薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタを用いた表示装置及び薄膜トランジスタの製造方法
【課題】工程数の増大を引き起こさずに、遮光層で囲まれた薄膜トランジスタと同等以上の遮光能力を有する薄膜トランジスタおよびそれを用いた表示装置を提供する。
【解決手段】第1のゲート電極2と、第1のゲート電極2を覆う第1のゲート絶縁層3と、第1のゲート絶縁層3の上の半導体層6と、半導体層6の上の第2のゲート絶縁層7と、第2のゲート絶縁層7の上の第2のゲート電極8と、半導体層6に電気的に接続されたドレイン電極5及びソース電極4を有する薄膜トランジスタにおいて、半導体層6がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であり、第1のゲート電極2が下方から半導体層6への光の入射を遮り、第2のゲート電極8が上方から半導体層6への光の入射を遮り、第2のゲート電極8は第1のゲート絶縁層3及び第2のゲート絶縁層7を貫通して第1のゲート電極2と電気的に接続され、少なくとも一方の側方から半導体層6に入射する光を遮る。
【解決手段】第1のゲート電極2と、第1のゲート電極2を覆う第1のゲート絶縁層3と、第1のゲート絶縁層3の上の半導体層6と、半導体層6の上の第2のゲート絶縁層7と、第2のゲート絶縁層7の上の第2のゲート電極8と、半導体層6に電気的に接続されたドレイン電極5及びソース電極4を有する薄膜トランジスタにおいて、半導体層6がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であり、第1のゲート電極2が下方から半導体層6への光の入射を遮り、第2のゲート電極8が上方から半導体層6への光の入射を遮り、第2のゲート電極8は第1のゲート絶縁層3及び第2のゲート絶縁層7を貫通して第1のゲート電極2と電気的に接続され、少なくとも一方の側方から半導体層6に入射する光を遮る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタを用いた表示装置及び薄膜トランジスタの製造方法に関する。特に、ダブルゲート型の薄膜トランジスタ、ダブルゲート型の薄膜トランジスタを用いた表示装置及びダブルゲート型の薄膜トランジスタの製造方法に関する。なお本明細書におけるダブルゲート型とは、半導体層の上側(一方の面側)および下側(他方の面側)に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が存在する構造を意味する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタは、電界効果トランジスタの一種であり、主にアクティブマトリクス駆動の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに応用されている。現在は、半導体層に多結晶シリコンを使用する多結晶シリコン薄膜トランジスタと、非晶質シリコンを使用する非晶質シリコン薄膜トランジスタが主流である。電子の移動度が、非晶質シリコン薄膜トランジスタの移動度より数百倍大きい多結晶シリコン薄膜トランジスタは、高温形成タイプのほかに低温形成タイプの技術が完成し、難しかった大型化への対応も期待されている。一方、非晶質シリコン薄膜トランジスタは、大面積化、製造プロセスの低コスト化が容易なため、薄膜トランジスタの主流として幅広い分野で利用されている。
【0003】
近年、新しい種類の薄膜トランジスタとして、ZnOを主成分として用いた透明酸化物多結晶薄膜を半導体層に用いた薄膜トランジスタの開発が活発に行われている(特許文献1参照)。上記薄膜は、低温で形成することができ、かつ可視光に対して透明であるため、プラスチック板やフィルムなどの基板上に、フレキシブルで透明な薄膜トランジスタを形成することができる。また、非特許文献1には、インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素から成る透明非晶質酸化物半導体を薄膜トランジスタの半導体層に用いる技術が開示されている。さらに、室温でポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの基板上に、高い移動度を示すフレキシブルで透明な薄膜トランジスタを形成することも可能であると示されている。
【0004】
上記薄膜トランジスタに共通の課題として、半導体層が光に曝されることで生じる電気的特性の劣化がある。具体的には、光照射によって半導体層中にキャリアが生成され、それによって、ドレイン電流(Ids)−ゲート電圧(Vgs)特性(伝達特性)のオフ電流やオン電圧の絶対値が増大する。非特許文献2には、非晶質シリコン薄膜トランジスタに波長600nmの光を照射することによって、オフ電流が増大することが示されている。また、非特許文献3には、透明非晶質酸化物半導体薄膜トランジスタに種々の波長の光を照射することによって、オン電圧が負側に大きくシフトすることが示されている。例えば、アクティブマトリクス駆動の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイにおいては、伝達特性のオフ電流が増大することによって、コントラストの低下などの不具合が生じる。また、オン電圧のシフトによっては、回路上必要な所望の閾値が得られなかったり、回路の動作点がずれたりするなどの問題が顕著となる。例えば、アクティブマトリクス駆動有機ELディスプレイの画素回路における駆動用薄膜トランジスタは、ドレインとソースの間に流れる電流によって有機EL素子の発光強度を制御している。そのため、オン電圧のシフトによって所望の発光強度が得られない不具合が生じる。
【0005】
この課題を解決するために、薄膜トランジスタの半導体部に光が照射されないように、光を遮る材料を用いて、薄膜トランジスタの上に上部遮光膜を、下に下部遮光膜を設ける手法が一般的に用いられている。さらに、特許文献2および3には、上部および下部遮光層に加えて、半導体の側面から入射する光を遮る側壁遮光層をそれらに接続して設けることで、多結晶シリコン半導体層に照射される光を、より効果的に遮る方法が示されている。また、特許文献4には、酸化物半導体を半導体層に用いた薄膜トランジスタにおける遮光層に関する技術が開示されている。該特許文献によれば、可視光に対して透明であるとされている透明非晶質酸化物半導体であっても、特定の可視光領域の光が入射することで、光誘起の電気伝導度変化が生じる。これに対し、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、活性層とは別に、遮光層を設けることで薄膜トランジスタの安定動作が可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−76356号公報
【特許文献2】特開2002−196362号公報
【特許文献3】特開2004−170656号公報
【特許文献4】特開2007−115902号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K.Nomuraet al., Nature, Vol. 432(2004-11)(英),p.488-492
【非特許文献2】C.vanBerkel et al., Journal of Applied Physics, 60 (1986) p.1521
【非特許文献3】D. P.Gosain et al., 7-2, AM-FPD2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2、3および4に開示されている発明においては、上部、下部および側壁遮光層ともに、薄膜トランジスタを構成する層、すなわち、ゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層、ソース電極、ドレイン電極とは別に設ける構成になっている。そのため、薄膜トランジスタを作製する工程とは別に遮光層を作製する必要があるため、工程数の増大を引き起こしていた。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、工程数の増大を引き起こさずに、先行技術と同等以上の遮光能力を有する薄膜トランジスタおよびそれを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、第1のゲート電極と、該第1のゲート電極を覆う第1のゲート絶縁層と、該第1のゲート絶縁層の上の半導体層と、該半導体層の上の第2のゲート絶縁層と、該第2のゲート絶縁層の上の第2のゲート電極と、前記半導体層に電気的に接続されたドレイン電極及びソース電極を有する薄膜トランジスタであって、前記半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であり、前記第1のゲート電極が下方から前記半導体層への光の入射を遮り、前記第2のゲート電極が上方から前記半導体層への光の入射を遮り、前記第2のゲート電極は前記第1のゲート絶縁層及び前記第2のゲート絶縁層を貫通して前記第1のゲート電極と電気的に接続され、少なくとも一方の側方から前記半導体層に入射する光を遮ることを特徴とする薄膜トランジスタを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工程数の増大を引き起こさずに、遮光層で囲まれた薄膜トランジスタと同等以上の遮光能力を有する薄膜トランジスタおよびそれを用いた表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施するための最良の形態による薄膜トランジスタの製造工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施形態としての薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態としての薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例1の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例2の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例2の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例2の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図8】非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を半導体層に用いた薄膜トランジスタの、移動度の半導体膜厚依存性のデータである。
【図9】非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を半導体層に用いたチャネルエッチ型薄膜トランジスタの伝達特性である。
【図10】非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を半導体層に用いたチャネルエッチ型薄膜トランジスタのS値の熱処理温度依存性のデータである。
【図11】本発明の実施例3の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図12】本発明の実施例3の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図13】本発明の実施例6の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図14】本発明の実施例6の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図15】本発明の実施例7の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図16】本発明の実施例7の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。製造方法は六つの工程から構成され、その流れは図1のフローチャートに示すとおりである。図2及び図3は、本発明の一実施形態である薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
図2及び図3には、薄膜トランジスタとしてボトムコンタクト型薄膜トランジスタを示しているが、薄膜トランジスタの構成はこの他にも、トップコンタクト型やプレーナ型等にも適用することができる。図3には、側壁遮光層の設け方によって2種類の構造の薄膜トランジスタが示されている(図3(g)および(h))。両者ともにダブルゲート駆動となるため、シングルゲート駆動と比べて高い電流能力を有する点で同等である。
一方はコンタクトホールの形成が片側だけで済むため、素子が占有する面積を減らすことができる(図3(h))。しかしながら、側壁遮光層が半導体層の片側にしか設けられていないため、薄膜トランジスタ同士を隣り合わせて配置するか、遮光能力を有する配線の隣に配置するなどの遮光能力を高めるための処置が必要である。両者は、使用する場面に応じて何れか好適な方を選択することができる。
【0013】
薄膜トランジスタは、図3(g)および(h)に示すように、基板1の上に、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、ソース電極4、ドレイン電極5、半導体層6、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8、が順に積層した構造を有する。
基板1は、絶縁性の基板である。例えば、基板1はガラス基板でよい。基板1として、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの有機材料や高分子材料を用いることによりフレキシブルな基板上で薄膜トランジスタを製造することもできる。
【0014】
まず、第1工程として、基板1の上に、第1の導電性の膜を形成する。第1の導電性の膜には、金属からなる膜を用いる。導電性の金属酸化物(MOx、ただしMは金属元素)を用いても良い。第1の導電性の膜の可視光に対する透過率は、遮光の観点から1%以下が好ましく、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.01%以下である。
第1の導電性の膜の層数は単層であっても、複数膜の積層であっても良い。その成膜法としては、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。第1の導電性の膜をパターニングして、第1のゲート電極2を形成する(図1のステップS11)。ここまでの工程で形成された構造を図2(a)に示す。
【0015】
次に、第2の工程として、第1のゲート電極2の上に第1の絶縁体膜を形成する。第1の絶縁体膜は、酸化物、炭化物、窒化物、弗化物及びそれらの化合物で構成される群から選択される無機材料からなる。例えば、第1の絶縁体膜には、少なくとも1種の金属元素を含む金属酸化物膜を用いる。金属酸化物の中でも、以下に挙げるものを少なくとも1種含むものを絶縁体膜として用いることがより好ましい;
SiO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Nb2O5、Ta2O5、TiO2、ZrO2、HfO2、CeO2、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Sc2O3、Y2O3、La2O3、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Dy2O3、Er2O3、Yb2O3
【0016】
またこの他に、SiNxに代表される金属窒化物(MNx、ただしMは金属元素)を用いても良い。
またこの他に、SiOxNyに代表される金属酸窒化物(MOxNy、ただしMは金属元素)を用いても良い。
第1の絶縁体膜の成膜法としては、化学気相堆積法、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。ただし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。そして、第1の絶縁体膜をパターニングし、第1のゲート電極2を覆う第1のゲート絶縁層3を形成する(図1のステップS12)。ここまでの工程で形成された構造を図2(b)に示す。
【0017】
次に第3の工程として、第1のゲート絶縁層3の上に第2の導電性の膜を堆積する。第2の導電性の膜には、Moに代表される、少なくとも1種の金属からなる膜を用いる。この他に、ITO(酸化インジウムスズ)に代表される導電性の金属酸化物(MOx、ただしMは金属元素)を用いても良い。膜は単層であっても、複数膜の積層であっても良い。第2の導電性の膜の成膜法としては、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。第2の導電性の膜をパターニングして、ソース電極4およびドレイン電極5を形成する(図1のステップS13)。ここまでの工程で形成された構造を図2(c)に示す。
【0018】
次に、第4の工程として、第1のゲート絶縁層3、ソース電極4およびドレイン電極5の上に半導体膜を形成する。半導体におけるバンドギャップと真性キャリア密度は負の相関を有するため、バンドギャップが大きくなると、真性キャリア密度が小さくなる。真性キャリア密度の自乗が多数キャリア密度と少数キャリア密度の積に等しいため、多数キャリア濃度を一定とすると、少数キャリア濃度が小さくなる。少数キャリアは半導体層中において反転層を形成し、薄膜トランジスタの伝達特性におけるオフ電流の増大を引き起こすため、少ないほうが好ましい。発明者らは、詳細な検討の結果、半導体のバンドギャップが3eV以上であれば、伝達特性に影響を及ぼすほどの反転層が形成されないことを明らかにした。そのため、前記半導体膜は、バンドギャップが3eV以上であることが好ましい。さらに望ましくは、半導体膜には、Zn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上含む非晶質酸化物半導体を用いる。非晶質酸化物を用いることによって、半導体層の非晶質性に起因した、薄膜トランジスタの電気的特性の大面積均一性や近距離均一性を向上させることができる。
【0019】
また、薄膜トランジスタを作製、使用する上で問題となる事項の一つに、ドレイン電流(Ids)−ゲート電圧(Vgs)特性(伝達特性)において現れる瘤、すなわちハンプ(hump)がある。ハンプが発生することで、回路上必要な所望の閾値が得られなかったり、回路の動作点がずれたりするなどが顕著となる。ポリシリコン薄膜トランジスタにおいては、メサ分離構造を有する場合、ゲート電極と重なる半導体層領域において半導体膜のパターンエッジ及びその近傍を電流経路とする、サブチャネルトランジスタが形成される。ここで、メサ分離構造とは、メサアイソレーション構造による分離構造のことをいう。メサ分離構造の薄膜トランジスタでは、半導体膜の側壁部に電界が集中するために、側壁部のサブチャネルトランジスタがそれ以外の部分からなる薄膜トランジスタよりもオンしやすくなる。そのため、伝達特性において、サブチャネルトランジスタのオンによる寄生特性によるハンプが現れる。ところが、上記の酸化物半導体を半導体層に用いた薄膜トランジスタの場合、ポリシリコン薄膜トランジスタとはトランジスタ動作の機構が異なる。すなわち、酸化物半導体薄膜トランジスタでは、電界が強く印加されるほどオフ状態が保たれる。したがって、メサ分離構造の薄膜トランジスタであっても、伝達特性におけるハンプの形成が抑制できる。この理由によっても、前記半導体膜には酸化物半導体を用いることが好ましい。なお、本発明における酸化物半導体とは、該酸化物半導体を活性層に用いた薄膜トランジスタにおいて、オン状態とオフ状態とでドレイン電流が少なくとも2桁以上変化するものである。
半導体膜の成膜法としては、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法や、スピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの液相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。そして、半導体膜をパターニングして、半導体層6を形成する(図1のステップS14)。ここまでの工程で形成された構造を図2(d)に示す。
【0020】
次に、第5の工程として、半導体層4の上に第2の絶縁体膜を形成する。第2の絶縁体膜は、酸化物、炭化物、窒化物、弗化物及びそれらの化合物で構成される群から選択される無機材料からなる。例えば、第2の絶縁体膜としては、少なくとも1種の金属元素を含む金属酸化物膜を用いる。金属酸化物の中でも、以下に挙げるものを少なくとも1種含むものを用いることがより好ましい;
SiO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Nb2O5、Ta2O5、TiO2、ZrO2、HfO2、CeO2、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Sc2O3、Y2O3、La2O3、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Dy2O3、Er2O3、Yb2O3この他に、SiNxに代表される金属窒化物(MNx、ただしMは金属元素)を用いても良い。SiOxNyに代表される金属酸窒化物(MOxNy、ただしMは金属元素)を用いても良い。第2の絶縁体膜の成膜法としては、化学気相堆積法、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。そして、第2の絶縁体膜をパターニングして、第2のゲート絶縁層7を形成する(図1のステップS15)。この際、第1のゲート絶縁層3も一括でパターニングして第1のゲート電極2を露出させ、コンタクトホールを形成する。コンタクトホールは、遮光しようとする薄膜トランジスタのチャネル長方向への正射影の幅が該薄膜トランジスタのチャネル長よりも大きくなるように作製する。またこの際、コンタクトホールを、半導体層6を挟んだ両側に形成する(図3(e))か、あるいは片側に形成する(図3(f))かを選択することができる。
【0021】
次に、第6の工程として、第2のゲート絶縁層7の上に第3の導電性の膜を形成する。第3の導電性の膜には、Moに代表される金属からなる膜を用いる。この他に、ITOに代表される導電性の金属酸化物(MOx、ただしMは金属元素)を用いても良い。第3の導電性の膜は単層であっても、複数膜の積層であっても良い。第3の導電性の膜の可視光に対する透過率は、遮光の観点から1%以下が好ましく、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.01%以下である。第3の導電性の膜の成膜法としては、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。そして、第3の導電性の膜をパターニングして、第2のゲート電極8を形成する(図1のステップS16)。ここまでの工程で形成された構造を図3(g)および図3(h)に示す。なお、図3(h)において、第1のゲート電極2と第2のゲート電極8が接続しているのとは逆側、すなわち図において右側に伸びる第2のゲート電極8は、長く伸ばすことによって遮光性能を向上させることができる。第1のゲート電極2についても同様に、長く伸ばすことによって遮光性能を向上させることができる。
【0022】
以上説明した例が、本発明の薄膜トランジスタの製造工程である。第1のゲート電極は下方から半導体層への光の入射を遮る遮光層として、第2のゲート電極は上方から半導体層への光の入射を遮る遮光層として機能するため、工程数を増やさずに遮光層を設けることができる。また、従来技術と比較して、遮光層が空間的に半導体層に近い位置に形成されるため、より高い遮光能力を有する。このとき、第2のゲート電極が第1のゲート絶縁層及び第2のゲート絶縁層を貫通して第1のゲート電極と電気的に接続され、側方から半導体層に入射する光を遮る側壁遮光層として機能するため、側方から半導体層に入射する光に対しても高い遮光能力を有する。さらに、第1のゲート電極と第2のゲート電極が電気的に接続されており、上下両方向からの電界効果によって半導体層中により多くのキャリアが誘起されるため、該薄膜トランジスタは高い駆動能力を有する。なお、半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であれば、上記効果を得るための薄膜トランジスタの構造は問わない。すなわち、チャネル部とソース・ドレイン電極との接続方法で分別すれば、トップコンタクト型およびボトムコンタクト型(ダブルゲート構造においては両者は同等)、コプレーナ型に適用できる。また、半導体層上面の処理方法で分別すれば、チャネルエッチ型およびチャネル保護型に適用できる。ところが、現在最も広く使用されている薄膜トランジスタのひとつである、チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタには本手法を適用して同効果を得ることはできない。その理由は以下に説明する通りである。チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタにおける半導体層の上側表面はドライエッチングによって削られて形成されたものであるため、エッチング起因のダメージ、例えば欠陥等が多く残存している。これらは後工程では取り除くことができない。このような状態においてトップゲート(片側)駆動を行うと、前記ダメージを有する膜厚範囲にチャネルが形成されるため、主に伝達特性におけるヒステリシスの増大、サブスレッショルド特性の悪化、ストレス耐性の低下などの特性劣化が引き起こされる。したがって、チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタは通常ボトムゲート駆動で使用され、トップゲート駆動を行うことはない。以上の理由から、チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタでダブルゲート駆動を行うと、半導体のバックチャネル側にもチャネルが形成されるため、前述の特性劣化の影響を受けてしまう。このため、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動の場合よりも特性は悪化してしまう。
【0023】
一方、我々が鋭意研究した結果、半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であれば、後述の工程を経ることによって上述のような特性劣化を抑制できることが明らかになった。前記工程は2つに大別される。それぞれは単独に行っても効果を奏するし、組み合わせて行っても効果を奏する。
工程の一は、チャネルエッチ型薄膜トランジスタの製造におけるソース・ドレイン電極形成のためのエッチング時に半導体層表層に形成された欠陥を多く含む層を、別工程のエッチングによって取り除くものである。前記別工程のエッチングは、半導体層に与えるダメージを小さくする観点から、ウェットエッチングを用いる。
【0024】
図8には半導体層に非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を用いた薄膜トランジスタにおける、移動度の半導体膜厚依存性を示すが、半導体膜厚が10nmでは移動度の劣化が見られた。したがって、半導体層のエッチング深さは、半導体層の厚さをdとした場合、1nm以上、(d−10)nm以下とする。1nmを下回るエッチングは制御性の観点から困難であるし、(d−10)nmを超えるエッチングは、上述のとおり、移動度の劣化が起こってしまう。
【0025】
また図9(a)に、半導体層のエッチングを行っていない薄膜トランジスタの伝達特性を、図9(b)には、半導体層を10nmエッチングした薄膜トランジスタの伝達特性を示す。それぞれ、トップゲート駆動時とボトムゲート駆動時の特性が記載されている。半導体層のエッチングを行っていない場合は、両者に大きな差があり、特にトップゲート駆動時に大きなヒステリシスが見られた(図9(a))。一方、半導体層を10nmエッチングした場合は、両者はほぼ同じ特性であり、図9(a)で見られたトップゲート駆動時の大きなヒステリシスは見られなかった。この実験事実に基づき、好ましくは、半導体層のエッチング深さは、10nm以上、(d−10)nm以下とする。なお、本明細書中にデータは示していないが、上述のとおり半導体層のウェットエッチング処理を施すことによって、伝達特性におけるサブスレッショルド特性の向上、ストレス耐性の向上が確認できている。よってエッチング深さを上述の範囲に収めることで、欠陥を多く含む層を含まず、かつ安定動作する薄膜トランジスタを得ることができる。
【0026】
一方の工程の一は、熱処理である。図10に非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を用いたチャネルエッチ型薄膜トランジスタにおけるS値の熱処理温度依存性を示す。熱処理は薄膜トランジスタ完成後に行い、熱処理時間はいずれも1時間である。図中には、前記半導体層のウェットエッチング処理の有無で2系統の結果が重ね書きされている。エッチング処理なしの方に着目すると、200℃以上の熱処理を施すことで、S値の減少が確認できた。これは前述の、ソース・ドレイン電極形成のためのエッチング時に半導体層表層に形成された多くの欠陥に起因するS値の増大が熱処理によって抑制できることを示している。したがって、熱処理温度は200℃以上500℃以下とする。熱処理温度の上限を500℃としたのは、500℃以上の熱処理を施すと半導体層が結晶化して、デバイス特性の近距離均一性が悪化してしまうためである。また、同図から、250℃以上の熱処理を施すことで、前記半導体層のウェットエッチング処理を施した場合と同等のS値になることが分かる。この実験事実に基づき、好ましくは、熱処理温度は250℃以上500℃以下とする。なお、本明細書中にデータは示していないが、上述のとおり熱処理を施すことによって、伝達特性におけるヒステリシスの減少、ストレス耐性の向上が確認できている。上記熱処理は、半導体層上に絶縁層を形成する工程より後に行うことによって前記効果を奏する。
以上で説明したとおり、ソース・ドレイン電極形成のためのエッチング後のウェットエッチング処理や200℃以上の熱処理を含む後工程を実施する。かかる後工程を実施することで、チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタで見られる前述のような特性劣化は起こらないことが明らかになった。よって、本実施形態は、薄膜トランジスタのうち、半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体のものに適していると言える。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施例について、さらに詳細に説明する。
(実施例1)
図4(f)は、本発明の実施例1の薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。図4(f)に示すように、本実施例は、ボトムコンタクト型薄膜トランジスタの例である。図4の薄膜トランジスタは、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、基板1の上には、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、ソース電極4、ドレイン電極5、半導体層6、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8が設けられている。
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。まず、基板1の上に、厚さ100nmのMo薄膜を作製する。本実施例では、アルゴンガスの雰囲気中でDCマグネトロンスパッタ法により、Mo薄膜を形成する。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により加工して、第1のゲート電極2を形成する(図4(a))。
【0028】
次に、第1のゲート電極2の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を作製する。成膜条件は、基板温度を340℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paである。堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法によりパターニングし、第1のゲート絶縁層3を形成する(図4(b))。なお、1sccmは、1.69x10−4Pa・m3/secである。次に、第1のゲート絶縁層3の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ30nmのITO薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を室温、投入RFパワーを200W、アルゴンガス供給流量を100sccm、チャンバー圧力を0.2Paである。こうして作製したITO薄膜は非晶質である。次に、堆積したITO薄膜を、フォトリソグラフィ法とウェットエッチング法により加工する。次に加工したITO薄膜を270℃で20分間熱処理することにより、多結晶ITO薄膜とし、ソース電極4及びドレイン電極5を形成する(図4(c))。
【0029】
次に、ゲート絶縁層4、ドレイン電極5及びソース電極6の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ40nmの酸化物半導体In−Ga−Zn−O薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を室温、投入パワーを200W、アルゴンと酸素の混合ガスを25sccm、チャンバー圧力を0.5Paである。こうして作製したIn−Ga−Zn−O薄膜は非晶質であり、In:Ga:Zn:Oの組成比は粗1:1:1:4である。次に、堆積したIn−Ga−Zn−O薄膜を、フォトリソグラフィ法と、塩酸を用いたウェットエッチング法によりパターニングし、半導体層6を形成する(図4(d))。
【0030】
次に、半導体層4の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を作製する。成膜条件は、基板温度を250℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paである。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法によりパターニングし、第2のゲート絶縁層7を形成する。この際、第1のゲート絶縁層3を一括でエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図4(e))。
【0031】
次に、第2のゲート絶縁層7の上に厚さ200nmのMo薄膜を作製する。成膜条件は第1のゲート電極作製時と同じである。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により微細加工して、第2のゲート電極8を形成する(図4(f))。
上記のように作製された薄膜トランジスタは、高い遮光能力と高い駆動能力を兼ね備えた特性を示す。
【0032】
駆動能力は伝達特性で評価した。ダブルゲート構造におけるオン電流は、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動のものと比較して約2.5倍であった。
遮光能力は、薄膜トランジスタにUV光を照射する前後で伝達特性を測定することで評価した。薄膜トランジスタにUV光を照射することで起こり得る変化は、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大である。本実施例の薄膜トランジスタでは、立ち上がり電圧のシフトは1V未満で、オフ電流は10−10A未満であった。
【0033】
(実施例2)
図7(h)は、本発明の実施例2の表示装置の構成を示す断面図である。図7(h)に示すように、本実施例における表示装置は、実施例1に示した薄膜トランジスタと有機EL素子から構成されるものである。図7(h)の薄膜トランジスタ100は、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、薄膜トランジスタ100は、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、ソース電極4、ドレイン電極5、半導体層6、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8から構成される。また図7(h)の有機EL素子200は、第1のゲート絶縁層3の上に設けられる。さらに詳しくは、有機EL素子200は、透明アノード電極9、正孔注入層10、有機発光層11、電子注入層12、カソード電極13から構成される。さらに、素子全体を被うようにガラス封止層14を設ける。
【0034】
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。まず、基板1の上に、厚さ100nmのMo薄膜を形成する。本実施例では、アルゴンガスの雰囲気中でDCマグネトロンスパッタ法により、Mo薄膜を堆積する。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により加工して、第1のゲート電極2を形成する(図5(a))。
【0035】
次に、第1のゲート電極2の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を340℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paとして堆積する。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法によりパターニングし、第1のゲート絶縁層3を形成する(図5(b))。
【0036】
次に、第1のゲート絶縁層3の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ30nmのITO薄膜を形成する。
成膜条件は、基板温度を室温、投入RFパワーを200W、アルゴンガス供給流量を100sccm、チャンバー圧力を0.2Paとする。こうして堆積したITO薄膜は非晶質である。次に、堆積したITO薄膜を、フォトリソグラフィ法とウェットエッチング法により加工する。次に加工したITO薄膜を270度で20分間熱処理することにより、多結晶ITO薄膜とし、ソース電極4、ドレイン電極5、および透明アノード電極9を形成する(図5(c))。
【0037】
次に、ゲート絶縁層4、ドレイン電極5及びソース電極6の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ40nmの酸化物半導体In−Ga−Zn−O薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を室温、投入パワーを200W、アルゴンと酸素の混合ガスを25sccm、チャンバー圧力を0.5Paとする。こうして堆積したIn−Ga−Zn−O薄膜は非晶質であり、In:Ga:Zn:Oの組成比は粗1:1:1:4である。次に、堆積したIn−Ga−Zn−O薄膜を、フォトリソグラフィ法と、塩酸を用いたウェットエッチング法により加工し、半導体層6を形成する(図5(d))
【0038】
次に、半導体層4の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を250℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paとする。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法により加工し、第2のゲート絶縁層7を形成する。この際、第1のゲート絶縁層3を一括してエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図6(e))。
【0039】
次に、第2のゲート絶縁層7の上に厚さ200nmのMo薄膜を形成する。成膜条件は第1のゲート電極作製時と同じとする。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により加工して、第2のゲート電極8を形成する(図6(f))。
次に、第2のゲート電極8の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を250℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paとする。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法により加工し、保護層15を形成する(図6(g))。
【0040】
次に、素子の上方より紫外線を照射し、透明アノード電極9の表面を洗浄する。次に、露出させた透明アノード電極9の上に、有機EL層を形成する。有機EL層は、正孔注入層10、有機発光層11、電子注入層12をこの順に積層して形成する。上記のように形成された有機EL層の上に、カソード電極13を形成する。最後に、ガラス封止層14を用いて素子を封止する(図7(h))。
上記のように、工程を増やすことなく作製された表示素子における薄膜トランジスタ100は、工程中に照射される紫外線や、有機EL素子からの迷光、および外光に対して高い遮光能力を有する。
【0041】
駆動能力と遮光能力の評価方法と結果は実施例1と同じあった。有機EL素子からの迷光と外光は、実験に使用したUV光と比べると薄膜トランジスタに及ぼす影響が小さいと考えられる。したがって、UV光照射に対する遮光能力を十分に有していれば、これらに対しても十分な遮光能力を有していると判断した。UV光照射によって起こりうる、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大はいずれも有機EL素子を駆動するためにはある閾値以下に抑える必要があるが、今回の実験結果はそれを満たすものと考える。
【0042】
(実施例3)
図12(f)は、本発明の実施例3の薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。図中には、薄膜トランジスタのチャネル長方向に垂直な断面(左)と、チャネル幅方向に垂直な断面(右)を示した。図12(f)に示すように、本実施例は、チャネルエッチ型薄膜トランジスタの例である。なお、本実施例では、側壁遮光層が半導体層の両側に存在する形態について説明するが、同様の手順により、側壁遮光層が半導体層の片側に存在する形態も作製することができる。図11、図12の薄膜トランジスタは、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、基板1の上には、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、半導体層6、ソース電極4、ドレイン電極5、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8が設けられている。
【0043】
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。まず、基板1の上に、第1のゲート電極2を形成する(図11(a))。第1のゲート電極2の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第1のゲート電極2の上に、第1のゲート絶縁層3を形成する(図11(b))。第1のゲート絶縁層3の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第1のゲート絶縁層3の上に、半導体層6を形成する(図11(c))。半導体層6の作製条件は実施例1と同様である。
【0044】
次に、第1のゲート絶縁層3および半導体層6の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ100nmのMo薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を室温、投入パワーを400W、アルゴンガス供給流量を100sccm、チャンバー圧力を0.5Paである。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により加工することで、ソース電極4及びドレイン電極5を形成する(図12(d))。この際、ドライエッチングにより半導体層6が5nmエッチングされた。
【0045】
次に、半導体層6、ソース電極4及びドレイン電極5の上に、第2のゲート絶縁層7を形成する。この際、第1のゲート絶縁層3を一括でエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図12(e))。第2のゲート絶縁層7の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第2のゲート絶縁層7の上に第2のゲート電極8を形成する(図12(f))。第2のゲート電極8の作製条件は実施例1と同様である。
【0046】
上記のように作製された薄膜トランジスタは、高い遮光能力と高い駆動能力を兼ね備えた特性を示す。
駆動能力は伝達特性で評価した。ダブルゲート構造におけるオン電流は、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動のものと比較して約2.5倍であった。
遮光能力は、薄膜トランジスタにUV光を照射する前後で伝達特性を測定することで評価した。薄膜トランジスタにUV光を照射することで起こり得る変化は、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大である。本実施例の薄膜トランジスタでは、立ち上がり電圧のシフトは1V未満で、オフ電流は10−10A未満であった。
【0047】
(実施例4)
本実施例では、チャネルエッチ型薄膜トランジスタに対し、熱処理を行った例を示す。薄膜トランジスタは、実施例3と同様の手順で作製する。薄膜トランジスタ完成後、ホットプレートにより、それぞれ、200℃、250℃、300℃の熱処理を1時間実施した。図10に示すように、200℃以上の熱処理を施すことによって、S値の減少が確認できた。これは、熱処理によって半導体層上層に存在するプロセス起因のダメージが回復したことによる。なお、遮光能力及び駆動能力は、熱処理の有無で大きな変化はなかった。本実施例では、薄膜トランジスタ完成後に熱処理を実施した場合について記述しているが、半導体層上に絶縁層を堆積する工程以降であれば、いずれの段階で熱処理を行っても、同様の効果が得られることを確認している。
【0048】
(実施例5)
本実施例では、チャネルエッチ型薄膜トランジスタに対し、ソース電極及びドレイン電極形成後のウェットエッチング処理を行った例を示す。薄膜トランジスタは、該ウェットエッチング処理を除いては、実施例3と同様の手順で作製する。該ウェットエッチング処理は、実施例1において半導体層をウェットエッチした塩酸を4倍希釈したものをエッチャントとして用いて行った。該ウェットエッチングによってエッチングした半導体層の厚さは10nmであった。図10に示すように、該ウェットエッチングを施すことによって、未熱処理であっても、ウェットエッチング未処理のものと比べてS値が減少した。これは、半導体層上層に存在するプロセス起因のダメージを含む層がウェットエッチングにより除去できたことによる。なお、遮光能力及び駆動能力は、該ウェットエッチング処理の有無で大きな変化はなかった。また、図10に示すように、該ウェットエッチング処理を施した試料に関しても、薄膜トランジスタ完成後に200℃以上の熱処理を実施することで、さらにS値が減少した。したがって、該ウェットエッチング処理に加えて、実施例4で説明した熱処理を実施することも有効である。
【0049】
(実施例6)
図14(f)は、本発明の実施例6の薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。図中には、薄膜トランジスタのチャネル長方向に垂直な断面(左)と、チャネル幅方向に追直な断面(右)を示した。図14(f)に示すように、本実施例は、コプレーナ型薄膜トランジスタの例である。なお、本実施例では、側壁遮光層が半導体層の両側に存在する形態について説明するが、同様の手順により、側壁遮光層が半導体層の片側に存在する形態も作製することができる。図13、14の薄膜トランジスタは、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、基板1の上には、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、半導体層6、ソース電極4、ドレイン電極5、ストッパ層10、保護層11、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8が設けられている。
【0050】
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。
まず、基板1の上に、第1のゲート電極2を形成する(図13(a))。第1のゲート電極2の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第1のゲート電極2に、第1のゲート絶縁層3を形成する(図13(b))。第1のゲート絶縁層3の作製条件は実施例1と同様である。
【0051】
次に、第1のゲート絶縁層3の上に、半導体層6を形成する(図13(c))。半導体層6の作製条件は実施例1と同様である。
次に、半導体層6の上に、プラズマCVD法により厚さ300nmのSiO2薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を250℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を16sccm、N2Oを400sccm、チャンバー圧力を150Paとする。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法により加工し、ストッパ層10を形成する(図14(d))。
【0052】
次に、ストッパ層10及び半導体層6の上に、プラズマCVD法により、厚さ300nmのSiON薄膜を作製する。このプラズマCVD法によるSiONの形成時の基板温度は250℃とする。また、プロセスガスには、SiH4、NH3、N2Oを用いる。ガス流量比はSiH4:NH3:N2O=2:3:50とする。また、投入RFパワー密度と圧力はそれぞれ0.9W/cm2、150Paとする。この際、半導体層6のうち、SiON薄膜と接している領域は、SiON薄膜の成膜雰囲気と、その薄膜中に含まれる水素の影響により、著しく低抵抗化する。このように低抵抗化した半導体層6の領域を、ドレイン電極5及びソース電極4として使用する(図14(e))。
次に、SiON薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ウェットエッチング法によりパターニングし、保護層11を形成する。この際、第1のゲート絶縁層3を一括でエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図14(e))。
【0053】
次に、保護層11の上に厚さ100nmのMo薄膜を作製する。成膜条件は第1のゲート電極作製時と同じである。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とウェットエッチング法により微細加工して、第2のゲート電極8を形成する(図14(f))。このとき、第2のゲート電極8と半導体層6に挟まれた、ストッパ層10と保護層11が第2のゲート絶縁層7として機能する。
図14(f)の右側の図に示すように、第2のゲート電極8が第1のゲート絶縁層3及び第2のゲート絶縁層7を貫通して第1のゲート電極2と電気的に接続する領域の、薄膜トランジスタのチャネル長方向への正射影の幅Wが薄膜トランジスタのチャネル長L(図14(e)の右側の図)よりも大きい。
上記のように作製された薄膜トランジスタは、高い遮光能力と高い駆動能力を兼ね備えた特性を示す。
【0054】
駆動能力は伝達特性で評価した。ダブルゲート構造におけるオン電流は、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動のものと比較して約2.5倍であった。
遮光能力は、薄膜トランジスタにUV光を照射する前後で伝達特性を測定することで評価した。薄膜トランジスタにUV光を照射することで起こり得る変化は、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大である。本実施例の薄膜トランジスタでは、立ち上がり電圧のシフトは1V未満で、オフ電流は10−10A未満であった。
【0055】
(実施例7)
図16(g)は、本発明の実施例7の薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。図中には、薄膜トランジスタのチャネル長方向に垂直な断面(左)と、チャネル幅方向に追直な断面(右)を示した。図16(g)に示すように、本実施例は、チャネル保護型薄膜トランジスタの例である。なお、本実施例では、側壁遮光層が半導体層の両側に存在する形態について説明するが、同様の手順により、側壁遮光層が半導体層の片側に存在する形態も作製することができる。図15、16の薄膜トランジスタは、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、基板1の上には、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、半導体層6、ソース電極4、ドレイン電極5、ストッパ層10、保護層11、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8が設けられている。
【0056】
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。
まず、基板1の上に、第1のゲート電極2を形成する(図15(a))。第1のゲート電極2の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第1のゲート電極2に、第1のゲート絶縁層3を形成する(図15(b))。第1のゲート絶縁層3の作製条件は実施例1と同様である。
【0057】
次に、第1のゲート絶縁層3の上に、半導体層6を形成する(図15(c))。半導体層6の作製条件は実施例1と同様である。
次に、半導体層6の上に、ストッパ層10を形成する(図15(d))。ストッパ層10の作製条件は実施例1と同様である。
次に、ストッパ層10及び半導体層6の上に、100nmのMo薄膜を作製する。成膜条件は第1のゲート電極作製時と同じである。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により微細加工して、ドレイン電極5及びソース電極4を形成する(図16(e))。
【0058】
次に、ストッパ層10、ドレイン電極5及びソース電極4の上に保護層11を形成する。保護層11の作製条件は実施例6と同様である。この際、第1のゲート絶縁層3を一括でエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図16(f))。
次に、保護層11の上に第2のゲート電極8を形成する(図16(g))。このとき、第2のゲート電極8と半導体層6に挟まれた、ストッパ層10と保護層11が第2のゲート絶縁層7として機能する。
【0059】
上記のように作製された薄膜トランジスタは、高い遮光能力と高い駆動能力を兼ね備えた特性を示す。
駆動能力は伝達特性で評価した。ダブルゲート構造におけるオン電流は、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動のものと比較して約2.5倍であった。
遮光能力は、薄膜トランジスタにUV光を照射する前後で伝達特性を測定することで評価した。薄膜トランジスタにUV光を照射することで起こり得る変化は、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大である。本実施例の薄膜トランジスタでは、立ち上がり電圧のシフトは1V未満で、オフ電流は10−10A未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの駆動用の電界効果トランジスタに利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 基板
2 第1のゲート電極
3 第1のゲート絶縁層
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 半導体層
7 第2のゲート絶縁層
8 第2のゲート電極
9 コンタクト電極
10 ストッパ層
11 保護層
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタを用いた表示装置及び薄膜トランジスタの製造方法に関する。特に、ダブルゲート型の薄膜トランジスタ、ダブルゲート型の薄膜トランジスタを用いた表示装置及びダブルゲート型の薄膜トランジスタの製造方法に関する。なお本明細書におけるダブルゲート型とは、半導体層の上側(一方の面側)および下側(他方の面側)に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が存在する構造を意味する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタは、電界効果トランジスタの一種であり、主にアクティブマトリクス駆動の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに応用されている。現在は、半導体層に多結晶シリコンを使用する多結晶シリコン薄膜トランジスタと、非晶質シリコンを使用する非晶質シリコン薄膜トランジスタが主流である。電子の移動度が、非晶質シリコン薄膜トランジスタの移動度より数百倍大きい多結晶シリコン薄膜トランジスタは、高温形成タイプのほかに低温形成タイプの技術が完成し、難しかった大型化への対応も期待されている。一方、非晶質シリコン薄膜トランジスタは、大面積化、製造プロセスの低コスト化が容易なため、薄膜トランジスタの主流として幅広い分野で利用されている。
【0003】
近年、新しい種類の薄膜トランジスタとして、ZnOを主成分として用いた透明酸化物多結晶薄膜を半導体層に用いた薄膜トランジスタの開発が活発に行われている(特許文献1参照)。上記薄膜は、低温で形成することができ、かつ可視光に対して透明であるため、プラスチック板やフィルムなどの基板上に、フレキシブルで透明な薄膜トランジスタを形成することができる。また、非特許文献1には、インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素から成る透明非晶質酸化物半導体を薄膜トランジスタの半導体層に用いる技術が開示されている。さらに、室温でポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの基板上に、高い移動度を示すフレキシブルで透明な薄膜トランジスタを形成することも可能であると示されている。
【0004】
上記薄膜トランジスタに共通の課題として、半導体層が光に曝されることで生じる電気的特性の劣化がある。具体的には、光照射によって半導体層中にキャリアが生成され、それによって、ドレイン電流(Ids)−ゲート電圧(Vgs)特性(伝達特性)のオフ電流やオン電圧の絶対値が増大する。非特許文献2には、非晶質シリコン薄膜トランジスタに波長600nmの光を照射することによって、オフ電流が増大することが示されている。また、非特許文献3には、透明非晶質酸化物半導体薄膜トランジスタに種々の波長の光を照射することによって、オン電圧が負側に大きくシフトすることが示されている。例えば、アクティブマトリクス駆動の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイにおいては、伝達特性のオフ電流が増大することによって、コントラストの低下などの不具合が生じる。また、オン電圧のシフトによっては、回路上必要な所望の閾値が得られなかったり、回路の動作点がずれたりするなどの問題が顕著となる。例えば、アクティブマトリクス駆動有機ELディスプレイの画素回路における駆動用薄膜トランジスタは、ドレインとソースの間に流れる電流によって有機EL素子の発光強度を制御している。そのため、オン電圧のシフトによって所望の発光強度が得られない不具合が生じる。
【0005】
この課題を解決するために、薄膜トランジスタの半導体部に光が照射されないように、光を遮る材料を用いて、薄膜トランジスタの上に上部遮光膜を、下に下部遮光膜を設ける手法が一般的に用いられている。さらに、特許文献2および3には、上部および下部遮光層に加えて、半導体の側面から入射する光を遮る側壁遮光層をそれらに接続して設けることで、多結晶シリコン半導体層に照射される光を、より効果的に遮る方法が示されている。また、特許文献4には、酸化物半導体を半導体層に用いた薄膜トランジスタにおける遮光層に関する技術が開示されている。該特許文献によれば、可視光に対して透明であるとされている透明非晶質酸化物半導体であっても、特定の可視光領域の光が入射することで、光誘起の電気伝導度変化が生じる。これに対し、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、活性層とは別に、遮光層を設けることで薄膜トランジスタの安定動作が可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−76356号公報
【特許文献2】特開2002−196362号公報
【特許文献3】特開2004−170656号公報
【特許文献4】特開2007−115902号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K.Nomuraet al., Nature, Vol. 432(2004-11)(英),p.488-492
【非特許文献2】C.vanBerkel et al., Journal of Applied Physics, 60 (1986) p.1521
【非特許文献3】D. P.Gosain et al., 7-2, AM-FPD2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2、3および4に開示されている発明においては、上部、下部および側壁遮光層ともに、薄膜トランジスタを構成する層、すなわち、ゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層、ソース電極、ドレイン電極とは別に設ける構成になっている。そのため、薄膜トランジスタを作製する工程とは別に遮光層を作製する必要があるため、工程数の増大を引き起こしていた。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、工程数の増大を引き起こさずに、先行技術と同等以上の遮光能力を有する薄膜トランジスタおよびそれを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、第1のゲート電極と、該第1のゲート電極を覆う第1のゲート絶縁層と、該第1のゲート絶縁層の上の半導体層と、該半導体層の上の第2のゲート絶縁層と、該第2のゲート絶縁層の上の第2のゲート電極と、前記半導体層に電気的に接続されたドレイン電極及びソース電極を有する薄膜トランジスタであって、前記半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であり、前記第1のゲート電極が下方から前記半導体層への光の入射を遮り、前記第2のゲート電極が上方から前記半導体層への光の入射を遮り、前記第2のゲート電極は前記第1のゲート絶縁層及び前記第2のゲート絶縁層を貫通して前記第1のゲート電極と電気的に接続され、少なくとも一方の側方から前記半導体層に入射する光を遮ることを特徴とする薄膜トランジスタを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工程数の増大を引き起こさずに、遮光層で囲まれた薄膜トランジスタと同等以上の遮光能力を有する薄膜トランジスタおよびそれを用いた表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施するための最良の形態による薄膜トランジスタの製造工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施形態としての薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態としての薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例1の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例2の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例2の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例2の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図8】非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を半導体層に用いた薄膜トランジスタの、移動度の半導体膜厚依存性のデータである。
【図9】非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を半導体層に用いたチャネルエッチ型薄膜トランジスタの伝達特性である。
【図10】非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を半導体層に用いたチャネルエッチ型薄膜トランジスタのS値の熱処理温度依存性のデータである。
【図11】本発明の実施例3の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図12】本発明の実施例3の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図13】本発明の実施例6の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図14】本発明の実施例6の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図15】本発明の実施例7の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図16】本発明の実施例7の薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。製造方法は六つの工程から構成され、その流れは図1のフローチャートに示すとおりである。図2及び図3は、本発明の一実施形態である薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図である。
図2及び図3には、薄膜トランジスタとしてボトムコンタクト型薄膜トランジスタを示しているが、薄膜トランジスタの構成はこの他にも、トップコンタクト型やプレーナ型等にも適用することができる。図3には、側壁遮光層の設け方によって2種類の構造の薄膜トランジスタが示されている(図3(g)および(h))。両者ともにダブルゲート駆動となるため、シングルゲート駆動と比べて高い電流能力を有する点で同等である。
一方はコンタクトホールの形成が片側だけで済むため、素子が占有する面積を減らすことができる(図3(h))。しかしながら、側壁遮光層が半導体層の片側にしか設けられていないため、薄膜トランジスタ同士を隣り合わせて配置するか、遮光能力を有する配線の隣に配置するなどの遮光能力を高めるための処置が必要である。両者は、使用する場面に応じて何れか好適な方を選択することができる。
【0013】
薄膜トランジスタは、図3(g)および(h)に示すように、基板1の上に、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、ソース電極4、ドレイン電極5、半導体層6、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8、が順に積層した構造を有する。
基板1は、絶縁性の基板である。例えば、基板1はガラス基板でよい。基板1として、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの有機材料や高分子材料を用いることによりフレキシブルな基板上で薄膜トランジスタを製造することもできる。
【0014】
まず、第1工程として、基板1の上に、第1の導電性の膜を形成する。第1の導電性の膜には、金属からなる膜を用いる。導電性の金属酸化物(MOx、ただしMは金属元素)を用いても良い。第1の導電性の膜の可視光に対する透過率は、遮光の観点から1%以下が好ましく、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.01%以下である。
第1の導電性の膜の層数は単層であっても、複数膜の積層であっても良い。その成膜法としては、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。第1の導電性の膜をパターニングして、第1のゲート電極2を形成する(図1のステップS11)。ここまでの工程で形成された構造を図2(a)に示す。
【0015】
次に、第2の工程として、第1のゲート電極2の上に第1の絶縁体膜を形成する。第1の絶縁体膜は、酸化物、炭化物、窒化物、弗化物及びそれらの化合物で構成される群から選択される無機材料からなる。例えば、第1の絶縁体膜には、少なくとも1種の金属元素を含む金属酸化物膜を用いる。金属酸化物の中でも、以下に挙げるものを少なくとも1種含むものを絶縁体膜として用いることがより好ましい;
SiO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Nb2O5、Ta2O5、TiO2、ZrO2、HfO2、CeO2、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Sc2O3、Y2O3、La2O3、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Dy2O3、Er2O3、Yb2O3
【0016】
またこの他に、SiNxに代表される金属窒化物(MNx、ただしMは金属元素)を用いても良い。
またこの他に、SiOxNyに代表される金属酸窒化物(MOxNy、ただしMは金属元素)を用いても良い。
第1の絶縁体膜の成膜法としては、化学気相堆積法、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。ただし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。そして、第1の絶縁体膜をパターニングし、第1のゲート電極2を覆う第1のゲート絶縁層3を形成する(図1のステップS12)。ここまでの工程で形成された構造を図2(b)に示す。
【0017】
次に第3の工程として、第1のゲート絶縁層3の上に第2の導電性の膜を堆積する。第2の導電性の膜には、Moに代表される、少なくとも1種の金属からなる膜を用いる。この他に、ITO(酸化インジウムスズ)に代表される導電性の金属酸化物(MOx、ただしMは金属元素)を用いても良い。膜は単層であっても、複数膜の積層であっても良い。第2の導電性の膜の成膜法としては、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。第2の導電性の膜をパターニングして、ソース電極4およびドレイン電極5を形成する(図1のステップS13)。ここまでの工程で形成された構造を図2(c)に示す。
【0018】
次に、第4の工程として、第1のゲート絶縁層3、ソース電極4およびドレイン電極5の上に半導体膜を形成する。半導体におけるバンドギャップと真性キャリア密度は負の相関を有するため、バンドギャップが大きくなると、真性キャリア密度が小さくなる。真性キャリア密度の自乗が多数キャリア密度と少数キャリア密度の積に等しいため、多数キャリア濃度を一定とすると、少数キャリア濃度が小さくなる。少数キャリアは半導体層中において反転層を形成し、薄膜トランジスタの伝達特性におけるオフ電流の増大を引き起こすため、少ないほうが好ましい。発明者らは、詳細な検討の結果、半導体のバンドギャップが3eV以上であれば、伝達特性に影響を及ぼすほどの反転層が形成されないことを明らかにした。そのため、前記半導体膜は、バンドギャップが3eV以上であることが好ましい。さらに望ましくは、半導体膜には、Zn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上含む非晶質酸化物半導体を用いる。非晶質酸化物を用いることによって、半導体層の非晶質性に起因した、薄膜トランジスタの電気的特性の大面積均一性や近距離均一性を向上させることができる。
【0019】
また、薄膜トランジスタを作製、使用する上で問題となる事項の一つに、ドレイン電流(Ids)−ゲート電圧(Vgs)特性(伝達特性)において現れる瘤、すなわちハンプ(hump)がある。ハンプが発生することで、回路上必要な所望の閾値が得られなかったり、回路の動作点がずれたりするなどが顕著となる。ポリシリコン薄膜トランジスタにおいては、メサ分離構造を有する場合、ゲート電極と重なる半導体層領域において半導体膜のパターンエッジ及びその近傍を電流経路とする、サブチャネルトランジスタが形成される。ここで、メサ分離構造とは、メサアイソレーション構造による分離構造のことをいう。メサ分離構造の薄膜トランジスタでは、半導体膜の側壁部に電界が集中するために、側壁部のサブチャネルトランジスタがそれ以外の部分からなる薄膜トランジスタよりもオンしやすくなる。そのため、伝達特性において、サブチャネルトランジスタのオンによる寄生特性によるハンプが現れる。ところが、上記の酸化物半導体を半導体層に用いた薄膜トランジスタの場合、ポリシリコン薄膜トランジスタとはトランジスタ動作の機構が異なる。すなわち、酸化物半導体薄膜トランジスタでは、電界が強く印加されるほどオフ状態が保たれる。したがって、メサ分離構造の薄膜トランジスタであっても、伝達特性におけるハンプの形成が抑制できる。この理由によっても、前記半導体膜には酸化物半導体を用いることが好ましい。なお、本発明における酸化物半導体とは、該酸化物半導体を活性層に用いた薄膜トランジスタにおいて、オン状態とオフ状態とでドレイン電流が少なくとも2桁以上変化するものである。
半導体膜の成膜法としては、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法や、スピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの液相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。そして、半導体膜をパターニングして、半導体層6を形成する(図1のステップS14)。ここまでの工程で形成された構造を図2(d)に示す。
【0020】
次に、第5の工程として、半導体層4の上に第2の絶縁体膜を形成する。第2の絶縁体膜は、酸化物、炭化物、窒化物、弗化物及びそれらの化合物で構成される群から選択される無機材料からなる。例えば、第2の絶縁体膜としては、少なくとも1種の金属元素を含む金属酸化物膜を用いる。金属酸化物の中でも、以下に挙げるものを少なくとも1種含むものを用いることがより好ましい;
SiO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Nb2O5、Ta2O5、TiO2、ZrO2、HfO2、CeO2、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Sc2O3、Y2O3、La2O3、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Dy2O3、Er2O3、Yb2O3この他に、SiNxに代表される金属窒化物(MNx、ただしMは金属元素)を用いても良い。SiOxNyに代表される金属酸窒化物(MOxNy、ただしMは金属元素)を用いても良い。第2の絶縁体膜の成膜法としては、化学気相堆積法、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。そして、第2の絶縁体膜をパターニングして、第2のゲート絶縁層7を形成する(図1のステップS15)。この際、第1のゲート絶縁層3も一括でパターニングして第1のゲート電極2を露出させ、コンタクトホールを形成する。コンタクトホールは、遮光しようとする薄膜トランジスタのチャネル長方向への正射影の幅が該薄膜トランジスタのチャネル長よりも大きくなるように作製する。またこの際、コンタクトホールを、半導体層6を挟んだ両側に形成する(図3(e))か、あるいは片側に形成する(図3(f))かを選択することができる。
【0021】
次に、第6の工程として、第2のゲート絶縁層7の上に第3の導電性の膜を形成する。第3の導電性の膜には、Moに代表される金属からなる膜を用いる。この他に、ITOに代表される導電性の金属酸化物(MOx、ただしMは金属元素)を用いても良い。第3の導電性の膜は単層であっても、複数膜の積層であっても良い。第3の導電性の膜の可視光に対する透過率は、遮光の観点から1%以下が好ましく、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.01%以下である。第3の導電性の膜の成膜法としては、スパッタ法、パルスレーザー蒸着法及び電子ビーム蒸着法などの気相法を用いるのが好ましい。しかし、成膜法はこれらの方法に限られるものではない。そして、第3の導電性の膜をパターニングして、第2のゲート電極8を形成する(図1のステップS16)。ここまでの工程で形成された構造を図3(g)および図3(h)に示す。なお、図3(h)において、第1のゲート電極2と第2のゲート電極8が接続しているのとは逆側、すなわち図において右側に伸びる第2のゲート電極8は、長く伸ばすことによって遮光性能を向上させることができる。第1のゲート電極2についても同様に、長く伸ばすことによって遮光性能を向上させることができる。
【0022】
以上説明した例が、本発明の薄膜トランジスタの製造工程である。第1のゲート電極は下方から半導体層への光の入射を遮る遮光層として、第2のゲート電極は上方から半導体層への光の入射を遮る遮光層として機能するため、工程数を増やさずに遮光層を設けることができる。また、従来技術と比較して、遮光層が空間的に半導体層に近い位置に形成されるため、より高い遮光能力を有する。このとき、第2のゲート電極が第1のゲート絶縁層及び第2のゲート絶縁層を貫通して第1のゲート電極と電気的に接続され、側方から半導体層に入射する光を遮る側壁遮光層として機能するため、側方から半導体層に入射する光に対しても高い遮光能力を有する。さらに、第1のゲート電極と第2のゲート電極が電気的に接続されており、上下両方向からの電界効果によって半導体層中により多くのキャリアが誘起されるため、該薄膜トランジスタは高い駆動能力を有する。なお、半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であれば、上記効果を得るための薄膜トランジスタの構造は問わない。すなわち、チャネル部とソース・ドレイン電極との接続方法で分別すれば、トップコンタクト型およびボトムコンタクト型(ダブルゲート構造においては両者は同等)、コプレーナ型に適用できる。また、半導体層上面の処理方法で分別すれば、チャネルエッチ型およびチャネル保護型に適用できる。ところが、現在最も広く使用されている薄膜トランジスタのひとつである、チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタには本手法を適用して同効果を得ることはできない。その理由は以下に説明する通りである。チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタにおける半導体層の上側表面はドライエッチングによって削られて形成されたものであるため、エッチング起因のダメージ、例えば欠陥等が多く残存している。これらは後工程では取り除くことができない。このような状態においてトップゲート(片側)駆動を行うと、前記ダメージを有する膜厚範囲にチャネルが形成されるため、主に伝達特性におけるヒステリシスの増大、サブスレッショルド特性の悪化、ストレス耐性の低下などの特性劣化が引き起こされる。したがって、チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタは通常ボトムゲート駆動で使用され、トップゲート駆動を行うことはない。以上の理由から、チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタでダブルゲート駆動を行うと、半導体のバックチャネル側にもチャネルが形成されるため、前述の特性劣化の影響を受けてしまう。このため、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動の場合よりも特性は悪化してしまう。
【0023】
一方、我々が鋭意研究した結果、半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であれば、後述の工程を経ることによって上述のような特性劣化を抑制できることが明らかになった。前記工程は2つに大別される。それぞれは単独に行っても効果を奏するし、組み合わせて行っても効果を奏する。
工程の一は、チャネルエッチ型薄膜トランジスタの製造におけるソース・ドレイン電極形成のためのエッチング時に半導体層表層に形成された欠陥を多く含む層を、別工程のエッチングによって取り除くものである。前記別工程のエッチングは、半導体層に与えるダメージを小さくする観点から、ウェットエッチングを用いる。
【0024】
図8には半導体層に非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を用いた薄膜トランジスタにおける、移動度の半導体膜厚依存性を示すが、半導体膜厚が10nmでは移動度の劣化が見られた。したがって、半導体層のエッチング深さは、半導体層の厚さをdとした場合、1nm以上、(d−10)nm以下とする。1nmを下回るエッチングは制御性の観点から困難であるし、(d−10)nmを超えるエッチングは、上述のとおり、移動度の劣化が起こってしまう。
【0025】
また図9(a)に、半導体層のエッチングを行っていない薄膜トランジスタの伝達特性を、図9(b)には、半導体層を10nmエッチングした薄膜トランジスタの伝達特性を示す。それぞれ、トップゲート駆動時とボトムゲート駆動時の特性が記載されている。半導体層のエッチングを行っていない場合は、両者に大きな差があり、特にトップゲート駆動時に大きなヒステリシスが見られた(図9(a))。一方、半導体層を10nmエッチングした場合は、両者はほぼ同じ特性であり、図9(a)で見られたトップゲート駆動時の大きなヒステリシスは見られなかった。この実験事実に基づき、好ましくは、半導体層のエッチング深さは、10nm以上、(d−10)nm以下とする。なお、本明細書中にデータは示していないが、上述のとおり半導体層のウェットエッチング処理を施すことによって、伝達特性におけるサブスレッショルド特性の向上、ストレス耐性の向上が確認できている。よってエッチング深さを上述の範囲に収めることで、欠陥を多く含む層を含まず、かつ安定動作する薄膜トランジスタを得ることができる。
【0026】
一方の工程の一は、熱処理である。図10に非晶質In−Ga−Zn−O薄膜を用いたチャネルエッチ型薄膜トランジスタにおけるS値の熱処理温度依存性を示す。熱処理は薄膜トランジスタ完成後に行い、熱処理時間はいずれも1時間である。図中には、前記半導体層のウェットエッチング処理の有無で2系統の結果が重ね書きされている。エッチング処理なしの方に着目すると、200℃以上の熱処理を施すことで、S値の減少が確認できた。これは前述の、ソース・ドレイン電極形成のためのエッチング時に半導体層表層に形成された多くの欠陥に起因するS値の増大が熱処理によって抑制できることを示している。したがって、熱処理温度は200℃以上500℃以下とする。熱処理温度の上限を500℃としたのは、500℃以上の熱処理を施すと半導体層が結晶化して、デバイス特性の近距離均一性が悪化してしまうためである。また、同図から、250℃以上の熱処理を施すことで、前記半導体層のウェットエッチング処理を施した場合と同等のS値になることが分かる。この実験事実に基づき、好ましくは、熱処理温度は250℃以上500℃以下とする。なお、本明細書中にデータは示していないが、上述のとおり熱処理を施すことによって、伝達特性におけるヒステリシスの減少、ストレス耐性の向上が確認できている。上記熱処理は、半導体層上に絶縁層を形成する工程より後に行うことによって前記効果を奏する。
以上で説明したとおり、ソース・ドレイン電極形成のためのエッチング後のウェットエッチング処理や200℃以上の熱処理を含む後工程を実施する。かかる後工程を実施することで、チャネルエッチ型水素化非晶質シリコン薄膜トランジスタで見られる前述のような特性劣化は起こらないことが明らかになった。よって、本実施形態は、薄膜トランジスタのうち、半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体のものに適していると言える。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施例について、さらに詳細に説明する。
(実施例1)
図4(f)は、本発明の実施例1の薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。図4(f)に示すように、本実施例は、ボトムコンタクト型薄膜トランジスタの例である。図4の薄膜トランジスタは、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、基板1の上には、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、ソース電極4、ドレイン電極5、半導体層6、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8が設けられている。
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。まず、基板1の上に、厚さ100nmのMo薄膜を作製する。本実施例では、アルゴンガスの雰囲気中でDCマグネトロンスパッタ法により、Mo薄膜を形成する。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により加工して、第1のゲート電極2を形成する(図4(a))。
【0028】
次に、第1のゲート電極2の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を作製する。成膜条件は、基板温度を340℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paである。堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法によりパターニングし、第1のゲート絶縁層3を形成する(図4(b))。なお、1sccmは、1.69x10−4Pa・m3/secである。次に、第1のゲート絶縁層3の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ30nmのITO薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を室温、投入RFパワーを200W、アルゴンガス供給流量を100sccm、チャンバー圧力を0.2Paである。こうして作製したITO薄膜は非晶質である。次に、堆積したITO薄膜を、フォトリソグラフィ法とウェットエッチング法により加工する。次に加工したITO薄膜を270℃で20分間熱処理することにより、多結晶ITO薄膜とし、ソース電極4及びドレイン電極5を形成する(図4(c))。
【0029】
次に、ゲート絶縁層4、ドレイン電極5及びソース電極6の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ40nmの酸化物半導体In−Ga−Zn−O薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を室温、投入パワーを200W、アルゴンと酸素の混合ガスを25sccm、チャンバー圧力を0.5Paである。こうして作製したIn−Ga−Zn−O薄膜は非晶質であり、In:Ga:Zn:Oの組成比は粗1:1:1:4である。次に、堆積したIn−Ga−Zn−O薄膜を、フォトリソグラフィ法と、塩酸を用いたウェットエッチング法によりパターニングし、半導体層6を形成する(図4(d))。
【0030】
次に、半導体層4の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を作製する。成膜条件は、基板温度を250℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paである。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法によりパターニングし、第2のゲート絶縁層7を形成する。この際、第1のゲート絶縁層3を一括でエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図4(e))。
【0031】
次に、第2のゲート絶縁層7の上に厚さ200nmのMo薄膜を作製する。成膜条件は第1のゲート電極作製時と同じである。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により微細加工して、第2のゲート電極8を形成する(図4(f))。
上記のように作製された薄膜トランジスタは、高い遮光能力と高い駆動能力を兼ね備えた特性を示す。
【0032】
駆動能力は伝達特性で評価した。ダブルゲート構造におけるオン電流は、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動のものと比較して約2.5倍であった。
遮光能力は、薄膜トランジスタにUV光を照射する前後で伝達特性を測定することで評価した。薄膜トランジスタにUV光を照射することで起こり得る変化は、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大である。本実施例の薄膜トランジスタでは、立ち上がり電圧のシフトは1V未満で、オフ電流は10−10A未満であった。
【0033】
(実施例2)
図7(h)は、本発明の実施例2の表示装置の構成を示す断面図である。図7(h)に示すように、本実施例における表示装置は、実施例1に示した薄膜トランジスタと有機EL素子から構成されるものである。図7(h)の薄膜トランジスタ100は、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、薄膜トランジスタ100は、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、ソース電極4、ドレイン電極5、半導体層6、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8から構成される。また図7(h)の有機EL素子200は、第1のゲート絶縁層3の上に設けられる。さらに詳しくは、有機EL素子200は、透明アノード電極9、正孔注入層10、有機発光層11、電子注入層12、カソード電極13から構成される。さらに、素子全体を被うようにガラス封止層14を設ける。
【0034】
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。まず、基板1の上に、厚さ100nmのMo薄膜を形成する。本実施例では、アルゴンガスの雰囲気中でDCマグネトロンスパッタ法により、Mo薄膜を堆積する。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により加工して、第1のゲート電極2を形成する(図5(a))。
【0035】
次に、第1のゲート電極2の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を340℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paとして堆積する。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法によりパターニングし、第1のゲート絶縁層3を形成する(図5(b))。
【0036】
次に、第1のゲート絶縁層3の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ30nmのITO薄膜を形成する。
成膜条件は、基板温度を室温、投入RFパワーを200W、アルゴンガス供給流量を100sccm、チャンバー圧力を0.2Paとする。こうして堆積したITO薄膜は非晶質である。次に、堆積したITO薄膜を、フォトリソグラフィ法とウェットエッチング法により加工する。次に加工したITO薄膜を270度で20分間熱処理することにより、多結晶ITO薄膜とし、ソース電極4、ドレイン電極5、および透明アノード電極9を形成する(図5(c))。
【0037】
次に、ゲート絶縁層4、ドレイン電極5及びソース電極6の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ40nmの酸化物半導体In−Ga−Zn−O薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を室温、投入パワーを200W、アルゴンと酸素の混合ガスを25sccm、チャンバー圧力を0.5Paとする。こうして堆積したIn−Ga−Zn−O薄膜は非晶質であり、In:Ga:Zn:Oの組成比は粗1:1:1:4である。次に、堆積したIn−Ga−Zn−O薄膜を、フォトリソグラフィ法と、塩酸を用いたウェットエッチング法により加工し、半導体層6を形成する(図5(d))
【0038】
次に、半導体層4の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を250℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paとする。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法により加工し、第2のゲート絶縁層7を形成する。この際、第1のゲート絶縁層3を一括してエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図6(e))。
【0039】
次に、第2のゲート絶縁層7の上に厚さ200nmのMo薄膜を形成する。成膜条件は第1のゲート電極作製時と同じとする。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により加工して、第2のゲート電極8を形成する(図6(f))。
次に、第2のゲート電極8の上に、プラズマCVD法により厚さ200nmのSiO2薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を250℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を24sccm、N2Oを600sccm、チャンバー圧力を150Paとする。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法により加工し、保護層15を形成する(図6(g))。
【0040】
次に、素子の上方より紫外線を照射し、透明アノード電極9の表面を洗浄する。次に、露出させた透明アノード電極9の上に、有機EL層を形成する。有機EL層は、正孔注入層10、有機発光層11、電子注入層12をこの順に積層して形成する。上記のように形成された有機EL層の上に、カソード電極13を形成する。最後に、ガラス封止層14を用いて素子を封止する(図7(h))。
上記のように、工程を増やすことなく作製された表示素子における薄膜トランジスタ100は、工程中に照射される紫外線や、有機EL素子からの迷光、および外光に対して高い遮光能力を有する。
【0041】
駆動能力と遮光能力の評価方法と結果は実施例1と同じあった。有機EL素子からの迷光と外光は、実験に使用したUV光と比べると薄膜トランジスタに及ぼす影響が小さいと考えられる。したがって、UV光照射に対する遮光能力を十分に有していれば、これらに対しても十分な遮光能力を有していると判断した。UV光照射によって起こりうる、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大はいずれも有機EL素子を駆動するためにはある閾値以下に抑える必要があるが、今回の実験結果はそれを満たすものと考える。
【0042】
(実施例3)
図12(f)は、本発明の実施例3の薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。図中には、薄膜トランジスタのチャネル長方向に垂直な断面(左)と、チャネル幅方向に垂直な断面(右)を示した。図12(f)に示すように、本実施例は、チャネルエッチ型薄膜トランジスタの例である。なお、本実施例では、側壁遮光層が半導体層の両側に存在する形態について説明するが、同様の手順により、側壁遮光層が半導体層の片側に存在する形態も作製することができる。図11、図12の薄膜トランジスタは、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、基板1の上には、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、半導体層6、ソース電極4、ドレイン電極5、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8が設けられている。
【0043】
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。まず、基板1の上に、第1のゲート電極2を形成する(図11(a))。第1のゲート電極2の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第1のゲート電極2の上に、第1のゲート絶縁層3を形成する(図11(b))。第1のゲート絶縁層3の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第1のゲート絶縁層3の上に、半導体層6を形成する(図11(c))。半導体層6の作製条件は実施例1と同様である。
【0044】
次に、第1のゲート絶縁層3および半導体層6の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、厚さ100nmのMo薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を室温、投入パワーを400W、アルゴンガス供給流量を100sccm、チャンバー圧力を0.5Paである。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により加工することで、ソース電極4及びドレイン電極5を形成する(図12(d))。この際、ドライエッチングにより半導体層6が5nmエッチングされた。
【0045】
次に、半導体層6、ソース電極4及びドレイン電極5の上に、第2のゲート絶縁層7を形成する。この際、第1のゲート絶縁層3を一括でエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図12(e))。第2のゲート絶縁層7の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第2のゲート絶縁層7の上に第2のゲート電極8を形成する(図12(f))。第2のゲート電極8の作製条件は実施例1と同様である。
【0046】
上記のように作製された薄膜トランジスタは、高い遮光能力と高い駆動能力を兼ね備えた特性を示す。
駆動能力は伝達特性で評価した。ダブルゲート構造におけるオン電流は、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動のものと比較して約2.5倍であった。
遮光能力は、薄膜トランジスタにUV光を照射する前後で伝達特性を測定することで評価した。薄膜トランジスタにUV光を照射することで起こり得る変化は、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大である。本実施例の薄膜トランジスタでは、立ち上がり電圧のシフトは1V未満で、オフ電流は10−10A未満であった。
【0047】
(実施例4)
本実施例では、チャネルエッチ型薄膜トランジスタに対し、熱処理を行った例を示す。薄膜トランジスタは、実施例3と同様の手順で作製する。薄膜トランジスタ完成後、ホットプレートにより、それぞれ、200℃、250℃、300℃の熱処理を1時間実施した。図10に示すように、200℃以上の熱処理を施すことによって、S値の減少が確認できた。これは、熱処理によって半導体層上層に存在するプロセス起因のダメージが回復したことによる。なお、遮光能力及び駆動能力は、熱処理の有無で大きな変化はなかった。本実施例では、薄膜トランジスタ完成後に熱処理を実施した場合について記述しているが、半導体層上に絶縁層を堆積する工程以降であれば、いずれの段階で熱処理を行っても、同様の効果が得られることを確認している。
【0048】
(実施例5)
本実施例では、チャネルエッチ型薄膜トランジスタに対し、ソース電極及びドレイン電極形成後のウェットエッチング処理を行った例を示す。薄膜トランジスタは、該ウェットエッチング処理を除いては、実施例3と同様の手順で作製する。該ウェットエッチング処理は、実施例1において半導体層をウェットエッチした塩酸を4倍希釈したものをエッチャントとして用いて行った。該ウェットエッチングによってエッチングした半導体層の厚さは10nmであった。図10に示すように、該ウェットエッチングを施すことによって、未熱処理であっても、ウェットエッチング未処理のものと比べてS値が減少した。これは、半導体層上層に存在するプロセス起因のダメージを含む層がウェットエッチングにより除去できたことによる。なお、遮光能力及び駆動能力は、該ウェットエッチング処理の有無で大きな変化はなかった。また、図10に示すように、該ウェットエッチング処理を施した試料に関しても、薄膜トランジスタ完成後に200℃以上の熱処理を実施することで、さらにS値が減少した。したがって、該ウェットエッチング処理に加えて、実施例4で説明した熱処理を実施することも有効である。
【0049】
(実施例6)
図14(f)は、本発明の実施例6の薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。図中には、薄膜トランジスタのチャネル長方向に垂直な断面(左)と、チャネル幅方向に追直な断面(右)を示した。図14(f)に示すように、本実施例は、コプレーナ型薄膜トランジスタの例である。なお、本実施例では、側壁遮光層が半導体層の両側に存在する形態について説明するが、同様の手順により、側壁遮光層が半導体層の片側に存在する形態も作製することができる。図13、14の薄膜トランジスタは、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、基板1の上には、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、半導体層6、ソース電極4、ドレイン電極5、ストッパ層10、保護層11、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8が設けられている。
【0050】
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。
まず、基板1の上に、第1のゲート電極2を形成する(図13(a))。第1のゲート電極2の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第1のゲート電極2に、第1のゲート絶縁層3を形成する(図13(b))。第1のゲート絶縁層3の作製条件は実施例1と同様である。
【0051】
次に、第1のゲート絶縁層3の上に、半導体層6を形成する(図13(c))。半導体層6の作製条件は実施例1と同様である。
次に、半導体層6の上に、プラズマCVD法により厚さ300nmのSiO2薄膜を形成する。成膜条件は、基板温度を250℃、投入RFパワーを360W、プロセスガスおよび流量は、SiH4を16sccm、N2Oを400sccm、チャンバー圧力を150Paとする。次に、堆積したSiO2薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ドライエッチング法により加工し、ストッパ層10を形成する(図14(d))。
【0052】
次に、ストッパ層10及び半導体層6の上に、プラズマCVD法により、厚さ300nmのSiON薄膜を作製する。このプラズマCVD法によるSiONの形成時の基板温度は250℃とする。また、プロセスガスには、SiH4、NH3、N2Oを用いる。ガス流量比はSiH4:NH3:N2O=2:3:50とする。また、投入RFパワー密度と圧力はそれぞれ0.9W/cm2、150Paとする。この際、半導体層6のうち、SiON薄膜と接している領域は、SiON薄膜の成膜雰囲気と、その薄膜中に含まれる水素の影響により、著しく低抵抗化する。このように低抵抗化した半導体層6の領域を、ドレイン電極5及びソース電極4として使用する(図14(e))。
次に、SiON薄膜を、フォトリソグラフィ法と、ウェットエッチング法によりパターニングし、保護層11を形成する。この際、第1のゲート絶縁層3を一括でエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図14(e))。
【0053】
次に、保護層11の上に厚さ100nmのMo薄膜を作製する。成膜条件は第1のゲート電極作製時と同じである。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とウェットエッチング法により微細加工して、第2のゲート電極8を形成する(図14(f))。このとき、第2のゲート電極8と半導体層6に挟まれた、ストッパ層10と保護層11が第2のゲート絶縁層7として機能する。
図14(f)の右側の図に示すように、第2のゲート電極8が第1のゲート絶縁層3及び第2のゲート絶縁層7を貫通して第1のゲート電極2と電気的に接続する領域の、薄膜トランジスタのチャネル長方向への正射影の幅Wが薄膜トランジスタのチャネル長L(図14(e)の右側の図)よりも大きい。
上記のように作製された薄膜トランジスタは、高い遮光能力と高い駆動能力を兼ね備えた特性を示す。
【0054】
駆動能力は伝達特性で評価した。ダブルゲート構造におけるオン電流は、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動のものと比較して約2.5倍であった。
遮光能力は、薄膜トランジスタにUV光を照射する前後で伝達特性を測定することで評価した。薄膜トランジスタにUV光を照射することで起こり得る変化は、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大である。本実施例の薄膜トランジスタでは、立ち上がり電圧のシフトは1V未満で、オフ電流は10−10A未満であった。
【0055】
(実施例7)
図16(g)は、本発明の実施例7の薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。図中には、薄膜トランジスタのチャネル長方向に垂直な断面(左)と、チャネル幅方向に追直な断面(右)を示した。図16(g)に示すように、本実施例は、チャネル保護型薄膜トランジスタの例である。なお、本実施例では、側壁遮光層が半導体層の両側に存在する形態について説明するが、同様の手順により、側壁遮光層が半導体層の片側に存在する形態も作製することができる。図15、16の薄膜トランジスタは、基板1の上に設けられる。さらに詳しくは、基板1の上には、第1のゲート電極2、第1のゲート絶縁層3、半導体層6、ソース電極4、ドレイン電極5、ストッパ層10、保護層11、第2のゲート絶縁層7、第2のゲート電極8が設けられている。
【0056】
基板1には、ガラス基板(Corning社製1737)を用いる。ガラス基板の厚さは0.5mmである。
まず、基板1の上に、第1のゲート電極2を形成する(図15(a))。第1のゲート電極2の作製条件は実施例1と同様である。
次に、第1のゲート電極2に、第1のゲート絶縁層3を形成する(図15(b))。第1のゲート絶縁層3の作製条件は実施例1と同様である。
【0057】
次に、第1のゲート絶縁層3の上に、半導体層6を形成する(図15(c))。半導体層6の作製条件は実施例1と同様である。
次に、半導体層6の上に、ストッパ層10を形成する(図15(d))。ストッパ層10の作製条件は実施例1と同様である。
次に、ストッパ層10及び半導体層6の上に、100nmのMo薄膜を作製する。成膜条件は第1のゲート電極作製時と同じである。次に、堆積したMo薄膜を、フォトリソグラフィ法とドライエッチング法により微細加工して、ドレイン電極5及びソース電極4を形成する(図16(e))。
【0058】
次に、ストッパ層10、ドレイン電極5及びソース電極4の上に保護層11を形成する。保護層11の作製条件は実施例6と同様である。この際、第1のゲート絶縁層3を一括でエッチングすることによって、第1のゲート電極2を露出させる(図16(f))。
次に、保護層11の上に第2のゲート電極8を形成する(図16(g))。このとき、第2のゲート電極8と半導体層6に挟まれた、ストッパ層10と保護層11が第2のゲート絶縁層7として機能する。
【0059】
上記のように作製された薄膜トランジスタは、高い遮光能力と高い駆動能力を兼ね備えた特性を示す。
駆動能力は伝達特性で評価した。ダブルゲート構造におけるオン電流は、同様の素子構成から成るボトムゲート(片側)駆動のものと比較して約2.5倍であった。
遮光能力は、薄膜トランジスタにUV光を照射する前後で伝達特性を測定することで評価した。薄膜トランジスタにUV光を照射することで起こり得る変化は、立ち上がり電圧のシフトとオフ電流の増大である。本実施例の薄膜トランジスタでは、立ち上がり電圧のシフトは1V未満で、オフ電流は10−10A未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの駆動用の電界効果トランジスタに利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 基板
2 第1のゲート電極
3 第1のゲート絶縁層
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 半導体層
7 第2のゲート絶縁層
8 第2のゲート電極
9 コンタクト電極
10 ストッパ層
11 保護層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のゲート電極と、該第1のゲート電極を覆う第1のゲート絶縁層と、該第1のゲート絶縁層の上の半導体層と、該半導体層の上の第2のゲート絶縁層と、該第2のゲート絶縁層の上の第2のゲート電極と、前記半導体層に電気的に接続されたドレイン電極及びソース電極を有する薄膜トランジスタであって、
前記半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であり、
前記第1のゲート電極が下方から前記半導体層への光の入射を遮り、前記第2のゲート電極が上方から前記半導体層への光の入射を遮り、
前記第2のゲート電極は前記第1のゲート絶縁層及び前記第2のゲート絶縁層を貫通して前記第1のゲート電極と電気的に接続され、少なくとも一方の側方から前記半導体層に入射する光を遮ることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記半導体層のバンドギャップが3eV以上であることを特徴とする請求項1記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薄膜トランジスタであって、該第2のゲート電極が前記第1のゲート絶縁層及び前記第2のゲート絶縁層を貫通して前記第1のゲート電極と電気的に接続する領域の、薄膜トランジスタのチャネル長方向への正射影の幅が該薄膜トランジスタのチャネル長よりも大きいことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタであって、ドレイン電極及びソース電極が半導体層の上面に接して存在し、ドレイン電極及びソース電極下部の半導体層の膜厚をdとした場合、チャネルとして機能する領域の半導体層の膜厚が、dよりも1nm以上、(d−10)nm以下の範囲で薄いことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタを用いた表示装置。
【請求項6】
基板上に第1のゲート電極を形成する第1の工程と、該第1のゲート電極上に第1のゲート絶縁層を形成する第2の工程と、該第1のゲート絶縁層上に、Zn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体からなる半導体層を形成する第3の工程と、該半導体層上にソース電極およびドレイン電極を形成する第4の工程と、該半導体層、ソース電極及びドレイン電極上に第2のゲート絶縁層を形成する第5の工程と、該第2のゲート絶縁層上に第2のゲート電極を形成し、第1のゲート電極と第2のゲート電極を電気的に接続する第6の工程と、を少なくとも有する薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記半導体層の上面をウェットエッチングする工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記ウェットエッチングにより半導体層上面をエッチングする深さは、半導体層の厚さをdとした場合、1nm以上、(d−10)nm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記第5の工程に含まれる絶縁膜の堆積より後に200℃以上の熱処理を施すことを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項1】
第1のゲート電極と、該第1のゲート電極を覆う第1のゲート絶縁層と、該第1のゲート絶縁層の上の半導体層と、該半導体層の上の第2のゲート絶縁層と、該第2のゲート絶縁層の上の第2のゲート電極と、前記半導体層に電気的に接続されたドレイン電極及びソース電極を有する薄膜トランジスタであって、
前記半導体層がZn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体であり、
前記第1のゲート電極が下方から前記半導体層への光の入射を遮り、前記第2のゲート電極が上方から前記半導体層への光の入射を遮り、
前記第2のゲート電極は前記第1のゲート絶縁層及び前記第2のゲート絶縁層を貫通して前記第1のゲート電極と電気的に接続され、少なくとも一方の側方から前記半導体層に入射する光を遮ることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記半導体層のバンドギャップが3eV以上であることを特徴とする請求項1記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薄膜トランジスタであって、該第2のゲート電極が前記第1のゲート絶縁層及び前記第2のゲート絶縁層を貫通して前記第1のゲート電極と電気的に接続する領域の、薄膜トランジスタのチャネル長方向への正射影の幅が該薄膜トランジスタのチャネル長よりも大きいことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタであって、ドレイン電極及びソース電極が半導体層の上面に接して存在し、ドレイン電極及びソース電極下部の半導体層の膜厚をdとした場合、チャネルとして機能する領域の半導体層の膜厚が、dよりも1nm以上、(d−10)nm以下の範囲で薄いことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタを用いた表示装置。
【請求項6】
基板上に第1のゲート電極を形成する第1の工程と、該第1のゲート電極上に第1のゲート絶縁層を形成する第2の工程と、該第1のゲート絶縁層上に、Zn、Ga、In、Snのうち少なくとも1種以上を含む非晶質酸化物半導体からなる半導体層を形成する第3の工程と、該半導体層上にソース電極およびドレイン電極を形成する第4の工程と、該半導体層、ソース電極及びドレイン電極上に第2のゲート絶縁層を形成する第5の工程と、該第2のゲート絶縁層上に第2のゲート電極を形成し、第1のゲート電極と第2のゲート電極を電気的に接続する第6の工程と、を少なくとも有する薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記半導体層の上面をウェットエッチングする工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記ウェットエッチングにより半導体層上面をエッチングする深さは、半導体層の厚さをdとした場合、1nm以上、(d−10)nm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記第5の工程に含まれる絶縁膜の堆積より後に200℃以上の熱処理を施すことを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−71476(P2011−71476A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134341(P2010−134341)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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