説明

ハイブリッド車両用駆動装置の制御装置

【課題】車重変化、走行抵抗、登降坂を加味して走行を制御することができドライバビリティのよいハイブリッド車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両用駆動装置の制御装置であって、被駆動部に伝達される駆動力と車速から導出される平坦路における走行抵抗とに基づいて算出した理論加速度と、単位時間の車速の変化から算出した実加速度との乖離量から登降坂レベルを算出する登降坂レベル算出部と、被駆動部に伝達される駆動力と、車速から導出される平坦路における走行抵抗と、登降坂レベルとに基づいて算出した期待加速度を積分して目標車速を算出する目標車速算出部と、目標車速と実際の車速との差異を電動機で補正するように電動機を制御するフィードバックコントローラと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から伝達効率の高い手動変速機の変速動作を自動化した変速装置をベースとして変速時のトルク中断によるショックを防止するため、2つの入力軸は歯車群を有し夫々クラッチを介してエンジンに連結可能とし、一方の入力軸をモータジェネレータで駆動可能としたツインクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両用駆動装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1のハイブリッド車両用駆動装置200は、図11に示すように、2つの入力軸201、202は夫々クラッチC1、C2を介してエンジンEngに連結されており、さらに入力軸202にモータジェネレータMGが連結されている。そして、入力軸202はドグクラッチ205を締結することで低速側ギヤ列206を介してカウンタ軸207に連結され、入力軸201はドグクラッチ208を締結することで高速側ギヤ列209を介してカウンタ軸207に連結されている。
【0004】
モータジェネレータMGはカウンタ軸207による駆動力により被駆動されて回生による発電が可能であるとともに、クラッチC2が締結された際には、エンジンEngにより被駆動されることによっても発電が可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−147312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このハイブリッド車両用駆動装置200においては、車重変化、走行抵抗、登降坂を加味して走行を制御することが何ら開示されておらず、ドライバビリティに改善の余地があった。また、例えば変速時にクラッチC1、C2をつなぎかえる場合、又はEV走行中にトラクションモータであるモータジェネレータMGでエンジンEngを始動しようとする場合、これら車重、走行抵抗、登降坂が変化すると、その影響でクラッチC1、C2で押し出しトルクや引き込みトルクが発生し、ドライバビリティが悪化するおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、車重変化、走行抵抗、登降坂を加味して走行を制御することができドライバビリティのよいハイブリッド車両用駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
内燃機関(例えば、後述の実施形態のエンジン6)と、変速機(例えば、後述の実施形態の変速機20、20A)と、前記内燃機関と前記変速機の動力伝達を断接可能な断接手段(例えば、後述の実施形態の第1クラッチ41、第2クラッチ42)と、前記変速機に連結される電動機(例えば、後述の実施形態のモータ7)と、を備え、前記内燃機関と前記電動機の少なくとも1つの動力を被駆動部(例えば、後述の実施形態の駆動輪DW,DW)に伝達して走行可能なハイブリッド車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1、1A)の制御装置(例えば、後述の実施形態の制御装置2)であって、
前記被駆動部に伝達される駆動力(例えば、後述の実施形態のTotal駆動力)と車速(例えば、後述の実施形態のVcar)から導出される平坦路における走行抵抗(例えば、後述の実施形態の標準Drag)とに基づいて算出した理論加速度と、単位時間の車速の変化から算出した実加速度との乖離量から登降坂レベルを算出する登降坂レベル算出部(例えば、後述の実施形態の登降坂レベル算出部2a)と、
前記被駆動部に伝達される駆動力(例えば、後述の実施形態のTotal駆動力)と、車速から導出される平坦路における走行抵抗(例えば、後述の実施形態のVcar)と、前記登降坂レベルとに基づいて算出した期待加速度を積分して目標車速を算出する目標車速算出部(例えば、後述の実施形態の目標車速算出部2b)と、
目標車速と実際の車速との差異を前記電動機で補正するように前記電動機を制御するフィードバックコントローラ(例えば、後述の実施形態のフィードバックコントローラ2d)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、
前記変速機は、内燃機関出力軸(例えば、後述の実施形態のクランク軸6a)に平行に配置され、第1断接手段(例えば、後述の実施形態の第1クラッチ41)によって選択的に前記内燃機関出力軸と結合される第1入力軸(例えば、後述の実施形態の第1主軸11)と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第2断接手段(例えば、後述の実施形態の第2クラッチ42)によって選択的に前記内燃機関出力軸に結合される第2入力軸(例えば、後述の実施形態の第2中間軸16)と、
前記内燃機関出力軸と平行に配置され、前記被駆動部に動力を出力する出入力軸(例えば、後述の実施形態のカウンタ軸14)と、
前記第1入力軸上に配置され、第1同期装置(例えば、後述の実施形態の第1変速用シフター51、51A、第3変速用シフター51B)を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第3速用駆動ギヤ23a、第5速用駆動ギヤ25a、第7速用駆動ギヤ97a、)よりなる第1ギヤ群と、
前記第2入力軸上に配置され、第2同期装置(例えば、後述の実施形態の第2変速用シフター52、52A、第4変速用シフター52B)を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第2速用駆動ギヤ22a、第4速用駆動ギヤ24a、第6速用駆動ギヤ96a)よりなる第2ギヤ群と、
前記出入力軸上に配置され、前記第1ギヤ郡のギヤと前記第2ギヤ群のギヤと噛合する複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第1共用従動ギヤ23b、第2共用従動ギヤ24b、第3共用従動ギヤ96b)よりなる第3ギヤ群と、を備え、
前記第1入力軸と前記第2入力軸のいずれか一方に前記電動機が連結されて構成されるツインクラッチ式変速機であって、
前記電動機が連結された前記第1入力軸と前記第2入力軸のいずれか一方は、前記内燃機関と前記電動機の動力を前記被駆動部に伝達可能であり、
前記電動機が連結されていない前記第1入力軸と前記第2入力軸の他方は、前記内燃機関の動力を前記被駆動部に伝達可能であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明の構成に加えて、
前記フィードバックコントローラは、前記電動機の回転数をトルク換算して出力し、
前記制御装置は、EV走行中に前記第1断接手段又は前記第2断接手段を接続して前記内燃機関をモータリングして始動する際、前記フィードバックコントローラから出力されたトルクにクラッチトルクを足し合わせたモータトルクを出力するように前記電動機を制御することを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明の構成に加えて、
EV走行中に前記第1断接手段又は前記第2断接手段を接続して前記内燃機関を始動した後、再度EV走行に移行するとき、前記登降坂レベルが高いと判定された場合、前記第1断接手段又は前記第2断接手段を切断した後も前記内燃機関を停止させずにアイドリングさせることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の発明の構成に加えて、
前記電動機が連結された前記第1入力軸と前記第2入力軸のいずれか一方に配置されたギヤで前記内燃機関と前記電動機で走行中に、前記登降坂レベルが所定値以上の場合には、前記電動機が連結されていない前記第1入力軸と前記第2入力軸の他方に配置されたギヤに変更し、前記内燃機関をBSFCのボトム近傍で駆動するとともに前記電動機でアシスト又は回生させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の発明の構成に加えて、
前記電動機が連結されていない前記第1入力軸と前記第2入力軸の他方に配置されたギヤで前記内燃機関で走行中に、前記登降坂レベルが所定値以上の場合には、前記電動機が連結された前記第1入力軸と前記第2入力軸のいずれか一方に配置されたギヤに変更し、前記内燃機関のボトム近傍で駆動するとともに前記電動機でアシスト又は回生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置によれば、被駆動部に伝達される駆動力と平坦路における走行抵抗とに基づいて算出した理論加速度と、単位時間の車速の変化から算出した実加速度との乖離量から登降坂レベルを算出して、目標車速と実際の車速との差異を電動機で補正するので、車重変化、走行抵抗、登降坂を加味して走行を制御することができドライバビリティを向上させることができる。
【0015】
請求項2のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置によれば、変速機をツインクラッチ式変速機とすることで、変速時の変速ショックを低減することができる。
【0016】
請求項3のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置によれば、エンジンを切り離してEV走行しているときにクラッチを除々につないでそのクラッチトルクをモータトルクに上乗せしてエンジンを始動する場合においても、車重変化、走行抵抗、登降坂を加味してクラッチの接続と走行に必要なモータトルクを算出するので、押し出しトルクや引き込みトルクの発生を抑制することができる。
【0017】
請求項4のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置によれば、登り坂や空気抵抗が大きいときであっても内燃機関をアイドリングさせておくことで急な加速要求にも対応することができる。
【0018】
請求項5及び6のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置によれば、登降坂レベルが所定値以上の場合には、内燃機関をBSFC(正味燃料消費率)のボトム近傍で駆動しつつ電動機で補正することで燃費のよい制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態のハイブリッド車両用駆動装置を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る制御装置のブロック図である。
【図3】登降坂レベル算出ブロック図である。
【図4】目標車速算出ブロック図である。
【図5】フィードバックコントローラの作用を模式的に示した模式図である。
【図6】3rd EVモードにおける図であり、(a)は速度線図であり、(b)はハイブリッド車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図7】2nd Pre3モードのアシスト走行時における図であり、(a)は速度線図であり、(b)はハイブリッド車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図8】3rd Post2モードのアシスト走行時における図であり、(a)は速度線図であり、(b)はハイブリッド車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図9】1st Pre2モードのアシスト走行時における図であり、(a)は速度線図であり、(b)はハイブリッド車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態のハイブリッド車両用駆動装置を示す概略図である。
【図11】特許文献1に記載のハイブリッド車両用駆動装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の制御装置を搭載可能なハイブリッド車両用駆動装置の各実施形態ついて図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
第1実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1(以下、車両用駆動装置と呼ぶ。)は、図1に示すように、車両(図示せず)の駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DW(被駆動部)を駆動するためのものであり、駆動源である内燃機関(以下「エンジン」という)6と、電動機(以下「モータ」という)7と、動力を駆動輪DW,DWに伝達するための変速機20と、変速機20の一部を構成する差動式減速機としての遊星歯車機構30と、を備えている。
【0021】
エンジン6は、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、このエンジン6のクランク軸6aには、変速機20の第1クラッチ41(第1断接手段)と第2クラッチ(第2断接手段)が設けられている。
【0022】
モータ7は、3相ブラシレスDCモータであり3n個の電機子71aで構成されたステータ71と、このステータ71に対向するように配置されたロータ72とを有している。各電機子71aは、鉄芯71bと、この鉄芯71bに巻き回されたコイル71cで構成されており、不図示のケーシングに固定され、回転軸を中心に周方向にほぼ等間隔で並んでいる。3n個のコイル71cは、n組のU相、V相,W相の3相コイルを構成している。
【0023】
ロータ72は、回転軸を中心にほぼ等間隔で並んだn個の永久磁石72aを有しており、隣り合う各2つの永久磁石72aの極性は、互いに異なっている。各永久磁石72aを固定する固定部72bは、軟磁性体(例えば電磁鋼板)で構成された中空円筒状を有し、後述する遊星歯車機構30のリングギヤ35の外周側に配置され、遊星歯車機構30のサンギヤ32に連結されている。これにより、ロータ72は、遊星歯車機構30のサンギヤ32と一体に回転するように構成されている。
【0024】
遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、このサンギヤ32と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ32の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、サンギヤ32とリングギヤ35に噛合されたプラネタリギヤ34と、このプラネタリギヤ34を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリア36とを有している。このようにして、サンギヤ32とリングギヤ35とキャリア36が、相互に差動回転自在に構成されている。
【0025】
リングギヤ35には、同期機構(シンクロナイザー機構)を有しリングギヤ35の回転を停止(ロック)可能に構成されたシンクロ機構61(ロック機構)が設けられている。なお、シンクロ機構61に代えて、ブレーキ(係合)機構でもよい。
【0026】
変速機20は、前述した第1クラッチ41と第2クラッチ42と、遊星歯車機構30と、後述する複数の変速ギヤ群を備えた、いわゆるツインクラッチ式変速機である。
【0027】
より具体的に、変速機20は、エンジン6のクランク軸6aと同軸(回転軸線A1)上に配置された第1主軸11(第1の入力軸)と、第2主軸12と、連結軸13と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線B1を中心として回転自在なカウンタ軸14(出入力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線C1を中心として回転自在な第1中間軸15と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線D1を中心として回転自在な第2中間軸16(第2の入力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線E1を中心として回転自在なリバース軸17を備えている。
【0028】
第1主軸11には、エンジン6側に第1クラッチ41が設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のサンギヤ32とモータ7のロータ72が取り付けられている。従って、第1主軸11は、第1クラッチ41によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結されるとともにモータ7と直結され、エンジン6及び/又はモータ7の動力がサンギヤ32に伝達されるように構成されている。
【0029】
第2主軸12は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、第2主軸12には、エンジン6側に第2クラッチ42が設けられ、エンジン6側とは反対側にアイドル駆動ギヤ27aが一体に取り付けられている。従って、第2主軸12は、第2クラッチ42によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結され、エンジン6の動力がアイドル駆動ギヤ27aへ伝達されるように構成されている。
【0030】
連結軸13は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側とは反対側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、連結軸13には、エンジン6側に第3速用駆動ギヤ23aが一体に取り付けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のキャリア36が一体に取り付けられている。従って、プラネタリギヤ34の公転により連結軸13に取り付けられたキャリア36と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するように構成されている。
【0031】
さらに、第1主軸11には、連結軸13に取り付けられた第3速用駆動ギヤ23aと第2主軸12に取り付けられたアイドル駆動ギヤ27aとの間に、第1主軸11と相対回転自在に第5速用駆動ギヤ25aが設けられるとともに第1主軸11と一体に回転するリバース従動ギヤ28bが取り付けられている。さらに第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aとの間には、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第1変速用シフター51が設けられている。そして、第1変速用シフター51が第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、第5速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが一体に回転し、第1変速用シフター51がニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。なお、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するとき、第1主軸11に取り付けられたサンギヤ32と第3速用駆動ギヤ23aに連結軸13で連結されたキャリア36が一体に回転するとともに、リングギヤ35も一体に回転し、遊星歯車機構30が一体となる。
【0032】
第1中間軸15には、第2主軸12に取り付けられたアイドル駆動ギヤ27aと噛合する第1アイドル従動ギヤ27bが一体に取り付けられている。
【0033】
第2中間軸16には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第2アイドル従動ギヤ27cが一体に取り付けられている。第2アイドル従動ギヤ27cは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第1アイドルギヤ列27Aを構成している。また、第2中間軸16には、第1主軸11周りに設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aと対応する位置にそれぞれ第2中間軸16と相対回転可能な第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとが設けられている。さらに第2中間軸16には、第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとの間に、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第2変速用シフター52が設けられている。そして、第2変速用シフター52が第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aとが一体に回転し、第2変速用シフター52が第4速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとが一体に回転し、第2変速用シフター52がニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0034】
カウンタ軸14には、エンジン6側とは反対側から順に第1共用従動ギヤ23bと、第2共用従動ギヤ24bと、パーキングギヤ21と、ファイナルギヤ26aとが一体に取り付けられている。
ここで、第1共用従動ギヤ23bは、連結軸13に取り付けられた第3速用駆動ギヤ23aと噛合して第3速用駆動ギヤ23aと共に第3速用ギヤ対23を構成し、第2中間軸16に設けられた第2速用駆動ギヤ22aと噛合して第2速用駆動ギヤ22aと共に第2速用ギヤ対22を構成する。
第2共用従動ギヤ24bは、第1主軸11に設けられた第5速用駆動ギヤ25aと噛合して第5速用駆動ギヤ25aと共に第5速用ギヤ対25を構成し、第2中間軸16に設けられた第4速用駆動ギヤ24aと噛合して第4速用駆動ギヤ24aと共に第4速用ギヤ対24を構成する。
ファイナルギヤ26aは差動ギヤ機構8と噛合して、差動ギヤ機構8は、駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに連結されている。従って、カウンタ軸14に伝達された動力はファイナルギヤ26aから差動ギヤ機構8、駆動軸9,9、駆動輪DW,DWへと出力される。
【0035】
リバース軸17には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第3アイドル従動ギヤ27dが一体に取り付けられている。第3アイドル従動ギヤ27dは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第2アイドルギヤ列27Bを構成している。また、リバース軸17には、第1主軸11に取り付けられた後進用従動ギヤ28bと噛合する後進用駆動ギヤ28aがリバース軸17と相対回転自在に設けられている。後進用駆動ギヤ28aは、後進用従動ギヤ28bとともに後進用ギヤ列28を構成している。さらに後進用駆動ギヤ28aのエンジン6側とは反対側にリバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとを連結又は開放する後進用シフター53が設けられている。そして、後進用シフター53が後進用接続位置でインギヤするときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが一体に回転し、後進用シフター53がニュートラル位置にあるときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが相対回転する。
【0036】
なお、第1変速用シフター51、第2変速用シフター52、後進用シフター53は、接続する軸とギヤの回転数を一致させる同期機構(シンクロナイザー機構)を有するクラッチ機構を用いている。
【0037】
このように構成された変速機20は、2つの変速軸の一方の変速軸である第1主軸11上に第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aからなる奇数段ギヤ群(第1ギヤ群)が設けられ、2つの変速軸の他方の変速軸である第2中間軸16上に第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aからなる偶数段ギヤ群(第2ギヤ群)が設けられる。
【0038】
以上の構成により、本実施形態の車両用駆動装置1は、以下の第1〜第5の伝達経路を有している。
(1)第1伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。ここで、遊星歯車機構30の減速比は、第1伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されるエンジントルクが第1速相当となるように設定されている。即ち、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ対23の減速比をかけ合わせた減速比が第1速相当となるように設定されている。
【0039】
(2)第2伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第1アイドルギヤ列27A(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第2アイドル従動ギヤ27c)、第2中間軸16、第2速用ギヤ対22(第2速用駆動ギヤ22a、第1共用従動ギヤ23b)又は第4速用ギヤ対24(第4速用駆動ギヤ24a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0040】
(3)第3伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、遊星歯車機構30を介さずに、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0041】
(4)第4伝達経路は、モータ7が、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0042】
(5)第5伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第2アイドルギヤ列27B(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第3アイドル従動ギヤ27d)、リバース軸17、後進用ギヤ列28(後進用駆動ギヤ28a、後進用従動ギヤ28b)、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0043】
また、本実施形態の車両用駆動装置1において、モータ7は、車両全体の各種制御をする制御装置2を介してバッテリ3に接続され、バッテリ3からの電力供給と、バッテリ3へのエネルギー回生が制御装置2を介して行われるようになっている。即ち、モータ7は、バッテリ3から制御装置2を介して供給された電力によって駆動され、また、減速走行時における駆動輪DW,DWの回転やエンジン6の動力により回生発電を行って、バッテリ3の充電(エネルギー回収)を行うことが可能である。さらに、制御装置2は、加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ回転数、モータ温度、第1,第2主軸11、12の回転数、カウンタ軸14等の回転数、車速、シフトポジション、SOCなどが入力される一方、エンジン6を制御する信号、モータ7を制御する信号、バッテリ3における発電状態・充電状態・放電状態などを示す信号、第1,第2変速シフター51、52、後進用シフター53を制御する信号、シンクロ機構61のロックを制御する信号などが出力される。
【0044】
このように構成された車両用駆動装置1は、第1及び第2クラッチ41、42の断接を制御するとともに第1変速用シフター51、第2変速用シフター52および後進用シフター53の接続位置を制御することにより、エンジン6で第1〜第5速走行および後進走行を行うことができる。
【0045】
第1速走行は、第1クラッチ41を接続しシンクロ機構61をロックすることで第1伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。第2速走行は、第2クラッチ42を接続して第2変速用シフター52を第2速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達され、第3速走行は、第1クラッチ41を接続して第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤすることで第3伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。
【0046】
また、第4速走行は、第2変速用シフター52を第4速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達され、第5速走行は、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、第2クラッチ42を接続して後進用シフター53を接続することで、第5伝達経路を介して後進走行がなされる。
【0047】
また、エンジン走行中にシンクロ機構61をロックしたり、第1及び第2変速用シフター51、52をプレシフトすることでモータ7でアシストしたり回生したり、さらにアイドリング中であってもエンジン6をモータ7で始動したりバッテリ3を充電することもできる。さらに、第1及び第2クラッチ41、42の切断してモータ7でEV走行を行うこともできる。EV走行の走行モードとしては、第1及び第2クラッチ41、42を切断して、シンクロ機構61をロックすることで第4伝達経路を介して走行する第1速EVモードと、第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第3速EVモードと、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第5速EVモードとが存在する。
【0048】
ここで、本実施形態の車両用駆動装置1の制御装置2について図2を参照してより具体的に説明する。
制御装置2は、モータ7を制御する制御部として、登降坂レベル算出部2aと、目標車速算出部2bと、モータ回転数換算部2cと、フィードバックコントローラ2dと、を主として備えている。
【0049】
登降坂レベル算出部2aは、駆動輪DW,DWに伝達される駆動力と車速から導出される平坦路での理論加速度と実加速度の乖離量から登降坂レベルを算出するものである。
図3に示すように、理論加速度を算出するためには、先ずモータトルク(Mot Trq)に駆動段レシオと効率を乗算するとともにエンジントルク(Eng Trq)に駆動段レシオと効率を乗算したものを足し合わせて算出した足軸トルク(Total足トルク)をタイヤ径で除算することで総駆動力(Total駆動力)を算出する。次に、車速(Vcar)から平坦路における車両に負荷される標準走行抵抗(標準Drag)を導出し、駆動輪DW,DWに伝達される駆動力(Total駆動力)から標準走行抵抗(標準Drag)を減じて走行に必要な余裕駆動力を算出し、余裕駆動力を車重で除算することにより理論加速度を算出する。そして、理論加速度から実加速度を差し引いたものを登降坂レベルとする。
【0050】
この登降坂レベルは、目標車速の計算に用いられるとともにいわゆるプロスマティック制御にも使用される。このプロスマティック制御は、平坦路用のシフト制御用マップに対して、走行状態に応じた補正を行ない、変速スケジュールを変更する制御である。例えば、登坂時や降坂時には、登坂勾配や降坂勾配に応じてシフトアップやシフトダウンの変速点を適宜に変更することで、スムーズな走行を行うことができる。
【0051】
目標車速算出部2bは、駆動輪DW,DWに伝達される駆動力(Total駆動力)と、車速から導出される平坦路における走行抵抗と、登降坂レベルに基づいて算出した期待加速度を積分して目標車速を算出する。
より具体的には、図4に示すように、モータトルク(Mot Trq)とエンジントルク(Eng Trq)からクラッチトルク(Clu Trq)を差し引いて駆動段レシオと効率を乗算するとともにタイヤ径で除算することで総駆動力(Total駆動力)を算出する。また、車速(Vcar)から求めた標準走行抵抗と、登降坂レベルに車重を掛け合わせたものを足し合わせることで登降坂レベルを考慮した実走行抵抗が算出される。そして、総駆動力(Total駆動力)から実走行抵抗を差し引いて求めた余裕駆動力から車重を除算することで期待加速度を算出し、期待加速度を積分し現在の車速(Latched Vcar)を足し合わせることで目標車速が算出される。
【0052】
なお、図3及び図4において、EV走行中であれば、エンジントルク(Eng Trq)はゼロとなり、エンジンのみで走行中であればモータトルクはゼロとなる。また、モータアシスト走行中であれば、エンジントルク(Eng Trq)とモータトルク(Mot Trq)は正の値を示し、モータ7が回生していればモータトルク(Mot Trq)は負の値を示す。また、第1及び第2クラッチ41、42が完全に切断されていればクラッチトルクはゼロとなる。
【0053】
図2に戻って、モータ回転数換算部2cは、目標車速をモータ7のモータ回転数に換算する。そして、回転数換算部2cで回転数換算された目標車速相当モータ回転数(目標Mot回転)をフィードバックコントローラ2dに出力する。
【0054】
フィードバックコントローラ2dは、目標車速と実車速との差異をモータ7で補正するため、目標車速相当モータ回転数(目標Mot回転数)と実際のモータ回転数(実Mot回転数)の差がゼロとなる、即ち、モータ回転数(実Mot回転数)が目標車速相当モータ回転数(目標Mot回転数)と一致するようにモータ回転数を補正して、モータ回転数をトルク換算して出力する。図5は、このフィードバックコントローラ2dの作用を模式的に示したものである。即ち、フィードバックコントローラ2dは、モータトルクに上乗せしたクラッチトルク(Cluトルク)分のモータトルク(Motトルク)がクラッチトルク(Cluトルク)より大きい場合、モータトルク(Motトルク)を下げるように制御し、モータトルクに上乗せしたクラッチトルク(Cluトルク)分のモータトルク(Motトルク)がクラッチトルク(Cluトルク)より小さい場合、モータトルク(Motトルク)を上げるように制御する。
【0055】
そして、制御装置2は、図2に示すように、フィードバックコントローラ2dからの出力されたモータ回転数に現在のクラッチトルクを足し合わせたトルクをモータトルク(Mot Trq)として出力してモータ7を制御する。
【0056】
このように本実施形態の車両用駆動装置1の制御装置2によれば、被駆動部である駆動輪DW,DWに伝達される駆動力(Total駆動力)と車速(Vcar)から導出される平坦路における走行抵抗(標準Drag)とに基づいて算出した理論加速度と、単位時間の車速の変化から算出した実加速度との乖離量から登降坂レベルを算出する登降坂レベル算出部2aと、駆動輪DW,DWに伝達される駆動力(Total駆動力)と、車速(Vcar)から導出される平坦路における走行抵抗(標準Drag)と、登降坂レベルに基づいて算出した期待加速度を積分して目標車速を算出する目標車速算出部2bと、目標車速と実際の車速との差異をモータ7で補正するようにモータ7を制御するフィードバックコントローラ2dと、を備えるので、車重変化、走行抵抗、登降坂を加味して走行を制御することができドライバビリティを向上させることができる。
【0057】
この制御を例えば、EV走行中にエンジン6を始動するときに適用した例について説明する。図6は、第1及び第2クラッチ41、42が切断された状態で第1変速用シフター51が第3速用接続位置でインギヤした第3速EVモードで車両が走行している状態を示している。なお、図6(a)の速度線図は、モータ7の停止位置を0、上方を正転方向、下方を逆転方向とし、サンギヤ32を「S」、キャリア36を「C」、リングギヤ35を「R」でそれぞれ表している。このことは、後述する速度線図においても同様である。また、図6(b)はトルクの伝達状況を示す図であり、ハッチング付の太い矢印はトルクの流れを表し、矢印中のハッチングはそれぞれの速度線図のトルクを示す矢印のハッチングと対応している。また、モータ7の正転方向とは駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに前進方向のトルクを伝達する方向をいい、逆転方向とは駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに後進方向のトルクを伝達する方向をいう。
【0058】
この状態から、第1クラッチ41を接続することでエンジン6をクランキングすることができる。EV走行中にエンジン6をクランキングするためには、第1クラッチ41を除々につないでそのクラッチトルク分をモータトルクに上乗せしてエンジン6を始動する必要があるが、ドライバビリティに影響を与えずに第1クラッチ41の接続を行なうためには、第1クラッチ41で押し出しトルクや引き込みトルクが発生するのを抑制する必要がある。
【0059】
この際、本実施形態によれば、車重変化、走行抵抗、登降坂を加味して第1クラッチ41の接続と走行に必要なモータトルクを算出するので、押し出しトルクや引き込みトルクの発生を抑制することができる。また、EV走行中に第1クラッチ41を接続する代わりに、第2変速用シフター52を第2速用接続位置又は第4速用接続位置でインギヤして第2クラッチ42を接続してエンジン6をクランキングすることもでき、この際も同様の作用効果を有する。また、第3速EVモード以外にも、第1速EVモード及び第5速EVモードでエンジン6を始動してもよい。
【0060】
なお、EV走行中に第1クラッチ41又は第2クラッチ42を接続してエンジン6を始動した後、再度EV走行に移行するとき、登降坂レベルが高いと判定された場合、第1クラッチ41又は第2クラッチ42を切断した後もエンジン6を停止させずにアイドリングさせることが好ましい。これにより、登り坂や空気抵抗が大きいときであってもエンジン6をアイドリングさせておくことで急な加速要求にも対応することができる。
【0061】
なお、この制御は、EV走行中にエンジン始動する場合に限らず通常の走行時においても同様の作用効果を有する。例えば、第2速走行から第3速走行にシフトアップする例で具体的に説明すると、図7は、第2変速用シフター52が第2速用接続位置でインギヤした状態で第2クラッチ42を接続してエンジン6で第2速走行中に、さらに第1変速用シフター51をプレシフトすることにより第3速用接続位置でインギヤさせて、モータ7でアシストして車両が走行している状態(2nd Pre3モード)を示している。
【0062】
この2nd Pre3モードで第2速走行中に、第2速走行から第3速走行にシフトアップするとき、第1及び第2クラッチ41、42をつなぎかえる、即ち第2クラッチ42を切断し、第1クラッチ41を締結することにより、図8(b)に示すように、エンジントルクは第3速用ギヤ対23を通る第3伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達され、これにより第3速走行(3rd Post2モード)がなされる。図8は、モータ7を駆動して正転方向にモータトルクを印加してモータ7でアシストして走行している状態を示している。
【0063】
この第1及び第2クラッチ41、42をつなぎかえる際に生じるクラッチトルクの変動をモータ7で補正することで車重変化、走行抵抗、登降坂を加味して走行を制御することができドライバビリティを向上させることができる。また、モータアシスト走行中は、エンジン6をBSFC(正味燃料消費率)のボトムで運転しモータ7を駆動又は回生することで走行することが燃費の点で好ましいが、登降坂レベルが所定値以上であってエンジン6をBSFC(正味燃料消費率)のボトムトレースが難しくなった場合には、積極的にギヤをシフトさせてもよい。
【0064】
例えば、図8に示した3rd Post2モードによる第3速走行中に、エンジン6をBSFCのボトム近傍で駆動することが難しくなった場合に、第3速走行から第2速走行にシフトダウンすることで、例えば図7に示した2nd Pre3モードによる第2速走行に移行することで、エンジン6をBSFCのボトム近傍で駆動しつつモータ7で補正することができる。また、逆に図7に示した2nd Pre3モードによる第2速走行中に、エンジン6をBSFCのボトム近傍で駆動することが難しくなった場合に、第2速走行から第1速走行にシフトダウンする、例えば図7に示した2nd Pre3モードから第1変速用シフター51をニュートラル位置に戻しシンクロ機構61をロックして第1及び第2クラッチ41、42をつなぎかえて図9に示す1st Pre2モードによる第1速走行に移行することで、エンジン6をBSFCのボトム近傍で駆動しつつモータ7で補正することができる。
【0065】
また、本実施形態の制御装置によれば、第1及び第2クラッチ41、42の断接時以外であっても、目標車速と実際の車速との差異を車重、走行抵抗、登降坂が変化を加味してモータ7で補正するので、車重、走行抵抗、登降坂の変動によるドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0066】
<第2実施形態>
次に第2実施形態の車両用駆動装置について図10を参照して説明する。
本実施形態の車両用駆動装置1Aは、変速機が差動式減速機30を構成する遊星歯車機構31と、第2〜第5速用ギヤ対22〜25に加えて、第6速用ギヤ対96と第7速用ギヤ対97を備えている点で車両用駆動装置1と相違している。このため、第2実施形態の車両用駆動装置1と同一又は同等部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略し、車両用駆動装置1との相違点のみを説明する。
【0067】
第1主軸11には、第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aとの間に第1主軸11と相対回転自在に第7速用駆動ギヤ97aが設けられている。また、第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aとの間には、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第7速用駆動ギヤ97aとを連結又は開放する第1変速用シフター51Aが設けられ、第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aとの間には、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第3変速用シフター51Bが設けられている。そして、第1変速用シフター51Aが第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、第7速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第7速用駆動ギヤ97aが一体に回転し、第1変速用シフター51Aがニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aに対し相対回転する。また、第3変速用シフター51Bが第5速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが連結して一体に回転し、第3変速用シフター51Bがニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。
【0068】
第2中間軸16には、第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとの間に第2中間軸16と相対回転自在に第6速用駆動ギヤ96aが設けられている。また、第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aとの間には、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第6速用駆動ギヤ96aとを連結又は開放する第2変速用シフター52Aが設けられ、第6速用駆動ギヤ96aと第4速用駆動ギヤ24aとの間には、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第4変速用シフター52Bが設けられている。そして、第2変速用シフター52Aが第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aが連結して一体に回転し、第6速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第6速用駆動ギヤ96aが一体に回転し、第2変速用シフター52Aがニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aに対し相対回転する。また、第4変速用シフター52Bが第4速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aが連結して一体に回転し、第4変速用シフター52Bがニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0069】
カウンタ軸14には、第1共用従動ギヤ23bと第2共用従動ギヤ24bとの間に、第3共用従動ギヤ96bがカウンタ軸14に一体回転可能に取り付けられている。
ここで、第3共用従動ギヤ96bは、第1主軸11に設けられた第7速用駆動ギヤ97aと噛合して第7速用駆動ギヤ97aと共に第7速用ギヤ対97を構成し、さらに第2中間軸16に設けられた第6速用駆動ギヤ96aと噛合して第6速用駆動ギヤ96aと共に第6速用ギヤ対26を構成する。
【0070】
そして、第2変速用シフター52Aが第6速用接続位置でインギヤした状態で第2クラッチ42を接続することで第6速走行を行うことができ、また、第1変速用シフター51Aが第7速用接続位置でインギヤした状態で第1クラッチ41を接続することで第7速走行を行うことができ、それぞれモータ7でアシスト又は充電することができる。
【0071】
このように構成された車両用駆動装置1Aにおいても、第1実施形態と同様の制御装置2を搭載可能であり、この場合にも同様の作用・効果を有する。
【0072】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1、1A ハイブリッド車両用駆動装置
2 制御装置
2a 登降坂レベル算出部
2b 目標車速算出部
2c モータ回転数換算部
2d フィードバックコントローラ
6 エンジン(内燃機関)
6a クランク軸(内燃機関出力軸)
7 モータ(電動機)
9 駆動軸
11 第1主軸(第1入力軸)
12 第2主軸
13 連結軸
14 カウンタ軸(出入力軸)
15 第1中間軸
16 第2中間軸(第2入力軸)
20、20A 変速機
22 第2速用ギヤ対
22a 第2速用駆動ギヤ
23 第3速用ギヤ対
23a 第3速用駆動ギヤ
23b 第1共用従動ギヤ
24 第4速用ギヤ対
24a 第4速用駆動ギヤ
24b 第2共用従動ギヤ
25 第5速用ギヤ対
25a 第5速用駆動ギヤ
26a ファイナルギヤ
27A 第1アイドルギヤ列
27B 第2アイドルギヤ列
27a アイドル駆動ギヤ
27b 第1アイドル従動ギヤ
27c 第2アイドル従動ギヤ
27d 第3アイドル従動ギヤ
30 遊星歯車機構
32 サンギヤ(第1要素)
35 リングギヤ(第3要素)
36 キャリア(第2要素)
41 第1クラッチ(第1断接手段)
42 第2クラッチ(第2断接手段)
51,51A 第1変速用シフター
51B 第3変速用シフター
52,52A 第2変速用シフター
52B 第4変速用シフター
53 後進用シフター
61 シンクロ機構(ロック機構)
96 第6速用ギヤ対
96a 第6速用駆動ギヤ
96b 第3共用従動ギヤ
97 第7速用ギヤ対
97a 第7速用駆動ギヤ
DW 駆動輪(被駆動部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、変速機と、前記内燃機関と前記変速機の動力伝達を断接可能な断接手段と、前記変速機に連結される電動機と、を備え、前記内燃機関と前記電動機の少なくとも1つの動力を被駆動部に伝達して走行可能なハイブリッド車両用駆動装置の制御装置であって、
前記被駆動部に伝達される駆動力と車速から導出される平坦路における走行抵抗とに基づいて算出した理論加速度と、単位時間の車速の変化から算出した実加速度との乖離量から登降坂レベルを算出する登降坂レベル算出部と、
前記被駆動部に伝達される駆動力と、車速から導出される平坦路における走行抵抗と、前記登降坂レベルとに基づいて算出した期待加速度を積分して目標車速を算出する目標車速算出部と、
目標車速と実際の車速との差異を前記電動機で補正するように前記電動機を制御するフィードバックコントローラと、を備えることを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記変速機は、内燃機関出力軸に平行に配置され、第1断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸と結合される第1入力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第2断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸に結合される第2入力軸と、
前記内燃機関出力軸と平行に配置され、前記被駆動部に動力を出力する出入力軸と、
前記第1入力軸上に配置され、第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、
前記第2入力軸上に配置され、第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、
前記出入力軸上に配置され、前記第1ギヤ郡のギヤと前記第2ギヤ群のギヤと噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備え、
前記第1入力軸と前記第2入力軸のいずれか一方に前記電動機が連結されて構成されるツインクラッチ式変速機であって、
前記電動機が連結された前記第1入力軸と前記第2入力軸のいずれか一方は、前記内燃機関と前記電動機の動力を前記被駆動部に伝達可能であり、
前記電動機が連結されていない前記第1入力軸と前記第2入力軸の他方は、前記内燃機関の動力を前記被駆動部に伝達可能であることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記フィードバックコントローラは、前記電動機の回転数をトルク換算して出力し、
前記制御装置は、EV走行中に前記第1断接手段又は前記第2断接手段を接続して前記内燃機関をモータリングして始動する際、前記フィードバックコントローラから出力されたトルクにクラッチトルクを足し合わせたモータトルクを出力するように前記電動機を制御することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
EV走行中に前記第1断接手段又は前記第2断接手段を接続して前記内燃機関を始動した後、再度EV走行に移行するとき、前記登降坂レベルが高いと判定された場合、前記第1断接手段又は前記第2断接手段を切断した後も前記内燃機関を停止させずにアイドリングさせることを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記電動機が連結された前記第1入力軸と前記第2入力軸のいずれか一方に配置されたギヤで前記内燃機関と前記電動機で走行中に、前記登降坂レベルが所定値以上の場合には、前記電動機が連結されていない前記第1入力軸と前記第2入力軸の他方に配置されたギヤに変更し、前記内燃機関をBSFCのボトム近傍で駆動するとともに前記電動機でアシスト又は回生させることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項6】
前記電動機が連結されていない前記第1入力軸と前記第2入力軸の他方に配置されたギヤで前記内燃機関で走行中に、前記登降坂レベルが所定値以上の場合には、前記電動機が連結された前記第1入力軸と前記第2入力軸のいずれか一方に配置されたギヤに変更し、前記内燃機関のボトム近傍で駆動するとともに前記電動機でアシスト又は回生させることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−183959(P2011−183959A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52234(P2010−52234)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】