説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】自動変速機のアップシフト時にエンジンの回転速度変動を抑えることにより違和感を抑えることができる車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】スロットル開度制御手段78は、ロックアップクラッチ46の係合状態で変速制御手段70が自動変速機12をアップシフトさせる場合において、ロックアップクラッチ46がそのアップシフト後に解放されると予測される場合には、そのアップシフト後にもロックアップクラッチ46の係合状態が維持される領域にまでスロットル開度を低下させる。そして、そのスロットル開度の低下後に、自動変速機12のアップシフトが行われる。従って、ロックアップクラッチ46は、上記アップシフトの前後においてそのままの係合状態を維持するので、エンジン回転速度が上記アップシフトに伴うロックアップクラッチ46の解放により変動させられるということが回避され、運転者の違和感を抑えることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと自動変速機とを備えた車両用駆動装置の制御装置に係り、特に、そのロックアップクラッチを係合させる制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンとトルクコンバータと有段の自動変速機とが、動力伝達経路において直列に連結された車両用駆動装置の制御装置が、従来からよく知られている。例えば、特許文献1の車両用駆動装置の制御装置が、それである。上記トルクコンバータは、ロックアップクラッチを備えており、そのロックアップクラッチの係合によりそのトルクコンバータの入力軸と出力軸とが一体回転するようになる。
【0003】
その特許文献1の車両用駆動装置の制御装置は、前記ロックアップクラッチを係合させるロックアップ領域とそのロックアップクラッチを解放させるコンバータ領域とに領域分けされて予め定められたロックアップ線図に基づいて、そのロックアップクラッチを係合させ或いは解放させる。また、前記制御装置は、前記自動変速機のアップシフトを実行するためのアップシフト線と、その自動変速機のダウンシフトを実行するためのダウンシフト線とから構成された周知の変速線図を予め記憶しており、その変速線図に基づいて上記自動変速機の変速を実行する。
【0004】
前記制御装置は、上記自動変速機をアップシフトさせるに際し、そのアップシフト時に前記ロックアップ領域からコンバータ領域への領域移行を伴うことになる場合には、そのアップシフトの進行に合わせて、前記ロックアップクラッチを係合状態から徐々に解放状態へと切り換える。このようにすることにより、上記自動変速機のアップシフト時に前記エンジンの回転速度変動を抑えるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−224929号公報
【特許文献2】特開平9−324856号公報
【特許文献3】特開平5−240072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記自動変速機のアップシフトも前記ロックアップクラッチの解放作動も短時間で行われるものであるので、両者を同期させて行うことには困難が伴い、そのため、そのアップシフト時に前記エンジンの回転速度変動が充分には抑えられないという場合が考えられた。また、上記アップシフト時に前記ロックアップ領域からコンバータ領域への領域移行を伴うことの無いように、前記変速線図または前記ロックアップ線図を変更するということも考えられたが、そのようにすると、変速タイミングについての違和感や燃費悪化や車両こもり音の発生等の別の課題が生じ得ると考えられた。また、上記変速線図または上記ロックアップ線図を変更することはせずに、上記アップシフト時に上記コンバータ領域へ移行した場合には前記ロックアップクラッチを完全には解放せずにスリップさせることも考えられるが、そのようにした場合には、そのロックアップクラッチは前記トルクコンバータの入出力回転差が大きいスリップ状態とされるので、そのロックアップクラッチの耐熱性において課題が生じ得ると考えられた。なお、このような課題は未公知のことである。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、前記自動変速機のアップシフト時における前記エンジンの回転速度変動を抑えることにより、運転者に与える違和感を抑えることができる車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a)吸入空気量を調整するためのスロットル弁を有するエンジンと、ロックアップクラッチを有しそのエンジンの出力軸に連結されたトルクコンバータと、そのトルクコンバータと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する有段の自動変速機とを備えた車両において、前記スロットル弁の開度及び車速で示される車両状態が、変速線図のアップシフト線を境に高車速側が前記スロットル弁の低開度側となるように予め定められた係合領域もしくはスリップ領域内にあることに基づき、前記ロックアップクラッチを係合状態もしくは所定のスリップ状態にする車両用駆動装置の制御装置であって、(b)前記ロックアップクラッチが前記係合状態もしくは前記所定のスリップ状態で前記自動変速機をアップシフトさせる場合において、そのロックアップクラッチがそのアップシフト後に解放されると予測される場合には、そのアップシフト後にも前記ロックアップクラッチの前記係合状態もしくは前記所定のスリップ状態が維持される領域にまで前記スロットル弁の開度を低下させてから、前記自動変速機のアップシフトを行うことにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、上記ロックアップクラッチは、それが上記係合状態もしくは所定のスリップ状態である場合には、上記自動変速機のアップシフトの実行に伴い解放されることが無く、上記アップシフトの前後においてそのままの係合状態もしくは所定のスリップ状態を維持するので、前記エンジンの回転速度が上記アップシフトに伴う上記ロックアップクラッチの解放により変動させられるということが回避され、そのエンジンの回転速度変動から生じる運転者の違和感を抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置に含まれる自動変速機において複数の変速段(ギヤ段)を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。
【図3】図1の車両用駆動装置を制御する電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図4】図3の電子制御装置によって行われる自動変速機の変速制御で用いられる変速線図の一例を示した図である。
【図5】図3の電子制御装置によって行われる自動変速機の変速制御においてアップシフトさせる変速判断をするためのアップシフト線の一部と、ロックアップクラッチを作動させる判断をするためのロックアップ線図の一部とを重ね合わせ例示した図である。
【図6】図3に示された制御機能の要部を説明するための、車両の加速中に自動変速機のアップシフトが行われる場合を例としたタイムチャートであり、上から順に、自動変速機の出力回転速度、エンジン回転速度とタービン回転速度、スロットル開度、及び、アクセル開度のタイムチャートとなっている。
【図7】図3の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、フレックスロックアップ制御の実行中に自動変速機のアップシフトが行われる場合にそのフレックスロックアップ制御を中断させないために一時的にスロットル開度が低下させられる制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明が好適に適用される車両用駆動装置8(以下、「駆動装置8」という)の構成を説明する骨子図である。駆動装置8は、エンジン10と、自動変速機12と、エンジン10の出力軸13に連結されてそのエンジン10と自動変速機12との間に介装されたトルクコンバータ14とを備えている。そして、駆動装置8は、車両6(図3参照)の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものである。
【0013】
自動変速機12は、トルクコンバータ14と駆動輪38(図3参照)との間の動力伝達経路の一部を構成しており、複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)具体的には5つの油圧式摩擦係合装置を備え、その複数の油圧式摩擦係合装置の何れかの掴み替えにより複数の変速段(ギヤ段)が選択的に成立させられる変速機である。端的に言えば、一般的な車両によく用いられる所謂クラッチツークラッチ変速を行う有段変速機である。その自動変速機12は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置16を主体として構成されている第1変速部18と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置20およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置22を主体としてラビニヨオ型に構成されている第2変速部24とを同軸線上に有し、入力軸26の回転を変速して出力回転部材28から出力する。その入力軸26は入力部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力を供給する内燃機関であるエンジン10によって回転駆動されるトルクコンバータ14のタービン軸である。また、上記出力回転部材28は自動変速機12の出力部材に相当するものであり、差動歯車装置32(図3参照)に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)34と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。上記エンジン10の出力は、トルクコンバータ14、自動変速機12、差動歯車装置32、および一対の車軸36を介して一対の駆動輪(前輪)38へ伝達されるようになっている(図3参照)。従って、出力回転部材28の回転速度である自動変速機12の出力回転速度Nout(rpm)が高いほど車速V(km/h)も高くなり、出力回転速度Noutは、車速Vと一対一で対応する。なお、この自動変速機12は中心線に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分が省略されている。
【0014】
図2は、自動変速機12において複数の変速段(ギヤ段)を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。自動変速機12は、第1変速部18および第2変速部24の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の6つの前進変速段が成立させられるとともに、後進変速段「R」の後進変速段が成立させられる。図2に示すように、たとえば前進ギヤ段では、(1)クラッチC1とブレーキB2の係合により第1速ギヤ段が、(2)クラッチC1とブレーキB1の係合により第2速ギヤ段が、(3)クラッチC1とブレーキB3の係合により第3速ギヤ段が、(4)クラッチC1とクラッチC2の係合により第4速ギヤ段が、(5)クラッチC2とブレーキB3の係合により第5速ギヤ段が、(6)クラッチC2とブレーキB1の係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3の係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように基本的に構成されている。本実施例の自動変速機12では、所定のギヤ段を達成させるために一対の油圧式摩擦係合装置が係合させられるようになっており、その一対の油圧式摩擦係合装置の一方が解放されるとその所定のギヤ段が不成立とされ、自動変速機12内の動力伝達経路が解放されてニュートラル状態となる。
【0015】
図2の作動表は、上記各変速段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置16、第2遊星歯車装置20、および第3遊星歯車装置22の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。なお、図1の符号30は、非回転部材であるトランスミッションケースである。
【0016】
上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路40(図1参照)に設けられたリニアソレノイドバルブの励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに、係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
【0017】
上記クラッチC1およびクラッチC2は、図2に示されるように、前進ギヤ段のいずれにおいてもそれらのうちの一方或いは他方が必ず係合させられる。すなわち、上記クラッチC1またはクラッチC2の係合が前進ギヤ段の達成要件とされており、したがって、本実施例においては、クラッチC1またはクラッチC2がフォワードクラッチ(前進クラッチ)に相当する。
【0018】
図1に示すように、エンジン10は、そのエンジン10に吸気を行う吸気管に、電子制御装置52からの電気信号により開閉作動させられる電子スロットル弁44を備えている。その電子スロットル弁44は、エンジン駆動中においてエンジン10の吸入空気量Qを調整するための調整弁であり、電子スロットル弁44の開度TAP(スロットル開度TAP)が大きいほどエンジン出力は大きくなる。また、基本的には、予め定められた関係に基づいて、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度pedal(%)が大きいほど、上記スロットル開度TAP(%)は大きくされる。
【0019】
トルクコンバータ14は、エンジン10の出力軸(クランク軸)13に連結されたポンプ翼車14aと、自動変速機12の入力軸26に連結されたタービン翼車14bと、一方向クラッチを介して自動変速機12のハウジング(トランスミッションケース)30に連結されたステータ翼車14cとを備えており、エンジン10により発生させられた駆動力を自動変速機12へ流体を介して伝達する流体式動力伝達装置である。また、上記ポンプ翼車14a及びタービン翼車14bの間には、直結クラッチであるロックアップクラッチ46が設けられており、油圧制御等により係合状態、スリップ状態、或いは解放状態とされるようになっている。このロックアップクラッチ46が係合状態とされることにより、厳密に言えば、完全係合状態とされることにより、上記ポンプ翼車14a及びタービン翼車14bが一体回転させられる。
【0020】
図3は、電子制御装置52に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。また、図4は、電子制御装置52によって行われる自動変速機12の変速制御で用いられる変速線図の一例を示した図である。また、図5は、自動変速機12の変速制御においてアップシフトさせる変速判断をするためのアップシフト線の一部と、ロックアップクラッチ46を作動させる判断をするためのロックアップ線図の一部とを重ね合わせ例示した図である。電子制御装置52は、駆動装置8の制御装置としての機能を有しており、たとえばROM、RAM、CPU、入出力インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理して、油圧制御回路40のリニアソレノイドバルブを制御する自動変速制御、エンジン10の出力制御、トルクコンバータ14に備えられたロックアップクラッチ46の係合、解放、或いはスリップを実行する制御などを実行する。
【0021】
図3に示すように、電子制御装置52は、変速制御手段70、ロックアップクラッチ制御手段72、ロックアップクラッチ作動状態判断手段74、車両状態判断手段76、及び、スロットル開度制御手段78を備えている。
【0022】
変速制御手段70は、自動変速機12による変速動作を制御する。例えば、変速制御手段70は、よく知られたアップシフト線とダウンシフト線とから構成された変速線図(変速マップ)を予め記憶しており、その変速線図から、実際の自動変速機12の出力回転速度Nout(車速V)とスロットル開度TAPとに基づいて自動変速機12の変速段を決定し、この決定された変速段および係合状態が得られるように油圧制御回路40に設けられた前記リニアソレノイドバルブを制御する。
【0023】
上記変速線図における変速線(アップシフト線、ダウンシフト線)は、実際のスロットル開度TAPを示す横線上において実際の出力回転速度Noutが線を横切ったか否か、すなわち、変速線上の変速を実行すべき値(変速点出力回転速度)NSoutを越えたか否かを判断するためのものであり、その変速を実行すべきスロットル開度TAP及び出力回転速度Noutなどで示される車両状態を表す変速点の連なりとして予め記憶されていることにもなる。すなわち、上記変速線図に含まれる上記ダウンシフト線は自動変速機12のダウンシフトを実行すべき変速点(ダウンシフト点)の連なりであり、上記変速線図に含まれる上記アップシフト線は自動変速機12のアップシフトを実行すべき変速点(アップシフト点)の連なりである。そして、そのアップシフト線の一部が、図5に実線L1として表されている。なお、上記変速線図の一例が図4に示されており、その図4では、前記ダウンシフト線が破線で表されており、前記アップシフト線が実線で表されている。また、図4は、上記変速線図の一般的な一例であるので、図5のアップシフト線L1の形状と図4のアップシフト線の形状とが完全に一致するようには、図示されていない。
【0024】
ロックアップクラッチ制御手段72は、自動変速機12の出力回転速度Noutとスロットル開度TAPとで示される車両状態に基づいてロックアップクラッチ46を係合させ或いは解放させる判断をするための予め定められた関係、すなわち、よく知られた前記ロックアップ線図を記憶している。このロックアップ線図は、例えば図5に示すように、出力回転速度Noutとスロットル開度TAPとをパラメータとする2次元座標において、自動変速機12の各ギヤ段毎に、ロックアップクラッチ46を係合状態もしくは所定のスリップ状態にするフレックスロックアップ領域(F/L領域)と、ロックアップクラッチ46を解放状態にするトルクコンバータ領域(T/C領域)とに領域分けされている。更に、上記ロックアップ線図には、ロックアップクラッチ46の係合作動と解放作動との間にヒステリシスを持たせるためのヒステリシス領域が上記フレックスロックアップ領域とトルクコンバータ領域との間に設けられている。ここで、前記フレックスロックアップ領域は、ロックアップクラッチ46を係合状態もしくは前記所定のスリップ状態にする前記車両状態を示す領域であるが、換言すれば、ロックアップクラッチ46を係合状態にする係合領域と、ロックアップクラッチ46を上記所定のスリップ状態にするスリップ領域とから構成されている。また、前記変速線図のアップシフト線を基準に前記出力回転速度Noutの高速側および低速側の上記フレックスロックアップ領域を相互に比較すれば、図5に示すように、そのフレックスロックアップ領域は、前記出力回転速度Noutの高速側すなわち高車速側の領域が、低車速側に対して、そのアップシフト線(例えば実線L1)を境に低スロットル開度側となるように、換言すれば、そのアップシフト線(例えば実線L1)を境に低スロットル開度側にずれているように、予め定められている。また、自動変速機12の一変速段に着目すれば、すなわち、自動変速機12の変速を考慮しないとすれば、前記フレックスロックアップ領域は、前記出力回転速度Noutの高速側ほど高スロットル開度側にその領域が拡大する。
【0025】
ロックアップクラッチ制御手段72は、自動変速機12の出力回転速度Nout(車速V)とスロットル開度TAPとで示される車両状態が、予め定められた前記フレックスロックアップ領域内にあることに基づき、換言すれば、その車両状態が予め定められた前記係合領域もしくはスリップ領域内にあることに基づき、ロックアップクラッチ46を係合状態もしくは前記所定のスリップ状態にするフレックスロックアップ制御を実行する。端的に言えば、ロックアップクラッチ制御手段72は、上記車両状態及び前記ロックアップ線図に基づいて、上記フレックスロックアップ制御を実行する。具体的に説明すると、ロックアップクラッチ制御手段72は、現在の出力回転速度Nout(車速V)及びスロットル開度TAPで示される車両状態が前記フレックスロックアップ領域内にある場合には、ロックアップクラッチ46を係合状態もしくは前記所定のスリップ状態にする一方で、上記車両状態が前記トルクコンバータ領域内にある場合には、ロックアップクラッチ46を解放状態にする。そして、上記車両状態が前記ヒステリシス領域内にある場合には、ロックアップクラッチ46の作動状態を現状維持する。また、ロックアップクラッチ制御手段72は、前記フレックスロックアップ領域内において、ロックアップクラッチ46を係合状態にし、或いは、前記所定のスリップ状態にすることを、出力回転速度Nout(車速V)やスロットル開度TAPなどで示される車両状態に基づいて判断し、ロックアップクラッチ46を作動させる。なお、ロックアップクラッチ46の前記所定のスリップ状態とは、エンジン10の回転速度Ne(以下、「エンジン回転速度Ne」という)とタービン翼車14bの回転速度Nt(以下、「タービン回転速度Nt」という)とが予め定められた僅かの回転速度差(=Ne−Nt)を有するスリップ状態をいう。
【0026】
ロックアップクラッチ作動状態判断手段74は、ロックアップクラッチ制御手段72によって前記フレックスロックアップ制御が実行されているか否かを判断する。例えば、ロックアップクラッチ作動状態判断手段74は、前記ロックアップ線図を予め記憶しており、そのロックアップ線図、出力回転速度Nout、及び、スロットル開度TAPに基づいて、上記判断をしても差し支えない。
【0027】
車両状態判断手段76は、前記変速線図と前記ロックアップ線図とを予め記憶している。そして、車両状態判断手段76は、変速制御手段70が自動変速機12をアップシフトさせるか否かを予測し判断する。例えば、その自動変速機12が直ちにアップシフトされることが予測されるか否かを判断する。具体的に図5を用いて説明すると、車両状態判断手段76は、車両6の加速中に、現在の出力回転速度Noutが、現在のスロットル開度TAP1に対応するアップシフト点が示す変速点出力回転速度Nout2に対して所定の予測回転速度差Nxだけ低い判定回転速度Nout1に到達したか否か、換言すれば、上記現在の出力回転速度Noutが上記判定回転速度Nout1以上になったか否かを判断する。そして、車両状態判断手段76は、車両6の加速中に、現在の出力回転速度Noutが上記判定回転速度Nout1に到達した場合には、変速制御手段70が自動変速機12をアップシフトさせると判断する。前記予測回転速度差Nxは、車両6の加速中にアップシフトを予測できるように予め実験的に定められる。
【0028】
また、車両状態判断手段76は、前記変速線図とロックアップ線図との相対関係から、ロックアップクラッチ46が自動変速機12のアップシフト後に解放されると予測されるか否かを判断する。具体的に図5を用いて説明すると、車両状態判断手段76は、現在のスロットル開度TAP1が、予測下限開度判定値T1Xから予測上限開度判定値T2Xまでの予測開度判定範囲TAPX内に入っているか否かを判断する。そして、車両状態判断手段76は、現在のスロットル開度TAP1が上記予測開度判定範囲TAPX内に入っている場合には、ロックアップクラッチ46が自動変速機12のアップシフト後に解放されると予測されるものと判断する。車両状態判断手段76は、この現在のスロットル開度TAP1が上記予測開度判定範囲TAPX内に入っているか否かの判断を、現在の出力回転速度Noutが前記判定回転速度Nout1に到達したときに判断する。すなわち、車両状態判断手段76は、変速制御手段70が自動変速機12をアップシフトさせると判断した場合において、ロックアップクラッチ46がそのアップシフト後に解放されると予測されるか否かを判断する。なお、前記予測開度判定範囲TAPXは、アップシフト線とアップシフト後の変速段における前記ロックアップ線図との関係から、自動変速機12のアップシフト後にロックアップクラッチ46が解放されることを予測できるように、各変速段毎に実験的に予め定められる。例えば、前記予測下限開度判定値T1Xは、現在の変速段からのアップシフトを判断するためのアップシフト線と、そのアップシフト後の変速段における前記ヒステリシス領域もしくは前記フレックスロックアップ領域とが重なる範囲での最も高開度のスロットル開度TAPが、それに設定される。また、前記予測上限開度判定値T2Xは、現在の変速段からのアップシフトを判断するためのアップシフト線と、そのアップシフト後の変速段における前記ヒステリシス領域と前記トルクコンバータ領域との間の境界線であるフレックスロックアップオフ線L2(図5参照)との間に所定の僅かの出力回転速度Nout差が生じるスロットル開度TAPが、それに設定される。
【0029】
スロットル開度制御手段78は、基本的には、予め定められた関係に基づいて、アクセル開度pedalが大きいほど、スロットル開度TAPを大きくする。但し、スロットル開度制御手段78は、前記フレックスロックアップ制御が実行されているとロックアップクラッチ作動状態判断手段74により判断され、且つ、変速制御手段70が自動変速機12をアップシフトさせる場合においてロックアップクラッチ46がそのアップシフト後に解放されると予測されるものと車両状態判断手段76により判断された場合には、上記予め定められた関係に関わり無く、そのアップシフト後にもロックアップクラッチ46の前記係合状態もしくは前記所定のスリップ状態が維持される領域、具体的には、スロットル開度TAPが前記予測下限開度判定値T1X(図5参照)以下となる領域にまで、上記アップシフト開始前にスロットル開度TAPを低下させる変速前スロットル開度低下制御を実行する。そして、変速制御手段70は、そのスロットル開度TAPが予測下限開度判定値T1X以下に低下させられてから、前記変速線図に従って自動変速機12のアップシフトを行う。
【0030】
更に、スロットル開度制御手段78は、上記自動変速機12のアップシフト後に、前記変速前スロットル開度低下制御を実行する前のスロットル開度TAPに戻しても前記車両状態が前記トルクコンバータ領域内に入らない出力回転速度Noutにまで車両6が加速して到達した場合には、その変速前スロットル開度低下制御により低下させているスロットル開度TAPを、低下させる前のスロットル開度TAPに戻す、すなわち、スロットル開度TAPをその変速前スロットル開度低下制御前のものに復帰させる。
【0031】
このように、図3に示された制御機能の要部について説明したが、これを図6のタイムチャートを用いて説明する。図6は、車両6の加速中に自動変速機12のアップシフトが行われる場合を例としたタイムチャートであり、上から順に、自動変速機12の出力回転速度Nout、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Nt、スロットル開度TAP、及び、アクセル開度pedalのタイムチャートとなっている。
【0032】
図6のt1時点の前から、前記車両状態は前記フレックスロックアップ領域内にあるので、ロックアップクラッチ作動状態判断手段74は、前記フレックスロックアップ制御が実行されているとの判断、すなわち、ロックアップクラッチ46が係合状態もしくは前記所定のスリップ状態であるとの判断を肯定している。
【0033】
t1時点では、車両6が加速して、自動変速機12の出力回転速度Noutが前記判定回転速度Nout1に到達している。従って、車両状態判断手段76は、t1時点で、現在の出力回転速度Noutが判定回転速度Nout1に到達したとの判断を肯定する。更に、t1時点で、図5に示すようにスロットル開度TAP1は前記予測開度判定範囲TAPX内に入っているので、車両状態判断手段76は、そのスロットル開度TAP1がその予測開度判定範囲TAPX内に入っているとの判断を肯定する。このt1時点で、ロックアップクラッチ作動状態判断手段74の判断と車両状態判断手段76の判断の何れもが肯定されるので、スロットル開度制御手段78は、前記変速前スロットル開度低下制御を実行することにより、スロットル開度TAPを、前記予測下限開度判定値T1X以下となる領域にまで、換言すれば、図5において少なくともアップシフト線L1と重なる前記フレックスロックアップオフ線(F/L_OFF線)L2まで、具体的には、図5と図6とに示すスロットル開度TAP2にまで低下させる。スロットル開度制御手段78は、このスロットル開度TAPをTAP2まで低下させることを、t2時点までに行う。
【0034】
t2時点では、前記車両状態が前記アップシフト線L1を横切っているので、変速制御手段70は自動変速機12のアップシフトを行うとの変速判断をし、アップシフトを開始する。このアップシフトの進行に伴い、t2時点からt3時点までの間で、一時的に、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとが低下している。t2時点の車両状態は、出力回転速度NoutがNout2であり、スロットル開度TAPがTAP2であるので、t2時点の車両状態は、そのアップシフト後の変速段における前記ヒステリシス領域に属する。そのため、ロックアップクラッチ46は解放されずに、前記フレックスロックアップ制御が継続される。
【0035】
t3時点では、既に上記アップシフトが完了しており、自動変速機12の出力回転速度NoutがNout3に到達している。このt3時点の車両状態では、前記変速前スロットル開度低下制御の実行前のスロットル開度TAP1に戻されても、その車両状態は前記トルクコンバータ領域内に入らないので、スロットル開度制御手段78は、t3時点で、スロットル開度TAPを上記TAP1に復帰させている。なお、t1時点からt3時点までを通じて、アクセル開度pedalは一定である。
【0036】
図7は、電子制御装置52の制御作動の要部、すなわち、前記フレックスロックアップ制御の実行中に自動変速機12のアップシフトが行われる場合にそのフレックスロックアップ制御を中断させないために一時的にスロットル開度TAPが低下させられる制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0037】
先ず、ロックアップクラッチ作動状態判断手段74に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、ロックアップクラッチ46が係合状態もしくは前記所定のスリップ状態であるか否か、すなわち、前記フレックスロックアップ制御が実行されているか否かが判断される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、上記フレックスロックアップ制御が実行されている場合には、SA2に移る。一方で、このSA1の判断が否定される限り、SA2には移らない。
【0038】
車両状態判断手段76に対応するSA2においては、現在の自動変速機12の出力回転速度Noutが、前記アップシフト点に対して前記予測回転速度差Nxだけ手前の前記判定回転速度Nout1に到達しており、且つ、現在のスロットル開度TAPが、前記予測下限開度判定値T1Xから予測上限開度判定値T2Xまでの予測開度判定範囲TAPX内に入っているか否かが判断される。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、現在の自動変速機12の出力回転速度Noutが上記判定回転速度Nout1に到達しており、且つ、現在のスロットル開度TAPが上記予測開度判定範囲TAPX内に入っている場合には、SA3に移る。一方で、このSA2の判断が否定される限り、SA3には移らない。
【0039】
スロットル開度制御手段78に対応するSA3においては、前記変速前スロットル開度低下制御が実行される。具体的には、スロットル開度TAPが前記予測下限開度判定値T1X以下となる領域にまで低下させられる。換言すれば、前記車両状態がアップシフト線を横切る変速点でのスロットル開度TAPが、少なくとも前記フレックスロックアップオフ線(F/L_OFF線)にまで低下させられる。
【0040】
そして、SA3では、前記フレックスロックアップ制御が継続されたまま自動変速機12のアップシフトが実行され、その後、前記変速前スロットル開度低下制御の実行前のスロットル開度TAPに戻されても車両状態が前記トルクコンバータ領域内とならない出力回転速度Noutになったところで、スロットル開度TAPが上記変速前スロットル開度低下制御の実行前のものに復帰させられる。
【0041】
ロックアップクラッチ制御手段72に対応するSA4においては、前記フレックスロックアップ制御の実行が継続される。
【0042】
本実施例によれば、スロットル開度制御手段78は、ロックアップクラッチ46の係合状態もしくは前記所定のスリップ状態で変速制御手段70が自動変速機12をアップシフトさせる場合において、車両状態判断手段76により、そのロックアップクラッチ46がそのアップシフト後に解放されると予測される場合には、そのアップシフト後にもロックアップクラッチ46の係合状態もしくは上記所定のスリップ状態が維持される領域にまでスロットル開度TAPを低下させる。そして、変速制御手段70は、そのようにスロットル開度TAPが低下させられてから、自動変速機12のアップシフトを行う。従って、ロックアップクラッチ46は、それが係合状態もしくは上記所定のスリップ状態である場合には、自動変速機12のアップシフトの実行に伴い解放されることが無く、上記アップシフトの前後においてそのままの係合状態もしくは上記所定のスリップ状態を維持するので、エンジン回転速度Neが上記アップシフトに伴うロックアップクラッチ46の解放により変動させられるということが回避され、そのエンジン回転速度Neの変動から生じる運転者の違和感を抑えることが可能である。
【0043】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0044】
例えば、前述の本実施例において、ロックアップクラッチ制御手段72は、ロックアップクラッチ46を前記所定のスリップ状態にすることがある前記フレックスロックアップ制御を実行するが、ロックアップクラッチ46をその所定のスリップ状態にはせずに、前記ロックアップ線図に基づいてロックアップクラッチ46を係合状態にするロックアップ制御を実行するものであっても差し支えない。そのフレックスロックアップ制御に替えてそのロックアップ制御が実行されるのであれば、上記ロックアップ線図の前記フレックスロックアップ領域は、ロックアップ領域(L/U領域)と称される。
【0045】
また、前述の本実施例において、前記予測回転速度差Nxは、例えば、車両6の加速度が高いほど大きい値とされてもよいし、また、自動変速機12の各変速段ごとに異なる値で設定されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
6:車両
10:エンジン
12:自動変速機
13:出力軸
14:トルクコンバータ
38:駆動輪
44:電子スロットル弁
46:ロックアップクラッチ
52:電子制御装置(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入空気量を調整するためのスロットル弁を有するエンジンと、ロックアップクラッチを有し該エンジンの出力軸に連結されたトルクコンバータと、該トルクコンバータと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する有段の自動変速機とを備えた車両において、前記スロットル弁の開度及び車速で示される車両状態が、変速線図のアップシフト線を境に高車速側が前記スロットル弁の低開度側となるように予め定められた係合領域もしくはスリップ領域内にあることに基づき、前記ロックアップクラッチを係合状態もしくは所定のスリップ状態にする車両用駆動装置の制御装置であって、
前記ロックアップクラッチが前記係合状態もしくは前記所定のスリップ状態で前記自動変速機をアップシフトさせる場合において、該ロックアップクラッチが該アップシフト後に解放されると予測される場合には、該アップシフト後にも前記ロックアップクラッチの前記係合状態もしくは前記所定のスリップ状態が維持される領域にまで前記スロットル弁の開度を低下させてから、前記自動変速機のアップシフトを行う
ことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−215132(P2010−215132A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65245(P2009−65245)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】