説明

車両の統合制御装置

【課題】多機能化するブレーキシステムのそれぞれの機能を適切に調停し、ドライバの信頼性を高め、安全性を向上する。
【解決手段】ブレーキ制御ユニット30は、横すべり防止制御の機能とコーナリング制動制御の機能と車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能と車線逸脱減速制御の機能と追従走行制御の機能の5つの機能を有しており、車両のヨーモーメントを制御する横すべり防止制御の機能とコーナリング制動制御の機能と車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能は、横すべり防止制御の機能を最優先で実行し、次に、コーナリング制動制御の機能を優先して実行し、次いで、車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能を実行する。また、車両を減速制御する車線逸脱減速制御の機能と追従走行制御の機能は、減速指示値の大きい方の減速指示値を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、制動力により車両のヨーモーメント制御及び減速制御を行う車両の統合制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、ブレーキシステムの多機能化として、車両を自動的に減速させたり、4輪のブレーキバランスを変えて車両のヨーイングをコントロールできるようになってきている。しかし、最終的に車両へ付加する制御量は減速度とヨーモーメントの二機能に集約されるため、複数の指示を調停する必要がある。このような技術として、例えば、特開2004−243787号公報(以下、特許文献1)では、ドライバ入力に対する車両の横すべりを防止する横すべり防止制御と自車両の走行車線からの逸脱を防止するようにヨーモーメントを発生させる車線逸脱防止ヨーモーメント制御とを備えた車両において、ドライバの運転操作に対する意識レベルを検出し、ドライバの運転操作に対する意識レベルが高いと判断されるときには、横すべり防止制御による制御を優先し、意識レベルが低いと判断されるときには、車線逸脱防止ヨーモーメント制御を優先する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−243787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されるドライバの意識レベルに応じて優先順位を決める技術では、ドライバの意識レベル推定も個人差等の不確定要因があり、意識レベルの誤認識による不適切な優先順位で制御を行ってしまう虞がある。そして、誤認識による不適切な制御が行われると、ドライバの不信感を招くのみならず、安全性の低下を招くといった問題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、多機能化するブレーキシステムのそれぞれの機能を適切に調停し、ドライバの信頼性を高め、安全性を向上することができる車両の統合制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の統合制御装置の一態様は、少なくともドライバ操作に対して車両挙動が忠実に応答するように車両のヨーモーメントを制御する第1の車両挙動制御手段と、該第1の車両挙動制御手段とは異なる車両のヨーモーメントを制御する第2の車両挙動制御手段とを備えた車両の統合制御装置において、上記第1の車両挙動制御手段による制御を上記第2の車両挙動制御手段よりも優先して実行させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両の統合制御装置によれば、多機能化するブレーキシステムのそれぞれの機能を適切に調停し、ドライバの信頼性を高め、安全性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態による、ブレーキ制御ユニットを搭載した車両の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の一形態による、ブレーキ制御ユニットの機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施の一形態による、制動力制御プログラムのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の一形態による、ヨーモーメント発生のための制動力設定ルーチンのフローチャートである。
【図5】本発明の実施の一形態による、減速のための制動力設定ルーチンのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の一形態による、横すべり防止制御ルーチンのフローチャートである。
【図7】本発明の実施の一形態による、コーナリング制動制御ルーチンのフローチャートである。
【図8】本発明の実施の一形態による、車線逸脱防止制御によるヨーモーメント発生制動力設定ルーチンのフローチャートである。
【図9】本発明の実施の一形態による、車線逸脱防止制御による減速のための制動力設定ルーチンのフローチャートである。
【図10】本発明の実施の一形態による、走行制御ルーチンのフローチャートである。
【図11】本発明の実施の一形態による、ヨーモーメントゲインの特性図である。
【図12】本発明の実施の一形態による、旋回内輪の制動力前後配分比の特性図である。
【図13】本発明の実施の一形態による、白線に対する自車両の位置関係と逸脱量の説明図である。
【図14】本発明の実施の一形態による、白線からの逸脱量と目標ヨーモーメントの説明図である。
【図15】本発明の実施の一形態による、白線からの逸脱量と減速のための制動力の説明図である。
【図16】本発明の実施の一形態による、先行車速と各目標距離との関係を示すマップである。
【図17】本発明の実施の一形態による、自車両と各目標距離との関係を示す説明図である。
【図18】本発明の実施の一形態による、車間距離が最終目標距離よりも大きいときの目標減速度設定用マップの説明図である。
【図19】本発明の実施の一形態による、車間距離が最終目標距離以下であるときの目標減速度設定用マップの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
図1において、符号1は自車両を示し、車両前部に配置されたエンジン2による駆動力は、このエンジン2後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)3からトランスミッション出力軸3aを経てセンターディファレンシャル装置4に伝達される。
【0011】
このセンターディファレンシャル装置4から、リヤドライブ軸5、プロペラシャフト6、ドライブピニオン7を介して後輪終減速装置8に入力される一方、センターディファレンシャル装置4から、フロントドライブ軸9を介して前輪終減速装置10に入力される。ここで、自動変速装置3、センターディファレンシャル装置4および前輪終減速装置10等は、一体にケース11内に設けられている。
【0012】
後輪終減速装置8に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸12rlを経て左後輪13rlに、後輪右ドライブ軸12rrを経て右後輪13rrに伝達される。一方、前輪終減速装置10に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸12flを経て左前輪13flに、前輪右ドライブ軸12frを経て右前輪13frに伝達される。
【0013】
符号15は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部15には、ドライバにより操作されるブレーキペダル16と接続されたマスターシリンダ17が接続されており、ドライバがブレーキペダル16を操作する(踏み込む)とマスターシリンダ17により、ブレーキ駆動部15を通じて、4輪13fl,13fr,13rl,13rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ18fl,右前輪ホイールシリンダ18fr,左後輪ホイールシリンダ18rl,右後輪ホイールシリンダ18rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪にブレーキがかかって制動される。
【0014】
ブレーキ駆動部15は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、入力信号に応じて、各ホイールシリンダ18fl,18fr,18rl,18rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に形成されている。
【0015】
車両1には、エンジン2を制御するエンジン制御装置21、自動変速装置3、センターディファレンシャル装置4を制御するトランスミッション制御装置22、ブレーキ駆動部15を制御する後述のブレーキ制御ユニット30が設けられている。
【0016】
ブレーキ制御ユニット30には、上述のエンジン制御装置21からエンジン出力Teg、エンジン回転数Neが入力され、トランスミッション制御装置22からタービン回転数Nt、主変速ギヤ比i、センターディファレンシャル装置4による駆動力前後配分比DD(=前輪側駆動力/総駆動力)が入力される。
【0017】
また、ブレーキ制御ユニット30には、車速センサ23、ハンドル角センサ24、横加速度センサ25、ヨーレートセンサ26、路面摩擦係数(路面μ)推定装置27からの車速V、ハンドル角θH、車体横加速度(dy/dt)、ヨーレート(dψ/dt)、路面摩擦係数μの各信号が入力される。
【0018】
更に、ブレーキ制御ユニット30には、画像認識装置28から、例えば、ステレオカメラ(図示しない)からの画像情報を基に白線、立体物を認識し、現在の自車両1の進行方向(カメラ位置を中心とする直進方向)と白線とのなす角を交差角αとして算出し、また、現在の、自車両の中心から白線までの距離(白線への垂線方向距離)yL0が入力される。特に、立体物に関しては、自車走行路上に存在する立体物であって、自車両1と略同じ方向に所定の速度(例えば、0Km/h以上)で移動するものを先行車として抽出(検出)する。そして、先行車を検出した場合には、その先行車情報として、先行車距離d(=車間距離)、先行車速Vf(=(車間距離dの変化の割合)+(自車速V))、先行車減速度af(=先行車速Vfの微分値)等が演算されて入力される。
【0019】
ブレーキ制御ユニット30は、ドライバ入力に対する車両の横すべりを防止する横すべり防止制御の機能と、コーナリング時のブレーキで発生するヨーモーメントを制御するコーナリング制動制御の機能と、自車両の走行車線からの逸脱を防止するようにヨーモーメントを発生させる車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能と、車線からの逸脱を減速させることで防止する車線逸脱減速制御の機能と、自車両を先行車に追従走行させる追従走行制御の機能の5つの機能を有している。そして、特に、車両のヨーモーメントを制御する横すべり防止制御の機能とコーナリング制動制御の機能と車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能は、横すべり防止制御の機能を最優先で実行し、次に、コーナリング制動制御の機能を優先して実行し、次いで、車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能を実行するようになっている。また、車両を減速制御する車線逸脱減速制御の機能と追従走行制御の機能は、車線逸脱減速制御の機能による減速指示値と車線逸脱減速制御の機能による減速指示値とを比較して大きい方の減速指示値を出力するように構成されている。
【0020】
このため、ブレーキ制御ユニット30は、図2に示すように、横すべり防止制御部31、コーナリング制動制御部32、車線逸脱防止制御部33、走行制御部34、統合制御部35から主要に構成されている。
【0021】
横すべり防止制御部31は、車速センサ23から車速V、ハンドル角センサ24からハンドル角θH、ヨーレートセンサ26からヨーレート(dψ/dt)が入力される。そして、例えば、以下の図6に示すフローチャートに従って、横すべり防止制御を実行する横すべり防止制御手段、及び、第1の車両挙動制御手段として設けられている。
【0022】
すなわち、横すべり防止制御部31は、ドライバの運転状態からドライバの目標とするヨーモーメント(第1の目標ヨーモーメント)MVDCtを算出し、車両がアンダステア傾向の場合は、旋回内側後輪に制動力を付加し、車両がオーバステア傾向の場合は、旋回外側前輪に制動力を付加するように構成されている。
【0023】
横すべり防止制御部31は、第1の目標ヨーモーメントMVDCtを演算する第1の目標ヨーモーメント演算部31aと、後述する第1統合制御部35からの信号により制動輪の選択と該制動輪に付加する制動力を演算する第1の制動力演算部31bから構成されており、図6に示すフローチャートに示すように、まず、ステップ(以下、「S」と略称)401で、必要パラメータ、すなわち、車速V、ハンドル角θH、ヨーレート(dψ/dt)を読み込む。
【0024】
次いで、S402に進み、例えば、車両の運動方程式より求めた、以下の(1)式に示す状態方程式により、ヨー角加速度(dψ/dt)を算出し、ヨー角加速度(dψ/dt)を積分することにより、目標ヨーレート(dψ/dt)tを演算する。
【0025】
(dx(t) /dt)=A・x(t) +B・u(t) …(1)
x(t) =[β (dψ/dt)]
u(t) =[θH δr]
ここで、βは車体すべり角、δrは後輪舵角、A、Bは以下の通りである。
【0026】

a11=−2・(Kf+Kr)/(M・V)
a12=−1.0−2・(Lf・Kf−Lr・Kr)/(M・V
a21=−2・(Lf・Kf−Lr・Kr)/Iz
a22=−2・(Lf・Kf+Lr・Kr)/(Iz・V)
b11=2・Kf/(M・V・n)
b12=2・Kr/(M・V)
b21=2・Lf・Kf/Iz
b22=−2・Lr・Kr/Iz
ここで、Kf、Krは前後輪の等価コーナリングパワー、Lf、Lrは重心から前後輪軸までの距離、Mは車体質量、Izは車体のヨーイング慣性モーメント、nはステアリングギヤ比である。
【0027】
次いで、S403に進み、以下の(2)式により、ヨーレート偏差Δ(dψ/dt)を算出する。
【0028】
Δ(dψ/dt)=(dψ/dt)−(dψ/dt)t …(2)
【0029】
次に、S404に進んで、以下の(3)式により、第1の目標ヨーモーメントMVDCtを算出し、後述する統合制御部35の第1統合制御部35a、第1の制動力演算部31bに出力する。
MVDCt=GVDC・Δ(dψ/dt) …(3)
ここで、GVDCは制御ゲインである。
【0030】
次いで、S405に進み、統合制御部35の第1統合制御部35aから後述する第1の許可フラグFVDCを読み込む。この第1の許可フラグFVDCは、FVDC=1にセットされている場合、横すべり防止制御部31による制動力の出力を許可するフラグであり、FVDC=0にクリアされている場合、横すべり防止制御部31による制動力の出力が禁止されるフラグとなっている。
【0031】
そして、S406に進んで、第1の許可フラグFVDCが参照されて、FVDC=1にセットされているか否か判定され、FVDC=1にセットされている場合は、S407に進んで、制動輪の選択処理が以下のように実行される。符号は、左方向を+とし、ε、εMを予め実験或いは計算等から求めた略0に近い正の数とし、
(ケース1).(dψ/dt)>ε,MVDCt>εM…左旋回状態でアンダステア傾向のとき…左後輪制動
(ケース2).(dψ/dt)>ε,MVDCt<−εM…左旋回状態でオーバステア傾向のとき…右前輪制動
(ケース3).(dψ/dt)<ε,MVDCt>εM…右旋回状態でオーバステア傾向のとき…左前輪制動
(ケース4).(dψ/dt)<ε,MVDCt<−εM…右旋回状態でアンダステア傾向のとき…右後輪制動
(ケース5).|(dψ/dt)|≦εの略直進状態、或いは、|MVDCt|≦εMの旋回状態のとき…制動輪の選択はせず非制動とする。
【0032】
次に、S408に進み、例えば、以下の(4)式により、選択した車輪に付加するブレーキ力Fを算出し、後述する制動力演算部35cに出力してルーチンを抜ける。
【0033】
F=MVDCt/(d/2) …(4)
ここで、dはトレッドである。
【0034】
尚、上述のS406で、FVDC=0と判定された場合は、S407、S408の処理を行うことなくルーチンを抜け、横すべり防止制御部31からの制動力の出力が禁止される。
【0035】
コーナリング制動制御部32は、エンジン制御装置21からエンジン出力Teg、エンジン回転数Neが入力され、トランスミッション制御装置22からタービン回転数Nt、主変速ギヤ比i、センターディファレンシャル装置4による駆動力前後配分比DD(=前輪側駆動力/総駆動力)が入力される。また、車速センサ23から車速V、ハンドル角センサ24からハンドル角θH、横加速度センサ25から車体横加速度(dy/dt)、ヨーレートセンサ26からヨーレート(dψ/dt)、路面μ推定装置27から路面摩擦係数μが入力される。そして、例えば、以下の図7に示すフローチャートに従って、コーナリング時のブレーキで発生するヨーモーメントを制御するコーナリング制動制御手段、及び、第2の車両挙動制御手段として設けられている。
【0036】
すなわち、コーナリング制動制御部32は、車両の運転状態に基づいて車両に発生させる目標ヨーモーメント(第2の目標ヨーモーメント)MCBCtを算出し、該第2の目標ヨーモーメント)MCBCtを発生させるために旋回内輪に付加する総制動力を算出し、旋回内輪に付加する総制動力に対する旋回内側前輪に付加する制動力の割合を制動力の前後配分比として、タイヤのグリップ状態が限界に近づくに従って、制動力の前後配分比を静止時の接地荷重配分比に近い値から減少させて設定して、少なくとも旋回内輪に付加する総制動力と制動力の前後配分比とに応じて旋回内輪の前輪と後輪のそれぞれに付加する制動力を算出して出力するように構成されている。
【0037】
コーナリング制動制御部32は、第2の目標ヨーモーメントMCBCtを演算する第2の目標ヨーモーメント演算部32aと、後述する第1統合制御部35からの信号により制動輪の選択と該制動輪に付加する制動力を演算する第2の制動力演算部32bから構成されており、図7に示すフローチャートに示すように、まず、S501で、必要パラメータ、すなわち、エンジン出力Teg、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、主変速ギヤ比i、センターディファレンシャル装置4による駆動力前後配分比DD(=前輪側駆動力/総駆動力)、車速V、ハンドル角θH、車体横加速度(dy/dt)、ヨーレート(dψ/dt)、路面摩擦係数μを読み込む。
【0038】
次に、S502に進み、予め設定しておいた、図11に示すような、車速Vに応じたヨーモーメントゲインGMZVの特性マップを参照して、ヨーモーメントゲインGMZVを設定する。この図11に示す、車速Vに応じたヨーモーメントゲインGMZVの特性は、車速Vの小さい領域では、略0となっており、また、車速Vが大きな領域では、車速Vが大きくなるにつれて次第に減少する特性に設定されている。
【0039】
次いで、S503に進み、例えば、以下の(5)式により、第2の目標ヨーモーメントMCBCtを算出し、後述する統合制御部35の第1統合制御部35a、第2の制動力演算部32bに出力する。
MCBCt=(dθH/dt)・GMZV …(5)
ここで、(5)式は、上述のヨーモーメントゲインGMZVの特性に加え、ドライバがハンドル操作を行ったときに、その操作の仕方(ハンドル角速度(dθH/dt))が大きいほど大きな値が設定されるようになっている。尚、第2の目標ヨーモーメントMCBCtの設定、算出は、本実施の形態に限るものではなく、他の特性マップ、計算式により求めるものであっても良い。
【0040】
次いで、S504に進み、統合制御部35の第1統合制御部35aから後述する第2の許可フラグFCBCを読み込む。この第2の許可フラグFCBCは、FCBC=1にセットされている場合、コーナリング制動制御部32による制動力の出力を許可するフラグであり、FCBC=0にクリアされている場合、コーナリング制動制御部32による制動力の出力が禁止されるフラグとなっている。
【0041】
そして、S505に進んで、第2の許可フラグFCBCが参照されて、FCBC=1にセットされているか否か判定され、FCBC=1にセットされている場合は、S506以降に進む。
【0042】
S505で、FCBC=1にセットされており、S506に進むと、以下の(6)式により、旋回内輪の総制動力FB(=FBf+FBr:FBfは旋回内側前輪の制動力、FBrは旋回内側後輪の制動力)が算出される。
FB=2・(MCBCt/d) …(6)
ここで、dはトレッドである。
【0043】
次いで、S507に進んで、以下の(7)式により、トランスミッション出力トルクTDを算出する。
TD=Teg・t・i …(7)
ここで、tはトルクコンバータのトルク比で、例えば、予め設定されているトルクコンバータの回転速度比e(=Nt/Ne)と、トルクコンバータのトルク比tとのマップを参照することにより求められる。
【0044】
次に、S508に進み、以下の(8)式により、旋回内輪の総駆動力FDを算出する。
FD=(1/2)・(TD・if/Rt) …(8)
ここで、ifはファイナルギヤ比、Rtはタイヤ径である。
【0045】
次いで、S509に進み、予め設定しておいた、例えば、図12(a)に示すようなマップを参照して、制動力の前後配分比DB(=FBf/(FBf+FBr))を設定する。
【0046】
図12(a)からも明らかなように、本実施の形態では、タイヤのグリップ状態に余裕がある、|dy/dt|/μの値が小さな摩擦円利用率の小さい場合には、制動力の前後配分比DBは、静止時の接地荷重配分比に設定される。そして、タイヤのグリップ状態(摩擦円利用率)が限界に近づいて(|dy/dt|/μの値が大きな値になって)いくに従って、制動力の前後配分比DBは、減少して設定され、旋回内側後輪の制動力FBrの割合が高く設定されるようになっている。
【0047】
尚、本実施の形態では、タイヤのグリップ状態を、|dy/dt|/μを用いて精度良く表現するようにしているが、他に、図12(b)に示すように、車体横加速度の絶対値|dy/dt|で代用しても良い。また、図12(a)、図12(b)で、静止時の接地荷重配分比、或いは、設定値としたのは、略静止時の接地荷重配分比であれば良いことを示すものである。
【0048】
次に、S510に進み、以下の(9)式により、駆動力を考慮した場合の制動力前後配分比(制御目標値)DBtを算出する。
DBt=DB+(FD/FB)・(DD−DB) …(9)
【0049】
ここで、上述の(9)式について説明する。
まず、旋回内輪の制駆動力の前後配分比(=旋回内側前輪の制駆動力/旋回内輪の総制駆動力)DAは、以下の(10)式により算出できる。
DA=(FD・DD−FB・DB)/(FD−FB) …(10)
この(10)式を、DBについて解くと、
DB=DA+(FD/FB)・(DD−DA) …(11)
この(11)式において、旋回内輪の制駆動力の前後配分比DAを、発生させるべき制動力の前後配分比DBとした場合、その時の駆動力を考慮した場合の制動力前後配分比(制御目標値)DBtは、DBをDBtとおいて、(9)式のように表現される。
【0050】
次いで、S511に進み、以下の(12)式、(13)式により、旋回内輪の前輪と後輪のそれぞれに付加する制動力FBf、FBrを算出し、後述する制動力演算部35cに出力してルーチンを抜ける。
FBf=FB・DBt …(12)
FBr=FB・(1−DBt) …(13)
尚、旋回内輪は、ヨーレート(dψ/dt)の値から判別して出力される。
【0051】
一方、上述のS505で、FCBC=0と判定された場合は、S506〜S511の処理を行うことなくルーチンを抜け、コーナリング制動制御部32からの制動力の出力が禁止される。
【0052】
車線逸脱防止制御部33は、画像認識装置28から白線の座標位置情報、交差角α、現在の自車両1の中心から白線までの距離yL0が入力され、車速センサ23から車速Vが入力される。そして、例えば、以下の図8に示すフローチャートに従って、自車両1にヨーモーメントを発生させて自車両1の白線からの逸脱を防止するための制動力を発生させると共に、図9に示すフローチャートに従って、自車両1を減速させることにより自車両1の白線からの逸脱を防止するようになっている。このように車線逸脱防止制御部33は、車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段、及び、車線逸脱減速制御手段としての機能を有し、車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段は第2の車両挙動制御手段として設けられている。
【0053】
従って、車線逸脱防止制御部33は、第3の目標ヨーモーメント演算部33a、第3の制動力演算部33b、第4の制動力演算部33cから主要に構成され、第3の目標ヨーモーメント演算部33a、及び、第3の制動力演算部33bで車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段、第2の車両挙動制御手段を構成し、第4の制動力演算部33cで車線逸脱減速制御手段を構成している。
【0054】
まず、車線逸脱防止制御部33の車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段の機能を図8のフローチャートで説明する。
【0055】
S601では、必要なパラメータ、すなわち、白線の座標位置情報、交差角α、現在の自車両の中心から白線までの距離yL0、車速Vを読み込む。
【0056】
次いで、S602に進み、例えば、以下の(14)式により、予見距離Lxを算出する。
Lx=V・t …(14)
ここで、tは、予め設定しておいた予見時間である。すなわち、予見距離とは、予見時間t後に、自車両1が存在すると推定される位置までの距離である。尚、予見距離Lxは、上述の(14)式で算出する距離に限るものではない。
【0057】
次いで、S603に進み、図13に示すように、以下の(15)式により、予見距離Lxにおける自車両1の白線からの逸脱量yLを算出する。
yL=Lx・sin(α)−yL0 …(15)
次に、S604に進み、実験・計算等に基づいて予め設定しておいた、図14に示すような、白線からの逸脱量yLと交差角αと第3の目標ヨーモーメントMLDPtのマップを参照して、第3の目標ヨーモーメントMLDPtを設定し、第3の制動力演算部33b、第1統合制御部35aに出力する。尚、図14中の、基準位置は、予め設定した位置であり、例えば、白線から道路中央側に一定距離離れた位置、或いは、白線の内側(道路中央側)端部である。また、第3の目標ヨーモーメントMLDPtは、図14に示したマップから設定するものに限るものではなく、予め設定しておいた算出式等から算出するようにしても良い。第3の目標ヨーモーメントMLDPtは、図14からも解るように、交差角αが大きいほど、すなわち、白線に対して直交していき、緊急度が高いと判断される場合ほど、大きな値に設定される。また、第3の目標ヨーモーメントMLDPtは、白線からの逸脱量yLが大きい場合ほど、大きな値に設定される。
【0058】
次いで、S605に進み、統合制御部35の第1統合制御部35aから後述する第3の許可フラグFLDPを読み込む。この第3の許可フラグFLDPは、FLDP=1にセットされている場合、車線逸脱防止制御部33の第3の制動力演算部33bによる制動力の出力を許可するフラグであり、FLDP=0にクリアされている場合、車線逸脱防止制御部33の第3の制動力演算部33bによる制動力の出力が禁止されるフラグとなっている。
【0059】
そして、S606に進んで、第3の許可フラグFLDPが参照されて、FLDP=1にセットされているか否か判定され、FLDP=1にセットされている場合は、S607に進む。
【0060】
S606で、FLDP=1にセットされており、S607に進むと、道路中央側の前後輪に付加する制動力Bf、Brが、例えば、以下の(16)、(17)式により、算出され、制動力演算部35cに出力されてルーチンを抜ける。
Bf=min(Kbr・MLDPt・Cy,ΔBf_max) …(16)
ここで、(16)式における、minは、Kbr・MLDPt・CyとΔBf_maxの小さい方を選択する関数である。Kbrは、ヨーモーメントの制動力への換算係数であり、Cyは、予め実験、計算等により設定しておいたヨーモーメントの前軸負担率である。また、ΔBf_maxは、前軸左右輪の制動力差最大値であり、例えば、以下の(18)式で算出される。
ΔBf_max=−(Tf_str・Gstr)/Lscr …(18)
ここで、Tf_strはステアリング系のフリクショントルクであり、Gstrはステアリングギヤ比であり、Lscrはスクラブ半径(但し、ポジティブスクラブは+、ネガティブスクラブは−の符号)である。すなわち、前軸左右輪の制動力差最大値ΔBf_maxは、ステアリングのフリクション、スクラブ半径等を左右輪の制動力差に換算した値となっており、上述の(16)式により、前軸左右輪の制動力差(道路中央側の前輪に付加する制動力)Bfは、常に、前軸左右輪の制動力差最大値ΔBf_max以下に制限される。すなわち、フロントサスペンションのキングピン配置に起因する路外逸脱方向へのステアリングトルクの発生が予め設定した閾値(前軸左右輪の制動力差最大値ΔBf_max)を超えないようにヨーモーメントを発生させるための制動力の前軸側の分担率が制限されることとなる。
【0061】
そして、以下の(17)式により、車線逸脱を防止すべく、自車両1にヨーモーメントを発生させるための道路中央側の後輪に付加する制動力Brが算出される。
【0062】
Br=Kbr・MLDPt−Bf …(17)
一方、上述のS606で、FLDP=0と判定された場合は、S607の処理を行うことなくルーチンを抜け、車線逸脱防止制御部33の第3の制動力演算部33bからの制動力の出力が禁止される。
【0063】
次に、車線逸脱防止制御部33の車線逸脱減速制御手段の機能を図9のフローチャートで説明する。
【0064】
まず、S701では、必要なパラメータ、すなわち、白線の座標位置情報、現在の自車両の中心から白線までの距離yL0、車速Vを読み込む。
【0065】
次いで、S702に進み、例えば、上述の(14)式により、予見距離Lxを算出する。
【0066】
次に、S703に進み、上述の(15)式により、予見距離Lxを算出する。
【0067】
次いで、S704に進み、実験・計算等に基づいて予め設定しておいた、図15に示すような、白線からの逸脱量yLと(総)制動力BLDPのマップを参照して、総制動力BLDPを設定する。そして、この総制動力BLDPを基に、以下の(19)、(20)式により、前後の車輪(それぞれ1輪毎)に付加する制動力Bf1、Br1を算出し、統合制御部35の第2統合制御部35bに出力する。
【0068】
前輪(1輪)に付加する制動力Bf1は、以下の(19)式により算出される。
Bf1=(1/2)・BLDP・CD …(19)
ここで、CDは、制動力の前後配分比である。
【0069】
また、後輪(1輪)に付加する制動力Br1は、以下の(20)式により算出される。 Br1=(1/2)・BLDP−Bf1 …(20)
走行制御部34は、画像認識装置28から、先行車情報として、先行車距離d、先行車速Vf、先行車減速度afが入力され、車速センサ23から車速Vが入力される。そして、基本的に、先行車が存在しない場合には、ドライバが図示しないスイッチで設定した車速を保持する定速走行制御を行い、先行車が存在する場合には、後述の図10に示す走行制御のフローチャートに従って、当該先行車に対する追従走行制御を行う。このように、走行制御部34は、追従走行制御手段として設けられている。
【0070】
この走行制御部34で実行される追従走行制御を図10のフローチャートで説明する。
【0071】
まず、S801において、現在の先行車速Vfに応じたブレーキ目標距離基準値dbrk0、及び、最終目標距離dlimを、予め設定されたマップ(図16参照)を参照して設定し、さらに、これらの偏差(目標距離偏差)d1を演算する。
【0072】
次いで、S802において、現在の車間距離dが、ブレーキ目標距離基準値dbrk0と目標距離偏差d1との和(dbrk0+d1)よりも大きいか否かを調べる。
【0073】
そして、S802において、d>dbrk0+d1であると判定した場合(図17(a)参照)、S804に進み、S801で演算したブレーキ目標距離基準値dbrk0をブレーキ目標距離dbrkとして設定した後、S806に進む。
【0074】
一方、S802において、d≦dbrk0+d1であると判定した場合、S803に進み、車間距離dが最終目標距離dlimよりも大きいか否かを調べる。
【0075】
そして、S803において、d>dlimであると判定した場合(図17(b)参照)、最終目標距離dlimと車間距離dとの和の半値((dlim+d)/2)をブレーキ目標距離dbrkとして設定した後、S806に進む。これにより、dbrk0+d1≧d>dlimである場合のブレーキ目標距離dbrkは、車間距離dの減少に伴って、漸次、最終目標距離dlimに近づけられる。
【0076】
S804、或いは、S805からS806に進むと、車間距離dとブレーキ目標距離dbrkとの偏差Dd(=d−dbrk)を演算し、続くS807において、相対車速Vrelと偏差Ddとに応じた目標減速度GbACCを、予め設定されたマップ(図18参照)を参照して演算し、統合制御部35の第2統合制御部35bに出力して、ルーチンを抜ける。
【0077】
一方、S803において、車間距離d≦dlimであると判定した場合(図17(c)参照)、S808に進み、最終目標距離dlimに対して車間距離dが占める割合Dr(=(d/dlim)×100)を演算し、続くS809において、相対車速Vrelと割合Drとに応じた目標減速度GbACCを、予め設定されたマップ(図19参照)を参照して演算し、統合制御部35の第2統合制御部35bに出力して、ルーチンを抜ける。
【0078】
統合制御部35は、第1統合制御部35a、第2統合制御部35b、制動力演算部35cから主要に構成されている。
【0079】
第1統合制御部35aは、横すべり防止制御部31から第1の目標ヨーモーメントMVDCtが入力され、コーナリング制動制御部32から第2の目標ヨーモーメントMCBCtが入力され、車線逸脱防止制御部33から第3の目標ヨーモーメントMLDPtが入力される。そして、後述する図4に示すフローチャートに従って、これら制動力により車両にヨーモーメントを発生させる制御を行う、横すべり防止制御部31、コーナリング制動制御部32、車線逸脱防止制御部33の車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段の調停を行う制御部となっており、具体的には、横すべり防止制御の機能を最優先で実行し、次に、コーナリング制動制御の機能を優先して実行し、次いで、車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能を実行するようになっている。
【0080】
第2統合制御部35bは、車線逸脱防止制御部33の車線逸脱減速制御手段である第4の制動力演算部33cから総制動力BLDP、各輪に付加する制動力Bf1、Bf1、Br1、Br1が入力され、走行制御部(第5の制動力演算部)34から目標減速度GbACCが入力される。そして、後述する図5に示すフローチャートに従って、これら車線逸脱減速制御の機能による減速指示値と車線逸脱減速制御の機能による減速指示値とを比較して大きい方の減速指示値を出力するように構成されている。
【0081】
制動力演算部35cは、横すべり防止制御部31の第1の制動力演算部31bと、コーナリング制動制御部32の第2の制動力演算部32bと、車線逸脱防止制御部33の第3の制動力演算部33bの何れかから制動力が出力された場合は、この出力された制動力と、第2統合制御部35bから制動力が出力された場合は、この出力された制動力とを加算してブレーキ駆動部15に出力するようになっている。
【0082】
すなわち、図3は、統合制御部35で実行される、制動力制御プログラムのフローチャートを示し、まず、S101で、第1統合制御部35aにより、ヨーモーメント発生のための制動力を設定する。
【0083】
次いで、S102に進んで、第2統合制御部35bにより、減速のための制動力を設定する。
【0084】
そして、S103に進み、制動力演算部35cは、S101で設定した制動力と、S102で設定した制動力とを加算して、ブレーキ駆動部15に出力してプログラムを抜ける。
【0085】
次に、図4は、上述のS101の、第1統合制御部35aで実行される、ヨーモーメント発生のための制動力設定ルーチンのフローチャートを示し、まず、S201で、横すべり防止制御部31の第1の目標ヨーモーメント演算部31aから第1の目標ヨーモーメントMVDCtを読み込み、コーナリング制動制御部32の第2の目標ヨーモーメント演算部32aから第2の目標ヨーモーメントMCBCtを読み込み、車線逸脱防止制御部33の第3の目標ヨーモーメント演算部33aから第3の目標ヨーモーメントMLDPtを読み込む。
【0086】
次に、S202に進み、第1の目標ヨーモーメントMVDCtが0(MVDCt=0)か否か判定され、第1の目標ヨーモーメントMVDCtが0でない場合は、S203に進んで、第1の許可フラグFVDCをセット(FVDC=1)し、他の、第2の許可フラグFCBC、第3の許可フラグFLDPを共にクリア(FCBC=0、FLDP=0)して出力し、ルーチンを抜ける。これにより、横すべり防止制御部31による、第1の目標ヨーモーメントMVDCtに応じたヨーモーメント発生のための制動力が出力されることになる。コーナリング制動制御部32、及び、車線逸脱防止制御部33によるヨーモーメント発生のための制動力は出力されない。
【0087】
上述のS202で、MVDCt=0と判定された場合は、S204に進み、第2の目標ヨーモーメントMCBCtが0(MCBCt=0)か否か判定され、第2の目標ヨーモーメントMCBCtが0でない場合は、S205に進んで、第2の許可フラグFCBCをセット(FCBC=1)し、他の、第1の許可フラグFVDC、第3の許可フラグFLDPを共にクリア(FVDC=0、FLDP=0)して出力し、ルーチンを抜ける。これにより、コーナリング制動制御部32による、第2の目標ヨーモーメントMCBCtに応じたヨーモーメント発生のための制動力が出力されることになる。横すべり防止制御部31、及び、車線逸脱防止制御部33によるヨーモーメント発生のための制動力は出力されない。
【0088】
上述のS204で、MCBCt=0と判定された場合(すなわち、MVDCt=0、MCBCt=0の場合)は、S206に進み、第3の目標ヨーモーメントMLDPtが0(MLDPt=0)か否か判定され、第3の目標ヨーモーメントMLDPtが0でない場合は、S207に進んで、第3の許可フラグFLDPをセット(FLDP=1)し、他の、第1の許可フラグFVDC、第2の許可フラグFCBCを共にクリア(FVDC=0、FCBC=0)して出力し、ルーチンを抜ける。これにより、車線逸脱防止制御部33による、第3の目標ヨーモーメントMLDPtに応じたヨーモーメント発生のための制動力が出力されることになる。横すべり防止制御部31、及び、コーナリング制動制御部32によるヨーモーメント発生のための制動力は出力されない。
【0089】
上述のS206で、MLDPt=0と判定された場合(すなわち、MVDCt=0、MCBCt=0、MLDPt=0の場合)は、S208に進み、全てのフラグをクリア(FVDC=FCBC=FLDP=0)し、ルーチンを抜ける。これにより、横すべり防止制御部31、コーナリング制動制御部32、車線逸脱防止制御部33の何れの制御部からもヨーモーメント発生のための制動力は出力されない。
【0090】
次に、図5は、上述のS102の、第2統合制御部35bで実行される、減速のための制動力設定ルーチンのフローチャートを示し、まず、S301で、走行制御部(第5の制動力演算部)34による目標減速度GbACCを読み込む。
【0091】
次に、S302に進み、車線逸脱防止制御部33の第4の制動力演算部33cから総制動力BLDP、各輪に付加する制動力Bf1、Bf1、Br1、Br1を読み込む。
【0092】
次いで、S303に進み、総制動力BLDPを、所定の係数等を乗算して減速度GLDPに換算し、減速度GbACCと減速度GLDPとを比較して、走行制御部(第5の制動力演算部)34による減速度GbACCが大きければ、減速度GbACCを(例えば、所定の係数を乗算する等して)各輪の制動力に換算して制動力演算部35cに出力する。
【0093】
逆に、車線逸脱防止制御部33の第4の制動力演算部33cによる減速度GLDPが大きければ、入力された各輪に付加する制動力Bf1、Bf1、Br1、Br1を制動力演算部35cに出力する。
【0094】
このように、本発明の実施の形態では、車両のヨーモーメントを制御する横すべり防止制御の機能とコーナリング制動制御の機能と車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能は、横すべり防止制御の機能を最優先で実行するようになっている。これは、横すべり防止制御の機能は、ドライバの操舵に忠実に車両挙動の安定性を維持しようとする機能となっているからである。次に、コーナリング制動制御の機能を優先して実行するようになっている。すなわち、コーナリング制動制御の機能は、あくまでも、ドライバの運転(コーナリング)を容易にするというものに、特化した制御であるからである。そして、次いで、車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能を実行するようになっている。この車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能は、画像認識による誤差が含まれることが考えられ、また、白線を踏んだだけであって、事故に直結する可能性も低いと考えられるため、優先度を低く抑えているのである。また、車両を減速制御する車線逸脱減速制御の機能と追従走行制御の機能は、車線逸脱減速制御の機能による減速指示値と車線逸脱減速制御の機能による減速指示値とを比較して大きい方の減速指示値を出力するようにして、安定して確実に、これらの機能を実行することできるようにしている。従って、本実施の形態のように、ドライバ操作に対して車両挙動が忠実に応答するように車両のヨーモーメントを制御する車両挙動制御の機能を優先して実行させるように調停することで、多機能化するブレーキシステムのそれぞれの機能を適切に調停し、ドライバの信頼性を高め、安全性を向上することが可能となる。
【0095】
尚、本実施の形態では、横すべり防止制御の機能と、コーナリング制動制御の機能と、車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能と、車線逸脱減速制御の機能と、追従走行制御の機能の5つの機能を有している例で説明したが、これに限ることなく、例えば、横すべり防止制御の機能と、コーナリング制動制御の機能と車線逸脱防止ヨーモーメント制御の機能のどちらかのみを有して、構成するものであっても良い。また、車線逸脱減速制御の機能と追従走行制御の機能の構成も、どちらの機能も無く、或いは、どちらかの機能のみ備えるものであっても良い。
【符号の説明】
【0096】
1 車両
15 ブレーキ駆動部
30 ブレーキ制御ユニット
31 横すべり防止制御部(横すべり防止制御手段、第1の車両挙動制御手段)
31a 第1の目標ヨーモーメント演算部
31b 第1の制動力演算部
32 コーナリング制動制御部(コーナリング制動制御手段、及び、第2の車両挙動制御手段)
32a 第2の目標ヨーモーメント演算部
32b 第2の制動力演算部
33 車線逸脱防止制御部
33a 第3の目標ヨーモーメント演算部(車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段)
33b 第3の制動力演算部(車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段)
33c 第4の制動力演算部(車線逸脱減速制御手段)
34 走行制御部(追従走行制御手段)
35 統合制御部
35a 第1統合制御部
35b 第2統合制御部
35c 制動力演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともドライバ操作に対して車両挙動が忠実に応答するように車両のヨーモーメントを制御する第1の車両挙動制御手段と、該第1の車両挙動制御手段とは異なる車両のヨーモーメントを制御する第2の車両挙動制御手段とを備えた車両の統合制御装置において、
上記第1の車両挙動制御手段による制御を上記第2の車両挙動制御手段よりも優先して実行させることを特徴とする車両の統合制御装置。
【請求項2】
上記第1の車両挙動制御手段は、ドライバ入力に対する車両の横すべりを防止する横すべり防止制御手段であることを特徴とする請求項1記載の車両の統合制御装置。
【請求項3】
上記第2の車両挙動制御手段は、コーナリング時のブレーキで発生するヨーモーメントを制御するコーナリング制動制御手段であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の統合制御装置。
【請求項4】
上記第2の車両挙動制御手段は、前方環境を認識し、自車両の走行車線からの逸脱を防止するようにヨーモーメントを発生させる車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の統合制御装置。
【請求項5】
上記第2の車両挙動制御手段は、 コーナリング時のブレーキで発生するヨーモーメントを制御するコーナリング制動制御手段と、前方環境を認識し、自車両の走行車線からの逸脱を防止するようにヨーモーメントを発生させる車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段であって、上記コーナリング制動制御手段による制御を上記車線逸脱防止ヨーモーメント制御手段よりも優先して実行させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の統合制御装置。
【請求項6】
上記第1の車両挙動制御手段と上記第2の車両挙動制御手段とは異なるヨーモーメントを制御することなく車両を減速制御する減速制御手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の車両の統合制御装置。
【請求項7】
上記減速制御手段は、自車両を先行車に追従走行させる追従走行制御手段と車線からの逸脱を減速させることで防止する車線逸脱減速制御手段の少なくとも一方であることを特徴とする請求項6記載の車両の統合制御装置。
【請求項8】
上記追従走行制御手段と上記車線逸脱減速制御手段の両方を有する場合は、上記追従走行制御手段による減速指示値と上記車線逸脱減速制御手段による減速指示値とを比較して大きい方の減速指示値を出力することを特徴とする請求項7記載の車両の統合制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−131428(P2012−131428A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286589(P2010−286589)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】