説明

車両の走行制御装置

【課題】手動変速機を搭載した車両において、オートクルーズ制御の実行中に、変速操作のためにクラッチの切断操作等が行われたときに、エンジン回転数が吹き上がることを防止する。
【解決手段】エンジン出力がクラッチと手動変速機とを介して駆動輪側へ伝達されるように構成され、かつオートクルーズ制御手段が備えられた車両において、前記オートクルーズ制御手段によるオートクルーズ制御中に、クラッチの切断操作等の動力遮断操作が行われたときに、該操作の直前の状態から手動変速機の変速段を一段シフトアップさせたときのエンジン回転数を目標回転数に設定し、この目標回転数に一致するようにエンジン回転数を制御するエンジン制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の走行制御装置、特にオートクルーズ制御を行う走行制御装置に関し、車両の自動走行技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
車両のオートクルーズ制御として、車速を目標車速に維持して定速走行を実施する車速制御や、自車両と先行車両との車間距離を目標距離に制御して追従走行を実施する車間距離制御などが知られており、これらの制御では、目標車速或いは目標車間距離を維持するために、エンジンの制御とブレーキの制御とが自動的に行われる。
【0003】
このオートクルーズ制御は手動変速機を搭載した車両においても行われるが、手動変速機搭載車両の場合、オートクルーズ制御中に運転者がクラッチを切断して変速操作を行うことがあり、この場合、車速制御では、その制御をキャンセル(終了)するのが通例である。
【0004】
しかし、車間距離制御では、例えば燃費や静粛性を考慮してエンジン回転数を低下させるために変速段をシフトアップし、或いはエンジンブレーキを作動させて一時的に車間距離を伸ばすために変速段をシフトダウンするといった操作が比較的多く行われるので、その都度、制御をキャンセルすると、該制御のキャンセル、セットが頻繁に繰り返されることになり、操作が煩雑となる。
【0005】
そこで、例えば特許文献1に開示されているように、車間距離制御の場合は、変速操作のためにクラッチが切断されても該制御をキャンセルせず、変速操作が終了し、クラッチが接続されたときに該制御を自動的に再開することが考えられている。そして、特に、この特許文献1には、変速操作後、クラッチが接続されて車間距離制御を再開する際に、エンジンブレーキトルクを打ち消すようにエンジンの出力トルクを制御し、クラッチ接続時のショックを抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3750584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、手動変速機を搭載した車両において、車間距離制御中に変速操作のためにクラッチが切断されてエンジンから駆動輪への動力の伝達が遮断されたときに、該車間距離制御をキャンセルしない場合、動力遮断状態でエンジン制御が続行されるため、エンジンは負荷の急激な低下により回転数が急激に上昇し、いわゆる吹き上がりが発生する場合がある。この場合、運転者に違和感を与えることになり、特に運転者が意図している変速がエンジン回転数を低下させるためのシフトアップの場合、故障したのではないかとの不安感を抱かせることにもなる。
【0008】
なお、この問題は、車間距離制御の場合だけでなく、車速制御においても、該制御をクラッチの切断操作等の動力遮断操作が行われてもキャンセルしない場合に、同様に発生する。
【0009】
本発明は、手動変速機を搭載した車両におけるオートクルーズ制御中の前記のような問題に対処するもので、車速制御や車間距離制御の実行中に、変速のためにクラッチが切断され或いは手動変速機が一旦中立位置にシフト操作されるなど、エンジンから駆動輪への動力の伝達が遮断されたときのエンジン回転数の吹き上がりを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両の走行制御装置は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、運転者によって断接操作が行われるクラッチと、運転者によって変速操作が行われる手動変速機と、少なくともエンジンを制御して車速または車間距離を目標値に維持するオートクルーズ制御を行うオートクルーズ制御手段とが備えられた車両の走行制御装置において、前記オートクルーズ制御手段によるオートクルーズ制御中に、前記エンジンから駆動輪への動力伝達を遮断する動力遮断操作が行われたときに、該動力遮断操作の直前の状態から手動変速機の変速段を一段シフトアップさせたときのエンジン回転数を目標回転数に設定し、この目標回転数に一致するようにエンジン回転数を制御するエンジン制御手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両の走行制御装置において、前記エンジン制御手段は、前記エンジン回転数の制御を、エンジンへの燃料の供給を遮断する燃料カット制御と、スロットル開度の制御によるエンジン回転数のフィードバック制御とで行うことを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の車両の走行制御装置において、 前記エンジン制御手段は、エンジン回転数が目標回転数にほぼ一致したときに、前記燃料カット制御を終了することを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項2または請求項3に記載の車両の走行制御装置において、前記エンジン制御手段は、前記動力遮断操作の後、前記手動変速機の走行位置へのシフト操作及び前記クラッチの接続操作による動力接続操作が行われるまで、前記フィードバック制御を行うことを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置において、前記エンジン制御手段は、目標回転数を設定するときに、エンジン回転数を前記手動変速機の変速段を一段シフトアップさせたときの回転数に徐々に移行するように設定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置において、前記エンジン制御手段は、エンジン回転数の制御中にアクセルペダルが踏み込まれたときは、その踏み込み量に応じたエンジン回転数と前記目標回転数とを比較し、前者の回転数が後者の回転数よりも高いときに、前者の回転数を目標回転数に再設定してエンジン回転数を制御することを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置において、運転者による前記手動変速機の変速操作を検出する変速操作検出手段を有し、前記エンジン制御手段は、前記動力遮断操作後、前記検出手段により変速段をシフトダウンする変速操作が検出されたときに、エンジン回転数の目標回転数を、変速段を一段シフトダウンさせたときのエンジン回転数に再設定し、この目標回転数に一致するようにエンジン回転数を制御することを特徴とする。
【0018】
そして、請求項8に記載の発明は、前記請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置において、前記オートクルーズ制御手段は、車速を目標値に制御する車速制御と車間距離を目標値に制御する車間距離制御とを選択的に実行可能とされ、前記エンジン制御手段は、車間距離制御中に前記動力遮断操作が行われたときのみ前記制御を行うと共に、前記オートクルーズ制御手段は、車速制御中に前記動力遮断操作が行われたときは、オートクルーズ制御をキャンセルすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0020】
まず、請求項1に記載の発明によれば、オートクルーズ制御手段による車速または車間距離を目標値に制御するオートクルーズ制御中において、クラッチの切断操作或いは変速機の中立位置へのシフト操作などのエンジンから駆動輪への動力の伝達を遮断する動力遮断操作が行われたときに、エンジン制御手段により、該動力遮断操作の直前の状態から手動変速機の変速段を一段シフトアップさせたときのエンジン回転数を目標回転数とするエンジン回転数の制御が行われることになる。したがって、前記動力遮断操作に伴ってエンジンの負荷が急激に低下しても、これによるエンジン回転数の吹き上がりが抑制され、運転者に違和感や不安感を与えることが防止される。
【0021】
そして、前記動力遮断操作後の手動変速機の操作が変速段を一段シフトアップする操作である場合は、エンジン回転数は、操作した変速段での回転数まで予め低下されているので、シフトアップ操作後、クラッチを接続して動力伝達状態とするときに、該クラッチがいわゆる回転合せされた状態で接続されることになる。したがって、クラッチがショックを発生させることなく円滑に接続されることになる。
【0022】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記エンジン制御手段により、エンジン回転数を手動変速機の変速段を一段シフトアップさせたときの回転数まで低下させる際に、スロットル開度の制御に加えて燃料カット制御を行うので、スロットル開度の制御のみで回転数を低下させる場合に比べて、エンジン回転数を目標回転数まで速やかに低下させることができる。
【0023】
したがって、変速段のシフトアップ操作が行われる場合において、動力遮断操作後、該シフトアップ操作及びクラッチの接続操作が短時間で行われても、クラッチの接続時には、エンジン回転数は前記目標回転数まで十分低下されていることになり、該クラッチ接続時のショックの発生がより確実に抑制されることになる。
【0024】
また、請求項3に記載の発明によれば、エンジン回転数を前記目標回転数に制御するための燃料カット制御は、エンジン回転数が目標回転数にほぼ一致したときに終了するので、その直後にクラッチが接続されてオートクルーズ制御が再開されても、該オートクルーズ制御に必要な動力がエンジンから直ちに出力されることになり、該オートクルーズ制御が遅滞なく再開されることになる。
【0025】
また、請求項4に記載の発明によれば、エンジン回転数を前記目標回転数に制御するためのフィードバック制御は、クラッチ切断操作等の動力遮断操作後、該クラッチ接続操作等の動力接続操作が行われるまで行うので、エンジン回転数をクラッチ接続時まで目標回転数に精度よく制御することができる。したがって、手動変速機の変速操作が変速段を一段シフトアップさせる操作であるときに、クラッチの接続が一層円滑に行われることになる。
【0026】
また、請求項5に記載の発明によれば、エンジン回転数の目標回転数を手動変速機の変速段を一段シフトアップさせたときの回転数に徐々に移行するように設定するので、動力遮断操作後のエンジン回転数の急激な変化が防止され、運転者に与える違和感が抑制される。特に、前記燃料カット制御を行うときは、エンジン回転数の急激な低下を抑制しながら、該回転数を速やかに目標回転数に一致させることが可能となる。
【0027】
また、請求項6に記載の発明によれば、エンジン回転数制御手段によるエンジン回転数の制御中にアクセルペダルが踏み込まれたときに、その踏み込み量に応じたエンジン回転数と前記目標回転数とのうちの高い方の回転数に制御されるので、例えばクラッチの切断等による動力遮断中の変速操作がシフトダウン操作であって、運転者が回転合わせのためにアクセルペダルを踏み込んだ場合、エンジン回転数はシフトダウン後の回転数に予め近づけられていることになるので、変速操作後のクラッチの接続が円滑に行われることになる。
【0028】
さらに、請求項7に記載の発明によれば、動力遮断操作後、変速操作検出手段により手動変速機の変速段をシフトダウンする操作が検出されたときは、エンジン回転数の目標回転数が変速段を一段シフトダウンさせたときの回転数に再設定され、その後、この再設定された目標回転数に一致するようにエンジン回転数が制御されるので、シフトダウン操作が終了し、クラッチが接続されるときには、エンジン回転数は、シフトダウン後の回転数或いは該回転数に近い回転数まで予め上昇されていることになり、クラッチが回転合わせされた状態で円滑に接続されることになる。
【0029】
そして、請求項8に記載の発明によれば、オートクルーズ制御として、車速を目標値に制御する車速制御と車間距離を目標値に制御する車間距離制御との選択が可能とされている場合に、車間距離制御の実行時のみ、前記エンジン制御手段によるエンジン回転数の制御が行われるので、比較的頻度が高い車間距離制御中の変速操作時に、該エンジン回転数制御による上記のような効果が実現されると共に、変速操作が行われる頻度が比較的低い車速制御中は、クラッチの切断等によりオートクルーズ制御自体がキャンセルされ、車間距離制御と車速制御のそれぞれに適合した自動走行制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る制御システム図である。
【図2】オートクルーズ制御の動作を示すフローチャートである。
【図3】同、タイムチャートである。
【図4】他の実施形態に係るオートクルーズ制御の動作を示すフローチャートである。
【図5】同、タイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0032】
まず、図1により本実施形態に係る車両の構成を説明すると、この車両1は、エンジン2と、クラッチ3と、手動変速機(以下、「変速機」と記す)4と、差動装置5とを有し、前記エンジン1の出力が、クラッチ3、変速機4、差動装置5及び左右の車軸6、6を介して左右の駆動輪7、7に伝達されるようになっている。また、前後の車輪にはブレーキ装置8…8が備えられている。
【0033】
また、運転者によって操作される操作部材として、前記エンジン2の出力を制御するアクセルペダル11と、前記ブレーキ装置8…8を作動させるブレーキペダル12と、前記クラッチ3を断接するクラッチペダル13と、変速機4の変速段を切り換えるシフトレバー14とが備えられている。
【0034】
車両1の上記のような構成は周知の構成で、図示のようなフロントエンジン・フロントドライブ車に限らず、フロントエンジン・リヤドライブ車等においても同様である。
【0035】
さらに、この実施形態に係る車両1は、オートクルーズ制御が可能な走行制御装置を有し、該装置を構成するコントロールユニット20と、オートクルーズ制御を開始するためのセットスイッチ21及び該制御をキャンセルするためのキャンセルスイッチ22とが備えられており、これらのスイッチ21、22からの信号がコントロールユニット20に入力される。
【0036】
また、このコントロールユニット20には、先行車両との車間距離を検出するレーザレーダ等の車間距離センサ23と、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数センサ24と、変速機4の出力回転数などから車速を検出する車速センサ25と、前記アクセルペダル11の踏み込み量を検出するアクセルセンサ26と、ブレーキペダル12の踏み込み操作を検出するブレーキスイッチ27と、クラッチペダル13の踏み込み操作を検出するクラッチスイッチ28とが備えられており、これらのセンサ及びスイッチ23〜28からの信号がコントロールユニット20に入力される。
【0037】
そして、コントロールユニット20は、前記オートクルーズ制御のセットスイッチ21がON操作されたときに、前記各センサ及びスイッチ23〜28からの信号に基づき、エンジン2の出力やブレーキ装置8の作動を制御して、車速を設定値に維持する車速制御や、先行車両との車間距離を設定値に維持する車間距離制御などのオートクルーズ制御を行うようになっている。なお、この実施形態では、オートクルーズ制御として、前記車速制御と車間距離制御の両制御を選択的に実行可能とされている。
【0038】
次に、前記コントロールユニット20によるオートクルーズ制御、特に該オートクルーズ制御中に運転者がクラッチ3の切断操作等を行ったときの制御を、図2のフローチャート及び図3のタイムチャートを用いて説明する。
【0039】
まず、フローチャートのステップS1で、現在、オートクルーズ制御が実行されるているか否かを判定し、該制御の実行中であれば、次にステップS2で、クラッチスイッチ28からの信号がクラッチペダル13の踏み込みによりクラッチ3が切断されたことを示すONになったか否か、または、変速機4の変速段が中立段に切り換えられたか否か、即ちエンジン2から駆動輪7、7への動力の伝達が遮断されたか否かを判定する。そして、クラッチ3が切断されておらず、かつ、変速機4の変速段が走行段であって、エンジン2からの動力が駆動輪7、7へ伝達されているときは、現在実行中のオートクルーズ制御を継続する。
【0040】
一方、クラッチ3が切断されて前記クラッチスイッチ27からの信号がONになり、または、変速段が中立段に切り換えられて、エンジン2から駆動輪7、7への動力の伝達が遮断されたときには、次にステップS3で、現在実行中のオートクルーズ制御が車間距離制御であるか否かを判定する。そして、車間距離制御でない場合、即ち車速制御である場合には、ステップS4で、その制御を終了し、オートクルーズ制御自体をキャンセルする。
【0041】
これに対し、現在実行中の制御が車間距離制御である場合は、ステップS5で、該車間距離制御を、その時点の状態を保持して一旦中断した上で、ステップS6以下で、エンジン回転数のフィードバック制御を含む動力遮断時のエンジン制御を行う。
【0042】
即ち、まずステップS6で、エンジン回転数センサ24と車速センサ25からの信号に基づき、動力遮断操作直前の変速機4の変速段を検出し、その変速段が最高速段である場合は、ステップS7で、最高速段でのエンジン回転数、即ち、その時点のエンジン回転数をそのまま前記フィードバック制御の目標回転数に設定する。
【0043】
一方、動力遮断操作直前の変速機4の変速段が最高速段でない場合、例えば図3に示すように、変速機3の最高速段が5速の場合であって、動力遮断操作直前の変速段が4速の場合などは、ステップS8で、変速段を動力遮断操作直前の変速段から一段シフトアップしたときのエンジン回転数を、シフトアップ後の変速段のギヤ比とそのときの車速とから算出し、その回転数を前記フィードバック制御の目標回転数に設定する。
【0044】
また、動力遮断操作直前の変速段が最高速段でない場合は、ステップS9で、エンジン2に備えられた燃料噴射弁2aからの燃料噴射を停止するように制御信号を出力し、エンジン2の燃焼室に燃料を供給しない燃料カット制御を開始する。
【0045】
そして、いずれの場合にも、次にステップS10で、エンジン回転数を前記のようにして設定した目標回転数に一致させるようにフィードバック制御を開始する。このフィードバック制御は、エンジン回転数センサ24で検出される実回転数と前記目標回転数との偏差に応じてスロットルバルブ2aを開閉するようにスロットルアクチュエータ29に制御信号を出力することにより行われる。
【0046】
これにより、エンジン回転数は目標回転数に一致するように制御されることになるが、動力遮断操作直前の変速段が最高速段でない場合は、変速段を一段シフトアップしたときのエンジン回転数が目標回転数とされるので、このフィードバック制御によりエンジン回転数が低下されることになる。
【0047】
その場合に、この実施形態では、図3に符号aで示すように、前記目標回転数が、変速段を一段シフトアップしたときの回転数に徐々に低下するように設定され、したがって、実回転数も目標回転数まで徐々に低下して、急激に低下することによる違和感を運転者に与えることがない。また、このとき、燃料カット制御が行われているので、実回転数は目標回転数に応答性よく追従し、実回転数の低下が遅れることがない。
【0048】
そして、このエンジン回転数を低下させるフィードバック制御により、クラッチ3を切断したことなどによるエンジン回転数の吹き上がりが抑制され、特に燃料カット制御が併用されることにより、該吹き上がりが確実に防止されることになる。また、前記ステップS6で、動力遮断操作直前の変速段が最高速段であると判定されたときも、そのときのエンジン回転数を目標回転数とするフィードバック制御が行われるので、エンジン回転数の吹き上がりが抑制される。
【0049】
その後、ステップS11で、変速機4が変速段が走行段に切り換えられ、かつ、クラッチスイッチ28からの信号がOFFに切り換わったか否か、即ちエンジン2からの動力が駆動輪7、7へ伝達される状態に切り換ったか否かを判定し、いまだこの動力伝達状態に切り換っていない場合は、ステップS12で、アクセルセンサ26からの信号に基づき、アクセルペダル13が踏み込まれたか否かを判定する。
【0050】
これらの判定の結果、動力伝達状態に切り換っておらず、かつ、アクセルペダル11も踏み込まれていないときは、前記フィードバック制御を継続し、動力遮断操作直前の変速段が最高速段でないときは、エンジン回転数を低下させる制御を続行する。そして、ステップS13で、エンジン回転数が前記目標回転数にほぼ一致するまで低下したか否かを判定し、低下したことが判定されれば、ステップS14で、燃料噴射弁2aに燃料噴射を再開するように制御信号を出力して燃料カット制御を終了し、その後は、前記ステップS10のフィードバック制御のみを実行する。
【0051】
これにより、動力遮断操作直前の変速段が最高速段でない場合は、図3に符号bで示すように、エンジン回転数が変速段を一段シフトアップしたときの回転数に制御されることになる。そして、その後、ステップS11で、動力伝達状態に切り換わったことを判定すれば、ステップS15で、前記フィードバック制御を終了すると共に、ステップS16で、車間距離制御を再開する。
【0052】
このとき、エンジン回転数は、動力遮断操作直前の回転数から変速段を一段シフトダアップしたときの回転数に制御されているから、動力遮断中に変速機4の変速段を一段シフトアップする操作が行われていれば、クラッチ3を接続するときに既に回転合せが終了していることになり、該クラッチ3が、ショックを生じることなく円滑に接続されることになる。
【0053】
一方、動力伝達状態に切り換る前に、前記ステップS12でアクセルペダル11が踏み込まれたことが判定されたときは、次にステップS17で、アクセルペダル11の踏み込み量に応じたエンジン回転数、即ち運転者の要求回転数が前記目標回転数よりも高いか否かを判定し、高い場合は、ステップ18で、その要求回転数を目標回転数に設定し直す。そして、前記燃料カット制御がいまだ続行されている場合には、前記ステップS14で該制御を終了した上で、再設定した目標回転数に一致するように、前記ステップS10のフィードバック制御を行う。
【0054】
この場合、図3に符号cで示すように、一旦低下し始め或いは当初の目標回転数まで低下したエンジン回転数が、アクセルペダル11が踏み込まれた時点から上昇することになるが、このアクセルペダル11の踏み込みは、加速のために動力遮断中に変速段をシフトダウンすることに伴うものと推測され、したがって、動力伝達状態となるときに、変速段がシフトダウンされていれば、クラッチ3はほぼ回転合せが行われた状態で接続されることになり、該クラッチ3の接続が円滑に行われる。
【0055】
なお、動力遮断中の変速操作がシフトダウンされたが、アクセルペダル11が踏み込まれなかったときは、図3に符合dで示すように、動力伝達状態への移行時に、エンジン回転数が、一段シフトアップされたときの回転数または最高速段に対応する回転数からシフトダウンされた変速段に対応する回転数に上昇することになる。
【0056】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
【0057】
この実施形態では、前記実施形態の構成に加えて、図1に鎖線で示すように、運転者によるチェンジレバー14のシフト操作位置を検出するシフト位置センサ30が備えられており、該センサ30からの信号がコントロールユニット20に入力されるようになっている。
【0058】
この実施形態におけるオートクルーズ制御は前記実施形態とほぼ同様で、図4にフローチャートを示すように、ステップS1’〜ステップS10’で、前記実施形態と同様に、車間距離制御中にクラッチ3が切断されるなど、エンジン2から駆動輪7、7への動力伝達が遮断されたときに、遮断操作直前の変速段が最高速段でないときは、変速段を一段シフトアップしたときのエンジン回転数を目標回転数に、最高速段のときはそのときのエンジン回転数を目標回転数に設定した上で、該エンジン回転数を目標回転数に一致させるフィードバック制御を行う。また、動力遮断操作直前の変速段が最高速段でないときは、燃料カット制御も開始する。
【0059】
そして、ステップS11’でクラッチ3が接続されるなど、動力伝達状態へ移行したか否かを判定し、いまだ移行していない場合は、この実施形態では、ステップS12’で、前記シフト位置センサ30からの信号に基づき、変速機4の変速段をシフトダウンする操作が行われたか否かを判定する。
【0060】
シフトダウン操作が行われていないときは、前記フィードバック制御を継続し、動力遮断操作直前の変速段が最高速段でないときは、燃料カット制御と合わせて、エンジン回転数を低下させる制御を続行すると共に、ステップS13’でエンジン回転数が前記目標回転数にほぼ一致したことを判定すれば、ステップS14’で燃料カット制御を終了する。また、動力遮断操作直前の変速段が最高速段であった場合は、エンジン回転数を維持するようにフィードバック制御を行う。
【0061】
したがって、この実施形態においても、動力遮断操作直後のエンジン回転数の吹き上がりが抑制されると共に、動力遮断操作直前の変速段が最高速段でなく、動力遮断中に変速段を一段シフトアップする操作が行われたときは、クラッチ3が回転合せがされた状態で円滑に接続されることになり、該クラッチ3が円滑に接続されることになる。そして、クラッチ3の接続等により動力伝達状態に移行すれば、ステップS15’でフィードバック制御を終了すると共に、ステップS16’で車間距離制御を再開する。
【0062】
一方、前記ステップS12’で、動力遮断中に変速段をシフトダウンする操作が行われたことを判定したときは、次にステップS17’で、図5に符号eで示すように、動力遮断操作直前の変速段から検出された変速段へシフトダウンされたときのエンジン回転数をフィードバック制御の目標回転数に再設定し、燃料カット制御が行われていれば、ステップS14’で該制御を終了した上で、再設定した目標回転数に一致するように、フィードバック制御を行う。
【0063】
これにより、図5に符号fで示すように、エンジン回転数が上昇することになり、その後、ステップS11’で動力伝達状態への移行を判定すれば、ステップS15’で、前記フィードバック制御を終了すると共に、ステップS16’で、車間距離制御を再開することになるが、このとき、エンジン回転数はシフタウンした変速段に対応する回転数に制御されているから、クラッチ3は回転合せが行われた状態で接続されることになり、シフトアップのときと同様、ショックを生じることなく、円滑に接続されることになる。
【0064】
なお、この実施形態におけるシフト位置センサ30によりシフトダウン操作を検出したときの制御を、図2、3にフローチャート及びタイムチャートを示す前記実施形態において実施してもよい。
【0065】
また、前記両実施形態では、車速制御中にクラッチ切断等の操作が行われたときには、オートクルーズ制御自体をキャンセルするようにしたが、車速制御中であっても、前記の車間距離制御中の制御と同様の制御を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明によれば、手動変速機を搭載した車両におけるオートクルーズ制御が良好に行われることになり、したがって、本発明は、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0067】
1 車両
2 エンジン
3 クラッチ
4 手動変速機
20 コントロールユニット(オートクルーズ制御手段、エンジン制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって断接操作が行われるクラッチと、運転者によって変速操作が行われる手動変速機と、少なくともエンジンを制御して車速または車間距離を目標値に維持するオートクルーズ制御を行うオートクルーズ制御手段とが備えられた車両の走行制御装置において、前記オートクルーズ制御手段によるオートクルーズ制御中に、前記エンジンから駆動輪への動力伝達を遮断する動力遮断操作が行われたときに、該動力遮断操作の直前の状態から手動変速機の変速段を一段シフトアップさせたときのエンジン回転数を目標回転数に設定し、この目標回転数に一致するようにエンジン回転数を制御するエンジン制御手段を備えたことを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記エンジン制御手段は、前記エンジン回転数の制御を、エンジンへの燃料の供給を遮断する燃料カット制御と、スロットル開度の制御によるエンジン回転数のフィードバック制御とで行うことを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記エンジン制御手段は、エンジン回転数が目標回転数にほぼ一致したときに、前記燃料カット制御を終了することを特徴とする請求項2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記エンジン制御手段は、前記動力遮断操作の後、前記手動変速機の走行位置へのシフト操作及び前記クラッチの接続操作による動力接続操作が行われるまで、前記フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記エンジン制御手段は、目標回転数を設定するときに、エンジン回転数を前記手動変速機の変速段を一段シフトアップさせたときの回転数に徐々に移行するように設定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記エンジン制御手段は、エンジン回転数の制御中にアクセルペダルが踏み込まれたときは、その踏み込み量に応じたエンジン回転数と前記目標回転数とを比較し、前者の回転数が後者の回転数よりも高いときに、前者の回転数を目標回転数に再設定してエンジン回転数を制御することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置。
【請求項7】
運転者による前記手動変速機の変速操作を検出する変速操作検出手段を有し、前記エンジン制御手段は、前記動力遮断操作後、前記検出手段により変速段をシフトダウンする変速操作が検出されたときに、エンジン回転数の目標回転数を、変速段を一段シフトダウンさせたときのエンジン回転数に再設定し、この目標回転数に一致するようにエンジン回転数を制御することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置。
【請求項8】
前記オートクルーズ制御手段は、車速を目標値に制御する車速制御と車間距離を目標値に制御する車間距離制御とを選択的に実行可能とされ、前記エンジン制御手段は、車間距離制御中に前記動力遮断操作が行われたときのみ、前記制御を行うと共に、前記オートクルーズ制御手段は、車速制御中に前記動力遮断操作が行われたときは、オートクルーズ制御をキャンセルすることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−189890(P2011−189890A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59581(P2010−59581)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】