体積層の方向であり、この方向はc軸の方向と異なる。
【0084】
また、GaNウエハ41とは別に、(0001)面サファイア基板を準備した。このサファイア基板に適切な製造条件を用いて、GaNウエハを用いたエピタキシャルウエハの構造と同じ半導体積層構造を成長した。サファイア基板を用いたエピタキシャルウエハの主要な製造条件等を説明する。サファイア基板を成長炉に配置した後に、水素雰囲気中で熱処理を行った。熱処理温度は摂氏1100度であり、熱処理時間は10分程度であった。熱処理の後に、TMG(49μmol/分)、NH(5slm)を成長炉に供給して、サファイア基板上にアンドープGaN層を摂氏500度で成長した。次いで、TMG(243.8μmol/分)、NH(5.0slm)、SiHを成長炉に供給して、アンドープGaN層の上にn型GaN層を摂氏950度で成長した。n型GaN層の厚さは5000nmであった。n型GaN層の成長速度は129.6nm/分であった。井戸層および保護層は摂氏760度で成長した。他の製造条件はGaN基板上と同じである。
【0085】
GaNウエハを用いたエピタキシャルウエハ及びサファイア基板を用いたエピタキシャルウエハは、共に、井戸層上に薄い(1nm程度)の保護層を有する点で同じ構造を有するけれども、これらのエピタキシャルウエハの井戸層の表面は、それぞれ、c面及び半極性面(オフ角75度)である点で異なる。これらのエピタキシャルウエハのフォトルミネッセンススペクトル(PL)を測定した。図9は、代表的な条件で作製された発光素子のPLスペクトルPL1、PL2を示す図面である。これらのPLスペクトルと井戸層の成膜条件とを示す。
PL名称、 成膜温度T、成膜温度T、半値全幅、ピーク波長;
PL1(半極性):745度、 745度、34nm、508nm;
PL2(c面) :760度、 760度、79nm、507nm。
この実施例の成長方法では、図9の結果によれば、保護層の膜厚が薄いので、昇温中の井戸層保護効果が弱い。よって、c面上の井戸層では、半導体結晶の分解が生じ、PLスペクトルの半値全幅はブロードになる。一方、オフ角75度のGaNウエハ上の井戸層は、c面上の井戸層に比べて、井戸層の分解が起こりにくく、良好な発光特性を示す。
【0086】
(実施例2):レーザ構造
GaNウエハ41を準備した。GaNウエハ41を成長炉に配置した後に、アンモニア及び水素の雰囲気中で熱処理を行った。熱処理温度は摂氏1100度であり、熱処理時間は約10分であった。図10には、主要な製造条件が示される。
【0087】
熱処理の後に、TMG(98.7μmol/分)、TMA(8.2μmol/分)、NH(6slm)、SiHを成長炉に供給して、クラッド層のためのn型AlGaN層81をGaNウエハ41上に摂氏1150度で成長した。n型AlGaN層81の厚さは2000nmであった。n型AlGaN層81の成長速度は46.0nm/分であった。n型AlGaN層81のAl組成は0.04であった。
【0088】
次いで、TMG(98.7μmol/分)、NH(5slm)、SiHを成長炉に供給して、n型AlGaN層81上にn型GaN層83を摂氏1150度で成長した。n型GaN層83の厚さは50nmであった。n型GaN層83の成長速度は58.0nm/分であった。
【0089】
TMG(24.4μmol/分)、TMI(4.6μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、光ガイド層のためのアンドープInGaN層85aをn型GaN層83上に摂氏840度で成長した。アンドープInGaN層85aの厚さは50nmであった。n型InGaN層85aの成長速度は6.7nm/分であった。アンドープInGaN層85aのIn組成は0.05であった。
【0090】
活性層87を成長した。TMG(24.4μmol/分)、TMI(1.6μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、障壁層のためのアンドープInGaN層87aをアンドープInGaN層85a上に摂氏870度で成長した。InGaN層87aの厚さは15nmであった。InGaN層87aの成長速度は6.7nm/分であった。アンドープInGaN層87aのIn組成は0.01であった。
【0091】
次いで、成長炉の温度を摂氏870度から摂氏745度に変更した。この後に、TMG(15.6μmol/分)、TMI(29.0μmol/分)、NH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープInGaN層87bをInGaN層87a上に摂氏745度で成長した。InGaN層87bの厚さは3nmであった。InGaN層87bの成長速度は3.1nm/分であった。アンドープInGaN層87bのIn組成は0.25であった。
【0092】
次いで、成長炉の温度を摂氏745度に維持しながら、TMG(15.6μmol/分)、TMI(0.3μmol/分)、NH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層87cをInGaN層87b上に摂氏745度で成長した。GaN層87cの厚さは1nmであった。GaN層87cの成長速度は3.1nm/分であった。
【0093】
アンドープGaN層87cを成長した後に、成長炉の温度を摂氏745度から摂氏870度に変更した。この後に、TMG(24.4μmol/分)、TMI(1.6μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、アンドープInGaN層87dをInGaN層87c上に摂氏870度で成長した。InGaN層87dの厚さは14nmであった。GaN層87dの成長速度は6.7nm/分であった。
【0094】
井戸層87b、保護層87c及び障壁層87dの成長を繰り返して、活性層87を形成した。この後に、TMG(13.0μmol/分)、TMI(4.6μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、光ガイド層のためのアンドープInGaN層85bを活性層87上に摂氏840度で成長した。InGaN層85bの厚さは50nmであった。GaN層85bの成長速度は6.7nm/分であった。次いで、TMG(98.7μmol/分)、NH(5slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層(アンドープGaN層)89をInGaN層85b上に摂氏1100度で成長した。GaN層89の厚さは50nmであった。GaN層89の成長速度は58.0nm/分であった。
【0095】
次いで、TMG(16.6μmol/分)、TMA(2.8μmol/分)、NH(6slm)、CpMgを成長炉に供給して、p型AlGaN層91をGaN層89上に摂氏1100度で成長した。AlGaN層91の厚さは20nmであった。AlGaN層91の成長速度は4.9nm/分であった。p型AlGaN層91のAl組成は0.18であった。
【0096】
TMG(36.6μmol/分)、TMA(3.0μmol/分)、NH(6slm)、CpMgを成長炉に供給して、p型AlGaN層93をp型AlGaN層91上に摂氏1100度で成長した。AlGaN層93の厚さは400nmであった。AlGaN層93の成長速度は13.0nm/分であった。また、TMG(34.1μmol/分)、NH(5slm)、CpMgを成長炉に供給して、p型GaN層95をp型GaN層93上に摂氏1100度で成長した。GaN層95の厚さは50nmであった。p型GaN層95の成長速度は18.0nm/分であった。これらの工程によってエピタキシャルウエハが作製された。このエピタキシャルウエハ上にアノード97a及びカソード97bを形成した。図11に示される半導体ダイオードが得られた。アノード電極97aは、10マイクロメートル幅のストライプ窓を有する絶縁膜を介してp型GaN層95に電気的に接続される。アノード電極97aはNi/Auからなり、カソード97bはTi/Al/Auからなる。図11には、オフ角75度を示すc面Scが描かれており、c軸、a軸およびm軸の示す結晶座標系CR並びにX軸、Y軸およびZ軸の示す位置座表系Sが示されている。Z軸が半導体積層の方向であり、この方向はc軸と異なる向きである。a面において劈開して、600マイクロメートル長のレーザバーを作製した。発振波長は520nmであり、しきい値電流は900mAであった。
【0097】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、窒化物系半導体発光素子の活性層21aを作製する。以下、活性層21aの量子井戸構造を作製する手順を、図12を参照しながら詳細に説明する。図12は、活性層の形成における原料ガス及び成長炉の温度の変化を表すタイムチャートである。成長炉の温度とは、例えば成長炉のサセプタといった成長炉内の部材の温度のことを意味する。時刻s0において、活性層の下地となる窒化ガリウム系半導体の堆積が完了する。時刻s0〜s1の期間において、成長炉10の温度を、活性層のための半導体成長のための温度に変更する。第1の実施の形態と同様に、工程S104を窒化ガリウム系半導体からなるエピタキシャル半導体領域23を形成する。この成長は、時刻s1〜s2の間に成長温度Tで成長される。GaN障壁層DB1の厚さは例えば15nmである。エピタキシャル半導体領域23の表面は、主面13aの表面構造を引き継いでいる。時刻s2で、ガリウム原料の供給を停止して窒化ガリウム系半導体の堆積を停止させる。工程S105では、井戸層を成長する前に成長温度Tから成長温度Tに成長炉の温度を変更する。温度の変更は、時刻s2〜s4の間に行われる。障壁層の成長における窒素源の供給量が、井戸層の成長における窒素源の供給量と異なるとき、時刻s2〜s3の間に、窒素源の供給量を変更して井戸層の成長における窒素源の供給量に合わせる。時刻s4で、成長炉10の温度が井戸層の成長温度Tに到達する。第1の実施の形態と同様に、工程S106において、成長炉10の温度を井戸層成長温度Tに保ちながら、半極性主面23a上に時刻s4〜s5の期間で量子井戸構造のための井戸層65aを成長する。井戸層65aの主面は、エピタキシャル半導体領域23の主面上にエピタキシャルに成長されるので、井戸層65aの表面は、エピタキシャル半導体領域23の表面構造を引き継ぐ。また、エピタキシャル半導体領域23の主面の傾斜角に応じて、窒化ガリウム系半導体のc面から10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜している。InGaN井戸層の厚さDは例えば4nmである。
【0098】
時刻s5で、井戸層65aの成長が完了する。工程S207では、第2の障壁層69aの成長温度Tへ温度Tから温度を変更する。この昇温は、例えば時刻s5〜時刻s6の期間に行われる。この昇温中における井戸層65aの劣化を防ぐために、井戸層65aの表面を覆うように保護層67aを成長する。井戸層65aの成長完了の直後に、井戸層65aの主面を覆う保護層67aの成長が開始される。保護層67aの成長期間の温度変更は、時間と共に温度上昇速度を小さくして、時刻s5〜s6の間の温度プロファイルは上に凸の形状を成す。この昇温プロファイルによって、成長温度Tまでの到達安定時間を短くすることができ、井戸層の劣化を抑制することができる。
【0099】
保護層67aは、保護層27aと同様に、井戸層65aの材料よりも大きいバンドギャップを有する窒化ガリウム系半導体からなる。時刻s5〜時刻s6の全期間にわたって、上記の窒化ガリウム系半導体からなる保護層67aがエピタキシャルに成長される。保護層67aの厚さは障壁層69aの厚さよりも薄い。また、保護層67aの厚さは井戸層65aの厚さよりも薄い。保護層67aは、障壁層69aの成長速度よりも小さい成長速度で成長される。例えばガリウム原料の供給量を減少させて成長速度を調整すると共に、時刻s5〜時刻s6の期間で窒素原料の供給量を減少させる。本実施例では、保護層67aは障壁層23と同じ材料からなり、GaNである。保護層67aをGaN、障壁層23をInGa1−YN(インジウム組成Y:0≦Y<1、Yは歪み組成)としてもよい。保護層67aの厚さDは例えば2.5nmである。保護層67aは井戸層65aの主面上にエピタキシャルに成長されるので、保護層67aの表面は、井戸層65aの表面構造を引き継ぐ。
【0100】
工程S208において、障壁層69aは、保護層67aの成長の後に続けて成長される。時刻s6において、成長炉10の昇温が完了する。保護層27aを成長した後に、成長炉10の温度を成長温度Tに保ちながら、時刻s6〜s7で、窒化ガリウム系半導体からなる障壁層69aを成長する。成長温度Tは、良好な結晶品質を有する障壁層を成長を可能にする第1の温度T以上である。保護層67a〜67cの成長温度Tは、井戸層成長温度T以上第1の温度T以下の温度範囲であり、本実施例では保護層67a〜67cの成長温度Tは成長温度Tより大きい。障壁層69aの厚さDB2及び井戸層65aの厚さDは保護層67aの厚さDよりも大きい。井戸層及び障壁層でもない保護層67aを薄くして、障壁層69aの厚さを大きくできる。本実施例では、障壁層69aは例えばGaNからなり、障壁層69aの厚さDB2は例えば12.5nmである。障壁層69aの主面は、保護層67aの主面上にエピタキシャルに成長されるので、障壁層69aの表面は、井戸層65aの表面構造を引き継いでいる。
【0101】
同様にして、図12に示されるように、活性層21aを形成する。工程S209で、温度Tから温度Tへの降温(期間s7〜s8〜s9)、井戸層の成長(期間s9〜s10)、温度Tから温度Tへの昇温及び保護層の成長(期間s10〜s11)及び障壁層の成長(期間s11〜s12)を繰り返して、量子井戸構造を完成させる。図12に示されるように、量子井戸構造は、障壁層23、69a〜69c、井戸層65a〜65c、保護層67a〜67cを含む。保護層67a〜67cの膜厚Dは例えば0.5nm以上5nm以下である。
【0102】
この方法によれば、井戸層65aの成長完了の直後に、保護層67aは、成長炉10の温度を成長温度Tへ成長温度Tから昇温しながら成長される。保護層67a〜67cを成長しながら成長炉10の温度が昇温されるので、半極性を示す主面を有する井戸層65a〜65cの分解は、c面主面上に成長された井戸層に比べて生じにくい。また、昇温中に保護層67a〜67cの成長が行われるので、井戸層65a〜65cが高温にさらされる期間が短縮される。
【0103】
また、第1の実施の形態によれば、井戸層25a〜25cの成長完了の直後に、井戸層成長温度Tで薄い保護層27a〜27cを成長している。故に、井戸層65aを保護する保護層の能力は、保護層67aを成長中に比較的に低い温度で成長される保護層67aの一部分によっても発揮されると考えられる。したがって、昇温期間の後半の成長期間を成長無しの温度変更期間に置き換えても、保護層の保護能の全てが失われるものではない。
【0104】
例えば、成長炉10の温度を成長温度Tより小さい中間温度Tへ成長温度Tから昇温しながら、保護層を成長するようにしてもよい。当該方法は、保護層を成長した後に、窒化ガリウム系半導体を成長することなく、成長炉10の温度を上記の中間温度Tから成長温度Tに向けて昇温する工程を更に設けることができる。この温度プロファイルにおいて、成長温度Tから中間温度Tへの平均昇温速度は、中間温度Tから成長温度Tへの平均昇温速度より大きい。この方法によれば、保護層を成長する期間の温度変更速度が大きいので、保護層は、成長期間が進むにつれてより高い温度で成膜される。故に、良好な結晶品質の保護層が成長可能である。
【0105】
(実施例3):オフ角75度
GaNウエハを準備した。GaNウエハの主面は、GaNウエハのc面に対して75度の角度で傾斜している。GaNウエハを成長炉に配置した後に、アンモニア及び水素の雰囲気中で熱処理を行った。熱処理温度は摂氏1050度であり、熱処理時間は10分程度であった。活性層の成長条件の他は、図7に示された条件を用いた。
【0106】
活性層の成膜条件として以下のものを用いた。TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、n型InGaN層上にアンドープGaN層(障壁層)を摂氏860度で成長した。GaN障壁層の厚さは15nmであった。このGaN層の成長速度は6.7nm/分であった。
【0107】
次いで、成長炉の温度を摂氏860度から摂氏750度に変更した。温度変更が完了した後に、摂氏750度において、TMG(15.6μmol/分)、TMI(58.0μmol/分)、NH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープInGaN層(井戸層)をGaN障壁層上に成長した。InGaN層の厚さは4nmであった。InGaN井戸層の成長速度は5nm/分であった。n型InGaN井戸層47のIn組成は0.20であった。
【0108】
InGaN井戸層を成長した後に、成長炉の温度を摂氏750度から摂氏860度に変更しながら、GaN保護層を成長した。原料ガスの条件は、TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給された。GaN保護層の厚さは2.5nmであった。GaN保護層の平均成長速度は0.8nm/分であった。
【0109】
GaN保護層を成長した後に、成長炉の温度を摂氏860度に保ちながら、GaN障壁層を成長した。原料ガスの条件は、TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給された。GaN障壁層の厚さは12.5nmであった。GaN保護層の平均成長速度は6.7nm/分であった。
【0110】
InGaN井戸層、GaN保護層及びGaN障壁層の成長を繰り返して、活性層を形成した。この後に、p型窒化ガリウム系半導体領域を実施例1と同様に作製した。
【0111】
また、GaNウエハとは別に、実施例1と同様に、(0001)面サファイア基板を準備した。このサファイア基板に適切な製造条件を用いて、GaNウエハを用いたエピタキシャルウエハの構造と同じ半導体積層構造を成長した。サファイア基板を用いたエピタキシャルウエハの主要な製造条件を説明する。サファイア基板を成長炉に配置した後に、水素雰囲気中で熱処理を行った。熱処理温度は摂氏1100度であり、熱処理時間は10分程度であった。熱処理の後に、TMG(49μmol/分)、NH(5slm)を成長炉に供給して、サファイア基板上にアンドープGaN層を摂氏500度で成長した。次いで、TMG(243.8μmol/分)、NH(5.0slm)、SiHを成長炉に供給して、アンドープGaN層の上にn型GaN層を摂氏950度で成長した。n型GaN層の厚さは5000nmであった。n型GaN層の成長速度は129.6nm/分であった。井戸層は摂氏760度で成長した。他の製造条件はGaN基板上と同じである。
【0112】
GaNウエハを用いたエピタキシャルウエハ及びサファイア基板を用いたエピタキシャルウエハは、共に、全昇温期間において成長された保護層(厚さ2.5nm)を井戸層上に有する点で同じ構造を有するけれども、これらのエピタキシャルウエハの井戸層の表面は、それぞれ、c面及び半極性面(オフ角75度)である点で異なる。これらのエピタキシャルウエハのPLスペクトルを測定した。図13は、代表的な条件で作製された発光素子のPLスペクトルPL3、PL4を示す図面である。これらのPLスペクトルと井戸層の成膜条件とを示す。
PL名称、 成膜温度T、成膜温度T、半値全幅、ピーク波長;
PL3(半極性):750度、 昇温しながら、30nm、503nm;
PL4(c面) :760度、 昇温しながら、53nm、529nm。
この実施例の成長方法では、図13(a)を参照すると、PL1とPL3との比較により、保護層の厚みが増えたことによって昇温に対する保護能が向上したことを示している。また、PL3の半値全幅はPL1の半値全幅よりも狭くなり、PLスペクトルは、PL1に比べてさらに鋭くなり、またPL強度も向上した。図13(b)を参照すると、PL3とPL4との比較により、c面上の井戸層では、半導体結晶の分解が生じ、PLスペクトルの半値全幅はブロードになる。一方、オフ角75度のGaNウエハ上の井戸層は、c面上の井戸層に比べて、井戸層の分解が起こりにくく、良好な発光特性を示す。
【0113】
(実施例4):オフ角58度
GaNウエハを準備した。GaNウエハの主面は該ウエハのc面に対して58度の角度で傾斜する。GaNウエハを成長炉に配置した後に、アンモニア及び水素の雰囲気中で熱処理を行った。熱処理温度は摂氏1050度であり、熱処理時間は10分程度であった。活性層の成長条件の他は図7に示された条件を用いた。
【0114】
活性層の成膜条件として以下のものを用いた。TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、n型InGaN層上にアンドープGaN層(障壁層)を摂氏860度で成長した。GaN障壁層の厚さは15nmであった。このGaN層の成長速度は6.7nm/分であった。
【0115】
次いで、成長炉の温度を摂氏860度から摂氏770度に変更した。温度変更が完了した後に、摂氏770度において、TMG(15.6μmol/分)、TMI(29.0μmol/分)、NH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープInGaN層(井戸層)をGaN障壁層上に成長した。InGaN層の厚さは2.7nmであった。InGaN井戸層の成長速度は5nm/分であった。n型InGaN層47のIn組成は0.20であった。
【0116】
InGaN井戸層の成長後に、成長炉の温度を摂氏770度から摂氏860度に変更しながら、GaN保護層を成長した。原料ガスの条件は、TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給された。GaN保護層の厚さは2.5nmであった。GaN保護層の平均成長速度は0.8nm/分であった。
【0117】
GaN保護層を成長した後に、成長炉の温度を摂氏860度に保ちながら、GaN障壁層を成長した。原料ガスの条件は、TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給された。GaN障壁層の厚さは12.5nmであった。GaN障壁層の平均成長速度は6.7nm/分であった。
【0118】
InGaN井戸層、GaN保護層及びGaN障壁層の成長を繰り返して、活性層を形成した。この後に、p型窒化ガリウム系半導体領域を実施例1と同様に作製した。図14にPLスペクトルを示す。
PL名称、 成膜温度T、成膜温度T、半値全幅、ピーク波長;
PL5(半極性):770度、 昇温しながら、42nm、506nm;
PL4(c面) :760度、 昇温しながら、53nm、529nm。
この実施例の成長方法では、PL1とPL5との比較により、保護層の厚みが増えたことによって昇温に対する保護能が向上した。また、PL5の半値全幅はPL4の半値全幅よりも狭くなり、PL5のスペクトル形状は、PL4に比べてさらに鋭くなり、またPL強度も向上した。PL4とPL5との比較により、c面上の井戸層では、半導体結晶の分解が生じ、PLスペクトルの半値全幅はブロードになる。一方、オフ角58度のGaNウエハ上の井戸層は、c面上の井戸層に比べて、井戸層の分解が起こりにくく、良好な発光特性を示す。
【0119】
(第3の実施の形態)
本実施の形態では、窒化物系半導体発光素子の活性層21bを作製する。以下、活性層21bの量子井戸構造を作製する手順を、図15を参照しながら詳細に説明する。図15は、活性層の形成における原料ガス及び成長炉の温度の変化を表すタイムチャートである。成長炉の温度とは、例えば成長炉のサセプタといった成長炉内の部材の温度のことを意味する。時刻u0において、活性層の下地となる窒化ガリウム系半導体の堆積が完了する。時刻u0〜u1の期間において、成長炉10の温度を、活性層のための半導体成長のための温度に変更する。第1の実施の形態と同様に、工程S104を窒化ガリウム系半導体からなるエピタキシャル半導体領域23を形成する。この成長は、時刻u1〜u2の間に成長温度Tで成長される。GaN障壁層DB1の厚さは例えば15nmである。エピタキシャル半導体領域23の表面は、主面13aの表面構造を引き継いでいる。時刻u2で、ガリウム原料の供給を停止して窒化ガリウム系半導体の堆積を停止させる。工程S105では、井戸層を成長する前に成長温度Tから成長温度Tに成長炉の温度を変更する。温度の変更は、時刻u2〜u4の間に行われる。時刻u2〜u3の間に、窒素源の供給量を変更して井戸層の成長における窒素源の供給量に合わせる。時刻u4で、成長炉10の温度が井戸層の成長温度Tに到達する。第1の実施の形態と同様に、工程S106において、成長炉10の温度を井戸層成長温度Tに保ちながら、半極性主面23a上に時刻u4〜u5の期間で量子井戸構造のための井戸層75aを成長する。井戸層75aは、エピタキシャル半導体領域23の主面上にエピタキシャルに成長されるので、井戸層75aの表面は、エピタキシャル半導体領域23の表面構造を引き継ぐ。InGaN井戸層の厚さDは例えば3nmである。
【0120】
時刻u5で井戸層75aの成長が完了する。工程S307では、第2の障壁層79aの成長温度Tへ温度Tから温度を変更する。この昇温は、例えば時刻u5〜時刻u7の期間に行われる。この昇温中における井戸層65aの劣化を防ぐために、井戸層75aの表面を覆うように保護層77aをの時刻u5〜時刻u6の期間に成長する。井戸層75aの成長完了の直後に、井戸層75aの主面を覆う保護層77aの成長が開始される。保護層77aの成長期間の温度変更は、時間と共に温度上昇速度を小さくして、時刻u5〜u6の間の温度プロファイルは上に凸の形状を成す。この昇温プロファイルにより、成長温度Tまでの到達安定時間を短くすることができ、井戸層の劣化を抑制することができる。保護層77aは、保護層27aと同様に、井戸層75aの材料よりも大きいバンドギャップを有する窒化ガリウム系半導体からなる。時刻u5〜時刻u6の全期間にわたって、保護層77aがエピタキシャルに成長される。保護層77aの厚さは障壁層79aの厚さよりも薄い。また、保護層77aの厚さは井戸層75aの厚さよりも薄い。保護層77aは障壁層79aの成長速度よりも小さい成長速度で成長される。例えば時刻u5〜u7の期間で窒素原料の供給量を減少させると共にガリウム原料の供給量を減少させて成長速度を調整する。本実施例では、保護層77aは障壁層23と同じ材料からなり、GaNである。保護層77aの厚さDは例えば1.1nmである。保護層77aは井戸層75aの主面上にエピタキシャルに成長されるので、保護層77aの表面は井戸層75aの表面構造を引き継ぐ。
【0121】
工程S308において、障壁層79aは、保護層77aの成長の後に続けて成長される。時刻u6においても、成長炉10の昇温が引き続き行われる。保護層77aを成長した後に、成長炉10の温度を成長温度Tに向けて上昇させながら、時刻u6〜u7で、窒化ガリウム系半導体からなる障壁層79aを成長する。成長温度Tは、良好な結晶品質を有する障壁層の成長を可能にする第1の温度T以上である。保護層77a、77b、77cの成長温度Tは、井戸層成長温度T以上第1の温度T以下の温度範囲であり、本実施例では、保護層77a〜77cの成長温度Tは成長温度Tより大きい。障壁層79aの厚さDB2は保護層77aの厚さDよりも大きい。井戸層及び障壁層でもない保護層77aを薄くして、障壁層79aの厚さを大きくできる。本実施例では、障壁層79aは例えばGaNからなり、障壁層79aの厚さDB2は例えば13.9nmである。障壁層79aの主面は、保護層77aの主面上にエピタキシャルに成長されるので、障壁層79aの表面は、井戸層75aの表面構造を引き継ぐ。
【0122】
図15に示されるように、同様にして活性層21bの形成を続ける。工程S309で、温度Tから温度Tへの降温(期間u7〜u8〜u9)、井戸層の成長(期間u9〜u10)、温度Tから温度Tへの昇温及び保護層の成長(期間u10〜u11、u13〜u14)及び障壁層の成長(期間u11〜u12、u14〜u15)を繰り返して、量子井戸構造を完成させる。図15に示されるように、量子井戸構造は、障壁層23、79a〜79c、井戸層75a〜75c、保護層77a〜77cを含む。保護層77a〜77cの膜厚Dは0.5nm以上5nm以下であることができる。
【0123】
保護層77a〜77cは、それぞれ、井戸層75a〜75cの成長完了の直後に、成長炉10の温度を成長温度Tへ成長温度Tから昇温しながら成長される。保護層77a〜77cを成長しながら成長炉10の温度が昇温されるので、半極性を示す主面を有する井戸層75a〜75cの分解は、c面主面上に成長された井戸層に比べて生じにくい。また、昇温中に保護層77a〜77c及び障壁層79a〜79cの成長が行われるので、井戸層75a〜75cが高温にさらされる期間が短縮される。本実施の形態の温度プロファイルにおいて、成長温度Tから温度Tへの平均昇温速度は、温度Tから成長温度Tへの平均昇温速度より大きい。この方法によれば、保護層を成長する期間の温度変更速度が大きいので、保護層は、成長期間が経過するにつれて、より高い温度で成膜される。故に、良好な結晶品質の保護層が成長可能である。
【0124】
(実施例5):オフ角75度
GaNウエハを準備した。GaNウエハの主面は該ウエハのc面に対して75度の角度で傾斜する。GaNウエハを成長炉に配置した後に、アンモニア及び水素の雰囲気中で熱処理を行った。熱処理温度は摂氏1050度であり、熱処理時間は10分程度であった。活性層の成長条件の他は図7に示された条件を用いた。
【0125】
活性層の成膜条件として以下のものを用いた。TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給して、n型InGaN層上にアンドープGaN層(障壁層)を摂氏870度で成長した。GaN障壁層の厚さは15nmであった。このGaN層の成長速度は6.7nm/分であった。
【0126】
次いで、成長炉の温度を摂氏870度から摂氏745度に変更した。温度変更が完了した後に、摂氏750度において、TMG(15.6μmol/分)、TMI(58.0μmol/分)、NH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープInGaN層(井戸層)をGaN障壁層上に成長した。InGaN層の厚さは4nmであった。InGaN井戸層の成長速度は3.6nm/分であった。InGaN層のIn組成は0.20であった。
【0127】
InGaN井戸層を成長した後に、成長炉の温度を摂氏750度から摂氏850度に変更しながら、GaN保護層を成長した。原料ガスの条件は、TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給された。GaN保護層の厚さは1.1nmであった。GaN保護層の平均成長速度は1.1nm/分であった。
【0128】
GaN保護層を成長した後に、成長炉の温度を摂氏850度から摂氏870度に変更しながら、GaN障壁層を成長した。原料ガスの条件は、TMG(24.4μmol/分)、NH(6slm)を成長炉に供給された。GaN障壁層の厚さは13.9nmであった。GaN障壁層の平均成長速度は6.7nm/分であった。
【0129】
InGaN井戸層、GaN保護層及びGaN障壁層の成長を繰り返して、活性層を形成した。この後に、p型窒化ガリウム系半導体領域を実施例1と同様に作製した。
PL名称、 成膜温度T、成膜温度T、半値全幅、ピーク波長;
PL6(半極性):745度、 昇温しながら、35nm、526nm;
PL7(c面) :760度、 昇温しながら、45nm、531nm。
この実施例の成長方法では、図16を参照すると、PL1とPL6との比較により、保護層の厚みが増えたことによって昇温に対する保護能が向上した。また、PL6の半値全幅はPL7の半値全幅よりも狭くなり、PL6のスペクトル形状は、PL7に比べてさらに鋭くなり、またPL強度も向上した。図16を参照すると、PL6とPL7との比較により、c面上の井戸層では、半導体結晶の分解が生じ、PLスペクトルの半値全幅はブロードになる。一方、オフ角75度のGaNウエハ上の井戸層は、c面上の井戸層に比べて、井戸層の分解が起こりにくく、良好な発光特性を示す。昇温中に、障壁層を成長するので、エピタキシャル成長に必要な時間を短縮することができると共に、井戸層の分解抑制効果をさらに強くすることができる。障壁層の一部を温度T以下の低温で成長するので、c面基板上の量子井戸構造の結晶品質が良好ではなくなり、発光特性が悪化する。また、半極性面を用いることによって、ピエゾ電界の影響が低減される。
【0130】
図17は、インジウム取り込む量のオフ角依存性を示す図面である。
データ名、オフ角、インジウム組成
P1: 43度、4.3パーセント
P2: 62度、22.7パーセント
P3: 75度、19.6パーセント
P4: 90度、23.1パーセント。
c面に対して傾斜する主面のGaNウエハでは、オフ角に応じて、インジウム取り込む量が変化している。発明者らの知見によれば、オフ角が50度以上80度未満では、インジウムの取り込み量が大きい。故に、InGaN井戸層が高温にさらされても、井戸層の分解は生じにくいと考えられる。
【0131】
NH雰囲気中においてはエピタキシャル成長中の最表面では、最表面のIII族原子にNHが結合した状態であると考えられる。c面上においては、このNHは1個のIII族原子としか結合できないので、c面上に成長されたInGaNは熱分解が生じやすい。一方、半極性面上では、NHは2個以上のIII族原子と結合することができ、また2個以上のIII族原子と結合する割合がc面に比べて格段に高くなる。故に、半極性面上では構成元素同士の結合が強くなり、c面上のInGaNに比べて、半極性面上のInGaNの熱分解が生じにくい。したがって、半極性面におけるInGaN井戸層の表面は、c面上のInGaN井戸層の表面と違う。
【0132】
また、50度より大きく80度未満の範囲内のオフ角に対応する半導体面、例えば(20−21)面ではテラス幅が狭いので、Inがテラス上で取り込まれたとき十分なInマイグレーションは生じない。このため、成長中断中も原子の堆積時にInが吸着された場所にとどまりやすく、井戸層の分解が起こりにくい。
【0133】
利用可能な材料に関して、井戸層/保護層/障壁層の組み合わせを例えば以下のものである。井戸層/保護層/障壁層の順に記載するとき、InGaN/InGaN/GaN、InGaN/GaN/InGaN、InGaN/InGaN/InGaN等の組み合わせが例示される。
【0134】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1は、本実施の形態に係る窒化物系半導体光素子を製造する方法及びエピタキシャルウエハを製造する方法における主要な工程を示す図面である。
【図2】図2は、本実施の形態に係る窒化物系半導体光素子を製造する方法及びエピタキシャルウエハを製造する方法における主要な工程を示す図面である。
【図3】図3は、本実施の形態に係る窒化物系半導体光素子を製造する方法及びエピタキシャルウエハを製造する方法における主要な工程を示す図面である。
【図4】図4は、本実施の形態に係る窒化物系半導体光素子を製造する方法及びエピタキシャルウエハを製造する方法における主要な工程を示す図面である。
【図5】図5は第1の実施の形態における、活性層の形成における原料ガス及び成長炉の温度の変化を表すタイムチャートである。
【図6】図6は実施の形態で使用可能なGaN基板の一構造を示す図面である。
【図7】図7は実施例1の主要な製造条件を示す図面である。
【図8】図8は実施例1の発光ダイオードの構造を示す図面である。
【図9】図9は実施例1のPLスペクトルを示す図面である。
【図10】図10は実施例2における主要な製造条件を示す図面である。
【図11】図11は実施例2のレーザダイオードの構造を示す図面である。
【図12】図12は、第2の実施の形態における、活性層の形成における原料ガス及び成長炉の温度の変化を表すタイムチャートである。
【図13】図13は、実施例3におけるPLスペクトルを示す図面である。
【図14】図14は、実施例4におけるPLスペクトルを示す図面である。
【図15】図15は、第3の実施の形態における、活性層の形成における原料ガス及び成長炉の温度の変化を表すタイムチャートである。
【図16】図16は、実施例5におけるPLスペクトルを示す図面である。
【図17】図17はm軸方向へc軸から規定された傾斜角(オフ角)のGaN主面上に堆積されたInGaNのIn組成とオフ角との関係を示す図面である。
【符号の説明】
【0136】
11…基板、11a…基板主面、11c…改質された主面、13…第1導電型窒化ガリウム系半導体領域、15、17、19…窒化ガリウム系半導体層、21、21a、21b…活性層、23…エピタキシャル半導体領域、29a〜29c、69a〜69c、79a〜79c…障壁層、25a〜25c、65a〜65c、75a〜75c…井戸層、27a〜27c、67a〜67c、77a〜77c…保護層、31…第2導電型窒化ガリウム系半導体領域、33…電子ブロック層、35、37…p型コンタクト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物系半導体光素子を製造する方法であって、
成長炉の温度を井戸層成長温度に保ちながら、半極性面の主面を有する窒化ガリウム系半導体領域上に、活性層のための井戸層を成長する工程と、
前記井戸層の成長完了の直後に、前記井戸層の主面を覆う保護層を成長する工程と、
前記保護層を成長した後に、前記保護層の主面上に前記活性層のための障壁層を障壁層成長温度で成長する工程と
を備え、
前記保護層の厚さは前記障壁層の厚さより小さく、
前記障壁層成長温度は前記井戸層成長温度より高く、
前記障壁層成長温度は、前記井戸層成長温度より大きな第1の温度以上であり、
前記障壁層の成長は、前記成長炉の温度が前記第1の温度に到達したときに開始され、
前記保護層の成長温度は、前記井戸層成長温度以上第1の温度未満の温度範囲であり、
前記井戸層は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなり、
前記障壁層は、前記井戸層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窒化物半導体からなり、
前記保護層は、前記井戸層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窒化ガリウム系半導体からなり、
前記井戸層の主面は半極性面を有し、
前記保護層の主面は半極性面を有し、
前記障壁層の主面は半極性面を有する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記保護層を成長した後に、成長することなく、前記成長炉の温度を前記井戸層成長温度から前記第1の温度に昇温する工程を更に備え、
前記保護層は、前記成長炉の温度の変更を開始する前に、前記井戸層成長温度で成長される、ことを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記保護層は、前記成長炉の温度を前記井戸層成長温度から昇温しながら成長される、ことを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項4】
前記保護層は、前記成長炉の温度を前記井戸層成長温度から前記第1の温度へ変更する全期間にわたって成長され、
前記障壁層は、前記保護層の成長の直後に続けて成長される、ことを特徴とする請求項3に記載された方法。
【請求項5】
前記保護層は、前記成長炉の温度を前記障壁層成長温度より小さい第2の温度へ前記井戸層成長温度から昇温する期間の少なくとも一部分において成長され、
当該方法は、前記保護層を成長した後に、窒化ガリウム系半導体を成長することなく、前記成長炉の温度を前記第2の温度から前記第1の温度に向けて昇温する工程を更に備え、
前記井戸層成長温度から前記第2の温度への平均昇温速度は、前記第2の温度から前記第1の温度への平均昇温速度より大きい、ことを特徴とする請求項3に記載された方法。
【請求項6】
前記障壁層成長温度は一定に保たれる、ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載された方法。
【請求項7】
前記障壁層の少なくとも一部分は、前記第1の温度から、前記第1の温度より大きな第3の温度に変更しながら成長される、ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載された方法。
【請求項8】
前記井戸層成長温度から前記第1の温度への平均昇温速度は、前記第1の温度から前記第3の温度への平均昇温速度よりも大きい、ことを特徴とする請求項7に記載された方法。
【請求項9】
前記保護層の成長におけるガリウム原料の供給量は、前記障壁層の成長におけるガリウム原料の供給量より小さい、ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載された方法。
【請求項10】
六方晶系半導体InAlGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T≦1)からなる基板を準備する工程を更に備え、
前記基板の前記主面は、該六方晶系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして10度以上85度以下の範囲の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載された方法。
【請求項11】
前記成膜に先立って、前記基板の前記主面に熱処理を行って前記基板に、改質された主面を形成する工程を更に備え、
前記熱処理は、アンモニア及び水素を含むガスの雰囲気中で行われ、
前記窒化ガリウム系半導体領域が、前記基板の前記改質された主面上に設けられる、ことを特徴とする請求項10に記載された方法。
【請求項12】
第1導電型窒化ガリウム系半導体領域を前記基板上にエピタキシャルに成長する工程を更に備え、
前記第1導電型窒化ガリウム系半導体領域の主面は、前記窒化ガリウム系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして50度より大きく80度未満の範囲の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載された方法。
【請求項13】
前記基板は、c軸方向に伸びる貫通転位の密度が第1の貫通転位密度より大きい複数の第1の領域と、c軸方向に伸びる貫通転位の密度が第1の貫通転位密度より小さい複数の第2の領域とを含み、
前記第1および第2の領域は交互に配置されており、
前記基板の前記主面には前記第1および第2の領域が現れている、ことを特徴とする請求項10〜請求項12のいずれか一項に記載された方法。
【請求項14】
前記第2の領域の前記貫通転位の密度は1×10cm−2未満である、ことを特徴とする請求項10〜請求項13のいずれか一項に記載された方法。
【請求項15】
前記基板は、GaNからなる、ことを特徴とする請求項10〜請求項14のいずれか一項に記載された方法。
【請求項16】
前記窒化ガリウム系半導体領域の前記主面は、窒化ガリウム系半導体領域のa軸方向に傾斜している、ことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載された方法。
【請求項17】
前記窒化ガリウム系半導体領域の前記主面は、窒化ガリウム系半導体領域のm軸方向に傾斜している、ことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載された方法。
【請求項18】
前記窒化ガリウム系半導体領域の前記主面は、窒化ガリウム系半導体領域の<12−30>軸方向に傾斜している、ことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載された方法。
【請求項19】
窒化物系半導体光素子のためのエピタキシャルウエハを製造する方法であって、
六方晶系半導体InAlGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T≦1)からなり、半極性の主面を有する基板を準備する工程と、
前記基板の主面上に、半極性面の主面を有する窒化ガリウム系半導体領域を形成する工程と、
成長炉の温度を井戸層成長温度に保ちながら、前記窒化ガリウム系半導体領域上に、活性層のための井戸層を成長させる工程と、
前記井戸層の主面を覆う保護層を成長する工程と、
前記保護層を成長した後に、前記保護層の主面上に前記活性層のための障壁層を障壁層成長温度で成長する工程と
を備え、
前記保護層の厚さは前記障壁層の厚さより小さく、
前記障壁層成長温度は前記井戸層成長温度より高く、
前記障壁層成長温度は前記井戸層成長温度より大きな第1の温度以上であり、
前記障壁層の成長は、前記成長炉の温度が前記第1の温度に到達したときに開始され、
前記保護層の成長温度は、前記井戸層成長温度以上であり第1の温度未満の温度範囲であり、
前記井戸層は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなり、
前記障壁層は、前記井戸層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窒化物半導体からなり、
前記保護層は、前記井戸層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窒化ガリウム系半導体からなり、
前記井戸層の主面は半極性面を有し、
前記保護層の主面は半極性面を有し、
前記障壁層の主面は半極性面を有する、ことを特徴とする方法。
【請求項20】
前記成膜に先立って、前記基板の前記主面に熱処理を行って前記基板に、改質された主面を形成する工程を更に備え、
前記熱処理は、アンモニア及び水素を含むガスの雰囲気中で行われ、
前記基板の前記主面は、該六方晶系半導体の{0001}面又は{000−1}面を基準にして50度より大きく80度未満の範囲の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項19に記載された方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−56158(P2010−56158A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217081(P2008−217081)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】