説明

デジタル制御型位相合成回路システム

【課題】 ジッタ耐性を強化し、かつロックレンジを拡大するデジタル制御型位相合成回路システムを得る。
【解決手段】 位相の異なる2つのクロックと制御信号が入力され、制御信号による重み付けに基づいて、これらのクロックの中間の位相をもつ出力クロックを合成する位相合成回路と、出力クロックの位相と基準クロックの位相とを比較するバイナリ型位相比較回路と、バイナリ型位相比較回路による比較結果に基づいて第1のカウント値をカウントアップ又はカウントダウンし、第1のカウント値の最上位ビットの値を出力し、第1のカウント値にキャリー又はボローが発生した場合にクロックパルスを出力する第1のアップダウンカウンタと、クロックパルスを動作クロックとし、第1のカウント値の最上位ビットに基づいて第2のカウント値をカウントアップ又はカウントダウンし、第2のカウント値を制御信号として出力する第2のアップダウンカウンタとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相の異なる2つのクロックを制御信号で重み付けして、これらのクロックの中間の位相をもつ出力クロックを合成するデジタル制御型位相合成回路システムに関し、特にジッタ耐性を強化し、かつロックレンジを拡大することができるデジタル制御型位相合成回路システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
DLL(Delay Locked Loop)回路において、位相の異なる2つのクロックを重み付けして合成するデジタル制御型位相合成回路システムが使用される(例えば、特許文献1又は2参照)。
【0003】
図4は、従来のデジタル制御型位相合成回路システムを示すブロック図である。位相合成回路11は、図5に示すように、位相の異なる2つのクロックi-CLKとq-CLKを制御信号で重み付けして、これらのクロックの中間の位相をもつ出力クロックを合成する。この出力クロックは、基準クロック(又は入力データ)と共にフリップフロップ回路12に入力される。
【0004】
バイナリ型位相比較回路13は、出力クロックの位相と基準クロックの位相を比較する。そして、この比較結果に基づいてアップダウンカウンタ14がカウンタ値をアップ又はダウンし、そのカウンタ値を制御信号として位相合成回路11に出力する。こうして、出力クロックの位相が基準クロックの位相と等しくなるように制御信号にフィードバックさせて、出力クロックを基準クロックにロックする。
【0005】
【特許文献1】特開2001−217682号公報
【特許文献2】米国特許5485490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、位相合成回路のジッタ耐性を強化するためにカウンタの動作周波数を低くするとロックレンジが狭まる。逆に、ロックレンジ拡大のためにカウンタの動作周波数を高くすると、基準クロックと出力クロックの位相が等しくなった場合に高周波ジッタの影響を受けやすくなるという問題があった。
【0007】
また、基準クロックと出力クロックが図6に示す位置関係の場合、本来は位相比較回路はHを出力するが、ジッタにより基準クロックのエッジがふらつくとLを出力する場合が出てくる。このように基準クロックにジッタが多いと、位相比較回路の出力クロックがジッタにより振られ、後段のアップダウンカウンタの値が必要以上に頻繁に切り替わり、出力クロックのジッタになるという問題もあった。従って、従来のデジタル制御型位相合成回路システムは、特にジッタの多いデータを扱うCDR(Clock and Data Recovery)回路への適用が難しかった。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、ジッタ耐性を強化し、かつロックレンジを拡大することができるデジタル制御型位相合成回路システムを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るデジタル制御型位相合成回路システムは、位相の異なる2つのクロックと制御信号が入力され、制御信号による重み付けに基づいて、これらのクロックの中間の位相をもつ出力クロックを合成する位相合成回路と、出力クロックの位相と基準クロックの位相とを比較するバイナリ型位相比較回路と、バイナリ型位相比較回路による比較結果に基づいて第1のカウント値をカウントアップ又はカウントダウンし、第1のカウント値の最上位ビットの値を出力し、第1のカウント値にキャリー又はボローが発生した場合にクロックパルスを出力する第1のアップダウンカウンタと、クロックパルスを動作クロックとし、第1のカウント値の最上位ビットに基づいて第2のカウント値をカウントアップ又はカウントダウンし、第2のカウント値を制御信号として出力する第2のアップダウンカウンタとを有する。本発明のその他の特徴は以下に明らかにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ジッタ耐性を強化し、かつロックレンジを拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係るデジタル制御型位相合成回路システムを示すブロック図である。このシステムは、従来と同様に、位相合成回路11、フリップフロップ回路12及びバイナリ型位相比較回路13を有する。ただし、従来のアップダウンカウンタの代わりに、第1のアップダウンカウンタ15及び第2のアップダウンカウンタ16を有する。
【0012】
位相合成回路11は、位相の異なる2つのクロックi-CLK, q-CLKと制御信号が入力され、この制御信号による重み付けに基づいて、これらのクロックの中間の位相をもつ出力クロックを合成する。この出力クロックは、基準クロックと共にフリップフロップ回路12に入力される。
【0013】
そして、バイナリ型位相比較回路13は、出力クロックの位相と基準クロックの位相を比較する。ただし、バイナリ型位相比較回路13は、フリップフロップ回路12と同じ構成(D型フリップフロップ)であり、基準クロックと出力クロックの入力が入れ替わっている。
【0014】
第1のアップダウンカウンタ15は、カウンタ動作用クロックを動作クロックとして、バイナリ型位相比較回路13による比較結果に基づいて第1のカウント値をカウントアップ又はカウントダウンし、第1のカウント値の最上位ビットの値MSBを出力する。そして、第1のカウント値にキャリー又はボローが発生した場合にクロックパルスTriggerを出力し、カウント値を中央へ戻す。
【0015】
第2のアップダウンカウンタ16は、クロックパルスTriggerを動作クロックとし、第1のカウント値の最上位ビットの値MSBに基づいて第2のカウント値をカウントアップ又はカウントダウンし、第2のカウント値を位相合成回路11の制御信号として出力する。
【0016】
次に、上記システムの動作について図2を用いて説明する。図2は、第1のアップダウンカウンタ15の第1のカウンタ値を示す概念図である。ここでは、第1のカウント値のビット長を3とし、第1のアップダウンカウンタ15の初期値を第1のカウント値の中央に設定する。
【0017】
バイナリ型位相比較回路13の出力がHigh richな場合は、第1のアップダウンカウンタ15はカウントアップ動作が多くなり、第1のカウント値の中央から4回(第1のカウント値のビット長をnとすると2n−1回)カウントアップするとキャリー(桁上がり)が発生し、クロックパルスが発生する。一方、バイナリ型位相比較回路13の出力がLow richな場合は、カウントダウン動作が多くなり、第1のカウント値の中央から4回カウントダウンするとボロー(桁下がり)が発生し、クロックパルスが発生する。
【0018】
第1のアップダウンカウンタ15から出力されたクロックパルスに同期して、第2のアップダウンカウンタ16は、第1のカウント値の最上位ビットの値MSBがHの場合は第2のカウント値をカウントアップし、Lの場合は第2のカウント値をカウントダウンする。そして、第2のアップダウンカウンタ16は、第2のカウント値を制御信号として位相合成回路11へ出力する。この制御信号が変化すると、位相合成回路11の出力クロックの位相が切り替わる。
【0019】
こうして、出力クロックと基準クロックの位相は徐々に等しくなっていくと、バイナリ型位相比較回路13の出力は頻繁にH/Lが切り替わるようになる。このとき第1のアップダウンカウンタ15ではカウントアップとカウントダウンの回数が等しくなり、なかなかクロックパルスを発生させなくなる。このため、第2のアップダウンカウンタ16が出力する制御信号は変化しなくなり、位相合成回路11の出力クロックの位相は固定される。
【0020】
従来のシステムは、ロックレンジ拡大のためにカウンタの動作周波数を高くすると、基準クロックと出力クロックの位相が等しくなった場合に高周波ジッタの影響を受けやすかった。これに対し、本発明のシステムは、第2のアップダウンカウンタ16の動作周波数を位相差の状態によって自動調整して、バイナリ型位相比較回路13の出力を平滑化してから位相合成回路11の制御信号としてフィードバックすることで、位相が等しくなった場合にはカウンタの実効的な動作周波数が低くなる。これにより、高周波ジッタの影響を抑えることができる。また、出力クロックのジッタそのものを低減するという効果もある。従って、本発明のシステムは、ジッタ耐性を強化し、かつロックレンジを拡大することができる。
【0021】
また、カウンタ動作用クロックとして周波数の異なるものを複数用意し、第1のアップダウンカウンタ15として第1のカウンタ値のビット長の異なるものを複数用意し、それぞれ選択可能な構造とする。これにより、第1のアップダウンカウンタ15の動作周波数を変えるか、又は第1のカウント値のビット長を変えれば、出力クロックの位相の切り替え速度を変えることができる。具体的には、カウンタ動作用周波数が遅く、第1のカウンタ値のビット長が長いほど、より高周波のジッタを抑圧することができる。
【0022】
従って、複数のジッタ耐性の規格に同一回路で対応できる。例えば、ジッタ周波数とジッタ強度の関係が図3に示す規格Bから規格Aに変化した場合、規格Bに適応した回路において、カウンタ動作周波数を低いものに変えるか、又は第1のアップダウンカウンタ15を第1のカウンタ値のビット長の長いものに切り替えることで、規格Aに適応させることができる。
【0023】
また、第1のアップダウンカウンタ15の初期値を第1のカウント値の中央に設定すると、基準クロックと出力クロックの位相が完全に等しくなるところでロックされる。これに対し、初期値を第1のカウント値の端側へ移すことで、ロック時の出力クロックの位相を変えることができる。従って、第1のカウント値の初期値を可変にする。これにより、フリップフロップ回路12にとって最適なセットアップ・ホールドマージンを持ったタイミング設計が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係るデジタル制御型位相合成回路システムを示すブロック図である。
【図2】第1のアップダウンカウンタの第1のカウンタ値を示す概念図である。
【図3】ジッタ周波数とジッタ強度の関係を示す図である。
【図4】従来のデジタル制御型位相合成回路システムを示すブロック図である。
【図5】位相合成回路の入力・出力クロックを示すタイミング図である。
【図6】基準クロックとカウンタ動作用クロックを示すタイミング図である。
【符号の説明】
【0025】
11 位相合成回路
13 バイナリ型位相比較回路
15 第1のアップダウンカウンタ
16 第2のアップダウンカウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相の異なる2つのクロックと制御信号が入力され、前記制御信号による重み付けに基づいて、これらのクロックの中間の位相をもつ出力クロックを合成する位相合成回路と、
前記出力クロックの位相と基準クロックの位相とを比較するバイナリ型位相比較回路と、
前記バイナリ型位相比較回路による比較結果に基づいて第1のカウント値をカウントアップ又はカウントダウンし、前記第1のカウント値の最上位ビットの値を出力し、前記第1のカウント値にキャリー又はボローが発生した場合にクロックパルスを出力する第1のアップダウンカウンタと、
前記クロックパルスを動作クロックとし、前記第1のカウント値の最上位ビットに基づいて第2のカウント値をカウントアップ又はカウントダウンし、前記第2のカウント値を前記制御信号として出力する第2のアップダウンカウンタとを有することを特徴とするデジタル制御型位相合成回路システム。
【請求項2】
前記第1のカウンタのビット長は可変であることを特徴とする請求項1記載のデジタル制御型位相合成回路システム。
【請求項3】
前記第1のカウンタの動作周波数は可変であることを特徴とする請求項1記載のデジタル制御型位相合成回路システム。
【請求項4】
前記第1のカウント値の初期値は可変であることを特徴とする請求項1記載のデジタル制御型位相合成回路システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−303794(P2006−303794A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121192(P2005−121192)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】