説明

車両の駆動輪に働く駆動力を制限する駆動力制限装置

【課題】推定速度の精度を向上可能な駆動力制限装置を提供すること。
【解決手段】車両の駆動輪に働く駆動力を制限する駆動力制限装置は、前記車両の第1の加速度を補正して、補正された前記第1の加速度を第2の加速度として得る加速度補正部と、前記駆動輪の車輪速度及び前記第1の加速度に基づき前記車両の第1の速度を算出する第1の算出部と、前記車輪速度及び前記第2の加速度に基づき前記車両の第2の速度を算出する第2の算出部と、前記第1の速度と前記第2の速度との差が第1の閾値以上である場合、前記駆動力を制限する制限駆動力を要求する要求部と、前記第2の速度を前記車両の推定速度として用いる推定部と、を備える。前記要求部が前記制限駆動力を要求することによって、前記車輪速度が第2の閾値を下回る時、前記推定部は、前記第2の速度を前記第1の速度でリセットして前記推定速度を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力を制限する制御装置(駆動力制限装置)に関連する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば自動車は、一般に、4つの車輪、即ち2つの前輪及び2つの後輪を備え、これらの車輪を駆動する電子的な制御装置を備えることができる。このような電子的な制御装置として、特許文献1は、4WD・ECU(four-wheel-drive electronic control unit)を開示する。特許文献1に開示される4WD・ECUは、VSA(vehicle stability assist)・ECUとともに、車両に働く駆動力を制御し、具体的には、4つの車輪駆動力を、例えばトルクを単位として決定する。
【0003】
特許文献1に開示されるVSA・ECUは、4つの車輪駆動力の各々を制限する要求、例えばトルク制限リクエスト値を4WD・ECUに送る。4WD・ECUは、このようなトルク制限リクエスト値に応じて、ホイール・トルク(4つの車輪駆動力の各々)を減少させることができる。このように、VSA・ECUは、車両の駆動輪に働く駆動力を制限することができる。
【0004】
VSA・ECU等の車両挙動制御手段は、一般に、車輪の空転を抑制する機能(トラクション・コントロール・システム)、車輪のロックを抑制する機能(アンチロック・ブレーキ・システム)及び車両の横滑りを抑制する機能の少なくとも1つを備えることができる。
【0005】
特許文献2は、例えば、車輪の空転を抑制する機能、車輪のロックを抑制する機能等を含む制御手段に使用する車両の疑似車速発生装置(推定速度発生装置)を開示する。特許文献2の第3頁右下欄に開示される車両の疑似車速発生装置は、重心加速度Gをオフセット値(例えば0.3G)だけオフセットさせた重心加速度補正値Gcを算出する加算回路20eを備える。
【0006】
このように、車両の加速度(例えば、重心加速度G)にオフセット値を加算して補正後の加速度(例えば、重心加速度補正値Gc)を得る場合、補正後の加速度は、補正前の加速度よりも大きくなる。従って、補正後の加速度に基づき車両の推定速度を算出する場合、推定速度は、真の速度よりも大きく算出され得ることを本発明者は認識した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-256605号公報
【特許文献2】特開平02-306865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、推定速度の精度を向上可能な駆動力制限装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による第1の形態によれば、車両の駆動輪に働く駆動力を制限する駆動力制限装置であって、前記車両の第1の加速度を補正して、補正された前記第1の加速度を第2の加速度として得る加速度補正部と、前記駆動輪の車輪速度及び前記第1の加速度に基づき前記車両の第1の速度を算出する第1の算出部と、前記車輪速度及び前記第2の加速度に基づき前記車両の第2の速度を算出する第2の算出部と、前記第1の速度と前記第2の速度との差が第1の閾値以上である場合、前記駆動力を制限する制限駆動力を要求する要求部と、前記第2の速度を前記車両の推定速度として用いる推定部と、を備え、前記要求部が前記制限駆動力を要求することによって、前記車輪速度が第2の閾値を下回る時、前記推定部は、前記第2の速度を前記第1の速度でリセットして前記推定速度を得る、駆動力制限装置が提供される。
【0010】
第1の速度と第2の速度との差が第1の閾値以上である場合、要求部は、駆動力を制限する制限駆動力を要求する。言い換えれば、第1の速度と第2の速度との差が第1の閾値以上である場合、駆動輪のスリップが発生していることを仮定し、要求部は、駆動力の制限を要求することができる。このような要求に応じて、車輪速度が第2の閾値を下回る時、駆動輪のスリップが発生していたことが考えられる。従って、第2の速度(推定速度)が真の速度よりも大きく算出されていることを仮定し、推定部は、第2の速度を第1の速度でリセットする。これにより、第2の速度(推定速度)が真の速度に近づき、推定速度の精度は向上する。
【0011】
第1の形態において、前記推定部は、前記第2の算出部で算出される前記第2の速度から、前記車輪速度が前記第2の閾値を下回る時の前記第1の速度と前記第2の速度との前記差を減算した値を、前記推定速度として用いてもよい。車輪速度が第2の閾値を下回る時、推定部は、第2の速度(推定速度)を第1の速度まで減少させ、これにより、推定速度の精度は向上する。
【0012】
第1の形態において、前記制限駆動力は、前記第1の加速度に影響を及ぼさない駆動力であってもよい。制限駆動力は、第1の加速度に影響を及ぼさない駆動力に設定されるので、車両は、加速し続けることができる。
【0013】
第1の形態において、前記制限駆動力は、前記駆動輪がスリップしない状態で前記第1の加速度を維持できる駆動力であってもよい。駆動輪が実際にスリップしないように、制限駆動力は、第1の加速度を維持できる駆動力に設定される。このような駆動力を予め準備することで、不必要に大きいエネルギーで車両を加速することを抑制することができる。
【0014】
第1の形態において、前記要求部が前記制限駆動力を要求した時から所定の時間が経過しても、前記車輪速度が前記第2の閾値を下回らない場合、前記推定部は、前記第2の速度を前記推定速度として用い続けてもよい。車輪速度が第2の閾値を下回らない場合、駆動輪のスリップが発生していなかったことが考えられる。従って、推定部は、第2の速度を第1の速度でリセットしないで、第2の速度それ自身を推定速度として用い続けることができる。
【0015】
第1の形態において、前記要求部は、前記車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する駆動力制御装置に、前記制限駆動力を要求してもよく、前記駆動輪は、副駆動輪であってもよく、前記駆動力は、前記副駆動輪に働く副駆動輪駆動力であってもよく、前記制限駆動力は、前記副駆動輪駆動力を制限してもよく、前記副駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の一方であってもよい。
【0016】
車両が前輪駆動力及び後輪駆動力の双方で加速される場合、駆動力制限装置の要求部は、制限駆動力(副駆動輪駆動力の制限)を駆動力制御装置に要求することができる。これに応じて、駆動力制御装置は、副駆動輪駆動力を減少させ、駆動力制限装置の推定部は、副駆動輪のスリップが発生しているか否かを検証し、必要に応じて、第2の速度を第1の速度でリセットすることができる。
【0017】
第1の形態において、前記要求部は、前記車両の原動機を制御する原動機制御装置に、前記制限駆動力を要求してもよく、前記制限駆動力は、原動機駆動力を制限してもよい。車両が例えば前輪駆動力及び後輪駆動力の双方で加速される場合、駆動力制限装置の要求部は、制限駆動力(原動機駆動力の制限)を原動機制御装置に要求することができる。これに応じて、原動機制御装置は、原動機駆動力を減少させる。原動機駆動力の減少により、前輪駆動力及び後輪駆動力を減少させ、駆動力制限装置の推定部は、駆動輪(例えば後輪)のスリップが発生しているか否かを検証し、必要に応じて、第2の速度を第1の速度でリセットすることができる。
【0018】
第1の形態において、前記第2の閾値は、前記第1の速度及び前記第2の速度の少なくとも1つに基づいてもよい。車両の真の速度に依存する第1の速度及び第2の速度の少なくとも1つに応じて、第2の閾値を決定することができる。このように、第2の閾値がより適切に決定されるので、駆動力制限装置は、駆動輪のスリップが発生しているか否かをより適切に検証することができる。
【0019】
第1の形態において、前記第2の閾値は、前記第1の速度と前記第2の速度との前記差に対する比率に基づいてもよい。第1の速度及び第2の速度が大きくなる時、第1の速度と第2の速度との差に対する比率に基づいて第2の閾値も大きく設定できる。このように、第2の閾値が可変である場合、推定部は、より適切なタイミングで、第2の速度を第1の速度でリセットすることができる。
【0020】
本発明による第1の形態は、上述の駆動力制限装置と、前記駆動力を制御する駆動力制御装置と、を備え、前記要求部は、前記駆動力制御装置に前記制限駆動力を要求する、制御装置に関係してもよい。駆動力制限装置の要求部は、駆動力の制限を駆動力制御装置に要求することができる。車輪速度が第2の閾値を下回る時、制御装置(駆動力制限装置の推定部)は、第2の速度を第1の速度でリセットすることができる。これにより、第2の速度(推定速度)が真の速度に近づき、推定速度の精度は向上する。
【0021】
本発明による第1の形態は、上述の駆動力制限装置を備える車両挙動制御装置に関係してもよい。車両挙動制御装置(駆動力制限装置の要求部)は、駆動力の制限を要求することができる。車輪速度が第2の閾値を下回るタイミングで、車両挙動制御装置(駆動力制限装置の推定部)は、車両の速度を減少して推定速度を得ることができる。これにより、推定速度が真の速度に近づき、推定速度の精度は向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による制御装置を備える車両の概略構成図。
【図2】本発明による駆動力制限部(駆動力制限装置)及び車両挙動制御手段(車両挙動制御装置)を備える制御装置の概略構成図。
【図3】第1の加速度及び第2の加速度の概略説明図。
【図4】第1の速度及び第2の速度の概略説明図。
【図5(A)】副駆動輪制限駆動力の概略説明図。
【図5(B)】副駆動輪制限駆動力の概略説明図。
【図6】車両の推定速度の算出例を示すグラフ図。
【図7】車両の推定速度の算出手法を示す図。
【図8】車両の推定速度のもう1つの算出例を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に説明する実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
1. 車両
【0024】
図1は、本発明による制御装置を備える車両の概略構成図を示す。図1に示されるように、車両1(例えば、自動車)は、様々な制御を実行可能な制御装置100を備える。制御装置100は、様々な制御の1例として、車両1の前輪駆動力(前輪71,72に伝達される駆動力の目標値)及び後輪駆動力(後輪73,74に伝達される駆動力の目標値)を制御することができる。本発明による制御装置100の具体的な制御は、「2.制御装置」で後述する。
【0025】
図1の例において、車両1は、原動機10(例えば、ガソリン・エンジン等の内燃機関)を備え、原動機10は、出力軸11を有し、原動機10は、出力軸11を回転させることができる。車両1は、原動機10を制御する原動機制御手段20(原動機制御装置とも呼べる。例えば、エンジン・ECU)と、スロットル・アクチュエータ21とを備える。原動機制御手段20は、原動機駆動力(目標値)を求め、原動機10の出力軸の回転(実際の原動機駆動力)が原動機駆動力(目標値)に一致するように、原動機制御手段20は、スロットル・アクチュエータ21を制御する。
【0026】
原動機10内に混合気が流入する量を制御するスロットル(図示せず)の開度は、スロットル・アクチュエータ21を介して、原動機駆動力に基づき制御される。即ち、原動機制御手段20は、原動機駆動力に相当するスロットルの開度を求め、スロットルの開度に対応する制御信号を生成し、制御信号をスロットル・アクチュエータ21に送る。スロットル・アクチュエータ21は、原動機制御手段20からの制御信号に応じて、スロットルの開度を調整する。
【0027】
車両1は、アクセル・ペダル22及びアクセル・センサ23を備え、アクセル・センサ23は、車両1の運転者によるアクセル・ペダル22の操作量を感知し、アクセル・ペダル22の操作量を原動機制御手段20に送る。原動機制御手段20は、概して、アクセル・ペダル22の操作量に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求める。車両1は、回転数センサ24及び圧力センサ25を備える。原動機10が例えばエンジンである場合、回転数センサ24は、エンジンの回転数を感知し、圧力センサ25は、混合気をエンジンに取り込む吸気管内の絶対圧力を感知することができる。原動機制御手段20は、アクセル・ペダル22の操作量、感知される回転数及び絶対圧力に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求めることができる。原動機制御手段20は、制御装置100からの制御信号(例えば、車両1の走行状態)に基づきアクセル・ペダル22の操作量を修正することができる。代替的に、原動機制御手段20は、アクセル・ペダル22の操作量、感知される回転数、感知される絶対圧力及び制御装置100からの制御信号に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求めることができる。
【0028】
また、図1の例において、車両1は、動力伝達装置(パワー・トレイン、ドライブ・トレイン)を備えることができる。図1に示されるように、動力伝達装置は、例えば、変速機30、フロント・ディファレンシャル・ギア機構51、フロント・ドライブ・シャフト52,53、トランスファ54、プロペラ・シャフト55、リア・ディファレンシャル・ギア機構61、リア・ドライブ・シャフト64,65を有する。変速機30は、トルク・コンバータ31及びギア機構32を有する。
【0029】
動力伝達装置は、図1の例に限定されず、図1の例を変形・修正、又は具体化してもよい。動力伝達装置は、例えば、特開平07-186758号公報の図2で開示される駆動力伝達系3であってもよい。
【0030】
原動機10の出力軸の回転(実際の原動機駆動力)は、動力伝達装置を介して、実際の全輪駆動力(実際の前輪駆動力及び後輪駆動力)に変換される。このような変換に関する制御において、全輪駆動力(目標値)は、原動機制御手段20の原動機駆動力(目標値)、トルク・コンバータ31の増幅率(目標値)及びギア機構32の変速ギア比(目標値)に基づき決定される。主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力である後輪駆動力(目標値)への配分は、前輪駆動力(目標値)及びリア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比に基づき決定される。
【0031】
リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比が例えば「前輪駆動力:後輪駆動力=100:0」である場合、主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)と一致する。リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比が例えば「前輪駆動力:後輪駆動力=(100−x):x」である場合、主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力である後輪駆動力(目標値)を減算した値と一致する。
【0032】
なお、前輪71,72は、フロント・ディファレンシャル・ギア機構51及びフロント・ドライブ・シャフト52,53を介して前輪駆動力(目標値)によって制御される。後輪73,74は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61及びリア・ドライブ・シャフト64,65を介して後輪駆動力(目標値)によって制御される。実際の全輪駆動力は、トランスファ54を介してプロペラ・シャフト55に伝達され、プロペラ・シャフト55に伝達される実際の全輪駆動力の一部は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61に伝達される実際の後輪駆動力に配分される。プロペラ・シャフト55、トランスファ54及びフロント・ディファレンシャル・ギア機構51に伝達される実際の全輪駆動力の残部が、実際の前輪駆動力になる。
【0033】
図1の例において、車両1は、変速機30の変速比(例えば、ギア機構32の変速ギア比)を制御する変速機制御手段40(例えば、AT(automatic transmission)・ECU)を備える。車両1は、シフト・レバー33及びシフト位置センサ34を備え、変速機制御手段40は、概して、シフト位置センサ34によって感知されるシフト・レバー33のシフト位置(例えば、「1」,「2」,「D」)に基づき、ギア機構32の変速ギア比を決定する。
【0034】
シフト・レバー33のシフト位置が例えば「1」である場合、ギア機構32が1速を表す変速ギア比を有するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。シフト・レバー33のシフト位置が例えば「D」である場合、変速機制御手段40は、制御装置100からの制御信号(例えば、車両1の速度及び全輪駆動力(目標値))に基づき例えば1速〜5速等で構成されるギア機構32が有する全ての変速ギアの何れか1つを表す変速ギア比を決定する。これに応じて、ギア機構32が例えば1速〜5速の何れか1つを表す変速ギア比を有するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。その後、例えば、変速機制御手段40が例えば1速を表す変速ギア比から2速を表す変速ギア比に変更する時、ギア機構32が1速を表す変速ギア比から2速を表す変速ギア比に変更するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。
【0035】
図1の例において、車両1は、前輪71の回転速度を感知する車輪速度センサ81を備え、前輪72の回転速度を感知する車輪速度センサ82も備える。また、車両1は、後輪73の回転速度を感知する車輪速度センサ83を備え、後輪74の回転速度を感知する車輪速度センサ84も備える。制御装置100は、車輪速度センサ81,82,83,84で感知された回転速度(車輪速度)に基づき、車両1の速度を求めることができる。車両1は、車両1の前後方向に沿った車両1の加速度を感知する前後加速度センサ85(例えば、その加速度を重力加速度単位で感知する前後Gセンサ)を備え、制御装置100は、その加速度で、車両1の速度を補正することができる。
【0036】
図1の例において、車両1は、車両1が旋回する時のヨー・レートを感知するヨー・レート・センサ86を備える。また、車両1は、車両1の横方向に沿った車両1の遠心力(遠心加速度)を感知する横加速度センサ87(その遠心加速度を重力加速度単位で感知する横Gセンサ)を備える。さらに、車両1は、ステアリング・ホイール88及び操舵角センサ89を備え、操舵角センサ89は、ステアリング・ホイール88の操舵角を感知する。
【0037】
制御装置100は、ヨー・レート、遠心加速度(横加速度)及び操舵角に基づき、車両1の横滑り等の挙動を検出することができる。制御装置100は、このような挙動の検出に加えて、様々な制御(例えば、図示しないブレーキ等の制動部を介する前輪71,72及び後輪73,74の少なくとも1つに関係する制御)をすることができるが、上述の制御のすべてを実行する必要がない。以下に、制御装置100の制御の概要を説明する。
2.制御装置
【0038】
図2は、本発明による制御装置の概略構成図を示す。図2に示されるように、制御装置100は、入力信号として、例えば前後加速度、車輪速度、ヨー・レート及び操舵角を入力し、出力信号を出力し、様々な制御を実行することができる。制御装置100は、駆動力制御手段300を備え、駆動力制御手段300(駆動力制御装置とも呼べる)は、様々な制御の1例として、主駆動輪駆動力(例えば、前輪駆動力)及び副駆動輪駆動力(例えば、後輪駆動力)を制御する。
【0039】
図2の例において、制御装置100は、車両挙動制御手段200を備える。車両挙動制御手段200(車両挙動制御装置とも呼べる)は、様々な制御の1例として、駆動力制限部260(駆動力制限装置とも呼べる)で車両1の速度(及び、補正された車両1の速度)を求めることができ、挙動制御部270は、車両1の速度(及び、補正された車両1の速度)に基づいて車両1の挙動を制御することができる。さらに、車両挙動制御手段200(駆動力制限部260及び挙動制御部270)は、例えば副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)を駆動力制御手段300に要求することができる。
【0040】
具体的には、例えば、駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)と副駆動輪駆動力(目標値)との間の比率を決定し、その比率及び全輪駆動力(目標値)に基づき例えば副駆動輪駆動力(目標値)を決定する。決定された副駆動輪駆動力(目標値)が得られるように、駆動力制御手段300は、例えば図1のリア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比を出力信号で制御する。駆動力制御手段300からリア・ディファレンシャル・ギア機構61への出力信号は、副駆動輪駆動力(目標値)を制御する制御信号である。
【0041】
なお、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力がゼロである時、即ち、プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間が遮断される時、図1の例において、主駆動輪駆動力(目標値)又は前輪駆動力は、全輪駆動力(目標値)と一致する。代替的に、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力がゼロでない時、即ち、プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間が接続される時、図1の例において、主駆動輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力(目標値)を減算した値と一致する。
【0042】
図2の例において、制御装置100は、駆動力制限部260を備える。駆動力制限部260が副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)を駆動力制御手段300に要求する間、駆動力制限部260は、例えば図1の副駆動輪(例えば、後輪73,74)の回転速度(車輪速度)が閾値を下回るか否かを判定することができる。駆動力制限部260は、例えば図1の副駆動輪(例えば、後輪73,74)の回転速度(車輪速度)が閾値を下回るタイミングで、車両1の速度を減少して、車両1の推定速度を得ることができる。これにより、推定速度が真の速度に近づき、推定速度の精度は向上する。副駆動輪の車輪速度が閾値を下回らない場合、駆動力制限部260は、車両1の速度を減少しないで、車両1の速度それ自身を車両1の推定速度として得ることができる。例えば車輪速度センサ83,84から駆動力制限部260への入力信号は、例えば後輪73,74の回転速度(車輪速度)を表す。
【0043】
駆動力制限部260が副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)を駆動力制御手段300に要求する場合、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力(目標値)を減少させる一方、駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)を増加させる。この時、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力(目標値)を副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)と一致させることにより、副駆動輪駆動力(目標値)を減少させる。具体的には、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力が減少するように、駆動力制御手段300は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61を制御する。プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間がより弱く接続されることで、実際の副駆動輪駆動力が減少し、その結果として、実際の主駆動輪駆動力が増加する。副駆動輪駆動力の減少により、副駆動輪(例えば、前輪73,74)の回転速度(車輪速度)が閾値を下回る場合、副駆動輪のスリップが発生していたことが考えられる。従って、車両1の速度(推定速度)が真の速度よりも大きく算出されていることを仮定し、駆動力制限部260は、車両1の速度を減少することができる。これにより、車両1の速度(推定速度)が真の速度に近づき、推定速度の精度は向上する。
【0044】
駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を予め決定し、駆動力制限部260からの要求に応じて、予め決定された副駆動輪駆動力(目標値)を減少させ、予め決定された主駆動輪駆動力(目標値)を増加させることができる。
【0045】
なお、挙動制御部270は、車両1の挙動を制御する目的で、例えば副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を駆動力制御手段300に要求することができる。駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を一次的に決定する。駆動力制御手段300は、駆動力制限部260又は挙動制御部270からの副駆動輪駆動力(目標値)の制限要求に応じるか否かを判定してもよく、制限要求を拒否してもよい。駆動力制限部260又は挙動制御部270が副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)を駆動力制御手段300に要求する場合、駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を二次的に(最終的に)決定することができる。
3.車両挙動制御手段(第2の制御手段)
【0046】
図2は、本発明による車両挙動制御手段の概略構成図も示す。車両挙動制御手段200は、車両1の速度を推定し、推定速度を得る推定部250を有する駆動力制限部260を備え、挙動制御部270は、車両1の推定速度を利用する。図2の例において、駆動力制限部260は、推定部250だけでなく、補正部210、第1の算出部220、第2の算出部230及び出力部240を備える。
3.1.補正される加速度(第2の加速度)
【0047】
例えば図2に示されるように、車両挙動制御手段200又は駆動力制限部260は、車両の第1の加速度を補正して、補正された第1の加速度を第2の加速度として得る加速度補正部210を備えることができる。第1の加速度は、例えば図1の前後加速度センサ85によって感知される加速度(前後加速度)である。加速度補正部210は、前後加速度センサ85それ自身の感知誤差、前後加速度センサ85の取り付け誤差等の誤差を考慮して、車両の第1の加速度を補正することができる。加速度補正部210は、第1の加速度に例えばオフセット値又は一定値を加算して、第2の加速度を得ることができる。オフセット値又は一定値は、第1の加速度に含まれ得る最大の誤差に設定することができる。オフセット値又は最大の誤差は、前後加速度センサ85の属性に応じて、適宜、設定することができる。
【0048】
図3は、第1の加速度及び第2の加速度の概略説明図を示す。図3の例において、実線は、第2の加速度を示し、点線は、第1の加速度(前後加速度センサ85によって感知される前後加速度)を示す。図3の例において、車両1は、最初に、停止しており、その後、車両1は、第1の時刻T1で発進する。第1の加速度は、発進に伴い、ゼロから所定の加速度まで増加する。第1の加速度は、第2の時刻T2で所定の加速度に到達すると、その後は、一定の加速度を示す。図2の加速度補正部210は、第1の加速度にオフセット値を加算した値を算出し、その値を第2の加速度として得る。加速度補正部210は、例えば図3に示すように、第1の加速度を補正することができる。
3.2.第1の速度
【0049】
図2の例において、第1の算出部220は、駆動輪の車輪速度及び第1の加速度に基づき車両の第1の速度を算出する。駆動輪の車輪速度は、例えば副駆動輪の車輪速度であり、具体的には、例えば図1の車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)の平均である。第1の加速度は、例えば図1の前後加速度センサ85によって感知される加速度(前後加速度)である。第1の算出部220は、例えば車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、車両1の第1の速度Vvh_es1を得る又は推定してもよい。
【0050】
しかしながら、車両1の第1の速度Vvh_es1(第1の推定速度)は、例えば車両1の振動等によるノイズの影響を排除するために、後輪73,74(副駆動輪)の車輪速度の各々に、第1の加速度に基づく上昇制限及び下降制限を適用することが好ましい。即ち、第1の算出部220は、車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)を第1の加速度で補正又は訂正し、補正又は訂正された2つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、車両1の第1の速度Vvh_es1を得る又は推定することができる。車両1の第1の速度Vvh_es1(第1の推定速度)は、他の手法で推定してもよい。
3.3.第2の速度
【0051】
図2の例において、第2の算出部230は、駆動輪の車輪速度及び第2の加速度に基づき車両の第2の速度を算出する。駆動輪の車輪速度は、例えば副駆動輪の車輪速度である。第2の加速度は、例えば図2の補正部210によって算出される加速度(補正された前後加速度)である。第2の算出部230は、例えば車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)を第2の加速度で補正又は訂正し、補正又は訂正された2つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、車両1の第2の速度Vvh_es2を得る又は推定することができる。車両1の第2の速度Vvh_es2(第2の推定速度)は、第1の速度Vvh_es1と同様に、算出することができる。
【0052】
図4は、第1の速度及び第2の速度の概略説明図を示す。図4の例において、実線は、第2の速度を示し、点線は、第1の速度を示す。第2の速度は、図3に示す第2の加速度(補正された前後加速度)に基づき第2の算出部230で算出され、第1の速度は、図3に示す第1の加速度(補正されない前後加速度)に基づき第1の算出部220で算出される。図4の例において、車両1は、最初に、停止しており、その後、車両1は、第1の時刻T1で発進する。第1の速度及び第2の速度は、発進に伴い、時刻T1から増加する。
3.4.制限駆動力
【0053】
図2の例において、出力部240(要求部)は、第1の速度と第2の速度との差が第1の閾値以上であるか否かを判定する。具体的には、出力部240は、第2の速度から第1の速度を減算した値が第1の閾値以上であるか否かを判定する。第1の速度と第2の速度との差が第1の閾値以上である場合、出力部240は、駆動力を制限する制限駆動力(例えば副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力)を例えば図2の駆動力制御手段300に出力する。このように、出力部240(要求部)は、駆動力の制限を例えば駆動力制御手段300に要求する。
【0054】
図5(A)及び図5(B)は、副駆動輪制限駆動力の概略説明図を示す。図5(A)は、副駆動輪制限駆動力の要求が発生するタイミングを示し、図5(B)は、駆動力制限部260又は出力部240から出力される副駆動輪制限駆動力を示す。
【0055】
図5(A)は、図4に示す第2の速度と第1の速度との差を示し、時刻T3で、第2の速度と第1の速度との差は、第1の閾値と一致する。その後、第2の速度と第1の速度との差は、第1の閾値を超える。
【0056】
図5(B)において、実線は、駆動力制限部260からの出力を示す。時刻T3まで、駆動力制限部260からの出力は、副駆動輪駆動力を制限しない値を表し、時刻T3で、副駆動輪駆動力を制限する値(副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力)を表す。時刻T3から時刻T5までの間、駆動力制限部260からの出力は、一定値を保つことができる。時刻T5(所定の時間)は、時刻T3から所定の期間が経過した時刻に設定することができ、所定の期間は、車両1の属性に応じて、適宜、設定することができる。
【0057】
時刻T3から時刻T5までの副駆動輪制限駆動力(一定値)は、例えば図3に示す第1の加速度(補正しない前後加速度)に影響を及ぼさない駆動力に設定することができる。具体的には、副駆動輪制限駆動力(一定値)は、副駆動輪がスリップしない状態で第1の加速度を維持できる駆動力であることが好ましい。このような副駆動輪制限駆動力(一定値)を予め準備することで、不必要に大きいエネルギーで車両1を加速することを抑制することができる。なお、第1の加速度が大きい程、副駆動輪制限駆動力(一定値)は、大きく設定することができる。副駆動輪制限駆動力(一定値)は、車両1の属性に応じて、適宜、設定することができる。
【0058】
駆動力制限部260からの出力は、時刻T5で、副駆動輪駆動力を制限しない値に戻してもよい。しかしながら、図5(B)において、駆動力制限部260からの出力は、時刻T7で、副駆動輪駆動力を制限しない値に戻す。時刻T5から時刻T7までの間、駆動力制限部260からの出力(副駆動輪駆動力を制限する値)は、徐々に上昇させることができる。このように、時刻T3から時刻T7までの間、駆動力制限部260又は出力部240は、副駆動輪駆動力の制限を要求することができる。副駆動輪駆動力を制限しない値は、例えば、図2の駆動力制御手段300で決定し得る副駆動輪駆動力の最大値である。出力部240は、例えば図5の時刻T3から時刻T7まで、図2の推定部250に副駆動輪制限駆動力の要求を表す信号(例えば二進法で「1」又はhighレベルを表す信号)を送ることができる。
【0059】
図5(B)において、点線は、駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力(目標値)を示す。時刻T3まで、駆動力制御手段300によって一次的に決定される副駆動輪駆動力(目標値)が、そのまま採用される。時刻T3で、駆動力制御手段300は、駆動力制限部260からの副駆動輪駆動力の制限要求を受け入れ、駆動力制御手段300によって二次的に決定される副駆動輪駆動力は、駆動力制限部260からの副駆動輪制限駆動力に一致する。その後、時刻T6まで、駆動力制御手段300は、駆動力制限部260からの副駆動輪駆動力の制限要求を受け入れる。図5(B)の例において、駆動力制限部260からの出力(実線)が駆動力制限手段300で最終的に決定される副駆動輪駆動力(点線)と一致する時刻T3から時刻T6に対応する実線は、太く描かれている。時刻T6で、駆動力制御手段300は、駆動力制限部260からの副駆動輪駆動力の制限要求を拒否し、時刻T6以降、駆動力制御手段300によって二次的に決定される副駆動輪駆動力は、駆動力制御手段300によって一次的に決定される副駆動輪駆動力に一致しない。
3.5. 車両の推定速度
【0060】
図2の例において、推定部250は、車両1の速度を推定する。通常、推定部250は、図4に示すような第2の速度(第2の推定速度)を車両1の推定速度として用いる。しかしながら、第2の速度は、真の速度よりも大きく算出され得る。即ち、副駆動輪(例えば後輪73,74)のスリップが発生する場合、副駆動輪の車輪速度は、真の速度よりも大きく、従って、副駆動輪の車輪速度に基づく第2の速度も、真の速度よりも大きい。駆動力制限部260が駆動力の制限を要求する間(例えば、図5の時刻T3以降)、スリップしている副駆動輪の車輪速度は、減少する。副駆動輪の車輪速度の減少に応じて、駆動力制限部260又は推定部250は、第2の速度を減少して、車両1の推定速度を得ることができる。以下に、車両1の推定速度の算出例を説明する。
3.5.1.車両の推定速度の算出例(グラフ)
【0061】
図6は、車両1の推定速度の算出例を示す。図6の例において、実線は、推定部250で得られる車両1の推定速度を示す。推定部250は、時刻T4まで、図4及び図6で示す第2の速度を車両1の推定速度として用いる。時刻T4で、推定部250は、第2の速度を第1の速度でリセットして、車両1の推定速度を得る。
【0062】
前述したように、第1の速度と第2の速度との差が第1の閾値以上である場合、時刻T3から、出力部240は、副駆動輪駆動力の制限を例えば駆動力制御手段300に要求することができる。この要求に応じて、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力を減少させる一方、主駆動輪駆動力を増加させることができる。図6の例において、2つの点線は、主駆動輪及び副駆動輪の車輪速度を示し、時刻T3まで、主駆動輪及び副駆動輪の車輪速度は、第2の速度にほぼ一致する。時刻T3から、副駆動輪の車輪速度は減少する一方、主駆動輪の車輪速度は増加する。推定部250は、副駆動輪の車輪速度が第2の閾値を下回るか否かを判定する。具体的には、推定部250は、例えば図1の車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)の平均が、第2の閾値を下回るか否かを判定する。
【0063】
図6の例において、時刻T4で、副駆動輪の車輪速度が第2の閾値を下回る。第2の閾値は、第1の速度及び第2の速度の少なくとも1つに基づき、具体的には、第1の速度と第2の速度との差に対する比率に基づく。図6の例において、2つの1点鎖線は、第1の速度及び第2の速度を示し、2点鎖線は、第2の閾値を示す。第2の閾値は、副駆動輪のスリップが発生しているか否かを検証する指標である。時刻T4で、推定部250は、第2の速度から、第1の速度と第2の速度との差を減算した値(=時刻T4における第1の速度)を車両1の推定速度として用いる。このように、推定部250は、第2の速度を時刻T4における第1の速度でリセットし、車両1の推定速度を真の速度に近づけることができる。この時、推定部250は、時刻T4における第1の速度と第2の速度との差を記憶又は保持することができる。時刻T4以降、推定部250は、第2の算出部230で算出される第2の速度から、時刻T4における第1の速度と第2の速度との差(記憶又は保持される差)を減算した値を車両1の推定速度として用いる。
【0064】
なお、図6の例と異なる例(図示せず)において、時刻T3から時刻T5までの間、副駆動輪の車輪速度が第2の閾値を下回らない場合、推定部250は、第2の算出部230で算出される第2の速度を車両1の推定速度として用い続けることができる。このような場合、推定部250は、第2の速度を第1の速度でリセットしなくてもよい。
3.5.2.車両の推定速度の算出手法(機能ブロック)
【0065】
図7は、推定部250で推定される車両1の推定速度の算出手法を示す。図7の例において、まず、後輪74の車輪速度は、車輪速度センサ84からの測定値(今回)であり、補正された車輪速度(C510)は、車輪速度センサ84からの測定値(前回)を第2の加速度で補正された、後輪74の車輪速度(前回)である。減算手段C500は、後輪74の車輪速度(今回)から補正された車輪速度(前回)を減算する。減算結果(加速度)が第2の加速度以下になるように、上昇制限手段C505は、減算結果(加速度)及び第2の加速度のうちの最小値を出力する。加算手段C510は、この最小値と後輪74の車輪速度(前回)とを加算し、加算結果は、第2の加速度で補正された、後輪74の車輪速度(今回)を表す。
【0066】
後輪73の車輪速度(車輪速度センサ83からの測定値(今回))も、後輪74の車輪速度(車輪速度センサ84からの測定値(今回))と同様に、減算手段C520、上昇制限手段C525及び加算手段C530を介して、補正される。即ち、加算手段C530の加算結果は、第2の加速度で補正された、後輪73の車輪速度(今回)を表す。平均化手段C540は、加算手段C510の加算結果と加算手段C530の加算結果とを平均し、副駆動輪73,74の車輪速度を得る。平均化手段C540の出力は、例えば図2の第2の算出部230の出力である第2の速度を表す。
【0067】
後輪74の車輪速度(車輪速度センサ84からの測定値(今回))は、減算手段C550、上昇制限手段C555及び加算手段C560を介して補正される。即ち、加算手段C560の加算結果は、第1の加速度で補正された、後輪74の車輪速度(今回)を表す。後輪73の車輪速度(車輪速度センサ83からの測定値(今回))は、減算手段C570、上昇制限手段C575及び加算手段C580を介して補正される。即ち、加算手段C580の加算結果は、第1の加速度で補正された、後輪73の車輪速度(今回)を表す。平均化手段C590は、加算手段C560の加算結果と加算手段C580の加算結果とを平均し、副駆動輪73,74の車輪速度を得る。平均化手段C590の出力は、例えば図2の第1の算出部220の出力である第1の速度を表す。
【0068】
減算手段C600は、平均化手段C540の出力(第2の速度)から平均化手段C590の出力(第1の速度)を減算する。判定手段C610は、減算手段C600の出力が第1の閾値以上であるか否かを判定する。要求手段C620は、判定手段C610の判定結果が肯定を表す場合、即ち、第2の速度と第1の速度との差が第1の閾値以上である場合、副駆動輪駆動力の制限を例えば図2の駆動力制御手段300に要求する。要求手段C620の出力は、例えば図2の出力部240の出力を表す。
【0069】
乗算手段C710は、平均化手段C590の出力(第1の速度)と係数とを乗算する。乗算手段C710の出力は、例えば図6で示すような第2の閾値を表す。但し、乗算手段C710の出力は、平均化手段C590の出力(第1の速度)だけに基づき、係数は、1よりも大きく設定することができる。なお、第2の閾値は、平均化手段C590の出力(第1の速度)と平均化手段C540の出力(第2の速度)の差に対する比率に基づき算出してもよい。平均化手段700は、車輪速度センサ83からの測定値(今回)と車輪速度センサ84からの測定値(今回)とを平均する。判定手段C720は、平均化手段700の出力(副駆動輪の車輪速度)が乗算手段C710の出力(第2の閾値)を下回るか否かを判定する。
【0070】
推定手段C800は、判定手段C720の判定結果が肯定を表す場合、即ち、副駆動輪の車輪速度が第2の閾値を下回る場合、平均化手段C540の出力(第2の速度)を平均化手段C590の出力(第1の速度)でリセットする。副駆動輪の車輪速度が例えば図5の時刻T3から時刻T5までの間に第2の閾値を下回らない場合、平均化手段C540の出力(第2の速度)をそのまま出力する。推定手段C800の出力は、例えば図2の推定部250の出力(車両1の推定速度)を表す。
【0071】
なお、図2の挙動制御部270又は図1の車両1は、車輪の空転を抑制する機能(トラクション・コントロール・システム)、車輪のロックを抑制する機能(アンチロック・ブレーキ・システム)及び車両の横滑りを抑制する機能の少なくとも1つを備えることができる。このような機能に、車両1の推定速度を利用することができる。具体的には、図2の挙動制御部270は、例えば車両1の不安定状態を検出し、車両1の挙動を制御する目的で、副駆動輪制限駆動力を要求することができる。挙動制御部270は、車両1の不安定状態は、例えば、ヨー・レート・センサ86から取得する実ヨー・レートと、操舵角及び車両1の推定速度に基づいて算出する規範ヨー・レートとを用いて、車両1の走行状態が不安定か否かを判定することができる。車両1の推定速度の精度が向上する場合、例えば車両1の不安定状態の検出精度も向上する。
【0072】
挙動制御部270は、主駆動輪(前輪71,72)のスリップ量を算出してもよい。主駆動輪のスリップ量Smwは、例えば、主駆動輪の平均車輪速度Vmw_avから車両1の推定速度を減算した値である。平均車輪速度Vmw_avは、車輪速度センサ81,82で感知された2つの回転速度(車輪速度)の平均である。車両1の推定速度が真の速度よりも大きい場合、主駆動輪のスリップ量Smwは、小さくなる。即ち、車両1の推定速度が真の速度よりも大きい場合、図2の挙動制御部270は、主駆動輪のスリップを検出し難くなる。言い換えれば、車両1の推定速度の精度が向上する場合、例えば主駆動輪のスリップの検出精度も向上する。
4.原動機制限力(変形例)
【0073】
図2の例では、出力部240は、副駆動輪駆動力の制限を図2の駆動力制御手段300に要求する。代替的に、出力部240は、原動機駆動力の制限を例えば図1の原動機制御手段20に要求してもよい。この場合、出力部240は、原動機駆動力を制限する制限駆動力を算出し、原動機制御手段20は、予め求めた原動機駆動力(目標値)を制限駆動力に一致させる。原動機駆動力を制限する制限駆動力は、第1の加速度に影響を及ぼさないように設定することができる。また、原動機駆動力を制限する制限駆動力は、副駆動輪がスリップしない状態で第1の加速度を維持できる駆動力に設定されることが好ましい。
【0074】
図8は、車両1の推定速度のもう1つの算出例を示す。図8の例は、図6の例と類似する。図5の例において、時刻T3から時刻T5までの間、出力部240からの出力は、副駆動輪制限駆動力(一定値)を表す。代替的に、図5の例の変形した例において、時刻T3から時刻T5までの間、出力部240からの出力は、原動機駆動力を制限する制限駆動力(一定値)を表してもよい。この場合、原動機駆動力の減少により、時刻T3から、副駆動輪の車輪速度は減少し、主駆動輪の車輪速度も減少する(図8)。図8の例において、推定部250又は駆動力制限部260は、副駆動輪の車輪速度が第2の閾値を下回るか否かを判定する。図8の例において、時刻T4で、推定部250は、第2の速度から、第1の速度と第2の速度との差を減算した値を車両1の推定速度として用いる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本願発明による駆動力制限装置は、車両の安定性制御に最適である。
【符号の説明】
【0076】
1・・・車両、100・・・制御装置、200・・・車両挙動制御手段(車両挙動制御装置)、210・・・補正部、220・・・第1の算出部、230・・・第2の算出部、240・・・出力部、250・・・推定部、260・・・駆動力制限部(駆動力制限装置)、270・・・挙動制御部、300・・・駆動力制御手段(駆動力制御装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪に働く駆動力を制限する駆動力制限装置であって、
前記車両の第1の加速度を補正して、補正された前記第1の加速度を第2の加速度として得る加速度補正部と、
前記駆動輪の車輪速度及び前記第1の加速度に基づき前記車両の第1の速度を算出する第1の算出部と、
前記車輪速度及び前記第2の加速度に基づき前記車両の第2の速度を算出する第2の算出部と、
前記第1の速度と前記第2の速度との差が第1の閾値以上である場合、前記駆動力を制限する制限駆動力を要求する要求部と、
前記第2の速度を前記車両の推定速度として用いる推定部と、
を備え、
前記要求部が前記制限駆動力を要求することによって、前記車輪速度が第2の閾値を下回る時、前記推定部は、前記第2の速度を前記第1の速度でリセットして前記推定速度を得る、駆動力制限装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記第2の算出部で算出される前記第2の速度から、前記車輪速度が前記第2の閾値を下回る時の前記第2の速度と前記第1の速度との前記差を減算した値を、前記推定速度として用いる、請求項1に記載の駆動力制限装置。
【請求項3】
前記制限駆動力は、前記第1の加速度に影響を及ぼさない駆動力である、請求項1に記載の駆動力制限装置。
【請求項4】
前記制限駆動力は、前記駆動輪がスリップしない状態で前記第1の加速度を維持できる駆動力である、請求項1に記載の駆動力制限装置。
【請求項5】
前記要求部が前記制限駆動力を要求した時から所定の時間が経過しても、前記車輪速度が前記第2の閾値を下回らない場合、前記推定部は、前記第2の速度を前記推定速度として用い続ける、請求項1に記載の駆動力制限装置。
【請求項6】
前記要求部は、前記車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する駆動力制御装置に、前記制限駆動力を要求し、
前記駆動輪は、副駆動輪であり、
前記駆動力は、前記副駆動輪に働く副駆動輪駆動力であり、
前記制限駆動力は、前記副駆動輪駆動力を制限し、
前記副駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の一方である、請求項1に記載の駆動力制限装置。
【請求項7】
前記要求部は、前記車両の原動機を制御する原動機制御装置に、前記制限駆動力を要求し、
前記制限駆動力は、原動機駆動力を制限する、請求項1に記載の駆動力制限装置。
【請求項8】
前記第2の閾値は、前記第1の速度及び前記第2の速度の少なくとも1つに基づく、請求項1に記載の駆動力制限装置。
【請求項9】
前記第2の閾値は、前記第1の速度と前記第2の速度との前記差に対する比率に基づく、請求項1に記載の駆動力制限装置。
【請求項10】
請求項1に記載の駆動力制限装置と、
前記駆動力を制御する駆動力制御装置と、
を備え、
前記要求部は、前記駆動力制御装置に前記制限駆動力を要求する、制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載の駆動力制限装置を備える車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−210924(P2012−210924A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32499(P2012−32499)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】