説明

電動車両の制御装置

【課題】減速後の再加速要求に対する車両の加速応答性を確保することができる電動車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】車両制御部(図7)は、走行情報検出手段(環境情報検出部22,操作情報検出部23)により検出された走行環境情報又は車両操作情報の少なくとも一方に基づき車両が減速することを予測する減速予測手段(ステップS101,102)と、減速が予測された際に、車両の減速開始前に変速機の変速比を下げる変速比低減手段(ステップS103,104,105,106,108)と、変速比の低減開始から車両の減速開始までの間、モータの回転数制御を実行して車速を維持するモータ制御手段(ステップS107)と、車両減速中ジェネレータを駆動して回生エネルギーの回収を行うジェネレータ制御手段(ステップS110)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速時に車両の回生エネルギーを回収する電動車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンとモータ/ジェネレータとを有する駆動源の下流位置に変速機を配置したハイブリッド車両(電動車両)において、車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘らず、変速機を高速段に維持する電動車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-130202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の電動車両の制御装置にあっては、減速した時には車軸トルク要求は小さくなるので、変速機は高速段のまま維持されるが、その後加速要求があると車軸トルク要求が大きくなり、変速機を高速段に維持できずに低速段に変速する必要が生じる。この結果、ドライバーのアクセル操作にあらわれる加速要求に対して車両加速のタイミングが遅くなり、ドライバーに違和感を与えるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、減速後の再加速要求に対する車両の加速応答性を確保することができる電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、モータを有する駆動源と駆動輪との間に配置された変速機と、この変速機を介して駆動輪に連結されたジェネレータと、走行環境及び乗員の車両操作に応じた車両制御を実行する車両制御部と、を備えた電動車両の制御装置において、走行環境情報や車両操作情報を検出する走行情報検出手段を備えると共に、車両制御部は、減速予測手段と、変速比低減手段と、モータ制御手段と、ジェネレータ制御手段とを有する。そして、減速予測手段は、走行環境情報又は車両操作情報の少なくとも一方に基づき車両が減速することを予測する。また、変速比低減手段は、減速が予測された際に、車両の減速開始前に変速機の変速比を下げる。また、モータ制御手段は、変速比の低減開始から車両の減速開始までの間、モータの回転数制御を実行して車速を維持する。さらに、ジェネレータ制御手段は、車両減速中ジェネレータを駆動して回生エネルギーの回収を行う。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の電動車両の制御装置にあっては、変速比減速手段により、減速開始前に変速機の変速比が下げられているので、実際に減速した後に再加速要求があって要求トルクが高くなったとしても、再加速要求がなされたタイミングで変速する必要がなくなる。そのため、加速要求に対してすぐに車両加速することができ、減速後の再加速要求に対する車両の加速応答性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の電動車両の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(電動車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の電動車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。
【図3】実施例1の電動車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラでのモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。
【図4】実施例1の電動車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラでバッテリ充電制御を行う際に用いられる目標充放電量マップを示す図である。
【図5】実施例1の電動車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機の一例を示すスケルトン図である。
【図6】実施例1の電動車両の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機での変速段ごとの各摩擦締結要素の締結状態を示す締結作動表である。
【図7】実施例1の統合コントローラにて実行される車両制御処理の流れを示すフローチャートである(車両制御手段)。
【図8】減速度と減速開始タイミングとの関係を示した図である。
【図9】車両制御処理における変速後の目標変速段を設定する際に用いられる目標変速段マップを示す図である。
【図10】実施例1の電動車両の制御装置にて実行される減速時車両制御で、減速→再加速する際の車速・変速比・モータ/ジェネレータ動作状態の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の電動車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の電動車両の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(電動車両の一例)を示す全体システム図である。
【0011】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RLと、右後輪RRと、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0012】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御やフューエルカット制御等が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0013】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・スリップ締結(半クラッチ状態)・開放が制御される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて完全締結を保ち、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14を用いたストローク制御により、スリップ締結から完全開放までが制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0014】
前記モータ/ジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータ/ジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータ/ジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機(モータ)として動作することもできるし(以下、この動作状態を「力行」と呼ぶ)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機(ジェネレータ)として機能し、バッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータ/ジェネレータMGのロータは、ダンパーを介して自動変速機ATの変速機入力軸に連結されている。
【0015】
前記第2クラッチCL2は、前記モータ/ジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・開放が制御される。この第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設されるAT油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0016】
前記自動変速機ATは、例えば、前進7速/後退1速等の有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える有段変速機であり、前記第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、トルク伝達経路に配置される最適なクラッチやブレーキを選択している。そして、前記自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0017】
実施例1のハイブリッド駆動系は、電気車両走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロール走行モード(以下、「WSCモード」という。)等の走行モードを有する。
【0018】
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータ/ジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、モータシスト走行モード・走行発電モード・エンジン走行モードの何れかにより走行するモードである。前記「WSCモード」は、「HEVモード」からのP,N→Dセレクト発進時、あるいは、「EVモード」や「HEVモード」からのDレンジ発進時等において、モータ/ジェネレータMGの回転数制御により第2クラッチCL2のスリップ締結状態を維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態やドライバー操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら発進するモードである。なお、「WSC」とは「Wet Start clutch」の略である。
【0019】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0020】
前記エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0021】
前記モータコントローラ2は、モータ/ジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータ/ジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報は、モータ/ジェネレータMGの制御情報に用いられると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0022】
前記第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・スリップ締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0023】
前記ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18(変速機入力回転数センサ、インヒビタースイッチ等)からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点がシフトマップ上で存在する位置により最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。なお、シフトマップとは、アクセル開度と車速に応じてアップシフト線とダウンシフト線を書き込んだマップをいう。上記自動変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2のスリップ締結を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。また、統合コントローラ10から変速制御変更指令が出力された場合、通常の変速制御に代え、変速制御変更指令にしたがった変速制御を行う。
【0024】
前記ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0025】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21、走行環境情報を検出する環境情報検出部22、車両操作情報を検出する操作情報検出部23や他のセンサ・スイッチ類24からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0026】
なお、環境情報検出部22及び操作情報検出部23は、走行情報検出手段である。環境情報検出部22は、例えば、走行環境情報であるナビ情報、渋滞情報、制限速度情報を受信又は記憶するナビゲーションシステム、信号情報を検出する信号センサ、前車車間距離情報及び自動車相互間情報を検出する距離センサ等である。ここで、ナビゲーションシステムとは、地図情報や制限速度情報等を記憶したハードディスクやDVDーROM等の記憶媒体や通信ポートなどを含む制御部とを内蔵する本体と、車両の現在位置に関する情報を受信するGPSアンテナと、渋滞情報を受信する受信ユニットと、車両の現在位置に関する情報や目的地までの走行ルートといった各種情報を表示可能なディスプレイとを備え、操作者により目的地が指定されたときに地図情報と車両の現在位置と目的地とに基づいて目的地までの走行ルートを検索すると共に検索した走行ルートについての走行予定時間や走行予定距離をナビ情報として出力し、ディスプレイ上の表示や音声等を介してルート案内を行なうものである。また、操作情報検出部23は、例えば、車両操作情報であるドライバー走行パターン(ドライバーの運転スタイル)をモニタリングして学習演算するCPU等である。
【0027】
図2は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。図3は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10でのモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。図4は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10でバッテリ充電制御を行う際に用いられる目標充放電量マップを示す図である。以下、図2〜図4に基づき、実施例1の統合コントローラ10にて実行される演算処理を説明する。
【0028】
前記統合コントローラ10は、図2に示すように、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400とを有する。
【0029】
前記目標駆動力演算部100では、目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0030】
前記モード選択部200では、図3に示すEV-HEV選択マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、「EVモード」または「HEVモード」を目標走行モードとして選択する。但し、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。また、「HEVモード」からのP,N→Dセレクト発進時等においては、車速VSPが第1設定車速VSP1になるまで「WSCモード」を目標走行モードとして選択する。
【0031】
前記目標充放電演算部300では、図4に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
【0032】
前記動作点指令部400では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標走行モードと、車速VSPと、目標充放電電力tP等の入力情報に基づき、動作点到達目標として、目標エンジントルクと目標MGトルクと目標MG回転数と目標CL1トルクと目標CL2トルクを演算する。そして、目標エンジントルク指令と目標MGトルク指令と目標MG回転数指令と目標CL1トルク指令と目標CL2トルク指令を、CAN通信線11を介して各コントローラ1,2,5,7に出力する。
【0033】
図5は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【0034】
前記自動変速機ATは、前進7速後退1速の有段式自動変速機であり、エンジンEngとモータジェネレータMGのうち、少なくとも一方からの駆動力が変速機入力軸Inputから入力され、4つの遊星ギアと7つの摩擦締結要素とによって回転速度が変速されて変速機出力軸Outputから出力される。次に、変速機入力軸Inputと変速機出力軸Outputとの間の変速ギア機構について説明する。
【0035】
変速機入力軸Input側から変速機出力軸Output側までの軸上に、順に第1遊星ギアG1と第2遊星ギアG2による第1遊星ギアセットGS1及び第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4による第2遊星ギアセットGS2が配置されている。また、摩擦締結要素として第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第4ブレーキB4が配置されている。また、第1ワンウェイクラッチF1と第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。
【0036】
前記第1遊星ギアG1は、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、両ギアS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリアPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0037】
前記第2遊星ギアG2は、第2サンギアS2と、第2リングギアR2と、両ギアS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリアPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0038】
前記第3遊星ギアG3は、第3サンギアS3と、第3リングギアR3と、両ギアS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリアPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0039】
前記第4遊星ギアG4は、第4サンギアS4と、第4リングギアR4と、両ギアS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリアPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0040】
前記変速機入力軸Inputは、第2リングギアR2に連結され、エンジンEngとモータジェネレータMGの少なくとも一方からの回転駆動力を入力する。前記変速機出力軸Outputは、第3キャリアPC3に連結され、出力回転駆動力を、ファイナルギア等を介して駆動輪(左右後輪RL,RR)に伝達する。
【0041】
前記第1リングギアR1と第2キャリアPC2と第4リングギアR4とは、第1連結メンバM1により一体的に連結される。前記第3リングギアR3と第4キャリアPC4とは、第2連結メンバM2により一体的に連結される。前記第1サンギアS1と第2サンギアS2とは、第3連結メンバM3により一体的に連結される。
【0042】
前記第1遊星ギアセットGS1は、第1遊星ギアG1と第2遊星ギアG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3とによって連結することで、4つの回転要素を有して構成される。また、第2遊星ギアセットGS2は、第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4とを、第2連結メンバM2によって連結することで、5つの回転要素を有して構成される。
【0043】
前記第1遊星ギアセットGS1では、トルクが変速機入力軸Inputから第2リングギアR2に入力され、入力されたトルクは第1連結メンバM1を介して第2遊星ギアセットGS2に出力される。前記第2遊星ギアセットGS2では、トルクが変速機入力軸Inputから直接第2連結メンバM2に入力されると共に、第1連結メンバM1を介して第4リングギアR4に入力され、入力されたトルクは第3キャリアPC3から変速機出力軸Outputに出力される。
【0044】
前記第1クラッチC1(インプットクラッチI/C)は、変速機入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。前記第2クラッチC2(ダイレクトクラッチD/C)は、第4サンギアS4と第4キャリアPC4とを選択的に断接するクラッチである。前記第3クラッチC3(H&LRクラッチH&LR/C)は、第3サンギアS3と第4サンギアS4とを選択的に断接するクラッチである。
【0045】
また、前記第2ワンウェイクラッチF2は、第3サンギアS3と第4サンギアS4の間に配置されている。これにより、第3クラッチC3が開放され、第3サンギアS3よりも第4サンギアS4の回転速度が大きい時、第3サンギアS3と第4サンギアS4とは独立した回転速度を発生する。よって、第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギアが独立したギア比を達成する。
【0046】
前記第1ブレーキB1(フロントブレーキFr/B)は、第1キャリアPC1の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。また、第1ワンウェイクラッチF1は、第1ブレーキB1と並列に配置されている。前記第2ブレーキB2(ローブレーキLOW/B)は、第3サンギアS3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第3ブレーキB3(2346ブレーキ2346/B)は、第1サンギアS1及び第2サンギアS2を連結する第3連結メンバM3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第4ブレーキB4(リバースブレーキR/B)は、第4キャリアPC3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。
【0047】
図6は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦締結要素の締結状態を示す締結作動表である。なお、図6において、○印は当該摩擦締結要素が締結状態であることを示し、(○)印は少なくともエンジンブレーキ作動時に当該摩擦締結要素が締結状態であることを示し、無印は当該摩擦締結要素が開放状態であることを示す。
【0048】
上記のように構成された変速ギア機構に設けられた各摩擦締結要素のうち、締結していた1つの摩擦締結要素を開放し、開放していた1つの摩擦締結要素を締結するという掛け替え変速を行うことで、下記のように、前進7速で後退1速の変速段を実現することができる。
【0049】
すなわち、「1速段」では、第2ブレーキB2のみが締結状態となり、これにより第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「2速段」では、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3が締結状態となり、第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「3速段」では、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3及び第2クラッチC2が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2はいずれも係合しない。「4速段」では、第3ブレーキB3、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「5速段」では、第1クラッチC1、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「6速段」では、第3ブレーキB3、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となる。「7速段」では、第1ブレーキB1、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1が係合する。「後退速段」では、第4ブレーキB4、第1ブレーキB1及び第3クラッチC3が締結状態となる。
【0050】
ここで、図1に示す第2クラッチCL2としては、各変速段にて締結される摩擦締結要素を選択可能であるが、例えば、「1速段〜3速段」で第2ブレーキB2、「4速段」で第2クラッチC2、「5速段」で第3クラッチC3、「6速段と7速段」で第1クラッチC1が用いられる。
【0051】
図7は、実施例1の統合コントローラにて実行される車両制御処理の流れを示すフローチャートである(車両制御手段)以下、図7に示すフローチャートの各ステップについて説明する。
【0052】
ステップS101では、減速予測がされたか否かを判断し、YES(減速予測あり)の場合はステップS102へ進み、NO(減速予測なし)の場合はステップS101を繰り返す。なお、減速予測の有無は、走行環境情報又は車両操作情報の少なくとも一方に基づき判断される。例えば、環境情報検出部22の一つであるナビゲーションシステムからのナビ情報により有料道路の料金所が近づいているとの情報が入力された場合には、料金所で停車するために減速することが予測され「減速予測あり」となる。その他にも、減速すると予測される例として、下記に列挙する場合等がある。
・ナビ情報より、ETC、パーキングエリア、サービスエリア、右左折が必要な交差点、目的地が近づいたとの各情報が入力された場合
・道路交通情報より、渋滞、スピードバンプ、道路工事、走行規制が発生しているとの各情報が入力された場合
・制限速度情報より、これから通過する道路の制限速度が低いとの情報が入力された場合
・信号情報より、これから通過する信号が赤になった又は赤になるとの情報が入力された場合
・前車車間距離情報から、前車の車速や車速変化量から車間距離が縮まった又は縮まるとの情報が入力された場合
・自動車相互間情報から、自車の前方方向の車両が減速したとの情報が入力された場合
【0053】
ステップS102では、ステップS101での減速予測ありとの判断に続き、予測された減速が開始されるタイミングを予測し、ステップS103へ進む。このステップS102が、減速開始のタイミングを予測する減速タイミング予測部となる。
なお、減速開始のタイミングは、現在の車速、減速後の推定車速、減速地点までの距離、減速地点までの推定時間、予測された減速度等から予測される。ここで、減速後の推定車速は減速地点の条件により異なり、例えば減速地点がETCや右左折する交差点、スピードバンプ等であれば、一般の車両がそれらを通過する際の車速となり、前車車間距離情報や自動車相互間情報に基づく減速予測であれば、前車や前方車両の車速を参考に設定される。
さらに、予測される減速開始タイミングは、現在の車速、減速後の推定車速、減速地点までの距離等が同じであっても、図8に示すように、ドライバーの走行パターンである車両操作情報に基づいて予測される減速度によって異なる。この「減速度」とは、ドライバーごとに有する減速感覚のことであり、目標車速に対してゆっくり減速する場合は減速度が緩く、目標車速に対してすばやく減速する場合は減速度が強いとする。
そして、減速度が比較的緩い場合(図8においてαで示す)には、時刻t時点で減速を完了するために時刻taのタイミングで減速を開始すると予測される。また、減速度が中間の場合(図8においてβで示す)には、時刻t時点で減速を完了するために時刻tbのタイミングで減速を開始すると予測される。また、減速度が強い場合(図8においてγで示す)には、時刻t時点で減速を完了するために時刻tcのタイミングで減速を開始すると予測される。
【0054】
ステップS103では、ステップS102での減速開始タイミングの予測に続き、変速後の目標変速段の設定を行い、ステップS104へ進む。ここで、目標変速段の設定は、減速前の車速及び予測された減速後の車速に基づいて行われ、例えば図9に示すマップに基づいて設定される。なお、図9には変速段数が3の場合の例を示す。このステップS103が、減速前の車速及び予測された減速後の車速に基づいて、低減する変速比を設定する変速比設定部となる。
【0055】
ステップS104では、ステップS103での目標変速段の設定に続き、バッテリ4又はモータ/ジェネレータMGの制限がないか否かを判断し、YES(制限なし)の場合はステップS105へ進み、NO(制限あり)の場合はリターンへ進む。ここで、バッテリ4の制限とは、バッテリSOCに基づくバッテリ4への入力制限であり、モータ/ジェネレータMGの制限とは、バッテリSOCに基づくモータ/ジェネレータMGの回生制限である。すなわち、バッテリ4又はモータ/ジェネレータMGの制限がなされている場合には、車両の減速前に変速段を低くした(変速比を低減させた)場合と、減速中に変速段を低くした(変速比を低減させた)場合とにおいて回生エネルギーの回収量に差が生じない。そのため、制限ありと判断された場合には、減速前の変速段低減は実行しない構成になっている。
【0056】
ステップS105では、ステップS104での制限なしとの判断に続き、自動変速機ATの変速段を低減するタイミング、すなわち、シフトダウンを実行するタイミングを設定し、ステップS106へ進む。シフトダウンは、予測された減速開始タイミングの直前まで実行しない方が燃費の向上が見込まれるため、シフトダウンを実行するタイミング(以下、シフトダウンタイミングという)は、予測された減速開始タイミングに応じて設定される。
つまり、図8では、減速開始タイミングが時刻taの場合にはシフトダウンタイミングを時刻ta´に設定し、減速開始タイミングが時刻tbの場合にはシフトダウンタイミングを時刻tb´に設定し、減速開始タイミングが時刻tcの場合にはシフトダウンタイミングを時刻tc´に設定する。
【0057】
ステップS106では、ステップS105でのシフトダウンタイミングの設定に続き、設定されたタイミングでシフトダウン、つまり変速段を低減し、ステップS107へ進む。このとき、シフトダウンする段数はステップS103にて設定した目標変速段を満足するものとなる。
【0058】
ステップS107では、ステップS106でのシフトダウンに続き、モータ/ジェネレータMGをバッテリ4からの電力供給を受けて回転駆動させると同時に、回転数制御を実行して車速を維持し、ステップS108へ進む。このとき、モータ/ジェネレータMGは電動機として動作する力行状態になる。このステップS107がシフトダウンから車両の減速開始までの間、モータ/ジェネレータMGの回転数制御を実行して車速を維持するモータ制御手段となる。
【0059】
ステップS108では、ステップS107でのモータ制御に続き、予測された減速開始タイミングの経過前に実際に車両の減速が開始したか否かを判断し、YES(減速あり)の場合はステップS109へ進み、NO(減速なし)の場合はステップS110へ進む。減速の有無は、車速センサ17により検出される車速VSPに基づいて判断される。このステップS108が予測された減速開始タイミングの経過前に車両の減速が開始されることを判断し、減速開始タイミングを経過しても減速が開始されなければ、車速と要求駆動力に基づく変速制御を実行する減速開始判断部となる。
【0060】
ステップS109では、ステップS108での減速ありとの判断に続き、モータ/ジェネレータMGのロータが駆動輪RL,RRから回転エネルギーを受けて回転し、ステータコイルの両端に起電力を生じさせてバッテリ4の充電を行うことで回生エネルギーの回収を実行し、リターンへ進む。このとき、モータ/ジェネレータMGは発電機として動作する回生状態になる。このステップS109が車両の減速中、モータ/ジェネレータMGを駆動して回生エネルギーの回収を行うジェネレータ制御手段となる。
【0061】
ステップS110では、ステップS108での減速なしとの判断に続き、アクセル開度TPOと車速VSPによって決まる運転点のシフトマップ上の位置に基づく変速制御である通常の変速制御を実行し、リターンへ進む。なお、ドライバーの要求駆動力はアクセル開度APOに反映されるため、通常の変速制御とは、車速VSPと要求駆動力に基づいて変速制御を実行することである。
【0062】
そして、ステップS101及びステップS102が、走行環境情報又は車両操作情報の少なくとも一方に基づき、車両が減速することを予測する減速予測手段となる。また、ステップS103,104,105,106,108が、減速が予測された際に、車両の減速開始前に、自動変速機ATの変速比を下げる変速比低減手段となる。
【0063】
次に、作用を説明する。
まず、「従来の減速時変速制御とその課題」の説明を行い、続いて、実施例1のFRハイブリッド車両の制御装置における「減速時車両制御作用」を説明する。
【0064】
[従来の減速時変速制御とその課題]
モータ/ジェネレータを駆動源に有する電動車両においては、通常、減速した際に、駆動輪の回転エネルギーを受けて発電し、回生を行う。ここで、駆動源の下流側に変速機を配置した車両では、減速することでアクセル開度APOと車速VSPによって決まる運転点がシフトマップのダウンシフト線を横切り、シフトダウンすることが考えられる。
【0065】
このとき、変速ショックを緩和してよりスムーズに変速するためにモータ/ジェネレータの回生制動力を減少させる必要があり、回生エネルギーロスが発生してしまうという問題があった。
【0066】
さらに、シフトダウンする際に、変速制御によるモータ/ジェネレータMGのトルク変化での減速度変化を抑制するために、回生制動力と機械制動力との回生協調ブレーキ制御を実行するが、両制動力のトルクのずれ、タイミングのずれ、性能のバラツキ等により要求制動力を実現することができずに、ドライバーに違和感を与えてしまうおそれもあった。
【0067】
そこで、従来、車軸要求トルク値に対応できる限り、車速の変化に拘らず高速段を保持することが考えられている。
【0068】
しかしながら、減速してから再加速要求があったときなどの保持した高速段では車軸要求トルク値に対応できない場合には、シフトダウンが必要となり、変速応答の遅れや駆動力段差(トルク抜け)等により、ドライバーのアクセル操作にあらわれる加速要求に対して車両加速のタイミングが遅くなり、ドライバーに違和感を与えるという問題があった。
【0069】
そのため、本願発明では、減速中の回生エネルギーの回収ロスを防止すると共に、減速後の再加速要求に対する車両の加速応答性を確保することができる車両制御を行う。
【0070】
[減速時車両制御作用]
図10は、実施例1の電動車両の制御装置にて実行される減速時車両制御で、減速→再加速する際の車速・変速比・モータ/ジェネレータ動作状態の各特性を示すタイムチャートである。
【0071】
時刻t0に減速予測がなされると、図7に示すフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103へと進み、減速開始タイミングが予測され、続いて減速前の車速及び予測された減速後の車速に基づいて変速後の目標変速段の設定がなされる。減速予測は、走行環境情報又は車両操作情報の少なくとも一方に基づき行われる。また、このとき、ドライバーの走行パターンである車両操作情報に基づいてドライバーごとに異なる減速度が予測される。そして、減速開始タイミングは、現在の車速、減速後の推定車速、減速地点までの距離、減速地点までの推定時間、予測された減速度等から予測される。ここでは、減速開始タイミングを時刻t3と予測し、目標変速段を現在の変速段であるHigh(例えば3速)よりも低いLow(例えば1速)に設定する。
【0072】
そして、ステップS104へ進んでバッテリSOC等に基づいてバッテリ4及びモータ/ジェネレータMGの制限の有無が判断され、制限がなければステップS105へと進み、シフトダウンを実行するタイミングの設定がなされる。シフトダウンタイミングは、ステップS102にて予測された減速開始タイミングに応じて設定され、ここでは時刻t1に設定する。
【0073】
そして、時刻t1においてシフトダウンが実行され(ステップS106)、変速段がHigh→Lowとなる。このとき、モータ/ジェネレータMGはバッテリ4からの電力供給を受けて回転駆動する電動機として動作する力行状態になると同時に、回転数制御が実行されて車速VSPを維持する(ステップS107)。すなわち、減速開始前にシフトダウンが行われる。なお、モータ/ジェネレータMGは時刻t1以前においても力行状態であるが、このときはトルク制御を行うことが一般的である。
【0074】
時刻t2に車両の減速が開始されると、この実際の車両の減速開始のタイミング(ここでは時刻t2)が予測された減速開始のタイミング(ここでは時刻t3)の経過前であるか否かが判断され(ステップS108)、予測された変速開始のタイミング以前に実際に減速していれば、ステップS110へ進み、モータ/ジェネレータMGは駆動輪である左右後輪LR,RRから回転エネルギーを受けて起電力を生じさせ、バッテリ4を充電することで回生エネルギーを回収する。このとき、モータ/ジェネレータMGは発電機として動作する回生状態になり、自動変速機ATの変速段は維持される。
【0075】
そして、時刻t4において、アクセル操作されて再び加速要求がなされると、車速VSPは上昇し、要求駆動トルクは大きくなる。これにより、モータ/ジェネレータMGはバッテリ4からの電力供給を受けて回転駆動する電動機として動作し、力行状態になる。このとき、自動変速機ATの変速段はすでにLowに変速されているので、再加速要求があって要求駆動トルクが大きくなっても変速を行う必要がなくLowのまま維持される。
【0076】
このように、減速することが予測された場合、実際に減速する前に変速段をLowへシフトダウンしているので、減速後に再加速要求があっても、この再加速要求のタイミングで変速する必要がなくなる。その結果、再加速要求に対する車両加速のタイミングが遅くなってドライバーに違和感を与えることがなくなり、減速後の再加速要求に対する車両の加速応答性を確保することができる。
【0077】
また、減速中においても、あらかじめ変速段をLowへシフトダウンすることで減速に伴う変速の必要性がなくなり、減速中の変速の発生が抑制される。そのため、変速ショックの発生を抑制することができると共に、変速ショックが発生しないので左右後輪LR,RRの回転エネルギーを抑制して変速ショックを低減する必要もなくなる。これにより、減速中に変速することで回収できる回生エネルギーが低減するといった問題が生じず、伝達される回転エネルギーの抑制による回生エネルギーロスを低減して燃費性能の向上を図ることができる。
【0078】
さらに、実施例1の電動車両の制御装置では、ステップS108において予測された減速開始タイミングの経過前に車両の減速が開始されるか否かを判断し、減速開始タイミングを経過しても減速が開始されなければ、ステップS109へと進み、車速VSPとアクセル開度APOにあらわれる要求駆動力に基づく変速制御、つまり通常の変速制御を実行する。すなわち、図10において、時刻t2時点で変速段をLowへとシフトダウンしても、時刻t3時点で減速しなければ、変速段をHighへとシフトアップする。
【0079】
このように、予測された減速開始タイミングを経過しても減速しないときには、変速段を実際の走行状態に合わせて制御することができ、燃費悪化を抑制することができる。
【0080】
そして、ステップS103において、減速前の車速及び予測された減速後の車速に基づいて、変速する目標変速段を設定するので、減速後に再加速要求があっても、このときの車速にあった変速段とすることができて、減速後に変速する機会や変速量を抑制することができ、加速応答性を向上することができる。
【0081】
また、減速開始のタイミングを予測する際に必要となる減速度が、車両操作情報であるドライバー走行パターンに基づいて予測されるので、減速開始のタイミングの予測精度を向上することができる。
【0082】
さらに、実施例1の電動車両の制御装置では、ステップS104においてバッテリ4又はモータ/ジェネレータMGによる制限の有無を判断し、制限がある場合には減速前のシフトダウンを実行しない。つまり、車両の減速前にシフトダウンする場合と、減速中に車速変化に伴ってシフトダウンする場合とにおいて回生エネルギーの回収量に差が生じないときには、減速前のシフトダウンは実行しない。
【0083】
これにより、減速前にシフトダウンすることで生じる燃費低減を回避することができて、省燃費を図ることができる。
【0084】
次に、効果を説明する。
実施例1の電動車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0085】
(1) モータ(モータ/ジェネレータ)MGを有する駆動源と駆動輪(左右後輪)LR,RRとの間に配置された変速機(自動変速機)ATと、該変速機ATを介して前記駆動輪LR,RRに連結されたジェネレータ(モータ/ジェネレータ)MGと、走行環境及び乗員の車両操作に応じた車両制御を実行する車両制御部(図7)と、を備えた電動車両の制御装置において、走行環境や車両操作に関する情報を検出する走行情報検出手段(環境情報検出部22及び操作情報検出部23)を備え、前記車両制御部(図7)は、走行環境情報又は車両操作情報の少なくとも一方に基づき、車両が減速することを予測する減速予測手段(ステップS101,102)と、減速が予測された際に、車両の減速開始前に、前記変速機ATの変速比を下げる変速比低減手段(ステップS103,104,105,106,108)と、変速比の低減開始から前記車両の減速開始までの間、前記モータMGの回転数制御を実行して車速を維持するモータ制御手段(ステップS107)と、前記車両の減速中、前記ジェネレータMGを駆動して回生エネルギーの回収を行うジェネレータ制御手段(ステップS110)と、を有する構成とした。このため、減速後の再加速要求に対する車両の加速応答性を確保することができる。また、減速中に変速比の低減を行う必要がなくなり、回生エネルギーロスの発生を抑制することができる。
【0086】
(2) 前記減速予測手段(ステップS101,102)は、減速開始のタイミングを予測する減速タイミング予測部(ステップS102)を有し、前記変速比低減手段(ステップS103,104,105,106,108)は、予測された減速開始タイミングの経過前に前記車両の減速が開始されることを判断し、前記減速開始タイミングを経過しても減速が開始されなければ、車速と要求駆動力に基づく変速制御を実行する減速開始判断部(ステップS108)を有する構成とした。このため、変速比を低減したまま減速せずに走行することを回避でき、変速比を実際の走行状態に合わせて制御して、燃費悪化を抑制することができる。
【0087】
(3) 前記変速比低減手段(ステップS103,104,105,106,108)は、減速前の車速及び予測された減速後の車速に基づいて、低減する変速比を設定する変速比設定部(ステップS103)を有する構成とした。このため、減速後に再加速要求があっても、このときの車速にあった変速段とすることができて、減速後に変速する機会や変速量を抑制することができ、加速応答性を向上することができる。
【0088】
(4) 前記減速予測手段(ステップS101,102)は、前記車両操作情報に基づいて減速度を予測する構成とした。このため、減速開始のタイミングの予測精度を向上することができる。
【0089】
以上、本発明の電動車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0090】
実施例1では、自動変速機ATとして前進7段/後退1段の有段変速機としたが、無段変速機(CVT)であってもよい。この場合、車両の減速が予測されたときに、変速比を低減する制御を実行する。
【0091】
また、実施例1では、電動機(モータ)として機能すると共に、発電機(ジェネレータ)として機能することができるモータ/ジェネレータMGを搭載したが、モータとジェネレータとを別々に搭載してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
実施例1では、本発明の電動車両の制御装置を、FRハイブリッド車両用に適用する例を示したが、FFハイブリッド車両は勿論のこと、駆動源にモータのみ、あるいはモータ/ジェネレータのみを備えると共に、駆動輪に変速機を介してジェネレータが接続された電気自動車や燃料電池車等の電気自動車に適用することもできる。要するに、モータを有する駆動源の下流位置に変速機を搭載すると共に、駆動輪に変速機を介してジェネレータを接続した電動車両であれば適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
MG モータ/ジェネレータ(モータ,ジェネレータ)
AT 自動変速機
22 環境情報検出部(走行情報検出手段)
23 操作情報検出部(走行情報検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを有する駆動源と駆動輪との間に配置された変速機と、該変速機を介して前記駆動輪に連結されたジェネレータと、走行環境及び乗員の車両操作に応じた車両制御を実行する車両制御部と、を備えた電動車両の制御装置において、
走行環境や車両操作に関する情報を検出する走行情報検出手段を備え、
前記車両制御部は、走行環境情報又は車両操作情報の少なくとも一方に基づき、車両が減速することを予測する減速予測手段と、
減速が予測された際に、車両の減速開始前に、前記変速機の変速比を下げる変速比低減手段と、
変速比の低減開始から前記車両の減速開始までの間、前記モータの回転数制御を実行して車速を維持するモータ制御手段と、
前記車両の減速中、前記ジェネレータを駆動して回生エネルギーの回収を行うジェネレータ制御手段と、を有することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両の制御装置において、
前記減速予測手段は、減速開始のタイミングを予測する減速タイミング予測部を有し、
前記変速比低減手段は、予測された減速開始タイミングの経過前に前記車両の減速が開始されることを判断し、前記減速開始タイミングを経過しても減速が開始されなければ、車速と要求駆動力に基づく変速制御を実行する減速開始判断部を有することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された電動車両の制御装置において、
前記変速比低減手段は、減速前の車速及び予測された減速後の車速に基づいて、低減する変速比を設定する変速比設定部を有することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された電動車両の制御装置において、
前記減速予測手段は、前記車両操作情報に基づいて減速度を予測することを特徴とする電動車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−183733(P2010−183733A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24931(P2009−24931)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】