説明

ハイブリッド車両のブレーキ操作の制御方法

本発明は、電気駆動モータ(12)のジェネレータモードによって制動可能である、ハイブリッド車両の油圧式の車両ブレーキ装置(1)のブレーキ操作を制御するための方法に関する。本発明によれば、車両ブレーキ装置に電気機械的なブレーキブースタ(13)が設けられており、電気駆動モータ(12)のジェネレータモードによる制動時に、ブレーキブースタ(13)によって、ブレーキペダル(15)におけるペダル力が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載されている特徴を備えた、電気機械を有する自動車における、ブレーキブースタを有する油圧式の車両ブレーキ装置のブレーキ操作の制御方法に関する。殊に電気機械は、電気駆動モータがジェネレータとして駆動されることによって自動車を制動することができる、自動車の電気駆動モータである。
【0002】
本明細書においては、閉ループ制御と開ループ制御は区別されず、本発明において開ループ制御には閉ループ制御も含まれ、その反対に、本発明において閉ループ制御には開ループ制御も含まれる。ブレーキ操作とは、足または手の筋力を用いた車両ドライバによる車両ブレーキ装置の操作を意味する。
【0003】
自動車は、電気駆動モータを1つだけ有する駆動部を備えた電気自動車でよい。または、複数の電気駆動モータを有する駆動部を備えた電気自動車であってもよい。殊に本発明は、内燃機関と、付加的に1つの電気駆動モータまたは複数の電気駆動モータとを有するハイブリッド車両に使用される。エネルギを回生するために、制動について電気駆動モータをジェネレータとして駆動させることができる。ジェネレータとして電気駆動モータを駆動させるための駆動トルクはブレーキトルクとして車両を減速させる。ジェネレータモードによって形成される電流は蓄電池に蓄積され、電気駆動モータを用いた自動車の駆動に使用される。基本的に、電気機械は電気モータである必要はなく、例えば、制動を行うことができる(制動を行うこともできる)ジェネレータでよい。その種のジェネレータは、例えば、制動のため、もしくは制動の際に電流を形成する発電機でよい。
【0004】
ジェネレータモードにある電気機械のブレーキ作用は、殊に車両速度に依存しており、また例えば、蓄電池の充電状態にも依存しており、完全に充電された蓄電池ではブレーキ作用はほぼゼロである。低速時にもブレーキ作用は低く、また車両静止状態に近付くにつれ0に低下していく。したがって、油圧式の車両ブレーキもジェネレータモードにある電気機械も共に自動車の減速を必要とする。油圧式の車両ブレーキ装置が制動に寄与しなければならない割合は0%から100%の間で変位する。ジェネレータモードにある電気機械および油圧式の車両ブレーキ装置がブレーキ作用に寄与する割合の制御を「ブラインド」と称する。
【0005】
「ブラインド」を車両ドライバに委ねることも可能である。すなわち車両ドライバはブレーキ操作のために、自身の筋力をジェネレータモードにある電気機械のブレーキ作用に適合させる。
【0006】
ジェネレータモードにある電気機械を用いた自動車の制動への不可欠な要求は、ブレーキ距離が延長されてはならないということである。
【0007】
電気油圧式の車両ブレーキ装置では、ブラインドを車両ドライバに気付かれることなく比較的簡単に実現することができる。電気油圧式の車両ブレーキ装置は、ブレーキ操作に必要とされるエネルギが車両ドライバの筋力によって形成されるのではなく、専ら外部エネルギ供給装置に由来する外力ブレーキ装置である。ブレーキ圧は油圧ポンプによって形成される。車両ドライバは制動ペダルにおいて制動力に関する目標値を設定する。
【0008】
油圧式の車両ブレーキ装置はそれ自体公知であるので、ここでは詳細に説明しない。車輪スリップ制御部を備えた油圧式の車両ブレーキ装置も公知である。この車両スリップ制御部は各車輪ブレーキに対して、ブレーキ圧形成弁およびブレーキ圧減圧弁を有し、これらの弁を用いることにより、スリップ制御を目的とした車輪ブレーキ圧、したがってそれぞれの車輪ブレーキの制動力を調節することができる、すなわち開ループ制御もしくは閉ループ制御することができる。制動時に車両の車輪のロックを阻止するために車輪ブレーキ圧を減圧でき、また、始動時および/または加速時に駆動すべき車両車輪の回転を回避または制限するために車輪ブレーキ圧を形成でき、クリティカルな車両状況において横滑りの傾向を低減するために、個々の車両車輪も所期のように制動することができる。
【0009】
今日において低圧ブレーキブースタは一般的なものであると言え、その構造および機能は既知であるので、ここでは説明しない。電気機械的なブレーキブースタも公知である。電気機械的なブレーキブースタはブレーキマスターシリンダの操作のための補助力を例えば起電的または電磁的に形成する。例えば、刊行物DE 100 57 557 A1からは、ブレーキ操作のための補助力を形成するための電磁石またはリニアモータを備えた電気機械的なブレーキブースタが公知である。低圧ブレーキブースタと同様に電気機械的なブレーキブースタは、このブレーキブースタによって形成された補助力を、車両ドライバによって加えられる筋力に付加的に、ブレーキ圧を形成するための車両ブレーキ装置のブレーキマスターシリンダに加える。
【0010】
本発明を、制動に使用されるジェネレータを有するが、電気的な駆動モータは有していない、自動車または他の車両に使用することもできる。
【0011】
発明の開示
請求項1の特徴部分に記載されている構成を備えた本発明による方法は、ジェネレータとして電気機械を駆動させることによって自動車が制動される場合に使用される。先ず、自動車が専らジェネレータとしての電気機械でもって制動されること、すなわち油圧式の車両ブレーキ装置は操作されないことを出発点とする。この場合に関して、本発明の方法によれば、ブレーキブースタを用いてペダル力が筋力操作素子に加えられ、この筋力操作素子は筋力を用いてブレーキマスターシリンダを操作するために設けられている。フットブレーキでは、筋力操作素子が通常の場合(フット)ブレーキペダルであり、ハンドブレーキでは通常の場合(ハンド)ブレーキレバーである。以下ではブレーキペダルについて言及するが、一般的に、他の筋力操作素子、例えば(ハンド)ブレーキレバーも含まれるものであると解するべきである。自動車の制動の際に、ジェネレータとしての電気駆動モータによって、本発明によりブレーキブースタから筋力操作素子に加えられるペダル力の方向は、筋力操作素子に加えられる車両ドライバの筋力とは反対方向である。ペダル力はブレーキマスターシリンダの操作方向とは反対方向に作用する。すなわちペダル力は、通常の操作力に反する、ブレーキブースタによって形成される力である。この場合、ブレーキブースタはブレーキマスターシリンダに力を加えない。ペダル力はブレーキブースタの負の増幅率での増幅力と解することもできる。
【0012】
本発明によれば、制動操作時に車両ドライバによって筋力操作素子に加えられる筋力に対する抵抗として車両ドライバが感知するペダル力が形成される。このペダル力は、筋力操作素子のストロークが長くなるにつれて筋力も大きくなる通常の制動操作の感覚を車両ドライバに与えるものであり、実際に、自動車が専らジェネレータとしての電気駆動モータを用いて制動され、油圧式の車両ブレーキ装置が操作されない場合であっても、車両ペダルの「操作感が失われることはない」。
【0013】
従属請求項には、請求項1に示した本発明の有利な実施形態および発展形態が記載されている。
【0014】
請求項3に記載の構成によれば、筋力操作素子の力/ストローク関係は、ジェネレータとしての電気機械を用いた制動時に、電気駆動モータのジェネレータ作用なしで専ら油圧式の車両ブレーキ装置を用いて制動される場合と同じ力/ストローク関係が生じるように開ループ制御または閉ループ制御される。これによって、車両ドライバは自動車の電気機械のジェネレータモードによる制動に気付くことはない。電気機械のジェネレータモードによらずに制動される場合の力/ストローク関係が、電気機械のジェネレータモードによる制動時の筋力操作素子における力/ストローク関係とほぼ等しければ、本発明には十分である。筋力操作素子の力/ストローク関係はペダル特性曲線と称されることも多い。
【0015】
請求項4に記載の構成によれば、筋力操作素子とブレーキマスターシリンダのピストンとの間に空ストロークが設けられる。2回路制動装置用のタンデムブレーキマスターシリンダでは、一次またはロッドピストンが設けられている。空ストロークによって、ブレーキマスターシリンダを操作することなく、筋力操作素子を移動させることができる。これにより、自動車の電気機械のジェネレータモードによる制動時の筋力操作素子における所望の力/ストローク関係が実現され、また油圧式の車両ブレーキ装置を操作することなく、専らジェネレータとしての電気機械を用いた制動が実現される。ブレーキマスターシリンダの機械的な筋力操作、またそれによって障害時の油圧式の車両ブレーキ装置の操作を実現するために、空ストロークの長さは制限されている。「機械的」とは、筋力操作素子から、例えばピストンロッドおよび圧力ロッドを介する、ブレーキマスターシリンダのピストンへの筋力の機械的な伝達を意味する。
【0016】
請求項6に記載の構成によれば、遮断可能な空ストロークが設けられているので、空ストロークを克服する必要なく、制動操作を実現することができる。
【0017】
本発明による方法に関しては、原則として、通常の増幅力に反する力を形成することができる、制御可能な全てのブレーキブースタを使用することができる。そのような通常の増幅力に反する力を本明細書ではペダル力と称する。「制御可能」とは、ブレーキブースタの増幅力が、ブレーキブースタに加えられる筋力に依存せずに制御できることを意味する。所望の制御能力を構造的に有している電気機械的なブレーキブースタが本発明に適している。例えば、磁石弁のような弁、より良好な制御を目的とすれば、有利には比例電磁弁を用いて換気可能な低圧室および作業室を有する、修正された低圧ブレーキブースタも使用することができる。作業室の換気によって増幅力を形成および制御することができ、また低圧室の換気によって、反対方向に作用するペダル力を形成および制御することができる。本発明による方法は殊にII型ブレーキ回路分岐およびX型ブレーキ回路分岐に適している。
【0018】
以下では、図面に示した実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による方法を実施するための油圧式の車両ブレーキ装置の油圧回路を示す。
【図1a】図1に示した油圧式の車両ブレーキ装置の変形形態の詳細を示す。
【図2】本発明による電気機械的なブレーキブースタの概略図を示す。
【0020】
発明を実施するための形態
図面に示されている、本発明による油圧式の車両ブレーキ装置1は、スリップ制御部(アンチロックブレーキシステムABS;トラクションコントロールシステムTCS;エレクトロニック・ビークルダイナミクスコントロールFDR/スタビリティ・プログラムESP)を有する。車両ブレーキ装置1は2つのブレーキ回路I,IIを備えた2系統ブレーキ装置として構成されており、ブレーキ回路I,IIはブレーキマスターシリンダ2に接続されている。各ブレーキ回路I,IIは分離弁3を介してブレーキマスターシリンダ2に接続されている。分離弁3は無電流の基本位置において開かれている2ポート2位置方向制御電磁弁である。ブレーキマスターシリンダ2から車輪ブレーキ4へと通り抜け可能な逆止弁5が、分離弁3にそれぞれ1つずつ油圧的に並列に接続されている。各ブレーキ回路のI,IIの分離弁3には、ブレーキ圧形成弁6を介して車輪ブレーキ4が接続されている。ブレーキ圧形成弁6は無電流の基本位置において開かれている2ポート2位置方向制御電磁弁である。ブレーキ圧形成弁6には、車輪ブレーキ4からブレーキマスターシリンダ2の方向へと通り抜け可能である逆止弁7が並列に接続されている。
【0021】
各車輪ブレーキ4にはブレーキ圧減圧弁8が接続されており、それらのブレーキ圧減圧弁8は油圧ポンプ9の吸込み側に共通して接続されている。ブレーキ圧減圧弁8は無電流の基本位置において閉じられている2ポート2位置方向制御電磁弁である。油圧ポンプ9の圧力側はブレーキ圧形成弁6と分離弁3との間に接続されている。すなわち、油圧ポンプ9の圧力側はブレーキ圧形成弁6を介して車輪ブレーキ4と接続されており、かつ、分離弁3を介してブレーキマスターシリンダ2と接続されている。より良好な開ループ制御および閉ループ制御を行えるようにするために、ブレーキ圧形成弁6およびブレーキ圧減圧弁8は比例弁である。
【0022】
2つのブレーキ回路I,IIはそれぞれ1つの油圧ポンプ9を有する。これらの油圧ポンプ9を共通の1つの電気モータ10によって駆動させることができる。油圧ポンプ9の吸込み側はブレーキ圧減圧弁8に接続されている。油圧ポンプ9の吸込み側には、スリップ制御中にブレーキ圧減圧弁8を開くことによって車輪ブレーキ4から流れ出るブレーキ流体を収容し、一時的に蓄積するための流体蓄積部11が設けられている。
【0023】
ブレーキ圧形成弁6およびブレーキ圧減圧弁8は車輪ブレーキ圧調節弁装置を形成する。これらの車輪ブレーキ圧調節弁装置を用いることにより、油圧ポンプ9の駆動時にはスリップ制御のためのブレーキ圧制御を車輪ごとに行うことができる。その種のスリップ制御はそれ自体公知であるので、ここでは説明しない。スリップ制御の際に分離弁3は閉じられる。すなわち、車両ブレーキ装置1は油圧的にブレーキマスターシリンダ2から分離される。
【0024】
各ブレーキ回路I,IIにおける始動弁25によって、油圧ポンプ9の吸込み側をブレーキマスターシリンダ2と接続することができる。始動弁25は無電流の基本位置において閉じられている2ポート2位置方向制御電磁弁である。始動弁25が開かれると、油圧ポンプ9はブレーキ流体をブレーキマスターシリンダ2から直接的に吸込み、これによって、ブレーキマスターシリンダ2が操作されていない場合か、もしくは、車両ブレーキ装置1に圧力が加わっていない場合には、油圧ポンプ9を用いた高速なブレーキ圧形成が実現される。図示されている実施形態とは異なり、始動弁25をブレーキマスターシリンダ2に接続する代わりに、ブレーキマスターシリンダ2に載置されたブレーキ流体容器26に接続することもできる。これによって、ブレーキ流体容器26と始動弁25との間の流体抵抗としてのブレーキマスターシリンダ2は省略されるので、車両ブレーキ装置1に圧力が加わっていない場合にさらに高速に圧力が形成される。
【0025】
車両ブレーキ装置1を装備している自動車は、1つまたは複数の車輪を駆動させるための1つまたは複数の電気駆動モータ12を有する。図面には例示的に2つの電気駆動モータ12が示されているが、これらの電気駆動モータ12は1つの車両軸の2つの車輪、この実施例においては2つの前輪を駆動させる。共通の1つの電気駆動モータによって2つの車輪を駆動させることもできる。付加的に、図面には図示していない、自動車を駆動させるための内燃機関を設けることもできる。その種の自動車はハイブリッド車両と称される。1つ(または複数)の電気駆動モータ12とは異なる電気機械12がジェネレータモードにおいて、または他のやり方で車両または自動車の制動を実現する場合には、そのような電気機械12を用いても本発明を実施することができる。例えば、車両の発電機のようなジェネレータを使用することができる。ここでは、1つ(または複数)の電気駆動モータ12を用いる本発明の実施形態を説明する。
【0026】
ブレーキマスターシリンダ2はブレーキブースタ13、この実施例においては電気機械的なブレーキブースタ13を有する。ブレーキブースタ13は電気モータ14を用いて増幅力を形成し、この増幅力は、ブレーキペダル15を介して加えられる筋力と共にブレーキマスターシリンダ2を操作する。シンボリックに示されている電気モータ14はブレーキブースタ13に統合されている。電気モータ14は回転モータでよく、その回転運動は伝動装置を介して減速され、また、ブレーキマスターシリンダ2の操作のための回転運動に変換される。電気リニアモータまたは電磁石を備えたブレーキブースタ13の実施形態も考えられる。列記することは意図していない。ブレーキペダル15を一般化させて筋力操作素子とみなすこともできる。
【0027】
ブレーキブースタ13および電気駆動モータ12を含めた車両ブレーキ装置1の開ループ制御または閉ループ制御のために電子制御装置16が設けられている。力センサ17を用いることにより、ブレーキペダル15に加えられるペダル力を測定することができ、また距離センサ18を用いることにより、ブレーキペダル15の位置を測定することができ、またブレーキペダル15の速度または加速度も測定することができる。
【0028】
ブレーキペダル15が操作されると、走行状態が許容する限り、殊に車両速度が十分に高い限り、電気駆動モータ12がジェネレータとして駆動される。形成された電流は図示していない蓄電池に蓄積される。距離センサ18によって測定されるブレーキペダル15の位置ないし距離がブレーキ作用に関する目標値を設定する。ブレーキペダル15の位置によって設定されるブレーキ作用を達成するために電気駆動モータ12のブレーキ作用が十分であるならば、油圧式の車両ブレーキ装置1は操作されない。すなわち、自動車の制動は専ら電気駆動モータ12のジェネレータモードによって行われる。ブレーキペダル15におけるペダル力はブレーキブースタ13によって形成される。このブレーキブースタ13は通常の操作方向に反する力(この力を本明細書においてはペダル力と称する)をブレーキペダル15に加える。電気機械的なブレーキブースタ13は、ブレーキペダル15の位置に依存するペダル力が、ジェネレータモードにある電気駆動モータ12のブレーキ作用を用いることなく、専ら油圧式の車両ブレーキ装置1を用いて制動される際の力と同じであるように開ループ制御ないし閉ループ制御される。これによって、自動車の制動が油圧式の車両ブレーキ装置1によって行われずに、ジェネレータとして駆動される電気駆動モータ12によって専ら行われていることに車両ドライバは気付かない。
【0029】
ジェネレータモードにある電気駆動モータ12の考えられる最大限のブレーキ作用が過度に小さい場合、すなわち、ブレーキペダル15の位置によって設定されるブレーキ作用が電気駆動モータ12のジェネレータモードによって達成されない場合には、油圧式の車両ブレーキ装置1が付加的に操作される。このことは電気駆動モータ12のジェネレータモードが所望されない走行状態にも当てはまる。その種の走行状態の例は、山道での運転開始の支援(外部エネルギのブレーキ操作による後向きの回転を回避するために)または走行ダイナミクス保護制御および横滑り保護制御である。車両ブレーキ装置1の操作は通常の場合、ブレーキブースタ13の増幅力によって増幅された、ブレーキペダル15を用いた筋力によって行われる。増幅力によってブレーキマスターシリンダ2の操作方向に反する筋力が高まるか、またはブレーキマスターシリンダ2の操作方向における増幅が行われる。車両ブレーキ装置の制動力は、ジェネレータモードにある電気駆動モータ12のブレーキ作用と合わせて、ブレーキペダル15の位置によって設定されているブレーキ作用が生じるように閉ループ制御される。ブレーキブースタ13の増幅率は、ジェネレータモードにある電気駆動モータ12のブレーキ作用を用いることなく、専ら油圧式の車両ブレーキ装置1を用いて制動される場合のように、ブレーキペダル15において変化しない力/ストローク関係が生じるように低減ないし閉ループ制御される。電気駆動モータ12がブレーキ作用を有していない場合、すなわちジェネレータモードが不可能な場合には、自動車は専ら油圧式の車両ブレーキ装置1によって制動される。
【0030】
車輪ブレーキ4の制動力の閉ループ制御は、アンチロックブレーキシステムABSの場合のように、ブレーキ圧形成弁6およびブレーキ圧減圧弁8を用いて実現される。
【0031】
ブレーキペダルの位置によって設定されるブレーキ作用を達成するには、ジェネレータモードにある電気駆動モータ12のブレーキ作用が過度に小さい場合に、ブレーキ作用を高めるための本発明による他の実現手段は油圧式の車両ブレーキ装置1の外力操作である。このために分離弁3が閉じられ、また、電気モータ10を用いて油圧ポンプ9が駆動されることによってブレーキ圧が形成され、ブレーキ圧形成弁6およびブレーキ圧減圧弁8を用いることにより、車輪ブレーキ4における車輪ブレーキ圧が個別に開ループ制御される。ジェネレータモードにある電気駆動モータを用いた制動に加えこの外力制動が行われる場合には、ブレーキブースタ13を用いてペダル力を形成することができ、これによって、制動時に専ら油圧式の車両ブレーキ装置1を用いて形成される、ブレーキペダル15における通常の力/ストローク関係が生じる。
【0032】
図1aに示されている変形形態においては、ブレーキ流体蓄積容器26がブレーキマスターシリンダ2に載置されておらず、上方に配置されており、また対になっている別の分離弁27を介してブレーキマスターシリンダ2と接続されている。各ブレーキ回路I,IIに対して1つの別の分離弁27が設けられている。別の分離弁27は無電流の基本位置において開かれている2ポート2位置方向制御電磁弁として構成されている。図1aにおけるブレーキマスターシリンダ2への車両ブレーキ装置1の接続は図1と同様に、すなわち分離弁3を介して行われている。ここでもまた始動弁25が設けられており、それらの始動弁25は油圧ポンプ9の吸込み側をブレーキマスターシリンダ2と接続するか、図示していない方式でブレーキ流体蓄積容器26と直接的に接続する。分離弁27を閉じることによって、ブレーキマスターシリンダ2を操作せずに、油圧ポンプ9を用いて圧力を形成することができる。電気駆動モータ12のジェネレータモードによる制動から、ブレーキブースタ13によるサポートのもとでの、ブレーキペダル15の操作による制動へと移行する際に、ブレーキマスターシリンダ2において適時に圧力を形成することによって圧力の急激な変化を回避することができ、これによって車両ドライバのペダル操作感が改善される。
【0033】
電気機械的なブレーキブースタ13によって、例えば低圧ブレーキブースタよりも簡単に増幅率を開ループ制御または閉ループ制御することができるので、したがって電気機械的なブレーキブースタ13が好まれる。電気機械的なブレーキブースタ13のさらなる利点は、ブレーキマスターシリンダ2の操作方向とは反対方向に作用する力をブレーキペダル15に加えることができることである。これはブレーキブースタ13の負の増幅率と解することもできる。これによって、車両ブレーキ装置1に圧力が加えられていない場合には、ブレーキペダル15において通常のペダル力を形成することができる。何故ならば、専ら電気駆動モータ12のジェネレータモードによる制動が行われており、油圧式の車両ブレーキ装置1は操作されていないからである。通常のペダル力とは、専ら車両ブレーキ装置1を用いて制動される場合のブレーキペダル15の力/ストローク関係を意味している。ブレーキマスターシリンダ2が作用することなく、油圧ポンプ9による圧力形成によって外力制動が行われる場合にも、ブレーキブースタ13を用いてブレーキペダル15における通常のペダル力を形成することができる。
【0034】
図2には、電気機械的なブレーキブースタ13の実施形態が簡略化されて概略的に示されている。ブレーキブースタ13はピストンロッド19を有し、このピストンロッド19はブレーキペダル15とヒンジ式に接続されており、また、このピストンロッド19によって、ブレーキペダル15に加えられた筋力をリアクションディスク20を介して圧力ロッド21に伝達することができる。圧力ロッド21は通常の場合、ブレーキマスターシリンダ2のピストン、ここでは一次ピストンまたはロッドピストン28に作用する。さらには、ブレーキブースタ13は電気機械的なアクチュエータ22を有し、このアクチュエータ22によって、増幅力を同様にリアクションディスク20を介して圧力ロッド21に伝達することができる。増幅力はアクチュエータ22によって形成される力である。電気モータ14は力を形成するためのものとしてシンボリックに表されている。この電気モータ14はリニアモータであってもよい。同様に、電磁石を用いて増幅力を形成することもできる(図示せず)。リアクションディスク20はゴム弾性体であり、ピストンロッド19からの筋力と、アクチュエータ22によって形成される増幅力を圧力として圧力ロッド21に伝達する。したがって、ブレーキブースタ13からブレーキマスターシリンダ2への力の伝達をブレーキマスターシリンダ2の操作のみで実現することができる。
【0035】
ブレーキブースタ13のアクチュエータ22を用いて、上述のように、操作方向とは反対方向に作用するペダル力をピストンロッド19に加えられるようにするために、ブレーキブースタ13は切り替え可能なクラッチ23、例えば磁石クラッチを有する。図2に示されている実施形態においては、クラッチ23を用いてアクチュエータ22をピストンロッド19と接続することができるので、ブレーキマスターシリンダ2の操作方向とは反対方向に作用する力、すなわち図2において右方向に作用する力をアクチュエータ22からクラッチ23を介して、ブレーキペダル15とヒンジ式に接続されているピストンロッド19に加えることができる。電気駆動モータ12のジェネレータモードによる制動に起因して、車両ブレーキ装置1には圧力が加えられていない場合、したがってブレーキマスターシリンダ2にはブレーキペダル15におけるペダル力が作用しない場合、クラッチ23は、ブレーキマスターシリンダ2の操作方向とは反対方向に作用する上述のペダル力をアクチュエータ22によって形成することができる。これによって、車両ブレーキ装置1に圧力が加えられていない場合に、ペダル距離に依存する通常の、もしくは慣例のペダル力を形成することができる。
【0036】
図示していない実施形態においては、図2に示した配置構成とは異なり、クラッチ23をアクチュエータ22と圧力ロッド21との間に設けることができる。この実施形態においては、操作方向とは反対方向に作用するペダル力が同様にアクチュエータ22によって形成され、またリアクションディスク20を介してピストンロッド19に伝達される。
【0037】
クラッチ23は一般的に、このクラッチ23が閉じられると、ブレーキマスターシリンダ2の操作方向とは反対方向に作用する、アクチュエータ22からの力をピストンロッド19に伝達することができる素子であると解される。この力を本明細書においてはペダル力と称する。ペダル力はブレーキブースタ13の増幅力と同様にそのアクチュエータによって形成されるが、増幅力が作用する方向とは反対方向に作用する。有利には、クラッチ23を用いて伝達できる力は制限されているので、ブレーキマスターシリンダ2の筋力操作はクラッチ23が閉じられても可能であり、またアクチュエータ22が遮断された際、またはアクチュエータ22により形成される反対方向の力が作用する際にも可能である。
【0038】
クラッチ23を種々に構成することができる。一例として永久磁石と電磁石の組み合わせが挙げられる。別の実施形態として、クラッチ23はマグネトレオロジ的な減衰器でよい。この実施形態においては、減衰器はピストン−シリンダのユニットから成るものであり、このユニットの一方のコンポーネントはアクチュエータ22と接続されており、他方のコンポーネントは例えばピストンロッド19と接続されている。ピストンによって隔てられている、シリンダの2つの室は接続部を有し、付加的に流体の粘性、したがって減衰器の減衰特性を電気的な駆動制御によって調整することができる。
【0039】
別の実施形態においては、付加的に、シリンダの2つの室の間の接続部を制御可能な弁として構成することができ、この弁を用いて減衰を(ロックされるまで)調整することができる。別の実施形態においては、クラッチ23が同様にピストン−シリンダのユニットと電気的に駆動制御可能な弁とを有しているが、もっともシリンダは1つの作業室しか有していない。流体としてブレーキ流体蓄積容器からのブレーキ流体を使用することができる。
【0040】
電気的に駆動制御可能な弁は切り替え位置に応じて、体積がブレーキ流体蓄積容器と交換され、結合が生じないようにするか、体積をピストン−シリンダのユニットの作業室に閉じ込め、したがって結合を生じさせる。もちろん、クラッチ23の別の実施形態も考えられる。
【0041】
開ループ制御ないし閉ループ制御のために、ブレーキブースタ13は力センサ17および距離センサ18の他に位置センサ24を有し、この位置センサ24を用いてアクチュエータ22に対するピストンロッド19の移動を測定することができる。ピストンロッド19がアクチュエータ22に対して移動した際でもクラッチ23を入れることができるようにクラッチ23は構成されている。
【0042】
ブレーキブースタ13はブレーキペダル15が操作されなければ、圧力ロッド21とブレーキマスターシリンダ2の一次またはロッドピストン28との間に間隔を有する。この間隔はアクチュエータ22とリアクションディスク20との間にも存在していてもよい。間隔は、ロッドピストン28がスライドすることなくブレーキペダル15を移動させることができる空ストロークΔsを形成する。これによって、ブレーキペダル15はブレーキマスターシリンダ2を操作せずに移動することができる。クラッチ23が閉じられると、ブレーキマスターシリンダ2、したがって車両ブレーキ装置1が操作されることなく、前述のように、ブレーキマスターシリンダ2の操作方向とは反対方向に作用するペダル力をアクチュエータ22によってブレーキペダル15に加えることができる。これによって、自動車が電気駆動モータ12のジェネレータモードによって制動される場合には、ブレーキペダル15における通常の力/ストローク関係を上述したやり方で調整することができる。有利には、空ストロークΔsを克服する直前、すなわちブレーキブースタ13の圧力ロッド21がブレーキマスターシリンダ2のロッドピストン28に届く前に、油圧ポンプ9を用いて油圧式の圧力がブレーキマスターシリンダ2内に形成される。このためにブレーキ流体蓄積容器26とブレーキマスターシリンダ2との間の分離弁27は閉じられる。形成すべき圧力は空ストロークΔsが無いときに支配的に生じるであろう圧力に相当する。これによって、車両ドライバは電気駆動モータ12のジェネレータモードによる制動から車両ブレーキ装置1を用いた制動への移行に気付くことはない。
【0043】
空ストロークΔsを遮断できるようにするために、ブレーキブースタ13は別の切り替え可能なクラッチ29を有する。この別の切り替え可能なクラッチ29を用いることにより、ブレーキブースタ13の圧力ロッド21をブレーキマスターシリンダ2の一次またはロッドピストン28と接続することができる。クラッチ29が閉じられると、ブレーキマスターシリンダ2の一次またはロッドピストン28はブレーキブースタ13の圧力ロッド21と固く接続されており、また空ストロークΔsが無くともブレーキブースタ2によってスライドされる。これによって、事前に空ストロークΔsを克服する必要なく、車両ブレーキ装置1における油圧式の圧力形成が実現される。別のクラッチ29は、アクチュエータ22をピストンロッド19と接続させることができるクラッチ23と同様に磁石クラッチでよい。同様に別のクラッチ29は、ブレーキブースタ13の圧力ロッド21からの力をブレーキマスターシリンダ2の一次またはロッドピストン28へと伝達することができる素子と解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の制動のためにジェネレータとして駆動可能な電気機械(12)を有する自動車における、筋力操作素子(15)を介して筋力によって操作可能であり、かつ、車輪ブレーキ(4)と接続されているブレーキマスターシリンダ(2)と、制御可能なブレーキブースタ(13)とを有する油圧式の車両ブレーキ装置(1)のブレーキ操作を制御するための方法において、
ジェネレータ(12)としての前記電気機械を用いた前記自動車の制動時に、前記ブレーキブースタ(13)は、車両ドライバによって前記筋力操作素子(15)に加えられる筋力とは反対方向に作用するペダル力を前記筋力操作素子(15)に加えることを特徴とする、油圧式の車両ブレーキ装置(1)のブレーキ操作を制御する方法。
【請求項2】
前記電気機械は電気駆動モータ(12)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ブレーキブースタ(13)は、ジェネレータとしての前記電気機械(12)を用いた前記自動車の制動時に、専ら前記油圧式の車両ブレーキ装置(1)を用いる制動時の力/ストローク関係に対応する力/ストローク関係を前記筋力操作素子(15)において形成する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記車両ブレーキ装置(1)は、前記筋力操作素子(15)と前記ブレーキマスターシリンダ(2)のピストン(28)との間に空ストローク(Δs)を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ブレーキマスターシリンダ(2)における前記空ストローク(Δs)を克服する直前に油圧を形成する、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記空ストローク(Δs)は遮断可能である、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記車両ブレーキ装置(1)は電気機械的なブレーキブースタ(13)を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
ジェネレータモードにある前記電気機械(12)のブレーキ作用が過度に小さい場合には、外力を用いて前記油圧式の車両ブレーキ装置(1)を操作する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記電気機械(12)のジェネレータモードが所望されない場合には、外力を用いて前記油圧式の車両ブレーキ装置(1)を操作する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ジェネレータモードにある前記電気機械(12)のブレーキ作用が過度に小さい場合には、筋力を用いて、また必要に応じて付加的に、前記ブレーキブースタ(13)の増幅力を用いて前記ブレーキマスターシリンダ(2)を操作する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記車両ブレーキ装置(1)は、ブレーキ流体蓄積容器(26)と、該ブレーキ流体蓄積容器(26)と前記ブレーキマスターシリンダ(2)との間に配置されている分離弁(27)とを有する、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図1a】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−512777(P2012−512777A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541258(P2011−541258)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064964
【国際公開番号】WO2010/069679
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】