ハイブリッド自動車およびコンピュータ装置ならびにプログラム
【課題】様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機とのトルク配分を最適に制御し、かつ、高負荷演算を必要としないハイブリッド自動車を提供すること。
【解決手段】ハイブリッド制御部12は、所定時間内における、運転者の要求トルクと、エンジン10の回転速度と、電動機11に電源を供給するバッテリ17への回生電流と、当該バッテリ17の充電状態を示す値とに対応して定まるエンジン10および電動機11に対するトルクの指示値を出力するトルク配分制御部30を備え、このトルク配分制御部30は、トルクの配分値を、入力値に対応させて出力するように学習が施され、この学習には、ダイナミックプログラミング手法を用いた事前シミュレーションを採用する。
【解決手段】ハイブリッド制御部12は、所定時間内における、運転者の要求トルクと、エンジン10の回転速度と、電動機11に電源を供給するバッテリ17への回生電流と、当該バッテリ17の充電状態を示す値とに対応して定まるエンジン10および電動機11に対するトルクの指示値を出力するトルク配分制御部30を備え、このトルク配分制御部30は、トルクの配分値を、入力値に対応させて出力するように学習が施され、この学習には、ダイナミックプログラミング手法を用いた事前シミュレーションを採用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車およびコンピュータ装置ならびにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
低燃費を実現するためにガソリンや軽油などで動くエンジンと電気で動く電動機とを併せて備えたハイブリッド自動車が普及しつつある。一般的に、ハイブリッド自動車は、発車時のように一時的に大きなエンジントルクが必要な状況下では電動機によって駆動する。これによりエンジンの負荷を軽減することができる。一方、高速走行中のように低いトルクが継続する状況下ではエンジンによって駆動する。これにより、電動機用バッテリに充電を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなハイブリッド自動車は、自動車メーカ側が予め実験を行って得た結果に基づくアシストマップを搭載している。エンジンと電動機とを最適に制御するためには、その時点における運転者の要求トルクと自動車の走行状態とに基づき複数のアシストマップの中から最適なアシストマップを選択して使用する。また、各駆動輪に対応してモータを設けた電気自動車において走行安定性を確保するため、予め学習済みの制御用ニューラルネットワークと更新用ニューラルネットワークを組み込む技術も知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−32442号公報
【特許文献2】特開平10−285707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乗用車では、オートマチック車が広く普及しており、運転者の運転上の癖が走行状態に反映される場合も比較的少なくなっている。よって上述したアシストマップの種類も数十種類(多くても数百種類)有れば十分である。これに対し、トラックやバスなどの大型自動車では、マニュアルトランスミッションが主流であるため、運転者の運転上の癖が走行状態に反映される状況は多い。例えば、急発進や急加速を頻繁に行う運転者もいれば、そのような行為を行わない運転者もいる。
【0005】
また、長時間高速道路を走行する長距離トラック便または高速バスや頻繁に発車、停車を繰り返す宅配便または路線バスなどのように、トラックやバスなどの大型自動車は、その使用環境や使用状況が乗用車に比べれば非常に様々である。
【0006】
したがって、予めメーカ側で用意されたアシストマップを用いるハイブリッド制御を行う場合に、そのアシストマップのバリエーションが少ないと、様々な運転者の癖や使用環境に対応できない場合も有り得る。よって、アシストマップの種類は数千種類から数万種類に及ぶ。しかしながら、膨大な種類のアシストマップを車載されたメモリに収容するためには、大きなメモリ容量を必要とする。さらに、このアシストマップの中から適切な1つのアシストマップを選択する処理にも膨大な処理能力を要し高負荷演算を必要とする。したがって、乗用車と同じような複数のアシストマップを選択する制御を、そのままトラックやバスなどの大型自動車に採用することは好ましくない。
【0007】
一方、この問題を回避するため、アシストマップを作成する際に特許文献2記載のような学習済みの制御用ニューラルネットワークと更新用ニューラルネットワークを用いることもできるが次のような問題を生じる。すなわち、アシストマップが必要となるハイブリッド自動車は、特許文献2記載の電気自動車と異なり、エンジンと電動機との関係が微妙であり、車両運行開始時に精度の良い制御を行わせるには、制御用ニューラルネットワークに対しての学習時間が膨大となり、高価格化する。また、更新用ニューラルネットワークを構築するには高負荷演算が必要となる。
【0008】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機とのトルク配分を最適に制御することができ、かつ、高負荷演算を必要としないハイブリッド自動車およびコンピュータ装置ならびにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のハイブリッド自動車は、エンジンと、電動機と、運転者の要求トルクと車両の走行状態とに基づきエンジンおよび電動機に配分するトルクをそれぞれ算出する算出手段とを備えたハイブリッド自動車において、算出手段は、所定時間内における、運転者の要求トルクと、エンジンの回転速度と、電動機に電源を供給するバッテリへの回生電流と、当該バッテリの充電状態を示す値とに対応して定まるエンジンおよび電動機に対するトルクの指示値を出力するトルク配分手段を備え、このトルク配分手段は、トルクの配分値を、入力値に対応させて出力するように学習が施され、この学習には、ダイナミックプログラミング手法を用いた事前シミュレーションを採用したものである。
【0010】
例えば、事前シミュレーションに使用するデータは、動力性能が同等の車両のエンジン回転速度と運転者の要求トルクとに基づく時系列データ、あるいは当該ハイブリッド自動車を用いた試験走行後のデータを用いる。
【0011】
さらに、トルク配分手段は、入力値に対応付けられたトルクの指示値を出力するように学習が施されたニューラルネットワークを備えることができる。
【0012】
このときには、ニューラルネットワークは、入力値に近似する近似値が入力したときに、内挿補間または外挿補間によってトルクの指示値を算出するための最適化マップを演算して生成することができる。
【0013】
また、本発明のコンピュータ装置は、本発明のハイブリッド自動車を対象とし、ダイナミックプログラミング手法を用いて入力値に対応する最適となるトルクの指示値を演算するシミュレーションを実施するものである。
【0014】
また、本発明のプログラムは、情報処理装置にインストールすることにより、その情報処理装置に、本発明のハイブリッド自動車における算出手段およびトルク配分手段の機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機とのトルク配分を最適に制御することができ、かつ、低価格化が可能なハイブリッド自動車を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(ハイブリッド自動車1の構成について)
本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1の構成を図1を参照して説明する。図1は、ハイブリッド自動車1の要部構成図である。ハイブリッド自動車1は、図1に示すように、エンジン10と、電動機11と、運転者の要求トルクと車両の走行状態とに基づきエンジン10および電動機11に配分するトルクをそれぞれ算出する算出手段であるハイブリッド制御部12とを備える。
【0017】
ハイブリッド自動車1のその他の構成としては、運転者のアクセル操作量に応じて運転者の要求トルク情報を検出するアクセルセンサ15、エンジン10を制御するエンジン制御部16、電動機11に電源を供給するバッテリ17、バッテリ17を制御するバッテリ制御部18、バッテリ17による電源の電動機11への供給量を調整するインバータ19、車両の各部の情報をハイブリッド制御部12に伝達するCAN(Control Area Network)20を備える。なお、ハイブリッド制御部12は、トルク配分制御部30を備えている。このトルク配分制御部30がハイブリッド制御における主要な処理を実施する。
【0018】
(本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1が行う情報処理の基本的な概念について)
本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1が行う情報処理の基本的な概念について図2を参照して説明する。本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1が行う情報処理は、図2に示すように、時間T1において取得した情報に基づきトルク配分制御部30は最適化マップを生成し、この最適化マップに基づいて生成された二次元ルックアップテーブルを時間T2の走行において使用する。さらに、時間T2において取得した情報に基づきトルク配分制御部30は最適化マップに基づいて生成された二次元ルックアップテーブルを生成し、この二次元ルックアップテーブルを時間T3の走行において使用する。
【0019】
すなわち、Nを2以上の整数としたとき、時間T(N−1)において取得した情報に基づきトルク配分制御部30はアシストマップ(すなわち二次元ルックアップテーブル)を生成し、このアシストマップを時間TNの走行において使用する。このようにして、逐次、アシストマップを生成しながら走行を行うことができるため、様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機のトルク配分を最適に制御することができる。なお、最適な制御とは、燃料消費量についてみれば従来のハイブリッド自動車ではない同型車両と比較して改善がみられる制御であり、電池の残存量であるSOC(State of Charge)についてみれば高い値で一定を保つような制御である。これら双方の制御が同時に最適となるようにアシストマップを生成する。
【0020】
また、時間Ti(iは1〜Nの整数)に相当する所定時間は、長ければ長いほど、取得する情報量が多くなり最適化マップを生成する際に、数値範囲の広い最適化マップを生成することができる。しかしながら、時間Tiから時間T(i+1)に移行する時間も長くなるため、制御のリアルタイム性が劣化する。したがって、時間Tiに相当する所定時間の長さは車両の使用状況および道路の環境に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、主に高速道路を走行する車両であれば、道路の環境の変化は少ないため、所定時間は長めであってもよい。一方、主に市街地を走行する車両であれば、道路の環境の変化が大きいため、所定時間は短めであることがよい。このような車両の相違による所定時間は、トラック、バス、乗用車など、車の違いによって予め決めておくことができる。また、実際の走行状態、例えば、ブレーキの使用頻度を検知してその検知された値によって適宜変更するようにしてもよい。なお、図1に示すトルク配分制御部30は、所定時間設定情報の入力を受け付けられるようになっている。例えば、所定時間は、1秒〜数分の範囲である。
【0021】
(全体的な処理の流れについて)
次に、本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1が行う情報処理の全体的な処理の流れについて図3を参照して説明する。本発明の実施の形態では、図3に示すように、コンピュータ装置40を用いて図1に示すハイブリッド制御部12とはオフラインでシミュレーション♯1〜♯Nに対応する最適化マップ♯1〜♯Nを生成する。すなわち、所定の車種に対するダイナミックプログラミング手法によるシミュレーション♯1〜♯Nを実施し(ステップS1)、そのシミュレーション結果として得られる情報に基づいて複数のシミュレーション♯1〜♯Nに対応する最適化マップ♯1〜♯Nを生成する(ステップS2)。なお、これらのシミュレーションが事前シミュレーションとなる。
【0022】
シミュレーション♯1〜♯Nに対応する最適化マップ♯1〜♯Nが生成されたら(ステップS2)、これをそのままハイブリッド制御部12のトルク配分制御部30に実装するのではなく、シミュレーション♯1〜♯Nと最適化マップ♯1〜♯Nとの対応関係をニューラルネットワーク50に学習させる(ステップS3)。そして、学習が施されたニューラルネットワーク50をトルク配分制御部30に実装する(ステップS4)。これによってシミュレーションの各入力値そのものではなく、近似値が入力した場合にも対応する最適化マップを生成することができる。
【0023】
すなわち、トルク配分制御部30のニューラルネットワーク50は、実際の走行において、例えば、シミュレーション♯i(iは1〜Nの整数)と近似する入力値を得た場合に、内挿補間や外挿補間によって、そのシミュレーション♯iに対応する最適化マップ♯iを生成し出力することができる。
【0024】
ここで、最適化マップ♯1〜♯Nをそのままトルク配分制御部30に実装する場合と、ニューラルネットワーク50をトルク配分制御部30に実装する場合とで、実装に要するメモリ容量の違いについて説明する。
【0025】
図4は、最適化マップによって決定された「運転者の要求出力」と「エンジン回転速度」からアシストトルクを演算するための二次元ルックアップテーブルの一例を示す図である。図4に示すように、アシストマップとなる二次元ルックアップテーブルは、後述するリアルタイムトルク配分部70に作成され、保存されており「運転者の要求出力」(横方向)と「エンジンの回転速度」(縦方向)とに対応したアシストトルクが記録されたマップである。なお、アシストトルクすなわち電動機11のトルクの各数値の単位は「Nm」である。図4に示す二次元ルックアップテーブルにおいて、アシストトルクの数値は、「運転者の要求出力平均値」、「運転者の要求出力分散値」、「エンジンの回転速度平均値」、「エンジンの回転速度分散値」および「バッテリの投入可能電力量」などの入力値によって、様々に変化する。なお、これらの各値についての詳細は後述する。入力値が様々に変化することによって、最適化マップも無数に存在することになる。このため最適化マップそのものをトルク配分制御部30に実装するのであれば、入力値の組合せ数に相当する膨大な数の最適化マップが必要になる。しかも分解能を高くすればするほど、入力値の組合せ数も増大する。よって、その総数は数千から数万となる。
【0026】
これに対し、ニューラルネットワーク50は、ニューロンと、そのニューロンに付与された「重み」および閾値θによって構成される。したがって、ステップS3によって膨大な量の学習を施したニューラルネットワーク50であってもトルク配分制御部30のメモリが保持するのは、ニューロンとその「重み」および閾値θすなわち学習の結果によって得られた数百程度の最適化マップの情報だけである。すなわちニューラルネットワーク50では、学習した入力値ではなく近似値が入力した場合でも、数百の最適化マップが内挿補間的または外挿補間的にその近似値に対応した最適化マップを算出するのである。したがって、トルク配分制御部30が各種の入力値に対応した膨大な最適化マップを保持する場合と比較してきわめて小さい記憶容量で済むことがわかる。
【0027】
(ニューラルネットワーク50の構成について)
ここで、ニューラルネットワーク50の構成について説明する。図5にニューラルネットワーク50を構成するニューロンの例を示す。ニューラルネットワーク50を構成するニューロンは、図5に示すようになっている。図5はニューロンを模式的に示している。図5では「運転者の要求出力平均値」WDrv_reqが入力信号となる例を示す。ニューロンでは、入力信号WDrv_req1〜WDrv_reqNと重みw1〜wNに基づいて、
net=WDrv_req1×w1+WDrv_req2×w2+…+WDrv_reqN×wN
out=f(net−θ)
という計算を行って出力信号outを出力する。
【0028】
すなわち、net(膜電位)が閾値θを超えると、そのニューロンは“1”を出力し、そうでなければ“0”を出力する。このようにニューロンでは入力信号WDrv_req1〜WDrv_reqNに対する重みw1〜wNおよび閾値θを設定することによって、出力信号outが“1”となる条件を様々に変更することができる。このようなニューロンを利用して図6に示すように、ニューラルネットワーク50が構成される。図6の例は、5つの特徴量ベクトルである「運転者の要求出力平均値」、「運転者の要求出力分散値」、「エンジンの回転速度平均値」、「エンジンの回転速度分散値」、「バッテリの投入可能電力量」を入力信号とし、5種類の最適化マップ♯1〜♯5を出力信号とする例である。図6の例では最適化マップ♯3が出力されている。図6では、5種類の出力信号を図示したが実際には、数十〜数百種類あるいはそれ以上とすることができる。このようにして、図4に示す二次元ルックアップテーブルの横軸および縦軸の値を決定するための最適化マップが出力される。なお、ニューラルネットワーク50は周知の技術であり、図6に示す構成以外にも周知の様々な構成としてよい。
【0029】
また、図7は、図6に示すニューロンN11〜N5n毎に設定された「重み」w11〜w5n4および閾値θが記録されたテーブルを示す図である。図7に示すように、テーブルに記録されるのは「重み」w11〜w5n4および閾値θだけである。したがって、トルク配分制御部30は複数の最適化マップ♯1〜♯Nそのものを保持する必要はなく、図7に示すような「重み」w11〜w5n4および閾値θを記録したテーブルを保持すればよい。これによりトルク配分制御部30が保持する情報量を低減することができる。
【0030】
(コンピュータ装置40による最適化マップの生成について)
次に、図3のステップS1のコンピュータ装置40によるシミュレーション♯1〜♯Nに対応する最適化マップ♯1〜♯Nの生成について説明する。本発明の実施の形態では、最適化マップ♯1〜♯Nの生成にダイナミックプログラミング手法と呼ばれている手法を用いる。ダイナミックプログラミング手法は周知の技術である。よって、ダイナミックプログラミング手法そのものについての詳細な説明は省略し、以下では、ダイナミックプログラミング手法とハイブリッド自動車1のハイブリッド制御との関連について主に説明する。
【0031】
ダイナミックプログラミング手法とは、資源配分問題を短時間で解くために有効な手法である。すなわち、ある限られた資源を投資先に分配し、得られる利益を最大化(もしくは最小化)することが目的である。このようなダイナミックプログラミング手法をハイブリッド自動車1のハイブリッド制御に適用する場合を考える。
【0032】
ある走行パターンで走行したとき、運転操作が同じであれば電動機11による電力回生量は決定される。よって、この回生電力(上述の資源に相当する)を運転者の要求トルクに対してどの場面で投入(配分)すれば燃費(上述の利益に相当する)を最大化(燃料消費という意味では最小化)できるかという資源配分問題に帰着できる。
この資源配分問題を数式化すると、
fN(kN)=
minx1+x2+…+xN[g1(x1,ωe1)+g2(x2,ωe2)+…+gN(xN,ωeN)]
…(1)
ただし、kN=x1+x2+…+xN
を制約条件とする。なお、各変数は以下のとおりである。
fN(kN) :電力投入をkN行った場合の燃料消費量(cc)
kN :エネルギ投入量の合計(kWh)
xN :1サンプリング当たりのエネルギ投入量(kW)
gN(xN,ωeN):xNのエネルギ投入を行った場合の燃料噴射量(cc/秒)
ωeN
:エンジン回転速度(RPM)
式(1)を数値解析的に解くために、最適性原理に基づいて関数再帰方程式で表すと、
fN(kN)=min0≦xN≦kN[gn(xn)+fn-1(kn−xn)](n=2,3,…,N)
f1(k1)=min0≦xN=k1≦kN[g1(x1)]
となり、ダイナミックプログラミング問題の解を得ることが可能となる。なお、ここでハードウェア上の制約から
0≦xN≦Wm_max(kW)
0≦xN≦WBat_max(kW)
0≦xN≦Tm_max×(ωe/60×2π)/1000(kW)
0≦xN≦WDrv_req−Te_min×ωe/60×2π/1000(kW)
0≦kN≦Σk=1 to Nxk
を満たすものとする。ただし、
Tm_max:モータの最大トルク(Nm)(電動機11のハードウェアリミット)
Te_min:エンジン最低トルク(Nm)(エンジン10の最小限の出力トルク)
WDrv_req:運転者の要求出力(kW)(運転者の要求出力)
Wm_max:モータ最大出力(kW)(電動機11の最大出力)
WBat_max:バッテリ最大出力(kW)(バッテリ17の出力制限)
である。
【0033】
ニューラルネットワーク50は、5つの特徴量ベクトルに対する最適化マップの関係を複数組(数十〜数百組)を学習する。これにより、近似する特徴量ベクトルに対しては近似する最適化マップが内挿補間的に算出される。また、未学習範囲の特徴量ベクトルに対しては他の学習データを用いて外挿補間的に最適化マップが算出される。なお、上述したように、ニューロンでは、入力信号と「重み」との積をとり、各積の和が閾値θを超えたときに出力信号outが“1”となる。よって、入力値は、1つの所定値に近似する値であっても、その値と「重み」との積の和が閾値θを超えていれば、その所定値に対応する出力信号outである“1”が得られる。このように、近似値を用いることができることもニューラルネットワーク50を用いる利点である。なお、ニューラルネットワーク50に学習させるためのデータは動力性能が同等の車両のエンジン回転速度と運転者の要求トルクなどの各種の時系列データであって既に取得済みのデータを用いる。しかしながら、車両の完成後の試験走行のデータを用いるようにしてもよい。
【0034】
(トルク配分制御部30の構成について)
次に、トルク配分制御部30の構成について図8を参照して説明する。トルク配分制御部30は、図8に示すように、ニューラルネットワーク50に入力するデータを生成するデータ解析部60と、ニューラルネットワーク50が生成した最適化マップに基づくトルク配分を行うリアルタイムトルク配分部70とから構成される。
【0035】
(トルク配分制御部30の動作について)
トルク配分制御部30は、所定時間毎に特徴量ベクトルとなる5つのベクトルである「運転者の要求出力情報」、「エンジンの回転速度(回転数)情報」、「バッテリの回生電流情報」、「バッテリのSOC情報」、「車速情報」を更新してデータ解析部60に入力する。この所定時間は、例えば、図2で説明したT1(T2、…、TN)秒間である。データ解析部60は、これらの情報を解析することにより「運転者の要求出力平均値」、「運転者の要求出力分散値」、「エンジンの回転速度平均値」、「エンジンの回転速度分散値」および「バッテリの投入可能電力量」を生成し、ニューラルネットワーク50に対し出力する。
【0036】
すなわち、データ解析部60は「運転者の要求出力情報」「エンジン回転速度情報」および「車速情報」に基づき「運転者の要求出力平均値および分散値」を生成し、「エンジンの回転速度情報」「運転者の要求出力情報」および「車速情報」に基づき「エンジン回転速度平均値および分散値」を生成し、「バッテリの回生電流情報」および「バッテリのSOC情報」に基づき「バッテリの投入可能電力量」を生成する。なお、アイドリングのデータは、アシスト制御と無関係のため、ソフト的に排除することとする。
【0037】
また、図9にSOCと投入可能電力量との関係を示す。データ解析部60では、図9に示すSOCと投入可能電力量との関係に基づき、ニューラルネットワーク50にバッテリの投入可能電力量を入力する。
【0038】
ニューラルネットワーク50は、データ解析部60からの入力である「運転者の要求出力平均値および分散値」、「エンジンの回転速度平均値および分散値」、「バッテリの投入可能電力量」を得ると、これらの入力値に近似する入力値から得られるシミュレーション♯iまたは複数のシミュレーションに対応する最適化マップから内挿補間または外挿補間によってその入力値に対応する最適化マップを生成する。この最適化マップの演算は、所定時間(T1、T2、…、TN)毎に行われる。
【0039】
リアルタイムトルク配分部70では、所定時間毎に算出された最適化マップから図4に示すアシストトルクが記載されたアシストマップとなる二次元ルックアップテーブルを生成する。この二次元ルックアップテーブルは、図4に示すように、「運転者の要求出力」と、「エンジンの回転速度」とに対応するアシストトルクを、広い数値範囲を網羅して示すマップである。しかしながら、前回の二次元ルックアップテーブルが生成されてから所定時間後に今回の二次元ルックアップテーブルが生成される。よって、その所定時間内の入力値の範囲に対応する二次元ルックアップテーブルの部分のみが実測値に基づくアシストトルクとなり、他の部分は、初期値あるいは以前に生成されたアシストトルクとなる。一般的に、車両の走行状態または道路の環境が劇的に変化する状況は少ないため、現在必要となる数値範囲のみが実測値に基づくアシストトルクであっても実用上の支障は少ない。
【0040】
次に、トルク配分制御部30の動作について図10のフローチャートを参照して説明する。ハイブリッド自動車1のキーがONになると(ステップS10)、初期設定されている入力値に対応する最適化マップから算出された二次元ルックアップテーブル(アシストマップ)が設定される(ステップS11)。すなわち、ハイブリッド自動車1は未だ走行していないので、入力値の実測値が得られないため、データ解析部60は、ニューラルネットワーク50に対して初期設定されている入力値を出力する。
【0041】
ハイブリッド自動車1が走行を開始すると(ステップS12のYes)、トルク配分制御部30は、データ解析部60に入力される入力値を実測値により更新する(ステップS13)。なお、この更新は、この実施の形態では1秒毎に行っている。
【0042】
累積走行時間が所定時間(例えば、図2のT1、…、TNの各t秒)を経過すると(ステップS14のYes)、二次元ルックアップテーブルを生成したタイミングの過去の特徴量ベクトルと、現在の特徴量ベクトルのユークリッド距離を1秒毎に比較する。ニューラルネットワーク50は、もし、ユークリッド距離が規定値を超えていたら(ステップS15のYes)、その瞬間に現在の特徴量ベクトルを用いて最適な二次元ルックアップテーブルを算出して更新する(ステップS16)。このとき累積走行時間をクリアする。規定値を超えていない場合は超えるまで同じ二次元ルックアップテーブルの使用を継続する。なお、累積走行時間とは、停車中の時間を含まない走行時間である。このステップS12〜ステップS16の工程は、走行中、繰り返され(ステップS17のNo)、キーがOFFになると(ステップS17のYes)、終了する。
【0043】
これにより、リアルタイムトルク配分部70には、ニューラルネットワーク50で選択された最適化マップが、累積走行時間が所定時間を経過する毎に入力される。リアルタイムトルク配分部70は、選択された最適化マップに基づき二次元ルックアップテーブルを作成し、「運転者の要求出力情報」と「エンジンの回転速度情報」とからアシストトルクを演算する。演算された値に基づいてリアルタイムトルク配分部70は、エンジントルク指示および電動機トルク指示をそれぞれエンジン制御部16およびインバータ19に対して出力する。
【0044】
(プログラムについて)
また、ハイブリッド制御部12の各部は、所定のソフトウェア(請求項でいうプログラム)により動作する汎用の情報処理装置(CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal
Processor)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)など)などによって構成されてもよい。例えば、汎用の情報処理装置は、メモリ、CPU、入出力ポートなどを有する。汎用の情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、汎用の情報処理装置には、ハイブリッド制御部12の各部の機能が実現される。
【0045】
なお、汎用の情報処理装置が実行する制御プログラムは、ハイブリッド制御部12の出荷前に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、ハイブリッド制御部12の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、制御プログラムの一部が、ハイブリッド制御部12の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。ハイブリッド制御部12の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶される制御プログラムは、例えば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
【0046】
また、制御プログラムは、汎用の情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【0047】
(本発明の実施の形態の効果について)
以上説明したように、本発明の実施の形態のハイブリッド自動車1は、シミュレーション♯1〜♯Nとこれに対応する最適化マップ♯1〜♯Nとの対応関係を学習したニューラルネットワーク50を用いる。これにより、入力値に対応した全ての最適化マップを全て記憶することなく、全ての最適化マップを全て記憶しているのと同等な制御を実施することができる。よって、様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機とのトルク配分を最適に制御することができる。
【0048】
また、シミュレーション♯1〜♯Nにおいて、ダイナミックプログラミング手法を用いることにより、膨大な実験データを収集することなく、最適化マップを短時間に計算によって生成することができる。
【0049】
なお、特許文献1、2では、車両の制御に、ニューラルネットワークを用いているが、このニューラルネットワークは、最適化マップの生成は行っていない。また、特許文献2では、ニューラルネットワークに対して事前に学習を行っている。しかしながら、その学習に際し、ダイナミックプログラミング手法を用いるということについては開示も示唆もない。
【0050】
また、本発明の実施の形態に係る最適化マップを用いた適応型アシスト制御の効果を検証するために、郊外路、市街路、山岳路等を想定した各種評価パターンに対して走行シミュレーションを行った。ここでは、従来の乗用車に採用されている種類の少ない最適化マップの選択制御(従来HV制御という)と、ハイブリッド自動車1に採用されている上述の実施の形態で説明した適応型アシスト制御(適応型HV制御という)とを比較した。その結果を図11から図13に示す。
【0051】
従来HV制御と適応型HV制御との燃料消費低減量(燃料消費低減率)を図11に示す。図11に示すように、適応型HV制御は、従来HV制御と比較してどの走行パターンに対しても燃料消費量を低減していることがわかる。特に、郊外路、市街路においては2%近くの燃料消費低減率を実現している。また、図11に示す山岳路の走行パターンにおけるアシスト中のエンジン負荷領域を図12、図13に示す。図12は、従来HV制御におけるエンジントルクとエンジン回転速度との関係を示す図である。図13は、適応型HV制御におけるエンジントルクとエンジン回転速度との関係を示す図である。図12、図13共に横軸にエンジン回転速度をとり、縦軸にエンジントルクをとる。図中のハッチング部分は、エンジン負荷領域を示す。図12、図13からわかるように、両方のエンジン負荷領域が異なっている。これは適応制御によって搭載されているエンジンをより効率的に使用している結果である。
【0052】
(変形例)
本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り、様々に変更が可能である。例えば、ニューラルネットワーク50に替えて、CPUやDSPなどの小型のコンピュータ装置を備えてもよい。
【0053】
ハイブリッド自動車1は、マニュアル操作によるクラッチ13およびトランスミッション14を備えている車両を想定している。しかしながら、これらのクラッチ13およびトランスミッション14に替えてオートマチック車としてのトランスミッションを備えてもよい。
【0054】
また、本発明の実施の形態は、トラックやバスなどの大型車両に適用するとして説明したが、乗用車に適用すれば、乗用車のハイブリッド制御においても従来より、さらに精度の高いハイブリッド制御を実現する上で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車の要部構成図である。
【図2】図1に示すハイブリッド自動車が行う情報処理の基本的な概念を説明するための図である。
【図3】図1に示すハイブリッド自動車のトルク配分制御部の学習工程を説明する図である。
【図4】図3に示す最適化マップに基づき生成される二次元ルックアップテーブルの一例を示す図である。
【図5】図3に示すニューラルネットワークを構成するニューロンを示す図である。
【図6】図3に示すニューラルネットワークの構成図である。
【図7】図6に示すニューラルネットワークの重みおよび閾値の記録テーブルならびに閾値を示す図である。
【図8】図1に示すハイブリッド自動車のトルク分配制御部のブロック構成図である。
【図9】図1に示すハイブリッド自動車のニューラルネットワークに入力する図8に示すバッテリの投入可能電力量を説明する図である。
【図10】図1に示すトルク配分制御部の動作を示すフローチャートである。
【図11】従来のハイブリッド自動車が採用している従来HV制御と本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車が採用している適用型HV制御とを比較した結果の燃料消費低減量(燃料消費低減率)を示す図である。
【図12】図11における山岳路の走行パターンにおける従来HV制御のエンジン回転速度とエンジントルクとの関係を示す図である。
【図13】図11における山岳路の走行パターンにおける適用型HV制御のエンジン回転速度とエンジントルクとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1…ハイブリッド自動車、10…エンジン、11…電動機、12…ハイブリッド制御部(算出手段)、13…クラッチ、14…トランスミッション、15…アクセルセンサ、16…エンジン制御部、17…バッテリ、18…バッテリ制御部、19…インバータ、20…CAN、30…トルク配分制御部(トルク配分手段)、40…コンピュータ装置、50…ニューラルネットワーク(トルク配分手段)、60…データ解析部(トルク配分手段)、70…トルク配分部(トルク配分手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車およびコンピュータ装置ならびにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
低燃費を実現するためにガソリンや軽油などで動くエンジンと電気で動く電動機とを併せて備えたハイブリッド自動車が普及しつつある。一般的に、ハイブリッド自動車は、発車時のように一時的に大きなエンジントルクが必要な状況下では電動機によって駆動する。これによりエンジンの負荷を軽減することができる。一方、高速走行中のように低いトルクが継続する状況下ではエンジンによって駆動する。これにより、電動機用バッテリに充電を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなハイブリッド自動車は、自動車メーカ側が予め実験を行って得た結果に基づくアシストマップを搭載している。エンジンと電動機とを最適に制御するためには、その時点における運転者の要求トルクと自動車の走行状態とに基づき複数のアシストマップの中から最適なアシストマップを選択して使用する。また、各駆動輪に対応してモータを設けた電気自動車において走行安定性を確保するため、予め学習済みの制御用ニューラルネットワークと更新用ニューラルネットワークを組み込む技術も知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−32442号公報
【特許文献2】特開平10−285707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乗用車では、オートマチック車が広く普及しており、運転者の運転上の癖が走行状態に反映される場合も比較的少なくなっている。よって上述したアシストマップの種類も数十種類(多くても数百種類)有れば十分である。これに対し、トラックやバスなどの大型自動車では、マニュアルトランスミッションが主流であるため、運転者の運転上の癖が走行状態に反映される状況は多い。例えば、急発進や急加速を頻繁に行う運転者もいれば、そのような行為を行わない運転者もいる。
【0005】
また、長時間高速道路を走行する長距離トラック便または高速バスや頻繁に発車、停車を繰り返す宅配便または路線バスなどのように、トラックやバスなどの大型自動車は、その使用環境や使用状況が乗用車に比べれば非常に様々である。
【0006】
したがって、予めメーカ側で用意されたアシストマップを用いるハイブリッド制御を行う場合に、そのアシストマップのバリエーションが少ないと、様々な運転者の癖や使用環境に対応できない場合も有り得る。よって、アシストマップの種類は数千種類から数万種類に及ぶ。しかしながら、膨大な種類のアシストマップを車載されたメモリに収容するためには、大きなメモリ容量を必要とする。さらに、このアシストマップの中から適切な1つのアシストマップを選択する処理にも膨大な処理能力を要し高負荷演算を必要とする。したがって、乗用車と同じような複数のアシストマップを選択する制御を、そのままトラックやバスなどの大型自動車に採用することは好ましくない。
【0007】
一方、この問題を回避するため、アシストマップを作成する際に特許文献2記載のような学習済みの制御用ニューラルネットワークと更新用ニューラルネットワークを用いることもできるが次のような問題を生じる。すなわち、アシストマップが必要となるハイブリッド自動車は、特許文献2記載の電気自動車と異なり、エンジンと電動機との関係が微妙であり、車両運行開始時に精度の良い制御を行わせるには、制御用ニューラルネットワークに対しての学習時間が膨大となり、高価格化する。また、更新用ニューラルネットワークを構築するには高負荷演算が必要となる。
【0008】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機とのトルク配分を最適に制御することができ、かつ、高負荷演算を必要としないハイブリッド自動車およびコンピュータ装置ならびにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のハイブリッド自動車は、エンジンと、電動機と、運転者の要求トルクと車両の走行状態とに基づきエンジンおよび電動機に配分するトルクをそれぞれ算出する算出手段とを備えたハイブリッド自動車において、算出手段は、所定時間内における、運転者の要求トルクと、エンジンの回転速度と、電動機に電源を供給するバッテリへの回生電流と、当該バッテリの充電状態を示す値とに対応して定まるエンジンおよび電動機に対するトルクの指示値を出力するトルク配分手段を備え、このトルク配分手段は、トルクの配分値を、入力値に対応させて出力するように学習が施され、この学習には、ダイナミックプログラミング手法を用いた事前シミュレーションを採用したものである。
【0010】
例えば、事前シミュレーションに使用するデータは、動力性能が同等の車両のエンジン回転速度と運転者の要求トルクとに基づく時系列データ、あるいは当該ハイブリッド自動車を用いた試験走行後のデータを用いる。
【0011】
さらに、トルク配分手段は、入力値に対応付けられたトルクの指示値を出力するように学習が施されたニューラルネットワークを備えることができる。
【0012】
このときには、ニューラルネットワークは、入力値に近似する近似値が入力したときに、内挿補間または外挿補間によってトルクの指示値を算出するための最適化マップを演算して生成することができる。
【0013】
また、本発明のコンピュータ装置は、本発明のハイブリッド自動車を対象とし、ダイナミックプログラミング手法を用いて入力値に対応する最適となるトルクの指示値を演算するシミュレーションを実施するものである。
【0014】
また、本発明のプログラムは、情報処理装置にインストールすることにより、その情報処理装置に、本発明のハイブリッド自動車における算出手段およびトルク配分手段の機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機とのトルク配分を最適に制御することができ、かつ、低価格化が可能なハイブリッド自動車を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(ハイブリッド自動車1の構成について)
本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1の構成を図1を参照して説明する。図1は、ハイブリッド自動車1の要部構成図である。ハイブリッド自動車1は、図1に示すように、エンジン10と、電動機11と、運転者の要求トルクと車両の走行状態とに基づきエンジン10および電動機11に配分するトルクをそれぞれ算出する算出手段であるハイブリッド制御部12とを備える。
【0017】
ハイブリッド自動車1のその他の構成としては、運転者のアクセル操作量に応じて運転者の要求トルク情報を検出するアクセルセンサ15、エンジン10を制御するエンジン制御部16、電動機11に電源を供給するバッテリ17、バッテリ17を制御するバッテリ制御部18、バッテリ17による電源の電動機11への供給量を調整するインバータ19、車両の各部の情報をハイブリッド制御部12に伝達するCAN(Control Area Network)20を備える。なお、ハイブリッド制御部12は、トルク配分制御部30を備えている。このトルク配分制御部30がハイブリッド制御における主要な処理を実施する。
【0018】
(本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1が行う情報処理の基本的な概念について)
本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1が行う情報処理の基本的な概念について図2を参照して説明する。本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1が行う情報処理は、図2に示すように、時間T1において取得した情報に基づきトルク配分制御部30は最適化マップを生成し、この最適化マップに基づいて生成された二次元ルックアップテーブルを時間T2の走行において使用する。さらに、時間T2において取得した情報に基づきトルク配分制御部30は最適化マップに基づいて生成された二次元ルックアップテーブルを生成し、この二次元ルックアップテーブルを時間T3の走行において使用する。
【0019】
すなわち、Nを2以上の整数としたとき、時間T(N−1)において取得した情報に基づきトルク配分制御部30はアシストマップ(すなわち二次元ルックアップテーブル)を生成し、このアシストマップを時間TNの走行において使用する。このようにして、逐次、アシストマップを生成しながら走行を行うことができるため、様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機のトルク配分を最適に制御することができる。なお、最適な制御とは、燃料消費量についてみれば従来のハイブリッド自動車ではない同型車両と比較して改善がみられる制御であり、電池の残存量であるSOC(State of Charge)についてみれば高い値で一定を保つような制御である。これら双方の制御が同時に最適となるようにアシストマップを生成する。
【0020】
また、時間Ti(iは1〜Nの整数)に相当する所定時間は、長ければ長いほど、取得する情報量が多くなり最適化マップを生成する際に、数値範囲の広い最適化マップを生成することができる。しかしながら、時間Tiから時間T(i+1)に移行する時間も長くなるため、制御のリアルタイム性が劣化する。したがって、時間Tiに相当する所定時間の長さは車両の使用状況および道路の環境に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、主に高速道路を走行する車両であれば、道路の環境の変化は少ないため、所定時間は長めであってもよい。一方、主に市街地を走行する車両であれば、道路の環境の変化が大きいため、所定時間は短めであることがよい。このような車両の相違による所定時間は、トラック、バス、乗用車など、車の違いによって予め決めておくことができる。また、実際の走行状態、例えば、ブレーキの使用頻度を検知してその検知された値によって適宜変更するようにしてもよい。なお、図1に示すトルク配分制御部30は、所定時間設定情報の入力を受け付けられるようになっている。例えば、所定時間は、1秒〜数分の範囲である。
【0021】
(全体的な処理の流れについて)
次に、本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車1が行う情報処理の全体的な処理の流れについて図3を参照して説明する。本発明の実施の形態では、図3に示すように、コンピュータ装置40を用いて図1に示すハイブリッド制御部12とはオフラインでシミュレーション♯1〜♯Nに対応する最適化マップ♯1〜♯Nを生成する。すなわち、所定の車種に対するダイナミックプログラミング手法によるシミュレーション♯1〜♯Nを実施し(ステップS1)、そのシミュレーション結果として得られる情報に基づいて複数のシミュレーション♯1〜♯Nに対応する最適化マップ♯1〜♯Nを生成する(ステップS2)。なお、これらのシミュレーションが事前シミュレーションとなる。
【0022】
シミュレーション♯1〜♯Nに対応する最適化マップ♯1〜♯Nが生成されたら(ステップS2)、これをそのままハイブリッド制御部12のトルク配分制御部30に実装するのではなく、シミュレーション♯1〜♯Nと最適化マップ♯1〜♯Nとの対応関係をニューラルネットワーク50に学習させる(ステップS3)。そして、学習が施されたニューラルネットワーク50をトルク配分制御部30に実装する(ステップS4)。これによってシミュレーションの各入力値そのものではなく、近似値が入力した場合にも対応する最適化マップを生成することができる。
【0023】
すなわち、トルク配分制御部30のニューラルネットワーク50は、実際の走行において、例えば、シミュレーション♯i(iは1〜Nの整数)と近似する入力値を得た場合に、内挿補間や外挿補間によって、そのシミュレーション♯iに対応する最適化マップ♯iを生成し出力することができる。
【0024】
ここで、最適化マップ♯1〜♯Nをそのままトルク配分制御部30に実装する場合と、ニューラルネットワーク50をトルク配分制御部30に実装する場合とで、実装に要するメモリ容量の違いについて説明する。
【0025】
図4は、最適化マップによって決定された「運転者の要求出力」と「エンジン回転速度」からアシストトルクを演算するための二次元ルックアップテーブルの一例を示す図である。図4に示すように、アシストマップとなる二次元ルックアップテーブルは、後述するリアルタイムトルク配分部70に作成され、保存されており「運転者の要求出力」(横方向)と「エンジンの回転速度」(縦方向)とに対応したアシストトルクが記録されたマップである。なお、アシストトルクすなわち電動機11のトルクの各数値の単位は「Nm」である。図4に示す二次元ルックアップテーブルにおいて、アシストトルクの数値は、「運転者の要求出力平均値」、「運転者の要求出力分散値」、「エンジンの回転速度平均値」、「エンジンの回転速度分散値」および「バッテリの投入可能電力量」などの入力値によって、様々に変化する。なお、これらの各値についての詳細は後述する。入力値が様々に変化することによって、最適化マップも無数に存在することになる。このため最適化マップそのものをトルク配分制御部30に実装するのであれば、入力値の組合せ数に相当する膨大な数の最適化マップが必要になる。しかも分解能を高くすればするほど、入力値の組合せ数も増大する。よって、その総数は数千から数万となる。
【0026】
これに対し、ニューラルネットワーク50は、ニューロンと、そのニューロンに付与された「重み」および閾値θによって構成される。したがって、ステップS3によって膨大な量の学習を施したニューラルネットワーク50であってもトルク配分制御部30のメモリが保持するのは、ニューロンとその「重み」および閾値θすなわち学習の結果によって得られた数百程度の最適化マップの情報だけである。すなわちニューラルネットワーク50では、学習した入力値ではなく近似値が入力した場合でも、数百の最適化マップが内挿補間的または外挿補間的にその近似値に対応した最適化マップを算出するのである。したがって、トルク配分制御部30が各種の入力値に対応した膨大な最適化マップを保持する場合と比較してきわめて小さい記憶容量で済むことがわかる。
【0027】
(ニューラルネットワーク50の構成について)
ここで、ニューラルネットワーク50の構成について説明する。図5にニューラルネットワーク50を構成するニューロンの例を示す。ニューラルネットワーク50を構成するニューロンは、図5に示すようになっている。図5はニューロンを模式的に示している。図5では「運転者の要求出力平均値」WDrv_reqが入力信号となる例を示す。ニューロンでは、入力信号WDrv_req1〜WDrv_reqNと重みw1〜wNに基づいて、
net=WDrv_req1×w1+WDrv_req2×w2+…+WDrv_reqN×wN
out=f(net−θ)
という計算を行って出力信号outを出力する。
【0028】
すなわち、net(膜電位)が閾値θを超えると、そのニューロンは“1”を出力し、そうでなければ“0”を出力する。このようにニューロンでは入力信号WDrv_req1〜WDrv_reqNに対する重みw1〜wNおよび閾値θを設定することによって、出力信号outが“1”となる条件を様々に変更することができる。このようなニューロンを利用して図6に示すように、ニューラルネットワーク50が構成される。図6の例は、5つの特徴量ベクトルである「運転者の要求出力平均値」、「運転者の要求出力分散値」、「エンジンの回転速度平均値」、「エンジンの回転速度分散値」、「バッテリの投入可能電力量」を入力信号とし、5種類の最適化マップ♯1〜♯5を出力信号とする例である。図6の例では最適化マップ♯3が出力されている。図6では、5種類の出力信号を図示したが実際には、数十〜数百種類あるいはそれ以上とすることができる。このようにして、図4に示す二次元ルックアップテーブルの横軸および縦軸の値を決定するための最適化マップが出力される。なお、ニューラルネットワーク50は周知の技術であり、図6に示す構成以外にも周知の様々な構成としてよい。
【0029】
また、図7は、図6に示すニューロンN11〜N5n毎に設定された「重み」w11〜w5n4および閾値θが記録されたテーブルを示す図である。図7に示すように、テーブルに記録されるのは「重み」w11〜w5n4および閾値θだけである。したがって、トルク配分制御部30は複数の最適化マップ♯1〜♯Nそのものを保持する必要はなく、図7に示すような「重み」w11〜w5n4および閾値θを記録したテーブルを保持すればよい。これによりトルク配分制御部30が保持する情報量を低減することができる。
【0030】
(コンピュータ装置40による最適化マップの生成について)
次に、図3のステップS1のコンピュータ装置40によるシミュレーション♯1〜♯Nに対応する最適化マップ♯1〜♯Nの生成について説明する。本発明の実施の形態では、最適化マップ♯1〜♯Nの生成にダイナミックプログラミング手法と呼ばれている手法を用いる。ダイナミックプログラミング手法は周知の技術である。よって、ダイナミックプログラミング手法そのものについての詳細な説明は省略し、以下では、ダイナミックプログラミング手法とハイブリッド自動車1のハイブリッド制御との関連について主に説明する。
【0031】
ダイナミックプログラミング手法とは、資源配分問題を短時間で解くために有効な手法である。すなわち、ある限られた資源を投資先に分配し、得られる利益を最大化(もしくは最小化)することが目的である。このようなダイナミックプログラミング手法をハイブリッド自動車1のハイブリッド制御に適用する場合を考える。
【0032】
ある走行パターンで走行したとき、運転操作が同じであれば電動機11による電力回生量は決定される。よって、この回生電力(上述の資源に相当する)を運転者の要求トルクに対してどの場面で投入(配分)すれば燃費(上述の利益に相当する)を最大化(燃料消費という意味では最小化)できるかという資源配分問題に帰着できる。
この資源配分問題を数式化すると、
fN(kN)=
minx1+x2+…+xN[g1(x1,ωe1)+g2(x2,ωe2)+…+gN(xN,ωeN)]
…(1)
ただし、kN=x1+x2+…+xN
を制約条件とする。なお、各変数は以下のとおりである。
fN(kN) :電力投入をkN行った場合の燃料消費量(cc)
kN :エネルギ投入量の合計(kWh)
xN :1サンプリング当たりのエネルギ投入量(kW)
gN(xN,ωeN):xNのエネルギ投入を行った場合の燃料噴射量(cc/秒)
ωeN
:エンジン回転速度(RPM)
式(1)を数値解析的に解くために、最適性原理に基づいて関数再帰方程式で表すと、
fN(kN)=min0≦xN≦kN[gn(xn)+fn-1(kn−xn)](n=2,3,…,N)
f1(k1)=min0≦xN=k1≦kN[g1(x1)]
となり、ダイナミックプログラミング問題の解を得ることが可能となる。なお、ここでハードウェア上の制約から
0≦xN≦Wm_max(kW)
0≦xN≦WBat_max(kW)
0≦xN≦Tm_max×(ωe/60×2π)/1000(kW)
0≦xN≦WDrv_req−Te_min×ωe/60×2π/1000(kW)
0≦kN≦Σk=1 to Nxk
を満たすものとする。ただし、
Tm_max:モータの最大トルク(Nm)(電動機11のハードウェアリミット)
Te_min:エンジン最低トルク(Nm)(エンジン10の最小限の出力トルク)
WDrv_req:運転者の要求出力(kW)(運転者の要求出力)
Wm_max:モータ最大出力(kW)(電動機11の最大出力)
WBat_max:バッテリ最大出力(kW)(バッテリ17の出力制限)
である。
【0033】
ニューラルネットワーク50は、5つの特徴量ベクトルに対する最適化マップの関係を複数組(数十〜数百組)を学習する。これにより、近似する特徴量ベクトルに対しては近似する最適化マップが内挿補間的に算出される。また、未学習範囲の特徴量ベクトルに対しては他の学習データを用いて外挿補間的に最適化マップが算出される。なお、上述したように、ニューロンでは、入力信号と「重み」との積をとり、各積の和が閾値θを超えたときに出力信号outが“1”となる。よって、入力値は、1つの所定値に近似する値であっても、その値と「重み」との積の和が閾値θを超えていれば、その所定値に対応する出力信号outである“1”が得られる。このように、近似値を用いることができることもニューラルネットワーク50を用いる利点である。なお、ニューラルネットワーク50に学習させるためのデータは動力性能が同等の車両のエンジン回転速度と運転者の要求トルクなどの各種の時系列データであって既に取得済みのデータを用いる。しかしながら、車両の完成後の試験走行のデータを用いるようにしてもよい。
【0034】
(トルク配分制御部30の構成について)
次に、トルク配分制御部30の構成について図8を参照して説明する。トルク配分制御部30は、図8に示すように、ニューラルネットワーク50に入力するデータを生成するデータ解析部60と、ニューラルネットワーク50が生成した最適化マップに基づくトルク配分を行うリアルタイムトルク配分部70とから構成される。
【0035】
(トルク配分制御部30の動作について)
トルク配分制御部30は、所定時間毎に特徴量ベクトルとなる5つのベクトルである「運転者の要求出力情報」、「エンジンの回転速度(回転数)情報」、「バッテリの回生電流情報」、「バッテリのSOC情報」、「車速情報」を更新してデータ解析部60に入力する。この所定時間は、例えば、図2で説明したT1(T2、…、TN)秒間である。データ解析部60は、これらの情報を解析することにより「運転者の要求出力平均値」、「運転者の要求出力分散値」、「エンジンの回転速度平均値」、「エンジンの回転速度分散値」および「バッテリの投入可能電力量」を生成し、ニューラルネットワーク50に対し出力する。
【0036】
すなわち、データ解析部60は「運転者の要求出力情報」「エンジン回転速度情報」および「車速情報」に基づき「運転者の要求出力平均値および分散値」を生成し、「エンジンの回転速度情報」「運転者の要求出力情報」および「車速情報」に基づき「エンジン回転速度平均値および分散値」を生成し、「バッテリの回生電流情報」および「バッテリのSOC情報」に基づき「バッテリの投入可能電力量」を生成する。なお、アイドリングのデータは、アシスト制御と無関係のため、ソフト的に排除することとする。
【0037】
また、図9にSOCと投入可能電力量との関係を示す。データ解析部60では、図9に示すSOCと投入可能電力量との関係に基づき、ニューラルネットワーク50にバッテリの投入可能電力量を入力する。
【0038】
ニューラルネットワーク50は、データ解析部60からの入力である「運転者の要求出力平均値および分散値」、「エンジンの回転速度平均値および分散値」、「バッテリの投入可能電力量」を得ると、これらの入力値に近似する入力値から得られるシミュレーション♯iまたは複数のシミュレーションに対応する最適化マップから内挿補間または外挿補間によってその入力値に対応する最適化マップを生成する。この最適化マップの演算は、所定時間(T1、T2、…、TN)毎に行われる。
【0039】
リアルタイムトルク配分部70では、所定時間毎に算出された最適化マップから図4に示すアシストトルクが記載されたアシストマップとなる二次元ルックアップテーブルを生成する。この二次元ルックアップテーブルは、図4に示すように、「運転者の要求出力」と、「エンジンの回転速度」とに対応するアシストトルクを、広い数値範囲を網羅して示すマップである。しかしながら、前回の二次元ルックアップテーブルが生成されてから所定時間後に今回の二次元ルックアップテーブルが生成される。よって、その所定時間内の入力値の範囲に対応する二次元ルックアップテーブルの部分のみが実測値に基づくアシストトルクとなり、他の部分は、初期値あるいは以前に生成されたアシストトルクとなる。一般的に、車両の走行状態または道路の環境が劇的に変化する状況は少ないため、現在必要となる数値範囲のみが実測値に基づくアシストトルクであっても実用上の支障は少ない。
【0040】
次に、トルク配分制御部30の動作について図10のフローチャートを参照して説明する。ハイブリッド自動車1のキーがONになると(ステップS10)、初期設定されている入力値に対応する最適化マップから算出された二次元ルックアップテーブル(アシストマップ)が設定される(ステップS11)。すなわち、ハイブリッド自動車1は未だ走行していないので、入力値の実測値が得られないため、データ解析部60は、ニューラルネットワーク50に対して初期設定されている入力値を出力する。
【0041】
ハイブリッド自動車1が走行を開始すると(ステップS12のYes)、トルク配分制御部30は、データ解析部60に入力される入力値を実測値により更新する(ステップS13)。なお、この更新は、この実施の形態では1秒毎に行っている。
【0042】
累積走行時間が所定時間(例えば、図2のT1、…、TNの各t秒)を経過すると(ステップS14のYes)、二次元ルックアップテーブルを生成したタイミングの過去の特徴量ベクトルと、現在の特徴量ベクトルのユークリッド距離を1秒毎に比較する。ニューラルネットワーク50は、もし、ユークリッド距離が規定値を超えていたら(ステップS15のYes)、その瞬間に現在の特徴量ベクトルを用いて最適な二次元ルックアップテーブルを算出して更新する(ステップS16)。このとき累積走行時間をクリアする。規定値を超えていない場合は超えるまで同じ二次元ルックアップテーブルの使用を継続する。なお、累積走行時間とは、停車中の時間を含まない走行時間である。このステップS12〜ステップS16の工程は、走行中、繰り返され(ステップS17のNo)、キーがOFFになると(ステップS17のYes)、終了する。
【0043】
これにより、リアルタイムトルク配分部70には、ニューラルネットワーク50で選択された最適化マップが、累積走行時間が所定時間を経過する毎に入力される。リアルタイムトルク配分部70は、選択された最適化マップに基づき二次元ルックアップテーブルを作成し、「運転者の要求出力情報」と「エンジンの回転速度情報」とからアシストトルクを演算する。演算された値に基づいてリアルタイムトルク配分部70は、エンジントルク指示および電動機トルク指示をそれぞれエンジン制御部16およびインバータ19に対して出力する。
【0044】
(プログラムについて)
また、ハイブリッド制御部12の各部は、所定のソフトウェア(請求項でいうプログラム)により動作する汎用の情報処理装置(CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal
Processor)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)など)などによって構成されてもよい。例えば、汎用の情報処理装置は、メモリ、CPU、入出力ポートなどを有する。汎用の情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、汎用の情報処理装置には、ハイブリッド制御部12の各部の機能が実現される。
【0045】
なお、汎用の情報処理装置が実行する制御プログラムは、ハイブリッド制御部12の出荷前に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、ハイブリッド制御部12の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、制御プログラムの一部が、ハイブリッド制御部12の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。ハイブリッド制御部12の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶される制御プログラムは、例えば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
【0046】
また、制御プログラムは、汎用の情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【0047】
(本発明の実施の形態の効果について)
以上説明したように、本発明の実施の形態のハイブリッド自動車1は、シミュレーション♯1〜♯Nとこれに対応する最適化マップ♯1〜♯Nとの対応関係を学習したニューラルネットワーク50を用いる。これにより、入力値に対応した全ての最適化マップを全て記憶することなく、全ての最適化マップを全て記憶しているのと同等な制御を実施することができる。よって、様々な運転者の癖や使用環境に対応してエンジンと電動機とのトルク配分を最適に制御することができる。
【0048】
また、シミュレーション♯1〜♯Nにおいて、ダイナミックプログラミング手法を用いることにより、膨大な実験データを収集することなく、最適化マップを短時間に計算によって生成することができる。
【0049】
なお、特許文献1、2では、車両の制御に、ニューラルネットワークを用いているが、このニューラルネットワークは、最適化マップの生成は行っていない。また、特許文献2では、ニューラルネットワークに対して事前に学習を行っている。しかしながら、その学習に際し、ダイナミックプログラミング手法を用いるということについては開示も示唆もない。
【0050】
また、本発明の実施の形態に係る最適化マップを用いた適応型アシスト制御の効果を検証するために、郊外路、市街路、山岳路等を想定した各種評価パターンに対して走行シミュレーションを行った。ここでは、従来の乗用車に採用されている種類の少ない最適化マップの選択制御(従来HV制御という)と、ハイブリッド自動車1に採用されている上述の実施の形態で説明した適応型アシスト制御(適応型HV制御という)とを比較した。その結果を図11から図13に示す。
【0051】
従来HV制御と適応型HV制御との燃料消費低減量(燃料消費低減率)を図11に示す。図11に示すように、適応型HV制御は、従来HV制御と比較してどの走行パターンに対しても燃料消費量を低減していることがわかる。特に、郊外路、市街路においては2%近くの燃料消費低減率を実現している。また、図11に示す山岳路の走行パターンにおけるアシスト中のエンジン負荷領域を図12、図13に示す。図12は、従来HV制御におけるエンジントルクとエンジン回転速度との関係を示す図である。図13は、適応型HV制御におけるエンジントルクとエンジン回転速度との関係を示す図である。図12、図13共に横軸にエンジン回転速度をとり、縦軸にエンジントルクをとる。図中のハッチング部分は、エンジン負荷領域を示す。図12、図13からわかるように、両方のエンジン負荷領域が異なっている。これは適応制御によって搭載されているエンジンをより効率的に使用している結果である。
【0052】
(変形例)
本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り、様々に変更が可能である。例えば、ニューラルネットワーク50に替えて、CPUやDSPなどの小型のコンピュータ装置を備えてもよい。
【0053】
ハイブリッド自動車1は、マニュアル操作によるクラッチ13およびトランスミッション14を備えている車両を想定している。しかしながら、これらのクラッチ13およびトランスミッション14に替えてオートマチック車としてのトランスミッションを備えてもよい。
【0054】
また、本発明の実施の形態は、トラックやバスなどの大型車両に適用するとして説明したが、乗用車に適用すれば、乗用車のハイブリッド制御においても従来より、さらに精度の高いハイブリッド制御を実現する上で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車の要部構成図である。
【図2】図1に示すハイブリッド自動車が行う情報処理の基本的な概念を説明するための図である。
【図3】図1に示すハイブリッド自動車のトルク配分制御部の学習工程を説明する図である。
【図4】図3に示す最適化マップに基づき生成される二次元ルックアップテーブルの一例を示す図である。
【図5】図3に示すニューラルネットワークを構成するニューロンを示す図である。
【図6】図3に示すニューラルネットワークの構成図である。
【図7】図6に示すニューラルネットワークの重みおよび閾値の記録テーブルならびに閾値を示す図である。
【図8】図1に示すハイブリッド自動車のトルク分配制御部のブロック構成図である。
【図9】図1に示すハイブリッド自動車のニューラルネットワークに入力する図8に示すバッテリの投入可能電力量を説明する図である。
【図10】図1に示すトルク配分制御部の動作を示すフローチャートである。
【図11】従来のハイブリッド自動車が採用している従来HV制御と本発明の実施の形態に係るハイブリッド自動車が採用している適用型HV制御とを比較した結果の燃料消費低減量(燃料消費低減率)を示す図である。
【図12】図11における山岳路の走行パターンにおける従来HV制御のエンジン回転速度とエンジントルクとの関係を示す図である。
【図13】図11における山岳路の走行パターンにおける適用型HV制御のエンジン回転速度とエンジントルクとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1…ハイブリッド自動車、10…エンジン、11…電動機、12…ハイブリッド制御部(算出手段)、13…クラッチ、14…トランスミッション、15…アクセルセンサ、16…エンジン制御部、17…バッテリ、18…バッテリ制御部、19…インバータ、20…CAN、30…トルク配分制御部(トルク配分手段)、40…コンピュータ装置、50…ニューラルネットワーク(トルク配分手段)、60…データ解析部(トルク配分手段)、70…トルク配分部(トルク配分手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、電動機と、運転者の要求トルクと車両の走行状態とに基づき上記エンジンおよび上記電動機に配分するトルクをそれぞれ算出する算出手段とを備えたハイブリッド自動車において、
上記算出手段は、所定時間内における、運転者の要求トルクと、上記エンジンの回転速度と、上記電動機に電源を供給するバッテリへの回生電流と、当該バッテリの充電状態を示す値とに対応して定まる上記エンジンおよび上記電動機に対するトルクの指示値を出力するトルク配分手段を備え、
このトルク配分手段は、上記トルクの配分値を、入力値に対応させて出力するように学習が施され、
この学習には、ダイナミックプログラミング手法を用いた事前シミュレーションを採用した、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド自動車において、
前記事前シミュレーションに使用するデータは、動力性能が同等の車両のエンジン回転速度と運転者の要求トルクとに基づく時系列データ、あるいは当該ハイブリッド自動車を用いた試験走行後のデータを用いる、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項3】
請求項1または2記載のハイブリッド自動車において、
前記トルク配分手段は、入力値に対応付けられた前記トルクの指示値を出力するように学習が施されたニューラルネットワークを備えることを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項4】
請求項3記載のハイブリッド自動車において、
前記ニューラルネットワークは、前記入力値に近似する近似値が入力したときに、内挿補間または外挿補間によって前記トルクの指示値を算出するための最適化マップを演算して生成する、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のハイブリッド自動車を対象とし、
ダイナミックプログラミング手法を用いて前記入力値に対応する最適となる前記トルクの指示値を演算するシミュレーションを実施することを特徴とするコンピュータ装置。
【請求項6】
情報処理装置にインストールすることにより、その情報処理装置に、請求項1から4のいずれか1項記載のハイブリッド自動車における前記算出手段および前記トルク配分手段の機能を実現させることを特徴とするプログラム。
【請求項1】
エンジンと、電動機と、運転者の要求トルクと車両の走行状態とに基づき上記エンジンおよび上記電動機に配分するトルクをそれぞれ算出する算出手段とを備えたハイブリッド自動車において、
上記算出手段は、所定時間内における、運転者の要求トルクと、上記エンジンの回転速度と、上記電動機に電源を供給するバッテリへの回生電流と、当該バッテリの充電状態を示す値とに対応して定まる上記エンジンおよび上記電動機に対するトルクの指示値を出力するトルク配分手段を備え、
このトルク配分手段は、上記トルクの配分値を、入力値に対応させて出力するように学習が施され、
この学習には、ダイナミックプログラミング手法を用いた事前シミュレーションを採用した、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド自動車において、
前記事前シミュレーションに使用するデータは、動力性能が同等の車両のエンジン回転速度と運転者の要求トルクとに基づく時系列データ、あるいは当該ハイブリッド自動車を用いた試験走行後のデータを用いる、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項3】
請求項1または2記載のハイブリッド自動車において、
前記トルク配分手段は、入力値に対応付けられた前記トルクの指示値を出力するように学習が施されたニューラルネットワークを備えることを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項4】
請求項3記載のハイブリッド自動車において、
前記ニューラルネットワークは、前記入力値に近似する近似値が入力したときに、内挿補間または外挿補間によって前記トルクの指示値を算出するための最適化マップを演算して生成する、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のハイブリッド自動車を対象とし、
ダイナミックプログラミング手法を用いて前記入力値に対応する最適となる前記トルクの指示値を演算するシミュレーションを実施することを特徴とするコンピュータ装置。
【請求項6】
情報処理装置にインストールすることにより、その情報処理装置に、請求項1から4のいずれか1項記載のハイブリッド自動車における前記算出手段および前記トルク配分手段の機能を実現させることを特徴とするプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−95067(P2010−95067A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265894(P2008−265894)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】
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