説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】 運転者の要求する走行状態を応答よく実現可能なハイブリッド車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】 ハイブリッド車両が車速指令値に基づいて走行制御をしているモータ走行モードにおいて、駆動トルク指令値に運転者が所定加速を要求したときの加速用駆動トルクを加算した値がモータ駆動分上限値を越えたときはエンジン併用走行モードを選択することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び/又はモータを動力源とするハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の制御装置として、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報には、モータのみの駆動トルクで走行中(以下、EVモードと記載する。)に、エンジンの駆動力も併用して走行するモード(以下、HEVモードと記載する。)に移行するときは、モータと駆動輪との間のクラッチをスリップ制御し、モータによってエンジンを始動する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−255285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、運転者等によって設定された一定車速で自動的に走行可能な車速制御装置(以下、ASCDと記載する。)を搭載した場合、以下に示す問題があった。ASCDには設定車速を変更するための加速スイッチ等が設けられている。そして、運転者が加速スイッチを操作し、加速走行に移行すると、運転者の要求する駆動トルクがEVモードからHEVモードへ遷移する閾値を越え、エンジン始動が行われる。このとき、エンジンクランキング中は駆動トルクがモータ駆動分上限値(すなわち、モータトルク上限値からモータトルクエンジン始動分を除いた値)で制限されるため、車速の追従性が悪化するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、運転者の要求する走行状態を応答よく実現可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、ハイブリッド車両が車速指令値に基づいて走行制御をしているモータ走行モードにおいて、駆動トルク指令値に運転者が所定加速を要求したときの加速用駆動トルクを加算した値がモータ駆動分上限値を越えたときはエンジン併用走行モードを選択することとした。
【発明の効果】
【0007】
よって、モータトルクに余裕があるうちに予めエンジンを始動するため、始動時の駆動トルク不足による車速の低下を防止することができる。また、加速制御時にはエンジントルクも利用できるため、加速不足による車速追従性の悪化も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のハイブリッド車両を示すシステム構成図である。
【図2】実施例1の統合コントローラ内での演算処理を表すフローチャートである。
【図3】実施例1の車速とアクセル開度に基づいて目標駆動トルクを演算するマップである。
【図4】実施例1のクラッチトルク容量に対するクラッチ油圧の関係を表すマップである。
【図5】実施例1のクラッチ油圧に対する指令電流の関係を表すマップである。
【図6】実施例1のASCD制御処理を表すフローチャートである。
【図7】実施例1の第1クラッチ制御モード設定処理を表すフローチャートである。
【図8】実施例1のモータジェネレータの上限トルク演算用マップである。
【図9】実施例1の第2クラッチ制御モードの設定処理を表すフローチャートである。
【図10】実施例1のクラッチ開放時における目標スリップ回転数演算マップである。
【図11】実施例1のエンジン始動時の目標スリップ回転数演算マップである。
【図12】実施例1の第2クラッチ制御処理を表す制御ブロック図である。
【図13】比較例においてASCD用目標駆動トルクがHEVモード閾値を越えたときにエンジン始動する場合のタイムチャートである。
【図14】実施例1においてASCD用目標駆動トルクに加速要求に必要な駆動トルクを加算した値に基づいてエンジン始動する場合のタイムチャートである。
【図15】実施例1において運転者がリジュームスイッチ操作をした際のタイムチャートである。
【図16】実施例1においてEVモードによる加速途中で駆動トルク指令値からアクセラレートに必要なトルクを差し引いた値がモータ駆動分上限値を越えた場合のタイムチャートである。
【図17】実施例2においてASCD用目標駆動トルクから加速要求に必要な駆動トルクを減算した値に基づいてエンジン始動する場合のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
図1は、実施例1のハイブリッド車両を示すシステム構成図である。なお、本実施例はパラレルハイブリッド車両を例としてあげている。交流同期モータ(以下、モータジェネレータ1と記載する。)は、駆動トルク制御や回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリーへの回収を行なうものである。エンジン2は希薄燃焼可能であり、スロットルアクチュエータによる吸入空気量とインジェクタによる燃料噴射量と、点火プラグによる点火時期の制御により、エンジントルクが指令値と一致するように制御される。乾式クラッチ3(以下、第1クラッチ3と記載する。)は、エンジン〜モータ間の締結/開放を行なう。第1クラッチ3が完全締結状態ならモータトルク+エンジントルクが、開放状態ならモータトルクのみが、後述する第2クラッチ4へと伝達される。
【0010】
湿式クラッチ4(以下、第2クラッチ4と記載する。)は、クラッチ油圧(押付力)に応じて伝達トルク(クラッチトルク容量)が発生する。第2クラッチ4は後述する変速機を介し、第1駆動源であるモータジェネレータ1(及び第1クラッチ3が締結されている場合は第2駆動源であるエンジン2)から出力されたトルクを駆動輪であるタイヤ(車両)へと伝達する。有段の変速機5は、複数の遊星歯車から構成される。変速機5内部のクラッチならびにブレーキをそれぞれ締結/開放して力の伝達経路を変えることにより変速する。第2クラッチ入力軸(モータ)回転数センサ6は、現在のクラッチ入力回転数を検出する。第2クラッチ出力軸回転数センサ7は、現在のクラッチ出力軸回転数を検出する。
【0011】
高電圧インバータ8は、直流‐交流変換を行いモータの駆動電流を生成する。高電圧バッテリー9は、駆動用モータからの回生エネルギーを蓄積する。アクセルセンサ10は、運転者の加速意思を検出する。エンジン回転数センサ11は、現在のエンジン回転数を検出する。クラッチ油温センサ12は、クラッチの油温を検出する。車速センサ10aは、現在の車速Vspを検出する。
【0012】
統合コントローラ13は、バッテリー状態、アクセル開度、および車速(変速機出力軸回転数に同期した値)から目標駆動トルクを演算する。そして、その結果に基づき各アクチュエータ(モータジェネレータ1、エンジン2、第1クラッチ3、第2クラッチ4、変速機5)に対する指令値を演算し、各コントローラへと送信する。変速機コントローラ14は、統合コントローラ13からの変速指令を達成するように変速制御を行なう。クラッチコントローラ15は、統合コントローラ13からの各クラッチ油圧指令値に対してクラッチ油圧(電流)指令値を実現するようにソレノイドバルブの電流を制御する。エンジンコントローラ16は、統合コントローラ13からのエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルク制御を行なう。モータトルクコントローラ17は、統合コントローラ13からのモータトルク指令値を達成するようにモータトルク制御を行なう。バッテリーコントローラ18は、高電圧バッテリー9の充電状態を管理し、その情報を統合コントローラ13へと送信する。
【0013】
また、運転者が操作するスイッチ19〜22は、統合コントローラ13にスイッチ信号を出力する。これらスイッチ信号により統合コントローラ13は車速制御(以下、ASCDと記載する。)を開始/解除ならびに設定速度を設定する。セットスイッチ19は、車速制御を許可し設定車速を設定する。アクセラレート/コーストスイッチ20,21は設定車速を増減させる。キャンセルスイッチ22は車速制御を解除する。リジュームスイッチ23は解除状態から制御を再開し、前回設定された車速まで上昇させる。
【0014】
次に、統合コントローラの処理内容について説明する。図2は実施例1の統合コントローラ内での演算処理を表すフローチャートである。尚、図2に示す処理内容は一定サンプリングで実行されることとする。
ステップS1では、バッテリー充電量SOCや変速機のシフト位置、第2クラッチ4の入出力軸回転数、車速信号Vspといった他のコントローラが計測した車両状態を受信する。
ステップS2では、アクセル開度Apoをアクセルセンサ10から計測する。
ステップS3では、アクセル開度Apo、車速Vspから足踏み用目標駆動トルクTd_Apo*を演算する。図3は実施例1の車速とアクセル開度に基づいて目標駆動トルクを演算するマップである。詳細については省略するが、例えば図3に示すようなマップに基づき演算する。
ステップS4では、車速制御のスイッチの状態を検出する。
ステップS5では、スイッチの状態、および車両状態(ブレーキSW)信号からASCDの作動状態、ならびに車速指令値Vsprを決定する。なお、詳細な説明については後述する。
【0015】
ステップS6では、車速指令値Vsprおよび車速信号VspからASCD用目標駆動トルクTd_ASCD*を演算する。なお、詳細な説明については省略するが、例えば車速指令値Vsprおよび車速信号Vspとの偏差に対し、比例・積分補償(PI制御)を施し、目標駆動トルクとする方法がある。また、公知の線形制御手法の一つであるモデルマッチング手法と近似ゼロイング手法を用いて算出してもよい。
ステップS7では、以下の条件に基づき、足踏み用目標駆動トルクTd_Apo*とASCD用目標駆動トルクTd_ASCD*のいずれか一方を最終目標駆動トルクTd*とする。
1)ASCD作動中、かつTd_ASCD* >Td_Apo*であれば、
Td* =Td_ASCD*
2)それ以外
Td* =Td_Apo*
【0016】
ステップS8では、バッテリー充電量SOC、ASCD作動状態、最終目標駆動トルクTd*および車速Vspといった車両状態から第1クラッチ制御モードfCL1(締結=エンジン始動/開放=エンジン停止)の設定を行なう。なお、詳細な説明については後述する。
ステップS9では、バッテリー充電量SOC、最終目標駆動トルクTd*、第1クラッチ制御モードフラグfCL1および車速Vspといった車両状態から第2クラッチ制御モードCL2MODE(締結、開放、スリップ)を設定する。なお、詳細については後述する。
【0017】
ステップS10では、各クラッチの制御モードと車両状態に基づき目標駆動トルクTd*を基本エンジントルク指令値Te_base*、基本モータトルク指令値Tm_base*に配分する。配分方法については様々な手法が考えられるが、詳細については省略する。
ステップS11では、スリップ回転数制御を実行するか否かの判断を行う。ステップS9で判断した第2クラッチ状態がスリップと設定され、かつ実際のスリップ回転数((入力軸‐出力軸)の絶対値)が所定値以上となった場合はスリップ回転数制御をONとしてステップS12へ、開放または締結と設定された場合は回転数制御をOFFとしてステップS16へ、それぞれ進む。
【0018】
ステップS12では、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_base*を演算する。例えば目標駆動トルクTd*と同値とする。
ステップS13では、第1クラッチ制御モードfCL1、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_base*、第2クラッチ油温Tempcl2、充電率SOC、および出力軸回転数計測値ωoから入力軸回転数目標値ωcl2i*を演算する。なお、詳細な説明については後述する。
【0019】
ステップS14では、入力回転数目標値ωcl2i*と入力回転数計測値ωcl2iが一致するように回転数制御用モータトルク指令値を演算する。演算(制御)方法は様々考えられるが、例えば下式に基づき(PI制御)演算する。実際の演算はタスティン近似等で離散化して得られた漸化式を用いて算出する。
Tm_FB_ON=((KPms+KIm)/s)×(ωcl2i*−ωcl2i)・・・(式1)
ただし
KPm:モータ制御用比例ゲイン
KIm:モータ制御用積分ゲイン
s:微分演算子
である。
【0020】
ステップS15では、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_base*と回転数制御用モータトルク指令値Tm_FB_ONとエンジントルク指令値Te_base*から以下に基づき回転数制御用第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_FB_ONを演算する。なお、詳細な説明は後述する。
ステップS16では、前述した回転数制御用モータトルク指令値ならびに回転数制御用第2クラッチトルク容量指令値を演算するための内部状態変数を初期化する。
ステップS17では、回転数制御を行なわない場合、すなわち第2クラッチ4を締結/開放状態もしくは締結状態から回転数制御を行なう(スリップ状態にする)までのクラッチトルク容量指令値Tcl2_FB_OFFを演算する。
1)締結する場合
1-1)Tcl2_z1*<Td*×Ksafeであれば
Tcl2_FB_OFF=Tcl2_z1*+ΔTcl2LU・・・(式2)
1-2) Tcl2_z1*≧Td*×Ksafeであれば
Tcl2_FB_OFF=Td*×Ksafe・・・(式3)
2)開放する場合
Tcl2_FB_OFF=0・・・(式4)
3)第2クラッチを締結→スリップ状態にする場合
Tcl2_FB_OFF= Tcl2_z1*−ΔTcl2slp・・・(式5)
ただし、
Ksafe:第2クラッチ安全率係数(>1)
ΔTcl2LU:スリップ(または開放)→締結移行時のトルク容量変化率
ΔTcl2slp:締結→スリップ移行時トルク容量変化率
Tcl2_z1*:最終第2トルク指令値前回値
ステップS18では、以下の条件に基づき最終第2クラッチトルク容量指令値Tcl2*を決定する。
1)回転数制御中の場合
Tcl2*=Tcl2_FB_ON・・・(式6)
2)回転数制御停止の場合
Tcl2*=Tcl2_FB_OFF・・・(式7)
【0021】
ステップS19では、第1クラッチ制御モードフラグfCL1に基づき第1クラッチトルク容量指令値Tcl1*を決定する。
1)第1クラッチ制御モードが締結モードになっていて、かつ第2クラッチスリップ回転数ωcl2slpがスリップ回転数目標値ωcl2slp*以上の場合
1-1)エンジン始動中(ωe−ωcl2i<0)であれば
Tcl1*=Tcl1_ENG_ST・・・(式8−1)
1-2)エンジン始動が終了(ωe−ωcl2i≧0)していれば
Tcl1*=Tcl1_max・・・(式8)
ただし、
ωcl2slp*:エンジン始動時スリップ回転数目標値(設定方法は後述)
Tcl1_ENG_ST:エンジン始動(クランキング)トルク(設定方法は後述)
Tcl1_max:第1クラッチ最大トルク容量
2)第1クラッチ制御モードが開放モードになっている場合
Tcl1*=0・・・(式9)
【0022】
ステップS20では、クラッチトルク容量指令値Tcl1*、Tcl2*から電流指令値Icl1*、Icl2*を演算する。実際には予め取得した特性に基づき作成したマップ(図4、図5参照)を用いて算出する。図4は実施例1のクラッチトルク容量に対するクラッチ油圧の関係を表すマップ、図5は実施例1のクラッチ油圧に対する指令電流の関係を表すマップである。これにより、油圧や電流に対してクラッチトルク容量が非線形な特性を有している場合でも、制御対象を線形としてみなすことができるため、前述したような線形制御理論を適用することができる。
【0023】
ステップS21では、以下の条件に基づきモータトルク指令値Tm*を決定する。
1)回転数制御中の場合
Tm*=Tm_FB_ON・・・(式10)
2)回転数制御停止の場合
Tm*=Tm_base・・・(式11)
ステップS22では、算出された指令値を各制御コントローラへと送信する。
【0024】
〔ASCD制御処理〕
次に、ASCDの作動状態ならびに車速指令値Vsprの演算方法について説明する。図6は実施例1のASCD制御処理を表すフローチャートである。
ステップS51では、キャンセルスイッチ22(CANCELSW)、もしくはブレーキSWがONなっているか否かを判定する。いずれかがONの場合はステップS510へ、OFFの場合はステップS52へ進む。
ステップS52では、セットスイッチ19(SETSW)がONになっているか否かを判定する。ONの場合はステップS53へ、OFFの場合はステップS55へ進む。
ステップS53では、車速指令値Vsprを現在車速Vspとする。
ステップS54では、ASCD作動フラグをセットし、処理を終了する。
【0025】
ステップS55では、リジュームスイッチ23(RESSW)がONなっているか否かを判定する。ONの場合はステップS56へ、OFFの場合はステップS57へ進む。
ステップS56では、ASCD作動フラグ、およびリジュームフラグをセットし、ステップS58へ進む。
ステップS57では、ASCD作動フラグがセットされているか否かを判定する。セットされている場合はステップS58へ、クリアされている場合はステップS510へ進む。
【0026】
ステップS58では、減速モード処理(減速制御時の車速指令値Vsprの演算)を行なう。コーストスイッチ21(COASTSW)がONの間は前回の車速指令値Vspr_z1にΔVを減算し、OFFされた直後に現在車速Vspとする。
【0027】
ステップS59では加速制御モード処理(加速制御時の車速指令値Vsprの演算)を行なう。
1)リジュームモードの場合
前回の車速指令値Vspr_z1にΔVを加算し、復帰車速Vspresで上限制限する。
2)それ以外の場合
アクセラレートスイッチ20(ACCSW)がONの間は前回の車速指令値Vspr_z1にΔVを加算し、OFFされた直後に現在車速Vspとする。
【0028】
ステップS510では、各フラグ、ならびに制御内部の変数を初期化する。また、リジューム時の復帰車速Vspresを現在の車速指令値Vsprで初期化する。
【0029】
〔第1クラッチ制御モードの設定処理〕
次に、第1クラッチ制御モードfCL1(締結=HEVモード/開放=EVモード)の設定方法について説明する。図7は実施例1の第1クラッチ制御モード設定処理を表すフローチャートである。
ステップS81では、モータ(CL2入力)回転数ωcl2iから図8に示すモータ特性に基づき作成したマップを用いてモータ最大トルクTm_maxを算出する。図8は実施例1のモータジェネレータの上限トルク演算用マップである。
【0030】
ステップS82では、モータ最大トルクTm_maxから通常必要なクランキングトルクTcl1_ENG_ST_NOMを差し引いた値をモータ駆動分上限値Tm_EV_maxとする。
ステップS83では、ASCD作動フラグがセットされているか否かを判定する。セットされていない場合はステップS84へ、セットされている場合はステップS85へ進む。
ステップS84では、目標駆動トルクTd*がモータ駆動分上限値Tm_EV_max以上の場合はステップS815(HEVモード)へ、モータ駆動分上限値Tm_EV_maxよりも小さい場合はステップS816(EVモード)へ進む。
ステップS85では、モータ最大トルクTm_maxから目標駆動トルクTd*を差し引いた値をモータ余剰トルクTm_margとする。
【0031】
ステップS86では、リジュームモードか否かを判定する。リジュームモードの場合はステップS87へ、それ以外の場合はステップS89へ進む。
ステップS87では、リジュームモードにおける復帰後(最終)車速での平坦路走行抵抗値TR_VSPRESを演算する。なお、演算方法の詳細については省略するが、例えば予め実験により取得した走行抵抗値をマップ化し、復帰後車速を入力とし演算する。
ステップS88では、以下の条件に基づきステップS815(HEVモード)もしくはステップS816(EVモード)を判定する。
・Tcl1_ENG_ST_MIN≧Tm_marg、または、TR_VSPRES≧Tm_EV_maxの場合、
ステップS815(HEVモード)に進む。
・上記以外の場合
ステップS816(EVモード)に進む。
ただし、Tcl1_ENG_ST_MINはエンジン始動に最低限必要なクランキングトルクであり、予め実験等により求めた値とする。
【0032】
ステップS89では、アクセラレートモードか否かを判定する。アクセラレートモードの場合はステップS810へ、それ以外の場合はステップS812へ進む。
ステップS810では、下式に基づき現在の車速における走行抵抗値TR_VSPを演算する。
TR_VSP=Td*−TACC・・・(式12)
ここで、TACCはアクセラレートモードで設定される加速度に必要なトルク(加速用駆動トルク)であり、以下のように演算する。
TACC=MV×RT2×ΔV/ΔT・・・(式13)
ただし、
MV:車両質量
RT:タイヤ半径
ΔT:演算周期
である。
【0033】
ステップS811では、以下の条件に基づきステップS815(HEVモード)もしくはステップS816(EVモード)を判定する。
・Tcl1_ENG_ST_MIN≧Tm_marg、または、TR_VSP≧Tm_EV_maxの場合、
ステップS815(HEVモード)に進む。
・上記以外の場合
ステップS816(EVモード)に進む。
【0034】
ステップS812では、一定速モードか否かを判定する。一定速モードの場合はステップS813へ、それ以外の場合はステップS816へ進む。
ステップS813では、下式に基づき現在の状態からアクセラレートモードに移行した際に必要な駆動トルクTd_ACCを演算する。
Td_ACC=Td*+TACC・・・(式14)
ステップS814では、以下の条件に基づきステップS815(HEVモード)もしくはステップS816(EVモード)を判定する。
・Td_ACC≧Tm_EV_maxの場合、
S815(HEVモード)に進む。
・上記以外の場合
S816(EVモード)に進む。
【0035】
ステップS815では、HEVモード(第1クラッチ制御モードfCL1=1)と判定し、以下の条件に基づきクランキングトルクを設定する。
・アクセラレートまたはリジューム、かつTcl1_ENG_ST_MIN≧Tm_margが成立する場合、
Tcl1_ENG_ST=Tcl1_ENG_ST_MIN
・上記以外の場合
Tcl1_ENG_ST=Tcl1_ENG_ST_NOM
ステップS816では、EVモード(第1クラッチ制御モードfCL1=0)と判定する。
【0036】
〔第2クラッチ制御モードの設定処理〕
次に、第2クラッチ制御モードCL2MODEの設定方法について説明する。第2クラッチ4はバッテリー充電量SOC、目標駆動トルクTd*、第1クラッチ制御モードfCL1および車速Vspといった車両状態から設定する。図9は実施例1の第2クラッチ制御モードの設定処理を表すフローチャートである。
ステップS91では、第1クラッチ制御モードを判別する。第1クラッチ制御モードが締結(エンジン始動)の場合はステップS95へ、開放モード(エンジン停止)の場合はステップS92に進む。
ステップS92では、車速Vspがゼロ(停止)か否かを判定する。停止している場合は、ステップS93に進む。それ以外はステップS94に進む。
ステップS93では、第2クラッチ制御モードを締結モード(CL2MODE=1)とする。
ステップS94では、第2クラッチ制御モードをスリップモード(CL2MODE=2)とする。
【0037】
ステップS95では、車速Vspが所定値Vth1(例えばエンジンが始動できる最低車速)より高いか否かを判定する。低い場合はステップS96へ、高い場合はステップS98に進む。
ステップS96では、目標駆動トルクTd*の符号を判別し、正値の場合にはステップS94へ、負値の場合にはステップS97へ進む。
ステップS97では、第2クラッチ制御モードを開放モード(CL2MODE=0)とする。
ステップS98では、前回の第2クラッチ制御モードが締結モードか否かを判定する。締結モードの場合はステップS93へ、それ以外の場合はステップS99へ進む。
【0038】
ステップS99では、エンジン回転数計測値ωe*、第2クラッチスリップ回転数計測値ωcl2slp、およびスリップ回転数しきい値ωcl2slpthから、以下の条件が成立する場合はステップS94に進みスリップを開始または継続し、成立しない場合にはステップS93に進みスリップを終了し締結モードへ移行する。
・スリップ継続条件
ωe≠ωcl2i (第1クラッチ開放またはスリップ)、またはωcl2slp>ωcl2slpth
次に、入力回転数目標値ωcl2i*の演算方法の詳細について説明する。
まず、以下に基づき第2クラッチスリップ回転数目標値を演算する。
1)EVモードの場合(fCL1==0)
ωcl2_slp*=fcl2_slp_cl1OP(Tcl2_base*,Tempcl2)・・・(式15)
ここで、fcl2_slp_cl1OP( )は基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_base*および第2クラッチ油温Tempcl2を入力とした関数である。図10は実施例1のクラッチ開放時における目標スリップ回転数演算マップである。fcl2_slp_cl1OPは、例えば図10に示すようなマップによって設定する。このように、「油温が高い」もしくは「クラッチ容量指令値が大きい」場合はスリップ回転数目標値を小さくすることにより、クラッチ油温の上昇を防止できる。
2)エンジントルク始動中の場合
ωcl2_slp*=fcl2_slp_cl1OP(Tcl2_base*,Tempcl2)+fcl2_Δωslp(Teng_start)・・・(式16)
ここで、fcl2_Δωslp( )はエンジン始動時のためのスリップ回転数増加量を演算する関数であり、エンジン始動配分モータトルク Teng_startを入力とする。図11は実施例1のエンジン始動時の目標スリップ回転数演算マップである。例えば、図11に示すようなマップを用いることにより、エンジン始動配分モータトルクが低下した場合には、目標第2クラッチスリップ回転数を高め(増加量を多く)に設定する。これにより、第1クラッチ3からの外乱を完全に打ち消すことができず回転数が低下しても急な締結を防止でき、その結果、加速度変動を生じることなくエンジンを始動できる。尚、エンジン始動後もスリップ制御を継続する場合、スリップ回転数はEV走行中同様とする(増加分は加算しない)。
【0039】
次に、スリップ回転数目標値ωcl2_slp*と出力軸回転数計測値ωoから下式に基つぎ入力回転数目標値ωcl2i*を演算する。
ωcl2i*=ωcl2_slp*+ωo・・・(式17)
最後に上記(式17)から算出した入力回転数目標値ωcl2i*に上下限制限を施し、最終的な入力軸回転数目標値とする。なお、上下限制限値はエンジン回転数の上下限値とする。
【0040】
〔回転数制御用第2クラッチトルク容量指令値演算処理〕
次に、回転数制御用第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_FB_ONの演算方法の詳細について説明する。図12は実施例1の第2クラッチ制御処理を表す制御ブロック図である。本制御系は、フィードフォワード(F/F)補償とフィードバック(F/B)補償とからならなる2自由度制御手法で設計している。F/B補償部については様々な設計方法が考えられるが、今回はその一例としてPI制御としている。以下、その演算方法について説明する。
まず、下記(式18)に示す位相補償フィルタGFF(s)に基づき基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_base*に位相補償を施しF/F第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_FFを演算する。実際の演算はタスティン近似等で離散化して得られた漸化式を用いて算出する。
Tcl2_FF/Tcl2_base*=GFF(s)=(τcl2・s+1)/(τcl2_ref・s+1)・・・(式18)
ただし
τcl2:クラッチモデル時定数
τcl2_ref:クラッチ制御用規範応答時定数
である。
【0041】
次に、以下に基づき第2クラッチトルク容量目標値Tcl2_tを演算する。
1)EVモードの場合
Tcl2_t=Tcl2_base*・・・(式19)
2)HEVモード(第1クラッチが締結状態)の場合
Tcl2_t=Tcl2_base*−Te_est・・・(式20)
尚、HEVモードにおける第2クラッチトルク容量目標値は、全体(エンジンおよびモータ)のトルク容量に対し、モータ分の容量を意味する。
また、はエンジントルク推定値であり、例えば下式に基づき演算する。
Te_est=(1/(τe・s+1))e-Le・s×Te_base*・・・(式21)
ただし、
τe:エンジン一次遅れ時定数
Le:エンジンむだ時間
である。
【0042】
次に、下式に基づき第2クラッチトルク容量規範値Tcl2_refを演算する。
(Tcl2_ref/Tcl2_t)=Gcl2_REF(s)=1/(τcl2_ref・s+1)・・・(式22)
次に、第2クラッチトルク容量規範値Tcl2_refと前述した回転数制御用モータトルク指令値Tm_FB_ONから下式に基づきF/B第2クラッチ容量指令値Tcl2_FBを演算する。
Tcl2_FB=((KPcl2・s+KIcl2)/s)×(Tcl2_ref−Tm_FB_ON)・・・(式23)
ただし
KPcl2:第2クラッチ制御用比例ゲイン
KIcl2:第2クラッチ制御用積分ゲイン
である。
【0043】
また、下式のように入力回転数変化によって生じるトルク(イナーシャトルク)を考慮することにより、入力回転数が変化している場合にも精度よくトルク容量を制御できる。
Tcl2_FB=((KPcl2・s+KIcl2)/s)×(Tcl2_ref−Tm_FB_ON−TIcl2_est)・・・(式24)
ここで、TIcl2_estはイナーシャトルク推定値であり、例えば、入力回転数変化量(微分値)に入力軸周りの慣性モーメントを乗算して求める。
そしてF/F第2クラッチトルク容量指令値Tcl2_FFとF/B第2クラッチ容量指令値Tcl2_FBを加算し、最終的な回転数制御用第2クラッチ容量指令値Tcl2_FB_ONを演算する。
【0044】
(実施例1の作用)
次に、実施例1の作用について説明する。図13は比較例においてASCD用目標駆動トルクがHEVモード閾値を越えたときにエンジン始動する場合のタイムチャートである。初期条件は、EVモードにおいて、ASCDによって一定速走行している状態とする。
時刻t1において、運転者がアクセラレートスイッチ20が押されて加速要求が為されると、ASCD用目標駆動トルクがHEVモード閾値を越えるため、エンジンクランキングが開始される。しかし、クランキングが終了し、エンジントルクが出力されるまでの間は駆動トルクがモータ駆動分上限値によって制限されてしまうため、ASCDによる加速要求(アクセラレートスイッチ操作による加速等、以下、アクセラレートと記載する。)に必要な駆動トルクが得られず、車速の追従性が悪化してしまう。
【0045】
図14は実施例1においてASCD用目標駆動トルクに加速要求に必要な駆動トルクを加算した値に基づいてエンジン始動する場合のタイムチャートである。初期条件は、EVモードにおいて、ASCDによって一定速走行している状態とする。実施例1の場合、比較的駆動トルク指令値が小さい一定速走行時においても、駆動トルク指令値にアクセラレートに必要な駆動トルクを加算した結果がモータ駆動分上限値を越えた場合にはエンジン始動を開始する。よって、クランキングが終了し、エンジントルクが出力される間も駆動トルクが制限されることはない。また、アクセラレート時にはエンジントルクも既に利用できる状態であるため、必要な駆動トルクが得られ、アクセラレート直後から所望の車速追従性(加速)を実現することができる。
【0046】
図15は実施例1において運転者がリジュームスイッチ操作をした際のタイムチャートである。ASCDを一旦キャンセルし、その後、再度リジュームスイッチ操作をした場合、リジュームモードにおいても復帰後車速における走行抵抗値がモータ駆動分上限値を越えない場合にはEV走行で加速するため、EV→HEVといったモード遷移を繰り返す現象を防止しつつ、所望の車速追従性を実現できる。
【0047】
図16は実施例1においてEVモードによる加速途中で駆動トルク指令値からアクセラレートに必要なトルクを差し引いた値がモータ駆動分上限値を越えた場合のタイムチャートである。この場合、モータ余剰トルクでクランキングすることにより、エンジン始動時の駆動トルク不足やクラッチ締結による加速度変動(ショック)を生じることなく加速できる。
【0048】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)駆動源としてのエンジン2及びモータジェネレータ1と、エンジン2とモータジェネレータ1の間に設けられた第1クラッチ3と、モータジェネレータ1と駆動輪との間に設けられた第2クラッチ4と、車速を検出する車速センサ10a(車速検出手段)と、運転者の操作もしくは車両状態量から車速指令値Vsprを演算するステップS5(車速指令値演算手段)と、車速センサ10aにより検出された車速Vsp及び車速指令値Vsprに基づいて駆動トルク指令値を演算するステップS6(駆動トルク指令値演算手段)と、ASCD用目標駆動トルクTd_ASCD*(駆動トルク指令値)に基づいてモータジェネレータ1のみの駆動トルクで走行するEVモード(モータ走行モード)、もしくはエンジン2とモータジェネレータMGの駆動トルクを併用するHEVモード(エンジン併用走行モード)を選択するステップS8,S9(モード選択手段)と、EV走行モードからHEVモードに遷移するときは、第2クラッチ4をスリップ制御し、第1クラッチ3を締結してモータトルクによりエンジンを始動するステップS19(モード遷移手段)と、ステップS19によりモード遷移するときにモータジェネレータ1が駆動トルクとして出力可能なモータ駆動分上限値Tm_EV_maxを演算するステップS82(上限値演算手段)と、運転者の操作により所定加速を要求するアクセラレータスイッチ20(加速要求手段)と、を備え、ステップS814は、EVモードにおいて、駆動トルク指令値Td*にアクセラレータスイッチ20による所定加速を実現する加速用駆動トルクTACCを加算した値Td_ACCがモータ駆動分上限値Tm_EV_maxを越えたときはEVモードを選択する。
【0049】
例えば、一定速といった低負荷走行中において、駆動トルク指令値Td*にアクセラレータスイッチ20による所定加速を実現する加速用駆動トルクTACCを加算した値Td_ACCがモータ駆動分上限値Tm_EV_maxよりも大きい場合には、第1クラッチ3を締結してエンジン2を始動しHEVモードへ移行する。これにより、モータトルクに余裕があるうちに予めエンジン2を始動するため、始動時の駆動トルク不足による車速の低下を防止することができる。また、加速制御時にはエンジントルクも利用できるため、加速不足による車速追従性の悪化も防止することができる。
【0050】
(2)車速指令値演算手段により車速指令値が演算されていない走行状態(すなわち、ASCD非作動の状態)から、運転者によって前回設定した車速指令値である復帰車速Vspresに復帰させる操作(リジュームスイッチ23の操作)が行われた場合、復帰車速Vspresの平坦路走行抵抗値TR_VSPRESがモータ駆動分上限値Tm_EV_maxを越えたときはHEVモードを選択する。
よって、復帰操作時に、不要なエンジン始動を防止することができ、EVモード→HEVモードの繰り返しによる違和感を改善できる。また、必要に応じてエンジンを始動することで駆動トルク不足による車速追従性の悪化を防止できる。
【0051】
(3)駆動トルク指令値Td*からアクセラレータスイッチ20による所定加速を実現する加速用駆動トルクTACCを減算した値Td_ACCがモータ駆動分上限値Tm_EV_maxよりも大きいときは、モータ駆動分上限値Tm_EV_maxから駆動トルク指令値Td*を減算した余剰トルクTm_margによりエンジンを始動する。
よって、駆動トルク不足による車速追従性の悪化を招くことなく、エンジン始動を実現できる。
【0052】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
実施例1では、ステップS814において、駆動トルク指令値Td*にアクセラレータスイッチ20による所定加速を実現する加速用駆動トルクTACCを加算した値Td_ACCがモータ駆動分上限値Tm_EV_maxよりも大きいか否かでEVモードからHEVモードに遷移するか否かを判断した。これに対し、実施例2では、最終的な駆動トルク指令値Td_ACC*から加速用駆動トルクTACCを差し引いた値Td*がモータ駆動分上限値Tm_EV_maxよりも大きいときはHEVモードに遷移し、それ以外のときはEVモードを継続する点が異なる。
ステップS814では、以下の条件に基づき走行モードを判定する。
・Td*≧Tm_EV_maxの場合
S815(HEVモード)に進む。
・上記以外の場合
S816(EVモード)に進む。
【0053】
図17は実施例2においてASCD用目標駆動トルクから加速要求に必要な駆動トルクを減算した値に基づいてエンジン始動する場合のタイムチャートである。初期条件は、EVモードにおいて、ASCDによって一定速走行している状態とする。図17に示すように、駆動トルク指令値からアクセラレートに必要なトルクを差し引いた値がモータ駆動分上限値を越えるまではエンジン始動を行わないため、EVモードを継続する。よって、一定速→加速→一定速といった走行パターンにおいて、EVモードとHEVモードとを繰り返すといった現象を防止しつつ、所望の車速追従性を実現できる。
【0054】
以上説明したように、実施例2にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(4)駆動源としてのエンジン2及びモータジェネレータ1と、エンジン2とモータジェネレータ1の間に設けられた第1クラッチ3と、モータジェネレータ1と駆動輪との間に設けられた第2クラッチ4と、車速を検出する車速センサ10a(車速検出手段)と、運転者の操作もしくは車両状態量から車速指令値Vsprを演算するステップS5(車速指令値演算手段)と、車速センサ10aにより検出された車速Vsp及び車速指令値Vsprに基づいて駆動トルク指令値を演算するステップS6(駆動トルク指令値演算手段)と、ASCD用目標駆動トルクTd_ASCD*(駆動トルク指令値)に基づいてモータジェネレータ1のみの駆動トルクで走行するEVモード(モータ走行モード)、もしくはエンジン2とモータジェネレータMGの駆動トルクを併用するHEVモード(エンジン併用走行モード)を選択するステップS8,S9(モード選択手段)と、EV走行モードからHEVモードに遷移するときは、第2クラッチ4をスリップ制御し、第1クラッチ3を締結してモータトルクによりエンジンを始動するステップS19(モード遷移手段)と、ステップS19によりモード遷移するときにモータジェネレータ1が駆動トルクとして出力可能なモータ駆動分上限値Tm_EV_maxを演算するステップS82(上限値演算手段)と、運転者の操作により所定加速を要求するアクセラレータスイッチ20(加速要求手段)と、を備え、ステップS814は、EVモードにおいて、駆動トルク指令値Td*からアクセラレータスイッチ20による所定加速を実現する加速用駆動トルクTACCを減算した値Td_ACCがモータ駆動分上限値Tm_EV_maxを越えたときはEVモードを選択する。
よって、一定速→加速→一定速といった走行パターンにおいて、EVモードとHEVモードとを繰り返すといった現象を防止しつつ、所望の車速追従性を実現できる。
【0055】
以上、実施例1に基づいて説明したが、上記構成に限られず本発明の範囲を逸脱しない範囲で他の構成を取り得る。実施例1では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。また、第2クラッチCL2を自動変速機内のクラッチを流用する構成を示したが、モータジェネレータと自動変速機との間に発進クラッチを別途設けてもよいし、自動変速機と駆動輪との間に別途設けてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 モータジェネレータ
2 エンジン
3 第1クラッチ
4 第2クラッチ
5 変速機
6 回転数センサ
7 クラッチ出力軸回転数センサ
8 高電圧インバータ
9 高電圧バッテリー
10 アクセルセンサ
10a 車速センサ
11 エンジン回転数センサ
12 クラッチ油温センサ
13 統合コントローラ
14 変速機コントローラ
15 クラッチコントローラ
16 エンジンコントローラ
17 モータトルクコントローラ
18 バッテリーコントローラ
19 セットスイッチ
20 アクセラレートスイッチ
21 コーストスイッチ
22 キャンセルスイッチ
23 リジュームスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としてのエンジン及びモータと、
前記エンジンと前記モータの間に設けられた第1クラッチと、
前記モータと駆動輪との間に設けられた第2クラッチと、
車速を検出する車速検出手段と、
運転者の操作もしくは車両状態量から車速指令値を演算する車速指令値演算手段と、
前記車速検出手段により検出された車速及び車速指令値に基づいて駆動トルク指令値を演算する駆動トルク指令値演算手段と、
前記駆動トルク指令値に基づいて前記モータのみの駆動トルクで走行するモータ走行モード、もしくは前記エンジンと前記モータの駆動トルクを併用するエンジン併用走行モードを選択するモード選択手段と、
前記モータ走行モードから前記エンジン併用走行モードに遷移するときは、前記第2クラッチをスリップ制御し、前記第1クラッチを締結して前記モータトルクにより前記エンジンを始動するモード遷移手段と、
前記モード遷移手段によりモード遷移するときに前記モータが駆動トルクとして出力可能なモータ駆動分上限値を演算する上限値演算手段と、
運転者の操作により所定加速を要求する加速要求手段と、
を備え、
前記モード選択手段は、前記モータ走行モードにおいて、前記駆動トルク指令値に前記加速要求手段による所定加速を実現する加速用駆動トルクを加算した値が前記モータ駆動分上限値を越えたときは前記エンジン併用走行モードを選択することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
駆動源としてのエンジン及びモータと、
前記エンジンと前記モータの間に設けられた第1クラッチと、
前記モータと駆動輪との間に設けられた第2クラッチと、
車速を検出する車速検出手段と、
運転者の操作もしくは車両状態量から車速指令値を演算する車速指令値演算手段と、
前記車速検出手段により検出された車速及び車速指令値に基づいて駆動トルク指令値を演算する駆動トルク指令値演算手段と、
前記駆動トルク指令値に基づいて前記モータのみの駆動トルクで走行するモータ走行モード、もしくは前記エンジンと前記モータの駆動トルクを併用するエンジン併用走行モードを選択するモード選択手段と、
前記モータ走行モードから前記エンジン併用走行モードに遷移するときは、前記第2クラッチをスリップ制御し、前記第1クラッチを締結して前記モータトルクにより前記エンジンを始動するモード遷移手段と、
前記モード遷移手段によりモード遷移するときに前記モータが駆動トルクとして出力可能なモータ駆動分上限値を演算する上限値演算手段と、
運転者の操作により所定加速を要求する加速要求手段と、
を備え、
前記モード選択手段は、前記モータ走行モードにおいて、前記駆動トルク指令値から前記加速要求手段による所定加速を実現する加速用駆動トルクを減算した値が前記モータ駆動分上限値を越えたときは前記エンジン併用走行モードを選択することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記駆動トルク指令値から前記加速要求手段による所定加速を実現する加速用トルクを減算した値が、モータ駆動分上限値よりも大きいときは、モータ上限トルクから駆動トルク指令値を減算した余剰トルクによりエンジンを始動することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか一つに記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記車速指令値演算手段により車速指令値が演算されていない走行状態から、運転者によって前回設定した車速指令値である復帰車速に復帰させる操作が行われた場合、復帰車速の平坦路走行抵抗値がモータ駆動分上限値を越えたときは前記エンジン併用走行モードを選択することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−86701(P2012−86701A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235850(P2010−235850)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】