説明

電気自動車

【課題】 モータの永久磁石における減磁等の性能劣化が生じた場合に、適切な対処が迅速に行える電気自動車を提供する。
【解決手段】 モータ6のロータの永久磁石の磁力を推定する磁力推定手段38と、その判定手段39と、異常対応モータ駆動制御手段40とを、インバータ装置22またはECU21に設ける。磁力推定手段38は、モータ回転数、モータ電圧、およびモータ電流の内の少なくとも2つの検出信号から、定められた規則に従い、磁力の推定を行う。判定手段39は、推定された磁力が設定許容範囲内であるか否かを判定する。異常対応モータ駆動制御手段40は、判定手段39による異常であるとの判定結果に応じて、インバータ装置22によるモータ駆動に制限を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪を駆動するモータを備えたバッテリ駆動、燃料電池駆動等のインホイールモータ車両等となる電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、車両駆動のためのモータの性能低下や故障は、走行性、安全性に大きく影響する。特に、バッテリ駆動の電気自動車駆動装置では、限られたバッテリ容量下で航続距離を向上させるため、ネオジウム系磁石を使った高効率性能を有するIPM型のモータ(埋込磁石型同期モータ)が利用される。
また、従来、インホイールモータ駆動装置において、信頼性確保のために、モータ等の温度を測定して過負荷を監視し、温度測定値に応じてモータの駆動電流の制限や、モータ回転数を低下させるものが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−258289号公報
【特許文献2】特開2004−328819号公報
【特許文献3】特開2008−168790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車に用いられるモータ、特にネオジウム系磁石を使ったモータでは、永久磁石の耐熱温度が低く、またその環境温度がこれを超えると、不可逆減磁となる結果、モータ駆動能力が急激に劣り、場合によっては車両駆動もできなくなる恐れがある。
なお、上記のように、インホイールモータ駆動装置において、モータ温度を測定して過負荷を監視し、駆動制限することは行われているが、主にモータの温度測定結果による制御では、モータの永久磁石の減磁等による性能低下に対して適切な対応は行えない。
【0005】
この発明の目的は、モータの永久磁石における減磁等の性能劣化が生じた場合に、適切な対処が迅速に行える電気自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電気自動車は、車輪2を駆動する同期型のモータ6と、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21と、バッテリの直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータ31を含むパワータ回路部28および前記ECU21の制御に従って少なくとも前記パワー回路部28を制御するモータコントロール部29を有するインバータ装置22とを備えた電気自動車において、
前記モータ6のモータ回転数、モータ電圧、およびモータ電流の内の少なくとも2つをそれぞれ検出する複数のセンサ36,37,35と、これらのセンサ出力であるモータ回転数、モータ電圧、およびモータ電流の内の少なくとも2つの検出信号から、定められた規則に従い、前記モータ6のロータの永久磁石の磁力を推定する磁力推定手段38を、前記インバータ装置22または前記ECU21に設けたことを特徴とする。
【0007】
同期型のモータ6では、ロータ75の永久磁石80の回転によりステータコイル78に起電力を発生し、この起電力は、永久磁石80の磁力(つまり磁束密度)が強いほど大きくなる。そのため、モータ回転数とモータ電圧を比較すると、永久磁石の磁力が分かる。上記起電力はモータ電流にも影響するため、モータ回転数とモータ電流の比較によっても、永久磁石の磁力が分かる。上記起電力と永久磁石の磁力の関係は、モータ電圧の波形とモータ電流の波形の関係にも現れ、その比較によって永久磁石の磁力が分かる。
前記磁力推定手段38は、このようなモータ回転数、モータ電圧、モータ電流の関係を定めた適宜の規則を設けておくことで、モータ電流、モータ電圧、およびモータ回転数の内の少なくとも2つの検出信号から、定められた規則に従い、前記モータ6のロータ75の永久磁石80の磁力を推定する。この推定した永久磁石80の磁力の出力は、磁束密度等の磁力を示す単位でなくても良く、例えば、適宜定めた磁力の段階のどの段階に属するかの値等であっても良い。
このようにロータ75の永久磁石80の磁力が推定されることで、永久磁石80の熱による減磁や、永久磁石80の欠けや割れ等に起因する磁力の低下が分かり、その適切な対処が行える。
【0008】
この発明において、前記磁力推定手段38で推定された磁力が設定許容範囲内にあるか否を判定する判定手段39を、前記インバータ装置22または前記ECU21に設けても良い。前記設定許容範囲は、例えば、磁力が正常範囲と見做せる範囲、あるいはさらに安全を見込んだ範囲として適宜定めれば良い。前記判定手段39を設けることで、モータ6の永久磁石80の磁力低下への対処を行うべきか否かが判断できる。
【0009】
前記判定手段39が設定許容範囲の範囲外と判定したときに、前記インバータ装置22の出力に制限を与える異常対応モータ駆動制限手段40を前記インバータ装置22または前記ECU21に設けても良い。前記インバータ装置22の出力の制限は、例えば、駆動指令となるトルクや電流値の出力を下げる処理であっても、また出力を停止させる処理であっても良い。
前記判定手段39により磁力低下が判明したときに、モータ6の電流指令等となるインバータ装置31の出力に制限を加えることで、例えば、モータ駆動によって高温状態になっているときに、モータ6の出力低下や停止の処置を行うことで、現在以上に高温になることを回避し、モータ6の磁石がさらに劣化することを未然に防止できる。
例えば、前記モータ6がネオジウム系の永久磁石を用いた埋込磁石型同期モータである場合、前述のように、永久磁石80の耐熱温度が低く、またその環境温度がこれを超えると、不可逆減磁となる結果、モータ駆動能力が急激に劣り、場合によっては車両駆動もできなくなる恐れがある。しかし、モータ6の出力低下や停止の処置を行い、永久磁石80がさらに劣化することを未然に防止することで、モータ6の駆動不能を回避し、修理工場や、処置が可能な場所まで車両を走行させることができる。
【0010】
前記判定手段39、磁力推定手段38、および異常対応モータ駆動制限手段40は、前記インバータ装置22に設けても良い。これらをインバータ装置22に設けることで、ECU21に設ける場合に比べて迅速な制御が行え、また高機能化により煩雑化進むECU21の負担を軽減することができる。
【0011】
前記判定手段39等をインバータ装置22に設けた場合は、前記推定された磁力が前記判定手段39により、前記設定許容範囲から外れたと判定したときに、前記ECU21に異常発生情報を出力する異常報告手段41を前記インバータ装置22に設けるのが良い。
ECU21は車両全般の制御を行う手段であり、インバータ装置22等により駆動制限等の制御を行った場合は、その異常報告を受けることで、車両全般の適切な制御が行える。
【0012】
前記判定手段39を設けた場合、この判定手段39が設定許容範囲の範囲外と判定したときに、運転席の表示装置27に、異常を知らせる表示を行わせる異常表示手段42を前記ECU21に設けるのが良い。
運転席の表示装置27に異常の表示が行われることで、車両の停止や徐行、修理工場への走行など、運転者により迅速に適切な処置を行うことができる。
【0013】
前記モータ6は、一部または全体が車輪2内に配置されて前記モータ6と車輪用軸受4と減速機7とを含むインホイールモータ駆動装置8を構成するものであってもよい。インホイールモータ駆動装置8では、コンパクト化が図られる結果、モータ6に高速回転仕様のものが用いられる。モータ6が高速回転すると、渦電流損鉄が大きく、渦電流損失による発熱が高くなる。そのため、モータ6の永久磁石80が高温となり易く、高温による永久磁石80の減磁が生じ易い。したがって、この発明における、磁力推定手段38を設けることによる効果が、より一層効果的となる。
【0014】
この発明において、前記モータ6の回転を減速する減速機7を備え、この減速機7は、1/6以上の高減速比を有するものであっても良い。また、前記モータ6の回転を減速する減速機7を備え、この減速機7はサイクロイド減速機であっても良い。サイクロイド減速機によると、高い減速比が得られる。
減速比を高くした場合、モータ6は小型で高速回転するものが用いられるため、前記渦電流損失による発熱が高くなる。そのため、この発明における、前記磁力推定手段38を設けることによる効果が、より一層効果的となる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の電気自動車は、車輪を駆動する同期型のモータと、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、バッテリの直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワータ回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備えた電気自動車において、前記のモータモータ回転数、モータ電圧、およびモータ電流の内の少なくとも2つをそれぞれ検出する複数のセンサと、これらのセンサ出力であるモータ回転数、モータ電圧、およびモータ電流の内の少なくとも2つの検出信号から、定められた規則に従い、前記モータのロータの永久磁石の磁力を推定する磁力推定手段を、前記インバータ装置または前記ECUに設けたため、モータの永久磁石における減磁等の性能劣化が生じた場合に、適切な対処が迅速に行えるという効果が得られる。
特に、前記磁力推定手段で推定された磁力が設定許容範囲内にあるか否を判定する判定手段を設けた場合や、さらに前記判定手段が設定許容範囲の範囲外と判定したときに、前記インバータ装置の出力に制限を与える異常対応モータ駆動制限手段を設けた場合は、前記減磁等の性能劣化が生じた場合に、適切な対処がより迅速に行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電気自動車のインバータ装置の概念構成のブロック図である。
【図3】同電気自動車におけるインホイールモータ駆動装置の破断正面図である。
【図4】図3のIV-IV 線断面となるモータ部分の断面図である。
【図5】図3のV−V線断面となる減速機部分の断面図である。
【図6】図5の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の一実施形態を図1ないし図6と共に説明する。この電気自動車は、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に支持されている。車輪用軸受4,5は、図1ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成しており、インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が車輪2内に配置される。インホイールモータ駆動装置8は、インホイールモータユニットとも称される。モータ6は、減速機7を介さずに直接に車輪2を回転駆動するものであっても良い。各車輪2,3には、電動式のブレーキ9,10が設けられている。
【0018】
左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵機構12により操舵される。転舵機構11は、タイロッド11aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、操舵機構12の指令によりEPS(電動パワーステアリング)モータ13を駆動させ、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵角は操舵角センサ15で検出し、このセンサ出力はECU21に出力され、その情報は左右輪の加速・減速指令等に使用される。
【0019】
図3に示すように、インホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪である車輪2(図2)のハブとモータ6(図3)の回転出力軸74とを同軸上で連結してある。減速機7は、減速比が1/6以上のものであるのが良い。この減速機7は、サイクロイド減速機であって、モータ6の回転出力軸74に同軸に連結される回転入力軸82に偏心部82a,82bを形成し、偏心部82a,82bにそれぞれ軸受85を介して曲線板84a,84bを装着し、曲線板84a,84bの偏心運動を車輪用軸受4へ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0020】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面53を形成した外方部材51と、これら各転走面53に対向する転走面54を外周に形成した内方部材52と、これら外方部材51および内方部材52の転走面53,54間に介在した複列の転動体55とで構成される。内方部材52は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体55はボールからなり、各列毎に保持器56で保持されている。上記転走面53,54は断面円弧状であり、各転走面53,54は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材51と内方部材52との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材57でシールされている。
【0021】
外方部材51は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジング83bに取り付けるフランジ51aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ51aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔64が設けられている。また、ハウジング83bには,ボルト挿通孔64に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔94が設けられている。ボルト挿通孔94に挿通した取付ボルト65をボルト螺着孔94に螺着させることにより、外方部材51がハウジング83bに取り付けられる。
【0022】
内方部材52は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ59aを有するアウトボード側材59と、このアウトボード側材59の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材59に一体化されたインボード側材60とでなる。これらアウトボード側材59およびインボード側材60に、前記各列の転走面54が形成されている。インボード側材60の中心には貫通孔61が設けられている。ハブフランジ59aには、周方向複数箇所にハブボルト66の圧入孔67が設けられている。アウトボード側材59のハブフランジ59aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部63がアウトボード側に突出している。このパイロット部63の内周には、前記貫通孔61のアウトボード側端を塞ぐキャップ68が取り付けられている。
【0023】
モータ6は、円筒状のモータハウジング72に固定したモータステータ73と、回転出力軸74に取り付けたモータロータ75との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同期モータ)である。回転出力軸74は、減速機7のインボード側のハウジング83aの筒部に2つの軸受76で片持ち支持されている。また、モータハウジング72の周壁部には冷却液流路95が設けられている。この冷却液流路95に潤滑油もしくは水溶性の冷却剤を流すことにより、モータステータ73の冷却が行われる。
【0024】
図4は、モータの断面図(図3のIV-IV 断面)を示す。モータ6のロータ75は、軟質磁性材料からなるコア部79と、このコア部79に内蔵される永久磁石80から構成される。永久磁石80は、隣り合う2つの永久磁石がロータコア部79内の同一円周上で断面ハ字状に向き合うように配列される。永久磁石80にはネオジウム系磁石が用いられている。ステータ73は軟質磁性材料からなるコア部77とコイル78で構成される。コア部77は外周面が断面円形とされたリング状で、その内周面に内径側に突出する複数のティース77aが円周方向に並んで形成されている。コイル78は、ステータコア部77の前記各ティース77aに巻回されている。
【0025】
図3に示すように、モータ6には、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を検出する角度センサ36が設けられる。角度センサ36は、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体70と、この角度センサ本体70の出力する信号から角度を演算する角度演算回路71とを有する。角度センサ本体70は、回転出力軸74の外周面に設けられる被検出部70aと、モータハウジング72に設けられ前記被検出部70aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部70bとでなる。被検出部70aと検出部70bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。角度センサ36はレゾルバであっても良い。このモータ6では、その効率を最大にするため、角度センサ36の検出するモータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度に基づき、モータステータ73のコイル78へ流す交流電流の各波の各相の印加タイミングを、モータコントール部29のモータ駆動制御部33によってコントロールするようにされている。
なお、インホイールモータ駆動装置8のモータ電流の配線や各種センサ系,指令系の配線は、モータハウジング72等に設けられたコネクタ99により纏めて行われる。
【0026】
減速機7は、上記したようにサイクロイド減速機であり、図5のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板84a,84bが、それぞれ軸受85を介して回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着してある。これら各曲線板84a,84bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン86を、それぞれハウジング83bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材60に取り付けた複数の内ピン88を、各曲線板84a,84bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔89に挿入状態に係合させてある。回転入力軸82は、モータ6の回転出力軸74とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸82はインボード側のハウジング83aと内方部材52のインボード側材60の内径面とに2つの軸受90で両持ち支持されている。
【0027】
モータ6の回転出力軸74が回転すると、これと一体回転する回転入力軸82に取り付けられた各曲線板84a,84bが偏心運動を行う。この各曲線板84a,84bの偏心運動が、内ピン88と貫通孔89との係合によって、内方部材52に回転運動として伝達される。回転出力軸74の回転に対して内方部材52の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0028】
前記2枚の曲線板84a,84bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着され、各偏心部82a,82bの両側には、各曲線板84a,84bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部82a,82bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト91が装着されている。
【0029】
図6に拡大して示すように、前記各外ピン86と内ピン88には軸受92,93が装着され、これらの軸受92,93の外輪92a,93aが、それぞれ各曲線板84a,84bの外周と各貫通孔89の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン86と各曲線板84a,84bの外周との接触抵抗、および内ピン88と各貫通孔89の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板84a,84bの偏心運動をスムーズに内方部材52に回転運動として伝達することができる。
【0030】
図3において、このインホイールモータ駆動装置8の車輪用軸受4は、減速機7のハウジング83bまたはモータ6のハウジング72の外周部で、ナックル等の懸架装置(図示せず)を介して車体に固定される。
【0031】
図1において、制御系を説明する。自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるECU21と、このECU21の指令に従って走行用のモータ6の制御を行うインバータ装置22と、ブレーキコントローラ23とが、車体1に搭載されている。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。
【0032】
ECU21は、機能別に大別すると駆動制御部21aと一般制御部21bとに分けられる。駆動制御部21aは、アクセル操作部16の出力する加速指令と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令を生成し、インバータ装置22へ出力する。駆動制御部21aは、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪2,3の車輪用軸受4,5に設けられた回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部16は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ16aとでなる。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ17aとでなる。
【0033】
ECU21の一般制御部21bは、前記ブレーキ操作部17の出力する減速指令をブレーキコントローラ23へ出力する機能、各種の補機システム25を制御する機能、コンソールの操作パネル26からの入力指令を処理する機能、表示装置27に表示を行う機能などを有する。表示装置27は、液晶表示装置等の画像を表示可能なものである。前記補機システム25は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、アエバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0034】
ブレーキコントローラ23は、ECU21から出力される減速指令に従って、各車輪2,3のブレーキ9,10に制動指令を与える手段である。ECU21から出力される制動指令には、ブレーキ操作部17の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU21の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ23は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。ブレーキコントローラ23は、電子回路やマイコン等により構成される。
【0035】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントール部29とで構成される。モータコントール部29は、各パワー回路部28に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良いが、共通して設けられた場合であっても、各パワー回路部28を、例えば互いにモータトルクが異なるように独立して制御可能なものとされる。モータコントール部29は、このモータコントール部29が持つインホイールモータ8に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECUに出力する機能を有する。
【0036】
図2は、インバータ装置22の概念構成を示すブロック図である。パワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とで構成される。モータ6は3相の同期モータ等からなる。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0037】
モータコントール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部33を有している。モータ駆動制御部33は、上位制御手段であるECUから与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部33は、インバータ31からモータ6に流すモータ電流値を電流検出手段35から得て、電流フィードバック制御を行う。また、モータ駆動制御部33は、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御を行う。
【0038】
この実施形態では、上記構成のモータコントロール部29に、次の磁力推定手段38、判定手段39、異常対応モータ駆動制御手段40、および異常報告手段41を設け、ECU21に異常表示手段42を設けている。なお、磁力推定手段38、判定手段39、および異常対応モータ駆動制御手段40は、ECU21に設けてもよい。
【0039】
磁力推定手段38は、前記モータ6のモータ回転数の回転角を検出する角度センサ36、モータ電圧を検出する電圧センサ35、およびモータ電流を検出する電流センサ37の内の少なくとも2つの検出信号出力、すなわちモータ回転数、モータ電圧、およびモータ電流の内の少なくとも2つの検出信号から、定められた規則に従い、前記モータ6のロータの永久磁石の磁力を推定する手段である。
【0040】
同期型のモータ6では、ロータの永久磁石の回転によりステータコイル78に起電力を発生し、この起電力は、永久磁石80の磁力、つまり磁束密度が高いほど大きくなる。そのため、モータ回転数とモータ電圧を比較すると、永久磁石の磁力が分かる。上記起電力はモータ電流にも影響するため、モータ回転数とモータ電流の比較によっても、永久磁石の磁力が分かる。永久磁石の磁力は、モータ電圧の波形とモータ電流の波形の関係にも現れ、その比較によって永久磁石の磁力が分かる。
前記磁力推定手段38は、このようなモータ回転数、モータ電圧、モータ電流の関係を定めた適宜の規則を設けておくことで、モータ電流、モータ電圧、およびモータ回転数の内の少なくとも2つの検出信号から、定められた規則に従い、前記モータ6のロータ75の永久磁石70の磁力を推定する。この推定した永久磁石80の磁力の出力は、磁束密度等の磁力を示す単位でなくても良く、例えば、適宜定めた磁力の段階のどの段階に属するかの値等であっても良い。
なお、磁力推定手段38は、永久磁石80の磁力の推定につき、上記のモータ回転数とモータ電圧の比較、モータ回転数とモータ電流の比較、およびモータ電圧の波形とモータ電流の波形の比較のいずれを行って磁力の推定を行うものであっても良い。
【0041】
判定手段39は、磁力推定手段38で推定された磁力が設定許容範囲内にあるか否を判定する手段である。前記設定許容範囲は、例えば、磁力が正常範囲と見做せる範囲、あるいはさらに安全を見込んだ範囲として適宜定めれば良い。判定手段39は、設定許容範囲内にあるか否かの判定に加えて、設定許容範囲内ではあるが、設定許容範囲の限界に近い安全用設定範囲内にあるかの判定を行う機能を有するものとしても良い。安全用設定範囲についても、適宜定めれば良い。
【0042】
異常対応モータ駆動制限手段40は、判定手段39が設定許容範囲の範囲外と判定したときに、前記インバータ装置22の出力に制限を与える手段である。異常対応モータ駆動制限手段40によるインバータ装置22の出力の制限は、例えば、モータ駆動制御部33またはPWMドライバ32の出力となる駆動指令となるトルクや電流値の出力を下げる処理であっても、また出力を停止させる処理であっても良い。また、インバータ31の出力を遮断するものであっても良い。なお、駆動停止の場合は、モータ6を回転自在とすることが好ましい。
【0043】
異常報告手段41は、磁力水平手段38で推定された磁力が前記判定手段39により、前記設定許容範囲から外れたと判定したときに、ECU21に異常発生情報を出力する手段である。
ECU21に設けられた異常表示手段42は、異常報告手段41から出力され異常発生情報を受けて、運転席の表示装置27に、異常を知らせる表示を行わせる手段である。判定手段39がECU21に設けられた場合は、判定手段39により、前記設定許容範囲から外れたと判定された旨の判定結果を受けて、前記異常を知らせる表示を行わせる。この表示装置27における表示は、文字や記号による表示、例えばアイコンによる表示とされる。異常表示手段42は、判定手段39が前記安全用設定範囲内にあるかの判定を行う機能を有するものである場合は、その判定結果に基づき、設定許容範囲内ではあるが、安全用設定範囲を超える範囲であることを表示する機能を有するものとするのが良い。
【0044】
上記構成による磁力推定およびその推定結果に応じた動作につき説明する。磁力推定手段38は、常時、前記各センサ35,36,37の出力(これらセンサ35,36,37のうちの2つの出力)から、定められた規則に従い、前記モータ6のロータ75の永久磁石80の磁力を推定する。判定手段39は、この推定結果を監視し、磁力推定手段38で推定された磁力が設定許容範囲内にあるか否を判定する。設定許容範囲を外れたと判定されたときは、異常対応モータ駆動制限手段40がインバータ装置22の出力に制限を与えると共に、異常報告手段41がECU21に異常の報告を行い、その異常の報告により、ECU21の異常表示手段42が運転席の表示装置27に異常の表示を行う。ECU21は、この他に、異常対応モータ駆動制限手段40によるインバータ装置22の出力に制限に対応した制御を行う。
【0045】
このように、前記判定手段39により磁力低下が判明したときに、モータ6の電流指令等となるインバータ装置31の出力に制限を加えることで、例えば、モータ駆動によって高温状態になっているときに、モータ6の出力低下や停止の処置を行うことで、現在以上に高温になることを回避し、モータ6の磁石がさらに劣化することを未然に防止できる。例えば、前記モータ6がネオジウウム系の永久磁石80を用いた埋込磁石型同期モータである場合、前述のように、永久磁石80の耐熱温度が低く、またその環境温度がこれを超えると、不可逆減磁となる結果、モータ駆動能力が急激に劣り、場合によっては車両駆動もできなくなる恐れがある。しかし、モータ6の出力低下や停止の処置を行い、永久磁石80がさらに劣化することを未然に防止することで、モータ6の駆動不能を回避し、修理工場や処置が可能な場所まで車両を走行させることができる。
【0046】
前記判定手段39、磁力推定手段40、および異常対応モータ駆動制限手段41は、インバータ装置22に設けたため、ECU21に設ける場合に比べて迅速な制御が行え、また高機能化により煩雑化進むECU21の負担を軽減することができる。判定手段39等をインバータ装置22に設けたが、判定手段39により、前記設定許容範囲から外れたと判定したときは、異常報告手段41がECU21に異常発生情報を出力する。ECU21は車両全般の制御を行う手段であり、インバータ装置22等により駆動制限等の制御を行った場合は、その異常報告を受けることで、車両全般の適切な制御が行える。
【0047】
また、判定手段39が許容範囲外と判定したときは、異常表示手段42により、運転席の表示装置27に、異常を知らせる表示を行わせるようにしたため、運転者は、その異常を直ぐに認識することができて、車両の停止や徐行、修理工場への走行など、運転者により迅速に適切な処置を行うことができる。
【0048】
この実施形態では、モータ6がインホイールモータ駆動装置8を構成するものであるたは、コンパクト化が図られる結果、モータ6に高速回転仕様のものが用いられ、減速機7に1/6以上の高減速比(より具体的には1/10以上の高減速比)が得られるサイクロイド減速機が用いられる。モータ6が高速回転すると、渦電流損鉄が大きく、渦電流損失による発熱が高くなる。これにより、モータ6の永久磁石80が高温となり易く、高温による永久磁石の減磁が生じ易い。そのため、この実施形態における、磁力推定手段38や判定手段39、異常対応モータ駆動制御手段40等を設けることによる効果が、より一層効果的となる。
【符号の説明】
【0049】
1…車体
2,3…車輪
4,5…車輪用軸受
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
9,10…電動式のブレーキ
11…転舵機構
12…操舵機構
21…ECU
22…インバータ装置
24…回転センサ
27…表示装置
28…パワー回路部
29…モータコントール部
31…インバータ
32…PWMドライバ
33…モータ駆動制御部
35…電流センサ
36…角度センサ
37…電圧センサ
38…磁力推定手段
39…判定手段
40…異常対応モータ駆動制御手段
41…異常報告手段
42…異常表示手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動する同期型のモータと、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、バッテリの直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワータ回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備えた電気自動車において、
前記のモータのモータ回転数、モータ電圧、およびモータ電流の内の少なくとも2つをそれぞれ検出する複数のセンサと、これらのセンサ出力であるモータ回転数、モータ電圧、およびモータ電流の内の少なくとも2つの検出信号から、定められた規則に従い、前記モータのロータの永久磁石の磁力を推定する磁力推定手段を、前記インバータ装置または前記ECUに設けたことを特徴とする電気自動車。
【請求項2】
請求項1において、前記磁力推定手段で推定された磁力が設定許容範囲内にあるか否を判定する判定手段を、前記インバータ装置または前記ECUに設けた電気自動車。
【請求項3】
請求項2において、前記判定手段が設定許容範囲の範囲外と判定したときに、前記インバータ装置の出力に制限を与える異常対応モータ駆動制限手段を前記インバータ装置または前記ECUに設けた電気自動車。
【請求項4】
請求項3において、前記判定手段、前記磁力推定手段、および異常対応モータ駆動制限手段を前記インバータ装置に設けた電気自動車。
【請求項5】
請求項4において、前記推定された磁力が前記判定手段により、前記設定許容範囲から外れたと判定されたときに、前記ECUに異常発生情報を出力する異常報告手段を前記インバータ装置に設けた電気自動車。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれか1項において、前記判定手段が設定許容範囲の範囲外と判定したときに、運転席の表示装置に、異常を知らせる表示を行わせる異常表示手段を前記ECUに設けた電気自動車。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記モータがネオジウウム系の永久磁石を用いた埋込磁石型同期モータである電気自動車。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記モータは、一部または全体が車輪内に配置されて前記モータと車輪用軸受と減速機とを含むインホイールモータ駆動装置を構成する電気自動車。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記モータの回転を減速する減速機を備え、この減速機は、1/6以上の高減速比を有する電気自動車。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記モータの回転を減速する減速機を備え、前記減速機はサイクロイド減速機である電気自動車。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−178906(P2012−178906A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39491(P2011−39491)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】