説明

クロック供給回路、半導体システムおよびその設計方法

【課題】ゲーテッドクロック機能を有し、トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できるクロック供給回路を提供する。
【解決手段】クロックゲート回路GCにおけるセレクタ31はイネーブル信号ENがハイレベルのときクロック信号を通過させ、イネーブル信号ENがローレベルのときトグルフリップフロップ21の出力信号を通過させる。トグルフリップフロップ21はイネーブル信号ENが立ち上がり遷移をするごとに記憶値を反転させて出力する。イネーブル信号ENがローレベルに変化するたびにバッファ15,16及びフリップフロップF3,F4の論理レベルはローレベル固定状態とハイレベル固定状態とに交互に切り替えられる。ハイレベル固定期間とローレベル固定期間が同じとみなせ、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の影響は等しくなり、クロックスキューを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路に内蔵された順序回路にクロック信号を供給するクロック供給回路およびそれを含む半導体システムにかかわり、特には、回路の消費電力を削減するためのゲーテッドクロックの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路は、大規模化および高速化に伴い消費電力の増加が大きな問題となっている。従来より、消費電力を削減する技術としてゲーテッドクロックと呼ばれる技術が知られている。この技術を用いた回路では、ある順序回路(記憶素子)にクロック信号を供給する必要がないときには、その順序回路に供給されるクロック信号は、ハイレベルまたはローレベルに固定される。例えば、クロック信号を供給してもフリップフロップの記憶内容が更新されないことが既知であるときなどである。これにより、クロック信号が変化する回数が減少するので、回路の消費電力を削減することができる。
【0003】
図15は、従来のクロック供給回路の構成を示す図である。図15に示すクロック供給回路1は、バッファ11〜16とクロックゲート回路としてのANDゲート20を備えている。クロック供給回路1には、バッファ11を起点としてフリップフロップF1〜F4に至る4本のクロック経路が含まれている。ANDゲート20には、クロック経路上を伝搬するクロック信号CKと、クロック信号CKの伝搬を制御するイネーブル信号ENとが入力される。イネーブル信号ENが“1”のとき、ANDゲート20はクロック信号CKを通過させるので、クロック信号CKはバッファ15,16を経てフリップフロップF3,F4に到達する。これに対して、イネーブル信号ENが“0”のとき、ANDゲート20の出力は“0”に固定されるので、クロック信号CKはフリップフロップF3,F4に到達しない。このように、イネーブル信号ENを“0”に設定することにより、クロック信号CKが変化する回数を減らし、回路の消費電力を削減することができる。
【0004】
なお、クロック供給回路1において、ANDゲート20に代えて、NORゲートを使用してもよい。これは、イネーブル信号ENが“0”のときにクロック信号CKを通過させ、イネーブル信号ENが“1”のときにクロック信号CKの通過を遮断する。
【0005】
ところで、ゲーテッドクロック機能を有するクロック供給回路には、各クロック経路の終端に接続されるフリップフロップどうし間で、クロック信号が到達するまでの遅延時間の差(クロックスキュー)が大きくなるという問題がある。そこで、従来のクロック供給回路では、クロックスキューを抑制するために、クロック経路を等長かつ等段に構成し、フリップフロップ群を各クロック経路に均等に割り当てる方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、クロック経路の差異に起因するクロックスキューを抑制できる。
【特許文献1】特許第3178371号公報(第5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の半導体集積回路では、上記のようなクロック経路の差異に起因するクロックスキューに加えて、トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを考慮する必要が生じている。しかし、従来のクロック供給回路は、トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューに対応していない。
【0007】
以下、PMOSトランジスタの経時劣化に起因して、クロックスキューが発生する理由を説明する。半導体集積回路に含まれるPMOSトランジスタは、負バイアス温度不安定性(NBTI:Negative Bias Temperature Instability)によって経時劣化することが知られている。ここで、NBTIとは、高温の条件下でPMOSトランジスタがオン状態のとき(例えば、ソース電圧およびドレイン電圧が0Vで、ゲート電圧が負バイアスのとき)に、ゲート絶縁膜とシリコン基板との界面に存在する水素が乖離して固定電荷が形成され、これによってしきい値電圧が上昇し、PMOSトランジスタの電流能力が低下する現象をいう。
【0008】
図16、図17を参照して、NBTIがクロック供給回路に及ぼす影響を説明する。図16は、クロックゲート回路を含むクロック経路の回路図である。
【0009】
図16に示す回路に所定の時間Tに亘ってデューティー比50%のクロック信号CKを入力し、クロックをゲーテッドするためのイネーブル信号ENを“0”にした場合を考える。ノードN1〜N3の状態は“0”と“1”を交互に繰り返し、PMOSトランジスタQP1,QP2は、いずれも時間T/2だけオン状態(すなわち、入力信号が“0”の状態)となる。このようにPMOSトランジスタQP1,QP2は、いずれも時間T/2だけNBTIの影響を受けるので、PMOSトランジスタQP1,QP2の電流能力は、初期状態から同じ程度だけ低下する。
【0010】
これに対して、イネーブル信号ENが“0”のときにノードN4,N5,N6の状態は、それぞれ“0”,“1”,“0”に固定される。このとき、PMOSトランジスタQP4は常にオフ状態であるので、NBTIの影響を全く受けないが、PMOSトランジスタQP3は常にオン状態であるので、時間TだけNBTIの影響を受ける。したがって、PMOSトランジスタQP4の電流能力は全く低下しないが、PMOSトランジスタQP3の電流能力は著しく低下する。
【0011】
図17は、図16に示す回路における、時間T経過後にイネーブル信号ENをハイレベルにし、ノードN1〜N6にクロックを供給するときの入出力信号の信号波形図である。
【0012】
図17において、ノードN2およびN5の立上り遅延時間(Tp1およびTp3)はそれぞれPMOSトランジスタQP1およびQP3の電流能力に依存し、ノードN2およびN5の立下り遅延時間(Tn1およびTn3)はそれぞれNMOSトランジスタQN1およびQN3の電流能力に依存する。ノードN3およびN6の立上り遅延時間(Tp2およびTp4)はそれぞれPMOSトランジスタQP2およびQP4の電流能力に依存し、ノードN3およびN6の立下り遅延時間(Tn2およびTn4)はそれぞれNMOSトランジスタQN2およびQN4の電流能力に依存する。
【0013】
上述したように、PMOSトランジスタQP1,QP2の電流能力は初期状態から同じ程度だけ低下し、PMOSトランジスタQP4の電流能力は全く低下せず、PMOSトランジスタQP3の電流能力は著しく低下している。したがって、初期状態で4種類の立上り遅延時間(Tp1,Tp2,Tp3およびTp4)が等しい場合、時間T経過後には、これら4種類の立上り遅延時間には次式(1)が成立するようになる。
【0014】
Tp4<Tp1=Tp2<Tp3 …………(1)
また、図17に示すように、N1からN3までの立上り遅延時間Tr1は(Tn1+Tp2)、立下り遅延時間Tf1は(Tp1+Tn2)であり、N4からN6までの立上り遅延時間Tr2は(Tn3+Tp4)、立下り遅延時間Tf2は(Tp3+Tn4)である。したがって、初期状態および時間T経過後において4種類の立下り遅延時間(Tn1、Tn2、Tn3およびTn4)が等しいとすると、上式(1)から次式(2)が導かれる。
【0015】
Tr2<Tr1=Tf1<Tf2 …………(2)
上式(2)によれば、クロック供給回路に同じ部分回路(例えば、図15に示す回路)が2個含まれている場合において、一方の部分回路には常時クロック信号が供給されており、他方の部分回路には主としてクロック固定信号が供給されている場合には、2個の部分回路の遅延時間は、初期状態では一致していても、時間の経過とともに異なるようになることが分かる。例えば、図15に示すクロック供給回路1において、初期状態ではフリップフロップF1,F3間のクロックスキューがゼロであっても、イネーブル信号ENを“0”にした状態である程度の時間に亘ってクロック信号CKを供給すると、フリップフロップF1,F3間にクロックスキューが発生する。
【0016】
このように、ゲーテッドクロック機能を有するクロック供給回路では、常時クロック信号が供給されているフリップフロップと、主としてクロック固定信号が供給されているフリップフロップとの間で、時間の経過とともにクロックスキューが大きくなる。このクロックスキューは、半導体集積回路が通常に動作している間に徐々に大きくなる。
【0017】
本発明は、このような事情に鑑みて創作したものであり、上記のようなトランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できるクロック供給回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の考え方は、ゲーテッドしたときの固定クロックの論理レベルを常時同一レベルにしておくのではなく、適時にハイレベル固定状態とローレベル固定状態とに切り替えるものである。
【0019】
本発明によるクロック供給回路は、
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前回第2の論理状態の前記制御信号が印加されていたときに出力していた論理レベルの反転信号を出力するクロックゲート回路とを備えたものである。
【0020】
この構成によれば、バッファを介して順序回路に与えるクロック信号の固定化に際して制御信号を第2の論理状態に切り替えるたびに交互に、クロックゲート回路からバッファを介しての順序回路への出力信号をハイレベル固定状態とローレベル固定状態とに切り替えるので、バッファを構成するトランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを長期にわたって抑制することができる。
【0021】
上記構成において、前記クロックゲート回路については、
前記制御信号の論理反転のたびに出力を反転させるトグルフリップフロップと、
前記制御信号の論理に応じて前記クロック信号と前記トグルフリップフロップの出力のいずれか一方を選択して出力するセレクタとで構成されていることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、制御信号を第1の論理状態にするとセレクタはクロック信号を選択し、バッファを介して順序回路にクロック信号を供給する。また、制御信号を第2の論理状態にするとセレクタはトグルフリップフロップの出力を選択する。ここで、制御信号が第2の論理状態になるたびにトグルフリップフロップの出力は論理反転する。セレクタがトグルフリップフロップの出力を選択するごとに、トグルフリップフロップの出力は論理反転している。つまり、セレクタからバッファを介しての順序回路への出力信号をハイレベル固定状態とローレベル固定状態とに交互に切り替えることができる。したがって、経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。クロックゲート回路の構成はトグルフリップフロップとセレクタとでよく、面積増加を抑制しながらクロックスキューの抑制を実現できる。
【0023】
上記構成において、前記セレクタと前記トグルフリップフロップの構成については、次のような好ましいいくつかの態様がある。
【0024】
すなわち、1つは、前記セレクタは、前記制御信号がハイレベルのときに前記クロック信号を選択して出力し、前記制御信号がローレベルのときに前記トグルフリップフロップの出力を選択して出力し、前記トグルフリップフロップは、前記制御信号が立ち上がるときに記憶信号を反転させ出力するという態様である。
【0025】
もう1つは、前記セレクタは、前記制御信号がローレベルのときに前記クロック信号を選択して出力し、前記制御信号がハイレベルのときに前記トグルフリップフロップの出力を選択して出力し、前記トグルフリップフロップは、前記制御信号が立ち下がるときに記憶信号を反転させ出力するという態様である。
【0026】
また、上記構成において、前記クロックゲート回路については、
イネーブル端子に印加される前記クロック信号が第1の論理状態のときデータ入力端子に印加される前記制御信号を出力し、前記イネーブル端子に印加される前記クロック信号が第2の論理状態のときに前記第1の論理状態から前記第2の論理状態に変化する直前に前記データ入力端子に印加されている制御信号を保持して出力するラッチ回路と、
前記ラッチ回路の出力信号の論理反転のたびに出力を反転させるトグルフリップフロップと、
前記ラッチ回路の出力信号の論理に応じて前記クロック信号と前記トグルフリップフロップの出力のいずれか一方を選択して出力するセレクタとで構成されていることが好ましい。
【0027】
この構成によれば、グリッチの影響を防止でき、クロック経路中に含まれるバッファで余計な電力を消費したり、順序回路が誤動作することを防止できる。
【0028】
また、上記の構成において、前記ラッチ回路については、
前記イネーブル端子に印加されるクロック信号がローレベルのときに前記データ入力端子に印加される制御信号を出力し、前記クロック信号がハイレベルのときに前記第1の論理状態から前記第2の論理状態に変化する直前に前記データ入力端子に印加されている前記制御信号を保持して出力し、
前記セレクタは、前記ラッチ回路の出力信号がハイレベルのときに前記クロック信号を選択して出力し、前記出力信号がローレベルのときに前記トグルフリップフロップの出力を選択して出力し、
前記トグルフリップフロップは、前記ラッチ回路の出力信号が立ち上がるときに記憶信号を反転させ出力するように構成されていることは好ましい。
【0029】
また、トグルフリップフロップを備えた上記のクロック供給回路において、前記トグルフリップフロップの出力端子と前記セレクタのデータ入力端子との間に信号を遅延させて出力する遅延素子が挿入されている構成が好ましい。これにより、セレクタのグリッチ発生を確実に防止でき、以降のクロック経路中に含まれるバッファで余計な電力を消費したり、順序回路が誤動作することを防止できる。
【0030】
なお、前記遅延素子の遅延時間は、前記セレクタのセレクタ端子から出力端子までに信号が伝わる遅延時間と、前記トグルフリップフロップのトグル端子から出力端子までに信号が伝わる遅延時間との差以上に設定されていることが好ましい。これにより、グリッチの発生を抑制することができる。
【0031】
また、本発明によるクロック供給回路は、
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
制御信号の変化に応じてハイレベルとローレベルをランダムに発生させる乱数発生器と、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、前記制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記乱数発生器から出力されるハイレベルまたはローレベルの乱数を出力するクロックゲート回路とを備えたものである。
【0032】
この構成によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、ハイレベル固定状態とローレベル固定状態とをランダムに切り替える。このため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0033】
また、本発明によるクロック供給回路は、
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
2つ以上の前記順序回路に印加される前記クロック信号の到達時間差を検出するスキュー検出回路と、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記スキュー検出回路の出力に依存した論理状態を出力するクロックゲート回路とを備えたものである。ここで、前記スキュー検出回路は、前記クロック信号が常時印加される順序回路と前記クロック信号がゲーテッドされる順序回路との間の到達時間差を検出するものとする。
【0034】
この構成によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、経時劣化によるクロックスキューが小さくなる方向の信号レベルに固定する。このため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0035】
上記構成において、前記スキュー検出回路と前記クロックゲート回路には同じタイミングの前記クロック信号が供給されることが好ましい。
【0036】
また、本発明によるクロック供給回路は、
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
制御信号が第2の論理状態のときに前記クロック信号のパルスの数を計数し、そのカウント値が一定値に達するごとに出力を反転するクロック信号カウンタと、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、前記制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記クロック信号カウンタからの出力信号を出力するクロックゲート回路とを備えたものである。
【0037】
この構成によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、一定時間経過ごとにハイレベル固定状態とローレベル固定状態とを交互に切り替える。ハイレベル固定期間とローレベル固定期間とは同じとなる。したがって、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを長期にわたって高精度に抑制することができる。
【0038】
また、本発明によるクロック供給回路は、
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
制御信号が第2の論理状態のときに前記制御信号のパルスの数を計数し、そのカウント値が一定値に達するごとに出力を反転する制御信号カウンタと、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、前記制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記制御信号カウンタからの出力信号を出力するクロックゲート回路とを備えたものである。
【0039】
この構成によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、制御信号が幾度か変化するごとにハイレベル固定状態とローレベル固定状態とを交互に切り替える。このため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。また、クロックが固定される期間に周期性がある場合でも、経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0040】
また、本発明によるクロック供給回路は、
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに電源投入信号が印加されるたびに、前回前記電源投入信号が印加されたときに出力していた論理レベルの反転信号を出力するクロックゲート回路とを備えたものである。
【0041】
この構成によれば、半導体集積回路に電源が投入されるごとにハイレベル固定状態とローレベル固定状態とを切り替えるので、電源投入から継続してクロックを停止するような動作を行う場合でも、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0042】
また、本発明によるクロック供給回路は、
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
制御信号が第2の論理状態である時間を計測するタイマーと、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記タイマーで計測される時間が一定の時間に達するごとに反転信号を出力するクロックゲート回路とを備えたものである。
【0043】
この構成によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、一定時間経過ごとにハイレベル固定状態とローレベル固定状態とを交互に切り替えるので、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0044】
また、本発明による半導体システムの設計方法は、上記のいずれかのクロックゲート回路の異種のものの複数がクロック供給経路に配置されている場合に、単位時間当たりに制御信号が印加される頻度、クロックが主にゲーテッドされている期間に順序回路が動作することの可否、前記制御信号の周期性の有無、前記制御信号に対する過渡的遷移の有無等に応じていずれかのクロック供給回路を選択するものである。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、クロックゲート回路からバッファを介しての順序回路への出力信号をハイレベル固定状態とローレベル固定状態とに切り替えるので、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを長期にわたって抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明にかかわるクロック供給回路の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0047】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるクロック供給回路の構成を示す回路図である。図1に示すクロック供給回路1は、バッファ11〜16、フリップフロップF1〜F4、トグルフリップフロップ21、セレクタ(マルチプレクサ)31を備えている。トグルフリップフロップ21とセレクタ31とがクロックゲート回路GCを構成している。図2は、実施の形態1におけるクロック供給回路のタイミングチャートである。
【0048】
クロック供給回路1にはクロック信号CKおよびイネーブル信号ENが印加される。クロックゲート回路GCにおけるセレクタ31はイネーブル信号ENがハイレベルのときクロック信号を通過させ、イネーブル信号ENがローレベルのときトグルフリップフロップ21の出力信号を通過させる。トグルフリップフロップ21はイネーブル信号ENが立ち上がり遷移をするごとに、記憶している値を反転させて出力する。
【0049】
イネーブル信号ENのハイレベル、ローレベルのいかんにかかわらず、フリップフロップF1,F2にはクロック信号CKが供給される。イネーブル信号ENがハイレベルのとき(図2のt2,t4,t6,t8,t10の期間)、フリップフロップF3,F4にもクロック信号CKが供給される。また、イネーブル信号ENがローレベルのとき(図2のt1,t3,t5,t7,t9,t11の期間)、バッファ15,16及びフリップフロップF3,F4にはクロック信号CKは供給されない。
【0050】
バッファ15,16、フリップフロップF3,F4に供給される信号は、ゲーテッドクロックのたびにローレベル固定状態とハイレベル固定状態とを交互に切り替える。図2のt1,t5,t9の期間にはローレベル固定状態とされ、図2のt3,t7,t11の期間にはハイレベル固定状態とされる。経時劣化の影響が無視できなくなるほどの十分長い期間経たときに、ハイレベル固定期間とローレベル固定期間が同じとみなせ、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の影響は等しくなる。
【0051】
以上のように本実施の形態によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、毎回同じ論理レベルで固定するのではなく、ハイレベル固定状態とローレベル固定状態とを交互に切り替える。このため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。この場合、従来のゲーテッドクロックを実現する回路構成に比べトグルフリップフロップを追加するだけでよく、面積の増加を最小限にした上で、上記効果を実現することができる。
【0052】
なお、本実施の形態においてはクロック信号CKがハイレベルからローレベルに変化するときにトグルフリップフロップ21の出力が変化する構成としたが、クロック信号CKがローレベルからハイレベルに変化するときに出力が変化する構成としてもよい。
【0053】
(実施の形態2)
上記の実施の形態1の場合においては、図4(a)のタイミングチャートに示すように、イネーブル信号ENがクロック信号CKの立ち上がりや立ち下がりのタイミングと無関係に変化するときは、イネーブル信号ENが変化すると同時にノードN4が変化するため、本来のクロック信号CKのパルス幅より小さなエラーパルスErr1,Err2,Err3が発生してしまう。また、イネーブル信号ENに一時的に変化して元に戻るグリッチ信号が加わった場合、セレクタ31以降のクロック経路にグリッチ信号が伝播してしまう。また、イネーブル信号ENがローレベルからハイレベルに変化する際、セレクタ31の出力がクロック信号CKに切り替わる前にトグルフリップフロップ21の出力が変化する場合、セレクタ31の出力にグリッチが発生する。その結果として、経路の先のフリップフロップF3,F4が誤動作してしまう可能性がある。また、以降の経路に含まれるバッファで余計な電力を消費する。この不都合に対応したのが本発明の実施の形態2である。
【0054】
図3は、本発明の実施の形態2におけるクロック供給回路の構成を示す回路図である。図3において、実施の形態1の図1におけるのと同じ符号は同一構成要素を指しているので、詳しい説明は省略する。本実施の形態においては、クロックゲート回路GCがラッチ41とトグルフリップフロップ21とセレクタ31と遅延バッファ51,52とで構成されている。ラッチ41は、クロック信号CKがローレベルのときにイネーブル信号ENを通過させ、クロック信号CKがハイレベルのときに、クロック信号CKがローレベルからハイレベルに遷移する直前のイネーブル信号ENの値を保持する。すなわち、出力ノードN10の変化タイミングをクロック信号CKの立ち下がりタイミングに同期化する。
【0055】
クロックゲート回路GCにおけるセレクタ31はラッチ41の出力ノードN10がハイレベルのときクロック信号を通過させ、出力ノードN10がローレベルのときはトグルフリップフロップ21の出力信号を通過させる。トグルフリップフロップ21は出力ノードN10が立ち上がり遷移をするごとに、記憶している値を反転させて出力する。
【0056】
ノードN10の信号がハイレベルのとき、フリップフロップF3,F4にもクロック信号CKが供給され、ノードN10の信号がローレベルのとき、バッファ15,16及びフリップフロップF3,F4にはクロック信号CKは供給されない。
【0057】
ゲーテッドクロック時のバッファ15,16、フリップフロップF3,F4に供給される信号はローレベル固定状態とハイレベル固定状態とを交互に切り替える。ハイレベル固定期間とローレベル固定期間が同じとみなせる場合、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の影響は等しくなる。
【0058】
本実施の形態のクロック供給回路の動作を図4(b)のタイミングチャートを用いて説明する。
【0059】
イネーブル信号ENが変化したのち、クロック信号CKが立ち下がるタイミングでラッチ41の出力ノードN10が変化する。すなわち、ラッチ41は、出力ノードN10の変化タイミングをクロック信号CKの立ち下がりタイミングに同期化している。その結果、本来のクロック信号CKと同じパルス幅のパルスがセレクタ31の出力ノードN4に出力される。これにより、フリップフロップF3,F4が誤動作してしまう可能性を防止することができる。
【0060】
また、クロック信号CKがハイレベルのときにイネーブル信号ENにグリッチ信号が変化してもセレクタ31以降のクロック経路中に含まれる遅延バッファ51,52の存在により、余計な電力を消費したり、フリップフロップが誤動作することを防止できる。
【0061】
また、遅延バッファ51,52の遅延時間とトグルフリップフロップ21の遅延時間の和がセレクタ31の遅延時間以上になるように設計することにより、セレクタ31の出力が変化した後にトグルフリップフロップ21の出力がセレクタ31に印加されるため、グリッチが発生しない。よって、セレクタ31以降のクロック経路中に含まれるバッファで余計な電力を消費したり、フリップフロップが誤動作することを防止できる。
【0062】
以上のように本実施の形態によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、ハイレベル固定状態とローレベル固定状態とを交互に切り替えるので、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。さらに、セレクタ31以降のグリッチ発生を防止でき、以降のクロック経路中に含まれるバッファで余計な電力を消費したり、フリップフロップが誤動作することを防止できる。
【0063】
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3におけるクロック供給回路の構成を示す回路図である。図5において、実施の形態1の図1におけるのと同じ符号は同一構成要素を指しているので、詳しい説明は省略する。本実施の形態においては、クロックゲート回路GCが乱数発生器61とセレクタ31とで構成されている。乱数発生器61は、イネーブル信号ENの変化に応じてハイレベルとローレベルをランダムに発生させる。一定の期間を経たとき、乱数発生器61の発生するハイレベルとローレベルの個数はほぼ同数になるものとする。ハイレベル固定期間とローレベル固定期間が同じとみなせる場合、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の影響は等しくなる。
【0064】
以上のように本実施の形態によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、ハイレベル固定状態とローレベル固定状態とをランダムに切り替える。このため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0065】
(実施の形態4)
図6は、本発明の実施の形態4におけるクロック供給回路の構成を示す回路図である。図6において、実施の形態1の図1におけるのと同じ符号は同一構成要素を指しているので、詳しい説明は省略する。本実施の形態においては、クロックゲート回路GCがスキュー検出回路71とセレクタ31とで構成されている。スキュー検出回路71は、常にクロック信号CKが印加されるフリップフロップF2と、クロック信号CKがゲーテッドされるフリップフロップF4との間のクロックスキューを検出する。
【0066】
図7はスキュー検出回路71の回路構成を示す。これは、PLL(Phase Locked Loop:位相同期回路)などで一般的に使用される既知の回路で構成した例である。A,B,Cは入力信号、OUTは出力信号、OIDは内部信号、OR1,OR2はOR回路、NAND1,NAND2はNAND回路、AND1〜AND4はAND回路、NOR1,NOR2はNOR回路、INV1〜INV6はインバータ回路、F5はフリップフロップである。QP10はPMOSトランジスタ、QN10はNMOSトランジスタである。
【0067】
図8は図7に示すスキュー検出回路71のタイミングチャートを示す。
【0068】
入力信号Bの立ち上がり遷移よりも入力信号Aの立ち上がり遷移の方が早いとき、内部ノードOIDにローレベルを出力し、入力信号Bの立ち上がり遷移よりも入力信号Aの立ち上がり遷移の方が遅いとき、内部ノードOIDにハイレベルを出力する。また、入力信号Cが立ち上がるタイミングに合わせて内部ノードOIDの信号を出力OUTに出力する。
【0069】
スキュー検出回路71は、ゲーテッド部に供給されるクロック信号CKを受け、タイミングを合わせて出力する。検出されたスキューの値を基に、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の程度が同じになるようにクロック固定の論理レベルを変化させる。以下この点について詳細に説明する。
【0070】
図17に示すとおり、バッファの入力をローレベルで固定した場合、立ち上がり遅延時間Tr2は常時クロックが印加されている場合に比べて小さくなる。反対に、バッファの入力をハイレベルで固定した場合、立ち上がり遅延時間Tr2は常時クロックが印加されている場合に比べて大きくなる。
【0071】
よって、フリップフロップF2への信号到達時間よりフリップフロップF4への信号到達時間の方が遅い場合、クロックを停止する際にローレベルで固定する。逆にフリップフロップF2への信号到達時間よりフリップフロップF4への信号到達時間の方が早い場合、クロックがゲーテッドされるときにハイレベルで固定する。これにより、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0072】
以上のように本実施の形態によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、経時劣化によるクロックスキューが小さくなる方向の信号レベルに固定する。このため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0073】
なお、本実施の形態ではスキュー検出回路71はゲーテッド部に入力されるクロック信号CKを受けてそのタイミングに合わせて出力するように実現したが、スキュー検出回路71とクロックゲート回路GCで遅延差が小さい場合にはフリップフロップに供給されるクロック信号CKのタイミングに合わせてもよい。
【0074】
(実施の形態5)
図9は、本発明の実施の形態5におけるクロック供給回路の構成を示す回路図である。図9において、実施の形態1の図1におけるのと同じ符号は同一構成要素を指しているので、詳しい説明は省略する。本実施の形態においては、クロックゲート回路GCがクロック信号カウンタ81とセレクタ31とで構成されている。クロック信号カウンタ81は、イネーブル信号ENがローレベルの期間に印加されるクロック信号CKのパルス数をカウントし、一定値に達するたびに出力を反転させる。これにより、ハイレベル固定期間とローレベル固定期間は同じになり、結果、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の影響は等しくなる。
【0075】
以上のように本実施の形態によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、ハイレベル固定状態とローレベル固定状態とを同じ期間だけ交互に切り替える。このため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0076】
なお、上記構成では、フリップフロップF3,F4が動作を行う遷移、たとえば、クロックの立ち上がり遷移が発生するが、長期間ゲーテッドされている回路については、状態の保持を必要としない場合も多いので支障はない。ゲーテッド時にフリップフロップが動作してはいけない場合は、ゲーテッドされる先のフリップフロップにはホールド機能付きのものを用い、ゲーテッドされる期間は動作しないように設計する。
【0077】
また、本実施の形態ではクロック信号CKのパルス数をカウントすることによりハイレベル固定期間とローレベル固定期間が均一になるようにしたが、カウンタの代わりに半導体集積回路に組み込まれたタイマー、または外部から供給される時間情報を用いてハイレベル固定期間とローレベル固定期間が均一になるようにしてもよい。
【0078】
(実施の形態6)
図10は、本発明の実施の形態6におけるクロック供給回路の構成を示す回路図である。図10において、実施の形態1の図1におけるのと同じ符号は同一構成要素を指しているので、詳しい説明は省略する。本実施の形態においては、クロックゲート回路GCが2ビットの制御信号カウンタ82とセレクタ31とで構成されている。制御信号カウンタ82は、イネーブル信号ENのパルス数をカウントし、2パルス検出するごとに出力を反転させる。これにより、イネーブル信号ENがローレベルとなる期間に周期性があったときでも、長期的に見た場合、ハイレベル固定期間とローレベル固定期間は同じになり、結果、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の影響は等しくなる。
【0079】
以下、この点について図11のタイミングチャートを用いて詳細に説明する。
【0080】
イネーブル信号ENは一定期間Tの間ローレベルになり、次にローレベルに変化したときは2Tの期間ローレベルとなり、また次に変化したときはTの期間ローレベルとなることを繰り返すものとする。このとき、実施の形態1における図1のクロック供給回路においては、バッファ15,16の入力であるノードN4はハイレベル固定期間は合計2Tであり、ローレベル固定期間は4Tとなる。長期間経った後、バッファ15,16の入力がローレベル固定期間とハイレベル固定期間が異なるため、結果、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の影響は異なる。
【0081】
これに対し、このとき、本実施の形態における図10のクロック供給回路においては、バッファ15,16の入力であるノードN4はハイレベル固定期間は3Tであり、ローレベル固定期間は3Tと等しくなる。よって、長期間経った後、バッファ15,16の入力がローレベル固定期間とハイレベル固定期間が等しくなる。結果、バッファ13,14とバッファ15,16のNBTIによる遅延劣化の影響は異なる。
【0082】
以上のように本実施の形態によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、イネーブル信号が幾度か変化するごとにハイレベル固定状態とローレベル固定状態とに交互に切り替える。このため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。また、クロックが固定される期間に周期性がある場合でも、経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0083】
なお、イネーブル信号ENにより高次の周期性がある場合、カウンタのビット数を上げることで上記と同様の効果を得ることができる。
【0084】
(実施の形態7)
ゲーテッドクロック機能を有するクロック供給回路を含む半導体集積回路が搭載される機器において、半導体集積回路に電源が供給されてから継続してクロックを停止するような動作を行う場合もある。このような場合、実施の形態1〜3、実施の形態6では、毎回同じ論理レベルでバッファ15,16の入力レベルが固定されることになる。そのため、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューが増大してしまう。この不都合に対応したのが本発明の実施の形態7である。
【0085】
図12は、本発明の実施の形態7におけるクロック供給回路の構成を示す回路図である。図12において、実施の形態1の図1におけるのと同じ符号は同一構成要素を指しているので、詳しい説明は省略する。本実施の形態においては、クロックゲート回路GCが制御回路91、不揮発性メモリ92およびセレクタ31で構成されている。制御回路91は、半導体集積回路に電源が投入されたことを知らせる電源投入信号VONを受け、不揮発性メモリ92に記録された前回電源投入信号VONが印加されたときの状態に依存して、セレクタ31に信号を供給する。電源投入信号VONが印加されるとき、不揮発性メモリ92の内容を書き換える。半導体集積回路に電源が投入されてから継続してクロックを停止するような動作を行う場合でも、電源投入ごとに固定レベルを変化させる。
【0086】
以上のように本実施の形態によれば、クロック信号の供給を遮断すべきバッファに対して、電源が投入されるごとにハイレベル固定状態とローレベル固定状態とを切り替える。このため、半導体集積回路に電源が投入されてから継続してクロックを停止するような動作を行う場合でも、電源投入ごとに固定レベルを変化させるので、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できる。
【0087】
(実施の形態8)
図13は、本発明の実施の形態8における半導体システムの設計方法を示すフローチャートである。この半導体システムの設計方法100は、判別手段111〜114、クロック供給回路選択結果121〜125からなる。ここで、クロック供給回路を搭載した半導体システムに電源が供給される平均期間をT1とし、クロック供給回路に印加されるイネーブル信号ENが変化する平均周期をT2とする。
【0088】
判別手段111において、クロック供給回路を搭載する半導体システムに電源が供給される想定平均期間T1よりクロック供給回路に印加されるイネーブル信号ENが変化する平均周期をT2の方が大きい(T2>T1)であるか否かを判定する。判定結果がYesの場合(図13の121)、実施の形態7に示すクロック供給回路を選択する。
【0089】
判別手段111の判定結果がNoの場合、判別手段112に移る。判別手段112において、イネーブル信号ENがローレベルで主にバッファ15,16の入力レベルが固定される場合に、その先のフリップフロップF3,F4がシステム上動作して良いか否かを判定する。判定結果がYesの場合、実施の形態4または実施の形態5のクロック供給回路を選択する。
【0090】
判別手段112の判定結果がNoの場合、判別手段113に移る。判別手段113において、イネーブル信号ENに周期性があるか否かを判定する。判定結果がYesの場合、実施の形態6のクロック供給回路を選択する。
【0091】
判別手段113の判定結果がNoの場合、判別手段114に移る。判別手段114において、イネーブル信号ENに過渡的に変化する信号(グリッチ)が発生する可能性があるか否かを判定する。判定結果がYesの場合、実施の形態2のクロック供給回路を選択する。
【0092】
判別手段114の判定結果がNoの場合、実施の形態1または実施の形態3のクロック供給回路を選択する。
【0093】
以上のように本実施の形態の半導体システムの設計方法によれば、イネーブル信号の周期やグリッチの有無、クロックがゲーテッドされている期間のフリップフロップの動作の可否などに応じて最適なクロック供給回路の構成を選択できる。これにより、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制した半導体システムを設計することができるとともに、回路面積を削減することができる。
【0094】
(実施の形態9)
図14は、本発明の実施の形態9における半導体システムの構成を示す図である。この半導体システム130は、クロック供給回路1,2、バッファ11〜20,22,23、フリップフロップF1〜F8、トグルフリップフロップ21、セレクタ31,32、制御信号カウンタ82を備えている。
【0095】
イネーブル信号EN1はクロック信号CKの立ち下がりに同期して変化し、かつ周期性の無い信号である。またイネーブル信号EN2はクロック信号CKの立ち下がりに同期して変化し、かつ図11に示すイネーブル信号ENのように周期性のある信号である。このとき、イネーブル信号EN1によって制御されるクロック供給回路1には実施の形態1で示す回路を用い、イネーブル信号EN2によって制御されるクロック供給回路2には実施の形態6で示す回路を用いる。
【0096】
一般的に制御信号カウンタ82はトグルフリップ2個で構成されるため、実施の形態1で示すクロック供給回路は、実施の形態6で示すクロック供給回路よりも少ない回路で済み、チップ面積が小さい。よって、イネーブル信号ENの特性に応じてクロック供給回路の構成を選択することにより、例えば全てのクロック供給回路を実施の形態6で示す回路で構成するよりもチップ面積を小さくすることができる。
【0097】
以上のように本実施の形態における半導体システムによれば、イネーブル信号の周期やグリッチの有無、クロックがゲーテッドされている期間のフリップフロップの動作の可否などに応じて最適なクロック供給回路を複数搭載して構成する。これにより、バッファ構成トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制した半導体集積回路を設計することができるとともに、回路面積を削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のクロック供給回路は、トランジスタの経時劣化に起因するクロックスキューを抑制できるので、システム・オン・チップなど、ゲーテッドクロック方式を採用した各種の半導体集積回路に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施の形態1におけるクロック供給回路の構成を示す回路図
【図2】本発明の実施の形態1におけるクロック供給回路の動作を示すタイミングチャート
【図3】本発明の実施の形態2におけるクロック供給回路の構成を示す回路図
【図4】本発明の実施の形態1と実施の形態2におけるクロック供給回路の動作を示すタイミングチャート
【図5】本発明の実施の形態3におけるクロック供給回路の構成を示す回路図
【図6】本発明の実施の形態4におけるクロック供給回路の構成を示す回路図
【図7】本発明の実施の形態4におけるスキュー検出回路の構成を示す回路図
【図8】本発明の実施の形態4におけるスキュー検出回路の動作を示すタイミングチャート
【図9】本発明の実施の形態5におけるクロック供給回路の構成を示す回路図
【図10】本発明の実施の形態6におけるクロック供給回路の構成を示す回路図
【図11】本発明の実施の形態6におけるクロック供給回路の動作を示すタイミングチャート
【図12】本発明の実施の形態7におけるクロック供給回路の構成を示す回路図
【図13】本発明の実施の形態8における半導体システムの設計方法の手順を示すフローチャート
【図14】本発明の実施の形態9における半導体システムの構成を示す回路図
【図15】従来のクロック供給回路の構成を示す回路図
【図16】従来のクロック供給回路の構成を示す回路図
【図17】従来のクロック供給回路の動作を示すタイミングチャート
【符号の説明】
【0100】
1,2 クロック供給回路
11〜16,20,22,23 バッファ
F1〜F8 フリップフロップ
21 トグルフリップフロップ
31,32 セレクタ(マルチプレクサ)
41 ラッチ
51,52 遅延バッファ
61 乱数発生器
71 スキュー検出回路
81 クロック信号カウンタ
82 制御信号カウンタ
91 制御回路
92 不揮発性メモリ
100 半導体集積回路の設計方法
111〜114 判別手段
121〜125 クロック供給回路選択結果
CK クロック信号
EN,EN1,EN2 イネーブル信号(制御信号)
GC クロックゲート回路
N1〜N6 ノード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前回第2の論理状態の前記制御信号が印加されていたときに出力していた論理レベルの反転信号を出力するクロックゲート回路とを備えたクロック供給回路。
【請求項2】
前記クロックゲート回路は、
前記制御信号の論理反転のたびに出力を反転させるトグルフリップフロップと、
前記制御信号の論理に応じて前記クロック信号と前記トグルフリップフロップの出力のいずれか一方を選択して出力するセレクタとで構成されている請求項1に記載のクロック供給回路。
【請求項3】
前記セレクタは、前記制御信号がハイレベルのときに前記クロック信号を選択して出力し、前記制御信号がローレベルのときに前記トグルフリップフロップの出力を選択して出力し、
前記トグルフリップフロップは、前記制御信号が立ち上がるときに記憶信号を反転させ出力する請求項2に記載のクロック供給回路。
【請求項4】
前記セレクタは、前記制御信号がローレベルのときに前記クロック信号を選択して出力し、前記制御信号がハイレベルのときに前記トグルフリップフロップの出力を選択して出力し、
前記トグルフリップフロップは、前記制御信号が立ち下がるときに記憶信号を反転させ出力する請求項2に記載のクロック供給回路。
【請求項5】
前記クロックゲート回路は、
イネーブル端子に印加される前記クロック信号が第1の論理状態のときデータ入力端子に印加される前記制御信号を出力し、前記イネーブル端子に印加される前記クロック信号が第2の論理状態のときに前記第1の論理状態から前記第2の論理状態に変化する直前に前記データ入力端子に印加されている制御信号を保持して出力するラッチ回路と、
前記ラッチ回路の出力信号の論理反転のたびに出力を反転させるトグルフリップフロップと、
前記ラッチ回路の出力信号の論理に応じて前記クロック信号と前記トグルフリップフロップの出力のいずれか一方を選択して出力するセレクタとで構成されている請求項1に記載のクロック供給回路。
【請求項6】
前記ラッチ回路は、前記イネーブル端子に印加されるクロック信号がローレベルのときに前記データ入力端子に印加される制御信号を出力し、前記クロック信号がハイレベルのときに前記第1の論理状態から前記第2の論理状態に変化する直前に前記データ入力端子に印加されている前記制御信号を保持して出力し、
前記セレクタは、前記ラッチ回路の出力信号がハイレベルのときに前記クロック信号を選択して出力し、前記出力信号がローレベルのときに前記トグルフリップフロップの出力を選択して出力し、
前記トグルフリップフロップは、前記ラッチ回路の出力信号が立ち上がるときに記憶信号を反転させ出力する請求項5に記載のクロック供給回路。
【請求項7】
前記トグルフリップフロップの出力端子と前記セレクタのデータ入力端子との間に信号を遅延させて出力する遅延素子が挿入されている請求項2から請求項6までのいずれかに記載のクロック供給回路。
【請求項8】
前記遅延素子の遅延時間は、前記セレクタのセレクタ端子から出力端子までに信号が伝わる遅延時間と、前記トグルフリップフロップのトグル端子から出力端子までに信号が伝わる遅延時間との差以上に設定されている請求項7に記載のクロック供給回路。
【請求項9】
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
制御信号の変化に応じてハイレベルとローレベルをランダムに発生させる乱数発生器と、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、前記制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記乱数発生器から出力されるハイレベルまたはローレベルの乱数を出力するクロックゲート回路とを備えたクロック供給回路。
【請求項10】
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
2つ以上の前記順序回路に印加される前記クロック信号の到達時間差を検出するスキュー検出回路と、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記スキュー検出回路の出力に依存した論理状態を出力するクロックゲート回路とを備えたクロック供給回路。
【請求項11】
前記スキュー検出回路は、前記クロック信号が常時印加される順序回路と前記クロック信号がゲーテッドされる順序回路との間の到達時間差を検出する請求項10に記載のクロック供給回路。
【請求項12】
前記スキュー検出回路と前記クロックゲート回路には同じタイミングの前記クロック信号が供給される請求項10または請求項11に記載のクロック供給回路。
【請求項13】
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
制御信号が第2の論理状態のときに前記クロック信号のパルスの数を計数し、そのカウント値が一定値に達するごとに出力を反転するクロック信号カウンタと、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、前記制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記クロック信号カウンタからの出力信号を出力するクロックゲート回路とを備えたクロック供給回路。
【請求項14】
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
制御信号が第2の論理状態のときに前記制御信号のパルスの数を計数し、そのカウント値が一定値に達するごとに出力を反転する制御信号カウンタと、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、前記制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記制御信号カウンタからの出力信号を出力するクロックゲート回路とを備えたクロック供給回路。
【請求項15】
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに電源投入信号が印加されるたびに、前回前記電源投入信号が印加されたときに出力していた論理レベルの反転信号を出力するクロックゲート回路とを備えたクロック供給回路。
【請求項16】
クロック信号を分岐させそれぞれバッファを介して複数の順序回路に供給する複数のクロック供給経路と、
制御信号が第2の論理状態である時間を計測するタイマーと、
少なくとも1つの前記クロック供給経路に挿入され、制御信号が第1の論理状態のときに前記クロック信号を通過させ、前記制御信号が第2の論理状態のときに前記タイマーで計測される時間が一定の時間に達するごとに反転信号を出力するクロックゲート回路とを備えたクロック供給回路。
【請求項17】
請求項1から請求項16までのいずれかに記載のクロックゲート回路の異種のものの複数がクロック供給経路に配置されている場合に、単位時間当たりに制御信号が印加される頻度、クロックが主にゲーテッドされている期間に順序回路が動作することの可否、前記制御信号の周期性の有無、前記制御信号に対する過渡的遷移の有無等に応じていずれかのクロック供給回路を選択することを特徴とする半導体システムの設計方法。
【請求項18】
請求項17に記載の半導体システムの設計方法により構成された半導体システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−211494(P2006−211494A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23044(P2005−23044)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】