説明

電界効果トランジスタおよび電界効果トランジスタ製造方法

【課題】ゲート電極材料の耐熱上の問題を克服し、ソース抵抗の低減が可能な電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】ゲート電極9を挟んでソース電極8、ドレイン電極10をそれぞれ形成するソース領域3、ドレイン領域6のいずれか一方または双方の領域にイオンを注入し活性化した第1の高濃度キャリア領域6と、ゲート電極9の直下に形成したチャネル領域4と第1の高濃度キャリア領域6との間の領域に、熱処理によりキャリアを拡散させた熱拡散領域7の第2の高濃度キャリア領域とを形成し、第1の高濃度キャリア領域6は、チャネル領域4と互いに隣接して形成される第2の高濃度キャリア領域7と隣接および/または一部重複し、かつ、チャネル領域4以上に深く形成した第2の高濃度キャリア領域7よりも深く形成する。第1の高濃度キャリア領域6のキャリア濃度を、チャネル領域4よりも高濃度の第2の高濃度キャリア領域7よりさらに高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタおよび電界効果トランジスタ製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1の葛原正明他による「高出力AlGaN/GaNへテロ接合FETの現状と展望」には、ナイトライド(nitride:窒化物)系材料を用いた従来の代表的な電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)のデバイス構造が示されている。その一例を図5に示す。図5は、前記非特許文献1に記載された従来のナイトライド系電界効果トランジスタの断面構造の一例を示す断面図である。
【0003】
図5に示すナイトライド系電界効果トランジスタは、基板1上にバッファ層2Aを介してアンドープGaNからなるナイトライド系半導体層がチャネル層2として形成され、チャネル層2上にアンドープAlGaNからなる電子供給層5が形成されるデバイス構造を有し、チャネル層2と電子供給層5とのヘテロ接合界面が形成された高電子移動度トランジスタHEMT(High Electron Mobility Transistor)構造とされている。
【0004】
チャネル層2と電子供給層5とのヘテロ接合の界面には正の固定電荷が発生し、これに対応してヘテロ接合界面直下のチャネル層2内には自由電子である2次元電子ガス3Aが誘起されて、チャネル領域が形成される。この電子供給層5上にソース電極8、ゲート電極9、ドレイン電極10の各電極を形成して、電界効果トランジスタを構成している。
【0005】
しかし、非特許文献1が示すデバイス構造においては、相互コンダクタンスが150mS/mm程度と、ナイトライド系材料が一般的に有するとされている本来性能(真性相互コンダクタンス)に比べると著しく低い。その理由は、ソース電極8とアンドープAlGaNの電子供給層5とのコンタクト部分から、実際にトランジスタ動作するゲート電極9直下のチャネル領域(電子供給層5およびチャネル層2の接合界面近傍の領域)に至るまでに存在する寄生抵抗(すなわちソース抵抗)の影響を受けるためである。相互コンダクタンスは、重要なデバイス性能指標の一つであるため、このソース抵抗の低減が当該デバイスにおいては肝要である。
【0006】
これに対して、非特許文献2の野本一貴他による「低ゲートリーク電流Siイオン注入GaN/AlGaN/GaN HEMTのオン抵抗低減化」では、図6に示すような製造方法を採用することによってソース抵抗の低減を図っている。図6は、前記非特許文献2に記載された従来のナイトライド系電界効果トランジスタの断面構造の図5とは異なる例を示す断面図であり、製造工程とともに示している。
【0007】
図6(a)に示すように、サファイア(0001)の基板1上に、アンドープGaNのチャネル層2、アンドープAl0.25Ga0.75Nの電子供給層5、および、アンドープGaNの電極形成領域6Aを順次成長させた後、SiNxの表面保護膜7Aを形成する。しかる後、図6(b)に示すように、フォトレジストマスク8Aを形成させた後、電極形成領域6A、電子供給層5のソース領域やドレイン領域に、Siイオンをイオン注入して、高濃度イオン注入領域4Aを形成し、さらに、1000℃以上でのイオン活性化アニールを行うことによって、注入イオンを活性化させて、キャリア濃度を向上させ、ソース抵抗を低減する構造としている。
【0008】
図6に示すような構造のデバイスにおいて、ゲート電極9とソース電極8との間の距離が3μmの場合、Siイオンをイオン注入していない場合には、ソース抵抗が15Ωmmであったのに対し、Siイオンをイオン注入して高濃度イオン注入領域4Aを形成した場合には、1.6Ωmmと、約(1/10)にソース抵抗を低減させることに成功している。
【0009】
しかしながら、図6に示す当該デバイス構造での真性相互コンダクタンスは約200mS/mmであるのに対し、実際のデバイスでは未だ147mS/mmという低い値に留まっている。
【0010】
ここで、ソース抵抗は、主に、ソース電極8のコンタクト抵抗、および、ソース電極8のコンタクト部分からチャネル領域(実際にトランジスタ動作するゲート電極9直下の電子供給層5およびチャネル層2の接合界面近傍の領域)に至るまでに存在するアクセス抵抗の両方を指している。したがって、ソース抵抗を低減するためには、前記コンタクト抵抗、前記アクセス抵抗の両方を低減することが必須である。
【0011】
図6のようなデバイス構造の場合、確かに、高濃度イオン注入領域4Aを形成して低抵抗となったソース領域にソース電極8を形成することによって、ソース電極8のコンタクト抵抗を減少することができる。しかし、イオン注入を行うことによって低抵抗になったソース領域(すなわち高濃度イオン注入領域4A)と、チャネル領域との間には、依然として、高いアクセス抵抗が存在しているため、ソース抵抗の十分な低減が実現されるまでには至っていなく、相互コンダクタンスは依然として低い状態に留まっている。
【0012】
一方、高濃度イオン注入領域4Aとチャネル領域との間にアクセス抵抗を介在させないためには、ゲート電極9を形成するためのゲート電極材料をマスクとした自己整合法(セルフアラインメント)によって高濃度のイオン注入領域を形成することが有効である。しかし、ナイトライド系材料のイオン活性化熱処理に要する温度は1000℃以上の高温であるため、デバイスの特性劣化なしに、1000℃以上の熱処理に耐える程の耐熱性を有するゲート電極9の材料は存在していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】葛原正明他;「高出力AlGaN/GaNへテロ接合FETの現状と展望」,電子情報通信学会論文誌C,VOL.J86−C,NO.4,pp.396−403,2003年4月
【非特許文献2】野本一貴他;「低ゲートリーク電流Siイオン注入GaN/AlGaN/GaN HEMTのオン抵抗低減化」,電気学会論文誌C,VOL.128,NO.6,pp.885−889,2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述したように、ナイトライド系半導体を用いた電界効果トランジスタにおいては、ソース抵抗やドレイン抵抗の低減が重要である。しかしながら、現状においては、前述のように、以下のような課題がある。
【0015】
(1)従来の代表的なナイトライド系電界効果トランジスタにおいては、ソース抵抗やドレイン抵抗が大きく、このため、ナイトライド系材料が持つとされる本来性能(真性相互コンダクタンス)に比べ、相互コンダクタンスが著しく低かった。
【0016】
(2)ソース領域やドレイン領域にイオン注入を施して、ソース電極やドレイン電極のコンタクト抵抗の低抵抗化を図った場合であっても、依然として、寄生抵抗が存在しており、ソース抵抗やドレイン抵抗を十分に低減するまでに至っていなかった。その理由は、前述のように、イオン注入によって形成される高濃度のイオン注入領域が自己整合的に形成されておらず、チャネル領域と高濃度のイオン注入領域との間にはアクセス抵抗が存在しているためである。
【0017】
(3)(2)項で生じた課題に対する対策として、前述のように、ゲート電極をマスクとした自己整合法によるイオン注入を行うことによってアクセス抵抗を介在させないことが有効である。しかし、ナイトライド系材料のイオン活性化熱処理は1000℃以上の高温であるため、デバイスの特性劣化なしに、1000℃以上の熱処理に耐える程の耐熱性を有するゲート電極は現在まで存在していない。
【0018】
(4)高周波動作を実現するゲート長サブμmのデバイスでは、特に、寄生抵抗の影響が顕著になる。
【0019】
本発明は、前述したような課題を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、ソース抵抗が大きく低減され、かつ、ゲート電極材料の耐熱上の問題を克服した電界効果トランジスタおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、前述の課題を解決するために、次の2つの手法を併用して製造した電界効果トランジスタの構造としている。
【0021】
(1)イオン注入法により、ソース電極を形成するソース領域、ドレイン電極を形成するドレイン領域のいずれかの領域または双方の領域に、高濃度のイオン注入領域(第1の高濃度キャリア領域)を形成し、コンタクト抵抗を低減する。
【0022】
(2)さらに、熱拡散法によって、ソース領域、ドレイン領域のいずれかの領域または双方の領域に形成された高濃度のイオン注入領域と隣接および/または一部重複する状態で、ゲート電極材料をマスクとして、自己整合的に、熱拡散領域(第2の高濃度キャリア領域)を形成することによって、高濃度のイオン注入領域(第1の高濃度キャリア領域)とゲート電極直下のチャネル領域との間のアクセス領域を補い、これにより、ソース電極、ドレイン電極とゲート電極直下のチャネル領域とは、高濃度のイオン注入領域(第1の高濃度キャリア領域)、熱拡散領域(第2の高濃度キャリア領域)からなる高濃度キャリア領域で結ばれることになり、アクセス抵抗の劇的な低下が得られる。
【0023】
(3)ここで、熱拡散法は、イオン注入法よりも低い温度で熱処理を行うことが可能であるため、例えばヒ素リン系化合物半導体デバイスとして実績があるタングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金等の耐熱ゲート電極材料を用いてゲート電極を形成することができる。
【0024】
より具体的には、本発明は、以下のごとき各技術手段から構成されている。
【0025】
第1の技術手段は、ナイトライド系半導体を用いて構成される電界効果トランジスタであって、ゲート電極を挟んで配置されるソース電極、ドレイン電極のそれぞれとのコンタクトが形成されるソース領域、ドレイン領域のいずれか一方の領域または双方の領域に高濃度のイオン注入を行った後イオン活性化することにより形成されたイオン注入領域である第1の高濃度キャリア領域を備えるとともに、前記ゲート電極の直下に形成したチャネル領域と前記第1の高濃度キャリア領域との間の領域に、熱処理によりキャリアを拡散させた熱拡散領域である第2の高濃度キャリア領域を備える電界効果トランジスタにおいて、前記第1の高濃度キャリア領域と前記第2の高濃度キャリア領域とは互いに隣接および/または一部重複し、かつ、前記第1の高濃度キャリア領域は、前記第2の高濃度キャリア領域よりも深く形成されており、また、前記第2の高濃度キャリア領域と前記チャネル領域とは互いに隣接し、かつ、前記第2の高濃度キャリア領域は、前記チャネル領域以上に深く形成されていることを特徴とする。
【0026】
第2の技術手段は、前記第1の技術手段に記載の電界効果トランジスタにおいて、前記第1の高濃度キャリア領域のキャリア濃度は、前記第2の高濃度キャリア領域よりも高濃度であり、前記第2の高濃度キャリア領域のキャリア濃度は、前記チャネル領域よりも高濃度であることを特徴とする。
【0027】
第3の技術手段は、前記第1または2の技術手段に記載の電界効果トランジスタにおいて、前記第2の高濃度キャリア領域が、前記ゲート電極を用いて、自己整合的に形成されていることを特徴とする。
【0028】
第4の技術手段は、前記第1ないし第3の技術手段のいずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、チャネルが形成される第1のナイトライド系半導体層と電子を供給する第2のナイトライド系半導体層とを少なくとも備え、前記チャネル領域が、前記第1のナイトライド系半導体層と前記第2のナイトライド系半導体層とのヘテロ接合界面の近傍に形成されていることを特徴とする。
【0029】
第5の技術手段は、前記第1ないし第4の技術手段のいずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、前記ゲート電極を形成する領域にリセス領域が形成され、該リセス領域に前記ゲート電極が形成されていることを特徴とする。
【0030】
第6の技術手段は、前記第1ないし第5の技術手段のいずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、前記ゲート電極の材料は、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金のいずれか一つの材料または複数の材料の組み合わせからなっていることを特徴とする。
【0031】
第7の技術手段は、前記第1ないし第6の技術手段のいずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、前記第2の高濃度キャリア領域を形成するために熱拡散させる前記キャリアは、シリコンまたはスズのいずれかであることを特徴とする。
【0032】
第8の技術手段は、ナイトライド系半導体を用いて構成される電界効果トランジスタを製造する電界効果トランジスタ製造方法であって、基板上に第1のナイトライド系半導体層を形成する第1の工程と、前記第1の工程で形成された前記第1のナイトライド系半導体層上に第2のナイトライド系半導体からなる電子供給層を形成することにより、チャネル領域を形成する第2の工程と、前記第1、第2の工程で形成された前記第1のナイトライド系半導体層および前記電子供給層のうち、ソース電極、ドレイン電極をそれぞれ形成するソース領域、ドレイン領域のいずれか一方の領域または双方の領域にドーパントとなる物質のイオンを注入してイオン注入領域を第1の高濃度キャリア領域として形成する第3の工程と、前記第3の工程で形成された前記第1の高濃度キャリア領域に注入された前記イオンを活性化させるイオン活性化熱処理を行う第4の工程と、前記第4の工程の後、前記電子供給層上にゲート電極を形成する第5の工程と、前記第5の工程で形成された前記ゲート電極に対して、自己整合的に、キャリアを熱拡散させて、前記第1の高濃度キャリア領域と隣接および/または一部重複するとともに、前記ゲート電極直下の前記チャネル領域と隣接する熱拡散領域を第2の高濃度キャリア領域として形成する第6の工程と、を少なくとも有していることを特徴とする。
【0033】
第9の技術手段は、前記第8の技術手段に記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第6の工程として、前記第2の高濃度キャリア領域のキャリア濃度を、前記第1の高濃度キャリア領域よりも低く、前記チャネル領域よりも高く形成することを特徴とする。
【0034】
第10の技術手段は、前記第8または9の技術手段に記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第5の工程と前記第6の工程との間に、前記第5の工程で形成された前記ゲート電極の側部にサイドウォールを形成する工程を有していることを特徴とする電界効果トランジスタ製造方法。
【0035】
第11の技術手段は、前記第8ないし第10の技術手段のいずれかに記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第4の工程と前記第5の工程との間に、前記ゲート電極を形成する領域にリセス領域を形成する工程を有していることを特徴とする。
【0036】
第12の技術手段は、前記第8ないし第11の技術手段のいずれかに記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第3の工程で形成される前記第1の高濃度キャリア領域は、前記第6の工程で形成される前記第2の高濃度キャリア領域よりも深く形成され、前記第2の高濃度キャリア領域は、前記第2の工程で形成される前記チャネル領域以上に深く形成されることを特徴とする。
【0037】
第13の技術手段は、前記第8ないし第12の技術手段のいずれかに記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記ゲート電極の材料は、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金のいずれか一つの材料または複数の材料の組み合わせからなっていることを特徴とする。
【0038】
第14の技術手段は、前記第7ないし第13の技術手段のいずれかに記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第2の高濃度キャリア領域を形成するために熱拡散させる前記キャリアは、シリコンまたはスズのいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明の電界効果トランジスタおよび電界効果トランジスタ製造方法によれば、以下のごとき効果を奏することができる。
【0040】
(1)ソース電極を形成するソース領域、ドレイン電極を形成するドレイン領域のいずれかの領域または双方の領域に形成した高濃度のイオン注入領域(第1の高濃度キャリア領域)と隣接および/または一部重複する状態であって、ゲート電極直下のチャネル領域とは隣接する状態で、ゲート電極材料に対して、自己整合的に、熱拡散法による熱拡散領域(第2の高濃度キャリア領域)を形成することができるため、サブμm級の微細ゲート長を有する電界効果トランジスタであっても、高い相互コンダクタンスを実現することができる。
【0041】
(2)イオン注入の活性化熱処理に要する温度よりも低温で処理することが可能な熱拡散法を用いて、ゲート電極材料に対して、自己整合的に、高濃度キャリア領域である熱拡散領域(第2の高濃度キャリア領域)を形成するため、ゲート電極として用いる耐熱性材料の選択の幅を広げることができる。
【0042】
(3)イオン注入法では、注入イオン活性化熱処理の温度と時間とを適正にすることによって、熱拡散法によるキャリアのドーズよりも、ソース抵抗やドレイン抵抗を大きく低減することができる。よって、イオン注入法と熱拡散法とを併用することにより、イオン注入法によるソース抵抗やドレイン抵抗の大幅な低減と、熱拡散法による自己整合ゲートの形成とを同時に達成することができる。
【0043】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタにより、サブμm級の微細ゲート長を有するナイトライド系の電界効果トランジスタ、該ナイトライド系の電界効果トランジスタで構成される高速ディジタル集積回路、高出力な高速集積回路などを容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る電界効果トランジスタの第1の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【図2】本発明に係る電界効果トランジスタの第2の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【図3】図1に示す電界効果トランジスタを製造する製造方法の一例を示す説明図である。
【図4】図2に示す電界効果トランジスタを製造する製造方法の一例を示す説明図である。
【図5】従来のナイトライド系電界効果トランジスタの断面構造の一例を示す断面図である。
【図6】従来のナイトライド系電界効果トランジスタの断面構造の図5とは異なる例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に、本発明に係る電界効果トランジスタおよび電界効果トランジスタ製造方法の最良の実施形態について、その一例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0046】
(本発明の特徴)
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の特徴についてその概要をまず説明する。本発明は、ナイトライド(nitride:窒化物)系化合物半導体で構成される電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)の特性、特に、相互コンダクタンスを改善することを可能としている。
【0047】
ナイトライド系化合物半導体は、一般に、他の化合物半導体と比較して、低抵抗のオーミックコンタクトを形成することが難しく、電極抵抗(コンタクト抵抗やアクセス抵抗)を低く形成して、ナイトライド系化合物が本来有している真性相互コンダクタンスにより近い相互コンダクタンスを有する電界効果トランジスタを実現することが難しい。
【0048】
かかる問題を解決するために、本発明は、電極形成前のソース電極、ドレイン電極のいずれか一方もしくは双方の電極の直下およびその周辺の領域に第1の高濃度キャリア領域を形成し、該第1の高濃度キャリア領域と隣接および/または一部重複し、ゲート電極の近傍までの領域に、第2の高濃度キャリア領域を形成した構造の電界効果トランジスタを実現することを特徴としている。
【0049】
つまり、本発明は、ゲート電極材料を用いた自己整合プロセス(セルフアラインメントプロセス)によるゲート近傍への高濃度キャリア領域(第2の高濃度キャリア領域)の形成には、イオン注入後のイオン活性化熱処理に要する温度よりも低温で処理することが可能な熱拡散法を用い、また、電極形成前のソース電極、ドレイン電極のいずれかもしくは双方の電極の直下およびその周辺の領域への高濃度キャリア領域(第1の高濃度キャリア領域)の形成には、熱拡散法によって得られる濃度およびドープ深さ以上の高濃度ドープ領域を形成することが可能なイオン注入法を用いる。
【0050】
而して、かくのごとき2つのドーピング方法を組み合わせて、ソース電極、ドレイン電極から、高濃度のイオン注入領域(第1の高濃度キャリア領域)、熱拡散領域(第2の高濃度キャリア領域)を介して、実際にトランジスタ動作するゲート電極直下のチャネル領域(電子供給層およびチャネル層のヘテロ接合界面近傍に形成される領域)まで、高濃度キャリア領域を形成した構造を有する電界効果トランジスタを実現している。
【0051】
この結果、本発明に係る電界効果トランジスタは、ゲート電極を熱処理によって劣化させることなく、また、ソース電極やドレイン電極からゲート電極直下のチャネル領域までの抵抗を低減することができるので、従来のナイトライド系化合物半導体を用いた電界効果トランジスタと比較して、ナイトライド系化合物半導体が本来有している真性相互コンダクタンスにより近い相互コンダクタンスを有する電界効果トランジスタを実現することができる。
【0052】
(第1の実施形態)
まず、本発明に係る電界効果トランジスタの一例について、図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る電界効果トランジスタの第1の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【0053】
図1に示すように、サファイア、SiC、Siなどからなる基板1上に、チャネルが形成される第1のナイトライド系半導体層として例えばアンドープGaNなどからなるチャネル層2が積層され、該チャネル層2上に、電子を供給する第2のナイトライド系半導体層である例えばAlGaN、InGaNまたはInAlNなどからなる電子供給層5が積層され、電子供給層5とチャネル層2とがヘテロ接合を形成している。図1においては、ヘテロ接合界面直下のチャネル層2側に2次元電子ガス(2DEG)によるチャネル領域4が形成されている。
【0054】
また、ゲート電極9の両脇に配置されるソース電極8、ドレイン電極10のそれぞれの電極を形成する領域には、例えばSi(シリコン)またはSn(スズ)のイオン注入とそれに続く熱処理(イオン活性化熱処理)とによって、キャリア濃度が高められたソース領域3とドレイン領域6とが第1の高濃度キャリア領域として形成されている。
【0055】
これによって、ソース領域3のキャリア濃度は(図1の場合は、ドレイン領域6のキャリア濃度も)、チャネル領域4のキャリア濃度よりも、イオン注入とそれに続くイオン活性化熱処理とによる増加分だけ高くなっており、また、ソース領域3とドレイン領域6とは、図1に示すように、電子供給層5とチャネル層2とのヘテロ接合界面よりも深く形成されている。
【0056】
さらに、電子供給層5上には、例えば、W(タングステン)、W合金、Mo(モリブデン)、または、Mo合金などからなるゲート電極9が形成されている。ここで、図1に示すように、ゲート電極9の直下のヘテロ接合界面の近傍にはチャネル領域4が形成されている。
【0057】
さらに、ゲート電極9の電極材料に対して、自己整合的に、例えばSiまたはSnの不純物(キャリア)を熱拡散した熱拡散領域7が第2の高濃度キャリア領域として形成されている。この熱拡散領域7のキャリア濃度は、チャネル領域4のキャリア濃度よりも、不純物拡散とそれに続く熱処理とによる増加分だけ高くなっている。この熱拡散領域7は、第1の高濃度キャリア領域として形成したソース領域3(図1の場合は、ドレイン領域6も含め)と隣接および/または一部重複し、かつ、ゲート電極9直下に形成したチャネル領域4と隣接するように形成されており、ソース領域3(図1の場合は、ドレイン領域6も含め)からチャネル領域4に至るまでの間に存在するアクセス抵抗を低減させる役割を果たしている。
【0058】
この熱拡散領域7も、図1に示すように、電子供給層5とチャネル層2とのヘテロ接合界面よりも深く形成されているが、第1の高濃度キャリア領域としてイオン注入により形成されるソース領域3(図1の場合は、ドレイン領域6も含め)よりも浅く形成されている。つまり、第2の高濃度キャリア領域を形成する熱拡散領域7は、ゲート電極9直下に形成されているチャネル領域4以上に深く形成されるが、第1の高濃度キャリア領域のソース領域3(図1の場合は、ドレイン領域6も含め)よりも浅い範囲に留めるように形成されている。
【0059】
さらに、ソース領域3とドレイン領域6との上には、それぞれ、オーミック電極であるソース電極8とドレイン電極10とが形成され、前述した各構成要素とともに、ナイトライド系半導体内に、ソース領域3、チャネル領域4、熱拡散領域7、および、ドレイン領域6を有する電界効果トランジスタを構成している。
【0060】
なお、図1には、ソース電極8とのコンタクトが形成されるソース領域3、ドレイン電極10とのコンタクトが形成されるドレイン領域6の双方に、第1の高濃度キャリア領域としてイオン注入を行ったイオン注入領域を形成しているが、ソース領域3もしくはドレイン領域6のいずれか一方の領域のみに第1の高濃度キャリア領域としてイオン注入を行ったイオン注入領域を形成するようにしても良い。
【0061】
また、ソース領域3(図1の場合は、ドレイン領域6も含め)に注入するイオンとしては、前述の例では、SiまたはSnを用いている。しかし、その他、ソース領域3、ドレイン領域6にイオン注入し、イオン活性化熱処理を行うことによって、ソース抵抗、ドレイン抵抗を低減させることが可能なイオン種であれば、ソース領域3、ドレイン領域6へのイオン注入用として如何なるイオン種を用いても構わない。
【0062】
また、ゲート電極9の材料として、熱拡散の処理温度(800℃程度)以上の耐熱性を有する、例えば、W、W合金、Mo、または、Mo合金のいずれか一つの材料もしくは複数の材料の組み合わせを用いている。しかし、その他、熱拡散の処理温度(800℃程度)程度に耐え、かつ、電子供給層5とゲート電極9との界面のショットキー障壁高さが0.5eV以上となる材料であれば、ゲート電極9として如何なる材料を用いても構わない。
【0063】
また、例えば、電子供給層5の厚さは10nm〜60nmであり、ソース領域3の厚さは(図1の場合、ドレイン領域6の厚さも含め)40nm〜200nmである。なお、ソース領域3の厚さは(図1の場合、ドレイン領域6の厚さも含め)電子供給層5の厚さよりも厚く形成する。熱拡散領域7の厚さについても、電子供給層5の厚さよりも厚く形成する。
【0064】
また、例えば、チャネル領域4のシートキャリア濃度は1×1010cm−2〜1×1015cm−2である。また、熱拡散領域7のキャリア濃度は、1×1016cm−3〜1×1021cm−3である。また、イオン注入により形成されたソース領域3のキャリア濃度は(図1の場合、ドレイン領域6のキャリア濃度も含め)、1×1017cm−3〜1×1022cm−3である。なお、第1の高濃度キャリア領域(イオン注入領域)であるソース領域3のキャリア濃度は(図1の場合、ドレイン領域6のキャリア濃度も含め)、第2の高濃度キャリア領域である熱拡散領域7のキャリア濃度よりも高くなるように形成する。
【0065】
また、ソース領域3のキャリア濃度(図1の場合、ドレイン領域6のキャリア濃度も含め)、熱拡散領域7のキャリア濃度は、チャネル領域4のキャリア濃度よりも高く形成する。例えば、チャネル領域4のキャリア濃度を、ゲート閾値電圧が−1Vよりも浅くなる濃度(1×1012cm−3以下)とした場合には、ソース領域3のキャリア濃度を(図1の場合、ドレイン領域6のキャリア濃度も含め)5×1018cm−3以上とすれば良い。
【0066】
図1の基板構造は、次の通りであっても良い。基板1上にナイトライド系半導体層である例えばアンドープGaNなどからなるチャネル層2が積層され、該チャネル層2上に、ナイトライド系半導体層である例えばAlGaN、InGaNまたはInAlNなどからなる電子供給層5が積層される。この電子供給層5にSiまたはSnをドープし、電子供給層5に高濃度なキャリア領域を形成する。かくのごとき基板構造においては、ヘテロ接合界面の例えばAlGaNからなる電子供給層5側に形成される2次元電子ガスによるキャリアよりも、高密度なキャリアを供給することができるようになる。
【0067】
あるいは、図1の基板構造は、次の通りであっても良い。基板1上にナイトライド系半導体層である例えばアンドープGaNなどからなるバッファ層が積層され、該バッファ層の上に、SiまたはSnがドープされた例えばGaNなどの高濃度なキャリアを有するチャネル層が形成される。また、該チャネル層の上に、ナイトライド系半導体層である例えばAlGaN、InGaNまたはInAlNからなる電子供給層5が積層される。かくのごとき基板構造においては、ヘテロ接合界面の例えばAlGaNからなる電子供給層5側に形成される2次元電子ガスによるキャリアよりも、高密度なキャリアを供給することができるようになる。
【0068】
以上で述べた基板材料や基板構造以外であっても、ソース抵抗やドレイン抵抗の低減がデバイスの性能向上に直結するような構造であれば、前述したような当該技術を応用することができることは明らかである。
【0069】
以上のようなデバイス構造からなる電界効果トランジスタにおいては、ソース電極8とのコンタクトが形成されるソース領域3、ドレイン電極10とのコンタクトが形成されるドレイン領域6のいずれかの領域または双方の領域に形成した高濃度のイオン注入領域(第1の高濃度キャリア領域)と隣接および/または一部重複する状態であって、ゲート電極9直下のチャネル領域4とは隣接する状態で、ゲート電極9の材料に対して、自己整合的に、熱拡散法による熱拡散領域(第2の高濃度キャリア領域)を形成することができるので、サブμm級の微細ゲート長を有する電界効果トランジスタであっても、高い相互コンダクタンスを実現することができる。
【0070】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る電界効果トランジスタの他の例について、図2を用いて説明する。
【0071】
図2は、本発明に係る電界効果トランジスタの第2の実施形態の断面構造を示す断面図である。図2に示す電界効果トランジスタの基本構造は、第1の実施形態として図1に示した電界効果トランジスタの場合と同様であるが、本第2の実施形態においては、ゲート電極9を形成する領域をリセスエッチングして、電子供給層5を十分に薄くしてから、ゲート電極9を形成し、該ゲート電極9を利用して、自己整合的に、熱拡散領域7を形成している点が、図1の場合と異なっている。
【0072】
つまり、電子供給層5が熱拡散領域7よりも厚い場合には、リセスエッチングを施す工程を追加することによって、ゲート電極9を形成する領域の電子供給層5を十分に薄くし、しかる後、ゲート電極9を形成して、該ゲート電極材料を用いたセルフアラインプロセスによる熱拡散処理によって、熱拡散領域7(第2の高濃度キャリア領域)を形成した構造とする。かくのごときデバイス構造とすることによって、ソース電極8(図2の場合、ドレイン領域6も含め)から、実際にトランジスタ動作するゲート電極9直下のチャネル領域4(電子供給層5およびチャネル層2のヘテロ接合界面近傍に形成される領域)に至るまで、図1の場合と同様に、高濃度キャリア領域が連続的に存在する構造を形成することができ、熱拡散領域7の形成によるアクセス抵抗の十分な低減を図ることができる。
【0073】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として、本発明に係る電界効果トランジスタ製造方法の一例について、図3を用いて説明する。図3は、本発明に係る電界効果トランジスタ製造方法の一例として、図1に示す電界効果トランジスタを製造する製造方法の一例を示す説明図である。
【0074】
まず、図3(a)に示すように、第1の工程として、サファイア基板、SiC基板、または、Si基板などの基板1上に、第1のナイトライド系半導体である例えばアンドープのGaNをエピタキシャル成長させることにより、第1のナイトライド系半導体層つまりチャネル層2を形成する。しかる後、第2の工程として、当該第1のナイトライド系半導体層つまりチャネル層2上に、第2のナイトライド系半導体である例えばアンドープのAlGaN、InGaNまたはInAlNをエピタキシャル成長させることにより、第2のナイトライド系半導体層つまり電子供給層5を形成する。この結果、チャネル層2と電子供給層5とのヘテロ接合界面のチャネル層2側には、2次元電子ガスによるチャネル領域4が形成されている。
【0075】
次に、図3(b)に示すように、最表面の第2のナイトライド系半導体層つまり電子供給層5上に、フォトレジスト、SiO2、SiN、W、WSiNまたはNi等によって、イオン注入工程時に供するマスクパターンつまりイオン注入用マスク12を形成する。
【0076】
続いて、第3の工程として、イオン注入(ソース領域用および/またはドレイン領域用のイオン注入)工程として、ソース領域3となる箇所に(図3(b)の場合は、ドレイン領域6となる箇所にも)、n型のドーパント(不純物)となる物質(例えばSi(シリコン)またはSn(スズ))のイオン注入を行う。イオン注入後、先に形成したマスクパターンつまりイオン注入用マスク12を除去する。
【0077】
さらに、第4の工程として、最表面の第2のナイトライド系半導体層つまり電子供給層5およびソース領域3(図3(b)の場合は、ドレイン領域6も含め)が形成された半導体基板上に、例えばSiO2、SiN、または、WSiNなどの高温熱処理用保護膜を形成した後、当該半導体基板を1000℃以上の温度で熱処理(イオン活性化熱処理)を行い、ソース領域3(図3(b)の場合は、ドレイン領域6も含め)に注入されたイオンを活性化させ、イオン注入部分のキャリア濃度を高めることによって、第1の高濃度キャリア領域として形成する。
【0078】
なお、図3(b)におけるソース領域3(図3(b)の場合は、ドレイン領域6も含め)へのイオン注入工程においては、例えば、加速電圧を30〜200kV、ドーズ量を1×1013cm−3〜1×1016cm−3とする。これによって、ソース領域3(図3(b)の場合は、ドレイン領域6も含め)のキャリア濃度がチャネル領域4のキャリア濃度よりも、イオン注入とそれに続くイオン活性化熱処理とによる増加分だけ高くなる。第4の工程の最後に、高温熱処理用保護膜を除去する。
【0079】
次に、図3(c)に示すように、第5の工程として、当該半導体基板のゲート電極形成領域に例えばW、WN、WAl、WSiまたはWSiNなどをスパッタ法により堆積し、ドライエッチングによりゲート電極9を形成する。
【0080】
続いて、ゲート電極9に例えばSiO2またはSiNからなるサイドウォール11を形成する。サイドウォール11は、例えばSiO2またはSiNなどを当該半導体基板の最表面全面に形成した後に、表面エッチングを施すことによって形成される。サイドウォール11は、後工程のSiまたはSnの拡散のための熱処理時において、ゲート電極9直下のチャネル領域4にSiまたはSnが拡散して、ソース電極とドレイン電極との間が短絡してしまうことを防ぐ役割を果たす。
【0081】
次に、図3(d)に示すように、第6の工程として、当該半導体基板の最表面全面に拡散用材料13として例えばSiまたはSnなどを用いた薄膜を形成し、800℃以上の温度で熱処理して、当該半導体基板中のチャネル領域4以上に深く、ソース領域3(図3(d)の場合は、ドレイン領域6も含め)よりも浅い領域まで拡散させることによって、チャネル領域4を除く領域に、ゲート電極9に対して、自己整合(セルフアラインメント)的に、熱拡散領域7を第2の高濃度キャリア領域として形成する。
【0082】
この熱拡散領域7は、ソース領域3(図3(d)の場合は、ドレイン領域6も含め)と隣接および/または一部重複するとともに、ゲート電極9直下のチャネル領域4と隣接して形成され、ソース領域3(図3(d)の場合は、ドレイン領域6も含め)からチャネル領域4に至るまでの間に存在するアクセス抵抗を低減させる役割を果たす。
【0083】
ここで、ゲート電極9の側部にはサイドウォール11が存在するので、熱処理による拡散時に、ゲート電極9直下のチャネル領域4まで不純物(キャリア)が拡散してしまうことを防ぐことができる。熱処理拡散後、拡散用材料13として例えばSiまたはSnを用いて形成した薄膜を除去する。
【0084】
なお、熱拡散領域7のキャリア濃度は、チャネル領域4のキャリア濃度よりも高く、第1の高濃度キャリア領域として形成したソース領域3(図3(d)の場合は、ドレイン領域6も含め)のキャリア濃度よりも低くなるように形成される。
【0085】
最後に、図3(e)に示すように、ソース領域3上にソース電極8を形成し、ドレイン領域6上にドレイン電極10を形成すれば、図1に示した、本発明に係る電界効果トランジスタが完成する。
【0086】
なお、ソース電極8、ドレイン電極10は、蒸着およびリフトオフにより、Ti/AlまたはAl/Ti/Al電極を形成した後、600℃以上の温度で熱処理してアロイ化することによって、オーミック電極として作製すれば良い。しかし、その他、600℃程度で熱処理することによって、ソース領域3、ドレイン領域6とのコンタクト抵抗が10Ωmm程度以下となる材料の組合せであれば、如何なる材料を用いてオーミック電極を形成するようにしても構わない。
【0087】
なお、イオン注入時のマスクパターンつまりイオン注入用マスク12としては、前述の例では、フォトレジスト、SiO2、SiN、W、WSiNまたはNiを用いている。しかし、その他、当該半導体基板表面にイオンビームを到達させないためのマスクとしての機能を有し、かつ、イオン注入後において当該半導体基板表面に深刻な影響を与えない程度にイオン注入用マスク12を除去することができる材料であれば、イオン注入時のマスクパターンとして如何なる材料を用いても構わない。
【0088】
また、注入イオンの活性化のための熱処理に用いる高温熱処理時用保護膜には、前述の例では、SiO2、SiNまたはWSiNなどを用いている。しかし、その他、1000℃以上での熱処理に耐え、当該半導体基板を熱処理から保護する機能がある材料であれば、高温熱処理時用保護膜として如何なる材料を用いても構わない。
【0089】
また、ゲート電極9の材料として、前述の例では、W、WN、WAl、WSiまたはWSiNなどを用いているが、MoまたはMo合金を用いても良いし、それらの材料を組み合わせて用いても良い。しかし、その他、熱拡散の処理温度(800℃以上の温度)程度に耐え、かつ、電子供給層5とゲート電極9との界面のショットキー障壁高さが0.5eV以上となる材料であれば、ゲート電極9の材料として如何なる材料を用いても構わない。
【0090】
なお、ゲート電極9の材料としてMoまたはMo合金を用いる場合、前述のように、MoまたはMo合金のゲート電極材料をスパッタ法により堆積した後、ドライエッチングによりゲート電極9を形成する代わりに、蒸着およびリフトオフによりゲート電極9を形成するようにしても良い。
【0091】
また、ゲート電極9の側部に形成するサイドウォール11の材料として、前述の例では、SiO2またはSiNなどを用いている。しかし、その他、熱拡散領域7の形成のための熱処理時において、ゲート電極9直下のチャネル領域4にSiまたはSnが拡散して、ソース電極とドレイン電極との間が短絡してしまうことを防ぐ役割を果たすことができる材料であれば、サイドウォール11の材料として如何なる材料を用いても構わない。
【0092】
なお、ゲート電極9の直下への熱拡散の影響が深刻でない場合には、つまり、チャネル領域4にSiまたはSnが拡散して、ソース電極とドレイン電極との間が短絡してしまう事態が生じない場合には、サイドウォール11を形成する工程を省略することもできる。
【0093】
また、図3(b)の第3、第4の工程においては、ソース電極8とのコンタクトが形成されるソース領域3、ドレイン電極10とのコンタクトが形成されるドレイン領域6の双方に、第1の高濃度キャリア領域としてイオン注入を行ったイオン注入領域を形成しているが、ソース領域3もしくはドレイン領域6のいずれか一方の領域のみに第1の高濃度キャリア領域としてイオン注入を行ったイオン注入領域を形成するようにしても良い。
【0094】
以上のような電界効果トランジスタの製造方法においては、イオン注入の活性化熱処理に要する温度よりも低温で処理することが可能な熱拡散法を用いて、ゲート電極9の材料に対して、自己整合的に、高濃度キャリア領域である熱拡散領域7(第2の高濃度キャリア領域)を形成するので、ゲート電極9として用いる耐熱性材料の選択の幅を広げることができる。
【0095】
また、イオン注入法では、注入イオン活性化熱処理の温度と時間とを適正にすることによって、熱拡散法によるキャリアのドーズよりも、ソース抵抗やドレイン抵抗を大きく低減することができる。よって、イオン注入法と熱拡散法とを併用することにより、イオン注入法によるソース抵抗やドレイン抵抗の大幅な低減と、熱拡散法による自己整合ゲートの形成とを同時に達成することができる。
【0096】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態として、本発明に係る電界効果トランジスタ製造方法の他の例について、図4を用いて説明する。図4は、本発明に係る電界効果トランジスタ製造方法の他の例として、図2に示す電界効果トランジスタを製造する製造方法の一例を示す説明図である。
【0097】
図4に示す電界効果トランジスタの製造方法の基本的な工程は、図3に示した電界効果トランジスタの製造方法の工程と同様であるが、図4(c)に示すように、本第4の実施形態においては、ゲート電極9を形成する領域の電子供給層5をリセスエッチングして、リセス領域14を形成することによって、電子供給層5を十分に薄くする工程が、図3にて説明した製造方法にさらに追加されている。
【0098】
つまり、図4(c)に示す工程においては、電子供給層5をドライエッチングして、リセス領域14を形成する。このように、リセス領域14を形成することによって、電子供給層5が熱拡散領域7よりも厚い場合であっても、ソース領域3(図4の場合ではドレイン領域6も含め)からチャネル領域4までを低抵抗領域で接続することができるようになる。
【0099】
図4(c)のリセス領域14の形成工程は、図3で説明した第3、第4の工程のイオン注入・活性化熱処理後であって、第5の工程のゲート電極9の形成前に追加されており、リセス領域14の形成工程により、電子供給層5を十分に薄くした後、図3に示す製造方法と同様に、ゲート電極9を形成し、形成したゲート電極9の直下のチャネル領域4を除く領域に、形成したゲート電極9に対して、自己整合(セルフアラインメント)的に、熱拡散領域7を第2の高濃度キャリア領域として形成する。
【符号の説明】
【0100】
1…基板、2…チャネル層(ナイトライド系半導体層)、2A…バッファ層、3…ソース領域、3A…2次元電子ガス、4…チャネル領域、4A…高濃度イオン注入領域、5…電子供給層、6…ドレイン領域、6A…電極形成領域、7…熱拡散領域、7A…表面保護膜、8…ソース電極、8A…フォトレジストマスク、9…ゲート電極、10…ドレイン電極、11…サイドウォール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイトライド系半導体を用いて構成される電界効果トランジスタであって、ゲート電極を挟んで配置されるソース電極、ドレイン電極のそれぞれとのコンタクトが形成されるソース領域、ドレイン領域のいずれか一方の領域または双方の領域に高濃度のイオン注入を行った後イオン活性化することにより形成されたイオン注入領域である第1の高濃度キャリア領域を備えるとともに、前記ゲート電極の直下に形成したチャネル領域と前記第1の高濃度キャリア領域との間の領域に、熱処理によりキャリアを拡散させた熱拡散領域である第2の高濃度キャリア領域を備える電界効果トランジスタにおいて、
前記第1の高濃度キャリア領域と前記第2の高濃度キャリア領域とは互いに隣接および/または一部重複し、かつ、前記第1の高濃度キャリア領域は、前記第2の高濃度キャリア領域よりも深く形成されており、
また、前記第2の高濃度キャリア領域と前記チャネル領域とは互いに隣接し、かつ、前記第2の高濃度キャリア領域は、前記チャネル領域以上に深く形成されていることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の電界効果トランジスタにおいて、前記第1の高濃度キャリア領域のキャリア濃度は、前記第2の高濃度キャリア領域よりも高濃度であり、前記第2の高濃度キャリア領域のキャリア濃度は、前記チャネル領域よりも高濃度であることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電界効果トランジスタにおいて、前記第2の高濃度キャリア領域が、前記ゲート電極を用いて、自己整合的に形成されていることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、チャネルが形成される第1のナイトライド系半導体層と電子を供給する第2のナイトライド系半導体層とを少なくとも備え、前記チャネル領域が、前記第1のナイトライド系半導体層と前記第2のナイトライド系半導体層とのヘテロ接合界面の近傍に形成されていることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、前記ゲート電極を形成する領域にリセス領域が形成され、該リセス領域に前記ゲート電極が形成されていることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、前記ゲート電極の材料は、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金のいずれか一つの材料または複数の材料の組み合わせからなっていることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、前記第2の高濃度キャリア領域を形成するために熱拡散させる前記キャリアは、シリコンまたはスズのいずれかであることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項8】
ナイトライド系半導体を用いて構成される電界効果トランジスタを製造する電界効果トランジスタ製造方法であって、
基板上に第1のナイトライド系半導体層を形成する第1の工程と、
前記第1の工程で形成された前記第1のナイトライド系半導体層上に第2のナイトライド系半導体からなる電子供給層を形成することにより、チャネル領域を形成する第2の工程と、
前記第1、第2の工程で形成された前記第1のナイトライド系半導体層および前記電子供給層のうち、ソース電極、ドレイン電極をそれぞれ形成するソース領域、ドレイン領域のいずれか一方の領域または双方の領域にドーパントとなる物質のイオンを注入してイオン注入領域を第1の高濃度キャリア領域として形成する第3の工程と、
前記第3の工程で形成された前記第1の高濃度キャリア領域に注入された前記イオンを活性化させるイオン活性化熱処理を行う第4の工程と、
前記第4の工程の後、前記電子供給層上にゲート電極を形成する第5の工程と、
前記第5の工程で形成された前記ゲート電極に対して、自己整合的に、キャリアを熱拡散させて、前記第1の高濃度キャリア領域と隣接および/または一部重複するとともに、前記ゲート電極直下の前記チャネル領域と隣接する熱拡散領域を第2の高濃度キャリア領域として形成する第6の工程と、を少なくとも有していることを特徴とする電界効果トランジスタ製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第6の工程として、前記第2の高濃度キャリア領域のキャリア濃度を、前記第1の高濃度キャリア領域よりも低く、前記チャネル領域よりも高く形成することを特徴とする電界効果トランジスタ製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第5の工程と前記第6の工程との間に、前記第5の工程で形成された前記ゲート電極の側部にサイドウォールを形成する工程を有していることを特徴とする電界効果トランジスタ製造方法。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれかに記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第4の工程と前記第5の工程との間に、前記ゲート電極を形成する領域にリセス領域を形成する工程を有していることを特徴とする電界効果トランジスタ製造方法。
【請求項12】
請求項8ないし11のいずれかに記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第3の工程で形成される前記第1の高濃度キャリア領域は、前記第6の工程で形成される前記第2の高濃度キャリア領域よりも深く形成され、前記第2の高濃度キャリア領域は、前記第2の工程で形成される前記チャネル領域以上に深く形成されることを特徴とする電界効果トランジスタ製造方法。
【請求項13】
請求項8ないし12のいずれかに記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記ゲート電極の材料は、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金のいずれか一つの材料または複数の材料の組み合わせからなっていることを特徴とする電界効果トランジスタ製造方法。
【請求項14】
請求項8ないし13のいずれかに記載の電界効果トランジスタ製造方法において、前記第2の高濃度キャリア領域を形成するために熱拡散させる前記キャリアは、シリコンまたはスズのいずれかであることを特徴とする電界効果トランジスタ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−192716(P2010−192716A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35997(P2009−35997)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】