内燃機関のオイル希釈判定装置及び内燃機関制御装置
【課題】オイルパン内での燃料によるオイルの希釈度合いを正確に判定することが可能な内燃機関のオイル希釈判定装置、及び、その判定結果に応じた制御動作を行う内燃機関制御装置を提供する。
【解決手段】FFVに搭載されるエンジンに対し、低負荷運転時における空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値とアルコール濃度学習値との合算値から、高負荷運転時における空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値とアルコール濃度学習値との合算値を減算し、その減算値が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合には、オイルパン内でオイル希釈が生じていると判定する。オイル希釈が生じていると判定された際、空燃比学習値のホールドやアルコール濃度学習値のホールドを実行する。
【解決手段】FFVに搭載されるエンジンに対し、低負荷運転時における空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値とアルコール濃度学習値との合算値から、高負荷運転時における空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値とアルコール濃度学習値との合算値を減算し、その減算値が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合には、オイルパン内でオイル希釈が生じていると判定する。オイル希釈が生じていると判定された際、空燃比学習値のホールドやアルコール濃度学習値のホールドを実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のオイル希釈判定装置及び内燃機関制御装置に係る。特に、本発明は、オイルの希釈度合いを正確に判定するための対策に関する。また、本発明は、その判定結果に応じて実行される内燃機関の制御にも関する。尚、上記「オイル希釈」とは、オイルパン等のオイル貯留部に貯留されているエンジンオイルが液相の燃料によって希釈される状態をいう。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用内燃機関等(以下、エンジンと呼ぶ場合もある)として、エタノール単体の燃料や、エタノールとガソリンとの混合燃料が使用可能な多種燃料エンジンが知られている(例えば、下記の特許文献1)。
【0003】
この種のエンジンが搭載された車両は、一般にフレキシブル燃料自動車(FFV:Flexible Fuel Vehicle)と呼ばれており、アルコール燃料を使用することにより、排気エミッションの改善及び化石燃料の消費量削減といった環境性能の向上を図ることができる。
【0004】
ところで、エンジンにおいては、インジェクタから噴射された燃料の一部が、シリンダ内壁面に付着し、液相状態でエンジンオイル(シリンダ内壁面の潤滑に寄与しているエンジンオイル)と混ざり合うことになる。そして、このエンジンオイルと混ざり合った燃料は、ピストンの往復運動に伴ってシリンダ内壁面から掻き落とされ、オイルパンに流れ込む。このような状況が継続すると、オイルパン内でのオイル希釈が進んでしまうことになる。
【0005】
特に、上記FFVの場合、ガソリンに比べて沸点が高いエタノール等のアルコール燃料を使用し、また、同一トルクを得るのに必要な燃料噴射量はガソリンエンジンに比べて多くなるため(例えば目標A/F=8.9で空燃比制御されているため)、エンジンの冷間時においてはシリンダ内壁面への燃料付着量が多くなりやすい。その結果、オイル希釈の進行度も高いものとなる。つまり、短時間の冷間運転を繰り返す、いわゆる冷間ショートトリップが繰り返される状況や、冷間時の高負荷運転が繰り返される状況ではオイル希釈が進行しやすくなる。また、特に、筒内に燃料を直接的に噴射する筒内直接噴射式のエンジンにおいては、インジェクタの噴射孔とシリンダ内壁面との距離が比較的短い(ポート噴射式のエンジンに比べて短い)ので、オイル希釈の発生は顕著である。
【0006】
そして、上述の如くオイルパンに流れ込んだ燃料は、エンジンの暖機が進むに従って、つまり油温の上昇に従ってクランクケース内に蒸発していき、PCV(Positive Crankcase Ventilation)装置を介してエンジンの吸気通路に導かれる。これにより、蒸発燃料が気筒内に吸入されることになり、目標空燃比(例えば理論空燃比)に対する空燃比のずれを生じさせることになる。特にエタノール単体の燃料(E100燃料)の場合、燃料が単一成分であるため、油温がエタノールの沸点(約78℃)に達した時点で燃料蒸発量が急速に増大し、多量の燃料がPCV装置を経て吸気通路に導かれることになってしまう。
【0007】
このため、オイル希釈度合いを判定するための手段が求められている。下記の特許文献2では、燃料圧力を低下させる前の空燃比補正量と、燃料圧力を低下させた後の空燃比補正量との差を算出し、この値に基づいてオイル希釈の発生の有無を判定(実際には、インジェクタの異常とオイル希釈の発生との識別)を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−36079号公報
【特許文献2】特開2007−127076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、空燃比補正量の変動要因としてはオイル希釈度合い以外のものも含まれる。そして、燃料圧力を低下させる前後の空燃比補正量の差とオイル希釈度合いとの相関は比較的小さく、他の要因によっても上記空燃比補正量の差は大きく変化する。このため、特許文献2のオイル希釈判定動作では、オイル希釈度合いを高い精度で判定することが困難である。
【0010】
このような不具合は、上記FFVに搭載されるエンジンに限らず、ガソリンのみを燃料として使用するガソリンエンジンにおいても同様に生じる可能性がある。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、オイルの希釈度合いを正確に判定することが可能な内燃機関のオイル希釈判定装置、及び、その判定結果に応じた制御動作を行う内燃機関制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、内燃機関の低負荷運転時と高負荷運転時とでは、燃料噴射量の補正量(空燃比補正量:下記の実施形態でいう総空燃比補正量)の差が、燃料によるオイルの希釈量が多いほど大きくなることに着目し、これら燃料噴射量の補正量の差に基づいてオイル希釈判定を行うようにしている。
【0013】
−解決手段−
具体的に、本発明は、目標空燃比に対する実空燃比の偏差を小さくするように燃料噴射弁からの燃料噴射量を補正するための燃料補正量を求める燃料補正手段を備える内燃機関のオイル希釈判定装置を前提とする。このオイル希釈判定装置に対し、高負荷運転時における上記燃料補正量と低負荷運転時における上記燃料補正量との差に基づいて、潤滑油貯留部での燃料による潤滑油の希釈度合いの判定を行うオイル希釈判定手段を備えさせている。
【0014】
ここで、オイル希釈判定手段による判定動作の概念としては、燃料による潤滑油の希釈が生じているか否かの判別や、燃料による潤滑油の希釈度合いの大きさを判定して希釈度合いの大きさが所定値以上である場合に潤滑油の希釈が生じていると判断するものや、希釈度合いの大きさを認識するもの等が含まれる。
【0015】
内燃機関の高負荷運転時における燃料補正量と、低負荷運転時における燃料補正量との差は、燃料による潤滑油の希釈度合いが高いほど大きくなる。上記オイル希釈が発生している場合、内燃機関の負荷の大きさに関わりなく、潤滑油から蒸発した燃料(潤滑油を希釈していた燃料)の吸気系への導入量はオイル希釈度合い応じて略一定である(オイル希釈度合いが高いほど吸気系への蒸発燃料の導入量は多くなっている)のに対し、内燃機関の高負荷運転時には、吸入空気量及び燃料噴射量が共に多く設定されるため、上記吸気系への蒸発燃料の導入が空燃比に与える影響度は比較的小さくなる。一方、内燃機関の低負荷運転時には、吸入空気量及び燃料噴射量が共に少なく設定されるため、上記吸気系への蒸発燃料の導入が空燃比に与える影響度は比較的大きくなる。このため、内燃機関の高負荷運転時と低負荷運転時とでは、吸気系への蒸発燃料の導入量が同一であっても燃料補正量に差が生じることになり、その差は、オイル希釈度が高いほど大きくなる。このように、高負荷運転時における燃料補正量と低負荷運転時における燃料補正量との差は、オイル希釈度合いと大きな相関がある。本解決手段では、このことを利用し、低負荷運転時における燃料補正量と高負荷運転時における燃料補正量との差に基づいてオイル希釈度合いを高い精度で判定することができる。
【0016】
上記燃料補正量を算出するための具体的な構成としては以下のものが挙げられる。つまり、目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比補正手段と、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値を算出する空燃比学習手段とを備えさせ、上記燃料補正手段が、少なくとも上記空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値との合算値を燃料補正量として求めるようにする。そして、上記オイル希釈判定手段が、高負荷運転時における上記合算値である燃料補正量と、低負荷運転時における上記合算値である燃料補正量との差に基づいてオイル希釈判定を行う構成としている。
【0017】
上記空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値は、共にオイル希釈度合いが高いほど大きくなり、また、内燃機関の高負荷運転時におけるこれら空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値と、内燃機関の低負荷運転時におけるこれら空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値との差は、燃料による潤滑油の希釈度合いが高いほど大きくなる。このため、少なくとも低負荷運転時における空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値の合算値と、高負荷運転時における空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値の合算値との差に基づいてオイル希釈度合いを高い精度で判定することができる。これは、燃料としてガソリンのみを使用する内燃機関だけでなく、アルコール単体の燃料、アルコールとガソリンとの混合燃料の何れに対しても適用可能である。
【0018】
燃料としてアルコールを含む場合に、上記燃料補正量を算出するための具体的な構成としては以下のものが挙げられる。つまり、目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比補正手段と、温間時、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値を算出する空燃比学習手段と、冷間時、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるためのアルコール濃度学習値を算出するアルコール濃度学習手段とを備えさせ、上記燃料補正手段が、上記空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値とアルコール濃度学習値との合算値を燃料補正量として求めるようにする。そして、上記オイル希釈判定手段が、高負荷運転時における上記合算値である燃料補正量と、低負荷運転時における上記合算値である燃料補正量との差に基づいてオイル希釈判定を行う構成としている。
【0019】
上記空燃比フィードバック補正量、空燃比学習値及びアルコール濃度学習値は、共にオイル希釈度合いが高いほど大きくなり、また、内燃機関の高負荷運転時におけるこれら値と、内燃機関の低負荷運転時におけるこれら値との差は、燃料による潤滑油の希釈度合いが高いほど大きくなる。このため、低負荷運転時における各値の合算値と、高負荷運転時における各値の合算値との差に基づいてオイル希釈度合いを高い精度で判定することができる。これは、燃料としてアルコール単体の燃料、アルコールとガソリンとの混合燃料の何れに対しても適用可能である。特に、アルコール燃料を使用する場合、ガソリン単体の燃料を使用する場合に比べて燃料噴射量は多くなり(理論空燃比が小さいために燃料噴射量は多くなり)、それに伴って上記空燃比フィードバック補正量や各学習値も、潤滑油の希釈度合いに応じて大きく変化する傾向にある。このため上記低負荷運転時における各値の合算値と、高負荷運転時における各値の合算値との差が、オイル希釈度合いに応じて大きく変化する。つまり、オイル希釈度合いの変化が僅かであっても、上記低負荷運転時における各値の合算値と高負荷運転時における各値の合算値との差は大きく変化することになるため、高い精度でオイル希釈度合いを判定することが可能である。
【0020】
上記オイル希釈判定手段によるオイル希釈判定動作として具体的には以下のものが挙げられる。つまり、上記低負荷運転時における燃料補正量から上記高負荷運転時における燃料補正量を減算した値が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合に、上記オイル希釈判定手段が、オイル希釈が生じていると判定する構成としている。
【0021】
上述した如く、内燃機関の高負荷運転時には、吸入空気量及び燃料噴射量が共に多く設定されるため、上記吸気系への蒸発燃料の導入が空燃比に与える影響度は比較的小さくなる。つまり、内燃機関の高負荷運転時には、燃料補正量は比較的小さい値として求められる。これに対し、内燃機関の低負荷運転時には、吸入空気量及び燃料噴射量が共に少なく設定されるため、上記吸気系への蒸発燃料の導入が空燃比に与える影響度は比較的大きくなる。つまり、内燃機関の低負荷運転時には、燃料補正量は比較的大きな値として求められる。この傾向は、吸気系への蒸発燃料の導入量が多いほど、つまり、オイル希釈度合いが高いほど顕著に現れる。このため、低負荷運転時における燃料補正量から高負荷運転時における燃料補正量を減算した値が大きい場合(上記オイル希釈判定閾値以上である場合)には、オイル希釈が生じていると判定することができる。
【0022】
この場合に、上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定するための上記オイル希釈判定閾値と、オイル希釈が解消されたと判定するためのオイル希釈解消判定閾値との間にヒステリシスを設定する。そして、上記オイル希釈解消判定閾値よりもオイル希釈判定閾値を大きな値として設定する。
【0023】
これによれば、オイル希釈が生じているとする判定動作とオイル希釈が解消されたとする判定との間でのハンチングが回避されることになり、判定動作の安定化を図ることができる。特に、内燃機関を構成する各機器の特性の公差、各種センサの出力の公差、運転過渡時における空燃比の変動(特にアルコール燃料を使用している場合には燃料噴射量が多いため、この空燃比の変動は大きくなりやすい)の影響による判定のハンチングを防止することができる。このヒステリシスとしては、例えば上記燃料補正量の変動幅に対して約10%に設定される。
【0024】
上述したオイル希釈判定手段による判定動作に依ることなしにオイル希釈を判定するための構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記内燃機関の暖機完了後における上記燃料補正量が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合に、上記オイル希釈判定手段による判定動作を待つことなく、オイル希釈が生じていると判定するオイル希釈断定手段を設けた構成である。
【0025】
内燃機関の暖機が完了して温間運転に移行した状況では、潤滑油貯留部の潤滑油温度が燃料の沸点以上に温度上昇することで、この潤滑油に混入していた燃料が蒸発して内燃機関の吸気通路に導入されていく。この場合に、上記燃料補正量が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合は、上記各負荷運転時の空燃比補正量の差を算出するまでもなく、オイル希釈度合いが高いと判定することができる。このような判定を行うことで迅速なオイル希釈判定が可能になる。
【0026】
内燃機関の再始動時にオイル希釈を判定するための構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定された状態で内燃機関の再始動が行われた際、計測または推定される潤滑油温度に基づいてオイル希釈度合いの判定を行う再始動時オイル希釈判定手段を設けた構成である。
【0027】
例えば、内燃機関の再始動時における潤滑油温度が比較的高い場合(燃料の沸点以上である場合)、潤滑油を希釈していた燃料の大部分は既に蒸発していると判断でき、この場合には内燃機関停止前にオイル希釈が生じていると判定されていたとしても、内燃機関の再始動と同時に、このオイル希釈判定を解除(オイル希釈が生じていないと判定)する。
【0028】
逆に、内燃機関の再始動時における潤滑油温度が比較的低い場合(燃料の沸点未満である場合)、内燃機関停止前にオイル希釈が生じていると判定されていたとすれば、この内燃機関の再始動時においても、潤滑油貯留部内の潤滑油には未だ多量の燃料が混入していると判定できる。この場合には、オイル希釈判定を解除せず、このオイル希釈判定を継続維持する。このように、過去のオイル希釈判定結果と内燃機関の再始動時の潤滑油温度情報に基づいて、内燃機関の再始動と略同時にオイル希釈判定を実施することが可能になる。
【0029】
上述したオイル希釈判定手段による判定動作に依ることなしにオイル希釈が解消されたと判定するための構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定された後、内燃機関の暖機完了後における連続運転時間が所定時間を超えた場合に、オイル希釈が解消されたと判定するオイル希釈解消判定手段を設けた構成である。
【0030】
オイル希釈度合いが高いと判定された場合であっても、その後、内燃機関の温間運転が継続され、その継続時間が所定時間を超えた場合には、潤滑油を希釈していた燃料の大部分は蒸発しているので、オイル希釈は解消されたと判定するようにしている。このため、本解決手段では、上記各負荷での空燃比補正量の取得を行うことなく、オイル希釈解除判定を行うことが可能である。
【0031】
上述した各解決手段においてオイル希釈が生じていると判定された場合の内燃機関の制御として具体的には以下の各制御が挙げられる。
【0032】
先ず、排気空燃比に基づいて算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値の更新を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するものである。
【0033】
また、冷間時、排気空燃比に基づいて算出される空燃比フィードバック補正量を所定補正基準量から所定範囲内に収束させるためのアルコール濃度学習値の更新を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するものである。
【0034】
また、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸気系に導入するためのパージ動作を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するものである。
【0035】
更に、オイル希釈が生じていると判定された場合、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸気系に導入するパージガスの濃度を学習するパージ濃度学習値をリセットするものである。
【0036】
オイル希釈度合いが大きい場合には上記各学習処理等の正確な算出が困難になり、例えば気筒内の空燃比が理論空燃比から大きく乖離してしまう可能性がある。これを回避するために、上記各解決手段では学習値の更新の禁止等を行うようにしている。
【0037】
また、所定のフューエルカット条件が成立した場合に行われる燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するようにしている。
【0038】
オイル希釈が生じている状態で燃料噴射弁からの燃料噴射を停止した場合、空燃比フィードバック制御が実施できなくなり、潤滑油から蒸発した燃料によって気筒内での空燃比がオーバリッチになってしまう可能性がある。これを回避するために、オイル希釈が生じている場合には、燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を禁止する。つまり、燃料噴射弁からの燃料噴射を継続することで空燃比フィードバック制御が実施できるようにしている。
【0039】
この場合に、内燃機関の低負荷運転時にあっては、燃料噴射停止動作を禁止し、燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を実行するようにしている。
【0040】
内燃機関の負荷が極端に低い場合にフューエルカットを禁止してしまうと、燃焼室内での燃焼状態の悪化に伴って触媒コンバータの温度の過剰上昇が早期に発生してしまう可能性がある。これを回避するために、内燃機関の負荷が極めて低い場合には、オイル希釈が生じている際、フューエルカットを実行するようにしている。
【0041】
また、オイル希釈が生じていると判定された際において、燃料噴射弁からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比フィードバック制御を継続するようにしている。
【0042】
オイル希釈の発生時に空燃比フィードバック制御を禁止してしまうと、気筒内の空燃比がオーバリッチになる状況を回避できなくなる可能性がある。これを回避するために、オイル希釈が生じていると判定された際において、燃料噴射弁からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、空燃比フィードバック制御を継続するようにしている。
【0043】
上記燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を禁止する場合において、減速運転時である場合には、上記燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作の禁止に伴って、吸気系に備えられた吸気量調整手段により調整される吸入空気量を増量するようにしている。
【0044】
つまり、減速運転時に内燃機関が低負荷運転となることを回避するべく吸入空気量を増量するものである。これにより、オイル希釈が生じている場合の減速運転時における機関回転数の安定化を図ることができる。
【0045】
低負荷運転時に、オイル希釈が生じていると判定された場合には、燃料噴射弁からの燃料噴射量の増量を制限するようにしている。
【0046】
内燃機関が低負荷運転である場合には、上記空燃比フィードバック制御によって要求燃料噴射量が確保されているため、オイル希釈に起因して気筒内の空燃比がオーバリッチになることを抑制するべく、燃料噴射弁からの燃料噴射量の増量を制限している。
【0047】
オイル希釈が生じていると判定された場合には、上記燃料補正量の制御幅を拡大するようにしている。
【0048】
これにより、空燃比の制御幅の拡大が図れる。特に、上記FFVに搭載される内燃機関の場合、オイル希釈量が大幅に増大する可能性があるので、これに対応可能とするようにしている。また、制御幅としては、オイル希釈が解消されていくに従って徐々に小さくしていくことが好ましい。
【発明の効果】
【0049】
本発明では、内燃機関の低負荷運転時と高負荷運転時とでは、燃料噴射量の補正量(空燃比補正量)の差が、燃料によるオイルの希釈量が多いほど大きくなることに着目し、これら燃料噴射量の補正量の差に基づいてオイル希釈判定を行うようにしている。このため、オイルの希釈度合いを正確に判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施形態に係るエンジン及びその吸排気系の概略構成を示す図である。
【図2】エンジンの制御系を示すブロック図である。
【図3】燃料噴射量算出処理の手順を示すフローチャート図である。
【図4】空燃比フィードバック処理の手順を示すフローチャート図である。
【図5】フィードバック補正係数の変化の一例を示すタイミングチャート図である。
【図6】空燃比学習処理の手順を示すフローチャート図である。
【図7】パージ濃度学習処理の手順を示すフローチャート図である。
【図8】オイル希釈判定動作の手順を示すフローチャート図である。
【図9】総空燃比補正量算出処理の冷間運転中の手順を示すフローチャート図である。
【図10】総空燃比補正量算出処理の温間運転中の手順を示すフローチャート図である。
【図11】エンジン負荷と総空燃比補正量との関係の一例を示し、(a)はオイル希釈度合いが大きい場合を、(b)はオイル希釈度合いが小さい場合をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、FFVに搭載された4気筒の筒内直接噴射式エンジン(内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
【0052】
−エンジン−
図1は本実施形態に係るエンジン1、及び、その吸排気系の概略構成を示す図である。尚、この図1ではエンジン1の1気筒の構成のみを示している。
【0053】
本実施形態に係るエンジン1は、一方向に並ぶ4つの気筒11が形成されたシリンダブロック12と、このシリンダブロック12の上部に取り付けられたシリンダヘッド13とを備えている。各気筒11にはピストン14が往復動可能な状態で挿入されており、各ピストン14はコネクティングロッド15を介してクランクシャフト16に連結されている。
【0054】
エンジン1の吸気通路2には、吸気を濾過するエアクリーナ21と、吸入空気量に応じた信号を出力するエアフローメータ93と、吸入空気温度に応じた信号を出力する吸気温センサ94と、吸入空気量を調整するスロットルバルブ(吸気量調整手段)23とがそれぞれ設けられている。このスロットルバルブ23はスロットルモータ23aによって駆動される。
【0055】
上記吸気通路2は、各気筒11に吸気を分配する吸気マニホールド24と、気筒11毎に設けられて吸気マニホールド24に接続される吸気ポート25とを含む。
【0056】
一方、排気通路3には、排気ガス中の酸素濃度に応じた信号を出力するO2センサ96と、排気浄化のための触媒コンバータ32とがそれぞれ設けられている。この排気通路3は、気筒11毎に設けられた排気ポート33と、各排気ポート33を集合する排気マニホールド34とを含む。
【0057】
上記シリンダヘッド13には、吸気ポート25を開閉する吸気バルブ26と、排気ポート33を開閉する排気バルブ36とが設けられており、これらのバルブ26,36は、カム等を含んだ動弁機構17によって、クランクシャフト16と同期して開閉駆動される。
【0058】
各気筒11には、インジェクタ(燃料噴射弁)4及び点火プラグ5が、気筒11内に臨むようにシリンダヘッド13にそれぞれ取り付けられている。インジェクタ4にて燃料が各気筒11へ噴射されると気筒11内に混合気が形成され、その混合気が点火プラグ5の火花により着火して燃焼する。その燃焼により生じた燃焼圧力は、ピストン14に伝えられ、ピストン14を往復運動させる。このピストン14の往復運動は、コネクティングロッド15を介してクランクシャフト16に伝えられ、回転運動に変換されてエンジン1の出力として取り出されることになる。
【0059】
燃焼後の排気ガスは、排気通路3に導かれ、触媒コンバータ32にて浄化された後、図示しないマフラを介して大気へ放出される。
【0060】
エンジン1に使用される燃料としては、エタノール等のアルコール燃料や、アルコールとガソリンとの混合燃料が適用可能となっている。
【0061】
シリンダブロック12の下部12aには潤滑油Oを貯留するオイルパン(潤滑油貯留部)18が取り付けられており、この下部12aとオイルパン18とによって、クランクシャフト16を収容するクランクケース19が構成されている。
【0062】
一方、燃料タンクT内の燃料を上記インジェクタ4に供給する燃料供給系には、燃料タンクT内で発生した蒸発燃料が大気中に放出されることを防止するためのキャニスタシステム(蒸発燃料処理装置)6が設けられている。このキャニスタシステム6は、チャコールキャニスタ61(以下、単にキャニスタという)及びパージ制御弁(パージVSV)63を備えている。
【0063】
上記キャニスタ61は、内部に活性炭から成る吸着剤を収容し、燃料タンクT内で発生した蒸発燃料を一時的に吸着保持する。また、パージ制御弁63は、キャニスタ61と吸気通路2(より具体的にはサージタンク27、または、このサージタンク27の上流側)とを接続するパージ配管62に備えられ、所定のパージ条件が成立した際に開放される。そして、このパージ制御弁63の開放により、キャニスタ61内に吸着保持されていた蒸発燃料を吸気通路2に導入(パージ)することで、燃料タンクT内で発生した蒸発燃料を処理するようにしている。
【0064】
また、上記シリンダ内面とピストン14との隙間からクランクケース19内に吹き抜けたブローバイガスを吸気通路2に導くためのPCV装置7が備えられている。つまり、このPCV装置7によって、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等を含むブローバイガスを、吸気通路2を経て気筒11内に送り込み、このブローバイガスの大気中への放出を防止している。
【0065】
具体的に説明すると、上記シリンダブロック12及びシリンダヘッド13には、クランクケース19内に存在するブローバイガスをカム室13a内に導くためのブローバイガス連絡通路71が設けられている。また、カム室13aと吸気通路2(より具体的にはサージタンク27、または、このサージタンク27の上流側)とは、ブローバイガスを吸気通路2に導くためのブローバイガス還流通路72によって連通されている。また、このブローバイガス還流通路72の上流端には、ブローバイガスの逆流防止及び流量調整のためのPCVバルブ73が設けられている。このPCVバルブ73が開放されることにより、クランクケース19内に存在するブローバイガスが吸気通路2に導かれるようになっている。尚、上記カム室13a内には図示しないオイルセパレータが配設されており、ブローバイガス中に含まれるオイルミストを除去するようになっている。
【0066】
−制御ブロックの説明−
以上の如く構成されたエンジン1の運転状態はエンジンECU8によって制御される。このエンジンECU8は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83及びバックアップRAM84などを備えている。
【0067】
上記ROM82は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU81は、ROM82に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAM83は、CPU81での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM84は、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0068】
これらROM82、CPU81、RAM83及びバックアップRAM84は、バス87を介して互いに接続されるとともに、外部入力回路85及び外部出力回路86と接続されている。外部入力回路85には、上記クランクポジションセンサ91、水温センサ92、エアフローメータ93、吸気温センサ94、スロットル開度センサ95、O2センサ96、の他に、アクセル開度センサ97、カム角センサ98、油温センサ99等が接続されている。各センサの機能は周知であるため、ここでの説明は省略する。
【0069】
一方、外部出力回路86には、上記スロットルバルブ23を駆動するスロットルモータ23a、上記インジェクタ4、イグナイタ51等が接続されている。
【0070】
上記エンジンECU8は、上記各種センサの検出信号に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。例えば、周知の点火プラグ5の点火タイミング制御、スロットルモータ23aの駆動制御等が実行される。
【0071】
また、エンジンECU8は、下記の空燃比制御(O2センサ96の出力に基づいたインジェクタ4からの燃料噴射量の補正制御)を実行する。つまり、上記エンジンECU8は各気筒11に導かれる混合気の空燃比を目標空燃比(例えば理論空燃比)に保持させるようにインジェクタ4の燃料噴射量を補正する。具体的に、エンジンECU8は、クランクポジションセンサ91及びエアフローメータ93の出力信号等に基づいて気筒11内へ噴射する燃料噴射量の基礎となる基本燃料噴射量を算出するとともに、その基本燃料噴射量に対して、後述する空燃比フィードバック補正係数や空燃比学習値その他の係数を乗じることにより最終的な燃料噴射量を決定している。
【0072】
−燃料噴射量算出処理−
次に、上記空燃比制御に従って行われる燃料噴射量算出処理について説明する。
【0073】
図3は、インジェクタ4からの燃料噴射量を算出するための処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。
【0074】
この燃料噴射量算出処理では、先ず、ステップST1において、吸入空気量(上記エアフローメータ93により検出)、エンジン回転数(上記クランクポジションセンサ91からの出力信号に基づいて算出)、冷却水温度(上記水温センサ92により検出)等、現在のエンジン運転状態を示す各パラメータが読み込まれる。
【0075】
そして、ステップST2において、これら各パラメータに基づいて基本燃料噴射量QBASEが算出される。例えば、上記吸入空気量に対して理論空燃比を得るための燃料噴射量として算出される。
【0076】
次に、ステップST3において、以下の演算式(1)によって最終燃料噴射量QINJが算出される。
QINJ←
QBASE{1+(FAF−1.0)+(KG−1.0)}K1+K2 …(1)
(K1,K2:補正係数)
この演算式(1)において、「FAF」は目標空燃比である理論空燃比(例えば、エタノール100%燃料(E100燃料)にあっては8.9)に対する実空燃比の一時的な乖離を補償するための空燃比フィードバック補正係数である。また、「KG」は、理論空燃比に対する実空燃比の定常的な乖離(インジェクタ4の経時的な特性変化などによる乖離)を補償するための空燃比学習値である。
【0077】
尚、上記空燃比フィードバック補正係数FAFは、後述する空燃比フィードバック処理によって求められる。また、上記空燃比学習値KGは、後述する空燃比フィードバック処理及び空燃比学習処理によって求められる。
【0078】
オイルパン18内におけるオイル希釈(燃料によるオイルの希釈)の度合いが大きくなり、エンジンオイルからの燃料蒸発量が増大することに起因して実空燃比が理論空燃比から乖離する傾向を生じた場合、この傾向は上記空燃比フィードバック補正係数FAF及び空燃比学習値KGに反映されるようになる。
【0079】
このようにして最終燃料噴射量QINJが算出されると、この燃料噴射量算出処理は終了され、次回のインジェクタ4の燃料噴射タイミングにあっては、この最終燃料噴射量QINJでの燃料噴射が行われるように、燃料圧力に応じてインジェクタ4の開弁期間が設定されることになる。
【0080】
−空燃比フィードバック処理−
次に、空燃比フィードバック処理について図4及び図5を参照して説明する。
【0081】
図4は、上記フィードバック補正係数FAFを算出するための処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理も、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。また、この空燃比フィードバック処理が、本発明でいう空燃比補正手段による空燃比フィードバック補正量の算出動作に相当する。
【0082】
この空燃比フィードバック処理では、先ず、ステップST11において、空燃比フィードバック処理の実行条件が成立しているか否かが判断される。この実行条件としては、例えば、以下の3つの条件が挙げられる。
【0083】
・エンジン1の暖機完了
・燃料カットが非実行
・O2センサ96が活性化
これら各条件のうち少なくとも一つが成立していないときには、空燃比フィードバック処理の実行条件が成立していないと判断され、ステップST11でNO判定されて、ステップST12に移る。このステップST12では、上記フィードバック補正係数FAFが「1.0」に設定され、その後、本ルーチンを終了する。この場合、フィードバック補正係数FAFに基づく燃料噴射量のフィードバック制御は実質的に行われないことになる。つまり、空燃比フィードバック処理による燃料噴射の補正量(空燃比補正量)は「0」となる。
【0084】
一方、上記各条件が全て成立し、ステップST11でYES判定された場合には、ステップST13に移り、O2センサ96の出力電圧Voxが所定の基準電圧V1よりも小さいか否かが判定される。この基準電圧V1は、排気空燃比が理論空燃比にある場合におけるO2センサ96の出力電圧に相当する値として設定されている。
【0085】
ここで出力電圧Voxが基準電圧V1未満である場合、ステップST13でYES判定され、ステップST14に移る。このステップST14では、実空燃比が理論空燃比よりもリーンであるとして、空燃比識別フラグFOXが「0」に設定される。
【0086】
その後、ステップST15に移り、今回設定された空燃比識別フラグFOXと前回のルーチンで設定されていた空燃比識別フラグFOX(n−1)とが比較される。
【0087】
これら両者が一致しており、ステップST15でYES判定された場合には、ステップST16に移り、実空燃比が理論空燃比よりもリーン側にある状態が継続していると判断し、上記フィードバック補正係数FAFに所定の積分量a(a>0)を加算して、その加算値(FAF+a)を新たなフィードバック補正係数FAFとして設定した後、本ルーチンを終了する。
【0088】
一方、今回設定された空燃比識別フラグFOXと前回のルーチンで設定されていた空燃比識別フラグFOX(n−1)とが異なっており、ステップST15でNO判定された場合には、ステップST17に移る。このステップST17では、実空燃比が理論空燃比を基準としてこれよりもリッチ側の値からリーン側の値に反転したものと判断し、上記フィードバック補正係数FAFに所定のスキップ量A(A>0)を加算して、その加算値(FAF+A)を新たなフィードバック補正係数FAFとして設定する。尚、このスキップ量Aは上記積分量aと比較して十分に大きな値に設定されている。
【0089】
一方、O2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1以上である場合、ステップST13でNO判定され、ステップST18に移る。このステップST18では、実空燃比が理論空燃比よりもリッチであるとして、空燃比識別フラグFOXが「1」に設定される。
【0090】
その後、ステップST19に移り、今回設定された空燃比識別フラグFOXと前回のルーチンで設定されていた空燃比識別フラグFOX(n−1)とが比較される。
【0091】
これら両者が一致しており、ステップST19でYES判定された場合には、ステップST20に移り、実空燃比が理論空燃比よりもリッチ側にある状態が継続していると判断し、上記フィードバック補正係数FAFから所定の積分量b(b>0)を減算して、その減算値(FAF−b)を新たなフィードバック補正係数FAFとして設定した後、本ルーチンを終了する。
【0092】
一方、今回設定された空燃比識別フラグFOXと前回のルーチンで設定されていた空燃比識別フラグFOX(n−1)とが異なっており、ステップST19でNO判定された場合には、ステップST21に移る。このステップST21では、実空燃比が理論空燃比を基準としてこれよりもリーン側の値からリッチ側の値に反転したものと判断し、上記フィードバック補正係数FAFから所定のスキップ量B(B>0)を減算して、その減算値(FAF−B)を新たなフィードバック補正係数FAFとして設定する。尚、このスキップ量Bは上記積分量bと比較して十分に大きな値に設定されている。
【0093】
上記ステップST17またはステップST20の処理が実行された後、ステップST22に移り、空燃比学習処理が実行される。この空燃比学習処理では、上記空燃比学習値KGの算出が行われる。この空燃比学習処理の具体的な手順については後述する。
【0094】
その後、ステップST23において、次回の空燃比フィードバック処理に備え、現在の空燃比識別フラグFOXが前回値としての空燃比識別フラグFOX(n−1)として上記RAM83に記憶され、その後、本ルーチンを終了する。
【0095】
図5は、上述した空燃比フィードバック処理によって算出されるフィードバック補正係数FAFの変化の一例を示すタイミングチャートである。
【0096】
この図5に示すように、フィードバック補正係数FAFは、O2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1を跨いで変化するとき(図中のスキップタイミング)には、比較的大きく変化するように上記各スキップ量A,Bに基づいて増減操作される。一方、O2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1を跨いで変化したときから再び基準電圧V1を跨いで変化するまでの期間(図中の積分期間)では、比較的徐々に変化するように上記積分量a,bに基づいて増減操作される。
【0097】
ここで、実空燃比と理論空燃比とが定常的に乖離する傾向を有していない場合には、フィードバック補正係数FAFはその基準値である「1.0」を中心としてその近傍で変動することになる。従って、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVは略「1.0」と等しくなる。一方、例えばインジェクタ4における噴射特性の固体差や、エンジンオイルからの燃料蒸発に起因して実空燃比が理論空燃比からリッチ側或いはリーン側に定常的に乖離する傾向がある場合、フィードバック補正係数FAFはその基準値である「1.0」とは異なる値を中心としてその近傍で変動することになる。従って、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVは、その乖離傾向に応じて「1.0」とは異なる値に収束するようになる。このため、このフィードバック補正係数FAFの基準値(「1.0」)とその平均値FAFAVとの間の乖離に基づいて実空燃比と理論空燃比との定常的な乖離傾向を監視することができる。上記ステップST22の空燃比学習処理では、この定常的な乖離傾向を監視するためパラメータとして空燃比学習値KGを算出する。
【0098】
−空燃比学習処理−
次に、空燃比学習処理について図6のフローチャートを参照して説明する。このフローチャートに示される空燃比学習処理も、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。また、この空燃比学習処理が、本発明でいう空燃比学習手段による空燃比学習値の算出動作に相当する。
【0099】
この空燃比学習処理では、先ず、ステップST31において、空燃比学習処理の実行条件が成立しているか否かが判断される。この実行条件としては、例えばエンジン1が暖機完了状態にあること等が挙げられる。
【0100】
上記空燃比学習処理の実行条件が成立していない場合には、ステップST31でNO判定され、本ルーチンを終了する。
【0101】
一方、上記空燃比学習処理の実行条件が成立しており、ステップST31でYES判定された場合には、ステップST32に移り、以下の演算式(2)によってフィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVを算出する。
【0102】
FAFAV←(FAFB+FAF)/2 …(2)
この演算式(2)において「FAFB」は前回のスキップ処理、即ち各スキップ量A,Bに基づく増減操作がなされたときのフィードバック補正係数FAFの値である。即ち、ここでは、O2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1を跨いで変化したときのフィードバック補正係数FAFの値FAFBと、その後、再びO2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1を跨いで変化したときのフィードバック補正係数FAFの値との相加平均が上記平均値FAFAVとして算出される。
【0103】
このようにしてフィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVが算出された後、ステップST33において、次回の算出処理に備えて、現在のフィードバック補正係数FAFが前回のスキップ処理実行時における値FAFBとして記憶される。
【0104】
次に、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVと所定値α,β(β>1.0>α)との比較が行われる(ステップST34,ST35)。
【0105】
上記フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVが所定値α未満である場合には、ステップST34でYES判定され、実空燃比が理論空燃比に対してリッチ側に乖離する傾向があると判断されて、ステップST36において、この乖離傾向を補償すべく空燃比学習値KGがより小さい値になるように学習される。即ち、現在の空燃比学習値KGから所定値γが減算され、その減算値(KG−γ)が新たな空燃比学習値KGとして設定され、本ルーチンを終了する。
【0106】
一方、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVが所定値β以上である場合、ステップST35でYES判定され、実空燃比が理論空燃比に対してリーン側に乖離する傾向があると判断され、ステップST37において、この乖離傾向を補償すべく空燃比学習値KGがより大きな値になるように学習される。即ち、現在の空燃比学習値KGに所定値γが加算され、その加算値(KG+γ)が新たな空燃比学習値KGとして設定され、本ルーチンを終了する。
【0107】
これに対し、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVが所定値α以上であり且つ所定値β未満である場合には、この平均値FAFAVがその基準値「1.0」の近傍で変動しており、実空燃比が理論空燃比から乖離する傾向はないと判断される。そして、この場合には、ステップST34,ST35において共にNO判定され、空燃比学習値KGの更新を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0108】
−エンジンECU8によるその他の制御−
上記エンジンECU8は、上述した各種制御及び処理動作の他、「燃料カット制御」、「減速時空気量制御」、「アルコール濃度学習処理」、「パージガス濃度学習処理」、「パージガス流量制御」も実行するようになっている。これら制御及び処理は周知であるので、ここでは簡単に説明する。
【0109】
(燃料カット制御)
燃料カット制御は、車両の減速中にインジェクタ4からの燃料噴射を停止するものである。具体的には、ドライバ(運転者)によるアクセルペダルの踏み込み量が「0」(アクセルOFF)であり、且つエンジン回転数が予め定められた範囲にある(フューエルカット回転数(例えば1000rpm)以上にある)場合に、フューエルカット条件が成立したとしてインジェクタ4からの燃料噴射を停止する。実際には、このフューエルカット条件が成立した後、所定時間経過後に燃料噴射を停止する。また、このフューエルカットに伴ってエンジン回転数が低下し、所定の復帰回転数(燃料噴射復帰回転数)に達するとインジェクタ4からの燃料噴射を再開するようにしている。
【0110】
(減速時空気量制御)
減速時空気量制御は、車両減速時におけるスロットルバルブ23の開度制御である。例えば車両減速開始初期時であって、フューエルカットが開始される前段階、つまり、インジェクタ4からの燃料噴射継続中におけるスロットルバルブ23の開度を所定開度以上に維持してエンジン回転数の安定化を図り、ドライバビリティの確保を図るための制御である。また、その他、上記燃料噴射復帰回転数以下でのエンジン運転時(燃料噴射復帰時)に吸入空気量を確保してエンジン回転数の安定化によるドライバビリティの確保を図るための制御としても行われる。
【0111】
(アルコール濃度学習処理)
アルコール濃度学習処理は、エンジン1の冷間時に行われ、理論空燃比に対する実空燃比の乖離傾向を補償するための学習値(以下、アルコール濃度学習値と呼ぶ)を求めるための制御であって、上述した空燃比学習処理(図6)と同様にして行われる。このアルコール濃度学習処理が、本発明でいうアルコール濃度学習手段によるアルコール濃度学習値の算出動作に相当する。例えば、ガソリンを含む混合燃料を使用している場合に、オイル希釈の度合いが大きくなり、エンジンオイルからの燃料蒸発量(大部分がガソリンの蒸発量)が増大することに起因して、冷間時における実空燃比が理論空燃比から乖離するほど、アルコール濃度学習値は大きな値として算出されることになる。
【0112】
(パージガス濃度学習処理)
パージガス濃度学習処理は、パージガス濃度学習値を算出するための制御であって、上記O2センサ96の出力に基づく上記空燃比フィードバック補正係数と、キャニスタ61からパージ配管62内を流れて吸気通路2へ導入されるパージガスの流量に基づいてパージガス濃度学習値を算出する。尚、上記パージガスの流量は、図示しない圧力センサにより検出されたキャニスタ61内の圧力と、パージ制御弁63の開度とに基づいて算出される。このようにしてパージガス濃度学習値を算出することにより、このパージガス濃度学習値に基づいてパージ制御弁63の開度を調整すると共に、パージガス流量の適正化が図れるようにしている。
【0113】
図7は、このパージガス濃度学習処理の手順を示すフローチャートである。このパージガス濃度学習処理では、先ず、ステップST41において、パージ率PGR(吸気ポート25から気筒11に吸い込まれる吸入空気のうちパージ配管62から供給された気体(蒸発燃料)の割合)が十分に高いことを示すパージ率基準値F0を越えているか否かを判定する。これは、パージ中の燃料蒸気の濃度を学習するためには、十分なパージ量が確保されている必要があり、パージ率PGRが小さいと、パージ中の燃料蒸気の濃度を正確に認識できない可能性があるためである。
【0114】
上記パージ率PGRがパージ率基準値F0以下である場合には、ステップST41でNO判定され、本ルーチンを終了する。
【0115】
一方、上記パージ率PGRがパージ率基準値F0よりも高い場合にはステップST41でYES判定され、ステップST42に移る。このステップST42では、以下の演算式(3)によってパージずれ補正値FAFPGを算出する。
【0116】
FAFPG ←
FAFPG+{(FAFAV−1)/PGR−FAFPG}×δ …(3)
ここで、δは長期平均値を計算するための重み付けであり、例えばδ=1/8の値が設定される。また、「FAFAV−1」は、上述の如く算出された空燃比フィードバック係数FAFの平均値FAFAVにおける、制御中心「1」からのずれ量を示している。尚、エンジンECU8の電源オン時において初期設定されるパージずれ補正値FAFPGの初期値としては「0」が設定されている。
【0117】
したがって、上記演算式(3)は、空燃比フィードバック係数FAFの平均値FAFAVにおける制御中心に対するずれ量「FAFAV−1」とパージ率PGRとの比の長期平均値を、パージずれ補正値FAFPGとして求めていることになる。
【0118】
次に、ステップST43において、パージずれ補正値FAFPGが減少判定値B1(<0)より小さいか否かが判定される。
【0119】
パージずれ補正値FAFPGが減少判定値B1以上であり、ステップST43でNO判定された場合には、ステップST44に移り、パージずれ補正値FAFPGが増加判定値B2(>0)より大きいか否かが判定される。
【0120】
パージずれ補正値FAFPGが増加判定値B2以下であり、ステップST44でNO判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
【0121】
一方、パージずれ補正値FAFPGが減少判定値B1よりも小さく、ステップST43でYES判定された場合には、ステップST45に移り、パージ濃度学習値FGPGを変動量εだけ減少し、ステップST46で、パージずれ補正値FAFPGをゼロクリアして、本ルーチンを終了する。
【0122】
一方、パージずれ補正値FAFPGが増加判定値B2よりも大きく、上記ステップST44でYES判定された場合には、ステップST47に移り、パージ濃度学習値FGPGを変動量εだけ増加し、ステップST48で、パージずれ補正値FAFPGをゼロクリアして、本ルーチンを終了する。
【0123】
尚、上記パージ濃度学習値FGPGはエンジン1の運転領域毎に求められるのではなく、エンジン1の全運転領域で共通である。このパージ濃度学習値FGPGはパージされる気体中の燃料濃度に対応するが、空燃比の制御中心に対する相対的な値である。
【0124】
また、上記減少判定値B1としては例えば「−0.02」、上記増加判定値B2としては例えば「0.02」が設定される。このようにして、パージずれ補正値FAFPGの値に応じて、パージ濃度学習値FGPGが設定されると共に、常時、更新もなされる。
【0125】
(パージガス流量制御)
パージガス流量制御は、所定のパージ条件成立時に、上記パージ制御弁63の開度を調整(例えばDuty比を調整)することにより、パージガス流量の適正化を図るための制御である。また、このパージガス流量制御によるパージガス流量に基づいてインジェクタ4からの燃料噴射量を調整することにより、気筒11内での混合気を理論空燃比に近付けることを可能にしている。
【0126】
−オイル希釈−
エンジン1においては、インジェクタ4から噴射された燃料の一部が、シリンダ内壁面に付着し、液相状態でエンジンオイルと混ざり合うことになる。そして、このエンジンオイルと混ざり合った燃料は、ピストン14の往復運動に伴ってシリンダ内壁面から掻き落とされ、オイルパン18に流れ込む。このような状況が継続すると、オイルパン18内でのオイル希釈が進んでしまうことになる。
【0127】
特に、本実施形態に係る車両は、ガソリンに比べて沸点が高いエタノール等のアルコール燃料を使用するFFVであるためエンジン1の冷間時においてはシリンダ内壁面への燃料付着量が多くなりやすい。また、アルコール燃料の場合、同一トルクを得るための燃料噴射量はガソリンに比べて多くなるため、シリンダ内壁面への燃料付着量が多くなりやすい。その結果、オイル希釈の進行度も高いものとなる。
【0128】
そして、上述の如くオイルパン18に流れ込んだ燃料は、エンジン1の暖機が進むに従って、つまり油温の上昇に従ってクランクケース19内に蒸発し、PCV装置7を介して吸気通路2に導かれる。これにより、蒸発燃料が気筒11内に吸入されることになり、目標空燃比(例えば理論空燃比)に対する空燃比のずれを生じさせることになる。特にエタノール単体の燃料(E100燃料)の場合、燃料が単一成分であるため、油温がエタノールの沸点(約78℃)に達した時点で燃料蒸発量が急速に増大し、多量の燃料がPCV装置7を経て吸気通路2に導かれることになってしまう。
【0129】
上記エンジン1は、このような空燃比のずれを減少させるため、エンジンECU8によって上述した空燃比フィードバック処理、空燃比学習処理、アルコール濃度学習処理が実行されている。
【0130】
−オイル希釈判定動作−
本実施形態の特徴は、上記オイル希釈(オイルパン18内での燃料によるオイルの希釈)の有無を判定するための動作にある。以下の説明では、オイル希釈度合いが所定量未満である場合にはオイル希釈は生じていないと判定し、オイル希釈度合いが所定量以上である場合にはオイル希釈が生じていると判定する場合を例に挙げて説明する。
【0131】
このオイル希釈判定動作の概略について説明すると、上述した空燃比フィードバック処理により得られたフィードバック補正係数FAFに基づいて算出される空燃比補正量(空燃比フィードバック処理に起因する燃料噴射補正量)と、上記空燃比学習処理により得られた空燃比学習値(空燃比学習処理に起因する燃料噴射補正量に相当)と、上記アルコール濃度学習処理により得られたアルコール濃度学習値(アルコール濃度学習処理に起因する燃料噴射補正量に相当)との総和を「総空燃比補正量」とする(本発明でいう燃料補正手段による燃料補正量の算出動作)。そして、エンジン1の低負荷運転時におけるこの総空燃比補正量と、エンジン1の高負荷運転時におけるこの総空燃比補正量とを比較し、その差が所定値よりも大きい場合にオイル希釈が発生している(またはオイル希釈の度合いが大きい)と判定するようになっている(本発明でいうオイル希釈判定手段による潤滑油の希釈度合い判定動作)。
【0132】
オイル希釈が発生している場合、エンジン負荷の大きさに関わりなく、オイルパン18内で発生した蒸発燃料の吸気通路2への導入量はオイル希釈度合い応じて略一定である。これに対し、エンジン1の高負荷運転時にはスロットルバルブ23の開度が大きく且つインジェクタ4からの燃料噴射量も多く設定される。このため、このエンジン1の高負荷運転時においては、吸気通路2への蒸発燃料の導入(オイル希釈に起因する蒸発燃料の導入)による空燃比に与える影響度は比較的小さく、その結果、上記総空燃比補正量としても比較的小さな値として得られることになる。
【0133】
一方、エンジン1の低負荷運転時にはスロットルバルブ23の開度が小さく且つインジェクタ4からの燃料噴射量も少なく設定される。このため、このエンジン1の低負荷運転時においては、吸気通路2への蒸発燃料の導入(オイル希釈に起因する蒸発燃料の導入)による空燃比に与える影響度は比較的大きく、その結果、上記総空燃比補正量としても比較的大きな値として得られることになる。
【0134】
このように、エンジン1の高負荷運転時と低負荷運転時とでは、総空燃比補正量に差が生じることになり、その差は、蒸発燃料の吸気通路2への導入量が多いほど、つまり、オイル希釈度が高いほど大きくなる。このように、エンジン1の高負荷運転時における総空燃比補正量と低負荷運転時における総空燃比補正量との差は、オイル希釈度合いと大きな相関がある。この点に鑑み、本実施形態では、エンジン1の低負荷運転時における総空燃比補正量と、エンジン1の高負荷運転時における総空燃比補正量とを比較し、その差が所定値よりも大きい場合にオイル希釈が発生している(またはオイル希釈の度合いが大きい)と判定するようにしている。
【0135】
図8は、上記オイル希釈判定動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示されるオイル希釈判定動作は、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。
【0136】
先ず、ステップST51において、燃料湧き出し条件が成立しているか否かを判定する。ここでいう「燃料湧き出し条件」とは、オイルパン18内でエンジンオイル中に混入している燃料がクランクケース19内に蒸発していく温度条件である。つまり、オイルパン18内のエンジンオイルの温度が燃料の沸点(エタノールの場合約78℃)以上となっている場合に燃料湧き出し条件が成立することになる。具体的には、上記油温センサ99によって検出される油温に基づいて判定される。また、上記水温センサ92によって検出される冷却水温度から推測するようにしてもよい。
【0137】
上記燃料湧き出し条件が成立しておらず、ステップST51でNO判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
【0138】
一方、上記燃料湧き出し条件が成立しており、ステップST51でYES判定された場合には、エンジン1の高負荷運転時及び低負荷運転時のそれぞれについての上記総空燃比補正量が算出されているか否かを判定する。つまり、エンジン1の高負荷運転時における総空燃比補正量(空燃比フィードバック処理により得られたフィードバック補正係数FAFに基づいて算出される空燃比補正量と、空燃比学習処理により得られた空燃比学習値と、アルコール濃度学習処理により得られたアルコール濃度学習値との総和)が求められていると共に、エンジン1の低負荷運転時における総空燃比補正量が求められているか否かを判定する。
【0139】
より具体的には、エンジン1の負荷率が60%以上となっている際に上記総空燃比補正量が算出され(高負荷運転時における総空燃比補正量の算出)、且つエンジン1の負荷率が20%以下となっている際に上記総空燃比補正量が算出(低負荷運転時における総空燃比補正量の算出)されている場合に、ステップST52でYES判定されることになる。
【0140】
尚、上記エンジン1の負荷率は、エンジン1の最大機関負荷に対する現在の負荷割合を示す値であって、エンジン1の吸入空気量に対応するパラメータとエンジン回転数とから算出される。また、上記負荷率の値はこれに限定されるものではないが、高負荷運転時における総空燃比補正量の算出タイミングを規定する負荷率が高いほど(例えば負荷率が70%以上)、また、低負荷運転時における総空燃比補正量の算出タイミングを規定する負荷率が低いほど(例えば負荷率が10%以下)、これら総空燃比補正量の差を大きく得ることができ、オイル希釈判定の信頼性を高めることができる。
【0141】
図9及び図10は、上記総空燃比補正量の算出処理の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される総空燃比補正量の算出処理は、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。
【0142】
先ず、ステップST61において、エンジン1が冷間運転中であるか否かを判定する。これは、上記水温センサ92によって検出される冷却水温度に基づいて判定され、この冷却水温度が所定温度(例えば60℃)未満である場合に冷間運転中であると判定される。
【0143】
エンジン1が冷間運転中であり、ステップST61でYES判定された場合には、ステップST62に移り、エンジン1の運転状態は低負荷運転であるか否かを判定する。これは、上述した如くエンジン1の負荷率を求めることによって判定される。
【0144】
そして、エンジン1の運転状態が低負荷運転であり、ステップST62でYES判定された場合にはステップST63に移り、低負荷運転時のアルコール濃度学習値を取得する。この取得動作としては、上述した如く、空燃比学習処理(図6)と同様にして行われる。このようにして低負荷運転時のアルコール濃度学習値が取得された後、ステップST64に移り、低負荷アルコール濃度学習値取得フラグFLALを「1」にセットする。
【0145】
一方、このエンジン1の冷間運転中における運転状態が低負荷運転ではなくステップST62でNO判定された場合には、ステップST65に移り、エンジン1の運転状態は高負荷運転であるか否かを判定する。これも、上述した如くエンジン1の負荷率を求めることによって判定される。
【0146】
そして、エンジン1の運転状態が高負荷運転であり、ステップST65でYES判定された場合にはステップST66に移り、高負荷運転時のアルコール濃度学習値を取得する。この取得動作も、上述した如く、空燃比学習処理(図6)と同様にして行われる。このようにして高負荷運転時のアルコール濃度学習値が取得された後、ステップST67に移り、高負荷アルコール濃度学習値取得フラグFHALを「1」にセットする。
【0147】
一方、エンジン1の運転状態が低負荷運転でも高負荷運転でもない場合(中負荷運転時)には、ステップST65でNO判定される。
【0148】
ステップST68では、上記低負荷アルコール濃度学習値取得フラグFLAL及び高負荷アルコール濃度学習値取得フラグFHALが共に「1」にセットされているか否かを判定する。つまり、低負荷運転時のアルコール濃度学習値及び高負荷運転時のアルコール濃度学習値が共に取得された状態にあるか否かを判定する。
【0149】
一方のアルコール濃度学習値のみしか取得されていない場合や、両方のアルコール濃度学習値が共に取得されていない場合には、ステップST68でNO判定され、そのまま本ルーチンを終了する。この場合、低負荷運転時のアルコール濃度学習値及び高負荷運転時のアルコール濃度学習値は共に「0」として認識されることになる。
【0150】
一方、両方のアルコール濃度学習値が共に取得されている場合には、低負荷アルコール濃度学習値取得フラグFLAL及び高負荷アルコール濃度学習値取得フラグFHALが共に「1」にセットされているため、ステップST68でYES判定され、ステップST69に移る。このステップST69では、これら取得された低負荷運転時のアルコール濃度学習値及び高負荷運転時のアルコール濃度学習値をそれぞれ上記RAM83に格納する。
【0151】
以上が、冷間運転中におけるアルコール濃度学習値の取得動作である。
【0152】
一方、エンジン1が温間運転中である場合には、ステップST61でNO判定され、ステップST70(図10)に移る。このステップST70では、エンジン1の運転状態は低負荷運転であるか否かを判定する。
【0153】
そして、エンジン1の運転状態が低負荷運転であり、ステップST70でYES判定された場合にはステップST71に移り、低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値を取得する。この取得動作としては、上述した空燃比フィードバック処理(図4)及び空燃比学習処理(図6)によって行われる。このようにして低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値が取得された後、ステップST72に移り、低負荷空燃比補正量取得フラグFLA/Fを「1」にセットする。
【0154】
一方、このエンジン1の温間運転中における運転状態が低負荷運転ではなくステップST70でNO判定された場合には、ステップST73に移り、エンジン1の運転状態は高負荷運転であるか否かを判定する。
【0155】
そして、エンジン1の運転状態が高負荷運転であり、ステップST73でYES判定された場合にはステップST74に移り、高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値を取得する。この取得動作も、上述した空燃比フィードバック処理(図4)及び空燃比学習処理(図6)によって行われる。このようにして高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値が取得された後、ステップST75に移り、高負荷空燃比補正量取得フラグFHA/Fを「1」にセットする。
【0156】
一方、エンジン1の運転状態が低負荷運転でも高負荷運転でもない場合(中負荷運転時)には、ステップST73でNO判定される。
【0157】
ステップST76では、上記低負荷空燃比補正量取得フラグFLA/F及び高負荷空燃比補正量取得フラグFHA/Fが共に「1」にセットされているか否かを判定する。つまり、低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値と高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値とが共に取得された状態にあるか否かを判定する。
【0158】
一方の空燃比補正量及び空燃比学習値のみしか取得されていない場合や、両方の空燃比補正量及び空燃比学習値が共に取得されていない場合には、ステップST76でNO判定され、そのまま本ルーチンを終了する。この場合、低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値、高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値は共に「0」として認識されることになる。
【0159】
一方、両方の空燃比補正量及び空燃比学習値が共に取得されている場合には、低負荷空燃比補正量取得フラグFLA/F及び高負荷空燃比補正量取得フラグFHA/Fが共に「1」にセットされているため、ステップST76でYES判定され、ステップST77に移る。このステップST77では、これら取得された低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値、高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値をそれぞれ上記RAM83に格納する。
【0160】
以上が、温間運転中における空燃比補正量及び空燃比学習値の取得動作である。
【0161】
このような総空燃比補正量算出処理にあっては、低負荷運転時に取得されたアルコール濃度学習値と空燃比補正量と空燃比学習値との合算値が低負荷運転時の総空燃比補正量とされる。また、高負荷運転時に取得されたアルコール濃度学習値と空燃比補正量と空燃比学習値との合算値が高負荷運転時の総空燃比補正量とされる。
【0162】
図8のオイル希釈判定動作に戻り、何れか一方または両方の総空燃比補正量が求められていない場合には、ステップST52でNO判定され、オイル希釈判定動作の実行は不可能であるとして、本ルーチンを終了する。
【0163】
一方、エンジン1の高負荷運転時及び低負荷運転時のそれぞれについての総空燃比補正量が算出されており、ステップST52でYES判定された場合には、ステップST53に移り、低負荷運転時の総空燃比補正量から高負荷運転時の総空燃比補正量を減算し、この値(減算値)が所定値C(本発明でいうオイル希釈判定閾値)以上となっているか否かを判定する。具体的には、この減算値が高負荷運転時の総空燃比補正量に対して20%以上の値として求められているか否かを判定する。この値はこれに限定されるものではなく、実験やシミュレーション等によって決定されている。
【0164】
上記減算値が所定値C未満である場合(例えば、この減算値が高負荷運転時の総空燃比補正量に対して10%であった場合)、ステップST53でNO判定され、オイル希釈は発生していないか、発生していてもその希釈量は僅かであるとして、オイル希釈判定フラグを「0」にリセットする(ステップST54)。
【0165】
一方、上記減算値が大きく(例えば、この減算値が高負荷運転時の総空燃比補正量に対して30%であった場合)、ステップST53でYES判定され、オイル希釈が発生しているとして、オイル希釈判定フラグを「1」にセットする。
【0166】
そして、ステップST55においてオイル希釈判定フラグを「1」にセットした後、ステップST56において、オイル希釈時のエンジン制御動作を実行する。このオイル希釈時に実行される具体的なエンジン制御動作については後述する。
【0167】
尚、上述の如くオイル希釈が発生しているとして上記ステップST55においてオイル希釈判定フラグが「1」にセットされた後、エンジン1の運転が継続し、その後、上記減算値が所定値C未満となった場合には、ステップST53でNO判定され、オイル希釈は発生していないか、発生していてもその希釈量は僅かであるとして、オイル希釈判定フラグを「0」はリセットされることになる。
【0168】
ここでは、上記減算値が所定値C以上であるか否かによってオイル希釈が発生しているか否かを判別するようにしているが、オイル希釈が発生していると判定する上記所定値Cとは別に、オイル希釈が発生していないと判定する所定値Dを設定するようにしてもよい。つまり、オイル希釈が生じていると判定するための上記オイル希釈判定閾値(上記所定値C)と、オイル希釈が解消されたと判定するためのオイル希釈解消判定閾値(上記所定値D)との間にヒステリシスを設定するものである。この場合、上記オイル希釈解消判定閾値よりもオイル希釈判定閾値を大きな値として設定することになる。これにより、オイル希釈が発生しているとする判定動作とオイル希釈が解消されたとする判定とのハンチングを回避できる。
【0169】
図11は、エンジン負荷と総空燃比補正量との関係の一例を示している。この図11の左側はエンジン1の低負荷運転時における上記空燃比フィードバック処理に起因する空燃比補正量と、上記空燃比学習処理により得られた空燃比学習値と、上記アルコール濃度学習処理により得られたアルコール濃度学習値との総和である総空燃比補正量の大きさを示している。一方、この図11の右側はエンジン1の高負荷運転時における上記空燃比フィードバック処理に起因する空燃比補正量と、上記空燃比学習処理により得られた空燃比学習値と、上記アルコール濃度学習処理により得られたアルコール濃度学習値との総和である総空燃比補正量の大きさを示している。このように低負荷運転時と高負荷運転時とでは、オイル希釈の度合いが同一であっても空燃比補正量には差が生じている。そして、この差は、オイル希釈の度合いが大きいほど大きな値として得られることになる。図11(a)はオイル希釈の度合いが大きい場合(上記ステップST53でYES判定される場合)における各運転時の総空燃比補正量を示しており、図11(b)はオイル希釈の度合いが小さい場合(上記ステップST53でNO判定される場合)における各運転時の総空燃比補正量を示している。
【0170】
以上説明したように、本実施形態では、エンジン1の高負荷運転時と低負荷運転時とでは、吸気系への蒸発燃料(エンジンオイルから蒸発した燃料)の導入量が同一であっても総空燃比補正量に差が生じることになり、その差は、オイル希釈度が高いほど大きくなる点に着目し、つまり、高負荷運転時における上記総空燃比補正量と低負荷運転時における総空燃比補正量との差が、オイル希釈度合いと大きな相関があることに着目し、高負荷運転時における総空燃比補正量と低負荷運転時における総空燃比補正量との差に基づいてオイル希釈度合いを高い精度で判定することができる。
【0171】
また、本実施形態のオイル希釈判定動作によれば、オイル希釈度合いが高い状態で、新たな燃料が燃料タンクTに供給され、その燃料種が変更された場合であっても、現時点でのオイル希釈度合いを正確に判定することができる。例えば、エタノール単体の燃料(E100燃料)を使用している状態でオイル希釈度合いが高くなり、その後、エタノールとガソリンとの混合燃料(例えばE50燃料)が燃料が燃料タンクTに供給されたとしても、オイル希釈度合いを正確に判定することが可能である。
【0172】
−他のオイル希釈判定−
上述したようにエンジン1の高負荷運転時における総空燃比補正量と低負荷運転時における総空燃比補正量と差に基づいてオイル希釈判定を行うものに加えて、本実施形態では、以下に述べるような動作によってもオイル希釈判定が行えるようにしている。また、オイル希釈判定を解除する動作も行うようにしている。以下、具体的に説明する。
【0173】
(温間運転時の希釈判定)
エンジン1の暖機が完了し、温間運転に移行すると、その後、オイルパン18内のエンジンオイルが燃料の沸点以上に温度上昇することで、このエンジンオイルに混入していた燃料がクランクケース19内に蒸発する。そして、この蒸発した燃料は、PCV装置7を経て吸気通路2に導入されていく。この場合、上記総空燃比補正量(温間運転の総空燃比補正量)が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合は、エンジン1の負荷状態に関わりなくオイル希釈度合いが高いと判定するようにしている。このオイル希釈判定閾値は、実験やシミュレーション等によって決定されている。
【0174】
例えば、上記水温センサ92により検出される冷却水温度が60℃を超えている状況や、上記油温センサ99により検出される油温が60℃を超えている状況で、上記総空燃比補正量が上記オイル希釈判定閾値以上である場合はオイル希釈度合いが高いと判定するようにしている(本発明でいうオイル希釈断定手段によるオイル希釈判定動作)。
【0175】
これによれば、低負荷運転時の総空燃比補正量及び高負荷運転時の総空燃比補正量の取得を待つことなしにオイル希釈度合いが高いことを判定できる。言い換えると、各負荷での総空燃比補正量の取得ができなくてもオイル希釈度合いが高いことを判定でき、迅速な判定処理を実現することができる。
【0176】
(エンジン再始動時の希釈判定)
上述の如くオイル希釈判定(上記総空燃比補正量の差によるオイル希釈判定や温間運転時のオイル希釈判定)が行われた後に、エンジン1が停止され、その後、再始動された場合には、油温等に応じてオイル希釈判定を行うようにしている(本発明でいう再始動時オイル希釈判定手段によるオイル希釈判定動作)。
【0177】
つまり、エンジン1が停止された際に、上記オイル希釈判定フラグを上記バックアップRAM84に記憶させ、その後のエンジン1の再始動時に、その情報をバックアップRAM84から読み出す。また、このエンジン1の再始動時における油温情報を取得し、上記読み出したオイル希釈判定情報の継続使用または判定情報のリセットを行う。この油温情報としては、上記油温センサ99によって検出される油温信号であってもよいし、上記水温センサ92によって検出される冷却水温度から油温を推定したものであってもよい。
【0178】
例えば、油温が比較的高く、オイルを希釈していた燃料の大部分が蒸発していると判定された場合には、エンジン停止前のオイル希釈判定フラグが「1」にセットされていたとしても、エンジン1の再始動と同時に、このオイル希釈判定フラグを「0」にリセットする。
【0179】
逆に、油温が比較的低く、オイルパン18内のエンジンオイルには未だ多量の燃料が混入していると判定された場合には、エンジン停止前のオイル希釈判定フラグが「1」にセットされていた場合に、エンジン1の再始動後も、そのオイル希釈判定フラグを「1」に保持する。
【0180】
これによれば、過去(エンジン1の停止前)のオイル希釈判定結果とエンジン1の再始動時の油温情報とに基づいて、エンジン1の再始動と略同時にオイル希釈判定を実施することが可能になる。
【0181】
(オイル希釈解除判定)
エンジンオイルに混入している燃料は、エンジン1の暖機が完了した後に蒸発していき、エンジン1が継続運転されることで、その大部分は蒸発してオイル希釈は解消されることになる。
【0182】
この点に鑑み、オイル希釈度合いが高いと判定された後であって、エンジン1の暖機完了後の運転継続時間が所定時間(例えば30分)を超えた場合には、仮にオイル希釈量が最大量にまで達していたとしても、オイルを希釈していた燃料の大部分は蒸発し、オイル希釈は解消されたと判定するようにしている。つまり、上記各負荷での総空燃比補正量の取得を行うことなく、オイル希釈解除判定を行って上記オイル希釈判定フラグを「0」にリセットする(本発明でいうオイル希釈解消判定手段によるオイル希釈解消判定動作)。
【0183】
尚、上述した各オイル希釈判定やオイル希釈解除判定は、必ずしも上述した総空燃比補正量の差によるオイル希釈判定が行われるエンジン1に対してのみ実行されることには限定されない。
【0184】
−オイル希釈時のエンジン制御−
次に、上記図8のステップST56において実行されるオイル希釈発生時のエンジン制御について説明する。以下では、オイル希釈発生時のエンジン制御として複数の制御を列挙するが、何れの制御も、単独で行ってもよいし、複数を同時並行してもよい。
【0185】
(空燃比学習値のホールド)
先ず、オイル希釈発生時のエンジン制御として、上記空燃比学習値のホールドが挙げられる。つまり、オイル希釈発生時には上記空燃比学習処理を禁止することで現在の空燃比学習値をホールド(保持)するようにしている。
【0186】
これは、オイル希釈度合いが大きい場合には空燃比学習処理による正確な空燃比学習値の算出が困難になり、誤った空燃比学習値が算出されることによる不具合(例えば気筒11内の空燃比が理論空燃比から大きく乖離してしまうこと)を回避するためである。
【0187】
(アルコール濃度学習値のホールド)
また、オイル希釈発生時のエンジン制御として、上記アルコール濃度学習値のホールドが挙げられる。つまり、オイル希釈発生時には上記アルコール濃度学習処理を禁止することで現在のアルコール濃度学習値をホールド(保持)するようにしている。
【0188】
これは、オイル希釈度合いが大きい場合にはアルコール濃度学習処理による正確なアルコール濃度学習値の算出が困難になり、誤ったアルコール濃度学習値が算出されることによる不具合(例えば気筒11内の空燃比が理論空燃比から大きく乖離してしまうこと)を回避するためである。
【0189】
(パージ制御の禁止)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、パージ制御の禁止が挙げられる。つまり、上記キャニスタシステム6におけるパージ制御弁63を全閉状態に維持し、キャニスタ61内に吸着保持されている蒸発燃料の吸気通路2への導入(パージ)を禁止するようにしている。
【0190】
これは、オイル希釈度合いが大きい場合にはパージガス流量(吸気通路2へ導入される蒸発燃料の導入量)の正確な計測が困難になり、気筒11内の混合気の空燃比が理論空燃比から大きくずれてしまい、ドライバビリティの悪化などを招く可能性があるので、これを回避するためである。
【0191】
(パージ濃度学習値のホールド)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、上記パージ濃度学習値のホールドが挙げられる。つまり、オイル希釈発生時には上記パージ濃度学習処理を禁止することで現在のパージ濃度学習値をホールド(保持)するようにしている。
【0192】
これは、オイル希釈度合いが大きい場合にはパージ濃度学習処理による正確なパージ濃度学習値の算出が困難になり、誤ったパージ濃度学習値が算出されることによる不具合を回避するためである。
【0193】
(フューエルカットの禁止)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、フューエルカットの禁止が挙げられる。上述した如く、車両の減速中には、基本的にインジェクタ4からの燃料噴射を停止するフューエルカット制御が実行されるが、オイル希釈発生時には、このフューエルカットを禁止し、インジェクタ4からの燃料噴射を継続して行うようにしている。
【0194】
その理由は、フューエルカットすることで、空燃比フィードバック制御が実施できなくなり、エンジンオイルから蒸発した燃料によって気筒11内での空燃比がオーバリッチになってしまう可能性を回避するためである(エンジンオイルからの蒸発燃料が多い場合)。また、エンジンオイルから蒸発した燃料が気筒11内に導入されている状況でフューエルカットを実施してしまうと、燃焼室内での失火が発生し、未燃ガスが排気系において燃焼して触媒コンバータ32の温度が過剰上昇してしまって触媒性能の低下に繋がってしまう可能性があるので(エンジンオイルからの蒸発燃料が少ない場合)、これを回避するためである。
【0195】
但し、エンジン1の負荷が極めて低い場合(例えば負荷率が10%未満の場合)には、オイル希釈時のエンジン制御として、フューエルカットを禁止することなくインジェクタ4からの燃料噴射を停止するようにしている。
【0196】
その理由は、エンジン1の負荷が極端に低い場合にフューエルカットを禁止、つまり、インジェクタ4からの燃料噴射を継続してしまうと、燃焼室内での燃焼状態の悪化に伴って触媒コンバータ32の温度の過剰上昇が早期に発生してしまう可能性がある。これを回避するべく、エンジン1の負荷が極めて低い場合に、オイル希釈が生じている際には、フューエルカットを実行するようにしている。
【0197】
(空燃比フィードバック制御の継続)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、インジェクタ4からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、上記空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比フィードバック制御を継続することが挙げられる。
【0198】
オイル希釈の発生時に空燃比フィードバック制御を禁止してしまうと、気筒11内の空燃比がオーバリッチになる可能性がある。これを回避するために、オイル希釈が生じていると判定された際において、インジェクタ4からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、空燃比フィードバック制御を継続し、気筒11内の空燃比を理論空燃比付近で安定化させるようにしている。
【0199】
(減速運転時の吸気増量)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、上述した如くインジェクタ4からの燃料噴射停止動作を禁止する際において、車両の減速運転時である場合には、この燃料噴射停止動作の禁止に伴って、スロットルバルブ23の開度を大きく設定し、吸入空気量を増量することが挙げられる。
【0200】
つまり、減速運転時にエンジン1が低負荷運転となることを回避するべく吸入空気量を増量する。これにより、オイル希釈が生じている場合の減速運転時におけるエンジン回転数の安定化を図ることができ、ドライバビリティの確保を図ることができる。
【0201】
(低負荷運転時の噴射量制限)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、エンジン1の低負荷運転時に、オイル希釈が生じていると判定された場合には、インジェクタ4からの燃料噴射量の増量を制限することが挙げられる。
【0202】
エンジン1が低負荷運転である場合には、上述した空燃比フィードバック処理によって要求燃料噴射量が確保されている。このため、オイル希釈に起因して気筒11内の空燃比がオーバリッチになることを抑制するべく、インジェクタ4からの燃料噴射量の増量を制限するようにしている。例えば、通常のインジェクタ4の燃料補正量に対して10%の減量補正を行うようにしている。
【0203】
(燃料補正量の制御幅の拡大)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、オイル希釈が生じていると判定された場合には、上記総空燃比補正量の制御幅を拡大することが挙げられる。
【0204】
これにより、空燃比の制御幅の拡大が図れ、特に、上記FFVに搭載されるエンジン1の場合、オイル希釈量が大幅に増大する可能性があるので、これに対応可能な補正量を得ることができる。尚、この制御幅としては、オイル希釈が解消されていくに従って徐々に小さくしていくようにしている。
【0205】
尚、上述したオイル希釈時の各エンジン制御は、必ずしも上述したオイル希釈判定によってオイル希釈度合いが大きいと判定された場合に実行されることには限定されない。つまり、その他のオイル希釈判定(例えば周知のオイル希釈判定)によってオイル希釈度合いが大きいと判定された場合にも上記エンジン制御は行うことが可能である。言い換えると、上述したオイル希釈時の各エンジン制御は、オイル希釈判定動作に制約を受けるものではない。
【0206】
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、本発明を自動車用4気筒エンジン1に適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンに対しても適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型やV型や水平対向型等の別)についても特に限定されるものではない。
【0207】
また、上記実施形態では、触媒コンバータ32の上流側に設けられたO2センサ96の出力に基づいて上記空燃比フィードバック処理及び空燃比学習処理を行うものとしていた。本発明はこれに限らず、触媒コンバータ32の上流側にA/Fセンサを設け、このA/Fセンサの出力に基づいて空燃比フィードバック処理及び空燃比学習処理を行うようにしてもよい。また、O2センサとA/Fセンサとを併用するようにしてもよい。
【0208】
更に、上記実施形態では、筒内直噴式のエンジン1に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、ポート噴射式のエンジンや、ポート噴射式及び筒内直噴式の両インジェクタを備えたエンジンに対しても適用可能である。
【0209】
また、上記実施形態では、FFVに搭載されたエンジン1、つまり、アルコール燃料またはアルコールとガソリンとの混合燃料を使用するエンジン1に対して本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、ガソリン単体の燃料を使用するエンジンに対しても適用が可能である。
【0210】
また、上記実施形態では、総空燃比補正量を、空燃比補正量、空燃比学習値、アルコール濃度学習値の総和として算出したが、空燃比補正量及び空燃比学習値のみの総和として総空燃比補正量を算出するようにしてもよい。つまり、冷間運転時に取得されるアルコール濃度学習値を総空燃比補正量から排除するようにしてもよい。これは、例えばエタノール単体の燃料(E100燃料)の場合、冷間運転時にはエンジンオイルからの燃料蒸発は殆ど生じず、高負荷運転時と低負荷運転時とではアルコール濃度学習値に殆ど差が生じないからである。この場合、例えば冷却水温度及び油温が共に60℃を超えている場合に上記総空燃比補正量の算出を行うようにする。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明は、FFVに搭載されるエンジンのオイルパン内における燃料によるオイルの希釈の有無の判定動作に適用可能である。
【符号の説明】
【0212】
1 エンジン
18 オイルパン(潤滑油貯留部)
23 スロットルバルブ(吸気量調整手段)
4 インジェクタ(燃料噴射弁)
8 エンジンECU
92 水温センサ
96 O2センサ
O エンジンオイル(潤滑油)
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のオイル希釈判定装置及び内燃機関制御装置に係る。特に、本発明は、オイルの希釈度合いを正確に判定するための対策に関する。また、本発明は、その判定結果に応じて実行される内燃機関の制御にも関する。尚、上記「オイル希釈」とは、オイルパン等のオイル貯留部に貯留されているエンジンオイルが液相の燃料によって希釈される状態をいう。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用内燃機関等(以下、エンジンと呼ぶ場合もある)として、エタノール単体の燃料や、エタノールとガソリンとの混合燃料が使用可能な多種燃料エンジンが知られている(例えば、下記の特許文献1)。
【0003】
この種のエンジンが搭載された車両は、一般にフレキシブル燃料自動車(FFV:Flexible Fuel Vehicle)と呼ばれており、アルコール燃料を使用することにより、排気エミッションの改善及び化石燃料の消費量削減といった環境性能の向上を図ることができる。
【0004】
ところで、エンジンにおいては、インジェクタから噴射された燃料の一部が、シリンダ内壁面に付着し、液相状態でエンジンオイル(シリンダ内壁面の潤滑に寄与しているエンジンオイル)と混ざり合うことになる。そして、このエンジンオイルと混ざり合った燃料は、ピストンの往復運動に伴ってシリンダ内壁面から掻き落とされ、オイルパンに流れ込む。このような状況が継続すると、オイルパン内でのオイル希釈が進んでしまうことになる。
【0005】
特に、上記FFVの場合、ガソリンに比べて沸点が高いエタノール等のアルコール燃料を使用し、また、同一トルクを得るのに必要な燃料噴射量はガソリンエンジンに比べて多くなるため(例えば目標A/F=8.9で空燃比制御されているため)、エンジンの冷間時においてはシリンダ内壁面への燃料付着量が多くなりやすい。その結果、オイル希釈の進行度も高いものとなる。つまり、短時間の冷間運転を繰り返す、いわゆる冷間ショートトリップが繰り返される状況や、冷間時の高負荷運転が繰り返される状況ではオイル希釈が進行しやすくなる。また、特に、筒内に燃料を直接的に噴射する筒内直接噴射式のエンジンにおいては、インジェクタの噴射孔とシリンダ内壁面との距離が比較的短い(ポート噴射式のエンジンに比べて短い)ので、オイル希釈の発生は顕著である。
【0006】
そして、上述の如くオイルパンに流れ込んだ燃料は、エンジンの暖機が進むに従って、つまり油温の上昇に従ってクランクケース内に蒸発していき、PCV(Positive Crankcase Ventilation)装置を介してエンジンの吸気通路に導かれる。これにより、蒸発燃料が気筒内に吸入されることになり、目標空燃比(例えば理論空燃比)に対する空燃比のずれを生じさせることになる。特にエタノール単体の燃料(E100燃料)の場合、燃料が単一成分であるため、油温がエタノールの沸点(約78℃)に達した時点で燃料蒸発量が急速に増大し、多量の燃料がPCV装置を経て吸気通路に導かれることになってしまう。
【0007】
このため、オイル希釈度合いを判定するための手段が求められている。下記の特許文献2では、燃料圧力を低下させる前の空燃比補正量と、燃料圧力を低下させた後の空燃比補正量との差を算出し、この値に基づいてオイル希釈の発生の有無を判定(実際には、インジェクタの異常とオイル希釈の発生との識別)を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−36079号公報
【特許文献2】特開2007−127076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、空燃比補正量の変動要因としてはオイル希釈度合い以外のものも含まれる。そして、燃料圧力を低下させる前後の空燃比補正量の差とオイル希釈度合いとの相関は比較的小さく、他の要因によっても上記空燃比補正量の差は大きく変化する。このため、特許文献2のオイル希釈判定動作では、オイル希釈度合いを高い精度で判定することが困難である。
【0010】
このような不具合は、上記FFVに搭載されるエンジンに限らず、ガソリンのみを燃料として使用するガソリンエンジンにおいても同様に生じる可能性がある。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、オイルの希釈度合いを正確に判定することが可能な内燃機関のオイル希釈判定装置、及び、その判定結果に応じた制御動作を行う内燃機関制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、内燃機関の低負荷運転時と高負荷運転時とでは、燃料噴射量の補正量(空燃比補正量:下記の実施形態でいう総空燃比補正量)の差が、燃料によるオイルの希釈量が多いほど大きくなることに着目し、これら燃料噴射量の補正量の差に基づいてオイル希釈判定を行うようにしている。
【0013】
−解決手段−
具体的に、本発明は、目標空燃比に対する実空燃比の偏差を小さくするように燃料噴射弁からの燃料噴射量を補正するための燃料補正量を求める燃料補正手段を備える内燃機関のオイル希釈判定装置を前提とする。このオイル希釈判定装置に対し、高負荷運転時における上記燃料補正量と低負荷運転時における上記燃料補正量との差に基づいて、潤滑油貯留部での燃料による潤滑油の希釈度合いの判定を行うオイル希釈判定手段を備えさせている。
【0014】
ここで、オイル希釈判定手段による判定動作の概念としては、燃料による潤滑油の希釈が生じているか否かの判別や、燃料による潤滑油の希釈度合いの大きさを判定して希釈度合いの大きさが所定値以上である場合に潤滑油の希釈が生じていると判断するものや、希釈度合いの大きさを認識するもの等が含まれる。
【0015】
内燃機関の高負荷運転時における燃料補正量と、低負荷運転時における燃料補正量との差は、燃料による潤滑油の希釈度合いが高いほど大きくなる。上記オイル希釈が発生している場合、内燃機関の負荷の大きさに関わりなく、潤滑油から蒸発した燃料(潤滑油を希釈していた燃料)の吸気系への導入量はオイル希釈度合い応じて略一定である(オイル希釈度合いが高いほど吸気系への蒸発燃料の導入量は多くなっている)のに対し、内燃機関の高負荷運転時には、吸入空気量及び燃料噴射量が共に多く設定されるため、上記吸気系への蒸発燃料の導入が空燃比に与える影響度は比較的小さくなる。一方、内燃機関の低負荷運転時には、吸入空気量及び燃料噴射量が共に少なく設定されるため、上記吸気系への蒸発燃料の導入が空燃比に与える影響度は比較的大きくなる。このため、内燃機関の高負荷運転時と低負荷運転時とでは、吸気系への蒸発燃料の導入量が同一であっても燃料補正量に差が生じることになり、その差は、オイル希釈度が高いほど大きくなる。このように、高負荷運転時における燃料補正量と低負荷運転時における燃料補正量との差は、オイル希釈度合いと大きな相関がある。本解決手段では、このことを利用し、低負荷運転時における燃料補正量と高負荷運転時における燃料補正量との差に基づいてオイル希釈度合いを高い精度で判定することができる。
【0016】
上記燃料補正量を算出するための具体的な構成としては以下のものが挙げられる。つまり、目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比補正手段と、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値を算出する空燃比学習手段とを備えさせ、上記燃料補正手段が、少なくとも上記空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値との合算値を燃料補正量として求めるようにする。そして、上記オイル希釈判定手段が、高負荷運転時における上記合算値である燃料補正量と、低負荷運転時における上記合算値である燃料補正量との差に基づいてオイル希釈判定を行う構成としている。
【0017】
上記空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値は、共にオイル希釈度合いが高いほど大きくなり、また、内燃機関の高負荷運転時におけるこれら空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値と、内燃機関の低負荷運転時におけるこれら空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値との差は、燃料による潤滑油の希釈度合いが高いほど大きくなる。このため、少なくとも低負荷運転時における空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値の合算値と、高負荷運転時における空燃比フィードバック補正量及び空燃比学習値の合算値との差に基づいてオイル希釈度合いを高い精度で判定することができる。これは、燃料としてガソリンのみを使用する内燃機関だけでなく、アルコール単体の燃料、アルコールとガソリンとの混合燃料の何れに対しても適用可能である。
【0018】
燃料としてアルコールを含む場合に、上記燃料補正量を算出するための具体的な構成としては以下のものが挙げられる。つまり、目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比補正手段と、温間時、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値を算出する空燃比学習手段と、冷間時、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるためのアルコール濃度学習値を算出するアルコール濃度学習手段とを備えさせ、上記燃料補正手段が、上記空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値とアルコール濃度学習値との合算値を燃料補正量として求めるようにする。そして、上記オイル希釈判定手段が、高負荷運転時における上記合算値である燃料補正量と、低負荷運転時における上記合算値である燃料補正量との差に基づいてオイル希釈判定を行う構成としている。
【0019】
上記空燃比フィードバック補正量、空燃比学習値及びアルコール濃度学習値は、共にオイル希釈度合いが高いほど大きくなり、また、内燃機関の高負荷運転時におけるこれら値と、内燃機関の低負荷運転時におけるこれら値との差は、燃料による潤滑油の希釈度合いが高いほど大きくなる。このため、低負荷運転時における各値の合算値と、高負荷運転時における各値の合算値との差に基づいてオイル希釈度合いを高い精度で判定することができる。これは、燃料としてアルコール単体の燃料、アルコールとガソリンとの混合燃料の何れに対しても適用可能である。特に、アルコール燃料を使用する場合、ガソリン単体の燃料を使用する場合に比べて燃料噴射量は多くなり(理論空燃比が小さいために燃料噴射量は多くなり)、それに伴って上記空燃比フィードバック補正量や各学習値も、潤滑油の希釈度合いに応じて大きく変化する傾向にある。このため上記低負荷運転時における各値の合算値と、高負荷運転時における各値の合算値との差が、オイル希釈度合いに応じて大きく変化する。つまり、オイル希釈度合いの変化が僅かであっても、上記低負荷運転時における各値の合算値と高負荷運転時における各値の合算値との差は大きく変化することになるため、高い精度でオイル希釈度合いを判定することが可能である。
【0020】
上記オイル希釈判定手段によるオイル希釈判定動作として具体的には以下のものが挙げられる。つまり、上記低負荷運転時における燃料補正量から上記高負荷運転時における燃料補正量を減算した値が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合に、上記オイル希釈判定手段が、オイル希釈が生じていると判定する構成としている。
【0021】
上述した如く、内燃機関の高負荷運転時には、吸入空気量及び燃料噴射量が共に多く設定されるため、上記吸気系への蒸発燃料の導入が空燃比に与える影響度は比較的小さくなる。つまり、内燃機関の高負荷運転時には、燃料補正量は比較的小さい値として求められる。これに対し、内燃機関の低負荷運転時には、吸入空気量及び燃料噴射量が共に少なく設定されるため、上記吸気系への蒸発燃料の導入が空燃比に与える影響度は比較的大きくなる。つまり、内燃機関の低負荷運転時には、燃料補正量は比較的大きな値として求められる。この傾向は、吸気系への蒸発燃料の導入量が多いほど、つまり、オイル希釈度合いが高いほど顕著に現れる。このため、低負荷運転時における燃料補正量から高負荷運転時における燃料補正量を減算した値が大きい場合(上記オイル希釈判定閾値以上である場合)には、オイル希釈が生じていると判定することができる。
【0022】
この場合に、上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定するための上記オイル希釈判定閾値と、オイル希釈が解消されたと判定するためのオイル希釈解消判定閾値との間にヒステリシスを設定する。そして、上記オイル希釈解消判定閾値よりもオイル希釈判定閾値を大きな値として設定する。
【0023】
これによれば、オイル希釈が生じているとする判定動作とオイル希釈が解消されたとする判定との間でのハンチングが回避されることになり、判定動作の安定化を図ることができる。特に、内燃機関を構成する各機器の特性の公差、各種センサの出力の公差、運転過渡時における空燃比の変動(特にアルコール燃料を使用している場合には燃料噴射量が多いため、この空燃比の変動は大きくなりやすい)の影響による判定のハンチングを防止することができる。このヒステリシスとしては、例えば上記燃料補正量の変動幅に対して約10%に設定される。
【0024】
上述したオイル希釈判定手段による判定動作に依ることなしにオイル希釈を判定するための構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記内燃機関の暖機完了後における上記燃料補正量が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合に、上記オイル希釈判定手段による判定動作を待つことなく、オイル希釈が生じていると判定するオイル希釈断定手段を設けた構成である。
【0025】
内燃機関の暖機が完了して温間運転に移行した状況では、潤滑油貯留部の潤滑油温度が燃料の沸点以上に温度上昇することで、この潤滑油に混入していた燃料が蒸発して内燃機関の吸気通路に導入されていく。この場合に、上記燃料補正量が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合は、上記各負荷運転時の空燃比補正量の差を算出するまでもなく、オイル希釈度合いが高いと判定することができる。このような判定を行うことで迅速なオイル希釈判定が可能になる。
【0026】
内燃機関の再始動時にオイル希釈を判定するための構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定された状態で内燃機関の再始動が行われた際、計測または推定される潤滑油温度に基づいてオイル希釈度合いの判定を行う再始動時オイル希釈判定手段を設けた構成である。
【0027】
例えば、内燃機関の再始動時における潤滑油温度が比較的高い場合(燃料の沸点以上である場合)、潤滑油を希釈していた燃料の大部分は既に蒸発していると判断でき、この場合には内燃機関停止前にオイル希釈が生じていると判定されていたとしても、内燃機関の再始動と同時に、このオイル希釈判定を解除(オイル希釈が生じていないと判定)する。
【0028】
逆に、内燃機関の再始動時における潤滑油温度が比較的低い場合(燃料の沸点未満である場合)、内燃機関停止前にオイル希釈が生じていると判定されていたとすれば、この内燃機関の再始動時においても、潤滑油貯留部内の潤滑油には未だ多量の燃料が混入していると判定できる。この場合には、オイル希釈判定を解除せず、このオイル希釈判定を継続維持する。このように、過去のオイル希釈判定結果と内燃機関の再始動時の潤滑油温度情報に基づいて、内燃機関の再始動と略同時にオイル希釈判定を実施することが可能になる。
【0029】
上述したオイル希釈判定手段による判定動作に依ることなしにオイル希釈が解消されたと判定するための構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定された後、内燃機関の暖機完了後における連続運転時間が所定時間を超えた場合に、オイル希釈が解消されたと判定するオイル希釈解消判定手段を設けた構成である。
【0030】
オイル希釈度合いが高いと判定された場合であっても、その後、内燃機関の温間運転が継続され、その継続時間が所定時間を超えた場合には、潤滑油を希釈していた燃料の大部分は蒸発しているので、オイル希釈は解消されたと判定するようにしている。このため、本解決手段では、上記各負荷での空燃比補正量の取得を行うことなく、オイル希釈解除判定を行うことが可能である。
【0031】
上述した各解決手段においてオイル希釈が生じていると判定された場合の内燃機関の制御として具体的には以下の各制御が挙げられる。
【0032】
先ず、排気空燃比に基づいて算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値の更新を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するものである。
【0033】
また、冷間時、排気空燃比に基づいて算出される空燃比フィードバック補正量を所定補正基準量から所定範囲内に収束させるためのアルコール濃度学習値の更新を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するものである。
【0034】
また、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸気系に導入するためのパージ動作を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するものである。
【0035】
更に、オイル希釈が生じていると判定された場合、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸気系に導入するパージガスの濃度を学習するパージ濃度学習値をリセットするものである。
【0036】
オイル希釈度合いが大きい場合には上記各学習処理等の正確な算出が困難になり、例えば気筒内の空燃比が理論空燃比から大きく乖離してしまう可能性がある。これを回避するために、上記各解決手段では学習値の更新の禁止等を行うようにしている。
【0037】
また、所定のフューエルカット条件が成立した場合に行われる燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するようにしている。
【0038】
オイル希釈が生じている状態で燃料噴射弁からの燃料噴射を停止した場合、空燃比フィードバック制御が実施できなくなり、潤滑油から蒸発した燃料によって気筒内での空燃比がオーバリッチになってしまう可能性がある。これを回避するために、オイル希釈が生じている場合には、燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を禁止する。つまり、燃料噴射弁からの燃料噴射を継続することで空燃比フィードバック制御が実施できるようにしている。
【0039】
この場合に、内燃機関の低負荷運転時にあっては、燃料噴射停止動作を禁止し、燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を実行するようにしている。
【0040】
内燃機関の負荷が極端に低い場合にフューエルカットを禁止してしまうと、燃焼室内での燃焼状態の悪化に伴って触媒コンバータの温度の過剰上昇が早期に発生してしまう可能性がある。これを回避するために、内燃機関の負荷が極めて低い場合には、オイル希釈が生じている際、フューエルカットを実行するようにしている。
【0041】
また、オイル希釈が生じていると判定された際において、燃料噴射弁からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比フィードバック制御を継続するようにしている。
【0042】
オイル希釈の発生時に空燃比フィードバック制御を禁止してしまうと、気筒内の空燃比がオーバリッチになる状況を回避できなくなる可能性がある。これを回避するために、オイル希釈が生じていると判定された際において、燃料噴射弁からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、空燃比フィードバック制御を継続するようにしている。
【0043】
上記燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を禁止する場合において、減速運転時である場合には、上記燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作の禁止に伴って、吸気系に備えられた吸気量調整手段により調整される吸入空気量を増量するようにしている。
【0044】
つまり、減速運転時に内燃機関が低負荷運転となることを回避するべく吸入空気量を増量するものである。これにより、オイル希釈が生じている場合の減速運転時における機関回転数の安定化を図ることができる。
【0045】
低負荷運転時に、オイル希釈が生じていると判定された場合には、燃料噴射弁からの燃料噴射量の増量を制限するようにしている。
【0046】
内燃機関が低負荷運転である場合には、上記空燃比フィードバック制御によって要求燃料噴射量が確保されているため、オイル希釈に起因して気筒内の空燃比がオーバリッチになることを抑制するべく、燃料噴射弁からの燃料噴射量の増量を制限している。
【0047】
オイル希釈が生じていると判定された場合には、上記燃料補正量の制御幅を拡大するようにしている。
【0048】
これにより、空燃比の制御幅の拡大が図れる。特に、上記FFVに搭載される内燃機関の場合、オイル希釈量が大幅に増大する可能性があるので、これに対応可能とするようにしている。また、制御幅としては、オイル希釈が解消されていくに従って徐々に小さくしていくことが好ましい。
【発明の効果】
【0049】
本発明では、内燃機関の低負荷運転時と高負荷運転時とでは、燃料噴射量の補正量(空燃比補正量)の差が、燃料によるオイルの希釈量が多いほど大きくなることに着目し、これら燃料噴射量の補正量の差に基づいてオイル希釈判定を行うようにしている。このため、オイルの希釈度合いを正確に判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施形態に係るエンジン及びその吸排気系の概略構成を示す図である。
【図2】エンジンの制御系を示すブロック図である。
【図3】燃料噴射量算出処理の手順を示すフローチャート図である。
【図4】空燃比フィードバック処理の手順を示すフローチャート図である。
【図5】フィードバック補正係数の変化の一例を示すタイミングチャート図である。
【図6】空燃比学習処理の手順を示すフローチャート図である。
【図7】パージ濃度学習処理の手順を示すフローチャート図である。
【図8】オイル希釈判定動作の手順を示すフローチャート図である。
【図9】総空燃比補正量算出処理の冷間運転中の手順を示すフローチャート図である。
【図10】総空燃比補正量算出処理の温間運転中の手順を示すフローチャート図である。
【図11】エンジン負荷と総空燃比補正量との関係の一例を示し、(a)はオイル希釈度合いが大きい場合を、(b)はオイル希釈度合いが小さい場合をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、FFVに搭載された4気筒の筒内直接噴射式エンジン(内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
【0052】
−エンジン−
図1は本実施形態に係るエンジン1、及び、その吸排気系の概略構成を示す図である。尚、この図1ではエンジン1の1気筒の構成のみを示している。
【0053】
本実施形態に係るエンジン1は、一方向に並ぶ4つの気筒11が形成されたシリンダブロック12と、このシリンダブロック12の上部に取り付けられたシリンダヘッド13とを備えている。各気筒11にはピストン14が往復動可能な状態で挿入されており、各ピストン14はコネクティングロッド15を介してクランクシャフト16に連結されている。
【0054】
エンジン1の吸気通路2には、吸気を濾過するエアクリーナ21と、吸入空気量に応じた信号を出力するエアフローメータ93と、吸入空気温度に応じた信号を出力する吸気温センサ94と、吸入空気量を調整するスロットルバルブ(吸気量調整手段)23とがそれぞれ設けられている。このスロットルバルブ23はスロットルモータ23aによって駆動される。
【0055】
上記吸気通路2は、各気筒11に吸気を分配する吸気マニホールド24と、気筒11毎に設けられて吸気マニホールド24に接続される吸気ポート25とを含む。
【0056】
一方、排気通路3には、排気ガス中の酸素濃度に応じた信号を出力するO2センサ96と、排気浄化のための触媒コンバータ32とがそれぞれ設けられている。この排気通路3は、気筒11毎に設けられた排気ポート33と、各排気ポート33を集合する排気マニホールド34とを含む。
【0057】
上記シリンダヘッド13には、吸気ポート25を開閉する吸気バルブ26と、排気ポート33を開閉する排気バルブ36とが設けられており、これらのバルブ26,36は、カム等を含んだ動弁機構17によって、クランクシャフト16と同期して開閉駆動される。
【0058】
各気筒11には、インジェクタ(燃料噴射弁)4及び点火プラグ5が、気筒11内に臨むようにシリンダヘッド13にそれぞれ取り付けられている。インジェクタ4にて燃料が各気筒11へ噴射されると気筒11内に混合気が形成され、その混合気が点火プラグ5の火花により着火して燃焼する。その燃焼により生じた燃焼圧力は、ピストン14に伝えられ、ピストン14を往復運動させる。このピストン14の往復運動は、コネクティングロッド15を介してクランクシャフト16に伝えられ、回転運動に変換されてエンジン1の出力として取り出されることになる。
【0059】
燃焼後の排気ガスは、排気通路3に導かれ、触媒コンバータ32にて浄化された後、図示しないマフラを介して大気へ放出される。
【0060】
エンジン1に使用される燃料としては、エタノール等のアルコール燃料や、アルコールとガソリンとの混合燃料が適用可能となっている。
【0061】
シリンダブロック12の下部12aには潤滑油Oを貯留するオイルパン(潤滑油貯留部)18が取り付けられており、この下部12aとオイルパン18とによって、クランクシャフト16を収容するクランクケース19が構成されている。
【0062】
一方、燃料タンクT内の燃料を上記インジェクタ4に供給する燃料供給系には、燃料タンクT内で発生した蒸発燃料が大気中に放出されることを防止するためのキャニスタシステム(蒸発燃料処理装置)6が設けられている。このキャニスタシステム6は、チャコールキャニスタ61(以下、単にキャニスタという)及びパージ制御弁(パージVSV)63を備えている。
【0063】
上記キャニスタ61は、内部に活性炭から成る吸着剤を収容し、燃料タンクT内で発生した蒸発燃料を一時的に吸着保持する。また、パージ制御弁63は、キャニスタ61と吸気通路2(より具体的にはサージタンク27、または、このサージタンク27の上流側)とを接続するパージ配管62に備えられ、所定のパージ条件が成立した際に開放される。そして、このパージ制御弁63の開放により、キャニスタ61内に吸着保持されていた蒸発燃料を吸気通路2に導入(パージ)することで、燃料タンクT内で発生した蒸発燃料を処理するようにしている。
【0064】
また、上記シリンダ内面とピストン14との隙間からクランクケース19内に吹き抜けたブローバイガスを吸気通路2に導くためのPCV装置7が備えられている。つまり、このPCV装置7によって、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等を含むブローバイガスを、吸気通路2を経て気筒11内に送り込み、このブローバイガスの大気中への放出を防止している。
【0065】
具体的に説明すると、上記シリンダブロック12及びシリンダヘッド13には、クランクケース19内に存在するブローバイガスをカム室13a内に導くためのブローバイガス連絡通路71が設けられている。また、カム室13aと吸気通路2(より具体的にはサージタンク27、または、このサージタンク27の上流側)とは、ブローバイガスを吸気通路2に導くためのブローバイガス還流通路72によって連通されている。また、このブローバイガス還流通路72の上流端には、ブローバイガスの逆流防止及び流量調整のためのPCVバルブ73が設けられている。このPCVバルブ73が開放されることにより、クランクケース19内に存在するブローバイガスが吸気通路2に導かれるようになっている。尚、上記カム室13a内には図示しないオイルセパレータが配設されており、ブローバイガス中に含まれるオイルミストを除去するようになっている。
【0066】
−制御ブロックの説明−
以上の如く構成されたエンジン1の運転状態はエンジンECU8によって制御される。このエンジンECU8は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83及びバックアップRAM84などを備えている。
【0067】
上記ROM82は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU81は、ROM82に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAM83は、CPU81での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM84は、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0068】
これらROM82、CPU81、RAM83及びバックアップRAM84は、バス87を介して互いに接続されるとともに、外部入力回路85及び外部出力回路86と接続されている。外部入力回路85には、上記クランクポジションセンサ91、水温センサ92、エアフローメータ93、吸気温センサ94、スロットル開度センサ95、O2センサ96、の他に、アクセル開度センサ97、カム角センサ98、油温センサ99等が接続されている。各センサの機能は周知であるため、ここでの説明は省略する。
【0069】
一方、外部出力回路86には、上記スロットルバルブ23を駆動するスロットルモータ23a、上記インジェクタ4、イグナイタ51等が接続されている。
【0070】
上記エンジンECU8は、上記各種センサの検出信号に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。例えば、周知の点火プラグ5の点火タイミング制御、スロットルモータ23aの駆動制御等が実行される。
【0071】
また、エンジンECU8は、下記の空燃比制御(O2センサ96の出力に基づいたインジェクタ4からの燃料噴射量の補正制御)を実行する。つまり、上記エンジンECU8は各気筒11に導かれる混合気の空燃比を目標空燃比(例えば理論空燃比)に保持させるようにインジェクタ4の燃料噴射量を補正する。具体的に、エンジンECU8は、クランクポジションセンサ91及びエアフローメータ93の出力信号等に基づいて気筒11内へ噴射する燃料噴射量の基礎となる基本燃料噴射量を算出するとともに、その基本燃料噴射量に対して、後述する空燃比フィードバック補正係数や空燃比学習値その他の係数を乗じることにより最終的な燃料噴射量を決定している。
【0072】
−燃料噴射量算出処理−
次に、上記空燃比制御に従って行われる燃料噴射量算出処理について説明する。
【0073】
図3は、インジェクタ4からの燃料噴射量を算出するための処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。
【0074】
この燃料噴射量算出処理では、先ず、ステップST1において、吸入空気量(上記エアフローメータ93により検出)、エンジン回転数(上記クランクポジションセンサ91からの出力信号に基づいて算出)、冷却水温度(上記水温センサ92により検出)等、現在のエンジン運転状態を示す各パラメータが読み込まれる。
【0075】
そして、ステップST2において、これら各パラメータに基づいて基本燃料噴射量QBASEが算出される。例えば、上記吸入空気量に対して理論空燃比を得るための燃料噴射量として算出される。
【0076】
次に、ステップST3において、以下の演算式(1)によって最終燃料噴射量QINJが算出される。
QINJ←
QBASE{1+(FAF−1.0)+(KG−1.0)}K1+K2 …(1)
(K1,K2:補正係数)
この演算式(1)において、「FAF」は目標空燃比である理論空燃比(例えば、エタノール100%燃料(E100燃料)にあっては8.9)に対する実空燃比の一時的な乖離を補償するための空燃比フィードバック補正係数である。また、「KG」は、理論空燃比に対する実空燃比の定常的な乖離(インジェクタ4の経時的な特性変化などによる乖離)を補償するための空燃比学習値である。
【0077】
尚、上記空燃比フィードバック補正係数FAFは、後述する空燃比フィードバック処理によって求められる。また、上記空燃比学習値KGは、後述する空燃比フィードバック処理及び空燃比学習処理によって求められる。
【0078】
オイルパン18内におけるオイル希釈(燃料によるオイルの希釈)の度合いが大きくなり、エンジンオイルからの燃料蒸発量が増大することに起因して実空燃比が理論空燃比から乖離する傾向を生じた場合、この傾向は上記空燃比フィードバック補正係数FAF及び空燃比学習値KGに反映されるようになる。
【0079】
このようにして最終燃料噴射量QINJが算出されると、この燃料噴射量算出処理は終了され、次回のインジェクタ4の燃料噴射タイミングにあっては、この最終燃料噴射量QINJでの燃料噴射が行われるように、燃料圧力に応じてインジェクタ4の開弁期間が設定されることになる。
【0080】
−空燃比フィードバック処理−
次に、空燃比フィードバック処理について図4及び図5を参照して説明する。
【0081】
図4は、上記フィードバック補正係数FAFを算出するための処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理も、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。また、この空燃比フィードバック処理が、本発明でいう空燃比補正手段による空燃比フィードバック補正量の算出動作に相当する。
【0082】
この空燃比フィードバック処理では、先ず、ステップST11において、空燃比フィードバック処理の実行条件が成立しているか否かが判断される。この実行条件としては、例えば、以下の3つの条件が挙げられる。
【0083】
・エンジン1の暖機完了
・燃料カットが非実行
・O2センサ96が活性化
これら各条件のうち少なくとも一つが成立していないときには、空燃比フィードバック処理の実行条件が成立していないと判断され、ステップST11でNO判定されて、ステップST12に移る。このステップST12では、上記フィードバック補正係数FAFが「1.0」に設定され、その後、本ルーチンを終了する。この場合、フィードバック補正係数FAFに基づく燃料噴射量のフィードバック制御は実質的に行われないことになる。つまり、空燃比フィードバック処理による燃料噴射の補正量(空燃比補正量)は「0」となる。
【0084】
一方、上記各条件が全て成立し、ステップST11でYES判定された場合には、ステップST13に移り、O2センサ96の出力電圧Voxが所定の基準電圧V1よりも小さいか否かが判定される。この基準電圧V1は、排気空燃比が理論空燃比にある場合におけるO2センサ96の出力電圧に相当する値として設定されている。
【0085】
ここで出力電圧Voxが基準電圧V1未満である場合、ステップST13でYES判定され、ステップST14に移る。このステップST14では、実空燃比が理論空燃比よりもリーンであるとして、空燃比識別フラグFOXが「0」に設定される。
【0086】
その後、ステップST15に移り、今回設定された空燃比識別フラグFOXと前回のルーチンで設定されていた空燃比識別フラグFOX(n−1)とが比較される。
【0087】
これら両者が一致しており、ステップST15でYES判定された場合には、ステップST16に移り、実空燃比が理論空燃比よりもリーン側にある状態が継続していると判断し、上記フィードバック補正係数FAFに所定の積分量a(a>0)を加算して、その加算値(FAF+a)を新たなフィードバック補正係数FAFとして設定した後、本ルーチンを終了する。
【0088】
一方、今回設定された空燃比識別フラグFOXと前回のルーチンで設定されていた空燃比識別フラグFOX(n−1)とが異なっており、ステップST15でNO判定された場合には、ステップST17に移る。このステップST17では、実空燃比が理論空燃比を基準としてこれよりもリッチ側の値からリーン側の値に反転したものと判断し、上記フィードバック補正係数FAFに所定のスキップ量A(A>0)を加算して、その加算値(FAF+A)を新たなフィードバック補正係数FAFとして設定する。尚、このスキップ量Aは上記積分量aと比較して十分に大きな値に設定されている。
【0089】
一方、O2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1以上である場合、ステップST13でNO判定され、ステップST18に移る。このステップST18では、実空燃比が理論空燃比よりもリッチであるとして、空燃比識別フラグFOXが「1」に設定される。
【0090】
その後、ステップST19に移り、今回設定された空燃比識別フラグFOXと前回のルーチンで設定されていた空燃比識別フラグFOX(n−1)とが比較される。
【0091】
これら両者が一致しており、ステップST19でYES判定された場合には、ステップST20に移り、実空燃比が理論空燃比よりもリッチ側にある状態が継続していると判断し、上記フィードバック補正係数FAFから所定の積分量b(b>0)を減算して、その減算値(FAF−b)を新たなフィードバック補正係数FAFとして設定した後、本ルーチンを終了する。
【0092】
一方、今回設定された空燃比識別フラグFOXと前回のルーチンで設定されていた空燃比識別フラグFOX(n−1)とが異なっており、ステップST19でNO判定された場合には、ステップST21に移る。このステップST21では、実空燃比が理論空燃比を基準としてこれよりもリーン側の値からリッチ側の値に反転したものと判断し、上記フィードバック補正係数FAFから所定のスキップ量B(B>0)を減算して、その減算値(FAF−B)を新たなフィードバック補正係数FAFとして設定する。尚、このスキップ量Bは上記積分量bと比較して十分に大きな値に設定されている。
【0093】
上記ステップST17またはステップST20の処理が実行された後、ステップST22に移り、空燃比学習処理が実行される。この空燃比学習処理では、上記空燃比学習値KGの算出が行われる。この空燃比学習処理の具体的な手順については後述する。
【0094】
その後、ステップST23において、次回の空燃比フィードバック処理に備え、現在の空燃比識別フラグFOXが前回値としての空燃比識別フラグFOX(n−1)として上記RAM83に記憶され、その後、本ルーチンを終了する。
【0095】
図5は、上述した空燃比フィードバック処理によって算出されるフィードバック補正係数FAFの変化の一例を示すタイミングチャートである。
【0096】
この図5に示すように、フィードバック補正係数FAFは、O2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1を跨いで変化するとき(図中のスキップタイミング)には、比較的大きく変化するように上記各スキップ量A,Bに基づいて増減操作される。一方、O2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1を跨いで変化したときから再び基準電圧V1を跨いで変化するまでの期間(図中の積分期間)では、比較的徐々に変化するように上記積分量a,bに基づいて増減操作される。
【0097】
ここで、実空燃比と理論空燃比とが定常的に乖離する傾向を有していない場合には、フィードバック補正係数FAFはその基準値である「1.0」を中心としてその近傍で変動することになる。従って、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVは略「1.0」と等しくなる。一方、例えばインジェクタ4における噴射特性の固体差や、エンジンオイルからの燃料蒸発に起因して実空燃比が理論空燃比からリッチ側或いはリーン側に定常的に乖離する傾向がある場合、フィードバック補正係数FAFはその基準値である「1.0」とは異なる値を中心としてその近傍で変動することになる。従って、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVは、その乖離傾向に応じて「1.0」とは異なる値に収束するようになる。このため、このフィードバック補正係数FAFの基準値(「1.0」)とその平均値FAFAVとの間の乖離に基づいて実空燃比と理論空燃比との定常的な乖離傾向を監視することができる。上記ステップST22の空燃比学習処理では、この定常的な乖離傾向を監視するためパラメータとして空燃比学習値KGを算出する。
【0098】
−空燃比学習処理−
次に、空燃比学習処理について図6のフローチャートを参照して説明する。このフローチャートに示される空燃比学習処理も、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。また、この空燃比学習処理が、本発明でいう空燃比学習手段による空燃比学習値の算出動作に相当する。
【0099】
この空燃比学習処理では、先ず、ステップST31において、空燃比学習処理の実行条件が成立しているか否かが判断される。この実行条件としては、例えばエンジン1が暖機完了状態にあること等が挙げられる。
【0100】
上記空燃比学習処理の実行条件が成立していない場合には、ステップST31でNO判定され、本ルーチンを終了する。
【0101】
一方、上記空燃比学習処理の実行条件が成立しており、ステップST31でYES判定された場合には、ステップST32に移り、以下の演算式(2)によってフィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVを算出する。
【0102】
FAFAV←(FAFB+FAF)/2 …(2)
この演算式(2)において「FAFB」は前回のスキップ処理、即ち各スキップ量A,Bに基づく増減操作がなされたときのフィードバック補正係数FAFの値である。即ち、ここでは、O2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1を跨いで変化したときのフィードバック補正係数FAFの値FAFBと、その後、再びO2センサ96の出力電圧Voxが上記基準電圧V1を跨いで変化したときのフィードバック補正係数FAFの値との相加平均が上記平均値FAFAVとして算出される。
【0103】
このようにしてフィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVが算出された後、ステップST33において、次回の算出処理に備えて、現在のフィードバック補正係数FAFが前回のスキップ処理実行時における値FAFBとして記憶される。
【0104】
次に、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVと所定値α,β(β>1.0>α)との比較が行われる(ステップST34,ST35)。
【0105】
上記フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVが所定値α未満である場合には、ステップST34でYES判定され、実空燃比が理論空燃比に対してリッチ側に乖離する傾向があると判断されて、ステップST36において、この乖離傾向を補償すべく空燃比学習値KGがより小さい値になるように学習される。即ち、現在の空燃比学習値KGから所定値γが減算され、その減算値(KG−γ)が新たな空燃比学習値KGとして設定され、本ルーチンを終了する。
【0106】
一方、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVが所定値β以上である場合、ステップST35でYES判定され、実空燃比が理論空燃比に対してリーン側に乖離する傾向があると判断され、ステップST37において、この乖離傾向を補償すべく空燃比学習値KGがより大きな値になるように学習される。即ち、現在の空燃比学習値KGに所定値γが加算され、その加算値(KG+γ)が新たな空燃比学習値KGとして設定され、本ルーチンを終了する。
【0107】
これに対し、フィードバック補正係数FAFの平均値FAFAVが所定値α以上であり且つ所定値β未満である場合には、この平均値FAFAVがその基準値「1.0」の近傍で変動しており、実空燃比が理論空燃比から乖離する傾向はないと判断される。そして、この場合には、ステップST34,ST35において共にNO判定され、空燃比学習値KGの更新を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0108】
−エンジンECU8によるその他の制御−
上記エンジンECU8は、上述した各種制御及び処理動作の他、「燃料カット制御」、「減速時空気量制御」、「アルコール濃度学習処理」、「パージガス濃度学習処理」、「パージガス流量制御」も実行するようになっている。これら制御及び処理は周知であるので、ここでは簡単に説明する。
【0109】
(燃料カット制御)
燃料カット制御は、車両の減速中にインジェクタ4からの燃料噴射を停止するものである。具体的には、ドライバ(運転者)によるアクセルペダルの踏み込み量が「0」(アクセルOFF)であり、且つエンジン回転数が予め定められた範囲にある(フューエルカット回転数(例えば1000rpm)以上にある)場合に、フューエルカット条件が成立したとしてインジェクタ4からの燃料噴射を停止する。実際には、このフューエルカット条件が成立した後、所定時間経過後に燃料噴射を停止する。また、このフューエルカットに伴ってエンジン回転数が低下し、所定の復帰回転数(燃料噴射復帰回転数)に達するとインジェクタ4からの燃料噴射を再開するようにしている。
【0110】
(減速時空気量制御)
減速時空気量制御は、車両減速時におけるスロットルバルブ23の開度制御である。例えば車両減速開始初期時であって、フューエルカットが開始される前段階、つまり、インジェクタ4からの燃料噴射継続中におけるスロットルバルブ23の開度を所定開度以上に維持してエンジン回転数の安定化を図り、ドライバビリティの確保を図るための制御である。また、その他、上記燃料噴射復帰回転数以下でのエンジン運転時(燃料噴射復帰時)に吸入空気量を確保してエンジン回転数の安定化によるドライバビリティの確保を図るための制御としても行われる。
【0111】
(アルコール濃度学習処理)
アルコール濃度学習処理は、エンジン1の冷間時に行われ、理論空燃比に対する実空燃比の乖離傾向を補償するための学習値(以下、アルコール濃度学習値と呼ぶ)を求めるための制御であって、上述した空燃比学習処理(図6)と同様にして行われる。このアルコール濃度学習処理が、本発明でいうアルコール濃度学習手段によるアルコール濃度学習値の算出動作に相当する。例えば、ガソリンを含む混合燃料を使用している場合に、オイル希釈の度合いが大きくなり、エンジンオイルからの燃料蒸発量(大部分がガソリンの蒸発量)が増大することに起因して、冷間時における実空燃比が理論空燃比から乖離するほど、アルコール濃度学習値は大きな値として算出されることになる。
【0112】
(パージガス濃度学習処理)
パージガス濃度学習処理は、パージガス濃度学習値を算出するための制御であって、上記O2センサ96の出力に基づく上記空燃比フィードバック補正係数と、キャニスタ61からパージ配管62内を流れて吸気通路2へ導入されるパージガスの流量に基づいてパージガス濃度学習値を算出する。尚、上記パージガスの流量は、図示しない圧力センサにより検出されたキャニスタ61内の圧力と、パージ制御弁63の開度とに基づいて算出される。このようにしてパージガス濃度学習値を算出することにより、このパージガス濃度学習値に基づいてパージ制御弁63の開度を調整すると共に、パージガス流量の適正化が図れるようにしている。
【0113】
図7は、このパージガス濃度学習処理の手順を示すフローチャートである。このパージガス濃度学習処理では、先ず、ステップST41において、パージ率PGR(吸気ポート25から気筒11に吸い込まれる吸入空気のうちパージ配管62から供給された気体(蒸発燃料)の割合)が十分に高いことを示すパージ率基準値F0を越えているか否かを判定する。これは、パージ中の燃料蒸気の濃度を学習するためには、十分なパージ量が確保されている必要があり、パージ率PGRが小さいと、パージ中の燃料蒸気の濃度を正確に認識できない可能性があるためである。
【0114】
上記パージ率PGRがパージ率基準値F0以下である場合には、ステップST41でNO判定され、本ルーチンを終了する。
【0115】
一方、上記パージ率PGRがパージ率基準値F0よりも高い場合にはステップST41でYES判定され、ステップST42に移る。このステップST42では、以下の演算式(3)によってパージずれ補正値FAFPGを算出する。
【0116】
FAFPG ←
FAFPG+{(FAFAV−1)/PGR−FAFPG}×δ …(3)
ここで、δは長期平均値を計算するための重み付けであり、例えばδ=1/8の値が設定される。また、「FAFAV−1」は、上述の如く算出された空燃比フィードバック係数FAFの平均値FAFAVにおける、制御中心「1」からのずれ量を示している。尚、エンジンECU8の電源オン時において初期設定されるパージずれ補正値FAFPGの初期値としては「0」が設定されている。
【0117】
したがって、上記演算式(3)は、空燃比フィードバック係数FAFの平均値FAFAVにおける制御中心に対するずれ量「FAFAV−1」とパージ率PGRとの比の長期平均値を、パージずれ補正値FAFPGとして求めていることになる。
【0118】
次に、ステップST43において、パージずれ補正値FAFPGが減少判定値B1(<0)より小さいか否かが判定される。
【0119】
パージずれ補正値FAFPGが減少判定値B1以上であり、ステップST43でNO判定された場合には、ステップST44に移り、パージずれ補正値FAFPGが増加判定値B2(>0)より大きいか否かが判定される。
【0120】
パージずれ補正値FAFPGが増加判定値B2以下であり、ステップST44でNO判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
【0121】
一方、パージずれ補正値FAFPGが減少判定値B1よりも小さく、ステップST43でYES判定された場合には、ステップST45に移り、パージ濃度学習値FGPGを変動量εだけ減少し、ステップST46で、パージずれ補正値FAFPGをゼロクリアして、本ルーチンを終了する。
【0122】
一方、パージずれ補正値FAFPGが増加判定値B2よりも大きく、上記ステップST44でYES判定された場合には、ステップST47に移り、パージ濃度学習値FGPGを変動量εだけ増加し、ステップST48で、パージずれ補正値FAFPGをゼロクリアして、本ルーチンを終了する。
【0123】
尚、上記パージ濃度学習値FGPGはエンジン1の運転領域毎に求められるのではなく、エンジン1の全運転領域で共通である。このパージ濃度学習値FGPGはパージされる気体中の燃料濃度に対応するが、空燃比の制御中心に対する相対的な値である。
【0124】
また、上記減少判定値B1としては例えば「−0.02」、上記増加判定値B2としては例えば「0.02」が設定される。このようにして、パージずれ補正値FAFPGの値に応じて、パージ濃度学習値FGPGが設定されると共に、常時、更新もなされる。
【0125】
(パージガス流量制御)
パージガス流量制御は、所定のパージ条件成立時に、上記パージ制御弁63の開度を調整(例えばDuty比を調整)することにより、パージガス流量の適正化を図るための制御である。また、このパージガス流量制御によるパージガス流量に基づいてインジェクタ4からの燃料噴射量を調整することにより、気筒11内での混合気を理論空燃比に近付けることを可能にしている。
【0126】
−オイル希釈−
エンジン1においては、インジェクタ4から噴射された燃料の一部が、シリンダ内壁面に付着し、液相状態でエンジンオイルと混ざり合うことになる。そして、このエンジンオイルと混ざり合った燃料は、ピストン14の往復運動に伴ってシリンダ内壁面から掻き落とされ、オイルパン18に流れ込む。このような状況が継続すると、オイルパン18内でのオイル希釈が進んでしまうことになる。
【0127】
特に、本実施形態に係る車両は、ガソリンに比べて沸点が高いエタノール等のアルコール燃料を使用するFFVであるためエンジン1の冷間時においてはシリンダ内壁面への燃料付着量が多くなりやすい。また、アルコール燃料の場合、同一トルクを得るための燃料噴射量はガソリンに比べて多くなるため、シリンダ内壁面への燃料付着量が多くなりやすい。その結果、オイル希釈の進行度も高いものとなる。
【0128】
そして、上述の如くオイルパン18に流れ込んだ燃料は、エンジン1の暖機が進むに従って、つまり油温の上昇に従ってクランクケース19内に蒸発し、PCV装置7を介して吸気通路2に導かれる。これにより、蒸発燃料が気筒11内に吸入されることになり、目標空燃比(例えば理論空燃比)に対する空燃比のずれを生じさせることになる。特にエタノール単体の燃料(E100燃料)の場合、燃料が単一成分であるため、油温がエタノールの沸点(約78℃)に達した時点で燃料蒸発量が急速に増大し、多量の燃料がPCV装置7を経て吸気通路2に導かれることになってしまう。
【0129】
上記エンジン1は、このような空燃比のずれを減少させるため、エンジンECU8によって上述した空燃比フィードバック処理、空燃比学習処理、アルコール濃度学習処理が実行されている。
【0130】
−オイル希釈判定動作−
本実施形態の特徴は、上記オイル希釈(オイルパン18内での燃料によるオイルの希釈)の有無を判定するための動作にある。以下の説明では、オイル希釈度合いが所定量未満である場合にはオイル希釈は生じていないと判定し、オイル希釈度合いが所定量以上である場合にはオイル希釈が生じていると判定する場合を例に挙げて説明する。
【0131】
このオイル希釈判定動作の概略について説明すると、上述した空燃比フィードバック処理により得られたフィードバック補正係数FAFに基づいて算出される空燃比補正量(空燃比フィードバック処理に起因する燃料噴射補正量)と、上記空燃比学習処理により得られた空燃比学習値(空燃比学習処理に起因する燃料噴射補正量に相当)と、上記アルコール濃度学習処理により得られたアルコール濃度学習値(アルコール濃度学習処理に起因する燃料噴射補正量に相当)との総和を「総空燃比補正量」とする(本発明でいう燃料補正手段による燃料補正量の算出動作)。そして、エンジン1の低負荷運転時におけるこの総空燃比補正量と、エンジン1の高負荷運転時におけるこの総空燃比補正量とを比較し、その差が所定値よりも大きい場合にオイル希釈が発生している(またはオイル希釈の度合いが大きい)と判定するようになっている(本発明でいうオイル希釈判定手段による潤滑油の希釈度合い判定動作)。
【0132】
オイル希釈が発生している場合、エンジン負荷の大きさに関わりなく、オイルパン18内で発生した蒸発燃料の吸気通路2への導入量はオイル希釈度合い応じて略一定である。これに対し、エンジン1の高負荷運転時にはスロットルバルブ23の開度が大きく且つインジェクタ4からの燃料噴射量も多く設定される。このため、このエンジン1の高負荷運転時においては、吸気通路2への蒸発燃料の導入(オイル希釈に起因する蒸発燃料の導入)による空燃比に与える影響度は比較的小さく、その結果、上記総空燃比補正量としても比較的小さな値として得られることになる。
【0133】
一方、エンジン1の低負荷運転時にはスロットルバルブ23の開度が小さく且つインジェクタ4からの燃料噴射量も少なく設定される。このため、このエンジン1の低負荷運転時においては、吸気通路2への蒸発燃料の導入(オイル希釈に起因する蒸発燃料の導入)による空燃比に与える影響度は比較的大きく、その結果、上記総空燃比補正量としても比較的大きな値として得られることになる。
【0134】
このように、エンジン1の高負荷運転時と低負荷運転時とでは、総空燃比補正量に差が生じることになり、その差は、蒸発燃料の吸気通路2への導入量が多いほど、つまり、オイル希釈度が高いほど大きくなる。このように、エンジン1の高負荷運転時における総空燃比補正量と低負荷運転時における総空燃比補正量との差は、オイル希釈度合いと大きな相関がある。この点に鑑み、本実施形態では、エンジン1の低負荷運転時における総空燃比補正量と、エンジン1の高負荷運転時における総空燃比補正量とを比較し、その差が所定値よりも大きい場合にオイル希釈が発生している(またはオイル希釈の度合いが大きい)と判定するようにしている。
【0135】
図8は、上記オイル希釈判定動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示されるオイル希釈判定動作は、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。
【0136】
先ず、ステップST51において、燃料湧き出し条件が成立しているか否かを判定する。ここでいう「燃料湧き出し条件」とは、オイルパン18内でエンジンオイル中に混入している燃料がクランクケース19内に蒸発していく温度条件である。つまり、オイルパン18内のエンジンオイルの温度が燃料の沸点(エタノールの場合約78℃)以上となっている場合に燃料湧き出し条件が成立することになる。具体的には、上記油温センサ99によって検出される油温に基づいて判定される。また、上記水温センサ92によって検出される冷却水温度から推測するようにしてもよい。
【0137】
上記燃料湧き出し条件が成立しておらず、ステップST51でNO判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
【0138】
一方、上記燃料湧き出し条件が成立しており、ステップST51でYES判定された場合には、エンジン1の高負荷運転時及び低負荷運転時のそれぞれについての上記総空燃比補正量が算出されているか否かを判定する。つまり、エンジン1の高負荷運転時における総空燃比補正量(空燃比フィードバック処理により得られたフィードバック補正係数FAFに基づいて算出される空燃比補正量と、空燃比学習処理により得られた空燃比学習値と、アルコール濃度学習処理により得られたアルコール濃度学習値との総和)が求められていると共に、エンジン1の低負荷運転時における総空燃比補正量が求められているか否かを判定する。
【0139】
より具体的には、エンジン1の負荷率が60%以上となっている際に上記総空燃比補正量が算出され(高負荷運転時における総空燃比補正量の算出)、且つエンジン1の負荷率が20%以下となっている際に上記総空燃比補正量が算出(低負荷運転時における総空燃比補正量の算出)されている場合に、ステップST52でYES判定されることになる。
【0140】
尚、上記エンジン1の負荷率は、エンジン1の最大機関負荷に対する現在の負荷割合を示す値であって、エンジン1の吸入空気量に対応するパラメータとエンジン回転数とから算出される。また、上記負荷率の値はこれに限定されるものではないが、高負荷運転時における総空燃比補正量の算出タイミングを規定する負荷率が高いほど(例えば負荷率が70%以上)、また、低負荷運転時における総空燃比補正量の算出タイミングを規定する負荷率が低いほど(例えば負荷率が10%以下)、これら総空燃比補正量の差を大きく得ることができ、オイル希釈判定の信頼性を高めることができる。
【0141】
図9及び図10は、上記総空燃比補正量の算出処理の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される総空燃比補正量の算出処理は、エンジン1の始動後、エンジンECU8により所定の周期をもって繰り返し実行される。
【0142】
先ず、ステップST61において、エンジン1が冷間運転中であるか否かを判定する。これは、上記水温センサ92によって検出される冷却水温度に基づいて判定され、この冷却水温度が所定温度(例えば60℃)未満である場合に冷間運転中であると判定される。
【0143】
エンジン1が冷間運転中であり、ステップST61でYES判定された場合には、ステップST62に移り、エンジン1の運転状態は低負荷運転であるか否かを判定する。これは、上述した如くエンジン1の負荷率を求めることによって判定される。
【0144】
そして、エンジン1の運転状態が低負荷運転であり、ステップST62でYES判定された場合にはステップST63に移り、低負荷運転時のアルコール濃度学習値を取得する。この取得動作としては、上述した如く、空燃比学習処理(図6)と同様にして行われる。このようにして低負荷運転時のアルコール濃度学習値が取得された後、ステップST64に移り、低負荷アルコール濃度学習値取得フラグFLALを「1」にセットする。
【0145】
一方、このエンジン1の冷間運転中における運転状態が低負荷運転ではなくステップST62でNO判定された場合には、ステップST65に移り、エンジン1の運転状態は高負荷運転であるか否かを判定する。これも、上述した如くエンジン1の負荷率を求めることによって判定される。
【0146】
そして、エンジン1の運転状態が高負荷運転であり、ステップST65でYES判定された場合にはステップST66に移り、高負荷運転時のアルコール濃度学習値を取得する。この取得動作も、上述した如く、空燃比学習処理(図6)と同様にして行われる。このようにして高負荷運転時のアルコール濃度学習値が取得された後、ステップST67に移り、高負荷アルコール濃度学習値取得フラグFHALを「1」にセットする。
【0147】
一方、エンジン1の運転状態が低負荷運転でも高負荷運転でもない場合(中負荷運転時)には、ステップST65でNO判定される。
【0148】
ステップST68では、上記低負荷アルコール濃度学習値取得フラグFLAL及び高負荷アルコール濃度学習値取得フラグFHALが共に「1」にセットされているか否かを判定する。つまり、低負荷運転時のアルコール濃度学習値及び高負荷運転時のアルコール濃度学習値が共に取得された状態にあるか否かを判定する。
【0149】
一方のアルコール濃度学習値のみしか取得されていない場合や、両方のアルコール濃度学習値が共に取得されていない場合には、ステップST68でNO判定され、そのまま本ルーチンを終了する。この場合、低負荷運転時のアルコール濃度学習値及び高負荷運転時のアルコール濃度学習値は共に「0」として認識されることになる。
【0150】
一方、両方のアルコール濃度学習値が共に取得されている場合には、低負荷アルコール濃度学習値取得フラグFLAL及び高負荷アルコール濃度学習値取得フラグFHALが共に「1」にセットされているため、ステップST68でYES判定され、ステップST69に移る。このステップST69では、これら取得された低負荷運転時のアルコール濃度学習値及び高負荷運転時のアルコール濃度学習値をそれぞれ上記RAM83に格納する。
【0151】
以上が、冷間運転中におけるアルコール濃度学習値の取得動作である。
【0152】
一方、エンジン1が温間運転中である場合には、ステップST61でNO判定され、ステップST70(図10)に移る。このステップST70では、エンジン1の運転状態は低負荷運転であるか否かを判定する。
【0153】
そして、エンジン1の運転状態が低負荷運転であり、ステップST70でYES判定された場合にはステップST71に移り、低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値を取得する。この取得動作としては、上述した空燃比フィードバック処理(図4)及び空燃比学習処理(図6)によって行われる。このようにして低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値が取得された後、ステップST72に移り、低負荷空燃比補正量取得フラグFLA/Fを「1」にセットする。
【0154】
一方、このエンジン1の温間運転中における運転状態が低負荷運転ではなくステップST70でNO判定された場合には、ステップST73に移り、エンジン1の運転状態は高負荷運転であるか否かを判定する。
【0155】
そして、エンジン1の運転状態が高負荷運転であり、ステップST73でYES判定された場合にはステップST74に移り、高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値を取得する。この取得動作も、上述した空燃比フィードバック処理(図4)及び空燃比学習処理(図6)によって行われる。このようにして高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値が取得された後、ステップST75に移り、高負荷空燃比補正量取得フラグFHA/Fを「1」にセットする。
【0156】
一方、エンジン1の運転状態が低負荷運転でも高負荷運転でもない場合(中負荷運転時)には、ステップST73でNO判定される。
【0157】
ステップST76では、上記低負荷空燃比補正量取得フラグFLA/F及び高負荷空燃比補正量取得フラグFHA/Fが共に「1」にセットされているか否かを判定する。つまり、低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値と高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値とが共に取得された状態にあるか否かを判定する。
【0158】
一方の空燃比補正量及び空燃比学習値のみしか取得されていない場合や、両方の空燃比補正量及び空燃比学習値が共に取得されていない場合には、ステップST76でNO判定され、そのまま本ルーチンを終了する。この場合、低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値、高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値は共に「0」として認識されることになる。
【0159】
一方、両方の空燃比補正量及び空燃比学習値が共に取得されている場合には、低負荷空燃比補正量取得フラグFLA/F及び高負荷空燃比補正量取得フラグFHA/Fが共に「1」にセットされているため、ステップST76でYES判定され、ステップST77に移る。このステップST77では、これら取得された低負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値、高負荷運転時の空燃比補正量及び空燃比学習値をそれぞれ上記RAM83に格納する。
【0160】
以上が、温間運転中における空燃比補正量及び空燃比学習値の取得動作である。
【0161】
このような総空燃比補正量算出処理にあっては、低負荷運転時に取得されたアルコール濃度学習値と空燃比補正量と空燃比学習値との合算値が低負荷運転時の総空燃比補正量とされる。また、高負荷運転時に取得されたアルコール濃度学習値と空燃比補正量と空燃比学習値との合算値が高負荷運転時の総空燃比補正量とされる。
【0162】
図8のオイル希釈判定動作に戻り、何れか一方または両方の総空燃比補正量が求められていない場合には、ステップST52でNO判定され、オイル希釈判定動作の実行は不可能であるとして、本ルーチンを終了する。
【0163】
一方、エンジン1の高負荷運転時及び低負荷運転時のそれぞれについての総空燃比補正量が算出されており、ステップST52でYES判定された場合には、ステップST53に移り、低負荷運転時の総空燃比補正量から高負荷運転時の総空燃比補正量を減算し、この値(減算値)が所定値C(本発明でいうオイル希釈判定閾値)以上となっているか否かを判定する。具体的には、この減算値が高負荷運転時の総空燃比補正量に対して20%以上の値として求められているか否かを判定する。この値はこれに限定されるものではなく、実験やシミュレーション等によって決定されている。
【0164】
上記減算値が所定値C未満である場合(例えば、この減算値が高負荷運転時の総空燃比補正量に対して10%であった場合)、ステップST53でNO判定され、オイル希釈は発生していないか、発生していてもその希釈量は僅かであるとして、オイル希釈判定フラグを「0」にリセットする(ステップST54)。
【0165】
一方、上記減算値が大きく(例えば、この減算値が高負荷運転時の総空燃比補正量に対して30%であった場合)、ステップST53でYES判定され、オイル希釈が発生しているとして、オイル希釈判定フラグを「1」にセットする。
【0166】
そして、ステップST55においてオイル希釈判定フラグを「1」にセットした後、ステップST56において、オイル希釈時のエンジン制御動作を実行する。このオイル希釈時に実行される具体的なエンジン制御動作については後述する。
【0167】
尚、上述の如くオイル希釈が発生しているとして上記ステップST55においてオイル希釈判定フラグが「1」にセットされた後、エンジン1の運転が継続し、その後、上記減算値が所定値C未満となった場合には、ステップST53でNO判定され、オイル希釈は発生していないか、発生していてもその希釈量は僅かであるとして、オイル希釈判定フラグを「0」はリセットされることになる。
【0168】
ここでは、上記減算値が所定値C以上であるか否かによってオイル希釈が発生しているか否かを判別するようにしているが、オイル希釈が発生していると判定する上記所定値Cとは別に、オイル希釈が発生していないと判定する所定値Dを設定するようにしてもよい。つまり、オイル希釈が生じていると判定するための上記オイル希釈判定閾値(上記所定値C)と、オイル希釈が解消されたと判定するためのオイル希釈解消判定閾値(上記所定値D)との間にヒステリシスを設定するものである。この場合、上記オイル希釈解消判定閾値よりもオイル希釈判定閾値を大きな値として設定することになる。これにより、オイル希釈が発生しているとする判定動作とオイル希釈が解消されたとする判定とのハンチングを回避できる。
【0169】
図11は、エンジン負荷と総空燃比補正量との関係の一例を示している。この図11の左側はエンジン1の低負荷運転時における上記空燃比フィードバック処理に起因する空燃比補正量と、上記空燃比学習処理により得られた空燃比学習値と、上記アルコール濃度学習処理により得られたアルコール濃度学習値との総和である総空燃比補正量の大きさを示している。一方、この図11の右側はエンジン1の高負荷運転時における上記空燃比フィードバック処理に起因する空燃比補正量と、上記空燃比学習処理により得られた空燃比学習値と、上記アルコール濃度学習処理により得られたアルコール濃度学習値との総和である総空燃比補正量の大きさを示している。このように低負荷運転時と高負荷運転時とでは、オイル希釈の度合いが同一であっても空燃比補正量には差が生じている。そして、この差は、オイル希釈の度合いが大きいほど大きな値として得られることになる。図11(a)はオイル希釈の度合いが大きい場合(上記ステップST53でYES判定される場合)における各運転時の総空燃比補正量を示しており、図11(b)はオイル希釈の度合いが小さい場合(上記ステップST53でNO判定される場合)における各運転時の総空燃比補正量を示している。
【0170】
以上説明したように、本実施形態では、エンジン1の高負荷運転時と低負荷運転時とでは、吸気系への蒸発燃料(エンジンオイルから蒸発した燃料)の導入量が同一であっても総空燃比補正量に差が生じることになり、その差は、オイル希釈度が高いほど大きくなる点に着目し、つまり、高負荷運転時における上記総空燃比補正量と低負荷運転時における総空燃比補正量との差が、オイル希釈度合いと大きな相関があることに着目し、高負荷運転時における総空燃比補正量と低負荷運転時における総空燃比補正量との差に基づいてオイル希釈度合いを高い精度で判定することができる。
【0171】
また、本実施形態のオイル希釈判定動作によれば、オイル希釈度合いが高い状態で、新たな燃料が燃料タンクTに供給され、その燃料種が変更された場合であっても、現時点でのオイル希釈度合いを正確に判定することができる。例えば、エタノール単体の燃料(E100燃料)を使用している状態でオイル希釈度合いが高くなり、その後、エタノールとガソリンとの混合燃料(例えばE50燃料)が燃料が燃料タンクTに供給されたとしても、オイル希釈度合いを正確に判定することが可能である。
【0172】
−他のオイル希釈判定−
上述したようにエンジン1の高負荷運転時における総空燃比補正量と低負荷運転時における総空燃比補正量と差に基づいてオイル希釈判定を行うものに加えて、本実施形態では、以下に述べるような動作によってもオイル希釈判定が行えるようにしている。また、オイル希釈判定を解除する動作も行うようにしている。以下、具体的に説明する。
【0173】
(温間運転時の希釈判定)
エンジン1の暖機が完了し、温間運転に移行すると、その後、オイルパン18内のエンジンオイルが燃料の沸点以上に温度上昇することで、このエンジンオイルに混入していた燃料がクランクケース19内に蒸発する。そして、この蒸発した燃料は、PCV装置7を経て吸気通路2に導入されていく。この場合、上記総空燃比補正量(温間運転の総空燃比補正量)が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合は、エンジン1の負荷状態に関わりなくオイル希釈度合いが高いと判定するようにしている。このオイル希釈判定閾値は、実験やシミュレーション等によって決定されている。
【0174】
例えば、上記水温センサ92により検出される冷却水温度が60℃を超えている状況や、上記油温センサ99により検出される油温が60℃を超えている状況で、上記総空燃比補正量が上記オイル希釈判定閾値以上である場合はオイル希釈度合いが高いと判定するようにしている(本発明でいうオイル希釈断定手段によるオイル希釈判定動作)。
【0175】
これによれば、低負荷運転時の総空燃比補正量及び高負荷運転時の総空燃比補正量の取得を待つことなしにオイル希釈度合いが高いことを判定できる。言い換えると、各負荷での総空燃比補正量の取得ができなくてもオイル希釈度合いが高いことを判定でき、迅速な判定処理を実現することができる。
【0176】
(エンジン再始動時の希釈判定)
上述の如くオイル希釈判定(上記総空燃比補正量の差によるオイル希釈判定や温間運転時のオイル希釈判定)が行われた後に、エンジン1が停止され、その後、再始動された場合には、油温等に応じてオイル希釈判定を行うようにしている(本発明でいう再始動時オイル希釈判定手段によるオイル希釈判定動作)。
【0177】
つまり、エンジン1が停止された際に、上記オイル希釈判定フラグを上記バックアップRAM84に記憶させ、その後のエンジン1の再始動時に、その情報をバックアップRAM84から読み出す。また、このエンジン1の再始動時における油温情報を取得し、上記読み出したオイル希釈判定情報の継続使用または判定情報のリセットを行う。この油温情報としては、上記油温センサ99によって検出される油温信号であってもよいし、上記水温センサ92によって検出される冷却水温度から油温を推定したものであってもよい。
【0178】
例えば、油温が比較的高く、オイルを希釈していた燃料の大部分が蒸発していると判定された場合には、エンジン停止前のオイル希釈判定フラグが「1」にセットされていたとしても、エンジン1の再始動と同時に、このオイル希釈判定フラグを「0」にリセットする。
【0179】
逆に、油温が比較的低く、オイルパン18内のエンジンオイルには未だ多量の燃料が混入していると判定された場合には、エンジン停止前のオイル希釈判定フラグが「1」にセットされていた場合に、エンジン1の再始動後も、そのオイル希釈判定フラグを「1」に保持する。
【0180】
これによれば、過去(エンジン1の停止前)のオイル希釈判定結果とエンジン1の再始動時の油温情報とに基づいて、エンジン1の再始動と略同時にオイル希釈判定を実施することが可能になる。
【0181】
(オイル希釈解除判定)
エンジンオイルに混入している燃料は、エンジン1の暖機が完了した後に蒸発していき、エンジン1が継続運転されることで、その大部分は蒸発してオイル希釈は解消されることになる。
【0182】
この点に鑑み、オイル希釈度合いが高いと判定された後であって、エンジン1の暖機完了後の運転継続時間が所定時間(例えば30分)を超えた場合には、仮にオイル希釈量が最大量にまで達していたとしても、オイルを希釈していた燃料の大部分は蒸発し、オイル希釈は解消されたと判定するようにしている。つまり、上記各負荷での総空燃比補正量の取得を行うことなく、オイル希釈解除判定を行って上記オイル希釈判定フラグを「0」にリセットする(本発明でいうオイル希釈解消判定手段によるオイル希釈解消判定動作)。
【0183】
尚、上述した各オイル希釈判定やオイル希釈解除判定は、必ずしも上述した総空燃比補正量の差によるオイル希釈判定が行われるエンジン1に対してのみ実行されることには限定されない。
【0184】
−オイル希釈時のエンジン制御−
次に、上記図8のステップST56において実行されるオイル希釈発生時のエンジン制御について説明する。以下では、オイル希釈発生時のエンジン制御として複数の制御を列挙するが、何れの制御も、単独で行ってもよいし、複数を同時並行してもよい。
【0185】
(空燃比学習値のホールド)
先ず、オイル希釈発生時のエンジン制御として、上記空燃比学習値のホールドが挙げられる。つまり、オイル希釈発生時には上記空燃比学習処理を禁止することで現在の空燃比学習値をホールド(保持)するようにしている。
【0186】
これは、オイル希釈度合いが大きい場合には空燃比学習処理による正確な空燃比学習値の算出が困難になり、誤った空燃比学習値が算出されることによる不具合(例えば気筒11内の空燃比が理論空燃比から大きく乖離してしまうこと)を回避するためである。
【0187】
(アルコール濃度学習値のホールド)
また、オイル希釈発生時のエンジン制御として、上記アルコール濃度学習値のホールドが挙げられる。つまり、オイル希釈発生時には上記アルコール濃度学習処理を禁止することで現在のアルコール濃度学習値をホールド(保持)するようにしている。
【0188】
これは、オイル希釈度合いが大きい場合にはアルコール濃度学習処理による正確なアルコール濃度学習値の算出が困難になり、誤ったアルコール濃度学習値が算出されることによる不具合(例えば気筒11内の空燃比が理論空燃比から大きく乖離してしまうこと)を回避するためである。
【0189】
(パージ制御の禁止)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、パージ制御の禁止が挙げられる。つまり、上記キャニスタシステム6におけるパージ制御弁63を全閉状態に維持し、キャニスタ61内に吸着保持されている蒸発燃料の吸気通路2への導入(パージ)を禁止するようにしている。
【0190】
これは、オイル希釈度合いが大きい場合にはパージガス流量(吸気通路2へ導入される蒸発燃料の導入量)の正確な計測が困難になり、気筒11内の混合気の空燃比が理論空燃比から大きくずれてしまい、ドライバビリティの悪化などを招く可能性があるので、これを回避するためである。
【0191】
(パージ濃度学習値のホールド)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、上記パージ濃度学習値のホールドが挙げられる。つまり、オイル希釈発生時には上記パージ濃度学習処理を禁止することで現在のパージ濃度学習値をホールド(保持)するようにしている。
【0192】
これは、オイル希釈度合いが大きい場合にはパージ濃度学習処理による正確なパージ濃度学習値の算出が困難になり、誤ったパージ濃度学習値が算出されることによる不具合を回避するためである。
【0193】
(フューエルカットの禁止)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、フューエルカットの禁止が挙げられる。上述した如く、車両の減速中には、基本的にインジェクタ4からの燃料噴射を停止するフューエルカット制御が実行されるが、オイル希釈発生時には、このフューエルカットを禁止し、インジェクタ4からの燃料噴射を継続して行うようにしている。
【0194】
その理由は、フューエルカットすることで、空燃比フィードバック制御が実施できなくなり、エンジンオイルから蒸発した燃料によって気筒11内での空燃比がオーバリッチになってしまう可能性を回避するためである(エンジンオイルからの蒸発燃料が多い場合)。また、エンジンオイルから蒸発した燃料が気筒11内に導入されている状況でフューエルカットを実施してしまうと、燃焼室内での失火が発生し、未燃ガスが排気系において燃焼して触媒コンバータ32の温度が過剰上昇してしまって触媒性能の低下に繋がってしまう可能性があるので(エンジンオイルからの蒸発燃料が少ない場合)、これを回避するためである。
【0195】
但し、エンジン1の負荷が極めて低い場合(例えば負荷率が10%未満の場合)には、オイル希釈時のエンジン制御として、フューエルカットを禁止することなくインジェクタ4からの燃料噴射を停止するようにしている。
【0196】
その理由は、エンジン1の負荷が極端に低い場合にフューエルカットを禁止、つまり、インジェクタ4からの燃料噴射を継続してしまうと、燃焼室内での燃焼状態の悪化に伴って触媒コンバータ32の温度の過剰上昇が早期に発生してしまう可能性がある。これを回避するべく、エンジン1の負荷が極めて低い場合に、オイル希釈が生じている際には、フューエルカットを実行するようにしている。
【0197】
(空燃比フィードバック制御の継続)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、インジェクタ4からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、上記空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比フィードバック制御を継続することが挙げられる。
【0198】
オイル希釈の発生時に空燃比フィードバック制御を禁止してしまうと、気筒11内の空燃比がオーバリッチになる可能性がある。これを回避するために、オイル希釈が生じていると判定された際において、インジェクタ4からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、空燃比フィードバック制御を継続し、気筒11内の空燃比を理論空燃比付近で安定化させるようにしている。
【0199】
(減速運転時の吸気増量)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、上述した如くインジェクタ4からの燃料噴射停止動作を禁止する際において、車両の減速運転時である場合には、この燃料噴射停止動作の禁止に伴って、スロットルバルブ23の開度を大きく設定し、吸入空気量を増量することが挙げられる。
【0200】
つまり、減速運転時にエンジン1が低負荷運転となることを回避するべく吸入空気量を増量する。これにより、オイル希釈が生じている場合の減速運転時におけるエンジン回転数の安定化を図ることができ、ドライバビリティの確保を図ることができる。
【0201】
(低負荷運転時の噴射量制限)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、エンジン1の低負荷運転時に、オイル希釈が生じていると判定された場合には、インジェクタ4からの燃料噴射量の増量を制限することが挙げられる。
【0202】
エンジン1が低負荷運転である場合には、上述した空燃比フィードバック処理によって要求燃料噴射量が確保されている。このため、オイル希釈に起因して気筒11内の空燃比がオーバリッチになることを抑制するべく、インジェクタ4からの燃料噴射量の増量を制限するようにしている。例えば、通常のインジェクタ4の燃料補正量に対して10%の減量補正を行うようにしている。
【0203】
(燃料補正量の制御幅の拡大)
オイル希釈発生時のエンジン制御として、オイル希釈が生じていると判定された場合には、上記総空燃比補正量の制御幅を拡大することが挙げられる。
【0204】
これにより、空燃比の制御幅の拡大が図れ、特に、上記FFVに搭載されるエンジン1の場合、オイル希釈量が大幅に増大する可能性があるので、これに対応可能な補正量を得ることができる。尚、この制御幅としては、オイル希釈が解消されていくに従って徐々に小さくしていくようにしている。
【0205】
尚、上述したオイル希釈時の各エンジン制御は、必ずしも上述したオイル希釈判定によってオイル希釈度合いが大きいと判定された場合に実行されることには限定されない。つまり、その他のオイル希釈判定(例えば周知のオイル希釈判定)によってオイル希釈度合いが大きいと判定された場合にも上記エンジン制御は行うことが可能である。言い換えると、上述したオイル希釈時の各エンジン制御は、オイル希釈判定動作に制約を受けるものではない。
【0206】
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、本発明を自動車用4気筒エンジン1に適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンに対しても適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型やV型や水平対向型等の別)についても特に限定されるものではない。
【0207】
また、上記実施形態では、触媒コンバータ32の上流側に設けられたO2センサ96の出力に基づいて上記空燃比フィードバック処理及び空燃比学習処理を行うものとしていた。本発明はこれに限らず、触媒コンバータ32の上流側にA/Fセンサを設け、このA/Fセンサの出力に基づいて空燃比フィードバック処理及び空燃比学習処理を行うようにしてもよい。また、O2センサとA/Fセンサとを併用するようにしてもよい。
【0208】
更に、上記実施形態では、筒内直噴式のエンジン1に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、ポート噴射式のエンジンや、ポート噴射式及び筒内直噴式の両インジェクタを備えたエンジンに対しても適用可能である。
【0209】
また、上記実施形態では、FFVに搭載されたエンジン1、つまり、アルコール燃料またはアルコールとガソリンとの混合燃料を使用するエンジン1に対して本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、ガソリン単体の燃料を使用するエンジンに対しても適用が可能である。
【0210】
また、上記実施形態では、総空燃比補正量を、空燃比補正量、空燃比学習値、アルコール濃度学習値の総和として算出したが、空燃比補正量及び空燃比学習値のみの総和として総空燃比補正量を算出するようにしてもよい。つまり、冷間運転時に取得されるアルコール濃度学習値を総空燃比補正量から排除するようにしてもよい。これは、例えばエタノール単体の燃料(E100燃料)の場合、冷間運転時にはエンジンオイルからの燃料蒸発は殆ど生じず、高負荷運転時と低負荷運転時とではアルコール濃度学習値に殆ど差が生じないからである。この場合、例えば冷却水温度及び油温が共に60℃を超えている場合に上記総空燃比補正量の算出を行うようにする。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明は、FFVに搭載されるエンジンのオイルパン内における燃料によるオイルの希釈の有無の判定動作に適用可能である。
【符号の説明】
【0212】
1 エンジン
18 オイルパン(潤滑油貯留部)
23 スロットルバルブ(吸気量調整手段)
4 インジェクタ(燃料噴射弁)
8 エンジンECU
92 水温センサ
96 O2センサ
O エンジンオイル(潤滑油)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標空燃比に対する実空燃比の偏差を小さくするように燃料噴射弁からの燃料噴射量を補正するための燃料補正量を求める燃料補正手段を備える内燃機関のオイル希釈判定装置において、
高負荷運転時における上記燃料補正量と低負荷運転時における上記燃料補正量との差に基づいて、潤滑油貯留部での燃料による潤滑油の希釈度合いの判定を行うオイル希釈判定手段を備えていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比補正手段と、
上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値を算出する空燃比学習手段とを備え、
上記燃料補正手段は、少なくとも上記空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値との合算値を燃料補正量として求めるようになっており、
上記オイル希釈判定手段は、高負荷運転時における上記合算値である燃料補正量と、低負荷運転時における上記合算値である燃料補正量との差に基づいてオイル希釈判定を行う構成とされていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項3】
請求項1記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記燃料として、アルコールを含む燃料が使用されており、
目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比補正手段と、
温間時、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値を算出する空燃比学習手段と、
冷間時、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるためのアルコール濃度学習値を算出するアルコール濃度学習手段とを備え、
上記燃料補正手段は、上記空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値とアルコール濃度学習値との合算値を燃料補正量として求めるようになっており、
上記オイル希釈判定手段は、高負荷運転時における上記合算値である燃料補正量と、低負荷運転時における上記合算値である燃料補正量との差に基づいてオイル希釈判定を行う構成とされていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記オイル希釈判定手段は、上記低負荷運転時における燃料補正量から上記高負荷運転時における燃料補正量を減算した値が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合に、オイル希釈が生じていると判定するよう構成されていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項5】
請求項4記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定するためのオイル希釈判定閾値と、オイル希釈が解消されたと判定するためのオイル希釈解消判定閾値との間にヒステリシスが設定されており、
上記オイル希釈解消判定閾値よりもオイル希釈判定閾値が大きな値として設定されていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項6】
請求項1〜5のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記内燃機関の暖機完了後における上記燃料補正量が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合には、上記オイル希釈判定手段による判定動作を待つことなく、オイル希釈が生じていると判定するオイル希釈断定手段が設けられていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定された状態で内燃機関の再始動が行われた際、計測または推定される潤滑油温度に基づいてオイル希釈度合いの判定を行う再始動時オイル希釈判定手段が設けられていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定された後、内燃機関の暖機完了後における連続運転時間が所定時間を超えた場合には、オイル希釈が解消されたと判定するオイル希釈解消判定手段が設けられていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
排気空燃比に基づいて算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値の更新を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項10】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
冷間時、排気空燃比に基づいて算出される空燃比フィードバック補正量を所定補正基準量から所定範囲内に収束させるためのアルコール濃度学習値の更新を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項11】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸気系に導入するためのパージ動作を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項12】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
オイル希釈が生じていると判定された場合には、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸気系に導入するパージガスの濃度を学習するパージ濃度学習値をリセットするよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項13】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
所定のフューエルカット条件が成立した場合に行われる燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項14】
請求項13記載の内燃機関制御装置において、
低負荷運転時には、燃料噴射停止動作を禁止し、燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を実行するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項15】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
オイル希釈が生じていると判定された際において、燃料噴射弁からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比フィードバック制御を継続するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項16】
請求項13記載の内燃機関制御装置において、
減速運転時である場合には、上記燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作の禁止に伴って、吸気系に備えられた吸気量調整手段により調整される吸入空気量を増量するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項17】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
低負荷運転時に、オイル希釈が生じていると判定された場合には、燃料噴射弁からの燃料噴射量の増量を制限するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項18】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
オイル希釈が生じていると判定された場合には、上記燃料補正量の制御幅を拡大するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項1】
目標空燃比に対する実空燃比の偏差を小さくするように燃料噴射弁からの燃料噴射量を補正するための燃料補正量を求める燃料補正手段を備える内燃機関のオイル希釈判定装置において、
高負荷運転時における上記燃料補正量と低負荷運転時における上記燃料補正量との差に基づいて、潤滑油貯留部での燃料による潤滑油の希釈度合いの判定を行うオイル希釈判定手段を備えていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比補正手段と、
上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値を算出する空燃比学習手段とを備え、
上記燃料補正手段は、少なくとも上記空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値との合算値を燃料補正量として求めるようになっており、
上記オイル希釈判定手段は、高負荷運転時における上記合算値である燃料補正量と、低負荷運転時における上記合算値である燃料補正量との差に基づいてオイル希釈判定を行う構成とされていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項3】
請求項1記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記燃料として、アルコールを含む燃料が使用されており、
目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比補正手段と、
温間時、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値を算出する空燃比学習手段と、
冷間時、上記算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるためのアルコール濃度学習値を算出するアルコール濃度学習手段とを備え、
上記燃料補正手段は、上記空燃比フィードバック補正量と空燃比学習値とアルコール濃度学習値との合算値を燃料補正量として求めるようになっており、
上記オイル希釈判定手段は、高負荷運転時における上記合算値である燃料補正量と、低負荷運転時における上記合算値である燃料補正量との差に基づいてオイル希釈判定を行う構成とされていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記オイル希釈判定手段は、上記低負荷運転時における燃料補正量から上記高負荷運転時における燃料補正量を減算した値が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合に、オイル希釈が生じていると判定するよう構成されていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項5】
請求項4記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定するためのオイル希釈判定閾値と、オイル希釈が解消されたと判定するためのオイル希釈解消判定閾値との間にヒステリシスが設定されており、
上記オイル希釈解消判定閾値よりもオイル希釈判定閾値が大きな値として設定されていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項6】
請求項1〜5のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記内燃機関の暖機完了後における上記燃料補正量が所定のオイル希釈判定閾値以上である場合には、上記オイル希釈判定手段による判定動作を待つことなく、オイル希釈が生じていると判定するオイル希釈断定手段が設けられていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定された状態で内燃機関の再始動が行われた際、計測または推定される潤滑油温度に基づいてオイル希釈度合いの判定を行う再始動時オイル希釈判定手段が設けられていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置において、
上記オイル希釈判定手段によってオイル希釈が生じていると判定された後、内燃機関の暖機完了後における連続運転時間が所定時間を超えた場合には、オイル希釈が解消されたと判定するオイル希釈解消判定手段が設けられていることを特徴とする内燃機関のオイル希釈判定装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
排気空燃比に基づいて算出される空燃比フィードバック補正量を所定の補正基準量から所定範囲内に収束させるための空燃比学習値の更新を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項10】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
冷間時、排気空燃比に基づいて算出される空燃比フィードバック補正量を所定補正基準量から所定範囲内に収束させるためのアルコール濃度学習値の更新を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項11】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸気系に導入するためのパージ動作を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項12】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
オイル希釈が生じていると判定された場合には、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸気系に導入するパージガスの濃度を学習するパージ濃度学習値をリセットするよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項13】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
所定のフューエルカット条件が成立した場合に行われる燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を、オイル希釈が生じていると判定された場合には禁止するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項14】
請求項13記載の内燃機関制御装置において、
低負荷運転時には、燃料噴射停止動作を禁止し、燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作を実行するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項15】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
オイル希釈が生じていると判定された際において、燃料噴射弁からの燃料噴射量が所定量以下である場合には、目標空燃比と実空燃比との乖離を補償するための空燃比フィードバック補正量を算出する空燃比フィードバック制御を継続するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項16】
請求項13記載の内燃機関制御装置において、
減速運転時である場合には、上記燃料噴射弁からの燃料噴射停止動作の禁止に伴って、吸気系に備えられた吸気量調整手段により調整される吸入空気量を増量するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項17】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
低負荷運転時に、オイル希釈が生じていると判定された場合には、燃料噴射弁からの燃料噴射量の増量を制限するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項18】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のオイル希釈判定装置によるオイル希釈判定結果に基づいて内燃機関の制御を行う内燃機関制御装置であって、
オイル希釈が生じていると判定された場合には、上記燃料補正量の制御幅を拡大するよう構成されていることを特徴とする内燃機関制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−122543(P2011−122543A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281920(P2009−281920)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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