説明

車体傾動制御装置、車体傾動制御方法

【課題】車体を旋回内側に傾動させるときの旋回性能を改善することである。
【解決手段】旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させる目標対地傾斜角φを設定し、設定した目標対地傾斜角φに応じて、駆動モータ3を駆動制御する。そして、車体の目標ヨーレートγを設定し、目標ヨーレートγ及び車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角に応じて、車体のヨーレートを制御する。具体的には、操舵角及び車速に応じて、車体の目標ヨーレートγを設定し、車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当するキャンバスラスト分補償量δcを算出する。そして、目標ヨーレートγ及びキャンバスラスト分補償量δcに応じて、車体のヨーレートを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体傾動制御装置、及び車体傾動制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の従来技術では、旋回走行時に運転者のステアリング操作に応じて、サスペンションのベルクランクをアクチュエータによって回動させることにより、車体を旋回内側に傾動させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭56−93311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車体を旋回内側に傾斜させると、車輪にはキャンバスラストが発生する。前後輪のキャンバスラストが同一であっても、一般に車体重心は前軸寄りに設定してあるので、重心から前輪車軸及び後輪車軸までの距離の差によって、キャンバスラスト分だけを考慮した重心点周りのモーメントは、前輪よりも後輪の方が大きくなる。この前後輪でのモーメントの差によって車体のヨーレートが変化してしまい、旋回性能が低下する可能性がある。
本発明の課題は、車体を旋回内側に傾動させるときの旋回性能を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、車体をロール方向に沿って傾斜させるアクチュエータを備え、旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させる目標傾斜角を設定し、設定した目標傾斜角に応じて、アクチュエータを駆動制御する。そして、車体の目標ヨーレートを設定し、目標ヨーレート及び車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角に応じて、車体のヨーレートを制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る車体傾動制御装置によれば、旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させると共に、その傾斜角と目標ヨーレートとに応じて、車体のヨーレートを制御することで、車体を旋回内側に傾動させるときの旋回性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】車体傾動の模式図である。
【図2】サスペンション構造の概略図である。
【図3】車両全体の概略構成図である。
【図4】車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
【図5】車体傾動制御処理を示すフローチャートである。
【図6】車体傾動に起因したキャンバスラストについて説明した図である。
【図7】キャンバスラスト分補償量を示すタイムチャートである。
【図8】作用効果を示すタイムチャートである。
【図9】シミュレーション結果を示す図である。
【図10】第2実施形態の車体傾動制御処理を示すブロック線図である。
【図11】第3実施形態の車体傾動制御処理を示すブロック線図である。
【図12】対地傾斜角推定部217の概略構成を示すブロック線図である。
【図13】車体傾動について説明した図である。
【図14】シミュレーション結果を示す図である。
【図15】第4実施形態の一例を示す車両全体の概略構成図である(左右輪の駆動力差)。
【図16】第4実施形態の一例を示す車両全体の概略構成図である(左右輪の制動力差)。
【図17】第4実施形態の一例を示す車両全体の概略構成図である(左右輪の駆動力差+左右輪の制動力差)。
【図18】第4実施形態の車体傾動制御処理を示すブロック線図である。
【図19】駆動力差及び制動力差の少なくとも一方を制御することで、車体のヨーレートを制御する説明図である。
【図20】作用効果を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
《構成》
図1は、車体傾動の模式図である。
車輪1に対して車体2を、サスペンションを介して懸架しており、このサスペンションは、駆動モータ3の駆動によって車体2を傾斜させることができる。具体的には、旋回走行時に車体2を旋回内側に傾斜させる。
【0009】
図2は、サスペンション構造の概略図である。
左右輪のサスペンション構造は、左右対称の同一構造なので、ここでは左輪側について説明する。このサスペンションは、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションであり、車輪1を支持するナックル(アップライト)11は、上側のアッパリンク12及び下側のロアリンク13を介して揺動可能な状態で車体フレーム14に連結してある。
アッパリンク12はAアームで構成し、車輪側取付け点及び車体側取付け点の夫々が、ゴムブッシュを介してナックル11及び車体フレーム14に連結してある。また、ロアリンク13もAアームで構成し、車輪側取付け点及び車体側取付け点の夫々が、ゴムブッシュを介してナックル11及び車体フレーム14に連結してある。
【0010】
車体フレーム14における車幅方向の中心位置には、車体前後方向の回動軸を有し、左右両側に向けて均等に突出したリーンアーム15を軸支してある。このリーンアーム15の先端と、ロアリンク13との間に、ショックアブソーバ16及びコイルスプリング17を介装する。また、リーンアーム15の回動軸に、図示しない減速機を介して駆動モータ3を連結する。
したがって駆動モータ3を回転させると、車体フレーム14に対してリーンアーム15が回動し、リーンアーム15の左端及び右端が上下方向に変位するので、ショックアブソーバ16及びコイルスプリング17を介してロアリンク13が揺動する。リーンアーム15は、左端が下がれば右端が上がり、左端が上がれば右端が下がるので、左右輪で逆方向のサスペンションストロークが生まれる。
【0011】
すなわち、車両正面視で駆動モータ3を時計回りに回転させると、リーンアーム15の回動(左側を下げる傾動)によって、左輪側がリバウンドストロークとなり、右輪側ではバウンドストロークとなる。このとき、左輪側でロアリンク13を押し下げるリバウンド方向の力が作用し、左輪から受ける反力によって、車体2の左側が持ち上がり、結果として車体2が右側へ傾斜する。
【0012】
逆に、車両正面視で駆動モータ3を反時計回りに回転させると、リーンアーム15の回動(右側を下げる傾動)によって、左輪側がバウンドストロークとなり、右輪側ではリバウンドストロークとなる。このとき、右輪側でロアリンク13を押し下げるリバウンド方向の力が作用し、右輪から受ける反力によって、車体2の右側が持ち上がり、結果として車体2が左側へ傾斜する。
【0013】
図3は、車両全体の概略構成図である。
上記のサスペンション構造を、前輪及び後輪に設け、夫々、個別の駆動モータ3によって駆動制御する。前後輪の駆動モータ3を区別する際は、前輪用を駆動モータ3fとし、後輪用を駆動モータ3rとして説明する。
なお、リーンアーム15を回動させるためのアクチュエータとして駆動モータ3を用いているが、他にも油圧や空気圧を用いたアクチュエータを使用してもよい。また、伸縮方向に推力を発生可能な例えば電磁式ショックアブソーバ等で、左右のサスペンションを夫々逆方向にストロークさせることで、車体を傾斜させてもよい。
【0014】
ステアリング系統には、運転者のステアリング操作とは独立して前輪の転舵角を制御可能なステアリング制御機構30を備えている。ステアリング制御機構30は、例えばステアリングバイワイヤや、舵角比可変機構(VGR)等である。
駆動モータ3及びステアリング制御機構30は、車両制御コントローラ25によって駆動制御される。
車両20は、駆動モータ3f及び3r、並びにステアリング制御機構30の他に、操舵角センサ21と、車輪速センサ22と、モータ回転角センサ23f及び23rと、旋回状態検出センサ24と、並びに車両制御コントローラ25と、を備える。
【0015】
操舵角センサ21は、ステアリングホイールの操舵角を検出し、検出値を車両制御コントローラ25に入力する。車輪速センサ22は、車輪の回転速度を検出し、検出値を車両制御コントローラ25に入力する。モータ回転角センサ23f及び23rは、夫々、駆動モータ3f及び3rの回転角を検出し、検出値を車両制御コントローラ25に入力する。旋回状態検出センサ24は、例えば横加速度、ヨーレート、車体ロール角、ロールレートなどの旋回状態を検出し、検出値を車両制御コントローラ25に入力する。
車両制御コントローラ25は、車体傾動制御処理を実行し、電流指令値により駆動モータ3f及び3rを駆動制御することで、目標対地傾斜角を実現すると共に、ステアリング制御機構30を駆動制御することで、目標ヨーレートを実現する。
【0016】
次に、車両制御コントローラ25で実行する車体傾動制御処理について説明する。
図4は、車体傾動制御処理を示すブロック線図である。
目標対地傾斜角算出部211は、車両モデル(Gφ(s))に従い、操舵角及び車速に応じて、車体の目標対地傾斜角(リーン角)φを算出する。
なお、車両モデルGφ(s)は、次数差一以上の位相進み特性をもつ車両モデルとする。 アクチュエータ指令角算出部212は、車両モデル(Gφu(s))に従い、目標対地傾斜角φに応じて、駆動モータ3への指令値となるアクチュエータ指令角φuを算出する。車両モデル(Gφu(s))は、車両を前方(あるいは後方)から見たときの力学モデル(リーンアームがリーンアクチュエータから駆動されたときの力の釣り合い式)から算出され、下記のような位相進み項をもつモデルとなる。
【0017】
【数1】

【0018】
m:車両質量
:重心高
g:重力加速度
φ:ロール慣性
φ:ロール剛性
φ:ロール等価粘性
目標ヨーレート算出部213は、車両モデル(Gγ(s))に従い、操舵角と車速に応じて、目標ヨーレートγを算出する。車両モデル(Gγ(s))は、平面二輪モデルから算出される下記のようなヨーレート応答モデルを用いる。
【0019】
【数2】

【0020】
【数3】

【0021】
m:車両質量
:重心高
(l):重心位置から前軸(後軸)までの距離
l:l+l
:ヨー慣性
(K):前輪(後輪)のコーナリングパワー
V:車速
N:ステアリングギヤ比
目標転舵角算出部214では、車両モデル(Gf(s))に従い、目標ヨーレートγを達成するのに必要な目標転舵角δを算出する。
キャンバスラスト補償量算出部215では、下記のような車両モデル(Gfc(s))に従い、目標対地傾斜角φに応じて、目標転舵角δに対するキャンバスラスト分補償量を算出する。このキャンバスラスト分補償量は、目標転舵角δと符号が反転する値である。
【0022】
【数4】

【0023】
m:車両質量
:重心高
(l):重心位置から前輪車軸(後輪車軸)までの距離
:ヨー慣性
(K):前輪(後輪)のコーナリングパワー
cf(Kcr):前輪(後輪)のキャンバスラスト係数
V:車速
減算部216では、目標転舵角δから補償量δcを減算した値を、新たな目標転舵角δとし、出力する。
【0024】
図5は、車体傾動制御処理を示すフローチャートである。
続くステップS101では、前述した車両モデル(Gφ(s))に従い、操舵角及び車速に応じて、車体の目標対地傾斜角φを算出する。
続くステップS102では、前述した車両モデル(Gφu(s))に従い、目標対地傾斜角φに応じて、駆動モータ3への指令値となるアクチュエータ指令角φuを算出する。
続くステップS103では、前述した車両モデル(Gγ(s))に従い、操舵角と車速に応じて、目標ヨーレートγを算出する。
【0025】
続くステップS104では、前述した車両モデル(Gδ(s))に従い、目標ヨーレートγに応じて、目標転舵角δを算出する。
続くステップS105では、前述した車両モデル(Gδfc(s))に従い、目標対地傾斜角φに応じて、キャンバスラスト分補償量δcを算出する。
続くステップS106では、下記に示すように、目標転舵角δからキャンバスラスト分補償量δcを減算し、目標転舵角δを補償する。
δ=δ−δc
続くステップS107では、アクチュエータ指令角φuに応じて駆動モータ3を駆動制御すると共に、目標転舵角δに応じてステアリング制御機構30を駆動制御してから、所定のメインプログラムに復帰する。
【0026】
《作用》
先ず、車体傾動に起因したキャンバスラストについて説明する。
図6は、車体傾動に起因したキャンバスラストについて説明した図である。
ここで、図6の(a)は車体を旋回内側に傾動させた状態を示す模式図であり、図6の(b)はキャンバスラスト分だけを考慮したコーナリングパワーを示す模式図である。
車体を旋回内側に傾斜させると、車輪にはキャンバスラストが発生する。
【0027】
ここで、キャンバスラスト分だけを考慮した前後輪のコーナリングパワーをFcf及びFcrとし、重心から前輪車軸までの距離をlf、重心から後輪車軸までの距離をlrとすると、lf及びlrをモーメントアームとする重心点周りのモーメントは、夫々、(Fcf×lf)及び(Fcr×lr)となる。一般に、車体重心は前軸寄りに設定してあり、lf<lrの関係にあるので、前後輪のキャンバスラストが同一であったとしても、キャンバスラスト分だけを考慮した重心点周りのモーメントは、(Fcf×lf)<(Fcr×lr)の関係になる。この前後輪でのモーメントの差によって車体のヨーレートがアンダーステア方向に変化してしまい、旋回性能が低下する可能性がある。
【0028】
本実施形態では、上記旋回性能の低下を次のように防止している。すなわち、本実施形態では、図5のフローチャートに示すように、操舵角及び車速に応じて目標対地傾斜角φを算出し(ステップS101)、目標対地傾斜角φに応じて駆動モータ3への指令値となるアクチュエータ指令角φuを算出する(ステップS102)。また、操舵角と車速に応じて目標ヨーレートγを算出し(ステップS103)、目標ヨーレートγに応じて目標転舵角δを算出する(ステップS104)。
【0029】
そして、目標対地傾斜角φに応じて、キャンバスラスト分補償量δcを算出し(ステップS105)、目標転舵角δからキャンバスラスト分補償量δcを減算し、目標転舵角δを補償する(ステップS106)。そして、アクチュエータ指令角φuに応じて駆動モータ3を駆動制御すると共に、キャンバスラスト分だけ補償した目標転舵角δに応じてステアリング制御機構30を駆動制御する(ステップS107)。
このように、旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させると共に、その傾斜角と目標ヨーレートとに応じて、車体のヨーレートを制御することで、車体を旋回内側に傾動させるときの旋回性能を改善することができる。
【0030】
図7は、キャンバスラスト分補償量を示すタイムチャートである。
キャンバスラスト分補償量δcは、車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分だけ、目標転舵角δを増加させる値である。
図8は、作用効果を示すタイムチャートである。
キャンバスラスト分を補償しないと、キャンバスラストに起因したヨーモーメントが作用するので、実際のヨーレートが目標ヨーレートγよりも不足してしまう。一方、本実施形態のように、キャンバスラスト分を補償することで、車体傾動に伴うキャンバスラスト分を見越して、その分、目標転舵角δを増加させるので、目標ヨーレートを達成することができる。
【0031】
図9は、シミュレーション結果を示す図である。
キャンバスラスト分の補償を行った場合、補償を行わなかったときよりも、目標ヨーレートγに対する実際のヨーレートは、26%程度改善した。このように、キャンバスラストに起因したヨー運動分に相当する補償量を算出し、この補償量によって目標転舵角δを補償してからステアリング制御機構30を駆動制御することで、車体を旋回内側に傾動させるときの旋回性能を改善することができる。
目標対地傾斜角φの算出には、次数差1以上の位相進み特性をもつ車両モデル(Gφ(s))を用いる。これにより、目標対地傾斜角φに基づいて、位相進み特性をもつキャンバスラスト分補償量δcを算出することが可能となる。
【0032】
また、ステアリング制御機構30によって転舵輪の転舵角δを制御することで、車体のヨーレートγを制御する。これにより、車体のヨーレートγを容易に、且つ高精度に制御することが可能となる。
また、一端が左輪のサスペンションに連結されると共に、他端が右輪のサスペンションに連結され、車体前後方向の回動軸を介して揺動可能な状態で車体に軸支されたリーンアーム15を備えている。そして、駆動モータ3によってリーンアーム15を回動軸で回動させることで、車体をロール方向に沿って傾斜させる構成とした。これにより、比較的、簡易な構造で、車体をロール方向に沿って傾斜させることができる。
【0033】
以上より、駆動モータ3が「アクチュエータ」に対応し、目標対地傾斜角算出部211とステップS101の処理とが「目標傾斜角設定手段」に対応し、アクチュエータ指令角算出部212とステップS102、S107の処理とが「傾動制御手段」に対応する。また、目標ヨーレート算出部213、目標転舵角算出部214、キャンバスラスト分補償量算出部215、減算部216と、ステップS103〜S107の処理とが「ヨーレート制御手段」に対応する。また、目標ヨーレート算出部213と、ステップS103の処理とが「目標ヨーレート設定手段」に対応し、キャンバスラスト分補償量算出部215と、ステップS105の処理とが「補償量算出手段」に対応する。
【0034】
《効果》
(1)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させる目標対地傾斜角φを設定し、設定した目標対地傾斜角φに応じて、駆動モータ3を駆動制御する。そして、車体の目標ヨーレートγを設定し、目標ヨーレートγ及び車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角に応じて、車体のヨーレートを制御する。
このように、旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させると共に、その傾斜角と目標ヨーレートγとに応じて、車体のヨーレートを制御することで、車体を旋回内側に傾動させるときの旋回性能を改善することができる。
【0035】
(2)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、操舵角及び車速に応じて、車体の目標ヨーレートγを設定し、車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当するキャンバスラスト分補償量δcを算出する。そして、目標ヨーレートγ及びキャンバスラスト分補償量δcに応じて、車体のヨーレートを制御する。
このように、目標ヨーレートγ及びキャンバスラスト分補償量δcに応じて、車体のヨーレートを制御することで、車体を旋回内側に傾動させるときの旋回性能を改善することができる。
【0036】
(3)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当するキャンバスラスト分補償量δcを、目標対値傾斜角φに応じて算出する。
このように、目標対値傾斜角φに応じてキャンバスラスト分補償量δcを算出することで、最低限のセンサ情報だけを用いて、容易にキャンバスラスト分補償量δcを算出することができる。
【0037】
(4)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、次数差1以上の位相進み特性をもつ車両モデル(Gφ(s))に従い、操舵角及び車速に応じて、目標対地傾斜角φを設定する。
このように、次数差1以上の位相進み特性をもつ車両モデル(Gφ(s))を用いることで、目標対地傾斜角φに基づいて、位相進み特性をもつキャンバスラスト分補償量δcを算出することが可能となる。
【0038】
(5)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、ステアリング制御機構30によって転舵輪の転舵角を制御することで、車体のヨーレートを制御する。
このように、ステアリング制御機構30によって転舵輪の転舵角δを制御することで、車体のヨーレートγを制御することで、車体のヨーレートγを容易に、且つ高精度に制御することが可能となる。
【0039】
(6)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、一端が左輪のサスペンションに連結されると共に、他端が右輪のサスペンションに連結され、車体前後方向の回動軸を介して揺動可能な状態で車体に軸支されたリーンアーム15を備える。そして、駆動モータ3によって、このリーンアーム15を回動軸で回動させることで、車体をロール方向に沿って傾斜させる。
このように、比較的、簡易な構造で、車体をロール方向に沿って傾斜させることができる。
【0040】
(7)本実施形態の車体傾動制御方法によれば、旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させる目標対地傾斜角φを設定し、車体の目標ヨーレートγを設定する。そして、目標対地傾斜角φに応じてアクチュエータを駆動制御することで、車体をロール方向に沿って傾斜させ、車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角、及び目標ヨーレートγに応じて車体のヨーレートを制御する。
このように、旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させると共に、その傾斜角と目標ヨーレートγとに応じて、車体のヨーレートを制御することで、車体を旋回内側に傾動させるときの旋回性能を改善することができる。
【0041】
《第2実施形態》
《構成》
第2実施形態は、車体の対地傾斜角φを対地傾斜角センサ(旋回状態検出センサ24)によって検出するものである。
対地傾斜角センサは、例えば加速度センサで構成してある。
図10は、第2実施形態の車体傾動制御処理を示すブロック線図である。
ここでは、対地傾斜角センサ値をキャンバスラスト分補償量算出部215に入力していることを除いては、前述した第1実施形態と同一であり、同一部分については、詳細な説明を省略する。なお、対地傾斜角センサ値には、ローパスフィルタ処理を施すことが望ましい。
キャンバスラスト分補償量算出部215では、前述した車両モデル(Gδfc(s))に従い、目標対地傾斜角φの代わりに対地傾斜角φに応じて、キャンバスラスト分補償量δcを算出する。
【0042】
《作用》
本実施形態では、目標対地傾斜角φの代わりに、対値傾斜角センサ値に応じて、キャンバスラスト分補償量δcを算出している。
これにより、実車両の状態に応じて、キャンバスラスト分補償量δcを算出し、車体のヨーレートを制御することができる。
なお、本実施形態を前述した第1実施形態と組み合わせて採用してもよい。すなわち、対地傾斜角センサ値に応じたキャンバスラスト分補償量δcと、目標対地傾斜角φに応じたキャンバスラスト分補償量δcとの平均値を用いたり、重み付けを調整したりしてもよい。
その他の作用効果については、前述した第1実施形態と同様である。
以上より、旋回状態検出センサ24が「傾斜角検出手段」に対応する。
【0043】
《効果》
(1)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角を検出する傾斜角検出センサを備え、キャンバスラスト分補償量δcを、対値傾斜角センサで検出した傾斜角に応じて算出する。
このように、車体の対地傾斜角を検出し、検出した対地傾斜角センサ値に応じてキャンバスラスト分補償量δcを算出することで、実車両の状態に応じて、キャンバスラスト分補償量δcを算出し、車体のヨーレートを制御することができる。
【0044】
《第3実施形態》
《構成》
第3実施形態は、車体の対地傾斜角を推定するものである。
図11は、第3実施形態の車体傾動制御処理を示すブロック線図である。
ここでは、対地傾斜角推定部217で推定した対地傾斜角推定値φeをキャンバスラスト分補償量算出部215に入力していることを除いては、前述した第2実施形態と同一であり、同一部分については、詳細な説明を省略する。
キャンバスラスト分補償量算出部215では、前述した車両モデル(Gδfc(s))に従い、推定した対地傾斜角推定値φeに応じて、キャンバスラスト分補償量δcを算出する。
【0045】
次に、対地傾斜角推定部217について説明する。
図12は、対地傾斜角推定部217の概略構成を示すブロック線図である。
対地傾斜角推定部217は、旋回走行状態推定部311と、アクチュエータ作動状態推定部312と、旋回走行状態補正部313と、アクチュエータ作動状態補正部314と、対地傾斜角算出部315と、を備える。
旋回走行状態推定部311は、下記に示すように、運転者のステアリング操作u1によって発生するヨーレートとスリップ角を予測する。
【0046】
【数5】

【0047】
すなわち、この旋回走行状態推定部311はコンベンショナル車両のダイナミクスに相当し、その出力値は、コンベンショナル車両に相当するヨーレートとスリップ角の予測値を算出する。但し、A11とBは車両パラメータに依存するパラメータである。また、x^t,1は1サンプリング前に推定したヨーレートとスリップ角である。
アクチュエータ作動状態推定部312は、下記に示すように、アクチュエータ指令角u2(φu)によって変化する駆動モータ3の回転角と回転角速度を予測する。
【0048】
【数6】

【0049】
すなわち、このアクチュエータ作動状態推定部312はアクチュエータ単独動作によるダイナミクスに相当し、その出力値は、アクチュエータ動作単独に相当する回転角と回転角速度の予測値を算出する。但し、A22とBはアクチュエータパラメータに依存するパラメータである。また、x^t,2は1サンプリング前に推定した回転角と回転角速度である。
旋回走行状態補正部313は、旋回走行状態推定部311で推定したヨーレート及び横加速度を補正する。
【0050】
先ず、下記に示すように、車両ダイナミクスによるアクチュエータ動作に与える影響分を算出する。但し、A21は車両とアクチュエータパラメータに依存するパラメータである。
【0051】
【数7】

【0052】
そして、下記に示すように、ヨーレートセンサから検出したヨーレートと、旋回走行状態推定部311で推定したヨーレート推定値との偏差を算出する。但し、Hは推定したヨーレート値を取り出すためのパラメータである。
【0053】
【数8】

【0054】
そして、上記のy及びeを、アクチュエータ作動状態補正部314に出力する。また、旋回走行状態推定部311で推定した車両のヨーレートとスリップ角はモデル化誤差(アクチュエータ動作の影響)やノイズなどにより、実際のヨーレートとスリップ角と一致しない。そこで、旋回走行状態推定部311で推定した値を、後述するアクチュエータ作動状態補正部314から出力されるy及びeと、ヨーレート偏差値eとで補正を行う。これは時刻t+1におけるヨーレートとスリップ角の推定値となり、下記に示すように演算される。
【0055】
【数9】

【0056】
但し、K11及びK12は補正ゲインであり、正の値で設定する。これにより、センサ値が推定値より大きければ(偏差値が正)のとき、推定値の増す方向に補正されるようになり、推定値が真値に近づく。一方、センサ値が推定値より小さければ(偏差値が負)のとき、推定値の減る方向に補正されるようになり、推定値も真値に近づく。また、センサ値と予測値が一致したら、補正量がゼロとなる。
こうして補正されたヨーレートとスリップ角とは、対地傾斜角算出部315へ出力される。
アクチュエータ作動状態補正部314は、アクチュエータ作動状態推定部312で推定した回転角及び回転角速度を補正する。
【0057】
先ず、下記に示すように、アクチュエータ動作による車両ダイナミクスに与える影響分を算出する。但し、A12は車両とアクチュエータパラメータに依存するパラメータである。
【0058】
【数10】

【0059】
そして、下記に示すように、回転角センサから検出した回転角と、アクチュエータ作動状態推定部312で推定した回転角との偏差を算出する。但し、Hは推定した回転角を取り出すためのパラメータである。
【0060】
【数11】

【0061】
そして、上記のyとeを、旋回走行状態補正部313に出力する。また、アクチュエータ作動状態推定部312で推定した回転角と回転角速度はモデル化誤差(車両ダイナミクスの影響)やノイズなどにより、実際のアクチュエータ角度と角速度と一致しない。そこで、アクチュエータ作動状態推定部312で推定した値を、旋回走行状態補正部313から出力されるyとeと、回転角偏差値eとで補正を行う。これは時刻t+1における回転角と回転角速度の推定値となり、下記に示すように演算される。
【0062】
【数12】

【0063】
但し、K21及びK22は補正ゲインであり、正の値で設定する。これにより、センサ値が推定値より大きければ(偏差値が正)のとき、推定値の増す方向に補正されるようになり、推定値が真値に近づく。一方、センサ値が推定値より小さければ(偏差値が負)のとき、推定値の減る方向に補正されるようになり、推定値も真値に近づく。また、センサ値と予測値が一致したら、補正量がゼロとなる。
こうして補正された回転角と回転角速度とは、対地傾斜角算出部315へ出力される。
対地傾斜角算出部315は、入力されたヨーレート推定値とスリップ角推定値、並びに回転角推定値と回転角速度推定値に基づいて、対地傾斜角と角速度への影響を、下記に示すように演算する。
【0064】
【数13】

【0065】
但し、A、A01、A02、Cは車両とアクチュエータパラメータに依存するパラメータである。上記の演算により、ある傾斜角と角速度の状態において、車両ダイナミクスの状態(ヨーレートとスリップ角)とアクチュエータの状態(回転角と回転角速度)の夫々の変化に応じた影響を考慮でき、真値の対地傾斜角と角速度を推定できる。
【0066】
上記では、ヨーレートセンサ値とヨーレート推定値との偏差に応じて、アクチュエータ作動状態を補正しているが、横加速度センサ値と横加速度推定値との偏差を利用して、アクチュエータ作動状態を補正してもよい。また、駆動モータ3の回転角センサ値と回転角推定値との偏差に応じて、車両の旋回走行状態を補正しているが、駆動モータ3の回転角速度センサ値と回転角速度推定値との偏差に応じて、車両の旋回走行状態を補正するようにしてもよい。
【0067】
《作用》
図13は、車体傾動について説明した図である。
ここで、図13の(a)は静止状態の車体を示す正面図であり、図13の(b)は旋回内側に傾斜させた車体を示す正面図である。
先ず、車両が静止している非ロール時の状況では、アクチュエータ指令角により駆動モータ3の角度と角速度が変化し、サスペンションによる反力が生じ、車両の上体が旋回内側に傾斜する。
また、車両が走行している状況では、コンベンショナルな車両と同様に駆動モータ3がなく完全に固定されているものとしたとき、運転者の操舵角により車両が曲がり、ヨーレートとスリップ角が生じるため車両の上体も地面に対して傾く。
【0068】
しかし、固定されている操舵角で走行している車両では、アクチュエータ指令角により駆動モータ3を動かすと、サスペンションの反力で車両の上体が地面に対して傾けられ、さらにタイヤも地面に対してある傾き(キャンバ角変化)を生じる。そのため、車両が円運動を描くので、ヨーレートとスリップ角が発生し、逆方向に傾ける力が働くため、車両の地面に対する傾きに影響を及ぼすことになる。これらは、走行している車両において、駆動モータ3の回転角と角速度の変化で車両ダイナミクスに与える作用による傾斜角への影響を示している。
もし、車両ダイナミクスとアクチュエータダイナミクスが完全に独立であれば、固定されている操舵角において、駆動モータ3のアクチュエータ動作が発生しても、車両のヨーレートとスリップ角に何の変化も及ぼさないはずである。
【0069】
また、駆動モータ3への指令角をゼロにしている車両では、運転者による操舵角が発生すると、車両ダイナミクス(ヨーレートとスリップ角)により車両の上体が傾けられ、さらに左右輪の荷重移動が生じる。そのため、ロールセンタに対して、傾斜角に比例するようなトルクが生じることになる。ロールセンタと駆動モータ3の軸が一致していれば、このトルクはアクチュエータ軸に外乱として、そのまま作用する。このトルクにより、駆動モータ3の角度と角速度に変化を与えるので、車両ダイナミクスの変化でアクチュエータダイナミクスに与える作用を示している。
【0070】
上記のように、車両の旋回走行状態と、駆動モータ3の作動状態との間で、相互作用が存在する。したがって、車体の対地傾斜角は、操舵指令値での車両ダイナミクスによる傾斜角分と、アクチュエータ指令角でのアクチュエータ動作による傾斜角分との、単純な足し合わせをしたものと一致しない。実際、操舵指令値での車両ダイナミクスによる傾斜角分には、操舵指令値以外のアクチュエータ動作による車両ダイナミクスへの作用による傾斜角分が加わる。一方、アクチュエータ指令角でのアクチュエータ動作による傾斜角分には、アクチュエータ指令角以外の車両ダイナミクスによるアクチュエータ動作への作用による傾斜角分が加わる。すなわち『対地傾斜角 ≠ 操舵の車両運動による傾斜角+指令のアクチュエータ動作による傾斜角』となる。
【0071】
そこで、本実施形態では、旋回状態検出センサ24によってヨーレートや横加速度などの旋回走行状態を検出すると共に、モータ回転角センサ23f及び23rによって駆動モータ3の回転角や回転角速度などの作動状態を検出する。また、旋回走行状態推定部311によって操舵角に応じて車両のヨーレートや横加速度などの旋回走行状態を推定すると共に、アクチュエータ作動状態推定部312によって目標対地傾斜角φuに応じて駆動モータ3の回転角や回転角速度などの作動状態を推定する。
【0072】
そして、旋回走行状態補正部313により、検出した作動状態、及び推定した作動状態に応じて、推定した旋回走行状態を補正すると共に、アクチュエータ作動状態補正部314により、検出した旋回走行状態、及び推定した旋回走行状態に応じて、推定した作動状態を補正する。具体的には、数9に従い、検出した作動状態と推定した作動状態との偏差に応じて、推定した旋回走行状態を補正すると共に、数12に従い、検出した旋回走行状態と推定した旋回走行状態との偏差に応じて、推定した作動状態を補正する。
【0073】
そして、対地傾斜角算出部315により、数13に従い、補正した旋回走行状態、及び補正した作動状態に応じて、車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角を算出する。
このように、車両の旋回走行状態と駆動モータ3の作動状態との相互作用を考慮しながら、車体の対地傾斜角を推定することで、その推定精度を向上させることができる。
図14は、シミュレーション結果を示す図である。
ここで、図14の(a)は操舵角のタイムチャートを示し、図14の(b)はアクチュエータ指令角のタイムチャートであり、図14の(c)は対地傾斜角推定結果のタイムチャートである。
ここでは、車速50km/hで走行する車両の時刻1において、操舵速度60deg/sで最大操舵角60degで操作し、時定数1秒、アクチュエータ指令角5degを与えた場合を想定している。
【0074】
ロール方向の与える影響を考慮しない比較例では、実際の対地傾斜角と比べて推定誤差が発生する。しかしながら、本実施形態のように、車両の旋回走行状態と駆動モータ3の作動状態との相互作用を考慮することで、実際の対地傾斜角に対して推定誤差を略0にすることができる。
このようにして、推定誤差を抑制した対地傾斜角に応じて、車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当するキャンバスラスト分補償量δcを算出することで、キャンバスラスト分補償量δcを高精度に算出することができる。
【0075】
なお、本実施形態を前述した第1実施形態や第2実施形態の少なくとも何れかと組み合わせて採用しても良い。すなわち、対地傾斜角推定値に応じたδcと、目標対地傾斜角φに応じたδcと、対地傾斜角センサ値に応じたδcとの少なくとも二つの平均値を用いたり、重み付けを調整したりしてもよい。
その他の作用効果については、前述した第1実施形態と同様である。
【0076】
以上より、対地傾斜角推定部217が「傾斜角推定手段」に対応し、旋回走行状態推定部311が「旋回走行状態推定手段」に対応し、アクチュエータ作動状態推定部312が「作動状態推定手段」に対応する。また、旋回走行状態補正部313が「旋回走行状態補正手段」に対応し、アクチュエータ作動状態補正部314が「作動状態補正手段」に対応し、対地傾斜角算出部315が「傾斜角算出手段」に対応する。また、車体のヨーレート及び横加速度の少なくとも一方が「旋回走行状態」に対応し、駆動モータ3の回転角及び回転角速度の少なくとも一方が、「作動状態」に対応する。
【0077】
《効果》
(1)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、車体のロール方向に沿った旋回内側への対値傾斜角を推定し、車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当する補償量を、推定した対地傾斜角に応じて算出する。
このように、推定した対地傾斜角に応じてキャンバスラスト分補償量δcを算出することで、対地傾斜角センサを省略しても、容易にキャンバスラスト分補償量δcを算出することができる。
【0078】
(2)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、車両のヨーレートや横加速度などの旋回走行状態を検出すると共に、駆動モータ3の回転角や回転角速度などの作動状態を検出する。また、操舵角に応じて車両のヨーレートや横加速度などの旋回走行状態を推定すると共に、目標対地傾斜角φuに応じて駆動モータ3の回転角や回転角速度などの作動状態を推定する。そして、検出した作動状態、及び推定した作動状態に応じて、推定した旋回走行状態を補正すると共に、検出した旋回走行状態、及び推定した旋回走行状態に応じて、推定した作動状態を補正する。そして、補正した旋回走行状態、及び補正した作動状態に応じて、車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角を算出する。
このように、車両の旋回走行状態と駆動モータ3の作動状態との相互作用を考慮しながら、車体の対地傾斜角を推定することで、その推定精度を向上させることができる。
【0079】
(3)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、検出した作動状態と推定した作動状態との偏差に応じて、推定した旋回走行状態を補正すると共に、検出した旋回走行状態と推定した旋回走行状態との偏差に応じて、推定した作動状態を補正する。
このように、検出した作動状態と推定した作動状態との偏差や、検出した旋回走行状態と推定した旋回走行状態との偏差を考慮することで、推定した旋回走行状態や駆動モータ3の作動状態を、精度よく補正することができる。
【0080】
(4)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、旋回走行状態は、車体のヨーレートである。
このように、旋回走行状態としてヨーレートを用いることで、旋回走行状態の検出も推定も容易に行うことができ、車体の対値傾斜角の推定に用いることができる。
(5)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、旋回走行状態は、車体の横加速度である。
このように、旋回走行状態として横加速度を用いることで、旋回走行状態の検出も推定も容易に行うことができ、車体の対値傾斜角の推定に用いることができる。
【0081】
(6)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、作動状態は、アクチュエータの回転角である。
このように、駆動モータ3の作動状態としてモータ回転角を用いることで、駆動モータ3の作動状態の検出も推定も容易に行うことができ、車体の対値傾斜角の推定に用いることができる。
(7)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、作動状態は、アクチュエータの回転角速度である。
このように、駆動モータ3の作動状態としてモータ回転角速度を用いることで、駆動モータ3の作動状態の検出も推定も容易に行うことができ、車体の対値傾斜角の推定に用いることができる。
【0082】
《第4実施形態》
《構成》
第4実施形態は、左右輪の駆動力差、及び左右輪の制動力差の少なくとも一方を制御することで、車体のヨーレートを制御するものである。
図15は、第4実施形態の一例を示す車両全体の概略構成図である(左右輪の駆動力差)。
ここでは、前述したステアリング制御機構30を省略し、代わりに駆動輪(例えば後輪)の駆動力を左右輪で個別に制御できる独立駆動機構31L及び31Rを備えたことを除いては、前述した第1実施形態と同一であり、同一部分については、詳細な説明を省略する。独立駆動機構31L及び31Rは、例えばインホイールモータである。
【0083】
図16は、第4実施形態の一例を示す車両全体の概略構成図である(左右輪の制動力差)。
ここでは、前述したステアリング制御機構30を省略し、代わりに前輪の制動力を左右輪で個別に制御できるブレーキアクチュエータ32L及び32Rを備えたことを除いては、前述した第1実施形態と同一であり、同一部分については、詳細な説明を省略する。ブレーキアクチュエータ32L及び32Rは、例えばアンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)、スタビリティ制御(VDC:Vehicle Dynamics Control)等に用いられる制動流体圧制御回路を利用したものである。
【0084】
図17は、第4実施形態の一例を示す車両全体の概略構成図である(左右輪の駆動力差+左右輪の制動力差)。
ここでは、前述したステアリング制御機構30を省略し、代わりに駆動輪(例えば後輪)の駆動力を左右輪で個別に制御できる独立駆動機構31L及び31Rを備えると共に、前輪の制動力を左右輪で個別に制御できるブレーキアクチュエータ32L及び32Rを備えたことを除いては、前述した第1実施形態と同一であり、同一部分については、詳細な説明を省略する。
【0085】
図18は、第4実施形態の車体傾動制御処理を示すブロック線図である。
ここでは、前述したキャンバスラスト分補償量算出部215の代わりに、新たなキャンバスラスト分補償量算出部218を備えたことを除いては、前述した第1実施形態と同一であり、同一部分については、詳細な説明を省略する。
キャンバスラスト分補償量算出部218では、下記に示すように、目標対地傾斜角φに応じて、キャンバスラスト分補償量ΔFを算出する。
【0086】
【数14】

【0087】
Mc:前後キャンバスラスト効果によるヨーモーメント
b:タイヤトレッド
本実施形態では、キャンバスラスト分補償量ΔFは、左右輪の駆動力差、制動力差、及び制駆動力差の何れかを指す。
図19は、駆動力差及び制動力差の少なくとも一方を制御することで、車体のヨーレートを制御する説明図である。
ここで、図19の(a)は図15に対応し、左右輪の駆動力差ΔFによって車体のヨーレートを制御するものである。図19の(b)は図16に対応し、左右輪の制動力差ΔFによって車体のヨーレートを制御するものである。図19の(c)は図17に対応し、左右輪の制駆動力差ΔFによって車体のヨーレートを制御するものである。
すなわち、左右輪の駆動力差、及び制動力差の少なくとも一方を制御することで、キャンバスラスト分補償量ΔFだけ、車体のヨーレートを制御する。
【0088】
《作用》
本実施形態では、左右輪の駆動力差、及び制動力差の少なくとも一方を制御することで、車体のヨーレートを制御する。具体的には、キャンバスラスト分補償量ΔFだけ、左右輪に制駆動力差をつける。
図20は、作用効果を示すタイムチャートである。
キャンバスラスト分を補償しないと、キャンバスラストに起因したヨーモーメントが作用するので、実際のヨーレートが目標ヨーレートγよりも不足してしまう。一方、本実施形態のように、キャンバスラスト分をΔFによって補償する。これにより、車体のヨーレートをΔF分だけ増加させるので、目標ヨーレートを達成することができる。
なお、本実施形態を前述した第1実施形態と組み合わせて採用してもよい。すなわち、転舵角制御によるヨーレート制御と、制駆動力制御によるヨーレート制御とを組み合わせてもよい。
その他の作用効果については、前述した第1実施形態と同様である。
【0089】
《効果》
(1)本実施形態の車体傾動制御装置によれば、独立駆動機構31L及び31Rやブレーキアクチュエータ32L及び32Rにより、左右輪の駆動力差、及び制動力差の少なくとも一方を制御することで、車体のヨーレートを制御する。
このように、独立駆動機構31L及び31Rやブレーキアクチュエータ32L及び32Rによって車体のヨーレートを制御することで、車体のヨーレートγを容易に、且つ高精度に制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0090】
1 車輪
2 車体
3f、3r 駆動モータ
11 ナックル
12 アッパリンク
13 ロアリンク
14 車体フレーム
15 リーンアーム
16 ショックアブソーバ
17 コイルスプリング
20 車両
21 操舵角センサ
22 車輪速センサ
23f、23r モータ回転角センサ
24 旋回状態検出センサ
25 車両制御コントローラ
30 ステアリング制御機構
31L、31R 独立駆動機構
32L、32R ブレーキアクチュエータ
211 目標対地傾斜角算出部
212 アクチュエータ指令角算出部
213 目標ヨーレート算出部
214 目標転舵角算出部
215 キャンバスラスト分補償量算出部
216 減算部
217 対地傾斜角推定部
218 キャンバスラスト分補償量算出部
311 旋回走行状態推定部
312 アクチュエータ作動状態推定部
313 旋回走行状態補正部
314 アクチュエータ作動状態補正部
315 対地傾斜角算出部e ヨーレート偏差値


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体をロール方向に沿って傾斜させるアクチュエータと、
旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させる目標傾斜角を設定する目標傾斜角設定手段と、
前記目標傾斜角設定手段で設定した目標傾斜角に応じて、前記アクチュエータを駆動制御する傾動制御手段と、
車体の目標ヨーレートを設定し、前記目標ヨーレート及び車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角に応じて、車体のヨーレートを制御するヨーレート制御手段と、を備えることを特徴とする車体傾動制御装置。
【請求項2】
前記ヨーレート制御手段は、
運転者のステアリング操作及び車速に応じて、車体の目標ヨーレートを設定する目標ヨーレート設定手段と、
車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当する補償量を算出する補償量算出手段と、を備え、
前記目標ヨーレート設定手段で設定した目標ヨーレート、及び前記補償量算出手段で算出した補償量に応じて、車体のヨーレートを制御することを特徴とする請求項1に記載の車体傾動制御装置。
【請求項3】
前記補償量算出手段は、
車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当する補償量を、前記目標傾斜角に応じて算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の車体傾動制御装置。
【請求項4】
前記目標傾斜角設定手段は、
次数差1以上の位相進み特性をもつ車両モデルに従い、運転者のステアリング操作、及び車速に応じて、前記目標傾斜角を設定することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項5】
車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角を検出する傾斜角検出手段を備え、
前記補償量算出手段は、
車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当する補償量を、前記傾斜角検出手段で検出した傾斜角に応じて算出することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項6】
車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角を推定する傾斜角推定手段を備え、
前記補償量算出手段は、
車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させるときのキャンバスラストに起因したヨー運動分に相当する補償量を、前記傾斜角推定手段で推定した傾斜角に応じて算出することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項7】
車両の旋回走行状態を検出する旋回走行状態検出手段と、
前記アクチュエータの作動状態を検出する作動状態検出手段と、を備え、
前記傾斜角推定手段は、
運転者のステアリング操作に応じて車両の旋回走行状態を推定する旋回走行状態推定手段と、
前記目標傾斜角設定手段で設定した目標傾斜角に応じて前記アクチュエータの作動状態を推定する作動状態推定手段と、
前記作動状態検出手段で検出した作動状態、及び前記作動状態推定手段で推定した作動状態に応じて、前記旋回走行状態推定手段で推定した旋回走行状態を補正する旋回走行状態補正手段と、
前記旋回走行状態検出手段で検出した旋回走行状態、及び前記旋回走行状態推定手段で推定した旋回走行状態に応じて、前記作動状態推定手段で推定した作動状態を補正する作動状態補正手段と、
前記旋回走行状態補正手段で補正した旋回走行状態、及び作動状態補正手段で補正した作動状態に応じて、車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角を算出する傾斜角算出手段と、を備えることを特徴とする請求項6に記載の車体傾動制御装置。
【請求項8】
前記旋回走行状態補正手段は、
前記作動状態検出手段で検出した作動状態と前記作動状態推定手段で推定した作動状態との偏差に応じて、前記旋回走行状態推定手段で推定した旋回走行状態を補正し、
前記作動状態補正手段は、
前記旋回走行状態検出手段で検出した旋回走行状態と前記旋回走行状態推定手段で推定した旋回走行状態との偏差に応じて、前記作動状態推定手段で推定した作動状態を補正することを特徴とする請求項7に記載の車体傾動制御装置。
【請求項9】
前記旋回走行状態は、車体のヨーレートを含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の車体傾動制御装置。
【請求項10】
前記旋回走行状態は、車体の横加速度を含むことを特徴とする請求項7〜9の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項11】
前記作動状態は、前記アクチュエータの回転角を含むことを特徴とする請求項7〜10の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項12】
前記作動状態は、前記アクチュエータの回転角速度を含むことを特徴とする請求項7〜11の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項13】
前記ヨーレート制御手段は、
転舵輪の転舵角を制御することで、車体のヨーレートを制御することを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項14】
前記ヨーレート制御手段は、
左右輪の駆動力差、及び制動力差の少なくとも一方を制御することで、車体のヨーレートを制御することを特徴とする請求項1〜13の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項15】
一端が左輪のサスペンションに連結されると共に、他端が右輪のサスペンションに連結され、車体前後方向の回動軸を介して揺動可能な状態で車体に軸支されたリーンアームを備え、
前記アクチュエータは、
前記リーンアームを前記回動軸で回動させることで、車体をロール方向に沿って傾斜させることを特徴とする請求項1〜14の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項16】
旋回走行時に車体をロール方向に沿って旋回内側に傾斜させる目標傾斜角を設定し、
車体の目標ヨーレートを設定し、
前記目標傾斜角に応じてアクチュエータを駆動制御することで、車体をロール方向に沿って傾斜させ、
車体のロール方向に沿った旋回内側への傾斜角、及び前記目標ヨーレートに応じて車体のヨーレートを制御することを特徴とする車体傾動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−23017(P2013−23017A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158113(P2011−158113)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】