車両の車体スリップ角検出装置、車体スリップ角検出方法、及び同車体スリップ角検出装置を備えた車両の運動制御装置
【課題】 車体に固定されたカメラにより撮影される路面画像を利用して、車体スリップ角を精度良く推定することができる車体スリップ角検出装置を提供すること。
【解決手段】 この装置は、前方カメラ65fにより現時点よりも所定時間前に撮影された前方画像に基づいて、同前方画像内における「対象物」の位置(点A)を明度差を利用して特定し、後方カメラ65rにより現時点にて撮影された後方画像に基づいて、同後方画像内における上記「対象物」と同じ対象物の位置(点C)を明度差を利用して特定する。上記特定された上記「同じ対象物」の上記後方画像内における位置(点C)の、車体スリップ角θが「0」であると仮定した場合において特定されるであろう上記「同じ対象物」の同後方画像内における位置(点B)に対する、画像横方向における変位量mを求め、「θ=tan-1(m/L)」なる式(L:カメラ間距離)に従って車体スリップ角θを検出する。
【解決手段】 この装置は、前方カメラ65fにより現時点よりも所定時間前に撮影された前方画像に基づいて、同前方画像内における「対象物」の位置(点A)を明度差を利用して特定し、後方カメラ65rにより現時点にて撮影された後方画像に基づいて、同後方画像内における上記「対象物」と同じ対象物の位置(点C)を明度差を利用して特定する。上記特定された上記「同じ対象物」の上記後方画像内における位置(点C)の、車体スリップ角θが「0」であると仮定した場合において特定されるであろう上記「同じ対象物」の同後方画像内における位置(点B)に対する、画像横方向における変位量mを求め、「θ=tan-1(m/L)」なる式(L:カメラ間距離)に従って車体スリップ角θを検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体の向き(即ち、車体前後方向)と、同車体の進行方向との成す角度である車体スリップ角を検出する車両の車体スリップ角検出装置、並びに、車体スリップ角検出方法、及び同車体スリップ角検出装置を備えた車両の運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両が旋回状態にあって車体スリップ角が所定値以上になった場合に車両の安定性を維持するための車両安定化制御(例えば、オーバーステア抑制制御)を開始・実行する車両の運動制御装置が広く知られている。従って、上記車両安定化制御を正確に開始・実行するためには、車体スリップ角を精度良く取得する必要がある。
【0003】
一般に、上記車体スリップ角は、車体速度と、横加速度センサによる横加速度検出値と、ヨーレイトセンサによるヨーレイト検出値と、時間積分計算を要する周知の所定の数式とに基づいて推定されていた。ところが、時間積分計算には誤差が生じ易い。従って、この手法では、車体スリップ角を精度良く推定することは困難であった。
【0004】
そこで、近年、例えば、下記特許文献1に記載のように、車体の所定箇所に車両が走行している路面を撮影するカメラを固定し、同カメラにより撮影された画像を利用して車体スリップ角を検出する試みがなされてきている。
【特許文献1】特開2000−81322号公報
【0005】
より具体的に述べると、上記文献には、路面画像にカメラ露光時間の間の路面の流れが映ることを利用し、路面画像中の路面の流れ方向に基づいて車体スリップ角を検出する技術が記載されている。
【0006】
この手法を採用して車体スリップ角(特に、微小の車体スリップ角)を精度良く検出するためには、路面画像中の路面の流れ方向を精度良く取得する必要がある。このためには、路面画像に映る路面の範囲(特に、路面画像に映る路面の車体前後方向における長さ)を十分に確保する必要がある。
【0007】
しかしながら、一般に、車体に固定されたカメラにより撮影される路面画像に映る路面の範囲を十分に確保することは困難である。従って、上記文献に記載の手法によってもなお、車体スリップ角(特に、微小のスリップ角)を精度良く推定することは困難であった。
【発明の開示】
【0008】
本発明は係る問題に対処するためになされたものであって、その目的は、車体に固定されたカメラにより撮影される路面画像を利用して、車体スリップ角を精度良く推定することができる車体スリップ角検出装置等を提供することにある。
【0009】
本発明に係る車体スリップ角検出装置は、車両の車体の前方部分に固定され同車両が走行している路面を撮影する前方カメラと、前記車体の後方部分に固定され前記車両が走行している路面を撮影する後方カメラと、前記前方カメラにより撮影された画像である前方画像と、前記後方カメラにより撮影された画像である後方画像との比較結果に基づいて前記車両の車体スリップ角を検出する車体スリップ角検出手段とを備えている。
【0010】
ここにおいて、前方カメラは、例えば、車体前方のバンパー部において、車体前方のバンパー部の下方近傍における所定の範囲内の路面を撮影できるように配置・固定される。同様に、後方カメラは、例えば、車体後方のバンパー部において、車体後方のバンパー部の下方近傍における所定の範囲内の路面を撮影できるように配置・固定される。前方カメラ、及び後方カメラとしては、例えば、CCDカメラ(電荷結合素子カメラ)が採用される。
【0011】
前方カメラと後方カメラとで路面上における同じ対象物を含む路面をそれぞれ撮影した場合、車体スリップ角の大きさは、上記前方画像内における対象物の位置と上記後方画像内における同一対象物の位置の差として現れる。従って、上記のように、上記前方画像と上記後方画像との比較結果に基づいて車両の車体スリップ角を検出することができる。
【0012】
加えて、一般に、車体の前後方向の長さ(例えば、車両前方のバンパー部と車両後方のバンパー部の車体前後方向における距離)は、車体に固定されたカメラにより撮影される路面画像に映る路面の車体前後方向における長さよりも十分に長い。
【0013】
従って、車体スリップ角が微小であっても、上述した上記前方画像内における対象物の位置と上記後方画像内における同一対象物の位置との差は比較的大きくなる。これにより、車体スリップ角が微小であっても、上記文献に記載した手法に比して、車体スリップ角をより一層精度良く検出することができる。
【0014】
本発明に係る車体スリップ角検出装置の具体的な実施態様は、例えば、前記前方画像に基づいて対象物の同前方画像内における位置を特定する対象物位置特定手段と、前記後方画像に基づいて前記対象物位置特定手段により特定された対象物と同じ対象物の同後方画像内における位置を特定する同一対象物位置特定手段とを更に備え、前記車体スリップ角検出手段は、前記同一対象物位置特定手段により特定された前記同じ対象物の前記後方画像内における位置と、前記車体スリップ角がゼロであると仮定した場合において前記同一対象物位置特定手段により特定されるであろう前記同じ対象物の同後方画像内における位置との比較結果に基づいて同車体スリップ角を検出するように構成され得る。
【0015】
より具体的には、前記車体スリップ角検出手段は、例えば、前記同一対象物位置特定手段により特定された前記同じ対象物の前記後方画像内における位置の、前記車体スリップ角がゼロであると仮定した場合において前記同一対象物位置特定手段により特定されるであろう前記同じ対象物の同後方画像内における位置に対する前記車体の横方向に対応する同後方画像内での方向における変位量と、前記前方カメラと前記後方カメラの間の前記車体の前後方向における距離とに基づいて同車体スリップ角を検出するように構成され得る(詳細は、後述する)。
【0016】
また、本発明に係る車体スリップ角検出装置が、上記対象物位置特定手段と上記同一対象物位置特定手段とを備える場合、前記前方カメラにより過去に撮影された前記前方画像を記憶する記憶手段を更に備え、前記同一対象物位置特定手段は、(或る時点(例えば、現時点)に撮影された)前記後方画像に基づいて、前記対象物位置特定手段により(前記或る時点よりも)所定時間前に撮影された前記記憶されてる前記前方画像に基づいて特定された前記対象物と同じ対象物の同後方画像内における位置を特定するように構成されることが好適である。この場合、前記同一対象物位置特定手段は、前記所定時間を、前記車両の車体速度と、前記前方カメラと前記後方カメラの間の車体前後方向距離とに基づいて決定するように構成されることが好ましい。
【0017】
前方カメラにより或る時点で撮影された路面上における対象物と同じ対象物は、前記前方カメラと前記後方カメラの間の車体前後方向距離を車体速度で除することで得られる時間(以下、「遅延時間」と称呼する。)だけ同或る時点よりも後になって後方カメラにより撮影され得る。
【0018】
換言すれば、或る時点にて後方カメラにより撮影された画像から前方カメラにより撮影された対象物と同じ対象物を特定するためには、同対象物として、上記或る時点よりも上記遅延時間だけ前に撮影された前方画像に基づいて特定された対象物を選択する必要がある。従って、上記構成によれば、後方カメラにより撮影された画像から前方カメラにより撮影された対象物と同じ対象物をより一層正確に特定することができ、この結果、車体スリップ角がより一層精度良く検出され得る。
【0019】
また、本発明に係る車体スリップ角検出装置が、上記対象物位置特定手段と上記同一対象物特定手段とを備える場合、前記対象物位置特定手段は、前記対象物の前記前方画像内における位置を、同前方画像における明度の差を利用して特定するように構成されることが好適である。同様に、この場合、前記同一対象物位置特定手段は、前記同じ対象物の前記後方画像内における位置を、同後方画像における明度の差を利用して特定するように構成されることが好適である。
【0020】
画像における明度は、例えば、白黒画像が使用される場合であっても、多数の階調(例えば、256階調)を有するグレースケールにより表すことができる。換言すれば、上記構成によれば、上記前方画像、及び上記後方画像として白黒画像を採用することができる。従って、カラー画像を得ることができない比較的安価なカメラを使用することができ、この結果、装置全体の製造コストを安価とすることができる。
【0021】
また、上記本発明に係る車体スリップ角検出装置が採用する本発明に係る車体スリップ角検出方法は、具体的には、前記前方カメラにより撮影された画像である前方画像と、前記後方カメラにより撮影された画像である後方画像との比較結果に基づいて前記車両の車体スリップ角を検出する方法である。
【0022】
更には、上述した本発明に係る車体スリップ角検出装置を用いて、同体スリップ角検出装置により検出された前記車体スリップ角に基づいて、前記車両の安定性を維持するための車両安定化制御を開始・実行する車両安定化制御手段を備えた車両の運動制御装置を構成することができる。これより、精度良く検出された車体スリップ角(特に、微小スリップ角)に基づいて、オーバーステア抑制制御等の車両安定化制御が正確に開始・実行され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明による車体スリップ角検出装置を含む本発明による車両の運動制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、前輪駆動方式の車両である。
【0024】
この運動制御装置10は、駆動力を発生するとともに同駆動力を駆動輪FL,FRにそれぞれ伝達する駆動力伝達機構部20と、車輪に運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部30と、液圧ユニット40(ハイドロリックユニット。以下、単に「HU40」と称呼する。)と電気制御装置50(以下、単に「ECU50」と称呼する。)とが一体化されてなる統合ユニットIと、を含んで構成されている。
【0025】
駆動力伝達機構部20は、駆動力を発生するエンジン21と、同エンジン21の吸気管21a内に配置されるとともに吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁THの開度を制御するスロットル弁アクチュエータ22と、エンジン21の図示しない吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを含む燃料噴射装置23を備える。
【0026】
また、駆動力伝達機構部20は、エンジン21の出力軸に入力軸が接続された変速機24と、変速機24の出力軸と連結されエンジン21の駆動力を適宜分配して前輪FL,FRにそれぞれ伝達する前輪側ディファレンシャル25とを含んで構成されている。
【0027】
ブレーキ液圧発生部30は、ブレーキペダルBPの作動により応動する図示しない周知のバキュームブースタと、同バキュームブースタに連結された図示しないマスタシリンダとから構成されていて、ブレーキ液圧発生部30は、ブレーキペダルBPの操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生するようになっている。これらマスタシリンダ及びバキュームブースタの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。
【0028】
HU40は、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、自動的にブレーキ液圧を発生させるための液圧ポンプ、この液圧ポンプを駆動するためのモータ、及び各車輪のホイールシリンダ液圧を個別に調整するための複数の電磁弁等を含んで構成されている。
【0029】
HU40は、全ての電磁弁が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧)をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。
【0030】
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、ホイールシリンダW**は、左前輪用ホイールシリンダWfl,
右前輪用ホイールシリンダWfr, 左後輪用ホイールシリンダWrl, 右後輪用ホイールシリンダWrrを包括的に示している。
【0031】
他方、この状態において、ECU50からの指示により、モータ(従って、液圧ポンプ)を駆動するとともに、所定の電磁弁を制御することで、HU40は、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、各車輪に付与される制動力を車輪毎に個別に調整できるようになっている。これにより、HU40は、ECU50からの指示により、後述する車両安定化制御(具体的には、オーバーステア抑制制御、及びアンダーステア抑制制御)を達成できるようになっている。
【0032】
ECU50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。
【0033】
インターフェース55は、車輪速度センサ61**、アクセル開度センサ62、ステアリング角度センサ63、及びヨーレイトセンサ64と接続されている。
【0034】
車輪速度センサ61fl,61fr,61rl及び61rrは、電磁ピックアップ式のセンサであって、車輪FL,FR,RL及びRRの車輪速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力するようになっている。アクセル開度センサ62は、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出し、同アクセルペダルAPの操作量Accpを示す信号を出力するようになっている。ステアリング角度センサ63は、ステアリングSTの中立位置からの回転角度を検出し、実ステアリング角度θsを示す信号を出力するようになっている。ヨーレイトセンサ64は、車両のヨーレイトを検出し、実ヨーレイトYrを示す信号を出力するようになっている。
【0035】
ここで、実ステアリング角度θsは、ステアリングSTが中立位置にあるときに「0」となり、同中立位置からステアリングSTを(運転者から見て)反時計まわりの方向へ回転させたときに正の値、同中立位置から同ステアリングSTを時計まわりの方向へ回転させたときに負の値となるように設定されている。また、実ヨーレイトYrは、車両が左方向(車両上方から見て反時計まわりの方向)へ旋回しているときに正の値、車両が右方向へ旋回しているときに負の値となるように設定されている。
【0036】
また、インターフェース55は、更に、白黒画像を取得可能なCCDカメラ(電荷結合素子カメラ)である前方カメラ65f、及び後方カメラ65rとも接続されている。図2に示すように、前方カメラ65fは車体前方のバンパー部における車体の横方向中央位置に固定され、後方カメラ65rは車体後方のバンパー部における車体の横方向中央位置に固定されている。
【0037】
この結果、前方カメラ65fは、車体横方向中央位置であって車体前方のバンパー部の下方近傍における、或る長方形で囲まれた範囲内の路面を撮影できるようになっている。同様に、後方カメラ65rは、車体横方向中央位置であって車体後方のバンパー部の下方近傍における、上記と同じ形状の長方形で囲まれた範囲内の路面を撮影できるようになっている。なお、これらのカメラ65f,65rとして、周知の駐車支援システム、障害物検出システム等に使用されるカメラを使用することができる。
【0038】
そして、インターフェース55は、上記センサ61〜64、及びカメラ65f,65rからの各信号をCPU51に供給するとともに、同CPU51の指示に応じてHU40の各電磁弁及びモータ、スロットル弁アクチュエータ22、燃料噴射装置23、並びに、前方、後方カメラ65f,65rに駆動信号を送出するようになっている。
【0039】
これにより、スロットル弁アクチュエータ22は、原則的に、スロットル弁THの開度がアクセルペダルAPの操作量Accpに応じた開度になるように同スロットル弁THを駆動するとともに、燃料噴射装置23は、筒内(シリンダ内)に吸入された空気量である筒内吸入空気量に対して所定の目標空燃比(例えば、理論空燃比)を得るために必要な量の燃料を噴射するようになっている。
【0040】
(車体スリップ角検出方法の概要)
次に、上記構成を有する本発明の実施形態に係る車体スリップ角検出装置、或いは運動制御装置10(以下、「本装置」と云う。)による車体スリップ角θの検出方法の概要について図3を参照しながら説明する。図3において点Gは車体の重心に対応している。
【0041】
図3は、車両の車体の向き(即ち、車体前後方向)が、同車体の進行方向に対して車両上方から見て反時計まわりの方向にずれている場合(即ち、車体スリップ角θが図3に示す角度となっている場合)を示している。また、説明の便宜上、図3において、前方カメラ65fに対応する長方形の斜線部分は、前方カメラ65fで撮影される上述した「車体横方向中央位置であって車体前方のバンパー部の下方近傍における路面の範囲」を示し、後方カメラ65rに対応する長方形の斜線部分は、後方カメラ65rで撮影される上述した「車体横方向中央位置であって車体後方のバンパー部の下方近傍における路面の範囲」を示しているものとする。上述のように、これらの2つの長方形は同一形状となる。
【0042】
いま、車体スリップ角θが「0」の場合を考える。この場合、前方カメラ65fにより或る時点で撮影された路面の範囲(即ち、上記長方形の範囲)は、前方カメラ65fと後方カメラ65rの間の車体前後方向距離(以下、「カメラ間距離L」と称呼する。図3を参照。)を車体速度で除することで得られる上記遅延時間(以下、「遅延時間Tdelay」と称呼する。)だけ同或る時点よりも後で後方カメラ65rにより撮影される路面の範囲(即ち、上記長方形の範囲)と一致する。
【0043】
換言すれば、この場合、前方カメラ65fにより或る時点で撮影された画像(前方画像)内における或る位置(例えば、前方画像内における中心Aの位置とする。図3を参照。)に映っている路面上における「或る対象物」は、上記遅延時間Tdelayだけ同或る時点よりも後で後方カメラ65rにより撮影された画像(後方画像)内において上記「或る位置」に対応する位置と同じ位置(この場合、後方画像内における中心Bの位置。図3を参照。)に映る。
【0044】
一方、車体スリップ角θが図3示す角度となっている場合(正確には、上記遅延時間Tdelayに亘って車体スリップ角θが図3に示す角度で一定となる場合)、或る時点で撮影された前方画像内における「或る位置」(例えば、上記中心Aの位置)に映っている「或る対象物」は、遅延時間Tdelayだけ同或る時点よりも後で撮影された後方画像内において、上記「或る位置」に対応する位置(この場合、上記中心Bの位置)からずれた位置である点C(図3を参照)の位置に映る。
【0045】
ここで、後方画像内における上記点Cの位置の、同後方画像内における上記中心Bの位置に対する、車体横方向に対応する後方画像内での方向(以下、「画像横方向」とも称呼する。)における変位量m(図3を参照)は、車体スリップ角θを表す値となる。即ち、上記変位量mを取得できれば、車体スリップ角θを下記(1)式に従って検出することができる。
【0046】
θ=tan−1(m/L) ・・・(1)
【0047】
換言すれば、前方カメラ65fにより現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像内における「或る対象物」の画像横方向位置と、後方カメラ65rにより現時点にて撮影された後方画像内における上記「或る対象物」と同じ対象物の画像横方向位置の差を上記変位量mとして取得すれば、同取得した変位量mと上記(1)式とに基づいて車体スリップ角θを取得することができる。
【0048】
以上のことから、(現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された)前方画像内における「対象物」の画像横方向位置と、(現時点にて撮影された)後方画像内における上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置が特定できれば、車体スリップ角θを取得することができる。以下、これらの画像横方向位置の特定方法について説明する。
【0049】
<「対象物」の位置の特定方法>
車両走行中において前方、後方カメラ65f,65rにより所定の露光時間(極短時間)の間だけ路面を撮影すると、撮影される路面の範囲は、同露光時間の間に亘って車体速度に応じた距離だけ車体の進行方向(一定方向)に移動する。このため、撮影された路面の画像には、路面上の色・模様の分布が縞模様となって現れる。
【0050】
加えて、上述のように、前方、後方カメラ65f,65rにより撮影される画像は白黒画像である。この白黒画像における明度は、多数の階調(例えば、256階調)を有するグレースケールにより表すことができるようになっている。
【0051】
そこで、本装置は、前方カメラ65fにより現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された上記縞模様を有する前方画像内において明度の差(即ち、階調の差)が最大(以下、「最大明度差」とも称呼する。)となる画像横方向位置を特定し、同特定した画像横方向位置を「対象物」の画像横方向位置として扱う。
【0052】
そして、本装置は、後方カメラ65rにより現時点にて撮影された上記縞模様を有する後方画像内において明度の差が上記最大明度差と同じになる画像横方向位置を特定し、同特定した画像横方向位置を上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置として扱う。
【0053】
図4(a)(b)は、車体スリップ角θが図3に示す角度になっている場合における、前方カメラ65fにより現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像の一例、及び後方カメラ65rにより現時点にて撮影された後方画像の一例をそれぞれ示している。
【0054】
この例の場合、図4(a)に示す前方画像内において「対象物」の画像横方向位置は、図中の点Pfに特定される。なお、この場合、「対象物」として、例えば、アスファルトの濃淡、白線、道路の凹凸、小石等が想定されている。また、図4(b)に示す後方画像内において上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置は、図中の点Prに特定される。
【0055】
この例の場合、図4(a)に示す前方画像における図中右上の頂点から上記点Pfまでのドット数αと、図4(b)に示す後方画像における図中右上の頂点から上記点Prまでのドット数βとを取得し、値(β−α)と、「一ドット」に相当する距離とから上記変位量m(図3を参照)を取得することができる。従って、上記取得した変位量mと上記(1)式とに基づいて車体スリップ角θを検出することができる。
【0056】
以上、説明したように、本装置は、現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像に基づいて、同前方画像内における「対象物」の画像横方向位置を同前方画像における明度の差を利用して特定するとともに、現時点にて撮影された後方画像に基づいて、同後方画像内における上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置を同後方画像における明度の差を利用して特定する。
【0057】
そして、本装置は、上記後方画像により特定された上記「同じ対象物」の同後方画像内における画像横方向位置(図3における点Cの位置を参照)の、上記前方画像により特定された「対象物」の同前方画像内における画像横方向位置(従って、車体スリップ角θが「0」であると仮定した場合において特定されるであろう上記「同じ対象物」の同後方画像内における画像横方向位置(図3における中心Bの位置を参照))に対する、画像横方向における変位量mを求め、同求めた変位量mと、上記カメラ間距離Lとに基づいて車体スリップ角θを検出する。以上が、本発明による車体スリップ角検出方法の概要である。
【0058】
(OS−US抑制制御の概要)
次に、本装置が実行するオーバーステア抑制制御(OS抑制制御)、及びアンダーステア抑制制御(US抑制制御)の概要について説明する。
【0059】
<OS抑制制御>
以下、車体スリップ角θは、車体の向き(従って、車体前後方向)が車体の進行方向に対して車体旋回方向内側にずれている場合に正の値、車体の向きが車体の進行方向に対して車体旋回方向外側にずれている場合に負の値となるように設定されるものとする。
【0060】
そうすると、上記(1)式により検出される車体スリップ角θの値が正の値であることは、車両が所謂「横滑り」の状態にあることを意味する。本装置は、上記車体スリップ角θが所定値「θth」(>0)よりも大きいとき、車両が「オーバーステア状態」にあると判定し、オーバーステア状態を抑制するためのOS抑制制御を実行する。
【0061】
具体的には、本装置は、車体スリップ角θと制御量Gosとの関係を規定する予め作製されている所定のテーブルと、上記車体スリップ角θとに基づいて制御量Gosを求め、上記求めた制御量Gos(≠0)に応じたブレーキ液圧による制動力を旋回方向外側の前輪に付与する。これにより、車両に対して旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントが強制的に発生し、車体スリップ角θ(>0)が減少するように制御される。この結果、車両の旋回における安定性が維持され得る。
【0062】
<US抑制制御>
先ず、舵角ヨーレイトYrtを車両の運動モデルから導かれる理論式を基礎とする下記(2)式に従って定義する。この舵角ヨーレイトYrtは、実ステアリング角度θsに基づいて得られる車両のヨーレイトである。
【0063】
Yrt=(Vso・θs)/(ns・Lw)・(1/(1+Kh・Vso2)) ・・・(2)
【0064】
上記(1)式において、Vsoは後述するように設定される車体速度であり、Lwは車両のホイールベースであり、Khはスタビリティファクタであり、nsはステアリングギヤ比である。ホイールベースLw、スタビリティファクタKh、及びステアリングギヤ比nsは、車両の諸元に従って決定される定数である。
【0065】
舵角ヨーレイトYrtは、車両が左方向へ旋回しているとき(実ステアリング角度θsが正の値のとき)に正の値、車両が右方向へ旋回しているとき(実ステアリング角度θsが負の値のとき)に負の値となるように設定される。なお、この理論式は、ステアリング角度及び車体速度が共に一定である状態で車両が旋回するとき(定常円旋回時)におけるヨーレイトの理論値を算出する公知の式である。
【0066】
また、ヨーレイト偏差ΔYrを下記(3)式に従って定義する。即ち、このヨーレイト偏差ΔYrは、上記舵角ヨーレイトYrtの絶対値からヨーレイトセンサ64により得られる実ヨーレイトYrの絶対値を減じた値である。
【0067】
ΔYr=|Yrt|−|Yr| ・・・(3)
【0068】
上記(3)式により定義されるヨーレイト偏差ΔYrの値が正の値であることは、車両の真のヨーレイトが舵角ヨーレイトYrtと等しい値となっていると仮定した場合よりも旋回半径が大きくなる状態にあることを意味する。従って、ヨーレイト偏差ΔYrが或るしきい値Yrth(>0)よりも大きいとき、車両が「アンダーステア状態」にあると判定することができる。
【0069】
そこで、本装置は、上記ヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrthを超えたとき車両が「アンダーステア状態」にあると判定し、アンダーステア状態を抑制するためのUS抑制制御を実行する。具体的には、本装置は、上述したOS抑制制御の場合と同様に制御量Gusを求め、上記求めた制御量Gus(≠0)に応じたブレーキ液圧による制動力を旋回方向内側の後輪に付与する。
【0070】
これにより、車両に対して旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが強制的に発生する。従って、実ヨーレイトの絶対値が大きくなり、実ヨーレイトが舵角ヨーレイトYrtに近づくように(即ち、ヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrth以下となるように)制御される。この結果、車両の旋回トレース性能が維持され得る。
【0071】
更に、本装置は、車両が「アンダーステア状態」、又は「オーバーステア状態」にあると判定している場合、上記ブレーキ液圧による制動力の付与に加えて、エンジン21の出力(具体的には、スロットル弁開度)をアクセル操作量Accpに応じた値から所定量だけ低下させるエンジン出力低減制御を実行する。これにより、車体速度が低下することで車両に働く遠心力が小さくなり、これによっても車両の旋回トレース性能、又は旋回における安定性が維持され得る。以上が、OS−US抑制制御の概要である。
【0072】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明の実施形態に係る車体スリップ角検出装置を含む運動制御装置10の実際の作動について、ECU50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図5〜図9を参照しながら説明する。
【0073】
CPU51は、図5に示した車輪速度等の算出を行うルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、車輪**の現時点での車輪速度(車輪**の外周の速度)Vw**をそれぞれ算出する。具体的には、CPU51は車輪速度センサ61**の出力値の変動周波数に基づいて車輪速度Vw**をそれぞれ算出する。
【0074】
次いで、CPU51はステップ510に進み、アクセル開度センサ62から得られるアクセルペダル操作量Accpが「0」よりも大きいか否か(即ち、車両が駆動状態にあるか制動状態にあるか)を判定し、「Yes」と判定する場合(駆動状態にある場合)、ステップ515に進んで車輪速度Vw**のうちの最小値を車体速度Vsoとして算出する。一方、CPU51は「No」と判定する場合(制動状態にある場合)、ステップ520に進んで車輪速度Vw**のうちの最大値を車体速度Vsoとして算出する。
【0075】
次いで、CPU51はステップ525に進み、上記ステップ515、或いはステップ520にて算出された車体速度Vsoと、ステアリング角度センサ63から得られるステアリング角度θsと、上記(2)式とに基づいて舵角ヨーレイトYrtを算出する。
【0076】
続いて、CPU51はステップ530に進み、上記求めた舵角ヨーレイトYrtと、ヨーレイトセンサ64から得られる現時点での実ヨーレイトYrと、上記(3)式とに基づいてヨーレイト偏差ΔYrを算出した後、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降も、CPU51は本ルーチンを実行間隔時間Δtの経過毎に繰り返し実行することで各種値を逐次更新していく。
【0077】
また、CPU51は、図6に示した車体スリップ角θの算出を行うルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、後述するステップ610にて前方カメラ65fにより過去に撮影されRAM53に記憶されている画像データPf(n)を全て画像データPf(n+1)として格納し直す(n:「0」以上の整数)。即ち、画像データPf(0),Pf(1),Pf(2),Pf(3),・・・がそれぞれ、画像データPf(1),Pf(2),Pf(3),Pf(4),・・・として格納し直される。
【0078】
ここで、画像データPf(n)は、現時点から時間(n・Δt)だけ前の時点で前方カメラ65fにより撮影された前方画像の画像データを示す。従って、ステップ605では、画像データPf(n)
(n:「0」以上の整数)として格納されている各画像データに対応する「撮影時間」がそれぞれ一実行間隔時間Δtだけ前の時点に変更されることになる。
【0079】
次に、CPU51はステップ610に進み、前方カメラ65fで上記所定の露光時間だけ路面を撮影し、同撮影した画像を画像データPf(0)としてRAM53に記憶する。続いて、CPU51はステップ615に進んで、後方カメラ65rで上記所定の露光時間だけ路面を撮影し、同撮影した後方画像を画像データPrとしてRAM53に記憶する。ここで、ステップ610は記憶手段に相当する。
【0080】
次いで、CPU51はステップ620に進み、上記カメラ間距離L(定数)を上記ステップ515、或いは520にて算出されている車体速度Vsoの最新値で除することで上記遅延時間Tdelayを算出し、続くステップ625にて、上記算出した遅延時間Tdelayを実行間隔時間Δtで除することで、現時点から遅延時間Tdelayだけ前に前方カメラ65fにて撮影・記憶されている前方画像の画像データを選択するための値k(整数)を算出する。
【0081】
次に、CPU51はステップ630に進んで、現時点から遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像の画像データPf(k)に基づいて、同前方画像内において明度差が最大(上記最大明度差)となる位置に対応するドット数α(図4(a)を参照)を取得し、続くステップ635にて、先のステップ615にて現時点にて撮影された後方画像の画像データPrに基づいて、同後方画像内において、明度差が上記最大明度差と同じになる位置に対応するドット数β(図4(b)を参照)を取得する。ここで、ステップ630は対象物位置特定手段に相当し、ステップ635は同一対象物位置特定手段に相当する。
【0082】
次いで、CPU51はステップ640に進み、上記ステップ635にてドット数βが取得不能であるか否か(即ち、ステップ630にて特定された「対象物」と同じ対象物の位置が特定不能であるか否か)を判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ670に進んでフラグFAILの値を「1」に設定した後、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0083】
ここで、フラグFAILは、その値が「1」のとき車体スリップθの検出不能状態を示し、その値が「0」のとき車体スリップ角θの検出可能状態を示す。なお、車体スリップθの検出不能状態とは、後方画像の画像データPrに基づいて、同後方画像内において明度差が上記最大明度差と同じになる位置が何らかの理由により存在しない場合に対応する。
【0084】
一方、CPU51は、ステップ640にて「No」と判定する場合(即ち、上記ドット数βが取得された場合)、ステップ645に進んでフラグFAILの値を「0」に設定し、続くステップ650にてヨーレイトセンサ64により得られる現時点での実ヨーレイトYrの値が正であるか否かを判定する。
【0085】
ここで、「Yes」と判定する場合、CPU51はステップ655に進んで、上記ドット数αと、上記ドット数βと、同ステップ655内に記載の式に基づいて上記変位量mを取得し、「No」と判定する場合はステップ660に進んで上記ドット数αと、上記ドット数βと、同ステップ660内に記載の式に基づいて上記変位量mを取得する。値hは「一ドット」に相当する距離である。これにより、変位量m(従って、車体スリップ角θ)は、車体旋回方向にかかわらず、車体の向きが車体の進行方向に対して車体旋回方向内側にずれている場合に正の値となるように設定される。
【0086】
そして、CPU51はステップ665に進んで、上記ステップ655、或いはステップ660にて取得した上記変位量mと、上記(1)式とに基づいて車体スリップ角θを算出(検出)し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。ここで、ステップ665は車体スリップ角検出手段に相当する。
【0087】
また、CPU51は、図7に示したUS抑制制御用の目標液圧の設定を行うルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ700から処理を開始し、ステップ705に進んで、先のステップ530にて計算されているヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrthよりも大きいか否かを判定し、「No」と判定する場合(即ち、車両がアンダーステア状態にないとき)、ステップ730に進んで、総ての車輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定した後、ステップ795に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0088】
いま、ヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrthよりも大きいものとすると(即ち、車両がアンダーステア状態にあるものとすると)、CPU51はステップ705の判定にて「Yes」と判定してステップ710に進んで、ヨーレイト偏差ΔYrの値と、図10に示したヨーレイト偏差ΔYrと制御量Gusとの関係を規定するROM52に記憶されているテーブルMapGusとに基づいて制御量Gusを求める。これにより、ヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrthよりも大きい場合において、ΔYrが大きくなるほど制御量Gus(>0)が大きくなるように設定される。
【0089】
続いて、CPU51はステップ715に進み、ヨーレイトセンサ64により得られる現時点での実ヨーレイトYrが正の値であるか否か(即ち、旋回方向が左方向か右方向か)を判定する。
【0090】
CPU51は車両が左方向に旋回している場合、ステップ715にて「Yes」と判定してステップ720に進み、旋回方向内側の後輪に対応する左後輪RLについての目標液圧Pwtrlを、上記求めた制御量Gusにアンダーステア抑制制御用係数Kus(正の定数)を乗じた値に設定し、残りの3輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定した後、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0091】
一方、CPU51は車両が右方向に旋回している場合、ステップ715にて「No」と判定してステップ725に進み、旋回方向内側の後輪に対応する右後輪RRについての目標液圧Pwtrrを、上記制御量Gusに上記アンダーステア抑制制御用係数Kusを乗じた値に設定し、残りの3輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定する。これにより、旋回方向内側の後輪に対応する車輪についての目標液圧Pwt**はヨーレイト偏差ΔYrに応じた値(>0)に設定される。
【0092】
また、CPU51は、図8に示したOS抑制制御用の目標液圧の設定を行うルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、フラグFAILの値が「0」であって(即ち、車体スリップ角θの検出可能状態にあって)、且つ、先のステップ665にて算出されている車体スリップ角θの最新値がしきい値θth(>0)よりも大きいか否かを判定する。
【0093】
ここで、「No」と判定される場合、(即ち、車体スリップθの検出不能状態にあるか、又は、車体スリップθの検出可能状態にあるが車両がオーバーステア状態にないとき)、ステップ830に進んで、総ての車輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定した後、ステップ895に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0094】
いま、車体スリップθの検出可能状態にあって、且つ車両がオーバーステア状態にあるものとすると、CPU51はステップ805の判定にて「Yes」と判定してステップ810に進んで、車体スリップ角θの値と、図11に示した車体スリップ角θと制御量Gosとの関係を規定するROM52に記憶されているテーブルMapGosとに基づいて制御量Gosを求める。これにより、車体スリップ角θがしきい値θthよりも大きい場合において、車体スリップθが大きくなるほど制御量Gos(>0)が大きくなるように設定される。
【0095】
続いて、CPU51はステップ815に進み、ヨーレイトセンサ64により得られる現時点での実ヨーレイトYrが正の値であるか否か(即ち、旋回方向が左方向か右方向か)を判定する。
【0096】
CPU51は車両が左方向に旋回している場合、ステップ815にて「Yes」と判定してステップ820に進み、旋回方向外側の前輪に対応する右前輪FRについての目標液圧Pwtfrを、上記求めた制御量Gosにオーバーステア抑制制御用係数Kos(正の定数)を乗じた値に設定し、残りの3輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0097】
一方、CPU51は車両が右方向に旋回している場合、ステップ815にて「No」と判定してステップ825に進み、旋回方向外側の前輪に対応する左前輪FLについての目標液圧Pwtrflを、上記制御量Gosに上記オーバーステア抑制制御用係数Kosを乗じた値に設定し、残りの3輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定する。これにより、旋回方向外側の前輪に対応する車輪についての目標液圧Pwt**は車体スリップ角θに応じた値(>0)に設定される。
【0098】
また、CPU51は、図9に示したOS−US抑制制御を実行するためのルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進み、総ての車輪の目標液圧Pwt**が「0」であるか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ910に進んでHU40内の総ての電磁弁を非励磁状態とするとともにHU40内のモータ(液圧ポンプ)を非駆動状態とする指示を行い、ステップ995に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0099】
一方、CPU51はステップ905にて「No」と判定する場合、ステップ915に進んで、車輪**のホイールシリンダ圧Pw**がそれぞれ上記設定された目標液圧Pwt**になるように、HU40の電磁弁、モータへの制御指示を行う。これにより、ブレーキ液圧による制動力の付与に基づくOS−US抑制制御が達成される。
【0100】
続いて、CPU51はステップ920に進んで、先のステップ710にて求められている制御量Gusと、先のステップ810にて求められている制御量Gosのうち大きい方の値に応じた分だけエンジン21の出力を低下する指示を行う。これにより、OS−US抑制制御に基づく上記エンジン出力低減制御が実行される。そして、CPU51はステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0101】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る車体スリップ角検出装置によれば、現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に前方カメラ65fにより撮影された前方画像の画像データPf(k)に基づいて、同前方画像内における「対象物」の画像横方向位置(例えば、図3における中心Aの位置)を同前方画像における明度差を利用して特定し、現時点にて後方カメラ65rにより撮影された後方画像の画像データPrに基づいて、同後方画像内における上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置(例えば、図3における点Cの位置)を同後方画像における明度差を利用して特定する。
【0102】
そして、この装置は、上記特定された上記「同じ対象物」の上記後方画像内における画像横方向位置(上記点Cの位置)の、上記特定された「対象物」の上記前方画像内における画像横方向位置(上記中心Aの位置。従って、車体スリップ角θが「0」であると仮定した場合において特定されるであろう上記「同じ対象物」の同後方画像内における画像横方向位置(図3における中心Bの位置))に対する、画像横方向における変位量mを求め、同求めた変位量mと、上記カメラ間距離Lとに基づいて上記(1)式に従って車体スリップ角θを検出する。
【0103】
ここで、カメラ間距離Lは、一般に、車体に固定されたカメラにより撮影される画像に映る路面の車体前後方向長さよりも十分に長い。従って、上記変位量mは、車体スリップθが微小であっても比較的大きい値となり得る。これにより、車体スリップ角θが微小であっても、車体スリップ角θを精度良く検出することができる。
【0104】
また、本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置によれば、上述したように検出される車体スリップ角θに基づいて、オーバーステア抑制制御が開始・実行される。従って、精度良く検出された車体スリップ角(特に、微小スリップ角)に基づいて、オーバーステア抑制制御が正確に開始・実行され得る。
【0105】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、前方画像内における「対象物」の位置、及び後方画像内における「対象物」と同じ対象物の位置を、画像における明度差を利用して特定しているが、前方、後方カメラ65f,65rがカラー画像を取得可能なカメラである場合、画像における色相の差(例えば、RGBの配分比率の差)を利用して特定してもよい。
【0106】
この場合、例えば、前方カメラ65fにより現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像内において色相の差(即ち、RGBの配分比率の差)が最大(以下、「最大色相差」とも称呼する。)となる画像横方向位置が特定され、同特定された画像横方向位置が「対象物」の画像横方向位置として扱われる。加えて、後方カメラ65rにより現時点にて撮影された後方画像内において色相の差が上記最大色相差と同じになる画像横方向位置が特定され、同特定された画像横方向位置が上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置として扱われる。
【0107】
また、上記実施形態においては、上記車体スリップ角θに基づいて車両安定化制御としてオーバーステア抑制制御が開始・実行されているが、同車両安定化制御としてその他の制御(例えば、横転防止制御)が開始・実行されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施形態に係る車体スリップ角検出装置を含んだ車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】前方カメラ、及び後方カメラの車体に対する固定状態を示した図である。
【図3】図1に示した車体スリップ角検出装置が採用する車体スリップ角を検出する原理を説明するための図である。
【図4】図4(a)は、車体スリップ角が図3に示す角度になっている場合における、前方カメラにより撮影された前方画像の一例を示した図であり、図4(b)は、車体スリップ角が図3に示す角度になっている場合における、後方カメラにより撮影された後方画像の一例を示した図である。
【図5】図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図6】図1に示したCPUが実行する車体スリップ角を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図7】図1に示したCPUが実行するUS抑制制御用の目標液圧を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図8】図1に示したCPUが実行するOS抑制制御用の目標液圧を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図9】図1に示したCPUが実行するOS−US抑制制御を実行するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図10】図1に示したCPUが参照するヨーレイト偏差と制御量との関係を規定するテーブルを示したグラフである。
【図11】図1に示したCPUが参照する車体スリップ角と制御量との関係を規定するテーブルを示したグラフである。
【符号の説明】
【0109】
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧発生部、40…ハイドロリックユニット、50…電気制御装置、51…CPU、53…RAM、61**…車輪速度センサ、63…ステアリング角度センサ、64…ヨーレイトセンサ、65f…前方カメラ、65r…後方カメラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体の向き(即ち、車体前後方向)と、同車体の進行方向との成す角度である車体スリップ角を検出する車両の車体スリップ角検出装置、並びに、車体スリップ角検出方法、及び同車体スリップ角検出装置を備えた車両の運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両が旋回状態にあって車体スリップ角が所定値以上になった場合に車両の安定性を維持するための車両安定化制御(例えば、オーバーステア抑制制御)を開始・実行する車両の運動制御装置が広く知られている。従って、上記車両安定化制御を正確に開始・実行するためには、車体スリップ角を精度良く取得する必要がある。
【0003】
一般に、上記車体スリップ角は、車体速度と、横加速度センサによる横加速度検出値と、ヨーレイトセンサによるヨーレイト検出値と、時間積分計算を要する周知の所定の数式とに基づいて推定されていた。ところが、時間積分計算には誤差が生じ易い。従って、この手法では、車体スリップ角を精度良く推定することは困難であった。
【0004】
そこで、近年、例えば、下記特許文献1に記載のように、車体の所定箇所に車両が走行している路面を撮影するカメラを固定し、同カメラにより撮影された画像を利用して車体スリップ角を検出する試みがなされてきている。
【特許文献1】特開2000−81322号公報
【0005】
より具体的に述べると、上記文献には、路面画像にカメラ露光時間の間の路面の流れが映ることを利用し、路面画像中の路面の流れ方向に基づいて車体スリップ角を検出する技術が記載されている。
【0006】
この手法を採用して車体スリップ角(特に、微小の車体スリップ角)を精度良く検出するためには、路面画像中の路面の流れ方向を精度良く取得する必要がある。このためには、路面画像に映る路面の範囲(特に、路面画像に映る路面の車体前後方向における長さ)を十分に確保する必要がある。
【0007】
しかしながら、一般に、車体に固定されたカメラにより撮影される路面画像に映る路面の範囲を十分に確保することは困難である。従って、上記文献に記載の手法によってもなお、車体スリップ角(特に、微小のスリップ角)を精度良く推定することは困難であった。
【発明の開示】
【0008】
本発明は係る問題に対処するためになされたものであって、その目的は、車体に固定されたカメラにより撮影される路面画像を利用して、車体スリップ角を精度良く推定することができる車体スリップ角検出装置等を提供することにある。
【0009】
本発明に係る車体スリップ角検出装置は、車両の車体の前方部分に固定され同車両が走行している路面を撮影する前方カメラと、前記車体の後方部分に固定され前記車両が走行している路面を撮影する後方カメラと、前記前方カメラにより撮影された画像である前方画像と、前記後方カメラにより撮影された画像である後方画像との比較結果に基づいて前記車両の車体スリップ角を検出する車体スリップ角検出手段とを備えている。
【0010】
ここにおいて、前方カメラは、例えば、車体前方のバンパー部において、車体前方のバンパー部の下方近傍における所定の範囲内の路面を撮影できるように配置・固定される。同様に、後方カメラは、例えば、車体後方のバンパー部において、車体後方のバンパー部の下方近傍における所定の範囲内の路面を撮影できるように配置・固定される。前方カメラ、及び後方カメラとしては、例えば、CCDカメラ(電荷結合素子カメラ)が採用される。
【0011】
前方カメラと後方カメラとで路面上における同じ対象物を含む路面をそれぞれ撮影した場合、車体スリップ角の大きさは、上記前方画像内における対象物の位置と上記後方画像内における同一対象物の位置の差として現れる。従って、上記のように、上記前方画像と上記後方画像との比較結果に基づいて車両の車体スリップ角を検出することができる。
【0012】
加えて、一般に、車体の前後方向の長さ(例えば、車両前方のバンパー部と車両後方のバンパー部の車体前後方向における距離)は、車体に固定されたカメラにより撮影される路面画像に映る路面の車体前後方向における長さよりも十分に長い。
【0013】
従って、車体スリップ角が微小であっても、上述した上記前方画像内における対象物の位置と上記後方画像内における同一対象物の位置との差は比較的大きくなる。これにより、車体スリップ角が微小であっても、上記文献に記載した手法に比して、車体スリップ角をより一層精度良く検出することができる。
【0014】
本発明に係る車体スリップ角検出装置の具体的な実施態様は、例えば、前記前方画像に基づいて対象物の同前方画像内における位置を特定する対象物位置特定手段と、前記後方画像に基づいて前記対象物位置特定手段により特定された対象物と同じ対象物の同後方画像内における位置を特定する同一対象物位置特定手段とを更に備え、前記車体スリップ角検出手段は、前記同一対象物位置特定手段により特定された前記同じ対象物の前記後方画像内における位置と、前記車体スリップ角がゼロであると仮定した場合において前記同一対象物位置特定手段により特定されるであろう前記同じ対象物の同後方画像内における位置との比較結果に基づいて同車体スリップ角を検出するように構成され得る。
【0015】
より具体的には、前記車体スリップ角検出手段は、例えば、前記同一対象物位置特定手段により特定された前記同じ対象物の前記後方画像内における位置の、前記車体スリップ角がゼロであると仮定した場合において前記同一対象物位置特定手段により特定されるであろう前記同じ対象物の同後方画像内における位置に対する前記車体の横方向に対応する同後方画像内での方向における変位量と、前記前方カメラと前記後方カメラの間の前記車体の前後方向における距離とに基づいて同車体スリップ角を検出するように構成され得る(詳細は、後述する)。
【0016】
また、本発明に係る車体スリップ角検出装置が、上記対象物位置特定手段と上記同一対象物位置特定手段とを備える場合、前記前方カメラにより過去に撮影された前記前方画像を記憶する記憶手段を更に備え、前記同一対象物位置特定手段は、(或る時点(例えば、現時点)に撮影された)前記後方画像に基づいて、前記対象物位置特定手段により(前記或る時点よりも)所定時間前に撮影された前記記憶されてる前記前方画像に基づいて特定された前記対象物と同じ対象物の同後方画像内における位置を特定するように構成されることが好適である。この場合、前記同一対象物位置特定手段は、前記所定時間を、前記車両の車体速度と、前記前方カメラと前記後方カメラの間の車体前後方向距離とに基づいて決定するように構成されることが好ましい。
【0017】
前方カメラにより或る時点で撮影された路面上における対象物と同じ対象物は、前記前方カメラと前記後方カメラの間の車体前後方向距離を車体速度で除することで得られる時間(以下、「遅延時間」と称呼する。)だけ同或る時点よりも後になって後方カメラにより撮影され得る。
【0018】
換言すれば、或る時点にて後方カメラにより撮影された画像から前方カメラにより撮影された対象物と同じ対象物を特定するためには、同対象物として、上記或る時点よりも上記遅延時間だけ前に撮影された前方画像に基づいて特定された対象物を選択する必要がある。従って、上記構成によれば、後方カメラにより撮影された画像から前方カメラにより撮影された対象物と同じ対象物をより一層正確に特定することができ、この結果、車体スリップ角がより一層精度良く検出され得る。
【0019】
また、本発明に係る車体スリップ角検出装置が、上記対象物位置特定手段と上記同一対象物特定手段とを備える場合、前記対象物位置特定手段は、前記対象物の前記前方画像内における位置を、同前方画像における明度の差を利用して特定するように構成されることが好適である。同様に、この場合、前記同一対象物位置特定手段は、前記同じ対象物の前記後方画像内における位置を、同後方画像における明度の差を利用して特定するように構成されることが好適である。
【0020】
画像における明度は、例えば、白黒画像が使用される場合であっても、多数の階調(例えば、256階調)を有するグレースケールにより表すことができる。換言すれば、上記構成によれば、上記前方画像、及び上記後方画像として白黒画像を採用することができる。従って、カラー画像を得ることができない比較的安価なカメラを使用することができ、この結果、装置全体の製造コストを安価とすることができる。
【0021】
また、上記本発明に係る車体スリップ角検出装置が採用する本発明に係る車体スリップ角検出方法は、具体的には、前記前方カメラにより撮影された画像である前方画像と、前記後方カメラにより撮影された画像である後方画像との比較結果に基づいて前記車両の車体スリップ角を検出する方法である。
【0022】
更には、上述した本発明に係る車体スリップ角検出装置を用いて、同体スリップ角検出装置により検出された前記車体スリップ角に基づいて、前記車両の安定性を維持するための車両安定化制御を開始・実行する車両安定化制御手段を備えた車両の運動制御装置を構成することができる。これより、精度良く検出された車体スリップ角(特に、微小スリップ角)に基づいて、オーバーステア抑制制御等の車両安定化制御が正確に開始・実行され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明による車体スリップ角検出装置を含む本発明による車両の運動制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、前輪駆動方式の車両である。
【0024】
この運動制御装置10は、駆動力を発生するとともに同駆動力を駆動輪FL,FRにそれぞれ伝達する駆動力伝達機構部20と、車輪に運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部30と、液圧ユニット40(ハイドロリックユニット。以下、単に「HU40」と称呼する。)と電気制御装置50(以下、単に「ECU50」と称呼する。)とが一体化されてなる統合ユニットIと、を含んで構成されている。
【0025】
駆動力伝達機構部20は、駆動力を発生するエンジン21と、同エンジン21の吸気管21a内に配置されるとともに吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁THの開度を制御するスロットル弁アクチュエータ22と、エンジン21の図示しない吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを含む燃料噴射装置23を備える。
【0026】
また、駆動力伝達機構部20は、エンジン21の出力軸に入力軸が接続された変速機24と、変速機24の出力軸と連結されエンジン21の駆動力を適宜分配して前輪FL,FRにそれぞれ伝達する前輪側ディファレンシャル25とを含んで構成されている。
【0027】
ブレーキ液圧発生部30は、ブレーキペダルBPの作動により応動する図示しない周知のバキュームブースタと、同バキュームブースタに連結された図示しないマスタシリンダとから構成されていて、ブレーキ液圧発生部30は、ブレーキペダルBPの操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生するようになっている。これらマスタシリンダ及びバキュームブースタの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。
【0028】
HU40は、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、自動的にブレーキ液圧を発生させるための液圧ポンプ、この液圧ポンプを駆動するためのモータ、及び各車輪のホイールシリンダ液圧を個別に調整するための複数の電磁弁等を含んで構成されている。
【0029】
HU40は、全ての電磁弁が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧)をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。
【0030】
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、ホイールシリンダW**は、左前輪用ホイールシリンダWfl,
右前輪用ホイールシリンダWfr, 左後輪用ホイールシリンダWrl, 右後輪用ホイールシリンダWrrを包括的に示している。
【0031】
他方、この状態において、ECU50からの指示により、モータ(従って、液圧ポンプ)を駆動するとともに、所定の電磁弁を制御することで、HU40は、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、各車輪に付与される制動力を車輪毎に個別に調整できるようになっている。これにより、HU40は、ECU50からの指示により、後述する車両安定化制御(具体的には、オーバーステア抑制制御、及びアンダーステア抑制制御)を達成できるようになっている。
【0032】
ECU50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。
【0033】
インターフェース55は、車輪速度センサ61**、アクセル開度センサ62、ステアリング角度センサ63、及びヨーレイトセンサ64と接続されている。
【0034】
車輪速度センサ61fl,61fr,61rl及び61rrは、電磁ピックアップ式のセンサであって、車輪FL,FR,RL及びRRの車輪速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力するようになっている。アクセル開度センサ62は、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出し、同アクセルペダルAPの操作量Accpを示す信号を出力するようになっている。ステアリング角度センサ63は、ステアリングSTの中立位置からの回転角度を検出し、実ステアリング角度θsを示す信号を出力するようになっている。ヨーレイトセンサ64は、車両のヨーレイトを検出し、実ヨーレイトYrを示す信号を出力するようになっている。
【0035】
ここで、実ステアリング角度θsは、ステアリングSTが中立位置にあるときに「0」となり、同中立位置からステアリングSTを(運転者から見て)反時計まわりの方向へ回転させたときに正の値、同中立位置から同ステアリングSTを時計まわりの方向へ回転させたときに負の値となるように設定されている。また、実ヨーレイトYrは、車両が左方向(車両上方から見て反時計まわりの方向)へ旋回しているときに正の値、車両が右方向へ旋回しているときに負の値となるように設定されている。
【0036】
また、インターフェース55は、更に、白黒画像を取得可能なCCDカメラ(電荷結合素子カメラ)である前方カメラ65f、及び後方カメラ65rとも接続されている。図2に示すように、前方カメラ65fは車体前方のバンパー部における車体の横方向中央位置に固定され、後方カメラ65rは車体後方のバンパー部における車体の横方向中央位置に固定されている。
【0037】
この結果、前方カメラ65fは、車体横方向中央位置であって車体前方のバンパー部の下方近傍における、或る長方形で囲まれた範囲内の路面を撮影できるようになっている。同様に、後方カメラ65rは、車体横方向中央位置であって車体後方のバンパー部の下方近傍における、上記と同じ形状の長方形で囲まれた範囲内の路面を撮影できるようになっている。なお、これらのカメラ65f,65rとして、周知の駐車支援システム、障害物検出システム等に使用されるカメラを使用することができる。
【0038】
そして、インターフェース55は、上記センサ61〜64、及びカメラ65f,65rからの各信号をCPU51に供給するとともに、同CPU51の指示に応じてHU40の各電磁弁及びモータ、スロットル弁アクチュエータ22、燃料噴射装置23、並びに、前方、後方カメラ65f,65rに駆動信号を送出するようになっている。
【0039】
これにより、スロットル弁アクチュエータ22は、原則的に、スロットル弁THの開度がアクセルペダルAPの操作量Accpに応じた開度になるように同スロットル弁THを駆動するとともに、燃料噴射装置23は、筒内(シリンダ内)に吸入された空気量である筒内吸入空気量に対して所定の目標空燃比(例えば、理論空燃比)を得るために必要な量の燃料を噴射するようになっている。
【0040】
(車体スリップ角検出方法の概要)
次に、上記構成を有する本発明の実施形態に係る車体スリップ角検出装置、或いは運動制御装置10(以下、「本装置」と云う。)による車体スリップ角θの検出方法の概要について図3を参照しながら説明する。図3において点Gは車体の重心に対応している。
【0041】
図3は、車両の車体の向き(即ち、車体前後方向)が、同車体の進行方向に対して車両上方から見て反時計まわりの方向にずれている場合(即ち、車体スリップ角θが図3に示す角度となっている場合)を示している。また、説明の便宜上、図3において、前方カメラ65fに対応する長方形の斜線部分は、前方カメラ65fで撮影される上述した「車体横方向中央位置であって車体前方のバンパー部の下方近傍における路面の範囲」を示し、後方カメラ65rに対応する長方形の斜線部分は、後方カメラ65rで撮影される上述した「車体横方向中央位置であって車体後方のバンパー部の下方近傍における路面の範囲」を示しているものとする。上述のように、これらの2つの長方形は同一形状となる。
【0042】
いま、車体スリップ角θが「0」の場合を考える。この場合、前方カメラ65fにより或る時点で撮影された路面の範囲(即ち、上記長方形の範囲)は、前方カメラ65fと後方カメラ65rの間の車体前後方向距離(以下、「カメラ間距離L」と称呼する。図3を参照。)を車体速度で除することで得られる上記遅延時間(以下、「遅延時間Tdelay」と称呼する。)だけ同或る時点よりも後で後方カメラ65rにより撮影される路面の範囲(即ち、上記長方形の範囲)と一致する。
【0043】
換言すれば、この場合、前方カメラ65fにより或る時点で撮影された画像(前方画像)内における或る位置(例えば、前方画像内における中心Aの位置とする。図3を参照。)に映っている路面上における「或る対象物」は、上記遅延時間Tdelayだけ同或る時点よりも後で後方カメラ65rにより撮影された画像(後方画像)内において上記「或る位置」に対応する位置と同じ位置(この場合、後方画像内における中心Bの位置。図3を参照。)に映る。
【0044】
一方、車体スリップ角θが図3示す角度となっている場合(正確には、上記遅延時間Tdelayに亘って車体スリップ角θが図3に示す角度で一定となる場合)、或る時点で撮影された前方画像内における「或る位置」(例えば、上記中心Aの位置)に映っている「或る対象物」は、遅延時間Tdelayだけ同或る時点よりも後で撮影された後方画像内において、上記「或る位置」に対応する位置(この場合、上記中心Bの位置)からずれた位置である点C(図3を参照)の位置に映る。
【0045】
ここで、後方画像内における上記点Cの位置の、同後方画像内における上記中心Bの位置に対する、車体横方向に対応する後方画像内での方向(以下、「画像横方向」とも称呼する。)における変位量m(図3を参照)は、車体スリップ角θを表す値となる。即ち、上記変位量mを取得できれば、車体スリップ角θを下記(1)式に従って検出することができる。
【0046】
θ=tan−1(m/L) ・・・(1)
【0047】
換言すれば、前方カメラ65fにより現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像内における「或る対象物」の画像横方向位置と、後方カメラ65rにより現時点にて撮影された後方画像内における上記「或る対象物」と同じ対象物の画像横方向位置の差を上記変位量mとして取得すれば、同取得した変位量mと上記(1)式とに基づいて車体スリップ角θを取得することができる。
【0048】
以上のことから、(現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された)前方画像内における「対象物」の画像横方向位置と、(現時点にて撮影された)後方画像内における上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置が特定できれば、車体スリップ角θを取得することができる。以下、これらの画像横方向位置の特定方法について説明する。
【0049】
<「対象物」の位置の特定方法>
車両走行中において前方、後方カメラ65f,65rにより所定の露光時間(極短時間)の間だけ路面を撮影すると、撮影される路面の範囲は、同露光時間の間に亘って車体速度に応じた距離だけ車体の進行方向(一定方向)に移動する。このため、撮影された路面の画像には、路面上の色・模様の分布が縞模様となって現れる。
【0050】
加えて、上述のように、前方、後方カメラ65f,65rにより撮影される画像は白黒画像である。この白黒画像における明度は、多数の階調(例えば、256階調)を有するグレースケールにより表すことができるようになっている。
【0051】
そこで、本装置は、前方カメラ65fにより現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された上記縞模様を有する前方画像内において明度の差(即ち、階調の差)が最大(以下、「最大明度差」とも称呼する。)となる画像横方向位置を特定し、同特定した画像横方向位置を「対象物」の画像横方向位置として扱う。
【0052】
そして、本装置は、後方カメラ65rにより現時点にて撮影された上記縞模様を有する後方画像内において明度の差が上記最大明度差と同じになる画像横方向位置を特定し、同特定した画像横方向位置を上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置として扱う。
【0053】
図4(a)(b)は、車体スリップ角θが図3に示す角度になっている場合における、前方カメラ65fにより現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像の一例、及び後方カメラ65rにより現時点にて撮影された後方画像の一例をそれぞれ示している。
【0054】
この例の場合、図4(a)に示す前方画像内において「対象物」の画像横方向位置は、図中の点Pfに特定される。なお、この場合、「対象物」として、例えば、アスファルトの濃淡、白線、道路の凹凸、小石等が想定されている。また、図4(b)に示す後方画像内において上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置は、図中の点Prに特定される。
【0055】
この例の場合、図4(a)に示す前方画像における図中右上の頂点から上記点Pfまでのドット数αと、図4(b)に示す後方画像における図中右上の頂点から上記点Prまでのドット数βとを取得し、値(β−α)と、「一ドット」に相当する距離とから上記変位量m(図3を参照)を取得することができる。従って、上記取得した変位量mと上記(1)式とに基づいて車体スリップ角θを検出することができる。
【0056】
以上、説明したように、本装置は、現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像に基づいて、同前方画像内における「対象物」の画像横方向位置を同前方画像における明度の差を利用して特定するとともに、現時点にて撮影された後方画像に基づいて、同後方画像内における上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置を同後方画像における明度の差を利用して特定する。
【0057】
そして、本装置は、上記後方画像により特定された上記「同じ対象物」の同後方画像内における画像横方向位置(図3における点Cの位置を参照)の、上記前方画像により特定された「対象物」の同前方画像内における画像横方向位置(従って、車体スリップ角θが「0」であると仮定した場合において特定されるであろう上記「同じ対象物」の同後方画像内における画像横方向位置(図3における中心Bの位置を参照))に対する、画像横方向における変位量mを求め、同求めた変位量mと、上記カメラ間距離Lとに基づいて車体スリップ角θを検出する。以上が、本発明による車体スリップ角検出方法の概要である。
【0058】
(OS−US抑制制御の概要)
次に、本装置が実行するオーバーステア抑制制御(OS抑制制御)、及びアンダーステア抑制制御(US抑制制御)の概要について説明する。
【0059】
<OS抑制制御>
以下、車体スリップ角θは、車体の向き(従って、車体前後方向)が車体の進行方向に対して車体旋回方向内側にずれている場合に正の値、車体の向きが車体の進行方向に対して車体旋回方向外側にずれている場合に負の値となるように設定されるものとする。
【0060】
そうすると、上記(1)式により検出される車体スリップ角θの値が正の値であることは、車両が所謂「横滑り」の状態にあることを意味する。本装置は、上記車体スリップ角θが所定値「θth」(>0)よりも大きいとき、車両が「オーバーステア状態」にあると判定し、オーバーステア状態を抑制するためのOS抑制制御を実行する。
【0061】
具体的には、本装置は、車体スリップ角θと制御量Gosとの関係を規定する予め作製されている所定のテーブルと、上記車体スリップ角θとに基づいて制御量Gosを求め、上記求めた制御量Gos(≠0)に応じたブレーキ液圧による制動力を旋回方向外側の前輪に付与する。これにより、車両に対して旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントが強制的に発生し、車体スリップ角θ(>0)が減少するように制御される。この結果、車両の旋回における安定性が維持され得る。
【0062】
<US抑制制御>
先ず、舵角ヨーレイトYrtを車両の運動モデルから導かれる理論式を基礎とする下記(2)式に従って定義する。この舵角ヨーレイトYrtは、実ステアリング角度θsに基づいて得られる車両のヨーレイトである。
【0063】
Yrt=(Vso・θs)/(ns・Lw)・(1/(1+Kh・Vso2)) ・・・(2)
【0064】
上記(1)式において、Vsoは後述するように設定される車体速度であり、Lwは車両のホイールベースであり、Khはスタビリティファクタであり、nsはステアリングギヤ比である。ホイールベースLw、スタビリティファクタKh、及びステアリングギヤ比nsは、車両の諸元に従って決定される定数である。
【0065】
舵角ヨーレイトYrtは、車両が左方向へ旋回しているとき(実ステアリング角度θsが正の値のとき)に正の値、車両が右方向へ旋回しているとき(実ステアリング角度θsが負の値のとき)に負の値となるように設定される。なお、この理論式は、ステアリング角度及び車体速度が共に一定である状態で車両が旋回するとき(定常円旋回時)におけるヨーレイトの理論値を算出する公知の式である。
【0066】
また、ヨーレイト偏差ΔYrを下記(3)式に従って定義する。即ち、このヨーレイト偏差ΔYrは、上記舵角ヨーレイトYrtの絶対値からヨーレイトセンサ64により得られる実ヨーレイトYrの絶対値を減じた値である。
【0067】
ΔYr=|Yrt|−|Yr| ・・・(3)
【0068】
上記(3)式により定義されるヨーレイト偏差ΔYrの値が正の値であることは、車両の真のヨーレイトが舵角ヨーレイトYrtと等しい値となっていると仮定した場合よりも旋回半径が大きくなる状態にあることを意味する。従って、ヨーレイト偏差ΔYrが或るしきい値Yrth(>0)よりも大きいとき、車両が「アンダーステア状態」にあると判定することができる。
【0069】
そこで、本装置は、上記ヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrthを超えたとき車両が「アンダーステア状態」にあると判定し、アンダーステア状態を抑制するためのUS抑制制御を実行する。具体的には、本装置は、上述したOS抑制制御の場合と同様に制御量Gusを求め、上記求めた制御量Gus(≠0)に応じたブレーキ液圧による制動力を旋回方向内側の後輪に付与する。
【0070】
これにより、車両に対して旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが強制的に発生する。従って、実ヨーレイトの絶対値が大きくなり、実ヨーレイトが舵角ヨーレイトYrtに近づくように(即ち、ヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrth以下となるように)制御される。この結果、車両の旋回トレース性能が維持され得る。
【0071】
更に、本装置は、車両が「アンダーステア状態」、又は「オーバーステア状態」にあると判定している場合、上記ブレーキ液圧による制動力の付与に加えて、エンジン21の出力(具体的には、スロットル弁開度)をアクセル操作量Accpに応じた値から所定量だけ低下させるエンジン出力低減制御を実行する。これにより、車体速度が低下することで車両に働く遠心力が小さくなり、これによっても車両の旋回トレース性能、又は旋回における安定性が維持され得る。以上が、OS−US抑制制御の概要である。
【0072】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明の実施形態に係る車体スリップ角検出装置を含む運動制御装置10の実際の作動について、ECU50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図5〜図9を参照しながら説明する。
【0073】
CPU51は、図5に示した車輪速度等の算出を行うルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、車輪**の現時点での車輪速度(車輪**の外周の速度)Vw**をそれぞれ算出する。具体的には、CPU51は車輪速度センサ61**の出力値の変動周波数に基づいて車輪速度Vw**をそれぞれ算出する。
【0074】
次いで、CPU51はステップ510に進み、アクセル開度センサ62から得られるアクセルペダル操作量Accpが「0」よりも大きいか否か(即ち、車両が駆動状態にあるか制動状態にあるか)を判定し、「Yes」と判定する場合(駆動状態にある場合)、ステップ515に進んで車輪速度Vw**のうちの最小値を車体速度Vsoとして算出する。一方、CPU51は「No」と判定する場合(制動状態にある場合)、ステップ520に進んで車輪速度Vw**のうちの最大値を車体速度Vsoとして算出する。
【0075】
次いで、CPU51はステップ525に進み、上記ステップ515、或いはステップ520にて算出された車体速度Vsoと、ステアリング角度センサ63から得られるステアリング角度θsと、上記(2)式とに基づいて舵角ヨーレイトYrtを算出する。
【0076】
続いて、CPU51はステップ530に進み、上記求めた舵角ヨーレイトYrtと、ヨーレイトセンサ64から得られる現時点での実ヨーレイトYrと、上記(3)式とに基づいてヨーレイト偏差ΔYrを算出した後、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降も、CPU51は本ルーチンを実行間隔時間Δtの経過毎に繰り返し実行することで各種値を逐次更新していく。
【0077】
また、CPU51は、図6に示した車体スリップ角θの算出を行うルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、後述するステップ610にて前方カメラ65fにより過去に撮影されRAM53に記憶されている画像データPf(n)を全て画像データPf(n+1)として格納し直す(n:「0」以上の整数)。即ち、画像データPf(0),Pf(1),Pf(2),Pf(3),・・・がそれぞれ、画像データPf(1),Pf(2),Pf(3),Pf(4),・・・として格納し直される。
【0078】
ここで、画像データPf(n)は、現時点から時間(n・Δt)だけ前の時点で前方カメラ65fにより撮影された前方画像の画像データを示す。従って、ステップ605では、画像データPf(n)
(n:「0」以上の整数)として格納されている各画像データに対応する「撮影時間」がそれぞれ一実行間隔時間Δtだけ前の時点に変更されることになる。
【0079】
次に、CPU51はステップ610に進み、前方カメラ65fで上記所定の露光時間だけ路面を撮影し、同撮影した画像を画像データPf(0)としてRAM53に記憶する。続いて、CPU51はステップ615に進んで、後方カメラ65rで上記所定の露光時間だけ路面を撮影し、同撮影した後方画像を画像データPrとしてRAM53に記憶する。ここで、ステップ610は記憶手段に相当する。
【0080】
次いで、CPU51はステップ620に進み、上記カメラ間距離L(定数)を上記ステップ515、或いは520にて算出されている車体速度Vsoの最新値で除することで上記遅延時間Tdelayを算出し、続くステップ625にて、上記算出した遅延時間Tdelayを実行間隔時間Δtで除することで、現時点から遅延時間Tdelayだけ前に前方カメラ65fにて撮影・記憶されている前方画像の画像データを選択するための値k(整数)を算出する。
【0081】
次に、CPU51はステップ630に進んで、現時点から遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像の画像データPf(k)に基づいて、同前方画像内において明度差が最大(上記最大明度差)となる位置に対応するドット数α(図4(a)を参照)を取得し、続くステップ635にて、先のステップ615にて現時点にて撮影された後方画像の画像データPrに基づいて、同後方画像内において、明度差が上記最大明度差と同じになる位置に対応するドット数β(図4(b)を参照)を取得する。ここで、ステップ630は対象物位置特定手段に相当し、ステップ635は同一対象物位置特定手段に相当する。
【0082】
次いで、CPU51はステップ640に進み、上記ステップ635にてドット数βが取得不能であるか否か(即ち、ステップ630にて特定された「対象物」と同じ対象物の位置が特定不能であるか否か)を判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ670に進んでフラグFAILの値を「1」に設定した後、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0083】
ここで、フラグFAILは、その値が「1」のとき車体スリップθの検出不能状態を示し、その値が「0」のとき車体スリップ角θの検出可能状態を示す。なお、車体スリップθの検出不能状態とは、後方画像の画像データPrに基づいて、同後方画像内において明度差が上記最大明度差と同じになる位置が何らかの理由により存在しない場合に対応する。
【0084】
一方、CPU51は、ステップ640にて「No」と判定する場合(即ち、上記ドット数βが取得された場合)、ステップ645に進んでフラグFAILの値を「0」に設定し、続くステップ650にてヨーレイトセンサ64により得られる現時点での実ヨーレイトYrの値が正であるか否かを判定する。
【0085】
ここで、「Yes」と判定する場合、CPU51はステップ655に進んで、上記ドット数αと、上記ドット数βと、同ステップ655内に記載の式に基づいて上記変位量mを取得し、「No」と判定する場合はステップ660に進んで上記ドット数αと、上記ドット数βと、同ステップ660内に記載の式に基づいて上記変位量mを取得する。値hは「一ドット」に相当する距離である。これにより、変位量m(従って、車体スリップ角θ)は、車体旋回方向にかかわらず、車体の向きが車体の進行方向に対して車体旋回方向内側にずれている場合に正の値となるように設定される。
【0086】
そして、CPU51はステップ665に進んで、上記ステップ655、或いはステップ660にて取得した上記変位量mと、上記(1)式とに基づいて車体スリップ角θを算出(検出)し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。ここで、ステップ665は車体スリップ角検出手段に相当する。
【0087】
また、CPU51は、図7に示したUS抑制制御用の目標液圧の設定を行うルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ700から処理を開始し、ステップ705に進んで、先のステップ530にて計算されているヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrthよりも大きいか否かを判定し、「No」と判定する場合(即ち、車両がアンダーステア状態にないとき)、ステップ730に進んで、総ての車輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定した後、ステップ795に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0088】
いま、ヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrthよりも大きいものとすると(即ち、車両がアンダーステア状態にあるものとすると)、CPU51はステップ705の判定にて「Yes」と判定してステップ710に進んで、ヨーレイト偏差ΔYrの値と、図10に示したヨーレイト偏差ΔYrと制御量Gusとの関係を規定するROM52に記憶されているテーブルMapGusとに基づいて制御量Gusを求める。これにより、ヨーレイト偏差ΔYrがしきい値Yrthよりも大きい場合において、ΔYrが大きくなるほど制御量Gus(>0)が大きくなるように設定される。
【0089】
続いて、CPU51はステップ715に進み、ヨーレイトセンサ64により得られる現時点での実ヨーレイトYrが正の値であるか否か(即ち、旋回方向が左方向か右方向か)を判定する。
【0090】
CPU51は車両が左方向に旋回している場合、ステップ715にて「Yes」と判定してステップ720に進み、旋回方向内側の後輪に対応する左後輪RLについての目標液圧Pwtrlを、上記求めた制御量Gusにアンダーステア抑制制御用係数Kus(正の定数)を乗じた値に設定し、残りの3輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定した後、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0091】
一方、CPU51は車両が右方向に旋回している場合、ステップ715にて「No」と判定してステップ725に進み、旋回方向内側の後輪に対応する右後輪RRについての目標液圧Pwtrrを、上記制御量Gusに上記アンダーステア抑制制御用係数Kusを乗じた値に設定し、残りの3輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定する。これにより、旋回方向内側の後輪に対応する車輪についての目標液圧Pwt**はヨーレイト偏差ΔYrに応じた値(>0)に設定される。
【0092】
また、CPU51は、図8に示したOS抑制制御用の目標液圧の設定を行うルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、フラグFAILの値が「0」であって(即ち、車体スリップ角θの検出可能状態にあって)、且つ、先のステップ665にて算出されている車体スリップ角θの最新値がしきい値θth(>0)よりも大きいか否かを判定する。
【0093】
ここで、「No」と判定される場合、(即ち、車体スリップθの検出不能状態にあるか、又は、車体スリップθの検出可能状態にあるが車両がオーバーステア状態にないとき)、ステップ830に進んで、総ての車輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定した後、ステップ895に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0094】
いま、車体スリップθの検出可能状態にあって、且つ車両がオーバーステア状態にあるものとすると、CPU51はステップ805の判定にて「Yes」と判定してステップ810に進んで、車体スリップ角θの値と、図11に示した車体スリップ角θと制御量Gosとの関係を規定するROM52に記憶されているテーブルMapGosとに基づいて制御量Gosを求める。これにより、車体スリップ角θがしきい値θthよりも大きい場合において、車体スリップθが大きくなるほど制御量Gos(>0)が大きくなるように設定される。
【0095】
続いて、CPU51はステップ815に進み、ヨーレイトセンサ64により得られる現時点での実ヨーレイトYrが正の値であるか否か(即ち、旋回方向が左方向か右方向か)を判定する。
【0096】
CPU51は車両が左方向に旋回している場合、ステップ815にて「Yes」と判定してステップ820に進み、旋回方向外側の前輪に対応する右前輪FRについての目標液圧Pwtfrを、上記求めた制御量Gosにオーバーステア抑制制御用係数Kos(正の定数)を乗じた値に設定し、残りの3輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0097】
一方、CPU51は車両が右方向に旋回している場合、ステップ815にて「No」と判定してステップ825に進み、旋回方向外側の前輪に対応する左前輪FLについての目標液圧Pwtrflを、上記制御量Gosに上記オーバーステア抑制制御用係数Kosを乗じた値に設定し、残りの3輪についての目標液圧Pwt**を「0」に設定する。これにより、旋回方向外側の前輪に対応する車輪についての目標液圧Pwt**は車体スリップ角θに応じた値(>0)に設定される。
【0098】
また、CPU51は、図9に示したOS−US抑制制御を実行するためのルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進み、総ての車輪の目標液圧Pwt**が「0」であるか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ910に進んでHU40内の総ての電磁弁を非励磁状態とするとともにHU40内のモータ(液圧ポンプ)を非駆動状態とする指示を行い、ステップ995に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0099】
一方、CPU51はステップ905にて「No」と判定する場合、ステップ915に進んで、車輪**のホイールシリンダ圧Pw**がそれぞれ上記設定された目標液圧Pwt**になるように、HU40の電磁弁、モータへの制御指示を行う。これにより、ブレーキ液圧による制動力の付与に基づくOS−US抑制制御が達成される。
【0100】
続いて、CPU51はステップ920に進んで、先のステップ710にて求められている制御量Gusと、先のステップ810にて求められている制御量Gosのうち大きい方の値に応じた分だけエンジン21の出力を低下する指示を行う。これにより、OS−US抑制制御に基づく上記エンジン出力低減制御が実行される。そして、CPU51はステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0101】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る車体スリップ角検出装置によれば、現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に前方カメラ65fにより撮影された前方画像の画像データPf(k)に基づいて、同前方画像内における「対象物」の画像横方向位置(例えば、図3における中心Aの位置)を同前方画像における明度差を利用して特定し、現時点にて後方カメラ65rにより撮影された後方画像の画像データPrに基づいて、同後方画像内における上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置(例えば、図3における点Cの位置)を同後方画像における明度差を利用して特定する。
【0102】
そして、この装置は、上記特定された上記「同じ対象物」の上記後方画像内における画像横方向位置(上記点Cの位置)の、上記特定された「対象物」の上記前方画像内における画像横方向位置(上記中心Aの位置。従って、車体スリップ角θが「0」であると仮定した場合において特定されるであろう上記「同じ対象物」の同後方画像内における画像横方向位置(図3における中心Bの位置))に対する、画像横方向における変位量mを求め、同求めた変位量mと、上記カメラ間距離Lとに基づいて上記(1)式に従って車体スリップ角θを検出する。
【0103】
ここで、カメラ間距離Lは、一般に、車体に固定されたカメラにより撮影される画像に映る路面の車体前後方向長さよりも十分に長い。従って、上記変位量mは、車体スリップθが微小であっても比較的大きい値となり得る。これにより、車体スリップ角θが微小であっても、車体スリップ角θを精度良く検出することができる。
【0104】
また、本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置によれば、上述したように検出される車体スリップ角θに基づいて、オーバーステア抑制制御が開始・実行される。従って、精度良く検出された車体スリップ角(特に、微小スリップ角)に基づいて、オーバーステア抑制制御が正確に開始・実行され得る。
【0105】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、前方画像内における「対象物」の位置、及び後方画像内における「対象物」と同じ対象物の位置を、画像における明度差を利用して特定しているが、前方、後方カメラ65f,65rがカラー画像を取得可能なカメラである場合、画像における色相の差(例えば、RGBの配分比率の差)を利用して特定してもよい。
【0106】
この場合、例えば、前方カメラ65fにより現時点よりも上記遅延時間Tdelayだけ前に撮影された前方画像内において色相の差(即ち、RGBの配分比率の差)が最大(以下、「最大色相差」とも称呼する。)となる画像横方向位置が特定され、同特定された画像横方向位置が「対象物」の画像横方向位置として扱われる。加えて、後方カメラ65rにより現時点にて撮影された後方画像内において色相の差が上記最大色相差と同じになる画像横方向位置が特定され、同特定された画像横方向位置が上記「対象物」と同じ対象物の画像横方向位置として扱われる。
【0107】
また、上記実施形態においては、上記車体スリップ角θに基づいて車両安定化制御としてオーバーステア抑制制御が開始・実行されているが、同車両安定化制御としてその他の制御(例えば、横転防止制御)が開始・実行されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施形態に係る車体スリップ角検出装置を含んだ車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】前方カメラ、及び後方カメラの車体に対する固定状態を示した図である。
【図3】図1に示した車体スリップ角検出装置が採用する車体スリップ角を検出する原理を説明するための図である。
【図4】図4(a)は、車体スリップ角が図3に示す角度になっている場合における、前方カメラにより撮影された前方画像の一例を示した図であり、図4(b)は、車体スリップ角が図3に示す角度になっている場合における、後方カメラにより撮影された後方画像の一例を示した図である。
【図5】図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図6】図1に示したCPUが実行する車体スリップ角を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図7】図1に示したCPUが実行するUS抑制制御用の目標液圧を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図8】図1に示したCPUが実行するOS抑制制御用の目標液圧を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図9】図1に示したCPUが実行するOS−US抑制制御を実行するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図10】図1に示したCPUが参照するヨーレイト偏差と制御量との関係を規定するテーブルを示したグラフである。
【図11】図1に示したCPUが参照する車体スリップ角と制御量との関係を規定するテーブルを示したグラフである。
【符号の説明】
【0109】
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧発生部、40…ハイドロリックユニット、50…電気制御装置、51…CPU、53…RAM、61**…車輪速度センサ、63…ステアリング角度センサ、64…ヨーレイトセンサ、65f…前方カメラ、65r…後方カメラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体の前方部分に固定され同車両が走行している路面を撮影する前方カメラと、前記車体の後方部分に固定され前記車両が走行している路面を撮影する後方カメラと、
前記前方カメラにより撮影された画像である前方画像と、前記後方カメラにより撮影された画像である後方画像との比較結果に基づいて前記車両の車体スリップ角を検出する車体スリップ角検出手段と、
を備えた車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の車体スリップ角検出装置であって、
前記前方画像に基づいて対象物の同前方画像内における位置を特定する対象物位置特定手段と、
前記後方画像に基づいて前記対象物位置特定手段により特定された対象物と同じ対象物の同後方画像内における位置を特定する同一対象物位置特定手段とを更に備え、
前記車体スリップ角検出手段は、
前記同一対象物位置特定手段により特定された前記同じ対象物の前記後方画像内における位置と、前記車体スリップ角がゼロであると仮定した場合において前記同一対象物位置特定手段により特定されるであろう前記同じ対象物の同後方画像内における位置との比較結果に基づいて同車体スリップ角を検出するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の車体スリップ角検出装置において、
前記車体スリップ角検出手段は、
前記同一対象物位置特定手段により特定された前記同じ対象物の前記後方画像内における位置の、前記車体スリップ角がゼロであると仮定した場合において前記同一対象物位置特定手段により特定されるであろう前記同じ対象物の同後方画像内における位置に対する前記車体の横方向に対応する同後方画像内での方向における変位量と、前記前方カメラと前記後方カメラの間の前記車体の前後方向における距離とに基づいて同車体スリップ角を検出するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の車両の車体スリップ角検出装置であって、
前記前方カメラにより過去に撮影された前記前方画像を記憶する記憶手段を更に備え、
前記同一対象物位置特定手段は、
前記後方画像に基づいて、前記対象物位置特定手段により所定時間前に撮影された前記記憶されている前方画像に基づいて特定された前記対象物と同じ対象物の同後方画像内における位置を特定するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の車体スリップ角検出装置において、
前記同一対象物位置特定手段は、前記所定時間を、前記車両の車体速度と、前記前方カメラと前記後方カメラの間の前記車体の前後方向における距離とに基づいて決定するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5の何れか一項に記載の車両の車体スリップ角検出装置において、
前記対象物位置特定手段は、前記対象物の前記前方画像内における位置を、同前方画像における明度の差を利用して特定するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項7】
請求項2乃至請求項5の何れか一項に記載の車両の車体スリップ角検出装置において、
前記同一対象物位置特定手段は、前記同じ対象物の前記後方画像内における位置を、同後方画像における明度の差を利用して特定するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項8】
車両の車体の前方部分に固定され同車両が走行している路面を撮影する前方カメラと、前記車体の後方部分に固定され前記車両が走行している路面を撮影する後方カメラと、
を備えた車両に適用される車両の車体スリップ角検出方法であって、
前記前方カメラにより撮影された画像である前方画像と、前記後方カメラにより撮影された画像である後方画像との比較結果に基づいて前記車両の車体スリップ角を検出する車両の車体スリップ角検出方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の車両の車体スリップ角検出装置により検出された前記車体スリップ角に基づいて、前記車両の安定性を維持するための車両安定化制御を開始・実行する車両安定化制御手段を備えた車両の運動制御装置。
【請求項1】
車両の車体の前方部分に固定され同車両が走行している路面を撮影する前方カメラと、前記車体の後方部分に固定され前記車両が走行している路面を撮影する後方カメラと、
前記前方カメラにより撮影された画像である前方画像と、前記後方カメラにより撮影された画像である後方画像との比較結果に基づいて前記車両の車体スリップ角を検出する車体スリップ角検出手段と、
を備えた車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の車体スリップ角検出装置であって、
前記前方画像に基づいて対象物の同前方画像内における位置を特定する対象物位置特定手段と、
前記後方画像に基づいて前記対象物位置特定手段により特定された対象物と同じ対象物の同後方画像内における位置を特定する同一対象物位置特定手段とを更に備え、
前記車体スリップ角検出手段は、
前記同一対象物位置特定手段により特定された前記同じ対象物の前記後方画像内における位置と、前記車体スリップ角がゼロであると仮定した場合において前記同一対象物位置特定手段により特定されるであろう前記同じ対象物の同後方画像内における位置との比較結果に基づいて同車体スリップ角を検出するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の車体スリップ角検出装置において、
前記車体スリップ角検出手段は、
前記同一対象物位置特定手段により特定された前記同じ対象物の前記後方画像内における位置の、前記車体スリップ角がゼロであると仮定した場合において前記同一対象物位置特定手段により特定されるであろう前記同じ対象物の同後方画像内における位置に対する前記車体の横方向に対応する同後方画像内での方向における変位量と、前記前方カメラと前記後方カメラの間の前記車体の前後方向における距離とに基づいて同車体スリップ角を検出するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の車両の車体スリップ角検出装置であって、
前記前方カメラにより過去に撮影された前記前方画像を記憶する記憶手段を更に備え、
前記同一対象物位置特定手段は、
前記後方画像に基づいて、前記対象物位置特定手段により所定時間前に撮影された前記記憶されている前方画像に基づいて特定された前記対象物と同じ対象物の同後方画像内における位置を特定するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の車体スリップ角検出装置において、
前記同一対象物位置特定手段は、前記所定時間を、前記車両の車体速度と、前記前方カメラと前記後方カメラの間の前記車体の前後方向における距離とに基づいて決定するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5の何れか一項に記載の車両の車体スリップ角検出装置において、
前記対象物位置特定手段は、前記対象物の前記前方画像内における位置を、同前方画像における明度の差を利用して特定するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項7】
請求項2乃至請求項5の何れか一項に記載の車両の車体スリップ角検出装置において、
前記同一対象物位置特定手段は、前記同じ対象物の前記後方画像内における位置を、同後方画像における明度の差を利用して特定するように構成された車両の車体スリップ角検出装置。
【請求項8】
車両の車体の前方部分に固定され同車両が走行している路面を撮影する前方カメラと、前記車体の後方部分に固定され前記車両が走行している路面を撮影する後方カメラと、
を備えた車両に適用される車両の車体スリップ角検出方法であって、
前記前方カメラにより撮影された画像である前方画像と、前記後方カメラにより撮影された画像である後方画像との比較結果に基づいて前記車両の車体スリップ角を検出する車両の車体スリップ角検出方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の車両の車体スリップ角検出装置により検出された前記車体スリップ角に基づいて、前記車両の安定性を維持するための車両安定化制御を開始・実行する車両安定化制御手段を備えた車両の運動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【公開番号】特開2006−308319(P2006−308319A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128252(P2005−128252)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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