説明

車両用制御装置

【課題】車輪のキャンバ角をアクチュエータの駆動力により調整可能な車両に対し、消費エネルギーを抑制しつつ、車輪のキャンバ角が所定角度から変化することを抑制できる車両用制御装置を提供する。
【解決手段】車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであると判断される場合には、第1補正手段により、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置するように、ホイール部材93aを回転駆動して補正する。これにより、ホイール部材93aの回転を機械的な摩擦力により規制して、キャンバ角の変化を抑制しつつ、消費エネルギーの低減を図る。一方、車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかではなく、高応答性が要求される場合には、第2補正手段により、ホイール部材93aの回転位置を初期位置に維持する制御を行う。これにより、消費エネルギーの低減を図りつつ、機械的な摩擦力を利用し易くして、キャンバ角の変化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のキャンバ角をアクチュエータの駆動力により調整可能な車両を制御する車両用制御装置に関し、特に、消費エネルギーを抑制しつつ、車輪のキャンバ角が所定角度から変化することを抑制できる車両用制御装置を提供することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクチュエータを利用して、車輪のキャンバ角を調整する技術が知られている。例えば、特許文献1には、車輪を支持するアクスル2がアッパーアーム10及びロアアーム51を介して車体に連結されると共に、ロアアーム51と車体との間に伸縮式のアクチュエータ61が介在された車両に対して、アクチュエータ61の伸縮駆動を制御することで、アクスル2を車体に対して変位させ、車輪のキャンバ角を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−122932号公報(段落[0038]、第7図など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来の技術では、車輪からロアアーム51を介してアクチュエータ61へ外力が入力され、その外力によってアクチュエータ61が伸縮されると、車輪のキャンバ角が所定角度から変化する。そのため、アクチュエータ61は、外力に抗し得る駆動力を発揮可能な容量に構成される。しかしながら、単にアクチュエータ61の駆動力を大きくするだけでは、消費エネルギーが増加するという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、消費エネルギーを抑制しつつ、車輪のキャンバ角が所定角度から変化することを抑制できる車両用制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
請求項1記載の車両用制御装置によれば、車輪を保持するキャリア部材が第1サスペンションアーム及び第2サスペンションアームにより車体に上下動可能に連結されており、第1サスペンションアームは、一端側がホイール部材のホイール軸に対して偏心して位置する偏心連結軸を回転中心としてホイール部材に回転可能に連結されると共に、他端側が他端連結軸を回転中心としてキャリア部材に回転可能に連結されているので、回転駆動手段から付与される回転駆動力によりホイール部材がホイール軸を中心として回転されると、偏心連結軸の位置がホイール軸を中心とする回転軌跡上で移動される。これにより、車輪のキャンバ角が調整される。
【0007】
ここで、キャンバ角設定手段は、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置する第1回転位置にホイール部材を回転させることで、車輪のキャンバ角を所定のキャンバ角に設定する。よって、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とを直角に近づけることができるので、第1サスペンションアームからホイール部材へ力が加わった場合でも、ホイール部材を回転させる方向の力成分の発生を抑制できる。従って、機械的な摩擦力によりホイール部材の回転を規制できるので、車輪のキャンバ角を所定角度に維持するために必要とされる駆動力を小さくする或いは不要とすることができ、その結果、回転駆動手段の消費エネルギーを抑制できるという効果がある。
【0008】
この場合、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置する状態から、キャリア部材が車体に対して上下動して、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置しない状態になると、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とが直角ではなくなるため、第1サスペンションアームからホイール部材へ力が加わると、ホイール部材を回転させる力成分の発生により、ホイール部材の回転位置が第1回転位置から回転され、車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化される。
【0009】
これに対し、請求項1では、キャリア部材の車体に対する上下動により、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置しなくなった状態に対し、回転駆動手段を作動させ、偏心連結軸およびホイール軸を結ぶ直線と偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線とのなす角度が少なくとも小さくなるように、ホイール部材を第1回転位置から回転させる第1補正手段を備えているので、かかる第1補正手段の制御に基づくホイール部材の回転によって、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置する状態へ少なくとも近づけることができる。よって、車輪のキャンバ角を所定角度に機械的に維持し易くすることができるので、外力の作用により車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化することを抑制しつつ、車輪のキャンバ角を所定角度に維持するために必要な回転駆動手段の駆動力を少なくとも小さくする又は解除することができ、その結果、消費エネルギーの低減を図ることができるという効果がある。
【0010】
特に、第1補正手段の制御に基づくホイール部材の回転は、運動状態取得手段により取得された車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであると運動状態判断手段により判断される場合に行われるので、キャリア部材の上下動に対してホイール部材の回転を追従させる(即ち、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸を位置させる)際の追従速度を比較的低速とすることができる。よって、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸を適正に位置させ、機械的な摩擦力を確実に利用できるので、その分、外力の作用により車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化することを抑制しつつ、消費エネルギーの低減を図ることができるという効果がある。
【0011】
一方、車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかではないと運動状態判断手段により判断される場合に、キャリア部材の上下動に対してホイール部材の回転を追従させようとすると、その追従速度を比較的高速とする必要があり、消費エネルギーが増加する。また、追従精度の低下により、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸を適正に位置させられなくなり、機械的な摩擦力の利用が不十分となることで、外力の作用により車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化する事態を招く。
【0012】
この場合(運動状態判断手段により車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであると判断されない場合)には、第2補正手段により、ホイール部材の回転位置を第1回転位置に維持するための制御を行うので、第1補正手段の場合と比較して、消費エネルギーの低減を図りつつ、機械的な摩擦力を利用し易くして、外力の作用により車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化することを抑制できるという効果がある。
【0013】
請求項2記載の車両用制御装置によれば、請求項1記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、操作者に操作される操作部材を車両が備え、運動状態取得手段は、操作部材の操作量を取得し、運動状態判断手段は、運動状態取得手段によって取得された操作部材の操作量に基づいて、車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであるかを判断するので、かかる車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであるかの判断を、操作部材が操作された時点で行うことができる。即ち、かかる判断を応答性良く(例えば、加速や旋回の操作が行われ、後輪側や旋回外輪の懸架装置が実際にサスストロークされる前に)行うことができるので、第1補正手段や第2補正手段による補正を、外力の作用によりホイール部材が回転させられる前に実行しておきやすくして、車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化されることをより確実に抑制できるという効果がある。
【0014】
請求項3記載の車両用制御装置によれば、請求項1又は2に記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、第1補正手段は、回転駆動手段を作動させ、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置するように、ホイール部材を第1回転位置から回転させるので、第1サスペンションアームからホイール部材へ力が加わっても、ホイール部材が回転することを確実に規制することができる。よって、その後に、キャリア部材の車体に対する上下動が発生した場合でも、補正手段による回転駆動手段の作動を最小限とすることができる。その結果、車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化することを確実に抑制しつつ、回転駆動手段の作動を効率的に抑制して、消費エネルギーを低減することができるという効果がある。
【0015】
請求項4記載の車両用制御装置によれば、請求項1又は2に記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、第2補正手段は、ホイール部材の回転を規制する回転規制手段を備え、その回転規制手段によりホイール部材の回転を規制する。これにより、車輪から第1サスペンションアームを介して回転駆動手段に入力された外力に対して、ホイール部材を回転し難くできるので、車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化することを抑制できるという効果がある。
【0016】
請求項5記載の車両用制御装置によれば、請求項4記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、回転駆動手段がサーボモータとして構成され、回転規制手段は、サーボモータをサーボロック状態とすることで、ホイール部材の回転を規制するので、高応答性を得ることができる。よって、指令を受けてからホイール部材の回転を規制するまでの応答時間を短縮することができるので、車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかではないと運動状態判断手段により判断される場合でも、車輪のキャンバ角の変化をより確実に抑制することができるという効果がある。
【0017】
また、回転規制手段は、サーボモータをサーボロック状態とすることで、ホイール部材の回転を規制するので、回転駆動手段に、ホイール部材を回転させるためのアクチュエータとしての役割と、ホイール部材の回転を規制するためのアクチュエータとしての役割とを兼用させることができる。即ち、既存の回転駆動手段を利用して、ホイール部材の回転を規制することができるので、ホイール部材の回転を規制するための他の構成(例えば、機械的なブレーキ装置など)を別途設けることを不要として、製品コストの低減と軽量化とを図ることができるという効果がある。
【0018】
請求項6記載の車両用制御装置によれば、請求項1又は2に記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、
キャンバ角設定手段によりホイール部材の回転位置が第1回転位置に回転され、車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角に設定された状態から、ホイール部材の回転位置が外力の作用により第1回転位置から回転されたかを判断する回転判断手段を備え、第2補正手段は、回転判断手段によりホイール部材の回転位置が外力の作用により第1回転位置から回転されたと判断された場合に、回転駆動手段を作動させ、少なくともホイール部材の回転位置が第1回転位置へ近づくように、ホイール部材を回転させるので、ホイール部材を、機械的な摩擦力によって回転を規制し易い位置(即ち、第1回転位置)に近づける(戻す)ことができる。よって、ホイール部材の回転位置が第1回転位置に戻ることで、機械的な摩擦力による回転規制を再度利用し易くすることができるので、車輪のキャンバ角を所定角度に維持するために必要な回転駆動手段の駆動力を小さくする又は解除することができ、その結果、消費エネルギーの低減を図ることができるという効果がある。
【0019】
また、キャリア部材が上下動の中立位置に位置する場合には、ホイール部材の第1回転位置への回転は、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とを直角に近づける方向への回転であるため、その回転に必要な回転駆動手段の駆動力を小さくすることができ、その結果、消費エネルギーの低減を図ることができるという効果がある。
【0020】
また、このように、必要な駆動力が小さくなることで、ホイール部材の回転の応答性を高めることができるので、指令を受けてからホイール部材の回転位置を第1回転位置へ戻すための応答時間を短縮することができるので、車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかではないと運動状態判断手段により判断される場合でも、車輪のキャンバ角の変化をより確実に抑制することができるという効果がある。
【0021】
更に、第1補正手段の場合のように、ホイール部材の上下動(第1サスペンションアームの変位)にホイール部材の回転を追従させる必要がないので、駆動時間を短縮することができ、その分、消費エネルギーの低減を図ることができるという効果がある。
【0022】
請求項7記載の車両用制御装置によれば、請求項6記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、第2補正手段は、ホイール部材が外力の作用により第1回転位置から回転された場合に、かかるホイール部材の回転位置が第1回転位置に位置するように、ホイール部材を回転させるので、第1サスペンションアームからホイール部材へ力が加わっても、ホイール部材が回転することをより確実に規制することができる。よって、車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化することを抑制することができると共に、その後の第2補正手段による回転駆動手段の作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施の形態における車両用制御装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
【図2】懸架装置の斜視図である。
【図3】(a)は、キャンバ角調整装置の上面模式図であり、(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線におけるキャンバ角調整装置の断面模式図である。
【図4】(a)は、第1状態における懸架装置の正面模式図であり、(b)は、第2状態における懸架装置の正面模式図である。
【図5】車両用制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図6】駆動制御回路の模式図である。
【図7】状態量判断処理を示すフローチャートである。
【図8】走行状態判断処理を示すフローチャートである。
【図9】偏摩耗荷重判断処理を示すフローチャートである。
【図10】キャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図11】(a)は、第1状態における懸架装置を模式的に図示する模式図であり、(b)は、第2状態における懸架装置を模式的に図示する模式図である。
【図12】(a)は、図11(a)の部分拡大図であり、(b)は、図11(b)の部分拡大図である。
【図13】(a)は、図11(a)の部分拡大図であり、(b)は、図11(b)の部分拡大図である。
【図14】サスストローク量判断処理を示すフローチャートである。
【図15】補正方法決定処理を示すフローチャートである。
【図16】第1補正処理を示すフローチャートである。
【図17】第2補正処理を示すフローチャートである。
【図18】第2実施の形態におけるサスストローク量判断処理を示すフローチャートである。
【図19】第2補正処理を示すフローチャートである。
【図20】第3実施の形態におけるホイールずれ量判断処理を示すフローチャートである。
【図21】第2補正処理を示すフローチャートである。
【図22】(a)は、第4実施の形態における懸架装置であって、第1状態における懸架装置を模式的に図示する模式図であり、(b)は、第2状態における懸架装置を模式的に図示する模式図である。
【図23】ホイールずれ量判断処理を示すフローチャートである。
【図24】第2補正処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
【0025】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体BFと、その車体BFを支持する複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2を車体BFに独立に懸架する懸架装置4,14と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵する操舵装置5とを主に備えて構成されている。
【0026】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪2FL,2FRと、車両1の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪2RL,2RRとを備えている。なお、本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動される従動輪として構成されている。
【0027】
また、車輪2は、左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRが全て同じ形状および特性に構成され、それら左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRのトレッドの幅(図1左右方向の寸法)が全て同じ幅に構成されている。
【0028】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRを回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図5参照)。また、電動モータ3aは、図1に示すように、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
【0029】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の操作量に応じて回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、デファレンシャルギヤにより吸収される。
【0030】
懸架装置4,14は、路面から車輪2を介して車体BFに伝わる振動を緩和するための装置、いわゆるサスペンションとして機能するものであり、伸縮可能に構成され、図1に示すように、懸架装置4が左右の前輪2FL,2FRを、懸架装置14が左右の後輪2RL,2RRを、それぞれ車体BFに懸架する。なお、左右の後輪2RL,2RRを懸架する懸架装置14は、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整するキャンバ角調整機構としての機能を兼ね備えている。
【0031】
ここで、図2から図4を参照して、懸架装置14の詳細構成について説明する。図2は、懸架装置14の斜視図である。なお、懸架装置14の構成は左右共通であるので、以下においては右の後輪2RRを懸架する懸架装置14についてのみ説明し、左の後輪2RLを懸架する懸架装置14についての説明を省略する。
【0032】
図2に示すように、懸架装置14は、ダブルウィッシュボーン式サスペンション構造として構成され、車輪2(右の後輪2RR)を回転可能に保持するキャリア部材41と、そのキャリア部材41を車体BFに上下動可能に連結すると共に互いに所定間隔を隔てて上下に配置されるアッパーアーム42及びロアアーム43と、ロアアーム43及びアッパーブラケットUBの間に介装され緩衝装置として機能するコイルスプリングCS及びショックアブソーバSAと、キャリア部材41の上下動を許容しつつ前後方向の変位を規制するトレーリングアーム44と、アッパーアーム42及び車体BFとの間に介装されるキャンバ角調整装置45とを主に備えて構成される。なお、ロアアーム43は2本が配設されている。
【0033】
このように、本実施の形態では、ダブルウィッシュボーン式サスペンション構造により車輪2を懸架するので、車輪2が車体BFに対して上下動し、懸架装置14が伸縮(以下「サスストローク)と称す)する際のキャンバ角の変化を最小限に抑制することができる。キャンバ角調整装置45がアッパーアーム42に連結されるので、ロアアーム43に連結される場合と比較して、車輪2の接地面側を支点として車輪2のキャンバ角を調整する動作を行うことができるので、かかるキャンバ角を調整するための駆動力を低減することができる。同様に、車体BFの上方側に配設することができるので、その分、路面から跳ね飛ばされた石などを衝突しにくくして、キャンバ角調整装置45が破損することを抑制できる。
【0034】
図3を参照して、キャンバ角調整装置45の詳細構成を説明する。図3(a)は、キャンバ角調整装置45の上面模式図であり、図3(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線におけるキャンバ角調整装置45の断面模式図である。なお、図3(a)では、一部の構成を部分的に断面視した状態が図示されている。
【0035】
キャンバ角調整装置45は、車輪2(右の後輪2RR)のキャンバ角を調整するための装置であり、回転駆動力を発生するRRモータ91RRと、そのRRモータ91RRから入力される回転を減速して出力する減速装置92と、その減速装置92から出力される回転駆動力により回転駆動されるクランク部材93と、そのクランク部材93の位相を検出するRRポジションセンサ94RRとを主に備えて構成される。
【0036】
RRモータ91RRは、DCモータにより構成され、そのRRモータ91RRの回転駆動力は、減速装置92により減速された後、クランク部材93に付与される。クランク部材93は、RRモータ91RRの軸回転運動をアッパーアーム42の往復運動に変換するクランク機構として構成される部位であり、所定間隔を隔てて対向配置される一対のホイール部材93aと、それら一対のホイール部材93aの対向面間を連結するクランクピン93bとを備える。
【0037】
ホイール部材93aは、軸心O1を有する円盤状に形成され、減速装置92から付与される回転駆動力により軸心O1を回転中心として回転可能な状態で車体BF(図2参照)に配設される。クランクピン93bは、アッパーアーム42の一端側に設けられた連結部42aが回転可能に連結される軸状部材であり、ホイール部材93aの軸心O1に対して偏心して配設されている。
【0038】
即ち、クランクピン93bの軸心O2は、ホイール部材93aの軸心O1に対して、距離Erだけ偏心して位置する。よって、ホイール部材93aが軸心O1を中心として回転されると、クランクピン93bは、ホイール部材93aの軸心O1を中心とし距離Erを回転半径とする回転軌跡TRに沿って移動される。これにより、クランク部材93が回転されると、クランクピン93bに連結されたアッパーアーム42が車体BF(図2参照)に近接または離間する方向(図3上下方向)へ往復運動される。
【0039】
RRポジションセンサ94RRは、ホイール部材93aの中央に軸心O1と同軸に連結されるポジション軸94aと、そのポジション軸94aに配設されポジション軸94aの回転角に応じて抵抗値が変化する可変抵抗器(図示せず)とを備える。よって、クランク部材93が回転された場合には、可変抵抗器の抵抗値に基づいて、クランク部材93の回転角(即ち、クランクピン93bの位相)を検出できる。
【0040】
図4(a)は、第1状態における懸架装置14の正面模式図であり、図4(b)は、第2状態における懸架装置14の正面模式図である。上述したように、アッパーアーム42は、一端側に設けられた連結部42a(図3参照)がクランク軸93bを介してホイール部材93aの軸心O1から偏心した位置(軸心O2)に回転可能に連結される一方、他端側(図4左側)がキャリア部材41の上端側(図4上側)に回転可能に連結される。
【0041】
よって、RRモータ91RRから付与される回転駆動力によりクランク部材45のホイール部材93aが軸心O1を回転中心として回転されると、クランクピン93bが回転軌跡TRに沿って移動され(図3(b)参照)、アッパーアーム42が往復移動される。これにより、アッパーアーム42を介して、キャリア部材41の上端側(図4上側)が車体BFに対して近接または離間されることで、キャリア部材41に保持される車輪2のキャンバ角が調整される。
【0042】
ここで、アッパーアーム42の他端側(図4左側)をキャリア部材41の上端側に回転可能に連結する際の回転中心を軸心O3と定義する。本実施の形態では、各軸心O1,O2,O3が、車輪2から車体BFへ向かう方向(図4左から右に向かう方向)において、軸心O3、軸心O2、軸心O1の順に一直線上に並んで位置する第1状態(図4(a)に示す状態)と、軸心O3、軸心O1、軸心O2の順に一直線上に並んで位置する第2状態(図4(b)に示す状態)とのいずれか一方の状態となるように、車輪2のキャンバ角を調整する。
【0043】
なお、本実施の形態では、図4(b)に示す第2状態において、車輪2のキャンバ角がマイナス方向(車輪2の中心線が垂直線に対して車体BF側に傾いた状態)の所定角度(本実施の形態では−3°、以下「第2キャンバ角」と称す)に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与される。一方、図4(a)に示す第1状態では、車輪2へのキャンバ角の付与が解除され、そのキャンバ角が0°(以下「第1キャンバ角」と称す)に調整される。
【0044】
この場合、第1状態および第2状態では、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TR(図3(b)参照)の軸心O2における接線とを直角とすることができるので、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わっても、ホイール部材93aを回転させる力成分が発生せず、ホイール部材93aが回転しないようにすることができる。よって、車輪2のキャンバ角を所定角度(第1キャンバ角または第2キャンバ角)に機械的に維持することができるので、第1状態または第2状態においてRRモータ91RRの駆動力を解除しておくことができる。その結果、車輪2のキャンバ角を所定角度に維持するために必要なRRモータ91RRの消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0045】
なお、請求項1記載の「所定のキャンバ角」としては、本実施の形態では、第1キャンバ角および第2キャンバ角が該当する。また、左右の前輪2FL,2FRに対応して設けられる懸架装置4は、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角を調整する機能が省略されている点(即ち、キャンバ角調整装置45が省略され、アッパーアーム42の一端側が車体BFに回転可能に連結されている点)と、操舵機能を有して構成される点を除き、その他の構成は懸架装置14と同一の構成であるので、その説明を省略する。
【0046】
図1に戻って説明する。操舵装置5は、運転者によるステアリング63の操作を左右の前輪2FL,2FRに伝えて操舵するための装置であり、いわゆるラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成されている。
【0047】
この操舵装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作(回転)は、まず、ステアリングコラム51を介してユニバーサルジョイント52に伝達され、ユニバーサルジョイント52により角度を変えられつつステアリングボックス53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動する。その結果、タイロッド54がナックル55を押し引きすることで、車輪2に所定の舵角が付与される。
【0048】
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3が駆動制御される。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(ステア角、ステア角速度など)に応じて、操舵装置5により左右の前輪2FL,2FRが操舵される。
【0049】
車両用制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62やステアリング63の操作状態、或いは、サスストロークセンサ装置83の検出結果に応じてキャンバ角調整装置45(図3参照)を作動制御する。
【0050】
次いで、図5を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図5は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図5に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の装置が接続されている。
【0051】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図7から図10、図13及び図14に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。
【0052】
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、キャンバフラグ73a、状態量フラグ73b、走行状態フラグ73c、偏摩耗荷重フラグ73d、第1輪オフ時ストロークフラグ73e1、第1輪オン時ストロークフラグ73e2、第2輪オフ時ストロークフラグ73f1、第2輪オン時ストロークフラグ73f2、第1輪ストロークフラグ73g1、第2輪ストロークフラグ73g2、第1輪ホイールずれフラグ73h1及び第2輪ホイールずれフラグ73h2が設けられている。
【0053】
キャンバフラグ73aは、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角が第2キャンバ角に調整された状態にあるか否かを示すフラグであり、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整された場合(即ち、ネガティブキャンバが付与された場合)にオンに切り替えられ、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整された場合(即ち、ネガティブキャンバの付与が解除された場合)にオフに切り替えられる。
【0054】
状態量フラグ73bは、車両1の状態量が所定の条件を満たすか否かを示すフラグであり、後述する状態量判断処理(図7参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。なお、本実施の形態における状態量フラグ73bは、アクセルペダル61、ブレーキペダル62及びステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上である場合にオンに切り替えられ、CPU71は、この状態量フラグ73bがオンである場合に、車両1の状態量が所定の条件を満たしていると判断する。
【0055】
走行状態フラグ73cは、車両1の走行状態が所定の直進状態であるか否かを示すフラグであり、後述する走行状態判断処理(図8参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。なお、本実施の形態における走行状態フラグ73cは、車両1の走行速度が所定の走行速度以上であり、且つ、ステアリング63の操作量が所定の操作量以下である場合にオンに切り替えられ、CPU71は、この走行状態フラグ73cがオンである場合に、車両1の走行状態が所定の直進状態であると判断する。
【0056】
偏摩耗荷重フラグ73dは、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角の状態、即ち、車輪2にネガティブキャンバが付与された状態で車両1が走行する場合に、車輪2の接地荷重がタイヤ(トレッド)に偏摩耗を引き起こす恐れのある接地荷重(以下「偏摩耗荷重」と称す)であるか否かを示すフラグであり、後述する偏摩耗荷重判断処理(図9参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。CPU71は、この偏摩耗荷重フラグ73dがオンである場合に、車輪2の接地荷重がタイヤに偏摩耗を引き起こす恐れのある偏摩耗荷重であると判断する。
【0057】
第1輪オフ時ストロークフラグ73e1は、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整された状態(即ち、ネガティブキャンバの付与が解除された状態)において、第1輪(本実施の形態では右の後輪2RR)を懸架する懸架装置14の伸縮量(以下「サスストローク量」と称す)が所定の閾値(即ち、ROM72に記憶されている「キャンバオフ時閾値(図示せず)」)以上となったか否かを示すフラグであり、後述するサスストローク量判断処理(図14参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。
【0058】
第1輪オン時ストロークフラグ73e2は、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整された状態(即ち、ネガティブキャンバが付与された状態)において、第1輪(本実施の形態では右の後輪2RR)を懸架する懸架装置14の伸縮量(サスストローク)が所定の閾値(即ち、ROM72に記憶されている「キャンバオン時閾値(図示せず)」)以上となったか否かを示すフラグであり、後述するサスストローク量判断処理(図14参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。
【0059】
第2輪オフ時ストロークフラグ73f1及び第2輪オン時ストロークフラグ73f2は、第1輪オフ時ストロークフラグ73e1及び第1輪オン時ストロークフラグ73e2にそれぞれ対応するフラグであり、左の後輪2RLを対象とする点を除き、基準とする車輪2の状態や使用する閾値は同一であるので、その説明は省略する。
【0060】
なお、これら第1輪オフ時ストロークフラグ73e1〜第2輪オン時ストロークフラグ73f2は、所定の閾値を超えた場合にオンに切り替えられ、所定の閾値以下である場合にオフに切り替えられる。CPU71は、各ストロークフラグ73e1〜73f2がオンである場合に、キャンバ角調整装置45の作動角(クランク部材93の位相、図3参照)を補正する。
【0061】
第1輪ストロークフラグ73g1は、第1輪(本実施の形態では右の後輪2RR)を懸架する懸架装置14の伸縮量(以下「サスストローク量」と称す)が所定の閾値(即ち、ROM72に記憶されている「サスストローク閾値(図示せず)」)以上となったか否かを示すフラグであり、後述するサスストローク量判断処理(図18参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。
【0062】
第2輪ストロークフラグ73g2は、第1輪ストロークフラグ73g1に対応するフラグであり、左の後輪2RLを懸架する懸架装置14を対象とする点を除き、使用する閾値は同一であるので、その説明は省略する。
【0063】
なお、両サスストロークフラグ73g1,73g2は、対応する懸架装置14のサスストローク量がサスストローク閾値以上となった場合にオンに切り替えられ、サスストローク量がサスストローク閾値に達していない場合にオフに切り替えられる。CPU71は、図19に示す第2補正処理において、各ストロークフラグ73g1,73g2がオンされている車輪2に対応するキャンバ角調整装置45(RLモータ91RL又はRRモータ91RR)を通電してサーボロック状態とする。
【0064】
第1輪ホイールずれフラグ73h1は、第1輪(本実施の形態では右の後輪2RR)側のホイール部材93aの回転位置(位相)が、第1状態または第2状態に調整された状態から、外力の作用により回転された(ずれた)場合に、その回転量(ずれ量)が所定の閾値(即ち、ROM72に記憶されている「ホイールずれ閾値(図示せず)」)以上となったか否かを示すフラグであり、後述するホイールずれ量判断処理(図16参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。
【0065】
第2輪ホイールずれフラグ73h2は、第1輪ホイールずれフラグ73h1に対応するフラグであり、左の後輪2RLを対象とする点を除き、基準とするホイール部材93aの状態や使用する閾値は同一であるので、その説明は省略する。
【0066】
なお、両ホイールずれフラグ73h1,73h2は、対応するホイール部材93aの回転量(ずれ量)がホイールずれ閾値以上となった場合にオンに切り替えられ、回転量(ずれ量)がホイールずれ閾値に達していない場合にオフに切り替えられる。CPU71は、各ホイールずれフラグ73h1,73h2がオンである場合に、図14に示す補正処理において、対応するキャンバ角調整装置45の作動角(クランク部材93の位相、図3参照)を補正する。
【0067】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。但し、車輪駆動装置3は、電動モータ3aに限られず、他の駆動源を採用することは当然可能である。他の駆動源としては、例えば、油圧モータやエンジン等が例示される。
【0068】
キャンバ角調整装置45は、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を調整するための装置であり、上述したように、各懸架装置14のクランク部材93(図3参照)へ回転駆動力を付与するRLモータ91RL及びRRモータ91RRと、それら各モータ91RL,91RRの回転駆動力により回転されたクランク部材93の位相をそれぞれ検出するRLポジションセンサ94RL及びRRポジションセンサ94RRと、それら各ポジションセンサ94RL,94RRの検出結果を処理してCPU71へ出力する出力回路(図示せず)と、CPU71からの指示に基づいて各モータ91RL,91RRをそれぞれ駆動制御する駆動制御回路とを主に備えている。
【0069】
ここで、図6を参照して、駆動制御回路について説明する。図6(a)は、RRモータ91RRを駆動制御する駆動制御回路の模式図であり、図6(b)は正回転回路が形成された状態を、図6(c)は逆回転回路が形成された状態を、図6(d)は短絡回路が形成された状態を、それぞれ示す駆動制御回路の模式図である。
【0070】
なお、RLモータ91RL及びRRモータRRを駆動制御する駆動制御回路は互いに同一の構成であるので、以下においてはRRモータ91RRを駆動制御する駆動制御回路についてのみ説明し、RLモータ91RLを駆動制御する駆動制御回路についての説明を省略する。また、図6では、抵抗の図示が省略されている。
【0071】
図6(a)に示すように、駆動制御回路は、RRモータ91RRへ所定の電圧を印加する電源PWと、4個のスイッチSW1〜SW4とを備え、RRモータ91RRの両端子を短絡する短絡回路を形成している。即ち、駆動制御回路は、電源PWの出力端子が、スイッチSW1の一端と、スイッチSW2の一端とに接続され、スイッチSW1の他端は、RRモータ91RRの両端子の一方と、スイッチSW3の一端とに接続され、スイッチSW2の他端は、RRモータ91RRの両端子の他方と、スイッチSW4の他端とに接続されている。また、スイッチSW4の他端は、スイッチSW3の他端と、電源PWのグランド端子に接続されている。
【0072】
この駆動制御回路によれば、図6(b)に示すように、スイッチSW1及びスイッチSW4を閉じ、かつ、スイッチSW2及びスイッチSW3を開くことで、正回転回路を形成することができる。これにより、RRモータ91RRに正回転方向への電圧を印加して、RRモータ91RRを正回転させることができる。一方、図6(c)に示すように、スイッチSW2及びスイッチSW3を閉じ、かつ、スイッチSW1及びスイッチSW4を開くことで、逆回転回路を形成して、RRモータ91RRへ印加される電圧極性を反転させることができる。これにより、RRモータ91RRに逆回転方向への電圧を印加して、RRモータ91RRを逆回転させることができる。
【0073】
一方、図6(d)に示すように、スイッチSW1及びスイッチSW2を開き、かつ、スイッチSW3及びスイッチSW4を閉じることで、RRモータ91RRの両端子が短絡された短絡回路を形成することができる。これにより、RRモータ91RRが外力により回転された場合には、RRモータ91RRにより発電された電流を短絡回路に流し、その発電電流によりRRモータ91RRの回転に制動をかけることができる。
【0074】
なお、本実施の形態では、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整され、キャンバ角調整装置45(図3参照)が第1状態または第2状態となった場合に、上述した短絡回路が形成される。これにより、アッパーアーム42からクランク部材93(即ち、クランクピン93bを介してホイール部材93a)へ力が加わり、ホイール部材93aが回転される場合に、そのホイール部材93aの回転に制動をかけることができる。よって、例えば、車輪2が段差を乗り越えた場合など、キャリア部材41の上下動として比較的短時間に大きな変位(即ち、懸架装置14のサスペンションストローク)が入力され、後述する補正処理(図14参照)による各モータ91RL,91RRの作動が間に合わないような場合に、ホイール部材93aに短絡回路による制動をかけることができ、その結果、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角から変化することを抑制することができる。
【0075】
なお、各モータ91RL,91RRは、電動のサーボモータとして構成される。即ち、キャンバ角調整装置45は、各ポジションセンサ94RL,94RRにより検出した各モータ91RL,91RRの状態(位相)をフィードバックし、現在位置と目標位置との差分を減少させることで、各モータ91RL,91RRの位置制御を行う。
【0076】
また、駆動制御回路は、RLモータ91RL及びRRモータ91RRの回転軸を電気的にロック(規制)するサーボロック回路を備えており、RLモータ91RL及びRRモータ91RRのサーボロックをオンすることで、各ホイール部材93aの回転をそれぞれ独立して規制可能に構成されている。
【0077】
図5に戻って説明する。加速度センサ装置80は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ80a及び左右方向加速度センサ80bと、それら各加速度センサ80a,80bの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0078】
前後方向加速度センサ80aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1矢印F−B方向)の加速度、いわゆる前後Gを検出するセンサであり、左右方向加速度センサ80bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1矢印L−R方向)の加速度、いわゆる横Gを検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ80a,80bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
【0079】
また、CPU71は、加速度センサ装置80から入力された各加速度センサ80a,80bの検出結果(前後G、横G)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
【0080】
ヨーレートセンサ装置81は、車両1のヨーレートを検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1の重心を通る鉛直軸(図1矢印U−D方向軸)回りの車両1(車体フレームBF)の回転角速度を検出するヨーレートセンサ81aと、そのヨーレートセンサ81aの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0081】
ロール角センサ装置82は、車両1のロール角を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1の重心を通る前後軸(図1矢印F−B方向軸)回りの車両1(車体フレームBF)の回転角を検出するロール角センサ82aと、そのロール角センサ82aの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0082】
なお、本実施の形態では、ヨーレートセンサ81a及びロール角センサ82aがサニャック効果により回転角速度および回転角を検出する光学式ジャイロセンサにより構成されている。但し、他の種類のジャイロセンサを採用することは当然可能である。他の種類のジャイロセンサとしては、例えば、機械式や流体式などのジャイロセンサが例示される。
【0083】
サスストロークセンサ装置83は、左右の前輪2FL,2FRを車体BFに懸架する各懸架装置4の伸縮量および左右の後輪2RL,2RRを車体BFに懸架する各懸架装置14の伸縮量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各懸架装置4,14の伸縮量をそれぞれ検出する合計4個のFLサスストロークセンサ83FL、FRサスストロークセンサ83FR、RLサスストロークセンサ83RL及びRRサスストロークセンサ83RRと、それら各サスストロークセンサ83FL〜83RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0084】
本実施の形態では、各サスストロークセンサ83FL〜83RRがひずみゲージとして構成されており、これら各サスストロークセンサ83FL〜83RRは、各懸架装置4,14のショックアブソーバ(図示せず)にそれぞれ配設されている。
【0085】
なお、CPU71は、サスストロークセンサ装置83から入力された各サスストロークセンサ83FL〜83RRの検出結果(伸縮量)に基づいて、左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRの接地荷重を取得することもできる。即ち、車輪2の接地荷重と懸架装置4,14の伸縮量とは比例関係を有しているので、懸架装置4,14の伸縮量をXとし、懸架装置4,14の減衰定数をkとすると、車輪2の接地荷重Fは、F=kXとなる。
【0086】
接地荷重センサ装置84は、左右の後輪2RL,2RRの接地荷重を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2の接地荷重をそれぞれ検出する合計2個のRL,RR接地荷重センサ84RL,84RRと、それら各接地荷重センサ84RL,84RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0087】
なお、本実施の形態では、各接地荷重センサ84RL,84RRがピエゾ抵抗型の荷重センサとして構成されており、これら各接地荷重センサ84RL,84RRは、各懸架装置14のショックアブソーバSA(図2参照)にそれぞれ配設されている。
【0088】
サイドウォール潰れ代センサ装置85は、左右の後輪2RL,2RRのタイヤサイドウォールの潰れ代を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2のタイヤサイドウォールの潰れ代をそれぞれ検出する合計2個のRL,RRサイドウォール潰れ代センサ85RL,85RRと、それら各サイドウォール潰れ代センサ85RL,85RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0089】
なお、本実施の形態では、各サイドウォール潰れ代センサ85RL,85RRがひずみゲージとして構成されており、これら各サイドウォール潰れ代センサ85RL,85RRは、各車輪2内にそれぞれ配設されている。
【0090】
アクセルペダルセンサ装置61aは、アクセルペダル61の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル61の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0091】
ブレーキペダルセンサ装置62aは、ブレーキペダル62の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル62の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0092】
ステアリングセンサ装置63aは、ステアリング63の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング63のステア角を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0093】
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。また、CPU71は、各センサ装置61a,62a,63aから入力された各角度センサの検出結果(操作量)を時間微分して、各ペダル61,62の踏み込み速度およびステアリング63のステア角速度を取得することができる。更に、CPU71は、取得したステアリング63のステア角速度を時間微分して、ステアリング63のステア角加速度を取得することができる。
【0094】
図5に示す他の入出力装置90としては、例えば、GPSを利用して車両1の現在位置を取得すると共にその取得した車両1の現在位置を道路に関する情報が記憶された地図データに対応付けて取得するナビゲーション装置などが例示される。
【0095】
次いで、図7を参照して、状態量判断処理について説明する。図7は、状態量判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両1の状態量が所定の条件を満たすかを判断する処理である。
【0096】
CPU71は、状態量判断処理に関し、まず、アクセルペダル61の操作量(踏み込み量)、ブレーキペダル62の操作量(踏み込み量)及びステアリング63の操作量(ステア角)をそれぞれ取得し(S1、S2、S3)、それら取得した各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する(S4)。なお、S4の処理では、S1〜S3の処理でそれぞれ取得した各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量と、それら各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量にそれぞれ対応してROM72に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角の状態で車両1が加速、制動または旋回する場合に、車輪2がスリップする恐れがあると判断される限界値)とを比較して、現在の各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する。
【0097】
その結果、各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S4:Yes)、状態量フラグ73bをオンして(S5)、この状態量判断処理を終了する。即ち、この状態量判断処理では、各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上である場合に、車両1の状態量が所定の条件を満たすと判断する。
【0098】
一方、S4の処理の結果、各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量のいずれもが所定の操作量より小さいと判断される場合には(S4:No)、状態量フラグ73bをオフして(S6)、この状態量判断処理を終了する。
【0099】
次いで、図8を参照して、走行状態判断処理について説明する。図8は、走行状態判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両1の走行状態が所定の直進状態であるか否かを判断する処理である。
【0100】
CPU71は、走行状態判断処理に関し、まず、車両1の走行速度を取得し(S11)、その取得した車両1の走行速度が所定の速度以上であるか否かを判断する(S12)。なお、S12の処理では、S11の処理で取得した車両1の走行速度と、ROM72に予め記憶されている閾値とを比較して、現在の車両1の走行速度が所定の速度以上であるか否かを判断する。
【0101】
その結果、車両1の走行速度が所定の速度より小さいと判断される場合には(S12:No)、走行状態フラグ73cをオフして(S16)、この走行状態判断処理を終了する。
【0102】
一方、S12の処理の結果、車両1の走行速度が所定の速度以上であると判断される場合には(S12:Yes)、ステアリング63の操作量(ステア角)を取得し(S13)、その取得したステアリング63の操作量が所定の操作量以下であるか否かを判断する(S14)。なお、S14の処理では、S13の処理で取得したステアリング63の操作量と、ROM72に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、図7に示す状態量判断処理において、車両1の状態量が所定の条件を満たすか否かを判断するためのステアリング63の操作量より小さい値)とを比較して、現在のステアリング63の操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する。
【0103】
その結果、ステアリング63の操作量が所定の操作量以下であると判断される場合には(S14:Yes)、走行状態フラグ73cをオンして(S15)、この走行状態判断処理を終了する。即ち、この走行状態判断手段では、車両1の走行速度が所定の速度以上であり、且つ、ステアリング63の操作量が所定の操作量以下である場合に、車両1の走行状態が所定の直進状態であると判断する。
【0104】
一方、S14の処理の結果、ステアリング63の操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S14:No)、走行状態フラグ73cをオフして(S16)、この走行状態判断処理を終了する。
【0105】
次いで、図9を参照して、偏摩耗荷重判断処理について説明する。図9は、偏摩耗荷重判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車輪2にネガティブキャンバが付与された状態で車両1が走行する場合に、車輪2の接地荷重がタイヤ(トレッド)に偏摩耗を引き起こす恐れのある偏摩耗荷重であるか否かを判断する処理である。
【0106】
CPU71は、偏摩耗荷重判断処理に関し、まず、各懸架装置14の伸縮量が所定の伸縮量以下であるか否かを判断する(S21)。なお、S21の処理では、サスストロークセンサ装置83により各懸架装置14の伸縮量を検出すると共に、その検出された各懸架装置14の伸縮量と、ROM72に予め記憶されている閾値とを比較して、現在の各懸架装置14の伸縮量が所定の伸縮量以下であるか否かを判断する。
【0107】
その結果、各懸架装置14の内の少なくとも1の懸架装置14の伸縮量が所定の伸縮量(即ち、ROM72に記憶されている閾値)より大きいと判断される場合には(S21:No)、その伸縮量の大きい懸架装置14に対応する車輪2(左右の後輪2RL,2RR)の接地荷重が所定の接地荷重より大きく、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0108】
一方、S21の処理の結果、各懸架装置14の伸縮量が所定の伸縮量以下であると判断される場合には(S21:Yes)、車両1の前後Gが所定の加速度以下であるか否かを判断する(S22)。その結果、車両1の前後Gが所定の加速度より大きいと判断される場合には(S22:No)、左右の後輪2RL,2RRの接地荷重が所定の接地荷重より大きい可能性があると推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0109】
一方、S22の処理の結果、車両1の前後Gが所定の加速度以下であると判断される場合には(S22:Yes)、車両1の横Gが所定の加速度以下であるか否かを判断する(S23)。その結果、車両1の横Gが所定の加速度より大きいと判断される場合には(S23:No)、左の後輪2RL又は右の後輪2RRのいずれかの接地荷重が所定の接地荷重より大きいと推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0110】
一方、S23の処理の結果、車両1の横Gが所定の加速度以下であると判断される場合には(S23:Yes)、車両1のヨーレートが所定のヨーレート以下であるか否かを判断する(S24)。その結果、車両1のヨーレートが所定のヨーレートより大きいと判断される場合には(S24:No)、左の後輪2RL又は右の後輪2RRのいずれかの接地荷重が所定の接地荷重より大きいと推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0111】
一方、S24の処理の結果、車両1のヨーレートが所定のヨーレート以下であると判断される場合には(S24:Yes)、車両1のロール角が所定のロール角以下であるか否かを判断する(S25)。その結果、車両1のロール角が所定のロール角より大きいと判断される場合には(S25:No)、左右の後輪2RL,2RRの接地荷重が所定の接地荷重より大きい可能性があると推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0112】
一方、S25の処理の結果、車両1のロール角が所定のロール角以下であると判断される場合には(S25:Yes)、左右の後輪2RL,2RRの接地荷重が所定の接地荷重以下であるか否かを判断する(S26)。なお、S26の処理では、接地荷重センサ装置84により検出された左右の後輪2RL,2RRの接地荷重と、ROM72に予め記憶されている閾値とを比較して、現在の左右の後輪2RL,2RRの接地荷重が所定の接地荷重以下であるか否かを判断する。
【0113】
その結果、左右の後輪2RL,2RRの内の少なくとも1の車輪2の接地荷重が所定の接地荷重より大きいと判断される場合には(S26:No)、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0114】
一方、S26の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRの接地荷重が所定の荷重以下であると判断される場合には(S26:Yes)、左右の後輪2RL,2RRのタイヤサイドウォールの潰れ代が所定の潰れ代以下であるか否かを判断する(S27)。なお、S27の処理では、サイドウォール潰れ代センサ装置85により検出された左右の後輪2RL,2RRのタイヤサイドウォールの潰れ代と、ROM72に予め記憶されている閾値とを比較して、現在の左右の後輪2RL,2RRのタイヤサイドウォールの潰れ代が所定の潰れ代以下であるか否かを判断する。
【0115】
その結果、左右の後輪2RL,2RRの内の少なくとも1の車輪2のタイヤサイドウォールの潰れ代が所定の潰れ代より大きいと判断される場合には(S27:No)、その潰れ代の大きい車輪2の接地荷重が所定の接地荷重より大きいと推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0116】
一方、S27の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRのタイヤサイドウォールの潰れ代が所定の潰れ代以下であると判断される場合には(S27:Yes)、アクセルペダル61の操作量(踏み込み量)が所定の操作量以下であるか否かを判断する(S28)。その結果、アクセルペダル61の操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S28:No)、左右の後輪2RL,2RRの接地荷重が所定の接地荷重より大きいと推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0117】
一方、S28の処理の結果、アクセルペダル61の操作量が所定の操作量以下であると判断される場合には(S28:Yes)、ステアリング63の操作量(ステア角)が所定の操作量以下であるか否かを判断する(S30)。その結果、ステアリング63の操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S30:No)、左の後輪2RL又は右の後輪2RRのいずれかの接地荷重が所定の接地荷重より大きいと推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0118】
一方、S30の処理の結果、ステアリング63の操作量が所定の操作量以下であると判断される場合には(S30:Yes)、ステアリング63の操作速度(ステア角速度)が所定の速度以下であるか否かを判断する(S31)。その結果、ステアリング63の操作速度が所定の速度より大きいと判断される場合には(S31:No)、左の後輪2RL又は右の後輪2RRのいずれかの接地荷重が所定の接地荷重より大きいと推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0119】
一方、S31の処理の結果、ステアリング63の操作速度が所定の速度以下であると判断される場合には(S31:Yes)、ステアリング63の操作加速度(ステア角加速度)が所定の加速度以下であるか否かを判断する(S32)。その結果、ステアリング63の操作加速度が所定の加速度より大きいと判断される場合には(S32:No)、左の後輪2RL又は右の後輪2RRのいずれかの接地荷重が所定の接地荷重より大きいと推定され、かかる車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重であると判断されるので、偏摩耗荷重フラグ73dをオンして(S33)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0120】
一方、S32の処理の結果、ステアリング63の操作加速度が所定の加速度以下であると判断される場合には(S32:Yes)、偏摩耗フラグ73dをオフして(S34)、この偏摩耗荷重判断処理を終了する。
【0121】
次いで、図10を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図10は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を調整する処理である。
【0122】
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、まず、状態量フラグ73bがオンであるか否かを判断し(S41)、状態量フラグ73bがオンであると判断される場合には(S41:Yes)、キャンバフラグ73aがオンであるか否かを判断する(S42)。その結果、キャンバフラグ73aがオフであると判断される場合には(S42:No)、RL,RRモータ91RL,91RRを作動させて、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第2キャンバ角に調整し、各車輪2にネガティブキャンバを付与すると共に(S43)、キャンバフラグ73aをオンして(S44)、補正処理(S80)を実行した後、このキャンバ制御処理を終了する。
【0123】
これにより、車両1の状態量が所定の条件を満たす場合、即ち、各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上であり、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角の状態で車両1が加速、制動または旋回すると車輪2がスリップする恐れがあると判断される場合には、車輪2にネガティブキャンバを付与することで、車輪2に発生するキャンバスラストを利用して、車両1の走行安定性を確保することができる。
【0124】
一方、S42の処理の結果、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合には(S42:Yes)、車輪2のキャンバ角は既に第2キャンバ角に調整されているので、S43及びS44の処理をスキップして、補正処理(S80)を実行した後、このキャンバ制御処理を終了する。
【0125】
これに対し、S41の処理の結果、状態量フラグ73bがオフであると判断される場合には(S41:No)、走行状態フラグ73cがオンであるか否かを判断し(S45)、走行状態フラグ73cがオンであると判断される場合には(S45:Yes)、キャンバフラグ73aがオンであるか否かを判断する(S46)。その結果、キャンバフラグ73aがオフであると判断される場合には(S46:No)、RL,RRモータ91RL,91RRを作動させて、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第2キャンバ角に調整し、各車輪2にネガティブキャンバを付与すると共に(S47)、キャンバフラグ73aをオンして(S48)、S49の処理を実行する。
【0126】
これにより、車両1の走行状態が所定の直進状態である場合、即ち、車両1の走行速度が所定の速度以上であると共にステアリング63の操作量が所定の操作量以下であり、車両1が比較的高速で直進している場合には、車輪2にネガティブキャンバを付与することで、車輪2の横剛性を利用して、車両1の直進安定性を確保することができる。
【0127】
一方、S46の処理の結果、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合には(S46:Yes)、車輪2のキャンバ角は既に第2キャンバ角に調整されているので、S47及びS48の処理をスキップして、偏摩耗荷重フラグ73dがオンであるか否かを判断する(S49)。その結果、偏摩耗荷重フラグ73dがオンであると判断される場合には(S49:Yes)、RL,RRモータ91RL,91RRを作動させて、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第1キャンバ角に調整し、各車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除すると共に(S50)、キャンバフラグ73aをオフして(S51)、補正処理(S80)を実行した後、このキャンバ制御処理を終了する。
【0128】
これにより、車輪2の接地荷重が偏摩耗荷重である場合、即ち、車輪2にネガティブキャンバが付与された状態で車両1が走行すると、タイヤ(トレッド)に偏摩耗を引き起こす恐れがある場合には、車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除することで、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。
【0129】
一方、S49の処理の結果、偏摩耗荷重フラグ73dがオフであると判断される場合には(S49:No)、車輪2の接地荷重は偏摩耗荷重ではなく、車輪2にネガティブキャンバが付与された状態で車両1が走行しても、タイヤ(トレッド)が偏摩耗する恐れはないと判断されるので、S50及びS51の処理をスキップして、補正処理(S80)を実行した後、このキャンバ制御処理を終了する。
【0130】
これに対し、S45の処理の結果、走行状態フラグ73cがオフであると判断される場合には(S45:No)、キャンバフラグ73aがオンであるか否かを判断する(S52)。その結果、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合には(S52:Yes)、RL,RRモータ91RL,91RRを作動させて、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第1キャンバ角に調整し、各車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除すると共に(S53)、キャンバフラグ73aをオフして(S54)、補正処理(S80)を実行した後、このキャンバ制御処理を終了する。
【0131】
これにより、車両1の状態量が所定の条件を満たしておらず車両1の走行状態が所定の直進状態でない場合、即ち、車両1の走行安定性を優先して確保する必要がない場合には、車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除することで、キャンバスラストの影響を回避して、省燃費化を図ることができる。
【0132】
一方、S52の処理の結果、キャンバフラグ73aがオフであると判断される場合には(S52:No)、車輪2のキャンバ角は既に第1キャンバ角に調整されているので、S53及びS54の処理をスキップして、補正処理(S80)を実行した後、このキャンバ制御処理を終了する。
【0133】
このように、キャンバ制御処理を実行することで、車輪2の接地荷重が所定の接地荷重以上であると判断される場合に、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角(第2キャンバ角よりも絶対値が小さいキャンバ角)に調整され、車輪2へのネガティブキャンバの付与が解除されるので、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。即ち、車輪2の接地荷重が大きいほどタイヤの摩耗が進行し易いので、車輪2の接地荷重が所定の接地荷重以上である場合には、車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除することで、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。その結果、タイヤの寿命を向上させることができる。また、タイヤの偏摩耗を抑制することで、タイヤの接地面が不均一となるのを防止して、車両1の走行安定性を確保することができる。更に、タイヤの偏摩耗を抑制できるので、その分、省燃費化を図ることができる。
【0134】
また、車両1の状態量が所定の条件を満たすと判断される場合に、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与されるので、車輪2に発生するキャンバスラストを利用して、車両1の走行安定性を確保することができる。また、車両1の状態量が所定の条件を満たしていないと判断され、且つ、車輪2の接地荷重が所定の接地荷重以上であると判断される場合には、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角(第2キャンバ角よりも絶対値が小さいキャンバ角)に調整され、車輪2へのネガティブキャンバの付与が解除されるので、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。よって、走行安定性の確保とタイヤの偏摩耗の抑制との両立を図ることができる。
【0135】
また、車両1の走行状態が所定の直進状態であると判断される場合に、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与されるので、車輪2の横剛性を利用して、車両1の直進安定性を確保することができる。また、車両1の走行状態が所定の直進状態であると判断され、且つ、車輪2の接地荷重が所定の接地荷重以上であると判断される場合には、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角(第2キャンバ角よりも絶対値が小さいキャンバ角)に調整され、車輪2へのネガティブキャンバの付与が解除されるので、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。よって、直進安定性の確保とタイヤの偏摩耗の抑制との両立を図ることができる。
【0136】
次いで、図11から図13を参照して、キャリア部材41の上下動(即ち、懸架装置14の伸縮)に対するキャンバ角調整装置45の状態変化について説明する。なお、図11から図13では、キャリア部材41がバウンド方向へ変位して、懸架装置14が短縮される場合を説明するが、キャリア部材41がリバウンド方向へ変位して、懸架装置14が伸長される場合も考え方は短縮される場合と同様であるので、その説明は省略する。
【0137】
図11(a)は、第1状態における懸架装置14を模式的に図示する模式図であり、図11(b)は、第2状態における懸架装置14を模式的に図示する模式図である。なお、図11では、懸架装置14が短縮される前の状態(即ち、車両1の重量以外の外力が作用しないしていない通常走行状態)が実線により、懸架装置14が短縮された状態(例えば、段差の通過などでキャリア部材41をバウンド方向へ移動させる変位が懸架装置14に入力された状態)が破線により、それぞれ図示されている。
【0138】
また、図12(a)及び図13(a)は、図11(a)の部分拡大図であり、図12(b)及び図13(b)は、図11(b)の部分拡大図である。但し、図12(a)及び図12(b)では、懸架装置14が短縮された図11(a)及び図11(b)に対応する状態(即ち、ホイール部材93aが外力の作用により回転される(回転位置がずれる)前の状態)が実線により、その状態から外力の作用により回転された(回転位置がずれた)後の状態が破線により、それぞれ図示されている。即ち、図11(a)及び図11(b)の破線で図示される状態が、図12(a)及び図12(b)では実線で図示されている。また、図13(a)及び図13(b)では、懸架装置14が短縮された図11(a)及び図11(b)に対応する状態(即ち、補正前の状態)が破線により、その状態から後述する第1補正処理(図16参照)により補正された後の状態が実線により、それぞれ図示されている。
【0139】
図11(a)に示すように、第1状態(左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第1キャンバ角(=0°)に調整された状態、図4(a)参照)では、ホイール部材93aの軸心O1、クランクピン93b及びアッパーアーム42の連結軸となる軸心02、及び、アッパーアーム42及びキャリア部材41の連結軸となる軸心O3が、車輪2から車体BFへ向かう方向(図11(a)左から右に向かう方向)において、軸心O1、軸心O2、軸心O3の順に一直線上に並んで位置する。
【0140】
よって、上述したように、第1状態では、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TR(図3(b)参照)の軸心O2における接線とが直角となるため、例えば、路面からの外力が車輪2に作用するによって、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わっても、ホイール部材93aを回転させる力成分が発生せず、ホイール部材93aの回転が規制される。従って、RL,RRモータ91RL,91RRの駆動力を解除しても、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に機械的に維持可能とできる。その結果、車輪2のキャンバ角を所定角度に維持するために必要なRL,RRモータ91RL,91RRの消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0141】
この場合、キャリア部材41をバウンド方向(図11(a)上方)へ移動させる変位が懸架装置14に入力されると、図11(a)に破線で示すように、かかるキャリア部材41の変位に伴い、アッパーアーム42が軸心O2を回転中心として回転される。これにより、図12(a)に実線で示すように、軸心O1、軸心O2及び軸心O3が一直線上に並ばなくなり、軸心O1及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線とが所定の角度を有する。
【0142】
よって、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、回転軌跡TRの軸心O2における接線とが直角をなさなくなる。そのため、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わると、ホイール部材93aを回転させる力成分が発生して、ホイール部材93aが回転し、その結果、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角から変化してしまう。
【0143】
即ち、図12(a)に実線で示す状態から、アッパーアーム42をホイール部材93aへ押し付ける方向への外力が、アッパーアーム42からホイール部材93aへ作用されると、軸心O2を図12(a)下方へ移動させる方向の力成分が発生して、その力成分により、ホイール部材93aが図12(a)時計回りに回転される。一方、アッパーアーム42をホイール部材93aから離間させる方向への外力が、アッパーアーム42からホイール部材93aへ作用されると、軸心O2を図12(a)上方へ移動させる方向の力成分が発生して、その力成分により、ホイール部材93aが図12(a)反時計回りに回転される。その結果、図12(a)に破線で示すように、ホイール部材93aの回転位置がずれた状態となり、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角から変化する。
【0144】
そこで、本実施の形態では、車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかである場合には、第1補正処理(図16参照)を実行する。即ち、第1状態から懸架装置14が短縮した場合には、図13(a)に示すように、キャンバ角調整装置45によりホイール部材93aを角度θoffだけ回転させる補正処理を実行することで、各軸心を軸心O1、軸心O2、軸心O3の順に一直線上に並ばせる。これにより、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わっても、ホイール部材93aの回転を規制して、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に機械的に維持可能とすることで、RL,RRモータ91RL,91RRの消費エネルギーの低減を図る。
【0145】
一方、車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかではない場合には、第2補正処理(図17参照)を実行する。即ち、ホイール部材93aを第1状態に設定する設定動作が終了されると、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)をサーボロック状態として、ホイール部材93aの回転を規制する。これにより、外力の作用によってホイール部材93aが回転される(回転位置がずれる)ことを抑制して、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角から変化することを抑制する。また、このように、ホイール部材93aが第1状態にある状態で、各モータ91RL,91RRをサーボロック状態とすることで、ホイール部材93aの回転の規制に、機械的な摩擦力を利用しやすくできるので、その分、各モータ91RL,91RRの消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0146】
一方、第2状態(左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第2キャンバ角(=−3°)に調整された状態、図4(b)参照)では、図11(b)に示すように、軸心O1、軸心O2及び軸心O3が一直線上に並んで位置するため、第1状態の場合と同様に、ホイール部材93aの回転を規制でき、RL,RRモータ91RL,91RRの駆動力を解除しても、車輪2のキャンバ角を第2キャンバ角に機械的に維持できる。
【0147】
この場合も、キャリア部材41をバウンド方向(図11(b)上方)へ移動させる変位が懸架装置14に入力されると、第1状態の場合と同様に、アッパーアーム42が軸心O2を回転中心として回転され、図12(b)に実線で示すように、軸心O1及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線とが所定の角度を有する。そのため、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、回転軌跡TRの軸心O2における接線とが直角をなさなくなり、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わると、ホイール部材93aが回転して、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角から変化する。
【0148】
即ち、図12(b)に実線で示す状態から、アッパーアーム42をホイール部材93aへ押し付ける方向への外力が、アッパーアーム42からホイール部材93aへ作用されると、軸心O2を図12(b)下方へ移動させる方向の力成分が発生して、その力成分により、ホイール部材93aが図12(b)反時計回りに回転される。一方、アッパーアーム42をホイール部材93aから離間させる方向への外力が、アッパーアーム42からホイール部材93aへ作用されると、軸心O2を図12(b)上方へ移動させる方向の力成分が発生して、その力成分により、ホイール部材93aが図12(b)時計回りに回転される。その結果、図12(b)に破線で示すように、ホイール部材93aの回転位置がずれた状態となり、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角から変化する。
【0149】
本実施の形態では、この場合も、第1状態の場合と同様に、車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかである場合には、第1補正処理(図16参照)を実行する。即ち、第2状態から懸架装置14が短縮した場合には、図13(b)に示すように、キャンバ角調整装置45によりホイール部材93aを角度θonだけ回転させる補正処理を実行することで、各軸心を軸心O2、軸心O1、軸心O3の順に一直線上に並ばせる。これにより、第1状態の場合と同様に、ホイール部材93aの回転を規制して、車輪2のキャンバ角を第2キャンバ角に機械的に維持可能とすることで、RL,RRモータ91RL,91RRの消費エネルギーの低減を図る。
【0150】
一方、車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかではない場合には、第1状態の場合と同様に、第2補正処理(図17参照)を実行する。即ち、ホイール部材93aを第2状態に設定する設定動作が終了されると、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)をサーボロック状態として、ホイール部材93aの回転を規制することで、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角から変化することを抑制する。なお、この場合も、ホイール部材93aが第2状態にある状態で、各モータ91RL,91RRをサーボロック状態とすることで、ホイール部材93aの回転の規制に、機械的な摩擦力を利用しやすくして、各モータ91RL,91RRの消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0151】
ここで、懸架装置14の伸縮量(サスストローク)とホイール部材93aの補正の角度θoff,θonとの関係について説明する。図11(a)及び図11(b)に示すように、懸架装置14のサスストロークを距離B、アッパーアーム42の両端の軸心O2,03間の距離を距離Luと定義する。なお、上述したように、軸心O1及び軸心O2間の距離は距離Erである。
【0152】
図11及び図13に示す懸架装置14が伸縮する前後における各距離B,Lu,Erの幾何学的な関係より、第1状態における補正の角度θoffの値は(図13(a)参照)、tan−1(B/(Lu+Er))と近似することができ、第2状態における補正の角度θonの値は(図13(b)参照)、tan−1(B/(Lu−Er))と近似することができる。よって、距離Lu及び距離Erは固定値としてRAM72に予め記憶されているので、CPU71は、懸架装置14のサスストロークである距離Bをサスストロークセンサ装置83から取得することで(図5参照)、これら各距離B,Lu,Erに基づいて、角度θoff,θonの値を算出することができる。
【0153】
なお、第2状態における補正の角度θonは、上述した近似式より、第1状態における補正の角度θoffよりも大きな値となる(θoff<θon)。よって、懸架装置14のサスストロークである距離Bが同じであれば、第2状態の場合の方が、第1状態の場合よりも、補正に要する角度が大きいこととなる。
【0154】
言い換えれば、懸架装置14が同じ距離Bだけサスストロークした場合でも、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、回転軌跡TRの軸心O2における接線とのなす角度が、第2状態の場合の方が、第1状態の場合よりも、小さな角度(即ち、直角から離れる)となるため、アッパーアーム42からホイール部材93aへ同じ力が加わったとしても、ホイール部材93aを回転させる力成分が大きくなるため、ホイール部材93aが回転され易くなる。
【0155】
よって、機械的な摩擦力でホイール部材93aの回転を規制するために許容できる懸架装置14のサスストローク量(「キャンバオフ時閾値」及び「キャンバオン時閾値」)は、第2状態の場合の方が、第1状態の場合よりも小さくなる。即ち、第2状態における「キャンバオン時閾値」の値が、第1状態における「キャンバオフ時閾値」の値よりも小さい値となる。
【0156】
なお、請求項1記載の「第1回転位置」とは、本実施の形態では、第1状態または第2状態となる初期位置が該当する。
【0157】
次いで、図14を参照して、サスストローク量判断処理について説明する。図14は、サスストローク量判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、左右の後輪2RL,2RRを懸架する懸架装置14の伸縮量(サスストローク)が所定の閾値を超えたか否かを判断する処理である。
【0158】
CPU71は、サスストローク量判断処理に関し、まず、RAM73に設けられた値n(図示せず)にn=1を書き込み(S61)、第n輪のサスストローク量を取得する(S62)。なお、サスストローク量判断手段では、説明の便宜上、第1輪(n=1)を右の後輪2RRと、第2輪(n=2)を左の後輪2RLと、それぞれ定義する。
【0159】
次いで、キャンバフラグ73aがオンであるか否かを判断する(S63)。その結果、S63の処理において、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合には(S63:Yes)、第n輪を懸架する懸架装置14のサスストローク量がキャンバオン時閾値以上であるかを判断する一方(S64)、S63の処理において、キャンバフラグ73aがオンではない(即ち、オフである)と判断される場合には(S63:No)、第n輪を懸架する懸架装置14のサスストローク量がキャンバオフ時閾値以上であるかを判断する(S65)。
【0160】
ここで、「キャンバオフ時閾値」とは、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角(=0°)に設定された第1状態で、懸架装置14が伸縮した場合に(図11(a)及び図12(a)参照)、キャンバ角調整装置45による角度θoffの補正処理を実行しなくても、アッパーアーム42からの力に対してホイール部材93aの回転を機械的な摩擦力により規制できる懸架装置14の伸縮量の限界値である。
【0161】
同様に、「キャンバオン時閾値」とは、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角(=−3°)に設定された第2状態で、懸架装置14が伸縮した場合に(図11(b)及び図12(b)参照)、キャンバ角調整装置45による角度θonの補正処理を実行しなくても、アッパーアーム42からの力に対してホイール部材93aの回転を機械的な摩擦力により規制できる懸架装置14の伸縮量の限界値である。
【0162】
よって、第1状態または第2状態において、懸架装置14のサスストローク量がキャンバオフ閾値またはキャンバオン時閾値に達していない状態であれば、車輪2に想定最大外力が作用しても、ホイール部材93aの回転は機械的な摩擦力により規制される(各モータ91RL,91RRによる回転駆動力が解除されていてもホイール部材93aが回転されない)。
【0163】
なお、これらキャンバオフ時閾値およびキャンバオン時閾値は、実車を用いた試験(第1状態および第2状態において、車輪2に想定最大外力を作用させた際に、ホイール部材93aが回転される限界のサスストロークを求める試験)により測定値として求められており、これら各測定値は、RAM72に事前に記憶されている。また、上述したように、第2状態における「キャンバオン時閾値」の値が、第1状態における「キャンバオフ時閾値」の値よりも小さい値となる。
【0164】
S64の処理において、第n輪のサスストローク量がキャンバオン時閾値以上であると判断された場合には(S64:Yes)、第n輪が第2状態にある懸架装置14のサスストローク量が限界値を超えているということなので、第n輪オン時ストロークフラグ(第1輪オン時ストロークフラグ73e2又は第2輪オン時ストロークフラグ73f2の内の第n輪に対応するフラグ)をオンし(S66)、かつ、第n輪オフ時ストロークフラグ(第1輪オフ時ストロークフラグ73e1又は第2輪オフ時ストロークフラグ73f1の内の第n輪に対応するフラグ)をオフした後(S67)、S71の処理へ移行する。
【0165】
一方、S65の処理において、第n輪のサスストローク量がキャンバオフ時閾値以上であると判断された場合には(S65:Yes)、第n輪が第1状態にある懸架装置14のサスストローク量が限界値を超えているということなので、第n輪オン時ストロークフラグ(第1輪オン時ストロークフラグ73e2又は第2輪オン時ストロークフラグ73f2の内の第n輪に対応するフラグ)をオフし(S68)、かつ、第n輪オフ時ストロークフラグ(第1輪オフ時ストロークフラグ73e1又は第2輪オフ時ストロークフラグ73f1の内の第n輪に対応するフラグ)をオンした後(S69)、S71の処理へ移行する。
【0166】
また、S64の処理において、第n輪のサスストローク量がキャンバオン時閾値以上ではない(即ち、キャンバオン時閾値に達していない)と判断された場合(S64:No)、及び、S65の処理において、第n輪のサスストローク量がキャンバオフ時閾値以上ではない(即ち、キャンバオフ時閾値に達していない)と判断された場合(S65:No)には、第n輪が第1状態にある懸架装置14、及び、第n輪が第2状態にある懸架装置14のいずれのサスストローク量も限界値に達していないということなので、第n輪オン時ストロークフラグ(第1輪オン時ストロークフラグ73e2又は第2輪オン時ストロークフラグ73f2の内の第n輪に対応するフラグ)、及び、第n輪オフ時ストロークフラグ(第1輪オフ時ストロークフラグ73e1又は第2輪オフ時ストロークフラグ73f1の内の第n輪に対応するフラグ)を共にオフした後(S70)、S71の処理へ移行する。
【0167】
S71の処理では、RAM73に設けられた値nが2に達したか否かを判断する(S71)。その結果、値nが2に達していない(即ち、n=1である)場合には(S71:No)、第2輪(左の後輪2RL)についての各処理S62〜S69が未実行であるということなので、第2輪についてもこれら各処理を実行するべく、値nにn=n+1を書き込んだ後(S72)、S62の処理へ移行する。一方、値nが2に達している(即ち、n=2である)場合には(S71:Yes)、第1輪および第2輪(即ち、左右の後輪2RL,2RR)に対する各処理S62〜S69の実行が完了しているということであるので、このサスストローク量判断処理を終了する。
【0168】
次いで、図15を参照して、補正方法決定処理について説明する。図15は、補正方法決定処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、キャンバ角調整装置45の補正方法を車両1の運動状態に応じて決定し、実行する処理である。
【0169】
CPU71は、補正方法決定処理に関し、まず、アクセルペダル61の操作量(踏み込み量)が所定の操作量以上であるか否かを判断する(S101)。その結果、アクセルペダル61の操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S101:Yes)、例えば、急加速に伴い、車両1の後輪側が沈み込み、懸架装置14が高速で大きくサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0170】
一方、S101の処理の結果、アクセルペダル61の操作量が所定の操作量よりも小さいと判断される場合には(S101:No)、次いで、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以上であるかを判断する(S102)。その結果、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S102:Yes)、例えば、急制動に伴い、車両1がノーズダイブして、懸架装置14が高速で大きくサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0171】
一方、S102の処理の結果、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量よりも小さいと判断される場合には(S102:No)、次いで、ステアリング63の操作量が所定の操作量以上であるかを判断する(S103)。その結果、ステアリング63の操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S103:Yes)、例えば、急旋回に伴い、車両1がロールして、懸架装置14が高速で大きくサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0172】
一方、S103の処理の結果、ステアリング63の操作量が所定の操作量よりも小さいと判断される場合には(S103:No)、次いで、各懸架装置4,14のサスストローク速度(伸縮速度)が所定の速度以上であるかを判断する(S104)。その結果、各懸架装置4,14のサスストローク速度が所定の速度以上であると判断される場合には(S104:Yes)、例えば、車輪2が段差を通過することや悪路を走行することに伴い、懸架装置4,14が高速でサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0173】
一方、S104の処理の結果、各懸架装置4,14のサスストローク速度が所定の速度より小さいと判断される場合には(S104:No)、次いで、車両1の横Gが所定の加速度以上であるかを判断する(S106)。その結果、車両1の横Gが所定の加速度以上であると判断される場合には(S106:Yes)、例えば、急旋回や横風の影響に伴い、車両1がロールして、懸架装置14が高速で大きくサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0174】
一方、S106の処理の結果、車両1の横Gが所定の加速度より小さいと判断される場合には(S106:No)、次いで、車両1の前後Gが所定の加速度以上であるかを判断する(S107)。その結果、車両1の前後Gが所定の加速度以上であると判断される場合には(S107:Yes)、例えば、急加速や急制動に伴い、車両1の後輪側の沈み込みやノーズダイブが発生して、懸架装置14が高速で大きくサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0175】
一方、S107の処理の結果、車両1の前後Gが所定の加速度より小さいと判断される場合には(S107:No)、次いで、車両1のロール角の変化速度が所定の変化速度以上であるかを判断する(S108)。その結果、車両1のロール角の変化速度が所定の変化速度以上であると判断される場合には(S108:Yes)、例えば、急旋回に伴い、車両1がロール方向へ高速で姿勢変化して、懸架装置14が高速でサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0176】
一方、S108の処理の結果、車両1のロール角の変化速度が所定の変化速度より小さいと判断される場合には(S108:No)、次いで、車両1のピッチ角の変化速度が所定の変化速度以上であるかを判断する(S109)。その結果、車両1のピッチ角の変化速度が所定の変化速度以上であると判断される場合には(S109:Yes)、例えば、急加速や急制動に伴い、車両1がピッチ方向へ高速で姿勢変化して、懸架装置14が高速でサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0177】
一方、S109の処理の結果、車両1のピッチ角の変化速度が所定の変化速度より小さいと判断される場合には(S109:No)、次いで、車両1のヨーレートが所定のヨーレート以上であるかを判断する(S110)。その結果、車両1のヨーレートが所定のヨーレート以上であると判断される場合には(S110:Yes)、例えば、左右の車輪2の内の片輪のみが段差を通過することで、ヨーレートが所定値以上となったと推定され、この場合も、懸架装置4,14が高速でサスストロークすることで、キャンバ角調整装置45の補正には高応答性が要求されると推定されるので、第2補正処理(S112)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0178】
一方、S110の処理の結果、車両1のヨーレートが所定のヨーレートより小さいと判断される場合には(S110:No)、車両1に発生しているロールやピッチ(即ち、キャンバ角調整装置45におけるサスストロークの変化)は連続的で緩やかなものであり、キャンバ角調整装置45の補正に高応答性は比較的要求されないと推定されるので、第1補正処理(S111)を実行して、この補正方法決定処理を終了する。
【0179】
このように、補正方法決定処理では、キャンバ角調整装置45の補正を行うに際し、車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであると判断される場合には(S101〜S110:No)、第1補正処理(S111)を実行する一方、車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかではないと判断される場合には(S101〜S110のいずれか1の処理がNo)、第2補正処理(S112)を実行する。
【0180】
なお、補正方法決定処理では、操作部材(アクセルペダル61、ブレーキペダル62或いはステアリング63)の操作量に基づいて、車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであるかを判断するので、かかる車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであるかの判断を、アクセルペダル61等の操作部材が操作された時点で行うことができる。即ち、かかる判断を応答性良く(例えば、加速や旋回の操作が行われ、後輪2RL,2RR側や旋回外輪の懸架装置14が実際にサスストロークされる前に)行うことができるので、第1補正手段(S111)や第2補正手段(S112)による補正を、外力の作用によりホイール部材93aが回転させられる前に実行しておきやすくして、車輪2のキャンバ角が所定のキャンバ角から変化されることをより確実に抑制できる。
【0181】
次いで、図16を参照して、第1補正処理(S111)について説明する。図16は、第1補正処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した補正方法決定処理(図15参照)内で実行される処理であり、各懸架装置14のサスストローク量に応じて、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)におけるホイール軸(ホイール部材93の軸心O1)の角度を補正する処理である。
【0182】
CPU71は、第1補正処理(S111)に関し、まず、キャンバ角の設定動作中であるか否か、即ち、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)する動作中または左右の後輪2RL,2RRへのネガティブキャンバの付与を解除(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)する動作中であるか否かを判断する(S80)。
【0183】
S80の処理の結果、キャンバ角の設定動作中であると判断される場合には(S80:Yes)、たとえ軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置しなくなっているとしても、上述したキャンバ角の設定動作により第1状態または第2状態に復帰するため、S81移行の処理により補正処理を行うことが無駄となる。よって、この場合には(S80:Yes)、S81移行の処理をスキップして、この補正処理を終了する。
【0184】
一方、S80の処理の結果、キャンバ角の設定動作中ではないと判断される場合には(S80:No)、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置しない状態となっている場合に、かかる状態を軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置する状態とするべく、S81以降の処理を実行する。
【0185】
即ち、まず、RAM73に設けられた値m(図示せず)にm=1を書き込む(S81)。なお、補正処理では、説明の便宜上、第1輪(m=1)を右の後輪2RRと、第2輪(m=2)を左の後輪2RLと、それぞれ定義する。
【0186】
次いで、第m輪オン時サスストロークフラグ(第1輪オン時ストロークフラグ73e2又は第2輪オン時ストロークフラグ73f2の内の第m輪に対応するフラグ)がオンであるか否かを判断する(S82)。その結果、S82の処理において、第m輪オン時サスストロークフラグがオンであると判断される場合には(S82:Yes)、第m輪が第2状態(車輪2にネガティブキャンバが付与された状態)にある懸架装置14のサスストローク量が限界値(キャンバオン時閾値)以上になっているということであるので、かかる第m輪を懸架する側におけるキャンバ角調整装置45の補正角(角度θon、図11(b)及び図13(b)参照)を算出し(S83)、その算出した角度θon分だけホイール部材93aをキャンバ角調整装置45により回転させることで、第m輪におけるホイール軸(ホイール部材93の軸心O1)の角度を補正した後(S84)、S88の処理へ移行する。
【0187】
これにより、第m輪を懸架するキャンバ角調整装置45において、各軸心を軸心O2、軸心O1、軸心O3の順に一直線上に並ばせることができるので(図13(b)参照)、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わっても、ホイール部材93aの回転を規制して、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に機械的に維持可能とすることができる。よって、RL,RRモータ91RL,91RRの回転駆動力を解除することができるので、その消費エネルギーの低減を図る。
【0188】
一方、S82の処理において、第m輪オン時サスストロークフラグがオンではない(即ち、オフである)と判断される場合には(S82:No)、第m輪オフ時サスストロークフラグ(第1輪オフ時ストロークフラグ73e1又は第2輪オフ時ストロークフラグ73f1の内の第m輪に対応するフラグ)がオフであるか否かを判断する(S85)。
【0189】
その結果、S82の処理において、第m輪オフ時サスストロークフラグがオンであると判断される場合には(S85:Yes)、第m輪が第1状態(車輪2に付与されたネガティブキャンバが解除された状態)にある懸架装置14のサスストローク量が限界値(キャンバオフ時閾値)以上になっているということであるので、かかる第m輪を懸架する側におけるキャンバ角調整装置45の補正角(角度θoff、図11(a)及び図13(a)参照)を算出し(S86)、その算出した角度θoff分だけホイール部材93aをキャンバ角調整装置45により回転させることで、第m輪におけるホイール軸(ホイール部材93の軸心O1)の角度を補正した後(S87)、S88の処理へ移行する。
【0190】
これにより、第m輪を懸架するキャンバ角調整装置45において、各軸心を軸心O1、軸心O2、軸心O3の順に一直線上に並ばせることができるので(図13(a)参照)、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わっても、ホイール部材93aの回転を規制して、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に機械的に維持可能とすることができる。よって、RL,RRモータ91RL,91RRの回転駆動力を解除することができるので、その消費エネルギーの低減を図る。
【0191】
ここで、第1状態の場合と第2状態の場合とでは(図11参照)、懸架装置14のサスストローク量が同一であっても、機械的な摩擦力でホイール部材93aの回転を規制するために許容できる懸架装置14のサスストローク量が異なる。そのため、第1状態と第2状態とで同じ閾値に基づいて行われたのでは、第1状態では、機械的な摩擦力でホイール部材93aの回転を規制できる範囲であるのに、各モータ91RL,91RRが無駄に作動されることで、消費エネルギーが増加する一方、第2状態では、機械的な摩擦力でホイール部材93aの回転を規制できる範囲を越えているのに、各モータ91RL,91RRによる補正処理がなされず、アッパーアーム42から受ける力によりホイール部材93aが回転されることで、車輪2のキャンバ角の変化を招く。
【0192】
これに対し、本実施の形態では、第1状態の場合と第2状態の場合とのそれぞれに対して異なる閾値(キャンバオフ時閾値およびキャンバオン時閾値)を設定しておき、それら各閾値に基づいて、各懸架装置14のサスストローク量が限界値を超えているかの判断を行う(各フラグのオン・オフを行う)ので(図13参照)、各車輪2のキャンバ角の補正を第1状態と第2状態とにそれぞれ適したタイミングで行うことができる。その結果、各モータ91RL,91RRの無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを効率的に低減することができると共に、アッパーアーム42から受ける力によりホイール部材93aが回転して、車輪2のキャンバ角が変化することを効率的に抑制できる。
【0193】
特に、本実施の形態では、第2状態の場合の閾値(キャンバオン時閾値)の値が、第1状態における閾値(キャンバオフ時閾値)の値よりも小さな値に設定されているので、懸架装置14のサスストローク量の限界値が低い第2状態においては、機械的な摩擦力でホイール部材93aの回転を規制できる範囲を越える前に、各モータ91RL,91RRを作動させて角度θonの補正を行い、アッパーアーム42から受ける力によるホイール部材93aの回転を確実に規制することができる。その結果、キャンバ角の変化を確実に抑制することができる。一方、懸架装置14のサスストローク量の限界値が高い第1状態においては、アッパーアーム42から受ける力に対して機械的な摩擦力でホイール部材93aの回転を規制できる範囲であるのに、各モータ91RL,91RRが無駄に作動されることを抑制して、消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0194】
なお、S84及びS87の各処理において、各車輪2におけるホイール軸(ホイール部材93の軸心O1)の角度の補正は、各軸O1〜O3が一直線上に並ぶように、ホイール部材93aを回転させるので、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わっても、ホイール部材93aが回転することを確実に規制することができる。よって、その後に、懸架装置14のサスストロークが発生した場合でも、かかる補正の再実行を最小限とすることができる。その結果、車輪2のキャンバ角が変化することを抑制しつつ、各モータ91RL,91RRの作動を効率的に抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0195】
S85の処理において、第m輪オフ時サスストロークフラグがオンではない(即ち、オフである)と判断される場合には(S85:No)、第1状態または第2状態によらず、第m輪を懸架する懸架装置14のサスストローク量が未だ限界値(即ち、キャンバオフ時閾値およびキャンバオン時閾値)に達していないということであり、かかる第m輪のキャンバ角調整装置45によるキャンバ角の補正を行う必要がないので、S83、S84、S86及びS87の各処理を実行せず、S88の処理へ移行する。
【0196】
このように、懸架装置14のサスストロークの値が所定の閾値(キャンバオフ時閾値およびキャンバオン時閾値)に達していないと判断される場合(即ち、アッパーアーム42から作用する力の内のホイール部材93aを回転させる力成分よりも、機械的な摩擦力が上回り、かかる機械的な摩擦力によりホイール部材93aの回転を規制できる場合)には、キャンバ角調整装置45によるキャンバ角の補正(S83、S84、S86及びS87)を行わないので、各モータ91RL,91RRの無駄な作動を抑制して、その消費エネルギーを低減することができる。
【0197】
S88の処理では、RAM73に設けられた値mが2に達したか否かを判断する(S88)。その結果、値mが2に達していない(即ち、m=1である)場合には(S88:No)、第2輪(左の後輪2RL)についての各処理S82〜S87が未実行であるということなので、第2輪についてもこれら各処理を実行するべく、値mにm=m+1を書き込んだ後(S89)、S82の処理へ移行する。一方、値mが2に達している(即ち、m=2である)場合には(S88:Yes)、第1輪および第2輪(即ち、左右の後輪2RL,2RR)に対する各処理S82〜S87の実行が完了しているということであるので、この補正処理を終了する。
【0198】
次いで、図17を参照して、第2補正処理(S112)について説明する。図17は、第2補正処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した補正方法決定処理(図15参照)内で実行される処理であり、ホイール部材93aの回転を規制して、車輪2のキャンバ角の変化を抑制するための処理である。
【0199】
CPU71は、第2補正処理(S112)に関し、まず、キャンバ角の設定動作中であるかを判断する(S91)。即ち、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)する、或いはその逆に、左右の後輪2RL,2RRへのネガティブキャンバの付与を解除(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)するために、キャンバ角調整機構45の各モータ91RL,91RRを回転駆動させ、その駆動力によりホイール部材93aを回転させている状態であるかを判断する(S91)。
【0200】
S91の処理の結果、キャンバ角の設定動作中ではないと判断される場合には(S91:No)、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定する設定動作が終了しており、ホイール部材93aは既に停止されている(即ち、第1状態または第2状態に設定されている)ので、かかるホイール部材93aが外力の作用により回転する(回転位置がずれる)ことを抑制するために、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)のサーボロックをオンした後(S92)、この第2補正処理(S112)を終了する。
【0201】
これにより、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)をサーボロック状態として、ホイール部材93aの回転を規制することができる。よって、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)からアッパーアーム42を介してホイール部材93aに入力された外力に対して、ホイール部材93aが第1状態または第2状態から回転される(回転位置がずれる)ことを抑制して、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角から変化することを抑制できる。
【0202】
この場合、ホイール部材93aは、第1状態または第2状態にあるので、通常走行状態では、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TR(図3(b)参照)の軸心O2における接線とを直角に近づけることができる。よって、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わった場合でも、ホイール部材93aを回転させる力成分の発生を抑制できるので、機械的な摩擦力によってもホイール部材93aの回転を規制できる。このように、ホイール部材93aの回転を、サーボロックによる回転規制に加え、機械的な摩擦力によっても、規制することができるので、その分、サーボロックのために消費される各モータ91RL,91RRの消費エネルギーを抑制することができる。
【0203】
一方、S91の処理において、キャンバ角の設定動作中であると判断される場合には(S91:Yes)、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定する設定動作が阻害されることを回避するべく、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)のサーボロックをオフした後(S93)、この第2補正処理を終了する。
【0204】
なお、第2補正処理(S112)では、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)をサーボロック状態とすることによるホイール部材93aの回転の規制を、キャンバ角の設定動作が完了したと判断される場合に常時行うので、外力の作用によりホイール部材93aが回転されることを未然に防止して、車輪2のキャンバ角が変化することを確実に抑制することができる。
【0205】
また、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)をサーボロック状態とすることで、ホイール部材93aの回転を規制する構成なので、かかるキャンバ角調整装置45に、キャンバ角を調整するためにホイール部材93aを回転させるアクチュエータとしての役割と、キャンバ角の変化を抑制するためにホイール部材93aの回転を規制するアクチュエータとしての役割とを兼用させることができる。即ち、キャンバ角を調整するための既存のアクチュエータを利用して、ホイール部材93aの回転を規制して、キャンバ角の変化を抑制することもできるので、ホイール部材93aの回転を規制するための他の構成(例えば、機械的なブレーキ装置など)を別途設けることを不要として、製品コストの低減と軽量化とを図ることができる。また、サーボロックを利用して、ホイール部材93aの回転を規制する構成なので、高応答性を得ることができる。よって、指令を受けてからホイール部材93aの回転を規制するまでの応答時間を短縮することができるので、車輪2のキャンバ角の変化をより確実に抑制することができる。
【0206】
次いで、図18及び図19を参照して、第2実施の形態における車両用制御装置について説明する。第1実施の形態では、第2補正処理において、キャンバ角の設定動作が完了した後はRL,RRモータ91RL,91RRのサーボロックを常時オンする場合を説明したが、第2実施の形態では、第2補正処理において、キャンバ角の設定動作が完了し、かつ、サスストローク量が閾値以上となった場合に、RL,RRモータ91RL,91RRのサーボロックがオンされる。
【0207】
なお、第2実施の形態における車両用制御装置は、第1実施の形態で説明した車両1を制御対象とし、車両用制御装置100と同じ構成を備える。また、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0208】
ここで、本実施の形態における車両用制御装置は、第1実施の形態の場合と同様に、図6に示す駆動制御回路を備える。即ち、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整されキャンバ角調整装置45(図3参照)が第1状態または第2状態に設定されると、上述した短絡回路が形成される。また、サーボロックをオン(図19のS264参照)する際には短絡回路の形成が解除され、サーボロックのオフ(図19のS265参照)に伴い、短絡回路が形成される。これにより、第1実施の形態の場合と同様に、ホイール部材93aの回転に制動をかけることができる。
【0209】
図18は、第2実施の形態におけるサスストローク量判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、左右の後輪2RL,2RRを懸架する懸架装置14の伸縮量(サスストローク)が所定の閾値を超えたか否かを判断する処理である。
【0210】
CPU71は、サスストローク量判断処理に関し、まず、RAM73に設けられた値y(図示せず)にy=1を書き込み(S201)、第y輪のサスストローク量を取得する(S202)。なお、サスストローク量判断処理では、説明の便宜上、第1輪(y=1)を右の後輪2RRと、第2輪(y=2)を左の後輪2RLと、それぞれ定義する。
【0211】
次いで、第y輪を懸架する懸架装置14のサスストローク量がサスストローク閾値以上であるかを判断する(S203)。ここで、「サスストローク閾値」とは、懸架装置14が伸縮した場合に(図11及び図12参照)、アッパーアーム42から入力される外力に対してホイール部材93aの回転を機械的な摩擦力により規制できる懸架装置14の伸縮量の限界値である。
【0212】
よって、懸架装置14のサスストローク量がサスストローク閾値に達していない状態であれば、車輪2に想定最大外力が作用しても、ホイール部材93aの回転は機械的な摩擦力により規制される(各モータ91RL,91RRによる回転駆動力が解除されていてもホイール部材93aが回転されない)。なお、サスストローク閾値は、実車を用いた試験(車輪2に想定最大外力を作用させた際に、ホイール部材93aが回転される限界のサスストロークを求める試験)により測定値として求められており、ROM72に事前に記憶されている。
【0213】
S203の処理において、第y輪のサスストローク量がサスストローク閾値以上であると判断された場合には(S203:Yes)、第y輪を懸架する懸架装置14のサスストローク量が限界値を超えているということなので、第y輪ストロークフラグ(第1輪ストロークフラグ73g1又は第2輪ストロークフラグ73g2の内の第y輪に対応するフラグ)をオンし(S204)、S206の処理へ移行する。
【0214】
一方、S203の処理において、第y輪のサスストローク量がサスストローク閾値以上ではない(即ち、サスストローク閾値に達していない)と判断される場合(S203:No)には、第y輪を懸架する懸架装置14のサスストローク量が限界値に達していないということなので、第y輪ストロークフラグ(第1輪ストロークフラグ73g1又は第2輪ストロークフラグ73g2の内の第y輪に対応するフラグ)をオフした後(S205)、S206の処理へ移行する。
【0215】
S206の処理では、RAM73に設けられた値yが2に達したか否かを判断する(S206)。その結果、値yが2に達していない(即ち、y=1である)場合には(S206:No)、第2輪(左の後輪2RL)についての各処理S202〜S205が未実行であるということなので、第2輪についてもこれら各処理を実行するべく、値yにy=y+1を書き込んだ後(S207)、S202の処理へ移行する。一方、値yが2に達している(即ち、y=2である)場合には(S206:Yes)、第1輪および第2輪(即ち、左右の後輪2RL,2RR)に対する各処理S202〜S205の実行が完了しているということであるので、このサスストローク量判断処理を終了する。
【0216】
次いで、図19を参照して、第2補正処理について説明する。図19は、第2補正処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した補正方法決定処理(図15参照)内で実行される処理であり、各懸架装置14のサスストローク量に応じて、RL,RRモータ91RL,91RRのサーボロック状態を切り替える処理である。
【0217】
CPU71は、第2補正処理に関し、まず、RAM73に設けられた値z(図示せず)にz=1を書き込む(S261)。なお、第2補正処理では、説明の便宜上、第1輪(z=1)を右の後輪2RRと、第2輪(z=2)を左の後輪2RLと、それぞれ定義する。
【0218】
S261の処理の後は、次いで、キャンバ角の設定動作中であるかを判断する(S262)。即ち、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)する、或いはその逆に、左右の後輪2RL,2RRへのネガティブキャンバの付与を解除(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)するために、キャンバ角調整機構45の各モータ91RL,91RRを回転駆動させ、その駆動力によりホイール部材93aを回転させている状態であるかを判断する(S262)。
【0219】
S262の処理の結果、キャンバ角の設定動作中ではないと判断される場合には(S262:No)、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定する設定動作が終了しており、ホイール部材93aは既に停止されている(即ち、第1状態または第2状態に設定されている)。
【0220】
よって、この場合には(S262:No)、第z輪ストロークフラグ(第1輪ストロークフラグ73g1又は第2輪ストロークフラグ73g2の内の第z輪に対応するフラグ)がオンであるかを判断し(S263)、かかる第z輪ストロークフラグがオンであると判断される場合には(S263:Yes)、第z輪に対応するキャンバ角調整装置45(RLモータ91RL又はRRモータ91RR)のサーボロックをオンして(S264)、S266の処理へ移行する。これにより、ホイール部材93aが外力の作用により回転する(回転位置がずれる)ことを抑制しつつ、RLモータ91RL又はRRモータ91RRの無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0221】
即ち、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置する状態から、キャリア部材41の上下動に伴う懸架装置45のサスストロークにより、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置しない状態になると、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TRの軸心O2における接線とが直角ではなくなるが(図11及び図12参照)、キャリア部材41の上下動に伴う懸架装置45のサスストローク量が比較的小さな場合には、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線と軸心O2の回転軌跡TRの軸心O2における接線とのなす角度の変化量は比較的小さいため、アッパーアーム42からホイール部材93aへ加わる力の内、ホイール部材93aを回転させる力成分も比較的小さくなる。そのため、ホイール部材93aを回転させる力成分よりも、機械的な摩擦力が上回り、ホイール部材93aの回転を規制状態(外力に抗する状態)に維持することができる。よって、このような場合にも、RLモータ91RL又はRRモータ91RRを駆動してホイール部材93aの回転の規制を行うことは、かかるRLモータ91RL又はRRモータ91RRの作動を無駄に行うことになる。
【0222】
そこで、本実施の形態では、キャリア部材41の上下動に伴う懸架装置45のサスストローク量の値がサスストローク閾値以上であると判断された場合(即ち、第z輪ストロークフラグがオンされた場合であって、所定の外力が入力された際に、機械的な摩擦力ではホイール部材93aの回転を規制できない程度にキャリア部材41の変位量(サスストローク量)が大きいと判断される場合)に(S263:Yes)、サーボロックをオンして(S264)、ホイール部材93aの回転の規制を行うので、RLモータ91RL又はRRモータ91RRの無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0223】
また、このように、キャリア部材41の上下動に伴う懸架装置45のサスストローク量の値がサスストローク閾値以上であると判断された場合には(S263:Yes)、サーボロックをオンして(S264)、ホイール部材93aの回転の規制を行っておくことで、外力の作用によりホイール部材93aが回転される(回転位置がずれる)ことを未然に防止して、車輪2のキャンバ角が変化することをより確実に抑制することができる。
【0224】
一方、S262の処理の結果、キャンバ角の設定動作中であると判断される場合には(S262:Yes)、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定する設定動作が阻害されることを回避するべく、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)のサーボロックをオフした後(S265)、S266の処理へ移行する。
【0225】
また、S263の処理において、第z輪ストロークフラグがオンではない、即ち、オフであると判断される場合には(S263:No)、キャリア部材41の上下動に伴う懸架装置45のサスストローク量が比較的小さく、機械的な摩擦力によって、ホイール部材93aの回転を規制状態(外力に抗する状態)に維持することができると考えられるため、RLモータ91RL又はRRモータ91RRの作動を無駄に行うことを回避するべく、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)のサーボロックをオフした後(S265)、S266の処理へ移行する。
【0226】
S266の処理では、RAM73に設けられた値zが2に達したか否かを判断する(S266)。その結果、値zが2に達していない(即ち、z=1である)場合には(S266:No)、第2輪(左の後輪2RL)についての各処理S262〜S265が未実行であるということなので、第2輪についてもこれら各処理を実行するべく、値zにz=z+1を書き込んだ後(S267)、S262の処理へ移行する。一方、値zが2に達している(即ち、z=2である)場合には(S266:Yes)、第1輪および第2輪(即ち、左右の後輪2RL,2RR)に対する各処理S262〜S265の実行が完了しているということであるので、この第2補正処理を終了する。
【0227】
次いで、図20及び図21を参照して、第3実施の形態における車両用制御装置について説明する。第1実施の形態では、第2補正処理において、キャンバ角の設定動作が完了した後はRL,RRモータ91RL,91RRのサーボロックを常時オンする場合を説明したが、第3実施の形態では、第2補正処理において、キャンバ角の設定動作が完了し、かつ、外力の作用によるホイール部材93aの回転量(ずれ量)が閾値以上となった場合に、RL,RRモータ91RL,91RRのサーボロックがオンされる。
【0228】
なお、第3実施の形態における車両用制御装置は、第1実施の形態で説明した車両1を制御対象とし、車両用制御装置100と同じ構成を備える。また、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0229】
ここで、本実施の形態における車両用制御装置は、第1実施の形態の場合と同様に、図6に示す駆動制御回路を備える。即ち、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整されキャンバ角調整装置45(図3参照)が第1状態または第2状態に設定されると、上述した短絡回路が形成される。また、サーボロックをオン(図21のS364参照)する際には短絡回路の形成が解除され、サーボロックのオフ(図21のS365参照)に伴い、短絡回路が形成される。これにより、第1実施の形態の場合と同様に、ホイール部材93aの回転に制動をかけることができる。
【0230】
図20は、第3実施の形態におけるホイールずれ量判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、外力の作用によるホイール部材93aの回転量(ずれ量)が所定の閾値を超えたか否かを判断する処理である。
【0231】
CPU71は、ホイールずれ量判断処理に関し、まず、RAM73に設けられた値q(図示せず)にq=1を書き込み(S301)、第q輪を懸架する懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量を取得する(S302)。ここで、ホイールずれ量とは、ホイール部材93aの回転位置(位相)が、第1状態または第2状態に調整された状態を初期位置とし、外力の作用によりホイール部材93aが回転された(ずれた)場合の初期位置からの回転量である。なお、ホイールずれ量判断処理では、説明の便宜上、第1輪(q=1)を右の後輪2RRと、第2輪(q=2)を左の後輪2RLと、それぞれ定義する。
【0232】
次いで、第q輪を懸架する懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量が、ホイールずれ閾値以上であるかを判断する(S303)。ここで、「ホイールずれ閾値」とは、懸架装置14がサスストロークしていない状態(即ち、車両1の重量以外の外力が作用していない通常走行状態)において、ホイール部材93aに対して、所定の大きさの外力(基準外力)をアッパーアーム42から入力した場合に、ホイール部材93aの回転を機械的な摩擦力により規制できるホイール部材93aのホイールずれ量の限界値である。
【0233】
よって、ホイール部材93aのホイールずれ量がホイールずれ閾値に達していない状態であれば、車輪2に基準外力が作用しても、ホイール部材93aの回転は機械的な摩擦力により規制される(各モータ91RL,91RRによる回転駆動力が解除されていてもホイール部材93aが回転されない)。なお、ホイールずれ閾値は、実車を用いた試験(車輪2に基準外力を作用させた際に、ホイール部材93aが回転される限界のホイールずれ量を求める試験)により測定値として求められており、ROM72に事前に記憶されている。
【0234】
S303の処理において、第q輪のホイールずれ量がホイールずれ閾値以上であると判断された場合には(S303:Yes)、第q輪を懸架する懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量が限界値を超えているということなので、第q輪ホイールずれフラグ(第1輪ホイールずれフラグ73h1又は第2輪ホイールずれフラグ73h2の内の第q輪に対応するフラグ)をオンし(S304)、S306の処理へ移行する。
【0235】
一方、S303の処理において、第q輪のホイールずれ量がホイールずれ閾値以上ではない(即ち、ホイールずれ閾値に達していない)と判断される場合(S203:No)には、第q輪を懸架する懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量が限界値に達していないということなので、第q輪ホイールずれフラグ(第1輪ホイールずれフラグ73h1又は第2輪ホイールずれフラグ73h2の内の第q輪に対応するフラグ)をオフした後(S305)、S306の処理へ移行する。
【0236】
S306の処理では、RAM73に設けられた値qが2に達したか否かを判断する(S306)。その結果、値qが2に達していない(即ち、q=1である)場合には(S306:No)、第2輪(左の後輪2RL)についての各処理S302〜S305が未実行であるということなので、第2輪についてもこれら各処理を実行するべく、値qにq=q+1を書き込んだ後(S307)、S302の処理へ移行する。一方、値qが2に達している(即ち、q=2である)場合には(S306:Yes)、第1輪および第2輪(即ち、左右の後輪2RL,2RR)に対する各処理S302〜S305の実行が完了しているということであるので、このサスストローク量判断処理を終了する。
【0237】
次いで、図21を参照して、第2補正処理について説明する。図21は、第2補正処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した補正方法決定処理(図15参照)内で実行される処理であり、各懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量に応じて、RL,RRモータ91RL,91RRのサーボロック状態を切り替える処理である。
【0238】
CPU71は、第2補正処理に関し、まず、RAM73に設けられた値r(図示せず)にr=1を書き込む(S361)。なお、第2補正処理では、説明の便宜上、第1輪(r=1)を右の後輪2RRと、第2輪(r=2)を左の後輪2RLと、それぞれ定義する。
【0239】
S361の処理の後は、次いで、キャンバ角の設定動作中であるかを判断する(S362)。即ち、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)する、或いはその逆に、左右の後輪2RL,2RRへのネガティブキャンバの付与を解除(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)するために、キャンバ角調整機構45の各モータ91RL,91RRを回転駆動させ、その駆動力によりホイール部材93aを回転させている状態であるかを判断する(S362)。
【0240】
S362の処理の結果、キャンバ角の設定動作中ではないと判断される場合には(S362:No)、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定する設定動作が終了しており、ホイール部材93aは既に停止されている(即ち、第1状態または第2状態に設定されている)。
【0241】
よって、この場合には(S362:No)、第r輪ホイールずれフラグ(第1輪ホイールずれフラグ73h1又は第2輪ホイールずれフラグ73h2の内の第r輪に対応するフラグ)がオンであるかを判断し(S363)、かかる第r輪ホイールずれフラグがオンであると判断される場合には(S363:Yes)、第r輪に対応するキャンバ角調整装置45(RLモータ91RL又はRRモータ91RR)のサーボロックをオンして(S364)、S366の処理へ移行する。これにより、ホイール部材93aが外力の作用により回転する(回転位置がずれる)ことを抑制しつつ、RLモータ91RL又はRRモータ91RRの無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0242】
即ち、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置する状態から、外力の作用によりホイール部材93aが回転され(回転位置がずれ)、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置しない状態になると、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TRの軸心O2における接線とが直角ではなくなるが、そのホイール部材93aのホイールずれ量が比較的小さな場合には、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線と軸心O2の回転軌跡TRの軸心O2における接線とのなす角度の変化量は比較的小さいため、アッパーアーム42からホイール部材93aへ加わる力の内、ホイール部材93aを回転させる力成分も比較的小さくなる。そのため、ホイール部材93aを回転させる力成分よりも、機械的な摩擦力が上回り、ホイール部材93aの回転を規制状態(外力に抗する状態)に維持することができる。よって、このような場合にも、RLモータ91RL又はRRモータ91RRを駆動してホイール部材93aの回転の規制を行うことは、かかるRLモータ91RL又はRRモータ91RRの作動を無駄に行うことになる。
【0243】
そこで、本実施の形態では、外力の作用によるホイール部材93aのホイールずれ量の値がホイールずれ閾値以上であると判断された場合(即ち、第r輪ホイールずれフラグがオンされた場合であって、所定の外力が入力された際に、機械的な摩擦力ではホイール部材93aの回転を規制できない程度に、ホイール部材93aのホイールずれ量が大きいと判断される場合)に(S363:Yes)、サーボロックをオンして(S364)、ホイール部材93aの回転の規制を行うので、RLモータ91RL又はRRモータ91RRの無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0244】
一方、S362の処理の結果、キャンバ角の設定動作中であると判断される場合には(S362:Yes)、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定する設定動作が阻害されることを回避するべく、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)のサーボロックをオフした後(S365)、S366の処理へ移行する。
【0245】
また、S363の処理において、第r輪ホイールずれフラグがオンではない、即ち、オフであると判断される場合には(S363:No)、ホイール部材93aのホイールずれ量が比較的小さく、機械的な摩擦力によって、ホイール部材93aの回転を規制状態(外力に抗する状態)に維持することができると考えられるため、RLモータ91RL又はRRモータ91RRの作動を無駄に行うことを回避するべく、キャンバ角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)のサーボロックをオフした後(S365)、S366の処理へ移行する。
【0246】
S366の処理では、RAM73に設けられた値rが2に達したか否かを判断する(S366)。その結果、値rが2に達していない(即ち、r=1である)場合には(S366:No)、第2輪(左の後輪2RL)についての各処理S362〜S365が未実行であるということなので、第2輪についてもこれら各処理を実行するべく、値rにr=r+1を書き込んだ後(S367)、S362の処理へ移行する。一方、値rが2に達している(即ち、r=2である)場合には(S366:Yes)、第1輪および第2輪(即ち、左右の後輪2RL,2RR)に対する各処理S362〜S365の実行が完了しているということであるので、この第2補正処理を終了する。
【0247】
次いで、図22から図24を参照して、第4実施の形態における車両用制御装置について説明する。第1実施の形態では、第2補正処理において、キャンバ角の設定動作が完了した後はRL,RRモータ91RL,91RRのサーボロックをオンすることで、ホイール部材93aの回転を規制する場合を説明したが、第4実施の形態では、第2補正処理において、キャンバ角の設定動作が完了し、かつ、外力の作用によるホイール部材93aの回転量(ずれ量)が閾値以上となった場合に、ホイール部材93aの回転位置を初期位置に回転させる。
【0248】
なお、第4実施の形態における車両用制御装置は、第1実施の形態で説明した車両1を制御対象とし、車両用制御装置100と同じ構成を備える。また、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0249】
ここで、本実施の形態における車両用制御装置は、第1実施の形態の場合と同様に、図6に示す駆動制御回路を備える。即ち、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整されキャンバ角調整装置45(図3参照)が第1状態または第2状態に設定されると、上述した短絡回路が形成される。また、キャンバ角調整装置45の作動による補正時(図24のS485及びS486参照)に短絡回路の形成が解除され、その補正動作の終了に伴い、短絡回路が形成される。これにより、第1実施の形態の場合と同様に、ホイール部材93aの回転に制動をかけることができる。
【0250】
図22は、第4実施の形態における懸架装置14を模式的に図示する模式図であり、図22(a)は、第1状態における懸架装置14を、図22(b)は、第2状態における懸架装置14を、それぞれ模式的に図示する。なお、図22(a)及び図22(b)では、懸架装置14が短縮された図11(a)及び図11(b)に対応する状態(即ち、ホイール部材93aが外力の作用により回転される(回転位置がずれる)前の状態)が実線により、その状態から外力の作用により回転された(回転位置がずれた)後の状態が破線により、それぞれ図示されている。即ち、図11(a)及び図11(b)の破線で図示される状態が、図22(a)及び図22(b)では実線で図示されている。
【0251】
上述したように、キャリア部材41をバウンド方向へ移動させる変位が懸架装置14に入力されると、かかるキャリア部材41の変位に伴い、アッパーアーム42が軸心O2を回転中心として回転される(図11(a)参照)。これにより、図22(a)に実線で示すように、軸心O1、軸心O2及び軸心O3が一直線上に並ばなくなり、軸心O1及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線とが所定の角度を有する。
【0252】
よって、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、回転軌跡TRの軸心O2における接線とが直角をなさなくなる。そのため、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わると、ホイール部材93aを回転させる力成分が発生して、ホイール部材93aが回転し、その結果、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角から変化してしまう。
【0253】
即ち、図22(a)に実線で示す状態から、アッパーアーム42をホイール部材93aへ押し付ける方向への外力が、アッパーアーム42からホイール部材93aへ作用されると、軸心O2を図22(a)下方へ移動させる方向の力成分が発生して、その力成分により、ホイール部材93aが図22(a)時計回りに回転される。一方、アッパーアーム42をホイール部材93aから離間させる方向への外力が、アッパーアーム42からホイール部材93aへ作用されると、軸心O2を図22(a)上方へ移動させる方向の力成分が発生して、その力成分により、ホイール部材93aが図22(a)反時計回りに回転される。その結果、図22(a)に破線で示すように、ホイール部材93aの回転位置がずれた状態となり、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角から変化する。
【0254】
そこで、本実施の形態では、外力の作用によりホイール部材93aの回転位置がずれた場合には、第2補正処理(図24参照)において、ホイール部材93aを、図22(a)に矢印で示すように、外力の作用によりずれた方向とは逆方向へ回転させ、初期位置(即ち、第1状態となる位置)へ戻す補正処理を実行する。これにより、ホイール部材93aを機械的な摩擦力による回転規制を利用し易い位置に配置して、RL,RRモータ91RL,91RRの消費エネルギーの低減を図ることができる。また、かかる初期位置(第1状態となる位置)へのホイール部材93aの回転は、特に、懸架装置14が伸縮されていない状態(即ち、車両1の重量以外の外力が作用しないしていない通常走行状態)では、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TRの軸心O2における接線とを直角に近づける方向への回転であるため、その回転に必要なRL,RRモータ91RL,91RRの駆動力を小さくすることができ、この点からも、消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0255】
一方、第2状態の場合も、キャリア部材41をバウンド方向へ移動させる変位が懸架装置14に入力されると、第1状態の場合と同様に、アッパーアーム42が軸心O2を回転中心として回転され(図11(b)参照)、図22(b)に実線で示すように、軸心O1及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線とが所定の角度を有する。そのため、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、回転軌跡TRの軸心O2における接線とが直角をなさなくなり、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わると、ホイール部材93aが回転して、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角から変化する。
【0256】
即ち、図22(b)に実線で示す状態から、アッパーアーム42をホイール部材93aへ押し付ける方向への外力が、アッパーアーム42からホイール部材93aへ作用されると、軸心O2を図22(b)下方へ移動させる方向の力成分が発生して、その力成分により、ホイール部材93aが図22(b)反時計回りに回転される。一方、アッパーアーム42をホイール部材93aから離間させる方向への外力が、アッパーアーム42からホイール部材93aへ作用されると、軸心O2を図22(b)上方へ移動させる方向の力成分が発生して、その力成分により、ホイール部材93aが図22(b)時計回りに回転される。その結果、図22(b)に破線で示すように、ホイール部材93aの回転位置がずれた状態となり、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角から変化する。
【0257】
本実施の形態では、この場合も、第1状態の場合と同様に、第2補正処理(図24参照)において、ホイール部材93aを、図22(b)に矢印で示すように、外力の作用によりずれた方向とは逆方向へ回転させ、初期位置(即ち、第2状態となる位置)へ戻す補正処理を実行し、ホイール部材93aの回転を規制しつつ、消費エネルギーの低減を図る。
【0258】
図23は、ホイールずれ量判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、外力の作用によるホイール部材93aの回転量(ずれ量)が所定の閾値を超えたか否かを判断する処理である。
【0259】
CPU71は、ホイールずれ量判断処理に関し、まず、RAM73に設けられた値s(図示せず)にs=1を書き込み(S471)、第s輪を懸架する懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量を取得する(S472)。ここで、ホイールずれ量とは、ホイール部材93aの回転位置(位相)が、第1状態または第2状態に調整された状態を初期位置とし、外力の作用によりホイール部材93aが回転された(ずれた)場合の初期位置からの回転量である。なお、ホイールずれ量判断処理では、説明の便宜上、第1輪(s=1)を右の後輪2RRと、第2輪(s=2)を左の後輪2RLと、それぞれ定義する。
【0260】
次いで、第s輪を懸架する懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量が、ホイールずれ閾値以上であるかを判断する(S473)。ここで、「ホイールずれ閾値」とは、懸架装置14がサスストロークしていない状態(即ち、車両1の重量以外の外力が作用していない通常走行状態)において、ホイール部材93aに対して、所定の大きさの外力(基準外力)をアッパーアーム42から入力した場合に、ホイール部材93aの回転を機械的な摩擦力により規制できるホイール部材93aのホイールずれ量の限界値である。
【0261】
よって、ホイール部材93aのホイールずれ量がホイールずれ閾値に達していない状態であれば、車輪2に基準外力が作用しても、ホイール部材93aの回転は機械的な摩擦力により規制される(各モータ91RL,91RRによる回転駆動力が解除されていてもホイール部材93aが回転されない)。なお、ホイールずれ閾値は、実車を用いた試験(車輪2に基準外力を作用させた際に、ホイール部材93aが回転される限界のホイールずれ量を求める試験)により測定値として求められており、ROM72に事前に記憶されている。
【0262】
S473の処理において、第s輪のホイールずれ量がホイールずれ閾値以上であると判断された場合には(S473:Yes)、第s輪を懸架する懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量が限界値を超えているということなので、第s輪ホイールずれフラグ(第1輪ホイールずれフラグ73h1又は第2輪ホイールずれフラグ73h2の内の第s輪に対応するフラグ)をオンし(S474)、S476の処理へ移行する。
【0263】
一方、S473の処理において、第s輪のホイールずれ量がホイールずれ閾値以上ではない(即ち、ホイールずれ閾値に達していない)と判断される場合(S473:No)には、第s輪を懸架する懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量が限界値に達していないということなので、第s輪ホイールずれフラグ(第1輪ホイールずれフラグ73h1又は第2輪ホイールずれフラグ73h2の内の第s輪に対応するフラグ)をオフした後(S475)、S476の処理へ移行する。
【0264】
S476の処理では、RAM73に設けられた値sが2に達したか否かを判断する(S476)。その結果、値sが2に達していない(即ち、s=1である)場合には(S476:No)、第2輪(左の後輪2RL)についての各処理S472〜S475が未実行であるということなので、第2輪についてもこれら各処理を実行するべく、値sにs=s+1を書き込んだ後(S477)、S472の処理へ移行する。一方、値sが2に達している(即ち、s=2である)場合には(S476:Yes)、第1輪および第2輪(即ち、左右の後輪2RL,2RR)に対する各処理S472〜S475の実行が完了しているということであるので、このサスストローク量判断処理を終了する。
【0265】
図24は、第2補正処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した補正方法決定処理(図15参照)内で実行される処理であり、各懸架装置14におけるホイール部材93aのホイールずれ量に応じて、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)におけるホイール軸(ホイール部材93の軸心O1)の角度を補正する処理である。
【0266】
CPU71は、第2補正処理に関し、まず、RAM73に設けられた値t(図示せず)にt=1を書き込む(S481)。なお、第2補正処理では、説明の便宜上、第1輪(t=1)を右の後輪2RRと、第2輪(t=2)を左の後輪2RLと、それぞれ定義する。
【0267】
S481の処理の後は、次いで、キャンバ角の設定動作中であるかを判断する(S482)。即ち、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)する、或いはその逆に、左右の後輪2RL,2RRへのネガティブキャンバの付与を解除(キャンバ角を第1キャンバ角(0°)から第2キャンバ角(−3°)に変更)するために、キャンバ角調整機構45の各モータ91RL,91RRを回転駆動させ、その駆動力によりホイール部材93aを回転させている状態であるかを判断する(S482)。
【0268】
S482の処理の結果、キャンバ角の設定動作中ではないと判断される場合には(S482:No)、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定する設定動作が終了しており、ホイール部材93aは既に停止されている(即ち、第1状態または第2状態に設定されている)ので、次いで、第t輪ホイールずれフラグ(第1輪ホイールずれフラグ73h1又は第2輪ホイールずれフラグ73h2の内の第t輪に対応するフラグ)がオンであるかを判断する(S483)。
【0269】
S483の処理の結果、第t輪ホイールずれフラグがオンであると判断される場合には(S483:Yes)、外力の作用によりホイール部材93aが回転され(回転位置がずれ)、そのホイール部材93aの回転位置を補正する必要があるということである。よって、この場合には(S483:Yes)、ホイール部材93aを第1状態か第2状態のいずれの状態へ補正するかを決定するべく(図12参照)、キャンバフラグ73aがオンであるかを判断する(S484)。
【0270】
S484の処理の結果、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合には(S484:Yes)、外力の作用によりホイール部材93aの回転(回転位置のずれ)が発生する前においては、車輪2のキャンバ角は第2キャンバ角に調整されており、ホイール部材93aは第2状態にあったということなので、第t輪に対応するホイール部材93aを図12(b)に矢印で示すように初期位置(即ち、第2状態となる位置)に補正して(S485)、S487の処理へ移行する。
【0271】
一方、S484の処理の結果、キャンバフラグ73aがオンではない、即ち、オフであると判断される場合には(S484:No)、外力の作用によりホイール部材93aの回転(回転位置のずれ)が発生する前においては、車輪2のキャンバ角は第1キャンバ角に調整されており、ホイール部材93aは第1状態にあったということなので、第t輪に対応するホイール部材93aを図12(a)に矢印で示すように初期位置(即ち、第1状態となる位置)に補正して(S486)、S487の処理へ移行する。
【0272】
これにより、ホイール部材93aを、機械的な摩擦力によって回転を規制し易い初期位置(即ち、第1状態または第2状態となる位置)に位置させる(戻す)ことができる。即ち、ホイール部材93aの回転位置が初期位置に戻ることで、機械的な摩擦力による回転規制を再度利用することができるので、RL,RRモータ91RL,91RRの駆動力を解除することができ、その結果、消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0273】
また、このように、初期位置(第1状態または第2状態となる位置)へのホイール部材93aの回転は、特に、懸架装置14が伸縮されていない状態(即ち、車両1の重量以外の外力が作用しないしていない通常走行状態)では、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TRの軸心O2における接線とを直角に近づける方向への回転であるため、その回転に必要なRL,RRモータ91RL,91RRの駆動力を小さくすることができ、この点からも、消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0274】
なお、この場合の補正の方法として、次の方法も考えられる。即ち、キャリア部材41の上下動に伴うアッパーアーム42の変位(軸心O2を回転中心とする回転)に追従させ、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置するようにホイール部材93aを回転させる補正によっても、機械的な摩擦力によりホイール部材93aの回転を規制することができる。しかしながら、この補正の方法では、アッパーアーム42の変位に追従させてホイール部材93aを回転させる必要があるため、RL,RRモータ91RL,91RRの駆動に高応答性が要求されると共にその駆動時間も長くなり、消費エネルギーの増加を招く。
【0275】
これに対し、本実施の形態では、アッパーアーム42の変位にホイール部材93aの回転を追従させる必要がないので、RL,RRモータ91RL,91RRの駆動に対する応答性の要求を低くしつつ、その駆動時間も短縮することができ、その分、消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0276】
ここで、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置する状態から、外力の作用によりホイール部材93aが回転され(回転位置がずれ)、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置しない状態になると(図12参照)、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TRの軸心O2における接線とが直角ではなくなるが、そのホイール部材93aのホイールずれ量が比較的小さな場合には、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線と軸心O2の回転軌跡TRの軸心O2における接線とのなす角度の変化量は比較的小さいため、アッパーアーム42からホイール部材93aへ加わる力の内、ホイール部材93aを回転させる力成分も比較的小さくなる。そのため、ホイール部材93aを回転させる力成分よりも、機械的な摩擦力が上回り、ホイール部材93aの回転を規制状態(外力に抗する状態)に維持することができる。よって、このような場合にも、RLモータ91RL又はRRモータ91RRを駆動して、ホイール部材93aの回転位置を初期位置へ戻す補正を行うことは、かかるRLモータ91RL又はRRモータ91RRの作動を無駄に行うことになる。
【0277】
そこで、本実施の形態では、外力の作用によるホイール部材93aのホイールずれ量の値がホイールずれ閾値以上であると判断された場合に(S484:Yes)、RLモータ91RL又はRRモータ91RRを駆動して、ホイール部材93aの回転位置を初期位置へ戻す補正を行うので(S485又はS486)、RLモータ91RL又はRRモータ91RRの無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0278】
S487の処理では、RAM73に設けられた値tが2に達したか否かを判断する(S487)。その結果、値tが2に達していない(即ち、t=1である)場合には(S487:No)、第2輪(左の後輪2RL)についての各処理S482〜S486が未実行であるということなので、第2輪についてもこれら各処理を実行するべく、値tにt=t+1を書き込んだ後(S488)、S482の処理へ移行する。一方、値tが2に達している(即ち、t=2である)場合には(S487:Yes)、第1輪および第2輪(即ち、左右の後輪2RL,2RR)に対する各処理S482〜S486の実行が完了しているということであるので、この第2補正処理を終了する。
【0279】
なお、図10に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項1記載のキャンバ角設定手段としてはS43,S47,S50及びS53の処理が、図15に示すフローチャート(補正方法決定処理)において、請求項1記載の運動状態判断処理としてはS101からS110の処理が、図16に示すフローチャート(第1補正処理)において、請求項1記載の第1補正手段としてはS84及びS87の処理が、図17に示すフローチャート(第2補正処理)において、請求項1記載の第2補正手段としてはS92及びS93の処理が、請求項4記載の回転規制手段としてはS92及びS93の処理が、図19に示すフローチャート(第2補正処理)において、請求項1記載の第2補正手段としてはS264及びS265の処理が、請求項4記載の回転規制手段としてはS264及びS265の処理が、図21に示すフローチャート(第2補正処理)において、請求項1記載の第2補正手段としてはS364及びS365の処理が、請求項4記載の回転規制手段としてはS364及びS365の処理が、図23に示すフローチャート(ホイールずれ量判断処理)において、請求項6記載の回転判断手段としてはS473の処理が、それぞれ該当する。
【0280】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0281】
上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。例えば、上記各実施の形態で説明した第1キャンバ角および第2キャンバ角の値は任意に設定することができる。
【0282】
上記実施の形態では、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角をキャンバ角調整装置45により調整する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、これに替えて又はこれに加えて、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角をキャンバ角調整装置45により調整することは当然可能である。
【0283】
上記実施の形態では、第1状態および第2状態のいずれにおいても、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1状態または第2状態の一方のみにおいて、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置し、第1状態または第2状態の他方においては、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置しないように制御することは当然可能である。
【0284】
上記実施の形態では、キャンバ角調整機構45が、アッパーアーム42と車体BFとの間に介装される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ロアアーム43と車体BFとの間にキャンバ角調整機構45を介装しても良い。
【0285】
上記各実施の形態では、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定された後は、図17に示す第2補正処理を除き、第1補正処理または第2補正処理により補正が行われるまでの期間、ホイール部材93aへのRL,RRモータ91RL,91RRからの駆動力が解除される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、かかる期間においても、ホイール部材93aへRL,RRモータ91RL,91RRから駆動力が連続的または断続的に付与されるようにしても良い。
【0286】
上記各実施の形態では、補正方法決定処理のS101からS103の各処理において、操作部材(アクセルペダル61、ブレーキペダル62或いはステアリング63)の操作量に基づいて、車両1の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであるかを判断したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の状態量に基づいて判断することは当然可能である。他の状態量としては、例えば、操作部材の操作速度や操作加速度が例示される。
【0287】
上記第2実施の形態における第2補正処理では、後輪2RL,2RRを懸架する懸架装置14におけるサスストローク量がストローク閾値以上となった場合に、対応するRL,RRモータ91RL,91RRのサーボロックをオンしたが、必ずしもこれに限られるものではなく、前輪2FL,2FRを懸架する懸架装置4におけるサスストローク量が所定の閾値以上となった場合に、対応するRL,RRモータ91RL,91RR(例えば、右の前輪2FRにおけるサスストローク量が所定の閾値以上となったら、右の後輪2RRにおけるRRモータ91RR)のサーボロックをオンするようにしても良い。例えば、段差などの通過に伴い、前輪がサスストロークした場合には、次いで、後輪も段差を通過する可能性が高いので、このように前輪のサスストローク量に応じて、後輪側をサーボロックすることで、ホイール部材93aの回転規制を事前に行っておけるので、そのホイール部材93aの回転位置のずれをより確実に抑制できる。
【0288】
以下に、本発明の車両用制御装置に加えて、上記実施形態に含まれる各種発明の概念を示す。請求項1記載の車両制御装置において、前記キャリア部材が上下動した際の変位量を取得する変位量取得手段と、その変位量取得手段により検出された変位量の値が閾値以上であるかを判断する変位量判断手段と、を備え、その変位量判断手段により前記変位量の値が閾値以上であると判断された場合に、前記第1補正手段による前記回転駆動手段の作動が行われることを特徴とする車両用制御装置A1。
【0289】
車両用制御装置A1によれば、請求項1記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、キャリア部材が上下動した際の変位量を検出する変位量取得手段と、その変位量取得手段により取得された変位量の値が閾値以上であるかを判断する変位量判断手段とを備え、その変位量判断手段によりキャリア部材の変位量の値が閾値以上であると判断された場合に、第1補正手段による回転駆動手段の作動が行われるので、回転駆動手段の無駄な作動を抑制して、その消費エネルギーを低減することができるという効果がある。
【0290】
即ち、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置する状態から、キャリア部材が車体に対して上下動して、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置しない状態になったとしても、キャリア部材の変位量が比較的小さな場合には、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とが直角ではなくなるが、それら直線と接線とのなす角度は比較的小さいため、第1サスペンションアームからホイール部材へ加わった力の内、ホイール部材を回転させる力成分も比較的小さくなる。そのため、ホイール部材を回転させる力成分よりも、機械的な摩擦力が上回り、ホイール部材の回転を規制することができる。よって、このような場合にも、第1補正手段による回転駆動手段の作動を行うことは、かかる回転駆動手段の作動を無駄に行うことになる。
【0291】
これに対し、車両用制御措置A1では、変位量判断手段によりキャリア部材の変位量の値が閾値以上であると判断された場合(即ち、機械的な摩擦力ではホイール部材の回転を規制できない程度にキャリア部材の変位量が大きい場合)に、第1補正手段による回転駆動手段の作動を行うので、回転駆動手段の無駄な作動を抑制して、その消費エネルギーを低減することができる。
【0292】
車両用制御装置A1において、前記変位量判断手段による判断は、前記各軸が前記他端連結軸、偏心連結軸およびホイール軸の順に並ぶ第1状態の場合と、前記各軸が前記他端連結軸、ホイール軸および偏心連結軸の順に並ぶ第2状態の場合とで、異なる大きさの閾値に基づいて行われることを特徴とする車両用制御装置A2。
【0293】
車両用制御装置A2によれば、車両用制御装置A1の奏する効果に加え、変位量判断手段による判断は、各軸が他端連結軸、偏心連結軸およびホイール軸の順に並ぶ第1状態の場合と、各軸が他端連結軸、ホイール軸および偏心連結軸の順に並ぶ第2状態の場合とで、異なる大きさの閾値に基づいて行われるので、回転駆動手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを効率的に低減することができると共に、ホイール部材が回転して、車輪のキャンバ角が変化することを効率的に抑制することができるという効果がある。
【0294】
即ち、第1状態の場合と第2状態の場合とでは、キャリア部材の変位量が同一であっても、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とのなす角度がそれぞれ異なる角度となる。そのため、第1状態と第2状態とでは、機械的な摩擦力でホイール部材の回転を規制するために許容できるキャリア部材の変位量が異なることとなるため、変位量判断手段による判断が第1状態と第2状態とで同じ閾値に基づいて行われたのでは、例えば、第1状態(又は第2状態)では、機械的な摩擦力でホイール部材の回転を規制できる範囲であるのに、回転駆動手段が無駄に作動されることで、消費エネルギーが増加する一方、第2状態(又は第1状態)では、機械的な摩擦力でホイール部材の回転を規制できる範囲を越えているのに、回転駆動手段の作動がなされず、ホイール部材が回転されることで、車輪のキャンバ角の変化を招く。
【0295】
これに対し、車両用制御装置A2では、第1状態の場合と第2状態の場合とにそれぞれ対応した閾値に基づいて、変位量判断手段の判断を行うことができるので、補正手段による回転駆動手段の作動を第1状態と第2状態とにそれぞれ適したタイミングで行うことができる。その結果、回転駆動手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを効率的に低減することができると共に、ホイール部材が回転して、車輪のキャンバ角が変化することを効率的に抑制することができる。
【0296】
請求項1記載の車両用制御装置または車両用制御装置A1若しくはA2において、前記回転駆動手段は、電動モータと、その電動モータの両端子を短絡する短絡回路と、を備え、少なくとも前記第1状態または第2状態において、前記電動モータの両端子が前記短絡回路により短絡されることを特徴とする車輌用制御装置A3。
【0297】
車両用制御装置A3によれば、請求項1記載の車両用制御装置または車両用制御装置A1若しくはA2の奏する効果に加え、回転駆動手段は、電動モータと、その電動モータの両端子を短絡する短絡回路とを備え、少なくとも前記第1状態または第2状態において、電動モータの両端子が短絡回路により短絡されるので、かかる短絡状態で電動モータが回転された場合に、電動モータにより発電された電流を短絡回路に流し、その発電電流により電動モータの回転に制動をかけることができる。これにより、第1サスペンションアームからホイール部材へ力が加わり、ホイール部材が回転される場合に、そのホイール部材の回転に制動をかけることができる。よって、例えば、キャリア部材の上下動として比較的短時間に大きな変位が入力され、補正手段による回転駆動手段の作動が間に合わないような場合に、ホイール部材に制動をかけることができ、その結果、車輪のキャンバ角が変化することを抑制することができるという効果がある。
【0298】
車両用制御装置A2において、前記車両は、前記第1サスペンションアームがアッパーアームとして前記ホイール部材と前記キャリア部材とを連結すると共に、前記第2サスペンションアームがロアアームとして前記第1サスペンションの下方に対向配置されつつ前記車体とキャリア部材とを連結することで構成されたダブルウィッシュボーン式サスペンション構造により前記車輪を懸架し、前記変位量判断手段による判断は、前記第1状態の場合よりも、第2状態の場合の方が小さな値の閾値に基づいて行われることを特徴とする車両用制御装置A4。
【0299】
車両用制御装置A4によれば、車両用制御装置A2の奏する効果に加え、車両は、第1サスペンションアームがアッパーアームとしてホイール部材とキャリア部材とを連結すると共に、第2サスペンションアームがロアアームとして第1サスペンションの下方に対向配置されつつ車体とキャリア部材とを連結することで構成されたダブルウィッシュボーン式サスペンション構造により車輪を懸架するので、ストロークする際のキャンバ角の変化を抑制することができるという効果がある。
【0300】
また、ホイール部材に連結される第1サスペンションアームがアッパーアームとして構成されているので、ロアアーム側となる第2サスペンションアームに連結される場合と比較して、車輪の接地面側を支点として車輪のキャンバ角を調整する動作を行うことができるので、かかるキャンバ角を調整するための駆動力を低減することができるという効果がある。
【0301】
この場合、キャリア部材の変位量が同一であっても、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とのなす角度は、第1状態の場合よりも第2状態の場合の方が大きな角度となる。即ち、機械的な摩擦力でホイール部材の回転を規制するために許容できるキャリア部材の変位量は、第2状態の場合の方が、第1状態の場合よりも小さくなる。これに対し、車両用制御装置A4では、変位量判断手段による判断が、第1状態の場合よりも、第2状態の場合の方が小さな値の閾値に基づいて行われるので、第2状態において、機械的な摩擦力でホイール部材の回転を規制できる範囲を越える前に、回転駆動手段を作動させ、ホイール部材の回転を規制することができ、その結果、キャンバ角の変化を確実に抑制することができる。一方、第1状態において、機械的な摩擦力でホイール部材の回転を規制できる範囲であるのに、回転駆動手段が無駄に作動されることを抑制して、消費エネルギーの低減を図ることができる。即ち、回転駆動手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができると共に、ホイール部材が回転して、車輪のキャンバ角が変化することを抑制することができる。
【0302】
請求項1記載の車輌用制御装置または車両制御装置A1からA4のいずれかにおいて、前記各軸が前記他端連結軸、偏心連結軸およびホイール軸の順に直線上に並ぶことで形成される第1キャンバ角に前記車輪のキャンバ角を設定する第1キャンバ角設定手段と、前記各軸が前記他端連結軸、ホイール軸および偏心連結軸の順に直線上に並ぶことで形成される第2キャンバ角に前記車輪のキャンバ角を設定する第2キャンバ角設定手段と、それら第1キャンバ角設定手段または第2キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が行われているかを判断する設定動作判断手段と、を備え、その設定動作判断手段により第1キャンバ角設定手段または第2キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が行われていると判断されない場合に、前記第1補正手段による前記回転駆動手段の作動が行われることを特徴とする車両用制御装置A5。
【0303】
車両用制御装置A5によれば、請求項1記載の車輌用制御装置または車両制御装置A1からA4のいずれかの奏する効果に加え、設定動作判断手段により第1キャンバ角設定手段または第2キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が行われていると判断されない場合に、補正手段による回転駆動手段の作動が行われるので、回転駆動手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。即ち、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置しない状態となった場合であっても、第1キャンバ角設定手段または第2キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が行われる場合には、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置する状態とすることができる。よって、このような場合に、回転駆動手段が無駄に作動されることを抑制して、消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0304】
請求項4記載の車輌用制御装置において、前記キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が完了したかを判断する設定動作判断手段を備え、前記第2補正手段は、前記設定動作判断手段により前記キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が完了したと少なくとも判断される場合に、前記回転規制手段により前記ホイール部材の回転を規制することを特徴とする車両用制御装置B1。
【0305】
車両用制御装置B1において、前記回転規制手段による前記ホイール部材の回転の規制は、前記設定動作判断手段により前記キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が完了したと判断される場合に、常時行われることを特徴とする車両用制御装置B2。
【0306】
車両用制御装置B2によれば、車両用制御装置B1の奏する効果に加え、回転規制手段による前記ホイール部材の回転の規制は、前記設定動作判断手段により前記キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が完了したと判断される場合に、常時行われるので、外力の作用によりホイール部材が回転される(回転位置がずれる)ことを未然に防止して、キャンバ角が変化することを確実に抑制することができるという効果がある。
【0307】
車両用制御装置B1において、前記キャンバ角設定手段により前記車輪のキャンバ角が前記所定のキャンバ角に設定された状態から、外力の作用により前記ホイール部材が回転された場合に、そのホイール部材の回転量を取得する回転量取得手段と、その回転量取得手段により取得された前記ホイール部材の回転量の値が閾値以上であるかを判断する回転量判断手段と、を備え、前記キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が完了したと前記設定動作判断手段により判断され、かつ、前記ホイール部材の回転量の値が閾値以上であると前記変位量判断手段により判断された場合に、前記回転規制手段による前記ホイール部材の回転の規制が行われることを特徴とする車両用制御装置B3。
【0308】
車両用制御装置B3によれば、車両用制御装置B1の奏する効果に加え、車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角に設定された状態から、外力の作用によりホイール部材が回転された場合に、そのホイール部材の回転量を取得する回転量取得手段と、その回転量取得手段により取得されたホイール部材の回転量の値が閾値以上であるかを判断する回転量判断手段とを備え、キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が完了したと設定動作判断手段により判断され、かつ、回転量判断手段によりホイール部材の回転量の値が閾値以上であると判断された場合に、回転規制手段によるホイール部材の回転の規制が行われるので、回転規制手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができるという効果がある。
【0309】
即ち、外力の作用によりホイール部材が回転されると、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置しない状態となり、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とが直角ではなくなるが、ホイール部材の回転量が比較的小さな場合には、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とのなす角度の変化量は比較的小さいため、第1サスペンションアームからホイール部材へ加わる力の内、ホイール部材を回転させる力成分も比較的小さくなる。そのため、ホイール部材を回転させる力成分よりも、機械的な摩擦力が上回り、ホイール部材の回転を規制状態に維持することができる。よって、このような場合にも、回転規制手段を駆動してホイール部材の回転の規制を行うことは、かかる回転規制手段の作動を無駄に行うことになる。
【0310】
これに対し、車両用制御装置B3では、回転量判断手段によりホイール部材の回転量の値が閾値以上であると判断された場合(即ち、所定の外力が入力された際に、機械的な摩擦力ではホイール部材の回転を規制できない程度にホイール部材の回転量が大きいと判断される場合)に、回転規制手段によるホイール部材の回転の規制を行うので、回転規制手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0311】
また、このように、回転規制手段の駆動によるホイール部材の回転の規制は、外力の作用によってホイール部材が実際に回転された場合に行うことで、車輪のキャンバ角の変化を抑制しつつも、ホイール部材が外力の作用によって回転されない場合まで不必要にそのホイール部材の回転を規制することが抑制されるので、消費エネルギーを確実に低減することができるという効果がある。
【0312】
車両用制御装置B1において、前記キャリア部材の上下方向の変位量を取得する変位量取得手段と、その変位量取得手段により取得された前記キャリア部材の上下方向の変位量の値が閾値以上であるかを判断する変位量判断手段と、を備え、前記キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が完了したと前記設定動作判断手段により判断され、かつ、前記キャリア部材の上下方向の変位量の値が閾値以上であると前記変位量判断手段により判断された場合に、前記回転規制手段による前記ホイール部材の回転の規制が行われることを特徴とする車両用制御装置B4。
【0313】
車両用制御装置B4によれば、車両用制御装置B1の奏する効果に加え、キャリア部材の上下方向の変位量を取得する変位量取得手段と、その変位量取得手段により取得されたキャリア部材の上下方向の変位量の値が閾値以上であるかを判断する変位量判断手段とを備え、キャンバ角設定手段によるキャンバ角の設定動作が完了したと設定動作判断手段により判断され、かつ、変位量判断手段によりキャリア部材の上下方向の変位量の値が閾値以上であると判断された場合に、回転規制手段によるホイール部材の回転の規制が行われるので、回転規制手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができるという効果がある。
【0314】
即ち、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置する状態から、キャリア部材が車体に対して上下方向へ変位して、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置しない状態になると、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とが直角ではなくなるが、キャリア部材の上下方向の変位量が比較的小さな場合には、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とのなす角度の変化量は比較的小さいため、第1サスペンションアームからホイール部材へ加わる力の内、ホイール部材を回転させる力成分も比較的小さくなる。そのため、ホイール部材を回転させる力成分よりも、機械的な摩擦力が上回り、ホイール部材の回転を規制状態に維持することができる。よって、このような場合にも、回転規制手段を駆動してホイール部材の回転の規制を行うことは、かかる回転規制手段の作動を無駄に行うことになる。
【0315】
これに対し、車両用制御装置B4では、変位量判断手段によりキャリア部材の変位量の値が閾値以上であると判断された場合(即ち、所定の外力が入力された際に、機械的な摩擦力ではホイール部材の回転を規制できない程度にキャリア部材の変位量が大きいと判断される場合)に、回転規制手段によるホイール部材の回転の規制を行うので、回転規制手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0316】
一方、このように、変位量判断手段によりキャリア部材の上下方向の変位量の値が閾値以上であると判断された場合に、回転規制手段によるホイール部材の回転の規制を行っておくことで、外力の作用によりホイール部材が回転される(回転位置がずれる)ことを未然に防止して、キャンバ角が変化することを確実に抑制することができるという効果がある。
【0317】
請求項6記載の車輌用制御装置において、前記回転判断手段により前記ホイール部材が外力の作用により第1回転位置から回転されたと判断された場合に、前記ホイール部材の第1回転位置からの回転量を取得する回転量取得手段と、その回転量取得手段により取得された前記ホイール部材の第1回転位置からの回転量の値が閾値以上であるかを判断する回転閾値判断手段と、を備え、その回転閾値判断手段により前記ホイール部材の第1回転位置からの回転量の値が閾値以上であると判断された場合に、前記第2補正手段による前記回転駆動手段の作動が行われることを特徴とする車両用制御装置C1。
【0318】
車両用制御装置C1によれば、請求項6記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、ホイール部材が外力の作用により第1回転位置から回転されたと回転判断手段により判断された場合に、そのホイール部材の回転量を取得する回転量取得手段と、その回転量取得手段により取得されたホイール部材の第1回転位置からの回転量の値が閾値以上であるかを判断する回転閾値判断手段とを備え、回転閾値判断手段によりホイール部材の第1回転位置からの回転量の値が閾値以上であると判断された場合に、第2補正手段による回転駆動手段の作動が行われるので、回転駆動手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができるという効果がある。
【0319】
即ち、外力の作用によりホイール部材が回転されると、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上にホイール軸が位置しない状態となり、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と、偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とが直角ではなくなるが、ホイール部材の回転量が比較的小さな場合には、偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線と偏心連結軸の回転軌跡の偏心連結軸における接線とのなす角度の変化量は比較的小さいため、第1サスペンションアームからホイール部材へ加わる力の内、ホイール部材を回転させる力成分も比較的小さくなる。そのため、ホイール部材を回転させる力成分よりも、機械的な摩擦力が上回り、ホイール部材の回転を固定状態に維持することができる。よって、このような場合にも、回転駆動手段の作動によりホイール部材の回転位置を第1回転位置へ回転させることは、かかる回転駆動手段の作動を無駄に行うことになる。
【0320】
これに対し、車両用制御装置C1では、回転閾値判断手段によりホイール部材の第1回転位置からの回転量の値が閾値以上であると判断された場合(即ち、所定の外力が入力された際に、機械的な摩擦力ではホイール部材の回転を固定できない程度にホイール部材の回転量が大きいと判断される場合)に、第2補正手段によりホイール部材の回転位置を第1回転位置へ回転させるので、回転駆動手段の無駄な作動を抑制して、消費エネルギーを低減することができる。
【0321】
請求項6記載の車輌用制御装置または車両用制御装置C1において、前記回転駆動手段は、電動モータと、その電動モータの両端子を短絡する短絡回路と、を備え、少なくとも前記ホイール部材が第1回転位置に回転された場合に、前記電動モータの両端子が前記短絡回路により短絡されることを特徴とする車輌用制御装置C2。
【0322】
車両用制御装置C2によれば、請求項6記載の車両用制御装置または車両用制御装置C1の奏する効果に加え、回転駆動手段は、電動モータと、その電動モータの両端子を短絡する短絡回路とを備え、少なくともホイール部材が第1回転位置に回転された場合に、電動モータの両端子が短絡回路により短絡されるので、かかる短絡状態で電動モータが回転された場合に、電動モータにより発電された電流を短絡回路に流し、その発電電流により電動モータの回転に制動をかけることができる。これにより、第1サスペンションアームからホイール部材へ力が加わり、ホイール部材が第1回転位置から回転される場合に、そのホイール部材の回転に制動をかけることができる。その結果、消費エネルギーの低減を図りつつ、車輪のキャンバ角が変化することを抑制することができるという効果がある。
【0323】
なお、図14に示すフローチャート(サスストローク量判断処理)において、車両用制御装置A1の変位量取得手段としてはS62の処理が、変位量判断手段としてはS64及びS65の処理が、図18に示すフローチャート(サスストローク量判断処理)において、車両用制御装置B4の変位量取得手段としてはS202の処理が、変位量判断手段としてはS203の処理が、図20に示すフローチャート(ホイールずれ量判断処理)において、車両用制御装置B3の回転量取得手段としてはS302の処理が、回転量判断手段としてはS303の処理が、図23に示すフローチャート(ホイールずれ量判断処理)において、車両用制御装置C1の回転量取得手段としてはS472の処理が、回転閾値判断手段としてはS473の処理が、それぞれ該当する。
【符号の説明】
【0324】
100 車両用制御装置
1 車両
2 車輪
2RL 左の後輪(車輪の一部)
2RR 右の後輪(車輪の一部)
41 キャリア部材
42 アッパーアーム(第1サスペンションアーム)
43 ロアアーム(第2サスペンションアーム)
91RL RLモータ(回転駆動手段、電動モータ)
91RR RRモータ(回転駆動手段、電動モータ)
93a ホイール部材
O1 軸心(ホイール軸)
O2 軸心(偏心連結軸)
O3 他端連結軸
BF 車体
TR 軸心O2の回転軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動力を発生する回転駆動手段と、
その回転駆動手段から付与される回転駆動力によりホイール軸を回転中心として回転されると共に車体に配設されるホイール部材と、
そのホイール部材の前記ホイール軸に対して偏心して位置する偏心連結軸を回転中心として前記ホイール部材に一端側が回転可能に連結される第1サスペンションアームと、
前記第1サスペンションアームの他端側が他端連結軸を回転中心として回転可能に連結されると共に車輪を保持するキャリア部材と、
そのキャリア部材を前記第1サスペンションアームと共に前記車体に上下動可能に連結する第2サスペンションアームと、を備えた車両に対し、
前記回転駆動手段を作動させ、前記ホイール部材を回転させることで、前記車輪のキャンバ角を調整する車両用制御装置であって、
前記回転駆動手段の作動により、前記偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上に前記ホイール軸が位置する第1回転位置に前記ホイール部材を回転させ、前記車輪のキャンバ角を所定のキャンバ角に設定するキャンバ角設定手段と、
前記車両の運動状態を取得する運動状態取得手段と、
その運動状態取得手段により取得された前記車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであるかを判断する運動状態判断手段と、
その運動状態判断手段により前記車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであると判断される場合に、前記キャリア部材の前記車体に対する上下動により、前記偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上に前記ホイール軸が位置しなくなった状態に対し、前記回転駆動手段を作動させ、前記偏心連結軸およびホイール軸を結ぶ直線と前記偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線とのなす角度が少なくとも小さくなるように、前記ホイール部材を第1回転位置から回転させる第1補正手段と、
前記運動状態判断手段により前記車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであると判断されない場合に、前記ホイール部材の回転位置を前記第1回転位置に維持するための制御を行う第2補正手段と、を備えていることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記車両は、操作者に操作される操作部材を備え、
前記運動状態取得手段は、前記操作部材の操作量を取得し、
前記運動状態判断手段は、前記運動状態取得手段によって取得された前記操作部材の操作量に基づいて、前記車両の運動状態が所定の運動状態よりも緩やかであるかを判断することを特徴とする請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記第1補正手段は、前記回転駆動手段を作動させ、前記偏心連結軸および他端連結軸を結ぶ直線上に前記ホイール軸が位置するように、前記ホイール部材を前記第1回転位置から回転させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記第2補正手段は、前記ホイール部材の回転を規制する回転規制手段を備え、その回転規制手段により前記ホイール部材の回転を規制することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記回転駆動手段は、サーボモータとして構成され、
前記回転規制手段は、前記サーボモータをサーボロック状態とすることで、前記ホイール部材の回転を規制することを特徴とする請求項4記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記キャンバ角設定手段により前記ホイール部材の回転位置が第1回転位置に回転され、前記車輪のキャンバ角が前記所定のキャンバ角に設定された状態から、前記ホイール部材の回転位置が外力の作用により第1回転位置から回転されたかを判断する回転判断手段を備え、
前記第2補正手段は、前記回転判断手段により前記ホイール部材の回転位置が外力の作用により第1回転位置から回転されたと判断された場合に、前記回転駆動手段を作動させ、少なくとも前記ホイール部材の回転位置が前記第1回転位置へ近づくように、前記ホイール部材を回転させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記第2補正手段は、前記回転駆動手段を作動させ、前記ホイール部材の回転位置が第1回転位置に位置するように、前記ホイール部材を回転させることを特徴とする請求項6記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−251594(P2011−251594A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125360(P2010−125360)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】