ハイブリッド駆動装置
【課題】車両発進の際の内燃機関の引き摺りを低コストに回避しつつ、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させることができ、更に車両発進時におけるドライバビリティを良好に維持することが可能なハイブリッド駆動装置の実現。
【解決手段】回転電機及び入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、伝達発進用係合要素を有し、入力部材の回転を変速して出力部材にする変速装置と、入力部材により駆動されるオイルポンプと、制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置。入力クラッチは、複数の摩擦材とこれらを押圧する方向に付勢する弾性部材とを有する。制御装置は、運転者による発進予備操作を検出したとき、回転電機を回転させて、オイルポンプにより弾性部材の付勢力を相殺して入力クラッチを解放させる循環油圧を発生させ、入力クラッチの解放後に発進用係合要素を係合させる。
【解決手段】回転電機及び入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、伝達発進用係合要素を有し、入力部材の回転を変速して出力部材にする変速装置と、入力部材により駆動されるオイルポンプと、制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置。入力クラッチは、複数の摩擦材とこれらを押圧する方向に付勢する弾性部材とを有する。制御装置は、運転者による発進予備操作を検出したとき、回転電機を回転させて、オイルポンプにより弾性部材の付勢力を相殺して入力クラッチを解放させる循環油圧を発生させ、入力クラッチの解放後に発進用係合要素を係合させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも回転電機及び変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも回転電機及び変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置として、例えば下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。このハイブリッド駆動装置は、いわゆる1モータパラレルタイプのハイブリッド駆動装置として構成されており、動力伝達経路上で内燃機関(エンジン)と回転電機(モータ)との間に入力クラッチ(クラッチ機構16)を備えている。ここで、特許文献1の装置が有する入力クラッチは、その一形態においていわゆるノーマルクローズタイプのクラッチとして構成されており(特許文献1の図1等を参照)、他の一形態においていわゆるノーマルオープンタイプのクラッチとして構成されている(特許文献1の図2等を参照)。
【0003】
ここで、前者のノーマルクローズタイプの入力クラッチは、当該入力クラッチに備えられる弾性部材(板バネ17)の押付け力により複数の摩擦材(摩擦要素)同士が押圧されて、クラッチ操作を行っていない常態において係合状態とされる構成となっている。そして、特許文献1のハイブリッド駆動装置は、当該ハイブリッド駆動装置の内部に備えられた機械式のオイルポンプとは別に、独立して動作する電動オイルポンプを備えており、当該電動オイルポンプから吐出される油の油圧により作動する第1ピストン20及び第2ピストン22により弾性部材が複数の摩擦材から離間され、入力クラッチが解放状態とされる。そして、この入力クラッチの解放状態で、電動走行モードで車両を発進させることができる。これにより、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関の引き摺りを回避して、エネルギ効率を向上させることが可能となっている。
【0004】
一方、後者のノーマルオープンタイプの入力クラッチは、クラッチ操作を行っていない常態において解放状態とされる構成となっている。そして、上記と同様の電動オイルポンプから吐出される油の油圧により作動する第1ピストン20及び第2ピストン22により複数の摩擦材が圧接され、入力クラッチが係合状態とされる。このノーマルオープンタイプの入力クラッチを用いた場合には、クラッチ操作を行っていない常態で、電動走行モードで車両を発進させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−137406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の装置のように入力クラッチを解放又は係合させるための電動オイルポンプ等の油圧源を別途備える構成とすると製造コストが大幅に増大してしまう。そこで、低コスト化を図るため、例えば入力部材により駆動される機械式のオイルポンプを備える構成とし、回転電機のトルクにより入力部材を駆動して、当該入力部材により駆動されるオイルポンプから吐出される油の油圧により入力クラッチを解放させ又は係合させる構成を採用することも考えられる。しかしこの場合、ノーマルオープンタイプの入力クラッチでは、当該入力クラッチに油圧が供給されていない状態ではオイルポンプを駆動するための駆動力源は回転電機のみとなってしまうので、例えば回転電機が故障して動作しなくなった場合には、入力クラッチを係合することができず内燃機関のトルクを出力部材側へ伝達できないために、車両を発進させることができなくなってしまう。また、ノーマルクローズタイプの入力クラッチでは、回転電機がトルクを出力して車両を発進させつつ、当該回転電機のトルクによりオイルポンプを駆動して電動走行のために入力クラッチを係合状態から解放状態へと切り替えると、ドライバビリティ(走行快適性、運転のしやすさ)が悪化してしまうおそれがある。すなわち、車両の走行中に入力クラッチの係合状態で回転電機のトルクの一部が出力部材側へ伝達されると共に他の一部が入力クラッチを介して内燃機関に伝達される状態から、入力クラッチが解放されて回転電機のトルクの全部が出力部材側へ伝達される状態となると、その時点において出力部材側へ伝達されるトルクが変動してショックが発生するおそれがある。
【0007】
そこで、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関の引き摺りを低コストに回避することを可能としつつ、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させることが可能であり、更に車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することが可能なハイブリッド駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る、回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、前記入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、前記入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも前記回転電機及び前記変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置の特徴構成は、前記変速装置は、係合状態で発進用変速段を形成する発進用係合要素を含む複数の係合要素を有し、前記入力クラッチは、複数の摩擦材と、油圧により作動して前記複数の摩擦材同士を押圧するピストンと、所定の付勢力で前記ピストンを押圧方向に付勢する弾性部材と、を有すると共に、前記ピストンの反シリンダ側に循環油圧が供給されるように構成され、前記制御装置は、前記内燃機関の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作を検出したとき、前記回転電機を回転させて、前記オイルポンプにより前記弾性部材の付勢力を相殺して前記入力クラッチを解放させる前記循環油圧を発生させ、前記入力クラッチの解放後に前記発進用係合要素を係合させる点にある。
【0009】
なお、本願では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。
また、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0010】
本特徴構成においては、入力クラッチは、複数の摩擦材と油圧により作動して当該複数の摩擦材同士を押圧するピストンと所定の付勢力でピストンを押圧方向に付勢する弾性部材とを有して構成されている。そのため、入力クラッチに油圧が供給されていない状態でも、入力クラッチは弾性部材の付勢力によりトルクを伝達する。
上記の特徴構成によれば、制御装置は、内燃機関の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作が検出されたときは、回転電機を回転させて入力部材を介してオイルポンプを駆動する。オイルポンプが駆動されることにより、当該オイルポンプは循環油圧を発生させ、発生された循環油圧は入力クラッチが有するピストンの反シリンダ側に供給される。入力クラッチのピストンの反シリンダ側に供給された循環油圧は、ピストンに対する押圧方向への弾性部材の付勢力を相殺して入力クラッチを解放させるので、入力部材により駆動されるオイルポンプを利用して、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関の引き摺りを回避することができる。また、電動オイルポンプ等の他の油圧源を別途設ける必要がなくなるので、製造コストを低減することができる。
【0011】
また、上記の特徴構成では、制御装置は、そのような入力クラッチの解放動作を、変速装置が有する発進用係合要素を係合させるよりも前に行う。そのため、変速装置において発進用係合要素を係合させて発進用変速段を形成し、実際に車両が発進し始める時点では、既に入力クラッチは解放状態とされ、回転電機が出力するトルクの全部が出力部材側へ伝達される状態となっている。よって、電動走行モードでの車両の発進後に出力部材側へ伝達されるトルクが変動することがなく、ドライバビリティを良好に維持することができる。
【0012】
更に、上記の特徴構成によれば、入力クラッチに油圧が供給されていない状態でも入力クラッチは弾性部材の付勢力によりトルクを伝達するので、回転電機の回転によってのみならず、内燃機関の回転によっても入力クラッチを介して入力部材を駆動させることができる。そのため、回転電機の故障時にも、入力クラッチを介して内燃機関の回転を入力部材に伝達し、そこからオイルポンプや出力部材等に伝達することができる。よって、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させることができる。
【0013】
従って、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関の引き摺りを低コストに回避することを可能としつつ、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させることが可能であり、更に車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することが可能なハイブリッド駆動装置を提供することができる。
【0014】
ここで、前記制御装置は、前記回転電機の回転速度を、前記循環油圧を発生させるために必要となる第一目標速度、車両の発進時にクリープトルクを出力させるために必要となる第二目標速度、の順に段階的に大きくするように前記回転電機を制御し、前記回転電機の回転速度を前記第二目標速度とした後で前記発進用係合要素を係合させる構成とすると好適である。
【0015】
この構成によれば、回転電機の回転速度を第一目標速度とするように回転電機を制御することで、オイルポンプにより適切に循環油圧を発生させ、ピストンに対する押圧方向への弾性部材の付勢力を相殺して入力クラッチを適切に解放させることができる。また、その後、回転電機の回転速度を第二目標速度とするように回転電機を制御することで、回転電機にクリープトルクを出力させ、発進用変速段が形成されたときに適切に車両を発進させることができる。
また、この構成によれば、回転電機の回転速度は第二目標速度よりも低い第一目標速度に所定時間だけ維持される。よって、例えば運転者による発進予備操作が検出された後、実際に車両が発進する前に発進予備操作が解除された場合にも、必要以上に回転電機の回転速度が上昇するのを抑制することができる。従って、エネルギロスが発生したりドライバビリティが悪化したりするのを抑制することができる。
【0016】
また、前記回転電機の動作異常を判定するフェール判定手段を備え、前記制御装置は、前記回転電機の動作異常の発生が判定された場合には、前記内燃機関を始動し、前記弾性部材の付勢力により前記複数の摩擦材同士が押圧された前記入力クラッチを介して前記内燃機関のトルクを前記オイルポンプに伝達して当該オイルポンプを駆動し、発生する油圧により前記入力クラッチを係合させる構成とすると好適である。
【0017】
この構成によれば、例えば回転電機の故障に代表される回転電機の動作異常の発生が判定された場合には、内燃機関を始動することで、入力クラッチ及び入力部材を介して内燃機関の回転によってオイルポンプを駆動することができる。また、オイルポンプが駆動された後は、当該オイルポンプが吐出する油を入力クラッチに供給し、当該油の油圧によりピストンを作動させて複数の摩擦材同士を押圧して入力クラッチを係合状態とすることができる。よって、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させて車両を走行させることができる。
【0018】
また、前記制御装置は、前記入力クラッチの解放後であってかつ前記発進予備操作の終了前に前記発進用係合要素を係合させる構成とすると好適である。
【0019】
この構成によれば、発進予備操作の終了前に発進用係合要素を係合させて、早期に発進用変速段を形成することができる。よって、発進予備操作の終了後、比較的速やかに発進用変速段にて車両を発進させることができる。
【0020】
また、前記入力クラッチに油圧が供給されていない状態における前記弾性部材の付勢力の大きさが、前記入力クラッチを介して前記内燃機関のトルクを前記オイルポンプに伝達して当該オイルポンプを停止状態から駆動させることができ、かつ、前記入力クラッチを介して前記回転電機のトルクが前記内燃機関に伝達されたとしても停止状態にある前記内燃機関をそのまま停止状態に維持させることができる範囲内の大きさとなるように、予め設定されている構成とすると好適である。
【0021】
この構成によれば、入力クラッチを介して内燃機関のトルクをオイルポンプに伝達して、当該オイルポンプを停止状態から確実に駆動させることができるので、回転電機の故障時においてもオイルポンプにより油圧を発生させ、当該発生される油圧により入力クラッチを係合状態とすることができる、よって、確実に車両を発進させ、車両を走行させることができる。
また、弾性部材の付勢力により摩擦材同士が押圧された状態の入力クラッチを介して回転電機のトルクが内燃機関に伝達されたとしても、停止状態にある内燃機関を確実にそのまま停止状態に維持させることができるので、電動走行モードでの車両の発進時に、回転電機の回転に内燃機関が引き摺られるのを抑制することができる。よって、内燃機関の回転に伴う振動の発生等を抑制して、ドライバビリティが悪化するのを抑制することができる。
【0022】
また、車両に備えられるブレーキ機構が有するブレーキペダルのストローク位置を検出するストローク位置検出手段、及び前記ブレーキペダルの操作圧を検出する操作圧検出手段、のうちの少なくとも一方を備え、前記制御装置は、前記ストローク位置及び前記操作圧の少なくとも一方に基づいて前記発進予備操作を検出する構成とすると好適である。
【0023】
車両が停車している状態では、車両に備えられるブレーキ機構が有するブレーキペダルが大きく踏み込まれていることが一般的であり、車両の発進前には当該ブレーキペダルの踏み込み量は低減されることになる。ブレーキペダルの踏み込み量の低減に伴って、ブレーキペダルのストローク位置やブレーキペダルの操作圧もそれぞれ変化する。
この構成によれば、ストローク位置検出手段により検出されるブレーキペダルのストローク位置及び操作圧検出手段により検出されるブレーキペダルの操作圧の少なくとも一方に基づいて、ブレーキペダルの踏み込み量の低減を検出し、これにより発進予備操作を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る変速機構の構成を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係る各変速段での複数の係合要素の作動状態を示す作動表である。
【図4】本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の部分断面図である。
【図5】本実施形態に係る制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【図6】本実施形態に係る回転電機正常動作時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。
【図7】本実施形態に係る回転電機動作異常時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。
【図8】本実施形態に係る車両発進制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】本実施形態に係る回転電機異常時における車両走行制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施形態に係る弁開閉位相制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】その他の実施形態に係る回転電機正常動作時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るハイブリッド駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。ハイブリッド駆動装置1は、車両の駆動力源として内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方を用いるハイブリッド車両用の駆動装置である。このハイブリッド駆動装置1は、いわゆる1モータパラレルタイプのハイブリッド駆動装置として構成されている。
【0026】
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、図1に示すように、回転電機12に駆動連結されると共に入力クラッチCTを介して内燃機関11に駆動連結される駆動伝達部材Tと、駆動伝達部材Tの回転を変速して出力軸Oに伝達する変速装置13と、駆動伝達部材Tにより駆動される機械式のオイルポンプ22と、を備えている。また、ハイブリッド駆動装置1は、少なくとも回転電機12及び変速装置13の制御を行う制御ユニット30(図5を参照)を備えている。このような構成において、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、入力クラッチCTにおけるトルク伝達形態、及び車両の発進時における入力クラッチCT及び変速装置13の制御内容に特徴を有する。
【0027】
すなわち、図4に示すように、入力クラッチCTは、複数の摩擦材45と、油圧により作動して複数の摩擦材45同士を押圧する第一ピストン43と、所定の付勢力で第一ピストン43を押圧方向に付勢する弾性部材としての皿バネ44とを有すると共に、第一ピストン43の反シリンダ側の第一循環油室48に循環油圧が供給されるように構成されている。また、制御ユニット30は、内燃機関11の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作を検出したとき、回転電機12を回転させて、オイルポンプ22により皿バネ44の付勢力を相殺して入力クラッチCTを解放させる循環油圧を発生させ、入力クラッチCTの解放後に変速装置13(変速機構15)に備えられる第一クラッチC1を係合させる(図6を参照)。これらの特徴的な構成の組み合わせにより、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関11の引き摺りを低コストに回避することを可能としつつ、回転電機12の故障時においても適切に車両を発進させることが可能であり、更に車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することが可能なハイブリッド駆動装置1が実現されている。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1について、詳細に説明する。
【0028】
1.ハイブリッド駆動装置の全体構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の全体構成について説明する。図1に示すように、このハイブリッド駆動装置1は、車両の第一の駆動力源としての内燃機関11に駆動連結される入力軸Iと、車輪17に駆動連結される出力軸Oと、車両の第二の駆動力源としての回転電機12と、変速装置13としてのトルクコンバータ14及び変速機構15と、出力用差動歯車装置16と、を備えている。また、ハイブリッド駆動装置1は、回転電機12及び内燃機関11の駆動力をトルクコンバータ14に伝達する駆動伝達部材Tと、内燃機関11と回転電機12との間の駆動力の断接を行う入力クラッチCTと、を備えている。これらの各構成は、ケース2内に収容されている。本実施形態においては、駆動伝達部材Tが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。
【0029】
内燃機関11は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す装置であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の各種エンジンを用いることができる。ここでは図示はしていないが、内燃機関11には、吸気路を通って供給される燃料と空気との混合気を当該内燃機関11の燃焼室に導入するための吸気弁と、混合気が燃焼した後の燃焼ガス及び未燃ガスを燃焼室から排気路へと排出するための排気弁と、が設けられている。本例では、内燃機関11のクランクシャフト等の内燃機関出力軸EoがダンパDを介して入力軸Iに駆動連結されている。また、入力軸Iは入力クラッチCTを介して駆動伝達部材Tに駆動連結されており、入力軸Iは入力クラッチCTにより選択的に駆動伝達部材Tに駆動連結される。すなわち、入力クラッチCTの係合状態では内燃機関11は駆動伝達部材Tに駆動連結され、入力クラッチCTの解放状態では内燃機関11は駆動伝達部材Tから分離される。
【0030】
内燃機関11に隣接して、スタータ27が設けられている。スタータ27は、直流モータ等で構成され、蓄電装置としてのバッテリ21に電気的に接続されている。なお、蓄電装置としてキャパシタ等を用いても好適である。スタータ27は、例えば回転電機12の非動作中(故障中を含む)に、内燃機関11が停止された状態でバッテリ21から供給される電力により駆動されて内燃機関出力軸Eoを回転させ、内燃機関11を始動させることができるように構成されている。
【0031】
また、本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置1が搭載された車両には、内燃機関11が有する吸気弁及び排気弁の一方又は双方の開閉位相を調節するための弁開閉位相調節機構28(図1においては、「VVT」と表示)が備えられている。弁開閉位相調節機構28は、内燃機関出力軸Eo(クランクシャフト)と吸気弁を開閉駆動するための吸気弁用カムシャフトとの間の位相差を調整することにより、吸気弁の開閉位相を調節する。ここで、「内燃機関出力軸Eoと吸気弁用カムシャフトとの間の位相差」とは、内燃機関出力軸Eoの周方向の特定部位の回転位相に注目した場合において、当該特定部位の回転位相と、吸気弁用カムシャフトにおける当該特定部位に対応する部位の回転位相と、の間の位相差を意味する。本実施形態では、弁開閉位相調節機構28は、同様に、内燃機関出力軸Eo(クランクシャフト)と排気弁を開閉駆動するための排気弁用カムシャフトとの間の位相差を調整することにより、排気弁の開閉位相を調節する。
【0032】
弁開閉位相調節機構28は、内燃機関出力軸Eoと同期回転する駆動側回転部材と、吸気弁用カムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、を備え、駆動側回転部材と従動側回転部材との間の位相差を所定の可動範囲内で調節可能に構成されている。そして、駆動側回転部材に対して従動側回転部材を進角させ、これにより内燃機関出力軸Eoに対して吸気弁用カムシャフトを進角させることで、吸気弁の開弁位相及び閉弁位相を進角させることができる。一方、駆動側回転部材に対して従動側回転部材を遅角させ、これにより内燃機関出力軸Eoに対して吸気弁用カムシャフトを遅角させることで、吸気弁の開弁位相及び閉弁位相を遅角させることができる。また、弁開閉位相調節機構28は、内燃機関出力軸Eoと同期回転する駆動側回転部材と、排気弁用カムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、を備え、駆動側回転部材と従動側回転部材との間の位相差を所定の可動範囲内で調節可能に構成されている。そして、駆動側回転部材に対して従動側回転部材を進角させ、これにより内燃機関出力軸Eoに対して排気弁用カムシャフトを進角させることで、排気弁の開弁位相及び閉弁位相を進角させることができる。一方、駆動側回転部材に対して従動側回転部材を遅角させ、これにより内燃機関出力軸Eoに対して排気弁用カムシャフトを遅角させることで、排気弁の開弁位相及び閉弁位相を遅角させることができる。ここで、「進角させる」とは、進角方向に変位させることを意味し、「遅角させる」とは、遅角方向に変位させることを意味するものとする。
【0033】
本実施形態においては、このような弁開閉位相調節機構28は、電動式の弁開閉位相調節機構とされている。すなわち、本実施形態に係る弁開閉位相調節機構28の駆動側回転部材と従動側回転部材との間の位相差の調節は、オイルポンプ22により発生される油圧によってではなく、電動モータ29が出力する直接的な駆動力によって行われる。そのため、電動モータ29はバッテリ21に電気的に接続されている。電動モータ29はバッテリ21から供給される電力により駆動されて、駆動側回転部材と従動側回転部材との間の位相差を調節する。本実施形態では、このような電動式の弁開閉位相調節機構28を採用したことにより、例えば入力軸Iの回転速度が低く、オイルポンプ22による油圧が十分に得られない場合等にも、吸気弁及び排気弁の開閉位相の調節を行うことが可能となっている。なお、本例では、吸気弁の開閉位相と排気弁の開閉位相とは独立して調節される構成となっている。
【0034】
回転電機12は、ケース2に固定されたステータ12aと、当該ステータ12aの径方向内側に回転自在に支持されたロータ12bとを有している。回転電機12は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果たすことが可能とされている。そのため、回転電機12は、バッテリ21と電気的に接続されている。回転電機12は、バッテリ21から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関11及び車輪17から伝達される駆動力により発電した電力をバッテリ21に供給して蓄電させる。回転電機12のロータ12bは、駆動伝達部材Tを介してトルクコンバータ14のポンプインペラ14aと一体回転するように駆動連結されている。また、回転電機12のロータ12bは、駆動伝達部材T及び入力クラッチCTを介して入力軸I及び内燃機関11に駆動連結されている。なお、駆動伝達部材Tは、入力軸Iの軸方向で回転電機12とトルクコンバータ14との間に配置された円筒状回転部材である。
【0035】
変速装置13の一部を構成するトルクコンバータ14は、駆動伝達部材Tの回転速度を変速して中間軸Mへ伝達すると共に、駆動伝達部材Tに伝達される内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを変換して中間軸Mに伝達する装置である。トルクコンバータ14は、回転電機12のロータ12bと一体回転するように駆動連結されたポンプインペラ14aと、中間軸Mと一体回転するように駆動連結されたタービンランナ14bと、これらの間に設けられたステータ14cと、を備えて構成されている。そして、トルクコンバータ14は、その内部に充填された油を介して、駆動側回転部材としてのポンプインペラ14aと従動側回転部材としてのタービンランナ14bとの間でトルク伝達を行うことが可能である。その際、駆動伝達部材Tの回転速度は所定の変速比で減速されると共にトルクが増幅されて中間軸Mに伝達される。
【0036】
トルクコンバータ14は、ロックアップクラッチCLを備えている。このロックアップクラッチCLは、トルクコンバータ14のロックアップ用の摩擦係合装置として機能する。ロックアップクラッチCLは、ポンプインペラ14aとタービンランナ14bとの間の滑り(スリップ)をなくして動力伝達効率を高めるため、ポンプインペラ14aとタービンランナ14bとを一体回転するように駆動連結させる。すなわち、このロックアップクラッチCLの係合状態では、トルクコンバータ14は、内部の油を介さずに内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを、駆動伝達部材T及び中間軸Mのみを介して直接的に変速機構15に伝達する。
【0037】
変速装置13の他の一部を構成する変速機構15は、中間軸Mの回転速度を所定の変速比で変速して出力軸Oへ伝達する装置である。このような変速機構15として、本実施形態においては、図2に示すように、複数の遊星歯車機構(第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2)と複数の係合要素(第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第一ブレーキB1、第二ブレーキB2、及びワンウェイクラッチF)とを有して構成された有段の自動変速装置が用いられている。ここで、本例では、各クラッチ及び各ブレーキは、ワンウェイクラッチFを除き、湿式多板クラッチ等の摩擦係合要素である。本実施形態では、図3に示すように、複数の係合要素のうちの2つを選択的に係合状態とすることにより、変速機構15が切替可能に備える前進6速及び後進1速の合計7つの変速段の中から、所望の変速段が形成される。このような変速機構15の構成は従来から公知であるのでここでは詳細な説明は省略するが、本実施形態では図3に示すように第一クラッチC1及びワンウェイクラッチFの係合状態で第1速段(1st)が形成される。なお、この第1速段(1st)は、停止状態にある車両が発進する際に形成される発進用の変速段(発進用変速段)とされている。従って、本実施形態においては、第一クラッチC1が本発明における「発進用係合要素」に相当する。
【0038】
変速機構15は、各時点において形成された変速段の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oへ伝達する。変速機構15から出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置16を介して左右二つの車輪17に分配されて伝達される。なお、本実施形態では、入力軸I、中間軸M、及び出力軸Oが同軸上に配置された一軸構成とされている。また、駆動伝達部材Tは、入力軸I、中間軸M、及び出力軸Oの径方向外側に、これらと同軸状に配置されている。
【0039】
2.油圧制御系の構成
次に、ハイブリッド駆動装置1の油圧制御系について説明する。図1に示すように、油圧制御系は、図示しないオイルパンに蓄えられた油を吸引し、ハイブリッド駆動装置1の各部に油を供給するための油圧源として、車両の駆動力源に機械的に駆動連結された機械式のオイルポンプ22を備えている。このようなオイルポンプ22としては、例えばギヤポンプやベーンポンプ等が好適に用いられる。本実施形態においては、オイルポンプ22として、インナロータとアウタロータとを有する内接型のギヤポンプが用いられている。本実施形態では、オイルポンプ22は、トルクコンバータ14のポンプインペラ14a及び駆動伝達部材Tを介して回転電機12に駆動連結され、更に入力クラッチCTを介して内燃機関11に駆動連結されている。オイルポンプ22のインナロータは、駆動伝達部材Tを介して車両の駆動力源としての内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方の駆動力により駆動され、これによりオイルポンプ22は油を吐出する。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1には、製造コストの低減を図るべく、車両の駆動力源とは独立して作動可能な電動ポンプ等の他の油圧源は備えられていない。
【0040】
また、油圧制御系は、オイルポンプ22から吐出される油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置23を備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置23は、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする油の量を調整して油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、トルクコンバータ14、及び変速機構15の複数の係合要素C1、C2、C3、B1、B2に供給される。
【0041】
ここで、本実施形態においては、油圧制御装置23から入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、複数の係合要素C1、C2、C3、B1、B2がそれぞれ有するシリンダ内に供給され、複数の摩擦材同士を押圧して摩擦係合させるためのピストンをシリンダ内で移動させるための油を、説明の便宜上「作動油」と称する。また、油圧制御装置23から入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、複数の係合要素C1、C2、C3、B1、B2がそれぞれ有するピストンに対して、シリンダとは反対側(反シリンダ側)に配置される複数の摩擦材の間を流通して当該複数の摩擦材の冷却を行い、或いは各種の軸受及びギヤ機構の潤滑を行うための油を、説明の便宜上「循環油」と称する。また、作動油の油圧を「作動油圧」と称し、循環油の油圧を「循環油圧」と称する。
【0042】
3.ハイブリッド駆動装置の具体的構成
次に、ハイブリッド駆動装置1の具体的構成について説明する。ここでは特に、動力伝達経路上で入力軸Iと中間軸Mとの間に配置される各部品に注目して、これらの構成について説明する。図4に示すように、ケース2内には少なくとも入力軸I、駆動伝達部材T、回転電機12、トルクコンバータ14、入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、及び中間軸Mが収容されている。
【0043】
入力軸Iと中間軸Mとは軸方向に並べて配置されている。軸方向で内燃機関11側となる入力軸Iの径方向外側に、回転電機12及び入力クラッチCTが配置されている。また、回転電機12の径方向内側であって当該回転電機12と軸方向に重複する位置に、入力クラッチCTが配置されている。本例では、入力クラッチCTの全体が、回転電機12と軸方向に重複して配置されている。回転電機12及び入力クラッチCTに対して軸方向で内燃機関11とは反対側に、トルクコンバータ14が配置されている。トルクコンバータ14は、中間軸Mの径方向外側であって、回転電機12と径方向に重複する位置に配置されている。軸方向で回転電機12及び入力クラッチCTとトルクコンバータ14との間に、ロックアップクラッチCLが配置されている。ロックアップクラッチCLは、入力クラッチCTと径方向に重複する位置に配置されている。なお、ここでは、2つの部材についてのある方向における「重複」とは、2つの部材のそれぞれが、当該方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有することを意味する。
【0044】
回転電機12のロータ12bは、少なくとも径方向に延びて当該ロータ12bを支持するように設けられたロータ支持部材61を有する。ロータ支持部材61は、径方向に延在する円環板状部と当該円環板状部の径方向外側に一体形成された円筒状部とを有して構成されている。ロータ12bは、ロータ支持部材61の径方向内側に配置された支持軸受65を介して、ケース2に対して回転自在に支持されている。軸方向でケース2とロータ支持部材61との間に、ロータ回転センサSe1が設けられている。このようなロータ回転センサSe1として、本例ではレゾルバを用いている。
【0045】
トルクコンバータ14は、少なくとも径方向に延びて当該トルクコンバータ14を支持するように設けられたトルコン支持部材63を有する。トルコン支持部材63は、軸方向でトルクコンバータ14よりも内燃機関11側を覆うように形成された椀状部材であり、本例では径方向の中央部に段差を有する段付椀状部材として構成されている。トルコン支持部材63は、径方向外側の端部でポンプインペラ14aと一体回転するように駆動連結されている。ロータ支持部材61とトルコン支持部材63とは、連結部材62を介して一体回転するように駆動連結されている。本例では、ロータ支持部材61と連結部材62との間、及びトルコン支持部材63と連結部材62との間、の双方がボルト等の締結部材64により締結固定されて一体化されている。本実施形態においては、ロータ支持部材61、連結部材62、トルコン支持部材63、及び締結部材64により本発明における「駆動伝達部材T」が構成されている。
【0046】
入力クラッチCTは、内燃機関11と回転電機12とを選択的に駆動連結する摩擦係合装置である。このような機能を実現するため、入力クラッチCTは、図4に示すように、複数の摩擦材45と、油圧により作動して複数の摩擦材45同士を押圧する第一ピストン43と、所定の付勢力で第一ピストン43を押圧方向に付勢する弾性部材としての皿バネ44と、を有して構成されている。ここで、「押圧方向」とは、油圧により作動する第一ピストン43が複数の摩擦材45同士を押圧させるように作用する方向である。本例では、この押圧方向は、入力軸I及び中間軸Mの軸方向における内燃機関11からトルクコンバータ14へ向かう方向に一致している。また、入力クラッチCTは、入力軸Iと一体回転するように連結された第一ハブ42と、連結部材62の一部として構成され、回転電機12及びポンプインペラ14aと一体回転するように駆動連結された第一ドラム41と、を備えている。なお、第一ドラム41はシリンダ状に形成された部分を有しており、当該シリンダ状部分を第一ピストン43が移動可能に構成されている。複数の摩擦材45は、第一ドラム41及び第一ハブ42に対してそれぞれ相対回転が規制されると共に軸方向にスライド自在に保持されている。更に、第一ドラム41と第一ピストン43との間には液密状態の第一作動油室47が形成され、この第一作動油室47には、ケース2内に形成された第一供給油路46を介して作動油が供給される。第一作動油室47内には、弾性部材としての皿バネ44が配置されており、第一作動油室47に作動油が供給されていない状態で、第一ピストン43は皿バネ44の付勢力により押圧方向に付勢されている。よって、この入力クラッチCTは、皿バネ44の付勢力により入力軸Iと駆動伝達部材Tとの間のトルク伝達が可能である。なお、第一作動油室47に作動油が供給されることによっても、作動油圧により複数の摩擦材45同士が摩擦係合されて、入力クラッチCTを介したトルク伝達が可能となる。また、第一ピストン43に対して第一作動油室47とは反対側(反シリンダ側、摩擦材45側)には、循環油が流通するための第一循環油室48が形成されている。
【0047】
本実施形態においては、皿バネ44の付勢力の大きさは、入力クラッチCTの第一作動油室47に作動油が供給されておらず、かつ第一循環油室48に循環油が供給されていない状態で、所定範囲内の大きさとなるように予め設定されている。ここで、「所定範囲内の大きさ」は、以下に説明する第一制限閾値L1以上、かつ、第二制限閾値L2以下となる範囲である。
【0048】
本例では、第一制限閾値L1は、作動油圧及び循環油圧の双方が供給されていない状態で、入力クラッチCTを介して内燃機関11のトルクをオイルポンプ22に伝達して、当該オイルポンプ22を停止状態から駆動させることができるような付勢力(荷重)の下限値とされている。本実施形態では、このような第一制限閾値L1は、回転電機12及びトルクコンバータ14のイナーシャトルク、オイルポンプ22による損失トルク、並びに回転電機12によるトルクリップル、に基づいて設定される。回転電機12及びトルクコンバータ14のイナーシャトルクは、停止している状態の回転電機12のロータ12a及びトルクコンバータ14のポンプインペラ14aを所定の回転速度で回転させるために外部から供給する必要があるトルクであり、ロータ12a及びポンプインペラ14aのイナーシャ、これらの回転速度、並びに予め設定された入力クラッチCTの引き摺り時間に基づいて定まる。オイルポンプ22による損失トルクは、内部に充填されている油の粘性抵抗に抗してオイルポンプ22を駆動させるために外部から供給する必要があるトルクであり、油温等に応じて変動する。回転電機12によるトルクリップルは、内燃機関11のトルクにより駆動される回転電機12による回生トルク(負荷トルク)の、想定される脈動分である。そして、これら回転電機12及びトルクコンバータ14のイナーシャトルク、オイルポンプ22による損失トルク、並びに回転電機12によるトルクリップルの和に対応する付勢力(荷重)の大きさとして、第一制限閾値L1が規定される。
【0049】
また、第二制限閾値L2は、作動油圧及び循環油圧の双方が供給されていない状態で、入力クラッチCTを介して回転電機12のトルクが内燃機関11に伝達されたとしても停止状態にある内燃機関11をそのまま停止状態に維持させることができるような付勢力(荷重)の上限値とされている。ここでは特に、内燃機関11が有する吸気弁及び排気弁の開閉位相が所定の可動範囲内で最大限遅角された状態(最遅角状態)における上限値として、第二制限閾値L2が設定されている。本実施形態では、このような第二制限閾値L2は、内燃機関11の内燃機関出力軸Eo(クランクシャフト等)をクランキングさせるために外部から供給する必要があるトルク(クランキングトルク)の下限値に基づいて設定されている。ここで、上記クランキングトルクは、内燃機関出力軸Eoのイナーシャトルクや内燃機関出力軸Eoが回転する際の摺動抵抗等に基づいて定まる。そして、上記クランキングトルクの大きさに対応する付勢力(荷重)の大きさとして、第二制限閾値L2が規定される。
【0050】
ロックアップクラッチCLは、トルクコンバータ14のポンプインペラ14aとタービンランナ14bとを選択的に駆動連結する摩擦係合装置である。このような機能を実現するため、ロックアップクラッチCLは、図4に示すように、タービンランナ14bと一体回転するように連結された第二ドラム52と、トルコン支持部材63及びポンプインペラ14aと一体回転するように連結された第二ハブ51と、第二ピストン53と、を備えている。なお、第二ハブ51に連結されるトルコン支持部材63はシリンダ状に形成された部分を有しており、当該シリンダ状部分を第二ピストン53が移動可能に構成されている。また、ロックアップクラッチCLは、第二ハブ51及び第二ドラム52に対してそれぞれ相対回転が規制されると共に軸方向にスライド自在に保持された複数の摩擦材55を備えている。更に、トルコン支持部材63と第二ピストン53との間には液密状態の第二作動油室57が形成され、この第二作動油室57には、中間軸Mの内径部に形成された第二供給油路56を介して作動油が供給される。また、第二ピストン53よりも第二ドラム52側には、循環油が流通するための第二循環油室58が形成されている。第二循環油室58内には、リターンスプリング54が配置されており、第二作動油室57に作動油が供給されていない状態で、第二ピストン53はリターンスプリング54の付勢力により摩擦材55とは反対側(シリンダ側、第二作動油室57側)に付勢されている。そして、第二作動油室57に作動油が供給されることにより、作動油圧により複数の摩擦材55同士が摩擦係合されて、ロックアップクラッチCLを介したトルク伝達が可能となる。
【0051】
4.制御ユニットの構成
次に、本実施形態に係る制御ユニット30の構成について説明する。制御ユニット30は、図5に示すように、ハイブリッド駆動装置1の各部の動作制御を行う中核部材としての機能を果たしている。この制御ユニット30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御ユニット30の各機能部31〜38が構成される。これらの各機能部31〜38は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、このハイブリッド駆動装置1は、各機能部31〜38による各機能を適切に実現可能とするため、車両の各部に設けられた複数のセンサSe1〜Se5を備えている。以下では、制御ユニット30の各機能部31〜38について、詳細に説明する。なお、本実施形態においては、制御ユニット30の各機能部31〜38が協働して、本発明における「制御装置」を構成している。
【0052】
ロータ回転センサSe1は、回転電機12のステータ12aに対するロータ12bの回転位置を検出するセンサである。本例では、このロータ回転センサSe1により検出されるロータ12bの回転位置の情報に基づいて、当該ロータ12bの回転速度を検出するように構成されている。また、本実施形態では、回転電機12のロータ12bとオイルポンプ22のインナロータとが駆動電動部材T及びポンプインペラ14aを介して一体回転するように駆動連結されているので、ロータ回転センサSe1により検出される回転速度は、オイルポンプ22のインナロータの回転速度に等しい。車速センサSe2は、車速を検出するセンサであり、本実施形態では出力軸Oの回転速度を検出することにより車速を検出する。アクセル開度検出センサSe3は、不図示のアクセルペダルの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するセンサである。液圧検出センサSe4は、車両に備えられるブレーキ機構24(図1を参照)が有するブレーキペダル25の操作圧として把握可能な、当該ブレーキペダル25に連動するマスターシリンダ26により得られるマスターシリンダ液圧を検出するセンサである。ストローク位置検出センサSe5は、ブレーキペダル25のストローク位置を検出するセンサである。本実施形態においては、液圧検出センサSe4が本発明における「操作圧検出手段」に相当し、ストローク位置検出センサSe5が本発明における「ストローク位置検出手段」に相当する。これらの各センサSe1〜Se5による検出結果を示す情報は、制御ユニット30へ出力される。
【0053】
内燃機関制御部31は、内燃機関11の動作制御を行なう機能部である。内燃機関制御部31は、内燃機関制御手段として機能する。内燃機関制御部31は、内燃機関動作点を決定し、当該内燃機関動作点で内燃機関11を動作させるように制御する処理を行う。ここで、内燃機関動作点は、内燃機関11の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、内燃機関動作点は、車両要求出力と最適燃費とを考慮して決定される内燃機関11の制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、内燃機関制御部31は、内燃機関動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するように内燃機関11を制御する。
【0054】
本実施形態においては、内燃機関制御部31は、所定のアイドル停止条件が成立したときに内燃機関11への燃料供給を停止して、内燃機関11を停止させるいわゆるアイドルストップ機能を実現可能に構成されている。このアイドルストップ中は、車両の主電源はオンとされたままの走行可能な状態で内燃機関11が停止状態とされる。つまり、車両が走行している状態で内燃機関11が停止状態とされるか、或いは、車両が停車している状態で内燃機関11が停止状態とされる。ここで、アイドル停止条件は、内燃機関11の回転速度やアクセル開度、車速等に基づいて予め定められている。なお、内燃機関制御部31は、アイドル停止条件が成立しなくなったときに内燃機関11への燃料供給を再開して、内燃機関11を始動させる制御も行なう。
【0055】
回転電機制御部32は、回転電機12の動作制御を行なう機能部である。回転電機制御部32は、回転電機制御手段として機能する。回転電機制御部32は、回転電機動作点を決定し、当該回転電機動作点で回転電機12を動作させるように制御する処理を行う。ここで、回転電機動作点は、回転電機12の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、回転電機動作点は、車両要求出力と内燃機関動作点とを考慮して決定される回転電機12の制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、回転電機制御部32は、回転電機動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するように回転電機12を制御する。また、回転電機制御部32は、バッテリ24から供給される電力により回転電機12に駆動力を発生させる状態と、内燃機関11の回転駆動力により回転電機12に発電させる状態とを切り替える制御も行なう。回転電機制御部32は、更に、後述する発進制御部37からの指令に従い、車両の発進動作制御の一端を担う。
【0056】
目標変速段決定部33は、変速機構15における目標変速段を決定する機能部である。目標変速段決定部33は、目標変速段決定手段として機能する。目標変速段決定部33は、車両のアクセル開度及び車速に基づいて目標変速段を決定する。ここで、アクセル開度の情報はアクセル開度検出センサSe3により検出されて取得され、車速の情報は車速センサSe2により検出されて取得される。制御ユニット30は、不図示のメモリ等に所定の変速マップを格納して備えている。変速マップは、アクセル開度及び車速に基づくシフトスケジュールを設定したマップである。目標変速段決定部33は、この変速マップと車両のアクセル開度及び車速とに基づいて、各時点で変速機構15において形成されるべき目標変速段を決定する。
【0057】
切替制御部34は、目標変速段決定部33により決定された目標変速段に変更があった場合に、変速機構15において形成される変速段を切り替える制御を行う機能部である。切替制御部34は、切替制御手段として機能する。切替制御部34は、目標変速段決定部33により決定された目標変速段に基づいて、各係合要素C1、C2、C3、B1、B2の係合及び解放(係合解除)を制御することにより、変速機構15において形成される変速段を切り替える。本実施形態では、切替制御部34は、決定された目標変速段に応じた2つの係合要素(図3を参照)に油圧制御装置23を介して作動油を供給して当該係合要素を係合状態とし、目標変速段を形成する制御を行なう。なお、車速及びアクセル開度が変化して、目標変速段決定部33が目標変速段を変更すると、切替制御部34は、新たに決定された目標変速段に応じた2つの係合要素に作動油を供給して当該係合要素を係合状態とし、新たな目標変速段を形成する。また、切替制御部34は、アイドルストップ時に、変速機構15の各係合要素C1、C2、C3、B1、B2の全てを解放させる制御も行う。切替制御部34は、更に、後述する発進制御部37からの指令に従い、車両の発進動作制御の一端を担う。
【0058】
弁開閉位相制御部35は、内燃機関11の吸気弁及び排気弁の開閉位相を調節制御する機能部である。弁開閉位相制御部35は、弁開閉位相制御手段として機能する。弁開閉位相制御部35は、弁開閉位相調節機構28を介して、内燃機関11の吸気弁及び排気弁の開閉位相を、所定の可動範囲内で進角又は遅角させるように制御する。ここで、「開閉位相を進角させる」とは、弁開閉位相調節機構28が有する駆動側回転部材に対して従動側回転部材を進角させ、吸気弁の開弁時期及び閉弁時期を早めることを意味する。一方、「開閉位相を遅角させる」とは、弁開閉位相調節機構28が有する駆動側回転部材に対して従動側回転部材を遅角させ、吸気弁の開弁時期及び閉弁時期を遅らせることを意味する。また、弁開閉位相制御部35は、車両の通常走行時には、可動範囲内で吸気弁及び排気弁の開閉位相を内燃機関11の状態に応じて適切な位相とするように調節する通常走行時位相制御を行なう。
【0059】
本実施形態においては、弁開閉位相制御部35は、アイドル停止条件が成立した場合には、弁開閉位相調節機構28を介して、内燃機関11の吸気弁の開閉位相を可動範囲内で最大限遅角された位相(最遅角位相)とするように制御する。これにより、弁開閉位相調節機構28により、いわゆるデコンプレッション機能が実現される。このデコンプレッション機能の実現時には、内燃機関11の圧縮工程においてシリンダ内の圧力が開放されて圧力上昇が抑えられ、これによりシリンダ内の圧力変動が小さく抑えられる。よって、アイドルストップ時に実際に内燃機関11を停止させ、或いは、内燃機関11の停止状態から内燃機関11を再始動させる際の振動の発生を抑制することができる。また、内燃機関11を始動させるために必要となるエネルギ量を低減することができる。弁開閉位相制御部35は、更に、後述する発進制御部37からの指令に従い、車両の発進動作制御の一端を担う。
【0060】
発進予備操作検出部36は、車両が停止している場合において運転者による所定の発進予備操作を検出する機能部である。発進予備操作検出部36は、発進予備操作検出手段として機能する。ここで、「発進予備操作」とは、停止状態にある車両を発進させるために行われる、実際の発進前における車両の運転者の予備的な操作を意味する。本実施形態においては、発進予備操作検出部36は、停止状態にある車両の発進に先立って行われる、運転者によるブレーキペダル25の解放操作を、発進予備操作として検出する。発進予備操作検出部36は、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作を検出する。より具体的には、発進予備操作検出部36は、ブレーキペダル25の解放操作に伴ってマスターシリンダ液圧が所定量だけ低下した場合に、発進予備操作を検出したと判定する。この場合における「所定量」は、例えば、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の20〜50%に相当する分の液圧とすることができる。言い換えれば、発進予備操作検出部36は、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の50〜80%に相当する第一液圧P1まで低下した場合に、発進予備操作を検出したと判定する。発進予備操作の検出は、次に述べる車両の発進動作制御のトリガーとなる。
【0061】
本実施形態においては、発進予備操作検出部36は、運転者による発進予備操作に加えて、当該発進予備操作の終了前の所定の「発進予備操作終了直前時点」を検出する。本実施形態では、発進予備操作検出部36は、発進予備操作の検出と同様、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作終了直前時点を検出する。より具体的には、発進予備操作検出部36は、ブレーキペダル25の解放操作に伴って、発進予備操作の検出後、更にマスターシリンダ液圧が所定量だけ低下した場合に、発進予備操作終了直前時点を検出したと判定する。この場合における「所定量」は、例えば、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の70〜90%に相当する分の液圧とすることができる。言い換えれば、発進予備操作検出部36は、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の10〜30%に相当する第二液圧P2まで低下した場合に、発進予備操作終了直前時点を検出したと判定する。発進予備操作検出部36は、発進予備操作や発進予備操作終了直前時点を検出した場合には、その旨の情報を随時発進制御部37に出力する。
【0062】
発進制御部37は、運転者による発進予備操作が検出された場合に、回転電機制御部32、切替制御部34、及び弁開閉位相制御部35等を協調制御することにより車両の発進動作を制御する機能部である。発進制御部37は、発進制御手段として機能する。この発進制御部37は、発進予備操作検出部36による発進予備操作の検出をトリガーとして機能発現する。すなわち、発進制御部37は、車両の通常走行時には機能停止しており、発進予備操作検出部36からの発進予備操作を検出した旨の情報の入力を受けて初めて機能発現する。なお、本実施形態では、発進制御部37は、回転電機12が正常に動作しているか動作異常を起こしているかに応じて、異なる形態で車両の発進動作を制御するように構成されている。この発進制御部37による車両の発進動作制御の詳細については、後述する。
【0063】
フェール判定部38は、回転電機12の動作異常を判定する機能部である。フェール判定部38は、フェール判定手段として機能する。フェール判定部38は、回転電機制御部32が決定する回転電機動作点に従って実際に回転電機12が駆動されていない場合に、回転電機12が動作異常を起こしているものと判定する。本実施形態では、フェール判定部38は、特に回転電機12の動作異常として、回転電機12の不作動を判定する。ここで、「回転電機12の不作動」とは、回転電機制御部32が何らかの回転電機動作点を決定したとしても、回転電機12からは何の出力も発生しない状態を意味する。すなわち、回転電機12がトルクを出力することができず、回転電機12が単独では回転することができない状態を意味する。フェール判定部38は、このような回転電機12の不作動を、例えば回転電機12と当該回転電機12に電気的に接続されているインバータ装置(不図示)との間の電気配線に実際に流れる電流を検出するための電流センサ(不図示)による電流検出値に基づいて判定する構成とすることができる。すなわち、例えば上記の電流検出値が、本来であれば所定値(ゼロを除く)となるべきであるにもかかわらず常時ゼロとなっている場合に、フェール判定部38は回転電機12の不作動を判定する。フェール判定部38は、回転電機12の不作動を判定した場合には、その旨の情報を発進制御部37に出力する。
【0064】
5.車両の発進動作制御の詳細
次に、制御ユニット30の発進制御部37を中核として、回転電機制御部32、切替制御部34、及び弁開閉位相制御部35等が協働することにより実行される、車両の発進動作制御の詳細について図面を参照して説明する。上記のとおり、本実施形態では、回転電機12が正常に動作しているか動作異常を起こしているかに応じて、異なる形態で発進動作制御が実行される。以下、回転電機12の正常動作時の発進動作制御、回転電機12の動作異常時の発進動作制御、の順に説明する。
【0065】
5−1.回転電機の正常動作時の発進動作制御
まず、回転電機12の正常動作時の発進動作制御について説明する。図6は、回転電機12の正常動作時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。図6には、上から、車速、アクセル開度、マスターシリンダ液圧、内燃機関11及び回転電機12の回転速度、内燃機関11及び回転電機12のトルク、各クラッチ(入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、及び第一クラッチC1)の伝達トルク容量、内燃機関11の吸気弁の開閉位相、の順に表示している。この図に示すように、回転電機12の正常動作時には、制御ユニット30は、内燃機関11の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作を検出したとき、回転電機12を回転させて、オイルポンプ22により皿バネ44の付勢力を相殺して入力クラッチCTを解放させる循環油圧を発生させ、入力クラッチCTの解放後に変速装置13(変速機構15)に備えられる第一クラッチC1を係合させる。以下、詳細に説明する。
【0066】
5−1−1.通常走行〜車両停止
本例では、入力クラッチCT及びロックアップクラッチCLの双方が係合状態とされ、内燃機関11、回転電機12、トルクコンバータ14のポンプインペラ14a、及びタービンランナ14bが一体回転する状態で、内燃機関11のトルクにより車両が通常走行を行っている(時刻T00〜T01)。なお、本例では回転電機制御部32は、比較的小さな回生トルク(負トルク)を出力させるように回転電機12のトルクを制御しており、回転電機12は僅かに発電を行っている。また、弁開閉位相制御部35は、最進角位相と最遅角位相との間で、吸気弁及び排気弁の開閉位相を内燃機関11の状態に応じて適切な位相とするように調節する通常走行時位相制御を行なう。
【0067】
時刻T01においてアクセルペダルが開放されてブレーキペダル25(図1を参照)が踏み込まれると、回転電機制御部32は、比較的大きな回生トルク(負トルク)を出力させるように回転電機12のトルクを制御し、回転電機12は回生制動を行う(時刻T01〜T02)。なお、このような回生制動は、ホイールブレーキによる制動動作と協調して行われる。このとき油圧制御装置23は、入力クラッチCTへの作動油圧の供給を停止して、循環油圧により当該入力クラッチCTが解放状態となる。また、内燃機関制御部31は、内燃機関11への燃料供給を停止させて内燃機関11を停止させる。その際、弁開閉位相制御部35は、内燃機関11を停止させる前に吸気弁の開閉位相を最遅角位相とする。なお、本例では、この最遅角位相を「所定の基準位相」としている。
【0068】
車速の低下に伴って回転電機12の回転速度が低下し、時刻T02において解放閾値Vsに到達すると、弁開閉位相制御部35は、その時点で吸気弁の開閉位相を最遅角位相に対して進角させて進角状態とする。本例では、弁開閉位相制御部35は吸気弁の開閉位相を最進角位相まで進角させる。よって、本例における「進角状態」は、吸気弁の開閉位相が最進角位相まで進角された状態である。ここで、このような解放閾値Vsは、循環油圧を発生させるために必要となる、オイルポンプ22のインナロータの回転速度に設定されている。このような解放閾値Vsとしては、例えば50〜250〔rpm〕が設定される。回転電機制御部32は、時刻T02以降も解放閾値Vsを維持するように、回転電機12の回転速度を制御する(時刻T02〜T04)。本実施形態では、オイルポンプ22のインナロータはトルクコンバータ14のポンプインペラ14a及び駆動伝達部材Tを介して回転電機12と一体回転するように駆動連結されている。よって、回転電機12の回転速度を解放閾値Vsに維持させることにより、オイルポンプ22のインナロータの回転速度を時刻T02以降も解放閾値Vsに維持させ、オイルポンプ22が発生させる循環油圧により入力クラッチCTを解放状態に維持させることが可能となっている。なお、時刻T02においてロックアップクラッチCLが解放されている。
【0069】
時刻T03において車両が完全に停止すると、切替制御部34は、変速機構15内の第一クラッチC1を含む全ての係合要素への作動油の供給を停止して、全ての係合要素を解放状態とする。また、回転電機制御部32は、時刻T04において回転電機12を完全に停止させるように当該回転電機12の回転速度をゼロとするように制御する。これにより、内燃機関11及び回転電機12の停止状態で車両が停止した状態となる。この状態で、オイルポンプ22のインナロータは回転停止し、当該オイルポンプ22は油を吐出しなくなる。よって、この状態で、入力クラッチCTは皿バネ44の付勢力のみにより複数の摩擦板45同士が所定の係合圧で摩擦係合されてトルクを伝達可能な状態となる。なお、このとき入力クラッチCTの第一作動油室47には、皿バネ44を備えていないと仮定した場合における当該入力クラッチCTの第一ピストン43のストロークエンド圧に略等しくかつそれ以下の大きさの作動油圧が、油圧制御装置23から供給される。また、ブレーキペダル25は大きく踏み込まれて、マスターシリンダ液圧は最大値P0となっている。
【0070】
5−1−2.車両停止〜入力クラッチ解放
車両の停止中は、発進予備操作検出部36は、運転者による発進予備操作を監視している。本実施形態では、上記のとおり発進予備操作検出部36は、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作を検出する。本例では、マスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧が、車両停止時におけるマスターシリンダ液圧(P0)の50%に相当する第一液圧P1(P1=0.5*P0)まで低下した時刻T05において、発進予備操作検出部36は、運転者による発進予備操作を検出したと判定する。運転者による発進予備操作が検出されると、回転電機制御部32は、回転電機12の回転速度を第一目標速度Vt1とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する(時刻T05〜T06)。ここで、第一目標速度Vt1は、循環油圧を発生させるために必要となる、オイルポンプ22のインナロータの回転速度に設定されている。このような第一目標速度Vt1としては、解放閾値Vs同様、例えば50〜250〔rpm〕が設定される。本実施形態では、第一目標速度Vt1と解放閾値Vsとが等しい値(V1)に設定されている(Vs=Vt1=V1)。
【0071】
本実施形態では、オイルポンプ22のインナロータはトルクコンバータ14のポンプインペラ14a及び駆動伝達部材Tを介して回転電機12と一体回転するように駆動連結されているので、回転電機12を第一目標速度Vt1で回転駆動させることにより、オイルポンプ22のインナロータも第一目標速度Vt1で回転駆動させることができる。よって、オイルポンプ22が発生させ、入力クラッチCTの反シリンダ側の第一循環油室48に供給される循環油圧により、第一作動油室47内に複数の摩擦材45同士を押圧するように配置された皿バネ44の付勢力を相殺して、入力クラッチCTを解放させることができる。
【0072】
このとき、本実施形態では、入力クラッチCTの第一作動油室47に作動油が供給されていない状態での皿バネ44の付勢力の大きさは、最遅角状態において、入力クラッチCTを介して回転電機12のトルクが内燃機関11に伝達されたとしても停止状態にある内燃機関11をそのまま停止状態に維持させることができるような大きさとなるように設定されている。すなわち、入力クラッチCTを介して回転電機12から内燃機関11に伝達されるトルクよりも、最遅角状態における内燃機関11の被駆動トルク(内燃機関出力軸Eoのイナーシャトルクや内燃機関出力軸Eoが回転する際の摺動抵抗等)が大きくなるように皿バネ44の付勢力の大きさが設定されている。よって、回転電機12を回転駆動してオイルポンプ22を駆動させ、入力クラッチCTを解放させる際に、皿バネ44の付勢力によって回転電機12のトルクの一部が内燃機関11に伝達されたとしても、基本的には内燃機関11をそのまま停止状態に維持することができる。
【0073】
ところで、皿バネ44の品質や駆動連結される内燃機関11の被駆動トルク等には、ある程度のバラツキが生じざるを得ないことを考慮すれば、上記のような皿バネ44の付勢力の大きさの設定であっても、回転電機12を回転駆動して入力クラッチCTを解放させる際に、入力クラッチCTを介して回転電機12から内燃機関11に伝達されるトルクが内燃機関11の被駆動トルクよりも大きくなって、内燃機関11が引き摺られて回転してしまう可能性がないとは言い切れない。そこで、本実施形態では、回転電機12の回転速度が解放閾値Vs以下まで低下した時刻T02以降は、吸気弁の開閉位相が最進角位相まで進角させられた最進角状態とされ、その最進角状態で、上記で説明した、オイルポンプ22が発生させる循環油圧による入力クラッチCTの解放動作が行われる。このような最進角状態とすることにより、内燃機関11の燃焼室での圧縮動作の際に、当該燃焼室内の圧力を上昇させることができる。そのため、最遅角状態と比較して内燃機関11の被駆動トルクを大幅に増大させることができ、最進角状態での内燃機関11の被駆動トルクを、皿バネ44の付勢力により入力クラッチCTが伝達可能なトルクよりも確実に大きくすることができる。よって、回転電機12を回転駆動して入力クラッチCTを解放させる際に、皿バネ44の品質や駆動連結される内燃機関11の被駆動トルク等のバラツキをも考慮して、確実に内燃機関11をそのまま停止状態に維持することができる。
【0074】
5−1−3.入力クラッチ解放〜車両発進
その後、時刻T06以降、回転電機制御部32は、回転電機12の回転速度を第一目標速度Vt1よりも大きい値に設定された第二目標速度Vt2とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する(時刻T06〜T07)。ここで、第二目標速度Vt2は、車両の発進時にクリープトルクを出力させるために必要となる回転電機12の回転速度に設定されている。このような第二目標速度Vt2としては、例えば300〜800〔rpm〕が設定され、更には内燃機関11のアイドル回転数(V2)付近の回転速度が設定されていると好適である。回転電機12を第二目標速度Vt2で回転駆動させることにより、当該回転電機12はクリープトルクを出力する状態となる。但し、時刻T06の時点では、運転者によりブレーキペダル25が踏み込まれた状態にあり、かつ、変速機構15内の第一クラッチC1を含む全ての係合要素も解放状態にあるので、回転電機12がクリープトルクを出力したとしても車両は停止状態を維持する。
【0075】
発進予備操作検出部36は、運転者による発進予備操作を検出した後は、当該発進予備操作の終了前の発進予備操作終了直前時点を監視している。本実施形態では、上記のとおり発進予備操作検出部36は、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作終了直前時点を検出する。本例では、マスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧が、車両停止時におけるマスターシリンダ液圧(P0)の10%に相当する第二液圧P2(P2=0.1*P0)まで低下した時刻T07において、発進予備操作検出部36は、発進予備操作終了直前時点を検出したと判定する。回転電機12がクリープトルクを出力している状態で、発進予備操作終了直前時点が検出されると、切替制御部34は、第一クラッチC1へ作動油を供給して、発進予備操作の終了前に第一クラッチC1を係合させて係合状態とする。なお、ここでは、「発進予備操作の終了前に第一クラッチC1を係合させる」とは、発進予備操作の終了前に第一クラッチC1の係合動作を開始して当該第一クラッチC1がトルク容量を持ち始めることを意味しており、第一クラッチC1が完全係合されることまでは要求されない。この際、切替制御部34は、第一クラッチC1のトルク容量を、回転電機12が出力するクリープトルクの大きさに等しいか又はそれ以上の値とするように、第一クラッチC1に供給される作動油圧の大きさを制御する。これにより、回転電機12が出力するクリープトルクを適切に車輪17側に伝達して、適切に車両を発進させることができる。
【0076】
本実施形態では、回転電機12を回転駆動してオイルポンプ22を駆動させ、オイルポンプ22が発生させる循環油圧により入力クラッチCTが解放された状態で、第一クラッチC1を係合させて発進用の第1速段を形成し、車両を発進させる。よって、実際に車両が発進し始める時刻T08では、既に入力クラッチCTは解放状態とされ、回転電機12が出力するクリープトルクの全部が車輪17側へ伝達される状態となっている。よって、車両の発進後に車輪17側へ伝達されるトルクは大きく変動することなく一定に保たれる。従って、車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することができる。
【0077】
また、本実施形態では、弁開閉位相制御部35は、入力クラッチCTの解放後は、内燃機関11の吸気弁の開閉位相を遅角させる。本例では、弁開閉位相制御部35は、最進角位相にある吸気弁の開閉位相を、最遅角位相となるまで遅角させる。より具体的には、弁開閉位相制御部35は、ロータ回転センサSe1により検出される回転電機12の回転速度が上昇して第一目標速度Vt1に到達した時点(時刻T05)を基準として、その時点から更に所定の遅延時間Tdだけ経過した時点で、吸気弁の開閉位相を最遅角位相まで遅角させる。このように、回転電機12の回転速度が第一目標速度Vt1に到達した後、更に遅延時間Tdの経過を待つことで、吸気弁の開閉位相を最遅角位相とする時期を、入力クラッチCTが確実に解放状態となった後とすることができる。よって、内燃機関11の被駆動トルクが入力クラッチCTにより伝達可能なトルクよりも確実に大きい状態で入力クラッチCTの解放動作を行うことができると共に、当該入力クラッチCTの解放後は、デコンプレッション機能を実現可能として、内燃機関11の次回の始動の際の振動発生を抑制するために適切に備えることができる。
【0078】
5−1−4.車両発進〜通常走行
本実施形態では、内燃機関11の停止状態で回転電機12のみがトルクを出力する電動走行モードで車両が発進される。この際、本例では、回転電機制御部32は、車両側の要求駆動力に応じたトルクを出力させるように回転電機12のトルクを制御する。なお、車両発進後の通常走行時には、回転電機制御部32は、状況に応じて回転電機12のトルクを制御する局面と回転電機12の回転速度を制御する局面とを適宜切り替えて車両を走行させる構成とすることができる。また、本例では、時刻T09において内燃機関出力軸Eoがクランキングされて内燃機関11が始動されている。この際、回転電機制御部32は、車両側の要求駆動力に応じたトルクに内燃機関出力軸Eoをクランキングするためのトルクを一時的に加算すると共に、内燃機関11の始動後はトルクをゼロとするように回転電機12のトルクを制御する。
【0079】
このようにして、内燃機関11の始動後は、基本的に内燃機関11のトルクにより車両を走行させ、内燃機関11のトルクのみでは要求駆動力を満たせない場合に、回転電機12がアシストトルクを出力するパラレル走行モードで車両が走行される。本例では、時刻T09の内燃機関11の始動後、ロックアップクラッチCLが係合状態とされている。更にその後、弁開閉位相制御部35は、通常走行時位相制御を行なう。
【0080】
5−2.回転電機の動作異常時の発進動作制御
次に、回転電機12の動作異常時の発進動作制御について説明する。図7は、回転電機12の動作異常時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。図7には、上から、車速、アクセル開度、マスターシリンダ液圧、内燃機関11及び回転電機12の回転速度、内燃機関11及び回転電機12のトルク、各クラッチ(入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、及び第一クラッチC1)の伝達トルク容量の順に表示している。なお、内燃機関11の吸気弁の開閉位相に関しては、ここでは記載を省略している。この図に示すように、回転電機12の動作異常時には、制御ユニット30は、内燃機関11を始動し、皿バネ44の付勢力により複数の摩擦材45同士が押圧された状態の入力クラッチCTを介して内燃機関11のトルクをオイルポンプ22に伝達して当該オイルポンプ22を駆動し、発生する循環油圧により入力クラッチCTを係合させる。以下、詳細に説明する。
【0081】
本例では、内燃機関11及び回転電機12の双方が停止した状態で車両が停止している(時刻T10〜T11)。また、ロックアップクラッチCL及び変速機構15内の第一クラッチC1を含む全ての係合要素は、解放状態となっている。また、オイルポンプ22も停止した状態となっている。そのため、当該オイルポンプ22は循環油圧を発生させておらず、これにより入力クラッチCTは皿バネ44の付勢力によりトルク伝達可能な状態となっている。この状態で、時刻T11においてスタータ27(図1を参照)により内燃機関11が始動され、内燃機関11はアイドル回転数で回転すると共にトルクを出力し始める。ここで、本実施形態においては、入力クラッチCTの第一作動油室47に作動油が供給されていない状態での皿バネ44の付勢力の大きさは、入力クラッチCT、駆動伝達部材T、及びトルクコンバータ14のポンプインペラ14aを介して内燃機関11のトルクをオイルポンプ22のインナロータに伝達することができるような大きさとなるように設定されている。よって、内燃機関11が出力するトルクの一部が、入力クラッチCTにより伝達可能なトルクの範囲内(ここでは、皿バネ44の付勢力の大きさに対応するトルクに等しい)で回転電機12及びオイルポンプ22側に伝達され、回転電機12及びオイルポンプ22のインナロータの回転速度は、アイドル回転数に向かって徐々に上昇していく(時刻T11〜T12)。
【0082】
このように、内燃機関11のトルクによりオイルポンプ22のインナロータの回転速度を上昇させることで、オイルポンプ22により作動油圧を発生させることができる。但し、オイルポンプ22は同時に循環油圧をも発生させるので、この循環油圧が入力クラッチCTの反シリンダ側となる第一循環油室48に供給されると、入力クラッチCTは解放状態となり、内燃機関11のトルクを車輪17側に伝達することができなくなってしまう。そこで、回転電機12の動作異常時には、油圧制御装置23を制御することにより、入力クラッチCTの解放動作が行われる際の、循環油圧による皿バネ44の付勢力の相殺を抑制させる制御が行われる。より具体的には、本実施形態では、入力クラッチCTへ供給される循環油圧を、回転電機12の正常動作時における循環油圧よりも低下させる制御が行われる。なお、入力クラッチCTに、通常の循環油圧を供給すると共に当該循環油圧を相殺する作動油圧、言い換えれば、皿バネ44の付勢力をアシストする作動油圧をシリンダ側の第一作動油室47に供給する制御を行う構成としても良い。更に、これらの双方の制御を行う構成としても良い。これにより、循環油圧による入力クラッチCTの解放動作を、少なくとも回転電機12の正常動作時よりも遅らせることができる。
【0083】
やがて、時刻T12において内燃機関11と回転電機12とが同速(ここでは、アイドル回転数)で回転する状態となると、その後、時刻T13においてオイルポンプ22が発生させる作動油を入力クラッチCTの第一作動油室47に供給して、作動油圧により入力クラッチCTを係合状態とする。すなわち、循環油圧により入力クラッチCTが解放状態とされるよりも前に、作動油圧により入力クラッチCTを係合状態としてしまう。ここでは、オイルポンプ22は、入力クラッチCTの複数の摩擦板45を、互いに滑ることなく完全に一体回転するように係合させるような油圧を発生させ、これにより入力クラッチCTを完全係合させる。入力クラッチCTが係合状態となった後は、車両の主電源がオフとされるまでは内燃機関11の停止が禁止される。つまり、アイドルストップ機能が機能停止される。以上のような発進動作制御によれば、回転電機12の故障時においても適切に車両を発進させて車両を走行させることができる。
【0084】
6.車両走行制御の手順
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の制御の内容について説明する。図8は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の、車両発進制御(回転電機11の正常動作時における車両の発進動作制御)の処理手順を示すフローチャートである。また、図9は、実施形態に係る回転電機異常時における車両走行制御(発進動作制御を含む)の処理手順を示すフローチャートである。図10は、図8の車両発進制御の際にこれと並行して実行される弁開閉位相制御の処理手順を示すフローチャートである。以下に説明するハイブリッド駆動装置1の制御処理の手順は、制御ユニット30の各機能部31〜38により実行される。制御ユニット30の各機能部31〜38がプログラムにより構成される場合には、制御ユニット30が備える演算処理装置は、上記の各機能部31〜38を構成するプログラムを実行するコンピュータとして動作する。
【0085】
6−1.車両発進制御の手順
まず、本実施形態に係る車両発進制御の処理手順について説明する。車両発進制御は、基本的には回転電機12が動作異常を起こしていない場合において、内燃機関11及び回転電機12が停止されつつ車両が停止した状態で実行される。車両発進制御においては、図8に示すように、まず、切替制御部34は、変速機構15の係合要素C1、C2、C3、B1、B2を全て解放状態とする(ステップ#01)。油圧制御装置23は、入力クラッチCTの第一作動油室47に、皿バネ44を備えていないと仮定した場合における当該入力クラッチCTの第一ピストン43のストロークエンド圧に略等しくかつそれ以下の大きさの作動油圧をプリチャージする(ステップ#02)。この状態で、発進予備操作検出部36は、運転者による所定の発進予備操作を監視している(ステップ#03)。本例では、発進予備操作検出部36は、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の50〜80%に相当する第一液圧P1まで低下した場合に、発進予備操作を検出したと判定する。
【0086】
液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ液圧が第一液圧P1まで低下して発進予備動作が検出されると(ステップ#03:Yes)、回転電機制御部32は回転電機12の回転速度を第一目標速度Vt1とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する(ステップ#04)。これにより、駆動伝達部材T及びポンプインペラ14aを介して回転電機12と一体回転するように駆動連結されたオイルポンプ22のインナロータも、第一目標速度Vt1で回転駆動される。第一目標速度Vt1でインナロータが回転するオイルポンプ22は循環油圧を発生させる。この循環油圧は、入力クラッチCTの反シリンダ側の第一循環油室48に供給され、第一作動油室47内に複数の摩擦材45同士を押圧するように配置された皿バネ44の付勢力を相殺して入力クラッチCTを解放させる(ステップ#05)。その後、回転電機制御部32は回転電機12の回転速度を第二目標速度Vt2とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する(ステップ#06)。これにより、回転電機12はクリープトルクを出力する状態となる。
【0087】
発進予備操作検出部36は、発進予備操作を検出した後は、当該発進予備操作の終了前の所定の発進予備操作終了直前時点を監視している(ステップ#07)。本例では、発進予備操作検出部36は、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の10〜30%に相当する第二液圧P2まで低下した場合に、発進予備操作終了直前時点に至ったと判定する。液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ液圧が第二液圧P2まで低下して発進予備操作終了直前時点に至ったと判定されると(ステップ#07:Yes)、切替制御部34は、第一クラッチC1へ作動油を供給して当該第一クラッチC1を係合状態とする。このとき、第一クラッチC1のトルク容量は、回転電機12が出力するクリープトルクの大きさに等しいか又はそれより大きい値となるように制御される(ステップ#08)。その状態でブレーキ操作が解除されると車両が発進することになる(ステップ#09)。その後、内燃機関制御部31と回転電機制御部32とが、これらの協働により、車両の走行状態に応じて内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方を制御して車両を走行させる通常時走行制御を実行する(ステップ#10)。以上で、車両発進制御を終了する。
【0088】
なお、本実施形態では、例えばアイドルストップ機能により内燃機関11が停止された状態で、かつ車両が停止する前の段階(ステップ#01よりも更に前の段階)においては、回転電機12の回転速度が解放閾値Vs未満であるか否かが判定される。そして、解放閾値Vs未満であると判定された場合には、回転電機制御部32は、回転電機12の回転速度を解放閾値Vs(ここでは、第一目標速度Vt1に等しい)とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する。これにより、車両が完全に停止するまでは、入力クラッチCTは解放状態に維持される。
【0089】
6−2.回転電機異常時における車両走行制御の手順
次に、本実施形態に係る回転電機異常時における車両走行制御(回転電機12の動作異常時における発進動作制御を含み、以下、「異常時車両走行制御」と称する。)の処理手順について説明する。異常時車両走行制御においては、図9に示すように、まず、フェール判定部38は、回転電機12が動作異常を起こしているか否かを判定する(ステップ#21)。本例では、フェール判定部38は、特に回転電機12の動作異常として、回転電機12の不作動を判定する。回転電機12が正常に動作していると判定された場合には(ステップ#21:No)、そのまま異常時車両走行制御を終了する。一方、回転電機12が動作異常を起こしていると判定された場合には(ステップ#21:Yes)、次に、入力クラッチCTが解放状態にあるか否かが判定される(ステップ#22)。入力クラッチCTが係合状態にある場合には(ステップ#22:No)、内燃機関11が停止中であるか否かが判定される(ステップ#33)。内燃機関11が駆動中と判定された場合は(ステップ#33:No)そのまま、内燃機関11が停止している場合は(ステップ#33:Yes)スタータ27により内燃機関11を始動してから(ステップ#34)、アイドルストップ機能を機能停止させて内燃機関11の停止を禁止する(ステップ#35)。その後、内燃機関制御部31が車両の走行状態に応じて内燃機関11を制御して車両を走行させる異常時走行制御を実行して(ステップ#36)、異常時車両走行制御を終了する。なお、上記の異常時走行制御は、車両の駆動力源として内燃機関のみを備えた、いわゆる通常のエンジン車両における内燃機関の制御と同様の制御である。
【0090】
ステップ#22の判断において、入力クラッチCTが解放状態にある場合には(ステップ#22:Yes)、内燃機関11が停止中であるか否かが判定される(ステップ#23)。内燃機関11が停止している場合は(ステップ#23:Yes)、スタータ27により内燃機関11を始動する(ステップ#24)。次に、油圧制御装置23は、入力クラッチCTへ供給する循環油圧を、回転電機12の正常動作時における循環油圧よりも低下させる(ステップ#25)。次に、入力クラッチCTを介して伝達される内燃機関11のトルクにより駆動される回転電機12のロータ12bの回転速度が、内燃機関11のアイドル回転数に略等しくなったか否かが判定される(ステップ#26)。回転電機12の回転速度がアイドル回転数に略等しくなると(ステップ#26:Yes)、油圧制御装置23は、作動油を入力クラッチCTの第一作動油室47に供給して(ステップ#27)、作動油圧により入力クラッチCTを係合状態とする。その後、アイドルストップ機能を機能停止させて内燃機関11の停止を禁止し(ステップ#28)、異常時走行制御を実行して(ステップ#36)、異常時車両走行制御を終了する。
【0091】
ステップ#23の判断において、内燃機関11が駆動中と判定された場合には(ステップ#23:No)、まずアイドルストップ機能を機能停止させて内燃機関11の停止を禁止する(ステップ#29)。その後、油圧制御装置23は、入力クラッチCTへ供給する循環油圧を、回転電機12の正常動作時における循環油圧よりも低下させる(ステップ#30)。次に、入力クラッチCTを介して内燃機関11のトルクにより駆動される回転電機12のロータ12b回転速度が、内燃機関11のアイドル回転数に略等しくなったか否かが判定される(ステップ#31)。回転電機12の回転速度がアイドル回転数に略等しくなると(ステップ#31:Yes)、作動油を入力クラッチCTの第一作動油室47に供給して(ステップ#32)、作動油圧により入力クラッチCTを係合状態とする。その後、異常時走行制御を実行して(ステップ#36)、異常時車両走行制御を終了する。
【0092】
6−3.弁開閉位相制御の手順
次に、本実施形態に係る弁開閉位相制御の処理手順について説明する。弁開閉位相制御においては、図10に示すように、まず、内燃機関11が停止されるか否かが判定される(ステップ#41)。内燃機関11が駆動状態を維持すると判定された場合には(ステップ#41:No)、弁開閉位相制御部35は、最進角位相と最遅角位相との間で、内燃機関11の状態に応じて吸気弁及び排気弁の開閉位相を調節する通常走行時位相制御を実行して(ステップ#51)、弁開閉位相制御を終了する。一方、内燃機関11が停止する場合には(ステップ#41:Yes)、弁開閉位相制御部35は内燃機関11の吸気弁の開閉位相を最遅角位相とする(ステップ#42)。回転電機12の回転速度が低下して、やがて解放閾値Vs以下の状態となると(ステップ#43:Yes)、弁開閉位相制御部35は内燃機関11の吸気弁の開閉位相を最進角位相とする(ステップ#44)。
【0093】
この状態で、上記で説明した本実施形態に係る車両発進制御が実行される。すなわち、発進予備操作検出部36により、運転者による所定の発進予備操作が監視され(ステップ#45)、運転者による発進予備操作の検出(ステップ#45:Yes)をトリガーとして回転電機12を回転させ、オイルポンプ22により発生される循環油圧により皿バネ44の付勢力を相殺して入力クラッチCTを解放させる制御が実行される。また、車両発進制御の実行に伴う回転電機12の回転速度の上昇中は、回転電機12の回転速度が第一目標速度Vt1以上であるか否かが判定される(ステップ#46)。本例では、第一目標速度Vt1は解放閾値Vsと等しい値に設定されている(Vt1=Vs=V1)。回転電機12の回転速度が第一目標速度Vt1以上となると(ステップ#46:Yes)、その時点を始点とする所定の遅延時間Tdが経過したか否かが判定される(ステップ#47)。そして、遅延時間Tdが経過した後(ステップ#47:Yes)、内燃機関11の始動に備えて、弁開閉位相制御部35は内燃機関11の吸気弁の開閉位相を最遅角位相とする(ステップ#48)。その後、内燃機関11が所定の始動条件を満たした後(ステップ#49:Yes)、内燃機関11が始動される(ステップ#50)。その後、弁開閉位相制御部35は通常走行時位相制御を実行して(ステップ#51)、弁開閉位相制御を終了する。
【0094】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係るハイブリッド駆動装置の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される特徴構成は、その実施形態でのみ適用されるものではなく、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される特徴構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0095】
(1)上記の実施形態においては、発進動作制御において、回転電機制御部32が、回転電機12の回転速度を第一目標速度Vt1、第二目標速度Vt2の順に段階的に大きくするように、当該回転電機12の回転速度を制御する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば回転電機制御部32が、運転者による発進予備操作が検出された後、直ちに回転電機12の回転速度を第二目標速度Vt2とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合におけるタイムチャートを図11に示している。この図11のタイムチャートには、時刻T25〜T26において回転電機12の回転速度が急速に第二目標速度Vt2まで上昇されている様子が示されている。この例の場合であっても、実際に車両が発進し始める時刻T28では、既に入力クラッチCTは解放状態とされ、回転電機12が出力するクリープトルクの全部が車輪17側へ伝達される状態となっている。よって、車両の発進後に車輪17側へ伝達されるトルクは大きく変動することなく一定に保たれるので、車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することができる。
【0096】
(2)上記の実施形態においては、発進動作制御において、車両の停止中に弁開閉位相制御部35が吸気弁の開閉位相を最進角位相まで進角させた最進角状態とする場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、吸気弁の開閉位相が少なくとも所定の基準位相としての最遅角位相よりも進角されていれば、弁開閉位相制御部35が、吸気弁の開閉位相を最遅角位相と最進角位相との間の任意の位相まで進角させた進角状態とする構成としても良い。この場合であっても、内燃機関11の被駆動トルクを少なくとも最遅角位相における被駆動トルクよりも大きくすることができるので、回転電機12を回転駆動して入力クラッチCTを解放させる際に、より確実に内燃機関11をそのまま停止状態に維持することができる。よって、車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することができる。なお、図11のタイムチャートに示すように、発進動作制御において弁開閉位相制御を一切行わない構成とすることも可能である。
【0097】
(3)上記の実施形態においては、変速装置13がトルクコンバータ14と変速機構15とを備えて構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置13は、係合状態で発進用変速段を形成する発進用係合要素を含む複数の係合要素を備えていれば良く、入力部材としての駆動伝達部材Tが、トルクコンバータ14を介することなく直接的に変速機構15に駆動連結された構成のハイブリッド駆動装置とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0098】
(4)上記の実施形態においては、発進予備操作検出部36が、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作を検出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、必ずしもマスターシリンダ液圧ではなく、少なくともブレーキ機構24に備えられるブレーキペダル25に連動するその他の操作圧に基づいて発進予備操作を検出する構成とすることができる。また、例えば発進予備操作検出部36が、ストローク位置検出センサSe5により検出されるブレーキペダル25のストローク位置に基づいて発進予備操作を検出する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、例えば発進予備操作検出部36は、ブレーキペダル25の解放操作に伴ってブレーキペダル25のストローク位置が予め設定された位置に到達した場合に、発進予備操作を検出したと判定する構成とすることができる。また、例えば発進予備操作検出部36が、ストローク位置検出センサSe5により検出されるブレーキペダル25のストローク位置から、ブレーキペダル25の解放操作に伴うストローク変化量を導出し、当該ストローク変化量に基づいて発進予備操作を検出する構成とすることも可能である。また、上記で説明した複数の指標のうち、2つ以上の指標の組み合わせに基づいて発進予備操作を検出する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0099】
(5)上記の実施形態においては、第一目標速度Vt1及び解放閾値Vsが、いずれも循環油圧を発生させるために必要となるオイルポンプ22のインナロータの回転速度として設定されていることから、これらが等しい値に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、それぞれオイルポンプ22のインナロータを回転駆動させて入力クラッチCTを解放させるための循環油圧を発生させることができるだけの回転速度であれば、第一目標速度Vt1と解放閾値Vsとが異なる値に設定された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0100】
(6)上記の実施形態においては、制御ユニット30が内燃機関制御部31、制御回転電機部32、及び弁開閉位相制御部35を備え、この単一の制御ユニット30が内燃機関11の動作制御、回転電機12の動作制御、並びに弁開閉位相調節機構28を介した内燃機関11の吸気弁及び排気弁の開閉位相調節制御を行うように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、これらのうちの一又は二以上の機能部が、上記の実施形態における制御ユニット30から分離され、当該制御ユニット30と協調して動作可能な別の制御ユニットに備えられて構成されることも、本発明の好適な実施形態の一つである。例えば、内燃機関11を制御する制御ユニット、回転電機12を制御する制御ユニット、及び弁開閉位相調節機構28を制御する制御ユニットをそれぞれ個別に備え、これらの各制御ユニットが互いに協調して動作する構成を採用することができる。この場合、これらの各制御ユニットが協働して、本発明における「制御装置」を構成する。
【0101】
(7)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載された構成及びこれと均等な構成を備えている限り、特許請求の範囲に記載されていない構成の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも回転電機及び変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 ハイブリッド駆動装置
11 内燃機関
12 回転電機
13 変速装置
22 オイルポンプ
24 ブレーキ機構
25 ブレーキペダル
26 マスターシリンダ
30 制御ユニット(制御装置)
38 フェール判定部(フェール判定手段)
43 第一ピストン(ピストン)
44 皿バネ(弾性部材)
45 摩擦材
T 駆動伝達部材(入力部材)
O 出力軸(出力部材)
CT 入力クラッチ
C1 第一クラッチ
Se4 液圧検出センサ
Se5 ストローク変位量検出センサ
Vt1 第一目標速度
Vt2 第二目標速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも回転電機及び変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも回転電機及び変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置として、例えば下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。このハイブリッド駆動装置は、いわゆる1モータパラレルタイプのハイブリッド駆動装置として構成されており、動力伝達経路上で内燃機関(エンジン)と回転電機(モータ)との間に入力クラッチ(クラッチ機構16)を備えている。ここで、特許文献1の装置が有する入力クラッチは、その一形態においていわゆるノーマルクローズタイプのクラッチとして構成されており(特許文献1の図1等を参照)、他の一形態においていわゆるノーマルオープンタイプのクラッチとして構成されている(特許文献1の図2等を参照)。
【0003】
ここで、前者のノーマルクローズタイプの入力クラッチは、当該入力クラッチに備えられる弾性部材(板バネ17)の押付け力により複数の摩擦材(摩擦要素)同士が押圧されて、クラッチ操作を行っていない常態において係合状態とされる構成となっている。そして、特許文献1のハイブリッド駆動装置は、当該ハイブリッド駆動装置の内部に備えられた機械式のオイルポンプとは別に、独立して動作する電動オイルポンプを備えており、当該電動オイルポンプから吐出される油の油圧により作動する第1ピストン20及び第2ピストン22により弾性部材が複数の摩擦材から離間され、入力クラッチが解放状態とされる。そして、この入力クラッチの解放状態で、電動走行モードで車両を発進させることができる。これにより、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関の引き摺りを回避して、エネルギ効率を向上させることが可能となっている。
【0004】
一方、後者のノーマルオープンタイプの入力クラッチは、クラッチ操作を行っていない常態において解放状態とされる構成となっている。そして、上記と同様の電動オイルポンプから吐出される油の油圧により作動する第1ピストン20及び第2ピストン22により複数の摩擦材が圧接され、入力クラッチが係合状態とされる。このノーマルオープンタイプの入力クラッチを用いた場合には、クラッチ操作を行っていない常態で、電動走行モードで車両を発進させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−137406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の装置のように入力クラッチを解放又は係合させるための電動オイルポンプ等の油圧源を別途備える構成とすると製造コストが大幅に増大してしまう。そこで、低コスト化を図るため、例えば入力部材により駆動される機械式のオイルポンプを備える構成とし、回転電機のトルクにより入力部材を駆動して、当該入力部材により駆動されるオイルポンプから吐出される油の油圧により入力クラッチを解放させ又は係合させる構成を採用することも考えられる。しかしこの場合、ノーマルオープンタイプの入力クラッチでは、当該入力クラッチに油圧が供給されていない状態ではオイルポンプを駆動するための駆動力源は回転電機のみとなってしまうので、例えば回転電機が故障して動作しなくなった場合には、入力クラッチを係合することができず内燃機関のトルクを出力部材側へ伝達できないために、車両を発進させることができなくなってしまう。また、ノーマルクローズタイプの入力クラッチでは、回転電機がトルクを出力して車両を発進させつつ、当該回転電機のトルクによりオイルポンプを駆動して電動走行のために入力クラッチを係合状態から解放状態へと切り替えると、ドライバビリティ(走行快適性、運転のしやすさ)が悪化してしまうおそれがある。すなわち、車両の走行中に入力クラッチの係合状態で回転電機のトルクの一部が出力部材側へ伝達されると共に他の一部が入力クラッチを介して内燃機関に伝達される状態から、入力クラッチが解放されて回転電機のトルクの全部が出力部材側へ伝達される状態となると、その時点において出力部材側へ伝達されるトルクが変動してショックが発生するおそれがある。
【0007】
そこで、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関の引き摺りを低コストに回避することを可能としつつ、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させることが可能であり、更に車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することが可能なハイブリッド駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る、回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、前記入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、前記入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも前記回転電機及び前記変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置の特徴構成は、前記変速装置は、係合状態で発進用変速段を形成する発進用係合要素を含む複数の係合要素を有し、前記入力クラッチは、複数の摩擦材と、油圧により作動して前記複数の摩擦材同士を押圧するピストンと、所定の付勢力で前記ピストンを押圧方向に付勢する弾性部材と、を有すると共に、前記ピストンの反シリンダ側に循環油圧が供給されるように構成され、前記制御装置は、前記内燃機関の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作を検出したとき、前記回転電機を回転させて、前記オイルポンプにより前記弾性部材の付勢力を相殺して前記入力クラッチを解放させる前記循環油圧を発生させ、前記入力クラッチの解放後に前記発進用係合要素を係合させる点にある。
【0009】
なお、本願では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。
また、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0010】
本特徴構成においては、入力クラッチは、複数の摩擦材と油圧により作動して当該複数の摩擦材同士を押圧するピストンと所定の付勢力でピストンを押圧方向に付勢する弾性部材とを有して構成されている。そのため、入力クラッチに油圧が供給されていない状態でも、入力クラッチは弾性部材の付勢力によりトルクを伝達する。
上記の特徴構成によれば、制御装置は、内燃機関の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作が検出されたときは、回転電機を回転させて入力部材を介してオイルポンプを駆動する。オイルポンプが駆動されることにより、当該オイルポンプは循環油圧を発生させ、発生された循環油圧は入力クラッチが有するピストンの反シリンダ側に供給される。入力クラッチのピストンの反シリンダ側に供給された循環油圧は、ピストンに対する押圧方向への弾性部材の付勢力を相殺して入力クラッチを解放させるので、入力部材により駆動されるオイルポンプを利用して、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関の引き摺りを回避することができる。また、電動オイルポンプ等の他の油圧源を別途設ける必要がなくなるので、製造コストを低減することができる。
【0011】
また、上記の特徴構成では、制御装置は、そのような入力クラッチの解放動作を、変速装置が有する発進用係合要素を係合させるよりも前に行う。そのため、変速装置において発進用係合要素を係合させて発進用変速段を形成し、実際に車両が発進し始める時点では、既に入力クラッチは解放状態とされ、回転電機が出力するトルクの全部が出力部材側へ伝達される状態となっている。よって、電動走行モードでの車両の発進後に出力部材側へ伝達されるトルクが変動することがなく、ドライバビリティを良好に維持することができる。
【0012】
更に、上記の特徴構成によれば、入力クラッチに油圧が供給されていない状態でも入力クラッチは弾性部材の付勢力によりトルクを伝達するので、回転電機の回転によってのみならず、内燃機関の回転によっても入力クラッチを介して入力部材を駆動させることができる。そのため、回転電機の故障時にも、入力クラッチを介して内燃機関の回転を入力部材に伝達し、そこからオイルポンプや出力部材等に伝達することができる。よって、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させることができる。
【0013】
従って、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関の引き摺りを低コストに回避することを可能としつつ、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させることが可能であり、更に車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することが可能なハイブリッド駆動装置を提供することができる。
【0014】
ここで、前記制御装置は、前記回転電機の回転速度を、前記循環油圧を発生させるために必要となる第一目標速度、車両の発進時にクリープトルクを出力させるために必要となる第二目標速度、の順に段階的に大きくするように前記回転電機を制御し、前記回転電機の回転速度を前記第二目標速度とした後で前記発進用係合要素を係合させる構成とすると好適である。
【0015】
この構成によれば、回転電機の回転速度を第一目標速度とするように回転電機を制御することで、オイルポンプにより適切に循環油圧を発生させ、ピストンに対する押圧方向への弾性部材の付勢力を相殺して入力クラッチを適切に解放させることができる。また、その後、回転電機の回転速度を第二目標速度とするように回転電機を制御することで、回転電機にクリープトルクを出力させ、発進用変速段が形成されたときに適切に車両を発進させることができる。
また、この構成によれば、回転電機の回転速度は第二目標速度よりも低い第一目標速度に所定時間だけ維持される。よって、例えば運転者による発進予備操作が検出された後、実際に車両が発進する前に発進予備操作が解除された場合にも、必要以上に回転電機の回転速度が上昇するのを抑制することができる。従って、エネルギロスが発生したりドライバビリティが悪化したりするのを抑制することができる。
【0016】
また、前記回転電機の動作異常を判定するフェール判定手段を備え、前記制御装置は、前記回転電機の動作異常の発生が判定された場合には、前記内燃機関を始動し、前記弾性部材の付勢力により前記複数の摩擦材同士が押圧された前記入力クラッチを介して前記内燃機関のトルクを前記オイルポンプに伝達して当該オイルポンプを駆動し、発生する油圧により前記入力クラッチを係合させる構成とすると好適である。
【0017】
この構成によれば、例えば回転電機の故障に代表される回転電機の動作異常の発生が判定された場合には、内燃機関を始動することで、入力クラッチ及び入力部材を介して内燃機関の回転によってオイルポンプを駆動することができる。また、オイルポンプが駆動された後は、当該オイルポンプが吐出する油を入力クラッチに供給し、当該油の油圧によりピストンを作動させて複数の摩擦材同士を押圧して入力クラッチを係合状態とすることができる。よって、回転電機の故障時においても適切に車両を発進させて車両を走行させることができる。
【0018】
また、前記制御装置は、前記入力クラッチの解放後であってかつ前記発進予備操作の終了前に前記発進用係合要素を係合させる構成とすると好適である。
【0019】
この構成によれば、発進予備操作の終了前に発進用係合要素を係合させて、早期に発進用変速段を形成することができる。よって、発進予備操作の終了後、比較的速やかに発進用変速段にて車両を発進させることができる。
【0020】
また、前記入力クラッチに油圧が供給されていない状態における前記弾性部材の付勢力の大きさが、前記入力クラッチを介して前記内燃機関のトルクを前記オイルポンプに伝達して当該オイルポンプを停止状態から駆動させることができ、かつ、前記入力クラッチを介して前記回転電機のトルクが前記内燃機関に伝達されたとしても停止状態にある前記内燃機関をそのまま停止状態に維持させることができる範囲内の大きさとなるように、予め設定されている構成とすると好適である。
【0021】
この構成によれば、入力クラッチを介して内燃機関のトルクをオイルポンプに伝達して、当該オイルポンプを停止状態から確実に駆動させることができるので、回転電機の故障時においてもオイルポンプにより油圧を発生させ、当該発生される油圧により入力クラッチを係合状態とすることができる、よって、確実に車両を発進させ、車両を走行させることができる。
また、弾性部材の付勢力により摩擦材同士が押圧された状態の入力クラッチを介して回転電機のトルクが内燃機関に伝達されたとしても、停止状態にある内燃機関を確実にそのまま停止状態に維持させることができるので、電動走行モードでの車両の発進時に、回転電機の回転に内燃機関が引き摺られるのを抑制することができる。よって、内燃機関の回転に伴う振動の発生等を抑制して、ドライバビリティが悪化するのを抑制することができる。
【0022】
また、車両に備えられるブレーキ機構が有するブレーキペダルのストローク位置を検出するストローク位置検出手段、及び前記ブレーキペダルの操作圧を検出する操作圧検出手段、のうちの少なくとも一方を備え、前記制御装置は、前記ストローク位置及び前記操作圧の少なくとも一方に基づいて前記発進予備操作を検出する構成とすると好適である。
【0023】
車両が停車している状態では、車両に備えられるブレーキ機構が有するブレーキペダルが大きく踏み込まれていることが一般的であり、車両の発進前には当該ブレーキペダルの踏み込み量は低減されることになる。ブレーキペダルの踏み込み量の低減に伴って、ブレーキペダルのストローク位置やブレーキペダルの操作圧もそれぞれ変化する。
この構成によれば、ストローク位置検出手段により検出されるブレーキペダルのストローク位置及び操作圧検出手段により検出されるブレーキペダルの操作圧の少なくとも一方に基づいて、ブレーキペダルの踏み込み量の低減を検出し、これにより発進予備操作を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る変速機構の構成を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係る各変速段での複数の係合要素の作動状態を示す作動表である。
【図4】本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の部分断面図である。
【図5】本実施形態に係る制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【図6】本実施形態に係る回転電機正常動作時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。
【図7】本実施形態に係る回転電機動作異常時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。
【図8】本実施形態に係る車両発進制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】本実施形態に係る回転電機異常時における車両走行制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施形態に係る弁開閉位相制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】その他の実施形態に係る回転電機正常動作時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るハイブリッド駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。ハイブリッド駆動装置1は、車両の駆動力源として内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方を用いるハイブリッド車両用の駆動装置である。このハイブリッド駆動装置1は、いわゆる1モータパラレルタイプのハイブリッド駆動装置として構成されている。
【0026】
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、図1に示すように、回転電機12に駆動連結されると共に入力クラッチCTを介して内燃機関11に駆動連結される駆動伝達部材Tと、駆動伝達部材Tの回転を変速して出力軸Oに伝達する変速装置13と、駆動伝達部材Tにより駆動される機械式のオイルポンプ22と、を備えている。また、ハイブリッド駆動装置1は、少なくとも回転電機12及び変速装置13の制御を行う制御ユニット30(図5を参照)を備えている。このような構成において、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、入力クラッチCTにおけるトルク伝達形態、及び車両の発進時における入力クラッチCT及び変速装置13の制御内容に特徴を有する。
【0027】
すなわち、図4に示すように、入力クラッチCTは、複数の摩擦材45と、油圧により作動して複数の摩擦材45同士を押圧する第一ピストン43と、所定の付勢力で第一ピストン43を押圧方向に付勢する弾性部材としての皿バネ44とを有すると共に、第一ピストン43の反シリンダ側の第一循環油室48に循環油圧が供給されるように構成されている。また、制御ユニット30は、内燃機関11の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作を検出したとき、回転電機12を回転させて、オイルポンプ22により皿バネ44の付勢力を相殺して入力クラッチCTを解放させる循環油圧を発生させ、入力クラッチCTの解放後に変速装置13(変速機構15)に備えられる第一クラッチC1を係合させる(図6を参照)。これらの特徴的な構成の組み合わせにより、電動走行モードで車両を発進させる際の内燃機関11の引き摺りを低コストに回避することを可能としつつ、回転電機12の故障時においても適切に車両を発進させることが可能であり、更に車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することが可能なハイブリッド駆動装置1が実現されている。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1について、詳細に説明する。
【0028】
1.ハイブリッド駆動装置の全体構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の全体構成について説明する。図1に示すように、このハイブリッド駆動装置1は、車両の第一の駆動力源としての内燃機関11に駆動連結される入力軸Iと、車輪17に駆動連結される出力軸Oと、車両の第二の駆動力源としての回転電機12と、変速装置13としてのトルクコンバータ14及び変速機構15と、出力用差動歯車装置16と、を備えている。また、ハイブリッド駆動装置1は、回転電機12及び内燃機関11の駆動力をトルクコンバータ14に伝達する駆動伝達部材Tと、内燃機関11と回転電機12との間の駆動力の断接を行う入力クラッチCTと、を備えている。これらの各構成は、ケース2内に収容されている。本実施形態においては、駆動伝達部材Tが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。
【0029】
内燃機関11は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す装置であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の各種エンジンを用いることができる。ここでは図示はしていないが、内燃機関11には、吸気路を通って供給される燃料と空気との混合気を当該内燃機関11の燃焼室に導入するための吸気弁と、混合気が燃焼した後の燃焼ガス及び未燃ガスを燃焼室から排気路へと排出するための排気弁と、が設けられている。本例では、内燃機関11のクランクシャフト等の内燃機関出力軸EoがダンパDを介して入力軸Iに駆動連結されている。また、入力軸Iは入力クラッチCTを介して駆動伝達部材Tに駆動連結されており、入力軸Iは入力クラッチCTにより選択的に駆動伝達部材Tに駆動連結される。すなわち、入力クラッチCTの係合状態では内燃機関11は駆動伝達部材Tに駆動連結され、入力クラッチCTの解放状態では内燃機関11は駆動伝達部材Tから分離される。
【0030】
内燃機関11に隣接して、スタータ27が設けられている。スタータ27は、直流モータ等で構成され、蓄電装置としてのバッテリ21に電気的に接続されている。なお、蓄電装置としてキャパシタ等を用いても好適である。スタータ27は、例えば回転電機12の非動作中(故障中を含む)に、内燃機関11が停止された状態でバッテリ21から供給される電力により駆動されて内燃機関出力軸Eoを回転させ、内燃機関11を始動させることができるように構成されている。
【0031】
また、本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置1が搭載された車両には、内燃機関11が有する吸気弁及び排気弁の一方又は双方の開閉位相を調節するための弁開閉位相調節機構28(図1においては、「VVT」と表示)が備えられている。弁開閉位相調節機構28は、内燃機関出力軸Eo(クランクシャフト)と吸気弁を開閉駆動するための吸気弁用カムシャフトとの間の位相差を調整することにより、吸気弁の開閉位相を調節する。ここで、「内燃機関出力軸Eoと吸気弁用カムシャフトとの間の位相差」とは、内燃機関出力軸Eoの周方向の特定部位の回転位相に注目した場合において、当該特定部位の回転位相と、吸気弁用カムシャフトにおける当該特定部位に対応する部位の回転位相と、の間の位相差を意味する。本実施形態では、弁開閉位相調節機構28は、同様に、内燃機関出力軸Eo(クランクシャフト)と排気弁を開閉駆動するための排気弁用カムシャフトとの間の位相差を調整することにより、排気弁の開閉位相を調節する。
【0032】
弁開閉位相調節機構28は、内燃機関出力軸Eoと同期回転する駆動側回転部材と、吸気弁用カムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、を備え、駆動側回転部材と従動側回転部材との間の位相差を所定の可動範囲内で調節可能に構成されている。そして、駆動側回転部材に対して従動側回転部材を進角させ、これにより内燃機関出力軸Eoに対して吸気弁用カムシャフトを進角させることで、吸気弁の開弁位相及び閉弁位相を進角させることができる。一方、駆動側回転部材に対して従動側回転部材を遅角させ、これにより内燃機関出力軸Eoに対して吸気弁用カムシャフトを遅角させることで、吸気弁の開弁位相及び閉弁位相を遅角させることができる。また、弁開閉位相調節機構28は、内燃機関出力軸Eoと同期回転する駆動側回転部材と、排気弁用カムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、を備え、駆動側回転部材と従動側回転部材との間の位相差を所定の可動範囲内で調節可能に構成されている。そして、駆動側回転部材に対して従動側回転部材を進角させ、これにより内燃機関出力軸Eoに対して排気弁用カムシャフトを進角させることで、排気弁の開弁位相及び閉弁位相を進角させることができる。一方、駆動側回転部材に対して従動側回転部材を遅角させ、これにより内燃機関出力軸Eoに対して排気弁用カムシャフトを遅角させることで、排気弁の開弁位相及び閉弁位相を遅角させることができる。ここで、「進角させる」とは、進角方向に変位させることを意味し、「遅角させる」とは、遅角方向に変位させることを意味するものとする。
【0033】
本実施形態においては、このような弁開閉位相調節機構28は、電動式の弁開閉位相調節機構とされている。すなわち、本実施形態に係る弁開閉位相調節機構28の駆動側回転部材と従動側回転部材との間の位相差の調節は、オイルポンプ22により発生される油圧によってではなく、電動モータ29が出力する直接的な駆動力によって行われる。そのため、電動モータ29はバッテリ21に電気的に接続されている。電動モータ29はバッテリ21から供給される電力により駆動されて、駆動側回転部材と従動側回転部材との間の位相差を調節する。本実施形態では、このような電動式の弁開閉位相調節機構28を採用したことにより、例えば入力軸Iの回転速度が低く、オイルポンプ22による油圧が十分に得られない場合等にも、吸気弁及び排気弁の開閉位相の調節を行うことが可能となっている。なお、本例では、吸気弁の開閉位相と排気弁の開閉位相とは独立して調節される構成となっている。
【0034】
回転電機12は、ケース2に固定されたステータ12aと、当該ステータ12aの径方向内側に回転自在に支持されたロータ12bとを有している。回転電機12は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果たすことが可能とされている。そのため、回転電機12は、バッテリ21と電気的に接続されている。回転電機12は、バッテリ21から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関11及び車輪17から伝達される駆動力により発電した電力をバッテリ21に供給して蓄電させる。回転電機12のロータ12bは、駆動伝達部材Tを介してトルクコンバータ14のポンプインペラ14aと一体回転するように駆動連結されている。また、回転電機12のロータ12bは、駆動伝達部材T及び入力クラッチCTを介して入力軸I及び内燃機関11に駆動連結されている。なお、駆動伝達部材Tは、入力軸Iの軸方向で回転電機12とトルクコンバータ14との間に配置された円筒状回転部材である。
【0035】
変速装置13の一部を構成するトルクコンバータ14は、駆動伝達部材Tの回転速度を変速して中間軸Mへ伝達すると共に、駆動伝達部材Tに伝達される内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを変換して中間軸Mに伝達する装置である。トルクコンバータ14は、回転電機12のロータ12bと一体回転するように駆動連結されたポンプインペラ14aと、中間軸Mと一体回転するように駆動連結されたタービンランナ14bと、これらの間に設けられたステータ14cと、を備えて構成されている。そして、トルクコンバータ14は、その内部に充填された油を介して、駆動側回転部材としてのポンプインペラ14aと従動側回転部材としてのタービンランナ14bとの間でトルク伝達を行うことが可能である。その際、駆動伝達部材Tの回転速度は所定の変速比で減速されると共にトルクが増幅されて中間軸Mに伝達される。
【0036】
トルクコンバータ14は、ロックアップクラッチCLを備えている。このロックアップクラッチCLは、トルクコンバータ14のロックアップ用の摩擦係合装置として機能する。ロックアップクラッチCLは、ポンプインペラ14aとタービンランナ14bとの間の滑り(スリップ)をなくして動力伝達効率を高めるため、ポンプインペラ14aとタービンランナ14bとを一体回転するように駆動連結させる。すなわち、このロックアップクラッチCLの係合状態では、トルクコンバータ14は、内部の油を介さずに内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを、駆動伝達部材T及び中間軸Mのみを介して直接的に変速機構15に伝達する。
【0037】
変速装置13の他の一部を構成する変速機構15は、中間軸Mの回転速度を所定の変速比で変速して出力軸Oへ伝達する装置である。このような変速機構15として、本実施形態においては、図2に示すように、複数の遊星歯車機構(第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2)と複数の係合要素(第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第一ブレーキB1、第二ブレーキB2、及びワンウェイクラッチF)とを有して構成された有段の自動変速装置が用いられている。ここで、本例では、各クラッチ及び各ブレーキは、ワンウェイクラッチFを除き、湿式多板クラッチ等の摩擦係合要素である。本実施形態では、図3に示すように、複数の係合要素のうちの2つを選択的に係合状態とすることにより、変速機構15が切替可能に備える前進6速及び後進1速の合計7つの変速段の中から、所望の変速段が形成される。このような変速機構15の構成は従来から公知であるのでここでは詳細な説明は省略するが、本実施形態では図3に示すように第一クラッチC1及びワンウェイクラッチFの係合状態で第1速段(1st)が形成される。なお、この第1速段(1st)は、停止状態にある車両が発進する際に形成される発進用の変速段(発進用変速段)とされている。従って、本実施形態においては、第一クラッチC1が本発明における「発進用係合要素」に相当する。
【0038】
変速機構15は、各時点において形成された変速段の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oへ伝達する。変速機構15から出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置16を介して左右二つの車輪17に分配されて伝達される。なお、本実施形態では、入力軸I、中間軸M、及び出力軸Oが同軸上に配置された一軸構成とされている。また、駆動伝達部材Tは、入力軸I、中間軸M、及び出力軸Oの径方向外側に、これらと同軸状に配置されている。
【0039】
2.油圧制御系の構成
次に、ハイブリッド駆動装置1の油圧制御系について説明する。図1に示すように、油圧制御系は、図示しないオイルパンに蓄えられた油を吸引し、ハイブリッド駆動装置1の各部に油を供給するための油圧源として、車両の駆動力源に機械的に駆動連結された機械式のオイルポンプ22を備えている。このようなオイルポンプ22としては、例えばギヤポンプやベーンポンプ等が好適に用いられる。本実施形態においては、オイルポンプ22として、インナロータとアウタロータとを有する内接型のギヤポンプが用いられている。本実施形態では、オイルポンプ22は、トルクコンバータ14のポンプインペラ14a及び駆動伝達部材Tを介して回転電機12に駆動連結され、更に入力クラッチCTを介して内燃機関11に駆動連結されている。オイルポンプ22のインナロータは、駆動伝達部材Tを介して車両の駆動力源としての内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方の駆動力により駆動され、これによりオイルポンプ22は油を吐出する。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1には、製造コストの低減を図るべく、車両の駆動力源とは独立して作動可能な電動ポンプ等の他の油圧源は備えられていない。
【0040】
また、油圧制御系は、オイルポンプ22から吐出される油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置23を備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置23は、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする油の量を調整して油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、トルクコンバータ14、及び変速機構15の複数の係合要素C1、C2、C3、B1、B2に供給される。
【0041】
ここで、本実施形態においては、油圧制御装置23から入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、複数の係合要素C1、C2、C3、B1、B2がそれぞれ有するシリンダ内に供給され、複数の摩擦材同士を押圧して摩擦係合させるためのピストンをシリンダ内で移動させるための油を、説明の便宜上「作動油」と称する。また、油圧制御装置23から入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、複数の係合要素C1、C2、C3、B1、B2がそれぞれ有するピストンに対して、シリンダとは反対側(反シリンダ側)に配置される複数の摩擦材の間を流通して当該複数の摩擦材の冷却を行い、或いは各種の軸受及びギヤ機構の潤滑を行うための油を、説明の便宜上「循環油」と称する。また、作動油の油圧を「作動油圧」と称し、循環油の油圧を「循環油圧」と称する。
【0042】
3.ハイブリッド駆動装置の具体的構成
次に、ハイブリッド駆動装置1の具体的構成について説明する。ここでは特に、動力伝達経路上で入力軸Iと中間軸Mとの間に配置される各部品に注目して、これらの構成について説明する。図4に示すように、ケース2内には少なくとも入力軸I、駆動伝達部材T、回転電機12、トルクコンバータ14、入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、及び中間軸Mが収容されている。
【0043】
入力軸Iと中間軸Mとは軸方向に並べて配置されている。軸方向で内燃機関11側となる入力軸Iの径方向外側に、回転電機12及び入力クラッチCTが配置されている。また、回転電機12の径方向内側であって当該回転電機12と軸方向に重複する位置に、入力クラッチCTが配置されている。本例では、入力クラッチCTの全体が、回転電機12と軸方向に重複して配置されている。回転電機12及び入力クラッチCTに対して軸方向で内燃機関11とは反対側に、トルクコンバータ14が配置されている。トルクコンバータ14は、中間軸Mの径方向外側であって、回転電機12と径方向に重複する位置に配置されている。軸方向で回転電機12及び入力クラッチCTとトルクコンバータ14との間に、ロックアップクラッチCLが配置されている。ロックアップクラッチCLは、入力クラッチCTと径方向に重複する位置に配置されている。なお、ここでは、2つの部材についてのある方向における「重複」とは、2つの部材のそれぞれが、当該方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有することを意味する。
【0044】
回転電機12のロータ12bは、少なくとも径方向に延びて当該ロータ12bを支持するように設けられたロータ支持部材61を有する。ロータ支持部材61は、径方向に延在する円環板状部と当該円環板状部の径方向外側に一体形成された円筒状部とを有して構成されている。ロータ12bは、ロータ支持部材61の径方向内側に配置された支持軸受65を介して、ケース2に対して回転自在に支持されている。軸方向でケース2とロータ支持部材61との間に、ロータ回転センサSe1が設けられている。このようなロータ回転センサSe1として、本例ではレゾルバを用いている。
【0045】
トルクコンバータ14は、少なくとも径方向に延びて当該トルクコンバータ14を支持するように設けられたトルコン支持部材63を有する。トルコン支持部材63は、軸方向でトルクコンバータ14よりも内燃機関11側を覆うように形成された椀状部材であり、本例では径方向の中央部に段差を有する段付椀状部材として構成されている。トルコン支持部材63は、径方向外側の端部でポンプインペラ14aと一体回転するように駆動連結されている。ロータ支持部材61とトルコン支持部材63とは、連結部材62を介して一体回転するように駆動連結されている。本例では、ロータ支持部材61と連結部材62との間、及びトルコン支持部材63と連結部材62との間、の双方がボルト等の締結部材64により締結固定されて一体化されている。本実施形態においては、ロータ支持部材61、連結部材62、トルコン支持部材63、及び締結部材64により本発明における「駆動伝達部材T」が構成されている。
【0046】
入力クラッチCTは、内燃機関11と回転電機12とを選択的に駆動連結する摩擦係合装置である。このような機能を実現するため、入力クラッチCTは、図4に示すように、複数の摩擦材45と、油圧により作動して複数の摩擦材45同士を押圧する第一ピストン43と、所定の付勢力で第一ピストン43を押圧方向に付勢する弾性部材としての皿バネ44と、を有して構成されている。ここで、「押圧方向」とは、油圧により作動する第一ピストン43が複数の摩擦材45同士を押圧させるように作用する方向である。本例では、この押圧方向は、入力軸I及び中間軸Mの軸方向における内燃機関11からトルクコンバータ14へ向かう方向に一致している。また、入力クラッチCTは、入力軸Iと一体回転するように連結された第一ハブ42と、連結部材62の一部として構成され、回転電機12及びポンプインペラ14aと一体回転するように駆動連結された第一ドラム41と、を備えている。なお、第一ドラム41はシリンダ状に形成された部分を有しており、当該シリンダ状部分を第一ピストン43が移動可能に構成されている。複数の摩擦材45は、第一ドラム41及び第一ハブ42に対してそれぞれ相対回転が規制されると共に軸方向にスライド自在に保持されている。更に、第一ドラム41と第一ピストン43との間には液密状態の第一作動油室47が形成され、この第一作動油室47には、ケース2内に形成された第一供給油路46を介して作動油が供給される。第一作動油室47内には、弾性部材としての皿バネ44が配置されており、第一作動油室47に作動油が供給されていない状態で、第一ピストン43は皿バネ44の付勢力により押圧方向に付勢されている。よって、この入力クラッチCTは、皿バネ44の付勢力により入力軸Iと駆動伝達部材Tとの間のトルク伝達が可能である。なお、第一作動油室47に作動油が供給されることによっても、作動油圧により複数の摩擦材45同士が摩擦係合されて、入力クラッチCTを介したトルク伝達が可能となる。また、第一ピストン43に対して第一作動油室47とは反対側(反シリンダ側、摩擦材45側)には、循環油が流通するための第一循環油室48が形成されている。
【0047】
本実施形態においては、皿バネ44の付勢力の大きさは、入力クラッチCTの第一作動油室47に作動油が供給されておらず、かつ第一循環油室48に循環油が供給されていない状態で、所定範囲内の大きさとなるように予め設定されている。ここで、「所定範囲内の大きさ」は、以下に説明する第一制限閾値L1以上、かつ、第二制限閾値L2以下となる範囲である。
【0048】
本例では、第一制限閾値L1は、作動油圧及び循環油圧の双方が供給されていない状態で、入力クラッチCTを介して内燃機関11のトルクをオイルポンプ22に伝達して、当該オイルポンプ22を停止状態から駆動させることができるような付勢力(荷重)の下限値とされている。本実施形態では、このような第一制限閾値L1は、回転電機12及びトルクコンバータ14のイナーシャトルク、オイルポンプ22による損失トルク、並びに回転電機12によるトルクリップル、に基づいて設定される。回転電機12及びトルクコンバータ14のイナーシャトルクは、停止している状態の回転電機12のロータ12a及びトルクコンバータ14のポンプインペラ14aを所定の回転速度で回転させるために外部から供給する必要があるトルクであり、ロータ12a及びポンプインペラ14aのイナーシャ、これらの回転速度、並びに予め設定された入力クラッチCTの引き摺り時間に基づいて定まる。オイルポンプ22による損失トルクは、内部に充填されている油の粘性抵抗に抗してオイルポンプ22を駆動させるために外部から供給する必要があるトルクであり、油温等に応じて変動する。回転電機12によるトルクリップルは、内燃機関11のトルクにより駆動される回転電機12による回生トルク(負荷トルク)の、想定される脈動分である。そして、これら回転電機12及びトルクコンバータ14のイナーシャトルク、オイルポンプ22による損失トルク、並びに回転電機12によるトルクリップルの和に対応する付勢力(荷重)の大きさとして、第一制限閾値L1が規定される。
【0049】
また、第二制限閾値L2は、作動油圧及び循環油圧の双方が供給されていない状態で、入力クラッチCTを介して回転電機12のトルクが内燃機関11に伝達されたとしても停止状態にある内燃機関11をそのまま停止状態に維持させることができるような付勢力(荷重)の上限値とされている。ここでは特に、内燃機関11が有する吸気弁及び排気弁の開閉位相が所定の可動範囲内で最大限遅角された状態(最遅角状態)における上限値として、第二制限閾値L2が設定されている。本実施形態では、このような第二制限閾値L2は、内燃機関11の内燃機関出力軸Eo(クランクシャフト等)をクランキングさせるために外部から供給する必要があるトルク(クランキングトルク)の下限値に基づいて設定されている。ここで、上記クランキングトルクは、内燃機関出力軸Eoのイナーシャトルクや内燃機関出力軸Eoが回転する際の摺動抵抗等に基づいて定まる。そして、上記クランキングトルクの大きさに対応する付勢力(荷重)の大きさとして、第二制限閾値L2が規定される。
【0050】
ロックアップクラッチCLは、トルクコンバータ14のポンプインペラ14aとタービンランナ14bとを選択的に駆動連結する摩擦係合装置である。このような機能を実現するため、ロックアップクラッチCLは、図4に示すように、タービンランナ14bと一体回転するように連結された第二ドラム52と、トルコン支持部材63及びポンプインペラ14aと一体回転するように連結された第二ハブ51と、第二ピストン53と、を備えている。なお、第二ハブ51に連結されるトルコン支持部材63はシリンダ状に形成された部分を有しており、当該シリンダ状部分を第二ピストン53が移動可能に構成されている。また、ロックアップクラッチCLは、第二ハブ51及び第二ドラム52に対してそれぞれ相対回転が規制されると共に軸方向にスライド自在に保持された複数の摩擦材55を備えている。更に、トルコン支持部材63と第二ピストン53との間には液密状態の第二作動油室57が形成され、この第二作動油室57には、中間軸Mの内径部に形成された第二供給油路56を介して作動油が供給される。また、第二ピストン53よりも第二ドラム52側には、循環油が流通するための第二循環油室58が形成されている。第二循環油室58内には、リターンスプリング54が配置されており、第二作動油室57に作動油が供給されていない状態で、第二ピストン53はリターンスプリング54の付勢力により摩擦材55とは反対側(シリンダ側、第二作動油室57側)に付勢されている。そして、第二作動油室57に作動油が供給されることにより、作動油圧により複数の摩擦材55同士が摩擦係合されて、ロックアップクラッチCLを介したトルク伝達が可能となる。
【0051】
4.制御ユニットの構成
次に、本実施形態に係る制御ユニット30の構成について説明する。制御ユニット30は、図5に示すように、ハイブリッド駆動装置1の各部の動作制御を行う中核部材としての機能を果たしている。この制御ユニット30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御ユニット30の各機能部31〜38が構成される。これらの各機能部31〜38は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、このハイブリッド駆動装置1は、各機能部31〜38による各機能を適切に実現可能とするため、車両の各部に設けられた複数のセンサSe1〜Se5を備えている。以下では、制御ユニット30の各機能部31〜38について、詳細に説明する。なお、本実施形態においては、制御ユニット30の各機能部31〜38が協働して、本発明における「制御装置」を構成している。
【0052】
ロータ回転センサSe1は、回転電機12のステータ12aに対するロータ12bの回転位置を検出するセンサである。本例では、このロータ回転センサSe1により検出されるロータ12bの回転位置の情報に基づいて、当該ロータ12bの回転速度を検出するように構成されている。また、本実施形態では、回転電機12のロータ12bとオイルポンプ22のインナロータとが駆動電動部材T及びポンプインペラ14aを介して一体回転するように駆動連結されているので、ロータ回転センサSe1により検出される回転速度は、オイルポンプ22のインナロータの回転速度に等しい。車速センサSe2は、車速を検出するセンサであり、本実施形態では出力軸Oの回転速度を検出することにより車速を検出する。アクセル開度検出センサSe3は、不図示のアクセルペダルの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するセンサである。液圧検出センサSe4は、車両に備えられるブレーキ機構24(図1を参照)が有するブレーキペダル25の操作圧として把握可能な、当該ブレーキペダル25に連動するマスターシリンダ26により得られるマスターシリンダ液圧を検出するセンサである。ストローク位置検出センサSe5は、ブレーキペダル25のストローク位置を検出するセンサである。本実施形態においては、液圧検出センサSe4が本発明における「操作圧検出手段」に相当し、ストローク位置検出センサSe5が本発明における「ストローク位置検出手段」に相当する。これらの各センサSe1〜Se5による検出結果を示す情報は、制御ユニット30へ出力される。
【0053】
内燃機関制御部31は、内燃機関11の動作制御を行なう機能部である。内燃機関制御部31は、内燃機関制御手段として機能する。内燃機関制御部31は、内燃機関動作点を決定し、当該内燃機関動作点で内燃機関11を動作させるように制御する処理を行う。ここで、内燃機関動作点は、内燃機関11の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、内燃機関動作点は、車両要求出力と最適燃費とを考慮して決定される内燃機関11の制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、内燃機関制御部31は、内燃機関動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するように内燃機関11を制御する。
【0054】
本実施形態においては、内燃機関制御部31は、所定のアイドル停止条件が成立したときに内燃機関11への燃料供給を停止して、内燃機関11を停止させるいわゆるアイドルストップ機能を実現可能に構成されている。このアイドルストップ中は、車両の主電源はオンとされたままの走行可能な状態で内燃機関11が停止状態とされる。つまり、車両が走行している状態で内燃機関11が停止状態とされるか、或いは、車両が停車している状態で内燃機関11が停止状態とされる。ここで、アイドル停止条件は、内燃機関11の回転速度やアクセル開度、車速等に基づいて予め定められている。なお、内燃機関制御部31は、アイドル停止条件が成立しなくなったときに内燃機関11への燃料供給を再開して、内燃機関11を始動させる制御も行なう。
【0055】
回転電機制御部32は、回転電機12の動作制御を行なう機能部である。回転電機制御部32は、回転電機制御手段として機能する。回転電機制御部32は、回転電機動作点を決定し、当該回転電機動作点で回転電機12を動作させるように制御する処理を行う。ここで、回転電機動作点は、回転電機12の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、回転電機動作点は、車両要求出力と内燃機関動作点とを考慮して決定される回転電機12の制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、回転電機制御部32は、回転電機動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するように回転電機12を制御する。また、回転電機制御部32は、バッテリ24から供給される電力により回転電機12に駆動力を発生させる状態と、内燃機関11の回転駆動力により回転電機12に発電させる状態とを切り替える制御も行なう。回転電機制御部32は、更に、後述する発進制御部37からの指令に従い、車両の発進動作制御の一端を担う。
【0056】
目標変速段決定部33は、変速機構15における目標変速段を決定する機能部である。目標変速段決定部33は、目標変速段決定手段として機能する。目標変速段決定部33は、車両のアクセル開度及び車速に基づいて目標変速段を決定する。ここで、アクセル開度の情報はアクセル開度検出センサSe3により検出されて取得され、車速の情報は車速センサSe2により検出されて取得される。制御ユニット30は、不図示のメモリ等に所定の変速マップを格納して備えている。変速マップは、アクセル開度及び車速に基づくシフトスケジュールを設定したマップである。目標変速段決定部33は、この変速マップと車両のアクセル開度及び車速とに基づいて、各時点で変速機構15において形成されるべき目標変速段を決定する。
【0057】
切替制御部34は、目標変速段決定部33により決定された目標変速段に変更があった場合に、変速機構15において形成される変速段を切り替える制御を行う機能部である。切替制御部34は、切替制御手段として機能する。切替制御部34は、目標変速段決定部33により決定された目標変速段に基づいて、各係合要素C1、C2、C3、B1、B2の係合及び解放(係合解除)を制御することにより、変速機構15において形成される変速段を切り替える。本実施形態では、切替制御部34は、決定された目標変速段に応じた2つの係合要素(図3を参照)に油圧制御装置23を介して作動油を供給して当該係合要素を係合状態とし、目標変速段を形成する制御を行なう。なお、車速及びアクセル開度が変化して、目標変速段決定部33が目標変速段を変更すると、切替制御部34は、新たに決定された目標変速段に応じた2つの係合要素に作動油を供給して当該係合要素を係合状態とし、新たな目標変速段を形成する。また、切替制御部34は、アイドルストップ時に、変速機構15の各係合要素C1、C2、C3、B1、B2の全てを解放させる制御も行う。切替制御部34は、更に、後述する発進制御部37からの指令に従い、車両の発進動作制御の一端を担う。
【0058】
弁開閉位相制御部35は、内燃機関11の吸気弁及び排気弁の開閉位相を調節制御する機能部である。弁開閉位相制御部35は、弁開閉位相制御手段として機能する。弁開閉位相制御部35は、弁開閉位相調節機構28を介して、内燃機関11の吸気弁及び排気弁の開閉位相を、所定の可動範囲内で進角又は遅角させるように制御する。ここで、「開閉位相を進角させる」とは、弁開閉位相調節機構28が有する駆動側回転部材に対して従動側回転部材を進角させ、吸気弁の開弁時期及び閉弁時期を早めることを意味する。一方、「開閉位相を遅角させる」とは、弁開閉位相調節機構28が有する駆動側回転部材に対して従動側回転部材を遅角させ、吸気弁の開弁時期及び閉弁時期を遅らせることを意味する。また、弁開閉位相制御部35は、車両の通常走行時には、可動範囲内で吸気弁及び排気弁の開閉位相を内燃機関11の状態に応じて適切な位相とするように調節する通常走行時位相制御を行なう。
【0059】
本実施形態においては、弁開閉位相制御部35は、アイドル停止条件が成立した場合には、弁開閉位相調節機構28を介して、内燃機関11の吸気弁の開閉位相を可動範囲内で最大限遅角された位相(最遅角位相)とするように制御する。これにより、弁開閉位相調節機構28により、いわゆるデコンプレッション機能が実現される。このデコンプレッション機能の実現時には、内燃機関11の圧縮工程においてシリンダ内の圧力が開放されて圧力上昇が抑えられ、これによりシリンダ内の圧力変動が小さく抑えられる。よって、アイドルストップ時に実際に内燃機関11を停止させ、或いは、内燃機関11の停止状態から内燃機関11を再始動させる際の振動の発生を抑制することができる。また、内燃機関11を始動させるために必要となるエネルギ量を低減することができる。弁開閉位相制御部35は、更に、後述する発進制御部37からの指令に従い、車両の発進動作制御の一端を担う。
【0060】
発進予備操作検出部36は、車両が停止している場合において運転者による所定の発進予備操作を検出する機能部である。発進予備操作検出部36は、発進予備操作検出手段として機能する。ここで、「発進予備操作」とは、停止状態にある車両を発進させるために行われる、実際の発進前における車両の運転者の予備的な操作を意味する。本実施形態においては、発進予備操作検出部36は、停止状態にある車両の発進に先立って行われる、運転者によるブレーキペダル25の解放操作を、発進予備操作として検出する。発進予備操作検出部36は、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作を検出する。より具体的には、発進予備操作検出部36は、ブレーキペダル25の解放操作に伴ってマスターシリンダ液圧が所定量だけ低下した場合に、発進予備操作を検出したと判定する。この場合における「所定量」は、例えば、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の20〜50%に相当する分の液圧とすることができる。言い換えれば、発進予備操作検出部36は、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の50〜80%に相当する第一液圧P1まで低下した場合に、発進予備操作を検出したと判定する。発進予備操作の検出は、次に述べる車両の発進動作制御のトリガーとなる。
【0061】
本実施形態においては、発進予備操作検出部36は、運転者による発進予備操作に加えて、当該発進予備操作の終了前の所定の「発進予備操作終了直前時点」を検出する。本実施形態では、発進予備操作検出部36は、発進予備操作の検出と同様、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作終了直前時点を検出する。より具体的には、発進予備操作検出部36は、ブレーキペダル25の解放操作に伴って、発進予備操作の検出後、更にマスターシリンダ液圧が所定量だけ低下した場合に、発進予備操作終了直前時点を検出したと判定する。この場合における「所定量」は、例えば、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の70〜90%に相当する分の液圧とすることができる。言い換えれば、発進予備操作検出部36は、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の10〜30%に相当する第二液圧P2まで低下した場合に、発進予備操作終了直前時点を検出したと判定する。発進予備操作検出部36は、発進予備操作や発進予備操作終了直前時点を検出した場合には、その旨の情報を随時発進制御部37に出力する。
【0062】
発進制御部37は、運転者による発進予備操作が検出された場合に、回転電機制御部32、切替制御部34、及び弁開閉位相制御部35等を協調制御することにより車両の発進動作を制御する機能部である。発進制御部37は、発進制御手段として機能する。この発進制御部37は、発進予備操作検出部36による発進予備操作の検出をトリガーとして機能発現する。すなわち、発進制御部37は、車両の通常走行時には機能停止しており、発進予備操作検出部36からの発進予備操作を検出した旨の情報の入力を受けて初めて機能発現する。なお、本実施形態では、発進制御部37は、回転電機12が正常に動作しているか動作異常を起こしているかに応じて、異なる形態で車両の発進動作を制御するように構成されている。この発進制御部37による車両の発進動作制御の詳細については、後述する。
【0063】
フェール判定部38は、回転電機12の動作異常を判定する機能部である。フェール判定部38は、フェール判定手段として機能する。フェール判定部38は、回転電機制御部32が決定する回転電機動作点に従って実際に回転電機12が駆動されていない場合に、回転電機12が動作異常を起こしているものと判定する。本実施形態では、フェール判定部38は、特に回転電機12の動作異常として、回転電機12の不作動を判定する。ここで、「回転電機12の不作動」とは、回転電機制御部32が何らかの回転電機動作点を決定したとしても、回転電機12からは何の出力も発生しない状態を意味する。すなわち、回転電機12がトルクを出力することができず、回転電機12が単独では回転することができない状態を意味する。フェール判定部38は、このような回転電機12の不作動を、例えば回転電機12と当該回転電機12に電気的に接続されているインバータ装置(不図示)との間の電気配線に実際に流れる電流を検出するための電流センサ(不図示)による電流検出値に基づいて判定する構成とすることができる。すなわち、例えば上記の電流検出値が、本来であれば所定値(ゼロを除く)となるべきであるにもかかわらず常時ゼロとなっている場合に、フェール判定部38は回転電機12の不作動を判定する。フェール判定部38は、回転電機12の不作動を判定した場合には、その旨の情報を発進制御部37に出力する。
【0064】
5.車両の発進動作制御の詳細
次に、制御ユニット30の発進制御部37を中核として、回転電機制御部32、切替制御部34、及び弁開閉位相制御部35等が協働することにより実行される、車両の発進動作制御の詳細について図面を参照して説明する。上記のとおり、本実施形態では、回転電機12が正常に動作しているか動作異常を起こしているかに応じて、異なる形態で発進動作制御が実行される。以下、回転電機12の正常動作時の発進動作制御、回転電機12の動作異常時の発進動作制御、の順に説明する。
【0065】
5−1.回転電機の正常動作時の発進動作制御
まず、回転電機12の正常動作時の発進動作制御について説明する。図6は、回転電機12の正常動作時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。図6には、上から、車速、アクセル開度、マスターシリンダ液圧、内燃機関11及び回転電機12の回転速度、内燃機関11及び回転電機12のトルク、各クラッチ(入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、及び第一クラッチC1)の伝達トルク容量、内燃機関11の吸気弁の開閉位相、の順に表示している。この図に示すように、回転電機12の正常動作時には、制御ユニット30は、内燃機関11の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作を検出したとき、回転電機12を回転させて、オイルポンプ22により皿バネ44の付勢力を相殺して入力クラッチCTを解放させる循環油圧を発生させ、入力クラッチCTの解放後に変速装置13(変速機構15)に備えられる第一クラッチC1を係合させる。以下、詳細に説明する。
【0066】
5−1−1.通常走行〜車両停止
本例では、入力クラッチCT及びロックアップクラッチCLの双方が係合状態とされ、内燃機関11、回転電機12、トルクコンバータ14のポンプインペラ14a、及びタービンランナ14bが一体回転する状態で、内燃機関11のトルクにより車両が通常走行を行っている(時刻T00〜T01)。なお、本例では回転電機制御部32は、比較的小さな回生トルク(負トルク)を出力させるように回転電機12のトルクを制御しており、回転電機12は僅かに発電を行っている。また、弁開閉位相制御部35は、最進角位相と最遅角位相との間で、吸気弁及び排気弁の開閉位相を内燃機関11の状態に応じて適切な位相とするように調節する通常走行時位相制御を行なう。
【0067】
時刻T01においてアクセルペダルが開放されてブレーキペダル25(図1を参照)が踏み込まれると、回転電機制御部32は、比較的大きな回生トルク(負トルク)を出力させるように回転電機12のトルクを制御し、回転電機12は回生制動を行う(時刻T01〜T02)。なお、このような回生制動は、ホイールブレーキによる制動動作と協調して行われる。このとき油圧制御装置23は、入力クラッチCTへの作動油圧の供給を停止して、循環油圧により当該入力クラッチCTが解放状態となる。また、内燃機関制御部31は、内燃機関11への燃料供給を停止させて内燃機関11を停止させる。その際、弁開閉位相制御部35は、内燃機関11を停止させる前に吸気弁の開閉位相を最遅角位相とする。なお、本例では、この最遅角位相を「所定の基準位相」としている。
【0068】
車速の低下に伴って回転電機12の回転速度が低下し、時刻T02において解放閾値Vsに到達すると、弁開閉位相制御部35は、その時点で吸気弁の開閉位相を最遅角位相に対して進角させて進角状態とする。本例では、弁開閉位相制御部35は吸気弁の開閉位相を最進角位相まで進角させる。よって、本例における「進角状態」は、吸気弁の開閉位相が最進角位相まで進角された状態である。ここで、このような解放閾値Vsは、循環油圧を発生させるために必要となる、オイルポンプ22のインナロータの回転速度に設定されている。このような解放閾値Vsとしては、例えば50〜250〔rpm〕が設定される。回転電機制御部32は、時刻T02以降も解放閾値Vsを維持するように、回転電機12の回転速度を制御する(時刻T02〜T04)。本実施形態では、オイルポンプ22のインナロータはトルクコンバータ14のポンプインペラ14a及び駆動伝達部材Tを介して回転電機12と一体回転するように駆動連結されている。よって、回転電機12の回転速度を解放閾値Vsに維持させることにより、オイルポンプ22のインナロータの回転速度を時刻T02以降も解放閾値Vsに維持させ、オイルポンプ22が発生させる循環油圧により入力クラッチCTを解放状態に維持させることが可能となっている。なお、時刻T02においてロックアップクラッチCLが解放されている。
【0069】
時刻T03において車両が完全に停止すると、切替制御部34は、変速機構15内の第一クラッチC1を含む全ての係合要素への作動油の供給を停止して、全ての係合要素を解放状態とする。また、回転電機制御部32は、時刻T04において回転電機12を完全に停止させるように当該回転電機12の回転速度をゼロとするように制御する。これにより、内燃機関11及び回転電機12の停止状態で車両が停止した状態となる。この状態で、オイルポンプ22のインナロータは回転停止し、当該オイルポンプ22は油を吐出しなくなる。よって、この状態で、入力クラッチCTは皿バネ44の付勢力のみにより複数の摩擦板45同士が所定の係合圧で摩擦係合されてトルクを伝達可能な状態となる。なお、このとき入力クラッチCTの第一作動油室47には、皿バネ44を備えていないと仮定した場合における当該入力クラッチCTの第一ピストン43のストロークエンド圧に略等しくかつそれ以下の大きさの作動油圧が、油圧制御装置23から供給される。また、ブレーキペダル25は大きく踏み込まれて、マスターシリンダ液圧は最大値P0となっている。
【0070】
5−1−2.車両停止〜入力クラッチ解放
車両の停止中は、発進予備操作検出部36は、運転者による発進予備操作を監視している。本実施形態では、上記のとおり発進予備操作検出部36は、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作を検出する。本例では、マスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧が、車両停止時におけるマスターシリンダ液圧(P0)の50%に相当する第一液圧P1(P1=0.5*P0)まで低下した時刻T05において、発進予備操作検出部36は、運転者による発進予備操作を検出したと判定する。運転者による発進予備操作が検出されると、回転電機制御部32は、回転電機12の回転速度を第一目標速度Vt1とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する(時刻T05〜T06)。ここで、第一目標速度Vt1は、循環油圧を発生させるために必要となる、オイルポンプ22のインナロータの回転速度に設定されている。このような第一目標速度Vt1としては、解放閾値Vs同様、例えば50〜250〔rpm〕が設定される。本実施形態では、第一目標速度Vt1と解放閾値Vsとが等しい値(V1)に設定されている(Vs=Vt1=V1)。
【0071】
本実施形態では、オイルポンプ22のインナロータはトルクコンバータ14のポンプインペラ14a及び駆動伝達部材Tを介して回転電機12と一体回転するように駆動連結されているので、回転電機12を第一目標速度Vt1で回転駆動させることにより、オイルポンプ22のインナロータも第一目標速度Vt1で回転駆動させることができる。よって、オイルポンプ22が発生させ、入力クラッチCTの反シリンダ側の第一循環油室48に供給される循環油圧により、第一作動油室47内に複数の摩擦材45同士を押圧するように配置された皿バネ44の付勢力を相殺して、入力クラッチCTを解放させることができる。
【0072】
このとき、本実施形態では、入力クラッチCTの第一作動油室47に作動油が供給されていない状態での皿バネ44の付勢力の大きさは、最遅角状態において、入力クラッチCTを介して回転電機12のトルクが内燃機関11に伝達されたとしても停止状態にある内燃機関11をそのまま停止状態に維持させることができるような大きさとなるように設定されている。すなわち、入力クラッチCTを介して回転電機12から内燃機関11に伝達されるトルクよりも、最遅角状態における内燃機関11の被駆動トルク(内燃機関出力軸Eoのイナーシャトルクや内燃機関出力軸Eoが回転する際の摺動抵抗等)が大きくなるように皿バネ44の付勢力の大きさが設定されている。よって、回転電機12を回転駆動してオイルポンプ22を駆動させ、入力クラッチCTを解放させる際に、皿バネ44の付勢力によって回転電機12のトルクの一部が内燃機関11に伝達されたとしても、基本的には内燃機関11をそのまま停止状態に維持することができる。
【0073】
ところで、皿バネ44の品質や駆動連結される内燃機関11の被駆動トルク等には、ある程度のバラツキが生じざるを得ないことを考慮すれば、上記のような皿バネ44の付勢力の大きさの設定であっても、回転電機12を回転駆動して入力クラッチCTを解放させる際に、入力クラッチCTを介して回転電機12から内燃機関11に伝達されるトルクが内燃機関11の被駆動トルクよりも大きくなって、内燃機関11が引き摺られて回転してしまう可能性がないとは言い切れない。そこで、本実施形態では、回転電機12の回転速度が解放閾値Vs以下まで低下した時刻T02以降は、吸気弁の開閉位相が最進角位相まで進角させられた最進角状態とされ、その最進角状態で、上記で説明した、オイルポンプ22が発生させる循環油圧による入力クラッチCTの解放動作が行われる。このような最進角状態とすることにより、内燃機関11の燃焼室での圧縮動作の際に、当該燃焼室内の圧力を上昇させることができる。そのため、最遅角状態と比較して内燃機関11の被駆動トルクを大幅に増大させることができ、最進角状態での内燃機関11の被駆動トルクを、皿バネ44の付勢力により入力クラッチCTが伝達可能なトルクよりも確実に大きくすることができる。よって、回転電機12を回転駆動して入力クラッチCTを解放させる際に、皿バネ44の品質や駆動連結される内燃機関11の被駆動トルク等のバラツキをも考慮して、確実に内燃機関11をそのまま停止状態に維持することができる。
【0074】
5−1−3.入力クラッチ解放〜車両発進
その後、時刻T06以降、回転電機制御部32は、回転電機12の回転速度を第一目標速度Vt1よりも大きい値に設定された第二目標速度Vt2とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する(時刻T06〜T07)。ここで、第二目標速度Vt2は、車両の発進時にクリープトルクを出力させるために必要となる回転電機12の回転速度に設定されている。このような第二目標速度Vt2としては、例えば300〜800〔rpm〕が設定され、更には内燃機関11のアイドル回転数(V2)付近の回転速度が設定されていると好適である。回転電機12を第二目標速度Vt2で回転駆動させることにより、当該回転電機12はクリープトルクを出力する状態となる。但し、時刻T06の時点では、運転者によりブレーキペダル25が踏み込まれた状態にあり、かつ、変速機構15内の第一クラッチC1を含む全ての係合要素も解放状態にあるので、回転電機12がクリープトルクを出力したとしても車両は停止状態を維持する。
【0075】
発進予備操作検出部36は、運転者による発進予備操作を検出した後は、当該発進予備操作の終了前の発進予備操作終了直前時点を監視している。本実施形態では、上記のとおり発進予備操作検出部36は、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作終了直前時点を検出する。本例では、マスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧が、車両停止時におけるマスターシリンダ液圧(P0)の10%に相当する第二液圧P2(P2=0.1*P0)まで低下した時刻T07において、発進予備操作検出部36は、発進予備操作終了直前時点を検出したと判定する。回転電機12がクリープトルクを出力している状態で、発進予備操作終了直前時点が検出されると、切替制御部34は、第一クラッチC1へ作動油を供給して、発進予備操作の終了前に第一クラッチC1を係合させて係合状態とする。なお、ここでは、「発進予備操作の終了前に第一クラッチC1を係合させる」とは、発進予備操作の終了前に第一クラッチC1の係合動作を開始して当該第一クラッチC1がトルク容量を持ち始めることを意味しており、第一クラッチC1が完全係合されることまでは要求されない。この際、切替制御部34は、第一クラッチC1のトルク容量を、回転電機12が出力するクリープトルクの大きさに等しいか又はそれ以上の値とするように、第一クラッチC1に供給される作動油圧の大きさを制御する。これにより、回転電機12が出力するクリープトルクを適切に車輪17側に伝達して、適切に車両を発進させることができる。
【0076】
本実施形態では、回転電機12を回転駆動してオイルポンプ22を駆動させ、オイルポンプ22が発生させる循環油圧により入力クラッチCTが解放された状態で、第一クラッチC1を係合させて発進用の第1速段を形成し、車両を発進させる。よって、実際に車両が発進し始める時刻T08では、既に入力クラッチCTは解放状態とされ、回転電機12が出力するクリープトルクの全部が車輪17側へ伝達される状態となっている。よって、車両の発進後に車輪17側へ伝達されるトルクは大きく変動することなく一定に保たれる。従って、車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することができる。
【0077】
また、本実施形態では、弁開閉位相制御部35は、入力クラッチCTの解放後は、内燃機関11の吸気弁の開閉位相を遅角させる。本例では、弁開閉位相制御部35は、最進角位相にある吸気弁の開閉位相を、最遅角位相となるまで遅角させる。より具体的には、弁開閉位相制御部35は、ロータ回転センサSe1により検出される回転電機12の回転速度が上昇して第一目標速度Vt1に到達した時点(時刻T05)を基準として、その時点から更に所定の遅延時間Tdだけ経過した時点で、吸気弁の開閉位相を最遅角位相まで遅角させる。このように、回転電機12の回転速度が第一目標速度Vt1に到達した後、更に遅延時間Tdの経過を待つことで、吸気弁の開閉位相を最遅角位相とする時期を、入力クラッチCTが確実に解放状態となった後とすることができる。よって、内燃機関11の被駆動トルクが入力クラッチCTにより伝達可能なトルクよりも確実に大きい状態で入力クラッチCTの解放動作を行うことができると共に、当該入力クラッチCTの解放後は、デコンプレッション機能を実現可能として、内燃機関11の次回の始動の際の振動発生を抑制するために適切に備えることができる。
【0078】
5−1−4.車両発進〜通常走行
本実施形態では、内燃機関11の停止状態で回転電機12のみがトルクを出力する電動走行モードで車両が発進される。この際、本例では、回転電機制御部32は、車両側の要求駆動力に応じたトルクを出力させるように回転電機12のトルクを制御する。なお、車両発進後の通常走行時には、回転電機制御部32は、状況に応じて回転電機12のトルクを制御する局面と回転電機12の回転速度を制御する局面とを適宜切り替えて車両を走行させる構成とすることができる。また、本例では、時刻T09において内燃機関出力軸Eoがクランキングされて内燃機関11が始動されている。この際、回転電機制御部32は、車両側の要求駆動力に応じたトルクに内燃機関出力軸Eoをクランキングするためのトルクを一時的に加算すると共に、内燃機関11の始動後はトルクをゼロとするように回転電機12のトルクを制御する。
【0079】
このようにして、内燃機関11の始動後は、基本的に内燃機関11のトルクにより車両を走行させ、内燃機関11のトルクのみでは要求駆動力を満たせない場合に、回転電機12がアシストトルクを出力するパラレル走行モードで車両が走行される。本例では、時刻T09の内燃機関11の始動後、ロックアップクラッチCLが係合状態とされている。更にその後、弁開閉位相制御部35は、通常走行時位相制御を行なう。
【0080】
5−2.回転電機の動作異常時の発進動作制御
次に、回転電機12の動作異常時の発進動作制御について説明する。図7は、回転電機12の動作異常時における発進動作制御の一例を示すタイムチャートである。図7には、上から、車速、アクセル開度、マスターシリンダ液圧、内燃機関11及び回転電機12の回転速度、内燃機関11及び回転電機12のトルク、各クラッチ(入力クラッチCT、ロックアップクラッチCL、及び第一クラッチC1)の伝達トルク容量の順に表示している。なお、内燃機関11の吸気弁の開閉位相に関しては、ここでは記載を省略している。この図に示すように、回転電機12の動作異常時には、制御ユニット30は、内燃機関11を始動し、皿バネ44の付勢力により複数の摩擦材45同士が押圧された状態の入力クラッチCTを介して内燃機関11のトルクをオイルポンプ22に伝達して当該オイルポンプ22を駆動し、発生する循環油圧により入力クラッチCTを係合させる。以下、詳細に説明する。
【0081】
本例では、内燃機関11及び回転電機12の双方が停止した状態で車両が停止している(時刻T10〜T11)。また、ロックアップクラッチCL及び変速機構15内の第一クラッチC1を含む全ての係合要素は、解放状態となっている。また、オイルポンプ22も停止した状態となっている。そのため、当該オイルポンプ22は循環油圧を発生させておらず、これにより入力クラッチCTは皿バネ44の付勢力によりトルク伝達可能な状態となっている。この状態で、時刻T11においてスタータ27(図1を参照)により内燃機関11が始動され、内燃機関11はアイドル回転数で回転すると共にトルクを出力し始める。ここで、本実施形態においては、入力クラッチCTの第一作動油室47に作動油が供給されていない状態での皿バネ44の付勢力の大きさは、入力クラッチCT、駆動伝達部材T、及びトルクコンバータ14のポンプインペラ14aを介して内燃機関11のトルクをオイルポンプ22のインナロータに伝達することができるような大きさとなるように設定されている。よって、内燃機関11が出力するトルクの一部が、入力クラッチCTにより伝達可能なトルクの範囲内(ここでは、皿バネ44の付勢力の大きさに対応するトルクに等しい)で回転電機12及びオイルポンプ22側に伝達され、回転電機12及びオイルポンプ22のインナロータの回転速度は、アイドル回転数に向かって徐々に上昇していく(時刻T11〜T12)。
【0082】
このように、内燃機関11のトルクによりオイルポンプ22のインナロータの回転速度を上昇させることで、オイルポンプ22により作動油圧を発生させることができる。但し、オイルポンプ22は同時に循環油圧をも発生させるので、この循環油圧が入力クラッチCTの反シリンダ側となる第一循環油室48に供給されると、入力クラッチCTは解放状態となり、内燃機関11のトルクを車輪17側に伝達することができなくなってしまう。そこで、回転電機12の動作異常時には、油圧制御装置23を制御することにより、入力クラッチCTの解放動作が行われる際の、循環油圧による皿バネ44の付勢力の相殺を抑制させる制御が行われる。より具体的には、本実施形態では、入力クラッチCTへ供給される循環油圧を、回転電機12の正常動作時における循環油圧よりも低下させる制御が行われる。なお、入力クラッチCTに、通常の循環油圧を供給すると共に当該循環油圧を相殺する作動油圧、言い換えれば、皿バネ44の付勢力をアシストする作動油圧をシリンダ側の第一作動油室47に供給する制御を行う構成としても良い。更に、これらの双方の制御を行う構成としても良い。これにより、循環油圧による入力クラッチCTの解放動作を、少なくとも回転電機12の正常動作時よりも遅らせることができる。
【0083】
やがて、時刻T12において内燃機関11と回転電機12とが同速(ここでは、アイドル回転数)で回転する状態となると、その後、時刻T13においてオイルポンプ22が発生させる作動油を入力クラッチCTの第一作動油室47に供給して、作動油圧により入力クラッチCTを係合状態とする。すなわち、循環油圧により入力クラッチCTが解放状態とされるよりも前に、作動油圧により入力クラッチCTを係合状態としてしまう。ここでは、オイルポンプ22は、入力クラッチCTの複数の摩擦板45を、互いに滑ることなく完全に一体回転するように係合させるような油圧を発生させ、これにより入力クラッチCTを完全係合させる。入力クラッチCTが係合状態となった後は、車両の主電源がオフとされるまでは内燃機関11の停止が禁止される。つまり、アイドルストップ機能が機能停止される。以上のような発進動作制御によれば、回転電機12の故障時においても適切に車両を発進させて車両を走行させることができる。
【0084】
6.車両走行制御の手順
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の制御の内容について説明する。図8は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の、車両発進制御(回転電機11の正常動作時における車両の発進動作制御)の処理手順を示すフローチャートである。また、図9は、実施形態に係る回転電機異常時における車両走行制御(発進動作制御を含む)の処理手順を示すフローチャートである。図10は、図8の車両発進制御の際にこれと並行して実行される弁開閉位相制御の処理手順を示すフローチャートである。以下に説明するハイブリッド駆動装置1の制御処理の手順は、制御ユニット30の各機能部31〜38により実行される。制御ユニット30の各機能部31〜38がプログラムにより構成される場合には、制御ユニット30が備える演算処理装置は、上記の各機能部31〜38を構成するプログラムを実行するコンピュータとして動作する。
【0085】
6−1.車両発進制御の手順
まず、本実施形態に係る車両発進制御の処理手順について説明する。車両発進制御は、基本的には回転電機12が動作異常を起こしていない場合において、内燃機関11及び回転電機12が停止されつつ車両が停止した状態で実行される。車両発進制御においては、図8に示すように、まず、切替制御部34は、変速機構15の係合要素C1、C2、C3、B1、B2を全て解放状態とする(ステップ#01)。油圧制御装置23は、入力クラッチCTの第一作動油室47に、皿バネ44を備えていないと仮定した場合における当該入力クラッチCTの第一ピストン43のストロークエンド圧に略等しくかつそれ以下の大きさの作動油圧をプリチャージする(ステップ#02)。この状態で、発進予備操作検出部36は、運転者による所定の発進予備操作を監視している(ステップ#03)。本例では、発進予備操作検出部36は、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の50〜80%に相当する第一液圧P1まで低下した場合に、発進予備操作を検出したと判定する。
【0086】
液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ液圧が第一液圧P1まで低下して発進予備動作が検出されると(ステップ#03:Yes)、回転電機制御部32は回転電機12の回転速度を第一目標速度Vt1とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する(ステップ#04)。これにより、駆動伝達部材T及びポンプインペラ14aを介して回転電機12と一体回転するように駆動連結されたオイルポンプ22のインナロータも、第一目標速度Vt1で回転駆動される。第一目標速度Vt1でインナロータが回転するオイルポンプ22は循環油圧を発生させる。この循環油圧は、入力クラッチCTの反シリンダ側の第一循環油室48に供給され、第一作動油室47内に複数の摩擦材45同士を押圧するように配置された皿バネ44の付勢力を相殺して入力クラッチCTを解放させる(ステップ#05)。その後、回転電機制御部32は回転電機12の回転速度を第二目標速度Vt2とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する(ステップ#06)。これにより、回転電機12はクリープトルクを出力する状態となる。
【0087】
発進予備操作検出部36は、発進予備操作を検出した後は、当該発進予備操作の終了前の所定の発進予備操作終了直前時点を監視している(ステップ#07)。本例では、発進予備操作検出部36は、車両の停止時におけるマスターシリンダ液圧の10〜30%に相当する第二液圧P2まで低下した場合に、発進予備操作終了直前時点に至ったと判定する。液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ液圧が第二液圧P2まで低下して発進予備操作終了直前時点に至ったと判定されると(ステップ#07:Yes)、切替制御部34は、第一クラッチC1へ作動油を供給して当該第一クラッチC1を係合状態とする。このとき、第一クラッチC1のトルク容量は、回転電機12が出力するクリープトルクの大きさに等しいか又はそれより大きい値となるように制御される(ステップ#08)。その状態でブレーキ操作が解除されると車両が発進することになる(ステップ#09)。その後、内燃機関制御部31と回転電機制御部32とが、これらの協働により、車両の走行状態に応じて内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方を制御して車両を走行させる通常時走行制御を実行する(ステップ#10)。以上で、車両発進制御を終了する。
【0088】
なお、本実施形態では、例えばアイドルストップ機能により内燃機関11が停止された状態で、かつ車両が停止する前の段階(ステップ#01よりも更に前の段階)においては、回転電機12の回転速度が解放閾値Vs未満であるか否かが判定される。そして、解放閾値Vs未満であると判定された場合には、回転電機制御部32は、回転電機12の回転速度を解放閾値Vs(ここでは、第一目標速度Vt1に等しい)とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する。これにより、車両が完全に停止するまでは、入力クラッチCTは解放状態に維持される。
【0089】
6−2.回転電機異常時における車両走行制御の手順
次に、本実施形態に係る回転電機異常時における車両走行制御(回転電機12の動作異常時における発進動作制御を含み、以下、「異常時車両走行制御」と称する。)の処理手順について説明する。異常時車両走行制御においては、図9に示すように、まず、フェール判定部38は、回転電機12が動作異常を起こしているか否かを判定する(ステップ#21)。本例では、フェール判定部38は、特に回転電機12の動作異常として、回転電機12の不作動を判定する。回転電機12が正常に動作していると判定された場合には(ステップ#21:No)、そのまま異常時車両走行制御を終了する。一方、回転電機12が動作異常を起こしていると判定された場合には(ステップ#21:Yes)、次に、入力クラッチCTが解放状態にあるか否かが判定される(ステップ#22)。入力クラッチCTが係合状態にある場合には(ステップ#22:No)、内燃機関11が停止中であるか否かが判定される(ステップ#33)。内燃機関11が駆動中と判定された場合は(ステップ#33:No)そのまま、内燃機関11が停止している場合は(ステップ#33:Yes)スタータ27により内燃機関11を始動してから(ステップ#34)、アイドルストップ機能を機能停止させて内燃機関11の停止を禁止する(ステップ#35)。その後、内燃機関制御部31が車両の走行状態に応じて内燃機関11を制御して車両を走行させる異常時走行制御を実行して(ステップ#36)、異常時車両走行制御を終了する。なお、上記の異常時走行制御は、車両の駆動力源として内燃機関のみを備えた、いわゆる通常のエンジン車両における内燃機関の制御と同様の制御である。
【0090】
ステップ#22の判断において、入力クラッチCTが解放状態にある場合には(ステップ#22:Yes)、内燃機関11が停止中であるか否かが判定される(ステップ#23)。内燃機関11が停止している場合は(ステップ#23:Yes)、スタータ27により内燃機関11を始動する(ステップ#24)。次に、油圧制御装置23は、入力クラッチCTへ供給する循環油圧を、回転電機12の正常動作時における循環油圧よりも低下させる(ステップ#25)。次に、入力クラッチCTを介して伝達される内燃機関11のトルクにより駆動される回転電機12のロータ12bの回転速度が、内燃機関11のアイドル回転数に略等しくなったか否かが判定される(ステップ#26)。回転電機12の回転速度がアイドル回転数に略等しくなると(ステップ#26:Yes)、油圧制御装置23は、作動油を入力クラッチCTの第一作動油室47に供給して(ステップ#27)、作動油圧により入力クラッチCTを係合状態とする。その後、アイドルストップ機能を機能停止させて内燃機関11の停止を禁止し(ステップ#28)、異常時走行制御を実行して(ステップ#36)、異常時車両走行制御を終了する。
【0091】
ステップ#23の判断において、内燃機関11が駆動中と判定された場合には(ステップ#23:No)、まずアイドルストップ機能を機能停止させて内燃機関11の停止を禁止する(ステップ#29)。その後、油圧制御装置23は、入力クラッチCTへ供給する循環油圧を、回転電機12の正常動作時における循環油圧よりも低下させる(ステップ#30)。次に、入力クラッチCTを介して内燃機関11のトルクにより駆動される回転電機12のロータ12b回転速度が、内燃機関11のアイドル回転数に略等しくなったか否かが判定される(ステップ#31)。回転電機12の回転速度がアイドル回転数に略等しくなると(ステップ#31:Yes)、作動油を入力クラッチCTの第一作動油室47に供給して(ステップ#32)、作動油圧により入力クラッチCTを係合状態とする。その後、異常時走行制御を実行して(ステップ#36)、異常時車両走行制御を終了する。
【0092】
6−3.弁開閉位相制御の手順
次に、本実施形態に係る弁開閉位相制御の処理手順について説明する。弁開閉位相制御においては、図10に示すように、まず、内燃機関11が停止されるか否かが判定される(ステップ#41)。内燃機関11が駆動状態を維持すると判定された場合には(ステップ#41:No)、弁開閉位相制御部35は、最進角位相と最遅角位相との間で、内燃機関11の状態に応じて吸気弁及び排気弁の開閉位相を調節する通常走行時位相制御を実行して(ステップ#51)、弁開閉位相制御を終了する。一方、内燃機関11が停止する場合には(ステップ#41:Yes)、弁開閉位相制御部35は内燃機関11の吸気弁の開閉位相を最遅角位相とする(ステップ#42)。回転電機12の回転速度が低下して、やがて解放閾値Vs以下の状態となると(ステップ#43:Yes)、弁開閉位相制御部35は内燃機関11の吸気弁の開閉位相を最進角位相とする(ステップ#44)。
【0093】
この状態で、上記で説明した本実施形態に係る車両発進制御が実行される。すなわち、発進予備操作検出部36により、運転者による所定の発進予備操作が監視され(ステップ#45)、運転者による発進予備操作の検出(ステップ#45:Yes)をトリガーとして回転電機12を回転させ、オイルポンプ22により発生される循環油圧により皿バネ44の付勢力を相殺して入力クラッチCTを解放させる制御が実行される。また、車両発進制御の実行に伴う回転電機12の回転速度の上昇中は、回転電機12の回転速度が第一目標速度Vt1以上であるか否かが判定される(ステップ#46)。本例では、第一目標速度Vt1は解放閾値Vsと等しい値に設定されている(Vt1=Vs=V1)。回転電機12の回転速度が第一目標速度Vt1以上となると(ステップ#46:Yes)、その時点を始点とする所定の遅延時間Tdが経過したか否かが判定される(ステップ#47)。そして、遅延時間Tdが経過した後(ステップ#47:Yes)、内燃機関11の始動に備えて、弁開閉位相制御部35は内燃機関11の吸気弁の開閉位相を最遅角位相とする(ステップ#48)。その後、内燃機関11が所定の始動条件を満たした後(ステップ#49:Yes)、内燃機関11が始動される(ステップ#50)。その後、弁開閉位相制御部35は通常走行時位相制御を実行して(ステップ#51)、弁開閉位相制御を終了する。
【0094】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係るハイブリッド駆動装置の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される特徴構成は、その実施形態でのみ適用されるものではなく、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される特徴構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0095】
(1)上記の実施形態においては、発進動作制御において、回転電機制御部32が、回転電機12の回転速度を第一目標速度Vt1、第二目標速度Vt2の順に段階的に大きくするように、当該回転電機12の回転速度を制御する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば回転電機制御部32が、運転者による発進予備操作が検出された後、直ちに回転電機12の回転速度を第二目標速度Vt2とするように、当該回転電機12の回転速度を制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合におけるタイムチャートを図11に示している。この図11のタイムチャートには、時刻T25〜T26において回転電機12の回転速度が急速に第二目標速度Vt2まで上昇されている様子が示されている。この例の場合であっても、実際に車両が発進し始める時刻T28では、既に入力クラッチCTは解放状態とされ、回転電機12が出力するクリープトルクの全部が車輪17側へ伝達される状態となっている。よって、車両の発進後に車輪17側へ伝達されるトルクは大きく変動することなく一定に保たれるので、車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することができる。
【0096】
(2)上記の実施形態においては、発進動作制御において、車両の停止中に弁開閉位相制御部35が吸気弁の開閉位相を最進角位相まで進角させた最進角状態とする場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、吸気弁の開閉位相が少なくとも所定の基準位相としての最遅角位相よりも進角されていれば、弁開閉位相制御部35が、吸気弁の開閉位相を最遅角位相と最進角位相との間の任意の位相まで進角させた進角状態とする構成としても良い。この場合であっても、内燃機関11の被駆動トルクを少なくとも最遅角位相における被駆動トルクよりも大きくすることができるので、回転電機12を回転駆動して入力クラッチCTを解放させる際に、より確実に内燃機関11をそのまま停止状態に維持することができる。よって、車両の発進時におけるドライバビリティを良好に維持することができる。なお、図11のタイムチャートに示すように、発進動作制御において弁開閉位相制御を一切行わない構成とすることも可能である。
【0097】
(3)上記の実施形態においては、変速装置13がトルクコンバータ14と変速機構15とを備えて構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置13は、係合状態で発進用変速段を形成する発進用係合要素を含む複数の係合要素を備えていれば良く、入力部材としての駆動伝達部材Tが、トルクコンバータ14を介することなく直接的に変速機構15に駆動連結された構成のハイブリッド駆動装置とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0098】
(4)上記の実施形態においては、発進予備操作検出部36が、液圧検出センサSe4により検出されるマスターシリンダ26のマスターシリンダ液圧に基づいて発進予備操作を検出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、必ずしもマスターシリンダ液圧ではなく、少なくともブレーキ機構24に備えられるブレーキペダル25に連動するその他の操作圧に基づいて発進予備操作を検出する構成とすることができる。また、例えば発進予備操作検出部36が、ストローク位置検出センサSe5により検出されるブレーキペダル25のストローク位置に基づいて発進予備操作を検出する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、例えば発進予備操作検出部36は、ブレーキペダル25の解放操作に伴ってブレーキペダル25のストローク位置が予め設定された位置に到達した場合に、発進予備操作を検出したと判定する構成とすることができる。また、例えば発進予備操作検出部36が、ストローク位置検出センサSe5により検出されるブレーキペダル25のストローク位置から、ブレーキペダル25の解放操作に伴うストローク変化量を導出し、当該ストローク変化量に基づいて発進予備操作を検出する構成とすることも可能である。また、上記で説明した複数の指標のうち、2つ以上の指標の組み合わせに基づいて発進予備操作を検出する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0099】
(5)上記の実施形態においては、第一目標速度Vt1及び解放閾値Vsが、いずれも循環油圧を発生させるために必要となるオイルポンプ22のインナロータの回転速度として設定されていることから、これらが等しい値に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、それぞれオイルポンプ22のインナロータを回転駆動させて入力クラッチCTを解放させるための循環油圧を発生させることができるだけの回転速度であれば、第一目標速度Vt1と解放閾値Vsとが異なる値に設定された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0100】
(6)上記の実施形態においては、制御ユニット30が内燃機関制御部31、制御回転電機部32、及び弁開閉位相制御部35を備え、この単一の制御ユニット30が内燃機関11の動作制御、回転電機12の動作制御、並びに弁開閉位相調節機構28を介した内燃機関11の吸気弁及び排気弁の開閉位相調節制御を行うように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、これらのうちの一又は二以上の機能部が、上記の実施形態における制御ユニット30から分離され、当該制御ユニット30と協調して動作可能な別の制御ユニットに備えられて構成されることも、本発明の好適な実施形態の一つである。例えば、内燃機関11を制御する制御ユニット、回転電機12を制御する制御ユニット、及び弁開閉位相調節機構28を制御する制御ユニットをそれぞれ個別に備え、これらの各制御ユニットが互いに協調して動作する構成を採用することができる。この場合、これらの各制御ユニットが協働して、本発明における「制御装置」を構成する。
【0101】
(7)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載された構成及びこれと均等な構成を備えている限り、特許請求の範囲に記載されていない構成の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも回転電機及び変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 ハイブリッド駆動装置
11 内燃機関
12 回転電機
13 変速装置
22 オイルポンプ
24 ブレーキ機構
25 ブレーキペダル
26 マスターシリンダ
30 制御ユニット(制御装置)
38 フェール判定部(フェール判定手段)
43 第一ピストン(ピストン)
44 皿バネ(弾性部材)
45 摩擦材
T 駆動伝達部材(入力部材)
O 出力軸(出力部材)
CT 入力クラッチ
C1 第一クラッチ
Se4 液圧検出センサ
Se5 ストローク変位量検出センサ
Vt1 第一目標速度
Vt2 第二目標速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、前記入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、前記入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも前記回転電機及び前記変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記変速装置は、係合状態で発進用変速段を形成する発進用係合要素を含む複数の係合要素を有し、
前記入力クラッチは、複数の摩擦材と、油圧により作動して前記複数の摩擦材同士を押圧するピストンと、所定の付勢力で前記ピストンを押圧方向に付勢する弾性部材と、を有すると共に、前記ピストンの反シリンダ側に循環油圧が供給されるように構成され、
前記制御装置は、前記内燃機関の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作を検出したとき、前記回転電機を回転させて、前記オイルポンプにより前記弾性部材の付勢力を相殺して前記入力クラッチを解放させる前記循環油圧を発生させ、前記入力クラッチの解放後に前記発進用係合要素を係合させるハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記回転電機の回転速度を、前記循環油圧を発生させるために必要となる第一目標速度、車両の発進時にクリープトルクを出力させるために必要となる第二目標速度、の順に段階的に大きくするように前記回転電機を制御し、前記回転電機の回転速度を前記第二目標速度とした後で前記発進用係合要素を係合させる請求項1に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記回転電機の動作異常を判定するフェール判定手段を備え、
前記制御装置は、前記回転電機の動作異常の発生が判定された場合には、前記内燃機関を始動し、前記弾性部材の付勢力により前記複数の摩擦材同士が押圧された前記入力クラッチを介して前記内燃機関のトルクを前記オイルポンプに伝達して当該オイルポンプを駆動し、発生する油圧により前記入力クラッチを係合させる請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記入力クラッチの解放後であってかつ前記発進予備操作の終了前に前記発進用係合要素を係合させる請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記入力クラッチに油圧が供給されていない状態における前記弾性部材の付勢力の大きさが、前記入力クラッチを介して前記内燃機関のトルクを前記オイルポンプに伝達して当該オイルポンプを停止状態から駆動させることができ、かつ、前記入力クラッチを介して前記回転電機のトルクが前記内燃機関に伝達されたとしても停止状態にある前記内燃機関をそのまま停止状態に維持させることができる範囲内の大きさとなるように、予め設定されている請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項6】
車両に備えられるブレーキ機構が有するブレーキペダルのストローク位置を検出するストローク位置検出手段、及び前記ブレーキペダルの操作圧を検出する操作圧検出手段、のうちの少なくとも一方を備え、
前記制御装置は、前記ストローク位置及び前記操作圧の少なくとも一方に基づいて前記発進予備操作を検出する請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項1】
回転電機に駆動連結されると共に入力クラッチを介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、前記入力部材の回転を変速して出力部材に伝達する変速装置と、前記入力部材により駆動されるオイルポンプと、少なくとも前記回転電機及び前記変速装置の制御を行う制御装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記変速装置は、係合状態で発進用変速段を形成する発進用係合要素を含む複数の係合要素を有し、
前記入力クラッチは、複数の摩擦材と、油圧により作動して前記複数の摩擦材同士を押圧するピストンと、所定の付勢力で前記ピストンを押圧方向に付勢する弾性部材と、を有すると共に、前記ピストンの反シリンダ側に循環油圧が供給されるように構成され、
前記制御装置は、前記内燃機関の停止状態で車両が停止している場合において運転者による発進予備操作を検出したとき、前記回転電機を回転させて、前記オイルポンプにより前記弾性部材の付勢力を相殺して前記入力クラッチを解放させる前記循環油圧を発生させ、前記入力クラッチの解放後に前記発進用係合要素を係合させるハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記回転電機の回転速度を、前記循環油圧を発生させるために必要となる第一目標速度、車両の発進時にクリープトルクを出力させるために必要となる第二目標速度、の順に段階的に大きくするように前記回転電機を制御し、前記回転電機の回転速度を前記第二目標速度とした後で前記発進用係合要素を係合させる請求項1に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記回転電機の動作異常を判定するフェール判定手段を備え、
前記制御装置は、前記回転電機の動作異常の発生が判定された場合には、前記内燃機関を始動し、前記弾性部材の付勢力により前記複数の摩擦材同士が押圧された前記入力クラッチを介して前記内燃機関のトルクを前記オイルポンプに伝達して当該オイルポンプを駆動し、発生する油圧により前記入力クラッチを係合させる請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記入力クラッチの解放後であってかつ前記発進予備操作の終了前に前記発進用係合要素を係合させる請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記入力クラッチに油圧が供給されていない状態における前記弾性部材の付勢力の大きさが、前記入力クラッチを介して前記内燃機関のトルクを前記オイルポンプに伝達して当該オイルポンプを停止状態から駆動させることができ、かつ、前記入力クラッチを介して前記回転電機のトルクが前記内燃機関に伝達されたとしても停止状態にある前記内燃機関をそのまま停止状態に維持させることができる範囲内の大きさとなるように、予め設定されている請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項6】
車両に備えられるブレーキ機構が有するブレーキペダルのストローク位置を検出するストローク位置検出手段、及び前記ブレーキペダルの操作圧を検出する操作圧検出手段、のうちの少なくとも一方を備え、
前記制御装置は、前記ストローク位置及び前記操作圧の少なくとも一方に基づいて前記発進予備操作を検出する請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−183870(P2011−183870A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49192(P2010−49192)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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