説明

車両制御装置

【課題】車両が登坂路での停止中にトルクコンバータのストール状態が継続してそのオイルの温度が上昇する状況下で、車両のずり下がりを防ぎつつ該オイルの温度上昇を抑制しうる車両制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン1と、エンジン1の駆動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機3と、車両の車輪の動きを規制する制動装置と、エンジン1と自動変速機3の間に設けられたトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2に供給されるオイルの温度を検出する油温センサ72と、油温センサ72により検出されたオイルの温度が第1の所定値以上になったら、自動変速機3をエンジン1の駆動力が駆動輪に伝達されないニュートラル状態とするとともに、制動装置を制御して車輪をロックする制御装置60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータ付き自動変速機を搭載した車両の制御装置に関し、特に、トルクコンバータにおけるストール等に起因したオイルの温度の上昇の抑制と車両の挙動とを制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータを備える自動変速機を搭載した車両においては、トルクコンバータのストール、すなわち、トルクコンバータにおいて、入力側のポンプは回転しているが出力側のタービンが停止した状態が発生することがある。この場合、トルクコンバータの入力側のポンプと出力側のタービンとの間の回転速度差(滑り)が大きくなってもこの状態が継続すると、両者間のオイルが剪断力を受けて発熱し、オイルの経時的な熱劣化や、トルクコンバータ内部のシール材などの熱による耐久性低下を招く。
【0003】
そこで、トルクコンバータにストールが継続して発生したら、エンジン出力を減少させる制御をすることにより、トルクコンバータ入出力側の回転速度差を減少させて、オイルの加熱防止を図る技術が提案されている。
特許文献1には、トルクコンバータのストール状態が所定時間以上継続したら、設定時間だけエンジン出力を減少補正し、この後エンジン出力の減少補正が解除されてから、前記所定時間以内にまたストール状態を検出したら、前記所定時間よりも短い時間に設定された第2の所定時間以上継続したらエンジン出力を減少補正する。これにより、頻繁にストール状態が発生したとしても、トルクコンバータ内の油温上昇の防止を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−269206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば車両が登坂路で停止しているときに、トルクコンバータのストール状態が継続した場合、オイル温度の上昇に伴うオイルの粘性の低下によるトルクコンバータでのトルク伝達ロスによって、エンジンの出力を増大させたとしても、勾配に対抗して車両を登坂路に保持させるだけのトルクが駆動輪に伝達されず、運転者がブレーキペダルの踏み込み等の操作をしなければ、車両のずり下がりが生じてしまい、運転者に違和感を与える虞がある。
【0006】
このような状況下では、もしも運転者が車両のずり下がりをアクセルペダルの踏み込みで解消しようとすれば、トルクコンバータの差回転の増大によってオイル温度の更なる上昇を招き、却って車両のずり下がりを促進する虞もある。この場合に、特許文献1のように、エンジン出力の減少補正を行なったとしても、オイル温度の更なる上昇を抑えることはできても、車両のずり下がりを防止することはできない。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたもので、車両が登坂路での停止中にトルクコンバータのストール状態が継続してトルクコンバータのオイルの温度が上昇する状況下で、車両のずり下がりを防ぎつつ該オイルの温度上昇を抑制することができるようにした、車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明にかかる車両制御装置は、車両の駆動源であるエンジンと、前記エンジンの駆動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機と、前記車両の車輪の動きを規制する制動装置と、前記エンジンと前記自動変速機の間に設けられたトルクコンバータと、前記トルクコンバータに供給されるオイルの温度を検出する油温センサと、前記油温センサにより検出されたオイルの温度が第1の所定値以上になったら、前記自動変速機を制御してエンジンの駆動力が駆動輪に伝達されないニュートラル状態とするとともに、前記制動装置を制御して車輪をロックする制御装置と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
前記自動変速機は、運転者によるシフトレバーの操作が変換された電気信号に基づいてレンジの変更制御を行なうシフト・バイ・ワイヤシステムと、前記レンジがパーキングレンジに変更されると、駆動輪をロックし前記制動装置として機能するパークロック機構とを有し、前記制御装置は、前記油温センサにより検出されたオイルの温度が前記第1の所定値以上になったら、運転者により指定されたシフト位置にかかわらず、前記自動変速機を前記パーキングレンジに変更し、前記自動変速機を制御して前記エンジンの駆動力が前記駆動輪に伝達されないニュートラル状態とするとともに、前記パークロック機構によって前記駆動輪をロックすることが好ましい。
【0010】
この場合、前記シフトレバーは、運転者の操作が終了すると自動的にホームポジションに戻るシフト装置に設けられ、前記制御装置は、前記油温センサにより検出されたオイルの温度が、前記第1の所定値よりも低い温度に設定された第2の所定値以下になったら、運転者の前記シフトレバーの操作を受け付けることによって、前記パーキングレンジ以外のレンジへの移行を許可することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる車両制御装置によれば、例えばトルクコンバータでストール状態が継続することに起因してトルクコンバータのオイル温度が上昇した場合に、自動変速機を制御してエンジンの駆動力が駆動輪に伝達されないニュートラル状態にするので、トルクコンバータの出力側の負荷が解放される。これにより、トルクコンバータの入力側と共に出力側が回転するようになり、トルクコンバータの入出力回転数差が低減されて、オイルの温度上昇が抑制される。また、同時に、制動装置により車輪がロックされるため、登坂路の途中で、自動変速機の出力側から駆動輪に対して駆動力が伝達されなくなっても、車両のずり下がりなどを抑制することができる。
【0012】
また、自動変速機に、シフト・バイ・ワイヤシステムと、パークロック機構とを適用すると、自動変速機のレンジをパーキングレンジにするだけで、エンジンの駆動力が駆動輪に伝達されないニュートラル状態と、車輪のロックとを実現することができるため、指示系統を単純化できる。
さらに、シフトレバーを、運転者の操作が終了すると自動的にホームポジションに戻るシフト装置に設け、オイルの温度が第1の所定値よりも低い温度に設定された第2の所定値以下になったら、運転者の前記シフトレバーの操作を受け付けて、パーキングレンジ以外のレンジへの移行を許可する構成とすれば、オイルの温度が低くならないと、運転者がシフトレバーを操作してもパーキングレンジから他のレンジに移行しないので、オイルの温度上昇を抑制することができる。更に、オイルの温度が低くなったら、パーキングレンジから他のレンジ移行させる条件として、運転者自身のシフト操作が要求されるので、運転者の意図しないところで、パーキングレンジから他のレンジ、例えば、ドライブレンジに移行するなどして、車両が動き出してしまう事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる実施の形態を説明する車両の要部のシステム構成図である。
【図2】本発明にかかる実施の形態を説明する自動変速機の要部構成図であり、(a)は自動変速機の要部を軸方向から見た図、(b)は図2(a)のA矢視図である。
【図3】本発明にかかる実施の形態を説明する車両の制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて、本発明にかかる実施の形態を説明する。
<システム構成>
まず、図1を参照して、車両の要部のシステム構成を説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる車両には、車両の駆動源であるエンジン1と、自動変速機3と、エンジン1の出力軸11と自動変速機3の入力軸31との間に介装され、入力側のポンプ21及び出力側のタービン22を有するトルクコンバータ2とがそなえられている。自動変速機3の出力軸32には、プロペレシャフト4やディファレンシャル5等の動力伝達機構を介して左右の駆動輪6,6が連結されており、エンジン1の駆動力がトルクコンバータ2及び自動変速機3を介して車両の駆動輪6,6に伝達される。
【0015】
自動変速機3は、変速機ケーシング30内に複数のギヤ対を有するギヤ機構33が入力軸31と出力軸32との間にそなえられ、選択した変速段に応じたギヤ対が使用されて所要の変速段が達成される。つまり、ギヤ機構33には、複数のギヤ対から所要のギヤ対を選択して使用するために、図示しないクラッチ及びブレーキの摩擦係合要素が装備され、それぞれが供給される油圧に応じて断接し、選択変速段に応じた摩擦係合要素の断接組み合わせによって目的の変速段が達成される。
【0016】
ギヤ機構33におけるこれらの摩擦係合要素の断接を制御するために、油圧の供給を制御するコントロールバルブ40がそなえられている。このコントロールバルブ40には、各摩擦係合要素の断接のためのバルブ系統(図示略)に加えて、シフトレバーのレンジポジションの切り換えを行う油圧制御をするマニュアルバルブ41と、マニュアルバルブ41の位置を表すレンジ信号を出力するインヒビタスイッチ42と、が装備されている。
【0017】
本実施形態では、マニュアルバルブ41は、アクチュエータ44によって駆動されるようになっており、これらから、シフトバイワイヤ(Shift by Wire、以下、SBWとも言う)システムが構成される。
また、ギヤ機構33をパーキングモードに設定する制動装置としてのパーク機構(パークロック機構)43が装備されている。このパーク機構43は、図1及び図2(a),(b)に示すように、自動変速機3の出力軸32に設けられたパークギヤ43aと、このパークギヤ43aに噛み合うパークポール43bと、軸方向に進退動作して、パークポール43bをパークギヤ43aに噛み合わせたり噛み合いを外したりするパークロッド43cとから構成されている。
【0018】
また、変速機ケーシング30の下部にはオイル(ATF:Automatic Transmission Fluid,以下、ATFとも言う)51を貯留したオイルパン50が装備されている。ここでは、コントロールバルブ40は、オイルパン50内の上部であるが、オイルパン50内に貯留されたATF51に浸かるように、ATF51の液面よりも下方に配設されている。トルクコンバータ2と変速機3との間には、トルクコンバータ2のポンプ21側(エンジン回転の入力側)に接続されて機械式オイルポンプ7が装備されている。オイルパン50内に貯留されたATF51はオイルポンプ7によってストレーナ52によってろ過された上で吸引されて、コントロールバルブ40及びトルクコンバータ2内や変速機3内の各部等に供給され作動油や潤滑油として機能した後、再びオイルパン50内に戻るように循環する(図1中の白抜き矢印参照)。
【0019】
そして、コントロールバルブ40を制御するために、コンピュータを用いた自動変速機制御ユニット(ATCU:Automatic Transmission Control Unit)60が装備されている。ATCU60には、ギヤ機構33の摩擦係合要素の断接を制御する機能に加えて、アクチュエータ44の作動を制御する機能であるシフトバイワイヤ制御部(SBW制御部)61をそなえている。
【0020】
また、運転者が変速機のシフト操作をするシフト装置8は、運転者のシフトレバー81の操作が終了するとシフトレバー81は自動的にホームポジションに戻る方式のものである。つまり、図1中に矢印R,N,Dで示す方向にシフトレバー81を操作すると、それぞれのシフトレンジ(Rならリバースレンジ、Nなら中立レンジ、Dならドライブレンジ)が選択され、その後シフトレバー81から手を離せばシフトレバー81はホームポジションに戻る。また、ドライブレンジDが選択されている状態でS方向に操作すると、マニュアルシフトモードとなり、この状態で、シフトレバー81を+方向に操作するとシフトアップ指令が、シフトレバー81を−方向に操作するとシフトダウン指令がなされる。
【0021】
また、本実施形態の場合は、パーク機構43を作動させるパーキングレンジは専用のパーキングボタン82を押すことにより選択するようになっている。このパーキングボタン82も運転者の操作後には自動的にホームポジションに戻る方式となっている。なお、パーキングレンジはシフトレバー81で選択できるように設定しても良い。
また、シフトレバー81のシフトレンジ選択状態を検出し検出信号(シフトセンサ信号)として出力する図示しないシフトセンサが設けられ、シフトセンサからシフトセンサ信号及びパーキングボタン82の操作信号(Pボタン信号)がATCU60に入力される。
【0022】
また、図示しないが、車室内のメータパネル等には選択したシフトレンジを表示するインジケータが装備され、運転者はシフトレバー81又はパーキングボタン82を通じて選択したシフトレンジをインジケータ表示によって確認することができる。
ATCU60には、シフトセンサ信号及びPボタン信号が入力されると共に、車両側コンピュータ70からエンジン回転数Ne及びアクセル開度APの各検出情報が入力され、さらに、変速機出力軸23の回転数を検出する出力軸回転数センサ71からの出力軸回転数検出情報(車速V情報)及びATF51の油温(トルクコンバータ2に供給されるオイルの温度)を検出する温度センサ72からのATF油温検出情報が入力される。
【0023】
ATCU60では、入力された各情報に基づいてコントロールバルブ40を制御する。例えば、Pボタン信号(パーキングオン信号)が入力されれば、ATCU60のSBW制御部61からアクチュエータ44に制御信号が送られて、アクチュエータ44はパーク機構43を作動状態とする。これにより、自動変速機3の出力軸32はロックされその回転は規制される。また、シフトセンサ信号が入力されると、ATCU60のSBW制御部61からアクチュエータ44に制御信号が送られて、アクチュエータ44はマニュアルバルブ41をシフトセンサ信号に応じたシフトレンジに規制する状態に駆動する。
【0024】
なお、この時のマニュアルバルブ41の位置は、アクチュエータ44の動きから認識することができる。つまり、アクチュエータ44自身がPレンジ基準より何回転したかは常に認識されており、アクチュエータ44が何回転するとどのレンジに行くかも既知であるため、これによりマニュアルバルブ41の位置を認識できる。このように認識されるマニュアルバルブ41の位置情報はSBW制御部61に送られ、SBW制御部61ではマニュアルバルブ41の位置を確認しながらアクチュエータ44を通じた制御を実施する。
【0025】
マニュアルバルブ41が前進走行レンジDに設定されると、ATCU60では、出力軸回転数情報、つまり、出力軸回転数に対応する車速Vの情報と、アクセル開度APの情報とに基づいて、図示しないマップを用いて走行状態の応じた変速段に適宜切り換える。このとき、マニュアルシフトモードが選択されると、ATCU60では、シフトレバー81のシフトアップ指令或いはシフトダウン指令に応じて変速段を切り換える。
【0026】
ATCU60には、ATF温度が過剰な高温になった際に特有の制御をする機能要素としてオイル高温時制御部(制御装置)62が備えられている。
オイル高温時制御部62では、トルクコンバータ2のストール状態が一定時間以上継続したことを前提条件として、温度センサ7により検出されたATF油温(トルクコンバータ2に供給されるオイルの温度)TATFが予め設定された第1の所定値TATFS1以上になったら、SBW制御部61を通じて自動変速機3のマニュアルバルブ41を制御してエンジン1の駆動力が駆動輪6に伝達されないニュートラル状態とするとともに、SBW制御部61を通じて自動変速機3のパーク機構43を強制的にパーク状態に制御(これを、「強制Pレンジ制御」と呼ぶ)して、車輪をロック状態にする。また、これと共にシフトレンジインジケータはP(パーキング)に切り換える。
【0027】
なお、第1の所定値TATFS1としては、ATF油温としての許容温度領域の上限をやや上回る温度(例えば、140℃程度)を設定する。
トルクコンバータ2がストール状態であるかの判定は、車速条件、アクセル開度条件、エンジン回転数条件の各条件に基づいて行なわれ、強制Pレンジ制御を行なうための前提条件としては、このトルクコンバータ2のストール状態が所定時間以上継続(継続条件)したこと、としている。
【0028】
この前提条件について、更に説明する。
車速条件としては、「車両が停止又は略停止の状態にあること」であり、具体的には、「出力軸回転数の検出情報から得られる車速Vが予め設定された車速閾値V未満であること」とする。車速閾値Vは車両の停止又は略停止を判定するためのものなので、車速閾値Vには0に近い値(例えば、数km/h程度)を設定する。
【0029】
アクセル開度条件としては、エンジン出力がある程度大きいことであり、具体的には、「アクセル開度APが予め設定されたアクセル開度閾値AP以上であること」とする。アクセル開度閾値APはトルクコンバータのストール状態の判定条件の一つであるエンジン出力(ここでは、エンジン出力要求)が一定以上あるかを判定するためのものなので、アクセル開度閾値APにはアクセル操作を明確に判断できる値(例えば、2/8〜3/8程度)を設定する。
【0030】
エンジン回転数条件としては、「エンジン回転数が十分に高い状態にあること」であり、具体的には、「エンジン回転数Neが予め設定されたエンジン回転数閾値Ne以上であること」とする。エンジン回転数閾値Neはトルクコンバータのストール状態の判定条件の一つであるエンジン回転数が一定以上の高回転状態であるかを判定するためのものなので、十分に大きい値(例えば、4000rpm程度)を設定する。
【0031】
車両が停止状態であり、エンジン出力が大きく、且つ、エンジン回転数(即ち、トルクコンバータの差回転数)が十分に高い場合には、トルクコンバータ2のストール状態であると判定することができる。
ここでは、このトルクコンバータ2のストール状態が所定時間継続した場合に、前提条件が成立したとする。このように継続時間を条件とするのは、課題となるストール状態を他の課題とならないストール状態と区別して判定して、不要な「強制Pレンジ制御」を実施しないためのものであり、所定時間としては、例えば10〜20秒程度に設定することが好ましい。
【0032】
また、オイル高温時制御部62でこの強制Pレンジ制御を実施する際には、この強制Pレンジ制御を実施する旨の信号が図示しないエンジンコントロールユニットに出力され、アクセル開度に関係なく、エンジン出力を所定レベル(例えば、アイドル状態)に留める出力抑制制御も同時に実施されるようになっている。
なお、オイル高温時制御部62は、このように車両をパーク状態する制御をしている際には、温度センサ72により検出されたATF油温TATFが、第1の所定値TATFS1よりも低い温度として予め設定された第2の所定値TATFS2以下になったら、運転者のシフトレバー81の操作を受け付けることによって、パーキングレンジ以外のレンジへの移行を許可する。この第2の所定値TATFS1としては、ATF油温としての許容温度領域の上限に近い温度(例えば、120℃程度)を設定する。
【0033】
このように、ATF油温TATFについて、オイル高温時制御の開始閾値である第1の所定値TATFS1に対して終了閾値である第2の所定値TATFS2にヒステリシスを与えて低く設定することにより、制御ハンチングを防止している。また、オイル高温時制御の終了条件に、運転者のシフトレバー81の操作を加えることによって、運転者の意図しないところで、パーキングレンジから他のレンジに移行して、車両が動き出してしまうことを回避するようにしている。
【0034】
本実施形態にかかる車両制御装置は、上述のように構成されるので、オイル高温時制御部62の制御に着目すると、図3のフローチャートに示すように制御が行なわれる。なお、図3において、「強制Pレンジフラグ」は、オイル高温時制御部62が、ATF油温TATFが第1の所定値TATFS1以上であると判定して、強制Pレンジ制御を行なう場合には1とされる。一方、強制Pレンジ制御を行なっていない場合は0であり、強制Pレンジ制御を行なっている際に、オイル高温時制御部62が、ATF油温TATFが第2の所定値TATFS2以下であると判定した場合には1から0へとリセットされる。また、図3のフローは所定の周期で実施される。
【0035】
図3に示すように、まず、強制Pレンジフラグが0であるか否かが判定される(ステップS10)。強制Pレンジフラグが0であれば、車速Vが車速閾値V以下であるか否かが判定される(ステップS20)。ここで、車速Vが車速閾値V以下であれば、アクセル開度APがアクセル開度閾値AP以上であるか否かが判定される(ステップS30)。ここで、アクセル開度APがアクセル開度閾値AP以上であれば、エンジン回転数Neがエンジン回転数閾値Ne以上であるか否かが判定される(ステップS40)。
【0036】
ここで、エンジン回転数Neがエンジン回転数閾値Ne以上であれば、トルクコンバータ2がストール状態であると判定して、タイマカウントを開始する(ステップS50)。
一方、強制Pレンジフラグが0の場合に、車速Vが車速閾値Vよりも大きい、アクセル開度APがアクセル開度閾値AP未満、エンジン回転数Neがエンジン回転数閾値Ne未満、の何れかであれば、トルクコンバータ2はストール状態ではないと判定して、今回の処理を終える。
【0037】
タイマカウントを開始(ステップS50)した場合には、タイマカウント値tがタイマ閾値t以上であるか否かが判定される(ステップS60)。タイマカウント値tがタイマ閾値t以上でなければ、今回の処理を終える。
タイマカウントを開始して、車速Vが車速閾値V以下、且つ、アクセル開度APがアクセル開度閾値AP以上、且つ、エンジン回転数Neがエンジン回転数閾値Ne以上、の状態が継続すると、やがて、タイマカウント値tがタイマ閾値t以上になり、この場合には、温度センサ7により検出されたATF油温TATFが第1の所定値TATFS1以上か否かを判定する(ステップS70)。
【0038】
ここで、ATF油温TATFが第1の所定値TATFS1以上でなければ、今回の処理を終える。
一方、ATF油温TATFが第1の所定値TATFS1以上なら、ATFの温度が過剰に昇温しているものとして、強制Pレンジフラグを1にセットし、SBW制御部61を通じて自動変速機3のマニュアルバルブ41を制御してエンジン1の駆動力が駆動輪6に伝達されないニュートラル状態とするとともに、SBW制御部61を通じて自動変速機3のパーク機構43を強制的にパーク状態に制御(強制Pレンジ制御)する(ステップS80)。また、これと共にシフトレンジインジケータはP(パーキング)に切り換える。
【0039】
このように、トルクコンバータ2のストール状態が所定時間t以上継続していて、しかも、ATFの温度TATFが過剰に高くなった場合には、ATFの粘性低下によってトルクコンバータ2で伝達可能なトルク容量が大幅に低下し、車両がもしも登坂路にあれば、車両を停止させておくだけのトルクを駆動輪に伝達することができず、車両のずり下がりが生じてしまう虞がある。また、ATFの粘性低下が著しいと、ATFが循環系統から漏出する虞も生じる。
【0040】
これに対して、本装置では、このような場合に、自動変速機3を制御してエンジン1の駆動力が駆動輪に伝達されないニュートラル状態にする強制Pレンジ制御を行なうので、トルクコンバータ2の出力側の負荷が解放され、トルクコンバータ2の入力側と共に出力側が回転するようになる。また、これと同時にエンジン出力を所定レベルに留める出力抑制制御も同時に実施される。これにより、トルクコンバータ2の入出力回転数差が低減されて、ATFの温度上昇が抑制され、ATFの温度が低下していく。
【0041】
したがって、ATFが循環系統から漏出する虞も回避される。また、同時に、制動装置としてのパーク機構により車輪(駆動輪6)がロックされるため、登坂路の途中で、自動変速機の出力側から駆動輪に対し、駆動力が伝達されなくなっても、車両のずり下がりなどを抑制することができる。
こうして、強制Pレンジフラグが1にセットされると、次周期では、ステップS10の判定により、ステップS90に進んで、ATF油温TATFが第2の所定値TATFS2以下か否かを判定する。ATF油温TATFが第2の所定値TATFS2以下でなければ、今回の処理を終える。
【0042】
強制Pレンジ制御により、ATFの温度が低下していくと、やがて、ATF油温TATFが第2の所定値TATFS2以下となるので、この場合には、運転者がシフトレバー81の操作を行なったか否か、つまり、Pレンジから他のレンジへの切替操作を行なったか否かを判断する(ステップS100)。
運転者がシフトレバー81の操作を行なわなければ、今回の処理を終えて強制Pレンジ制御を続行し、運転者がシフトレバー81の操作を行なったら、強制Pレンジフラグを0にリセットし(ステップS110)、運転者のシフトレバー81の操作によるセレクト要求を許可し、セレクト要求に応じたレンジにシフトすると共に、通常のセレクト制御に復帰する(ステップS120)。
【0043】
このように、本装置によれば、自動変速機3のシフト・バイ・ワイヤシステムによりパーク機構を制御することにより、強制Pレンジ制御によって自動変速機3のレンジをパーキングレンジにするだけで、エンジン1の駆動力が駆動輪6に伝達されないニュートラル状態と、車輪6のロックとを実現することができるため、指示系統を単純化することができる。
【0044】
また、シフトレバー81が、運転者の操作が終了すると自動的にホームポジションに戻る方式となっているので、強制Pレンジ制御によって自動変速機3のレンジをパーキングレンジにしても、インジケータのレンジ表示をP(パーキング)に切り換えるだけ、シフトレバー81とインジケータのレンジ表示との不整合も生じることがなく、違和感のない制御が実現する。
【0045】
そして、ATF温度が低くならないと、運転者がシフトレバー81を操作してもパーキングレンジから他のレンジに移行しないので、ATF温度の温度上昇を確実に抑制しながら、登坂路での車両のずり下がりを防止することができる。
さらに、ATF温度が低くなったら、パーキングレンジから他のレンジ移行させる条件として、運転者自身のシフト操作を条件としているので、運転者の意図しないところで、パーキングレンジから他のレンジ、例えば、ドライブレンジに移行するなどして、車両が動き出すことを回避することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲でかかる実施形態に対して種々の変形を加えて実施することができる。
例えば、上記の実施形態では、パーク機構(パークロック機構)43を制御装置として用いており、パーク機構43を作動させることにより、自動変速機3のギヤ機構をニュートラル状態とするとともに車輪をロックするようにしているが、制御装置として車輪自体(駆動輪に限らず従動輪でもよい)をロックする制動機構(駐車ブレーキでもフットブレーキでもよい)を制御装置として用い、自動変速機3のレンジをニュートラルレンジとすることも可能である。
【0047】
また、上記の実施形態では、シフトレバーに、運転者の操作が終了すると自動的にホームポジションに戻る方式のものを適用しているが、シフトレバーがホームポジションに戻らない方式のものも適用可能である。この場合、強制Pレンジ制御によって自動変速機3のレンジをパーキングレンジ又はニュートラルレンジに切替えると共に、シフトレバー81の位置を切替えたパーキングレンジ又はニュートラルレンジの位置に変更して、インジケータのレンジ表示をP(パーキング)又はN(ニュートラル)に切り換えるようにして、シフトレバー81とインジケータのレンジ表示との不整合を防止することが好ましい。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 自動変速機
4 プロペレシャフト
5 ディファレンシャル
6 駆動輪
7 オイルポンプ
8 シフト装置
11 エンジン1の出力軸
21 トルクコンバータ2のポンプ
22 トルクコンバータ2のタービン
30 変速機ケーシング
31 自動変速機3の入力軸
32 自動変速機3の出力軸
33 ギヤ機構
40 コントロールバルブ
41 マニュアルバルブ
42 インヒビタスイッチ
43 制動装置としてのパーク機構(パークロック機構)
44 アクチュエータ
51 オイル(ATF)
50 オイルパン
52 ストレーナ
60 自動変速機制御ユニット(ATCU)
61 シフトバイワイヤ制御部(SBW制御部)
62 オイル高温時制御部(制御装置)
70 車両側コンピュータ
71 出力軸回転数センサ
72 温度センサ(油温センサ)
81 シフトレバー
82 パーキングボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源であるエンジンと、
前記エンジンの駆動力を車両の駆動輪に伝達する自動変速機と、
前記車両の車輪の動きを規制する制動装置と、
前記エンジンと前記自動変速機の間に設けられたトルクコンバータと、
前記トルクコンバータに供給されるオイルの温度を検出する油温センサと、
前記油温センサにより検出されたオイルの温度が第1の所定値以上になったら、前記自動変速機を制御してエンジンの駆動力が駆動輪に伝達されないニュートラル状態とするとともに、前記制動装置を制御して車輪をロックする制御装置と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機は、運転者によるシフトレバーの操作が変換された電気信号に基づいてレンジの変更制御を行なうシフト・バイ・ワイヤシステムと、
前記レンジがパーキングレンジに変更されると、駆動輪をロックし前記制動装置として機能するパークロック機構とを有し、
前記制御装置は、前記油温センサにより検出されたオイルの温度が前記第1の所定値以上になったら、運転者により指定されたシフト位置にかかわらず、前記自動変速機を前記パーキングレンジに変更し、前記自動変速機を制御して前記エンジンの駆動力が前記駆動輪に伝達されないニュートラル状態とするとともに、前記パークロック機構によって前記駆動輪をロックすることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記シフトレバーは、運転者の操作が終了すると自動的にホームポジションに戻るシフト装置に設けられ、
前記制御装置は、前記油温センサにより検出されたオイルの温度が、前記第1の所定値よりも低い温度に設定された第2の所定値以下になったら、運転者の前記シフトレバーの操作を受け付けることによって、前記パーキングレンジ以外のレンジへの移行を許可することを特徴とする請求項2に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−31916(P2012−31916A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171093(P2010−171093)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】