説明

自動車

【課題】昇圧コンバータの環境温度が低いときに、運転者の加速要求により対応できるようにする。
【解決手段】昇圧コンバータの環境温度Tenが所定温度Ten1未満でパワーモード信号PSWがオンのときには(S130,S160)、環境温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇と下降とを繰り返す電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する昇温制御を実行し(S170,S180,S200)、昇圧コンバータ55の昇温の完了後は(S150)、環境温度起因上限電圧VHlimtmpより高い所定電圧VH1以下の範囲内で設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する(S190,S200)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に関し、詳しくは、走行用の動力を出力可能な電動機と、二次電池と、二次電池が接続された電池電圧系と電動機が接続された駆動電圧系とに接続されて駆動電圧系の電圧を調節すると共に電池電圧系と駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、を備える自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車としては、走行用の動力を出力可能なモータとバッテリとバッテリからの電力を昇圧してモータに供給可能なコンバータとを備える自動車において、燃費よりも車両駆動性能を優先させたいときにオン操作されるパワースイッチがオンされてパワーモードが選択されているときには、パワースイッチがオフで通常モードが選択されているときに比して高い値をコンバータの昇圧後の電圧上限値に設定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−6296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした自動車では、一般に、昇圧コンバータの環境温度(周囲温度)が低い冷間時には、昇降圧コンバータの素子の温度も低くその耐圧も低いと考えられるとの理由に基づいて、昇圧コンバータの素子を保護するために、冷間時でないときに比して昇圧後の電圧上限値を制限している。このため、冷間時において、上述の自動車と同様に、パワースイッチがオンとされたときに直ちに昇圧後の電圧上限値を高くするのは、素子の保護の観点から好ましくない。一方、運転者による加速要求時には、モータから比較的大きなパワーを出力する必要があるため、電圧上限値が比較的高い方が好ましい。したがって、上述の自動車とは異なる方法によって運転者の加速要求に対応できるようにすることが望まれる。
【0005】
本発明の自動車は、昇圧コンバータの環境温度が低いときに、運転者の加速要求により対応できるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の第1の自動車は、
走行用の動力を出力可能な電動機と、二次電池と、前記二次電池が接続された電池電圧系と前記電動機が接続された駆動電圧系とに接続されて前記駆動電圧系の電圧を調節すると共に前記電池電圧系と前記駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、を備え、前記電動機からの動力を用いて走行する自動車であって、
燃費よりパワー出力の優先を指示するパワー優先指示スイッチと、
昇圧コンバータの環境温度を検出する環境温度検出手段と、
前記検出された環境温度が予め定められた所定温度未満のときに前記パワー優先指示スイッチによりパワー出力の優先が指示されたときには、前記駆動電圧系の電圧が前記検出された環境温度に応じた該駆動電圧系の上限電圧としての環境温度起因上限電圧以下の範囲内で調節されると共に前記昇圧コンバータの温度上昇が促進されるよう該昇圧コンバータを制御する昇温制御を実行し、該昇温制御の実行後は前記駆動電圧系の電圧が前記環境温度起因上限電圧より高い所定電圧以下の範囲内で調節されるよう前記昇圧コンバータを制御する昇圧制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の第1の自動車では、昇圧コンバータの環境温度(周囲温度)が予め定められた所定温度未満のときに燃費よりパワー出力の優先を指示するパワー優先指示スイッチによりパワー出力の優先が指示されたときには、駆動電圧系の電圧が環境温度に応じた駆動電圧系の上限電圧としての環境温度起因上限電圧以下の範囲内で調節されると共に昇圧コンバータの温度上昇が促進されるよう昇圧コンバータを制御する昇温制御を実行し、昇温制御の実行後は駆動電圧系の電圧が環境温度起因上限電圧より高い所定電圧以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータを制御する。即ち、昇圧コンバータの環境温度が所定温度未満のときにパワー出力の優先が指示されたときには、昇温制御の実行によって昇圧コンバータの素子の温度およびその耐圧を迅速に上昇させて、駆動電圧系の電圧を環境温度起因上限電圧より高い所定電圧まで上昇させることが可能な状態にするのである。これにより、その後に運転者によって加速要求が行なわれて電動機から比較的大きなパワーを出力する必要が生じたときに、その加速要求により十分に対応することができる。ここで、「昇圧コンバータの環境温度」は、外気温であるものとすることもできるし、昇圧コンバータを冷却する冷却媒体の温度であるものとすることもできる。また、「所定電圧」は、昇圧コンバータの環境温度が所定温度以上のときの環境温度起因上限電圧に等しい電圧である、ものとすることもできる。
【0009】
こうした本発明の第1の自動車において、前記昇圧コンバータは、前記駆動電圧系の正極母線に接続された第1のスイッチング素子と、前記駆動電圧系の負極母線に接続された第2のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との中間点と前記二次電池の正極側とに接続されたリアクトルと、を有するコンバータであり、前記昇圧制御手段は、前記昇温制御として、前記環境温度起因上限電圧以下の範囲内で前記駆動電圧系の電圧の上昇と下降とが繰り返されるよう前記昇圧コンバータを制御する手段である、ものとすることもできる。こうした昇圧コンバータでは、駆動電圧系の電圧を上昇させる際には第2のスイッチング素子に第1のスイッチング素子より大きな電流が流れやすく、駆動電圧系の電圧を下降させる際には第1のスイッチング素子に第2のスイッチング素子より大きな電流が流れやすいため、このように昇温制御を実行することにより、第1のスイッチング素子の温度と第2のスイッチング素子の温度とをバランスよく上昇させることができる。
【0010】
また、本発明の第1の自動車において、前記昇圧コンバータは、スイッチング素子のスイッチングによって前記駆動電圧系の電圧を調節するコンバータであり、前記昇圧制御手段は、前記昇温制御として、該昇温制御を実行しないときに比して高い周波数で前記スイッチング素子がスイッチングされるよう前記昇圧コンバータを制御する手段である、ものとすることもできる。
【0011】
さらに、本発明の第1の自動車において、前記昇圧制御手段は、前記検出された環境温度が前記所定温度未満のときにアクセル操作量が予め定められた所定操作量以上のときには、前記パワー優先指示スイッチによりパワー出力の優先が指示されているか否かに拘わらず、前記昇温制御を実行する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、パワー出力の優先が指示されていないときでも、運転者によって加速要求が行なわれたときに、昇圧コンバータの温度上昇を促進させて加速要求により対応できるようにすることができる。
【0012】
あるいは、本発明の第1の自動車において、内燃機関と、動力を入出力可能な発電機と、車軸に連結された駆動軸と前記内燃機関の出力軸と前記発電機の回転軸との3軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、を備え、前記電動機は、前記駆動軸に接続されてなる、ものとすることもできる。
【0013】
本発明の第2の自動車は、
走行用の動力を出力可能な電動機と、二次電池と、前記二次電池が接続された電池電圧系と前記電動機が接続された駆動電圧系とに接続されて前記駆動電圧系の電圧を調節すると共に前記電池電圧系と前記駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、を備え、前記電動機からの動力を用いて走行する自動車であって、
燃費よりパワー出力の優先を指示するパワー優先指示スイッチと、
昇圧コンバータの環境温度を検出する環境温度検出手段と、
前記検出された環境温度が予め定められた所定温度未満のときにアクセル操作量が予め定められた所定操作量以上のときには、前記駆動電圧系の電圧が前記検出された環境温度に応じた該駆動電圧系の上限電圧としての環境温度起因上限電圧以下の範囲内で調節されると共に前記昇圧コンバータの温度上昇が促進されるよう該昇圧コンバータを制御する昇温制御を実行し、該昇温制御の実行後は前記駆動電圧系の電圧が前記環境温度起因上限電圧より高い所定電圧以下の範囲内で調節されるよう前記昇圧コンバータを制御する昇圧制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0014】
この本発明の第2の自動車では、昇圧コンバータの環境温度が予め定められた所定温度未満のときにアクセル操作量が予め定められた所定操作量以上のときには、駆動電圧系の電圧が環境温度に応じた駆動電圧系の上限電圧としての環境温度起因上限電圧以下の範囲内で調節されると共に昇圧コンバータの温度上昇が促進されるよう昇圧コンバータを制御する昇温制御を実行し、昇温制御の実行後は駆動電圧系の電圧が環境温度起因上限電圧より高い所定電圧以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータを制御する。即ち、昇圧コンバータの環境温度が所定温度未満のときにアクセル操作量が所定操作量以上のときには、昇温制御の実行によって昇圧コンバータの素子の温度およびその耐圧を迅速に上昇させて駆動電圧系の電圧を環境温度起因上限電圧より高い所定電圧まで上昇させることが可能な状態にするのである。したがって、運転者によって加速要求が行なわれたときには、昇圧コンバータの温度上昇を促進させて加速要求により対応できるようにすることができる。ここで、「昇圧コンバータの環境温度」は、外気温であるものとすることもできるし、昇圧コンバータを冷却する冷却媒体の温度であるものとすることもできる。また、「所定電圧」は、昇圧コンバータの環境温度が所定温度以上のときの環境温度起因上限電圧に等しい電圧である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される昇圧制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】環境温度起因上限電圧設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】温度起因上限電圧VHlimtmpと昇温時間thと昇温用電圧VHheatとの関係の一例を示す説明図である。
【図6】昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満のときのアクセル開度Acc,パワーモード信号PSW,高電圧系電力ライン54aの電圧VHの時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図7】変形例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される昇圧制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図9】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図10】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【図11】変形例の電機自動車420の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関として構成されたエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26に複数のピニオンギヤを連結したキャリアが接続されると共に駆動輪63a,63bにデファレンシャルギヤ62を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するインバータ41,42と、インバータ41,42をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、インバータ41,42が接続された電力ライン(以下、高電圧系電力ラインという)54aとバッテリ50が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)54bとに接続されて高電圧系電力ライン54aの電圧VHを電池電圧系電力ライン54bの電圧VL以上の範囲内で調整すると共に高電圧系電力ライン54aと低電圧系電力ライン54bとの間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ55と、高電圧系電力ライン54aの正極母線と負極母線とに接続された平滑用のコンデンサ57と、電池電圧系電力ライン54bの正極母線と負極母線と似接続された平滑用のコンデンサ58と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット70と、を備える。
【0018】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ41,42は、図2のモータMG1,MG2を含む電機駆動系の構成図に示すように、6つのトランジスタT11〜T16,T21〜26と、トランジスタT11〜T16,T21〜T26に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16,D21〜D26と、により構成されている。トランジスタT11〜T16,T21〜T26は、それぞれ高電圧系電力ライン54aの正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータMG1,MG2の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、高電圧系電力ライン54aの正極母線と負極母線との間に電圧が作用している状態で対をなすトランジスタT11〜T16,T21〜T26のオン時間の割合を制御することにより三相コイルに回転磁界を形成でき、モータMG1,MG2を回転駆動することができる。インバータ41,42は、高電圧系電力ライン54aの正極母線と負極母線とを共用しているから、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータに供給することができる。
【0019】
モータECU40は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他にROMやRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流,インバータ41,42に取り付けられた図示しない温度センサからのインバータ温度などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42のトランジスタT11〜T16,T21〜26へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0020】
昇圧コンバータ55は、図2に示すように、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ高電圧系電力ライン54aの正極母線と高電圧系電力ライン54aおよび電池電圧系電力ライン54bの負極母線とに接続されており、その接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと高電圧系電力ライン54aおよび電池電圧系電力ライン54bの負極母線とにはそれぞれ高圧バッテリ50の正極端子と負極端子とが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフ制御することにより、電池電圧系電力ライン54bの電力を昇圧して高電圧系電力ライン54aに供給したり、高電圧系電力ライン54aの電力を降圧して電池電圧系電力ライン54bに供給したりすることができる。
【0021】
バッテリECU52は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他にROMやRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電池電圧系電力ライン54bに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてバッテリ50に蓄えられている蓄電量の全容量(蓄電容量)に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0022】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、コンデンサ57の端子間に取り付けられた電圧センサ57aからのコンデンサ57の電圧(高電圧系電力ライン54aの電圧)VHやコンデンサ58の端子間に取り付けられた電圧センサ58aからのコンデンサ58の電圧(電池電圧系電力ライン54bの電圧)VL,イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,外気温センサ89からの外気温Tout,燃費よりパワー出力の優先を指示するパワーモードスイッチ90からのパワーモード信号PSWなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0023】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力が駆動軸32に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸32に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであるから、両者を合わせてエンジン運転モードとして考えることができる。
【0024】
エンジン運転モードでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に駆動軸32の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrv*を計算すると共に計算した走行用パワーPdrv*からバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定し、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させるための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。そして、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22における吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のトランジスタT11〜T16,T21〜T26のスイッチング制御を行なう。このエンジン運転モードでは、エンジン22の要求パワーPe*がエンジン22を運転停止した方がよい値として定められた停止用閾値Pstop以下に至ったときなどにエンジン22の運転を停止してモータ運転モードに移行する。
【0025】
モータ運転モードでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクTr*を設定し、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸32に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してこれらをモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のトランジスタT11〜T16,T21〜26のスイッチング制御を行なう。このモータ運転モードでは、要求トルクTr*に駆動軸32の回転数Nrを乗じて得られる走行用パワーPdrv*からバッテリ50の充放電要求パワーPb*を減じて得られるエンジン22の要求パワーPe*がエンジン22を始動した方がよい値として定められた始動用閾値Pstart以上に至ったときなどにエンジン22を始動してエンジン運転モードに移行する。
【0026】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、昇圧コンバータ55の制御について説明する。図3は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される昇圧制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0027】
昇圧制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*や回転数Nm1,Nm2,アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,昇圧コンバータ55の環境温度(周囲温度)Ten,パワーモードスイッチ90からのパワーモード信号PSWなど制御に必要なデータを入力する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*は、上述の駆動制御の処理で設定されたものを入力するものとした。また、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されたモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。さらに、昇圧コンバータ55の環境温度Tenは、実施例では、外気温センサ89からの外気温Toutを用いるものとした。
【0028】
こうしてデータを入力すると、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*と回転数Nm1,Nm2とに基づいて高電圧系電力ライン54aの目標電圧VHtagを設定すると共に(ステップS110)、昇圧コンバータ55の環境温度Tenに基づいて、その環境温度Tenに応じた高電圧系電力ライン54aの上限電圧としての環境温度起因上限電圧VHlimtmpを設定する(ステップS120)。ここで、目標電圧VHtagは、モータMG1を目標動作点(トルク指令Tm1*,回転数Nm1)で駆動することができる電圧とモータMG2を目標動作点(トルク指令Tm2*,回転数Nm2)で駆動することができる電圧とのうち高い方を設定するものとした。また、環境温度起因上限電圧VHlimtmpは、実施例では、環境温度Tenと環境温度起因上限電圧VHlimtmpとの関係を予め実験や解析などによって定めて環境温度起因上限電圧設定用マップとしてROM74に記憶しておき、環境温度Tenが与えられると記憶したマップから対応する環境温度起因上限電圧VHlimtmpを導出して設定するものとした。環境温度起因上限電圧設定用マップの一例を図4に示す。環境温度起因上限電圧VHlimtmpは、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが低いほど昇圧コンバータ55の素子(トランジスタT31,T32など)の温度が低くその素子の耐圧が低いと考えられるとの理由に基づいて、図示するように、環境温度Tenが所定温度Ten1(−5℃や0℃など)以上の領域では所定電圧VH1(例えば、500Vや520Vなど)を設定し、環境温度Tenが所定温度Ten1未満で所定温度Ten1より低い所定温度Ten2(例えば、−20℃や−15℃など)以上の領域では所定電圧VH1より低い所定電圧VH2(例えば、450Vや470Vなど)を設定し、所定温度Ten2未満の領域では所定電圧VH2より低い所定電圧VH3(例えば、400Vや420Vなど)を設定するものとした。高電圧系電力ライン54aの電圧VHを電池電圧系電力ライン54bより高くするときを考えると、トランジスタT32やダイオードD31,リアクトルLに比較的大きな電流が流れやすいため、実施例では、これらの素子の耐圧を考慮して温度起因上限電圧VHlimtmpを設定するものとした。
【0029】
続いて、昇圧コンバータ55の環境温度Tenを上述の所定温度Ten1と比較し(ステップS130)、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1以上のときには、目標電圧VHtagと環境温度起因上限電圧VHlimtmpとのうち小さい方を昇圧コンバータ55の電圧指令VH*に設定し(ステップS140)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32をスイッチング制御して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。
【0030】
昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満のときには、昇圧コンバータ55の昇温が完了しているか否かを判定し(ステップS150)、昇圧コンバータ55の昇温が完了していないときには、パワーモード信号PSWがオンか否かを判定する(ステップS160)。ステップS150の処理の詳細については後述する。また、ステップS160の処理は、運転者が燃費よりパワー出力の優先を要求している状態であるか否かを判定する処理である。
【0031】
パワーモード信号PSWがオンのときには、環境温度起因上限電圧VHlimtmpに基づいて、昇圧コンバータ55の温度上昇を促進させるための電圧としての昇温用電圧VHheatを設定すると共に(ステップS170)、設定した昇温用電圧VHheatを電圧指令VH*に設定し(ステップS180)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。以下の説明では、昇温用電圧VHheatが設定された電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御することを昇温制御という。この昇温制御は、昇圧コンバータ55の温度上昇を促進させて昇圧コンバータ55の素子の耐圧を迅速に上昇させるために行なわれる。昇温用電圧VHheatは、実施例では、環境温度起因上限電圧VHlimtmpと昇温制御の開始からの時間である昇温時間thとを用いて、環境温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇と下降とを繰り返すよう設定するものとした。環境温度起因上限電圧VHlimtmpと昇温時間thと昇温用電圧VHheatとの関係の一例を図5に示す。昇圧コンバータ55では、高電圧系電力ライン54aの電圧VHを上昇させる際にはトランジスタT32にトランジスタT31より大きな電流が流れやすく、高電圧系電力ライン54aの電圧を下降させる際にはトランジスタT31にトランジスタT32より大きな電流が流れやすい。したがって、高電圧系電力ライン54aの電圧VHを環境温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇させたり下降させたりすることにより、トランジスタT31,T32の温度をバランスよく上昇させることができる。そして、トランジスタT31,T32の温度をバランスよく上昇させることにより、トランジスタT32によるリカバリサージ電圧やトランジスタT31に比較的大きな電流が流れたときのその電流などによってトランジスタT31が故障するなどの不都合が生じるのをより抑制することができる。また、この昇温用電圧VHheatは、目標電圧VHtagが環境温度起因上限電圧VHlimtmpに比して低いときには、可能であれば、目標電圧VHtag以上で温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で変動させることが好ましい。これは、モータMG1,MG2を目標動作点で駆動可能な電圧を確保しつつ昇圧コンバータ55の温度上昇を促進させるためである。さらに、この昇温制御は、実施例では、昇圧コンバータ55の温度が上述の所定温度Ten1まで上昇するのに要すると想定される時間、即ち、昇圧コンバータ55の素子(特に、トランジスタT32やダイオードD31,リアクトルL)の耐圧が十分に上昇しており高電圧系電力ライン54aの電圧VHを環境温度Tenが所定温度Ten1以上のときに温度起因上限電圧VHlimtmpに設定される所定電圧VH1まで上昇させてもよい状態になっていると想定される時間としての昇温必要時間に亘って実行するものとし、昇温必要時間に亘って昇温制御を実行したときに昇圧コンバータ55の昇温が完了したと判断するものとした。ここで、昇温必要時間は、固定値(例えば、0.5秒や1秒など)を用いるものとしてもよいし、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが低いほど(環境温度起因上限電圧VHlimtmpが低いほど)長くなる傾向の時間を用いるものとしてもよい。
【0032】
こうして昇圧コンバータ55の昇温が完了すると(ステップS150)、昇圧コンバータ55の素子の耐圧が十分に上昇しており高電圧系電力ライン54aの電圧VHを所定電圧VH1(昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1以上のときに温度起因上限電圧VHlimtmpに設定される電圧)まで上昇させてもよい状態になっていると判断し、目標電圧VHtagと所定電圧VH1とのうち小さい方を昇圧コンバータ55の電圧指令VH*に設定し(ステップS190)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。いま、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満のときを考えているから、環境温度起因上限電圧VHlimtmpには所定電圧VH1未満の電圧が設定されている。したがって、昇圧コンバータ55の昇温の完了後は、環境温度起因上限電圧VHlimtmpより高い所定電圧VH1以下の範囲内で高電圧系電力ライン54aの電圧VHを調節することになる。これにより、昇圧コンバータ55の昇温後に運転者によって加速要求が行なわれてモータMG2から比較的大きなパワーを出力する必要が生じたときに、高電圧系電力ライン54aの電圧VHを所定電圧VH1まで上昇させることが可能となるから、運転者の加速要求により十分に対応することができる。
【0033】
ステップS160でパワーモード信号PSWがオフのときには、目標電圧VHtagと環境温度起因上限電圧VHlimtmpとのうち小さい方を昇圧コンバータ55の電圧指令VH*に設定し(ステップS140)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。この場合、上述の昇温制御は実行しないことになる。これにより、パワーモード信号PSWがオフのときには、昇温制御を実行するものに比して昇圧コンバータ55での電力消費や昇圧コンバータ55の電圧変動などを抑制することができる。なお、この場合でも、昇温制御を実行する場合ほど迅速ではないが、昇圧コンバータ55の制御によって昇圧コンバータ55の温度は上昇する。
【0034】
図6は、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満のときのアクセル開度Acc,パワーモード信号PSW,高電圧系電力ライン54aの電圧VHの時間変化の様子の一例を示す説明図である。図6では、昇圧コンバータ55の制御に用いる高電圧系電力ライン54aの上限電圧としての制御用上限電圧VHlimについても一点鎖線で示した。実施例では、図示するように、パワーモード信号PSWがオンとなると(時刻t1)、環境温度起因上限電圧VHlimtmp(制御用上限電圧VHlim)以下の範囲内で高電圧系電力ライン54aの電圧VHを変動させて昇圧コンバータ55の温度上昇を促進させ、昇圧コンバータ55の昇温が完了すると(時刻t2)、制御用上限電圧VHlimを温度起因上限電圧VHlimtmpから所定電圧VH1に上昇させる、即ち、高電圧系電力ライン54aの電圧VHを環境温度起因上限電圧VHlimtmpより高い所定電圧VH1以下の範囲内で調節可能な状態にする。そして、その後にアクセル開度Accが大きくなったときには(時刻t3)、高電圧系電力ライン54aの電圧VHを所定電圧VH1(制御用上限電圧VHlim)以下の範囲内で上昇させる。これにより、運転者の加速要求により十分に対応することができる。
【0035】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満でパワーモード信号PSWがオンのときには、環境温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇と下降とを繰り返す電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する昇温制御を実行し、昇圧コンバータ55の昇温の完了後は、環境温度起因上限電圧VHlimtmpより高い所定電圧VH1以下の範囲内で設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御するから、運転者によって加速要求が行なわれたときにその加速要求により十分に対応することができる。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満のときにおいて、パワーモード信号PSWがオンのときに昇温制御を実行するものとしたが、パワーモード信号PSWがオンのときに加えてまたは代えて、アクセル開度Accが大きいときに昇温制御を実行するものとしてもよい。パワーモード信号PSWがオンのときおよびアクセル開度Accが大きいときに昇温制御を実行する場合の昇圧制御ルーチンの一例を図7に示す。このルーチンは、ステップS300の処理を追加した点を除いて図3の昇圧制御ルーチンと同一である。したがって、同一の処理については同一のステップ番号を付し、その詳細な説明は省略する。図7の昇圧制御ルーチンでは、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満で昇圧コンバータ55の昇温が完了していないときには(ステップS130,S150)、アクセル開度Accを閾値Arefと比較すると共に(ステップS300)、パワーモード信号PSWがオンか否かを判定する(ステップS160)。ここで、閾値Arefは、運転者による比較的大きな加速要求が行なわれているか否かを判定するために用いられるものであり、例えば、70%や80%などを用いることができる。アクセル開度Accが閾値Aref未満でパワーモード信号PSWがオフのときには、目標電圧VHtagと環境温度起因上限電圧VHlimtmpとのうち小さい方を昇圧コンバータ55の電圧指令VH*に設定し(ステップS140)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。この場合、昇温制御は実行しない。一方、ステップS300でアクセル開度Accが閾値Aref以上のときや、ステップS160でパワーモード信号PSWがオンのときには、温度起因上限電圧VHlimtmpに基づいて昇温用電圧VHheatを設定すると共に(ステップS170)、設定した昇温用電圧VHheatを電圧指令VH*に設定し(ステップ180)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。即ち、アクセル開度Accが閾値Aref以上のときにはパワーモード信号PSWに拘わらず昇温制御を実行し、アクセル開度Accが閾値Aref未満でもパワーモード信号PSWがオンのときには昇温制御を実行するのである。パワーモードPSWがオフでアクセル開度Accが閾値Aref以上に至ったときには、昇温制御を実行した後に、昇圧コンバータ55の制御に用いる上限電圧(制御用上限電圧VHlim)を環境温度起因電圧Vhlimtmpから所定電圧VH1に上昇させるため、運転者の加速要求に対して若干のモタツキ感を与える可能性があるが、こうした制御により、昇圧コンバータ55の素子を保護しつつ運転者の加速要求にある程度対応することができる。以上、パワーモード信号PSWがオンのときおよびアクセル開度Accが大きいときに昇温制御を実行する場合について説明したが、パワーモード信号PSWがオンのときに代えてアクセルペダル83が大きく踏み込まれたときに昇温制御を実行する場合には、図3の昇圧制御ルーチンのステップS160の処理に代えてアクセル開度Accを閾値Arefと比較する処理を実行し、アクセル開度Accが閾値Aref未満のときにはステップS140以降の処理を実行し、アクセル開度Accが閾値Aref以上のときにはステップS170以降の処理を実行すればよい。なお、この場合、パワーモードスイッチ90を備えないものとしてもよい。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、昇温制御を実行する際には、温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇と下降とを繰り返す電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御するものとしたが、電圧指令VH*を変動させるのに代えてまたは加えて、昇温制御を実行しないときに比して高いスイッチング周波数(例えば、2倍や3倍など)で昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32をスイッチング制御するものとしてもよい。電圧指令VH*を変動させずにスイッチング周波数を高くするときには電力ライン54の電圧VHを変動させずに昇圧コンバータ55の温度上昇を促進させることができ、電圧指令VH*の変動に加えてスイッチング周波数を高くするときには昇圧コンバータ55の温度上昇をより促進させることができる。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、昇温必要時間に亘って昇温制御を実行したときに昇圧コンバータ55の昇温が完了したと判断するものとしたが、昇圧コンバータ55の温度を検出する温度センサを設け、その温度センサにより検出された温度が所定温度Ten1以上に至ったときに昇圧コンバータ55の昇温が完了したと判断するものとしてもよい。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、図4に示したように、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満の領域では、環境温度Tenが低いほど段階的に低くなるよう環境温度起因上限電圧VHlimtmpを設定するものとしたが、環境温度Tenが低いほど直線的や曲線的に低くなるよう環境温度起因上限電圧VHlimtmpを設定するものとしてもよい。
【0040】
実施例のハイブリッド自動車20では、外気温センサ89からの外気温Toutを昇圧コンバータ55の環境温度Tenとして用いるものとしたが、外気温Toutに代えて、昇圧コンバータ55を冷却する冷却水(モータMG1,MG2やインバータ41,42,昇圧コンバータ55を冷却する冷却系の冷却水)の温度を検出する図示しない水温センサからの冷却水温Twなどを環境温度Tenとして用いるものとしてもよい。
【0041】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2からの動力を駆動輪63a,63bに連結された駆動軸32に出力するものとしたが、図8の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2からの動力を駆動軸32が接続された車軸(駆動輪63a,63bに接続された車軸)とは異なる車軸(図8における車輪64a,64bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪63a,63bに接続された駆動軸32に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸32に出力するものとしたが、図9の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、駆動輪63a,63bに接続された駆動軸に変速機230を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ229を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機230とを介して駆動軸に出力すると共にモータMGからの動力を変速機230を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。また、図10の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、エンジン22からの動力を変速機330を介して駆動輪63a,63bに接続された車軸に出力すると共にモータMGからの動力を駆動輪63a,63bに接続された車軸とは異なる車軸(図10における車輪64a,64bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0043】
実施例では、本発明を、駆動軸32にプラネタリギヤ30を介して接続されたエンジン22およびモータMG1と、駆動軸32に接続されたモータMG2と、を備えるハイブリッド自動車20に適用するものとしたが、図11の変形例の電気自動車420に例示するように、走行用の動力を出力するモータMGを備える単純な電気自動車に適用するものとしてもよい。
【0044】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例とこれに対応する本発明の第1および第2の自動車との関係として、共通して、モータMG2が「電動機」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、昇圧コンバータ55が「昇圧コンバータ」に相当し、外気温センサ89が「環境温度検出手段」に相当する。
【0045】
実施例と第1の自動車との関係では、パワーモードスイッチ90が「パワー優先指示スイッチ」に相当し、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満でパワーモード信号PSWがオンのときには、環境温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇と下降とを繰り返す電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する昇温制御を実行し、昇圧コンバータ55の昇温の完了後は、環境温度起因上限電圧VHlimtmpより高い所定電圧VH1以下の範囲内で設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する図3の昇圧制御ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「昇圧制御手段」に相当する。
【0046】
実施例と第2の自動車との関係では、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満でアクセル開度Accが閾値Aref以上のときには、環境温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇と下降とを繰り返す電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する昇温制御を実行し、昇圧コンバータ55の昇温の完了後は、環境温度起因上限電圧VHlimtmpより高い所定電圧VH1以下の範囲内で設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する図3の昇圧制御ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「昇圧制御手段」に相当する。
【0047】
ここで、「電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG2に限定されるものではなく、誘導電動機など、走行用の動力を出力可能な電動機であれば如何なるタイプの電動機であっても構わない。「二次電池」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、如何なるタイプの二次電池であっても構わない。「昇圧コンバータ」としては、昇圧コンバータ55に限定されるものではなく、二次電池が接続された電池電圧系と電動機が接続された駆動電圧系とに接続されて駆動電圧系の電圧を調節すると共に電池電圧系と駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なうものであれば如何なるものとしても構わない。「環境温度検出手段」としては、外気温Toutを検出する外気温センサ89に限定されるものではなく、昇圧コンバータ55を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサなど、昇圧コンバータ55の環境温度を検出するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0048】
本発明の第1の自動車における「パワー優先指示スイッチ」としては、パワーモードスイッチ90に限定されるものではなく、燃費よりパワー出力の優先を指示するものであれば如何なるものとしても構わない。「昇圧制御手段」としては、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満でパワーモード信号PSWがオンのときには、環境温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇と下降とを繰り返す電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する昇温制御を実行し、昇圧コンバータ55の昇温の完了後は、環境温度起因上限電圧VHlimtmpより高い所定電圧VH1以下の範囲内で設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御するものに限定されるものではなく、昇温制御を実行するときに昇温制御を実行しないときに比して高いスイッチング周波数で昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32をスイッチング制御するものなど、昇圧コンバータの環境温度が予め定められた所定温度未満のときにパワー優先指示スイッチによりパワー出力の優先が指示されたときには、駆動電圧系の電圧が環境温度に応じた駆動電圧系の上限電圧としての環境温度起因上限電圧以下の範囲内で調節されると共に昇圧コンバータの温度上昇が促進されるよう昇圧コンバータを制御する昇温制御を実行し、昇温制御の実行後は駆動電圧系の電圧が環境温度起因上限電圧より高い所定電圧以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータを制御するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0049】
本発明の第2の自動車における「昇圧制御手段」としては、昇圧コンバータ55の環境温度Tenが所定温度Ten1未満でアクセル開度Accが閾値Aref以上のときには、環境温度起因上限電圧VHlimtmp以下の範囲内で上昇と下降とを繰り返す電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御する昇温制御を実行し、昇圧コンバータ55の昇温の完了後は、環境温度起因上限電圧VHlimtmpより高い所定電圧VH1以下の範囲内で設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ55を制御するものに限定されるものではなく、昇温制御を実行するときに昇温制御を実行しないときに比して高いスイッチング周波数で昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32をスイッチング制御するものなど、昇圧コンバータの環境温度が予め定められた所定温度未満のときにアクセル操作量が予め定められた所定操作量以上のときには、駆動電圧系の電圧が環境温度に応じた駆動電圧系の上限電圧としての環境温度起因上限電圧以下の範囲内で調節されると共に昇圧コンバータの温度上昇が促進されるよう昇圧コンバータを制御する昇温制御を実行し、昇温制御の実行後は駆動電圧系の電圧が環境温度起因上限電圧より高い所定電圧以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータを制御するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0050】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0051】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、自動車の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
20,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、32 駆動軸、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、54a 高電圧系電力ライン、54b 電池電圧系電力ライン、55 昇圧コンバータ、57,58 コンデンサ、57a,57b 電圧センサ、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、64a,64b 車輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、82 シフトポジションセンサ、84 アクセルペダルポジションセンサ、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、89 外気温センサ、90 パワーモードスイッチ、229 クラッチ、230,330 変速機、420 電気自動車、D11〜D16,D21〜D26,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、MG,MG1,MG2 モータ、T11〜T16,T21〜T26,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を出力可能な電動機と、二次電池と、前記二次電池が接続された電池電圧系と前記電動機が接続された駆動電圧系とに接続されて前記駆動電圧系の電圧を調節すると共に前記電池電圧系と前記駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、を備え、前記電動機からの動力を用いて走行する自動車であって、
燃費よりパワー出力の優先を指示するパワー優先指示スイッチと、
昇圧コンバータの環境温度を検出する環境温度検出手段と、
前記検出された環境温度が予め定められた所定温度未満のときに前記パワー優先指示スイッチによりパワー出力の優先が指示されたときには、前記駆動電圧系の電圧が前記検出された環境温度に応じた該駆動電圧系の上限電圧としての環境温度起因上限電圧以下の範囲内で調節されると共に前記昇圧コンバータの温度上昇が促進されるよう該昇圧コンバータを制御する昇温制御を実行し、該昇温制御の実行後は前記駆動電圧系の電圧が前記環境温度起因上限電圧より高い所定電圧以下の範囲内で調節されるよう前記昇圧コンバータを制御する昇圧制御手段と、
を備える自動車。
【請求項2】
請求項1記載の自動車であって、
前記昇圧コンバータは、前記駆動電圧系の正極母線に接続された第1のスイッチング素子と、前記駆動電圧系の負極母線に接続された第2のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との中間点と前記二次電池の正極側とに接続されたリアクトルと、を有するコンバータであり、
前記昇圧制御手段は、前記昇温制御として、前記環境温度起因上限電圧以下の範囲内で前記駆動電圧系の電圧の上昇と下降とが繰り返されるよう前記昇圧コンバータを制御する手段である、
自動車。
【請求項3】
請求項1記載の自動車であって、
前記昇圧コンバータは、スイッチング素子のスイッチングによって前記駆動電圧系の電圧を調節するコンバータであり、
前記昇圧制御手段は、前記昇温制御として、該昇温制御を実行しないときに比して高い周波数で前記スイッチング素子がスイッチングされるよう前記昇圧コンバータを制御する手段である、
自動車。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載の自動車であって、
前記昇圧制御手段は、前記検出された環境温度が前記所定温度未満のときにアクセル操作量が予め定められた所定操作量以上のときには、前記パワー優先指示スイッチによりパワー出力の優先が指示されているか否かに拘わらず、前記昇温制御を実行する手段である、
自動車。
【請求項5】
走行用の動力を出力可能な電動機と、二次電池と、前記二次電池が接続された電池電圧系と前記電動機が接続された駆動電圧系とに接続されて前記駆動電圧系の電圧を調節すると共に前記電池電圧系と前記駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、を備え、前記電動機からの動力を用いて走行する自動車であって、
燃費よりパワー出力の優先を指示するパワー優先指示スイッチと、
昇圧コンバータの環境温度を検出する環境温度検出手段と、
前記検出された環境温度が予め定められた所定温度未満のときにアクセル操作量が予め定められた所定操作量以上のときには、前記駆動電圧系の電圧が前記検出された環境温度に応じた該駆動電圧系の上限電圧としての環境温度起因上限電圧以下の範囲内で調節されると共に前記昇圧コンバータの温度上昇が促進されるよう該昇圧コンバータを制御する昇温制御を実行し、該昇温制御の実行後は前記駆動電圧系の電圧が前記環境温度起因上限電圧より高い所定電圧以下の範囲内で調節されるよう前記昇圧コンバータを制御する昇圧制御手段と、
を備える自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−139062(P2012−139062A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290787(P2010−290787)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】