説明

ハイブリッド四輪駆動車の制御装置

【課題】車両の操縦性及び安定性を向上させることができるハイブリッド四輪駆動車の制御装置の提供を課題とする。
【解決手段】上記課題は、ハイブリッド四輪駆動車1の加速旋回時、エンジン2によって駆動される前輪5の動力増加タイミングと、モータジェネレータ6によって駆動される後輪9の動力増加タイミングとの間に時間差を設けることにより、解決できる。すなわち両車輪の動力増加タイミングに時間差を設けると、車両の加速旋回開始時のヨーレイトが大きくなり、回頭性が向上し、この結果、加速旋回時におけるハイブリッド四輪駆動車1の操縦性及び安定性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド四輪駆動車の制御装置に関する技術、代表的には、車両の操縦性や安定性を向上させるための制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド四輪駆動車に関する背景技術としては、例えば特許文献1,2に開示されている。特許文献1には、電動機により駆動される第2の駆動輪の回生制動力を調整して操安性を向上させる技術が開示されている。特許文献2には、車速とアクセル操作量に応じた駆動力を配分するパターンを、蓄電池の充電状態に応じて切り替える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−304182号公報
【特許文献2】特開平9−284911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、内燃機関であるエンジンによって前後輪の一方を駆動し、電動機によって前後輪の他方を駆動するハイブリッド四輪駆動車が普及している。ハイブリッド四輪駆動車は、燃費の向上や排出ガス低減が可能であると共に、二輪駆動車よりも車両の操縦性や安定性が良い。最近では、背景技術よりもさらに車両の操縦性や安定性が良いハイブリッド四輪駆動車の提供が望まれている。この要望に対する対応案の一つとしては、前後の駆動力配分を適切に制御して加速旋回時における車両の操縦性や安定性を向上させることが考えられる。
【0005】
尚、特許文献1に開示された技術では減速旋回のみを考慮しており、加速旋回時までは考慮していない。また、特許文献2に開示された技術のように、蓄電池の充電状態の情報によって前後輪の駆動状態を切り替えると、運転者が意図していない車両の操縦性や安定性になり、運転者に違和感を与えることが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
代表的な本発明の一つは、車両の操縦性及び安定性を向上させることができるハイブリッド四輪駆動車の制御装置を提供する。
【0007】
ここに、代表的な本発明の一つは、車両の加速旋回時、第1動力源によって駆動される第1駆動輪の動力増加タイミングと、第2動力源によって駆動される第2駆動輪の動力増加タイミングとの間に時間差を設けることを特徴とする。
【0008】
代表的な本発明の一つのように、両車輪の動力増加タイミングに時間差を設けると、車両の加速旋回開始時のヨーレイトが大きくなり、回頭性が向上する。
【発明の効果】
【0009】
その結果、代表的な本発明の一つによれば、車両の操縦性及び安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施例であるハイブリッド四輪駆動車の駆動系の構成を示す平面図。
【図2】図1のハイブリッド四輪駆動車に搭載されたエンジン制御装置,モータ制御装置及び各センサなどのとの信号の入出力関係を示すブロック図。
【図3】車両の前後輪の2輪モデルを示すモデル図((a)参照)及び前後輪の駆動力とステアとの関係を示すステア特性図。
【図4】図1のハイブリッド四輪駆動車に搭載された制御装置の演算処理を示すフローチャート。
【図5】図1のハイブリッド四輪駆動車に搭載された制御装置の演算処理を示すフローチャート。
【図6】図1のハイブリッド四輪駆動車の動作を示すタイムチャート。
【図7】第1実施例の制御を実行したことによる効果を説明するための図であって、図1のハイブリッド四輪駆動車の動作状態を示す車両軌跡図。
【図8】本発明の第2実施例であるハイブリッド四輪駆動車の制御装置の演算処理を示すフローチャート。
【図9】第2実施例の制御を実行したことによる効果を説明するための図であって、ハイブリッド四輪駆動車の動作状態を示す車両軌跡図。
【図10】第2実施例の制御を実行したことによる効果を説明するための図であって、ハイブリッド四輪駆動車の動作状態を示す車両軌跡図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1乃至図7を用いて本発明の第1実施例を説明する。
【0013】
まず、図1を用いて、ハイブリッド四輪駆動車の駆動系の構成について説明する。
【0014】
図1に示すように、ハイブリッド四輪駆動車1は、エンジン2とトランスアクスル3(変速機と差動装置(デファレンシャルギア)の一体化装置)が車体の前側に配設され、モータジェネレータ6と後輪差動装置(デファレンシャルギア)7が車両の後側に配設されている。
【0015】
エンジン2の回転動力はトランスアクスル3及び前輪ドライブシャフト4を介して前輪5に伝達される。これによって前輪5が常時、駆動される。
【0016】
尚、本実施例では、エンジン2としてガソリンエンジンを用いた場合を例に挙げて説明する。エンジン2としては、ディーゼルエンジン又は水素エンジン或いはガスエンジン若しくはバイオ燃料エンジンなど、他のエンジンを用いても構わない。
【0017】
モータジェネレータ6の回転動力は後輪減速機18、後輪差動装置7及び後輪ドライブシャフト8を介して後輪9に伝達される。これによって後輪9が、必要に応じて、すなわち前輪5のアシスト時やEV走行時などにおいて、駆動される。モータジェネレータ6と後輪減速機18の間にはクラッチ12が配設されている。クラッチ12は、通常は締結されているが、開放することでモータジェネレータ6と後輪差動装置7との間の動力伝達を断つことができる。
【0018】
尚、本実施例では、モータジェネレータ6と後輪差動装置7との間にクラッチ12及び後輪減速機18を配置した構成を例に挙げて説明する。モータジェネレータ6の回転動力を伝達する構成としては、減速機18がなく、モータジェネレータ6の回転動力がクラッチ12を介して直接、後輪差動装置7に入力される構成であっても構わないし、クラッチ12がなく、モータジェネレータ6と減速機18が直接、接続される構成であっても構わない。
【0019】
また、本実施例では、モータジェネレータ6として、三相交流同期機、例えば回転磁界を発生する電機子、及び永久磁石を備えた界磁から構成された永久磁石界磁型三相交流同期機を用いた場合を例に挙げて説明する。モータジェネレータ6としては三相交流誘導機或いは直流機を用いても構わない。また、三相交流同期機としては、回転磁界を発生する電機子、及び界磁巻線を備えた界磁から構成された巻線界磁型三相交流同期機を用いてもよい。
【0020】
モータジェネレータ6の電機子に巻かれた巻線にはインバータ装置10を介して蓄電装置11が電気的に接続されている。蓄電装置11はモータジェネレータ6の駆動用直流電源であり、車載電装品(ライトやラジオなど)の駆動用直流電源である車載補機用バッテリ(公称出力電圧12ボルト)よりも高電圧のバッテリ(公称出力電圧36ボルト以上、例えば300〜400ボルト)、例えばリチウムイオンバッテリ或いはニッケル水素バッテリにより構成されている。
【0021】
尚、本実施例では、公称出力電圧36ボルト以上の高電圧バッテリにより蓄電装置11を構成した場合を例に挙げて説明する。蓄電装置11としては、大容量のキャパシタ或いはコンデンサを用いても構わない。
【0022】
インバータ装置10は電力変換回路を備え、モータジェネレータ6の電機子と蓄電装置11との間において直流電力から三相交流電力への電力変換、及び三相交流電力から直流電力への電力変換を行う電力変換装置である。電力変換回路は、二つのスイッチング半導体素子を電気的に直列に接続した一相分の直列回路が三相分、蓄電装置11の直流正負極間に対して電気的に並列に接続されることにより構成されている。各直列回路の中点にはモータジェネレータ6の電機子の対応する相の巻線が電気的に接続されている。
【0023】
尚、本実施例では、電力変換用の六つのスイッチング半導体素子として、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を用いた場合を例に挙げて説明する。スイッチング半導体素子としては、金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ(MOSFET)を用いても構わない。
【0024】
エンジン2の作動はエンジン制御装置(図示省略)によって制御されている。エンジン制御装置は、エンジンコンポーネント機器(空気絞り弁,吸排気弁,燃料噴射弁など)に指令信号を出力してエンジンコンポーネント機器の駆動を制御する。この結果、エンジン2に供給される空気量,燃料量などが制御され、エンジン2から出力される回転動力が制御される。
【0025】
モータジェネレータ6の作動はモータ制御装置12によって制御されている。モータ制御装置12は、インバータ装置10に駆動指令信号を出力してインバータ装置10の駆動(スイッチング半導体素子のスイッチング(オンオフ)動作)を制御する。この結果、モータジェネレータ6の電機子と蓄電装置11との間の電力が制御され、モータジェネレータ6から出力される回転動力が制御されると共に、モータジェネレータ6による発電が制御される。
【0026】
蓄電装置11から供給された直流電力がインバータ装置10によって三相交流電力に変換されてモータジェネレータ6の電機子に供給されると、モータジェネレータ6は力行動作、すなわち電動機として動作し、回転動力を発生する。発生した回転動力は、前述した動力伝達路を介して後輪9に伝達される。これにより、エンジン2によって駆動される前輪5に対しての駆動アシスト及びモータジェネレータ6のみの動力による車両の駆動が可能である。
【0027】
一方、後輪9からの動力によってモータジェネレータ6が駆動されると、モータジェネレータ6は回生(発電)動作、すなわち発電機として動作し、三相交流電力を発生する。発生した三相交流電力はインバータ装置10によって直流電力に変換され、蓄電装置11に供給される。これにより、蓄電装置11の蓄電及び回生制動が可能である。
【0028】
次に、図2を用いて、モータ制御装置12の構成について説明する。
【0029】
図2に示すように、モータ制御装置12には、モータジェネレータ6の制御に必要な複数の入力情報に対応する複数の信号が入力されている。複数の入力情報としては、例えばアクセルペダルセンサ20の出力信号(エンジン2の空気絞り弁の開度でも良い)、ハンドル角センサ21の出力信号,ブレーキペダルスイッチ22の出力信号(ブレーキペダル踏込量でも良い),車輪速センサ23(4輪とも),前後加速度センサ24,横加速度センサ25,ヨーレイトセンサ26,シフトレバー位置センサ27,パーキングブレーキスイッチ28,蓄電装置11のバッテリ制御装置から出力されたバッテリ状態情報29(例えば充電状態(SOC)情報,許容充放電量情報,劣化状態(SOH)情報など),電流センサ30(モータジェネレータ6とインバータ装置10との間に流れる三相交流電流を検出),モータ回転位置センサ31(モータジェネレータ6の回転位置を検出、例えばレゾルバなどの磁極位置センサ)などがある。
【0030】
モータ制御装置12は、通信ネットワークによってエンジン制御装置32を含む他の制御装置と電気的に接続されおり、他の制御装置との間において信号伝送により、お互いの情報を送受信できる。モータ制御装置12に入力される複数の入力情報は、各センサから直接入力されるか、或いは通信ネットワークを介して信号伝送されている。
【0031】
モータ制御装置12は、半導体装置であるマイクロコンピュータ及び記憶装置を含む複数の電子部品が電子回路基板に実装されて電気的に接続されることにより構成されている。マイクロコンピュータは所定のプログラムによって動作する演算処理装置であり、ソフトウエアによって構成されたモータジェネレータ制御部を備えている。
【0032】
モータジェネレータ制御部は、インバータ装置10のスイッチング半導体素子をオンオフさせるための駆動指令信号をインバータ装置10に出力してインバータ装置10による電力変換を制御し、これによってモータジェネレータ6の作動を制御する制御演算部であり、モータジェネレータ6に対するトルク指令値,モータジェネレータ6の磁極位置,インバータ装置10とモータジェネレータ6との間の三相交流電流値を含む複数の入力情報に基づいて、インバータ装置10のスイッチング半導体素子をオンオフするための駆動指令値を演算し、その駆動指令値を出力情報として、その駆動指令値に対応する信号(例えばPWM(パルス幅変調)信号)をインバータ装置10の駆動回路に出力する。インバータ装置10の駆動回路は、受けた駆動指令信号を、スイッチング半導体素子のゲート電極に入力される駆動信号とし、スイッチング半導体素子のゲート電極に出力する。これにより、6つのスイッチング半導体素子のオンオフが個々に制御され、電力変換が行われる。
【0033】
次に、車両の駆動制御動作について説明する。
【0034】
まず、図3を用いて、車両の前後輪の2輪モデル((a)参照),前後輪の駆動力とステア特性との関係((b)参照)について説明する。
【0035】
図3(a)において、Wは車重を、Wfは前輪荷重を、Wrは後輪荷重を、Lはホイールベースを、Lfは重心点から前輪軸間までの距離を、Lrは重心点から後輪軸間までの距離を、Hgは重心高を、Fxfは前輪駆動力を、Fxrは後輪駆動力を、Fyfは前輪飽和横力を、Fyrは後輪飽和横力を、Mzは旋回方向を正としたときの重心点周りのモーメントを、それぞれ示す。
【0036】
駆動力と横力とのベクトル和は各輪でのタイヤ発生力になる。ある駆動力が発生しているとき、いわゆる摩擦円を最大に使用した場合の最大横力は飽和横力になる。
【0037】
重心点周りのモーメントは式(1)から求められる。
【0038】
Mz=Fyf×Lf−Fyr×Lr …(1)
【0039】
重心点周りのモーメントMzが0であれば、車両の自転が無いので、ニュートラルステアである。Mzが負の値であれば、旋回方向と逆方向に自転するので、アンダーステアである。Mzが正の値であれば、旋回方向に自転するので、オーバーステアである。
【0040】
例えばW=15000[N],L=2500[mm],Lf=1000[mm],Lr=1500[mm],Hg=450[mm]の車両を考える。
【0041】
静的な前後荷重配分は重心前後のモーメントの釣り合い式(2)から求められる。
【0042】
Wf×Lf/L=Wr×Lr/L …(2)
Wf×1000/2500=Wr×1500/2500
Wf×0.4=Wr×0.6
Wf:Wr=0.6:0.4
Wf:Wr=15000×0.6:15000×0.4
Wf:Wr=9000[N]:6000[N]
【0043】
つまり静的な前後荷重配分は60:40の9000[N]:6000[N]である。
【0044】
ここで、前後加速度Gx=0.25[G]の加速旋回をすると、加速時の前後の移動荷重ΔWは式(3)から求められる。
【0045】
ΔW=W×Gx×Hg/L …(3)
ΔW=15000×0.25×450/2500
=675[N]
【0046】
このときの前輪荷重Wf(0.25)と後輪荷重Wr(0.25)は式(4)と式(5)から求められる。
【0047】
Wf(0.25)=Wf−ΔW …(4)
=9000−675
=8325[N]
Wr(0.25)=Wr+ΔW …(5)
=6000+675
=6675[N]
【0048】
つまり、前後加速度Gx=1[G]での駆動力を100とすれば、前後加速度Gx=0.25[G]のときの前後力と横力のベクトル和の最大値、つまり摩擦円の大きさは次の通りとなる。
【0049】
Wf(0.25)=8325/15000×100
=55.5 …(6)
Wr(0.25)=6675/15000×100
=44.5 …(7)
【0050】
この前後加速度Gx=0.25[G]のときの駆動力は前後加速度Gx=1[G]での駆動力の25[%]であるから、前後の駆動力Fxf及びFxrには下記の関係がある。
【0051】
Fxf+Fxr=加速度×100
=0.25×100
Fxf=25−Fxr …(8)
Fxr=25−Fxf …(9)
【0052】
ここで、ニュートラルステア、つまりMz=0での前後の駆動力Fx及びびFxrを式(1)から求めると、次の通りになる。
【0053】
Mz=Fyf×Lf−Fyr×Lr
0=Fyf×1000−Fyr×1500
0=1000Fyf−1500Fyr
Fyf=1.5Fyr
Fyf:Fyr=3:2
Fyf2:Fyr2=9:4 …(10)
【0054】
上記の結果から、前後の飽和横力Fyf及びFyrを求める。ここで、前後力と飽和横力のベクトル和がタイヤ発生最大力であるので、(6),(7)から次の結果が得られる。
【0055】
Wf(0.25)2=Fxf2+Fyf2
55.5=Fxf2+Fyf2
Fyf2=55.52−Fxf2 …(11)
Wr(0.25)2=Fxr2+Fyr2
44.5=Fxr2+Fyr2
Fyr2=44.52−Fxr2 …(12)
【0056】
そして、(9),(10),(11),(12)より、次の結果が得られる。
【0057】
55.52−Fxf2:44.52−Fxr2=9:4
4(55.52−Fxf2)=9(44.52−Fxr2
4×55.52−4Fxf2=9×44.52−9Fxr2
−4Fxf2+9Fxr2−5501.25=0
−4Fxf2+9(25−Fxf)2−5501.25=0
−4Fxf2+9(625−50Fxf+Fxf2)−5501.25=0
5Fxf2−450Fxf+123.756=0
Fxf=(450±√{4502−4×5×123.75})/(2×5)
Fxf=(450±√{200025})/10
Fxf=45±44.724
Fxf≒0.3
∵式(8)よりFxf≦25
Fyr=25−Fxf
=24.7
Fxf:Fyr=0.3:24.7
≒1:99
【0058】
以上のことから、前後加速度Gx=0.25[G]の加速旋回では、ほぼ後輪駆動でニュートラルステアであることがわかる。
【0059】
以上説明した演算を、前後加速度を変えて実施した結果が、図3(b)に示すニュートラルステア線である。ニュートラルステア線上ではニュートラルステアの状態にある。ニュートラルステアの線より下の範囲では、Mzが負の値になり、アンダーステアの状態になる。ニュートラルステアの線より上の範囲では、Mzが正の値になり、オーバーステアの状態になる。
【0060】
ニュートラルステア線上の前後駆動力配分で前後輪を駆動すればニュートラルステアになる。しかし、後輪9はモータジェネレータ6による駆動である。このため、モータジェネレータ6の最大出力によって後輪9の駆動力が制限されてしまう。すなわち全ての走行状態でニュートラルステアを実現しようとすれば、大出力のモータジェネレータ6が必要になり、現実的ではない。
【0061】
そこで、本実施例では、加速旋回初期に後輪駆動力を優勢として、徐々に前輪駆動力を優勢とすることにより、ニュートラルステアから徐々にアンダーステアに移行して操縦性・安定性を高めている。
【0062】
次に、図4を用いて、モータ制御装置12の演算処理について説明する。
【0063】
まず、ステップ100では、要求駆動力を計算する。要求駆動力は、例えばアクセルの踏み込み量に係数を乗算することにより計算することができる。この後、ステップ101に進む。
【0064】
ステップ101では、蓄電装置の充電量が良好な状態であるか否かを判断する。例えば充電量が予め設定されたしきい値以上であるか否かを判断する。充電量がしきい値未満、すなわち良好な状態に無いと判断した場合には、蓄電エネルギーが不足しているので、ステップ106に進む。充電量がしきい値以上、すなわち良好な状態にあると判断した場合には、蓄電エネルギーが足りているので、ステップ102に進む。
【0065】
ステップ102では、発進状態であるか否かを判断する。例えば車速が予め設定されたしきい値以上であるか否かで判断する。発進状態であると判断すればステップ103に進む。発進状態では無く、走行中であると判断すればステップ104に進む。
【0066】
ステップ104では、要求駆動力に対する後輪の駆動力を計算する。ステップ104における計算方法については後述する。この後、ステップ107に進む。
【0067】
ステップ107では、要求駆動力から、前のステップにおいて演算或いは設定された後輪駆動力を減算して前輪駆動力を求める。この後、ステップ108に進む。
【0068】
ステップ108では、前のステップにおいて演算或いは設定された後輪駆動力にタイヤ半径を乗算し、これを後輪総減速比により除算してモータジェネレータ6の駆動トルクを求める。この後、ステップ109に進む。
【0069】
ステップ109では、前輪駆動力にタイヤ半径を乗算し、これを前輪総減速比により除算してエンジントルクトルクを求める。
【0070】
ステップ106では、後輪駆動力を0に設定する。この後、ステップ107に進む。
【0071】
ステップ103では、旋回状態であるか否かを判断する。例えばハンドル角の値が予め設定されたしきい値以上であるか否かを判断する。旋回状態ではないと判断された場合には、ステップ104に進む。旋回状態であると判断された場合には、ステップ105に進む。
【0072】
ステップ105では、後輪駆動力を計算する。この後、ステップ107に進む。
【0073】
ここで、例えば圧雪路の交差点における発進のように、路面の摩擦係数の小さい場所における旋回発進において後輪の駆動力が大きいと、スピン傾向となり、車両が安定しない。すなわち旋廻発進状態では、直進発進時よりも後輪駆動力を抑えたほうが良いということができる。従って、ステップ103において、旋回状態と判断されると、車両は旋回発進状態であるので、ステップ105における後輪駆動力の計算値は、ステップ104における後輪駆動力の計算値よりも低く設定する。
【0074】
次に、図5を用いて、ステップ107における後輪駆動力設定方法について説明する。
【0075】
まず、ステップ200では、最大後輪駆動力を計算する。例えばモータジェネレータ全負荷トルクを示す3次元マップ(モータトルクとモータ回転速度とモータジェネレータ全負荷トルクとの関係を示すデータテーブル)を参照して求めたモータジェネレータ全負荷トルクに後輪総減速比を乗算して求める。この後、ステップ210に進む。
【0076】
ここで、モータジェネレータ全負荷トルクマップは、種々条件(例えば蓄電装置11が供給できる電気エネルギー,インバータ10の温度,モータジェネレータ6の温度など)に応じて刻々に変化するように設定することが好ましい。このようにすれば、種々条件によって最大トルク及び最大出力が制限された場合でも計算に不備は起こらない。
【0077】
ステップ201では、要求駆動力に対する要求後輪駆動力を計算する。例えば要求駆動力と要求後輪駆動力との関係を示す2次元マップ(データテーブル)を参照して求める。この後、ステップ202に進む。
【0078】
ステップ202では、時間の経過にしたがって、後輪駆動力を減算させるための係数を設定する。この後、ステップ203に進む。
【0079】
ステップ202の係数設定により、後輪駆動力を徐々に低下させることができる。係数の設定は、例えばタイマー時間と係数との関係を示す2次元マップ(データテーブル)を参照して設定する。係数は、初め最大値を示す。この最大値は所定時間、継続する。最大値が所定時間継続した後、係数は、時間が経過するにしたがって徐々に小さくなる。
【0080】
尚、図5に示すように、タイマーは、毎処理サイクル毎にリセットされるよな記載になっている。実際には、一度セットされたタイマーは、時間経過後にクリアされ無い限り新たにはセットされない。
【0081】
ステップ203では、ステップ201において求めた要求後輪駆動力と、ステップ200において求めた最大後輪駆動力とを比較する。要求後輪駆動力が最大後輪駆動力よりも小さいと判断した場合にはステップ204に進む。最大後輪駆動力が要求後輪駆動力よりも小さいと判断した場合にはステップ205に進む。
【0082】
ステップ204では、要求後輪駆動力を後輪駆動力に設定する。この後、ステップ206に進む。
【0083】
ステップ205では、最大後輪駆動力を後輪駆動力に設定する。とこの後、ステップ206に進む。
【0084】
ステップ206では、オーバーステアであるか否かを判断する。例えばヨーレイトセンサにおいて検知された実ヨーレイトと、ハンドル角と車速とに基づいて計算された目標ヨーレイトとを比較し、実ヨーレイトが目標ヨーレイトよりも大きい場合にはオーバーステアと判断する。ステップ206においてオーバーステアであると判断した場合にはステップ207に進む。ステップ206においてオーバーステアではないと判断した場合にはステップ208に進む。
【0085】
ステップ207では、ステップ202において求めた係数に基づいて、ステップ204或いはステップ205において設定された後輪駆動力を削減する。このように、オーバーステアであると判断して後輪駆動力Fxrを減少させると、後輪飽和横力Fyrが増加して、式(1)のMzが小さくなり、オーバーステア傾向が緩和される。この後、ステップ208に進む。
【0086】
ステップ208では、例えばハンドル角で旋回方向を判断し、後輪の左右輪の車輪速を比較して予め設定した車輪速閾値とを比較する。ステップ208において、旋廻外輪となる方の車輪速が車輪速閾値よりも高いと判断した場合にはステップ209に進む。ステップ208において、旋廻外輪となる方の車輪速が車輪速閾値よりも小さい或いは等しいと判断した場合には後輪駆動力設定処理を終了する。
【0087】
ステップ209では、ステップ202において求めた係数に基づいて、ステップ204或いはステップ205若しくはステップ207において設定された後輪駆動力を削減する。すなわち後輪の旋廻内輪の方が旋回外輪よりも大幅に大きいということは、旋回内輪が低μ路上であり、旋廻方向のヨーレイトが大きくなると判断できる。このような場合、後輪駆動力Fxrを減少させると、後輪飽和横力Fyrが増加して、式(1)のMzが小さくなる。この結果、ヨーレイトの急激な増加が抑えられ、操縦性が向上する。
【0088】
次に、図6及び図7を用いて、以上説明した本実施例による前後輪の駆動制御の効果について、従来例との比較に基づいて説明する。
【0089】
図6は、上から順に、操舵角,アクセル開度,後輪駆動力,前輪駆動力,ヨーレイト,前後加速度のそれぞれの時間変化を示す。
【0090】
尚、図6では、(1)の時点から操舵し始め、これと同じタイミングでアクセルを深く踏んで加速する場合を例に挙げている。
【0091】
従来例では、アクセルを踏むと前輪駆動力と後輪駆動力がほぼ同時に増加するため、アクセル踏み始めからアンダーステア傾向が大きく、ヨーレイトの変化が小さい。一方、本実施例では、後輪駆動力はアクセルの踏込みに応じてまず増加し、所定時間後((2)のあたりから)、徐々に減少する。前輪駆動力は、旋廻初期は小さく、所定時間後((2)のあたりから)、後輪駆動力に応じて徐々に増加する。これにより、アクセルの踏み始めではアンダーステア傾向が小さく、ヨーレイトの変化が大きくなる。この結果、本実施例では、図7に示すように、旋廻初期のヨーレイトが大きくなり、従来例よりも内側の軌跡を通過することができる。
【実施例2】
【0092】
図8乃至図10を用いて本発明の第2実施例を説明する。
【0093】
本実施例は、第1実施例の改良例であり、第1実施例の後輪差動装置7に対して、後輪の左右輪の速度差によって差動制限力を発生する速度差感応型差動制限機能を付与した点が第1実施例とは異なっている。
【0094】
この他の構成は第1実施例と同様である。第1実施例と同様の構成については第1実施例と同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0095】
まず、旋回内輪が低μ路である場合を考える。図9に示すように、旋回内輪が低μ路になると、後旋回内輪の速度が車体速度よりも大幅に大きくなる。差動制限機能が無い後輪作動装置を搭載した比較例の場合では、モータジェネレータの回転動力の殆どが低μ路側に流れ、後輪の駆動力がほぼ“0”になり、アンダーステア傾向になる。一方、差動制限機能がある後輪作動装置を搭載した本実施例の場合では、旋回内輪低μ路側の動力が旋回外輪高μ路側へ流れて駆動力が発揮され、旋回外輪の駆動力が旋回内輪に比べて大きくなり、アンダーステア傾向は打ち消される。
【0096】
次に、旋回外輪が低μ路である場合を考える。図10に示すように、旋回外輪が低μ路になると、後旋回外輪の速度が車体速度よりも大幅に大きくなる。差動制限機能が無い後輪作動装置を搭載した比較例の場合では、モータジェネレータの回転動力の殆どが低μ路側に流れてしまい、後輪の駆動力がほぼ“0”になり、アンダーステア傾向になる。一方、差動制限機能がある後輪作動装置を搭載した本実施例の場合では、旋回外輪低μ路側の動力が旋回内輪高μ路側へ流れて駆動力が発揮される。ところが、この場合では、旋回内輪の駆動力が旋回外輪に比べて大きくなるので更にアンダーステア傾向が顕著になる。
【0097】
このようなことから、本実施例では、旋回外輪が低μ路と判断した場合は、後輪駆動力を下げるように制御している。
【0098】
次に、図8を用いて、旋回外輪が低μ路であると判断した場合における後輪駆動力減少制御について説明する。
【0099】
本実施例では、第1実施例の図5に示したフローチャートのステップ204,205とステップ206との間に、旋回外輪が低μ路であるか否かを判断するためのステップ210と、ステップ210において旋回外輪が低μ路であると判断した場合には、ステップ204或いはステップ205において設定された後輪駆動力を、ステップ202において設定された係数に基づいて削減するためのステップ211を追加している。旋回外輪が低μ路であるか否かは、例えばハンドル角で旋回方向を判断し、後輪の左右輪の車輪速を比較してその車輪速差が予め設定された閾値よりも大きければ旋回外輪が低μ路と判断できる。
【0100】
以上説明した本実施例によれば、旋回外輪が低μ路と判断された場合には、後輪駆動力を減少させて旋回内後輪の駆動力を減少させるので、重心点周りの旋回方向と逆のモーメントが小さくなり、アンダーステア傾向が緩和される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1動力源から出力された動力によって、前後輪の一方側である第1駆動輪を、第2動力源から出力された動力によって、前記前後輪の他方側である第2駆動輪を、それぞれ駆動するハイブリッド四輪駆動車に搭載された制御装置であって、
車両の加速旋回時、前記第1駆動輪に供給される動力の増加タイミングと前記第2駆動輪に供給される動力の増加タイミングとの間に時間差を設ける、
ことを特徴とするバイブリッド四輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド四輪駆動車の制御装置において、
前記ハイブリッド四輪駆動車は、前記第2駆動輪の左右輪間に、前記第2動力源から出力された動力を前記左右輪に分配する差動装置を備えており、
前記差動装置は、前記左右輪の速度差によって差動制限力を発生する速度差感応型差動制限機能付差動装置である、
ことを特徴とするハイブリッド四輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイブリッド四輪駆動車の制御装置において、
車両のヨー安定性を検知し、不安定と判断した場合には前記第2駆動輪に供給される動力を調整する、
ことを特徴とするハイブリッド四輪駆動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−228689(P2010−228689A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80849(P2009−80849)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】