説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】モータ走行時における潤滑部位の耐久性確保と、燃費性能の向上とが図られたハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンENGおよび駆動輪WL,WRの間の動力伝達を変速して行う動力伝達要素による動力伝達を断接する摩擦係合要素C1〜C5,CLと、電気モータMPにより駆動されて摩擦係合要素にオイルを供給する電動オイルポンプP2とを有したハイブリッド車両に設けられており、電気モータMPを駆動制御して電動オイルポンプP2から摩擦係合要素C1〜C5,CLへのオイルの供給を制御する制御装置ECUであって、エンジンENGを停止させてモータM1のみの駆動力での走行開始時に、エンジンENGが停止されたときから所定時間Tは、この所定時間Tの経過後において電動オイルポンプP2から供給される第1の目標量よりも低い油量となる第2の目標量が供給されるように電気モータMPの駆動制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンおよび駆動モータの少なくとも一方の駆動力によって走行可能なハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンおよび電動式の駆動モータからなる駆動源のうち少なくとも一方の駆動力を駆動輪に伝達可能にするハイブリッド車両が知られている。ハイブリッド車両の動力伝達装置には、エンジンと駆動輪の間に、多数の変速段を設定可能にして走行状況に応じた変速段を選択する変速機が備えられる。この変速機は、互いに変速比の異なる複数の動力伝達要素と、これら動力伝達要素を断接するための複数の摩擦係合要素とから構成される。一般に摩擦係合要素には油圧作動式の多板クラッチ機構が採用され、動力伝達装置にはこのような摩擦係合要素に作動油圧を供給するための油圧供給装置が備えられる。この油圧供給装置には、動力伝達要素を構成するシャフトおよびギヤの連結部あるいはクラッチ機構などの潤滑を必要とする部位にオイルを供給するラインが備えられる。
【0003】
このような油圧供給装置は、オイルをクラッチ機構や潤滑部位に供給するためのオイルポンプ、オイルポンプから圧送されたオイルの調圧や油路の切り換えを行う制御バルブ等から構成される。ハイブリッド車両においては、エンジンにより駆動される機械式ポンプと、電気モータにより駆動される電動式ポンプとの2つのオイルポンプが設けられることがある。これにより、エンジンが停止されているときには電動式ポンプを駆動させることにより、クラッチ機構や潤滑部位にオイルを供給できる。従来から、状況に応じた電動式ポンプの駆動制御により伝達効率の低減の抑制等を図った制御装置が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
特許文献1には、停車時など変速がすぐに行われることがないと判断されるときに、通常変速時においてクラッチ機構の安定した係脱制御に必要な作動油圧が供給される状態を維持可能とする駆動力よりも低い駆動力で電動式ポンプを駆動させる制御装置が開示されている。特許文献2には、クラッチ機構の安定した係脱制御に必要な作動油圧が供給される状態を維持するために、油温等に応じて電動式ポンプを駆動制御する制御装置が開示されている。特許文献3には、本来駆動源が停止される被牽引時において潤滑部位にオイルを供給するため、所定距離以上の移動があると判断されるときに、そのときの車速に応じた量のオイルが潤滑部位に供給されるように電動式ポンプを駆動制御する制御装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−18377号公報
【特許文献2】特開2002−206630号公報
【特許文献3】特許第3551927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハイブリッド車両の動力伝達装置は、エンジンを停止させて駆動モータのみからの駆動力により走行させるときには、動力伝達要素を切断して変速機を中立にするため、クラッチ機構が解放されることがある。このとき、クラッチ機構は、このように解放状態にされる一方、エンジンが再始動されたときのことを鑑み、エンジン再始動後に直ちに安定した変速制御を行わせることができるだけの必要最小限の作動油圧が供給され、また、自動変速機の潤滑部位の耐久性を確保する上で必要最小量の潤滑油が供給されることが好ましい。このとき、作動油(潤滑油)は、エンジンが停止されているため、電動式ポンプから供給されることになる。
【0007】
このように、潤滑部位に必要最小量の潤滑油を供給するように電動式ポンプを作動させる制御が開始されても、クラッチ機構のプレート間に残留するオイルが直ちに排出されることはなく、プレート間の油量が安定するまでに所定の時間を要する(図5点線βおよび時間tβ参照)。特許文献1〜3に示される従来の制御装置においては、電動式ポンプを駆動させて作動油を供給する状態に切り換えられたときに、クラッチ機構のプレート間の油量が安定するまでに要する時間が長くなるとともに残留量がなかなか少なくならず、クラッチ機構の無用な引き摺りを生じさせるおそれがあった。このような引き摺りが生じると、電気モータから駆動輪への動力伝達効率が損なわれ、燃費性能を低下させるおそれがある。
【0008】
このような課題に鑑み、本発明は、エンジンが停止されて電気モータのみの駆動力により走行させるときに、エンジン始動再開後における摩擦係合要素の作動安定性の確保と、潤滑必要部位の耐久性の確保と、燃費性能の向上との両立が図られたハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、エンジンおよび駆動モータの少なくとも一方の駆動力を駆動輪に伝達可能に構成され、エンジンおよび駆動輪の間の動力伝達を変速して行う動力伝達要素と、動力伝達要素による動力伝達を断接する摩擦係合要素と、所定の電気モータにより駆動される電動ポンプとを有したハイブリッド車両に設けられており、電気モータの駆動制御を行うことにより、電動ポンプを駆動して摩擦係合要素に供給される作動油圧を制御するとともに動力伝達要素および摩擦係合要素に供給される潤滑油量を制御するハイブリッド車両の制御装置に関する。そして、エンジンを停止させて駆動モータのみの駆動力を駆動輪に伝達することによる走行が開始されるときに、エンジンが停止された後は、エンジンが停止されたときから所定時間の経過後において電動オイルポンプから供給される第1の目標量よりも低い油量となる第2の目標量が供給されるように電気モータの駆動制御が行われる。
【0010】
なお、所定時間が経過するまで、電動オイルポンプから供給される油量が第2の目標量となるように電気モータの駆動制御を行うことが好ましい。また、所定時間が経過する間に、電動オイルポンプから供給される油量が、第2の目標量から第1の目標量まで漸次増加するように電気モータの駆動制御を行ってもよい。
【0011】
また、所定時間を車速に応じて設定し、車速が高いほど所定時間が短くなるように設定することが好ましい。さらに、摩擦係合要素を、動力伝達要素の一部を介してエンジンに連結される第1の回転体と、動力伝達要素の一部を介して駆動輪に連結される第2の回転体とから構成し、所定時間をこの第1および第2の回転体の差回転に応じて設定し、差回転が小さいほど所定時間が短くなるように設定することが好ましい。また、所定時間を摩擦係合要素に供給される作動油の油温に応じて設定し、油温が高いほど所定時間が短くなるように設定することが好ましい。動力伝達要素を複数の変速段からいずれかの変速段を設定可能に構成してエンジンおよび駆動輪の間の動力伝達を設定された変速段の変速比に応じて変速して行うように構成し、エンジンを停止させて電気モータのみの駆動力を駆動輪に伝達することによる走行が開始される直前に動力伝達要素に設定されていた変速段に応じて所定時間を設定し、変速段が高速側であるほど所定時間が短くなるように設定することが好ましい。
【0012】
また、第1の目標量および第2の目標量を、電気モータの駆動回転速度、電気モータの駆動電圧、電気モータの駆動力および電動オイルポンプのポンプ流量の少なくともいずれか一つに応じて設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
このように構成される本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によると、エンジンの駆動力による走行から駆動モータのみの駆動力の走行に切り換わったときに、電動ポンプから吐出される目標油量が第2の油量設定手段により設定され、自動変速機を構成する摩擦係合要素に残存するオイルの排出が促される。したがって、摩擦係合要素のフリクションが低減され、摩擦係合要素が引き摺りを生じさせることがなく、伝達効率のよい車両を提供できる。また、この目標油量は、車両の運転状態に応じて第1の油量設定手段により設定され、エンジン停止後に対して油量が多くなるように制御されるため、エンジンが再始動されたときに、動力伝達要素や摩擦係合要素の潤滑が十分に行われて耐久性が確保できる。また、同時に、摩擦係合要素を係合させるための準備圧も併せて供給でき、エンジンが再始動されたときに直ちに正常且つ応答性のよい自動変速制御を行わせることができる。
【0014】
なお、油温は一般に低温であると粘性抵抗が増加するため、低温のオイルが摩擦係合要素に残存しているとフリクションに対する影響が大きくなる。ここで、油温が高温であれば第1目標値を設定するまでの時間を短く設定している。このため、フリクションの影響が小さいときには、潤滑部位の耐久性の確保を確実に行わせることができ、逆に油温が低音のときにはこの時間を長く確保することにより、摩擦係合要素に残存するオイルを確実に排出でき、フリクションの低減を効果的に行わせることができる。
【0015】
また、動力伝達要素を断接する摩擦係合要素を一対の回転体から構成すると、エンジンの停止に伴って摩擦係合要素を解放させたときに、エンジン側の動力伝達要素の駆動が停止されるのに対して駆動輪側の動力伝達要素は駆動輪からの動力伝達により駆動される。したがって、エンジン側の動力伝達要素に連結される回転体と、駆動輪側に連結される回転体とで差回転が生じ、この差回転に応じて摩擦係合要素に残存するオイルの排出速度が速くなる。ここで、差回転が大きくなる車速が高速であるときに第1目標値を設定するまでの時間を短く設定している。このため、オイルの排出速度が速くフリクションの影響が小さくなるときには潤滑部位の耐久性の確保を確実に行わせることができ、逆に車速が低速でオイルの排出速度遅いときには、この時間を長く確保することにより、摩擦係合要素に残存するオイルを確実に排出でき、フリクションの低減を効果的に行わせることができる。なお、エンジンが停止される直前に設定されている変速段が高速段であるときに第1目標値を設定するまでの時間を短く設定しているが、高速段が設定されているときには、車速が比較的高速になっていると考えられる。このため、摩擦係合要素の差回転が大きくなる高速段であるときには潤滑部位の耐久性の確保を確実に行わせることができ、逆に低速段が設定されているときには、この時間を長く確保することにより、摩擦係合要素に残存するオイルを確実に排出でき、フリクションの低減を効果的に行わせることができる。
【0016】
また、電気モータの駆動回転速度、電気モータの駆動電圧、電気モータの駆動力および電動オイルポンプのポンプ流量のいずれに応じて設定しても、電動オイルポンプから供給されるオイルの量を目標油量に設定する制御を安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を備えた動力伝達装置を示している。この動力伝達装置1は、エンジンENGと、エンジンENGの出力軸ESにトルクコンバータTCを介して連結された自動変速機2と、自動変速機2の車軸側に配設された第1駆動モータM1と、第1駆動モータM1に連結されたモータ動力伝達機構5と、自動変速機2とエンジンENGとの間に配設された第2駆動モータM2とから構成され、エンジンENGおよび第2駆動モータM2の駆動力を自動変速機2を介して左右の駆動輪WL,WRに伝達して車両を走行させることができ、第1駆動モータM1の駆動力をモータ動力伝達機構5を介して左右の駆動輪WL,WRに伝達して車両を走行させることができる。
【0018】
エンジンENGは、例えばガソリン等を燃料とするレシプロエンジンであり、燃焼室に燃料を供給するための燃料供給装置と、燃焼室における吸排気を行わせる吸排気装置とを備えている。第1駆動モータM1および第2駆動モータM2は、電気モータ・ジェネレータであり、車両に搭載される図示しないバッテリからの電力供給により駆動される。動力伝達装置1の駆動源は、これらエンジンENG、第1駆動モータM1および第2駆動モータM2からなるハイブリッド型になっている。
【0019】
自動変速機2は、前進5速および後進1速の変速段を設定可能な平行軸式の変速機構であり、エンジンENGの出力軸ESにロックアップ機構LCを有するトルクコンバータTCを介して接続されたメインシャフト10と、それぞれメインシャフト10と平行に延びて設けられるとともに複数のギヤ列を介してメインシャフト10に接続されたセカンダリシャフト20、サードシャフト30およびカウンタシャフト40とから構成されており、図示しないトランスミッションケースの内部に設けられる。
【0020】
メインシャフト10には、メイン3速ギヤ13が結合されて設けられ、メイン4速ギヤ14と、メイン5速ギヤ15と、メイン5速ギヤ15に連結されたメインリバースギヤ16とが相対回転自在に設けられている。また、メインシャフト10には、メイン4速ギヤ14をメインシャフト10に結合させる4速クラッチC4と、メイン5速ギヤ15およびメインリバースギヤ16をメインシャフト10に結合させる5速クラッチC5とが設けられている。
【0021】
セカンダリシャフト20には、セカンダリ1速ギヤ21とセカンダリ2速ギヤ22とが相対回転自在に設けられており、セカンダリアイドルギヤ23が結合されて設けられている。また、セカンダリシャフト20には、セカンダリ1速ギヤ21をワンウェイクラッチ27を介してセカンダリシャフト20に結合させる1速クラッチC1と、セカンダリ1速ギヤ21をワンウェイクラッチ27を介さず直接セカンダリシャフト20に結合させる1速ホールドクラッチCLと、セカンダリ2速ギヤ22をセカンダリシャフト20に結合させる2速クラッチC2とが設けられている。
【0022】
サードシャフト30には、メイン3速ギヤ13と噛合するサード3速ギヤ33が相対回転自在に設けられており、メイン4速ギヤ14と噛合するサード4速ギヤ34が結合されて設けられている。また、サードシャフト30には、サード3速ギヤ33をサードシャフト30に結合させる3速クラッチC3が設けられている。
【0023】
カウンタシャフト40には、セカンダリ1速ギヤ21と噛合するカウンタ1速ギヤ41と、セカンダリ2速ギヤ22と噛合するカウンタ2速ギヤ42と、メイン4速ギヤ14と噛合するカウンタ4速ギヤ44とが結合されて設けられており、メイン3速ギヤ13およびセカンダリ3速ギヤ23と噛合するカウンタアイドルギヤ43と、メイン5速ギヤ15と噛合するカウンタ5速ギヤ45と、リバースアイドルギヤ36を介してメインリバースギヤ16と噛合するカウンタリバースギヤ46とが相対回転自在に設けられている。
【0024】
カウンタシャフト40には、カウンタ5速ギヤ45とカウンタリバースギヤ46との間において、リバースセレクタ47が設けられている。リバースセレクタ47はドグ歯機構を備えたセレクタスリーブ47aを有して構成され、このセレクタスリーブ47aが図示しないサーボアクチュエータにより軸方向に移動可能に構成されている。セレクタスリーブ47aの移動位置に応じて、カウンタシャフト40に、カウンタ5速ギヤ45およびカウンタリバースギヤ46のいずれか一方を結合させることができる。
【0025】
このように構成された自動変速機2において、1速クラッチC1あるいは1速ホールドクラッチCLを係合させてセカンダリ1速ギヤ21をセカンダリシャフト20に結合させると、メインシャフト10の回転がメイン3速ギヤ13、カウンタアイドルギヤ43、セカンダリアイドルギヤ23、セカンダリ1速ギヤ21およびカウンタ1速ギヤ41からなる1速ギヤ列を介してカウンタシャフト40に伝達される1速段が設定される。1速クラッチC1を係合させる1速ノーマル段では、セカンダリ1速ギヤ21がワンウェイクラッチ27を介してセカンダリシャフト20に結合される。このため、アクセルがオフされたときにおいて、ワンウェイクラッチ27が滑ってエンジンブレーキが緩和され、急な減速が抑制される。一方、1速ホールドクラッチCLを係合させる1速ホールド段では、セカンダリ1速ギヤ21が直接セカンダリシャフト20に結合される。このため、アクセルがオフされたときにおいて、強力なエンジンブレーキを作用させることができる。
【0026】
2速クラッチC2を係合させてセカンダリ2速ギヤ22をセカンダリシャフト20に結合させると、メインシャフト10の回転がメイン3速ギヤ13、カウンタアイドルギヤ43、セカンダリアイドルギヤ23、セカンダリ2速ギヤ22およびカウンタ2速ギヤ42からなる2速ギヤ列を介してカウンタシャフト40に伝達される2速段が設定される。3速クラッチC3を係合させてサード3速ギヤ33をサードシャフト30に結合させると、メインシャフト10の回転がメイン3速ギヤ13、サード3速ギヤ33、サード4速ギヤ34、メイン4速ギヤ14およびカウンタ4速ギヤ44からなる3速ギヤ列を介してカウンタシャフト40に伝達される3速段が設定される。4速クラッチC4を係合させてメイン4速ギヤ14をメインシャフト10に結合させると、メインシャフト10の回転がメイン4速ギヤ14およびカウンタ4速ギヤ44からなる4速ギヤ列を介してカウンタシャフト40に伝達される4速段が設定される。
【0027】
5速クラッチC5を係合させてメイン5速ギヤ15およびメインリバースギヤ16をメインシャフト10に結合させると、メインシャフト10の回転が両ギヤ15,16にそれぞれ噛合するカウンタ5速ギヤ45およびカウンタリバースギヤ46に伝達される。但し、カウンタ5速ギヤ45およびカウンタリバースギヤ46は、それぞれカウンタシャフト40に相対回転自在に設けられており、リバースセレクタ47の作動に応じて選択的にカウンタシャフト40に結合される。
【0028】
すなわち、セレクタスリーブ47aを図3における右方に移動させてカウンタ5速ギヤ45をカウンタシャフト40に結合させると、メインシャフト10の回転がメイン5速ギヤ15およびカウンタ5速ギヤ45からなる5速ギヤ列を介してカウンタシャフト40に伝達される5速段が設定される。一方、セレクタスリーブ47aを図3における左方に移動させてカウンタリバースギヤ46をカウンタシャフト40に結合させると、メインシャフト10の回転がメインリバースギヤ16、リバースアイドルギヤ36およびカウンタリバースギヤ46からなるリバースギヤ列を介してカウンタシャフト40に伝達されるリバース段が設定される。
【0029】
カウンタシャフト40は、メインシャフト10の回転が各変速段に応じた変速比で変速されて伝達されて回転する。カウンタシャフト40の回転は、カウンタシャフト40に結合されて設けられたファイナルドライブギヤ48と、ファイナルドライブ48と噛合するファイナルドリブンギヤ58とを介してディファレンシャル機構DFに伝達され、さらに、左右のアクスルシャフト59,59を介して左右の駆動輪WL,WRに伝達される。
【0030】
このように、自動変速機2は、各クラッチC1〜C5,CLの係合状態と、セレクタスリーブ47aの移動位置に応じて、1速段〜5速段、1速ホールド段およびリバース段のうちいずれかの変速段が選択的に設定される。なお、各クラッチC1〜C5,CLは、二つの回転体のそれぞれに設けられたプレート同士を係合させることにより両回転体が一体回転可能になる。各クラッチC1〜C5,CLは、両回転体のうち一方の回転体は、所定のギヤ列を介してメインシャフト10に接続されてエンジンENGに連結されており、他方の回転体は、所定のギヤ列を介してカウンタシャフト40に接続されて駆動輪WL,WRに連結されている。
【0031】
自動変速機2の車軸側には、第1駆動モータM1の回転駆動力を駆動輪WL,WRに伝達するモータ動力伝達機構5が設けられている。モータ動力伝達機構5は、第1駆動モータM1のスピンドルに結合されて設けられたモータドライブギヤ51と、モータドライブギヤ51と噛合するモータアイドラギヤ52と、モータカウンタシャフト50に相対回転自在に設けられたモータドリブンギヤ53と、モータカウンタシャフト50に結合されて設けられるとともにファイナルドリブンギヤ58と噛合するモータファイナルドライブギヤ54と、シンクロクラッチ57とから構成される。
【0032】
シンクロクラッチ57は、図示しないサーボアクチュエータにより駆動されるシンクロスリーブ57aを軸方向に移動させることにより、モータドリブンギヤ53をモータカウンタシャフト50に結合させた状態と、モータドリブンギヤ53とモータカウンタシャフト50との結合を切り離した状態とで切り換えることができる。
【0033】
シンクロクラッチ57を係合させてモータドリブンギヤ53をモータカウンタシャフト50に結合させると、第1駆動モータM1の回転は、モータドライブギヤ51、モータアイドラギヤ52、モータドリブンギヤ53およびモータファイナルドライブギヤ54からなるモータギヤ列と、ファイナルドリブンギヤ58とを介してディファレンシャル機構DFに伝達され、さらに、左右のアクスルシャフト59,50を介して左右の駆動輪WL,WRに伝達される。
【0034】
このように、自動変速機2およびモータ動力伝達機構5により駆動輪WL,WRに動力を伝達可能に構成された動力伝達装置1には、1速〜5速クラッチC1〜C5、1速ホールドクラッチCL、セレクタスリーブ47aを駆動するサーボアクチュエータおよびシンクロスリーブ57aを駆動するサーボアクチュエータ等の油圧アクチュエータHAへの作動油や自動変速機2およびモータ動力伝達機構5の潤滑部位LUBへの潤滑油を供給するための油圧供給装置7と、作動させる駆動源を切り換える制御や自動変速制御を行うための制御装置ECUとが設けられている。なお、潤滑部位LUBとは、相対回転自在に設けられたギヤとシャフトの間やワンウェイクラッチ、あるいは、1速〜5速クラッチC1〜C5および1速ホールドクラッチCLの両回転体のプレート間などが挙げられる。
【0035】
図2に要部を示すように、油圧供給装置7は、トルクコンバータTCの入力軸側に設けられてエンジンENGの駆動力により駆動される第1オイルポンプP1と、バッテリからの電力を利用して電気モータMPの駆動力により駆動される第2オイルポンプP2と、両オイルポンプP1,P2から吐出された作動油を油圧アクチュエータHAや自動変速機2およびモータ動力伝達機構5の潤滑部位LUB等に導くための油路と、油圧アクチュエータHAや潤滑部位LUBに供給される油量や油圧の調整などを行う制御バルブ群とを有している。本構成例の油圧供給装置7は、油圧アクチュエータHAの作動油の油圧供給源と潤滑油の油圧供給源とが共用された回路構成になっている。
【0036】
さらに、油圧供給装置7は、ストレーナ71aを備えたオイルパン71と、オイルパン71と第1オイルポンプP1の吸入口とを繋ぐ第1吸入油路72と、第1オイルポンプP1の吐出口と調圧バルブ81とを繋いで第1オイルポンプP1から吐出された作動油を調圧バルブ81の2ヶ所の入力ポート81a,81bに導く第1吐出油路73と、オイルパン71と第2オイルポンプP2の吸入口とを繋ぐ第2吸入油路74と、第2オイルポンプP2の吐出口と第1吐出油路73とを繋いで第2オイルポンプP2から吐出された作動油を第1吐出油路73に合流させて調圧バルブ81に導く第2吐出油路75と、第2吐出油路75に設けられて第1吐出油路73側から第2吐出油路75側への作動油の流れを規制する逆止弁76と、第1吐出油路73から分岐して油圧アクチュエータHAの制御油圧回路に繋がるライン圧供給油路77と、調圧バルブ81の第2出力ポート81dと潤滑部位LUBに繋がる潤滑圧供給油路78とを有する。
【0037】
また、調圧バルブ81の第1出力ポート81cは、トルクコンバータTCの制御油圧回路を介して油温調整装置83の入口側に繋がる第1排出油路91が接続され、油温調整装置83の出口側とオイルパン71との間を繋いで戻り油路92が設けられている。戻り油路92にはオイルフィルタ84が設けられており、第1排出油路91にはクーラチェックバルブ85が設けられている。
【0038】
調圧バルブ81は、バルブボディ81eと、バルブボディ81eの内部に軸方向に摺動自在に配設されたスプール81fと、スプール81fを図2における左方に付勢するスプリング81gとを備え、2つの入力ポート81a,81bと2つの出力ポート81c,81dとを有して構成されるレギュレータバルブである。スプール81fには、第1入力ポート81aのスプール溝と、スプール軸端のピストン室との間を繋ぐ内部油路が形成されており、第1入力ポート81aを介してピストン室に作用する油圧によりスプールを図2における右方に摺動させ、この油圧による付勢力とスプリング81gの付勢力とのバランスにより弁開度を調整して、第1吐出油路73の油圧およびこの第1吐出油路73から分岐するライン圧供給油路77の油圧(ライン圧)を調圧する。
【0039】
油温調整装置83は、エンジンENGの冷却水との熱交換を行う熱交換器であり、エンジンENGが始動されたときにはエンジンENGの冷却水のほうが作動油よりも温度が高くなるため、作動油を温めるオイルウォーマとして機能する。一方、走行中には、ラジエータおよびサーモスタット等によってエンジンENGの冷却水の水温が略一定になるように管理されるため、高温になった作動油を冷却するオイルクーラとして機能する。このように、油温調整装置83は、オイルクーラとオイルウォーマの両方の機能を併せ持ったオイルクーラ/ウォーマである。
【0040】
また、第2吐出油路75から分岐してリリーフバルブ86に繋がる第2分岐油路93が設けられており、リリーフバルブ86の排出ポートと油温調整装置83との間を繋いで第2排出油路94が設けられている。リリーフバルブ86の設定圧は、調圧バルブ81の設定圧よりも低い圧力に設定され、第2吐出流路75の油圧がこの設定圧以上になったときに開弁して第2吐出油路75の圧力を調整し、余剰となった作動油が第2排出油路94および戻り油路92を介してオイルパン71に戻される。
【0041】
このような構成の油圧供給装置7では、エンジンENGが駆動し第1オイルポンプP1が作動しているときは、オイルパン71に貯留された作動油が第1吸入油路72を通って第1オイルポンプP1に吸い込まれ、この第1オイルポンプP1により加圧されて吐出された作動油が、第1吐出油路73を通って調圧バルブ81の第1および第2入力ポート81a、81bに供給される。これらの入力ポートに供給された作動油は、前述した調圧バルブ81の圧力調整機能により調圧され、入力ポートに繋がる第1吐出油路73およびライン圧供給油路77の油圧が前記所定のライン圧に調整されて、ライン圧供給油路77を通って油圧アクチュエータHAの制御油圧回路に供給される。また調圧バルブ81の調圧作動に伴い第2出力ポート81dに排出された作動油が潤滑圧供給油路78を通って潤滑部位LUBに供給され、第1出力ポート81cに排出された作動油がトルクコンバータTCの制御油圧回路82を介して油温調整装置83に供給され、油温が調整されたのち、戻り油路92を通ってオイルパン71に戻される。
【0042】
制御装置ECUは、タイマーを備えた演算処理装置、記憶装置および入出力インターフェース等からなるマイクロコンピュータであり、車両各部に備えられたセンサ8からの検出信号が入力される。このようなセンサ8として、両オイルポンプP1,P2から吐出される作動油の油温を検出する油温センサ、車速を検出する車速センサ、電気モータMPの回転速度を検出するモータ回転速度センサ、電気モータMPの駆動電圧を検出するモータ電圧センサ、電気モータMPの駆動力(駆動トルク)を検出するモータトルクセンサ、第2オイルポンプP2から吐出される作動油の流量を検出する第2ポンプ流量センサ、エンジンENGの回転速度を検出するエンジン回転速度センサ、アクセルペダルの踏込操作量を検出するアクセルペダルセンサ、ブレーキペダルの踏込操作量を検出するブレーキペダルセンサなどがある。
【0043】
制御装置ECUは、これらセンサ8から入力される信号に応じて、記憶装置に記憶される制御スケジュールに基づき、エンジンENGの燃料供給装置や吸排気装置、第1駆動モータM1、第2駆動モータM2および油圧制御装置7の電気モータMPや制御バルブ群に制御信号を出力し、これらの装置や機器を駆動制御する。これにより、走行状態や運転者の操縦要求に応じた駆動源の作動制御や自動変速制御が行われる。
【0044】
例えばエンジンENGを始動させるときに、第2駆動モータM2を駆動してエンジンENGのスタータとして作用させ、停止状態のエンジンENGを始動させる制御が行われる。また、エンジンENGの駆動力による走行が行われているときには、加速要求などに応じて第2駆動モータM2を駆動してエンジンENGの駆動力をアシストさせる制御が行われる。さらに、減速走行時には、第2駆動モータM2により発電させてバッテリの充電を行わせることができる。
【0045】
また、エンジンENGの駆動力による走行が行われているときには、各センサ8からの入力信号に応じて、記憶装置に記憶される制御スケジュールに基づいて目標変速段が決定され、決定された変速段が設定されるように油圧供給装置7の制御バルブ群に制御信号が出力されて油圧アクチュエータHA(1速〜5速クラッチC1〜C5,1速ホールドクラッチCL)の係脱制御が行われることにより、自動変速制御が行われる。
【0046】
さらに、エンジンENGを停止させるときには、シンクロクラッチ57を係合させるように油圧供給装置7の制御バルブ群に制御信号を出力し、第1駆動モータM1の駆動力をモータ動力伝達機構5を介して駆動輪WL,WRに伝達して走行させることができる。このとき、第1オイルポンプP1は駆動できないため、制御装置ECUは、電気モータMPに制御信号を出力して第2オイルポンプP2の駆動制御を併せて行うように構成される。また、エンジンENGを停止させるときは、1速〜5速クラッチC1〜C5および1速ホールドクラッチCLを解放させるように制御バルブ群に制御信号を出力し、自動変速機2を中立にする。これらのクラッチC1〜C5,CLが解放されると、エンジンENGが停止される直前に第1オイルポンプP1から供給されて各クラッチC1〜C5,CLのプレート間に残存する潤滑油が徐々に排出されていく。このようにプレート間に作動油が残存する間は、フリクションが安定せず引き摺りを生じて伝達効率に影響を与える。
【0047】
ここで、作動油の油温が低いときには、粘性抵抗が上昇してフリクションの発生が大きくなるおそれがある。また、各クラッチC1〜C5,CLが解放されることにより、メインシャフト10の回転が停止する一方、カウンタシャフト40はディファレンシャル機構DF、ファイナルドリブンギヤ58およびファイナルドライブギヤ48を介して駆動輪WL,WRからの回転が伝達されて回転駆動される。このため、自動変速機2が中立になると、各クラッチC1〜C5,CLは、メインシャフト10に接続される回転体と、カウンタシャフト40に接続される回転体との間で差回転が生じる。この差回転が大きいほど、各クラッチC1〜C5,CLのプレート間に残存する潤滑油の排出速度は速くなる。また、エンジンENGが停止される直前において、各クラッチC1〜C5,CLは、既に解放状態であるときには、締結状態であるときに比べ、プレート間に介在する潤滑油量が多くなる。
【0048】
以下、制御装置ECUにより行われる第2オイルオイルP2の駆動制御の処理内容について図3を参照して説明する。この処理は、エンジンENGを停止させて第1駆動モータM1のみの駆動力での走行が開始されたときの第2オイルポンプP2の駆動制御に係るものである。なお、制御装置ECUは、自動変速機2に設定されている変速段を記憶させるための手段を備えており、少なくとも上記のようにエンジンENGを停止させる制御が開始されたとき、エンジンENGが停止される直前に自動変速機2に設定されていた変速段を記憶装置に記憶させることができるように構成されている。なお、例えば1速〜5速クラッチC1〜C5および1速ホールドクラッチCLに供給される作動油圧を検出して各クラッチの係脱状態を判断することにより、設定されている変速段の検出が可能である。
【0049】
図3に示すように、まず、エンジンENGが停止されて第1駆動モータM1のみの駆動力での走行が開始されたか否かが判断される(ステップS1)。エンジンENGによる走行が継続されていれば、この処理は終了する。エンジンENGが停止されて第1駆動モータM1のみの駆動力での走行が開始されたと判断されると、油温センサおよび車速センサからの入力信号に基づいて油温および車速が検出されるとともに、記憶装置に記憶されている変速段の読み出しが行われる(ステップS2)。ここで記憶装置から読み出される変速段は、上記のようにエンジンENGが停止される直前に設定されていた変速段である。
【0050】
検出された油温および車速と読み出された変速段とに応じて後述の所定時間Tが設定される(ステップS3)。この所定時間Tは、次式により設定される。 T=k1×k2×k3×t なお、tは定数であり、k1〜k3は所定時間Tを設定するための係数である。ステップS3においては、油温、車速および変速段に応じて図4に略示するテーブルに基づいて第1〜第3係数k1〜k3が算出され、算出された第1〜第3係数k1〜k3を上記の式に代入して所定時間Tが求められる。
【0051】
第1係数k1は、油温をパラメータとしており、油温が低温であるほど大きくなるように設定され、油温が高温であるほど小さくなるように設定される。第2係数k2は、車速をパラメータとしており、車速が低速であるほど大きくなるように設定され、車速が高速であるほど小さくなるように設定される。第3係数k3は、エンジンENGを停止させる直前に自動変速機2に設定されていた変速段をパラメータとしており、この変速段が低速段であるほど大きく設定され、この変速段が高速段であるほど小さく設定される。なお、第1〜第3係数k1〜k3とパラメータとの関係は、図4に矢印で示すように単調に増減する関係であれば線形傾向を示す関係であってもそうでなくてもよく、また、パラメータ値が所定範囲にあるときには係数として一定の値が算出されるように設定してもよく、適宜係数の算定式を設定できる。
【0052】
このように第1〜第3係数k1〜k3が設定されるため、ステップS3において所定時間Tは、油温が高温であるほど短く、車速が高速であるほど短く、エンジンENGが停止される直前に設定されていた変速段が高速段であるほど短く設定される。
【0053】
この所定時間Tが設定されると、次いで、エンジンENGが停止されてからこの所定時間Tが経過したか否かが判断される(ステップS4)。所定時間Tが経過していないと判断されると、電気モータMPを駆動させるための第2目標値TQ2を設定する(ステップS5)。この第2目標値TQ2は、潤滑圧供給油路78を介して潤滑部位LUBに供給される潤滑油量がほぼゼロに等しくなるポンプ流量となるように第2オイルポンプP2が作動するときにおける電気モータMPの駆動力の目標値になっている。目標値が定まると、第2オイルポンプP2の駆動力がこの第2目標値TQ2になるように電気モータMPに制御信号が出力され、電気モータMPの駆動制御が行われ(ステップS10)、処理がステップS1に戻される。
【0054】
なお、ステップS3の処理は、ステップS1においてエンジンENGが停止されたと判断された初回においてのみ行われるようになっている。したがって、一度エンジンENGが停止されたと判断されてステップS3において所定時間Tが設定されると、ステップS1に戻って行われる2度目以降の処理においては、所定時間Tを設定する処理が行われないようになっている。
【0055】
このように、エンジンENGが停止されると、ステップS3において設定された所定時間Tが経過するまでは、ステップS4の判断処理に次いでステップS5の処理が行われ、潤滑油量がほぼゼロに等しくなるように第2オイルポンプP2の駆動制御が継続して行われる。
【0056】
ステップS4において、エンジンENGが停止されてから所定時間Tが経過したと判断されると、電気モータMPを駆動させるための第1目標値TQ1を設定する(ステップS6)。この第1目標値TQ1は、潤滑部位LUBに従来と同様に通常量の潤滑油が潤滑圧油路78を介して供給されるように第2オイルポンプP2が作動するときにおける電気モータMPの駆動力の目標値になっている。なお、この目標値どおりに電気モータMPが駆動されて第2オイルポンプP2が作動すると、各クラッチC1〜C5,CLは、解放状態が維持される一方で直ちに係合させることができる必要最小限の準備作動油圧を供給することができる。ステップS6を経て目標値が定まると、第2オイルポンプP2の駆動力がこの第1目標値TQ1になるように電気モータMPに制御信号が出力されて電気モータMPの駆動制御が行われ(ステップS10)、処理がステップS1に戻される。
【0057】
上記の通り、一旦所定時間Tが設定されると、改めてステップS3において時間を設定する処理は行われない。したがって、これ以降は、ステップS4の判断処理に次いでステップS6の処理が行われ、通常量の潤滑油が潤滑部位LUBに供給されるようになる。また、再びエンジンENGが始動されると、設定されていた所定時間Tが解除される。再びエンジンENGが停止されると、ステップS1およびステップS2の処理を経て、ステップS3において所定時間Tが新たに設定される。
【0058】
図5には、エンジンENGが停止されて第1駆動モータM1のみの駆動力での走行が開始されてからの1速クラッチC1のフリクションの推移を示している。なお、図5においては1速クラッチC1を例示しているが、他のクラッチC2〜C5,CLについても同様の推移を示す。実線αで示す推移は、図3に示すフローチャートに従って第2オイルポンプP2の駆動制御を行う本実施例の制御装置ECUを備えた車両について示しており、点線βで示す推移は、従来の制御装置を備えた車両について示したものである。
【0059】
エンジンENGが停止された直後は、本実施例の車両においても従来の車両においても、同様にフリクションが急激に増加する。その後、従来の車両においては、点線βに示すように、通常量の潤滑油が潤滑部位LUBに供給されるように第2オイルポンプP2が駆動される。したがって、エンジンENGが停止される直前まで第1オイルポンプP1から供給されていた潤滑油の排出が遅れて残存したままの状態が続き、時間tβが経過するまでフリクションの安定が見られない。
【0060】
一方、所定時間Tが経過するまでは、実線αで示すように、潤滑部位LUBに供給される潤滑油量がほぼゼロに等しくなるように第2オイルポンプP2を駆動制御することにより、1速〜5速クラッチC1〜C5に残存する潤滑油の排出が促され、これに伴ってフリクショントルクも速やかに低減する。フリクションの安定が見られるまでに所要する時間tαは従来の時間tβよりも短く、また、安定時におけるフリクションも、従来に比べて低減される。
【0061】
このような制御装置ECUを備えることにより、エンジンENGの駆動力による走行から、第1駆動モータM1のみの駆動力の走行に切り換えられたときに、自動変速機2を構成するクラッチC1〜C5,CLに残存する潤滑油の排出が促され、フリクションの低減が速やかに行われるため、伝達効率がよく燃費性能のよいハイブリッド車両を提供できる。また、所定時間Tの経過後については、フリクションが安定した状態において、通常両の潤滑油が供給される。これにより、エンジンENGを再始動させたときにおいて、潤滑部位LUBの潤滑が安定して行われるため自動変速機2の耐久性能が維持されるとともに、正常かつ応答性のよい自動変速制御を行わせることができる。
【0062】
また、本実施例においては、油温が低いと粘性抵抗が増加してフリクションの影響が大きくなることに鑑み、油温が低いと第2目標値TQ2に応じて第2オイルポンプP2を作動させる時間Tが長くなるように設定している。これにより、油温が低温であるときには、残存する潤滑油が排出されるまでに十分な時間が確保され、フリクションの発生をより確実に低減できる。一方、油温が高い場合には、逆にフリクションの影響が少ないことに鑑み、この所定時間Tが短くなるように設定している。これにより、潤滑部位LUBの耐久性の確保をより確実に行うことができる。このように、油温に応じて所定時間の長さを設定することにより、フリクションの低減と耐久性の確保との両立が図られる。
【0063】
さらに、車速が高速であるとカウンタシャフト40が高回転で回転してメインシャフト10との相対回転速度が大きくなり、各クラッチC1〜C5,CLの差回転が大きくなるとともにカウンタシャフト40に連結される側の回転部材の回転速度自体が高速になり、潤滑油の排出速度が速くなる。一方、低速であると、各クラッチC1〜C5,CLの回転部材間の差回転が小さくなるとともにカウンタシャフト40に連結される側の回転部材の回転速度自体が低速になり、潤滑油の排出速度が遅くなる。このことに鑑み、車速が低速であるほど所定時間Tを長く設定することにより、フリクションの低減を確実に行うことができ、車速が高速であるほど所定時間Tを短く設定することにより、潤滑部位LUBの耐久性の確保を確実に行うことができる。
【0064】
同様に、エンジンENGが停止される直前に設定される変速段が高速段であるほど、車速が高速になっていると考えられ、各クラッチC1〜C5,CLの回転部材間の差回転が大きくなるとともにカウンタシャフト40に連結される側の回転部材の回転速度自体が高速になり、潤滑油の排出速度が速くなる。一方、低速段であるほど、車速が低速になっていると考えられ、各クラッチC1〜C5,CLの回転部材間の差回転が小さくなるとともにカウンタシャフト40に連結される側の回転部材の回転速度自体が低速になり、潤滑油の排出速度が遅くなる。このことに鑑み、変速段が低速段であるほど、所定時間Tを長く設定することにより、フリクションの低減を確実に行うことができ、変速段が高速段であるほど所定時間Tを短く設定することにより、潤滑部位LUBの耐久性の確保を確実に行うことができる。
【0065】
これまで、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の実施例を説明したが、必ずしも上記構成に限られない。例えば、第2係数k2が車速に応じて設定されるとしたが、車速に替えてクラッチの差回転に応じて設定してもよい。なお、クラッチの差回転は、車速センサに基づいて検出されるカウンタシャフト40の回転速度に対して対応するクラッチまでのギヤ列のギヤ比を乗じたものと、エンジン回転速度センサに基づいて検出されるメインシャフト10の回転速度に対して対応するクラッチまでのギヤ列のギヤ比を乗じたものの差より求めることができる。このとき、差回転が小さくなるほど第2係数k2が小さくなるように設定し、差回転が大きくなるほど第2係数k2が大きくなるように設定することが好ましい。これにより、車速に応じて第2係数k2を設定したときと同様に、クラッチに残存する潤滑油の排出速度が速いときには潤滑部位LUBが確保され、潤滑油の排出速度遅いときには第1目標値で第2オイルポンプP2を作動させるまでの時間が長く確保され、フリクションの低減を確実に行うことができる。なお、車速を上記構成例ト同様に第2係数k2を算出するパラメータとして用いるとともに、差回転をパラメータとして上記の要領で新たに第4係数k4を算出し、次式 T=k1×k2×k3×k4×t により所定時間Tを求めるように構成してもよい。
【0066】
また、所定時間Tの間は、供給される量がゼロになるように目標値を設定し、所定時間Tの経過後に通常量が供給されるように目標値を設定したが、必ずしもこのように設定される必要はなく、図5に一点鎖線γで示すように、エンジンENGが停止された直後に供給される量がゼロになるように第2目標値を設定し、所定時間Tの経過後に通常量が供給されるように第1目標値を設定し、所定時間Tが経過する間は、第2目標値から第1目標値に徐々に供給量を増加させるように第2オイルポンプP2を駆動する制御を行うように構成してもよい。このとき、増加の傾向は、図示するように初期の間は増加傾向を小さくし、時間が経過するにつれて増加量を大きくするように設定してもよい。また、二点鎖線δで示すように、第2の所定時間Tδまでは供給される量がゼロになるように第2目標値を設定し、第2の所定時間Tδから所定時間Tになるまでに徐々に供給量を増加させるように第2オイルポンプP2を駆動する制御を行うように構成してもよい。
【0067】
また、上記説明では、潤滑部位LUBに供給される量がゼロになるように第2目標値TQ2を設定したが、通常量の潤滑油を供給するための第1目標値よりも小さい値に設定されていればよく、必ずしもゼロにする必要はない。また、第1目標値および第2目標値を、電気モータMPの駆動力の目標値として設定することにより、潤滑油の供給量を制御するように構成したが、電気モータの回転速度、電気モータの駆動電圧あるいは第2オイルポンプP2のポンプ流量の目標値として設定しても、図3に示すフローチャートに従って安定して第2オイルポンプP2の作動させることができ、潤滑油の供給量を狙いの量に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係るハイブリッド車両の制御装置が設けられる車両の動力伝達装置のスケルトン図である。
【図2】本発明に係るハイブリッド車両の制御装置が設けられる車両の油圧供給装置の構成図である。
【図3】本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係るハイブリッド車両の制御装置に記憶されるテーブルである。
【図5】エンジン停止後における第2オイルポンプの駆動力と、フリクショントルクとの推移を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0069】
ENG エンジン
M1 第1駆動モータ(駆動モータ)
M2 第2駆動モータ(駆動モータ)
MP 電気モータ
P1 第1オイルポンプ
P2 第2オイルポンプ(電動オイルポンプ)
HA 油圧アクチュエータ
C1〜C5 1速〜5速クラッチ(摩擦係合要素)
CL 1速ホールドクラッチ(摩擦係合要素)
LUB 潤滑部位
ECU 制御装置
1 動力伝達装置
2 自動変速機
5 モータ動力伝達機構
7 油圧供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンおよび駆動モータの少なくとも一方の駆動力を駆動輪に伝達可能に構成され、前記エンジンおよび前記駆動輪の間の動力伝達を変速して行う動力伝達要素と、前記動力伝達要素による動力伝達を断接する摩擦係合要素と、所定の電気モータにより駆動される電動ポンプとを有したハイブリッド車両に設けられており、
前記エンジンを停止させて前記駆動モータのみの駆動力を前記駆動輪に伝達することによる走行が開始されたときに、前記電気モータの駆動制御を行うことにより、前記電動ポンプを駆動して前記摩擦係合要素に供給される作動油圧を制御するとともに、前記動力伝達要素および前記摩擦係合要素の少なくとも一方に供給される潤滑油量を制御するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記電動ポンプの目標油量を通常油量に設定する第1の油量設定手段と、
前記電動ポンプの目標油量を前記通常油量よりも低い値に設定する第2の油量設定手段と、
車両の運転条件に応じて、前記第2の油量設定手段により前記目標油量を設定させる状態から前記第1の油量設定手段により前記目標油量を設定させる状態に変更するか否かを判断する判断手段と、
前記第1および第2の油量設定手段のいずれかにより設定された目標油量が前記電動ポンプにより吐出されるように前記電気モータの駆動制御を行わせるモータ制御手段とを備えるハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記第2の油量設定手段は、前記低油量を漸次増加させるように設定することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
車両の運転条件に応じて所定の時間を設定する時間設定手段を備え、
前記判断手段は、前記時間設定手段により設定された前記所定の時間が経過したか否かを判断し、
前記所定の時間が経過すると、前記第1の油量設定手段により前記目標油量が設定されることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記所定の時間は、車速に応じて設定され、車速が高いほど短く設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記摩擦係合要素が、前記動力伝達要素の一部を介して前記エンジンに連結される第1の回転体と、前記動力伝達要素の一部を介して前記駆動輪に連結される第2の回転体とからなり、
前記所定の時間は、前記第1および第2の回転体の差回転に応じて設定され、差回転が小さいほど短く設定されることを特徴とする請求項1〜4に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記所定の時間は、前記摩擦係合要素に供給される作動油の油温に応じて設定され、油温が高いほど短く設定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記動力伝達要素は、複数の変速段からいずれかの変速段を設定可能に構成され、前記エンジンおよび前記駆動輪の間の動力伝達を設定された変速段の変速比に応じて変速して行うように構成されており、
前記所定の時間は、前記エンジンを停止させて前記電気モータのみの駆動力を前記駆動輪に伝達することによる走行が開始される直前に前記動力伝達要素に設定されていた変速段に応じて設定され、変速段が高速側であるほど短く設定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
前記目標油量は、前記電気モータの駆動回転速度、前記電気モータの駆動電圧、前記電気モータの駆動力および前記電動ポンプのポンプ流量のいずれかに応じて設定されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−223442(P2007−223442A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46124(P2006−46124)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】