説明

ウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法

【課題】酸化ガリウム基板上に成長された活性層を含み発光強度を向上可能なウエハ生産物を作製する方法を提供する。
【解決手段】工程S105において、GaN、AlGaN、AlNといったIII族窒化物からなるバッファ層13を酸化ガリウム基板11の主面11a上に摂氏600度で成長する。バッファ層13を成長した後に、水素及び窒素を含むガスG2を成長炉10に供給しながら、摂氏1050度で酸化ガリウム基板11及びバッファ層13を成長炉11の雰囲気にさらす。III族窒化物半導体層15の堆積は、改質されたバッファ層上に行われる。改質されたバッファ層は例えばボイドを含む。III族窒化物半導体層15はGaN及びAlGaNからなることができる。これらの材料でIII族窒化物半導体層15を形成するとき、改質されたバッファ層14上に良好な結晶品質が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、(100)β−Ga基板上への有機金属気相成長法によるGaNエピタキシャル成長が記載されている。GaNエピタキシャル成長では、Ga基板上に、低温GaNバッファ層を摂氏600度で成長する。この低温GaNバッファ層上に直接に1000nmのGaN層を摂氏1070度で成長する。
【0003】
非特許文献2には、InGaN系発光ダイオードが記載されている。発光ダイオードは、パターン形成されたサファイア基板を用い、またこのサファイア基板上にバッファ層を介して複数の窒化ガリウム系半導体層が成長される。サファイア基板のパターン形成により光の取り出し効率を向上させる。
【0004】
非特許文献3には、InGaN−GaN発光ダイオードが記載されている。この発光ダイオードはサファイア基板上に成長されたGaN系膜を含む。サファイア基板は、レーザ光を用いてGaN系膜と分離される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 44, No. 1, 2005, pp L7-L5
【非特許文献2】Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 41, (2002), pp L1431-L1433, Part 2, No.12B, 15, December, 2002
【非特許文献3】Appl. Phys. Lett. Vol. 89, 071109, (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化ガリウム基板は、窒化ガリウム系半導体光素子の作製に利用可能である。発明者の知見によれば、酸化ガリウムは、窒化ガリウム系半導体層の成長に用いられる水素含有雰囲気に冒される。水素による酸化ガリウム基板の損傷を避けるために、高温の水素雰囲気に酸化ガリウム基板を触れさせない成膜シーケンスを用いる。ところが、発明者らの検討によれば、窒化ガリウム系半導体光素子のための窒化ガリウム系半導体層を酸化ガリウム基板上に成長するシーケンスにおいて、酸化ガリウムに接触する低温バッファ層を改質できることを見いだした。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、酸化ガリウム基板上に成長された活性層を含み発光強度を向上可能なウエハ生産物を作製する方法を提供することを目的とし、酸化ガリウム基板上に成長された活性層を含み発光強度を向上可能な窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、窒化ガリウム系半導体光素子のためのウエハ生産物を作製する方法である。この方法は、(a)酸化ガリウム基板を準備する工程と、(b)前記酸化ガリウム基板の主面上に、III族窒化物からなる積層体を形成する工程と、(c)前記積層体を形成した後に、活性層を形成する工程と、(d)前記活性層上に第2のIII族窒化物半導体層を成長する工程とを備える。前記積層体を形成する前記工程では、(b1)前記酸化ガリウム基板を成長炉に配置した後に、前記酸化ガリウム基板の主面上にIII族窒化物バッファ層を第1の温度で成長する工程と、(b2)前記III族窒化物バッファ層を成長した後に、前記第1の温度よりも高い第2の温度に前記第1の温度から基板温度を変更する工程と、(b3)前記成長炉に水素及び窒素を供給しながら、前記第2の温度の基板温度で前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす工程と、(b4)前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらした後に、有機金属気相成長法で、前記窒化ガリウム系半導体光素子のためのIII族窒化物半導体層を堆積する工程とを備える。前記III族窒化物半導体層は第1導電型を有し、前記窒化ガリウム系半導体層は第2導電型を有する。前記III族窒化物バッファ層の厚さが前記III族窒化物半導体層の厚さより薄い。
【0009】
この方法によれば、III族窒化物バッファ層を成長した第1の温度から第2の温度に基板温度を変更した後に、酸化ガリウム基板及びIII族窒化物バッファ層を水素及び窒素を含む雰囲気にさらす。III族窒化物半導体層の成長に先立って、水素を含む雰囲気において、III族窒化物バッファ層は改質され、またIII族窒化物半導体の堆積は、改質されたIII族窒化物バッファ層上に行われる。改質の後に成長されたIII族窒化物半導体層上には活性層が設けられる。これ故に、改質されたIII族窒化物バッファ層を有する窒化ガリウム系半導体光素子からの光取り出し効率が向上される。III族窒化物バッファ層の厚さがIII族窒化物半導体層の厚さよりも薄く、水素及び窒素を含む雰囲気による改質が、酸化ガリウム基板の表面近傍において引き起こされる。
【0010】
本発明の一側面に係る方法では、前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす際において、好ましくは、水素の流量は窒素の流量以上であり、前記第2の温度は摂氏950度以上、好ましくは1050度前後である。水素を雰囲気に含むとともに、摂氏950度以上の基板温度であるとき、好ましくは1050度前後の基板温度であるとき、III族窒化物半導体層の成長に先立って、III族窒化物バッファ層は改質され、またIII族窒化物半導体の堆積は、改質されたIII族窒化物バッファ層上に行われる。また、本発明の一側面に係る方法では、前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす際において、水素の流量は窒素の流量以上であることが好ましい。このとき、良好な改質が行われる。
【0011】
本発明の一側面に係る方法では、前記雰囲気にさらす工程における時間は10秒以上であることができる。この時間が10秒以上、好ましくは1分以上であるとき、上記の改質を効果的に引き起こすことができる。
【0012】
本発明の一側面に係る方法では、前記III族窒化物バッファ層の厚さは2ナノメートル以上であることができる。バッファ層の厚さが2ナノメートル以上、好ましくは10ナノメートルであるとき、III族窒化物半導体層の結晶品質が良好である。また、本発明の一側面に係る方法では、前記III族窒化物バッファ層の厚さは100ナノメートル以下であることができる。バッファ層の厚さが100ナノメートル以下であるとき、III族窒化物半導体層の結晶品質が良好である。
【0013】
本発明の一側面に係る方法では、前記III族窒化物バッファ層はGaN層、AlGaN層及びAlN層の少なくともいずれかを含むことができる。これらの材料でバッファ層を形成するとき、改質による技術的寄与が得られる。
【0014】
本発明の一側面に係る方法では、前記III族窒化物バッファ層はGaN層を含むことができる。バッファ層がGaN層を含むとき、GaNと水素との反応により改質が生じて改質による技術的寄与が提供される。
【0015】
本発明の一側面に係る方法では、前記III族窒化物半導体層はGaN及びAlGaNからなることができる。これらの材料でIII族窒化物半導体層を形成するとき、改質による技術的寄与が得られる。
【0016】
本発明の一側面に係る方法では、前記酸化ガリウム基板の前記主面は(100)面であることができる。酸化ガリウム基板の主面の結晶面が実質的に(100)面であるとき、III族窒化物半導体層の表面にc面又はc面から僅かに傾斜した面が形成される。
【0017】
本発明の一側面に係る方法では、前記積層体は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に形成された複数のボイドを含むことができる。この方法によれば、改質処理により、上記の界面に複数のボイドが形成される。
【0018】
本発明の一側面に係る方法では、前記積層体は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に形成された遷移層を含み、前記遷移層は前記酸化ガリウム基板の前記主面を覆っている。この方法によれば、改質処理により、上記の界面に遷移層が形成される。遷移層はIII族窒化物領域を含むことができる。
【0019】
本発明の別の側面は、窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法である。この方法は、(a)酸化ガリウム基板を準備する工程と、(b)前記酸化ガリウム基板の主面上に、III族窒化物からなる積層体を形成する工程とを備える。前記積層体を形成する前記工程では、(b1)前記酸化ガリウム基板を成長炉に配置した後に、前記酸化ガリウム基板の主面上にIII族窒化物バッファ層を第1の温度で成長する工程と、(b2)前記III族窒化物バッファ層を成長した後に、前記第1の温度よりも高い第2の温度に前記第1の温度から基板温度を変更する工程と、(b3)前記成長炉に水素及び窒素を供給しながら、前記第2の温度の基板温度で前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす工程と、(b4)前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらした後に、有機金属気相成長法で、前記窒化ガリウム系半導体光素子のための第1のIII族窒化物半導体層を堆積する工程とを備える。前記III族窒化物半導体層は第1導電型を有し、前記窒化ガリウム系半導体層は第2導電型を有する。前記III族窒化物バッファ層の厚さは前記第1のIII族窒化物半導体層の厚さよりも薄い。
【0020】
この方法によれば、III族窒化物バッファ層を成長した第1の温度から第2の温度に基板温度を変更した後に、酸化ガリウム基板及びIII族窒化物バッファ層を水素及び窒素を含む雰囲気にさらす。水素を含む雰囲気であるとき、III族窒化物半導体層の成長に先立って、III族窒化物バッファ層は改質され、またIII族窒化物半導体の堆積は、改質されたIII族窒化物バッファ層上に行われる。改質されたIII族窒化物バッファ層上に活性層が設けられる窒化ガリウム系半導体光素子からの光取り出し効率が向上される。III族窒化物バッファ層の厚さがIII族窒化物半導体層の厚さよりも薄く、水素及び窒素を含む雰囲気による改質が、酸化ガリウム基板の表面近傍において引き起こされる。
【0021】
本発明の別の側面に係る方法では、前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす際において、水素を含む雰囲気であり、好ましくは、水素の流量は窒素の流量以上であり、前記第2の温度は摂氏950度以上、好ましくは1050度前後である。水素を含む雰囲気であり、好ましくは水素の流量は窒素の流量以上であると共に基板温度が摂氏950度以上、好ましくは1050度前後の基板温度であるとき、III族窒化物半導体層の成長に先立って、III族窒化物バッファ層は改質される。
【0022】
本発明の別の側面に係る方法では、前記雰囲気にさらす工程における時間は10秒以上であることができる。この時間が10秒以上、好ましくは1分以上であるとき、上記の改質を効果的に引き起こすことができる。
【0023】
本発明の別の側面に係る方法では、前記III族窒化物バッファ層の厚さは2ナノメートル以上であることができる。バッファ層の厚さが2ナノメートル以上、好ましくは10ナノメートルであるとき、III族窒化物半導体層の結晶品質が良好である。
【0024】
本発明の別の側面に係る方法では、前記III族窒化物バッファ層はGaN層、AlGaN層及びAlN層の少なくともいずれかを含むことができる。これらの材料でバッファ層を形成するとき、改質による技術的な寄与が得られる。また、本発明の別の側面に係る方法では、前記III族窒化物バッファ層はGaN層を含むことができる。バッファ層がGaN層を含むとき、GaNと水素との反応により改質が生じて改質による技術的寄与が提供される。
【0025】
本発明の別の側面に係る方法では、前記III族窒化物半導体層はGaN及びAlGaNからなることができる。これらの材料でIII族窒化物半導体層を形成するとき、改質による技術的寄与が得られる。
【0026】
本発明の別の側面に係る方法では、前記酸化ガリウム基板の前記主面は(100)面であることができる。酸化ガリウム基板の主面の結晶面が実質的に(100)面であるとき、III族窒化物半導体層の表面はc面又はc面から僅かに傾斜した面を有する。
【0027】
本発明の別の側面に係る方法では、前記積層体は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に位置する改質層を含み、前記改質層は、前記成長炉において前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を水素及び窒素を雰囲気にさらすことによって提供される。
【0028】
本発明の別の側面に係る方法では、前記改質層は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に形成された複数のボイドを含むことができる。或いは、本発明の別の側面に係る方法では、前記改質層は、前記酸化ガリウム基板の前記主面を覆う遷移層を有している。
【0029】
本発明の別の側面に係る方法では、前記酸化ガリウム基板、前記III族窒化物半導体層、前記活性層、及び前記窒化ガリウム系半導体層は、ウエハ生産物を構成する。当該方法は、前記III族窒化物半導体層に電位を提供する第1の電極を前記ウエハ生産物に形成する工程と、前記窒化ガリウム系半導体層に電位を提供する第2の電極を前記ウエハ生産物に形成する工程とを更に備えることができる。
【0030】
この方法によれば、活性層へ注入されるキャリアは、第1及び第2の電極から提供される。また、キャリアは、導電性の酸化ガリウム基板を介して活性層に到達する。
【0031】
本発明の別の側面に係る方法では、前記III族窒化物バッファ層の厚さは100ナノメートル以下であることができる。この方法によれば、III族窒化物バッファ層の厚さは100ナノメートル以下であるとき、バッファ層に起因する抵抗の増加を低減できる。
【0032】
本発明の別の側面に係る方法は、前記活性層及び前記窒化ガリウム系半導体層をエッチングして、前記III族窒化物半導体層を露出させる工程と、前記III族窒化物半導体層に電位を提供する第1の電極を前記ウエハ生産物に形成する工程と、前記窒化ガリウム系半導体層に電位を提供する第2の電極を前記ウエハ生産物に形成する工程とを更に備えることができる。
【0033】
この方法によれば、一方の素子面に第1及び第2の電極を備える発光素子が提供される。
【0034】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本発明の一側面によれば、酸化ガリウム基板上に成長された活性層を含み発光強度を向上可能なウエハ生産物を作製する方法が提供される。また、本発明の別の側面によれば、酸化ガリウム基板上に成長された活性層を含み発光強度を向上可能な窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は本実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程フローを示す図面である。
【図2】図2は、単斜晶系酸化ガリウムウエハ及び単斜晶系酸化ガリウムの結晶格子を示す図面である。
【図3】図3は、本実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図4】図4は、本実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図5】図5は、本実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図6】図6は、実施例1におけるSEM像を示す図面である。
【図7】図7は、実施例1におけるSEM像を示す図面である。
【図8】図8は、実施例1におけるSEM像を示す図面である。
【図9】図9は、実施例1におけるSEM像を示す図面である。
【図10】図10は、実施例2における発光ダイオードの構造を示す図面である。
【図11】図11は、実施例2における発光特性を示す図面である。
【図12】図12は、別の実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程フローを示す図面である。
【図13】図13は、別の実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図14】図14は、別の実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図15】図15は、剥離に要する時間を相対値により示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0038】
図1は、本実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程フローを示す図面である。これらの工程フローでは、窒化ガリウム系半導体光素子として、半導体光素子が作製される。工程フロー100aの工程S101では、単斜晶系酸化ガリウムからなる主面を有する酸化ガリウム基板11を準備する。図2(a)を参照すると、酸化ガリウム基板11が示される。この基板11は、例えばβ−Ga単結晶からなる。基板11は、単斜晶系酸化ガリウムからなる主面を有する主面11a及び裏面11bを含み、例えば主面11a及び裏面11bは互いに平行である。基板11の主面11aは、例えば単斜晶系酸化ガリウムの(100)面である。この主面11aは、(100)面に対して例えば1度以下0度以上の角度で傾斜することができる。図2(a)には、結晶座標系CRが示されており、結晶座標系CRはa軸、b軸及びc軸を有する。
【0039】
図2(b)を参照すると、単斜晶系酸化ガリウムの結晶格子が示されている。単斜晶系酸化ガリウムの結晶格子のa軸、b軸及びc軸の格子定数は、それぞれ、1.223nm、0.304nm及び0.58nmである。ベクトルVa、Vb、Vcは、それぞれ、a軸、b軸及びc軸の方向を示す。ベクトルVa及びVbは(001)面を規定し、ベクトルVb、Vcは(100)面を規定し、ベクトルVc及びVaは(010)面を規定する。ベクトルVa及びVbの成す角度α及びベクトルVb及びVcの成す角度γは90度であり、ベクトルVc及びVaの成す角度βは103.7度である。基板主面11aの傾斜角AOFFを示すために、図2(b)には、基板主面11aが一点鎖線で示されている。この基板11によれば、単斜晶系酸化ガリウム(100)面の基板主面11a上に、良好なモフォロジのエピタキシャル層が成長される。酸化ガリウム基板11の主面11aの結晶面が実質的に(100)面であるとき、窒化ガリウム系半導体光素子のためのIII族窒化物半導体層の表面はc面又はc面から僅かに傾斜した面を有する。
【0040】
図1に示される工程S102では、図3(a)に示されるように、成長炉10のサセプタ10a上に基板11を配置する。工程S103では、エピタキシャル基板を作製するために、複数のIII族窒化物膜を含む積層構造を形成する。III族窒化物膜の成長は、例えば有機金属気相成長(MOVPE)法等で行われる。
【0041】
成長炉10のサセプタ上に基板11を配置した後に、工程S104では、図3(b)に示されるように、ガスG0を成長炉10に供給しながら、成長炉10内の酸化ガリウム基板11のサセプタ温度を変更する。ガスG0は、例えば窒素ガスを含むことができる。成長炉10に供給された窒素に酸化ガリウム基板11が触れているとき、水素によって酸化ガリウム基板11が侵されることがない。これ故に、成長炉10に水素を供給するときに比べて、サセプタ温度を高めることができる。窒素雰囲気においては、酸化ガリウム基板11のための基板温度は、例えば摂氏600度であることができる。
【0042】
窒素を含む雰囲気中で成長温度T1に成長炉10の温度を上昇した後に、工程S105において、酸化ガリウム基板11の主面11a上にIII族窒化物バッファ層13を第1の温度T1で成長する。バッファ層13は、例えばGaN、AlGaN、AlNといったIII族窒化物からなる。III族窒化物の堆積のために、原料ガスとして、有機ガリウム原料、有機アルミニウム原料、窒素原料等が用いられる。
【0043】
バッファ層13がGaNからなるとき、成長炉10には、トリメチルガリウム(TMG)及びアンモニア(NH)を含む原料ガスG1が供給される。GaN層バッファを用いると、GaNと水素との反応により改質が生じて改質による技術的な寄与が提供される。バッファ層13がAlGaNからなるとき、成長炉10には、TMG、トリメチルアルミニウム(TMA)及びNHを含む原料ガスG1が供給される。AlGaN層バッファを用いると、GaNバッファ層よりも熱的に安定であるため、第2の温度T2をより高い温度まで用いることができるという、技術的な寄与が提供される。バッファ層13がAlNからなるとき、成長炉10には、TMA及びNHを含む原料ガスG1が供給される。AlN層バッファを用いると、GaNバッファ層よりも熱的に安定であるため、第2の温度T2をより高い温度まで用いることができるという、技術的な寄与が提供される。バッファ層13の成長温度T1は、例えば摂氏400度以上摂氏800度下の範囲にあり、バッファ層13はいわゆる低温バッファ層と呼ばれる。
【0044】
バッファ層13の膜厚は例えば2ナノメートル以上であることができる。バッファ層の厚さが2ナノメートル以上、好ましくは10ナノメートル以上であるとき、引き続き成長されるIII族窒化物半導体層の結晶品質が良好である。また、バッファ層の厚さは100ナノメートル以下であることができる。バッファ層13の厚さが100ナノメートル以下であるとき、III族窒化物半導体層の結晶品質が良好になる。
【0045】
工程S106では、バッファ層13を成長した後に、第1の温度T1よりも高い第2の温度T2に成長炉10の基板温度を変更する。この後に、工程S107では、図3(c)に示されるように、水素及び窒素を含むガスG2を成長炉10に供給しながら、第2の温度T2の基板温度で酸化ガリウム基板11及びバッファ層13を成長炉11の雰囲気にさらす。ガスG2は、さらにアンモニアを含むことができる。酸化ガリウム基板11及びバッファ層13を成長炉11の雰囲気にさらす際において、雰囲気は水素を含み、好ましくは、水素の流量は窒素の流量以上である。また、第2の温度T2は摂氏950度以上、好ましくは、1050度前後である。成長炉10において水素の流量が窒素の流量以上であると共に基板温度が摂氏950度以上であるとき、バッファ層13は、改質されたバッファ層14に変わる。第2の温度T2は摂氏1200度以下である。改質されすぎてしまい、良好なエピ膜が堆積できないからである。この改質は、窒化ガリウム系半導体光素子のためのIII族窒化物半導体層の成長に先立って行われ、III族窒化物半導体の堆積は、改質されたバッファ層14上に行われる。また、バッファ層13の厚さがIII族窒化物半導体層15の厚さより薄いとき、水素及び窒素を含む雰囲気による改質が、酸化ガリウム基板11の表面近傍のバッファ層に引き起こされる。
【0046】
雰囲気にさらす処理時間は10秒以上であることができる。改質のための時間が10秒以上、好ましくは1分以上であるとき、上記の改質を効果的に引き起こすことができる。
【0047】
酸化ガリウム基板11及びバッファ層14を成長炉10の雰囲気にさらした後に、工程S108では、第2の温度T2に等しい或いはより大きい第3の温度T3に成長炉10のサセプタ温度を設定する。この後に、工程S109では、図4(a)に示されるように、有機金属気相成長法で、窒化ガリウム系半導体光素子のためのIII族窒化物半導体層15を堆積する。例えばGaN、AlGaN、InGaN、AlN等といったIII族窒化物をバッファ層14上に堆積するとき、この堆積物は、酸化ガリウム基板11にエピタキシャル成長され、六方晶系のIII族窒化物半導体層15が得られる。また、III族窒化物半導体層15をバッファ層14上に堆積するとき、III族窒化物半導体層15の成長初期に、バッファ層14の構造を引き継ぐ堆積が生じるとき、この初期成長層とバッファ層14とを併せて改質層14と呼ぶこともある。
【0048】
III族窒化物半導体層15はGaN、InGaN及びAlGaNからなることができる。これらの材料でIII族窒化物半導体層15を形成するとき、改質されたバッファ層14上に良好な結晶品質が得られる。
【0049】
III族窒化物半導体層15の膜厚は、例えば1マイクロメートル以上20マイクロメートル以下の範囲であることができる。III族窒化物半導体層15の成長温度T3は例えば摂氏950度以上摂氏1200度以下の範囲になる。III族窒化物半導体層15は、窒化ガリウム系半導体デバイスを構成する半導体層であり、またアンドープ、p型ドーパント添加、及びn型ドーパント添加であることができる。エピタキシャル層15にp導電性またはn導電性を付与するために、III族窒化物半導体層15を成長する際に原料ガスに加えてドーパントガスを供給する。ドーパントとしては、p型導電性のためにシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を用い、n型導電性のためにシラン(例えばSiH)を用いることができる。III族窒化物半導体層15がn型GaNからなるとき、成長炉10には、TMG、NH及びSiHを含む原料ガスG3が供給される。これらの工程により、酸化ガリウム基板11上に積層体16が形成される。
【0050】
次いで、工程S110において、図4(b)に示されるように、原料ガスG4を成長炉10に供給して、活性層17をIII族窒化物半導体層15上に形成する。活性層17が量子井戸構造を有するとき、活性層17は交互に配列された井戸層17a及び障壁層17bを含む。井戸層17aは、例えばGaN、InGaN、InAlGaN等からなる。井戸層17aの成長温度は例えば摂氏750度である。障壁層17bは、例えばGaN、InGaN、InAlGaN等からなる。障壁層17bの成長温度は例えば摂氏750度である。
【0051】
この方法によれば、バッファ層13を成長した第1の温度T1から第2の温度T2にサセプタ温度を変更した後に、摂氏950度以上、好ましくは摂氏1050度前後の基板温度で酸化ガリウム基板11及びバッファ層13を水素及び窒素を含む雰囲気にさらして、改質されたバッファ層14を形成する。水素を含む雰囲気であり、好ましくは水素の流量は窒素の流量以上であると共に基板温度が摂氏950度以上、好ましくは1050度の基板温度であるとき、バッファ層14に十分な改質が施される。III族窒化物半導体の堆積は、改質されたバッファ層14上に行われる。
【0052】
この後に、工程S111において、図4(c)に示されるように、窒化ガリウム系半導体層19を活性層17上に形成する。窒化ガリウム系半導体層19は、例えばp型電子ブロック層21及びp型コンタクト層23を含むことができる。
【0053】
これまでの窒化ガリウム系半導体の堆積により、図5(a)に示されるように、ウエハ生産物Eが得られる。ウエハ生産物Eは、酸化ガリウムウエハ11と、酸化ガリウムウエハ11上に成長された半導体積層25を含む。この半導体積層25は、III族窒化物半導体層15(例えば、第1導電型エピタキシャル層)と、活性層17と、窒化ガリウム系半導体層19(例えば、第2導電型エピタキシャル層)とを含み、活性層17は、第1導電型エピタキシャル層と第2導電型エピタキシャル層との間に設けられている。酸化ガリウム基板11、III族窒化物半導体層15、活性層17及び窒化ガリウム系半導体層19は、ウエハ生産物を構成する。引き続き工程において、III族窒化物半導体層15に電位を提供する第1の電極をウエハ生産物Eに形成すると共に、窒化ガリウム系半導体層19に電位を提供する第2の電極をウエハ生産物Eに形成する。活性層17へ注入されるキャリアは、第1及び第2の電極から提供される。また、キャリアは、導電性の酸化ガリウム基板11を介して活性層17に到達する。
【0054】
電極プロセスの工程の一例として、以下の工程フローを行う。工程S112では、図5(b)に示されるように、ウエハ生産物Eをエッチングして半導体メサ27を形成する。このエッチングにより半導体積層25の一部が除去されて、半導体積層25内のIII族窒化物半導体層15の一部が露出されると共に半導体メサ27の上面27d(窒化ガリウム系半導体層19cの表面19d)が形成される。
【0055】
このウエハ生産物Eの加工の後に、工程S113では、図5(c)に示されるように、III族窒化物半導体層15の露出部分15d上に第1の電極29aを形成すると共に半導体メサ27の上面27dに第2の電極29bを形成する。これらの工程により、窒化ガリウム系半導体発光デバイスのための基板生産物が作製される。
【0056】
引き続き行われる実施例の説明から理解されるように、改質されたバッファ層14は、以下の構造を有する。また、改質工程の後に活性層17が成長されるとき、活性層17における発光強度は向上される。
【0057】
積層体16は、酸化ガリウム基板11と積層体16との界面に形成された複数のボイドを含むことができる。改質処理により、上記の界面に複数のボイドが形成される。積層体16は、酸化ガリウム基板11と積層体16との界面に形成された遷移層を含み、遷移層は酸化ガリウム基板11の主面11aを覆っている。改質処理により、上記の界面に遷移層が形成される。遷移層はIII族窒化物領域を含むことができる。
【0058】
(実施例1)
実験例1(酸化ガリウム基板/エピタキシャル層の界面にボイドや遷移層などがない)
(100)面の酸化ガリウム基板を準備した。酸化ガリウム基板の主面には意図的にオフ角をつけていない。酸化ガリウム基板の(100)ジャスト面に対して、AlNバッファ層をMOVPEで成長した。このAlNの成長温度は摂氏600度であった。AlN層の厚みは10ナノメートルであった。4分かけて摂氏600度から摂氏1050度まで昇温した。この昇温する際、水素(H)の流量は5リットル/分であり、アンモニア(NH)の流量は5リットル/分であり、窒素(N)の流量は10リットル/分であった。この後に、このAlN層上にGaNエピタキシャル層をMOVPE法で成長した。このGaN層の厚さ3マイクロメートであった。これらの工程によってエピタキシャル基板EW1が得られた。
【0059】
参考のために、サファイア基板上に低温GaNバッファ層を介してGaN層を成長した。これらの工程によってエピタキシャル基板EW0が得られた。図6は、サファイア基板、AlNバッファ層及びGaNエピタキシャル層の断面SEM像を示す図面である。GaN層のXRCの半値全幅及び原子間力顕微鏡の表面粗さ等に関しては、サファイア基板上の参考例における品質と同等レベルだった。
【0060】
また、エピタキシャル基板EW0をエピタキシャル基板EW1と比較したとき、エピタキシャル層/酸化ガリウム基板の界面に関しても、本実施例における界面には、サファイア基板上の参考例と同様に、ボイドや遷移層等は観察されなかった。
【0061】
実験例2(酸化ガリウム基板/エピタキシャル層の界面に微少なボイドが形成された)
(100)面の酸化ガリウム基板を準備した。酸化ガリウム基板の主面には意図的にオフ角をつけていない。酸化ガリウム基板の(100)ジャスト面に対して、AlNバッファ層をMOVPEで成長した。このAlNの成長温度は摂氏600度であった。AlN層の厚みは10ナノメートルであった。4分かけて摂氏600度から摂氏950度まで昇温した。この昇温する際、水素(H)の流量は10リットル/分であり、アンモニア(NH)の流量は5リットル/分であり、窒素(N)の流量は5リットル/分であった。この後に、GaNエピタキシャル層の成長に先立って、水素及び窒素の混合雰囲気にAlNバッファ層を摂氏950度に1分間保持して、改質処理を行った。次いで、改質処理されたバッファ層上にGaNエピタキシャル層をMOVPE法で成長した。このGaN層の厚さ3マイクロメートであった。これらの工程によってエピタキシャル基板EW2が得られた。GaN層のXRCの半値全幅及び原子間力顕微鏡の表面粗さ等に関しては、サファイア基板上の参考例における品質と同等レベルだった。
【0062】
図7は、実験例2における酸化ガリウム基板、AlNバッファ層及びGaNエピタキシャル層の断面SEM像を示す図面である。本実施例における界面には、サファイア基板上の参考例と異なり、サイズ(幅)100nm程度のボイドが観察された。温度・水素の割合等の成長条件に応じて、ボイドのサイズは10nm〜1μm程度の範囲で変更することができた。
【0063】
本実験例ではAlNバッファ層を用いたけれども、低温成長のGaN及び低温成長のAlGaNの成膜条件やバッファ層の成膜後の熱処理に応じて、このような遷移層を界面に作製することが可能である。
【0064】
実験例3(酸化ガリウム基板/エピタキシャル層の界面に大きなボイドが形成された)
(100)面の酸化ガリウム基板を準備した。酸化ガリウム基板の主面には意図的にオフ角をつけていない。酸化ガリウム基板の(100)ジャスト面に対して、AlNバッファ層をMOVPE法で成長した。このAlNの成長温度は摂氏600度であった。AlN層の厚みは10ナノメートルであった。4分かけて摂氏600度から摂氏1050度まで昇温した。この昇温する際、水素(H)の流量は10リットル/分であり、アンモニア(NH)の流量は5リットル/分であり、窒素(N)の流量は5リットル/分であった。この後に、GaNエピタキシャル層の成長に先立って、水素及び窒素の混合雰囲気にAlNバッファ層を摂氏1050度に1分間保持して、改質処理を行った。次いで、改質処理されたバッファ層上にGaNエピタキシャル層をMOVPEで成長した。このGaN層の厚さ3マイクロメートであった。これらの工程によってエピタキシャル基板EW3が得られた。GaN層のXRCの半値全幅及び原子間力顕微鏡の表面粗さ等に関しては、サファイア基板上の参考例における品質と同等レベルだった。
【0065】
図8は、実験例3における酸化ガリウム基板、AlNバッファ層及びGaNエピタキシャル層の断面SEM像を示す図面である。本実施例における界面には、サファイア基板上の参考例と異なり、サイズ(幅)100nm程度のボイドが観察された。温度・水素の割合等の成長条件に応じて、ボイドのサイズは10nm〜1μm程度の範囲、さらにこれ以上のサイズで変更することができた。
【0066】
本実験例ではAlNバッファ層を用いたけれども、低温成長のGaN及び低温成長のAlGaNの成膜条件やバッファ層の成膜後の熱処理に応じて、このような界面にボイドを作製することが可能である。
【0067】
実験例4(酸化ガリウム基板/エピタキシャル層の界面に遷移層が形成された)
(100)面の酸化ガリウム基板を準備した。酸化ガリウム基板の主面には意図的にオフ角をつけていない。酸化ガリウム基板の(100)ジャスト面に対して、GaNバッファ層をMOVPE法で成長した。このGaNの成長温度は摂氏500度であった。GaN層の厚みは25ナノメートルであった。4分かけて摂氏600度から摂氏1050度まで昇温した。この昇温する際、水素(H)の流量は10リットル/分であり、アンモニア(NH)の流量は5リットル/分であり、窒素(N)の流量は5リットル/分であった。この後に、GaNエピタキシャル層の成長に先立って、水素及び窒素の混合雰囲気にGaNバッファ層を摂氏1050度に1分間保持して、熱処理を行った。次いで、熱処理されたバッファ層上にGaNエピタキシャル層をMOVPEで成長した。このGaN層の厚さ3マイクロメートであった。これらの工程によってエピタキシャル基板EW4が得られた。GaN層のXRCの半値全幅及び原子間力顕微鏡の表面粗さ等に関しては、サファイア基板上の参考例における品質と同等レベルだった。
【0068】
図9は、実験例4における酸化ガリウム基板、GaNバッファ層及びGaNエピタキシャル層の断面SEM像を示す図面である。本実施例における界面には、サファイア基板上の参考例と異なり、厚さ2μm程度の遷移層が観察された。この遷移層はGaとNとOから構成され、GaNとGa等が混じっている層であった。遷移層は、例えば多孔質のIII族窒化物領域を含むことができる。
【0069】
本実験例ではGaNバッファ層を用いたけれども、低温成長のAlN及び低温成長のAlGaNの成膜条件やバッファ層の成膜後の熱処理に応じて、このような界面の遷移層を作製することが可能である。
【0070】
(実施例2)
実施例1において作製されたエピタキシャル基板EW0〜EW4を用いて発光ダイオード(LED)のためのエピタキシャル構造を形成した。図10は、実施例2におけるエピタキシャル構造を示す。発光ダイオード構造LEDは、改質層35、n型GaN層37、活性層39、及びp型GAn系層41を含む。発光ダイオードLEDでは、改質層35、n型GaN層37、活性層39、及びp型GaN系半導体層41は酸化ガリウム基板31の主面31a上に設けられており、p型GaN系半導体層41はp型AlGaNブロック層及びp型GaNコンタクト層を含む。発光ダイオード構造LEDは、エッチングにより形成された半導体メサ33を含む。半導体メサ33の上面33aにはp型GaNコンタクト層が露出されている。半導体メサ33は、露出されたn型GaN層37を含む。n型GaN層37は露出領域33bを含む。上面33aにはp側電極43aを形成した。露出領域33b上にn側電極43bを形成した。これらの工程により、エピタキシャル基板EW0〜EW4を用いてそれぞれ発光ダイオード構造LED0〜LED4が得られた。発光ダイオード構造LED0〜LED4の各々をプローバ上に配置した後に、発光ダイオード構造LED0〜LED4に20mAの電流を印加して、発光強度を測定した。発光ダイオード構造LED1〜LED4では、バッファ層の厚さに起因する電気抵抗の増加を低減するために、バッファ層の厚さは100ナノメートル以下、好ましくは30ナノメートル以下であることができる。
【0071】
図11は、発光ダイオード構造LED0〜LED4の発光強度を示す図面である。発光ダイオード構造LED1、LED2、LED3、LED4の発光強度は、発光ダイオード構造LED0を基準にして1.2倍、1.3倍、1.5倍、1.4倍であった。
【0072】
図12は、別の実施の形態に係るウエハ生産物を作製する方法、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法における主要な工程フローを示す図面である。工程フロー100bの工程S101では、単斜晶系酸化ガリウムからなる主面を有する酸化ガリウム基板11を準備する。工程S101〜S103、S110〜S111を図1に示された工程フロー100aと同様に行う。
【0073】
工程S115では、図13(a)に示されるように、窒化ガリウム系半導体層19上に電極51を形成して基板生産物SP1を作製する。電極51の形成は例えば以下のように行われる。窒化ガリウム系半導体層19の表面には絶縁膜53を形成する。絶縁膜53には開口が設けられており、絶縁膜53は例えばシリコン酸化物またはシリコン窒化物からなることができる。
【0074】
工程S116では、図13(b)に示されるように、貼り合わせ用の導電性支持体55を準備する。この基板55は、例えばSi基板や、ヒートシンク等からなる。また、図13(b)に示されるように、基板生産物SP1上の電極51が導電性支持体55に対面するように、基板生産物SP1及び基板55が配置される。
【0075】
次いで、基板生産物SP1に導電性支持体55を貼り付けて基板生産物SP2を作製する。基板生産物SP2では、導電性支持体55は電極53に電気的な接続をなす。この貼り合わせは、図13(c)に示されるように、例えば導電性接着剤57等を用いて行われる。導電性接着剤57は例えばAuSn、PbSnといった半田であることができる。
【0076】
工程117では、図14(a)に示されるように、基板生産物SP2の酸化ガリウム基板11にレーザ光59を照射する。レーザ光59の波長は、酸化ガリウム基板11のバンドギャップに対応する波長より短く、またIII族窒化物半導体層15のバンドギャップに対応する波長より大きい。レーザ光は、例えばエキシマレーザによって提供される。この照射によって、図14(b)に示されるように、酸化ガリウム基板11を基板生産物SP2の半導体積層25aから分離して、半導体積層25a及び導電性支持体55を含む基板生産物SP3を作製する。酸化ガリウム基板11にレーザ光59を照射するとき、改質層14によりリフトオフが容易になる。この分離によりIII族窒化物半導体層15が露出される。リフトオフにより露出された半導体積層25aのIII族窒化物半導体層15の表面には、ラフネスが残る。
【0077】
工程S118では、図14(c)に示されるように、III族窒化物半導体層15の表面に電極53bを形成する。
【0078】
(実施例3)
レーザ光を用いた基板剥離を調べる実験を行った。酸化ガリウム基板の裏面にエキシマレーザ光を照射して、エピタキシャル膜から酸化ガリウム基板を剥離させた。剥離の実験は、ウエハ生産物から10mm×10mmのサイズの実験片を切り出した。実験片にレーザを照射して剥離に要する時間を測定した。図15は、剥離に要する時間を相対値により示す図面である。図13を参照すると、剥離に要する時間が、相対値として0.36、0.38、0.17、0.08として示されている。このように、酸化ガリウム(Ga)は、サファイア(Al)に比べて化学結合の点で弱いので、相対値が0.36であり、レーザによる剥離が容易である。これに加え、酸化ガリウム基板/エピタキシャル膜の界面にボイドが形成されたとき、ボイドのサイズに応じて相対値が0.28、0.17となる。また、酸化ガリウム基板/エピタキシャル膜の界面に遷移層が形成されたとき、遷移層の粗密に応じて相対値が0.08となる。酸化ガリウム基板/エピタキシャル膜の界面にボイドや遷移層が作製されているので、レーザリフトオフによる剥離のために要する時間はさらに短縮される。
【0079】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【産業上の利用可能性】
【0080】
発光ダイオードの光取り出し効率を向上させて、発光ダイオードの発光効率を大きくする試みがある。非特許文献2では、サファイア基板に起伏を付けて光取り出し効率を向上させている。また、非特許文献3では、基板剥離と共にエピタキシャル膜の裏面に起伏を作製して光取り出し効率を向上させている。
【0081】
サファイア基板上にGaN膜のエピタキシャル成長を行うとき、低温AlNバッファ層や低温GaNバッファ層上にGaNのエピタキシャル成長を行う。このとき、GaNエピタキシャル膜/サファイア基板の界面には、ボイド等を作製していない。一方で、酸化ガリウム基板上にGaN膜のエピタキシャル成長を行うとき、成長方法を工夫することにより、GaNエピタキシャル膜/酸化ガリウム基板の界面にボイド等を形成できる。また、改質条件によっては、ボイドだけでなく、変質層及びラフネスの形成も可能である。
【0082】
サファイア基板を加工してエピタキシャル膜/サファイア基板の界面における散乱により光取り出し効率を向上させるとき、サファイア基板に新たな微細加工を施す必要がある。この例から理解されるように、サファイア基板からGaNエピタキシャル膜を剥離するためは容易ではなく、エキシマレーザ等の高価な装置を長時間にわたり利用する必要がある。さらに、剥離により露出されたエピタキシャル膜面に起伏をつける工程も必要となる。
【0083】
酸化ガリウム基板上にGaNエピタキシャル膜を成長するとき、成長条件によっては、エピタキシャル膜/酸化ガリウム基板の界面に起伏やボイド等を形成することができる。この界面の改質には、例えば、昇温の雰囲気(高い水素分圧、低い窒素分圧)の雰囲気及び/またはGaNの成膜温度に近い高温によるアニール処理により提供される。さらに、このアニール時間を長くすることにより、エピタキシャル膜/酸化ガリウム基板の界面を荒らてラフネスを形成でき、さらに、ボイドや変質層を作ることも可能になる。加工したサファイア基板等を使わずとも、エピタキシャル膜/酸化ガリウム基板の界面の近傍領域の改質により、光取り出し効率を向上させる。この結果、発光ダイオードの発光効率の向上が可能となる。
【0084】
また、大きなボイドや界面の遷移層、ラフネス等を形成することにより、容易に剥離が生じると同時に、エピタキシャル膜の裏面へのラフネスの形成をエピタキシャル成長で実現する。これ故に、エピタキシャル膜裏面のラフネス形成のための加工の省略可能となる。この方法を採用して光取り出し効率の向上を図るとき、基板剥離の容易さや高歩留まり等が提供される。また、この方法では、GaNエピタキシャル膜の成長初期においてGaNの核をマスクにして用い、酸化ガリウム基板を高温の水素ガスでエッチングしている。
【0085】
酸化ガリウムは、ガリウムと酸素との結合が弱いでの、高温の雰囲気、特に水素などにより損傷を受ける。これ故に、バッファ層堆積後の昇温時に酸化ガリウム基板が不所望な損傷を避けることが大切である。
【符号の説明】
【0086】
10…成長炉、10a…サセプタ、11…酸化ガリウム基板、11a…基板主面、11b…基板裏面、13…III族窒化物バッファ層、14…バッファ層、改質層、15…III族窒化物半導体層、16…積層体、17…活性層、19…窒化ガリウム系半導体層、21…p型電子ブロック層、23…p型コンタクト層、ウエハ生産物E…、25、25a…半導体積層、27…半導体メサ、29a、29b…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム系半導体光素子のためのウエハ生産物を作製する方法であって、
酸化ガリウム基板を準備する工程と、
前記酸化ガリウム基板の主面上に、III族窒化物からなる積層体を形成する工程と、
前記積層体を形成した後に、活性層を形成する工程と、
前記活性層上に窒化ガリウム系半導体層を成長する工程と
を備え、
前記積層体を形成する前記工程では、
前記酸化ガリウム基板を成長炉に配置した後に、前記酸化ガリウム基板の主面上にIII族窒化物バッファ層を第1の温度で成長する工程と、
前記III族窒化物バッファ層を成長した後に、前記第1の温度よりも高い第2の温度に前記第1の温度から基板温度を変更する工程と、
前記成長炉に水素及び窒素を供給しながら、前記第2の温度の基板温度で前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす工程と、
前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらした後に、有機金属気相成長法で、前記窒化ガリウム系半導体光素子のためのIII族窒化物半導体層を堆積する工程と
を備え、
前記III族窒化物半導体層は第1導電型を有し、
前記窒化ガリウム系半導体層は第2導電型を有し、
前記III族窒化物バッファ層の厚さは、前記III族窒化物半導体層の厚さより薄い、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2の温度は摂氏950度以上である、ことを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす際において、水素の流量は窒素の流量以上である、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された方法。
【請求項4】
前記雰囲気にさらす工程における処理時間は10秒以上である、ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された方法。
【請求項5】
前記III族窒化物バッファ層の厚さは2ナノメートル以上である、ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載された方法。
【請求項6】
前記III族窒化物バッファ層はGaN層、AlGaN層及びAlN層の少なくともいずれかを含む、ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載された方法。
【請求項7】
前記III族窒化物バッファ層はGaN層を含む、ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載された方法。
【請求項8】
前記III族窒化物半導体層は、GaN及びAlGaNからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載された方法。
【請求項9】
前記酸化ガリウム基板の前記主面は(100)面である、ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載された方法。
【請求項10】
前記積層体は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に形成された複数のボイドを含む、ことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載された方法。
【請求項11】
前記積層体は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に形成された遷移層を含み、
前記遷移層は前記酸化ガリウム基板の前記主面を覆っている、ことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載された方法。
【請求項12】
窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法であって、
酸化ガリウム基板を準備する工程と、
前記酸化ガリウム基板の主面上に、III族窒化物からなる積層体を形成する工程と、
前記積層体を形成した後に、活性層を形成する工程と、
前記活性層上に窒化ガリウム系半導体層を成長する工程と
を備え、
前記積層体を形成する前記工程では、
前記酸化ガリウム基板を成長炉に配置した後に、前記酸化ガリウム基板の主面上にIII族窒化物バッファ層を第1の温度で成長する工程と、
前記III族窒化物バッファ層を成長した後に、前記第1の温度よりも高い第2の温度に前記第1の温度から基板温度を変更する工程と、
前記成長炉に水素及び窒素を供給しながら、前記第2の温度の基板温度で前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす工程と、
前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらした後に、有機金属気相成長法で、前記窒化ガリウム系半導体光素子のためのIII族窒化物半導体層を堆積する工程と
を備え、
前記III族窒化物半導体層は第1導電型を有し、
前記窒化ガリウム系半導体層は第2導電型を有し、
前記III族窒化物バッファ層の厚さは前記III族窒化物半導体層の厚さよりも薄い、ことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記第2の温度は摂氏950度以上である、ことを特徴とする請求項12に記載された方法。
【請求項14】
前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を前記成長炉の雰囲気にさらす際において、水素の流量は窒素の流量以上である、ことを特徴とする請求項12又は請求項13に記載された方法。
【請求項15】
前記雰囲気にさらす工程における処理時間は10秒以上である、ことを特徴とする請求項12〜請求項14のいずれか一項に記載された方法。
【請求項16】
前記III族窒化物バッファ層の厚さは2ナノメートル以上である、ことを特徴とする請求項12〜請求項15のいずれか一項に記載された方法。
【請求項17】
前記酸化ガリウム基板の前記主面は(100)面である、ことを特徴とする請求項12〜請求項16のいずれか一項に記載された方法。
【請求項18】
前記III族窒化物バッファ層はGaN層、AlGaN層及びAlN層の少なくともいずれかを含む、ことを特徴とする請求項12〜請求項17のいずれか一項に記載された方法。
【請求項19】
前記III族窒化物半導体層はGaN及びAlGaNからなる、ことを特徴とする請求項12〜請求項18のいずれか一項に記載された方法。
【請求項20】
前記積層体は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に位置する改質層を含み、
前記改質層は、前記成長炉において前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を水素及び窒素を雰囲気にさらすことによって生成され、
前記改質層は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に形成された複数のボイドを含む、ことを特徴とする請求項12〜請求項19のいずれか一項に記載された方法。
【請求項21】
前記積層体は、前記酸化ガリウム基板と前記積層体との界面に位置する改質層を含み、
前記改質層は、前記成長炉において前記酸化ガリウム基板及び前記III族窒化物バッファ層を水素及び窒素を雰囲気にさらすことによって生成され、
前記改質層は、前記酸化ガリウム基板の前記主面を覆う遷移層を有している、ことを特徴とする請求項12〜請求項19のいずれか一項に記載された方法。
【請求項22】
前記酸化ガリウム基板、前記III族窒化物半導体層、前記活性層、及び前記窒化ガリウム系半導体層は、ウエハ生産物を構成し、
当該方法は、
前記III族窒化物半導体層に電位を提供する第1の電極を前記ウエハ生産物に形成する工程と、
前記窒化ガリウム系半導体層に電位を提供する第2の電極を前記ウエハ生産物に形成する工程と
を更に備える、ことを特徴とする請求項12〜請求項21のいずれか一項に記載された方法。
【請求項23】
前記III族窒化物バッファ層の厚さは100ナノメートル以下である、ことを特徴とする請求項22に記載された方法。
【請求項24】
前記活性層及び前記窒化ガリウム系半導体層をエッチングして、前記III族窒化物半導体層を露出させる工程と、
前記III族窒化物半導体層に電位を提供する第1の電極を前記ウエハ生産物に形成する工程と、
前記窒化ガリウム系半導体層に電位を提供する第2の電極を前記ウエハ生産物に形成する工程と
を更に備える、ことを特徴とする請求項12〜請求項21のいずれか一項に記載された方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−263007(P2010−263007A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111197(P2009−111197)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】