車両の発進制御装置
【課題】 車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる車両の発進制御装置を提供する。
【解決手段】 車両の発進時、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装した第2クラッチCL2をスリップ締結状態からロックアップ締結状態へと移行させる車両の発進制御装置において、クラッチジャダーの発生が予測または検出された場合には、予測または検出されない場合よりもスリップ締結状態からロックアップ締結状態への移行時間を短くする。
【解決手段】 車両の発進時、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装した第2クラッチCL2をスリップ締結状態からロックアップ締結状態へと移行させる車両の発進制御装置において、クラッチジャダーの発生が予測または検出された場合には、予測または検出されない場合よりもスリップ締結状態からロックアップ締結状態への移行時間を短くする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の発進制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の発進時、モータと駆動輪との間に介装したクラッチをスリップ締結状態とし、車速の上昇に応じてスリップ締結状態からロックアップ締結状態へと移行させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-323038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッチのスリップ締結状態が長時間継続すると、クラッチの摩擦材や潤滑油の温度上昇に起因してクラッチのμ-V特性(摩擦材の動摩擦係数特性と相対回転速度との関係特性)が変化し、クラッチジャダーと呼ばれるスリップ量のハンチングに伴う車両振動を発生させる場合がある。これが発生し継続するとき、乗員に不快感を与えるなどの要因となる。
本発明の目的は、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる車両の発進制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、クラッチジャダーの発生が予測または検出された場合には、クラッチジャダーの発生が予測または検出されない場合よりもスリップ締結状態からロックアップ締結状態への移行時間を短くする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明では、クラッチのスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇が抑えられ、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の発進制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラ10の制御ブロック図である。
【図3】目標駆動力マップである。
【図4】目標充放電量マップである。
【図5】モードマップである。
【図6】WSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図である。
【図7】WSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
【図8】実施例1のロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する動作点指令部400の制御ブロック図である。
【図9】実施例1のジャダー抑制制御を実現する処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施例1のジャダー抑制作用を示すタイムチャートである。
【図11】実施例2のロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する動作点指令部400の制御ブロック図である。
【図12】実施例2のジャダー抑制作用を示すタイムチャートである。
【図13】実施例3のジャダー抑制作用を示すタイムチャートである。
【図14】実施例4のジャダー抑制制御を実現する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両の発進制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
[駆動系の構成]
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。
図1は実施例1の発進制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、動力源であるモータジェネレータ(モータ)MGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0009】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。なお、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により作動し、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。具体的には、第1クラッチCL1は非制御時において、板ばねの付勢力によって完全締結しているノーマルクローズ型の乾式クラッチである。第1クラッチCL1の開放指令が出力されると、伝達トルク容量指令に応じた油圧がピストンに供給されてストロークし、ストローク量に応じた伝達トルク容量に設定される。所定以上のストロークが行われると、クラッチプレート間の接触が絶たれて開放する。また、ピストンにはクラッチ開放時のフリクションロスを軽減するために、クラッチプレートの接触が絶たれた後もさらにピストンに付与する油圧を高めて余分に所定量ストロークさせる。
【0010】
一方、第1クラッチCL1が開放された状態から締結するときは、ピストンに付与する油圧を徐々に低くする。すると、ピストンがストロークを開始し、所定量ストロークしたときにクラッチプレートが当接し始める(ガタ詰めに相当)。ちなみに、クラッチプレートが当接したか否かはエンジン回転数Neが上昇を開始したか否かで判断できる。それ以後は、ピストンに作用する油圧を低くするほど高い伝達トルク容量となる。なお、実施例1ではノーマルクローズ型の乾式クラッチとしたが、ノーマルオープン型でもよいし、湿式クラッチでも良いし、多板であっても単板であっても構わない。
【0011】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0012】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速VSPやアクセル開度APO等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。なお、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0013】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。
第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。
第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。
第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。なお、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0014】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として左右後輪RL,RRを動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として左右後輪RL,RRを動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として左右後輪RL,RRを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。
また、さらなるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0015】
[制御系の構成]
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換可能なCAN通信線11を介して接続されている。
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0016】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。なお、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0017】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18とドライバの操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからの各センサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。なお、アクセル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0018】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ(クラッチ出力回転数検出手段)22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2(第2クラッチトルク)を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検出する第2クラッチ温度センサ(クラッチ温度検出手段)10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bと、モータジェネレータMGの温度を検出するモータ温度センサ10cと、バッテリ4の温度を検出するバッテリ温度センサ10dとからの各センサ情報と、CAN通信線11を介して得られた情報とを入力する。
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0019】
図2は、実施例1の統合コントローラ10の制御ブロック図であり、統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
モード選択部200は、モードマップに基づいて目標モードを選択する。図5はモードマップを表す。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセル開度APOと車速VSPとから目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0020】
目標充放電演算部300では、図4に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線がSOC=50%に設定され、EVOFF線がSOC=35%に設定されている。
SOC≧50%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV走行モード領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。
SOC<35%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0021】
動作点指令部400では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチCL1の伝達トルク容量指令である第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。なお、シフトマップは、車速VSPとアクセル開度APOに基づいてあらかじめ目標変速段が設定されたものである。
【0022】
[WSC走行モードについて]
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。
WSC走行モードとは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、目標駆動力変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2を目標駆動力に応じた伝達トルク容量としてスリップ制御し、エンジンEとモータジェネレータMGの一方を用いて走行する。
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素を持たないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を共に完全締結した場合、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、さらに下限値が高くなる。また、目標駆動力が高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
【0023】
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、アクセル開度APOが大きく、モータジェネレータMGのみで目標駆動力を達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみでは目標駆動力を達成できない領域では、エンジン回転数Neを所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクTeを用いて走行するWSC走行モードを選択する。
【0024】
図6はWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、図7はWSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
WSC走行モードにおいて、ドライバがアクセルペダルを操作すると、図7に基づいてアクセル開度APOに応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速VSPに応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、図6に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
ここで、エンジンEの動作点をエンジン回転数NeとエンジントルクTeにより規定される点と定義する。図6に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線)上で運転することが望まれる。
しかし、上述のようにエンジン回転数Neを設定した場合、ドライバのアクセルペダル操作量によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
【0025】
一方、モータジェネレータMGは、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御が実行される。今、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGが目標回転数を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる。
このとき、モータジェネレータMGが出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクと目標駆動力との偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータMGでは、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、さらに、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
【0026】
あるエンジン回転数において、目標駆動力がα線上の駆動力よりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体はドライバの要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。
ただし、バッテリSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
【0027】
図6(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
図6(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
図6(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。目標駆動力に応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクTeを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつ目標駆動力を達成することができる。
【0028】
[WSC走行モードにおける発進時]
次に、WSC走行モードにおける発進時について説明する。
WSC走行モードからの発進時には、車速の上昇に応じて第2クラッチCL2のスリップ量を徐々に減らして行き、スリップ締結状態からロックアップ締結状態(完全締結状態)へと移行させるロックアップ制御を実施する。
ここで、上記ロックアップ制御中を含むWSC走行モードの継続により、第2クラッチCL2のスリップ締結状態が長時間続くと、第2クラッチCL2の摩擦材や潤滑油の温度上昇に起因してμ-V特性(摩擦材の動摩擦係数特性と相対回転速度との関係特性)が変化し、クラッチジャダーと呼ばれるスリップ量のハンチングに伴う車両振動を発生させる場合がある。
【0029】
そこで、実施例1では、WSC走行モードからの発進時におけるクラッチジャダーの発生を抑制することを狙いとし、第2クラッチ温度センサ10aにより検出された第2クラッチCL2の温度が所定温度以上である場合には、クラッチジャダーが発生すると予測し、第2クラッチCL2の温度が所定温度未満である場合(通常制御時と称す。)よりも第2クラッチCL2をより早くロックアップ締結状態へと移行させるジャダー抑制制御を実施する。
【0030】
図8は、上記ロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する動作点指令部(ジャダー抑制制御手段)400の制御ブロック図である。
目標スリップ回転数設定部401は、通常制御用の第2クラッチCL2の目標スリップ回転数を設定する。通常制御用の目標スリップ回転数は、車速VSPが高くなるほど低い値となるように設定し、例えば、車速VSPの上昇に対して一定の変化率で低下させるものとする。
加算器402は、通常制御用の目標スリップ回転数と第2クラッチ出力回転数センサ22により検出された第2クラッチ出力回転数N2outとを加算して通常制御用の目標入力回転数(モータジェネレータMGの目標回転数)を出力する。
【0031】
目標スリップ回転数設定部403は、ジャダー抑制制御用の第2クラッチCL2の目標スリップ回転数を設定する。ジャダー抑制制御用の目標スリップ回転数は、通常制御用の目標スリップ回転数と同様、車速VSPが高くなるほど低い値となるように設定するが、通常制御用の目標スリップ回転数よりも同じ車速での目標スリップ回転数をより小さな値とする。また、第2クラッチCL2の劣化度合いや温度履歴等を考慮して目標スリップ回転数を設定する。
【0032】
加算器404は、第2クラッチ出力回転数センサ22により検出された第2クラッチ出力回転数N2outとジャダー抑制制御用の目標スリップ回転数とを加算してジャダー抑制制御用の目標入力回転数を出力する。
切り替え器405は、後述するジャダー抑制制御許可条件が不成立である場合、通常制御用の目標入力回転数を目標入力回転数として出力し、ジャダー抑制制御許可条件が成立している場合、ジャダー抑制制御用の目標入力回転数を目標入力回転数として出力する。つまり、通常制御時には通常制御用の目標入力回転数をモータジェネレータMGの目標回転数とし、ジャダー抑制制御時にはジャダー抑制制御用の目標回転数をモータジェネレータMGの目標回転数とする。
【0033】
図9は、実施例1のジャダー抑制制御を実現する処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。以下の処理は、ロックアップ制御開始から終了までの間、所定の演算周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS2へ進み、NOの場合にはリターンへ進む。ここで、所定温度は、第2クラッチCL2にクラッチジャダーが発生すると予測できる温度とする。ステップS1は、クラッチジャダーの発生を予測するジャダー判定手段に相当する。
ステップS2では、アクセル開度APOが所定開度以下であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS3へ進み、NOの場合にはリターンへ進む。ここで、所定開度は、第2クラッチCL2をロックアップ締結状態としたとき駆動系に生じるショックがドライバに違和感を与えないレベルに抑えられるアクセル開度とする。つまり、アクセル開度APOが所定開度よりも大きい場合にはジャダー抑制制御を不許可とすることで、車両に大きなショックが発生してドライバに違和感を与えるのを抑制できる。
【0034】
ステップS3では、車速VSPが所定車速以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS4へ進み、NOの場合にはリターンへ進む。ここで、所定車速は、第2クラッチCL2をロックアップ締結状態としたときエンジンストールが発生しないと予測できる速度とする。つまり、車速VSPが所定車速未満である場合にはジャダー抑制制御を不許可とすることで、エンジンストールの発生を抑制できる。
上記ジャダー抑制制御許可条件は、ステップS1〜S3で全てYESと判定された場合に成立するものとする。
ステップS4では、ジャダー抑制制御を開始し、ステップS5へ進む。このステップでは、モータジェネレータMGの目標回転数を通常制御用からジャダー抑制制御用に切り替える。
ステップS5では、ロックアップ制御が終了しているか否か、すなわち、第2クラッチCL2がロックアップ締結状態であるか否かを判定し、YESの場合には本制御を終了してHEV走行モードの制御へと移行し、NOの場合にはステップS6へ進む。
【0035】
ステップS6では、車速VSPが所定車速からヒステリシス値を除いた値以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS4へ進み、NOの場合にはステップS7へ進む。所定車速はステップS3の所定車速と同じ値である。このステップの処理は、第2クラッチCL2の温度が所定温度付近にある場合に、通常制御とジャダー抑制制御とのハンチングを防止するためのものである。
ステップS7では、ジャダー抑制制御を終了し、リターンへ進む。このステップでは、モータジェネレータMGの目標回転数をジャダー抑制制御用から通常制御用へと戻す。
【0036】
次に、作用を説明する。
[ジャダー抑制作用]
図10は、実施例1のジャダー抑制作用を示すタイムチャートであり、時点t1よりも前の時点では、アクセル開度APOが所定開度以下であるが、第2クラッチCL2の温度が所定温度未満、かつ、車速VSPが所定車速未満であるため、ジャダー抑制制御許可条件は成立していない。よって、目標スリップ回転数は通常制御用の目標スリップ回転数となる。
時点t1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度に達し、かつ、車速VSPが所定車速以上となったため、ジャダー抑制制御許可条件が成立し、ジャダー抑制制御へと移行する。ジャダー抑制制御では、モータジェネレータMGの目標回転数を通常制御用からジャダー抑制制御用へと切り替えるため、目標スリップ回転数はジャダー抑制制御用の目標スリップ回転数となる。
【0037】
時点t1からt2までの期間では、目標スリップ回転数が通常制御時よりも大きな勾配で減少するため、第2クラッチCL2の入力回転数と出力回転数との差、すなわち、第2クラッチCL2のスリップ量は、通常制御時と比較して少ない。
時点t2では、目標スリップ回転数が所定回転数以下となったため、WSC走行モードからHEV走行モードへと遷移し、モータジェネレータMGの制御方式が回転数制御からトルク制御へと切り替わり、第2クラッチCL2の目標クラッチ油圧(目標第2クラッチ伝達トルク容量を得るための油圧)が目標駆動力に応じた値からロックアップ時油圧(ロックアップ締結状態となる油圧)に向かって上昇を開始する。
時点t3では、第2クラッチCL2のスリップ回転数がゼロに収束する。
【0038】
ここで、仮に第2クラッチCL2の温度が所定温度に達してもジャダー抑制制御を実施せず、通常制御を継続した場合、時点t4で目標スリップ回転数が所定回転数以下となり、時点t5で第2クラッチCL2のスリップ回転数がゼロとなる。つまり、時点t5までは第2クラッチCL2のスリップ量がゼロに収束せず、スリップ締結状態が継続するため、温度上昇によりクラッチジャダーの発生する可能性が高くなる。
これに対し、実施例1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上となった場合にジャダー抑制制御を実施することで、第2クラッチCL2のスリップ回転数をより早い時点でゼロに収束させることができる。つまり、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇を抑え、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる。
【0039】
実施例1では、第2クラッチCL2の温度に基づいてクラッチジャダーの発生を予測し、当該クラッチジャダーの発生が予測された場合にジャダー抑制制御を実施している。クラッチジャダーは、第2クラッチCL2のμ-V特性の変化により発生し、μ-V特性の変化は、第2クラッチCL2の摩擦材や潤滑油の温度上昇に起因するため、第2クラッチCL2の温度を監視することで、クラッチジャダーの発生を予測できる。よって、第2クラッチCL2の温度に基づいてクラッチジャダーの発生を予測し、当該クラッチジャダーの発生が予測された場合にジャダー抑制制御を実施することで、クラッチジャダーの発生を未然に防ぐ可能性を高めることができる。
【0040】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の発進制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 車両の発進時、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装した第2クラッチCL2をスリップ締結状態からロックアップ締結状態へと移行させる車両の発進制御装置において、クラッチジャダーの発生を予測するジャダー判定手段(ステップS1)と、クラッチジャダーの発生が予測された場合には、予測されない場合よりもスリップ締結状態からロックアップ締結状態への移行時間を短くするジャダー抑制制御を実行する動作点指令部400と、を備えた。
これにより、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇が抑えられて車両発進時のクラッチジャダーを抑制でき、運転性のロバスト性を確保できる。
【0041】
(2) 動作点指令部400は、ジャダー抑制制御時、第2クラッチCL2のスリップ回転数がゼロに収束する時間を通常制御時よりも短くするため、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできる。
【0042】
(3) 第2クラッチCL2の温度を検出する第2クラッチ温度センサ10aを備え、ジャダー判定手段は、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上の場合に、ジャダーの発生を予測するため、クラッチジャダーの発生を未然に防ぐ可能性を高めることができる。
【0043】
〔実施例2〕
実施例2では、ロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する構成のみ実施例1と相違する。実施例1と共通する構成については図示および説明を省略する。
図11は、実施例2のロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する動作点指令部400の制御ブロック図である。
安全率乗算器411は、第2クラッチCL2の推定入力トルク(モータジェネレータMGの推定出力トルク)に所定の安全率を乗算して求めたロックアップ時油圧を出力する。
【0044】
スリップ量大用テーブル412は、あらかじめ設定された推定入力トルクに対する油圧勾配[KPa/sec]のテーブルを参照し、推定入力トルクに応じた油圧勾配を出力する。このテーブルは、推定入力トルクが大きくなるほど急勾配となる特性とする。
スリップ量小用テーブル413は、あらかじめ設定された推定入力トルクに対する油圧勾配のテーブルを参照し、推定入力トルクに応じた油圧勾配を出力する。このテーブルは、推定入力トルクが大きくなるほど急勾配となる特性とし、スリップ量大用テーブル412よりも緩やかな勾配とする。
【0045】
切り替え器414は、第2クラッチCL2のスリップ回転数を条件として入力し、スリップ回転数が所定の回転数以上である場合はスリップ量大用テーブル412の出力を通常制御用の油圧勾配として出力し、所定の回転数未満である場合はスリップ量小用テーブル413の出力を通常制御用の油圧勾配として出力する。
ジャダー用テーブル415は、あらかじめ設定された第2クラッチCL2の温度に対する油圧勾配のテーブルを参照し、推定入力トルクに応じた油圧勾配を出力する。このテーブルは、第2クラッチCL2の温度が高くなるほど急勾配となる特性とする。また、第2クラッチCL2の劣化度合いや温度履歴等を考慮して油圧勾配を設定する。
【0046】
切り替え器416は、ジャダー抑制制御許可条件が不成立である場合、切り替え器414の出力を通常制御用の油圧勾配として出力し、ジャダー抑制制御許可条件が成立している場合、ジャダー用テーブル415の出力をジャダー抑制制御用の油圧勾配として出力する。
ロックアップ移行時目標クラッチ油圧演算部417は、第2クラッチCL2の油圧が制御開始時油圧(WSC制御開始時点での第2クラッチCL2の油圧)からロックアップ時油圧まで切り替え器416から出力された油圧勾配で変化するような目標クラッチ油圧を演算する。つまり、通常制御時には通常制御用の油圧勾配に基づいて目標クラッチ油圧を演算し、ジャダー抑制制御時にはジャダー抑制制御用の油圧勾配に基づいて目標クラッチ油圧を演算する。
【0047】
実施例2のジャダー抑制制御を実現する処理の流れは、図9に示したフローチャートと同じであるが、実施例2では、ステップS5のジャダー抑制制御開始時において、目標クラッチ油圧を通常制御用からジャダー抑制制御用に切り替え、ステップS7のジャダー抑制制御終了時において、目標クラッチ油圧をジャダー抑制制御用から通常制御用に切り替える。
【0048】
次に、作用を説明する。
[ジャダー抑制作用]
図12は、実施例2のジャダー抑制作用を示すタイムチャートであり、時点t1よりも前の時点は、図10に示したタイムチャートと同じであるため、説明を省略する。
時点t1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度に達し、かつ、車速VSPが所定車速以上となったため、ジャダー抑制制御許可条件が成立し、ジャダー抑制制御へと移行する。ジャダー抑制制御では、第2クラッチCL2の目標クラッチ油圧を通常制御用からジャダー抑制制御用へと切り替える。
時点t1からt2までの期間では、目標クラッチ油圧が通常制御時よりも大きな勾配で立ち上がるため、第2クラッチCL2の入力回転数と出力回転数との差、すなわち、第2クラッチCL2のスリップ量は、通常制御時と比較して少ない。
時点t2では、第2クラッチCL2のスリップ量がゼロに収束し、時点t3では、目標クラッチ油圧がロックアップ油圧に到達する。
【0049】
ここで、仮に第2クラッチCL2の温度が所定温度に達してもジャダー抑制制御を実施せず、通常制御を継続した場合、スリップ量大用テーブル412またはスリップ量小用テーブル413を参照して求めた油圧勾配によって目標クラッチ油圧が設定されるため、時点t4までスリップ量がゼロに収束しない。つまり、時点t4までは第2クラッチCL2のスリップ締結状態が継続するため、温度上昇によりクラッチジャダーの発生する可能性が高くなる。
これに対し、実施例2では、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上となった場合にジャダー抑制制御を実施することで、第2クラッチCL2の油圧をより早くロックアップ時油圧まで上昇させることができる。つまり、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇を抑え、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる。
【0050】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両の発進制御装置にあっては、実施例1の効果(1),(3)に加え、以下の効果を奏する。
(4) 動作点指令部400は、ジャダー抑制制御時、第2クラッチCL2の伝達トルク容量の増加勾配を大きくするため、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできる。
【0051】
〔実施例3〕
実施例3では、ロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する構成のみ実施例1と相違する。実施例1と共通する構成については図示および説明を省略する。
実施例3では、第2クラッチCL2の温度が所定値以上となったとき、目標モータジェネレータトルクを目標エンジントルクと目標駆動力との偏差を埋める値よりも低下させて第2クラッチCL2の入力トルクを抑制する。このとき、第2クラッチCL2の温度が高いほど入力トルクの低下量を大きくする。入力トルクを低下させる時間は、一定時間としてもよいし、第2クラッチCL2のスリップ量が所定量以下となるまでとしてもよい。
【0052】
実施例3のジャダー抑制制御を実現する処理の流れは、図9に示したフローチャートと同じであるが、実施例3では、ステップS5のジャダー抑制制御開始時において、入力トルクを低下させ、ステップS7のジャダー抑制制御終了時において、入力トルクを復帰させる。
【0053】
次に、作用を説明する。
[ジャダー抑制作用]
図13は、実施例3のジャダー抑制作用を示すタイムチャートであり、時点t1よりも前の時点は、図10に示したタイムチャートと同じであるため、説明を省略する。
時点t1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度に達し、かつ、車速VSPが所定車速以上となったため、ジャダー抑制制御許可条件が成立し、ジャダー抑制制御へと移行する。ジャダー抑制制御では、第2クラッチCL2の温度に応じて目標モータジェネレータトルクを低下させる。
【0054】
時点t1からt2までの期間では、目標モータジェネレータトルクの低下に応じて入力トルクが低下するため、第2クラッチCL2の入力回転数と出力回転数との差、すなわち、第2クラッチCL2のスリップ量は、通常制御時と比較して少ない。
時点t2では、時点t1から一定時間が経過したため、または第2クラッチCL2のスリップ量が所定量以下となったため、目標モータジェネレータトルクを復帰させる。また、第2クラッチCL2の目標クラッチ油圧が目標駆動力に応じた値からロックアップ時油圧に向かって上昇を開始する。
時点t3では、第2クラッチCL2のスリップ回転数がゼロに収束する。
【0055】
ここで、仮に第2クラッチCL2の温度が所定温度に達してもジャダー抑制制御を実施せず、通常制御を継続した場合、第2クラッチCL2の入力トルクは一定であるため、時点t4までスリップ量がゼロに収束しない。つまり、時点t4までは第2クラッチCL2のスリップ締結状態が継続するため、温度上昇によりクラッチジャダーの発生する可能性が高くなる。
これに対し、実施例3では、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上となった場合にジャダー抑制制御を実施することで、第2クラッチCL2のスリップ量を抑えてより早い時点でスリップ量をゼロに収束させることができる。つまり、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇を抑え、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる。
【0056】
次に、効果を説明する。
実施例3の車両の発進制御装置にあっては、実施例1の効果(1),(3)に加え、以下の効果を奏する。
(5) 動作点指令部400は、ジャダー抑制制御時、第2クラッチCL2の入力トルクを小さくするため、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできる。
【0057】
〔実施例4〕
実施例4では、ジャダー抑制制御許可条件のみ実施例1と相違する。実施例1と共通する構成については図示および説明を省略する。
図14は、実施例4のジャダー抑制制御を実現する処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、図9に示したフローチャートと同じ処理を行うステップには、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
ステップS11では、ジャダーが発生しているか否かを判定し、YESの場合はステップS4へ進み、NOの場合はリターンへ進む。ここでは、第2クラッチ出力回転数センサ22により検出された第2クラッチ出力回転数N2outを読み込み、第2クラッチ出力回転数N2outがモータジェネレータ回転数Nmに対して変動しているとき、ジャダーが発生していると判定する。ステップS11は、ジャダーの発生を検出するジャダー判定手段に相当する。
【0058】
次に、作用を説明する。
[ジャダー抑制作用]
実施例4では、第2クラッチ出力回転数N2outに変動によりクラッチジャダーの発生を検出し、当該クラッチジャダーの発生が検出された場合にジャダー抑制制御を実施している。クラッチジャダーが発生すると、スリップ量のハンチングによりモータジェネレータ回転数Nmに対して第2クラッチ出力回転数N2outが変動するため、第2クラッチ出力回転数N2outを監視することで、クラッチジャダーの発生を検出できる。よって、第2クラッチ出力回転数N2outの変動からクラッチジャダーの発生を検出し、当該クラッチジャダーの発生が検出された場合は即座にジャダー抑制制御を実施することで、クラッチジャダーが継続するのを抑制でき、ドライバに与える違和感を軽減できる。
【0059】
次に、効果を説明する。
実施例4の車両の発進制御装置にあっては、実施例1の効果(1),(2)に加え、以下の効果を奏する。
(6) 第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22を備え、ジャダー判定手段(S11)は、第2クラッチ出力回転数N2outが変動している場合、ジャダーが発生していると判定するため、クラッチジャダーが継続するのを抑制してドライバに与える違和感を軽減できる。
【0060】
(他の実施例)
以上、本発明に係る車両の発進制御装置を、各実施例に基づいて説明したが、上記構成に限られず本発明の範囲を逸脱しない範囲で他の構成を取り得る。例えば、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
実施例では、第2クラッチ温度センサ10aを用いて第2クラッチCL2の温度を実測する例を示したが、スリップ回転数等に基づいて温度推定を行ってもよい。
実施例4において、実施例1のジャダー抑制制御に代えて、実施例2または3のジャダー抑制制御を実施してもよい。
【符号の説明】
【0061】
10a クラッチ温度センサ(クラッチ温度検出手段)
22 クラッチ出力回転数センサ(クラッチ出力回転数検出手段)
400 動作点指令部(ジャダー抑制制御手段)
CL2 第2クラッチ(クラッチ)
E エンジン(動力源)
MG モータジェネレータ
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
S1 ジャダー判定手段
S11 ジャダー判定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の発進制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の発進時、モータと駆動輪との間に介装したクラッチをスリップ締結状態とし、車速の上昇に応じてスリップ締結状態からロックアップ締結状態へと移行させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-323038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッチのスリップ締結状態が長時間継続すると、クラッチの摩擦材や潤滑油の温度上昇に起因してクラッチのμ-V特性(摩擦材の動摩擦係数特性と相対回転速度との関係特性)が変化し、クラッチジャダーと呼ばれるスリップ量のハンチングに伴う車両振動を発生させる場合がある。これが発生し継続するとき、乗員に不快感を与えるなどの要因となる。
本発明の目的は、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる車両の発進制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、クラッチジャダーの発生が予測または検出された場合には、クラッチジャダーの発生が予測または検出されない場合よりもスリップ締結状態からロックアップ締結状態への移行時間を短くする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明では、クラッチのスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇が抑えられ、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の発進制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラ10の制御ブロック図である。
【図3】目標駆動力マップである。
【図4】目標充放電量マップである。
【図5】モードマップである。
【図6】WSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図である。
【図7】WSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
【図8】実施例1のロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する動作点指令部400の制御ブロック図である。
【図9】実施例1のジャダー抑制制御を実現する処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施例1のジャダー抑制作用を示すタイムチャートである。
【図11】実施例2のロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する動作点指令部400の制御ブロック図である。
【図12】実施例2のジャダー抑制作用を示すタイムチャートである。
【図13】実施例3のジャダー抑制作用を示すタイムチャートである。
【図14】実施例4のジャダー抑制制御を実現する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両の発進制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
[駆動系の構成]
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。
図1は実施例1の発進制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、動力源であるモータジェネレータ(モータ)MGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0009】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。なお、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により作動し、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。具体的には、第1クラッチCL1は非制御時において、板ばねの付勢力によって完全締結しているノーマルクローズ型の乾式クラッチである。第1クラッチCL1の開放指令が出力されると、伝達トルク容量指令に応じた油圧がピストンに供給されてストロークし、ストローク量に応じた伝達トルク容量に設定される。所定以上のストロークが行われると、クラッチプレート間の接触が絶たれて開放する。また、ピストンにはクラッチ開放時のフリクションロスを軽減するために、クラッチプレートの接触が絶たれた後もさらにピストンに付与する油圧を高めて余分に所定量ストロークさせる。
【0010】
一方、第1クラッチCL1が開放された状態から締結するときは、ピストンに付与する油圧を徐々に低くする。すると、ピストンがストロークを開始し、所定量ストロークしたときにクラッチプレートが当接し始める(ガタ詰めに相当)。ちなみに、クラッチプレートが当接したか否かはエンジン回転数Neが上昇を開始したか否かで判断できる。それ以後は、ピストンに作用する油圧を低くするほど高い伝達トルク容量となる。なお、実施例1ではノーマルクローズ型の乾式クラッチとしたが、ノーマルオープン型でもよいし、湿式クラッチでも良いし、多板であっても単板であっても構わない。
【0011】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0012】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速VSPやアクセル開度APO等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。なお、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0013】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。
第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。
第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。
第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。なお、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0014】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として左右後輪RL,RRを動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として左右後輪RL,RRを動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として左右後輪RL,RRを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。
また、さらなるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0015】
[制御系の構成]
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換可能なCAN通信線11を介して接続されている。
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0016】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。なお、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0017】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18とドライバの操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからの各センサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。なお、アクセル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0018】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ(クラッチ出力回転数検出手段)22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2(第2クラッチトルク)を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検出する第2クラッチ温度センサ(クラッチ温度検出手段)10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bと、モータジェネレータMGの温度を検出するモータ温度センサ10cと、バッテリ4の温度を検出するバッテリ温度センサ10dとからの各センサ情報と、CAN通信線11を介して得られた情報とを入力する。
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0019】
図2は、実施例1の統合コントローラ10の制御ブロック図であり、統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
モード選択部200は、モードマップに基づいて目標モードを選択する。図5はモードマップを表す。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセル開度APOと車速VSPとから目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0020】
目標充放電演算部300では、図4に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線がSOC=50%に設定され、EVOFF線がSOC=35%に設定されている。
SOC≧50%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV走行モード領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。
SOC<35%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0021】
動作点指令部400では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチCL1の伝達トルク容量指令である第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。なお、シフトマップは、車速VSPとアクセル開度APOに基づいてあらかじめ目標変速段が設定されたものである。
【0022】
[WSC走行モードについて]
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。
WSC走行モードとは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、目標駆動力変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2を目標駆動力に応じた伝達トルク容量としてスリップ制御し、エンジンEとモータジェネレータMGの一方を用いて走行する。
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素を持たないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を共に完全締結した場合、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、さらに下限値が高くなる。また、目標駆動力が高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
【0023】
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、アクセル開度APOが大きく、モータジェネレータMGのみで目標駆動力を達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみでは目標駆動力を達成できない領域では、エンジン回転数Neを所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクTeを用いて走行するWSC走行モードを選択する。
【0024】
図6はWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、図7はWSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
WSC走行モードにおいて、ドライバがアクセルペダルを操作すると、図7に基づいてアクセル開度APOに応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速VSPに応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、図6に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
ここで、エンジンEの動作点をエンジン回転数NeとエンジントルクTeにより規定される点と定義する。図6に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線)上で運転することが望まれる。
しかし、上述のようにエンジン回転数Neを設定した場合、ドライバのアクセルペダル操作量によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
【0025】
一方、モータジェネレータMGは、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御が実行される。今、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGが目標回転数を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる。
このとき、モータジェネレータMGが出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクと目標駆動力との偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータMGでは、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、さらに、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
【0026】
あるエンジン回転数において、目標駆動力がα線上の駆動力よりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体はドライバの要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。
ただし、バッテリSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
【0027】
図6(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
図6(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
図6(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。目標駆動力に応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクTeを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつ目標駆動力を達成することができる。
【0028】
[WSC走行モードにおける発進時]
次に、WSC走行モードにおける発進時について説明する。
WSC走行モードからの発進時には、車速の上昇に応じて第2クラッチCL2のスリップ量を徐々に減らして行き、スリップ締結状態からロックアップ締結状態(完全締結状態)へと移行させるロックアップ制御を実施する。
ここで、上記ロックアップ制御中を含むWSC走行モードの継続により、第2クラッチCL2のスリップ締結状態が長時間続くと、第2クラッチCL2の摩擦材や潤滑油の温度上昇に起因してμ-V特性(摩擦材の動摩擦係数特性と相対回転速度との関係特性)が変化し、クラッチジャダーと呼ばれるスリップ量のハンチングに伴う車両振動を発生させる場合がある。
【0029】
そこで、実施例1では、WSC走行モードからの発進時におけるクラッチジャダーの発生を抑制することを狙いとし、第2クラッチ温度センサ10aにより検出された第2クラッチCL2の温度が所定温度以上である場合には、クラッチジャダーが発生すると予測し、第2クラッチCL2の温度が所定温度未満である場合(通常制御時と称す。)よりも第2クラッチCL2をより早くロックアップ締結状態へと移行させるジャダー抑制制御を実施する。
【0030】
図8は、上記ロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する動作点指令部(ジャダー抑制制御手段)400の制御ブロック図である。
目標スリップ回転数設定部401は、通常制御用の第2クラッチCL2の目標スリップ回転数を設定する。通常制御用の目標スリップ回転数は、車速VSPが高くなるほど低い値となるように設定し、例えば、車速VSPの上昇に対して一定の変化率で低下させるものとする。
加算器402は、通常制御用の目標スリップ回転数と第2クラッチ出力回転数センサ22により検出された第2クラッチ出力回転数N2outとを加算して通常制御用の目標入力回転数(モータジェネレータMGの目標回転数)を出力する。
【0031】
目標スリップ回転数設定部403は、ジャダー抑制制御用の第2クラッチCL2の目標スリップ回転数を設定する。ジャダー抑制制御用の目標スリップ回転数は、通常制御用の目標スリップ回転数と同様、車速VSPが高くなるほど低い値となるように設定するが、通常制御用の目標スリップ回転数よりも同じ車速での目標スリップ回転数をより小さな値とする。また、第2クラッチCL2の劣化度合いや温度履歴等を考慮して目標スリップ回転数を設定する。
【0032】
加算器404は、第2クラッチ出力回転数センサ22により検出された第2クラッチ出力回転数N2outとジャダー抑制制御用の目標スリップ回転数とを加算してジャダー抑制制御用の目標入力回転数を出力する。
切り替え器405は、後述するジャダー抑制制御許可条件が不成立である場合、通常制御用の目標入力回転数を目標入力回転数として出力し、ジャダー抑制制御許可条件が成立している場合、ジャダー抑制制御用の目標入力回転数を目標入力回転数として出力する。つまり、通常制御時には通常制御用の目標入力回転数をモータジェネレータMGの目標回転数とし、ジャダー抑制制御時にはジャダー抑制制御用の目標回転数をモータジェネレータMGの目標回転数とする。
【0033】
図9は、実施例1のジャダー抑制制御を実現する処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。以下の処理は、ロックアップ制御開始から終了までの間、所定の演算周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS2へ進み、NOの場合にはリターンへ進む。ここで、所定温度は、第2クラッチCL2にクラッチジャダーが発生すると予測できる温度とする。ステップS1は、クラッチジャダーの発生を予測するジャダー判定手段に相当する。
ステップS2では、アクセル開度APOが所定開度以下であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS3へ進み、NOの場合にはリターンへ進む。ここで、所定開度は、第2クラッチCL2をロックアップ締結状態としたとき駆動系に生じるショックがドライバに違和感を与えないレベルに抑えられるアクセル開度とする。つまり、アクセル開度APOが所定開度よりも大きい場合にはジャダー抑制制御を不許可とすることで、車両に大きなショックが発生してドライバに違和感を与えるのを抑制できる。
【0034】
ステップS3では、車速VSPが所定車速以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS4へ進み、NOの場合にはリターンへ進む。ここで、所定車速は、第2クラッチCL2をロックアップ締結状態としたときエンジンストールが発生しないと予測できる速度とする。つまり、車速VSPが所定車速未満である場合にはジャダー抑制制御を不許可とすることで、エンジンストールの発生を抑制できる。
上記ジャダー抑制制御許可条件は、ステップS1〜S3で全てYESと判定された場合に成立するものとする。
ステップS4では、ジャダー抑制制御を開始し、ステップS5へ進む。このステップでは、モータジェネレータMGの目標回転数を通常制御用からジャダー抑制制御用に切り替える。
ステップS5では、ロックアップ制御が終了しているか否か、すなわち、第2クラッチCL2がロックアップ締結状態であるか否かを判定し、YESの場合には本制御を終了してHEV走行モードの制御へと移行し、NOの場合にはステップS6へ進む。
【0035】
ステップS6では、車速VSPが所定車速からヒステリシス値を除いた値以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS4へ進み、NOの場合にはステップS7へ進む。所定車速はステップS3の所定車速と同じ値である。このステップの処理は、第2クラッチCL2の温度が所定温度付近にある場合に、通常制御とジャダー抑制制御とのハンチングを防止するためのものである。
ステップS7では、ジャダー抑制制御を終了し、リターンへ進む。このステップでは、モータジェネレータMGの目標回転数をジャダー抑制制御用から通常制御用へと戻す。
【0036】
次に、作用を説明する。
[ジャダー抑制作用]
図10は、実施例1のジャダー抑制作用を示すタイムチャートであり、時点t1よりも前の時点では、アクセル開度APOが所定開度以下であるが、第2クラッチCL2の温度が所定温度未満、かつ、車速VSPが所定車速未満であるため、ジャダー抑制制御許可条件は成立していない。よって、目標スリップ回転数は通常制御用の目標スリップ回転数となる。
時点t1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度に達し、かつ、車速VSPが所定車速以上となったため、ジャダー抑制制御許可条件が成立し、ジャダー抑制制御へと移行する。ジャダー抑制制御では、モータジェネレータMGの目標回転数を通常制御用からジャダー抑制制御用へと切り替えるため、目標スリップ回転数はジャダー抑制制御用の目標スリップ回転数となる。
【0037】
時点t1からt2までの期間では、目標スリップ回転数が通常制御時よりも大きな勾配で減少するため、第2クラッチCL2の入力回転数と出力回転数との差、すなわち、第2クラッチCL2のスリップ量は、通常制御時と比較して少ない。
時点t2では、目標スリップ回転数が所定回転数以下となったため、WSC走行モードからHEV走行モードへと遷移し、モータジェネレータMGの制御方式が回転数制御からトルク制御へと切り替わり、第2クラッチCL2の目標クラッチ油圧(目標第2クラッチ伝達トルク容量を得るための油圧)が目標駆動力に応じた値からロックアップ時油圧(ロックアップ締結状態となる油圧)に向かって上昇を開始する。
時点t3では、第2クラッチCL2のスリップ回転数がゼロに収束する。
【0038】
ここで、仮に第2クラッチCL2の温度が所定温度に達してもジャダー抑制制御を実施せず、通常制御を継続した場合、時点t4で目標スリップ回転数が所定回転数以下となり、時点t5で第2クラッチCL2のスリップ回転数がゼロとなる。つまり、時点t5までは第2クラッチCL2のスリップ量がゼロに収束せず、スリップ締結状態が継続するため、温度上昇によりクラッチジャダーの発生する可能性が高くなる。
これに対し、実施例1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上となった場合にジャダー抑制制御を実施することで、第2クラッチCL2のスリップ回転数をより早い時点でゼロに収束させることができる。つまり、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇を抑え、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる。
【0039】
実施例1では、第2クラッチCL2の温度に基づいてクラッチジャダーの発生を予測し、当該クラッチジャダーの発生が予測された場合にジャダー抑制制御を実施している。クラッチジャダーは、第2クラッチCL2のμ-V特性の変化により発生し、μ-V特性の変化は、第2クラッチCL2の摩擦材や潤滑油の温度上昇に起因するため、第2クラッチCL2の温度を監視することで、クラッチジャダーの発生を予測できる。よって、第2クラッチCL2の温度に基づいてクラッチジャダーの発生を予測し、当該クラッチジャダーの発生が予測された場合にジャダー抑制制御を実施することで、クラッチジャダーの発生を未然に防ぐ可能性を高めることができる。
【0040】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の発進制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 車両の発進時、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装した第2クラッチCL2をスリップ締結状態からロックアップ締結状態へと移行させる車両の発進制御装置において、クラッチジャダーの発生を予測するジャダー判定手段(ステップS1)と、クラッチジャダーの発生が予測された場合には、予測されない場合よりもスリップ締結状態からロックアップ締結状態への移行時間を短くするジャダー抑制制御を実行する動作点指令部400と、を備えた。
これにより、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇が抑えられて車両発進時のクラッチジャダーを抑制でき、運転性のロバスト性を確保できる。
【0041】
(2) 動作点指令部400は、ジャダー抑制制御時、第2クラッチCL2のスリップ回転数がゼロに収束する時間を通常制御時よりも短くするため、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできる。
【0042】
(3) 第2クラッチCL2の温度を検出する第2クラッチ温度センサ10aを備え、ジャダー判定手段は、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上の場合に、ジャダーの発生を予測するため、クラッチジャダーの発生を未然に防ぐ可能性を高めることができる。
【0043】
〔実施例2〕
実施例2では、ロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する構成のみ実施例1と相違する。実施例1と共通する構成については図示および説明を省略する。
図11は、実施例2のロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する動作点指令部400の制御ブロック図である。
安全率乗算器411は、第2クラッチCL2の推定入力トルク(モータジェネレータMGの推定出力トルク)に所定の安全率を乗算して求めたロックアップ時油圧を出力する。
【0044】
スリップ量大用テーブル412は、あらかじめ設定された推定入力トルクに対する油圧勾配[KPa/sec]のテーブルを参照し、推定入力トルクに応じた油圧勾配を出力する。このテーブルは、推定入力トルクが大きくなるほど急勾配となる特性とする。
スリップ量小用テーブル413は、あらかじめ設定された推定入力トルクに対する油圧勾配のテーブルを参照し、推定入力トルクに応じた油圧勾配を出力する。このテーブルは、推定入力トルクが大きくなるほど急勾配となる特性とし、スリップ量大用テーブル412よりも緩やかな勾配とする。
【0045】
切り替え器414は、第2クラッチCL2のスリップ回転数を条件として入力し、スリップ回転数が所定の回転数以上である場合はスリップ量大用テーブル412の出力を通常制御用の油圧勾配として出力し、所定の回転数未満である場合はスリップ量小用テーブル413の出力を通常制御用の油圧勾配として出力する。
ジャダー用テーブル415は、あらかじめ設定された第2クラッチCL2の温度に対する油圧勾配のテーブルを参照し、推定入力トルクに応じた油圧勾配を出力する。このテーブルは、第2クラッチCL2の温度が高くなるほど急勾配となる特性とする。また、第2クラッチCL2の劣化度合いや温度履歴等を考慮して油圧勾配を設定する。
【0046】
切り替え器416は、ジャダー抑制制御許可条件が不成立である場合、切り替え器414の出力を通常制御用の油圧勾配として出力し、ジャダー抑制制御許可条件が成立している場合、ジャダー用テーブル415の出力をジャダー抑制制御用の油圧勾配として出力する。
ロックアップ移行時目標クラッチ油圧演算部417は、第2クラッチCL2の油圧が制御開始時油圧(WSC制御開始時点での第2クラッチCL2の油圧)からロックアップ時油圧まで切り替え器416から出力された油圧勾配で変化するような目標クラッチ油圧を演算する。つまり、通常制御時には通常制御用の油圧勾配に基づいて目標クラッチ油圧を演算し、ジャダー抑制制御時にはジャダー抑制制御用の油圧勾配に基づいて目標クラッチ油圧を演算する。
【0047】
実施例2のジャダー抑制制御を実現する処理の流れは、図9に示したフローチャートと同じであるが、実施例2では、ステップS5のジャダー抑制制御開始時において、目標クラッチ油圧を通常制御用からジャダー抑制制御用に切り替え、ステップS7のジャダー抑制制御終了時において、目標クラッチ油圧をジャダー抑制制御用から通常制御用に切り替える。
【0048】
次に、作用を説明する。
[ジャダー抑制作用]
図12は、実施例2のジャダー抑制作用を示すタイムチャートであり、時点t1よりも前の時点は、図10に示したタイムチャートと同じであるため、説明を省略する。
時点t1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度に達し、かつ、車速VSPが所定車速以上となったため、ジャダー抑制制御許可条件が成立し、ジャダー抑制制御へと移行する。ジャダー抑制制御では、第2クラッチCL2の目標クラッチ油圧を通常制御用からジャダー抑制制御用へと切り替える。
時点t1からt2までの期間では、目標クラッチ油圧が通常制御時よりも大きな勾配で立ち上がるため、第2クラッチCL2の入力回転数と出力回転数との差、すなわち、第2クラッチCL2のスリップ量は、通常制御時と比較して少ない。
時点t2では、第2クラッチCL2のスリップ量がゼロに収束し、時点t3では、目標クラッチ油圧がロックアップ油圧に到達する。
【0049】
ここで、仮に第2クラッチCL2の温度が所定温度に達してもジャダー抑制制御を実施せず、通常制御を継続した場合、スリップ量大用テーブル412またはスリップ量小用テーブル413を参照して求めた油圧勾配によって目標クラッチ油圧が設定されるため、時点t4までスリップ量がゼロに収束しない。つまり、時点t4までは第2クラッチCL2のスリップ締結状態が継続するため、温度上昇によりクラッチジャダーの発生する可能性が高くなる。
これに対し、実施例2では、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上となった場合にジャダー抑制制御を実施することで、第2クラッチCL2の油圧をより早くロックアップ時油圧まで上昇させることができる。つまり、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇を抑え、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる。
【0050】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両の発進制御装置にあっては、実施例1の効果(1),(3)に加え、以下の効果を奏する。
(4) 動作点指令部400は、ジャダー抑制制御時、第2クラッチCL2の伝達トルク容量の増加勾配を大きくするため、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできる。
【0051】
〔実施例3〕
実施例3では、ロックアップ制御およびジャダー抑制制御を実現する構成のみ実施例1と相違する。実施例1と共通する構成については図示および説明を省略する。
実施例3では、第2クラッチCL2の温度が所定値以上となったとき、目標モータジェネレータトルクを目標エンジントルクと目標駆動力との偏差を埋める値よりも低下させて第2クラッチCL2の入力トルクを抑制する。このとき、第2クラッチCL2の温度が高いほど入力トルクの低下量を大きくする。入力トルクを低下させる時間は、一定時間としてもよいし、第2クラッチCL2のスリップ量が所定量以下となるまでとしてもよい。
【0052】
実施例3のジャダー抑制制御を実現する処理の流れは、図9に示したフローチャートと同じであるが、実施例3では、ステップS5のジャダー抑制制御開始時において、入力トルクを低下させ、ステップS7のジャダー抑制制御終了時において、入力トルクを復帰させる。
【0053】
次に、作用を説明する。
[ジャダー抑制作用]
図13は、実施例3のジャダー抑制作用を示すタイムチャートであり、時点t1よりも前の時点は、図10に示したタイムチャートと同じであるため、説明を省略する。
時点t1では、第2クラッチCL2の温度が所定温度に達し、かつ、車速VSPが所定車速以上となったため、ジャダー抑制制御許可条件が成立し、ジャダー抑制制御へと移行する。ジャダー抑制制御では、第2クラッチCL2の温度に応じて目標モータジェネレータトルクを低下させる。
【0054】
時点t1からt2までの期間では、目標モータジェネレータトルクの低下に応じて入力トルクが低下するため、第2クラッチCL2の入力回転数と出力回転数との差、すなわち、第2クラッチCL2のスリップ量は、通常制御時と比較して少ない。
時点t2では、時点t1から一定時間が経過したため、または第2クラッチCL2のスリップ量が所定量以下となったため、目標モータジェネレータトルクを復帰させる。また、第2クラッチCL2の目標クラッチ油圧が目標駆動力に応じた値からロックアップ時油圧に向かって上昇を開始する。
時点t3では、第2クラッチCL2のスリップ回転数がゼロに収束する。
【0055】
ここで、仮に第2クラッチCL2の温度が所定温度に達してもジャダー抑制制御を実施せず、通常制御を継続した場合、第2クラッチCL2の入力トルクは一定であるため、時点t4までスリップ量がゼロに収束しない。つまり、時点t4までは第2クラッチCL2のスリップ締結状態が継続するため、温度上昇によりクラッチジャダーの発生する可能性が高くなる。
これに対し、実施例3では、第2クラッチCL2の温度が所定温度以上となった場合にジャダー抑制制御を実施することで、第2クラッチCL2のスリップ量を抑えてより早い時点でスリップ量をゼロに収束させることができる。つまり、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできるため、摩擦材や潤滑油の温度上昇を抑え、車両発進時のクラッチジャダーを抑制できる。
【0056】
次に、効果を説明する。
実施例3の車両の発進制御装置にあっては、実施例1の効果(1),(3)に加え、以下の効果を奏する。
(5) 動作点指令部400は、ジャダー抑制制御時、第2クラッチCL2の入力トルクを小さくするため、第2クラッチCL2のスリップ締結状態の継続時間を短くできる。
【0057】
〔実施例4〕
実施例4では、ジャダー抑制制御許可条件のみ実施例1と相違する。実施例1と共通する構成については図示および説明を省略する。
図14は、実施例4のジャダー抑制制御を実現する処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、図9に示したフローチャートと同じ処理を行うステップには、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
ステップS11では、ジャダーが発生しているか否かを判定し、YESの場合はステップS4へ進み、NOの場合はリターンへ進む。ここでは、第2クラッチ出力回転数センサ22により検出された第2クラッチ出力回転数N2outを読み込み、第2クラッチ出力回転数N2outがモータジェネレータ回転数Nmに対して変動しているとき、ジャダーが発生していると判定する。ステップS11は、ジャダーの発生を検出するジャダー判定手段に相当する。
【0058】
次に、作用を説明する。
[ジャダー抑制作用]
実施例4では、第2クラッチ出力回転数N2outに変動によりクラッチジャダーの発生を検出し、当該クラッチジャダーの発生が検出された場合にジャダー抑制制御を実施している。クラッチジャダーが発生すると、スリップ量のハンチングによりモータジェネレータ回転数Nmに対して第2クラッチ出力回転数N2outが変動するため、第2クラッチ出力回転数N2outを監視することで、クラッチジャダーの発生を検出できる。よって、第2クラッチ出力回転数N2outの変動からクラッチジャダーの発生を検出し、当該クラッチジャダーの発生が検出された場合は即座にジャダー抑制制御を実施することで、クラッチジャダーが継続するのを抑制でき、ドライバに与える違和感を軽減できる。
【0059】
次に、効果を説明する。
実施例4の車両の発進制御装置にあっては、実施例1の効果(1),(2)に加え、以下の効果を奏する。
(6) 第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22を備え、ジャダー判定手段(S11)は、第2クラッチ出力回転数N2outが変動している場合、ジャダーが発生していると判定するため、クラッチジャダーが継続するのを抑制してドライバに与える違和感を軽減できる。
【0060】
(他の実施例)
以上、本発明に係る車両の発進制御装置を、各実施例に基づいて説明したが、上記構成に限られず本発明の範囲を逸脱しない範囲で他の構成を取り得る。例えば、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
実施例では、第2クラッチ温度センサ10aを用いて第2クラッチCL2の温度を実測する例を示したが、スリップ回転数等に基づいて温度推定を行ってもよい。
実施例4において、実施例1のジャダー抑制制御に代えて、実施例2または3のジャダー抑制制御を実施してもよい。
【符号の説明】
【0061】
10a クラッチ温度センサ(クラッチ温度検出手段)
22 クラッチ出力回転数センサ(クラッチ出力回転数検出手段)
400 動作点指令部(ジャダー抑制制御手段)
CL2 第2クラッチ(クラッチ)
E エンジン(動力源)
MG モータジェネレータ
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
S1 ジャダー判定手段
S11 ジャダー判定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の発進時、動力源と駆動輪との間に介装したクラッチをスリップ締結状態からロックアップ締結状態へと移行させる車両の発進制御装置において、
クラッチジャダーの発生を予測または検出するジャダー判定手段と、
前記クラッチジャダーの発生が予測または検出された場合には、予測または検出されない場合よりも前記スリップ締結状態から前記ロックアップ締結状態への移行時間を短くするジャダー抑制制御を実行するジャダー抑制制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の発進制御装置において、
前記ジャダー抑制制御手段は、前記ジャダー抑制制御時、前記クラッチのスリップ回転数の収束時間を短くすることを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の発進制御装置において、
前記ジャダー抑制制御手段は、前記ジャダー抑制制御時、前記クラッチの伝達トルク容量の増加勾配を大きくすることを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の発進制御装置において、
前記ジャダー抑制制御手段は、前記ジャダー抑制制御時、前記クラッチの入力トルクを小さくすることを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両の発進制御装置において、
前記クラッチの温度を検出するクラッチ温度検出手段を備え、
前記ジャダー判定手段は、前記クラッチの温度が所定温度以上の場合に、前記ジャダーの発生を予測することを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両の発進制御装置において、
前記クラッチの出力回転数を検出するクラッチ出力回転数検出手段を備え、
前記ジャダー判定手段は、前記クラッチの出力回転数が変動している場合、前記ジャダーが発生していると判定することを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項1】
車両の発進時、動力源と駆動輪との間に介装したクラッチをスリップ締結状態からロックアップ締結状態へと移行させる車両の発進制御装置において、
クラッチジャダーの発生を予測または検出するジャダー判定手段と、
前記クラッチジャダーの発生が予測または検出された場合には、予測または検出されない場合よりも前記スリップ締結状態から前記ロックアップ締結状態への移行時間を短くするジャダー抑制制御を実行するジャダー抑制制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の発進制御装置において、
前記ジャダー抑制制御手段は、前記ジャダー抑制制御時、前記クラッチのスリップ回転数の収束時間を短くすることを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の発進制御装置において、
前記ジャダー抑制制御手段は、前記ジャダー抑制制御時、前記クラッチの伝達トルク容量の増加勾配を大きくすることを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の発進制御装置において、
前記ジャダー抑制制御手段は、前記ジャダー抑制制御時、前記クラッチの入力トルクを小さくすることを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両の発進制御装置において、
前記クラッチの温度を検出するクラッチ温度検出手段を備え、
前記ジャダー判定手段は、前記クラッチの温度が所定温度以上の場合に、前記ジャダーの発生を予測することを特徴とする車両の発進制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両の発進制御装置において、
前記クラッチの出力回転数を検出するクラッチ出力回転数検出手段を備え、
前記ジャダー判定手段は、前記クラッチの出力回転数が変動している場合、前記ジャダーが発生していると判定することを特徴とする車両の発進制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−153309(P2012−153309A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15885(P2011−15885)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]