説明

ラジカル源

【課題】高密度なラジカルを生成することが可能なラジカル源を実現すること。
【解決手段】ラジカル源は、SUSからなる供給管10と、供給管10に接続する熱分解窒化ホウ素(PBN)からなる円筒状のプラズマ生成管11を有している。プラズマ生成管11の外側には、円筒形のCCP電極13が配置されていて、CCP電極13よりも下流側には、プラズマ生成管11の外周に沿って巻かれたコイル12を有している。供給管10とプラズマ生成管11との接続部における供給管10の開口には、セラミックからなる寄生プラズマ防止管15が挿入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度のラジカルを生成するラジカル源に関する。特に、CCPプラズマをICPプラズマに導入してラジカルを生成するラジカル源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、分子線エピタキシー法(MBE)によってIII 族窒化物半導体などの半導体結晶を成長させる技術が知られている。MBEによってIII 族窒化物半導体を結晶成長させる場合、材料源としてIII 族元素、窒素の原子蒸気の生成が必要になる。III 族元素は固体金属なので、通常、PBN(熱分解窒化ホウ素)製のるつぼに金属を入れて加熱して原子蒸気を発生させている。これに対して窒素は気体であるため、通常、窒素分子ガスを分解する方法や、アンモニアガスを分解する方法などの方法によって原子蒸気を発生させている。この窒素分子ガスを分解して窒素の原子蒸気を生成する方法として、コイル状の電極に高周波電力を印加して生成する誘導結合プラズマを用いた窒素ラジカル源が使われる。窒素ラジカル源を使用してIII 族窒化物半導体の結晶成長速度を向上させるためには、窒素ラジカルのフラックス密度を高める必要がある。
【0003】
高密度のラジカルを生成することができるラジカル源として、特許文献1に記載のラジカル源がある。特許文献1のラジカル源は、窒素ガスを供給する供給管、CCP(容量結合プラズマ)を生成するCCP部、ICP(誘導結合プラズマ)を生成するICP部とをこの順に直列に接続した構造である。この構造によると、ICP部でプラズマ化される前に、あらかじめCCP部でプラズマ化されるため、高い窒素ラジカル密度が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−4157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、III 族窒化物半導体の結晶成長速度を向上させるためには、特許文献1のラジカル源ではラジカル密度が十分でなく、さらに高密度なラジカルを生成することができるラジカル源が求められていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、より高密度のラジカルを生成することができるラジカル源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、気体を供給する導体からなる供給管と、供給管に後続する誘電体からなるプラズマ生成管と、プラズマ生成管の外壁に位置し、プラズマ生成管の内部に誘導結合プラズマを発生させるコイルと、プラズマ生成管の外壁であって、コイルよりも供給管に近い側に位置し、プラズマ生成管の内部に容量結合プラズマを発生させて誘導結合プラズマ中に容量結合プラズマを導入する電極と、誘電体からなり、供給管の開口であって供給管とプラズマ生成管との接続側に挿入され、供給管の内壁を覆う寄生プラズマ防止管と、を有することを特徴とするラジカル源である。
【0008】
供給管によりプラズマ生成管内に供給するガスには、窒素、酸素、水素、アンモニア、水、フルオロカーボン、炭化水素、シラン、ゲルマンなど所望の種類のガスを供給することができ、それらのガスから所望の種類のラジカルを得ることができるが、特に窒素、酸素、水素、アンモニアを用いて発生させるラジカルが有用である。また、アルゴンなどの希ガス等によって希釈して用いてもよい。
【0009】
寄生プラズマ防止管は、電極と供給管内壁との間で寄生プラズマが生じてラジカル密度の低下を引き起こしてしまうのを防止するものである。寄生プラズマ防止管の材料は、BN、PBN、Al2 3 、SiO2 などのセラミックを用いることができる。
【0010】
プラズマ生成管の、容量結合プラズマが生成させる領域の内径と、誘導結合プラズマが生成される領域の内径は、異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、容量結合プラズマの発生する領域のプラズマ生成管外周に沿って配置され、プラズマ生成管の中心部に容量結合プラズマを偏在させる複数の永久磁石をさらに有することを特徴とするラジカル源である。
【0012】
永久磁石は、消磁防止の観点からキュリー温度の高いものが望ましく、たとえばSmCo磁石、AlNiCo磁石などを用いる。
【0013】
第3の発明は、第1の発明において、電極は、その内部で水を還流させる中空部を有し、永久磁石は、電極の内部であって、中空部に露出するよう配置されている、ことを特徴とするラジカル源である。
【0014】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、供給管により供給される気体は窒素であり、窒素ラジカルを生成することを特徴とするラジカル源である。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によると、寄生プラズマ防止管によって、供給管の内壁と容量結合プラズマ電極との間での放電により、供給管内部に寄生プラズマが発生してしまうのを防止することができる。これにより、容量結合プラズマはプラズマ生成管内部にのみ生成され、プラズマ密度が向上する。その結果、容量結合プラズマ形成によるラジカル生成能力を向上させることができ、より高密度のラジカルを生成することができるラジカル源を実現することができる。
【0016】
また、第2の発明によれば、プラズマ生成管の中心部に容量結合プラズマを収縮して偏在させた状態で、容量結合プラズマを誘導結合プラズマに導入することができ、ラジカルのフラックス密度を高めるために高いガス圧とした場合において、プラズマ生成管の中心部における誘導結合プラズマの密度が減少してしまうのを補償することができる。そのため、より高密度のラジカルを生成することができる。また、容量結合プラズマにはエネルギーの高い電子が多く存在しており、これが誘導結合プラズマに注入されるため、ガス分子の原子への分解能を向上させることができるとともに、原子ラジカルに高い内部エネルギーを付与することができる。
【0017】
また、第3の発明によると、容量結合プラズマ電極の中空部に水を還流させることで、容量結合プラズマ電極の温度上昇を抑制することができる。また、磁石を直接水に浸して冷却することができる。そのため、磁石の消磁を抑制することができ、高密度なラジカルの生成を長時間持続することができる。
【0018】
また、第4の発明のように、本発明のラジカル源は窒素ラジカルを高密度に生成することができる。また、窒素分子の窒素原子への分解能が高く、窒素原子の内部エネルギーを高めることができる。このような内部エネルギーの高い窒素原子ラジカルは、III 族窒化物半導体などの窒化物を結晶成長させる際に成長温度の低減などを図ることができ、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1のラジカル源の構成を示した図。
【図2】図1におけるA−Aでの断面図。
【図3】ガス流量と窒素ラジカル密度との関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1のラジカル源の構成について示した図である。また、図2は、図1でのA−Aにおける断面図である。
【0022】
図1、2のように、実施例1のラジカル源は、SUSからなる供給管10と、供給管10に接続する熱分解窒化ホウ素(PBN)からなる円筒状のプラズマ生成管11を有している。プラズマ生成管11の内径は24mmであり、長さは90mmである。プラズマ生成管11の供給管10接続側とは反対側の開口には、直径5mmの孔が開けられたオリフィス板19が配置されている。
【0023】
プラズマ生成管11の外側であって、供給管10とプラズマ生成管11との接続部近傍には、円筒形のCCP電極13が配置されている。CCP電極13は、その内部に中空部13aを有している。また、CCP電極13には給水管16および排水管17が接続されており、CCP電極13の中空部13aと給水管16および排水管17の管内とが連続している。給水管16からCCP電極13の中空部13aへと冷却水を導入し、排水管17より冷却水を排出することが可能な構造となっており、冷却水を還流させてCCP電極13を冷却可能となっている。
【0024】
CCP電極13の内部には、プラズマ生成管11の外周に沿って等間隔に6個の永久磁石14が配置されている。永久磁石14はSmCoからなる。また、これらの永久磁石14は、CCP電極13の中空部13aに露出している。そのため、CCP電極13の中空部13aに冷却水を還流させてCCP電極13を冷却する際、永久磁石14は冷却水と直接接触する。これにより、CCP電極13の加熱によって上昇する永久磁石14の温度を効率的に抑えることができる。
【0025】
プラズマ生成管11の外側であって、CCP電極13よりも下流側(供給管10側とは反対側)には、プラズマ生成管11の外周に沿って巻かれたコイル12を有している。コイル12は中空のステンレス管を3回半巻いたものであり、そのステンレス管内部に冷却水を通して冷却できる構造となっている。
【0026】
CCP電極13とコイル12には高周波電源(図示しない)が接続されており、供給管10は接地されている。高周波電源によって高周波電力をCCP電極13、コイル12にそれぞれ印加することで、プラズマ生成管11内部であって外周にコイル12が配置された領域に誘導結合プラズマを、プラズマ生成管11内部であって外周にCCP電極13が配置された領域に容量結合プラズマを、それぞれ形成することができる。
【0027】
供給管10とプラズマ生成管11との接続部における供給管10の開口には、供給管10側に向かって、セラミックからなる寄生プラズマ防止管15が挿入されている。寄生プラズマ防止管15の内径は1mm、外径は供給管10の内径にほぼ等しい。この寄生プラズマ防止管15の挿入により、供給管10の内壁は寄生プラズマ防止管15に覆われ、CCP電極13と供給管10の内壁との間で寄生プラズマが発生してしまうのが防止される。
【0028】
寄生プラズマを効果的に防止するためには、寄生プラズマ防止管15の挿入長は、供給管10の内径の10倍以上とすることが望ましい。より望ましくは、供給管10の内径の20〜50倍である。
【0029】
これらのプラズマ生成管11、コイル12、CCP電極13は、円筒状の筐体18に納められている。筐体18は、ラジカル照射側が開口している。その開口近傍には、イオンを除去するための電極、あるいは磁石(いずれも図示しない)を配置してもよい。
【0030】
実施例1のラジカル源は、プラズマ生成管11内部に供給管10からガスを供給し、コイル12およびCCP電極13への高周波電力の印加によって、プラズマ生成管11内部に誘導結合プラズマと容量結合プラズマとをそれぞれ生成し、容量結合プラズマを誘導結合プラズマに注入することによって高密度のラジカルを生成する構成である。
【0031】
ここで、実施例1のラジカル源では、供給管10に寄生プラズマ防止管15が挿入されており、CCP電極13と供給管10の内壁との間での放電により供給管10内部に寄生プラズマが生じてしまうのを防止している。この寄生プラズマ防止管15を挿入したことにより、容量結合プラズマがプラズマ生成管11内部にのみ生成され、容量結合プラズマのプラズマ密度が向上する。そのため、生成されるラジカル密度も向上する。
【0032】
また、容量結合プラズマは、6個の永久磁石14によるカプス磁場によって、プラズマ生成管11の中心部に収縮して偏在する。分子の分解能を高めるために高いガス圧力とする場合、誘導結合プラズマは通常はハイブライトモードではなく、ローブライトモードとなる。ハイブライトモードとは、プラズマ生成管11の中心部にプラズマが形成された状態であり、ラジカル密度が高い状態である。一方、ローブライトモードとは、プラズマ形状がプラズマ生成管11の内壁に沿って形成され、中心部のプラズマ密度が低い状態であり、ラジカル密度が低い状態である。しかし、中心部に偏在した容量結合プラズマを誘導結合プラズマに注入することで、ローブライトモードのプラズマ形状が変動し、中心部でのプラズマ密度の低下が補償される。その結果、高いガス圧力の場合であっても、中心部のプラズマ密度が向上し、誘導結合プラズマのみを生成する場合に比べて非常に高いラジカル密度を実現することができる。また、容量結合プラズマ中に多く存在する高エネルギーな電子により、ガスの分子から原子への分解能が高まるとともに、その生成された原子ラジカルの内部エネルギーが向上する。このような内部エネルギーの高い原子ラジカルは、たとえば結晶成長用の元素に用いる場合に成長温度の低減などを図ることができるので非常に有用である。
【0033】
また、永久磁石14は、CCP電極13の中空部13aに冷却水を還流させることで直接冷却することができ、永久磁石14の温度上昇を抑制して永久磁石14の消磁を効果的に防止することができる。そのため、プラズマ生成管11の中心部にCCPプラズマが偏在する状態を長時間維持することができ、その結果、長時間にわたって高密度なラジカルの生成を維持することができる。
【0034】
なお、実施例1のラジカル源は、任意のガスを供給管10により供給することで、任意のラジカルを生成することができる。供給するガスとして、たとえば、窒素、酸素、水素、アンモニア、水、フルオロカーボン、炭化水素、シラン、ゲルマンなどのガスを供給することができ、それらのガスから所望の種類のラジカルを得ることができる。特に窒素、酸素、水素、アンモニアを用いて発生させるラジカルが有用である。また、供給管10によりガスを供給する際、アルゴンなどの希ガス等によって希釈して用いてもよい。
【0035】
図4は、実施例1のラジカル源によって発生させた窒素ラジカルの密度を、真空紫外吸光分光法によって測定し、窒素ラジカルの密度と窒素ガスの流速との関係を調べた結果である。従来の誘導結合プラズマによって発生させるラジカル源では、窒素ラジカルの密度はおよそ1×1011cm-3であるのに対し、実施例1のラジカル源を用いると、窒素ガス流速が5〜35sccmの範囲において1×1011cm-3よりも高い密度であることがわかる。特に窒素ガス流速が15〜25sccmの範囲では、1×1012cm-3以上の密度であり、従来のラジカル源に比べて10倍以上の密度の窒素ラジカルが生成されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のラジカル源は、たとえば、分子線エピタキシー(MBE)装置などの窒素ラジカル源に利用することができ、III 族窒化物半導体などの窒化物の形成に用いることができる。他にも、ラジカル照射による基板クリーニングや基板表面処理など、本発明のラジカル源はさまざまな応用が可能である。
【符号の説明】
【0037】
10:供給管
11:プラズマ生成管
12:コイル
13:CCP電極
14:永久磁石
15:寄生プラズマ防止管
16:給水管
17:排水管
18:筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を供給する導体からなる供給管と、
前記供給管に後続する誘電体からなるプラズマ生成管と、
前記プラズマ生成管の外壁に位置し、前記プラズマ生成管の内部に誘導結合プラズマを発生させるコイルと、
前記プラズマ生成管の外壁であって、前記コイルよりも前記供給管に近い側に位置し、前記プラズマ生成管の内部に容量結合プラズマを発生させて誘導結合プラズマ中に容量結合プラズマを導入する電極と、
誘電体からなり、前記供給管の開口であって前記供給管と前記プラズマ生成管との接続側に挿入され、前記供給管の内壁を覆う寄生プラズマ防止管と、
を有することを特徴とするラジカル源。
【請求項2】
前記容量結合プラズマの発生する領域の前記プラズマ生成管外周に沿って配置され、前記プラズマ生成管の中心部に前記容量結合プラズマを偏在させる複数の永久磁石をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のラジカル源。
【請求項3】
前記電極は、その内部で水を還流させる中空部を有し、
前記永久磁石は、前記電極の内部であって、前記中空部に露出するよう配置されている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラジカル源。
【請求項4】
前記供給管により供給される前記気体は窒素であり、窒素ラジカルを生成することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のラジカル源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−49028(P2012−49028A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190967(P2010−190967)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(304036008)NUエコ・エンジニアリング株式会社 (59)
【出願人】(501111902)株式会社片桐エンジニアリング (11)
【Fターム(参考)】