説明

ダイヤモンド半導体素子及びその製造方法

【課題】耐電圧、耐熱性、耐放射線性、及び高速性が優れ、かつ、チャネル領域を短くでき、素子の応答性が高いダイヤモンド半導体素子を高精度で製造できる半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】第1のダイヤモンド半導体領域1の表面上に、絶縁膜2と多層金属電極層3と犠牲層4とを積層し、犠牲層4上に、局所的にレジスト5をパターン形成する。多層金属電極層3の最上層は、Pt又はPt合金により形成する。そして、レジスト5をマスクとして第1の犠牲層、多層金属電極層及び絶縁膜をエッチングした後、レジスト5を除去して、第1のダイヤモンド半導体領域1上に絶縁膜2と金属電極層3と第1の犠牲層4との積層体をパターン形成する。その後、第1のダイヤモンド半導体領域1上に、不純物の高濃度ドープ層7を形成する。その後、犠牲層4をエッチング除去し、高濃度ドープ層7上に金属電極8を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド薄膜を使用した電界効果トランジスタ等のダイヤモンド半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、その熱伝導率(20W/cm・K)、バンドギャップ(5.47eV)、飽和電子及びホール移動度(電子:2000cm/V・s、正孔:2100cm/V・s)といったデバイス特性が優れているため、高温及び放射線下で動作する電子デバイス、ハイパワーデバイス及び高周波デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
ダイヤモンド薄膜を用いた電界効果トランジスタ(FET)の1構造として、ゲート電極と動作層、即ちチャネル層との間に、絶縁層を挿入したMISFETが提案されている(特許文献1)。この特許文献1に記載されたMISFETは、ノーマリーオン形である。即ち、ゲート電位がソース電位に対して正になることによって、ドレイン電流が抑制されるしくみとなっている。小さなゲート電位の入力で、ドレイン電流を大きく変化させるためには、即ち、相互コンダクタンスを大きくするためには、ゲート電位の影響をチャネル中の深い領域まで及ぼさせ、キャリアの空乏領域を大きく広げる必要がある。このためには、ドナ又はアクセプタ濃度をある程度低く抑え、かつチャネル層の厚さはゲート電位の影響が及ぶ範囲以内に薄くしなければならない。一方、ドレイン電流を確保するためには、ドナ又はアクセプタ不純物の濃度を高くし、キャリア濃度を上げなければならないという相反する要求がある。
【0004】
また、特許文献2においても、この特許文献2の図1に示すように、金属/絶縁性ダイヤモンド/半導体ダイヤモンド構造をゲート部に持つ電界効果トランジスタが提案されている。この特許文献2における絶縁性ダイヤモンドは、チャネル層である半導体ダイヤモンド層とゲート金属との間を絶縁する役割を担っている。トランジスタの動作機構は、特許文献1の場合とほぼ同様である。
【0005】
ダイヤモンドが本来持つ高い移動度は、不純物及び結晶欠陥を極力なくして、初めて発現するものである。しかしながら、上述の従来のMISFETのように、チャネル層のキャリア源を確保するために、ドナ又はアクセプタをある程度の濃度でドーピングを行う必要がある構造では、不純物濃度の増加と共に、キャリア移動度が低くなるため、高周波応答性等が悪化することは免れない。
【0006】
これに対し、チャネル層の不純物濃度を極力抑え、高周波用トランジスタへの応用を可能にした構造として、チャネル層として高抵抗ダイヤモンド層を使用した構造の電界効果トランジスタが開示されている(特許文献3)。即ち、この特許文献3には、ソース電極4に接触した第1の半導体ダイヤモンド層1と、ドレイン電池6に接触し、第1の半導体ダイヤモンド層1と同一導電形の第2の半導体ダイヤモンド層3とを有し、高抵抗ダイヤモンド層2が、第1及び第2の半導体ダイヤモンド層1、3の間に設けられ、ゲート電極5の作用を受ける電界効果トランジスタが開示されている。この高低抗ダイヤモンド層2の比抵抗は100Ω・cm以上である。
【0007】
このトランジスタの場合、特許文献3の図1に示されているように、ソース電極4からドレイン電極6に到達するキャリアは半導体ダイヤモンド層1、高抵抗ダイヤモンド層2及び半導体ダイヤモンド層3をこの順に流れる。そして、ゲート電極5に印加する電圧Vを変化させることにより、高低抗ダイヤモンド層2のポテンシャルを変化させ、ソース電極4が接触する半導体ダイヤモンド層1から高抵抗ダイヤモンド層2へのキャリアの注入量を制御するようになっている。従って、前記MISFET等とは異なり、チャネル層7に空乏層を拡げてドレイン電流を制御する機構を有しないので、低ドーピング濃度で薄いダイヤモンドチャネル層を形成する必要はない。
【0008】
以上の従来の半導体素子は、電界効果トランジスタの構造を基本としている。即ち、チャネル領域を挟んでソース電極及びドレイン電極があり、チャネル領域に接してゲート電極が設けられている。金属のソース電極及びドレイン電極とチャネル領域との接触抵抗は電力損失の原因となるため、接触領域には高濃度ドープ半導体を設けることによりオーミック接合を形成することが一般的に行われている。一方、チャネルとゲート電極との間に漏れ電流があると、増幅率低下等の性能低下を引き起こす。これを防ぐために、チャネルとゲート電極との間には、絶縁層を挿入するか、又はショットキー接合界面を形成することが一般的に行われている。
【0009】
例えば、特許文献4には、絶縁性ダイヤモンド単結晶基板上にソース・ドレインとなる半導体ダイヤモンド層を形成し、これらの上にチャネル層となる低濃度Bドープp形半導体ダイヤモンド薄膜を形成し、チャネル層の上に絶縁膜を形成した後、ソース・ドレイン間にゲート電極を形成する半導体素子の製造方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献5には、第1ダイヤモンド層上に、ソース・ドレイン電極形状の選択成長用マスク材料層を形成し、第2ダイヤモンド層を成長初期よりも成長終期において幅が太くなるように形成した後、前記マスク材料層を除去し、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を形成する方法が記載されている。
【0011】
更に、特許文献6には、基板上にp形ドーパントを含むダイヤモンド層が形成されており、このダイヤモンド層上にソース電極、ドレイン電極及びゲート電極が形成された半導体素子において、前記ダイヤモンド層における前記ゲート電極と接触する表面領域に、n形ドーパントが含まれる介在領域が設けられている半導体素子が開示されている。
【0012】
ところで、電界効果トランジスタの性能を向上させるには、チャネル領域を短くする必要がある。トランジスタの性能指標として、流れる電流量があり、高い性能を有するトランジスタを実現するためにはより高い電流量を得ることが求められる。電流量は単位時間あたりに流れる電荷数であるので、高い電流量を得るためには電荷の流れる領域、即ちチャネル領域を極力短くすることが効果的である。
【0013】
しかし、チャネル領域を短くしていくにつれ、その加工精度への要求がますます厳しくなる。電界効果トランジスタのような素子は、成膜及びエッチング等の複数の工程を経て作製される。これらの各工程毎に夫々必要な形状のパターンを加工し、お互いのパターン位置を合わせる(アライメントする)ことで、素子が形成される。従って、単一工程の加工精度の向上は勿論のこと、各工程間での位置合わせ(アライメント)精度の制御も重要なポイントである。
【0014】
この位置合わせ加工精度を克服するために、シリコン半導体においては、前記電界効果トランジスタのゲート電極、ソース電極及びドレイン電極等は自己整合的に形成する方法を使用する。即ち、ゲート電極を形成した後、これをマスクとしてイオン注入により高濃度ドープすることで、ゲート電極とアライメントされたソース電極及びドレイン電極を形成することが可能である。
【0015】
しかし、ダイヤモンドの場合、この方法をそのまま適用することはできない。即ち、高濃度ドープ層を得るためにダイヤモンド中へ不純物イオンを注入すると、注入された領域は結晶構造が破壊され、ダイヤモンドからグラファイトへと変化してしまう。これは続く熱処理工程等では回復させることができない。従って、シリコン半導体のようなプロセスをそのまま半導体ダイヤモンドに適用することは不可能である。
【0016】
特許文献4に記載の半導体素子においては、ゲートとソース・ドレインとの間隔を小さくすることが困難である。
【0017】
また、特許文献5に記載の半導体素子においては、ひさしとなるダイヤモンド層の下にも蒸着金属が回り込み、ゲートとソース・ドレインとの間隔制御が困難である。
【0018】
更に、特許文献6に記載の半導体素子においては、チャネル領域に不純物をドープしたダイヤモンド層を使用するので、キャリアの移動度を高めることができない。更に、不純物をドープするためにイオン注入及びNHプラズマを照射しているが、この方法ではダイヤモンド層へのダメージの問題がある。イオン注入後に熱処理を施すことにより、ダメージの改善の傾向は見られるが、イオン注入で、一度結晶構造が破壊されると、実質的にこれを回復することは不可能である。また、ソース・ドレインに対して介在領域をセルフアラインで形成できるものの、その後にゲート電極を形成するため、ゲートと、ソース・ドレインとの間隔を高精度にアライメントすることは困難である。
【0019】
これらの従来技術の問題点を解決するために、本願発明者等は、特許文献7において、ゲート電極を自己整合的に(セルフアラインで)形成することにより、加工精度を改善し、性能が高いダイヤモンド半導体素子の製造方法を提案した。
【0020】
図8は、この特許文献7において、本願発明者等が提案したダイヤモンド半導体素子の製造方法の一例をその工程順に示す図である。図8に示すように、特許文献7の技術においては、ダイヤモンド半導体領域1上に絶縁膜2及びゲート電極層3の積層体を形成した(図8(a)乃至図8(e))後に、ソース電極及びドレイン電極を形成するための第2及び第3の半導体領域7aを形成する(図8(f)乃至図8(j))ことにより、絶縁膜2とゲート電極層3との積層体に対して第2及び第3の半導体領域の位置を自己整合的に決めることができる。また、特許文献7に記載の如く、素子の半導体領域をダイヤモンドで形成することにより、耐電圧、耐熱性、耐放射性及び高速性等に優れた半導体素子を得ることができ、チャネル領域の長さを短くすることにより、素子の応答性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平1−158774号公報
【特許文献2】特開平3−263872号公報
【特許文献3】特開平6−232388号公報
【特許文献4】特開2002−57167号公報(図2)
【特許文献5】特開平5−29609号公報(図1)
【特許文献6】特許第3269510号公報(図1,3,5,6)
【特許文献7】特開2007−141974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、本願発明者等が特許文献7において提案した技術を用いた場合においても、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域となる(不純物をドープした)ダイヤモンド膜の形成時に、例えばゲート電極層に使用する材料の選択によっては、ゲート電極層が劣化し、ダイヤモンド半導体素子の加工精度が低下する場合があることが分かった。従来、特許文献7に記載のダイヤモンド膜の形成工程においては、例えばプラズマ放電、高温雰囲気、高濃度のドーピングガス、長時間のドーピング処理等により、ゲート電極層は劣化しやすい条件下におかれる。このような場合においても、本願発明者等が提案した特許文献7の技術は、例えばダイヤモンド膜の形成条件を調整することにより、ゲート電極層の劣化を防止することができる。しかしながら、その一方で、半導体デバイスの性能の向上を目的として、ダイヤモンド膜の形成条件を、例えば使用する基板の種類又は半導体デバイスの性能によって調整することが必要になった場合、ダイヤモンド膜の形成条件によっては、ゲート電極層の劣化を防止することができない場合が生じてしまい、ダイヤモンド半導体素子の加工精度低下を防止することができない場合がある。
【0023】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、加工精度を改善し、性能が高いダイヤモンド電界効果トランジスタ等の半導体素子を提供することを目的とし、更に、ダイヤモンド半導体領域としてのダイヤモンド膜の形成時にゲート電極層が劣化することを防止することができ、耐電圧、耐熱性、耐放射線性、及び高速性が優れ、かつ、チャネル領域を短くでき、素子の応答性が高いダイヤモンド半導体素子を高精度で製造できる半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係るダイヤモンド半導体素子の製造方法は、第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層とを積層した上に、更に第1の犠牲層を積層する工程と、前記第1の犠牲層の表面上に、局所的にレジストをパターン形成する工程と、前記レジストをマスクとして、前記第1の犠牲層、前記多層金属電極層及び前記絶縁膜をエッチングした後、前記レジストを除去することにより、前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層と第1の犠牲層とからなる積層体をパターン形成する工程と、前記積層体の側面に第2の犠牲層を形成する工程と、全面に不純物がドープされたダイヤモンド膜を形成する工程と、前記第1及び第2の犠牲層をエッチングにより除去することによるリフトオフにより前記第1及び第2の犠牲層の上の前記ダイヤモンド膜を除去して、前記第1のダイヤモンド半導体領域の上に残存した前記ダイヤモンド膜により第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程と、前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の表面上に金属電極を形成する工程と、を有し、前記多層金属電極層のうち、最上層をPt又はPt合金により形成することを特徴とする。本発明の多層金属電極層は、例えば真空蒸着、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、スパッタ蒸着及び有機金属CVD(MOCVD)によって、金属膜同士を蒸着することにより、形成することができる。
【0025】
上述のダイヤモンド半導体素子の製造方法において、例えば前記積層体をパターン形成した後に、前記第1の犠牲層をマスクとして前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面を更にエッチングして第1のダイヤモンド半導体領域の表面を掘り込むことができる。
【0026】
又は、前記第2の犠牲層を形成する工程は、例えば前記積層体の側面に第2の絶縁膜を形成する工程と、この第2の絶縁膜の上に第2の犠牲層を形成する工程と、を有する。
【0027】
上述のダイヤモンド半導体素子の製造方法において、例えば前記第2の犠牲層を形成する工程は、全面に第2の犠牲層を形成した後、エッチバックすることにより、前記積層体の側面に前記第2の犠牲層を残すものである。
【0028】
本発明に係る他のダイヤモンド半導体素子の製造方法は、第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層とを積層する工程と、前記多層金属電極層の表面上に、局所的にレジストをパターン形成する工程と、前記レジストをマスクとして、前記多層金属電極層及び前記絶縁膜をエッチングした後、前記レジストを除去することにより、前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層とからなる積層体をパターン形成する工程と、前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上のみに前記多層金属電極層に接触しないように、不純物が高濃度にドープされたダイヤモンド膜を形成し、このダイヤモンド膜により第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程と、前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の表面上に金属電極を形成する工程と、を有し、前記多層金属電極層のうち、最上層をPt又はPt合金により形成することを特徴とする。
【0029】
本発明に係る更に他のダイヤモンド半導体素子の製造方法は、第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層とを積層した上に、更に第1の犠牲層を積層する工程と、前記第1の犠牲層の表面上に、局所的にレジストをパターン形成する工程と、前記レジストをマスクとして、前記第1の犠牲層、前記多層金属電極層及び前記絶縁膜をエッチングした後、前記レジストを除去することにより、前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層と第1の犠牲層とからなる積層体をパターン形成する工程と、前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上のみに前記多層金属電極層に接触しないように、不純物が高濃度にドープされたダイヤモンド膜を形成し、このダイヤモンド膜により第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程と、前記第1の犠牲層をエッチングにより除去する工程と、前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の表面上に金属電極を形成する工程と、を有し、前記多層金属電極層のうち、最上層をPt又はPt合金により形成することを特徴とする。
【0030】
この場合に、例えば前記積層体をパターン形成する工程と前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程との間に前記積層体の側面に第2の犠牲層を形成する工程を有し、前記第1の犠牲層を除去する工程において、前記第2の犠牲層もエッチングにより除去する。そして、前記第2の犠牲層を形成する工程は、例えば全面に第2の犠牲層を形成した後、エッチバックすることにより、前記積層体の側面に前記第2の犠牲層を残すものである。又は、前記積層体をパターン形成した後に、前記第1の犠牲層をマスクとして前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面を更にエッチングして第1のダイヤモンド半導体領域の表面を掘り込むことができる。又は、例えば前記積層体をパターン形成する工程と前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程との間に前記積層体の側面に第2の絶縁膜を形成する工程を有し、この第2の絶縁膜を形成する工程は、全面に第2の絶縁膜を形成した後、エッチバックすることにより、前記積層体の側面に前記第2の絶縁膜を残すものである。
【0031】
更に、前記絶縁膜と前記多層金属電極層との間に、少なくとも半導体元素を含有した半導体元素層を具備する緩衝層を積層することができる。この場合に、例えば前記多層金属電極層のうち、最下層の金属電極層はW、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Cr、Co及びMnからなる群から選択された少なくとも1種を含有し、前記半導体元素は、Si又はGeである。また、前記緩衝層は、例えば、前記半導体元素層と前記半導体元素の酸化物層との2層構造を有し、前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程における温度によって加熱され、前記多層金属電極層と前記半導体元素層とが反応するものである。なお、半導体元素層は、半導体層の他、不純物を多量にドープして金属的性質としたものも含む概念である。よって、この点で半導体元素層は半導体層とは区別される。
【0032】
上述のダイヤモンド半導体素子の製造方法において、例えば、前記多層金属電極層の最上層が、Pt合金により形成する場合は、このPt合金は、Ptを50原子%以上含有する合金により形成されており、上下に積層された金属電極層同士は夫々異なる成分組成を有する。これらのPt及びPt合金は、例えばシリコン又はゲルマニウム等の半導体元素との間で安定な化合物を形成する材料である。この場合、例えば、前記最上層の厚さが50乃至200nmである。
【0033】
本発明に係るダイヤモンド半導体素子は、第1のダイヤモンド半導体領域上に局所的に形成され、下層の絶縁膜と上層の多層金属電極層からなる積層体と、前記第1のダイヤモンド半導体領域上で、前記積層体の両側に隣接し前記多層金属電極層と接触しないように設けられた第2及び第3のダイヤモンド半導体領域と、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域上に夫々形成された電極と、を有し、前記多層金属電極層のうち、前記第1のダイヤモンド半導体領域から最も離隔した最上層がPt又はPt合金により形成されていることを特徴とする。
【0034】
このダイヤモンド半導体素子において、例えば前記絶縁膜と前記多層金属電極層との間に緩衝層が配置されており、この緩衝層は、少なくとも半導体元素を含有する半導体元素層を具備する。この場合、例えば前記多層金属電極層のうち、最下層の金属電極層はW、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Cr、Co及びMnからなる群から選択された少なくとも1種を含有し、前記半導体元素は、Si又はGeである。また、前記緩衝層は、少なくとも前記絶縁膜側の前記半導体元素の酸化物層と、前記多層金属電極層側の層と、を有する2以上の層により構成され、前記多層金属電極層側の層は、前記半導体元素と前記多層金属電極層の前記最下層の元素との化合物からなる。
【0035】
また、前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域は、前記第1のダイヤモンド半導体領域よりも不純物が高濃度にドープされていることが好ましい。
【0036】
更に、前記積層体の両側面に第2の絶縁膜が形成されていることが好ましい。
【0037】
更にまた、例えば前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域と、前記積層体の前記絶縁膜とが、前記第1のダイヤモンド半導体領域と同一平面上に配置され、前記絶縁膜の厚さは、前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の厚さよりも大きい。なお、前記絶縁膜は、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属フッ化物及び窒素ドープダイヤモンドからなる群から選択された1種以上の材料からなる。
【0038】
上述のダイヤモンド半導体素子において、前記多層金属電極層の最上層が、Pt合金により形成されている場合は、このPt合金は、Ptを50原子%以上含有する合金により形成されており、上下に積層された金属電極層同士は夫々異なる成分組成を有することが好ましい。この場合、例えば前記最上層の厚さが50乃至200nmである。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、第1乃至第3のダイヤモンド半導体領域をダイヤモンドで形成するため、耐電圧が高く、耐熱性、耐放射線性、及び高速性が優れたダイヤモンド半導体素子を製造することができ、絶縁膜及び多層金属電極層からなる積層体に対して第2及び第3の半導体領域の位置を自己整合的に決めることができ、チャネル領域を短くできるので、素子の応答性が高いダイヤモンド半導体素子を高精度で製造することができる。また、ゲート電極を多層金属電極層により構成し、多層金属電極層の最上層をPt又はPt合金により形成している。これにより、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域となるダイヤモンド膜の形成工程において、例えばプラズマ放電、高温雰囲気、高濃度のドーピングガス、長時間のドーピング処理等により、ゲート電極層が劣化することを防止することができ、その結果、ダイヤモンド半導体素子の加工精度の低下を防止し、ダイヤモンド半導体素子の性能低下を防止することができる。更に、本発明においては、ダイヤモンドをチャネル領域に使用することにより、SiC及びGaN等の窒化物半導体よりも高い絶縁耐圧を有し、更にダイヤモンドは熱伝導率が物質中最高であることから、高電圧及び大電力での利用が可能である。従って、チャネルサイズを短くし、高電界としても材料自体が絶縁破壊されることはない。これにより、高速応答、オン抵抗の低減、オフ時漏れ電流の低減、高い逆電圧耐性、及び素子サイズの小型化によるコスト低減等、利点が多い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)乃至(j)は、本発明の第1実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図2】(a)乃至(j)は、本発明の第2実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図3】(a)乃至(j)は、本発明の第3実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図4】(a)乃至(g)は、本発明の第4実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図5】(a)乃至(j)は、本発明の第5実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図6】(a)乃至(i)は、本発明の第6実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図7】(a)乃至(j)は、本発明の第7実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図8】(a)乃至(j)は、従来のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。上述の如く、本願発明者等は、特許文献7において、絶縁膜2とゲート電極層3との積層体に対して第2及び第3の半導体領域の位置を自己整合的に決めることができることを開示した。しかしながら、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域となるダイヤモンド膜の形成時に、例えばゲート電極層に使用する材料の選択によっては、ゲート電極層が劣化し、ダイヤモンド半導体素子の加工精度が低下する場合があり、不純物がドープされたダイヤモンド膜の形成条件を、例えば使用する基板の種類又は半導体デバイスの性能によって調整することが必要になった場合に、ダイヤモンド膜の形成条件によっては、ゲート電極層の劣化を防止することができない場合が生じ、ダイヤモンド半導体素子の加工精度低下を防止することができなくなる場合が生じる。
【0042】
このダイヤモンド膜形成時のゲート電極層の劣化を防止するために、本願発明者等は、鋭意実験検討を重ねた。従来、不純物がドープされたダイヤモンド膜の形成工程においては、例えばプラズマ放電、高温雰囲気、高濃度のドーピングガス、長時間のドーピング処理等により、ゲート電極層は劣化しやすい条件下におかれる。しかしながら、本願発明者等は、ゲート電極層を複数の層からなる多層金属電極層により形成し、多層金属電極層のうち、第1のダイヤモンド半導体領域から最も離隔した最上層をPt又はPt合金により形成すれば、ダイヤモンド膜の形成条件を従来であればゲート電極層が劣化しやすくなる条件とした場合においても、ダイヤモンド膜形成時のゲート電極層の劣化を防止することができ、これにより、ダイヤモンド半導体素子の加工精度低下を防止し、素子の性能低下を防止することができることを知見した。
【0043】
図1(a)乃至図1(j)は本発明の第1実施形態の半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。図1(a)は、チャネル層としての第1のダイヤモンド半導体領域1を示す。この第1のダイヤモンド半導体領域1は、ノンドープ又は第2及び第3のダイヤモンド領域より低濃度にドープされたものである。図1(b)に示すように、この第1のダイヤモンド半導体領域1の上に、絶縁膜2を形成し、絶縁膜2の上に、ゲート電極層(多層金属電極層)3を形成する。本発明においては、ゲート電極層3は、複数の層からなる多層金属電極層により形成し、多層金属電極層の最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成する。この多層金属電極層(ゲート電極層3)を形成する際には、先ず、絶縁膜2の上に金属電極膜3cを例えば真空蒸着、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、スパッタ蒸着及び有機金属CVD(MOCVD)によって形成し、同様の方法により、金属電極膜3cの上に、金属電極膜3b、3aを積層する。引き続いて、このゲート電極層3の上に、第1の犠牲層4を形成する。その後、図1(c)に示すように、第1の犠牲層4の上に、レジスト5を電極パターンに形成する。次いで、図1(d)に示すように、このレジスト5のパターンをマスクとして、第1の犠牲層4,ゲート電極層3及び絶縁膜2をエッチングする。これにより、第1の犠牲層4,ゲート電極層(多層金属電極層)3及び絶縁膜2からなる電極パターンの積層体が形成される。この積層体のエッチング時には、レジスト5は、エッチングによって次第に除去されていくが、エッチングが終了したら、積層体上に残存したレジスト5を除去する。これにより、第1の犠牲層4、ゲート電極層(多層金属電極層)3及び絶縁膜2からなる電極パターンの積層体が第1のダイヤモンド半導体領域1の上に形成される。
【0044】
次いで、図1(f)に示すように、全面に第2の犠牲層6を堆積する。これにより、第1の半導体領域1の表面、前記積層体(絶縁膜2、ゲート電極層(多層金属電極層)3及び犠牲層4)の側面及び前記積層体の(第1の犠牲層4の)表面の上に、第2の犠牲層6が形成される。その後、図1(g)に示すように、エッチバックすることにより、前記積層体(絶縁膜2、ゲート電極層(多層金属電極層)3及び第1の犠牲層4)の側面にのみ、第2の犠牲層6を残存させる。次いで、図1(h)に示すように、全面にダイヤモンド膜7を形成する。即ち、このダイヤモンド膜7は、不純物を第1のダイヤモンド半導体領域1よりも高濃度にドープしたダイヤモンド膜である。これにより、第1のダイヤモンド半導体層1の表面上、前記積層体(絶縁膜2、ゲート電極層(多層金属電極層)3及び第1の犠牲層4)の側面の第2の犠牲層6の上、及び前記積層体の(第1の犠牲層4の)表面上に、ダイヤモンド膜7が形成される。ダイヤモンド膜7の形成温度は、例えば200乃至700℃であり、好ましくは200乃至600℃である。その後、第1の犠牲層4及び第2の犠牲層6を溶解除去することにより、リフトオフ法によって、積層体側面及び積層体表面上のダイヤモンド膜7を除去する。これにより、第1のダイヤモンド半導体領域1の表面上の前記積層体の近傍に、第2の犠牲層6の厚さだけ前記積層体から離隔したダイヤモンド膜7aが形成され、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域が形成される。その後、図1(j)に示すように、各ダイヤモンド膜7a上に、金属電極8を形成する。
【0045】
このようにして形成された半導体素子は、1対の電極8がソース電極及びドレイン電極となり、電極8に印加された電流は、電極8からダイヤモンド膜7aを介して第1のダイヤモンド半導体領域1により構成されるチャネル層に入り、相手方のダイヤモンド膜7aを経て相手方の電極8に抜ける。そして、ゲート電極層3に印加された電圧により、チャネル層を流れる電流が制御される。
【0046】
この場合に、前記積層体のチャネル領域の長さ、即ち、ダイヤモンド膜7a同士を結ぶ方向における前記積層体の長さ(幅)が10nm乃至1μm、好ましくは、20nm乃至0.5μmである。そして、ダイヤモンド膜7aは、前記積層体(絶縁膜2、ゲート電極層(多層金属電極層)3及び犠牲層4)の側面から、第2の犠牲層6の厚さ分だけ離隔しているにすぎず、極めて近接している。従って、本実施形態においては、チャネル領域の長さを極めて短くすることができる。そして、このチャネル領域の長さが短いと、電子が流れる時間が短く、素子の応答性が速くなる。
【0047】
絶縁膜2の厚さは1乃至100nmであることが好ましい。絶縁膜2の厚さが薄い方が素子のスイッチング性能が高く、ゲートの絶縁性からは絶縁膜2の厚さが厚い方が好ましい。よって、スイッチング性能及びゲート絶縁性から絶縁膜2の厚さは1乃至100nmにすることが好ましい。ゲート電極層3の厚さは、金属電極膜3a、3b及び3cを積層して多層金属電極層が形成された状態で50nm乃至1μmであることが好ましい。多層金属電極層としてのゲート電極層3の厚さが50nm未満であると、電気抵抗が高くなりすぎ、ゲート電極層3の厚さが1μmを超えると、加工性が悪化する。更に、犠牲層4の厚さは50乃至500nmであることが好ましい。犠牲層4の厚さが50nm未満であると、ダイヤモンド成膜時のマスクとして不向きである。一方、犠牲層4の厚さが500nmを超えると、厚くなりすぎて加工性が悪化する。
【0048】
このように、本実施形態においては、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域としてのダイヤモンド膜7aが第2の犠牲層6の厚さ分だけ離隔して積層体に近接して設けられているので、ゲート電極層3とは接触しない状態で、前記積層体に極めて近接して設けることができるので、電荷が流れるチャネル領域を小さくすることができる。
【0049】
第2及び第3の半導体領域としてのダイヤモンド膜7aを、第1のダイヤモンド半導体領域1よりも高濃度にドープされたダイヤモンド半導体である半導体素子とすることにより、第2又は第3の半導体領域から高密度の電荷を第1の半導体領域に注入させることができる。また、第1の半導体領域1には電荷の移動を妨げる欠陥及び不純物が少ないものを使用することができるので、第1半導体領域の電荷移動速度を高くすることができ、素子性能をより高性能にできる。
【0050】
絶縁膜2としては、絶縁性能の面から、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属フッ化物及び窒素ドープダイヤモンドからなる群から選択することが好ましい。金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物に用いられる金属としては、シリコン、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、及びタンタルが挙げられる。中でもシリコン、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウムが好ましい。これらの金属は単独で金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物として用いてもよく、また2種類以上の金属からなる金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物としても良い。金属フッ化物に用いられる金属としては、カルシウム、バリウム、マグネシウム、及びストロンチウムが挙げられる。窒素ドープダイヤモンドは、窒素による深い準位が存在し、高抵抗である。
【0051】
第1乃至3のダイヤモンド半導体領域は、ダイヤモンドで形成されているので、高耐電圧、耐熱性、耐放射線性、及び高速性等に優れた半導体素子が得られる。
【0052】
また、図1(j)に示すように、絶縁膜2、並びに第2及び第3の半導体領域7aがダイヤモンド半導体領域1の同一表面上にあり、同一平面上にある場合は、絶縁膜2の厚さが第2及び第3の半導体領域(ダイヤモンド膜7a)の厚さより厚くなるようにすることにより、ゲート電極層3との好ましくない接触をより効果的に防止することができる。
【0053】
本発明においては、ゲート電極層3を多層金属電極層により構成し、多層金属電極層の最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成する。多層金属電極層の最上層の金属電極膜3aをPt合金により形成する場合においては、Pt合金は、Ptを50原子%以上含有する合金により形成されている。この場合、Pt以外のPt合金の成分としては、例えばAu、Ag、Cu、W、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Ce、Co、Cr、Dy、Fe、Gd、Hf、Mn、Nd、Pd、Pr、Ru、Sr、Tb、V、Y又はZrを含有することができる。本実施形態においては、最上層以外の金属電極膜3b及び3cを夫々、高融点金属、例えばTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Re、Os若しくはIr、又はこれらの金属群から選択された少なくとも1種を50原子%以上含有する合金によって形成することができる。ゲート電極層3を複数の層からなる多層金属電極層により構成し、最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成することにより、ダイヤモンド膜7を形成する工程において、最上層のPt又はPt合金層がゲート電極層3を保護する。よって、プラズマ放電及びドーピング処理等によってゲート電極層3が劣化することを防止することができ、これにより、ダイヤモンド半導体素子の加工精度の低下を防止し、素子の性能低下を防止することができる。また、特に、前記金属膜3b及び3cをMo、Ru、Rh、W、Os若しくはIr、又はこれらの金属群から選択された少なくとも1種を50原子%以上含有する合金により形成した場合においては、ゲート電極層3をPt又はPt合金からなる1層により形成した場合に比して、ゲート電極層3の電気抵抗を小さく抑えることができる。
【0054】
また、第2及び第3の半導体領域となるダイヤモンド膜7を例えば700℃以下の温度で形成することにより、絶縁膜/金属電極の積層体の熱膨張等による剥離及びダメージを防止することができる。この第2及び第3の半導体領域となるダイヤモンド膜7の形成温度は、好ましくは600℃以下である。また温度下限としては200℃以上での形成がより好ましい。200℃を下回るとダイヤモンドの形成が困難になるからである。
【0055】
第2及び第3の半導体領域には微結晶のダイヤモンドを用いることが効果的である。600℃以下の低温で容易に形成可能なためである。また、微結晶ダイヤモンドを用いることで、高濃度なN型、P型いずれの半導体特性も得ることが可能である。これにより、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)タイプのトランジスタを形成することも可能となる。
【0056】
微結晶のダイヤモンドの粒経としては1乃至100nmが好ましい。1nm以下の粒径を得ようとした場合、ダイヤモンドとしての特性を示しにくくなる。また、ダイヤモンド粒径が100nm以上の場合、素子寸法のずれの原因となりやすいからである。
【0057】
絶縁膜/金属電極の積層体を形成した後に第2及び第3の半導体領域を形成することにより、絶縁膜/金属電極の積層体に対して自己整合的に第2及び第3の半導体領域の位置を決めることができる。
【0058】
絶縁膜/金属電極の積層体の上面及び側面に犠牲層を有した積層体を形成した後に、第2及び第3の半導体領域を形成することで、不要な部分に形成された第2及び第3の半導体領域を後工程にて除去することが可能となる。第1及び第2の犠牲層としては、絶縁膜、金属電極と選択的にエッチング除去できるものであればよい。
【0059】
即ち、素子用の絶縁膜以外の絶縁材料で、前記金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属フッ化物等の絶縁材料が利用可能である。また、素子の金属電極以外の金属も利用することができる。
【0060】
図2(a)乃至図2(j)は本発明の第2実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。図2において、図1と同一構成物には同一符号を付してその詳細な説明は省略する。なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、ゲート電極層3は、複数の層からなる多層金属電極層により形成する。本実施形態が図1に示す実施形態と異なる点は、図2(d)に示す工程において、レジスト5をマスクとして、第1の犠牲層4、ゲート電極層(多層金属電極層)3及び絶縁膜2の積層体をエッチングし、積層体上に残存したレジスト5を除去した後、図2(e)に示すように、第1の犠牲層4をマスクとしてエッチングを行い、ダイヤモンド半導体領域1の表面を若干堀込む。
【0061】
これにより、得られた半導体素子は、図2(j)に示すように、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域としてのダイヤモンド膜7aが形成されたダイヤモンド半導体領域1の表面が、絶縁膜2が形成されたダイヤモンド半導体領域1の表面よりも低くなる。従って、第1実施形態の効果に加え、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域としてのダイヤモンド膜7aと、ゲート電極層3との接触を確実に防止することができる。また、第1実施形態と同様に、ゲート電極層3を複数の層からなる多層金属電極層により構成し、最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成することにより、ダイヤモンド膜7を形成する工程において、最上層のPt又はPt合金層がゲート電極層3を保護する。よって、プラズマ放電及びドーピング処理等によってゲート電極層3が劣化することを防止することができ、これにより、ダイヤモンド半導体素子の加工精度の低下を防止し、素子の性能低下を防止することができる。
【0062】
図3(a)乃至図3(j)は本発明の第3実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。図3において、図1と同一構成物には同一符号を付してその詳細な説明は省略する。本実施形態が図1に示す実施形態と異なる点は、図3(f)に示す第2の絶縁膜9を形成することである。図3(e)に示すように、積層体(絶縁膜2,ゲート電極層(多層金属電極層)3及び第1の犠牲層4)をパターン形成した後、図3(f)に示すように、全面に第2の絶縁膜9を形成し、更に第2の絶縁膜9の上に第2の犠牲層6を形成する。その後、図3(g)に示すように、第2の絶縁膜9及び第2の犠牲層6をエッチバックして、前記積層体の側面にのみ、第2の絶縁膜9及び第2の犠牲層6を残す。その後、図3(h)に示すように、全面にダイヤモンド膜7を形成する。次いで、図3(i)に示すように、第1の犠牲層4及び第2の犠牲層6を溶解して、リフトオフ法によりこれらの第1の犠牲層4及び第2の犠牲層6上のダイヤモンド膜7を除去すると、積層体の側面を第2の絶縁膜9が覆う構造が形成される。その後、図3(j)に示すように、ダイヤモンド半導体領域1上のダイヤモンド膜7a上に、金属電極8を形成して、ダイヤモンド電界効果トランジスタが形成される。
【0063】
本実施形態においては、前記積層体の両側面に、第2の絶縁膜9を設けるので、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域としてのダイヤモンド膜7とゲート電極層3との好ましくない接触をより効果的に防止することができる。また、ゲート電極層3を複数の層からなる多層金属電極層により構成し、最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成することにより、ダイヤモンド膜7を形成する工程において、最上層のPt又はPt合金層がゲート電極層3を保護する。よって、プラズマ放電及びドーピング処理等によってゲート電極層3が劣化することを防止することができ、これにより、ダイヤモンド半導体素子の加工精度の低下を防止し、素子の性能低下を防止することができる。
【0064】
図4(a)乃至図4(g)は本発明の第4実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。図4(a)に示すように、チャネル層としての第1のダイヤモンド半導体領域1を用意し、図4(b)に示すように、この第1のダイヤモンド半導体領域1の上に、絶縁膜2と、第1の緩衝層11と、第2の緩衝層12と、ゲート金属電極層3とをこの順に形成する。第1の緩衝層11は、例えば、半導体の酸化物であり、第2の緩衝層12は、例えば、半導体である。本実施形態においても、第1乃至第3実施形態と同様に、ゲート金属電極層3は、複数の層からなる多層金属電極層により形成し、多層金属電極層の最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成する。各金属電極膜を形成する場合には、例えば真空蒸着、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、スパッタ蒸着及び有機金属CVD(MOCVD)を行う。
【0065】
その後、図4(c)に示すように、ゲート金属電極層3上に電極パターンのレジスト5を形成し、図4(d)に示すように、レジスト5をマスクとして、絶縁膜2、第1の緩衝層11、第2の緩衝層12及びゲート金属電極層(多層金属電極層)3の積層体をエッチングする。次いで、図4(e)に示すように、積層体上に残存したレジスト5を除去し、図4(f)に示すように、ダイヤモンド半導体領域1が露出している表面にのみ選択的に、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域としてのダイヤモンド膜7aを堆積する。これにより、第2の緩衝層12はゲート電極層3との間で反応し、第2の緩衝層12のゲート電極層3側には、第2の緩衝層12の半導体元素とゲート電極層3の最下層の元素からなる化合物層13が形成される。その後、図4(g)に示すように、1対のダイヤモンド膜7a上に夫々金属電極8を形成する。
【0066】
このように、本実施形態においては、チャネル層としての第1のダイヤモンド半導体領域1の上に、絶縁膜2、第1の緩衝層11及び化合物層13を介して、ゲート電極層3が形成され、ダイヤモンド膜7aが前記積層体の側面に接触するように形成され、ソース・ドレイン電極8がダイヤモンド膜7aに接触する構造の電界効果トランジスタが形成される。このトランジスタにおいては、ダイヤモンド膜7aが絶縁膜2に接触しているので、前記積層体の直下にチャネル領域が形成され、このチャネル領域の長さが前記積層体の幅と一致するため、より一層チャネル領域を短くすることができる。
【0067】
第2の緩衝層12は、半導体元素を主成分とする層である。この半導体元素を主成分とする層は高温で安定であるとともに、ドーピングにより抵抗値を制御することが可能である。また、第1の緩衝層11は、半導体元素の酸化物層である。但し、第1の緩衝層11は必ずしも設ける必要はない。緩衝層として、半導体元素を主成分とする層(第2の緩衝層12)と、半導体元素の酸化物層(第1の緩衝層11)とからなることが好ましい。半導体元素を主成分とする第2の緩衝層12は、ドーピングにより金属的となるので、ゲート電極3の金属層と良好な電気的接触を実現できる。半導体元素の酸化物層からなる第1の緩衝層11は良好な絶縁材料となり、絶縁膜2とともに絶縁層を形成することができる。加えて、半導体元素とこの半導体元素の酸化物層とを組み合わせることで、お互いに密着性が良いため、安定な界面が形成できる。
【0068】
前記半導体元素は例えばシリコン又はゲルマニウムである。そして、ゲート電極層3は複数の層からなる多層金属電極層であり、多層金属電極層の最上層の金属電極膜3aは、例えば第1実施形態と同様の組成を有するPt又はPt合金により形成されている。多層金属電極層の最上層以外の金属電極膜3b及び3cは、例えば高融点金属により構成されている。これにより、ダイヤモンド膜7を形成する工程において、最上層のPt又はPt合金層がゲート電極層3を保護する。よって、プラズマ放電及びドーピング処理等によってゲート電極層3が劣化することを防止することができ、これにより、ダイヤモンド半導体素子の加工精度の低下を防止し、素子の性能低下を防止することができる。半導体元素としてシリコンを使用した場合においては、第2の緩衝層12の半導体元素とゲート電極層3の最下層の元素とが反応して形成された安定な化合物は、シリサイドと呼ばれる。
【0069】
本実施形態においては、ゲート電極層3の最下層の金属電極膜3cを、例えば、Au、Ag、Cu、W、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Pt、Ce、Co、Cr、Dy、Fe、Gd、Hf、Mn、Nd、Pd、Pr、Ru、Sr、Tb、V、Y若しくはZr、又はこれらの金属群から選択された少なくとも1種を含有する合金により形成することが好ましい。そして、上下に積層された金属電極層同士(本実施形態においては、金属電極膜3aと3b同士、及び金属電極膜3bと3c同士)が夫々異なる金属成分組成を有する材料により形成することが好ましい。これらの金属又は合金は、いずれも例えばシリコン及びゲルマニウム等の半導体元素との間で安定的な化合物を形成する元素である。即ち、ゲート電極層3の最下層3aを上記組成とすることにより、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の形成工程における温度によってゲート電極層3を加熱し、最下層の金属電極膜3cと半導体元素とからなる安定的な化合物層を形成することができる。
【0070】
また、ゲート金属電極層3のうち、第1のダイヤモンド半導体領域1から最も離隔した最上層の金属電極膜3aの厚さは、50乃至200nmであることが好ましい。最上層の金属電極膜3aの厚さが50nm未満であると、ダイヤモンド膜7aを形成する工程において、ゲート電極層3(金属電極膜3a、3b及び3c)を保護することができず、最上層の金属電極膜3aの厚さが200nmを超えると、成膜時間が長くなると共に、例えば最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金等の高価な材料で構成した場合においては、金属電極膜3aとして使用する材料の使用量が多くなり、ダイヤモンド半導体素子の製造コストが増大する。
【0071】
第2の緩衝層12がシリコン層である場合、図4(f)に示すダイヤモンド膜7aの形成工程において、第2の緩衝層12が加熱されてゲート電極層3、特に最下層の金属電極膜3cとの間で相互拡散し、安定的な化合物層13が形成される。第2の緩衝層12がシリコンの場合、高温での処理を行った際に、ゲート電極層3の最下層の金属層3cと第2の緩衝層11との間で反応が進み、化合物層13としてシリサイド層が形成される。シリサイド層が形成されると、界面に安定な結合が形成されるため、緩衝層/金属界面の密着性を向上できる。また、シリサイドは低抵抗性を示すので、そのまま金属電極として利用できる。一般的には絶縁膜をできるだけ薄くし、半導体層と金属との距離を小さくすることが好ましい。緩衝層がシリサイドを形成し、金属として作用することで、半導体層と金属との距離が不必要に大きくなることを防止できる。なお、この半導体層は、半導体領域のチャネル部を意味する。また、第2の緩衝層12は、高温での処理時間及び処理温度により全て化合物層13になる場合と、一部が化合物層にならずに残る場合とがある。好ましくは、第2の緩衝層12は全て化合物層13にする。
【0072】
本実施形態においては、半導体領域上に絶縁膜/緩衝層/金属の積層体を配することにより、半導体が絶縁膜を介して金属と接触したキャパシタを安定に形成することができる。
【0073】
図5(a)乃至図5(j)は本発明の第5実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。本実施形態においては、図4(b)に示す積層体の形成工程において、図5(b)に示すように、ゲート電極層3上に犠牲層4を積層している。その他の構成については、図5(e)に示す工程までは、図4(a)乃至(e)に示す工程と同一である。本実施形態においては、図5(e)に示す工程の後、図5(f)に示すように、全面に第2の犠牲層6を形成する。その後、図5(g)に示すように、第2の犠牲層6をエッチバックすることにより、積層体の側面にのみ、第2の犠牲層6が形成される。次いで、図5(h)に示すように、第1のダイヤモンド半導体領域1の露出表面に選択的にダイヤモンド膜7aを形成し、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する。
【0074】
次いで、図5(i)に示すように、全面に金属電極層14を形成し、図5(j)に示すように、第1の犠牲層4及び第2の犠牲層6を溶解することにより、リフトオフ法により、前記積層体上の金属電極層14を除去する。これにより、第1のダイヤモンド半導体領域1上に絶縁膜2、第1の緩衝層11、化合物層13及びゲート電極層3からなる積層体が形成され、この積層体の近傍に、金属電極層14及びダイヤモンド膜7aが前記積層体から第2の犠牲層6の厚さ分だけ離隔して第1のダイヤモンド半導体領域1上に形成される。これにより、本実施形態においては、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
図6(a)乃至図6(i)は、本発明の第6実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。図6において、図4と同一構成物には同一符号を付してその詳細な説明は省略する。本実施形態が図4に示す実施形態と異なる点は、ゲート電極層3上に犠牲層4を形成していることにある。これにより、本実施形態においては、第2実施形態と同様に、レジスト5をマスクとした絶縁膜2、第1の緩衝層11、第2の緩衝層12、ゲート電極層(多層金属電極層)3及び犠牲層4をエッチングした後のレジスト5の除去後に、犠牲層4をマスクとしてダイヤモンド半導体領域1の表面を堀込み、ダイヤモンド半導体領域1の表面に段差を形成する。
【0076】
これにより、図6(i)に示すように、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域となるダイヤモンド膜7aがゲート電極層4に接触することが確実に防止される。また、ゲート電極層3を複数の層からなる多層金属電極層により構成し、最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成することにより、ダイヤモンド膜7aを形成する工程において、最上層のPt又はPt合金層がゲート電極層3を保護する。よって、プラズマ放電及びドーピング処理等によってゲート電極層3が劣化することを防止することができ、これにより、ダイヤモンド半導体素子の加工精度の低下を防止し、素子の性能低下を防止することができる。
【0077】
図7(a)乃至図7(j)は本発明の第7実施形態のダイヤモンド半導体素子の製造方法を工程順に示す断面図である。図7において、図4と同一構成物には同一符号を付してその詳細な説明は省略する。本実施形態が図4に示す実施形態と異なる点は、図4(b)に示す積層体の形成工程において、ゲート電極層3上に犠牲層4を形成することと、図7(f)に示すように、第2の絶縁膜9を形成することである。図7(e)に示すように、積層体(絶縁膜2,第1の緩衝層11,第2の緩衝層12,ゲート電極層(多層金属電極層)3及び犠牲層4)をパターン形成した後、図7(f)に示すように、全面に第2の絶縁膜9を形成する。その後、図7(g)に示すように、第2の絶縁膜9をエッチバックして、前記積層体の側面にのみ、第2の絶縁膜9を残す。その後、図7(h)に示すように、第1のダイヤモンド半導体領域1の露出表面にのみ選択的に第2及び第3のダイヤモンド半導体領域となるダイヤモンド膜7aを形成する。次いで、図7(i)に示すように、犠牲層4を溶解すると、積層体の側面を第2の絶縁膜9が覆う構造が形成される。その後、図7(j)に示すように、ダイヤモンド半導体領域1上のダイヤモンド膜7a上に、金属電極8を形成して、ダイヤモンド電界効果トランジスタが形成される。
【0078】
本実施形態においては、前記積層体の両側面に、第2の絶縁膜9を設けるので、ゲート電極層3との好ましくない接触をより効果的に防止することができる。また、ゲート電極層3を複数の層からなる多層金属電極層により構成し、最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成することにより、ダイヤモンド膜7aを形成する工程において、最上層のPt又はPt合金層がゲート電極層3を保護する。よって、プラズマ放電及びドーピング処理等によってゲート電極層3が劣化することを防止することができ、これにより、ダイヤモンド半導体素子の加工精度の低下を防止し、素子の性能低下を防止することができる。
【0079】
上述の各実施形態により把握される本発明においては、特許文献4に記載された発明に対し、ソース・ドレインのダイヤモンド層と、ゲート電極との間隔を小さくすることができる。これにより、静電容量の寄生成分を小さくすることができ、高周波特性を向上させることができる。また、ソース・ドレインの金属電極とチャネルとの間隔(オフセット)を小さくすることができる。これにより、ソース・ドレインのダイヤモンド層(金属に比べて抵抗が高い)に起因する抵抗の寄生成分を小さくすることができ、電流増大を実現できる。このように、本発明は、寄生容量を低減できる結果、本来制御すべき電流量が増大するので、応答性が向上する。
【0080】
また、特許文献5に記載された発明においては、ダイヤモンド層の上部を太くすることにより加工精度の向上を図っているが、これは、実質的には困難である。即ち、ソース・ドレイン電極を形成するために、蒸着法を使用するが、ダイヤモンド層の上部が完全なひさしにならず、ダイヤモンド層の底部にも金属電極が回り込む。その結果、金属電極が接触し、ダイヤモンド層の絶縁がとれなくなる虞がある。これに対し、本発明においては、犠牲層を使用するため、確実な絶縁が可能である。
【0081】
更に、本発明においては、ゲート電極層3を複数の層からなる多層金属電極層により構成し、最上層の金属電極膜3aをPt又はPt合金により形成することにより、ダイヤモンド膜7を形成する工程において、最上層のPt又はPt合金層がゲート電極層3を保護する。よって、プラズマ放電及びドーピング処理等によってゲート電極層3が劣化することを防止することができ、これにより、ダイヤモンド半導体素子の加工精度の低下を防止し、素子の性能低下を防止することができる。
【0082】
更にまた、特許文献6に記載された半導体素子では、不純物をドープしたダイヤモンド層(1×1019cm−3程度)をチャネルとしてキャリアを流す。本発明においても、わずかにドープすることはあるが、そのドープ量は極めて低い(1×1017cm−3程度)。1×1019cm−3程度までドープした場合、ドープされた不純物により伝導キャリアが散乱され、移動度が著しく低下してしまう。このため、十分な電流量が得られない。本発明においてドープするレベル(1×1017cm−3程度)では、不純物による散乱はほとんど生じず、このような散乱が生じないダイヤモンド層をチャネルとして使用するため、高移動度を実現でき、大電流を得ることができる。
【0083】
上述の如く、本発明においては、従来の技術に対し、本来制御すべき電流量が増大するので、応答性が向上する。
【0084】
なお、上述の第1乃至第7実施形態においては、ゲート金属電極層として3層の金属電極膜3a、3b及び3cを積層する例を説明したが、本発明においては、ゲート金属電極層3は3層に限らず、2層以上の金属電極を積層したものであればよい。
【0085】
また、第4乃至第7実施形態においては、絶縁膜2とゲート金属電極層3との間に第1及び第2の緩衝層11,12を形成し、ダイヤモンド膜7aの形成工程における加熱により、第2の緩衝層12とゲート金属電極層3の最下層とを反応させて、化合物層13を形成したが、第1乃至第3実施形態における絶縁膜2とゲート電極金属層(多層電極金属層)3との間に第1及び第2の緩衝層11,12を形成し、ダイヤモンド膜7の形成工程における加熱により、第2の緩衝層12とゲート金属電極層3の最下層とを反応させて、化合物層13を形成してもよい。この場合においても、第1の緩衝層11は形成しなくてもよい。
【実施例1】
【0086】
次に、本発明の効果を実証するための実施例について説明する。実施例1は、図1に示す製造方法によりダイヤモンド半導体素子を形成したものである。ノンドープのダイヤモンド単結晶を基材として、表面にホモエピタキシャルダイヤモンドを形成し、チャネル層とした。素子用の絶縁膜2として酸化アルミニウムを50nm堆積させ、その上にゲート金属電極層3としてMoを150nm及びPtを50nmスパッタ法により積層し、更にその上に犠牲層4として酸化シリコンを50nm連続して堆積させた。この上に電子ビームリソグラフィによりレジスト5をパターニングした。そして、このレジスト5をマスクとして、ドライエッチングにより酸化シリコン、Mo及びPtの多層金属電極層、並びに酸化アルミニウムのエッチングを行い、絶縁膜2/ゲート金属電極層(多層金属電極層)3/犠牲層4の積層体を得た。レジスト5を除去した後、第2の犠牲層6として再度酸化シリコンを50nm堆積した。続いてドライエッチングによりエッチバックを行った。ドライエッチングは異方性エッチングであるため、積層体側壁に第2の犠牲層6が残存する。これに微結晶ダイヤモンドを20nm堆積し、不純物ドープダイヤモンド膜7を形成した。堆積は600℃にて(10分間以下)マイクロ波プラズマCVD法により行い、原料ガスとして水素、メタン、二酸化炭素を用い、ドーピングのためにジボランを添加した。微結晶ダイヤモンドの粒径は2乃至3nmであった。堆積後、希フッ酸にて酸化シリコンのエッチングを行い、続いて純水中にて超音波を印加することでチャネル層に接触していない部分のダイヤモンド膜7をリフトオフ除去した。その後、フォトリソグラフィ、リフトオフによりダイヤモンド膜7a上に電極8を形成した。金属電極としては、例えばPt、Au、Ti、Wなどのオーム性接合特性を示す金属を使用した。
【0087】
以上により、図1に示す素子構造の半導体素子が作製された。電気的特性評価を行った。ゲート金属層(多層金属電極層)3と第2及び第3のダイヤモンド半導体領域との間の絶縁性は充分に保たれており、P型不純物ドープダイヤモンド膜からチャネル層への正孔注入によるトランジスタ動作を確認することができた。
【実施例2】
【0088】
この実施例2は図2に示す工程によりダイヤモンド半導体素子を形成したものである。ダイヤモンド単結晶を基材として、表面にホモエピタキシャルダイヤを形成しチャネル層とした。素子用の絶縁膜として酸化アルミニウムを50nm堆積させ、その上にゲート金属電極層3として80原子%のMo及び20原子%のWからなる金属電極層を150nm、並びに50原子%のPt及び50原子%のAuからなる金属電極層を50nm連続して堆積させて多層金属電極層を形成し、更にその上に犠牲層として酸化シリコンを50nm連続して堆積させた。この上に電子ビームリソグラフィによりレジストをパターニングした。そして、このレジストをマスクとして、ドライエッチングにより酸化シリコン、Mo−W合金、Pt−Au合金、及び酸化アルミニウムのエッチングを行い、絶縁膜/多層金属電極/犠牲層の積層体を得た。さらにダイヤモンドの表面20nmもエッチングした。以後は実施例1と同様の手法により第2及び第3のダイヤモンド半導体領域となるダイヤモンド膜、及び金属電極を形成した。
【0089】
以上により、図2に示す素子構造のダイヤモンド半導体素子が作製された。電気的特性評価を行った結果、ゲート電極と第2及び第3のダイヤモンド半導体領域との間の絶縁性は十分に保たれており、P型の不純物ドープダイヤモンド膜からチャネル層への正孔注入によるトランジスタ動作を確認した。
【実施例3】
【0090】
この実施例3は図3に示す工程によりダイヤモンド半導体素子を形成したものである。ダイヤモンド単結晶を基材として、表面にホモエピタキシャルダイヤを形成しチャネル層とした。素子用の絶縁膜として酸化アルミニウムを50nm堆積させ、その上にゲート金属電極層3としてMoを150nm及びPtを50nmスパッタ法により積層し、更にその上に犠牲層として酸化シリコンを50nm、連続して堆積した。この上に電子ビームリソグラフィによりレジストをパターニングした。そして、このレジストをマスクとして、ドライエッチングにより酸化シリコン、Mo及びPtの多層金属電極層、並びに酸化アルミニウムのエッチングを行い、絶縁膜/ゲート金属電極層(多層金属電極層)3/犠牲層の積層体を得た。レジストを除去した後、第2の絶縁膜として、再度酸化アルミニウムを50nm、そして第2の犠牲層として酸化シリコンを50nm堆積した。続いてドライエッチングによりエッチバックを行った。ドライエッチングは異方性エッチングであるため、積層体側壁に第2の絶縁膜、第2の犠牲層が残存する。これに微結晶ダイヤモンドを20nm堆積し、不純物ドープダイヤモンド膜7を形成した。堆積は600℃にて、マイクロ波プラズマCVD法により行い、原料ガスとして水素、メタン、二酸化炭素を用い、ドーピングのためにジボランを添加した。堆積後、希フッ酸にて酸化シリコンのエッチングを行い、続いて純水中にて超音波を印加することでチャネル層に接触していない部分の高濃度ドープ層をリフトオフ除去した。リフトオフ後、積層体部分の電子顕微鏡観察を行った。第2の絶縁膜の先端部はほとんどがゲート金属に折れ曲がって付着しており、素子作製への影響がないことを確認した。その後、フォトリソグラフィ、リフトオフにより高濃度ドープ層への電極を形成した。金属電極としては、例えばPt、Au、Ti、Wなどのオーム性接合特性を示す金属を用いた。
【0091】
以上により、図3に示す素子構造のダイヤモンド半導体素子が作製された。電気的特性評価を行った結果、ゲート金属と第2及び第3のダイヤモンド半導体領域との間の絶縁性は十分に保たれており、P型の不純物ドープダイヤモンド膜からチャネル層への正孔注入によるトランジスタ動作を確認した。
【実施例4】
【0092】
この実施例4は図3に示す工程によりダイヤモンド半導体素子を形成したものである。ダイヤモンド単結晶を基材として、表面にホモエピタキシャルダイヤを形成しチャネル層とした。素子用の絶縁膜として酸化アルミニウムを50nm堆積させ、その上にゲート金属電極層3としてMoを150nm及びPtを50nmスパッタ法により積層し、更にその上に犠牲層として酸化シリコンを50nm、連続して堆積した。この上に電子ビームリソグラフィによりレジストをパターニングした。そして、このレジストをマスクとして、ドライエッチングにより酸化シリコン、Mo及びPtの多層金属電極層、酸化アルミニウムのエッチングを行い、絶縁膜/ゲート金属電極層(多層金属電極層)3/犠牲層の積層体を得た。レジストを除去した後、第2の絶縁膜として、再度酸化アルミニウムを50nm、そして第2の幟牲層として酸化シリコンを50nm堆積した。続いてドライエッチングによりエッチバックを行った。ドライエッチングは異方性エッチングであるため、積層体側壁に第2の絶縁膜、第2の犠牲層が残存する。これに微結晶ダイヤモンドを20nm堆積し、不純物ドープダイヤモンド膜7aを形成した。堆積は600℃にて、マイクロ波プラズマCVD法により行い、原料ガスとして水素、メタン、二酸化炭素を用い、ドーピングのために窒素を添加した。微結晶ダイヤモンドの粒経は2乃至5nmであった。堆積後、希フッ酸にて酸化シリコンのエッチングを行い、続いて純水中にて超音波を印加することでチャネル層に接触していない部分の高濃度ドープ層をリフトオフ除去した。リフトオフ後、積層体部分の電子顕微鏡観察を行った。第2の絶縁膜の先端部はほとんどがゲート金属に折れ曲がって付着しており、素子作製への影響がないことを確認した。その後、フォトリソグラフィ、リフトオフより高渡度ドープ層への電極を形成した。金属電極としては、例えばPt、Au、Ti、Wなどのオーム性接合特性を示す金属を用いた。
【0093】
以上により、図3に示す素子構造のダイヤモンド半導体素子が作製された。電気的特性評価を行った結果、ゲート金属と第2及び第3のダイヤモンド半導体領域7aとの間の絶縁性は十分に保たれており、N型の不純物ドープダイヤモンド膜からチャネル層への電子注入によるトランジスタ動作を確認した。
【0094】
また、これ以外にダイヤモンドで第2及び第3のダイヤモンド半導体領域となるダイヤモンド膜を形成する方法としては、ダイヤモンドを化学気相合成する際にドーピングガスを導入する方法がある。このようなダイヤモンドの化学気相合成は、一般的に700℃以上での高温で行われる。高温でのプロセスとなるため、トランジスタの金属電極があるような状態で処理を行った場合、金属電極が凝集したり、剥離したりする問題が発生する。即ち、ゲート電極などを形成した後に利用することはできず、上述した加工精度向上の要求に対応することができない。
【実施例5】
【0095】
次に、実施例5について説明する。この実施例5は図4に示すダイヤモンド半導体素子の製造方法により製造されたものである。ダイヤモンド単結晶を基材として、表面にホモエピタキシャルダイヤモンドを形成し、チャネル層とした。素子用の絶縁膜2として酸化アルミニウム45nm、第1の緩衝層11の半導体元素の酸化物として酸化シリコンを5nm、第2の緩衝層12の半導体元素としてポリシリコンを50nm堆積させ、その上にゲート金属電極層3として80原子%のMo及び20原子%のWからなる金属電極層を150nm、並びに50原子%のPt及び50原子%のAuからなる金属電極層を50nm連続して堆積させて多層金属電極層を形成した。この上に電子ビームリソグラフィによりレジスト5をパターニングした。そしてこのレジスト5をマスクとして、ドライエッチングにより酸化シリコン、タングステン、酸化アルミニウムのエッチングを行い、絶縁膜2(酸化アルミニウム)/緩衝層11,12(酸化シリコン・ポリシリコン)/ゲート金属電極層(多層金属電極層)3(Mo−W合金及びPt−Au合金)の積層体を得た。レジスト5を除去した後、ダイヤモンドを20nm堆積し、不純物ドープダイヤモンド膜7aを形成した。堆積は800℃にて、マイクロ波プラズマCVD法により行い、原料ガスとして水素、メタンを用い、ドーピングのためにジボランを添加した。このときダイヤモンドは、ダイヤモンド形成前の段階において基材表面のダイヤモンドが露出していた部分にのみ選択的に成長した。堆積後、希フッ酸にて酸化シリコンのエッチングを行い、これを除去した。その後、フォトリソグラフィ、リフトオフにより高濃度ドープ層7a上に電極8を形成した。金属電極としては、例えばPt、Au、Ti、Wなどのオーム性接合特性を示す金属を用いた。
【0096】
以上により、図4に示す素子構造のダイヤモンド半導体素子が作製された。電気的特性評価を行った結果、ゲート金属層3と第2及び第3のダイヤモンド半導体領域7aとの間の絶縁性は十分に保たれており、P型の不純物ドープダイヤモンド膜7aからチャネル層(第1のダイヤモンド半導体層1)への正孔注入によるトランジスタ動作を確認した。犠牲層4はダイヤモンド形成の段階でゲート金属電極3の表面を保護し、ゲート金属の変質防止に効果的である。
【実施例6】
【0097】
この実施例6は図5に示す工程によりダイヤモンド半導体素子を製造したものである。積層体形成までは実施例5と同様のプロセスで行い、絶縁膜(酸化アルミニウム)/緩衝層(酸化シリコン/ポリシリコン)/ゲート金属電極層(多層金属電極層)3(Mo−W合金及びPt)/犠牲層(酸化シリコン)の積層体を形成した。なお、本実施例においては、ゲート金属電極層3として80原子%のMo及び20原子%のWからなる金属電極層を150nm堆積させ、その上にPtからなる金属電極層を50nm堆積させて多層金属電極層を形成した。本実施例においては、レジストを除去した後、第2の犠牲層6として再度酸化シリコンを50nm堆積した。続いてドライエッチングによりエッチバックを行った。ドライエッチングは異方性エッチングであるため、積層体側壁に第2の犠牲層6が残存する。これにダイヤモンドを20nm堆積し、不純物ドープダイヤモンド膜7aを形成した。堆積は800℃にて、マイクロ波プラズマCVD法により行い、原料ガスとして水素、メタンを用い、ドーピングのためにジボランを添加した。このとき、ダイヤモンドは、ダイヤモンド形成前の段階において基材表面のダイヤモンドが露出していた部分にのみ選択的に成長した。高濃度ドープ層用の金属電極をスパッタ法により堆積させた。金属電極としては、例えばPt、Au、Ti、Wなどのオーム性接合特性を示す金属を用いた。堆積後、希フッ酸を用いて第2の犠牲層である酸化シリコンのエッチングを行い、第2の犠牲層と第2の犠牲層上に形成された金属電極を除去した。
【0098】
以上により、図5に示す素子構造のダイヤモンド半導体素子が作製された。電気的特性評価を行った結果、ゲート金属と第2及び第3のダイヤモンド半導体領域7aとの間の絶縁性は十分に保たれており、P型の不純物ドープダイヤモンド膜7aからチャネル層への正孔注入によるトランジスタ動作を確認した。また、第2の犠牲層6を用いることにより、不純物ドープダイヤモンド膜(第2及び第3のダイヤモンド半導体領域)と積層体との不用意な電気的接触を防止できる効果を付加できる。また、ソース・ドレイン電極となる金属電極を積層体の直近に配置することが可能になる。これにより素子の寄生抵抗を低減することができる。
【実施例7】
【0099】
この実施例7は図6に示す工程によりダイヤモンド半導体素子を製造したものである。積層体形成までは実施例5と同様のプロセスで行い、絶縁膜(酸化アルミニウム)/緩衝層(酸化シリコン/ポリシリコン)/ゲート金属電極層(多層金属電極層)3(Mo及びPt)/犠牲層(酸化シリコン)の積層体を形成した。なお、本実施例においては、ゲート金属電極層3として(絶縁膜2上に)Moを150nmと、Ptを50nm堆積させて多層金属電極層を形成した。本実施例においては、ダイヤモンドの表面20nmもエッチングした。以後は実施例1と同様の手法により不純物ドープダイヤモンド膜及び金属電極を形成した。
【0100】
以上により、図6に示す構造のダイヤモンド半導体素子が作製された。積層体の形状は設計どおりで、ゲート電極層3に劣化及び形状の変化は見られなかった。電気的特性評価を行った結果、ゲート金属と第2及び第3のダイヤモンド半導体領域7aとの間の絶縁性は十分に保たれており、P型の不純物ドープダイヤモンド膜からチャネル層への正孔注入によるトランジスタ動作を確認した。このように、ダイヤモンド基板をエッチングしておくことにより、不純物をドープしたダイヤモンド膜7aと積層体との不用意な電気的接触を確実に防止できる。
【実施例8】
【0101】
この実施例8は図7に示す工程によりダイヤモンド半導体素子を製造したものである。積層体を形成する工程までは実施例5と同様の工程で行い、絶縁膜(酸化アルミニウム)/緩衝層(酸化シリコン/ポリシリコン)/ゲート金属電極層(多層金属電極層)3(Mo及びPt)/犠牲層(酸化シリコン)の積層体を形成した。なお、本実施例においても、ゲート金属電極層3として(絶縁膜上に)Moを150nmと、Ptを50nm堆積させて多層金属電極層を形成した。本実施例においては、レジストを除去した後、第2の絶縁膜9として、再度酸化アルミニウムを50nm堆積した。続いてドライエッチングによりエッチバックを行った。ドライエッチングは異方性エッチングであるため、積層体側壁に第2の絶縁膜9が残存する。これにダイヤモンドを20nm堆積し、不純物ドープダイヤモンド膜7aを形成した。堆積は800℃にて、マイクロ波プラズマCVD法により行い、原料ガスとして水素、メタンを用い、ドーピングのためにジボランを添加した。このときダイヤモンドは、ダイヤモンド形成前の段階において基材表面のダイヤモンドが露出していた部分にのみ選択的に成長した。堆積後、希フッ酸にて酸化シリコンのエッチングを行い、これを除去した。酸化シリコンのエッチング後、積層体部分の電子顕微鏡観察を行った。第2の絶縁膜の先端部はほとんどがゲート電極層3に沿って折れ曲がって付着しており、素子作製への影響がないことを確認した。その後、フォトリソグラフィ、リフトオフにより高濃度ドープ層への電極を形成した。金属電極としては、例えばPt、Au、Ti、Wなどのオーム性接合特性を示す金属を用いた。
【0102】
以上により、図7に示す素子構造のダイヤモンド半導体素子が作製された。電気的特性評価を行った結果、ゲート金属と第2及び第3のダイヤモンド半導体領域7aとの間の絶縁性は十分に保たれており、P型の不純物ドープダイヤモンド膜からチャネル層への正孔注入によるトランジスタ動作を確認した。
【0103】
このように、第2の絶縁膜9を設けることにより、第2及び第3のダイヤモンド半導体領域7aと積層体との不用意な電気的接触を確実に防止できる。
【実施例9】
【0104】
上述の実施例1においては、ゲート電極層3としてMoを150nm及びPtを50nm積層して多層金属電極層を形成したが、同様のプロセスを用い、金属の種類、組成及び金属膜厚を種々変化させて、ダイヤモンド電界効果トランジスタを作製し、積層体の形状及びトランジスタ特性を評価した。実施例9の評価結果の一部を下記表1に示す。なお、この表1において、積層体の形状については、ゲート金属電極層の劣化がなく、ダイヤモンド半導体素子の形状を設計通りにできた場合を○、ゲート金属電極層が若干劣化し、積層体の形状が若干変化した場合を△と評価した。また、トランジスタ特性については、金属電極膜同士の相互コンダクタンスが10mS/mm以上であった場合を○、相互コンダクタンスが10mS/mm未満であった場合を△と判定した。
【0105】
【表1】

【0106】
この表1に示すように、実施例1乃至7は、ゲート金属電極層3は、第1のダイヤモンド半導体領域から最も離隔した最上層がPtであるか、又はPtを50原子%以上含有する合金により形成されており、積層された金属電極層同士が夫々異なる成分組成を有し、且つ最上層の金属電極膜の膜厚を50nm以上とすることにより、積層体の形状を設計どおりに形成することができ、ゲート電極層の劣化を防止することができ、トランジスタ特性も良好であることが分かった。なお、本実施例においては、Pt以外の合金成分としてAu及びCuを一例として示したが、Pt以外の合金成分がAg、W、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Ce、Co、Cr、Dy、Fe、Gd、Hf、Mn、Nd、Pd、Pr、Ru、Sr、Tb、V、Y及びZrからなる群から選択された少なくとも1種を含有するものである場合においても、本実施例と同様の効果を得ることができる。
【0107】
これに対して、実施例8乃至10は、ゲート電極の劣化及びトランジスタ特性の低下は抑制できるものの、実施例8及び9は最上層のPt合金中のPtの含有量が50原子%未満であり、実施例10は最上層の厚さが50nm未満であったので、ゲート金属電極層が若干劣化し、トランジスタ特性も若干低下した。
【実施例10】
【0108】
本実施例は、ゲート電極層3を2層構成とし、ゲート電極層の最上層をPtにより形成し、下層の電極層の成分を夫々変化させた場合における実施例である。下層の電極層の成分については、W、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Cr、Co又はMnとした。なお、本実施例においては、上層のPt層の厚さについては50nmで一定とし、下層の電極層の厚さについては150nmで一定とした。そして、ダイヤモンド電界効果トランジスタを作製し、積層体の形状及びトランジスタ特性を評価した。本実施形態においても、積層体の形状及びトランジスタ特性の評価方法については、実施例9と同様とした。本実施例の評価結果を下記表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
この表2に示すように、ゲート電極層の下層の電極層の成分をW、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Cr、Co又はMnとした場合においては、いずれの場合にも積層体の形状の劣化は発生せず、トランジスタ特性も良好であった。よって、本実施例により、ゲート電極層を多層金属電極層とした場合においても、ゲート電極層をPtの単層により構成した場合と同等にゲート電極層の形状及びトランジスタ性能を良好にすることができることが分かる。従って、例えばPt層の50nmを除く部分を他の金属で置き換えることができ、ダイヤモンド半導体素子の製造コストを低減することができる。なお、ゲート電極層の下層の電極層の成分をAu、Ag、Cu、Pt、Ce、Dy、Fe、Gd、Hf、Nd、Pd、Pr、Ru、Sr、Tb、V、Y若しくはZr、又はこれらの金属群から選択された少なくとも1種を含有するものである場合においても、本実施例と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0111】
1:第1のダイヤモンド半導体領域、2:絶縁膜、3:ゲート電極層、4:犠牲層、5:レジスト、6:第2の犠牲層、7,7a:ダイヤモンド膜(高濃度ドープ層)、8:電極、9:第2の絶縁膜、11:第1の緩衝層、12:第2の緩衝層、13:化合物(シリサイド)層、14:金属電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層とを積層した上に、更に第1の犠牲層を積層する工程と、
前記第1の犠牲層の表面上に、局所的にレジストをパターン形成する工程と、
前記レジストをマスクとして、前記第1の犠牲層、前記多層金属電極層及び前記絶縁膜をエッチングした後、前記レジストを除去することにより、前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層と第1の犠牲層とからなる積層体をパターン形成する工程と、
前記積層体の側面に第2の犠牲層を形成する工程と、
全面に不純物がドープされたダイヤモンド膜を形成する工程と、
前記第1及び第2の犠牲層をエッチングにより除去することによるリフトオフにより前記第1及び第2の犠牲層の上の前記ダイヤモンド膜を除去して、前記第1のダイヤモンド半導体領域の上に残存した前記ダイヤモンド膜により第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程と、
前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の表面上に金属電極を形成する工程と、
を有し、
前記多層金属電極層のうち、最上層をPt又はPt合金により形成することを特徴とするダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記積層体をパターン形成した後に、前記第1の犠牲層をマスクとして前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面を更にエッチングして第1のダイヤモンド半導体領域の表面を掘り込むことを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の犠牲層を形成する工程は、前記積層体の側面に第2の絶縁膜を形成する工程と、この第2の絶縁膜の上に第2の犠牲層を形成する工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記第2の犠牲層を形成する工程は、全面に第2の犠牲層を形成した後、エッチバックすることにより、前記積層体の側面に前記第2の犠牲層を残すものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項5】
第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層とを積層する工程と、
前記多層金属電極層の表面上に、局所的にレジストをパターン形成する工程と、
前記レジストをマスクとして、前記多層金属電極層及び前記絶縁膜をエッチングした後、前記レジストを除去することにより、前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層とからなる積層体をパターン形成する工程と、
前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上のみに前記多層金属電極層に接触しないように、不純物が高濃度にドープされたダイヤモンド膜を形成し、このダイヤモンド膜により第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程と、
前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の表面上に金属電極を形成する工程と、
を有し、
前記多層金属電極層のうち、最上層をPt又はPt合金により形成することを特徴とするダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項6】
第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層とを積層した上に、更に第1の犠牲層を積層する工程と、
前記第1の犠牲層の表面上に、局所的にレジストをパターン形成する工程と、
前記レジストをマスクとして、前記第1の犠牲層、前記多層金属電極層及び前記絶縁膜をエッチングした後、前記レジストを除去することにより、前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上に、絶縁膜と多層金属電極層と第1の犠牲層とからなる積層体をパターン形成する工程と、
前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面上のみに前記多層金属電極層に接触しないように、不純物が高濃度にドープされたダイヤモンド膜を形成し、このダイヤモンド膜により第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程と、
前記第1の犠牲層をエッチングにより除去する工程と、
前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の表面上に金属電極を形成する工程と、
を有し、
前記多層金属電極層のうち、最上層をPt又はPt合金により形成することを特徴とするダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記積層体をパターン形成する工程と前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程との間に前記積層体の側面に第2の犠牲層を形成する工程を有し、前記第1の犠牲層を除去する工程において、前記第2の犠牲層もエッチングにより除去することを特徴とする請求項6に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2の犠牲層を形成する工程は、全面に第2の犠牲層を形成した後、エッチバックすることにより、前記積層体の側面に前記第2の犠牲層を残すものであることを特徴とする請求項7に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記積層体をパターン形成した後に、前記第1の犠牲層をマスクとして前記第1のダイヤモンド半導体領域の表面を更にエッチングして第1のダイヤモンド半導体領域の表面を掘り込むことを特徴とする請求項6に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記積層体をパターン形成する工程と前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程との間に前記積層体の側面に第2の絶縁膜を形成する工程を有し、この第2の絶縁膜を形成する工程は、全面に第2の絶縁膜を形成した後、エッチバックすることにより、前記積層体の側面に前記第2の絶縁膜を残すものであることを特徴とする請求項6に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記絶縁膜と前記多層金属電極層との間に、少なくとも半導体元素を含有した半導体元素層を具備する緩衝層を積層することを特徴とする請求項5乃至10のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記多層金属電極層のうち、最下層の金属電極層はW、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Cr、Co及びMnからなる群から選択された少なくとも1種を含有し、前記半導体元素は、Si又はGeであることを特徴とする請求項11に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記緩衝層は、前記半導体元素層と前記半導体元素の酸化物層との2層構造を有し、前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域を形成する工程における温度によって加熱され、前記多層金属電極層と前記半導体元素層とが反応することを特徴とする請求項11又は12に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記多層金属電極層の最上層が、Pt合金により形成する場合は、このPt合金は、Ptを50原子%以上含有する合金により形成されており、上下に積層された金属電極層同士は夫々異なる成分組成を有することを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項15】
前記最上層の厚さが50乃至200nmであることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子の製造方法。
【請求項16】
第1のダイヤモンド半導体領域上に局所的に形成され、下層の絶縁膜と上層の多層金属電極層からなる積層体と、
前記第1のダイヤモンド半導体領域上で、前記積層体の両側に隣接し前記多層金属電極層と接触しないように設けられた第2及び第3のダイヤモンド半導体領域と、
第2及び第3のダイヤモンド半導体領域上に夫々形成された電極と、
を有し、
前記多層金属電極層のうち、前記第1のダイヤモンド半導体領域から最も離隔した最上層がPt又はPt合金により形成されていることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項17】
前記絶縁膜と前記多層金属電極層との間に緩衝層が配置されており、この緩衝層は、少なくとも半導体元素を含有する半導体元素層を具備することを特徴とする請求項16に記載のダイヤモンド半導体素子。
【請求項18】
前記多層金属電極層のうち、最下層の金属電極層はW、Ti、Mo、Ni、Ta、Nb、Cr、Co及びMnからなる群から選択された少なくとも1種を含有し、前記半導体元素は、Si又はGeであることを特徴とする請求項17に記載のダイヤモンド半導体素子。
【請求項19】
前記緩衝層は、少なくとも前記絶縁膜側の前記半導体元素の酸化物層と、前記多層金属電極層側の層と、を有する2以上の層により構成され、前記多層金属電極層側の層は、前記半導体元素と前記多層金属電極層の最下層の元素との化合物からなることを特徴とする請求項17又は18に記載のダイヤモンド半導体素子。
【請求項20】
前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域は、前記第1のダイヤモンド半導体領域よりも不純物が高濃度にドープされていることを特徴とする請求項16乃至19のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子。
【請求項21】
前記積層体の両側面に第2の絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項16乃至20のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子。
【請求項22】
前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域と、前記積層体の前記絶縁膜とが、前記第1のダイヤモンド半導体領域と同一平面上に配置され、前記絶縁膜の厚さは、前記第2及び第3のダイヤモンド半導体領域の厚さよりも大きいことを特徴とする請求項16乃至21のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子。
【請求項23】
前記多層金属電極層の最上層が、Pt合金により形成されている場合は、このPt合金は、Ptを50原子%以上含有する合金により形成されており、上下に積層された金属電極層同士は夫々異なる成分組成を有することを特徴とする請求項16乃至22のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子。
【請求項24】
前記最上層の厚さが50乃至200nmであることを特徴とする請求項16乃至23のいずれか1項に記載のダイヤモンド半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−181763(P2011−181763A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45652(P2010−45652)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】