説明

車両の動力出力装置

【課題】車両の制御性を悪化させずに部品の過熱を防止することができる車両の動力出力装置を提供する。
【解決手段】車両の動力出力装置は、エンジン2と、エンジン2へ燃料を供給する燃料供給機構と、電動機と、エンジン2および電動機に対して目標トルクをそれぞれ設定し要求トルクを分担して出力させる制御を行なう制御装置14とを備える。制御装置14は、エンジン2に関連するいずれかの部品(たとえば排気浄化用触媒等)が過熱する運転状態にエンジン2が入った場合には、燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後のエンジン2の出力トルクがエンジン2の目標トルクを超える場合には、エンジン2の点火時期を標準位置よりも遅らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の動力出力装置に関し、特に内燃機関を搭載するハイブリッド車両の動力出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気温度は、高温になりすぎると、排気系に配置された部品、例えば排気浄化用触媒が過熱して、劣化したり溶損したりする恐れがある。これを防止するため、従来、内燃機関の排気温度が高温となる運転状態になると、気筒に供給する燃料を増量させて混合気をリッチ状態にする燃料増量制御が行われている。このことにより、燃焼する混合気の酸素濃度が減少し、さらに燃焼時に過剰な燃料が高温により熱分解して吸熱作用が生じるので、内燃機関の排気の温度上昇を抑制することができる。
【0003】
特開2004−353580号公報(特許文献1)は、内燃機関の排気温度が高温になる運転領域において、燃料供給量を増加させる制御と排気の一部を吸気系に再循環させる制御(EGR:Exhaust Gas Recirculation)とを併用して、排気の温度上昇を抑制している場合の再循環制御の停止について開示する。
【特許文献1】特開2004−353580号公報
【特許文献2】特開平6−147081号公報
【特許文献3】実開平7−42413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境にやさしい車両として、モータとエンジンを車両の駆動に併用するハイブリッド自動車が開発され、実用化されている。
【0005】
ハイブリッド車両では、シフト位置、アクセル開度および車速に基づき、車軸での駆動要求トルクがマップから求められる。そしてその車軸での駆動要求トルクに車軸回転数が乗算されて駆動要求出力(パワー)が算出され、そのパワーにバッテリに対する充電要求に基づくパワーが加算されトータル出力(要求値)が算出される。
【0006】
このトータル出力(目標値)が決定されると、それに対応するエンジン出力(要求値)を出力するための最適な運転条件(目標エンジン回転数)がエンジン動作線上で決定される。エンジン動作線と等エンジンパワー線との交点が目標エンジン回転数と目標エンジントルクとなる。なお、エンジン動作線は、HV動作線とも称される。
【0007】
エンジン制御部は、上記のように決定されたエンジン出力(要求値)と目標エンジン回転数を実現するように、燃料噴射、点火時期、電子スロットル、VVT−i(吸気側可変バルブタイミング)制御等を行なう。
【0008】
運転者のアクセルペダル操作等によって加速要求が入力されるとエンジン出力(要求値)が増加する。したがって、エンジン制御部は、通常は、エンジン動作線上をエンジン出力(要求値)を増加させる方向にエンジンの動作点を移動させる。
【0009】
一方、このように決定されたエンジンの動作点に対応させて、モータ制御が行なわれている。
【0010】
このような制御が行なわれるハイブリッド車両において、エンジンの排気の温度上昇を抑制するために、気筒に供給する燃料を増量させて混合気をリッチ状態にする燃料増量制御を行なうと、エンジンの動作点がエンジン動作線上から外れてしまう。
【0011】
燃料の増量によってエンジン動作線からエンジンの動作点が逸脱し、過大なトルクがエンジンから出力されると、モータの制御とのバランスが悪くなり、車軸に要求トルクが出力できなくなったり、要求トルクを超えるトルクが出力されたりするので、車両制御性が悪化し運転者が違和感を覚えることが考えられる。
【0012】
この発明の目的は、車両の制御性を悪化させずに部品の過熱を防止することができる車両の動力出力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、要約すると、車両の動力出力装置であって、内燃機関と、内燃機関へ燃料を供給する燃料供給機構と、電動機と、内燃機関および電動機に対して目標トルクをそれぞれ設定し要求トルクを分担して出力させる制御を行なう制御装置とを備える。制御装置は、内燃機関に関連するいずれかの部品が過熱する運転状態に内燃機関が入った場合には、燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後の内燃機関の出力トルクが内燃機関の目標トルクを超える場合には、内燃機関の点火時期を標準位置よりも遅らせる。
【0014】
好ましくは、車両の動力出力装置は、内燃機関の排気の一部を内燃機関の吸気系に再循環させる排気再循環機構をさらに備える。制御装置は、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましい状態であれば排気再循環機構を作動させることにより部品の過熱を防止し、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であれば燃料供給機構に燃料供給の増量を指示して部品の過熱を防止する。
【0015】
より好ましくは、制御装置は、内燃機関の冷却水の温度がしきい値以下であるときに、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であると判断する。
【0016】
好ましくは、制御装置は、内燃機関の回転数に対する出力トルクが予め定められた動作線に沿って動作点が移動するように内燃機関を制御し、内燃機関の回転数が所定値を超えたときにいずれかの部品が過熱する運転状態に内燃機関が入ったと判断する。
【0017】
好ましくは、制御装置は、内燃機関に関連するいずれかの部品が過熱する運転状態に内燃機関が入った場合には、燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後の内燃機関の出力トルクが内燃機関の目標トルクを超える場合には、内燃機関の点火時期を標準位置よりも遅らせるとともに、内燃機関のスロットル開度を標準値よりも絞る。
【0018】
この発明の他の局面に従う車両の動力装置は、内燃機関と、内燃機関へ燃料を供給する燃料供給機構と、電動機と、内燃機関および電動機対して目標トルクをそれぞれ設定し要求トルクを分担して出力させる制御を行なう制御装置とを備える。制御装置は、内燃機関に関連するいずれかの部品が過熱する運転状態に内燃機関が入った場合には、燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後の内燃機関の出力トルクが内燃機関の目標トルクを超える場合には、内燃機関のスロットル開度を標準値よりも絞る。
【0019】
好ましくは、車両の動力出力装置は、内燃機関の排気の一部を内燃機関の吸気系に再循環させる排気再循環機構をさらに備える。制御装置は、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましい状態であれば排気再循環機構を作動させることにより部品の過熱を防止し、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であれば燃料供給機構に燃料供給の増量を指示して部品の過熱を防止する。
【0020】
より好ましくは、制御装置は、内燃機関の冷却水の温度がしきい値以下であるときに、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であると判断する。
【0021】
好ましくは、制御装置は、内燃機関の回転数に対する出力トルクが予め定められた動作線に沿って動作点が移動するように内燃機関を制御し、内燃機関の回転数が所定値を超えたときにいずれかの部品が過熱する運転状態に内燃機関が入ったと判断する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、車両の制御性を悪化させずに部品の過熱を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0024】
図1は、本実施の形態のハイブリッド車両1の主たる構成を示す図である。ハイブリッド車両1は、エンジンとモータとを走行に併用する車両である。
【0025】
図1を参照して、ハイブリッド車両1は、前輪20R,20Lと、後輪22R,22Lと、エンジン2と、プラネタリギヤ16と、デファレンシャルギヤ18と、ギヤ4,6とを含む。
【0026】
ハイブリッド車両1は、さらに、車両後方に配置されるバッテリBと、バッテリBの出力する直流電力を昇圧する昇圧ユニット32と、昇圧ユニット32との間で直流電力を授受するインバータ36と、プラネタリギヤ16を介してエンジン2と結合され主として発電を行なうモータジェネレータMG1と、回転軸がプラネタリギヤ16に接続されるモータジェネレータMG2とを含む。インバータ36はモータジェネレータMG1,MG2に接続され、交流電力と昇圧ユニット32からの直流電力との変換を行なう。
【0027】
プラネタリギヤ16は、第1〜第3の回転軸を有する。第1の回転軸46はエンジン2に接続され第2の回転軸44はモータジェネレータMG1に接続され第3の回転軸はモータジェネレータMG2に接続される。この第3の回転軸は、車輪を駆動するための駆動軸42でもある。
【0028】
この第3の回転軸にはギヤ4が取付けられ、このギヤ4はギヤ6を駆動することによりデファレンシャルギヤ18に動力を伝達する。デファレンシャルギヤ18はギヤ6から受ける動力を前輪20R,20Lに伝達するとともに、ギヤ6,4を介して前輪20R,20Lの回転力をプラネタリギヤの第3の回転軸に伝達する。
【0029】
プラネタリギヤ16は、エンジン2,モータジェネレータMG1,MG2の間で動力を分割する動力分割機構としての役割を果たす。すなわちプラネタリギヤ16の3つの回転軸のうち2つの回転軸の回転が定まれば、残る1つの回転軸の回転は強制的に決定される。したがって、エンジン2を最も効率のよい領域(HV動作線上)で動作させつつ、モータジェネレータMG1の発電量を制御してモータジェネレータMG2を駆動させることにより車速の制御を行ない、全体としてエネルギ効率のよい自動車を実現している。
【0030】
なお、モータジェネレータMG2の回転を減速してプラネタリギヤ16に伝達する減速ギヤを設けても良く、その減速ギヤの減速比を変更可能にした変速ギヤを設けても良い。
【0031】
直流電源であるバッテリBは、たとえばニッケル水素またはリチウムイオンなどの二次電池を含み、直流電力を昇圧ユニット32に供給するとともに、昇圧ユニット32からの直流電力によって充電される。
【0032】
昇圧ユニット32は、バッテリBから受ける直流電圧を昇圧してその昇圧された直流電圧をインバータ36に供給する。インバータ36は供給された直流電圧を交流電圧に変換してエンジン始動時にはモータジェネレータMG1を駆動制御する。また、エンジン始動後には、モータジェネレータMG1が発電した交流電力はインバータ36によって直流に変換され、昇圧ユニット32によってバッテリBの充電に適切な電圧に変換されてバッテリBが充電される。
【0033】
また、インバータ36はモータジェネレータMG2を駆動する。モータジェネレータMG2はエンジン2を補助して前輪20R,20Lを駆動する。制動時には、モータジェネレータは回生運転を行ない、車輪の回転エネルギを電気エネルギに変換する。得られた電気エネルギは、インバータ36および昇圧ユニット32を経由してバッテリBに戻される。バッテリBは組電池であり、直列に接続された複数の電池ユニットB0〜Bnを含む。昇圧ユニット32とバッテリBとの間にはシステムメインリレー28,30が設けられ、車両非運転時には高電圧が遮断される。
【0034】
ハイブリッド車両1は、さらに、制御装置14を含む。制御装置14は、運転者の指示および車両に取付けられた各種センサからの出力に応じて、エンジン2,インバータ36,昇圧ユニット32およびシステムメインリレー28,30の制御を行なう。
【0035】
図2は、図1のエンジン2に関する構成をより詳細に示す図である。
図2を参照して、エンジン2には、エアクリーナ102から空気が吸入される。吸入空気量は、スロットルバルブ104により調整される。スロットルバルブ104はスロットルモータ312により駆動される電機制御式スロットルバルブである。
【0036】
エンジン2は、V型エンジンであり、2つのバンクA,Bを含む。以下、参照符号の末尾には、バンクAの要素にはAが付され、バンクBの要素にはBが付される。
【0037】
スロットルバルブ104を通過した空気は、吸気通路140からサージタンク142に導入され、吸気通路144から2つのバンクA,Bに分かれて吸入される。空気は、シリンダ106A,106B(燃焼室)の手前の吸気ポートにおいて燃料と混合される。インジェクタ108A,108Bから燃料がバンクA,Bの吸気ポートにそれぞれ噴射される。
【0038】
燃料は吸気行程において噴射される。なお、燃料が噴射される時期は、吸気行程に限らない。また、本実施の形態においては、ポート噴射用のインジェクタを設けた例について説明するが、インジェクタ108A,108Bの噴射孔がシリンダ106A,106B内にそれぞれ設けられた直噴エンジンであってもよい。さらに、ポート噴射用のインジェクタと直噴用インジェクタを両方設けるようにしてもよい。
【0039】
各バンクには、例えば4つずつのシリンダが設けられる。シリンダ106A,106B内の混合気は、イグニッションコイル110A,110Bに接続された点火プラグによりそれぞれ着火され、燃焼する。燃焼後の混合気、すなわち排気ガスは、三元触媒112A,112Bにより浄化された後に合流し、さらにセンターマフラーの三元触媒112で浄化された後に車外に排出される。混合気の燃焼によりピストン114A,114Bが押し下げられ、クランクシャフトが回転する。
【0040】
シリンダ106Aの頭頂部には、吸気バルブ118Aおよび排気バルブ120Aが設けられる。シリンダ106Aに導入される空気の量および時期は、吸気バルブ118Aにより制御される。シリンダ106Aから排出される排気ガスの量および時期は、排気バルブ120Aにより制御される。吸気バルブ118Aはカムシャフト130Aに設けられた図示しないカムにより駆動される。排気バルブ120Aはカムシャフト129Aに設けられた図示しないカムにより駆動される。
【0041】
シリンダ106Bの頭頂部には、吸気バルブ118Bおよび排気バルブ120Bが設けられる。シリンダ106Bに導入される空気の量および時期は、吸気バルブ118Bにより制御される。シリンダ106Bから排出される排気ガスの量および時期は、排気バルブ120Bにより制御される。吸気バルブ118Bはカムシャフト130Bに設けられた図示しないカムにより駆動される。排気バルブ120Bはカムシャフト129Bに設けられた図示しないカムにより駆動される。
【0042】
吸気バルブ118A,118Bは、VVT(Variable Valve Timing)機構126A,126Bにより、開閉タイミングがそれぞれ制御される。排気バルブ120A,120Bについても、開閉タイミングをVVT機構により制御するようにしてもよい。
【0043】
本実施の形態においては、カムがVVT機構により回転されることにより、吸気バルブ118A,118Bの開閉タイミングが制御される。なお、開閉タイミングを制御する方法はこれに限らない。また、VVT機構には、周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰返さない。
【0044】
制御装置14は、エンジン2が所望の運転状態になるように、スロットル開度θthと、各バンクA,Bの点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量、吸気バルブの動作状態(開閉タイミング、リフト量、作用角等)を制御する。制御装置14には、カム角センサ300A,300B、クランク角センサ302、ノックコントロールセンサ(KCS:Knock Control Sensor)304A,304B、スロットル開度センサ306、イグニッションスイッチ308、アクセルペダルポジションセンサ314から信号が入力される。
【0045】
カム角センサ300A,300Bは、カムの位置を表す信号を出力する。クランク角センサ302は、クランクシャフトの回転数(エンジン回転数)およびクランクシャフトの回転角度を表す信号を出力する。ノックセンサ304A,304Bは、エンジン2の振動の強度を表す信号を出力する。スロットル開度センサ306は、スロットル開度を表す信号を出力する。イグニッションスイッチ308は、運転者の操作によりオンにされた場合、イグニッションスイッチ308がオンであることを表す信号を出力する。アクセルペダルポジションセンサ314は、運転者の操作するアクセルペダルの踏み込み量に応じたアクセルペダルポジションAccを出力する。
【0046】
制御装置14は、これらのセンサから入力された信号、メモリ(図示せず)に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン2を制御する。
【0047】
制御装置14は、バンクAに関するセンサの信号を受けバンクAについてのVVT機構126Aの制御を行なうバンクA制御部202Aと、バンクBに関するセンサの信号を受けバンクBについてのVVT機構126Bの制御を行なうバンクB制御部202Bと、バンクA,Bに共通なセンサの信号を受けてバンクA,Bに共通する制御を行なうエンジン制御部201とを含む。
【0048】
図2に示されるエンジン2の周辺構成には、排気ガス再循環装置(以下、EGR装置と称する)が設けられている。EGR装置は、排気の一部を吸気系に戻し、混合気が燃焼する時の最高温度を低くしてNOxの生成量を抑える装置である。バンクBの排気管146からEGR通路148が分岐され、EGR通路148は吸気通路140に接続されている。EGR通路148の途中にはEGR弁150が設けられている。制御装置14のエンジン制御部201からの指令によりEGR弁150が開閉制御される。
【0049】
図3は、本実施の形態における過熱抑制制御について説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両走行制御のメインルーチンから一定時間ごとまたは所定の条件が成立するごとに呼び出されて実行される。
【0050】
図3を参照して、処理が開始されるとまずステップS1において、エンジン2の冷却水温が計測され、水温が70℃以下か否かが判断される。冷却水は図示しないラジエータから図2で示したシリンダヘッドおよびシリンダブロック中の水路を通過してエンジンを冷却する。この水路のいずれかの場所に設けられた水温センサをから、制御装置14は冷却水温を得て、水温が70℃以下か否かの判断を行なう。
【0051】
水温が70℃以下でなければ(ステップS1でNO)ステップS2に処理が進み、EGRシステムが作動する。EGRシステムは、EGR通路148とEGR弁150とが制御装置14によって制御されることで実現する。エンジンの運転にEGR(吸気への排気ガス還流)を行なうことで、燃焼温度が下がりNOxが低減するとともに、燃費も改善される。ステップS2においてEGRシステムが作動すると、ステップS7に処理が進み、制御はメインルーチンに移される。
【0052】
一方、ステップS1で水温が70℃以下であると判断されると、EGRシステムの作動は禁止され、ステップS3に処理が進む。エンジンの温度が低い場合にEGRを実行すると、燃焼が不安定となるからである。
【0053】
ステップS3では、対象部品が過熱となるエンジン回転数になっているか否かが判断される。対象部品は、エンジンに関連するいずれかの部品であって過熱から保護する必要のある部品であるが、たとえば排気浄化用触媒などが該当する。
【0054】
図4は、対象部品が過熱となる領域について説明するための図である。
図4を参照して、ハイブリッド車両のエンジンは、モータでトルクを補助することが可能であるので、効率のよい運転状態を選んで運転させることができる。したがって、エンジン回転数Neが変化するとエンジンの出力トルクTeはエンジン動作線上に沿って変化する。エンジン動作線は、HV動作線とも呼ばれる。動作線LEは燃費を重視する場合のエンジン動作線であり、動作線LPはパワーを重視する場合のエンジン動作線である。
【0055】
図4において、対象部品が過熱となる領域は、ハッチングされた領域AOTであるが、エンジンの動作点はエンジン動作線上を移動するので、エンジン回転数が所定値(たとえば4000rpm)を超えると過熱領域AOTにエンジンの運転状態が入ったと判断してよい。
【0056】
再び図3を参照して、ステップS3において、対象部品が過熱となるエンジン回転数(例えば4000rpm)に現在のエンジン回転数が到達していなければ、ステップS7に処理が進み、制御はメインルーチンに移される。
【0057】
一方、ステップS3において対象部品が過熱となるエンジン回転数(例えば4000rpm)に現在のエンジン回転数が到達している場合には、ステップS4に処理が進み燃料噴射量の増量が行なわれる。気筒に供給する燃料を増量させて混合気をリッチ状態にする燃料増量制御が行われると、燃焼する混合気の酸素濃度が減少し、さらに燃焼時に過剰な燃料が高温により熱分解して吸熱作用が生じるので、エンジンの温度上昇を抑制することができる。
【0058】
続いて、ステップS5において、パワーラインのトルクを超えるか否かが判断される。
図5は、燃料増量によりパワーラインがシフトする様子を説明するための図である。
【0059】
図5を参照して、パワー重視のエンジン動作線LPが、燃料増量により動作線LPAにシフトした様子を示す。ここで、通常のエンジン動作線LP上を動作点が移動するときは、エンジン出力トルクの最大値は、最大トルクTemaxであるとする。図1のプラネタリギヤPG、モータジェネレータMG1、MG2は、エンジントルクの最大値がTemaxであることが前提に設計されているので、長時間このような動作線のシフトが発生しているのは好ましくない。
【0060】
そこで、図3のステップS5において、制御装置14は、エンジントルクがパワーライン(動作線LP)のトルクを超えること、すなわちエンジントルクが動作線LPから所定値以上はずれるか否かを検出する。
【0061】
なお、ステップS5において、エンジントルクが最大トルクTemaxに近づいたまたは超えたことをもってステップS5においてYESと判断するようにしても良い。
【0062】
ハイブリッド車は、図1で示したようにエンジンの回転軸がモータジェネレータMG1、MG2とプラネタリギヤによって接続されている。そこで、ステップS5におけるエンジントルクは、たとえば、モータのトルクから割り出すことが可能である。
【0063】
ステップS5において、エンジントルクがパワーラインのトルクを超えたことが検出された場合には、動作線を元に戻すようにトルクを低減させるために、ステップS6において点火時期の遅角またはスロットル開度を標準値よりも絞る制御を実行する。
【0064】
点火時期(点火進角度とも称される)は、標準値では、ピストンが上死点に到達する直前に設定されている。この標準値は、各エンジン回転に対応する予め実験により定められた最適タイミングが記憶された標準マップに基づいて決定される。これをピストンが上死点に達してから点火するように時期を遅らせれば、混合気が燃え広がる間にピストンは下降し始めているので、熱膨張によるエネルギーがピストンに伝達される効率が低くなる。
【0065】
したがって、点火時期を遅角させれば、エンジントルクを低減させることができる。たとえば、エンジントルクを低減させるための点火時期を規定したマップ(トルク低減用マップ)を予め実験により定めておき、ステップS6において点火時期を定める際に標準マップに代えてこのトルク低減用マップを使用すればよい。
【0066】
同様に、スロットル開度についても標準値よりも絞ることにより、最適空気量よりも少ない空気量がシリンダに吸入されるようになり、エンジントルクが減少する。スロットル開度の標準値は、アクセルペダル位置およびエンジン回転数に対して最適スロットルバルブ開度が定義された標準マップから読み出される。
【0067】
したがって、たとえば、エンジントルクを低減させるためのスロットル開度を規定したマップ(トルク低減用マップ)を予め実験により定めておき、ステップS6においてスロットル開度を定める際に標準マップに代えてこのトルク低減用マップを使用すればよい。
【0068】
なおステップS6では、点火時期の遅角処理、スロットル開度を絞る処理のいずれか一方が実行されてもよいし、または両方が実行されても良い。
【0069】
ステップS6の処理が終了すると、エンジントルクが減少する。これにより対象部品の過熱を避けつつ、ハイブリッド制御を良好に実現することができるので、運転者に違和感を与えないですむ。そして、ステップS7に処理が進み、制御はメインルーチンに移される。
【0070】
図6は、図3に示した制御が適用され燃料増量時のトルクが低減された様子を説明するための動作波形図である。
【0071】
図6を参照して、波形図の横軸には時間が示され、図6の上から順に、エンジン回転数Ne,燃料供給量Q、点火時期SA、スロットル開度θth、エンジントルクTe、冷却水温度Tの時間経過に伴う変化を示す波形が記載されている。
【0072】
時刻t0〜t1にかけてスロットル開度θthは、最大開度WOT(Wide Open Throttle)に設定され、エンジン回転数Neが次第に増加する。ここで冷却水温は次第に増加していくが、まだEGR装置を作動させるしきい値(たとえば70℃)に到達しないので、EGR装置は作動しない(図3のステップS1においてYES)。
【0073】
時刻t1において、エンジン回転数Neがしきい値(たとえば4000rpm)に到達すると、制御装置14は、図4、図5において説明したエンジンに関連するいずれかの部品が過熱するおそれのある領域AOTにエンジンが入ったと判断する(図3のステップS3においてYES)。
【0074】
すると時刻tt〜t2において、制御装置14は、燃料供給機構に燃料供給の増量を指示する。このため燃料供給量Qは時刻t1〜2において増加する。時刻t1〜t2において気筒に供給する燃料を増量させて混合気をリッチ状態にする燃料増量制御が行われると、燃焼する混合気の酸素濃度が減少し、さらに燃焼時に過剰な燃料が高温により熱分解して吸熱作用が生じるので、エンジンの温度上昇を抑制することができる。したがって、エンジンに関連するいずれかの部品(たとえば三元触媒112A,112B等)を過熱から保護することができる。
【0075】
しかし、時刻t1〜t2において、エンジントルクTeは増加を続け、図5の動作線LPAに示したように目標とするエンジン動作線LPよりもエンジントルクが増加した状態となる。なお、図5では理解の容易のために、動作線LPAはシフト量を実際よりも強調して記載されている。
【0076】
車両推進用のモータを用いない従来型のエンジン駆動車の場合には、多少のエンジントルクの増加は問題にならないが、ハイブリッド自動車の場合には、エンジン動作線通りのトルクがエンジンから出力される前提でモータ制御が行なわれている。したがって、エンジントルクTeが増加するとそれに伴いモータ制御を変更する必要が生じ、制御が複雑となる。
【0077】
また、ハイブリッド自動車の場合には、エンジン動作線通りのトルクがエンジンから出力される前提でモータや動力分割機構が設計されている。このため、図5の最大トルクTemaxよりもあまり大きく増加すると、モータや動力分割機構の寿命に影響を与える可能性がある。
【0078】
そこで、時刻t2においてエンジントルクTeが所定値(たとえばTemax=142Nm)に到達すると、時刻t2以降点火時期SAを遅らせ、スロットル開度θthをWOT状態から減少させる。これにより、エンジントルクTeは増加が抑えられ、モータ制御を極端に変更することなくハイブリッド車両の走行制御を継続することができる。
【0079】
最後に、再び図1、図2等を参照して、本実施の形態について総括的に説明する。
本実施の形態の車両の動力出力装置は、エンジン2と、エンジン2へ燃料を供給する燃料供給機構(インジェクタ108A,108B)と、電動機(モータジェネレータMG1またはMG2)と、エンジン2および電動機に対して目標トルクをそれぞれ設定し要求トルクを分担して出力させる制御を行なう制御装置14とを備える。制御装置14は、エンジン2に関連するいずれかの部品(たとえば三元触媒112A,112B等)が過熱する運転状態(図4の領域AOE)にエンジン2が入った場合には、燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後のエンジン2の出力トルクがエンジン2の目標トルク(たとえば図5のTemax)を超える場合には、エンジン2の点火時期を標準位置よりも遅らせる。
【0080】
これにより、エンジン2のトルクが目標トルク通りとなるので、制御装置14は、電動機に対して目標トルクの再設定をしなくてすむ。
【0081】
好ましくは、車両の動力出力装置は、エンジン2の排気の一部をエンジン2の吸気系に再循環させる排気再循環機構(EGR通路148およびEGR弁150)をさらに備える。制御装置14は、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましい状態であれば排気再循環機構を作動させることにより部品の過熱を防止し、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であれば燃料供給機構に燃料供給の増量を指示して部品の過熱を防止する。
【0082】
これにより、EGR装置が作動すれば、排気の一部を吸気系に戻し、混合気が燃焼する時の最高温度を低くしてNOxの生成量を抑えることができ、EGR装置を作動させない場合に燃料増量によって部品の過熱を防止したときに、エンジントルクの増加を抑制することができる。
【0083】
より好ましくは、制御装置14は、エンジン2の冷却水の温度がしきい値以下であるときに(図3のステップS1でYES)、運転状態が排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であると判断する。
【0084】
好ましくは、制御装置14は、エンジン2の回転数に対する出力トルクが予め定められた動作線(図4のエンジン動作線LPまたはLE)に沿って動作点が移動するようにエンジン2を制御し、エンジン2の回転数が所定値(たとえば4000rpm)を超えたときにいずれかの部品(たとえば三元触媒112A,112B等)が過熱する運転状態にエンジン2が入ったと判断する。
【0085】
好ましくは、制御装置は、エンジン2に関連するいずれかの部品が過熱する運転状態にエンジン2が入った場合には、燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後のエンジン2の出力トルクがエンジン2の目標トルクを超える場合には、エンジン2の点火時期を標準位置よりも遅らせるとともに、エンジン2のスロットル開度を標準値よりも絞る。
【0086】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本実施の形態のハイブリッド車両1の主たる構成を示す図である。
【図2】図1のエンジン2に関する構成をより詳細に示す図である。
【図3】本実施の形態における過熱抑制制御について説明するためのフローチャートである。
【図4】対象部品が過熱となる領域について説明するための図である。
【図5】燃料増量によりパワーラインがシフトする様子を説明するための図である。
【図6】図3に示した制御が適用され燃料増量時のトルクが低減された様子を説明するための動作波形図である。
【符号の説明】
【0088】
1 ハイブリッド車両、2 エンジン、4,6 ギヤ、14 制御装置、16 プラネタリギヤ、18 デファレンシャルギヤ、20R,20L 前輪、22R,22L 後輪、28,30 システムメインリレー、32 昇圧ユニット、36 インバータ、42 駆動軸、44,46 回転軸、102 エアクリーナ、104 スロットルバルブ、106A,106B シリンダ、108A,108B インジェクタ、110A,110B イグニッションコイル、112,112A,112B 三元触媒、114A,114B ピストン、118A,118B 吸気バルブ、120A,120B 排気バルブ、126A,126B VVT機構、129A,129B,130A,130B カムシャフト、140 吸気通路、142 サージタンク、144 吸気通路、146 排気管、148 EGR通路、150 EGR弁、201 エンジン制御部、202A バンクA制御部、202B バンクB制御部、300A,300B カム角センサ、302 クランク角センサ、304A,304B ノックセンサ、306 スロットル開度センサ、308 イグニッションスイッチ、312 スロットルモータ、314 アクセルペダルポジションセンサ、B バッテリ、B0 電池ユニット、MG1,MG2 モータジェネレータ、PG プラネタリギヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関へ燃料を供給する燃料供給機構と、
電動機と、
前記内燃機関および前記電動機に対して目標トルクをそれぞれ設定し要求トルクを分担して出力させる制御を行なう制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記内燃機関に関連するいずれかの部品が過熱する運転状態に前記内燃機関が入った場合には、前記燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後の前記内燃機関の出力トルクが前記内燃機関の前記目標トルクを超える場合には、前記内燃機関の点火時期を標準位置よりも遅らせる、車両の動力出力装置。
【請求項2】
前記内燃機関の排気の一部を前記内燃機関の吸気系に再循環させる排気再循環機構をさらに備え、
前記制御装置は、前記運転状態が前記排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましい状態であれば前記排気再循環機構を作動させることにより前記部品の過熱を防止し、前記運転状態が前記排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であれば前記燃料供給機構に燃料供給の増量を指示して前記部品の過熱を防止する、請求項1に記載の車両の動力出力装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記内燃機関の冷却水の温度がしきい値以下であるときに、前記運転状態が前記排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であると判断する、請求項2に記載の車両の動力出力装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記内燃機関の回転数に対する出力トルクが予め定められた動作線に沿って動作点が移動するように前記内燃機関を制御し、前記内燃機関の回転数が所定値を超えたときに前記いずれかの部品が過熱する運転状態に前記内燃機関が入ったと判断する、請求項1に記載の車両の動力出力装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記内燃機関に関連するいずれかの部品が過熱する運転状態に前記内燃機関が入った場合には、前記燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後の前記内燃機関の出力トルクが前記内燃機関の前記目標トルクを超える場合には、前記内燃機関の点火時期を標準位置よりも遅らせるとともに、前記内燃機関のスロットル開度を標準値よりも絞る、請求項1に記載の車両の動力出力装置。
【請求項6】
内燃機関と、
前記内燃機関へ燃料を供給する燃料供給機構と、
電動機と、
前記内燃機関および前記電動機対して目標トルクをそれぞれ設定し要求トルクを分担して出力させる制御を行なう制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記内燃機関に関連するいずれかの部品が過熱する運転状態に前記内燃機関が入った場合には、前記燃料供給機構に燃料供給の増量を指示し、燃料供給後の前記内燃機関の出力トルクが前記内燃機関の前記目標トルクを超える場合には、前記内燃機関のスロットル開度を標準値よりも絞る、車両の動力出力装置。
【請求項7】
前記内燃機関の排気の一部を前記内燃機関の吸気系に再循環させる排気再循環機構をさらに備え、
前記制御装置は、前記運転状態が前記排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましい状態であれば前記排気再循環機構を作動させることにより前記部品の過熱を防止し、前記運転状態が前記排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であれば前記燃料供給機構に燃料供給の増量を指示して前記部品の過熱を防止する、請求項6に記載の車両の動力出力装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記内燃機関の冷却水の温度がしきい値以下であるときに、前記運転状態が前記排気再循環機構により排気の再循環を行なうことが好ましくない状態であると判断する、請求項7に記載の車両の動力出力装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記内燃機関の回転数に対する出力トルクが予め定められた動作線に沿って動作点が移動するように前記内燃機関を制御し、前記内燃機関の回転数が所定値を超えたときに前記いずれかの部品が過熱する運転状態に前記内燃機関が入ったと判断する、請求項6に記載の車両の動力出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−137530(P2009−137530A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318373(P2007−318373)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】