筒内噴射式内燃機関
【課題】燃料をシリンダ内に直接噴射する火花点火式の筒内噴射式内燃機関において、高出力と低燃費を両立できる。
【解決手段】1シリンダ当たり2つのインジェクタを備え、第1インジェクタ122aをシリンダの略頂点部分に、第2インジェクタ122bを吸気側に配置する。第2インジェクタのマルチ噴霧のうち1つ以上は点火プラグ113近傍を指向し、第1インジェクタによる燃料噴霧をシリンダ内にほぼ均等に分散させる。2つのインジェクタの燃料噴射量を、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件で噴射したときに、第1のインジェクタの燃料噴射量が第2のインジェクタの燃料噴射量より多い。均質では2つのインジェクタを吸気行程で、弱成層では第1インジェクタを吸気行程、第2インジェクタを圧縮行程で、成層では第2インジェクタを圧縮行程でそれぞれ噴射する。
【解決手段】1シリンダ当たり2つのインジェクタを備え、第1インジェクタ122aをシリンダの略頂点部分に、第2インジェクタ122bを吸気側に配置する。第2インジェクタのマルチ噴霧のうち1つ以上は点火プラグ113近傍を指向し、第1インジェクタによる燃料噴霧をシリンダ内にほぼ均等に分散させる。2つのインジェクタの燃料噴射量を、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件で噴射したときに、第1のインジェクタの燃料噴射量が第2のインジェクタの燃料噴射量より多い。均質では2つのインジェクタを吸気行程で、弱成層では第1インジェクタを吸気行程、第2インジェクタを圧縮行程で、成層では第2インジェクタを圧縮行程でそれぞれ噴射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒内噴射式内燃機関に係り、特に、インジェクタを2つ備え、点火プラグを備える火花点火式の筒内噴射式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ内に直接燃料を噴射する、筒内噴射式火花点火式ガソリンエンジン(DI−Gエンジン)が広く知られている。これ以前に主流であったマルチポート噴射システム(MPiシステム)を備えたエンジンに比べ、混合気の点火プラグ周り成層化による大幅なトータル空燃比の希薄化が可能になり、これにより燃費の低減を行なうことができ、また、吸気冷却効果や、燃焼効率向上による出力の向上が見込まれている。
【0003】
この種のエンジン、ことに、過給機を用いて高負荷域のトルクを向上させるように構成したものにあっては、たとえばアイドル時のような極低回転低負荷時には必要燃料量が極端に少なく、逆に高回転高負荷で過給を行なっている際には、短時間に非常に多くの燃料を供給する必要がある。
【0004】
高負荷時に十分な流量を供給するには、インジェクタのノズル穴径を大きくするなどして対応することができるが、インジェクタにはダイナミックレンジと呼ばれる最大流量と最小流量の比が存在するために、最大流量を増やすと、精度良く噴射できる最小流量も自ずから増えてしまう。そのため、アイドル時に設定したい流量が最小燃料量付近、またはこれを下回り、燃料供給の精度が悪化し、燃焼が不安定になり、エンジンの回転変動が大きくなって乗り心地が悪化したり、HCなどのエミッションが増加するといった問題点があった。または、これを回避するためアイドル回転数を低くできず、燃費が悪化するといった問題があった。
【0005】
この点に鑑みた従来技術として、例えば、特許文献1に開示されている過給機付筒内噴射型エンジンがある。このエンジンでは、アイドル時などの極低回転時には燃圧を低下させ、同一の噴射パルス幅でも燃料供給量を小さくするとともに、吸気行程にて燃料噴射を行なうことにより、燃料の気化時間を確保して燃焼性を確保するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、別の従来技術として、例えば、特許文献2に開示されている過給機付筒内噴射型エンジンがある。このエンジンでは、多気筒エンジンの各気筒内に直接噴射する第1のインジェクタを高負荷時に用い、これより噴射量が少なく、サージタンクに設けられた第2のインジェクタをアイドル時を含む低負荷時に用いる。このように流量特性の異なる2種類のインジェクタを用いることにより、エンジンの広い運転域で安定燃焼が可能だとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−274077号公報
【特許文献1】特開2003−83138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記のような構成においては、次に示すような問題点があった。すなわち、従来技術においてはアイドル時などの極低負荷時に燃圧を低下させたり、サージタンク等の吸気系において噴射を行なっているが、燃圧を下げると噴霧粒径が粗大化して気化が悪くなり、ピストンやヘッド、シリンダボアなどの壁面に付着しやすく、HC(未燃炭化水素)などのエミッションが悪化しやすいという問題点があった。
【0009】
また、多気筒エンジンにあっては、サージタンクに燃料を噴射した場合、吸気流によって、各気筒間の空燃比にばらつきが生じ、トルク変動の原因になるという問題があった。特にエンジン冷機時などでは、吸気系に燃料を噴射すると、その燃料が吸気ポート内で壁流となり、吸気弁が開いたときにシリンダ内に流れ込み、これらが十分に気化できず、スート(すす)やHCなどのエミッションの原因になるという問題点があった。
【0010】
また、筒内噴射エンジンにあっては、その圧縮行程噴射を用いて混合気の成層化を行なうことによりポンピングロスを低減してアイドル時の燃費を低減することができるが、従来技術ではこの点が考慮されておらず、燃費低減が不十分であるという問題点があった。
【0011】
さらに、最近では混合気の最適化をはかるために、例えば吸気行程と圧縮行程の2度に分けて噴射する、いわゆる分割噴射を行なう場合があるが、極低負荷時の燃料を主として吸気ポートから供給するとした従来例にあっては、このコントロールが実質不可能であり、混合気の最適化がはかれないといった問題点があった。
【0012】
さらに、この種の筒内噴射エンジンにあっては、始動直後に混合気を点火プラグ周りにややリッチな混合気、すなわち弱成層混合気とし、点火時期をリタードさせることにより後燃えの割合を増やして排気温度を上げ、触媒の早期活性化を促してモードエミッションの低減を図る方法が知られているが、前記従来例においては、低回転時の混合気形成を主としてポート噴射に頼っているため、リタード時に点火プラグ周りに安定した弱成層混合気を形成することが難しく、十分なリタード量を確保することができないという問題点があった。
【0013】
これらを総合すると、インジェクタのダイナミックレンジの拡大を優先したために、広い運転範囲における適正な混合気形成を十分に行なうことができず、筒内噴射エンジンの利点である燃費低減、エミッション低減などの効果が十分に得られていないという問題点があった。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、極低負荷時の最小流量と、高負荷時の最大流量の比率すなわちダイナミックレンジを大きく保ちながら、各運転条件での混合気の最適化により、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保できる筒内噴射式内燃機関を提供することである。
【0015】
また、燃料の壁面付着を抑え、スートやHCの低減をはかることのできる筒内噴射式内燃機関を提供することである。さらに、混合気形成を最適化することにより、始動直後に十分な点火リタード量を確保でき、排気温度を上昇させて触媒の早期活性化をはかり、HCを低減するとともに、燃料の気化時間を長く確保してスートの低減をはかる筒内噴射式内燃機関を提供することである。
【0016】
また、成層混合気を作るためのインジェクタからの噴霧の微粒化、および気化を促進し、HC、スート等のエミッションの低減をはかる筒内噴射式内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成すべく、本発明に係る筒内噴射式内燃機関は、燃料をシリンダ上部の燃焼室内に直接噴射するインジェクタを1シリンダ当たり2つ備えており、運転条件によって2つのインジェクタのうち、一方または両方を用いて燃料噴射を行なうように構成されている筒内噴射式内燃機関であって、前記2つのインジェクタのうち第1のインジェクタは、燃料噴霧をシリンダ内にほぼ均等に分散させ、第2のインジェクタは、燃料噴霧の少なくとも一部を点火プラグ周りに指向させており、前記2つのインジェクタを、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件で噴射したときに、前記第1のインジェクタの前記燃料噴射量が、前記第2のインジェクタの燃料噴射量よりも多いことを特徴とする。インジェクタの形態は、一つのインジェクタ毎に複数の噴口を持つマルチホールインジェクタであることが望ましく、第2のインジェクタの少なくとも1つの噴口を点火プラグに指向させることが望ましい。
【0018】
前記のごとく構成された本発明の筒内噴射式内燃機関は、第1と第2のインジェクタを用いて異なる燃料噴射量で運転条件により燃料噴射を行なうことができるため、燃料噴射のダイナミックレンジを大きく保つことができると共に、各運転条件での燃料噴射の条件を決定して混合気の最適化を図ることができる。これにより、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保できる。また、燃料の壁面付着を抑え、スートやHCの低減を可能とする。
【0019】
また、本発明に係る筒内噴射式内燃機関の好ましい具体的な態様としては、前記2つのインジェクタのうち一方を、燃焼室上方のシリンダヘッドの中央付近に配置し、その他方を、吸気管下部のシリンダヘッドに配置しことを特徴としている。
【0020】
このように構成された筒内噴射式内燃機関では、一方のインジェクタで、シリンダヘッドの中央付近からシリンダの燃焼室内に均一な状態で燃料を噴射し、他方のインジェクタで、吸気管下部のシリンダヘッド部分からシリンダ内へ燃料を局所的に噴射し、各種の運転条件に見合った燃料の噴射の最適化を行なうことで、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保できる。
【0021】
例えば、一方のインジェクタとしての第1インジェクタの噴口をシリンダの略頂点部分に開口させ、他方のインジェクタとしての第2インジェクタの噴口をシリンダの2つの吸気ポートに挟まれた燃焼室の下部に開口するように構成することがより好ましい。この場合、第1のインジェクタは、燃焼室全体に噴霧が届くよう、インジェクタ中心線と噴霧のなす角度が40°以上、すなわち噴霧角が略80°以上であるように構成する。第2インジェクタに設けられた複数の噴口から噴射される噴霧のうち、少なくとも1つ以上はピストンを指向せず、点火プラグの近傍を指向するように構成する。
【0022】
他の好ましい具体的な態様としては、前記第1のインジェクタの前記燃料噴射量は、第2のインジェクタの燃料噴射量の5倍以下である。すなわち、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件において噴射した場合、プラグ周りを指向する一方の第1のインジェクタの流量を1としたとき、第2のインジェクタの流量が1を超えて5以下になるように構成されることになる。なお、好ましくは、第1のインジェクタを吸気行程噴射用、第2のインジェクタを圧縮行程噴射用に使用する場合、その最大流量における流量割合を第1のインジェクタのほうが多くなるように、第2のインジェクタに対する第1インジェクタの比率は、1倍を超えて、5倍以下の範囲(第1のインジェクタの流量を5としたときに、第2インジェクタの流量が1以上5未満)になるように構成する。2つのインジェクタを合わせた全噴射量は、このエンジンの最大トルクをまかなえるように設定する。
【0023】
また、別の好ましい具体的態様としては、2つのインジェクタはそれぞれ複数の噴口を備えており、第1のインジェクタの噴口数が6〜8個であり、第2のインジェクタの噴口数が1〜6個である。すなわち、2つのインジェクタのうち、点火プラグ周りを指向する噴霧に用いられる第2のインジェクタと、シリンダ内に噴霧を均等に分散させる第1のインジェクタとの噴口数または噴霧の本数が、第1のインジェクタのそれを6本から8本とすると、第2のインジェクタは1本から6本であることが好ましい。噴射量の比率は、主として噴口の穴数により調整する。例えば、流量の多い第1インジェクタの穴数を5とした場合、流量の少ない第2インジェクタでは略同じ穴径で1〜5穴とする。
【0024】
さらに、別の好ましい具体的態様としては、第2のインジェクタの噴口径は、第1のインジェクタの噴口径よりも小さい。すなわち、第2のインジェクタの噴口径は、第2のインジェクタの噴口径よりも小さくすることにより、第2のインジェクタから噴霧された燃料を微細化することができ、スートやHCの低減を図ることができる。
【0025】
より好ましくは、第1のインジェクタの噴口径を1としたとき、第2のインジェクタの噴口径が0.5以上である。すなわち、第2のインジェクタと、第1のインジェクタとの噴口径の比率が、第1のインジェクタを1としたとき、第2のインジェクタは0.5以上1未満の間であることが好ましい。このように構成すれば、筒内噴射式内燃機関の、各運転条件での混合気の最適化により、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保でき、スートやHCの低減をはかることができる。
【0026】
さらに、前記した筒内噴射式内燃機関を制御するための好ましい制御装置として、制御装置は、運転状態に基づいて要求トルクを演算し、該要求トルクとエンジン回転数に基づいて、一方のインジェクタのみで燃料噴射する第1の燃料噴射制御、又は、双方のインジェクタで燃料噴射する第2の燃料噴射制御を選択する。なお、第1の燃料噴射制御及び第2の燃料噴射制御の選択は、後述する、要求トルクとエンジン回転数に基づいて選択された、成層燃焼、弱成層燃焼、又は均質燃焼の制御に応じて、選択されるものである。
【0027】
本発明によれば、前記内燃機関が低トルクにおいての運転が要求される場合(要求トルクとエンジン回転数に基づいて、成層燃焼制御が選択された場合)には、点火プラグ周りを指向する第2のインジェクタから燃料噴射を行ない、前記内燃機関が高いトルクにおいて運転の運転が要求される場合(要求トルクとエンジン回転数に基づいて、均質燃焼制御が選択された場合)には、主として2つのインジェクタの双方から燃料噴射を行なうことができる。
【0028】
より好ましくは、前記制御装置は、前記要求トルクとエンジン回転数に基づいて、成層燃焼、弱成層燃焼、均質燃焼の制御を選択し、前記均質燃焼を選択した場合には、前記第2の燃料噴射制御を選択し、前記第1、第2のインジェクタを吸気行程で噴射するように制御し、前記弱成層燃焼を選択した場合には、前記第2の燃料噴射制御を選択し、前記第1のインジェクタを吸気行程で噴射し、前記第2のインジェクタを、圧縮行程で噴射するように制御し、前記均質燃焼の制御を選択した場合には、前記第1の燃料噴射制御を選択し、前記第2のインジェクタを、圧縮工程で噴射するように制御する。
【0029】
すなわち、要求トルクとエンジン回転数に基づいて、成層燃焼、弱成層燃焼、均質燃焼の制御を選択し、選択された燃焼制御に応じて、2つのインジェクタの噴射量及び噴射タイミングを制御する。具体的には、制御装置は、均質燃焼を選択した場合には、点火プラグを指向する第2のインジェクタと、均等分散させる第1のインジェクタとを、第1のインジェクタを吸気行程で噴射するように制御するか、または第1、第2のインジェクタを同時に吸気行程で噴射するように制御する。要求トルクとエンジン回転数に基づいて選択された燃焼制御により、弱成層燃焼を行なう(選択した)場合には、第1のインジェクタを吸気行程で噴射し、第2のインジェクタを、圧縮行程において、噴霧が混合気となって点火プラグ近傍に到着するタイミングとなるように噴射するように制御する。さらに、要求トルクとエンジン回転数に基づいて選択された燃焼制御により、成層燃焼を行なう(選択した)場合には、第2のインジェクタを圧縮行程で噴射するように制御する。
【0030】
このように構成された筒内噴射式内燃機関では、内燃機関を低トルクで運転するとき、点火プラグ周りを指向するインジェクタから燃料噴射を行ない、主として均質燃焼にて運転される場合には2つのインジェクタの双方から燃料噴射を行なうことができるため、運転条件に最適な燃料の噴射制御を行なうことができるとともに、各種の運転条件に合せて、2つのインジェクタを用いて、より最適な燃料噴射制御を行なうことができ、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保できる。
【0031】
好ましい具体的な態様としては、前記2つインジェクタは、それぞれに供給される燃料を別々に加圧して保持する系統を備え、前記制御装置は、それぞれの系統における前記供給燃圧を互いに独立して制御する。すなわち、前記点火プラグを指向する第2のインジェクタと、均等分散させる第1のインジェクタのそれぞれが別々の燃料を加圧して保持する系統を備えており、それぞれの系統における供給燃圧を互いに独立して制御するものである。
【0032】
このように構成された筒内噴射式内燃機関では、一方のインジェクタ及び他方のインジェクタを別々の系統により燃料を加圧して保持し、供給燃圧を互いに独立して制御するため、大きいダイナミックレンジで、精度の良い燃料噴射制御を行なうことができる。これらの第1のインジェクタ、第2のインジェクタは、別々のフュエルギャラリ、すなわち高圧燃料配管に接続されており、これらの燃圧を別々に調整することにより、流量比率を調整することもできる。
【0033】
さらに、好ましい具体的な他の態様としては、前記第1の燃料噴射制御を選択中に、所定のタイミングで、第2のインジェクタの燃料噴射を停止し、前記第1のインジェクタの燃料噴射を行う。すなわち、上述した低トルク時に噴射していない側のインジェクタを定期的に(所定のタイミングで)噴射するので、低トルク時には、点火プラグ周りを指向する側のインジェクタを噴射し、噴射させない側のインジェクタ(第1のインジェクタ)を定期的に噴射させることができる。このように構成すると、噴射させない側のインジェクタの噴射口にスート等が堆積するのを防止できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の筒内噴射式内燃機関は、まず、高回転高負荷域、または過給を行なう場合にも十分な燃料を供給しながら、アイドル時などの低負荷条件でもインジェクタの最小流量の制御性を確保することができ、インジェクタのダイナミックレンジをこれまでの数倍から数十倍に大きくすることが可能である。
【0035】
また、均質燃焼においては、均質度を従来よりも上げることができ、HC等のエミッションやスートを抑えながら、出力向上をはかることができる。弱成層燃焼においては、シリンダ内にややリーンなベース混合気を生成し、かつ点火プラグ近傍に濃い混合気を安定して生成させることで、着火性、初期燃焼安定性を向上させ、これをもって全体の燃焼安定性を向上させ、燃費向上、エミッション低減をはかることができる。
【0036】
さらに、始動時のリタード燃焼においては、点火時期のリタード量を大きくして排気温度を上げることができ、触媒の早期活性化に有利で、燃焼安定性を保ち、失火を防止しながら始動直後の排気低減、特にHC、スートの低減が可能である。また、成層燃焼用のインジェクタの流量を小さくしたので、従来と比べて燃料の微粒化をはかることができ、気化の向上により、壁面付着燃料の低減ができ、HCやスートなどのエミッションの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る筒内噴射式内燃機関の第1の実施形態をシリンダ略横側から見た構成図。
【図2】本発明の第1の実施形態の構成をエンジン上側から見た図。
【図3】第1の実施形態における第2インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を上側から見た図。
【図4】第1の実施形態における第2インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を横側から見た図。
【図5】第1の実施形態における運転領域ごとの燃焼状態を示した図。
【図6】第1の実施形態における、インジェクタの流量特性とダイナミックレンジの関係を示した図。
【図7】第1の実施形態において、中負荷域の燃料噴射制御のフローチャートを示した図。
【図8】第1の実施形態における第1インジェクタ122aの燃圧制御マップ。
【図9】第1の実施形態における第2インジェクタ122bの燃圧制御マップ。
【図10】第1の実施形態で、低回転低負荷時における、吸気行程の燃焼室の状態を表した図。
【図11】第1の実施形態で、低回転低負荷時における、点火時期直前の燃焼室の状態を表した図。
【図12】第1の実施形態で、低中回転、中高負荷時における、吸気行程の燃焼室の状態を表した図。
【図13】第1の実施形態で、低中回転、中高負荷時における、点火時期付近、圧縮行程の燃焼室の状態を表した図。
【図14】第1の実施形態で、高回転高負荷時における、吸気行程の燃焼室の状態を表した図。
【図15】第1の実施形態で、高回転高負荷時における、点火時期付近、圧縮行程の燃焼室の状態を表した図。
【図16】第1の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、吸気行程における燃焼室の状態を表した図。
【図17】第1の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、圧縮行程における燃焼室の状態を表した図。
【図18】第1の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、点火時期付近、膨張行程における燃焼室の状態を表した図。
【図19】第2の実施形態における第1インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を上側から見た図。
【図20】第2の実施形態における第1インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を横側から見た図。
【図21】本発明の第2の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、吸気行程における燃焼室の状態を表した図。
【図22】第2の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、圧縮行程における燃焼室の状態を表した図。
【図23】第2の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、点火時期における燃焼室の状態を表した図。
【図24】低回転低負荷時における、インジェクタ詰まり防止制御の噴射パターンを示した図。
【図25】中回転中負荷時における、インジェクタ分割噴射の例を示した図。
【図26】第1の実施形態における、始動時のフローチャート。
【図27】始動直後の低負荷低回転時における、従来例と本発明のリタード量と排気温度、エミッションを比較した図。
【図28】始動後の低負荷低回転時における、従来例と本発明の性能差を表した図。
【図29】暖機後の低負荷低回転時における、従来例と本発明の性能差を表した図。
【図30】高回転高負荷時における、従来例と本発明の性能差を表した図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明に係る筒内噴射式内燃機関の第1の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1から図2に、本発明の第1の実施形態におけるシステムの構成図を示す。図1は吸気系と排気系を略横側から、図2はエンジン上方から見たものである。なお、本実施形態では主として多気筒エンジンを想定しているが、以降の図では簡単のために1つのシリンダについて説明する。
【0039】
図1、図2において、吸気管101は、シリンダ123の端面と吸気制御弁103との間の区間において、仕切り板102によって上下に分割されている。上流部に設けられた吸気制御弁103は、この吸気管101の下部側通路を閉塞するように取り付けられている。吸気制御弁103により、吸気管101を通過する空気量と、その方向を制御することができる。
【0040】
第1インジェクタ122aは、燃焼室上方のシリンダヘッドの中央付近に配置され、具体的には、シリンダ123の頂点付近から、ピストン方向である下方に向かい、直接シリンダ123上部の燃焼室内に燃料を噴射するように取り付けられている。第1インジェクタ122aは、燃料噴霧をシリンダ内にほぼ均等に分散させものである。第1インジェクタ122aの燃料を噴射する噴口は複数設けられており、一般にマルチホールインジェクタと呼ばれる形式である。噴口、すなわち噴霧の数は通常は6〜8本程度とする。
【0041】
また、第2インジェクタ122bは、吸気管下部のシリンダヘッドに配置されており、具体的には、シリンダ123の2つの吸気弁111に挟まれた下部から、排気側方向に向けて直接シリンダ上部の燃焼室内に燃料を噴射するように取り付けられている。この第2インジェクタ122bの噴口も、第1インジェクタ122aと同様に複数設けられており、噴口または噴霧の数を1〜6本程度とする。ここで、前記第2インジェクタ122bの噴口のうち、少なくとも1つ以上から出る燃料噴霧が、点火プラグ113のやや下側に向く方向に噴射されるように構成される。すなわち、第2インジェクタ122bは、燃料噴霧の少なくとも一部を点火プラグ周りに指向させている。
【0042】
また、2つのインジェクタ122a,122bを、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件で噴射したときに、第1のインジェクタ122aの燃料噴射量が、第2のインジェクタ122bの燃料噴射量よりも多くなるように、2つのインジェクタ122a,122bが構成されている。好ましくは、第1インジェクタ122a、第2インジェクタ122bの、それぞれの全噴射時には、第1のインジェクタ122aの燃料噴射量は、第2のインジェクタ122bの燃料噴射量の5倍以下である。すなわち、プラグ周りを指向する一方の第1のインジェクタ122aの流量を1としたとき、第2のインジェクタ122bの流量が1を超えて5以下になるように構成されることになる。換言すると、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの流量比率が5:5を超えて5:1の間になるように構成される。具体的には、第1のインジェクタ122bの噴口径、もしくはオリフィス径を第2のインジェクタ122aのそれよりも小さくし、穴数も、第1インジェクタが6〜8噴口であるとき、第2インジェクタは1〜6噴口と少なくする。通常は第2インジェクタの噴口数が第1インジェクタの噴口数を上回ることはない。穴径については、第1インジェクタ122aの穴径を1としたとき、第2インジェクタ122bの穴径は0.5以上1未満になるようにする。
【0043】
図1および図2の右下側より空気が吸入され、エアクリーナ106を通り、エアフローメータ105で流量を計測し、電子制御スロットルチャンバ104で流量を調節した後、コレクタ116で各気筒に分配される。その後、コレクタ116で分配された空気は、前記した吸気管101を通り、吸気弁111が開いた際にシリンダ123に流入する。シリンダ123内で点火され燃焼したガスは、排気弁112、排気管110、触媒115を通り、消音器117を通って大気中に排気される。
【0044】
また、燃料は図示されていない燃料タンクから、ポンプ140によって加圧され、逆止弁141aおよび141b、第1インジェクタ122aへの燃料を供給するコモンレールである燃料ギャラリ132aを通り、第1インジェクタ122aから噴射される。第1インジェクタ122aにより使われなかった燃料は、燃圧センサ一体型プレッシャレギュレータ133aを通り、図示されていない燃料タンクに戻される。
【0045】
または、第2インジェクタ122bへの燃料を供給する燃料ギャラリ132bを通り、第2インジェクタ122bから噴射される。第2インジェクタ122bにより使われなかった燃料は、燃圧センサ一体型プレッシャレギュレータ133bを通り、図示されていない燃料タンクに戻される。
【0046】
各燃料ギャラリ132a、132bの圧力は、燃圧センサ一体型プレッシャレギュレータ133a、133bによって計測され、制御される。具体的には、各プレッシャレギュレータ133a、133bにコンピュータ(制御装置)201から与えられる制御信号により、図示されていない燃料タンクへのリターン量を制御することにより、燃圧を設定した値に保つことができる。この燃圧の値は、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bで異なっていても良く、それぞれのインジェクタの流量や微粒化、噴霧貫通力の程度を適切にするために用いることができる。
【0047】
インジェクタ122aおよび122bの燃料噴射時期、点火プラグ113の点火時期、吸気制御弁103、電子制御スロットル104の開度は、エアフローメータ105で計測された吸入空気量、それぞれの燃料ギャラリ132aおよび132bに取り付けられた、燃圧センサ133a,133bによって計測される、燃料ギャラリ132a,132b内の燃料圧力、クランク角センサ301で求められたエンジン回転数、アクセルペダルの開度、そしてエンジン水温、車速(いずれもその入力側センサを図示していない)などの情報を基にしてコンピュータ201によって最適な値および時期に設定および制御される。なお、クランク角センサ301は、クランク軸300に固定されたセンサ板302の突起を検出してクランク角を検出する構成となっている。
【0048】
点火については、コンピュータ201から点火コイル114に点火パルス信号を与えると、点火コイル114の二次側から高電圧が発生し、点火プラグ113に点火用の火花が飛ぶようになっている。
【0049】
燃料噴射については、コンピュータ201から第1インジェクタ122a、または第2インジェクタ122bに噴射パルス信号を与えると、それに応じた開弁時間でインジェクタ122aおよび122bの作動が行なわれる。なお、実際の燃料噴射量は、この開弁時間と、燃圧センサ133a,133bによって計測される燃料ギャラリ132a,132b内の圧力(燃圧)によって変わるため、コンピュータ201はこの燃圧を考慮してパルス幅を決定する。
【0050】
エンジンの低負荷時など、エンジンにとって空気流動が必要な状態であると判断されると、コンピュータ201は、吸気制御弁103を閉じ方向に制御し、仕切り板102の下方の通路の流量を制御することにより、燃焼室内を、より最適なタンブル強度になるようにする。
【0051】
図3および図4に、第1の実施形態における第2インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を示す。
【0052】
ピストン107上には、シリンダ内にタンブル120を形成するタンブル保存用キャビティ108が設けられており、このキャビティの凹面に沿って、図1および図2に示した吸気管101からの流れが保存され、シリンダ123内に吸入された空気はシリンダ内を回転する。また、第2インジェクタ122bからの噴霧125bのうち、下側に噴射されたものについては、このタンブル保存キャビティ108に沿って進む。ここで、ピストン107の略中心には段差108aが設けられており、この段差をきっかけとして、前述のタンブル120により、噴霧125bが点火プラグ113の近傍に巻き上がる働きをする。第2インジェクタ122bを圧縮行程の後半、好ましくは上死点前50°から上死点前20°で用いることにより、点火プラグ113の近傍に安定した成層混合気を形成することができる。
【0053】
図5に、本発明の第1の実施形態における、暖気後の運転領域ごとの燃焼状態を示す。コンピュータ201は、要求トルクとエンジン回転数に基づいて、第2のインジェクタのみで燃料噴射する第1の燃料噴射制御、又は、双方のインジェクタで燃料噴射する第2の燃料噴射制御を選択する。なお、要求トルクは、後述する運転状態により演算されるものである。
【0054】
具体的には、要求トルクとエンジン回転数に基づいて、図5に示すマップを用いて、成層燃焼、弱成層燃焼、均質燃焼の制御を選択し、選択された燃焼制御に応じて、インジェクタの第1の燃料噴射制御及び第二の燃料噴射制御を選択し、燃料の噴射を制御する。
【0055】
比較的低負荷低回転においては、領域(a)に示したように第2インジェクタを用いて成層運転を行ない、空燃比のリーン化によりポンピングロスを抑え、燃費を低減する。具体的には、要求トルクとエンジン回転数により、図5に示す成層燃焼制御(成層運転)を選択した場合には、コンピュータ201は、点火プラグ周りを指向する第2のインジェクタで燃料噴射を行なう。
【0056】
領域(a)よりも高回転側または高負荷側の領域(b)では、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの双方を使用する。このとき、要求トルクとエンジン回転数に基づいて弱成層燃焼制御(弱成層運転)を選択した場合には、コンピュータ201は、第1インジェクタ122aを吸気行程に、第2インジェクタ122bを主として圧縮行程で噴射させる。これにより、シリンダ123内に弱成層混合気、すなわち、点火プラグ113の近傍がリッチで、その周辺が比較的リーンな混合気を形成することができる。
【0057】
さらに高回転、または高負荷の領域(c)では、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの両方を用い、双方を吸気行程で大流量の燃料を噴射して高出力に対応する。すなわち、要求トルクとエンジン回転数に基づいて均質燃焼制御(均質運転)を選択した場合には、コンピュータ201は、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの両方を用い、双方を吸気行程で大流量の燃料を噴射させる。各領域における運転の詳細に関しては後述する。
【0058】
図6は、本発明の第1の実施形態における、インジェクタの流量特性とダイナミックレンジに関する説明図である。なお後述するが、実際には燃圧を変化させて使用するが、本図は簡単のために、あらかじめ燃圧一定の状態で特性を取得し、表示したものである。
【0059】
通常、インジェクタをパルスによって駆動する場合、パルス幅と流量特性は略比例する関係にあるが、ある一定のパルス幅以下では、インジェクタに通電してもプランジャが開かず、燃料が噴射されない。これを一般に無効噴射パルス幅と呼んでいる。また、無効噴射パルス幅以上のパルス幅であっても、インジェクタの作動が不安定であるため、使用できないパルス幅がある。
【0060】
第1インジェクタ122aにおいて、使用できる最小パルス幅における流量をQ1minとし、インジェクタの最大流量をQ1maxとしたとき、ダイナミックレンジはQ1minとQ1maxの比で表され、現在の技術水準では、通常その比率は5〜7前後である。低負荷時の燃料消費量が少なく、かつ高負荷域のトルクが大きい過給直噴ガソリンエンジンでは、ダイナミックレンジが不足して問題になることが多い。
【0061】
ここで、本発明では従来からの第1インジェクタ122aに加えて、第1インジェクタ122aよりも全噴射時の流量が少ない第2インジェクタ122bを備えている。これらのインジェクタの流量特性は、横軸をパルス幅、縦軸を燃料流量とすると、パルス幅の増加に対して燃料流量が増加する、傾きのある直線でほぼ表すことができる。図6中にはそれぞれの最大、最小流量の点も合わせて示している。
【0062】
第1インジェクタのみでの通常のダイナミックレンジを表す式は
・Q1max/Q1min=7 …(1)
である。
【0063】
第2インジェクタについても同様に
・Q2max/Q2min=7 …(2)
のように表すことができる。
【0064】
ここで、第1インジェクタと第2インジェクタの流量比を5:1とする。
・Q1max/Q2max=5 …(3)
・Q1min/Q2min=5 …(4)
【0065】
このとき、本発明の1シリンダあたりの最小噴射量は、第2インジェクタ122bのみの最小噴射量Q2minになり、最大噴射量は、第1インジェクタ122aおよび第2インジェクタ122bの合計の最大噴射量、すなわちQ1max+Q2maxになるので、本発明におけるエンジンとしてのダイナミックレンジは、(Q1max+Q2max)/Q2minで表すことができ、その値は、(1)〜(4)式を順次代入して次のように求められる。
【0066】
すなわち、
・(Q1max+Q2max)/Q2min
=Q1max/Q2min+Q2max/Q2min (上式を展開)
=Q1max/(Q1min×(1/5))+Q2max/Q2min
((4)式を移項して代入)
=5×(Q1max/Q1min)+Q2max/Q2min
=5×7+7 ((1)、(2)式を代入)
=42 …(5)
【0067】
このように、(5)式に示したように本発明におけるダイナミックレンジは42にでき、1シリンダ当たり1つのインジェクタを使用する従来の場合と比べて非常に大きいダイナミックレンジを得ることができる。
【0068】
図7に、第1の実施形態における燃料噴射制御のフローチャートを示す。この制御は第1インジェクタ122a、第2インジェクタ122bの双方から噴射する場合、すなわち主として図5の領域(b)と(c)の場合について記述している。
【0069】
まず、コンピュータ201に、クランク角センサ301からの情報をもとにエンジン回転数が読み込まれる(S1)。その後、エンジン水温(S2)、アクセル開度、ギヤ位置(S3)などの情報が読み込まれ、要求トルクが演算される(S4)。そして、エンジン回転数および要求トルクの情報を基に、第1インジェクタの燃圧マップM1を参照し、目標燃圧p1tを取得する(S5)。
【0070】
ここで、第1インジェクタが取り付けられている燃料ギャラリの燃圧センサ133aで計測した燃圧p1と、p1tを比較する。燃圧p1が、マップM1で得られた目標値p1tよりもh1以上高い場合(S6)には、燃圧レギュレータR1のリリーフ量を制御量iだけ大きくする(S7)。h1はヒステリシスであり、本発明では例えば0.1MPaに設定される定数である。燃圧p1が、マップM1で得られた目標値p1tよりもh1以上低い場合(S8)には、燃圧レギュレータR1のリリーフ量を制御量iだけ小さくする(S9)。
【0071】
同様に第2インジェクタのマップM2を参照して目標燃圧p2tを求め(S10)、燃圧センサ133bで計測された燃圧p2と比較し(S11、S13)、ヒステリシスh2として同様に燃圧レギュレータR2を制御する(S12、S14)。以上のようにして、燃料系の燃圧を目標値に近くセットすることができる。
【0072】
次に、マップから、i番目気筒の第1インジェクタの噴射時期IT1、パルスTi1、第2インジェクタの噴射時期IT2、パルス幅Ti2、点火時期ADVを読み取る(S15)。
【0073】
そして、クランク角がIT1、IT2になったとき、第1インジェクタ、第2インジェクタの噴射をそれぞれ行なう(S16、S17)。2つのインジェクタの噴射は略同時に行なわれる場合もあり、また、第1インジェクタ122aの噴射が吸気行程に、第2インジェクタ122bの噴射が圧縮行程に行なわれる場合もある。次に、クランク角ADVで点火を行なう(S18)。以上の操作を第1気筒からi番目気筒まで行ない(S19、S20)、全ての気筒に順次噴射および点火を行なうようにする。
【0074】
図8および図9に、本発明の第1の実施形態における燃圧制御マップを示す。図8が第1インジェクタ122aの燃圧制御マップM1、図9が第2インジェクタ122bの燃圧制御マップM2である。これらの燃圧マップは、横軸をエンジン回転数、縦軸をエンジントルクとして表示している。図7のフローチャートに示したように、エンジン回転数、トルクから目標の燃圧p1t、p2tをそれぞれ求め、燃圧レギュレータのリリーフ量を制御することにより、各噴射系統の燃圧を独立して制御することができる。
【0075】
図8で、低回転低負荷域では第1インジェクタの燃圧の値(括弧付きの数値)は例えば10MPaに設定されているが、この値は図24で後述する詰まり防止制御時を除き、実際には使用されることがない。負荷、または回転数が高くなり、図5に示した領域(b)に達すると、主に燃圧10MPaで噴射を行なう。さらに高負荷側すなわち図の上部では、流量を満足し、また、シリンダ内の均質性を高めるため、燃圧を15MPaと高くする。
【0076】
図9において、低回転または低負荷域では、必要燃料流量が小さくても精度良く噴射を行なえるよう、燃圧を小さく設定する。本実施形態では例えば5MPaのように設定する。負荷、または回転数が高くなると、燃料の微粒化を向上させるため、燃圧を15MPaと高くする。
【0077】
さらに高負荷域では領域(c)で均質噴射を行なう。領域(c)の中でも比較的低負荷な領域では、噴霧の貫通力を弱めて噴霧が対向壁に付着するのを防ぐために、燃圧を例えば10MPaと小さくする。負荷が高くなると、空気量が増え、これに対応して流量を多くするとともに、噴霧の貫通力を上げて均質性を確保するため、再び燃圧を高く設定する。さらに高負荷な領域では、例えば目標燃圧を20MPaとする。
【0078】
図8、図9に示したものは一例であり、第1、第2インジェクタのそれぞれについて必要な場合には適宜燃圧マップの変更を行ない、各運転条件に即した適切な燃圧に設定することができる。
【0079】
図10から図11に、第1の実施形態における、低回転低負荷における燃焼室の状態を示す。図10は吸気行程、図11は点火時期付近の圧縮行程の状態を示している。この状態は、図5の領域(a)に相当する。
【0080】
この場合、図1、図2に示したコンピュータ201により、圧縮行程噴射、すなわち成層燃焼が選択される。吸入制御弁103は、前述の図5の場合と同じく、やや閉じ方向にセットされる。このとき、第2のインジェクタのみから、圧縮行程、好ましくは、圧縮上死点前50°から、圧縮上死点前20°付近に至るまでに燃料が噴射される。そして、点火時期、例えば上死点前15°で点火が行なわれる。
【0081】
ここで、第2インジェクタ122bから出た噴霧のうち、点火プラグ113に向かう噴霧125cが、点火プラグ近傍に到達するまでに気化して成層混合気を形成する。
【0082】
同じく第2のインジェクタ122bから出た噴霧のうち、ピストン107の冠面に向かう噴霧125dは、ピストン107に設けられたタンブル保存キャビティ108に沿って進み、シリンダ123内の空気と混合しながら、点火プラグ113の略下側で、シリンダ123内のタンブル120の影響を受け、点火プラグ113に向かって持ち上がる。そして、噴霧125cに由来する混合気に追従する形で、点火プラグ113の周りに安定した成層混合気126bを長時間にわたり形成する。このようにして、安定した成層燃焼を行なわせることができる。
【0083】
図12および図13に、第1の実施形態における、低中回転、中高負荷域における燃焼室の状態を示す。図12は吸気行程、図13は点火時期付近の圧縮行程における状態をそれぞれ示している。この状態は図5の領域(b)に相当する。
【0084】
この場合、エンジンの回転数はアイドル回転数以上の低速または中速回転であり、コンピュータ201により、弱成層燃焼が選択される。このとき、図1および図2に示したコンピュータ201からの指令により、吸気制御弁103は開き方向に設定され、吸気弁111を通り、多くの空気がシリンダ123内に吸入されることになる。
【0085】
このとき、吸気行程、より詳しくは上死点後20°から、下死点前20°付近に至るまで、シリンダ上部に配置された第1インジェクタ122aから燃料が噴射され、噴霧125aが形成される。次に、圧縮行程後半、好ましくは、圧縮上死点前50°から、圧縮上死点前20°付近に至るまで、吸気管101下部に配置された第2インジェクタ122bから燃料が噴射され、噴霧125c、125dが形成される。
【0086】
吸気行程における噴霧はシリンダ123全体に略均質な混合気126bを形成し、圧縮行程における噴霧は、点火プラグ113近傍にのみ混合気126aを形成する。そして、点火時期、例えば上死点前15°で点火が行なわれる。この噴霧では、点火プラグ113付近のみをリッチな混合気とすることができ、点火直後の燃焼速度を上げることで、全体の燃焼を早め、機関の燃焼効率を上げて低燃費なエンジンとすることができる。
【0087】
図14および図15に、第1の実施形態における、高回転高負荷域における燃焼室の状態を示す。図14は吸気行程、図9は点火時期付近の圧縮行程の状態をそれぞれ示している。この状態は、図5の領域(c)に相当する。
【0088】
この場合、図1、図2に示したコンピュータ201により、吸気行程噴射、すなわち均質燃焼が選択される。吸気制御弁103は、略全開に設定され、吸気弁111を通り、多くの空気がシリンダ123内に吸入されることになる。
【0089】
高回転域で吸気行程噴射を行なう場合、第1インジェクタ122aからの噴霧125aのみでは燃料噴射量および噴射期間が十分ではないため、第2インジェクタ122bも同じく吸気行程で噴射を行なう。噴射時期は、第1、第2のインジェクタとも、例えば上死点から下死点までとする。これにより、噴霧125aと125bがシリンダ123内に供給され、その後、圧縮行程を経て、図15の均質混合気126aが生成される。その後点火時期、例えば上死点前10°において点火が行なわれる。これらの構成により、十分な燃料量を確保しながら空気と燃料の混合を促進して空気利用率を高め、スートやノッキングの発生を抑えながら点火時期を進角させ、高出力を得ることができる。
【0090】
図16から図18に、第1の実施形態における、始動直後の冷機時、低回転低負荷時における燃焼室の状態を示す。図16は吸気行程、図17は圧縮行程、図18は点火時期である膨張行程初期における状態をそれぞれ示している。
【0091】
この時には、前述したように点火リタードにより排気温度を上昇させて図1、図2に示した触媒115の早期活性化をはかる必要がある。このため、第1インジェクタ122aを吸気行程に噴射し、第2インジェクタ122bを圧縮行程に噴射する。それぞれの混合気の挙動は、図12または図13に記したものと略同様である。
【0092】
第1インジェクタ122aの噴霧125aはシリンダ123内に均一に広がる混合気126aを形成し、第2インジェクタ122bの噴霧は、点火プラグ113の近傍に直接向かう噴霧125cと、ピストン107の冠面108付近を経由して、点火プラグ113の近傍に巻き上がる噴霧125dが、ともに点火プラグの近傍に成層混合気126bを形成する。
【0093】
図18に示すように、点火は膨張行程、好ましくは上死点後5°から30°前後で行なう。成層混合気126bは、いずれのクランク角でも安定して点火プラグ113の近傍に存在しているので、いずれの点火時期であっても安定して燃焼を行なうことができる。なお、場合により点火を複数回行なっても良く、その場合には、例えば点火時期を上死点後20°と30°のように、ある程度の点火エネルギーのチャージ時間を空けて行なう。
【0094】
このようにして、シリンダ123全体として弱成層混合気を形成し、点火リタード時でも混合気の拡散を抑え、安定した燃焼を行なわせることができる。点火が通常の燃焼の場合よりも遅いため、トルクにならない後燃え分が多くなり、排気温度が上昇し、よって図1および2に図示した触媒115の昇温を行ない、早期活性化によりエミッションの低減をはかることができる。
【0095】
つぎに、本発明に係る筒内噴射式内燃機関の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。図19から図20に、本発明の第2の実施形態における第1インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を示す。
【0096】
第1の実施形態と異なり、本実施形態では、シリンダ123の上部に取り付けられた第2インジェクタ122bを、主に成層混合気の形成のために使用し、吸気弁111の側に配置される第1インジェクタ122aを、主に均質混合気の生成のために使用する。この場合も、第2インジェクタ122bが、燃料噴霧の少なくとも一部を点火プラグ周りに指向されている。
【0097】
第1および第2インジェクタ122a、122bの流量比は、それぞれ5:1から5:5になるように決定される。第2インジェクタ122bは噴口径を小さくし、噴霧貫通力も小さくする。噴霧の広がりについては、シリンダ中心と噴霧のなす角がおおむね40°、噴霧角は約80°とする。
【0098】
第1インジェクタの流量は、中高負荷時でも十分な燃料をシリンダ123内に供給できる流量とする。均質用の噴霧であるので、第1の実施形態と異なり、必ずしも点火プラグ113を指向する必要はなく、シリンダ123のボア壁に付着しない程度に、拡散した噴霧ビームの構成としてよい。具体的には、噴霧貫通力はシリンダボア径程度に抑え、タンブル保存キャビティ108に収まる程度の噴霧とする。
【0099】
図21から図23に、本発明の第2の実施形態の、始動直後の低回転低負荷時における燃焼室の状態を示す。全体構成は第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。図21は吸気行程、図22は圧縮行程、図23は点火時期である膨張行程初期における状態をそれぞれ示している。
【0100】
まず、エンジンの吸気行程において、第1インジェクタ122aを噴射する。噴射時期はおおむね上死点後20°から、下死点前20°までとする。この噴霧により、吸気行程、圧縮行程を経て、シリンダ123内に均質混合気126aが形成される。
【0101】
次に圧縮行程において、第2インジェクタ122bを噴射する。噴射時期はおおむね上死点前50°から20°程度である。この噴霧により、点火プラグ113の近傍にコンパクトな噴霧を形成し、よって成層混合気126bが形成される。
【0102】
点火は第1の実施形態と同様に、上死点後5°から30°前後で行なう。成層混合気126bは、いずれのクランク角でも安定して点火プラグ113の近傍に存在しているので、いずれの点火時期でも安定して燃焼を行なうことができる。なお、第1の実施形態と同様に、場合により点火を複数回行なっても良い。
【0103】
このようにして、シリンダ123全体として弱成層混合気を形成し、点火リタード時でも混合気の拡散を抑え、安定した燃焼を行なわせることができる。その他の運転条件における使用法は、インジェクタの使用法が位置によって異なる以外は第1の実施形態と略同じであるので、説明は省略する。
【0104】
図24に、低回転低負荷時における、インジェクタ詰まり防止制御の例を示す。この例では、図10または図11に示したように、低回転低負荷時には第2インジェクタ122bのみを使用する(第1の燃料噴射制御を選択する)が、この運転条件が長く続くと、使用していない第1インジェクタ122aの噴口にデポジット(固着物)が堆積し、噴射量変化によりエンジンが不調となる恐れがある。そこで、第1の燃料噴射制御を選択した場合、第2インジェクタ122bのみを使用しているときには時間に応じてカウンタの加算を行ない、カウンタが最大値になった(所定のタイミングになった)時、切り替え許可フラグをONにする。切り替え許可フラグがONであるときには、第2インジェクタ122bからの圧縮行程噴射を停止し、第1インジェクタ122aから吸気行程噴射を行なう。このようにして、定期的に(所定のタイミングで)第1インジェクタ122aの噴射を行ない、詰まりを防止する。
【0105】
図25に、中回転中負荷時における、インジェクタ分割噴射の例を示す。第2インジェクタ122bの流量が小さいため、運転条件に応じて噴射を2回、または3回以上に分割することができる。本図では、第2インジェクタ122bの噴霧を2回に分割した場合について示す。
【0106】
吸気行程では、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの両方から略同時に噴射する。吸気行程であるので気化時間が長く取れ、またシリンダ123の内圧が低いのでシリンダ123内に均質混合気125aが形成できる。圧縮行程では、第2インジェクタのみから噴射を行なう。分割された微量の燃料を点火プラグ113近傍に供給でき、点火プラグ113のごく近傍のみにリッチな混合気を形成して着火性、初期燃焼速度を早め、安定して燃焼させることができる。
【0107】
図26に、第1の実施形態における始動時のフローチャートを示す。イグニッションキーがオンになると(S21)、コンピュータ201が通電される(S22)。その後スタータスイッチがオンにする(クランキング開始)(S23)と、スタータモータに通電され、エンジンが始動される(S24)。エンジンの回転に伴い気筒判別が行なわれる(S25)。
【0108】
次に、エンジンを始動した後、始動後のファストアイドル状態であると判定されると(S26)、フローチャート右側の制御に進む。ファストアイドル状態でないと判定されると(S28)、S26に戻る。右側の制御では、気筒数のカウンタを確認し(S27)、このあと、前回の冷間時エンジン始動の際に記憶させておいた、点火時期ADV、噴射時期IT1、IT2の気筒毎のテーブルを読み込み(S29)、コンピュータ201がインジェクタ122aおよび122b、および点火コイル114にパルス通電することにより、それぞれ燃料噴射および点火を行なう(S30〜S32)。
【0109】
次に、気筒別に点火時期および燃料噴射時期をリタードする。そして、全気筒について燃料噴射および点火を行なった後(S33〜S34)、触媒温度センサ303または排気温度センサ304の温度を参照し、触媒が活性化する温度条件を満たしていれば(S35)、本発明の点火時期リタード制御は終了し、通常制御に移行する。触媒温度センサ303の温度がまだ上がっていない場合には、温度上昇が満たされるまで、再び1番気筒から順に燃料噴射、点火を行なう。
【0110】
図27に、従来例と本発明における、始動直後の性能差を示す。横軸は点火時期を示し、縦軸は排気温度、HC量、SOOT(すす)量を示している。従来では混合気形成が不安定であるため、例えば上死点後18°程度まで点火時期を遅らせると燃焼安定性が限界値まで悪化していたが、本発明では例えば上死点後30°前後まで安定して点火リタードを行なうことができる。このため、排気温度を高くすることができ、HCやスートの後燃えを促進し、これらの排出を抑えることが可能である。
【0111】
図28に、始動後の低回転低負荷時における、従来例と本発明の性能差を示す。図27でも説明したように、本発明では弱成層の混合気形成を非常に良好に行なうことができるため、点火時期を遅らせても燃焼が安定しており、その分、さらに点火時期をリタードさせることが可能である。これにより排気温度が高く、後燃えが促進されるため、HCがあっても燃えてしまい、テールパイプから排出される量は少なくなる。また、2つのインジェクタの連携により、必要以上の燃料の壁面付着を抑えることができ、この点でもHCやスートの排出を低く抑えることができる。
【0112】
図29に、暖機後の低回転低負荷時における、従来例と本発明の性能差を示す。本発明では成層混合気の形成を非常に良好に行なうことができる。一般に、混合気をリーンにするとポンピングロスを小さくし、燃費を向上させることができるが、一方で燃焼速度の低下を招き、燃焼不安定や、時間損失の増大によりかえって燃費が低下する場合があり、あまり空燃比をリーンにすることができない。
【0113】
しかし、本発明においては、空燃比をリーンにしても点火プラグ113の近傍にストイキまたはリッチな混合気を存在させ、初期燃焼速度を早く保ち、またそのサイクルばらつき、気筒間ばらつきを抑えて良好な燃焼を行なわせることができ、エミッションの悪化を抑えながら、十分に燃費を低減することが可能である。
【0114】
さらに、成層混合気を供給するインジェクタは噴口を小さく設定しているため、燃料の微粒化が良く、この点でも未燃燃料による異常燃焼の可能性を抑えることが可能である。さらに、成層混合気を供給するインジェクタは、流量を均質用よりも小さく設定しているため、微小流量の制御性に優れ、例えば2回、3回などの噴射を行なう場合であっても、従来不可能な微小流量を正確に噴射でき、混合気形成における自由度が増している。
【0115】
図30に、高回転高負荷時における、従来例と本発明の性能差を示す。従来のインジェクタでは、微小流量の制御性を確保するために、噴射量に上限があり、大きなダイナミックレンジを確保することが難しく、このため、良好な噴霧形成が行なわれていても、最高出力が制限される場合があった。
【0116】
本発明では均質燃焼時には2本のインジェクタから同時に噴射するので、大きな噴射量を得ることができ、また、1本のインジェクタのみから噴射する場合よりも、より均質度の高い混合気を生成することが可能である。よって空気利用率を上げることができ、また、特に過給を行なう場合など、高負荷域でも、過濃域が存在するために生じるスートの発生や、ノッキングを抑え、点火時期を進角させて、より高出力のエンジンとすることができる。
【0117】
なお、今回の実施形態ではいわゆる横噴きタイプのインジェクタと、直上タイプのインジェクタの組合せを用いた構成で説明したが、本発明の範囲は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、横噴きタイプのインジェクタの代わりに斜め噴きタイプのインジェクタをシリンダヘッドの外周面に配置したり、あるいは、横噴きタイプのインジェクタと斜め噴きタイプのインジェクタを組合せたりするなどの組合せが可能であり、これらの構成も明らかに本発明の範囲に含まれるものである。
【0118】
さらに、各インジェクタの噴射方向に関しても、前記した実施形態では、横噴きインジェクタについては上方向と下方向の組合せを示したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、均質または成層混合気を効率良く形成できる構成であれば、例えば2つのインジェクタともシリンダ上側を指向して噴射しても良いし、あるいは、対向する噴霧を、互いにシリンダ上からみて右側に噴き分ける形で噴射するなどしても良く、これらも本発明の範囲に含まれるものである。
【0119】
またさらに、インジェクタの噴射時期に関しても、例えば始動直後の点火リタード燃焼に関して、吸気−圧縮行程の2回噴射について説明したが、エミッションや燃焼安定性を悪化させない範囲であれば、例えば圧縮−膨張の2回噴射を行なっても良く、これらの噴射タイミング、噴射回数の増減、各インジェクタにおける噴射タイミングを多様に設定することは十分に可能であり、これらも当然、本発明で意図した範囲に含まれるものである。
【0120】
また、前記した実施形態では点火プラグがシリンダの略中心部に1本ある場合について説明したが、点火プラグの配置は必ずしも中央でなくても良く、適切な均質混合気、ならびに成層混合気が形成できるのであれば、シリンダ内の任意の場所でも良い。また、前記した2つの実施形態で説明したようなマルチホールインジェクタの構成を用いることなく、適切な成層および均質混合気を形成することができれば、これらも当然本発明で意図した範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、シリンダ内に直接燃料を噴射し、点火プラグを有するエンジンであれば、自動車用のみならず幅広い機器の動力源として応用が可能と考えられる。
【符号の説明】
【0122】
101…吸気管、102…仕切り板、103…吸気制御弁、104…電子制御スロットルチャンバ、105…エアフローメータ、106…エアクリーナ、107…ピストン、108…タンブル保存キャビティ、110…排気管、111…吸気弁、112…排気弁、113…点火プラグ、114…点火コイル、115…触媒、116…コレクタ、117…消音器、118…シリンダヘッド、120…タンブル、122a…第1インジェクタ、122b…第2インジェクタ、123…シリンダまたはシリンダ壁、125a…均質用噴霧、125b…成層用噴霧、126a…均質混合気、126b…成層混合気、132a、132b…燃料ギャラリ、133a、133b…燃圧センサ、201…コンピュータ、300…クランク軸、301…クランク角センサ、303…触媒温度センサ、304…排気温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒内噴射式内燃機関に係り、特に、インジェクタを2つ備え、点火プラグを備える火花点火式の筒内噴射式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ内に直接燃料を噴射する、筒内噴射式火花点火式ガソリンエンジン(DI−Gエンジン)が広く知られている。これ以前に主流であったマルチポート噴射システム(MPiシステム)を備えたエンジンに比べ、混合気の点火プラグ周り成層化による大幅なトータル空燃比の希薄化が可能になり、これにより燃費の低減を行なうことができ、また、吸気冷却効果や、燃焼効率向上による出力の向上が見込まれている。
【0003】
この種のエンジン、ことに、過給機を用いて高負荷域のトルクを向上させるように構成したものにあっては、たとえばアイドル時のような極低回転低負荷時には必要燃料量が極端に少なく、逆に高回転高負荷で過給を行なっている際には、短時間に非常に多くの燃料を供給する必要がある。
【0004】
高負荷時に十分な流量を供給するには、インジェクタのノズル穴径を大きくするなどして対応することができるが、インジェクタにはダイナミックレンジと呼ばれる最大流量と最小流量の比が存在するために、最大流量を増やすと、精度良く噴射できる最小流量も自ずから増えてしまう。そのため、アイドル時に設定したい流量が最小燃料量付近、またはこれを下回り、燃料供給の精度が悪化し、燃焼が不安定になり、エンジンの回転変動が大きくなって乗り心地が悪化したり、HCなどのエミッションが増加するといった問題点があった。または、これを回避するためアイドル回転数を低くできず、燃費が悪化するといった問題があった。
【0005】
この点に鑑みた従来技術として、例えば、特許文献1に開示されている過給機付筒内噴射型エンジンがある。このエンジンでは、アイドル時などの極低回転時には燃圧を低下させ、同一の噴射パルス幅でも燃料供給量を小さくするとともに、吸気行程にて燃料噴射を行なうことにより、燃料の気化時間を確保して燃焼性を確保するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、別の従来技術として、例えば、特許文献2に開示されている過給機付筒内噴射型エンジンがある。このエンジンでは、多気筒エンジンの各気筒内に直接噴射する第1のインジェクタを高負荷時に用い、これより噴射量が少なく、サージタンクに設けられた第2のインジェクタをアイドル時を含む低負荷時に用いる。このように流量特性の異なる2種類のインジェクタを用いることにより、エンジンの広い運転域で安定燃焼が可能だとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−274077号公報
【特許文献1】特開2003−83138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記のような構成においては、次に示すような問題点があった。すなわち、従来技術においてはアイドル時などの極低負荷時に燃圧を低下させたり、サージタンク等の吸気系において噴射を行なっているが、燃圧を下げると噴霧粒径が粗大化して気化が悪くなり、ピストンやヘッド、シリンダボアなどの壁面に付着しやすく、HC(未燃炭化水素)などのエミッションが悪化しやすいという問題点があった。
【0009】
また、多気筒エンジンにあっては、サージタンクに燃料を噴射した場合、吸気流によって、各気筒間の空燃比にばらつきが生じ、トルク変動の原因になるという問題があった。特にエンジン冷機時などでは、吸気系に燃料を噴射すると、その燃料が吸気ポート内で壁流となり、吸気弁が開いたときにシリンダ内に流れ込み、これらが十分に気化できず、スート(すす)やHCなどのエミッションの原因になるという問題点があった。
【0010】
また、筒内噴射エンジンにあっては、その圧縮行程噴射を用いて混合気の成層化を行なうことによりポンピングロスを低減してアイドル時の燃費を低減することができるが、従来技術ではこの点が考慮されておらず、燃費低減が不十分であるという問題点があった。
【0011】
さらに、最近では混合気の最適化をはかるために、例えば吸気行程と圧縮行程の2度に分けて噴射する、いわゆる分割噴射を行なう場合があるが、極低負荷時の燃料を主として吸気ポートから供給するとした従来例にあっては、このコントロールが実質不可能であり、混合気の最適化がはかれないといった問題点があった。
【0012】
さらに、この種の筒内噴射エンジンにあっては、始動直後に混合気を点火プラグ周りにややリッチな混合気、すなわち弱成層混合気とし、点火時期をリタードさせることにより後燃えの割合を増やして排気温度を上げ、触媒の早期活性化を促してモードエミッションの低減を図る方法が知られているが、前記従来例においては、低回転時の混合気形成を主としてポート噴射に頼っているため、リタード時に点火プラグ周りに安定した弱成層混合気を形成することが難しく、十分なリタード量を確保することができないという問題点があった。
【0013】
これらを総合すると、インジェクタのダイナミックレンジの拡大を優先したために、広い運転範囲における適正な混合気形成を十分に行なうことができず、筒内噴射エンジンの利点である燃費低減、エミッション低減などの効果が十分に得られていないという問題点があった。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、極低負荷時の最小流量と、高負荷時の最大流量の比率すなわちダイナミックレンジを大きく保ちながら、各運転条件での混合気の最適化により、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保できる筒内噴射式内燃機関を提供することである。
【0015】
また、燃料の壁面付着を抑え、スートやHCの低減をはかることのできる筒内噴射式内燃機関を提供することである。さらに、混合気形成を最適化することにより、始動直後に十分な点火リタード量を確保でき、排気温度を上昇させて触媒の早期活性化をはかり、HCを低減するとともに、燃料の気化時間を長く確保してスートの低減をはかる筒内噴射式内燃機関を提供することである。
【0016】
また、成層混合気を作るためのインジェクタからの噴霧の微粒化、および気化を促進し、HC、スート等のエミッションの低減をはかる筒内噴射式内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成すべく、本発明に係る筒内噴射式内燃機関は、燃料をシリンダ上部の燃焼室内に直接噴射するインジェクタを1シリンダ当たり2つ備えており、運転条件によって2つのインジェクタのうち、一方または両方を用いて燃料噴射を行なうように構成されている筒内噴射式内燃機関であって、前記2つのインジェクタのうち第1のインジェクタは、燃料噴霧をシリンダ内にほぼ均等に分散させ、第2のインジェクタは、燃料噴霧の少なくとも一部を点火プラグ周りに指向させており、前記2つのインジェクタを、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件で噴射したときに、前記第1のインジェクタの前記燃料噴射量が、前記第2のインジェクタの燃料噴射量よりも多いことを特徴とする。インジェクタの形態は、一つのインジェクタ毎に複数の噴口を持つマルチホールインジェクタであることが望ましく、第2のインジェクタの少なくとも1つの噴口を点火プラグに指向させることが望ましい。
【0018】
前記のごとく構成された本発明の筒内噴射式内燃機関は、第1と第2のインジェクタを用いて異なる燃料噴射量で運転条件により燃料噴射を行なうことができるため、燃料噴射のダイナミックレンジを大きく保つことができると共に、各運転条件での燃料噴射の条件を決定して混合気の最適化を図ることができる。これにより、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保できる。また、燃料の壁面付着を抑え、スートやHCの低減を可能とする。
【0019】
また、本発明に係る筒内噴射式内燃機関の好ましい具体的な態様としては、前記2つのインジェクタのうち一方を、燃焼室上方のシリンダヘッドの中央付近に配置し、その他方を、吸気管下部のシリンダヘッドに配置しことを特徴としている。
【0020】
このように構成された筒内噴射式内燃機関では、一方のインジェクタで、シリンダヘッドの中央付近からシリンダの燃焼室内に均一な状態で燃料を噴射し、他方のインジェクタで、吸気管下部のシリンダヘッド部分からシリンダ内へ燃料を局所的に噴射し、各種の運転条件に見合った燃料の噴射の最適化を行なうことで、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保できる。
【0021】
例えば、一方のインジェクタとしての第1インジェクタの噴口をシリンダの略頂点部分に開口させ、他方のインジェクタとしての第2インジェクタの噴口をシリンダの2つの吸気ポートに挟まれた燃焼室の下部に開口するように構成することがより好ましい。この場合、第1のインジェクタは、燃焼室全体に噴霧が届くよう、インジェクタ中心線と噴霧のなす角度が40°以上、すなわち噴霧角が略80°以上であるように構成する。第2インジェクタに設けられた複数の噴口から噴射される噴霧のうち、少なくとも1つ以上はピストンを指向せず、点火プラグの近傍を指向するように構成する。
【0022】
他の好ましい具体的な態様としては、前記第1のインジェクタの前記燃料噴射量は、第2のインジェクタの燃料噴射量の5倍以下である。すなわち、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件において噴射した場合、プラグ周りを指向する一方の第1のインジェクタの流量を1としたとき、第2のインジェクタの流量が1を超えて5以下になるように構成されることになる。なお、好ましくは、第1のインジェクタを吸気行程噴射用、第2のインジェクタを圧縮行程噴射用に使用する場合、その最大流量における流量割合を第1のインジェクタのほうが多くなるように、第2のインジェクタに対する第1インジェクタの比率は、1倍を超えて、5倍以下の範囲(第1のインジェクタの流量を5としたときに、第2インジェクタの流量が1以上5未満)になるように構成する。2つのインジェクタを合わせた全噴射量は、このエンジンの最大トルクをまかなえるように設定する。
【0023】
また、別の好ましい具体的態様としては、2つのインジェクタはそれぞれ複数の噴口を備えており、第1のインジェクタの噴口数が6〜8個であり、第2のインジェクタの噴口数が1〜6個である。すなわち、2つのインジェクタのうち、点火プラグ周りを指向する噴霧に用いられる第2のインジェクタと、シリンダ内に噴霧を均等に分散させる第1のインジェクタとの噴口数または噴霧の本数が、第1のインジェクタのそれを6本から8本とすると、第2のインジェクタは1本から6本であることが好ましい。噴射量の比率は、主として噴口の穴数により調整する。例えば、流量の多い第1インジェクタの穴数を5とした場合、流量の少ない第2インジェクタでは略同じ穴径で1〜5穴とする。
【0024】
さらに、別の好ましい具体的態様としては、第2のインジェクタの噴口径は、第1のインジェクタの噴口径よりも小さい。すなわち、第2のインジェクタの噴口径は、第2のインジェクタの噴口径よりも小さくすることにより、第2のインジェクタから噴霧された燃料を微細化することができ、スートやHCの低減を図ることができる。
【0025】
より好ましくは、第1のインジェクタの噴口径を1としたとき、第2のインジェクタの噴口径が0.5以上である。すなわち、第2のインジェクタと、第1のインジェクタとの噴口径の比率が、第1のインジェクタを1としたとき、第2のインジェクタは0.5以上1未満の間であることが好ましい。このように構成すれば、筒内噴射式内燃機関の、各運転条件での混合気の最適化により、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保でき、スートやHCの低減をはかることができる。
【0026】
さらに、前記した筒内噴射式内燃機関を制御するための好ましい制御装置として、制御装置は、運転状態に基づいて要求トルクを演算し、該要求トルクとエンジン回転数に基づいて、一方のインジェクタのみで燃料噴射する第1の燃料噴射制御、又は、双方のインジェクタで燃料噴射する第2の燃料噴射制御を選択する。なお、第1の燃料噴射制御及び第2の燃料噴射制御の選択は、後述する、要求トルクとエンジン回転数に基づいて選択された、成層燃焼、弱成層燃焼、又は均質燃焼の制御に応じて、選択されるものである。
【0027】
本発明によれば、前記内燃機関が低トルクにおいての運転が要求される場合(要求トルクとエンジン回転数に基づいて、成層燃焼制御が選択された場合)には、点火プラグ周りを指向する第2のインジェクタから燃料噴射を行ない、前記内燃機関が高いトルクにおいて運転の運転が要求される場合(要求トルクとエンジン回転数に基づいて、均質燃焼制御が選択された場合)には、主として2つのインジェクタの双方から燃料噴射を行なうことができる。
【0028】
より好ましくは、前記制御装置は、前記要求トルクとエンジン回転数に基づいて、成層燃焼、弱成層燃焼、均質燃焼の制御を選択し、前記均質燃焼を選択した場合には、前記第2の燃料噴射制御を選択し、前記第1、第2のインジェクタを吸気行程で噴射するように制御し、前記弱成層燃焼を選択した場合には、前記第2の燃料噴射制御を選択し、前記第1のインジェクタを吸気行程で噴射し、前記第2のインジェクタを、圧縮行程で噴射するように制御し、前記均質燃焼の制御を選択した場合には、前記第1の燃料噴射制御を選択し、前記第2のインジェクタを、圧縮工程で噴射するように制御する。
【0029】
すなわち、要求トルクとエンジン回転数に基づいて、成層燃焼、弱成層燃焼、均質燃焼の制御を選択し、選択された燃焼制御に応じて、2つのインジェクタの噴射量及び噴射タイミングを制御する。具体的には、制御装置は、均質燃焼を選択した場合には、点火プラグを指向する第2のインジェクタと、均等分散させる第1のインジェクタとを、第1のインジェクタを吸気行程で噴射するように制御するか、または第1、第2のインジェクタを同時に吸気行程で噴射するように制御する。要求トルクとエンジン回転数に基づいて選択された燃焼制御により、弱成層燃焼を行なう(選択した)場合には、第1のインジェクタを吸気行程で噴射し、第2のインジェクタを、圧縮行程において、噴霧が混合気となって点火プラグ近傍に到着するタイミングとなるように噴射するように制御する。さらに、要求トルクとエンジン回転数に基づいて選択された燃焼制御により、成層燃焼を行なう(選択した)場合には、第2のインジェクタを圧縮行程で噴射するように制御する。
【0030】
このように構成された筒内噴射式内燃機関では、内燃機関を低トルクで運転するとき、点火プラグ周りを指向するインジェクタから燃料噴射を行ない、主として均質燃焼にて運転される場合には2つのインジェクタの双方から燃料噴射を行なうことができるため、運転条件に最適な燃料の噴射制御を行なうことができるとともに、各種の運転条件に合せて、2つのインジェクタを用いて、より最適な燃料噴射制御を行なうことができ、低負荷時の燃費向上と、高負荷時の十分な燃焼性を確保できる。
【0031】
好ましい具体的な態様としては、前記2つインジェクタは、それぞれに供給される燃料を別々に加圧して保持する系統を備え、前記制御装置は、それぞれの系統における前記供給燃圧を互いに独立して制御する。すなわち、前記点火プラグを指向する第2のインジェクタと、均等分散させる第1のインジェクタのそれぞれが別々の燃料を加圧して保持する系統を備えており、それぞれの系統における供給燃圧を互いに独立して制御するものである。
【0032】
このように構成された筒内噴射式内燃機関では、一方のインジェクタ及び他方のインジェクタを別々の系統により燃料を加圧して保持し、供給燃圧を互いに独立して制御するため、大きいダイナミックレンジで、精度の良い燃料噴射制御を行なうことができる。これらの第1のインジェクタ、第2のインジェクタは、別々のフュエルギャラリ、すなわち高圧燃料配管に接続されており、これらの燃圧を別々に調整することにより、流量比率を調整することもできる。
【0033】
さらに、好ましい具体的な他の態様としては、前記第1の燃料噴射制御を選択中に、所定のタイミングで、第2のインジェクタの燃料噴射を停止し、前記第1のインジェクタの燃料噴射を行う。すなわち、上述した低トルク時に噴射していない側のインジェクタを定期的に(所定のタイミングで)噴射するので、低トルク時には、点火プラグ周りを指向する側のインジェクタを噴射し、噴射させない側のインジェクタ(第1のインジェクタ)を定期的に噴射させることができる。このように構成すると、噴射させない側のインジェクタの噴射口にスート等が堆積するのを防止できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の筒内噴射式内燃機関は、まず、高回転高負荷域、または過給を行なう場合にも十分な燃料を供給しながら、アイドル時などの低負荷条件でもインジェクタの最小流量の制御性を確保することができ、インジェクタのダイナミックレンジをこれまでの数倍から数十倍に大きくすることが可能である。
【0035】
また、均質燃焼においては、均質度を従来よりも上げることができ、HC等のエミッションやスートを抑えながら、出力向上をはかることができる。弱成層燃焼においては、シリンダ内にややリーンなベース混合気を生成し、かつ点火プラグ近傍に濃い混合気を安定して生成させることで、着火性、初期燃焼安定性を向上させ、これをもって全体の燃焼安定性を向上させ、燃費向上、エミッション低減をはかることができる。
【0036】
さらに、始動時のリタード燃焼においては、点火時期のリタード量を大きくして排気温度を上げることができ、触媒の早期活性化に有利で、燃焼安定性を保ち、失火を防止しながら始動直後の排気低減、特にHC、スートの低減が可能である。また、成層燃焼用のインジェクタの流量を小さくしたので、従来と比べて燃料の微粒化をはかることができ、気化の向上により、壁面付着燃料の低減ができ、HCやスートなどのエミッションの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る筒内噴射式内燃機関の第1の実施形態をシリンダ略横側から見た構成図。
【図2】本発明の第1の実施形態の構成をエンジン上側から見た図。
【図3】第1の実施形態における第2インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を上側から見た図。
【図4】第1の実施形態における第2インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を横側から見た図。
【図5】第1の実施形態における運転領域ごとの燃焼状態を示した図。
【図6】第1の実施形態における、インジェクタの流量特性とダイナミックレンジの関係を示した図。
【図7】第1の実施形態において、中負荷域の燃料噴射制御のフローチャートを示した図。
【図8】第1の実施形態における第1インジェクタ122aの燃圧制御マップ。
【図9】第1の実施形態における第2インジェクタ122bの燃圧制御マップ。
【図10】第1の実施形態で、低回転低負荷時における、吸気行程の燃焼室の状態を表した図。
【図11】第1の実施形態で、低回転低負荷時における、点火時期直前の燃焼室の状態を表した図。
【図12】第1の実施形態で、低中回転、中高負荷時における、吸気行程の燃焼室の状態を表した図。
【図13】第1の実施形態で、低中回転、中高負荷時における、点火時期付近、圧縮行程の燃焼室の状態を表した図。
【図14】第1の実施形態で、高回転高負荷時における、吸気行程の燃焼室の状態を表した図。
【図15】第1の実施形態で、高回転高負荷時における、点火時期付近、圧縮行程の燃焼室の状態を表した図。
【図16】第1の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、吸気行程における燃焼室の状態を表した図。
【図17】第1の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、圧縮行程における燃焼室の状態を表した図。
【図18】第1の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、点火時期付近、膨張行程における燃焼室の状態を表した図。
【図19】第2の実施形態における第1インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を上側から見た図。
【図20】第2の実施形態における第1インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を横側から見た図。
【図21】本発明の第2の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、吸気行程における燃焼室の状態を表した図。
【図22】第2の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、圧縮行程における燃焼室の状態を表した図。
【図23】第2の実施形態で、始動直後、低回転低負荷時、点火時期における燃焼室の状態を表した図。
【図24】低回転低負荷時における、インジェクタ詰まり防止制御の噴射パターンを示した図。
【図25】中回転中負荷時における、インジェクタ分割噴射の例を示した図。
【図26】第1の実施形態における、始動時のフローチャート。
【図27】始動直後の低負荷低回転時における、従来例と本発明のリタード量と排気温度、エミッションを比較した図。
【図28】始動後の低負荷低回転時における、従来例と本発明の性能差を表した図。
【図29】暖機後の低負荷低回転時における、従来例と本発明の性能差を表した図。
【図30】高回転高負荷時における、従来例と本発明の性能差を表した図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明に係る筒内噴射式内燃機関の第1の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1から図2に、本発明の第1の実施形態におけるシステムの構成図を示す。図1は吸気系と排気系を略横側から、図2はエンジン上方から見たものである。なお、本実施形態では主として多気筒エンジンを想定しているが、以降の図では簡単のために1つのシリンダについて説明する。
【0039】
図1、図2において、吸気管101は、シリンダ123の端面と吸気制御弁103との間の区間において、仕切り板102によって上下に分割されている。上流部に設けられた吸気制御弁103は、この吸気管101の下部側通路を閉塞するように取り付けられている。吸気制御弁103により、吸気管101を通過する空気量と、その方向を制御することができる。
【0040】
第1インジェクタ122aは、燃焼室上方のシリンダヘッドの中央付近に配置され、具体的には、シリンダ123の頂点付近から、ピストン方向である下方に向かい、直接シリンダ123上部の燃焼室内に燃料を噴射するように取り付けられている。第1インジェクタ122aは、燃料噴霧をシリンダ内にほぼ均等に分散させものである。第1インジェクタ122aの燃料を噴射する噴口は複数設けられており、一般にマルチホールインジェクタと呼ばれる形式である。噴口、すなわち噴霧の数は通常は6〜8本程度とする。
【0041】
また、第2インジェクタ122bは、吸気管下部のシリンダヘッドに配置されており、具体的には、シリンダ123の2つの吸気弁111に挟まれた下部から、排気側方向に向けて直接シリンダ上部の燃焼室内に燃料を噴射するように取り付けられている。この第2インジェクタ122bの噴口も、第1インジェクタ122aと同様に複数設けられており、噴口または噴霧の数を1〜6本程度とする。ここで、前記第2インジェクタ122bの噴口のうち、少なくとも1つ以上から出る燃料噴霧が、点火プラグ113のやや下側に向く方向に噴射されるように構成される。すなわち、第2インジェクタ122bは、燃料噴霧の少なくとも一部を点火プラグ周りに指向させている。
【0042】
また、2つのインジェクタ122a,122bを、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件で噴射したときに、第1のインジェクタ122aの燃料噴射量が、第2のインジェクタ122bの燃料噴射量よりも多くなるように、2つのインジェクタ122a,122bが構成されている。好ましくは、第1インジェクタ122a、第2インジェクタ122bの、それぞれの全噴射時には、第1のインジェクタ122aの燃料噴射量は、第2のインジェクタ122bの燃料噴射量の5倍以下である。すなわち、プラグ周りを指向する一方の第1のインジェクタ122aの流量を1としたとき、第2のインジェクタ122bの流量が1を超えて5以下になるように構成されることになる。換言すると、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの流量比率が5:5を超えて5:1の間になるように構成される。具体的には、第1のインジェクタ122bの噴口径、もしくはオリフィス径を第2のインジェクタ122aのそれよりも小さくし、穴数も、第1インジェクタが6〜8噴口であるとき、第2インジェクタは1〜6噴口と少なくする。通常は第2インジェクタの噴口数が第1インジェクタの噴口数を上回ることはない。穴径については、第1インジェクタ122aの穴径を1としたとき、第2インジェクタ122bの穴径は0.5以上1未満になるようにする。
【0043】
図1および図2の右下側より空気が吸入され、エアクリーナ106を通り、エアフローメータ105で流量を計測し、電子制御スロットルチャンバ104で流量を調節した後、コレクタ116で各気筒に分配される。その後、コレクタ116で分配された空気は、前記した吸気管101を通り、吸気弁111が開いた際にシリンダ123に流入する。シリンダ123内で点火され燃焼したガスは、排気弁112、排気管110、触媒115を通り、消音器117を通って大気中に排気される。
【0044】
また、燃料は図示されていない燃料タンクから、ポンプ140によって加圧され、逆止弁141aおよび141b、第1インジェクタ122aへの燃料を供給するコモンレールである燃料ギャラリ132aを通り、第1インジェクタ122aから噴射される。第1インジェクタ122aにより使われなかった燃料は、燃圧センサ一体型プレッシャレギュレータ133aを通り、図示されていない燃料タンクに戻される。
【0045】
または、第2インジェクタ122bへの燃料を供給する燃料ギャラリ132bを通り、第2インジェクタ122bから噴射される。第2インジェクタ122bにより使われなかった燃料は、燃圧センサ一体型プレッシャレギュレータ133bを通り、図示されていない燃料タンクに戻される。
【0046】
各燃料ギャラリ132a、132bの圧力は、燃圧センサ一体型プレッシャレギュレータ133a、133bによって計測され、制御される。具体的には、各プレッシャレギュレータ133a、133bにコンピュータ(制御装置)201から与えられる制御信号により、図示されていない燃料タンクへのリターン量を制御することにより、燃圧を設定した値に保つことができる。この燃圧の値は、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bで異なっていても良く、それぞれのインジェクタの流量や微粒化、噴霧貫通力の程度を適切にするために用いることができる。
【0047】
インジェクタ122aおよび122bの燃料噴射時期、点火プラグ113の点火時期、吸気制御弁103、電子制御スロットル104の開度は、エアフローメータ105で計測された吸入空気量、それぞれの燃料ギャラリ132aおよび132bに取り付けられた、燃圧センサ133a,133bによって計測される、燃料ギャラリ132a,132b内の燃料圧力、クランク角センサ301で求められたエンジン回転数、アクセルペダルの開度、そしてエンジン水温、車速(いずれもその入力側センサを図示していない)などの情報を基にしてコンピュータ201によって最適な値および時期に設定および制御される。なお、クランク角センサ301は、クランク軸300に固定されたセンサ板302の突起を検出してクランク角を検出する構成となっている。
【0048】
点火については、コンピュータ201から点火コイル114に点火パルス信号を与えると、点火コイル114の二次側から高電圧が発生し、点火プラグ113に点火用の火花が飛ぶようになっている。
【0049】
燃料噴射については、コンピュータ201から第1インジェクタ122a、または第2インジェクタ122bに噴射パルス信号を与えると、それに応じた開弁時間でインジェクタ122aおよび122bの作動が行なわれる。なお、実際の燃料噴射量は、この開弁時間と、燃圧センサ133a,133bによって計測される燃料ギャラリ132a,132b内の圧力(燃圧)によって変わるため、コンピュータ201はこの燃圧を考慮してパルス幅を決定する。
【0050】
エンジンの低負荷時など、エンジンにとって空気流動が必要な状態であると判断されると、コンピュータ201は、吸気制御弁103を閉じ方向に制御し、仕切り板102の下方の通路の流量を制御することにより、燃焼室内を、より最適なタンブル強度になるようにする。
【0051】
図3および図4に、第1の実施形態における第2インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を示す。
【0052】
ピストン107上には、シリンダ内にタンブル120を形成するタンブル保存用キャビティ108が設けられており、このキャビティの凹面に沿って、図1および図2に示した吸気管101からの流れが保存され、シリンダ123内に吸入された空気はシリンダ内を回転する。また、第2インジェクタ122bからの噴霧125bのうち、下側に噴射されたものについては、このタンブル保存キャビティ108に沿って進む。ここで、ピストン107の略中心には段差108aが設けられており、この段差をきっかけとして、前述のタンブル120により、噴霧125bが点火プラグ113の近傍に巻き上がる働きをする。第2インジェクタ122bを圧縮行程の後半、好ましくは上死点前50°から上死点前20°で用いることにより、点火プラグ113の近傍に安定した成層混合気を形成することができる。
【0053】
図5に、本発明の第1の実施形態における、暖気後の運転領域ごとの燃焼状態を示す。コンピュータ201は、要求トルクとエンジン回転数に基づいて、第2のインジェクタのみで燃料噴射する第1の燃料噴射制御、又は、双方のインジェクタで燃料噴射する第2の燃料噴射制御を選択する。なお、要求トルクは、後述する運転状態により演算されるものである。
【0054】
具体的には、要求トルクとエンジン回転数に基づいて、図5に示すマップを用いて、成層燃焼、弱成層燃焼、均質燃焼の制御を選択し、選択された燃焼制御に応じて、インジェクタの第1の燃料噴射制御及び第二の燃料噴射制御を選択し、燃料の噴射を制御する。
【0055】
比較的低負荷低回転においては、領域(a)に示したように第2インジェクタを用いて成層運転を行ない、空燃比のリーン化によりポンピングロスを抑え、燃費を低減する。具体的には、要求トルクとエンジン回転数により、図5に示す成層燃焼制御(成層運転)を選択した場合には、コンピュータ201は、点火プラグ周りを指向する第2のインジェクタで燃料噴射を行なう。
【0056】
領域(a)よりも高回転側または高負荷側の領域(b)では、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの双方を使用する。このとき、要求トルクとエンジン回転数に基づいて弱成層燃焼制御(弱成層運転)を選択した場合には、コンピュータ201は、第1インジェクタ122aを吸気行程に、第2インジェクタ122bを主として圧縮行程で噴射させる。これにより、シリンダ123内に弱成層混合気、すなわち、点火プラグ113の近傍がリッチで、その周辺が比較的リーンな混合気を形成することができる。
【0057】
さらに高回転、または高負荷の領域(c)では、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの両方を用い、双方を吸気行程で大流量の燃料を噴射して高出力に対応する。すなわち、要求トルクとエンジン回転数に基づいて均質燃焼制御(均質運転)を選択した場合には、コンピュータ201は、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの両方を用い、双方を吸気行程で大流量の燃料を噴射させる。各領域における運転の詳細に関しては後述する。
【0058】
図6は、本発明の第1の実施形態における、インジェクタの流量特性とダイナミックレンジに関する説明図である。なお後述するが、実際には燃圧を変化させて使用するが、本図は簡単のために、あらかじめ燃圧一定の状態で特性を取得し、表示したものである。
【0059】
通常、インジェクタをパルスによって駆動する場合、パルス幅と流量特性は略比例する関係にあるが、ある一定のパルス幅以下では、インジェクタに通電してもプランジャが開かず、燃料が噴射されない。これを一般に無効噴射パルス幅と呼んでいる。また、無効噴射パルス幅以上のパルス幅であっても、インジェクタの作動が不安定であるため、使用できないパルス幅がある。
【0060】
第1インジェクタ122aにおいて、使用できる最小パルス幅における流量をQ1minとし、インジェクタの最大流量をQ1maxとしたとき、ダイナミックレンジはQ1minとQ1maxの比で表され、現在の技術水準では、通常その比率は5〜7前後である。低負荷時の燃料消費量が少なく、かつ高負荷域のトルクが大きい過給直噴ガソリンエンジンでは、ダイナミックレンジが不足して問題になることが多い。
【0061】
ここで、本発明では従来からの第1インジェクタ122aに加えて、第1インジェクタ122aよりも全噴射時の流量が少ない第2インジェクタ122bを備えている。これらのインジェクタの流量特性は、横軸をパルス幅、縦軸を燃料流量とすると、パルス幅の増加に対して燃料流量が増加する、傾きのある直線でほぼ表すことができる。図6中にはそれぞれの最大、最小流量の点も合わせて示している。
【0062】
第1インジェクタのみでの通常のダイナミックレンジを表す式は
・Q1max/Q1min=7 …(1)
である。
【0063】
第2インジェクタについても同様に
・Q2max/Q2min=7 …(2)
のように表すことができる。
【0064】
ここで、第1インジェクタと第2インジェクタの流量比を5:1とする。
・Q1max/Q2max=5 …(3)
・Q1min/Q2min=5 …(4)
【0065】
このとき、本発明の1シリンダあたりの最小噴射量は、第2インジェクタ122bのみの最小噴射量Q2minになり、最大噴射量は、第1インジェクタ122aおよび第2インジェクタ122bの合計の最大噴射量、すなわちQ1max+Q2maxになるので、本発明におけるエンジンとしてのダイナミックレンジは、(Q1max+Q2max)/Q2minで表すことができ、その値は、(1)〜(4)式を順次代入して次のように求められる。
【0066】
すなわち、
・(Q1max+Q2max)/Q2min
=Q1max/Q2min+Q2max/Q2min (上式を展開)
=Q1max/(Q1min×(1/5))+Q2max/Q2min
((4)式を移項して代入)
=5×(Q1max/Q1min)+Q2max/Q2min
=5×7+7 ((1)、(2)式を代入)
=42 …(5)
【0067】
このように、(5)式に示したように本発明におけるダイナミックレンジは42にでき、1シリンダ当たり1つのインジェクタを使用する従来の場合と比べて非常に大きいダイナミックレンジを得ることができる。
【0068】
図7に、第1の実施形態における燃料噴射制御のフローチャートを示す。この制御は第1インジェクタ122a、第2インジェクタ122bの双方から噴射する場合、すなわち主として図5の領域(b)と(c)の場合について記述している。
【0069】
まず、コンピュータ201に、クランク角センサ301からの情報をもとにエンジン回転数が読み込まれる(S1)。その後、エンジン水温(S2)、アクセル開度、ギヤ位置(S3)などの情報が読み込まれ、要求トルクが演算される(S4)。そして、エンジン回転数および要求トルクの情報を基に、第1インジェクタの燃圧マップM1を参照し、目標燃圧p1tを取得する(S5)。
【0070】
ここで、第1インジェクタが取り付けられている燃料ギャラリの燃圧センサ133aで計測した燃圧p1と、p1tを比較する。燃圧p1が、マップM1で得られた目標値p1tよりもh1以上高い場合(S6)には、燃圧レギュレータR1のリリーフ量を制御量iだけ大きくする(S7)。h1はヒステリシスであり、本発明では例えば0.1MPaに設定される定数である。燃圧p1が、マップM1で得られた目標値p1tよりもh1以上低い場合(S8)には、燃圧レギュレータR1のリリーフ量を制御量iだけ小さくする(S9)。
【0071】
同様に第2インジェクタのマップM2を参照して目標燃圧p2tを求め(S10)、燃圧センサ133bで計測された燃圧p2と比較し(S11、S13)、ヒステリシスh2として同様に燃圧レギュレータR2を制御する(S12、S14)。以上のようにして、燃料系の燃圧を目標値に近くセットすることができる。
【0072】
次に、マップから、i番目気筒の第1インジェクタの噴射時期IT1、パルスTi1、第2インジェクタの噴射時期IT2、パルス幅Ti2、点火時期ADVを読み取る(S15)。
【0073】
そして、クランク角がIT1、IT2になったとき、第1インジェクタ、第2インジェクタの噴射をそれぞれ行なう(S16、S17)。2つのインジェクタの噴射は略同時に行なわれる場合もあり、また、第1インジェクタ122aの噴射が吸気行程に、第2インジェクタ122bの噴射が圧縮行程に行なわれる場合もある。次に、クランク角ADVで点火を行なう(S18)。以上の操作を第1気筒からi番目気筒まで行ない(S19、S20)、全ての気筒に順次噴射および点火を行なうようにする。
【0074】
図8および図9に、本発明の第1の実施形態における燃圧制御マップを示す。図8が第1インジェクタ122aの燃圧制御マップM1、図9が第2インジェクタ122bの燃圧制御マップM2である。これらの燃圧マップは、横軸をエンジン回転数、縦軸をエンジントルクとして表示している。図7のフローチャートに示したように、エンジン回転数、トルクから目標の燃圧p1t、p2tをそれぞれ求め、燃圧レギュレータのリリーフ量を制御することにより、各噴射系統の燃圧を独立して制御することができる。
【0075】
図8で、低回転低負荷域では第1インジェクタの燃圧の値(括弧付きの数値)は例えば10MPaに設定されているが、この値は図24で後述する詰まり防止制御時を除き、実際には使用されることがない。負荷、または回転数が高くなり、図5に示した領域(b)に達すると、主に燃圧10MPaで噴射を行なう。さらに高負荷側すなわち図の上部では、流量を満足し、また、シリンダ内の均質性を高めるため、燃圧を15MPaと高くする。
【0076】
図9において、低回転または低負荷域では、必要燃料流量が小さくても精度良く噴射を行なえるよう、燃圧を小さく設定する。本実施形態では例えば5MPaのように設定する。負荷、または回転数が高くなると、燃料の微粒化を向上させるため、燃圧を15MPaと高くする。
【0077】
さらに高負荷域では領域(c)で均質噴射を行なう。領域(c)の中でも比較的低負荷な領域では、噴霧の貫通力を弱めて噴霧が対向壁に付着するのを防ぐために、燃圧を例えば10MPaと小さくする。負荷が高くなると、空気量が増え、これに対応して流量を多くするとともに、噴霧の貫通力を上げて均質性を確保するため、再び燃圧を高く設定する。さらに高負荷な領域では、例えば目標燃圧を20MPaとする。
【0078】
図8、図9に示したものは一例であり、第1、第2インジェクタのそれぞれについて必要な場合には適宜燃圧マップの変更を行ない、各運転条件に即した適切な燃圧に設定することができる。
【0079】
図10から図11に、第1の実施形態における、低回転低負荷における燃焼室の状態を示す。図10は吸気行程、図11は点火時期付近の圧縮行程の状態を示している。この状態は、図5の領域(a)に相当する。
【0080】
この場合、図1、図2に示したコンピュータ201により、圧縮行程噴射、すなわち成層燃焼が選択される。吸入制御弁103は、前述の図5の場合と同じく、やや閉じ方向にセットされる。このとき、第2のインジェクタのみから、圧縮行程、好ましくは、圧縮上死点前50°から、圧縮上死点前20°付近に至るまでに燃料が噴射される。そして、点火時期、例えば上死点前15°で点火が行なわれる。
【0081】
ここで、第2インジェクタ122bから出た噴霧のうち、点火プラグ113に向かう噴霧125cが、点火プラグ近傍に到達するまでに気化して成層混合気を形成する。
【0082】
同じく第2のインジェクタ122bから出た噴霧のうち、ピストン107の冠面に向かう噴霧125dは、ピストン107に設けられたタンブル保存キャビティ108に沿って進み、シリンダ123内の空気と混合しながら、点火プラグ113の略下側で、シリンダ123内のタンブル120の影響を受け、点火プラグ113に向かって持ち上がる。そして、噴霧125cに由来する混合気に追従する形で、点火プラグ113の周りに安定した成層混合気126bを長時間にわたり形成する。このようにして、安定した成層燃焼を行なわせることができる。
【0083】
図12および図13に、第1の実施形態における、低中回転、中高負荷域における燃焼室の状態を示す。図12は吸気行程、図13は点火時期付近の圧縮行程における状態をそれぞれ示している。この状態は図5の領域(b)に相当する。
【0084】
この場合、エンジンの回転数はアイドル回転数以上の低速または中速回転であり、コンピュータ201により、弱成層燃焼が選択される。このとき、図1および図2に示したコンピュータ201からの指令により、吸気制御弁103は開き方向に設定され、吸気弁111を通り、多くの空気がシリンダ123内に吸入されることになる。
【0085】
このとき、吸気行程、より詳しくは上死点後20°から、下死点前20°付近に至るまで、シリンダ上部に配置された第1インジェクタ122aから燃料が噴射され、噴霧125aが形成される。次に、圧縮行程後半、好ましくは、圧縮上死点前50°から、圧縮上死点前20°付近に至るまで、吸気管101下部に配置された第2インジェクタ122bから燃料が噴射され、噴霧125c、125dが形成される。
【0086】
吸気行程における噴霧はシリンダ123全体に略均質な混合気126bを形成し、圧縮行程における噴霧は、点火プラグ113近傍にのみ混合気126aを形成する。そして、点火時期、例えば上死点前15°で点火が行なわれる。この噴霧では、点火プラグ113付近のみをリッチな混合気とすることができ、点火直後の燃焼速度を上げることで、全体の燃焼を早め、機関の燃焼効率を上げて低燃費なエンジンとすることができる。
【0087】
図14および図15に、第1の実施形態における、高回転高負荷域における燃焼室の状態を示す。図14は吸気行程、図9は点火時期付近の圧縮行程の状態をそれぞれ示している。この状態は、図5の領域(c)に相当する。
【0088】
この場合、図1、図2に示したコンピュータ201により、吸気行程噴射、すなわち均質燃焼が選択される。吸気制御弁103は、略全開に設定され、吸気弁111を通り、多くの空気がシリンダ123内に吸入されることになる。
【0089】
高回転域で吸気行程噴射を行なう場合、第1インジェクタ122aからの噴霧125aのみでは燃料噴射量および噴射期間が十分ではないため、第2インジェクタ122bも同じく吸気行程で噴射を行なう。噴射時期は、第1、第2のインジェクタとも、例えば上死点から下死点までとする。これにより、噴霧125aと125bがシリンダ123内に供給され、その後、圧縮行程を経て、図15の均質混合気126aが生成される。その後点火時期、例えば上死点前10°において点火が行なわれる。これらの構成により、十分な燃料量を確保しながら空気と燃料の混合を促進して空気利用率を高め、スートやノッキングの発生を抑えながら点火時期を進角させ、高出力を得ることができる。
【0090】
図16から図18に、第1の実施形態における、始動直後の冷機時、低回転低負荷時における燃焼室の状態を示す。図16は吸気行程、図17は圧縮行程、図18は点火時期である膨張行程初期における状態をそれぞれ示している。
【0091】
この時には、前述したように点火リタードにより排気温度を上昇させて図1、図2に示した触媒115の早期活性化をはかる必要がある。このため、第1インジェクタ122aを吸気行程に噴射し、第2インジェクタ122bを圧縮行程に噴射する。それぞれの混合気の挙動は、図12または図13に記したものと略同様である。
【0092】
第1インジェクタ122aの噴霧125aはシリンダ123内に均一に広がる混合気126aを形成し、第2インジェクタ122bの噴霧は、点火プラグ113の近傍に直接向かう噴霧125cと、ピストン107の冠面108付近を経由して、点火プラグ113の近傍に巻き上がる噴霧125dが、ともに点火プラグの近傍に成層混合気126bを形成する。
【0093】
図18に示すように、点火は膨張行程、好ましくは上死点後5°から30°前後で行なう。成層混合気126bは、いずれのクランク角でも安定して点火プラグ113の近傍に存在しているので、いずれの点火時期であっても安定して燃焼を行なうことができる。なお、場合により点火を複数回行なっても良く、その場合には、例えば点火時期を上死点後20°と30°のように、ある程度の点火エネルギーのチャージ時間を空けて行なう。
【0094】
このようにして、シリンダ123全体として弱成層混合気を形成し、点火リタード時でも混合気の拡散を抑え、安定した燃焼を行なわせることができる。点火が通常の燃焼の場合よりも遅いため、トルクにならない後燃え分が多くなり、排気温度が上昇し、よって図1および2に図示した触媒115の昇温を行ない、早期活性化によりエミッションの低減をはかることができる。
【0095】
つぎに、本発明に係る筒内噴射式内燃機関の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。図19から図20に、本発明の第2の実施形態における第1インジェクタの噴霧と、ピストン、点火プラグとの位置関係を示す。
【0096】
第1の実施形態と異なり、本実施形態では、シリンダ123の上部に取り付けられた第2インジェクタ122bを、主に成層混合気の形成のために使用し、吸気弁111の側に配置される第1インジェクタ122aを、主に均質混合気の生成のために使用する。この場合も、第2インジェクタ122bが、燃料噴霧の少なくとも一部を点火プラグ周りに指向されている。
【0097】
第1および第2インジェクタ122a、122bの流量比は、それぞれ5:1から5:5になるように決定される。第2インジェクタ122bは噴口径を小さくし、噴霧貫通力も小さくする。噴霧の広がりについては、シリンダ中心と噴霧のなす角がおおむね40°、噴霧角は約80°とする。
【0098】
第1インジェクタの流量は、中高負荷時でも十分な燃料をシリンダ123内に供給できる流量とする。均質用の噴霧であるので、第1の実施形態と異なり、必ずしも点火プラグ113を指向する必要はなく、シリンダ123のボア壁に付着しない程度に、拡散した噴霧ビームの構成としてよい。具体的には、噴霧貫通力はシリンダボア径程度に抑え、タンブル保存キャビティ108に収まる程度の噴霧とする。
【0099】
図21から図23に、本発明の第2の実施形態の、始動直後の低回転低負荷時における燃焼室の状態を示す。全体構成は第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。図21は吸気行程、図22は圧縮行程、図23は点火時期である膨張行程初期における状態をそれぞれ示している。
【0100】
まず、エンジンの吸気行程において、第1インジェクタ122aを噴射する。噴射時期はおおむね上死点後20°から、下死点前20°までとする。この噴霧により、吸気行程、圧縮行程を経て、シリンダ123内に均質混合気126aが形成される。
【0101】
次に圧縮行程において、第2インジェクタ122bを噴射する。噴射時期はおおむね上死点前50°から20°程度である。この噴霧により、点火プラグ113の近傍にコンパクトな噴霧を形成し、よって成層混合気126bが形成される。
【0102】
点火は第1の実施形態と同様に、上死点後5°から30°前後で行なう。成層混合気126bは、いずれのクランク角でも安定して点火プラグ113の近傍に存在しているので、いずれの点火時期でも安定して燃焼を行なうことができる。なお、第1の実施形態と同様に、場合により点火を複数回行なっても良い。
【0103】
このようにして、シリンダ123全体として弱成層混合気を形成し、点火リタード時でも混合気の拡散を抑え、安定した燃焼を行なわせることができる。その他の運転条件における使用法は、インジェクタの使用法が位置によって異なる以外は第1の実施形態と略同じであるので、説明は省略する。
【0104】
図24に、低回転低負荷時における、インジェクタ詰まり防止制御の例を示す。この例では、図10または図11に示したように、低回転低負荷時には第2インジェクタ122bのみを使用する(第1の燃料噴射制御を選択する)が、この運転条件が長く続くと、使用していない第1インジェクタ122aの噴口にデポジット(固着物)が堆積し、噴射量変化によりエンジンが不調となる恐れがある。そこで、第1の燃料噴射制御を選択した場合、第2インジェクタ122bのみを使用しているときには時間に応じてカウンタの加算を行ない、カウンタが最大値になった(所定のタイミングになった)時、切り替え許可フラグをONにする。切り替え許可フラグがONであるときには、第2インジェクタ122bからの圧縮行程噴射を停止し、第1インジェクタ122aから吸気行程噴射を行なう。このようにして、定期的に(所定のタイミングで)第1インジェクタ122aの噴射を行ない、詰まりを防止する。
【0105】
図25に、中回転中負荷時における、インジェクタ分割噴射の例を示す。第2インジェクタ122bの流量が小さいため、運転条件に応じて噴射を2回、または3回以上に分割することができる。本図では、第2インジェクタ122bの噴霧を2回に分割した場合について示す。
【0106】
吸気行程では、第1インジェクタ122aと第2インジェクタ122bの両方から略同時に噴射する。吸気行程であるので気化時間が長く取れ、またシリンダ123の内圧が低いのでシリンダ123内に均質混合気125aが形成できる。圧縮行程では、第2インジェクタのみから噴射を行なう。分割された微量の燃料を点火プラグ113近傍に供給でき、点火プラグ113のごく近傍のみにリッチな混合気を形成して着火性、初期燃焼速度を早め、安定して燃焼させることができる。
【0107】
図26に、第1の実施形態における始動時のフローチャートを示す。イグニッションキーがオンになると(S21)、コンピュータ201が通電される(S22)。その後スタータスイッチがオンにする(クランキング開始)(S23)と、スタータモータに通電され、エンジンが始動される(S24)。エンジンの回転に伴い気筒判別が行なわれる(S25)。
【0108】
次に、エンジンを始動した後、始動後のファストアイドル状態であると判定されると(S26)、フローチャート右側の制御に進む。ファストアイドル状態でないと判定されると(S28)、S26に戻る。右側の制御では、気筒数のカウンタを確認し(S27)、このあと、前回の冷間時エンジン始動の際に記憶させておいた、点火時期ADV、噴射時期IT1、IT2の気筒毎のテーブルを読み込み(S29)、コンピュータ201がインジェクタ122aおよび122b、および点火コイル114にパルス通電することにより、それぞれ燃料噴射および点火を行なう(S30〜S32)。
【0109】
次に、気筒別に点火時期および燃料噴射時期をリタードする。そして、全気筒について燃料噴射および点火を行なった後(S33〜S34)、触媒温度センサ303または排気温度センサ304の温度を参照し、触媒が活性化する温度条件を満たしていれば(S35)、本発明の点火時期リタード制御は終了し、通常制御に移行する。触媒温度センサ303の温度がまだ上がっていない場合には、温度上昇が満たされるまで、再び1番気筒から順に燃料噴射、点火を行なう。
【0110】
図27に、従来例と本発明における、始動直後の性能差を示す。横軸は点火時期を示し、縦軸は排気温度、HC量、SOOT(すす)量を示している。従来では混合気形成が不安定であるため、例えば上死点後18°程度まで点火時期を遅らせると燃焼安定性が限界値まで悪化していたが、本発明では例えば上死点後30°前後まで安定して点火リタードを行なうことができる。このため、排気温度を高くすることができ、HCやスートの後燃えを促進し、これらの排出を抑えることが可能である。
【0111】
図28に、始動後の低回転低負荷時における、従来例と本発明の性能差を示す。図27でも説明したように、本発明では弱成層の混合気形成を非常に良好に行なうことができるため、点火時期を遅らせても燃焼が安定しており、その分、さらに点火時期をリタードさせることが可能である。これにより排気温度が高く、後燃えが促進されるため、HCがあっても燃えてしまい、テールパイプから排出される量は少なくなる。また、2つのインジェクタの連携により、必要以上の燃料の壁面付着を抑えることができ、この点でもHCやスートの排出を低く抑えることができる。
【0112】
図29に、暖機後の低回転低負荷時における、従来例と本発明の性能差を示す。本発明では成層混合気の形成を非常に良好に行なうことができる。一般に、混合気をリーンにするとポンピングロスを小さくし、燃費を向上させることができるが、一方で燃焼速度の低下を招き、燃焼不安定や、時間損失の増大によりかえって燃費が低下する場合があり、あまり空燃比をリーンにすることができない。
【0113】
しかし、本発明においては、空燃比をリーンにしても点火プラグ113の近傍にストイキまたはリッチな混合気を存在させ、初期燃焼速度を早く保ち、またそのサイクルばらつき、気筒間ばらつきを抑えて良好な燃焼を行なわせることができ、エミッションの悪化を抑えながら、十分に燃費を低減することが可能である。
【0114】
さらに、成層混合気を供給するインジェクタは噴口を小さく設定しているため、燃料の微粒化が良く、この点でも未燃燃料による異常燃焼の可能性を抑えることが可能である。さらに、成層混合気を供給するインジェクタは、流量を均質用よりも小さく設定しているため、微小流量の制御性に優れ、例えば2回、3回などの噴射を行なう場合であっても、従来不可能な微小流量を正確に噴射でき、混合気形成における自由度が増している。
【0115】
図30に、高回転高負荷時における、従来例と本発明の性能差を示す。従来のインジェクタでは、微小流量の制御性を確保するために、噴射量に上限があり、大きなダイナミックレンジを確保することが難しく、このため、良好な噴霧形成が行なわれていても、最高出力が制限される場合があった。
【0116】
本発明では均質燃焼時には2本のインジェクタから同時に噴射するので、大きな噴射量を得ることができ、また、1本のインジェクタのみから噴射する場合よりも、より均質度の高い混合気を生成することが可能である。よって空気利用率を上げることができ、また、特に過給を行なう場合など、高負荷域でも、過濃域が存在するために生じるスートの発生や、ノッキングを抑え、点火時期を進角させて、より高出力のエンジンとすることができる。
【0117】
なお、今回の実施形態ではいわゆる横噴きタイプのインジェクタと、直上タイプのインジェクタの組合せを用いた構成で説明したが、本発明の範囲は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、横噴きタイプのインジェクタの代わりに斜め噴きタイプのインジェクタをシリンダヘッドの外周面に配置したり、あるいは、横噴きタイプのインジェクタと斜め噴きタイプのインジェクタを組合せたりするなどの組合せが可能であり、これらの構成も明らかに本発明の範囲に含まれるものである。
【0118】
さらに、各インジェクタの噴射方向に関しても、前記した実施形態では、横噴きインジェクタについては上方向と下方向の組合せを示したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、均質または成層混合気を効率良く形成できる構成であれば、例えば2つのインジェクタともシリンダ上側を指向して噴射しても良いし、あるいは、対向する噴霧を、互いにシリンダ上からみて右側に噴き分ける形で噴射するなどしても良く、これらも本発明の範囲に含まれるものである。
【0119】
またさらに、インジェクタの噴射時期に関しても、例えば始動直後の点火リタード燃焼に関して、吸気−圧縮行程の2回噴射について説明したが、エミッションや燃焼安定性を悪化させない範囲であれば、例えば圧縮−膨張の2回噴射を行なっても良く、これらの噴射タイミング、噴射回数の増減、各インジェクタにおける噴射タイミングを多様に設定することは十分に可能であり、これらも当然、本発明で意図した範囲に含まれるものである。
【0120】
また、前記した実施形態では点火プラグがシリンダの略中心部に1本ある場合について説明したが、点火プラグの配置は必ずしも中央でなくても良く、適切な均質混合気、ならびに成層混合気が形成できるのであれば、シリンダ内の任意の場所でも良い。また、前記した2つの実施形態で説明したようなマルチホールインジェクタの構成を用いることなく、適切な成層および均質混合気を形成することができれば、これらも当然本発明で意図した範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、シリンダ内に直接燃料を噴射し、点火プラグを有するエンジンであれば、自動車用のみならず幅広い機器の動力源として応用が可能と考えられる。
【符号の説明】
【0122】
101…吸気管、102…仕切り板、103…吸気制御弁、104…電子制御スロットルチャンバ、105…エアフローメータ、106…エアクリーナ、107…ピストン、108…タンブル保存キャビティ、110…排気管、111…吸気弁、112…排気弁、113…点火プラグ、114…点火コイル、115…触媒、116…コレクタ、117…消音器、118…シリンダヘッド、120…タンブル、122a…第1インジェクタ、122b…第2インジェクタ、123…シリンダまたはシリンダ壁、125a…均質用噴霧、125b…成層用噴霧、126a…均質混合気、126b…成層混合気、132a、132b…燃料ギャラリ、133a、133b…燃圧センサ、201…コンピュータ、300…クランク軸、301…クランク角センサ、303…触媒温度センサ、304…排気温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料をシリンダ上部の燃焼室内に直接噴射するインジェクタを1シリンダ当たり2つ備えており、運転条件によって2つのインジェクタのうち、一方または両方を用いて燃料噴射を行なうように構成されている筒内噴射式内燃機関であって、
前記2つのインジェクタのうち第1のインジェクタは、燃料噴霧をシリンダ内にほぼ均等に分散させ、第2のインジェクタは、燃料噴霧の少なくとも一部を点火プラグ周りに指向させており、
前記2つのインジェクタを、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件で噴射したときに、前記第1のインジェクタの燃料噴射量が、前記第2のインジェクタの燃料噴射量よりも多いことを特徴とする筒内噴射式内燃機関。
【請求項2】
前記2つのインジェクタのうち一方を、燃焼室上方のシリンダヘッドの中央付近に配置し、その他方を、吸気管下部のシリンダヘッドに配置したことを特徴とする請求項1に記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項3】
前記第1のインジェクタの前記燃料噴射量は、前記第2のインジェクタの燃料噴射量の5倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項4】
前記2つのインジェクタはそれぞれ複数の噴口を備えており、前記第1のインジェクタの噴口が6〜8個であり、前記第2のインジェクタの噴口が1〜6個であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項5】
前記第2のインジェクタの噴口径は、前記第1のインジェクタの噴口径よりも小さいことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項6】
前記第1のインジェクタの噴口径を1としたとき、前記第2のインジェクタの噴口径が0.5以上であることを特徴とする請求項5に記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置であって、
前記制御装置は、運転状態に基づいて要求トルクを演算し、
該要求トルクとエンジン回転数に基づいて、前記第2のインジェクタのみで燃料噴射する第1の燃料噴射制御、又は、前記2つのインジェクタで燃料噴射する第2の燃料噴射制御を選択することを特徴とする筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記2つインジェクタは、それぞれに供給される燃料を別々に加圧して保持する系統を備え、前記制御装置は、それぞれの系統における前記供給燃圧を互いに独立して制御することを特徴とする請求項7に記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記第1の燃料噴射制御を選択中に、所定のタイミングで、前記第2のインジェクタの燃料噴射を停止し、前記第1のインジェクタの燃料噴射を行うことを特徴とする請求項7又は8に記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記要求トルクとエンジン回転数に基づいて、成層燃焼、弱成層燃焼、均質燃焼の制御を選択し、
前記均質燃焼を選択した場合には、前記第2の燃料噴射制御を選択し、前記第1、及び第2のインジェクタを吸気行程で噴射するように制御し、
前記弱成層燃焼を選択した場合には、前記第2の燃料噴射制御を選択し、前記第1のインジェクタを吸気行程で噴射し、前記第2のインジェクタを、圧縮行程で噴射するように制御し、
前記均質燃焼の制御を選択した場合には、前記第1の燃料噴射制御を選択し、前記第2のインジェクタを、圧縮工程で噴射するように制御することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項1】
燃料をシリンダ上部の燃焼室内に直接噴射するインジェクタを1シリンダ当たり2つ備えており、運転条件によって2つのインジェクタのうち、一方または両方を用いて燃料噴射を行なうように構成されている筒内噴射式内燃機関であって、
前記2つのインジェクタのうち第1のインジェクタは、燃料噴霧をシリンダ内にほぼ均等に分散させ、第2のインジェクタは、燃料噴霧の少なくとも一部を点火プラグ周りに指向させており、
前記2つのインジェクタを、燃圧一定で、同じ噴射パルス幅の条件で噴射したときに、前記第1のインジェクタの燃料噴射量が、前記第2のインジェクタの燃料噴射量よりも多いことを特徴とする筒内噴射式内燃機関。
【請求項2】
前記2つのインジェクタのうち一方を、燃焼室上方のシリンダヘッドの中央付近に配置し、その他方を、吸気管下部のシリンダヘッドに配置したことを特徴とする請求項1に記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項3】
前記第1のインジェクタの前記燃料噴射量は、前記第2のインジェクタの燃料噴射量の5倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項4】
前記2つのインジェクタはそれぞれ複数の噴口を備えており、前記第1のインジェクタの噴口が6〜8個であり、前記第2のインジェクタの噴口が1〜6個であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項5】
前記第2のインジェクタの噴口径は、前記第1のインジェクタの噴口径よりも小さいことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項6】
前記第1のインジェクタの噴口径を1としたとき、前記第2のインジェクタの噴口径が0.5以上であることを特徴とする請求項5に記載の筒内噴射式内燃機関。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置であって、
前記制御装置は、運転状態に基づいて要求トルクを演算し、
該要求トルクとエンジン回転数に基づいて、前記第2のインジェクタのみで燃料噴射する第1の燃料噴射制御、又は、前記2つのインジェクタで燃料噴射する第2の燃料噴射制御を選択することを特徴とする筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記2つインジェクタは、それぞれに供給される燃料を別々に加圧して保持する系統を備え、前記制御装置は、それぞれの系統における前記供給燃圧を互いに独立して制御することを特徴とする請求項7に記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記第1の燃料噴射制御を選択中に、所定のタイミングで、前記第2のインジェクタの燃料噴射を停止し、前記第1のインジェクタの燃料噴射を行うことを特徴とする請求項7又は8に記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記要求トルクとエンジン回転数に基づいて、成層燃焼、弱成層燃焼、均質燃焼の制御を選択し、
前記均質燃焼を選択した場合には、前記第2の燃料噴射制御を選択し、前記第1、及び第2のインジェクタを吸気行程で噴射するように制御し、
前記弱成層燃焼を選択した場合には、前記第2の燃料噴射制御を選択し、前記第1のインジェクタを吸気行程で噴射し、前記第2のインジェクタを、圧縮行程で噴射するように制御し、
前記均質燃焼の制御を選択した場合には、前記第1の燃料噴射制御を選択し、前記第2のインジェクタを、圧縮工程で噴射するように制御することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の筒内噴射式内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2010−196506(P2010−196506A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39847(P2009−39847)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]