説明

複数の導電性領域を有する構造体、及びその製造方法

【課題】絶縁のために電圧等を印加する必要が無く、機械的強度の低下を抑えることができ、寄生容量を抑制可能な、互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を有する構造体及びその製法を提供する。
【解決手段】互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域104を有する構造体は、導電性領域104の上面側に、可動に支持された可動子301が設けられ、可動子301は導電性領域104に対向する電極を有する。導電性領域104の下面を介して電気信号が授受可能に構成され、複数の導電性領域104間が、連続した酸化領域によって絶縁され、酸化領域は、複数の貫通孔103もしくは溝が形成された材料の酸化物102から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的に絶縁された複数の領域を有するマイクロ構造体などである複数の導電性領域を有する構造体、その製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電力によりメンブレン薄膜を振動させるアクチュエータや、外力によるメンブレンの変位を静電容量の変化により検出するセンサが提案されている。こうしたメンブレン薄膜は、半導体加工技術を応用したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる技術により、一括して作製することができる。
【0003】
これらのアクチュエータやセンサの1つの用途として、超音波トランスデューサがある。これは、メンブレンを振動させることで超音波を発信するアクチュエータの機能と、対象物に反射して戻ってきた超音波をメンブレンの変位変化として受信するセンサの機能を一体化したものである。超音波トランスデューサは、この送受信できる素子をアレイ状に配置したもので構成される。
【0004】
アレイ状に配置した素子内の電極と、駆動・検出のための夫々の回路とに配線を接続するために、基板を貫通した配線が行なわれる。非特許文献1では、素子内の電極と基板間に発生する容量を低減する為に、電極下部に形成したPN接合に逆バイアス電圧を印加している。また、貫通配線部と基板間に発生する容量を低減する為に、配線部にMIS構造を形成している(同文献のFig.3参照)。尚、素子内の電極と基板間に発生する容量と、貫通配線部と基板間に発生する容量を、以下寄生容量と記載する。
【0005】
非特許文献2では、メンブレンを形成している基板自体を素子毎に空間的に分離することで、基板そのものを電極と貫通配線として用いており、それにより寄生容量を低減させている(非特許文献2のFig.1参照)。
【非特許文献1】C.H, Cheng, A.S. Ergun, and B.T.Khuri-Yakub, "Electrical through-wafer interconnects with sub-picofaradparasitic capacitance [MEMS packaging]," in Microelectromechanical SystemsConference, pp.18-21, 2001, 2001.
【非特許文献2】X. Zhuang, A. S. Ergun, Y. Huang, I. O.Wygant, O. Oralkan, and B. T. Khuri-Yakub, "Integration of trench-isolatedthrough-wafer interconnects with 2D capacitive micromachined ultrasonictransducer arrays," Sensors and Actuators A: Physical, vol. 138,pp.221-229, 20 July 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
寄生容量が存在すると、アクチュエータ駆動時の消費電力が大きくなったり、センサとしての検出性能が劣化したりする原因となる。そのため、非特許文献1では、PN接合の逆バイアスなどを用いて、寄生容量の低減を行なっているが、比較的高い電圧を印加する必要があり、高抵抗基板を用いる必要があるため、基板の仕様に一定の制約を与えることになる。一方、非特許文献2では、基板を素子毎に空隙により分割しているので、機械強度があまり高くない点が指摘される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を有する本発明の構造体は次の特徴を有する。前記導電性領域の上面側に、可動に支持された可動子が設けられ、該可動子は前記導電性領域に対向する電極を有し、前記導電性領域の下面を介して電気信号が授受可能に構成される。更に、前記複数の導電性領域間が、連続した酸化領域によって絶縁され、前記酸化領域は、複数の貫通孔もしくは溝が形成された材料の酸化物から成る。
【0008】
また、上記課題に鑑み、本発明の超音波トランスデューサは上記の構造体を有し、前記可動子がメンブレンであり、前記導電性領域と前記メンブレンとの間に密閉されたギャップが形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、上記課題に鑑み、本発明の物理量センサは上記の構造体を有し、前記導電性領域の下面から、該導電性領域と前記電極との間の静電容量の変化に係る電気信号を取り出し可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記課題に鑑み、本発明の構造体の製造方法は、厚さ方向に電気的配線された基板の形態であって、互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を有する構造体の製造方法であって、次の工程を含む。第1の工程では、互いに間隔を置いて配置される複数の貫通孔もしくは溝を前記基板の母材に形成する。第2の工程では、少なくとも前記複数の貫通孔もしくは溝の内部表面の前記母材に熱酸化を行って、前記複数の貫通孔もしくは溝を含む連続した酸化領域を形成し、前記互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を前記母材に形成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電性領域の下面を介して電気信号が授受可能で、複数の導電性領域間が、上記の如き酸化領域によって絶縁される。従って、絶縁のために電圧等を印加する必要が無く、機械的強度の低下を抑えることができ、上記寄生容量を抑制可能なマイクロ構造体などの構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の基本的な実施形態は、互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域ないし貫通電極を有する構造体であって、導電性領域の上面側に、可動に支持されたメンブレンや揺動体などである可動子が設けられ、可動子は導電性領域に対向する電極を有する。更に、可動子が存在する上面側とは反対側の導電性領域の下面を介して電気信号が授受可能に構成され、複数の導電性領域間が、連続した酸化領域によって絶縁され、酸化領域は、複数の貫通孔もしくは溝が形成された材料の酸化物から成る。前記導電性領域と前記可動子の組を複数設けて、互いに電気的に絶縁された複数の素子を含むアレイ型の構造体とすることも容易にできる。可動子をメンブレンとし、導電性領域とメンブレンとの間に密閉されたギャップを形成することでアレイ型超音波トランスデューサなどを構成することができる。また、導電性領域の下面から、該導電性領域と電極との間の静電容量の変化に係る電気信号を取り出し可能に構成することで加速度センサなどの物理量センサを構成することができる。
【0013】
厚さ方向に電気的配線された基板の形態であって互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を有する上述した様な構造体は次の様な製造方法で作製することができる。この製造方法では、第1の工程で、互いに間隔を置いて配置される複数の貫通孔もしくは溝を前記基板の母材に形成する。第2の工程で、少なくとも複数の貫通孔もしくは溝の内部表面の母材に熱酸化を行って、複数の貫通孔もしくは溝を含む連続した酸化領域を形成し、互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を母材に形成する。更に、少なくとも1つの導電性領域の上面側に、可動に支持された可動子を設ける工程を含んでもよい。
【0014】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1を用いて、第1の実施形態を説明する。図1は、第1の実施形態に係る構造体の複数の導電性領域すなわち貫通配線の斜視図である。図1において、101は基板、102は熱絶縁膜(酸化物)、103は貫通孔、104は貫通配線(導電性領域)である。
【0016】
基板101内の各貫通配線104間は、貫通孔103を有する熱絶縁膜102により電気的に絶縁されている。基板101には、低抵抗基板が用いられており、夫々に電気的に絶縁された基板の複数の領域自体を基板の厚さ方向への貫通配線104として用いている。
【0017】
図2に、貫通孔103を有した熱酸化膜102(すなわち、複数の貫通孔もしくは溝を含む連続した酸化領域)の一部を拡大した図を示す。図2(a)は基板上面図、図2(b)は直線A1-A2での基板の断面図、図2-1(c)は直線B1-B2での基板の断面図である。図2において、111は第1の領域、112は第2の領域である。第1の領域111と第2の領域112は、熱酸化膜102の位置により種々の領域となる。Hは、隣接する貫通孔103間の熱酸化膜102の部分の厚さを示す。
【0018】
図2の構成において、熱酸化膜102は、第1の領域111と第2の領域112を分離するように、連続して形成されている。そのため、第1の領域111と第2の領域112間を、電気的に絶縁することができる。ここで、熱酸化膜102が、複数の貫通孔103を有していることにより、第1の領域111と第2の領域112間を接続する絶縁材料(熱酸化膜)の体積ないし厚さを、機械的強度を必要とする最小限に留めることができる。それにより、貫通孔を有さない絶縁膜を配置した構成に比べて、熱酸化膜の応力の影響による可動子や基板の変形がより生じにくい構成の構造体を実現することができる。
【0019】
次に、本実施形態に係る貫通配線の製造方法について説明する。この方法は、間隔を置いて複数の貫通孔を基板の母材に形成する工程と、少なくとも前記複数の貫通孔の内部表面の母材に熱酸化を行って、複数の貫通孔を含む連続した酸化領域を形成し、互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を母材に形成する工程を含む。図3-1乃至図3-5は、本実施形態に係る構造体の製造工程を説明するための断面図である。各図において、(a)は図1の破線Pに沿った部分の断面を示し、(b) は図1の破線Qに沿った部分の断面を示す。ただし、見易くするために、(a)では、貫通孔の数は少なくしてあり、(b)では、導電性領域の数は少なくしてある。図3-1乃至図3-5において、201は、貫通配線が形成される母料であるシリコン基板、202はレジスト、203はマスク材料、204は熱酸化膜(酸化領域)、210は酸化領域の貫通孔である。
【0020】
まず、図3-1で示す様に、シリコン基板201の片面上にマスク材料203を成膜し、レジスト202を塗布後、任意パターンでレジスト202のパターニングを行う。そして、その残ったレジストパターンを用いて、マスク材料203を選択的にエッチング除去する。このマスク材料を除去した部分が、次のドライエッチング工程でシリコンの貫通孔210を形成する部分となる。具体的には、酸化領域の貫通孔210の部分と、構造体(可動子や梁、可動電極、固定電極、支持用の基板など)として必要でない部分の除去を、同時に行う。ここで、マスク材料203には、Al(アルミニウム)を始めとする金属や、窒化シリコン、酸化シリコン、ポリシリコンなどの材料を用いることができる。但し、マスク材料はこれに限るものではない。次の異方性エッチング工程において、マスク材料として耐えられるものであれば、どの様な材料でも用いられる。また、レジスト203のパターンは、除去してもよいし、次のドライエッチング工程のマスクとして用いてもよい。この場合、別のマスク材料の成膜とエッチングは、必ずしも必要ではなくなる。
【0021】
次に、図3-2で示す様に、マスク203を形成した基板面から、マスクのない部分より異方性エッチングを行い、基板201に貫通孔210を形成する。ここで、異方性エッチングには、SiDeep-RIE(シリコン深堀反応性イオンエッチング)を始めとするドライエッチングを用いることができる。
【0022】
異方性エッチング後、図3-3で示す様に、マスク材料203及びレジスト202などを除去し、シリコン基板201の表面の洗浄を行う。
【0023】
それから、図3-4で示す様に、シリコン表面から熱酸化を行う。熱酸化工程では、1000℃以上の温度の酸素雰囲気中にシリコン201を長時間置くことで、露出しているシリコンに酸化シリコンが成長する。この酸化シリコンは、シリコン表面上に成長するだけでなく、シリコン表面から内部にも酸化領域204を広げて、成長する(前者と後者の厚さの比は、約55:45となる)。
【0024】
ここで、熱酸化の過程について説明する。図4は、熱酸化の進み方を説明する基板上面図である。図4において、111は第1の領域、112は第2の領域、121はシリコン表面上の熱酸化膜、122はシリコン内部に形成された熱酸化膜である。まず、酸化前の状態を、図4(a)に示す。この時、貫通孔103の間は全てシリコン(幅X)であるので、第1の領域111と第2の領域112とは、絶縁されていない状態である。
【0025】
次に、所定時間の半分、熱酸化を行った状態を、図4(b)に示す。この時は、貫通孔103の表面上に熱酸化膜121が成長すると共に、シリコン内部にも熱酸化膜122が成長しており、隣同士の貫通孔103の間に存在するシリコンの幅Xは狭くなっている。そのため、第1の領域111と第2の領域112とは、少し絶縁がされた状態である。
【0026】
最後に、所定時間、熱酸化を行った状態を、図4(c)に示す。この時は、隣同士の貫通孔103からシリコン内部に成長した熱酸化膜122が接触して、一体化している。そのため、第1の領域111と第2の領域112とは、絶縁された状態である。
【0027】
熱酸化時間と熱酸化膜204の形成される膜厚は、対数関数の関係にある。つまり、十分な酸化時間を取ると、熱酸化膜204の膜厚は或る値に飽和していく(1μm〜数μm)。そのため、熱酸化膜厚の制御は、高精度に行うことができる。また、貫通孔103間のシリコンを完全に酸化させて導電性の両領域間の電気的な絶縁を確立するように、実際の製造工程の実施時間を考慮すると、貫通孔103間の最も近接している距離(図4(a)の幅X)は、2μm以下がより望ましいと言える。
【0028】
一方、シリコンの異方性エッチングでは、基板の厚さ(すなわち、貫通孔の深さ)は、100μm以下であることがより望ましい。つまり、基板の厚さが100μm以上であると、基板面に対するエッチングの傾きにより、熱酸化膜とシリコンとの形状の非対称性(基板の厚さの中間部における面に関する非対称性)に起因する熱応力が無視できない変形をもたらす可能性がある。
【0029】
以上の様に、これらの工程により、電気的に絶縁された複数の導電性領域を形成することができる。つまり、複数の貫通孔103を近接して配置した後、熱酸化を行うだけで、電気的に絶縁された複数の導電性領域を容易に形成することができる。
【0030】
熱酸化膜204は、狭いギャップでも酸素が供給されていれば、形成することができる。そのため、電気的に絶縁された領域間の間隔を狭くすることができ、酸化領域の絶縁材料(熱酸化膜)の応力の影響を最小限に抑えることができる。加えて、本実施形態では、複数の貫通孔103間の材料が熱酸化されてしまうことで絶縁を実現しており、貫通孔を絶縁材料で埋め込んでしまう必要がない。よって、それに伴う内部応力等の問題の発生を抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態では、単一のシリコン基板のみで作製することができるので、SOI(Silicon on Insulator)基板などの特殊な基板を必ずしも用いる必要がない。
【0032】
最後に、図3-4の工程の後、図3-5で示す様に、基板両面からのドライエッチングなどを用いて、シリコン基板201表面上のシリコン酸化膜を除去してもよい。これにより、基板上下面に成膜した熱酸化膜が除去されるので、熱酸化膜による応力を更に低減することができる。尚、図3-5(b)に示す熱酸化膜204は、機能上必要とされるものではなく製造過程で不可避的に形成されるものに過ぎないが、必要に応じて電気的な接続を取るために除去する部分以外は、そのままにしておいても支障は無い。
【0033】
また、予め基板表面に窒化膜のような熱酸化工程に耐えうる材料を形成しておいて、貫通孔をドライエッチングするパターンと同じ形状にマスキングしてもよい。この基板を熱酸化した後、予め形成していた材料を除去することで、形成した酸化膜だけをより選択的に除去することができる。また、熱酸化による基板への応力を、より小さくすることができる。
【0034】
貫通孔103はその幅が小さい場合、最終的に貫通孔103が熱酸化膜121で殆ど埋められてしまうこともあり得るが、本発明における複数の貫通孔もしくは溝を含む連続した酸化領域は、こうした形態のものも含む。ただし、内部応力等の問題の発生の抑制のためには、酸化領域204の酸化物の量は、絶縁の機能を果たす限り、なるべく少ない方が良いので、通常は貫通孔103の幅は、酸化膜の厚さより数倍以上大きいものが用いられる。
【0035】
図5は、本実施形態の貫通孔の断面形状や配置を説明するための図である。貫通孔の形状は、上記第1の実施形態で記載した形状に限るものではない。円((a)の例)、楕円、長方形((b)の例)、三角形((c)の例)、正方形、平行四辺形((d)の例)、その他の多角形((e)の例であり、ここでは八角形を示す)などを用いることができる。図5(c)の例では、孔間の間隙の材料の幅をほぼ一定にするために三角形孔の上下を交互に逆転している。図5(f)の例で示す様に、異なる形状の貫通孔を組み合わせて配列してもよい(ここでは、向きを適当に変化させつつ三角形と平行四辺形の孔を交互に配列している)。また、貫通孔の配置は、直線状に並べてもよいし、曲線状、階段状等に並べてもよい。また、図5(g)の例で示す様に、貫通孔の列を複数にして夫々の列の貫通孔間の間隙の位置をずらして並べてもよい(すなわち、貫通孔を千鳥足状に互い違いに並べてもよい)。勿論、これらの例の何れにおいても、孔間の間隙の材料の幅は、両側の孔の内面から材料の中間点まで酸化工程で確実に酸化されて絶縁部となる様に設定される必要がある。
【0036】
場合に応じて適宜選択してこれらの孔の形態を用いることで、熱酸化膜の応力の影響を減らし、且つ絶縁部での機械強度を良好に保ったマイクロ構造体等の構造体を提供することができる。
【0037】
本実施形態によれば、貫通電極として機能できる導電性領域の下面から電気信号を取り出し可能または該下面へ電気信号を印加可能で、複数の導電性領域間が、上記の如き酸化領域によって絶縁される。従って、上記背景技術のところで述べた従来例と異なって、絶縁のために電圧等を印加する必要が無くなり、機械的強度の低下を抑えることができ、上記寄生容量を抑制することが可能となる。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、図6を用いて説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態をアレイ型超音波トランスデューサに用いている。それ以外は、第1の実施形態とほぼ同じである。
【0039】
図6に、第2の実施形態のアレイ型超音波トランスデューサを説明する図を示す。図6(a)は、アレイ型超音波トランスデューサに用いる貫通配線基板の一部分の斜視図である。図6(b)は、本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの一部を抜き出した破線Rに沿った部分の断面図である。図6において、101は基板、102は熱酸化膜、103は貫通孔、104は、全体的に導電性である貫通配線(導電性領域)である。また、301は、可動子であるメンブレン(薄膜)、302は、メンブレン301を可動に支持するポスト、303はフレーム、304は導電性のバンプ、305は回路基板、306は集積回路である。この構成のままでは、貫通配線104とメンブレン301との間に密閉されたギャップは形成されない。基板101と回路基板305間をシールすることや、貫通孔103の片側を埋めてしまうことなどにより、貫通配線104とメンブレン301との間に密閉されたギャップを形成することができる。
【0040】
なお、本実施形態以降の図面では、図を簡略化するために、貫通孔103または溝の形状を四角としているが、形状はこれに限るものではない。
【0041】
本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの作製方法を説明する。まず、第1の実施形態で説明した方法で、複数の貫通配線104がアレイ状に配置された貫通配線基板101を作製する。その際、貫通配線基板101は図6(a)で示すような構成になっている。各貫通配線104の周囲を、貫通孔103を持った熱酸化膜102が取り囲んでおり、更にその熱酸化膜102間にシリコンのフレーム303が配置される構成となっている。また、配線として用いるために、この貫通配線基板101の表(裏)面の熱酸化膜を、エッチングにより除去したものを用いている(第1の実施形態の図3-5参照)。
【0042】
次に、貫通配線基板101の片面上にポスト302を形成する。このポスト302は、フレーム303のパターンに沿って、同じ領域に形成される。ポスト302は、例えば、膜を成膜し、エッチングにより或る特定の部分だけを残すように該膜を除去することで形成できる。
【0043】
その後、ポスト302の部分に、振動を行うメンブレン薄膜301を接合する。ここでは、メンブレン301は導電性のある材料を用いている。これにより、メンブレン下面と貫通配線104の上面間に電圧を印加することでメンブレン301を振動させ、超音波を発信することができる。また、メンブレン下面と貫通配線104の上面間の静電容量変化を検出することで、メンブレン301が受け取った超音波の大きさを検出することができる。これらのアレイ型超音波トランスデューサにおけるアクチュエータの出力特性とセンサの検出特性は、ポスト302の高さ(上記密閉ギャップの高さ)を調節することにより調整できる。
【0044】
最後に、貫通配線基板101の下面にバンプ304を形成して、回路基板305とバンプ接合する。この回路基板305には、集積回路306が実装されており、メンブレン301を振動させるための電圧を印加する駆動回路や、メンブレン301の静電容量の変化を検出するための検出回路を有している。これにより、素子(貫通配線104とその上部に形成されたメンブレン301を1素子と考える)毎に駆動回路を配置することが可能になるので、任意の超音波を発生することができる。また、夫々の素子に近接して検出回路を配置することができるので、各素子で受信した超音波を分離して高精度に検出することができる。
【0045】
本実施形態では、貫通配線基板101内にフレーム303を含んでいることにより、熱酸化膜102が基板101を完全に横切って存在する部分が無くなり、貫通配線基板101の機械強度をより高めることができる。そのため、バンプ接合時の破損などの発生を抑制することができる。
【0046】
ポスト302は、導電性材料により形成することができる。フレーム303は、貫通配線104と同じ基板材料から形成されているので、フレーム303も低抵抗な材質で構成されている。そのため、この場合、フレーム303の部分とポスト302の部分とメンブレン301の部分は、同電位とみなすことができる。よって、フレーム303下部に形成したバンプ304で、メンブレン301の電位を任意の電位に保持することができる。
【0047】
ポスト302は、絶縁材料で形成しても構わない。この場合は、メンブレン接合後に、フレーム303上のメンブレン301とポスト302の一部をくり貫き、くり貫いた部分に導電性の配線を形成する。このことで、フレーム303とメンブレン301が電気的に接続され、メンブレン301の電位を任意の電位に保持することができる。
【0048】
このように、本実施形態を用いることで、フレーム303の電位をメンブレン301の電位と同じ電位とできるので、メンブレン301を任意の電位に制御することができる。これにより、アレイ型超音波トランスデューサにおけるアクチュエータの出力特性とセンサの検出特性にとって最適なメンブレン電位を印加できるため、夫々の特性を向上させることができる。加えて、アクチュエート時とセンシング時のメンブレン電位を、異なる電位とすることができ、より性能の向上を見込むことができる。
【0049】
更に、本実施形態では、メンブレン301に導電性材料を用いたが、これに限らない。メンブレン301を絶縁材料として、メンブレン上に導電性の電極材料を形成しても、同様に用いることができる。この場合、上下の電極部分間が物理的に接触した場合でも、電極間は電気的に絶縁されているため、集積回路306へのダメージが発生しにくくなり、望ましい構成となる。
【0050】
また、この絶縁材料のメンブレン301上に形成した導電性の電極は、必ずしも全面に形成する必要はなく、任意のパターンに形成することができる。そのため、駆動・検出に適した形状に電極を形成することができる。よって、アレイ型超音波トランスデューサにおけるアクチュエータの出力特性とセンサの検出特性を、より向上させることができる。
【0051】
また、貫通配線104のメンブレン301と対向する面上に、絶縁膜を配置する構成としてもよい。これにより、メンブレン301が導電材料であって、上下の電極部分間が物理的に接触した場合でも、電極間を電気的に絶縁することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
第3の実施形態を、図7を用いて説明する。第3の実施形態は、アレイ型超音波トランスデューサの貫通配線基板101の構成が上記実施形態とは異なる。それ以外は、第2の実施形態とほぼ同じである。
【0053】
図7に、第3の実施形態のアレイ型超音波トランスデューサを説明する図を示す。図7(a)は、アレイ型超音波トランスデューサに用いる貫通配線基板の斜視図である。図7(b)は、本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの一部を抜き出した破線Sに沿った部分の断面図である。図7において、101は基板、102は熱酸化膜、103は貫通孔、104は貫通配線、301はメンブレン、302はポスト、304はバンプ、305は回路基板、306は集積回路である。
【0054】
本実施形態では、ポスト302が、貫通配線104上に形成されていることが特徴である。これにより、貫通配線104を形成する前に、基板101にポスト302とメンブレン301を形成しても、上下電極間のギャップを高精度に維持することができる。
【0055】
更に詳しく説明する。上記第2の実施形態の構成では、貫通孔103を有した熱酸化膜102を形成する際に、メンブレン301下のギャップ(宙空部)と貫通孔103が繋がる構成となっている(図6参照)。そのため、ギャップを有するメンブレンを先に形成していた場合、貫通配線104の上面のシリコンも酸化され、上下電極間のギャップが小さくなる可能性がある。これにより、メンブレンの可動範囲が小さくなり、トラスデューサの駆動特性に影響を与える可能性がある。そのため、上記第2の実施形態では、ギャップを有するメンブレンを先に形成した場合、上下電極間のギャップを高精度に維持し、駆動特性に影響を与えないようにするのは容易ではない。
【0056】
一方、本実施形態では、貫通配線104上にポスト302を形成しているため、メンブレン301下部のギャップは密閉されている構成となっている。そのため、ギャップを有するメンブレン301を先に形成していても、熱酸化時にギャップ内が酸化されることはない。よって、上下電極間のギャップを殆ど変化させることなく、貫通配線104間の電気的な絶縁を行うことができる。
【0057】
このように、本実施形態では、予め接合プロセスによりギャップを有するメンブレンを形成した基板や、予め犠牲層を用いたサーフェースプロセスによるギャップを有するメンブレンを形成した基板を用いることができる。これにより、製造プロセスに対する制約が少なくなり、より特性の良いメンブレンを形成できるようになる。
【0058】
また、貫通配線104を形成するために、加工を行った後の基板を用いる必要がなくなるため、工程での不良率を抑えることができる。加えて、フレーム303を形成する必要がなく、ギャップを有するメンブレン301を形成した基板を用いることができるため、貫通配線104の大きさが同じであるとすると、貫通配線104間の距離を広げることができる。そのため、貫通配線104間に寄生する寄生容量を、より小さくでき、駆動信号や検出信号のクロストークを減少させることができる。
【0059】
尚、本実施形態では、貫通孔103上に配置されたメンブレン301部分では、熱酸化工程時に熱酸化が行われる可能性があるが、この部分はトランスデューサの特性に影響を与えないため、問題にはならない。
【0060】
(第4の実施形態)
第4の実施形態を、図8を用いて説明する。第4の実施形態は、アレイ型超音波トランスデューサの貫通配線基板101の有する熱酸化膜102の構成が上記実施形態と異なる。それ以外は、第2の実施形態とほぼ同じである。
【0061】
図8は、第4の実施形態を説明するための図である。図8-1は、第1の実施形態の図3-2に対応する断面図である。本実施形態では、図8-1に示す様に、孔の部分は、完全に基板201を貫通していない溝211でもよい。この場合、基板201の厚さと溝211の深さの差(溝の底面から下の材料の部分の厚さ)は、熱酸化工程によりシリコン内部に熱酸化膜が形成される厚さに依り、適切値を選ぶ必要がある。本実施形態では、基板201の片面側のみから熱酸化を行うので、上記差は、熱酸化膜の厚さ以下にする必要がある。これらの値は、第1の実施形態の所で説明した理由により、1μm以下であるのが望ましい。また、溝211の深さは、同じく第1の実施形態の所で説明した理由により、100μm以下であるのが望ましい。
【0062】
図8-2は、第1の実施形態の図3-4に対応する断面図である。図8-1の上側から熱酸化を行なうことで、図8-2のような形状となる。尚、熱酸化時に図8-2の基板下面は保護されており、基板下面へは熱酸化膜の形成が行なわれない様子を図は示している。
【0063】
図8-3に、第4の実施形態のアレイ型超音波トランスデューサを説明する図を示す。図8-3(a)は、アレイ型超音波トランスデューサに用いる貫通配線基板の一部分の斜視図である。図8-3(b)は、本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの一部を抜き出した破線Tに沿った部分の断面図である。図8-3では、図8-1と図8-2で示した基板101は上下逆に配置されている。
【0064】
本実施形態では、絶縁領域を形成するための基板部分には溝105しか形成しておらず、基板を貫通していないため、メンブレン301下部のギャップは密閉されている。そのため、ギャップを有するメンブレン301を先に形成していても、熱酸化時にギャップ内が酸化されることはない。そのため、本実施形態を用いることで、ポスト302の位置に関して制約無しで、上下電極間のギャップを殆ど変化させることなく、貫通配線104間の電気的な絶縁を行うことができる。
【0065】
(第5の実施形態)
第5の実施形態を、図9を用いて説明する。第5の実施形態は、アレイ型超音波トランスデューサの貫通配線基板101の構成が上記実施形態とは異なる。それ以外は、第2の実施形態とほぼ同じである。
【0066】
図9に、第5の実施形態のアレイ型超音波トランスデューサを説明する図を示す。図9(a)は、アレイ型超音波トランスデューサに用いる貫通配線基板の一部分の斜視図である。図9(b)は、本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの一部を抜き出した破線Uに沿った部分の断面図である。図9(c)は、本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの一部を抜き出した破線Vに沿った部分の断面図である。図9において、101は基板、102は熱酸化膜、103は貫通孔、104は貫通配線、301はメンブレン、302はポスト、303はフレーム、304はバンプ、305は回路基板、306は集積回路である。また、307は、メンブレン301上の電極、308は、電極307とフレーム303の各部との間を電気的に繋ぐ配線である。
【0067】
本実施形態では、フレーム303が、複数に分割されていることが特徴である。これにより、夫々のフレーム303毎に異なる電位を印加することができる。本実施形態では、メンブレン301を絶縁材料で形成し、メンブレン301上に任意の形状の導電性電極307を形成した構成とする。このメンブレン301上の電極307は、フレーム303上のポスト302とメンブレン301の一部を取り除いた部分に形成した配線308により、フレーム303と電気的に接続されている。そのため、夫々のフレーム303の部分に異なる電圧を印加することで、接続されたメンブレン301毎に異なる電位を印加することができる。
【0068】
本実施形態によると、素子毎のメンブレンに異なる電位を印加することができるので、アレイ内の位置毎に最適な駆動・検出特性を得ることができる。これにより、アレイ全体としても最適な駆動・検出特性を得ることができ、より高性能・高機能なアレイ型超音波トランスデューサを提供することができる。
【0069】
(第6の実施形態)
第6の実施形態を、図10を用いて説明する。第6の実施形態は、アレイ型超音波トランスデューサの貫通配線基板101のバンプ部分の構成が上記実施形態と異なる。それ以外は、第2の実施形態とほぼ同じである。
【0070】
図10に、第6の実施形態のアレイ型超音波トランスデューサを説明する図を示す。図10(a)は、アレイ型超音波トランスデューサに用いる貫通配線基板の一部分の斜視図である。図10(b)は、本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの一部を抜き出した破線Wに沿った部分の断面図である。図10において、101は基板、102は熱酸化膜、103は貫通孔、104は貫通配線、301はメンブレン、302はポスト、303はフレーム、305は回路基板、306は集積回路、309は、フレーム303または貫通配線104の凸部である。
【0071】
本実施形態は、第2の実施形態におけるバンプ304の代わりに、シリコンの凸部309を備えており、バンプ接合の代わりに、シリコンの直接接合を行うことを特徴とする。
【0072】
フレーム303の下部には、凸部309が形成されており、貫通配線104の下部の一部にも、凸部309が形成されている。この凸部309は、貫通孔103を有した熱酸化膜102を形成した貫通配線104の基板101の片面から、選択的にエッチングを行うことで作製することができる。図10の例では、その際、熱酸化膜102も一部エッチングを行っている。また、基板101に貫通孔103を形成し、一部を選択的にエッチングにより掘り下げる工程を施した(貫通孔103の形成と、掘り下げ工程は、逆の順でも問題ない)基板を用いて、熱酸化を行ってもよい。その際は、貫通孔103の側面以外にも熱酸化膜が成長するため、回路基板305と接合を行う部分はエッチングにより除去する必要があるが、それ以外は、残しておいても問題ない。
【0073】
図10(b)のように凸部309を有した基板と、回路基板305を直接接合することで、接合強度の高いアレイ型超音波トランスデューサを提供することができる。加えて、バンプ接合に起因する信頼性の低下要素を無くすることができるため、より信頼性の高いアレイ型超音波トランスデューサを提供することができる。
【0074】
(第7の実施形態)
第7の実施形態を、図11と図12を用いて説明する。第7の実施形態は、アレイ型超音波トランスデューサの貫通配線基板101上のポスト部分の構成が上記実施形態と異なる。それ以外は、第2の実施形態とほぼ同じである。
【0075】
図11に、第7の実施形態のアレイ型超音波トランスデューサを説明する図を示す。図11(a)は、アレイ型超音波トランスデューサに用いる貫通配線基板の一部分の斜視図である。図11(b)は、本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの一部を抜き出した破線Xに沿った部分の断面図である。図11において、101は基板、102は熱酸化膜、103は貫通孔、104は貫通配線、301はメンブレン、302はポスト、304はバンプ、305は回路基板、306は集積回路である。
【0076】
本実施形態は、貫通孔103を有した熱酸化膜102上に、ポスト302を配置していることが特徴である。図11(a)において、ポスト302を破線で示してある。こうしたポスト302の配置により、使えなくなるスペースを最小にすることができる。そのため、電極面積を大きくできるので、メンブレン301の駆動効率や検出感度を、より向上させることができる。また、貫通配線104間の距離を広げることも可能になるので、貫通配線104間の寄生容量を低減することができる。そのため、駆動時・検出時の信号のクロストークが減り、より良好な特性を得ることができる。
【0077】
図12に、第7の実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの製造方法を説明する図を示す。まず、シリコン基板201上面(図では下の面)に、絶縁膜205を形成する(図12-1)。この絶縁膜205が、貫通孔103を有した熱酸化膜102を形成する領域にほぼ沿って残るように、エッチングを行う(図12-2)。この残った絶縁膜205の領域が、ポスト302部分となる。次に、ポスト302(残った絶縁膜205)を支柱として、メンブレン301を形成する(図12-3)。この場合、メンブレン301を形成するプロセスとしては、接合プロセスとサーフェースプロセスのどちらでも選択することができる。
【0078】
次に、シリコン基板201下面(図では上の面)から、貫通孔210を形成するための異方性エッチングを行う(図12-3)。この際、貫通孔210は、基板201上面に形成した絶縁膜205直前までエッチングされ、絶縁膜205部分でエッチングがストップするような構成を選んでいる。
【0079】
次に、熱酸化を行い、貫通孔210の側面を熱酸化させる(図12-4)。この際、メンブレン301上は熱酸化が起こらない部材で構成するか、熱酸化を起こさないような部材でコーティングしておく必要がある。また、基板201下面(図では上の面)には、熱酸化膜204が形成されるが、後で、バンプのコンタクトを取る際にエッチングを行うことができる。また、基板面に熱酸化膜が形成されることが問題になる場合は、貫通孔210の側面のみが熱酸化されるように、熱酸化を起こさないような部材で、基板裏面をマスクしておくことが望ましい(図12-5参照)。最後に、バンプ304を形成し、回路基板305とバンプ接合を行う。このような製造工程を用いることで、ギャップを有するメンブレン301を先に形成していても、熱酸化時にギャップ内が酸化されることなく、貫通配線104を形成することができる。
【0080】
尚、本実施形態では、ギャップを有するメンブレン301を先に形成してから、貫通孔の形成とその側面の熱酸化を行ったが、それに限ったものではない。ポスト302を形成し、貫通孔の形成とその側面の熱酸化を行い、貫通配線を形成した基板に、メンブレン301を形成する手順で作製することもできる。また、基板上に絶縁膜205を形成する手法を用いたが、これの代わりにSOI基板を用いて作製することもできる。
【0081】
(第8の実施形態)
第8の実施形態を、図13を用いて説明する。第8の実施形態は、アレイ型超音波トランスデューサの貫通配線基板101の構成が上記実施形態と異なる。それ以外は、第2の実施形態とほぼ同じである。
【0082】
図13に、第8の実施形態のアレイ型超音波トランスデューサを説明する図を示す。図13(a)は、アレイ型超音波トランスデューサに用いる貫通配線基板の一部分の斜視図である。図13(b)は、本実施形態のアレイ型超音波トランスデューサの一部を抜き出した破線Yに沿った部分の断面図である。図13において、101は基板、102は熱酸化膜、103は貫通孔、104は貫通配線、301はメンブレン、302はポスト、306は集積回路である。
【0083】
本実施形態は、貫通配線基板101上に集積回路306が実装されている点が上記実施形態と異なる。基板101は、SOI基板を用いており、厚いハンドル層側に貫通配線104、薄い活性層305側に集積回路306が形成されている。貫通配線104側の構成は、第2の実施形態の構成と同じである。一方、集積回路306側は、貫通配線104の下部とフレーム303の下部において、活性層305とBOX層310(SOI基板の活性層とハンドル層の中間の絶縁層)の一部がくり貫かれ、ハンドル層の基板と回路306の一部が配線311で接続されている。この構成により、貫通配線104と集積回路306が、またフレーム303(メンブレン301)と集積回路306が、電気的に接続されている。そのため、集積回路306から任意の電位をメンブレン301に与えることができ、また駆動信号・検出信号の授受を貫通配線104の下面を介して行うことができる。
【0084】
本実施形態では、バンプ接合による信頼性の低下要素を無くすることができるため、信頼性のより高いアレイ型超音波トランスデューサを提供することができる。加えて、集積回路306自体を一体化することができるので、量産性の向上や機能・性能の向上をより達成しやすくなる。
【0085】
(第9の実施形態)
第9の実施形態を、図14を用いて説明する。第9の実施形態は、第1の実施形態をアレイ型加速度センサに用いたことが上記実施形態と異なる。それ以外は、第1の実施形態とほぼ同じである。
【0086】
図14(a)は本実施形態の加速度センサの斜視図、図14(b)は図14(a)内の破線Zでの断面図である。図14において、902は、可動子904を可動に支持する支持梁、903は、可動子904に対向して設けられる対向部材である基板部材、905は、支持梁902を支持する絶縁性の材料からなる支持部である。104は、所定の間隔を隔てて可動子904に対向した検出電極を兼ねる貫通配線である。また、906は、支持部905と基板部材903に空けられた穴、907は、支持梁902の電位を回路基板305側に伝える配線、908は、基板部材903と回路基板305間の空隙である。基板部材903は、検出電極104が形成された電極形成基板でもある。
【0087】
可動子904は、支持梁902により振動可能に支持されており、支持梁902は、基板部材903上に固定された支持部905に接続されている。可動子904に何らの作用も働いていない状態では、可動子904と検出電極104は所定の間隔を有している。可動子904に何らかの作用が働いて支持梁902が変形することで、可動子904は図14(b)の上下方向に変位ないし振動できるようになっている。
【0088】
ここで、センサの基板部材903の垂直方向に加速度が入力されたとすると、可動子904は図14(b)の上(または下)方向に変位する。これにより、可動子904と検出電極104との間隔が、可動子904に何らの作用も働いていない初期の間隔から変化する。この間隔の変化を測定することで、センサに入力される加速度を検出できる。すなわち、可動子904に対して間隔を隔てて設けられた対向部材である検出電極104との相対位置関係を検出して、加速度を検出している。
【0089】
可動子904と基板部材903すなわち検出電極104との間隔の変化を測定する方法としては、両者間に形成される静電容量の変化を測定する方法を用いる。本実施形態では、基板部材903内に検出電極104が形成されていて、この検出電極104と可動子904が形成する静電容量の変化を検出する。ここでは、検出電極104は、電極形成基板903と同じ厚さであり、電極形成基板903の可動子904に対向しない面にバンプ304が形成されている。こうして、バンプ304を介する配線を用いて、検出電極104での検出信号を取り出す構成となっている。
【0090】
電源によってバンプ304を介する配線により可動子904に或る電位を持たせておくと、可動子904と検出電極104との間隔が狭くなると、静電容量は大きくなり、検出信号はそれに対応して大きくなる。一方、可動子904と検出電極104との間隔が広くなると、静電容量は小さくなり、検出信号はそれに対応して小さくなる。この様に、加速度の大きさと方向に対応して可動子904に力が加わり、それに連れて可動子904と検出電極104との間隔が変化し、それを反映する検出信号が出力される。従って、その検出信号に基づいて加速度の大きさと方向を回路306で検出できることになる。
【0091】
本実施形態のセンサによれば、基板部材903の裏面より、簡易な構成で配線を取り出し、回路基板305に接続することができる。そのため、可動子904の形状や大きさや他部との相対位置関係に影響を与えることなく、検出信号を測定できる。よって、同じ基板面積であれば、その面積に対して可動子904を大きくすることができる。可動子の大きさ(すなわち質量)が大きいほど、同じ加速度で考えれば、可動子904の変位は大きくなるため、感度の高いセンサを提供することができる。加えて、可動子904と検出電極104との対向面積が大きくなる程、検出に用いる静電容量の大きさが大きくなるので、このこともセンサの感度向上に寄与する。
【0092】
また、本実施形態では、可動子904に対向する部分に検出信号用の配線を配置することがないので、可動子904と検出信号用の配線が互いに影響を与え合って検出信号が劣化することが起こりにくい。そのため、検出誤差の小さい、高精度な検出を行うことができる。更に、可動子904が配置される側の構成がシンプルになるので、可動子904と検出電極104との間隔などを含む可動子9041側の設定が正確に行われやすくなる。このことも、検出誤差の小さい高精度な検出の実現に寄与する。
【0093】
特に、間隔を隔てて基板部材903上に複数の可動子904を2次元配置する場合には、可動子904を大きくすることができると共に、配線による誤差成分が検出信号に重畳されにくくなる。また、裏面側で配線することで、表面側で配線するより、配線同士の距離を離すことが容易になるので、配線間のクロストークが起こりにくくなる。こうして、高感度・高精度に2次元配置した検出部の情報を取得することができるセンサを提供できる。本実施形態の製造も、上記実施形態の製造方法に準じた方法で行うことができる。
【0094】
尚、本明細書中では、アレイ型超音波トランスデューサや、アレイ型加速度センサについて記載したが、本発明はこれに限るものではない。アレイ型・単素子を問わず、超音波トランスデューサ、圧力センサ、加速度センサ、ジャイロセンサなど、静電引力を駆動力に用いる或いは静電容量の変化により物理量を検出するものであれば、本発明の構造体を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体の斜視図。
【図2】第1の実施形態の酸化領域の絶縁部を説明する図。
【図3−1】第1の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図3−2】第1の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図3−3】第1の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図3−4】第1の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図3−5】第1の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図4】第1の実施形態に係る貫通配線の製造時の熱酸化工程を説明するための図。
【図5】酸化領域における貫通孔の断面形状と配置の種々の例を説明する平面図。
【図6】第2の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体を説明するための斜視図と断面図。
【図7】第3の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体を説明するための斜視図と断面図。
【図8−1】第4の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図8−2】第4の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図8−3】第4の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体を説明するための斜視図と断面図。
【図9】第5の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体を説明するための斜視図と断面図。
【図10】第6の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体を説明するための斜視図と断面図。
【図11】第7の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体を説明するための斜視図と断面図。
【図12−1】第7の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図12−2】第7の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図12−3】第7の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図12−4】第7の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図12−5】第7の実施形態に係る貫通配線の製造工程を説明するための断面図。
【図13】第8の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体を説明するための斜視図と断面図。
【図14】第9の実施形態に係る貫通配線を持つ構造体を説明するための斜視図と断面図。
【符号の説明】
【0096】
101、201 基板
102、204 熱酸化膜(酸化物)
103、210 貫通孔
104、111、112 貫通配線(導電性領域、検出電極)
105、211 溝
121 シリコン表面上の熱酸化膜
122 シリコン内部に形成された熱酸化膜
301 メンブレン(可動子)
302 ポスト
303 フレーム
304 バンプ
305 回路基板
306 回路
904 可動子
902 支持梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を有する構造体であって、
前記導電性領域の上面側に、可動に支持された可動子が設けられ、
該可動子は前記導電性領域に対向する電極を有し、
前記導電性領域の下面を介して電気信号が授受可能に構成され、
前記複数の導電性領域間が、連続した酸化領域によって絶縁され、
前記酸化領域は、複数の貫通孔もしくは溝が形成された材料の酸化物から成ることを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記導電性領域と前記可動子の組が複数設けられていることを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項3】
請求項1または2記載の構造体を有し、
前記可動子がメンブレンであり、
前記導電性領域と前記メンブレンとの間に密閉されたギャップが形成されていることを特徴とする超音波トランスデューサ。
【請求項4】
請求項1または2記載の構造体を有し、
前記導電性領域の下面から、該導電性領域と前記電極との間の静電容量の変化に係る電気信号を取り出し可能に構成されていることを特徴とする物理量センサ。
【請求項5】
厚さ方向に電気的配線された基板の形態であって、互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を有する構造体の製造方法であって、
互いに間隔を置いて配置される複数の貫通孔もしくは溝を前記基板の母材に形成する工程と、
少なくとも前記複数の貫通孔もしくは溝の内部表面の前記母材に熱酸化を行って、前記複数の貫通孔もしくは溝を含む連続した酸化領域を形成し、前記互いに電気的に絶縁された複数の導電性領域を前記母材に形成する工程と、
を含むことを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項6】
少なくとも1つの前記導電性領域の上面側に、可動に支持された可動子を設ける工程を含むことを特徴とする請求項5記載の構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図12−4】
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【図12−5】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−290155(P2009−290155A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144166(P2008−144166)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】