説明

筒内噴射式内燃機関の制御装置

【課題】 オイル希釈を抑制することができる筒内噴射式内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 筒内噴射式内燃機関の制御装置は、吸気ポート(24)から吸入された吸気が正タンブル流を形成する燃焼室(20)と、燃焼室の吸気ポート側に配置され、燃焼室へ直接燃料を噴射する燃料噴射弁(36)と、燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧を調整する燃圧調整手段と、燃焼室で発生する正タンブル流の強度を調整する気流調整弁(30)と、を備える筒内噴射式内燃機関に用いられる制御装置であって、筒内噴射式内燃機関が冷間時であり、吸気行程において要求される燃料噴射量を一括して吸気行程に噴射する1回噴射を行う場合には、燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して低燃圧になるように燃圧調整手段を制御し、燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように気流調整弁を制御することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筒内噴射式内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃焼室に燃料噴射弁から燃料を直接噴射する筒内噴射式内燃機関が開発されてきている。この筒内噴射式内燃機関においては、噴射装置から噴射された燃料噴霧が例えば燃焼室の壁面に付着することがある。この場合、特に冷間時にあっては、燃料噴霧の気化が促進され難いために、燃焼室の壁面に付着した燃料噴霧は、ピストンが上下運動するのに伴って掻き落とされ、オイルパンに戻されて潤滑油(オイル)と混ざり合う。その結果、燃料によるオイルの希釈(以下、オイル希釈と称する)が生じることが知られている。
【0003】
このオイル希釈を抑制するための技術が開示されている。例えば、特許文献1では、燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧を低下させる技術が開示されている。この場合、燃圧が低下することによって噴射された燃料噴霧の推進力は弱くなることから、燃料噴霧のペネトレーション(噴射到達距離)が低下する。それにより、噴射された燃料噴霧が燃焼室の壁面に付着することが抑制される。
【0004】
また、特許文献2では、燃圧を上げるとともにスワールコントロールバルブを閉じる技術が開示されている。この場合、燃圧が上昇することにより噴射された燃料噴霧の微粒化が促進される。それにより、燃料噴霧の運動量は低下する。その結果、燃料噴霧のペネトレーションが低下する。また、スワールコントロールバルブを閉じることにより燃焼室内におけるスワール流の強度が強くなる。それにより、噴射された燃料噴霧がスワール流に巻き込まれる。その結果、噴射された燃料噴霧が燃焼室の壁面に付着することが抑制される。
【0005】
【特許文献1】特開平9−68072号公報
【特許文献2】特開平11−294246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オイル希釈が生じると、オイルと混ざり合った燃料が揮発してブローバイガスとなるおそれがある。この場合、排気エミッションが悪化するおそれがある。この点、前述の従来技術によっても、冷間時におけるオイル希釈は抑制されるが、未だ十分な抑制がなされているとはいえない。
【0007】
本発明は、オイル希釈を抑制することができる筒内噴射式内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る筒内噴射式内燃機関の制御装置は、吸気ポートから吸入された吸気が正タンブル流を形成する燃焼室と、燃焼室の吸気ポート側に配置され、燃焼室へ直接燃料を噴射する燃料噴射弁と、燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧を調整する燃圧調整手段と、燃焼室で発生する正タンブル流の強度を調整する気流調整弁と、を備える筒内噴射式内燃機関に用いられる制御装置であって、筒内噴射式内燃機関が冷間時であり、吸気行程において要求される燃料噴射量を一括して吸気行程に噴射する1回噴射を行う場合には、燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して低燃圧になるように燃圧調整手段を制御し、燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように気流調整弁を制御することを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る制御装置によれば、筒内噴射式内燃機関が冷間時であり、吸気行程において要求される燃料噴射量を一括して吸気行程に噴射する1回噴射を行う場合には、制御装置は、噴射される燃料の圧力が低燃圧になるように燃圧調整手段を制御する。それにより、噴射される燃料噴霧のペネトレーションは低下する。さらに、制御装置は、燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように気流調整弁を制御する。この場合、噴射された燃料噴霧の進行方向は、正タンブル流によって重力方向下方に曲げられる。その結果、燃料噴霧が燃焼室の壁面に付着することが抑制されることから、オイル希釈が抑制される。
【0010】
上記構成において、筒内噴射式内燃機関が冷間時であり、吸気行程において要求される燃料噴射量を分割して吸気行程において噴射する分割噴射を行う場合、かつ燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように気流調整弁を制御することが可能な場合には、燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して高燃圧になるように燃圧調整手段を制御し、燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように気流調整弁を制御してもよい。
【0011】
この構成によれば、筒内噴射式内燃機関が冷間時であり、吸気行程において要求される燃料噴射量を分割して吸気行程において噴射する分割噴射を行う場合、かつ燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように気流調整弁を制御することが可能な場合には、制御装置は、噴射される燃料の圧力が温間時における燃圧に比較して高燃圧になるように燃圧調整手段を制御する。この場合、噴射される燃料噴霧の粒径は小さくなる。それにより、噴射される燃料噴霧の運動量が小さくなることから、燃料噴霧のペネトレーションは低下する。また、制御装置は、燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように気流調整弁を制御する。この場合、噴射された燃料噴霧の進行方向は、正タンブル流によって重力方向下方に曲げられる。その結果、燃料噴霧が燃焼室の壁面に付着することが抑制されることから、オイル希釈は抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、オイル希釈を抑制することができる筒内噴射式内燃機関の制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の第1実施例に係るECU100(制御装置)について説明する。図1は、本発明の第1実施例に係るECU100が用いられる筒内噴射式内燃機関150の全体構成を示す模式図である。図1に示すように、筒内噴射式内燃機関150は、機関本体10と、燃料タンク40と、フィードポンプ45と、高燃圧ポンプ50と、デリバリパイプ55と、インジェクタドライバ60と、吸気ポンプ65と、インテークマニホールド70と、回転数センサ75と、エアフロメータ80と、冷却水温センサ85と、燃圧センサ90と、ECU100と、を備える。
【0015】
筒内噴射式内燃機関150においては、燃料タンク40の燃料(ガソリン41)は、フィードポンプ45によって高燃圧ポンプ50に供給された後、高燃圧ポンプ50により圧力を調整されてデリバリパイプ55に圧送される。デリバリパイプ55に圧送された燃料は、各燃料噴射弁36(図1では4つを例示)に分配供給され、インジェクタドライバ60による各燃料噴射弁36の開弁に際して各燃料噴射弁36から各燃焼室20(図1では4つを例示)に噴射される。各燃焼室20に噴射された燃料は、吸気ポンプ65から送風されてインテークマニホールド70および各吸気ポート24を通じて各燃焼室20に導入される吸気(空気)と混合された後に燃焼される。そして、燃焼後の排気は燃焼室20から排気ポートに排出される。
【0016】
燃料タンク40は、燃料(ガソリン41)を貯留する。燃料タンク40とデリバリパイプ55とは配管42によって連通されている。燃料タンク40とデリバリパイプ55との間には、フィードポンプ45と高燃圧ポンプ50とが介挿されている。フィードポンプ45は、燃料タンク40内の燃料を高燃圧ポンプ50に供給するポンプである。高燃圧ポンプ50は、ECU100の指示によって、送付された燃料の燃圧を温間時の燃圧に比較して低燃圧から高燃圧まで調整して、デリバリパイプ55に圧送する。すなわち、高燃圧ポンプ50は燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧を調整する燃圧調整手段としての機能を有する。
【0017】
デリバリバイプ55は、高燃圧ポンプ50から圧送された燃料を、各燃料噴射弁36に分配する配管である。インジェクタドライバ60は、各燃焼室20に配置された燃料噴射弁36と電気的に接続されている。インジェクタドライバ60は、ECU100からの指示により、燃料噴射弁36を開弁あるいは閉弁させる。吸気ポンプ65は、吸気(空気)をインテークマニホールド70に送風するポンプである。吸気ポンプ65は、インテークマニホールド70に配管68によって連通されている。インテークマニホールド70は、吸気ポンプ65から送風された吸気を各吸気ポート24に分配する配管である。
【0018】
図2は、機関本体10の模式的断面図である。図2に示すように、機関本体10は、複数の気筒12(図2では1つを例示)を有するシリンダブロック14と、シリンダブロック14上に配置されたシリンダヘッド16と、気筒12内を往復運動するピストン18と、を備えている。気筒12内のピストン18の頂面とシリンダヘッド16の下面とで区画された領域には、燃焼室20が形成されている。
【0019】
シリンダヘッド16には、吸気弁22によって開閉される吸気ポート24と排気弁26によって開閉される排気ポート28とが形成されている。吸気ポート24および排気ポート28の形状は特に限定されないが、本実施例においては、いずれも燃焼室20に対して適度の傾きをもって形成されている。吸気ポート24から吸入された吸気は、燃焼室20のシリンダヘッド16の頂部を通過して排気ポート28側方向を経てピストン18の頂面方向に導かれる、いわゆる正タンブル流を形成する。
【0020】
吸気ポート24内には、タンブルコントロールバルブ30(TCV)が配置されている。タンブルコントロールバルブ30は、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度を調整することができる気流調整弁である。具体的には、タンブルコントロールバルブ30は、吸気ポート24の長手方向(吸気の流れ方向)に沿って所定長さで延びる仕切板32に連結された回転軸34によって回動可能に支持されている。回転軸34には、ECU100からの指示によって動作するモータ等のアクチュエータ(図示せず)が連結されている。つまり、ECU100は、アクチュエータの動作を制御することにより、タンブルコントロールバルブ30の開度を調整することができる。それにより、ECU100は、正タンブル流の強度を調整することができる。例えば、ECU100がタンブルコントロールバルブ30を閉じた場合、燃焼室20に供給される吸気の流速が上がる。それにより、正タンブル流の強度は増加する。
【0021】
燃焼室20の吸気ポート24側には燃料噴射弁36(インジェクタ)が配置されている。燃料噴射弁36はECU100からの指示により、燃料タンク40から供給された燃料を、燃焼室20へ直接に噴射する。また、燃料噴射弁36は、吸気行程において噴射することが要求される燃料噴射量を分割して吸気行程に噴射することができる。この場合、燃料噴射弁36は、ECU100からの指示により、吸気行程において噴射することが要求される燃料噴射量を一括して吸気行程に噴射する1回噴射と、燃料噴射量を分割して吸気行程に噴射する分割噴射と、のいずれかの燃料噴射形態を行う。燃料噴射弁36の噴射角度は、水平方向よりも重力方向下方に調整されている。燃料噴射弁36から噴射された燃料は、噴霧状の燃料噴霧となる。
【0022】
燃焼室20の上部略中心には点火プラグ38が配置されている。点火プラグ38は、ECU100の指示により火花を点火する。ピストン18はコネクティングロッド19を介してクランクシャフト(図示せず)に連結されている。
【0023】
図1を参照して、機関本体10には、機関運転状態を検出するための機関運転状態検出手段として、各種センサが配置されている。具体的には、回転数センサ75と、エアフロメータ80と、冷却水温センサ85と、燃圧センサ90と、が配置されている。
【0024】
回転数センサ75は、クランクシャフトの近傍に配置され、機関本体10の回転数を検出し、検出結果をECU100に伝える。エアフロメータ80は、各吸気ポート24のタンブルコントロールバルブ30が配置されている部位よりも上流に配置され、各吸気ポート24に供給される単位時間当たりの吸気量を検出し、検出結果をECU100に伝える。冷却水温センサ85は、機関本体10を冷却するための冷却水用配管(図示せず)に配置され、冷却水の水温を検出し、検出結果をECU100に伝える。燃圧センサ90は、デリバリパイプ55に配置され、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧を検出し、検出結果をECU100に伝える。
【0025】
ECU100は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)等から構成された電子制御ユニット(Electronic Control Unit)である。ECU100は、各センサの検出結果を用いて、機関運転状態を把握し、把握された機関運転状態に基づいて、高燃圧ポンプ50、タンブルコントロールバルブ30およびインジェクタドライバ60を制御する。
【0026】
本実施例においては、ECU100は、筒内噴射式内燃機関150の冷間時と温間時とで異なる動作を行う。ECU100は、温間時においては、あらかじめ記憶しておいた温間時の燃圧マップに従って高燃圧ポンプ50を制御するとともに、温間時のタンブルコントロールバルブ30の開閉マップに従ってタンブルコントロールバルブ30の開閉動作を制御しつつ、燃料噴射弁36から燃料が温間時における噴射回数マップに従って噴射されるようにインジェクタドライバ60を制御する。一方、ECU100は、冷間時においては、以下に説明する動作に従って、高燃圧ポンプ50、タンブルコントロールバルブ30およびインジェクタドライバ60を制御する。
【0027】
本実施例に係るECU100の冷間時における動作を説明する前に、従来技術に係るECU100の冷間時における問題点について説明する。図3は、従来例1に係るECUにより冷間時に燃料が1回噴射された場合における機関本体10を示す模式的断面図である。図3に示すように、ECU100により燃料が1回噴射されるようにインジェクタドライバ60が制御された場合には、燃料噴射弁36から燃料が噴射される。
【0028】
ここで、例えば機関本体10の回転数が低い場合には、吸気ポート24から吸入される吸気量が少ないため、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度は弱い。正タンブル流の強度が弱い場合、燃料噴射弁36から噴射された燃料噴霧110は、直進して燃焼室20の燃料噴射弁36に対向する側の壁面に衝突する。燃焼室20の壁面に衝突した燃料噴霧110の一部は、特に冷間時にあっては、燃料噴霧110の気化が促進され難いために、ピストン18が上下運動するのに伴って掻き落とされ、ピストン18の下方に配置されたオイルパン(図示せず)に戻される。この場合、オイル希釈が生じるおそれがある。オイル希釈が生じると、オイルと混ざり合った燃料が揮発してブローバイガスとなるおそれがある。この場合、排気エミッションが悪化するおそれがある。
【0029】
この問題点を解決するために、本実施例に係るECU100は冷間時において以下の動作を行う。まず、ECU100は、回転数センサ75の検出結果とエアフロメータ80の検出結果とに基づいて、筒内噴射式内燃機関150の負荷率を算出する。次いで、ECU100は、負荷率から吸気行程において噴射することが要求される燃料噴射量を算出する。また、ECU100は、後述するマップを参照することによって、吸気行程において噴射される燃料の噴射回数(分割回数)を算出する。
【0030】
次いで、ECU100は、冷却水温センサ85の検出結果を用いて、筒内噴射式内燃機関150が冷間時か温間時かを判定する。例えば、ECU100は所定の冷却水温を記憶しておく。そして、ECU100は、冷却水温センサ85の検出結果が記憶しておいた冷却水温よりも低い場合には、筒内噴射式内燃機関150が冷間時であると判定することができる。
【0031】
ECU100により筒内噴射式内燃機関150が冷間時であると判定された場合には、ECU100は、算出された燃料の噴射回数が1回であるか否か、すなわち1回噴射を行うか分割噴射を行うか、を判定する。1回噴射を行うと判定された場合には、ECU100は、噴射される燃料の燃圧が温間時における燃圧に比較して低燃圧(例えば8MPa程度)になるように高燃圧ポンプ50を制御し、かつ、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じる。そして、ECU100は、1回噴射を行うようにインジェクタドライバ60を制御する。
【0032】
図4は、本実施例に係るECU100により冷間時において1回噴射された場合における機関本体10を示す模式的断面図である。図4に示すように、本実施例に係るECU100により冷間時において1回噴射される場合、ECU100は、噴射される燃料の圧力が温間時における燃圧に比較して低燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御する。それにより、噴射される燃料噴霧110のペネトレーションは低下する。さらに、ECU100は、タンブルコントロールバルブ30を閉じることにより、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度を増加させる。この場合、噴射された燃料噴霧110の進行方向は、正タンブル流によって重力方向下方に曲げられる。その結果、燃料噴霧110が燃焼室20の壁面に付着することが抑制されることから、オイル希釈は抑制される。
【0033】
一方、ECU100により筒内噴射式内燃機関150が冷間時であると判定され、かつ、分割噴射を行うと判定された場合には、ECU100は、後述するマップを参照して、タンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能であるか否か、すなわち、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するように気流調整弁を制御することが可能であるか否かを判定する。タンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能であると判定された場合には、ECU100は、燃料噴射弁36から噴射される燃料の圧力が温間時における燃圧に比較して高燃圧(例えば20MPa程度)になるように高燃圧ポンプ50を制御し、かつ、タンブルコントロールバルブ30を閉じる。そして、ECU100は、分割噴射を行うようにインジェクタドライバ60を制御する。
【0034】
図5は、本実施例に係るECU100により冷間時において分割噴射された場合における機関本体10を示す模式的断面図である。図5に示すように、本実施例に係るECU100により冷間時において分割噴射される場合、ECU100は、噴射される燃料の圧力が温間時における燃圧に比較して高燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御する。この場合、噴射される燃料噴霧110の粒径は小さくなる。それにより、噴射される燃料噴霧110の運動量が小さくなることから、燃料噴霧110のペネトレーションは低下する。また、ECU100は、タンブルコントロールバルブ30を閉じることにより、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度を増加させる。この場合、噴射された燃料噴霧110の進行方向は、正タンブル流によって重力方向下方に曲げられる。その結果、燃料噴霧110が燃焼室20の壁面に付着することが抑制されることから、オイル希釈は抑制される。
【0035】
続いて、ECU100の噴射回数を算出する際に用いられるマップと、分割噴射を行う場合においてタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能であるか否かを判定する際に用いられるマップと、について説明する。まず、ECU100の噴射回数を算出する際に用いられるマップについて説明する。図6は、第1実施例に係るECU100の噴射回数を算出する際に用いられるマップを示す。図6において、縦軸は筒内噴射式内燃機関150の負荷率を示し、横軸は筒内噴射式内燃機関150の回転数を示す。なお、筒内噴射式内燃機関150の負荷率は、平均有効圧によって換算された圧力値を用いている。なお、平均有効圧は、回転数センサ75の検出結果とエアフロメータ80の検出結果とから求めることができる。また、筒内噴射式内燃機関150の回転数は、回転数センサ75の検出結果を用いることができる。また、図6は、1回噴射から4回噴射までを例示している。
【0036】
図6に示すように、負荷率が少ない場合には、吸気行程において噴射されることが要求される燃料噴射量も少なくなることから、分割噴射できる回数、すなわち噴射回数は減少する。また、回転数が高い場合には、燃焼室20に供給される吸気量も多くなるため、正タンブル流の強度が強くなる。この場合、燃料噴霧110の進行方向が正タンブル流の気流により重力方向下方に曲げられる度合いが大きくなる。それにより、回転数が高い場合には、少ない噴射回数であっても、燃料噴霧110が燃焼室20の壁面に衝突することは抑制される。
【0037】
以上の観点から、図6に示すマップは、噴射回数が1回〜4回までの領域に分けられている。境界線120aと境界線120bとで囲まれた領域が4回噴射を行う領域である。境界線120aと境界線120bと境界線120cと境界線120dとで囲まれた領域が3回噴射を行う領域である。境界線120cと境界線120dと境界線120eと境界線120fとで囲まれた領域が2回噴射を行う領域である。これら以外の領域が1回噴射を行う領域である。つまりECU100は、負荷率と回転数とから、図6に示すマップを参照することによって、噴射回数を算出することができる。
【0038】
なお図6において、1回噴射を行う領域は、回転数N1に相当する境界線120gによって、さらに2つの領域に分けられる。すなわち、境界線120gよりも回転数の低い領域では、吸気量が少ないため、正タンブル流の強度は弱い。そのため、境界線120gよりも回転数の低い領域においては、ECU100は、図4で説明したように、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して低燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御しつつ、タンブルコントロールバルブ30を閉じる。そして、1回噴射を行う。この場合、オイル希釈を抑制することができる。
【0039】
一方、境界線120gよりも回転数の高い領域においては、吸気量が多いため、正タンブル流の強度は強い。そのため、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧が通常の温間時における燃圧であり、かつ、タンブルコントロールバルブ30の開閉位置が通常の温間時における開閉位置であっても、噴射された燃料噴霧110の進行方向は正タンブル流によって重力方向下方に曲げられる。この場合においても、燃料噴霧110による燃焼室20の壁面への衝突が抑制されることから、オイル希釈が抑制される。
【0040】
続いて、ECU100の分割噴射を行う場合においてタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能であるか否かを判定する際に用いられるマップについて説明する。図7は、分割噴射を行う場合において、第1実施例に係るECU100のタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能であるか否かを判定する際に用いられるマップである。図7に示すマップは、境界線Ga1をさらに含む点で、図6に示すマップと異なる。境界線Ga1は、エアフロメータ80により検出された燃焼室20に供給される吸気量を示すとともに、分割噴射を行う場合においてタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能であるか否かを判定する判定線としての機能を有する。
【0041】
すなわち、分割噴射を行う場合において、境界線Ga1よりも吸気量の多い場合(図7において、回転数が高い場合)においては、タンブルコントロールバルブ30を閉じると、燃焼室20に供給される吸気量が減少し過ぎてしまう。その結果、吸気ポンプ65の損失が大きくなり、燃費が悪化するおそれがある。そのため、分割噴射を行う場合には、境界線Ga1よりも少ない吸気量の場合(図7において、回転数が低い場合)において、タンブルコントロールバルブ30を閉じることができる。
【0042】
つまり、分割噴射を行う場合には、ECU100は、境界線Ga1よりも空気量が少ない領域においては、図5で説明したように、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧を温間時の燃圧に比較して高燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御するとともに、タンブルコントロールバルブ30を閉じる。そして、分割噴射を行う。それにより、オイル希釈を抑制することができる。
【0043】
一方、境界線Ga1よりも空気量が多い領域においては、ECU100は、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧を温間時の燃圧に比較して高燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御するとともに、タンブルコントロールバルブ30を開く。なお、この場合においても、ECU100は、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して高燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御することから、噴射される燃料噴霧110の運動量は低下する。それにより、燃料噴霧110のペネトレーションは低下することから、オイル希釈は抑制される。
【0044】
図8は、第1実施例に係るECU100の動作の一例を示すフローチャートである。まず、ECU100は、回転数センサ75の検出結果(Ne)およびエアフロメータ80の検出結果(Ga)を読み込む(ステップS1)。次いで、ECU100は回転数センサ75の検出結果とエアフロメータ80の検出結果とから、筒内噴射式内燃機関150の負荷率(KL)を算出する(ステップS2)。
【0045】
次いで、ECU100は、ステップS2において算出した負荷率(KL)から、吸気行程中に筒内噴射式内燃機関150に要求される燃料噴射量(Q)と噴射回数(n)とを算出する(ステップS3)。例えばECU100は、あらかじめ負荷率(KL)に対応する燃料噴射量(Q)のマップを記憶しておく。そして、ECU100はステップS2において算出した負荷率(KL)に対応する燃料噴射量(Q)を、あらかじめ記憶しておいたマップを参照することによって算出することができる。また、ECU100は図6に示すような噴射回数(n)を取得するためのマップを記憶しておく。そして、ECUは、回転数センサ75とステップS2において算出した負荷率(KL)とから図6に示すようなマップを参照することにより、噴射回数(n)を算出することができる。
【0046】
次いで、ECU100は、冷却水温センサ85の検出結果(Tw)を読み込む(ステップS4)。次いで、ECU100は、筒内噴射式内燃機関150が冷間時か温間時かを判定する(ステップS5)。例えば、ECU100は、冷却水温センサ85の検出結果(Tw)があらかじめ記憶しておいた所定値よりも小さい場合には、筒内噴射式内燃機関150が冷間時であると判定することができる。
【0047】
ステップS5において筒内噴射式内燃機関150が冷間時であると判定された場合には、ECU100は、ステップS3において算出された噴射回数が1回であるか否か、すなわち、1回噴射を行うか分割噴射を行うか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6において、1回噴射を行うと判定された場合には、ECU100は、回転数センサ75の検出結果が所定値よりも低いか否かを判定する(ステップS7)。なお、所定値については、図6のマップに示す境界線120gに相当する回転数N1を用いればよい。また、所定値については、ECU100があらかじめ記憶しておけばよい。
【0048】
ステップS7において、回転数センサ75の検出結果が所定値(N1)よりも低いと判定された場合には、ECU100は、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して低燃圧(例えば、8MPa)になるように高燃圧ポンプ50を制御する(ステップS8)。次いで、ECU100は、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じる(ステップS9)。次いで、ECU100は、ステップS3において算出された燃料噴射量(Q)および噴射回数(n)に従って燃料噴射弁36から燃料が噴射されるようにインジェクタドライバ60を制御する(ステップS10)。次いで、ECU100はフローチャートの実行を終了する。
【0049】
一方、ステップS5において、筒内噴射式内燃機関150が冷間時であると判定されなかった場合、あるいはステップS7において回転数センサ75の検出結果が所定値(N1)よりも低いと判定されなかった場合には、ECU100は、温間時における通常の燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御する(ステップS16)。次いで、ECU100は、タンブルコントロールバルブ30を温間時における通常位置になるように制御する(ステップS17)。次いで、ECU100はステップS10を実行する。
【0050】
ステップS6において、噴射回数が1回であると判定されなかった場合、すなわち、分割噴射を行うと判定された場合には、ECU100は、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能か否かを判定する(ステップS11)。例えば、ECU100は、図7のマップを参照して、エアフロメータ80の検出結果(Ga)が図7のマップに示す判定値(Ga1)よりも小さいか否かを判定する。そして、エアフロメータ80の検出結果(Ga)が判定値(Ga1)より小さいと判定された場合には、ECU100は、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能であると判定することができる。
【0051】
ステップS11において、燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能と判定された場合には、ECU100は、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して高燃圧(例えば、20MPa程度)になるように、高燃圧ポンプ50を制御する(ステップS12)。次いで、ECU100は、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じる(ステップS13)。次いで、ECU100はステップS10を実行する。
【0052】
ステップS11において、燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能と判定されなかった場合には、ECU100は、燃料噴射弁36から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して高燃圧(例えば、20MPa程度)になるように、高燃圧ポンプ50を制御する(ステップS14)。次いで、ECU100は、タンブルコントロールバルブ30を開く(ステップS15)。次いで、ECU100はステップS10を実行する。
【0053】
本実施例に係るECU100によれば、筒内噴射式内燃機関150が冷間時であると判定された場合(ステップS5)、かつ、噴射回数が1回であると判定された場合、すなわち1回噴射を行うと判定された場合(ステップS6)には、ECU100は、噴射される燃料の圧力が低燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御する(ステップS8)。この場合、噴射される燃料噴霧110のペネトレーションは低下する。さらに、ECU100は、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じる(ステップS9)。この場合、噴射された燃料噴霧110の進行方向は、正タンブル流によって重力方向下方に曲げられる。その結果、燃料噴霧110が燃焼室20の壁面に付着することが抑制されることから、オイル希釈は抑制される。
【0054】
一方、筒内噴射式内燃機関150が冷間時であると判定された場合(ステップS5)、かつ、噴射回数が1回であると判定されなかった場合、すなわち分割噴射を行うと判定された場合(ステップS6)、かつ、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じることが可能と判定された場合(ステップS11)には、ECU100は、噴射される燃料の圧力が高燃圧になるように高燃圧ポンプ50を制御する(ステップS12)。この場合、噴射される燃料噴霧110の粒径が小さくなる。それにより、燃料噴霧110の運動量が小さくなることから、燃料噴霧110のペネトレーションは低下する。また、ECU100は、燃焼室20で発生する正タンブル流の強度が増加するようにタンブルコントロールバルブ30を閉じる(ステップS13)。この場合、噴射された燃料噴霧110の進行方向は、正タンブル流によって重力方向下方に曲げられる。その結果、燃料噴霧110が燃焼室20の壁面に付着することが抑制されることから、オイル希釈は抑制される。
【0055】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施例に係るECUが用いられる筒内噴射式内燃機関の全体構成を示す模式図である。
【図2】第1実施例に係る機関本体の模式的断面図である。
【図3】従来例1に係るECUにより冷間時に燃料が1回噴射された場合における機関本体を示す模式的断面図である。
【図4】第1実施例に係るECUにより冷間時において燃料が1回噴射された場合における機関本体を示す模式的断面図である。
【図5】第1実施例に係るECUにより冷間時において燃料が分割噴射された場合における機関本体を示す模式的断面図である。
【図6】第1実施例に係るECUの噴射回数を算出する際に用いられるマップである。
【図7】分割噴射を行う場合において、第1実施例に係るECUのタンブルコントロールバルブを閉じることが可能であるか否かを判定する際に用いられるマップである。
【図8】第1実施例に係るECUの動作の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
10 機関本体
12 気筒
14 シリンダブロック
16 シリンダヘッド
18 ピストン
20 燃焼室
24 吸気ポート
30 タンブルコントロールバルブ
36 燃料噴射弁
40 燃料タンク
45 フィードポンプ
50 高燃圧ポンプ
55 デリバリパイプ
60 インジェクタドライバ
65 吸気ポンプ
70 インテークマニホールド
90 燃圧センサ
100 ECU
150 筒内噴射式内燃機関

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートから吸入された吸気が正タンブル流を形成する燃焼室と、前記燃焼室の吸気ポート側に配置され、前記燃焼室へ直接燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧を調整する燃圧調整手段と、前記燃焼室で発生する正タンブル流の強度を調整する気流調整弁と、を備える筒内噴射式内燃機関に用いられる制御装置であって、
前記筒内噴射式内燃機関が冷間時であり、吸気行程において要求される燃料噴射量を一括して吸気行程に噴射する1回噴射を行う場合には、前記燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して低燃圧になるように前記燃圧調整手段を制御し、前記燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように前記気流調整弁を制御することを特徴とする筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記筒内噴射式内燃機関が冷間時であり、吸気行程において要求される燃料噴射量を分割して吸気行程において噴射する分割噴射を行う場合、かつ前記燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように前記気流調整弁を制御することが可能な場合には、前記燃料噴射弁から噴射される燃料の燃圧が温間時の燃圧に比較して高燃圧になるように前記燃圧調整手段を制御し、前記燃焼室で発生する正タンブル流の強度が増加するように前記気流調整弁を制御することを特徴とする請求項1記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−2176(P2009−2176A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161685(P2007−161685)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】