説明

転がり軸受の表面検査装置

【課題】軌道輪表面の仕上がりの良否を簡易にかつ自動的に判断可能であり、製造コストが安価であると共に検査処理が簡単でありしかも精度の高い検査が可能な転がり軸受の表面検査装置を提供する。
【解決手段】検査表面に対しレーザ光を照射し、表面で反射したレーザ光を受光するレーザ光送受手段と、受光した光強度に対応する電気信号を出力する光電変換手段と、レーザ光照射部を軌道輪の軸と同軸で回転させる周方向走査手段と、レーザ光送受手段を軌道輪の軸に沿って移動する軸方向走査手段と、周方向走査の各位置において、光電変換手段から出力される電気信号出力の、軸方向における最大値を取得する最大値取得手段と、取得した最大値のうち、ハレーション状態に対応する最大値の個数を計数するハレーション個数計数手段と、ハレーション個数計数手段により計数されたハレーション個数に応じ、軌道輪の良否を判断する判断手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受における軌道輪の研磨仕上がりを検査する表面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受における外輪及び内輪等の軌道輪の表面研磨仕上がりが不十分であり欠陥等が存在すると、軸受を組み付けて回転させた際に異音や振動が発生する。このような不良品の軸受を稼働させると、短時間で摩耗が生じたり、壊れたりする可能性が高い。通常、軌道輪に転動体を組み付けた後であっても、最終的に検品が行われるので、このような軸受が出荷されるおそれはないが、軸受として組み付けた後に不良品であることが判明すると、全ての部品が無駄になってしまう。このため、組み付ける前の単体部品の状態で不良品をはじくことが望まれる。
【0003】
従来より行われていた、転がり軸受における外輪及び内輪等の単体部品の検査方法は、接触式のセンサを、回転する外輪の内側表面又は内輪の外側表面に当接させてその微少な凹凸を検出するものであった。
【0004】
このような接触式の検査方法によると、部品の表面に傷が付き易く、また、逆に傷の付かない柔軟な接触面を有するセンサによると、センサ側の接触部の摩耗が早くなり、センサの接触部交換を頻繁に行う必要があるため、メンテナンスに多大な手間がかかってしまう。しかも、表面全体に渡って走査しつつ検査することが難しいため、欠陥を見落とす可能性もあった。
【0005】
上述した不都合を解消できる非接触式の表面状態検査方法として、特許文献1及び2には、超音波探傷装置を用いて軸受の軌道輪の表面を検査する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−337530号公報
【特許文献2】特開2002−317821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載されているごとき超音波エコーを用いた検査技術によれば、軌道輪の表面全体の欠陥を検出することが可能であるが、超音波を使用するため、装置構成が複雑かつ大がかりとなり、水中で検査する必要があるなど、検査処理が簡易化できないのみならず、装置の製造コストが非常に高価になるという問題点がある。
【0008】
また、特許文献1及び2に記載された検査技術を含む従来技術によると、軌道輪表面の仕上がりの良否を簡易にかつ自動的に判断することができなかった。
【0009】
従って本発明の目的は、軌道輪表面の仕上がりの良否を簡易にかつ自動的に判断可能な、転がり軸受の表面検査装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、製造コストが安価であると共に検査処理が簡単であり、しかも精度の高い検査が可能である、転がり軸受の表面検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、転がり軸受の検査すべき軌道輪の表面に対してレーザ光を照射し、軌道輪の表面で反射したレーザ光を受光するレーザ光送受手段と、レーザ光送受手段が受光した反射レーザ光の強度に対応する電気信号を出力する光電変換手段と、レーザ光送受手段の少なくともレーザ光照射部を軌道輪の軸と同軸で回転させる周方向走査を行う周方向走査手段と、レーザ光送受手段を軌道輪の軸に沿って移動する軸方向走査を行う軸方向走査手段と、周方向走査を行った際の周方向の各位置において、光電変換手段から出力される電気信号の信号出力の、軸方向における最大値を取得する最大値取得手段と、取得した最大値のうち、ハレーション(光輝部分)状態に対応する最大値の個数を計数するハレーション個数計数手段と、ハレーション個数計数手段によって計数されたハレーション個数に応じて、軌道輪の良否を判断する判断手段とを備えた転がり軸受の表面検査装置が提供される。
【0012】
転がり軸受の軌道輪の表面で反射されたレーザ光は、受光されて光電変換されることにより、電気信号となる。その際、レーザ光照射部を軌道輪の軸と同軸で回転させる周方向走査を行うと共に、レーザ光送受手段を軌道輪の軸に沿って移動する軸方向走査を行う。周方向走査を行った際の周方向の各位置において、信号出力の、軸方向における最大値を取得し、その最大値のうち、ハレーション状態に対応する最大値の個数が計数される。この計数されたハレーション個数に応じて、軌道輪の良否が判断される。このように、周方向走査及び軸方向走査を行いつつ、レーザ光の照射及び反射光の受光を行っているため、軌道輪の表面全体について、簡単かつ高精度に仕上がりの良否を判断することができる。しかも、このようなレーザ光を走査する構成によれば、検査装置の製造コストを安価とすることができる。特に、本発明によれば、周方向の多くの領域に渡ってハレーション状態の部分があるか否かを、ハレーション状態に対応する最大値の個数で判別して良否を判断しているため、軌道輪表面の仕上がりの良否を精度良く、簡易にかつ自動的に判断することが可能となる。
【0013】
判断手段は、ハレーション個数の、周方向位置の数に対する比率から軌道輪の良否を判断する手段であることが好ましい。この場合、判断手段は、比率があらかじめ定めた閾値以上の場合に、軌道輪が良品であると判断する手段であることがより好ましい。
【0014】
レーザ光送受手段のレーザ光照射部が、軌道輪の表面に略垂直にレーザ光を照射するように構成されていることも好ましい。
【0015】
軌道輪が外輪であり、レーザ光送受手段が、外輪の軸を中心として外輪の内側を回転することにより外輪の内周面にレーザ光を照射するレーザ光照射部と、この内周面で反射したレーザ光を受光するレーザ光受光部とを備えていることも好ましい。
【0016】
軌道輪が内輪であり、レーザ光送受手段が、内輪の軸を中心として内輪の外側を回転することにより内輪の外周面にレーザ光を照射するレーザ光照射部と、この外周面で反射したレーザ光を受光するレーザ光受光部とを備えていることも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軌道輪の表面全体について、簡単かつ高精度に仕上がりの良否を判断することができる。しかも、検査装置の製造コストを安価とすることができる。さらに、軌道輪表面の仕上がりの良否を精度良く、簡易にかつ自動的に判断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における転がり軸受の表面検査装置の一実施形態の構成を概略的に示す構成図である。
【図2】図1の表面検査装置における本体の構成を概略的に示す断面図である。
【図3】図1の表面検査装置における処理制御装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】図3の処理制御装置の制御処理内容を説明するフローチャートである。
【図5】図1の表面検査装置によって検査される外輪の検査範囲を説明する図である。
【図6】図1の表面検査装置によって検査された外輪の検査画像を表す図であり、(A)は良品の検査画像、(B)は不良品の検査画像をそれぞれ示している。
【図7】図1の表面検査装置によって検査される外輪におけるレーザ光の反射状況を説明する図であり、(A)は良品の場合、(B)は不良品の場合をそれぞれ示している。
【図8】図1の表面検査装置において、各周方向位置における反射光強度データの最大値を表す図であり、(A)は良品について横軸に周方向位置を表した場合、(B)は(A)のデータを最大値の小さい順から並び替えて表した場合、(C)は不良品について横軸に周方向位置を表した場合、(D)は(C)のデータを最大値の小さい順から並び替えて表した場合をそれぞれ示している。
【図9】本発明における転がり軸受の表面検査装置の他の実施形態の構成を概略的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明における転がり軸受の表面検査装置の一実施形態の構成を概略的に示しており、図2は図1の表面検査装置の本体の構成を概略的に示している。なお、本実施形態は、転がり軸受の軌道輪のうちの外輪の内側表面の仕上がり状態を検査する表面検査装置に関するものである。また、以下の記載において、「上下方向」とは検査すべき外輪が装着された際にその外輪の軸方向を意味しており、これは中空回転部材の軸方向でもある。「下方向、下方」とはこの軸方向において中空回転部材の先端方向(図1及び図2にて下方向)を意味し、「上方向、上方」とはこの軸方向において中空回転部材の先端とは反対方向(図1及び図2にて上方向)を意味する。また、「水平方向」とはこの軸方向に垂直な方向を意味する。
【0020】
これらの図において、10は表面検査装置の本体であり、11は本表面検査装置の基盤である台座、12は台座11に下方の一端が固着されておりこの台座11から上方に垂直に起立している支柱、13は支柱12に沿って上下方向に直線的に摺動駆動可能な昇降装置、14はこの昇降装置13から水平方向に伸長するアーム、15はこのアーム14の先端に本体10を固着するための取り付け部材をそれぞれ示している。
【0021】
表面検査装置の本体10は、光源部16と、取り付け部材15を介してこの光源部16に連結されているモータ17と、本実施形態ではモータ17の回転軸である中空回転部材18とを備えている。中空回転部材18は、モータ17が駆動されると高速回転(12000rpm以上、例えば、15000rpmで回転)し、その先端部からレーザ光を被検査体である外輪19の内側表面に照射できるように構成されている。
【0022】
表面検査装置には、さらに、外輪19の内側表面で反射された反射レーザ光を光電変換して電気信号を出力する光電変換器20と、この光電変換器20からの電気信号から外輪19の内側表面の表面仕上がり状態を判断すると共に、モータ17、昇降装置13及びレーザ光源の動作を制御する処理制御装置21が設けられている。
【0023】
以下、表面検査装置の本体10の構成について、詳細に説明する。
【0024】
図2にも拡大して示されているように、光源部16には、図示しないレーザ光源から発生したレーザ光を集光するレンズ22が中空回転部材18と同軸に設けられている。このレンズ22の下方には、中空の管材23が中空回転部材18と同軸に設けられている。この管材23内には、レンズ22によって集光されたレーザ光(レーザビーム)を下方に導く中空路である第1の照射光用導光路23aが形成されている。さらに、この管材23の下方には、ギャップ24を介してモータ17の中空回転部材18が設けられており、この中空回転部材18内には、第1の照射光用導光路23aを介して導かれたレーザ光をギャップ24を介して受け取り、下方に導く中空路である第2の照射光用導光路18aが形成されている。
【0025】
中空回転部材18の先端部はその周面の一部が切除されており、この切除された部分には第2の照射光用導光路18aを介して導かれたレーザ光を水平方向に反射する平面ミラー25が設けられている。この平面ミラー25は反射面が軸方向に対して45°の角度をなすように取り付けられており、中空回転部材18と共に高速回転するように構成されている。これにより、平面ミラー25で反射されたレーザ光は、中空回転部材18と同軸に装着された外輪19の内側表面に垂直に入射可能となっている。平面ミラー25が外輪19の軸を中心として高速回転することにより、周方向の走査が実行されることとなる。
【0026】
中空回転部材18内には、第2の照射光用導光路18aの回りに複数の光ファイバが設けられており、これらの光ファイバは、外輪19の内側表面で反射され、平面ミラー25で反射された反射レーザ光を導く第1の反射光用導光路18bを構成している。第1の反射光用導光路18bを構成するこれら複数の光ファイバは、中空回転部材18の内壁に沿って同心円状かつ多層状に配置され接着材で固着されている。
【0027】
管材23の回りには複数の光ファイバが設けられており、これらの複数の光ファイバは第1の反射光用導光路18bを構成する複数の光ファイバからの反射レーザ光をギャップ24を介して受け取る第2の反射光用導光路23bを構成している。第2の反射光用導光路23bを構成するこれら複数の光ファイバは、下方では管材23の回りに同心円状かつ全体として筒状に配置され接着材で固着されており、その上方では管状にまとめられて光ファイバ束26を構成している。この光ファイバ束26は、本体10から外部に引き出され、その端部は光電変換器20(図1)に接続されている。これにより、外輪19の内側表面で反射されたレーザ光は、平面ミラー25で反射され、第1の反射光用導光路18b、第2の反射光用導光路23b及び光ファイバ束26によって導かれて光電変換器20に入射される。光電変換器20は、入射された反射レーザ光の光強度に応じたアナログ電気信号を出力する。
【0028】
昇降装置13を駆動制御して、本体10を一定の速度で上方向又は下方向に直線的に移動させることにより、軸方向の走査が実行される。
【0029】
図3は本実施形態の表面検査装置における処理制御装置21の電気的構成を概略的に示しており、図4はこの処理制御装置21の制御処理内容を説明しており、図5は本実施形態の表面検査装置によって検査される外輪19の検査範囲を説明している。
【0030】
図3に示すように、処理制御装置21は、光電変換器20から出力されるアナログ電気信号を設定されたサンプリング周波数(例えば、〜800kHz)でデジタル信号に変換するA/D変換部21aと、A/D変換部21aに接続されたデジタルコンピュータによる処理部21bと、処理部21bに接続された記憶部21cと、処理部21bに接続された表示部21dと、処理部21bに接続された出力ポート21eと、出力ポート21eに接続された、昇降装置13用の駆動回路21fと、出力ポート21eに接続された、モータ17用の駆動回路21gと、出力ポート21eに接続された、光源部16用の駆動回路21hとを備えている。
【0031】
次に、表面検査処理について詳細に説明する。
【0032】
図4に示すように、まず、検査のためのパラメータを設定する(ステップS1)。このパラメータとしては、(1)図5に示すように外輪19の内側表面における軸方向の検査範囲の設定、(2)周方向の走査におけるデータ数の設定、(3)軸方向の走査におけるデータ数の設定、(4)ハレーション(光輝部分)であると認識する閾値の設定、(5)良品及び不良品に関するハレーション率HRの判定閾値の設定等である。
【0033】
次いで、光源部16をオン駆動してレーザ光の照射を開始すると共に、モータ17を駆動して中空回転部材18を高速回転させ、さらに、昇降装置13を駆動して本体10を上方向又は下方向に連続的又は断続的に移動する(ステップS2)。
【0034】
これにより、集光されたレーザ光は、中空回転部材18内の第1の照射光用導光路23a及び第2の照射光用導光路18aを通って平面ミラー25で反射され、外輪19の内側表面に垂直に入射する。この外輪19の内側表面で正反射されたレーザ光は、平面ミラー25で反射され、第1の反射光用導光路18b、第2の反射光用導光路23b及び光ファイバ束26によって導かれて光電変換器20に入射される。その際、モータ17によって中空回転部材18と共に平面ミラー25が外輪19の軸を中心として高速回転することにより周方向の走査が行われ、昇降装置13によって本体10が一定速度で連続的に又は断続的に上方向又は下方向に直線的に移動することにより軸方向の走査が行われる。
【0035】
光電変換器20から得られる電気信号をA/D変換部21aを介して取り込むことにより、周方向及び軸方向の走査における反射レーザ光の光強度に応じたデジタルの反射光強度データを取得する(ステップS3)。この場合のサンプリング周波数は、パラメータとして設定された周方向のデータ数及び軸方向のデータ数に応じた値が選ばれる。例えば、周方向の設定データ数を940とした場合、1回転に対して940回のサンプリングがなされる周波数に設定され、1回転で940個の反射光強度データが取得される。また、軸方向のデータ数を100とした場合、検査領域を移動する間に100回のサンプリングがなされる周波数に設定され、1回の軸方向走査で100個の反射光強度データが取得される。従って、上述のごとくデータ数を設定した場合、1回の走査処理により、100×940個の反射光強度データが取得されることとなる。
【0036】
次いで、取得した反射光強度データを、周方向走査における周方向位置及び軸方向走査における軸方向位置と対応させて、記憶部21cに記憶する(ステップS4)。上述の例では、940個の周方向位置毎に、軸方向走査で得られた100個の反射光強度データが記憶部21cに記憶される。周方向位置は、モータ17の回転基準位置をあらかじめ設定しその回転角度から現在位置を求めるようにしても良いし、エンコーダ等の回転角センサを用いて検出するようにしても良い。軸方向位置は、昇降装置13の移動基準位置をあらかじめ設定してその移動距離から現在位置を求めるようにしても良いし、位置センサを用いて検出するようにしても良い。
【0037】
次いで、940個の周方向位置毎に、軸方向の走査で得られた全ての反射光強度データを記憶部21cから読み出し、その読み出した反射光強度データの最大値を算出する。940個の周方向位置毎に算出することによって得られた940個の反射光強度データの最大値をこれら周方向位置毎に記憶部21cに記憶する(ステップS5)。
【0038】
次いで、この記憶した周方向位置毎の反射光強度データの最大値を記憶部21cから読み出し、読み出した反射光強度データの最大値と、設定されたハレーションであると認識する閾値(ハレーション状態であると本実施形態で規定した「255」より低い値、例えば、「250」)とを比較して、閾値以上であった反射光強度データの最大値の個数を計数する(ステップS6)。
【0039】
このように計数した、ハレーションであると認識する閾値以上である反射光強度データの最大値の個数を用いて、ハレーション率HRを、HR=(周方向における閾値以上である反射光強度データの最大値の個数)/(周方向における反射光強度データの最大値の個数)=(周方向における閾値以上である反射光強度データの最大値の個数)/940から算出する(ステップS7)。
【0040】
次いで、算出したハレーション率HRを、設定されているその判別閾値、例えば50%と比較し、ハレーション率HRがこの判別閾値を越えたかどうか判別する(ステップS8)。越えている場合(YESの場合)はこの外輪19が良品であると判別すると共にその旨を表示部21dに表示する(ステップS9)。越えていない場合(NOの場合)はこの外輪19が不良品であると判別すると共にその旨を表示部21dに表示する(ステップS10)。
【0041】
図6は本実施形態の表面検査装置によって検査された外輪の検査画像を表している。同図において横方向は周方向に対応しており、縦方向は軸方向に対応している。各周方向位置及び軸方向位置における反射光強度信号が明暗で表されている(明るいものほど反射光強度が高い)。また、同図(A)は良品の検査画像、同図(B)は不良品の検査画像をそれぞれ示している。
【0042】
同図(A)のごとく、良品の外輪19の場合は、周方向の全域に渡って、検査範囲の中央(軸方向中央)が際だって明るくなっており、この明るさはほとんど途切れていない。即ち、良品の場合は周方向の全域に渡って検査範囲の中央がハレーション状態となっている。一方、同図(B)のごとく、不良品の外輪19′の場合は、検査範囲の中央(軸方向中央)は良品の場合に比して周方向の一部で暗くなっており周方向の全域が明るくなっていない。即ち、不良品の場合は周方向の一部のみにしかハレーション状態の部分が存在しない。
【0043】
この差異は、外輪研磨における以下の特性に起因している。図7は本実施形態の表面検査装置によって検査される外輪におけるレーザ光の反射状況を説明している。同図(A)のごとく良品の外輪19の場合、内側表面の研磨が非常に精巧に行われているため、外輪の軸と垂直に照射されたレーザ光は軌道表面の曲面で精密に正反射されるので、反射レーザ光は照射部と同じ位置にある受光部には、ほとんど戻ってこない。このため、軌道表面のほとんどの部分で反射レーザ光が戻らないことから暗くなる。しかしながら、軌道表面の軸方向の中央では、照射レーザ光が正反射されるので照射光のほとんどが照射部と同じ位置にある受光部へ戻ることとなり、ハレーション状態を起こす。このハレーション状態は、周方向の全域に渡って連続的に途切れることなく生じる。これに対して、同図(B)のごとく不良品の外輪19′の場合、研磨仕上がりが十分でないため、軌道表面がざらついており、軌道表面のどの部分に照射した場合にも、ある程度の反射光が受光部へ戻るのみである。このため、周方向の一部でのみしかハレーション状態が生じない。
【0044】
本実施形態では、外輪研磨における以上の特性を利用して外輪の内側表面の研磨仕上がり良否を判断しているのである。
【0045】
図8は本実施形態の表面検査装置において、各周方向位置における反射光強度データの最大値を表す図である。同図において、(A)は良品について横軸に周方向位置、縦軸に軸方向における反射光強度データの最大値を表した場合、(B)は(A)のデータを最大値の小さい順から並び替え、横軸に周方向のデータ数、縦軸に軸方向における反射光強度データの最大値を表した場合、(C)は不良品について横軸に周方向位置、縦軸に軸方向における反射光強度データの最大値を表した場合、(D)は(C)のデータを最大値の小さい順から並び替え、横軸に周方向のデータ数、縦軸に軸方向における反射光強度データの最大値を表した場合をそれぞれ示している。
【0046】
同図(A)に示すように、良品の場合、軸方向における反射光強度データの最大値は、周方向のほぼ全ての位置において、ハレーション状態であると規定した「255」となっており、同図(B)に示すように、その数は例えば780以上となっている。このため、ハレーション率HRはHR≧780/940≒82.9%となる。一方、同図(C)に示すように、不良品の場合、軸方向における反射光強度データの最大値は、周方向のほとんどの位置において、ハレーション状態である「255」未満であり、同図(D)に示すように、その数は例えば90以下である。このため、ハレーション率HRはHR≦90/940≒9.6%となる。その結果、ハレーション率HRの良品及び不良品の閾値を50%とすれば、良品及び不良品の識別を確実に行うことができる。因みに、本実施形態によって良品及び不良品の判定を行った場合の正答率は、単なる一例であるが、良品については95%、不良品については83%であり、全体では89%であった。
【0047】
このように、本実施形態では、軸方向における反射光強度データの最大値のうち、周方向において、ハレーション状態であると認識されるものの個数を計数し、その計数した個数からハレーション率HRを求め、このハレーション率HRを閾値と比較することにより良否を判断しているため、外輪内側表面の仕上がりの良否を精度良く、簡易にかつ自動的に判断することが可能となる。また、周方向走査及び軸方向走査を行いつつ、レーザ光の照射及び反射光の受光を行っているため、外輪の内側表面全体について、簡単かつ高精度に仕上がりの良否を判断することができる。しかも、このようなレーザ光を走査する構成によれば、検査装置の製造コストを安価とすることができる。
【0048】
図9は本発明における転がり軸受の表面検査装置の他の実施形態の構成を概略的に示している。本実施形態は、転がり軸受の軌道輪のうちの内輪の外側表面の仕上がり状態を検査する表面検査装置に関するものである。また、以下の記載において、「上下方向」とは検査すべき内輪が装着された際にその内輪の軸方向を意味しており、これは中空回転部材の軸方向でもある。「下方向、下方」とはこの軸方向において中空回転部材の先端方向(図9にて下方向)を意味し、「上方向、上方」とはこの軸方向において中空回転部材の先端とは反対方向(図9にて上方向)を意味する。また、「水平方向」とは軸方向に垂直な方向を意味する。
【0049】
同図において、90は表面検査装置の本体であり、91は本表面検査装置の基盤である台座、92は台座91に下方の一端が固着されておりこの台座91から上方に垂直に起立している支柱、93は支柱92に沿って上下方向に直線的に摺動駆動可能な昇降装置、94はこの昇降装置93から水平方向に伸長するアーム、95はこのアーム94の先端に本体90を固着するための取り付け部材をそれぞれ示している。
【0050】
表面検査装置の本体90は、レーザ光源96a及び集光レンズ96bを有する光源部96と、取り付け部材95上に設けられており、光源部96と連結されているモータ97と、本実施形態ではモータ97の回転軸である中空回転部材98とを備えている。中空回転部材98は、モータ97が駆動されると高速回転(12000rpm以上、例えば、15000rpmで回転)し、その先端部からレーザ光を被検査体である内輪99の外側表面に照射できるように構成されている。
【0051】
表面検査装置には、さらに、内輪99の外側表面で反射された反射レーザ光を光電変換して電気信号を出力する光電変換器100と、この光電変換器100からの電気信号から内輪99の外側表面の表面仕上がり状態を判断すると共に、モータ97、昇降装置93及びレーザ光源96aの動作を制御する処理制御装置101が設けられている。
【0052】
以下、表面検査装置の本体90の構成について、詳細に説明する。
【0053】
光源部96には、レーザ光源96aから発生したレーザ光を集光するレンズ96bが中空回転部材98と同軸に設けられている。中空回転部材98内には、レンズ96bによって集光されたレーザ光を受け取り、下方に導く中空路である照射光用導光路98aが形成されている。
【0054】
中空回転部材98の先端部はその周面の一部が切除されており、この切除された部分には照射光用導光路98aを介して導かれたレーザ光を水平方向に反射する第1の平面ミラー105が設けられている。また、中空回転部材98の先端部には、円板部材107がこの中空回転部材98と同軸に取り付けられている。円板部材107の外周部には、第1の平面ミラー105と同期して回転する第2の平面ミラー108が設けられている。この第2の平面ミラー108の下方の固定位置には、円錐台ミラー109が中空回転部材98と同軸に配置されている。
【0055】
本実施形態においては、モータ97自体が、回転軸として、高速回転可能な中空回転部材98を有しており、光源部96からの光ビームが中空回転部材98を通過することができる。なお、独立した中空回転部材を別個に配置されたモータによって回転駆動させるように構成しても良い。
【0056】
円板部材107は、一定の半径を有し、中空回転部材98の端部にこの中空回転部材98と同軸に固着されている。
【0057】
第1の平面ミラー105は、中空回転部材98の軸方向に対して45°の傾きでこの軸から離れる方向に向いた平坦な鏡面を有しており、中空回転部材98の端部の中心軸上に設置されている。従って、この第1の平面ミラー105は、中空回転部材98の軸方向の入射光を、この軸に対して垂直な放射方向に進む反射光を生成する。
【0058】
第2の平面ミラー108は、中空回転部材98の軸方向に対して45°の傾きでこの軸に近づく方向に向いた平坦な鏡面を有しており、中空回転部材98の軸に垂直な水平平面からなる円板部材107の外周部に配置され固着されている。この第2の平面ミラー108及び第1の平面ミラー105は、互いの鏡面が対向するように固定された位置関係を有しており、従って、第2の平面ミラー108は、第1の平面ミラー105と同期して回転する。その結果、第1の平面ミラー105から反射された水平方向の光ビームが第2の平面ミラー108に入射し、中空回転部材98の軸方向と平行な方向に反射されて第1の平面ミラー105とは反対側の位置、即ち図にて下方に設けられた円錐台ミラー109に入射する。
【0059】
円錐台ミラー109は、中空回転部材98と同軸に配置されており、回転する第2の平面ミラー108からの光ビームを内輪99の外側表面に反射するためのものである。この円錐台ミラー109の光入射面である円錐面(斜面)と水平面(底面)との間の角度は45°に近いか大きい角度に設定されている。円錐台ミラー109を用いることで、互いに同期して回転する第1の平面ミラー105及び第2の平面ミラー108を介して入射される光が反射され、内輪99の外側表面の周囲を周方向に移動しながらこの外側表面に水平に近い入射角度で照射される。
【0060】
第1の平面ミラー105、円板部材107及び第2の平面ミラー108は、中空回転部材98と共に高速回転するように構成されている。これにより、周方向の走査が実行されることとなる。
【0061】
円錐台ミラー109に対して第2の平面ミラー108とは反対側の位置、即ち下方には、複数の光ファイバ106aの受光端部がリング状に配置されている。複数の光ファイバ106aはそれぞれの先端部をヘッド部110の開口部において環状に揃えて受光部を形成する。ここで、反射光を捉えやすくするために、光ファイバ106aの受光端の端面が反射光に向かうように設置されている。また、複数の光ファイバ106aが束にまとまった状態で光ファイバ導出部106より外部へ導出され、その他端は光電変換器100に接続されている。これにより、内輪99の外側表面で反射されたレーザ光は、光ファイバ106a及び光ファイバ束106によって導かれて光電変換器100に入射される。
【0062】
上述した受光手段は、ヘッド部110と共に円錐台ミラー109に対して軸方向(上下方向)に移動可能とされる。ヘッド部110のこの軸方向移動手段は、図示されていないが、手動又は自動の移動機構を用いることが考えられる。
【0063】
昇降装置93を駆動制御して、本体90を一定の速度で上方向又は下方向に直線的に移動させることにより、軸方向の走査が実行される。なお、変更態様として、台座91に上下方向に移動する昇降装置を設け、内輪99を昇降させて軸方向の走査を実行するように構成しても良い。
【0064】
本実施形態における光電変換器100及び処理制御装置101の構成、動作及び作用効果は図1及び2の実施形態における光電変換器20及び処理制御装置21の構成、動作及び作用効果と全く同様であるため、説明は省略する。
【0065】
なお、上述した図1及び図9の実施形態においては、各周方向位置において軸方向の反射光強度データにおける最大値を求め、ハレーションであると認識する閾値以上の最大値の個数を計数し、計数した個数からハレーション率HRを算出し、算出したハレーション率HRが判別閾値を越えたかどうかにより、良品、不良品の判断を行っている。しかしながら、本発明では、ハレーション率HRを算出したり、ハレーション率HRが判別閾値を越えたかどうか判別したりせずとも、ハレーションであると認識した最大値の個数から、何らかの方法で良品、不良品の判断を行うように処理制御装置を構成することも可能である。
【0066】
以上述べた実施形態は、転がり軸受のうちの玉軸受の表面検査装置に関するものであるが、本発明は、その他の転がり軸受の表面検査装置、例えば円筒ころ軸受の表面検査装置にも適用できることはもちろんである。
【0067】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0068】
10、90 本体
11、91 台座
12、92 支柱
13、93 昇降装置
14、94 アーム
15、95 取り付け部材
16、96 光源部
17、97 モータ
18、98 中空回転部材
18a 第2の照射光用導光路
18b 第1の反射光用導光路
19、19′ 外輪
20、100 光電変換器
21、101 処理制御装置
21a A/D変換部
21b 処理部
21c 記憶部
21d 表示部
21e 出力ポート
21f、21g、21h 駆動回路
22、96b レンズ
23 管材
23a 第1の照射光用導光路
23b 第2の反射光用導光路
24 ギャップ
25 平面ミラー
26 光ファイバ束
96a レーザ光源
98a 照射光用導光路
99 内輪
105 第1の平面ミラー
106 光ファイバ束
106a 光ファイバ
107 円板部材
108 第2の平面ミラー
109 円錐台ミラー
110 ヘッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の検査すべき軌道輪の表面に対してレーザ光を照射し、該軌道輪の表面で反射したレーザ光を受光するレーザ光送受手段と、該レーザ光送受手段が受光した反射レーザ光の強度に対応する電気信号を出力する光電変換手段と、前記レーザ光送受手段の少なくともレーザ光照射部を前記軌道輪の軸と同軸で回転させる周方向走査を行う周方向走査手段と、前記レーザ光送受手段を前記軌道輪の前記軸に沿って移動する軸方向走査を行う軸方向走査手段と、前記周方向走査を行った際の周方向の各位置において、前記光電変換手段から出力される電気信号の信号出力の、軸方向における最大値を取得する最大値取得手段と、該取得した最大値のうち、ハレーション状態に対応する最大値の個数を計数するハレーション個数計数手段と、該ハレーション個数計数手段によって計数されたハレーション個数に応じて、前記軌道輪の良否を判断する判断手段とを備えたことを特徴とする転がり軸受の表面検査装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記ハレーション個数の、周方向位置の数に対する比率から前記軌道輪の良否を判断する手段であることを特徴とする請求項1に記載の表面検査装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記比率があらかじめ定めた閾値以上の場合に、前記軌道輪が良品であると判断する手段であることを特徴とする請求項2に記載の表面検査装置。
【請求項4】
前記比率レーザ光送受手段の前記レーザ光照射部は、前記軌道輪の表面に略垂直にレーザ光を照射するように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の表面検査装置。
【請求項5】
前記軌道輪が外輪であり、前記レーザ光送受手段が、該外輪の軸を中心として該外輪の内側を回転することにより該外輪の内周面にレーザ光を照射するレーザ光照射部と、前記内周面で反射したレーザ光を受光するレーザ光受光部とを備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の表面検査装置。
【請求項6】
前記軌道輪が内輪であり、前記レーザ光送受手段が、該内輪の軸を中心として該内輪の外側を回転することにより該内輪の外周面にレーザ光を照射するレーザ光照射部と、前記外周面で反射したレーザ光を受光するレーザ光受光部とを備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−154639(P2012−154639A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11239(P2011−11239)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(591224744)シグマ株式会社 (22)
【Fターム(参考)】