説明

PCV系の異常判定装置

【課題】 PCV系の異常をより精度良く判定できるPCV系の異常判定装置を提供する。
【解決手段】 異常判定装置1は、吸気系4のブローバイガス通路22との接続部30よりも上流側に設けられ、吸気系4を流れる空気量QAを検出する空気量センサ13を有し、検出された空気量QAと所定の判定値QAJUDとの比較結果に基づく第1判定により、PCV系21の異常を判定し(ステップ10,13,17)、第1判定により正常であると判定されたときに検出された空気量QAを正常時空気量QACLEとして記憶し(ステップ11,12)、この記憶後、第1判定により異常であると判定されたときに検出された空気量QAと正常時空気量QACLEとの比較結果に基づく第2判定によって、PCV系21の異常を判定する(ステップ16,13,17)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気系に接続されたブローバイガス通路を介して、ブローバイガスを吸気系に還流させるPCV系の異常を判定するPCV系の異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のPCV系の異常判定装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この特許文献1では、内燃機関の吸気管にISCバルブが設けられており、アイドル運転中、ISCバルブの開度を制御し、吸入空気量を制御することによって、機関回転数が目標回転数になるように制御される。また、この異常判定装置では、ISCバルブの開度を開度センサによって検出し、検出されたISCバルブの開度が所定の判定値よりも小さいときに、ブローバイガス通路が破損したり、吸気管から外れたりするなどの原因によって、PCV系に異常が発生していると判定される。
【0003】
このようにPCV系の異常を判定するのは、次の理由による。すなわち、ブローバイガス通路に上述したような破損や外れが生じた場合、それらの部分から外気が吸気管に流入することによって、吸入空気量が増加し、それにより、機関回転数が上昇し、目標回転数を上回るようになる。それに伴い、ISCバルブの開度は、上昇した機関回転数を目標回転数に収束させるべく吸入空気量を低減するように、正常時よりも小さな値に制御される結果、判定値を下回るためである。
【0004】
しかし、この従来の異常判定装置では、検出したISCバルブの開度を所定の判定値と単純に比較することによって、PCV系の異常を判定するので、ISCバルブの動作特性やその開度を検出する開度センサの出力特性の経年変化などの影響によって、判定を誤るおそれがある。例えば、ISCバルブの動作特性が経年的に変化したときには、制御入力に対するISCバルブの実際の開度が、標準的な特性よりも小さい側または大きい側にずれる場合がある。前者の場合には、PCV系が正常であっても、ISCバルブの開度が判定値を下回り、異常が発生していると誤判定し、後者の場合には、異常が発生していても、ISCバルブの開度が判定値以上になり、正常であると誤判定するおそれがある。
【0005】
また、開度センサの出力特性が経年的に変化したときには、その検出値がISCバルブの実際の開度に対して小さい側または大きい側にずれる場合がある。このため、上記と同様、前者の場合には、異常が発生していると誤判定し、後者の場合には、正常であると誤判定するおそれがある。さらに、内燃機関の吸気特性が経年変化した場合にも、ISCバルブの開度と実際の吸入空気量との関係がずれることによって、やはり誤判定を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、PCV系の異常をより精度良く判定することができるPCV系の異常判定装置を提供することを目的とする。
【0007】
【特許文献1】特開平10−184335号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、内燃機関3の吸気系(実施形態における(以下、本項において同じ)吸気管4)に接続部30を介して接続されたブローバイガス通路22を有し、ブローバイガス通路22を介してブローバイガスを吸気系に還流させるPCV系21の異常を判定するPCV系の異常判定装置1であって、吸気系の接続部30よりも上流側に設けられ、吸気系を流れる空気量(吸入空気量QA)を検出する空気量センサ(エアーフローセンサ13)と、検出された空気量と所定の判定値(第1判定値QAJUD)との比較結果に基づいて、PCV系21の異常を判定する第1異常判定手段(ECU2、ステップ10,13,17)と、第1異常判定手段によりPCV系21が正常であると判定されたときに検出された空気量を正常時空気量QACLEとして記憶する記憶手段(EEPROM2a、ステップ11,12)と、記憶手段により正常時空気量QACLEが記憶された後、第1異常判定手段によりPCV系21が異常であると判定されたときに検出された空気量と正常時空気量QACLEとの比較結果に基づいて、PCV系21の異常を判定する第2異常判定手段(ECU2、ステップ16,13,17)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このPCV系の異常判定装置によれば、吸気系のブローバイガス通路との接続部よりも上流側に設けられた空気量センサによって、吸気系の接続部よりも上流側を流れる空気量が検出され、検出された空気量と所定の判定値との比較結果に基づき、PCV系の異常が第1異常判定手段によって判定される。ブローバイガス通路の破損や吸気系からの外れが生じた場合には、それらの部分から吸気系に外気が流入し、その分、ブローバイガス通路との接続部よりも上流側を流れる空気量が減少する。したがって、検出された空気量と判定値との比較結果に基づいて、PCV系の異常を判定することができる。
【0010】
また、第1異常判定手段によりPCV系が正常であると判定されたときの空気量が、記憶手段により正常時空気量として記憶される。さらに、正常時空気量が記憶された後、第1異常判定手段によりPCV系が異常であると判定されたときには、そのときに検出された空気量と正常時空気量との比較結果に基づいて、第2異常判定手段によりPCV系の異常が判定される。
【0011】
上述した第1異常判定手段による異常判定では、検出された空気量と所定の判定値との比較結果に基づいて異常を判定するため、空気量センサの出力特性や吸気系の吸気特性の経年変化により、空気量センサによって検出される空気量が小さい側にずれたときには、PCV系が正常であっても、異常であると誤判定する場合がある。このような経年変化による空気量のずれは、非常にゆっくりと大きくなるのに対し、ブローバイガス通路の外れなどが生じた場合、検出される空気量は、正常時に対して急激に大きく減少する。
【0012】
これに対して、本発明によれば、PCV系が正常であると判定する度に、そのときに検出された空気量を正常時空気量として記憶し、更新するので、空気量センサの出力特性などの経年変化にかかわらず、その後に検出された空気量は、PCV系が正常である場合には正常時空気量とほぼ等しくなり、異常が発生した場合には正常時空気量よりも非常に小さくなる。したがって、上記のように、第2異常判定手段によって、正常時空気量と第1異常判定手段により異常であると判定したときに検出された空気量との比較結果に基づいてPCV系の異常を判定することにより、吸気系の吸気特性や空気量センサの出力特性の経年変化による影響を排除しながら、PCV系の異常を精度良く判定することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のPCV系の異常判定装置1において、吸気系には、排ガスの一部を吸気系に還流させるためのEGR通路6aが接続されており、第1および第2異常判定手段による判定中に、EGR通路6aを閉鎖するEGR通路閉鎖手段(EGR制御弁6b、ECU2、ステップ6)をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、異常判定中には、EGR通路閉鎖手段によって、排ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流させるためのEGR通路が閉鎖される。吸気系を流れる空気量に基づくPCV系の異常判定中に、EGRガスが吸気系に還流すると、それにより、吸気系を流れる空気量が変動することによって、異常判定を適切に行えなくなるおそれがある。これに対して、本発明によれば、異常判定中にEGR通路を閉鎖するので、EGRガスの還流による空気量の変動を排除しながら、PCV系の異常を判定でき、したがって、この判定を適切に行うことができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のPCV系の異常判定装置1において、吸気系内の圧力(吸気圧PBA)および温度(吸気温TA)の少なくとも一方を検出する検出手段(吸気圧センサ14、吸気温センサ15)と、検出された吸気系内の圧力および温度の少なくとも一方に応じて、検出された空気量を補正する補正手段(ECU2、ステップ9)と、をさらに備え、第1および第2異常判定手段は、補正された空気量(補正吸気量QAC)を用いて異常の判定を実行することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、検出された吸気系内の圧力および/または温度に応じて、補正手段により空気量が補正され、補正された空気量が異常判定に用いられる。吸気系を流れる空気量、すなわち体積は、吸気系内の圧力および温度に応じて変化する。したがって、これらの少なくとも一方に応じて補正した空気量を異常判定に用いることによって、圧力や温度による空気量の変化を補償しながら、異常判定をさらに精度良く行うことができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のPCV系の異常判定装置1において、内燃機関3がアイドル運転状態または減速運転状態にあるか否かを判定する運転状態判定手段(アクセル開度センサ16、車速センサ17、ECU2、ステップ4)をさらに備え、第1および第2異常判定手段は、内燃機関3がアイドル運転状態または減速運転状態にあると判定されたときに(ステップ4:YES)、異常の判定を実行することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、運転状態判定手段によって、内燃機関がアイドル運転状態または減速運転状態にあると判定されたときに、異常判定が実行される。異常判定中に、内燃機関の運転状態が変動すると、それに伴って空気量が変動し、その影響によって異常判定を適切に行えなくなるおそれがある。これに対して、本発明によれば、内燃機関がアイドル運転状態または減速運転状態にあるとき、すなわち、吸気系を流れる空気量が安定しているときに、異常判定を行うので、この判定をより適切に行うことができる。
【0019】
また、前記目的を達成するため、請求項5に係る発明は、内燃機関3の吸気系(吸気管4)に接続部30を介して接続されたブローバイガス通路22を有し、ブローバイガス通路22を介してブローバイガスを吸気系に還流させるPCV系21の異常を判定するPCV系の異常判定装置1であって、吸気系の接続部30よりも上流側を流れる空気量を検出する空気量検出手段(エアフローセンサ13)と、内燃機関3が内燃機関3に吸入される吸入空気量が大きい所定の運転状態にあるか否かを判別する運転状態判別手段(ECU2、ステップ26、31)と、内燃機関3が所定の運転状態にあると判別されたときに検出された空気量と所定の判定値THRとの比較結果に基づいて、PCV系21の異常を判定する異常判定手段(ECU2、ステップ36、37、39)と、を備えることを特徴とする。
【0020】
このPCV系の異常判定装置によれば、吸気系のブローバイガス通路との接続部よりも上流側を流れる空気量が、空気量検出手段によって検出されるとともに、内燃機関がその吸入される吸入空気量が大きな所定の運転状態にあるか否かが、運転状態判別手段によって判別される。また、内燃機関が所定の運転状態にあると判別されたときに検出された空気量と所定の判定値との比較結果に基づいて、PCV系の異常が異常判定手段によって判定される。請求項1の作用で述べたように、ブローバイガス通路の破損や外れが生じた場合には、それらの部分から吸気系に外気が流入し、その分、ブローバイガス通路との接続部よりも上流側を流れる空気量が減少する。したがって、検出された空気量と所定の判定値との比較結果に基づいて、PCV系の異常を判定することができる。
【0021】
また、PCV系の異常時において、内燃機関に吸入される吸入空気量が大きいときには、ブローバイガス通路が破損した部分などから吸気系に流入する外気の量も大きく、それにより、接続部よりも上流側の空気量の減少量が大きいため、正常時における接続部よりも上流側の空気量との差が大きくなる。したがって、上記のように、内燃機関が大きな吸入空気量が得られるような所定の運転状態にあるときに検出された空気量を異常判定に用いることによって、異常の有無を明確に把握でき、異常判定を精度良く行うことができる。また、同じ理由から、検出された空気量と比較される所定の判定値を大まかに設定しても、良好な判定精度を確保することができる。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のPCV系の異常判定装置1において、内燃機関3の回転数を検出する回転数検出手段(クランク角センサ11、ECU2)および内燃機関3の負荷を検出する負荷検出手段(ECU2)の少なくとも一方をさらに備え、運転状態判別手段は、内燃機関3の燃焼運転中、検出された内燃機関の回転数(エンジン回転数NE)および負荷(燃料噴射量QINJ)の少なくとも一方に応じて、内燃機関3が所定の運転状態にあるか否かを判別する(ステップ25、26)ことを特徴とする。
【0023】
吸入空気量は、内燃機関の回転数が高いほど、また、内燃機関の負荷が高いほど、より大きく、内燃機関の回転数および負荷と密接な相関関係にある。したがって、本発明によれば、内燃機関の回転数および/または負荷に応じ、内燃機関が所定の運転状態にあるか否かを判別することによって、この判別を適切に行うことができ、それにより、異常判定を吸入空気量が大きい状態で適切に行うことができる。
【0024】
また、吸入空気量は、内燃機関の回転数が高いときには、負荷が低くても、単位時間当たりの内燃機関の空気の吸入回数が多いため、大きく、また、負荷が高いときには、回転数が低くても、内燃機関に要求される出力が大きいため、大きい。したがって、内燃機関の回転数および負荷の双方に応じて内燃機関が所定の運転状態にあるか否かを判別することによって、この判別をより適切に行うことができる。
【0025】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載のPCV系の異常判定装置1において、内燃機関3は、所定の条件が成立したときに当該内燃機関3への燃料の供給を停止するフューエルカット運転を実行するように構成され、フューエルカット運転中であるか否かを判別するフューエルカット判別手段(ECU2、ステップ24)と、内燃機関3の回転数を検出する回転数検出手段(クランク角センサ11、ECU2)と、をさらに備え、運転状態判別手段は、内燃機関3のフューエルカット運転中、検出された内燃機関の回転数(エンジン回転数NE)が所定の回転数(しきい値NEREF)よりも高いとき(ステップ31:YES)に、内燃機関3が所定の運転状態にあると判別することを特徴とする。
【0026】
内燃機関のフューエルカット(以下「F/C」という)運転中、内燃機関の回転数が高いときには、単位時間当たりの内燃機関の空気の吸入回数が多いため、吸入空気量は大きい。したがって、本発明によれば、F/C運転中、内燃機関の回転数が所定の回転数よりも高いときに、内燃機関が所定の運転状態にあると判別することによって、F/C運転中においても、吸入空気量が大きい状態で異常判定を適切に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明による異常判定装置1、これを適用したPCV系21および内燃機関3の概略構成を示している。この異常判定装置1は、PCV系21の異常の有無を判定するものである。
【0028】
内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両(図示せず)に搭載されたディーゼルエンジンである。エンジン3のシリンダヘッド3dには、吸気管4(吸気系)および排気管5がそれぞれ接続されるとともに、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)7が、燃焼室に臨むように取り付けられている。
【0029】
インジェクタ7は、燃焼室の天壁中央部に配置されており、燃料タンクの燃料を燃焼室に噴射する。インジェクタ7の燃料噴射量QINJは、ECU2によって設定され、ECU2からの駆動信号により、設定した燃料噴射量QINJが得られるように、インジェクタ7の開弁時間が制御される。
【0030】
エンジン3のクランクシャフト3aには、マグネットロータ11aが取り付けられており、このマグネットロータ11aとMREピックアップ11bによって、クランク角センサ11(回転数検出手段)が構成されている。クランク角センサ11は、クランクシャフト3aの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号を後述するECU2に出力する。CRK信号は、所定のクランク角(例えば30゜)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを求める。
【0031】
エンジン3の本体には、エンジン水温センサ12が取り付けられており、エンジン水温センサ12は、シリンダブロック(図示せず)内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0032】
また、エンジン3には、EGR管6a(EGR通路)およびEGR制御弁6b(EGR通路閉鎖手段)を有するEGR装置6が設けられている。EGR管6aは、吸気管4および排気管5に、両者をつなぐように接続されている。このEGR管6aを介して、エンジン3の排ガスの一部が吸気管4にEGRガスとして還流し、それにより、エンジン3の燃焼温度が低下することで、排ガス中のNOxが減少する。
【0033】
EGR制御弁6bは、EGR管6aに取り付けられたリニア電磁弁で構成されており、供給される電流のデューティ比(以下「EGRデューティ比」という)EGR_DutyをECU2で制御することにより、そのバルブリフト量がリニアに制御されることによって、EGRガス量が制御される。具体的には、EGRデューティ比EGR_Dutyが大きいほど、バルブリフト量がより大きくなることによりEGRガス量はより大きくなり、EGR_Duty=0のときには、EGR制御弁6bが全閉状態に制御され、EGRガス量は値0になる。
【0034】
さらに、エンジン3には、ターボチャージャで構成された過給機8と、これに連結されたアクチュエータ9が設けられている。過給機8は、吸気管4に設けられた回転自在のコンプレッサブレード8aと、排気管5に設けられた回転自在のタービンブレード8bおよび複数の回動自在の可変ベーン8cと、これらのブレード8a,8bを一体に連結するシャフト(図示せず)とを有している。過給機8は、排気管5内の排ガスによりタービンブレード8bが回転駆動されるのに伴い、これと一体のコンプレッサブレード8aが回転駆動されることによって、吸気管4内の吸入空気を加圧する過給動作を行う。
【0035】
アクチュエータ9は、負圧によって作動するダイアフラム式のものであり、各可変ベーン8cに機械的に連結されている。アクチュエータ9には、負圧ポンプから負圧供給通路(いずれも図示せず)を介して負圧が供給され、この負圧供給通路の途中にベーン開度制御弁10が設けられている。ベーン開度制御弁10は、電磁弁で構成されており、その開度がECU2からの駆動信号で制御されることにより、アクチュエータ9への供給負圧が変化し、それに伴い、可変ベーン8cの開度が変化することにより、過給圧が制御される。
【0036】
PCV系21は、エンジン3のクランクケース3b内のブローバイガスを吸気管4に適宜、還流させるものであり、ブローバイガス通路22およびPCVバルブ23を有している。
【0037】
ブローバイガス通路22は、一端部がエンジン3のシリンダヘッドカバー3cに接続されるとともに、他端部が吸気管4のEGR管6aとの接続部よりも上流側に接続されている。エンジン3には、シリンダヘッド3dからシリンダブロックにわたってブリーザ通路(図示せず)が形成されており、このブリーザ通路、シリンダヘッドカバー3cおよびブローバイガス通路22を介して、ブローバイガスが吸気管4に還流する。
【0038】
PCVバルブ23は、機械式の弁で構成されており、ブローバイガス通路22のシリンダヘッドカバー3cとの接続部分に設けられている。また、PCVバルブ23は、その上流側と下流側の間の差圧が所定圧よりも大きくなったときに開弁し、それにより、ブローバイガスが吸気管4に還流する。
【0039】
吸気管4のブローバイガス通路22との接続部30よりも上流側には、エアフローセンサ13(空気量センサ、空気量検出手段)、吸気圧センサ14(検出手段)および吸気温センサ15(検出手段)が設けられている。エアフローセンサ13は、吸入空気量QA(空気量)を検出し、吸気圧センサ14は、吸気管4内の圧力(以下「吸気圧」という)PBA(吸気系内の圧力)を絶対圧として検出するとともに、吸気温センサ15は、吸気管4内の温度(以下「吸気温」という)TA(吸気系内の温度)を検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。
【0040】
また、ECU2には、アクセル開度センサ16(運転状態判定手段)および車速センサ17(運転状態判定手段)が接続されている。アクセル開度センサ16はアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを検出し、車速センサ17は車速VPを検出し、それらの検出信号は、ECU2に出力される。
【0041】
また、ECU2には、警告ランプ35が接続されており、ECU2は、後述する異常判定処理により、PCV系21が異常であると判定したときに、その旨を運転者に知らせるために、この警告ランプ35を点灯させる。
【0042】
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMおよびEEPROM2a(記憶手段)などからなるマイクロコンピュータで構成されている。前述した各種のセンサ11〜17からの検出信号はそれぞれ、I/OインターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。
【0043】
CPUは、これらの入力信号に応じて、エンジン3の運転状態を判別し、判別した運転状態に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、EGRデューティ比EGR_Dutyを制御することによりEGRガス量を制御するとともに、PCV系21の異常を判定する異常判定処理を実行する。なお、本実施形態では、ECU2により、第1異常判定手段、第2異常判定手段、EGR通路閉鎖手段、補正手段、運転状態判定手段、運転状態判別手段、異常判定手段、回転数検出手段、負荷検出手段、およびフューエルカット判別手段が構成される。
【0044】
また、CPUは、エンジン3の運転状態に応じて、燃料噴射量QINJや過給機8の過給圧を制御する。燃料噴射量QINJおよび過給圧は、基本的には、エンジン回転数NEや要求トルクなどに応じて制御される。なお、この要求トルクは、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて算出される。また、減速運転中、例えば、アクセル開度APが所定開度(例えば0゜)にほぼ等しく、かつエンジン回転数NEが所定回転数(例えば1000rpm)よりも高いときには、燃料噴射量QINJを値0に制御することによって、燃料の供給を停止する減速フューエルカット(以下「減速F/C」という)運転が実行される。この減速F/C運転中には、過給圧が値0に制御される。
【0045】
図2は、第1の異常判定処理を示すフローチャートである。本処理は、エンジン3のアイドル運転中に、PCV系21の異常判定を実行するものである。まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、第1判定終了フラグF_DONE1が「1」であるか否かを判別する。この答がYESのとき、すなわち本処理における異常判定がすでに終了しているときには、そのまま、本処理を終了する。なお、第1判定終了フラグF_DONE1は、エンジン3の始動時に「0」にリセットされ、それにより、本処理における異常判定は、エンジン3の始動から停止までの1運転サイクルごとに1回行われる。
【0046】
一方、上記ステップ1の答がNOのときには、所定の判定条件が成立しているか否かを判別する(ステップ2)。この判定は、エンジン3が特異でない通常の運転状態にあるか否かを判定するためのものであり、例えば、エンジン回転数NE、エンジン水温TWおよび吸気温TAがいずれも、それぞれの所定の範囲内にあるときに、判定条件が成立していると判定される。
【0047】
上記ステップ2の答がNOで、判定条件が成立してないときには、異常判定を行わないものとして、ダウンカウント式のディレイタイマのタイマ値TMDLYを所定の待機時間TMREF(例えば5sec)にセットし(ステップ3)、本処理を終了する。
【0048】
一方、上記ステップ2の答がYESのときには、エンジン3のアイドル運転中であるか否かを判別する(ステップ4)。この判別では、車速VPおよびアクセル開度APがいずれもほぼ値0であるときに、アイドル運転中であるとされる。
【0049】
ステップ4の答がNOで、アイドル運転中でないときには、吸入空気量QAが安定していないため、異常判定を行わないものとして、前記ステップ3を実行する。
【0050】
一方、上記ステップ4の答がYESで、アイドル運転中のときには、EGRデューティ比EGR_Dutyを値0に設定し(ステップ6)、EGR制御弁6bを全閉状態に制御する。次いで、前記ステップ3でセットしたディレイタイマのタイマ値TMDLYが0であるか否かを判別する(ステップ7)。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
【0051】
一方、ステップ7の答がYESのとき、すなわち、EGR制御弁6bの全閉制御の開始後、待機時間TMREFが経過したときには、PCV系21の異常を判定するために、以下のステップ8以降を実行する。このように待機時間TMREFが経過するのを待って異常を判定するのは、EGR制御弁6bおよびEGRガス量の応答遅れを考慮し、EGRガス量を確実に値0に制御した状態で、異常判定を行うためである。
【0052】
このステップ8では、吸気温TAに応じ、図3に示すTKテーブルを検索することによって、補正係数TKを算出する。このTKテーブルでは、補正係数TKは、吸気温TAが高いほど、より小さな値に設定されており、所定温度TA0(例えば25℃)のときに、1.0に設定されている。また、補正係数TKは、吸気温センサ15の位置とエアーフローセンサ13の位置で吸気温が異なるのを補正するためのものである。
【0053】
次いで、算出した補正係数TK、吸入空気量QA、吸気圧PBAおよび吸気温TAを用いて、次式(1)により、補正吸気量QAC(補正された空気量)を算出する(ステップ9)。
QAC=QA・(PN/PBA)・(TN/TA)・TK ……(1)
ここで、PNは、所定の基準圧力(例えば1000hPa)であり、TNは、所定の基準温度(例えば25℃)である。
る。
【0054】
補正吸気量QACは、吸入空気量QAを、基準圧力PNおよび基準温度TNであるときの吸入空気量に換算したものである。上記式(1)により、補正吸気量QACは、吸気圧PBAが大きいほど、より小さな値に、吸気温TAが高いほど、より小さな値になる。これは、吸入空気量QAは、吸気圧PBAが高いほど、空気が通りやすいため、より大きくなり、吸気温TAが高いほど、膨張するため、より大きくなるためである。
【0055】
次に、上記ステップ9で算出した補正吸気量QACが、所定の第1判定値QAJUD(判定値)以下であるか否かを判別する(ステップ10)。この答がNOのときには、補正吸気量QAC、すなわち吸気管4内の接続部30よりも上流側の空気量が比較的大きいため、ブローバイガス通路22の破損や外れが生じておらず、PCV系21が正常であると判定する。次いで、補正吸気量QACを正常時空気量QACLEとして設定し(ステップ11)、EEPROM2aに記憶する(ステップ12)。
【0056】
次に、PCV系21が正常であることを表すために、PCV異常フラグF_PCVNGを「0」にセットした(ステップ13)後、第1判定終了フラグF_DONE1を「1」にセットし(ステップ14)、本処理を終了する。以下、ステップ10で実行される補正吸気量QACと第1判定値QAJUDとの比較による異常判定を、「第1判定」という。
【0057】
一方、上記ステップ10の答がYESで、接続部30よりも上流側の空気量が小さいときには、PCV系21が異常であると仮判定する。次いで、上記ステップ12で記憶した正常時空気量QACLEと、前記ステップ9で算出した補正吸気量QACとの差を、吸気量偏差QADとして求める(ステップ15)。次に、算出した吸気量偏差QADが所定の第2判定値QADJUD以上であるか否か判別する(ステップ16)。
【0058】
この答がNOのとき、すなわち、正常時空気量QACLE(前回時に前記ステップ10で正常と判定したときの補正空気量QAC)と、今回時にステップ10で異常と判定したときの補正空気量QACとの差が小さいときには、前記ステップ10によるQAC≦QAJUDの成立が、PCV系21の異常によるものではなく、エアーフローセンサ13の出力特性や吸気管4の吸気特性の経年変化によるものであるとして、PCV系21が正常であると判定し、前記ステップ13以降を実行する。
【0059】
一方、上記ステップ16の答がYESで、QAD≧QADJUDのときには、今回の補正空気量QACが正常時空気量QACLEから大幅に減少していることから、PCV系21にブローバイガス通路22の外れなどの異常が発生していると判定する。そして、そのことを表すために、PCV異常フラグF_PCVNGを「1」にセットした(ステップ17)後、前記ステップ14を実行する。これに伴い、PCV系21の異常を示す警告ランプ35が点灯される。以下、前記ステップ16で実行される吸気量偏差QADと第2判定値QADJUDとの比較による異常判定を、「第2判定」という。
【0060】
図4は、上述した第1異常判定処理をアイドル運転中に実行したときの動作例を示している。同図に示すように、前記ステップ2、4および5の判定条件が成立すると(時点t1)、EGRデューティ比EGR_Dutyが値0に設定され(ステップ6)、EGR制御弁6bの全閉制御が開始される。これに伴い、EGRガス量が値0に制御され、減少するのに応じて、補正吸気量QACが増加する。PCV系21が正常な場合には、実線で示すように、補正吸気量QACは、第1判定値QAJUDを上回り、その後、ほぼ一定の状態で推移する。一方、ブローバイガス通路22の外れや破損などの異常が発生した場合には、破線で示すように、接続部30や破損部分から外気が吸気管4に流入することによって、補正吸気量QACの増加量が正常時よりも小さくなるため、補正吸気量QACは、第1判定値QAJUDを下回り、その後、ほぼ一定の状態で推移する。したがって、第1判定によって、PCV系21の異常を判定することができる。
【0061】
また、図5および図6は、エアーフローセンサ13の出力特性や吸気管4の吸気特性の経年変化による影響により、補正吸気量QACが徐々に減少している場合の動作例を示し、図5はPCV系21が正常な場合、図6は異常な場合の例である。図5に示すように、異常判定の開始後(t2以降)、補正吸気量QACは、吸気管4の吸気特性などの経年変化による影響により徐々に減少していることによって、第1判定値QAJUDを下回り、第1判定によって異常と仮判定される。
【0062】
しかし、この場合、前回時に正常であると判定したときに記憶された正常時空気量QACLEと今回の補正吸気量QACとの吸気量偏差QADは、非常に小さいため、第2判定値QADJUDを下回り、第2判定により正常であると判定される。一方、図6に示すように、PCV系21に異常が発生した場合には、補正吸気量QACが、吸気管4の吸気特性などの経年変化による場合と異なり、急激に減少するため、吸気量偏差QADは、非常に大きくなり、第2判定値QADJUDを上回り、それにより、第2判定によって異常と判定される。
【0063】
以上のように、補正吸気量QACと第1判定値QAJUDとの比較結果に基づく第1判定によって、PCV系21の異常を判定することができる。また、第1判定により正常と判定したときに記憶された正常時空気量QACLEと、その記憶後、第1判定により異常と判定したときの補正吸気量QACとの比較結果に基づいて、第2判定を行う。したがって、第1判定に加えて、第2判定を行うことによって、吸気管4の吸気特性やエアーフローセンサ13の出力特性の経年変化による影響を排除しながら、PCV系21の異常を精度良く判定することができる。
【0064】
さらに、異常判定中、EGR制御弁6bを全閉状態に制御するので、EGRガスによる吸入空気量QAの変動を排除しながら、異常判定を適切に行うことができる。また、吸入空気量QAを吸気圧PBAおよび吸気温TAに応じて補正した補正吸気量QACを異常判定に用いるので、吸気圧PBAや吸気温TAによる吸入空気量QAの変化を補償しながら、異常判定をさらに精度良く行うことができる。さらに、アイドル運転中または減速運転中に、すなわち、吸入空気量QAが安定しているときに異常判定を行うので、この判定をより適切に行うことができる。
【0065】
なお、上述した第1異常判定処理では、異常判定をアイドル運転中に行うが、減速運転中に行うようにしてもよい。この場合、減速運転中では、吸入空気量QAがアイドル運転中よりも大きいので、第1および第2の判定値QAJUD,QADJUDを、減速運転中に適した値に設定するのが好ましく、それにより、アイドル運転中の異常判定と同様、異常判定を適切に行うことができる。また、第1判定により異常であると判定されたときに、この判定の正否を、第2判定により判定したが、これに代えてまたはこれとともに、第1判定により正常であると判定されたときに、この判定の正否を第2判定により判定するようにしてもよい。それにより、PCV系21が正常であるとの誤判定を防止でき、異常判定をさらに精度良く行うことができる。
【0066】
さらに、吸入空気量QAを、吸気圧PBAおよび吸気温TAに応じて補正したが、これらの一方に応じて補正してもよく、また、これらに代えて、第1および第2の判定値QAJUD,QADJUDを、吸気圧PBAおよび/または吸気温TAに応じて補正してもよい。
【0067】
次に、図7を参照しながら、第2の異常判定処理について説明する。本処理は、エンジン3のアイドル運転中以外のときに異常判定を実行するものである。まず、ステップ21では、第2判定終了フラグF_DONE2が「1」であるか否かを判別する。この答がYESで、本処理における異常判定がすでに終了しているときには、そのまま、本処理を終了する。本処理における異常判定は、前述したアイドル運転時の異常判定と同様、エンジン3の始動から停止までの1運転サイクルごとに1回行われる。
【0068】
一方、上記ステップ21の答がNOのときには、回転変化量DNEを算出する(ステップ22)。この回転変化量DNEは、エンジン回転数NEの今回値と前回値との差の絶対値として算出される。次いで、算出した回転変化量DNEが所定のしきい値DNEREFよりも小さいか否かを判別する(ステップ23)。
【0069】
このステップ23の答がNOのときには、エンジン回転数NEが安定していないとして、異常判定を実行することなく、そのまま本処理を終了する。これは、本処理では、吸入空気量QAに基づいて異常を判定するのに対し、エンジン回転数NEが安定していないときには、吸入空気量QAが安定していないことによって、判定を誤るおそれがあるためである。
【0070】
一方、上記ステップ23の答がYESで、エンジン回転数NEが安定しているとみなされるときには、減速F/C運転中であるか否かを判別する(ステップ24)。この答がNOで、減速F/C運転中でなく、エンジン3の燃焼運転中のときには、噴射量しきい値THRQを、エンジン回転数NEに応じ、図8に示すTHRQテーブルを検索することによって算出する(ステップ25)。
【0071】
この噴射量しきい値THRQは、燃料噴射量QINJをパラメータとして、エンジン3に吸入される実際の吸入空気量が大きいか否かを判別するためのものであり、THRQテーブルでは、エンジン回転数NEが高いほど、より小さな値に設定されている。これは、エンジン3に吸入される実際の吸入空気量は、燃料噴射量QINJだけではなく、エンジン回転数NEによっても変化し、例えば、エンジン回転数NEが高いときには、単位時間当たりのエンジン3への空気の吸入回数が多くなるため、燃料噴射量QINJが小さく、エンジン3の負荷が小さくても、吸入空気量が大きくなるからである。
【0072】
次いで、燃料噴射量QINJが算出した噴射量しきい値THRQよりも大きいか否かを判別する(ステップ26)。この答がNOで、QINJ≦THRQのときには、実際の吸入空気量が大きくないとして、異常判定を実行することなく、そのまま本処理を終了する。
【0073】
一方、上記ステップ26の答がYESで、実際の吸入空気量が大きいとみなされるときには、EGRデューティ比EGR_Dutyを値0に設定する(ステップ27)ことによって、EGR制御弁6bを全閉状態に制御する。次いで、このEGR制御弁6bの全閉制御が所定時間、継続して実行されたか否かを判別する(ステップ28)。この答がNOのときには、本処理を終了する一方、YESのときには、以下のステップ29以降に進み、異常判定を実行する。このように、EGR制御弁6bの全閉制御が所定時間、継続するのを待って異常判定を実行するのは、前記ステップ7と同様、EGR制御弁6bおよびEGRガス量の応答遅れを考慮し、吸入空気量QAへのEGRガス量の影響を排除した状態で、異常判定を適切に行うためである。
【0074】
上記ステップ29では、エンジン3の燃焼運転時用の判定値THRAを、エンジン回転数NEおよび燃料噴射量QINJに応じ、図9に示すTHRAマップを検索することによって算出する。次いで、算出した燃焼運転時用の判定値THRAを判定値THRとして設定する(ステップ30)。
【0075】
上記のTHRAマップは、例えば、エンジン3の燃焼運転中でかつPCV系21が正常である場合の吸入空気量QAを、エンジン回転数NEおよび燃料噴射量QINJに応じて、実験により求めるとともに、求めた吸入空気量QAよりも若干小さな値を、判定値THRAとして記憶したものである。また、THRAマップでは、判定値THRAは、エンジン回転数NEが高いほど、また、燃料噴射量QINJが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン回転数NEが高いほど、単位時間当たりのエンジン3への空気の吸入回数が多く、それにより、吸入空気量QAがより大きくなるためであり、また、燃料噴射量QINJが大きいほど、エンジン3の負荷が大きいことによって、吸入空気量QAがより大きくなるためである。
【0076】
次いで、エアーフローセンサ13で検出された吸入空気量QAが判定値THRよりも小さいか否かを判別する(ステップ36)。この答がYESのときには、吸入空気量QA、すなわち吸気管4内の接続部30よりも上流側の空気量が小さすぎるため、ブローバイガス通路22の破損や外れが生じているとして、PCV系21が異常であると判定し、そのことを表すために、PCV異常フラグF_PCVNGを「1」にセットする(ステップ37)。これに伴い、PCV系21の異常を示す警告ランプ35が点灯される。次いで、第2判定終了フラグF_DONE2を「1」にセットし(ステップ38)、本処理を終了する。
【0077】
一方、上記ステップ36の答がNOのときには、ブローバイガス通路22の破損や外れが生じていないとして、PCV系21が正常であると判定し、PCV異常フラグF_PCVNGを「0」にセットする(ステップ39)。次いで、上記ステップ38を実行する。以上が、エンジン3の燃焼運転中における異常判定である。
【0078】
一方、前記ステップ24の答がYESで、減速F/C運転中のときには、次のステップ31以降において、エンジン3の減速F/C運転中における異常判定を実行する。まず、ステップ31では、エンジン回転数NEが所定のしきい値NEREF(例えば1500rpm)よりも高いか否かを判別する。この答がNOで、エンジン回転数NEが比較的低いときには、実際の吸入空気量が大きくないとして、異常判定を実行することなく、そのまま本処理を終了する。
【0079】
一方、上記ステップ31の答がYESで、実際の吸入空気量が大きいとみなされるときには、前記ステップ27および28と同様、EGRデューティ比EGR_Dutyを値0に設定し(ステップ32)、EGR制御弁6bを全閉状態に制御するとともに、このEGR制御弁6bの全閉制御が所定時間、継続したか否かを判別する(ステップ33)。
【0080】
このステップ33の答がNOのときには、本処理を終了する一方、YESのときには、減速F/C運転時用の判定値THRBを、エンジン回転数NEに応じ、図10に示すTHRBテーブルを検索することによって算出する(ステップ34)。次いで、算出した減速F/C運転時用の判定値THRBを判定値THRとして設定する(ステップ35)。
【0081】
上記のTHRBテーブルは、例えば、減速F/C運転中でかつPCV系21が正常である場合の吸入空気量QAを、エンジン回転数NEに応じて、実験により求めるとともに、求めた吸入空気量QAよりも若干小さな値を、判定値THRBとして記憶したものである。また、THRBテーブルでは、判定値THRBは、エンジン回転数NEが高いほど、単位時間当たりのエンジン3への空気の吸入回数が多く、吸入空気量QAがより大きいことから、前述した燃焼運転時用の判定値THRAと同様、より大きな値に設定されている。さらに、THRBテーブルでは、判定値THRBは、全体として、燃焼運転時用の判定値THRAよりも小さな値に設定されている。これは、前述したように、減速F/C運転中には、過給圧が値0に制御されるので、燃焼運転中よりも吸入空気量QAが小さくなるためである。
【0082】
次いで、燃焼運転時用の異常判定の場合と同様、前記ステップ36以降を実行し、吸入空気量QAが判定値THRよりも小さいとき(ステップ36:YES)には、PCV系21が異常であると判定し、PCV異常フラグF_PCVNGを「1」にセットする(ステップ37)。一方、吸入空気量QAが判定値THR以上のとき(ステップ36:NO)には、正常であると判定し、PCV異常フラグF_PCVNGを「0」にセットする(ステップ39)。
【0083】
以上のように、第2異常判定処理によれば、エンジン3に吸入される実際の吸入空気量が大きいか否かを判別する(ステップ26、ステップ31)とともに、実際の吸入空気量が大きいと判別されたときに検出された吸入空気量QAと判定値THRとの比較結果に基づいて、異常を判定するので(ステップ36、37、39)、この判定を精度良く行うことができる。また、同じ理由から、判定値THRを大まかに設定しても、異常判定の良好な判定精度を確保することができる。
【0084】
また、エンジン3の燃焼運転中、エンジン回転数NEに応じて噴射量しきい値THRQを算出する(ステップ25)とともに、燃料噴射量QINJが算出した噴射量しきい値THRQよりも大きいときに(ステップ26:YES)、実際の吸入空気量が大きいと判別する。したがって、実際の吸入空気量が大きいか否かの判別をより適切に行うことができ、それにより、異常判定を、実際の吸入空気量が大きい状態で適切に行うことができる。
【0085】
さらに、減速F/C運転中、エンジン回転数NEがしきい値NEREFよりも高いときに(ステップ31:YES)、実際の吸入空気量が大きいと判別する。したがって、減速F/C運転中においても、実際の吸入空気量が大きい状態で、異常判定を適切に行うことができる。
【0086】
また、実施形態では、第1および第2の異常判定処理を並行して実行するので、アイドル運転中に加えて、エンジン3の燃焼運転中または減速F/C運転中に、異常判定が実行される。このように、エンジン3の互いに異なる複数の運転状態において異常判定を実行することによって、判定の信頼性を高めることができる。
【0087】
なお、上述した第2異常判定処理では、エンジン3の燃焼運転中、実際の吸入空気量が大きいか否かの判別を、エンジン回転数NEおよび燃料噴射量QINJの双方に応じて行っているが、これらの一方に応じて行ってもよい。また、第2異常判定処理では、エンジン3の負荷として、燃料噴射量QINJを用いているが、これに代えて、またはこれとともに、アクセル開度APや過給機8の過給圧などを用いてもよい。さらに、第2異常判定処理では、異常判定を、減速F/C運転中に行っているが、エンジン回転数NEが高く、吸入空気量が大きいとみなせる状態であれば、他のフューエルカット運転中に行ってもよい。
【0088】
また、第1および第2の異常判定処理では、異常判定を、1運転サイクルごとに1回行うが、PCV系21が異常であると判定されるまで、繰り返し行うようにしてもよく、それにより、判定の実行頻度を高めることができる。
【0089】
さらに、吸気管4の接続部30よりも上流側の空気量を、エアーフローセンサ13で直接、検出しているが、推定してもよく、例えば、吸気圧PBAやエンジン回転数NEなどに応じて推定してもよい。また、本発明は、クランク軸が鉛直方向に配置された船外機などのような船舶推進機用エンジンを含む、様々な産業用の内燃機関に適用できることはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本実施形態による異常判定装置、これを適用したPCV系およびエンジンの概略構成を示す図である。
【図2】第1異常判定処理を示すフローチャートである。
【図3】図2の処理で用いられるTKテーブルの一例を示す図である。
【図4】第1異常判定処理の動作例を示すタイミングチャートである。
【図5】エアーフローセンサの出力特性などの経年変化による影響により、補正吸気量QACが徐々に減少している場合の動作例を、PCV系が正常である場合について示すタイミングチャートである。
【図6】エアーフローセンサの出力特性などの経年変化による影響により、補正吸気量QACが徐々に減少している場合の動作例を、PCV系が異常である場合について示すタイミングチャートである。
【図7】第2異常判定処理を示すフローチャートである。
【図8】図7の処理で用いられるTHRQテーブルの一例である。
【図9】図7の処理で用いられるTHRAマップの一例である。
【図10】図7の処理で用いられるTHRBテーブルの一例である。
【符号の説明】
【0091】
1 異常判定装置
2 ECU(第1異常判定手段、第2異常判定手段、EGR通路閉鎖手段、補正手段、
運転状態判定手段、運転状態判別手段、異常判定手段、回転数検出手段、
負荷検出手段、フューエルカット判別手段)
2a EEPROM(記憶手段)
3 エンジン
4 吸気管(吸気系)
6a EGR管(EGR通路)
6b EGR制御弁(EGR通路閉鎖手段)
11 クランク角センサ(回転数検出手段)
13 エアフローセンサ(空気量センサ、空気量検出手段)
14 吸気圧センサ(検出手段)
15 吸気温センサ(検出手段)
16 アクセル開度センサ(運転状態判定手段)
17 車速センサ(運転状態判定手段)
21 PCV系
22 ブローバイガス通路
30 接続部
QA 吸入空気量(空気量)
QAJUD 第1判定値(判定値)
QACLE 正常時空気量
PBA 吸気圧(吸気系内の圧力)
TA 吸気温(吸気系内の温度)
QAC 補正吸気量(補正された空気量)
THR 判定値
NE エンジン回転数(検出された内燃機関の回転数)
QINJ 燃料噴射量(検出された内燃機関の負荷)
NEREF しきい値(所定の回転数)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気系に接続部を介して接続されたブローバイガス通路を有し、当該ブローバイガス通路を介してブローバイガスを前記吸気系に還流させるPCV系の異常を判定するPCV系の異常判定装置であって、
前記吸気系の前記接続部よりも上流側に設けられ、前記吸気系を流れる空気量を検出する空気量センサと、
当該検出された空気量と所定の判定値との比較結果に基づいて、前記PCV系の異常を判定する第1異常判定手段と、
当該第1異常判定手段により前記PCV系が正常であると判定されたときに検出された前記空気量を正常時空気量として記憶する記憶手段と、
当該記憶手段により前記正常時空気量が記憶された後、前記第1異常判定手段により前記PCV系が異常であると判定されたときに検出された前記空気量と前記正常時空気量との比較結果に基づいて、前記PCV系の異常を判定する第2異常判定手段と、
を備えることを特徴とするPCV系の異常判定装置。
【請求項2】
前記吸気系には、排ガスの一部を当該吸気系に還流させるためのEGR通路が接続されており、
前記第1および第2異常判定手段による判定中に、前記EGR通路を閉鎖するEGR通路閉鎖手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のPCV系の異常判定装置。
【請求項3】
前記吸気系内の圧力および温度の少なくとも一方を検出する検出手段と、
当該検出された吸気系内の圧力および温度の前記少なくとも一方に応じて、前記検出された空気量を補正する補正手段と、をさらに備え、
前記第1および第2異常判定手段は、前記補正された空気量を用いて異常の判定を実行することを特徴とする、請求項1または2に記載のPCV系の異常判定装置。
【請求項4】
前記内燃機関がアイドル運転状態または減速運転状態にあるか否かを判定する運転状態判定手段をさらに備え、
前記第1および第2異常判定手段は、前記内燃機関がアイドル運転状態または減速運転状態にあると判定されたときに、異常の判定を実行することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のPCV系の異常判定装置。
【請求項5】
内燃機関の吸気系に接続部を介して接続されたブローバイガス通路を有し、当該ブローバイガス通路を介してブローバイガスを前記吸気系に還流させるPCV系の異常を判定するPCV系の異常判定装置であって、
前記吸気系の前記接続部よりも上流側を流れる空気量を検出する空気量検出手段と、
前記内燃機関が当該内燃機関に吸入される吸入空気量が大きい所定の運転状態にあるか否かを判別する運転状態判別手段と、
前記内燃機関が前記所定の運転状態にあると判別されたときに検出された前記空気量と所定の判定値との比較結果に基づいて、前記PCV系の異常を判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とするPCV系の異常判定装置。
【請求項6】
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段および前記内燃機関の負荷を検出する負荷検出手段の少なくとも一方をさらに備え、
前記運転状態判別手段は、前記内燃機関の燃焼運転中、前記検出された内燃機関の回転数および負荷の少なくとも一方に応じて、前記内燃機関が前記所定の運転状態にあるか否かを判別することを特徴とする、請求項5に記載のPCV系の異常判定装置。
【請求項7】
前記内燃機関は、所定の条件が成立したときに当該内燃機関への燃料の供給を停止するフューエルカット運転を実行するように構成され、
当該フューエルカット運転中であるか否かを判別するフューエルカット判別手段と、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、をさらに備え、
前記運転状態判別手段は、前記内燃機関の前記フューエルカット運転中、前記検出された内燃機関の回転数が所定の回転数よりも高いときに、前記内燃機関が前記所定の運転状態にあると判別することを特徴とする、請求項5に記載のPCV系の異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−2838(P2007−2838A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26917(P2006−26917)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】