説明

アキシャル磁気浮上回転モータ及びアキシャル磁気浮上回転モータを用いたターボ形ポンプ

【課題】薄型化及び小型化を図ったアキシャル磁気浮上回転モータを提供する。
【解決手段】本発明に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1は、中央部にロータ位置調整用永久磁石16を備えると共に、径方向の外周側にロータ回転用永久磁石12を備えたロータ3と、中央部にロータ位置調整用電磁石11を備えると共に、径方向の外周側に駆動用電磁石9を備えたステータ5と、を有し、ロータ位置調整用電磁石11の出力を調整することによって、ロータ位置調整用永久磁石16との軸方向の距離を制御し、ロータ3を所定の浮遊位置に維持することができる。このとき、駆動用電磁石9に供給される誘起電圧と駆動電流及びロータ3の回転数から算出したロータ3の軸方向に加わる応力に応じて、ロータ位置調整用電磁石11の出力を調整してロータ3を所定の浮遊位置に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャル磁気浮上回転モータ及びターボ形ポンプに係り、特に、コンパクトなアキシャル磁気浮上回転モータ及びこのアキシャル磁気浮上回転モータを用いたターボ形ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
軸受けによるシャフトの支持などの機械的接触部分を、電磁力を利用した軸受けを用いることで非接触な構造とした磁気浮上回転モータは、機械的摩擦や摩耗の影響が極めて小さいため高い耐久性を有している。この磁気浮上回転モータの1つとして、ロータの軸方向に電磁力を作用させることによってロータを浮上させるアキシャル磁気浮上回転モータが知られている。
【0003】
アキシャル磁気浮上回転モータは、ロータがステータに対して機械的に非接触な構造であることから長期間の連続使用に適している。また、ロータ側にインペラを設けてターボ形ポンプとして構成した場合、流量の確保と小型化が比較的容易であることから、近年、このアキシャル磁気浮上回転モータを用いて構成されたターボ形ポンプを、人工心臓の血液ポンプとして適用する提案例が紹介されている(特許文献1,2及び非特許文献1参照)。
特許文献1,2及び非特許文献1に開示された技術によれば、アキシャル磁気浮上回転モータを用い、埋め込み型の人工心臓として体内に埋め込むことが可能なサイズの血液ポンプとして構成された例が開示されており、その優れた特性が注目されている。
【0004】
【特許文献1】特開平08−284870号公報
【特許文献2】特許第3808811号公報
【非特許文献1】NTNテクニカルレビュー No.68(2000) p76−80
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1,2及び非特許文献1のいずれの技術においても、複数のギャップセンサを用いてロータの浮上状態を検出する構成であるため部品点数が多く複雑な構造を有している。また、ロータを浮上制御するための電磁石が、ロータを回転制御するための電磁石の外径側に配置される構造であるため、ロータを浮上制御するための電磁石は大きなサイズとなる一方、ステータの中央部分には磁石が配置されず中空構造となっている。そのため、このようなアキシャル磁気浮上回転モータを使用して構成された血液ポンプはサイズが大きくなるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、一層の小型化且つ効率化を図ったアキシャル磁気浮上回転モータ及びターボ形ポンプを提供することである。
また、本発明の他の目的は、血液ポンプとしての使用に適したターボ形ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
磁気浮上したロータを回転駆動する駆動用電磁石を備えるステータと、浮遊状態で維持可能なロータと、を備えたアキシャル磁気浮上回転モータにおいて、前記ロータは、回転中心部に前記ステータに対向して配設されたロータ位置調整用永久磁石と、径方向の外周側に前記ステータに対向して配設されたロータ回転用永久磁石と、を備え、前記ステータは、前記ロータ側の中央部にロータ位置調整用永久磁石と対向して配設されたロータ位置調整用電磁石と、前記ロータ側の径方向の外周側にロータ回転用永久磁石と対向して配設された駆動用電磁石と、を備え、前記ロータ位置調整用電磁石の出力を調整することによって前記ロータを所定位置に維持するように構成されることにより解決される。
【0008】
上記構成によって、駆動用電磁石とロータ位置調整用電磁石を、径方向に沿って、ほぼ同一面上に形成することができるため薄型化を図ることができると共に、従来中空部であった領域にロータ位置調整用電磁石を配設する構造であるため小型化を図ったアキシャル磁気浮上回転モータが得られる。また、ロータ位置調整用永久磁石とロータ位置調整用電磁石をロータの回転軸線上に配置することにより、ロータの浮遊位置を調整する際に、ロータの回転に与える影響が少ない高効率なアキシャル磁気浮上回転モータが得られる。
【0009】
また、請求項2のように、アキシャル磁気浮上回転モータは、前記駆動用電磁石を制御することで前記ロータの回転を制御する回転制御装置と、前記ロータ位置調整用電磁石に供給する電力を制御することで前記ロータの位置を制御するロータ位置制御装置と、前記駆動用電磁石に供給される誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出装置と、前記駆動用電磁石に供給される駆動電流を検出可能な駆動電流検出装置と、前記ロータの回転数を検出可能な回転数検出装置と、を備え、前記誘起電圧検出装置と前記駆動電流検出装置と前記回転数検出装置は、いずれも前記ロータ位置制御装置に接続され、前記ロータ位置制御装置は、前記誘起電圧検出装置によって検出された誘起電圧と、前記駆動電流検出装置によって検出された駆動電流と、前記回転数検出装置によって検出された回転数とから、前記ロータに加わる軸方向の応力を算出すると共に、算出した前記応力の値に基づいて、前記ロータ位置調整用電磁石に供給される電力を制御して、前記ロータを所定位置に維持するように構成されると好適である。
【0010】
上記構成によって、誘起電圧、駆動電流、回転数からロータの軸方向に加わる応力を算出する機構であることからギャップセンサを用いる必要がなく、一層の小型化を図ったアキシャル磁気浮上回転モータを得ることができる。
【0011】
前記課題は、請求項3に係るターボ形ポンプは、吸入口と排出口と両者を連通する流体通路とが形成された筒状のポンプケーシングと、前記ポンプケーシング内に浮遊状態で維持可能なロータと、前記ロータ側に固定されフィンを有するインペラと、前記ロータの軸方向の排出口側に配設され前記ロータを回転駆動する駆動用電磁石を有するステータと、を備え、前記ロータの回転により前記インペラが回転することで、前記吸入口から吸い込まれた流体が前記排出口へ移送されるターボ形ポンプであって、前記ロータは、回転中心部に前記ステータに対向して配設されたロータ位置調整用永久磁石と、径方向の外周側に前記ステータに対向して配設されたロータ回転用永久磁石と、を備え、前記ステータは、前記ロータ側の中央部にロータ位置調整用永久磁石と対向して配設されたロータ位置調整用電磁石と、前記ロータ側の径方向の外周側にロータ回転用永久磁石と対向して配設された駆動用電磁石と、を備え、前記ロータ位置調整用電磁石の出力を調整することによって前記ロータを所定位置に維持するように構成されることにより解決される。
【0012】
上記構成によって、駆動用電磁石とロータ位置調整用電磁石を、径方向に沿って、ほぼ同一面上に形成することができるため薄型化を図ることができると共に、従来中空部であった領域にロータ位置調整用電磁石を配設する構造であるため小型化を図ったターボ形ポンプが得られる。また、ロータ位置調整用永久磁石とロータ位置調整用電磁石をロータの回転軸線上に配置することにより、ロータの浮遊位置を調整する際にロータの回転に与える影響が少ない高効率なターボ形ポンプが得られる。
【0013】
さらに、請求項4のように、ターボ形ポンプは、前記駆動用電磁石を制御することで前記ロータの回転を制御する回転制御装置と、前記ロータ位置調整用電磁石に供給する電力を制御することで前記ロータの位置を制御するロータ位置制御装置と、前記駆動用電磁石に供給される誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出装置と、前記駆動用電磁石に供給される駆動電流を検出可能な駆動電流検出装置と、前記ロータの回転数を検出可能な回転数検出装置と、を備え、前記誘起電圧検出装置と前記駆動電流検出装置と前記回転数検出装置は、いずれも前記ロータ位置制御装置に接続され、前記ロータ位置制御装置は、前記誘起電圧検出装置によって検出された誘起電圧と、前記駆動電流検出装置によって検出された駆動電流と、前記回転数検出装置によって検出された回転数とから、前記ロータに加わる軸方向の応力を算出すると共に、算出された前記応力の値に基づいて、前記ロータ位置調整用電磁石に供給される電力を制御して、前記ロータを所定位置に維持するように構成されると好適である。
【0014】
上記構成によって、誘起電圧、駆動電流、回転数からロータの軸方向に加わる応力を算出する機構であることからギャップセンサを用いる必要がないため、一層の小型化を図ったターボ形ポンプが得られる。また、ロータが機械的に非接触な構造であることから摩耗による汚れを発生せず、摩耗により流体を汚染する心配がないため安全性を確保することができると共に、メンテナンスフリーを実現することができるため長期間の連続使用が可能でることから、血液ポンプとしての使用に適したターボ形ポンプが得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ロータの浮遊位置を調整する際にロータの回転に与える影響が少なく高効率な回転特性が得られると共に、従来中空部であった領域にロータ位置調整用電磁石を配設し、駆動用電磁石とロータ位置調整用電磁石を、ロータの径方向に沿って、ほぼ同一面上に形成する構造とすることにより一層の小型化を図ったアキシャル磁気浮上回転モータ及びターボ形ポンプが得られる。さらに、ギャップセンサを用いる必要がなく、一層の小型化が可能なアキシャル磁気浮上回転モータ及びターボ形ポンプが得られる。
また、ロータを軸支するベアリングがないことにより長寿命化とベアリング摺動ロスがないことによる低イナーシャ化を図ることができ、ロータが機械的に非接触な構造であることから摩耗による汚れを発生せず、摩耗により流体を汚染する心配がないため安全性を確保することができると共に、メンテナンスフリーを実現することができるため長期間の連続使用が可能な血液ポンプとしての使用に適したターボ形ポンプが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材,配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができることは勿論である。
【0017】
図1乃至3は本発明に係る一実施形態を示し、図1はアキシャル磁気浮上回転モータの断面説明図、図2はアキシャル磁気浮上回転モータのシステム構成図、図3はアキシャル磁気浮上回転モータのターボ形ポンプ(斜流ポンプ)への応用例である。
【0018】
先ず、図1に基づき、本発明の実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1の構成を説明する。
本実施形態におけるアキシャル磁気浮上回転モータ1は、ロータ3とステータ5とこれらを収納するハウジング4とを備え、電磁力によってロータ3を浮上させた状態で回転させることができるディスクロータ型ブラシレスモータとして構成されている。
【0019】
ロータ3は、出力軸としてのシャフト8と、シャフト8の一端部側に固定されたロータバックヨーク10と、ロータバックヨーク10に取り付けられたロータ回転用永久磁石12と、ロータバックヨーク10の中央部に非磁性体14を介して取り付けられたロータ位置調整用永久磁石16と、からなる。
【0020】
ロータバックヨーク10は、略円板状の部材であり、上述のように中心部にシャフト8の一端部側が固定されている。
ロータ回転用永久磁石12は、ロータバックヨーク10のシャフト8が固定された面とは逆側の面に固着されており、極性の異なる複数個の永久磁石が径方向の外周側にリング状に等間隔に並んで固定されている。ロータ回転用永久磁石12を構成する永久磁石の数は任意であるが、ロータ3の径方向のブレをなくすために4極以上の永久磁石から構成されることが望ましい。
【0021】
ロータ位置調整用永久磁石16は、円板状の永久磁石であり、ロータバックヨーク10の、シャフト8が固定された面とは逆側の中心部に非磁性体14を介して固定されている。本実施形態においては、一方向にのみ着磁された1つの永久磁石から構成されている。なお、オーステナイト系ステンレス鋼などからなる非磁性体14を介してロータバックヨーク10に取り付けられることによって、ロータバックヨーク10内に形成される磁路に悪影響を与えないように構成されている。
【0022】
ステータ5は、ステータコア7と、ステータコア7に巻回された駆動用電磁石9と、ステータ中央部に巻回されたロータ位置調整用電磁石11とから構成されている。なお、本実施形態において、ステータ5はハウジング4と一体に形成されている。
駆動用電磁石9は、複数のステータコア7のそれぞれに導線が巻回されて形成され、ロータ側のロータ回転用永久磁石12と対向して配設されている。本実施形態においては、駆動用電磁石9は2相8極として構成されているが、駆動用電磁石9を構成するステータコア7の数は任意である。
ロータ位置調整用電磁石11は、ステータ5の中心部に形成されたロータ位置調整用電磁石コア13に導線が巻回されて形成されており、ロータバックヨーク10の中心部に固定されたロータ位置調整用永久磁石16と対向して配設されている。
【0023】
駆動用電磁石9とロータ位置調整用電磁石11は、磁束の発生する方向が同じであるため、径方向に沿って、ほぼ同一面上に形成することができる。このため、駆動用電磁石9とロータ位置調整用電磁石11を隙間なく配設することが可能であり、アキシャル磁気浮上回転モータ1を薄型化しコンパクトな構造にすることが可能になる。
【0024】
なお、アキシャル磁気浮上回転モータ1は、駆動用電磁石9に連続的な回転磁界を発生させる回転制御装置21と、ロータ位置調整用電磁石11に供給する電力値を制御するロータ位置制御装置23と、に接続されている。また、回転制御装置21には、アキシャル磁気浮上回転モータ1に供給される誘起電圧と駆動電流及びロータ3の回転数を検出する検出装置に接続されている。さらに、ロータ3の磁極位置を検出するためのホール素子25がステータ5側の任意の位置に取り付けられている。
【0025】
次に、図2に基づき、本発明の実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1の制御内容について説明する。
アキシャル磁気浮上回転モータ1の制御システムは、ロータ3の磁極位置を検知するためのホール素子25と、駆動用電磁石9に連続的な回転磁界を発生させる回転制御装置21と、ロータ3の浮上させる磁界を発生させるロータ位置制御装置23とを有して構成されている。
また、ロータ位置制御装置23は、駆動用電磁石9に供給される誘起電圧と駆動電流をそれぞれ検出する誘起電圧検知装置27aと駆動電流検知装置27b、及び、ホール素子25に接続された回転数検出装置27cとに接続されている。
【0026】
回転制御装置21は、駆動用電磁石9に供給する電力(誘起電圧と駆動電流)を制御して、ロータ3を回転させる連続的な回転磁界を発生させる制御装置であり、ホール素子25によって検知されたロータ3の磁極位置に対応した位置の電磁石を適宜励磁しながら必要な回転力を与える。
また、誘起電圧検知装置27a及び駆動電流検知装置27bは、ロータ位置制御装置23に誘起電圧及び駆動電流を出力するセンサーであり、本実施形態においては回転制御装置21に接続されて、駆動用電磁石9に供給される誘起電圧と駆動電流を読み取っている。同様に、回転数検出装置27cはホール素子25に接続されており、ホール素子によって検出されたロータ3の磁極位置をロータ位置制御装置23に出力している。ロータ3の磁極位置の検出結果に基づいて、ロータ位置制御装置23内で回転数が算出される。
【0027】
ロータ位置制御装置23は、誘起電圧検知装置27aと駆動電流検知装置27b及び回転数検出装置27cによって検知された誘起電圧、駆動電流、回転数に基づいてロータ3の軸方向に加わる応力(浮力)の推定値を算出し、ロータ位置調整用電磁石11に供給する電力値を制御してロータ3が適切な浮遊位置で回転するように調整している。
ここで、ロータ3の浮力は、アキシャル磁気浮上回転モータ1の構成と取付け状態が定まれば、誘起電圧、駆動電流、回転数によって決定される値である。このため、予めこれらの値からロータ3の浮力を算出するプログラムを作製し、ロータ位置制御装置23に格納することでロータ位置調整用電磁石11に供給する電力値のリアルタイムの制御を可能としている。
【0028】
なお、回転数検出装置27cは、回転制御装置21に入力されたホール素子25の検出値を読み取る構成としてもよく、また、回転制御装置21がロータ3を回転制御する際に駆動用電磁石9に出力する制御信号から回転数を読み取る構成としてもよい。さらに、回転制御装置21とロータ位置制御装置23を一体化して、その内部に、誘起電圧検知装置27a、駆動電流検知装置27b、回転数検出装置27cに相当するセンサーや回路を組み込んでもよい。いずれの場合も同様の効果を発揮することができる。
【0029】
このような構成のアキシャル磁気浮上回転モータ1の動作を説明する。
まず、動作していないときは、ロータ回転用永久磁石12及び、ロータ位置調整用永久磁石16の磁力によって、ロータ3はステータ5側に吸引されている。
動作時は、ロータ位置調整用電磁石11に電力を供給してロータ3を所定量浮上させた後、回転駆動装置21によって駆動用電磁石9に電力を供給してロータ3を回転させる。このとき、検知された誘起電圧、駆動電流、回転数からロータ3の浮力を算出して、ロータ位置調整用電磁石11に供給する電力値を制御してロータ3が適切な浮遊位置になるように適宜調整している。
【0030】
なお、ロータ3を回転させるために駆動用電磁石9から発生させる磁界は、ロータ3に回転力を与えると共にロータ位置調整用永久磁石16を駆動用電磁石9に吸引するため、ロータ3が径方向に移動することはない。
もちろん、ロータ3の径方向の浮遊位置を、より精密に制御するための制御機構を別途取付けてもよい。例えば、ロータ3の所定位置をステータ側の所定位置に吸引し続けるための磁石(位置決め用磁石)を配置する構成とすることが考えられる。
【0031】
本実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1によれば、ロータ位置調整用永久磁石16とロータ位置調整用電磁石11を中心部(回転中心部)に配置することにより、これらがステータ径方向の外周側に配置された場合と比べて、ロータ3を浮上させるための磁界が回転させるための磁界に悪影響を及ぼすことがなく、ロータ3の回転への影響を軽減でき、高効率且つ安定した回転特性が得られる。また、駆動用電磁石9とロータ位置調整用電磁石11を、径方向に沿って、ほぼ同一面上に形成することができるため薄型化を図ることができると共に、従来は部品を配置しない領域であるステータ5の中央部に電磁石から構成されたロータ位置調整用電磁石11を配設する機構であるため従来よりも高い密度で巻線などの部品を配設することができることから一層の小型化が可能である。
さらに、誘起電圧、駆動電流、回転数からロータ3の軸方向に加わる応力(浮力)を算出する機構であることにより、ギャップセンサを用いる必要がなく構造を比較的簡単にすることができる。
【0032】
本実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1によれば、ロータ3を軸支するベアリングがないことにより長寿命化と、ベアリング摺動ロスがないことによる低イナーシャ化と、を図ることができる。また、ロータ3が機械的に非接触な構造であることから機械的な摩耗及び摩耗による汚れを発生せず、長期間に及ぶメンテナンスフリーを実現することができる。
【0033】
次に、本実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1の応用例を示す。なお、以下の例において、上述した実施の形態と同様部材、配置等には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
図3は、本実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1を斜流ポンプ2に応用した例である。斜流ポンプ2は、吸込口と排出口が同一線上に配置され、筒状のポンプケーシングの外周面に流体の連通路が形成された全周流インライン型のポンプとして構成されている。
【0034】
斜流ポンプ2は、インペラ32を構成する複数のフィンが取り付けられたロータ33と、ステータ35と、ロータ3及びステータ35を収納するケース34と、からなっている。
ロータ33は、円板状のロータバックヨーク10の一方の面にインペラ32が取り付けられており、他方の面(ステータ5側の面)には、ロータバックヨーク10の周方向の外周側にロータ回転用永久磁石12が取り付けられると共に、中央部には非磁性体14を介してロータ位置調整用永久磁石16が取り付けられている。
【0035】
インペラ32は、ロータバックヨーク10側に放射状に起立して固着された複数のフィンからなり、ロータ33の回転に伴ってインペラ33の中心部の流体を遠心方向に加圧する。なお、本実施形態においては、インペラ32を構成する各フィンは直線状に形成されているが、回転方向に対して傾斜角度及び湾曲形状を有した構成であってもよい。
【0036】
ステータ35は、上述したアキシャル磁気浮上回転モータ1と同様に、ステータコア7と、ステータコア7に巻回された駆動用電磁石9と、ステータ中央部に巻回されたロータ位置調整用電磁石11とから構成されている。
ステータ35の外周部分には流体通路39aが形成されており、後述するケース34に形成された流体通路39b,39bと連結される。このステータ35の外周部分とケース34とを組み合わせることで、斜流ポンプ2の外殻を構成する略筒状のポンプケーシングが形成される。
【0037】
また、回転制御装置21及びロータ位置制御装置23などの制御装置が、ステータ35のロータ33とは逆側に形成された回路配置スペース43内に配設されて、ケース34内に制御装置が格納可能な構成とされている。回路配置スペース43は、カバー41とステータ35で囲まれて流体が内部に侵入しないように構成されると共に、電源を供給するケーブル44が斜流ポンプ2の外部まで取り回されている。また、駆動用電磁石9と位置調整用電磁石11も樹脂などからなる不図示の充填剤により直接流体に接触しないように構成されている。
【0038】
ケース34,34は、ステータ35の両側に取り付けられることで流体の通路が形成されると共に、ステータ35との間でインペラ32を収納するポンプケーシングの一部をなす部材であり、ポンプ内に水や血液などの流体を流入させる吸入口36と、流体を排出する排出口37と、吸入口36に連結された遠心加圧室38と、遠心加圧室38と排出口37との間で流体を移動可能な流体通路39b,39bと、を備えている。
【0039】
吸入口36は、斜流ポンプ2により移送される流体をインペラ32の中心部に流入させるための開口部であり、流体を導く管体を連結するためケース34から外側に突出した管状に形成されている。なお、本実施形態においては、吸入口36の内側に、流体の流れる方向を揃えるための整流板36aを備える構成とされているが、整流板36aがない構成としてもよい。また、排出口37は、吸入口36とは逆側に形成されており、吸入口36と同様に、流体を導く管体を連結するためケース34から外側に突出した管状に形成されている。排出口37と吸入口36とをステータ35を挟んでケース34の両側に配置した構成としたことにより流体の通路の一部に斜流ポンプ2を配設することができ、使い勝手が向上する。もちろん、排出口37をケース34の側面部分に形成するなど用途に応じて変更することができる。
【0040】
遠心加圧室38は、吸入口36に連結されており、ロータ33と一体に形成されたインペラ32が格納される部分であり、流体ポンプ2の駆動時にはロータ33は遠心加圧室の内壁面と所定のクリアランスを有する位置(所定位置)に浮遊状態で維持される。吸入口36から流入した流体は、インペラ32の吸入口36側の中央部に導かれ、インペラ32の回転に伴い遠心力が加わることによりインペラ32の外周方向に加圧される。
流体通路39bは、遠心加圧室38の側面側と排出口37との間を、ステータ35に形成された流体通路39aを介して流体を移送可能に形成された通路であり、インペラ32の外周方向に加圧された流体は、この流体通路39b,39a,39bを通り排出口37に向けて移送される。
【0041】
なお、遠心加圧室38の内壁面の一部には、インペラ32を構成するフィンの端面との摩擦抵抗が低くなるように形成された低摩擦部材(不図示)が配設されると好適である。低摩擦部材が配設されることで、フィンの端面が低摩擦部材と接触した状態であってもスムーズに回転できるため、斜流ポンプ2に振動や衝撃が加わったとしてもロータ33の回転に影響しにくくなる。また、インペラ32から流体に与えられる圧力エネルギーのロスを低減してポンプ効率を向上できる。
低摩擦部材としては、フッ素系樹脂,ダイヤモンドライクカーボン(DLC),および親水性ポリマーからなる群から選択される1または2種類以上の材料が用いられると好適である。また、低摩擦部材としては、このような低摩擦材料を使用するものに限定されず、例えば、内壁面と同一の材料であっても、研磨処理などによって表面の摩擦抵抗を低下させたものであってもよい。
【0042】
このような構成の斜流ポンプ2の動作を説明する。
吸入口36からインペラ32の中心部に導かれた流体は、インペラ32の回転に伴い遠心方向に移動する。同時に、インペラ32の中心部が減圧になるため新たな流体が吸入口36から導入される。遠心力により遠心加圧室38の外周方向に移動した流体は、流体通路39を通って排出口37から排出される。
【0043】
斜流ポンプ2において、ロータ33とインペラ34を一体として構成することにより、ポンプ作動時にインペラ34が浮上する力(吸入口36側に引かれる応力)と、ロータ33が磁力によりステータ35側に引かれる力とが、インペラ32とロータ33とに対してそれぞれ働く際にも、ロータ33に対して径方向や傾き方向の力が加わることがない。そのため、ロータ33の動きが安定しやすく、ロータ位置調整用電磁石11の電磁力での制御によりロータ33の浮遊位置を制御することが容易となる。
【0044】
ここで、斜流ポンプ2は、インペラ34の回転に伴う流体の移送量に応じて吸入口36側が減圧となるため、インペラ34と一体に形成されたロータ33は、吸入口36側(ステータ5と離間する方向)に移動することになる。すなわち、ロータ位置調整用電磁石11に電力を供給していない状態での、ロータ33の軸方向に加わる応力(浮力)は、ロータ33の回転数と回転トルクから算出することができる。
【0045】
ロータ33の回転数は回転数検出装置27cから、回転トルクは誘起電圧検知装置27aと駆動電流検知装置27bにより検出される誘起電圧と駆動電流から算出することができる。そのため、ロータ位置制御装置23は、誘起電圧と駆動電流及び回転数から、ロータ33の軸方向に加わる応力(浮力)を算出して、ロータ33が所定位置に留まるようにロータ位置調整用電磁石11に適切な電力を供給している。
【0046】
斜流ポンプ2は、本実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1と同様の構成を有するモータを適用することにより、以下に挙げる点においてアキシャル磁気浮上回転モータ1の特徴を備えたものとすることができる。
すなわち、ロータ位置調整用永久磁石16とロータ位置調整用電磁石11を回転中心部(中央部)に配置することにより、ステータ径方向の外周側に形成された場合と比べて、ロータ33の回転への影響を軽減できる。
【0047】
駆動用電磁石9とロータ位置調整用電磁石11を、径方向に沿って、ほぼ同一面上に形成することができるため薄型化を図ることができると共に、従来中空部であった領域に電磁石から構成されたロータ位置調整用電磁石11を配設する機構であるため斜流ポンプ2の小型化を図ることができる。また、回転制御装置21及びロータ位置制御装置23などの制御装置を、ステータ35のロータ33とは逆側の回路配置スペース43に配置することで、斜流ポンプ2の一層の小型化を図ることができる。
【0048】
さらに、誘起電圧、駆動電流、回転数からロータ33の軸方向に加わる応力を算出する機構であることから、ギャップセンサを用いる必要がなく構造を比較的簡単にすることができる。
また、ロータ33を軸支するベアリングがないことにより長寿命化とベアリング摺動ロスがないことによる低イナーシャ化を図ることができる。
もちろん、本実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータ1と同様の構成を遠心ポンプなどの他のターボ形ポンプに適用した場合にも、上述したアキシャル磁気浮上回転モータ1の特徴を備えたものとすることができる。
【0049】
特に、本発明に係る斜流ポンプ2を人工心臓に適用した場合には、ロータ33が機械的に非接触な構造であることから摩耗による汚れを発生せず、摩耗により血液を汚染する心配がないため安全性を確保することができると共に、メンテナンスフリーを実現することができるため、長期間の連続使用に適している。
もちろん、血液ポンプ以外にも、ラジエータの冷却液を循環させるためのウォータポンプなどとしても好適に用いることができる。
なお、遠心加圧室38の内壁面の一部に低摩擦部材を配設することで、斜流ポンプ2に振動や衝撃が加わったとしてもロータ33の回転に影響しにくくなり、また、インペラ32から流体に与えられる圧力エネルギーのロスを低減してポンプ効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータの断面説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータのシステム構成である。
【図3】本発明の一実施形態に係るアキシャル磁気浮上回転モータのターボ形ポンプへの応用例である。
【符号の説明】
【0051】
1 アキシャル磁気浮上回転モータ、2 斜流ポンプ、3,33 ロータ、4 ハウジング、5,35 ステータ、7 ステータコア、8 シャフト、9 駆動用電磁石、10 ロータバックヨーク、11 ロータ位置調整用電磁石、12 ロータ回転用永久磁石、13 ロータ位置調整用電磁石コア、14 非磁性体、16 ロータ位置調整用永久磁石、21 回転制御装置、23 ロータ位置制御装置、25 ホール素子、27a 誘起電圧検知装置、27b 駆動電流検知装置、27c 回転数検出装置、32 インペラ、36 吸入口、36a 整流板、37 排出口、38 遠心加圧室、39,39a,39b 流体通路、41 カバー、43 回路配置スペース、44 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気浮上したロータを回転駆動する駆動用電磁石を備えるステータと、浮遊状態で維持可能なロータと、を備えたアキシャル磁気浮上回転モータにおいて、
前記ロータは、回転中心部に前記ステータに対向して配設されたロータ位置調整用永久磁石と、径方向の外周側に前記ステータに対向して配設されたロータ回転用永久磁石と、を備え、
前記ステータは、前記ロータ側の中央部にロータ位置調整用永久磁石と対向して配設されたロータ位置調整用電磁石と、前記ロータ側の径方向の外周側にロータ回転用永久磁石と対向して配設された駆動用電磁石と、を備え、
前記ロータ位置調整用電磁石の出力を調整することによって前記ロータを所定位置に維持することを特徴とするアキシャル磁気浮上回転モータ。
【請求項2】
前記駆動用電磁石を制御することで前記ロータの回転を制御する回転制御装置と、
前記ロータ位置調整用電磁石に供給する電力を制御することで前記ロータの位置を制御するロータ位置制御装置と、
前記駆動用電磁石に供給される誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出装置と、
前記駆動用電磁石に供給される駆動電流を検出可能な駆動電流検出装置と、
前記ロータの回転数を検出可能な回転数検出装置と、を備え、
前記誘起電圧検出装置と前記駆動電流検出装置と前記回転数検出装置は、いずれも前記ロータ位置制御装置に接続され、
前記ロータ位置制御装置は、前記誘起電圧検出装置によって検出された誘起電圧と、前記駆動電流検出装置によって検出された駆動電流と、前記回転数検出装置によって検出された回転数とから、前記ロータに加わる軸方向の応力を算出すると共に、算出した前記応力の値に基づいて、前記ロータ位置調整用電磁石に供給される電力を制御して、前記ロータを所定位置に維持することを特徴とする請求項1に記載のアキシャル磁気浮上回転モータ。
【請求項3】
吸入口と排出口と両者を連通する流体通路とが形成された筒状のポンプケーシングと、
前記ポンプケーシング内に浮遊状態で維持可能なロータと、
前記ロータ側に固定されフィンを有するインペラと、
前記ロータの軸方向の排出口側に配設され前記ロータを回転駆動する駆動用電磁石を有するステータと、を備え、前記ロータの回転により前記インペラが回転することで、前記吸入口から吸い込まれた流体が前記排出口へ移送されるアキシャル磁気浮上回転モータを用いたターボ形ポンプであって、
前記ロータは、回転中心部に前記ステータに対向して配設されたロータ位置調整用永久磁石と、径方向の外周側に前記ステータに対向して配設されたロータ回転用永久磁石と、を備え、
前記ステータは、前記ロータ側の中央部にロータ位置調整用永久磁石と対向して配設されたロータ位置調整用電磁石と、前記ロータ側の径方向の外周側にロータ回転用永久磁石と対向して配設された駆動用電磁石と、を備え、
前記ロータ位置調整用電磁石の出力を調整することによって前記ロータを所定位置に維持することを特徴とするアキシャル磁気浮上回転モータを用いたターボ形ポンプ。
【請求項4】
前記駆動用電磁石を制御することで前記ロータの回転を制御する回転制御装置と、
前記ロータ位置調整用電磁石に供給する電力を制御することで前記ロータの位置を制御するロータ位置制御装置と、
前記駆動用電磁石に供給される誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出装置と、
前記駆動用電磁石に供給される駆動電流を検出可能な駆動電流検出装置と、
前記ロータの回転数を検出可能な回転数検出装置と、を備え、
前記誘起電圧検出装置と前記駆動電流検出装置と前記回転数検出装置は、いずれも前記ロータ位置制御装置に接続され、
前記ロータ位置制御装置は、前記誘起電圧検出装置によって検出された誘起電圧と、前記駆動電流検出装置によって検出された駆動電流と、前記回転数検出装置によって検出された回転数とから、前記ロータに加わる軸方向の応力を算出すると共に、算出された前記応力の値に基づいて、前記ロータ位置調整用電磁石に供給される電力を制御して、前記ロータを所定位置に維持することを特徴とする請求項3に記載のアキシャル磁気浮上回転モータを用いたターボ形ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−41742(P2010−41742A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198116(P2008−198116)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】