説明

内燃機関の制御装置及び燃料噴射弁

【課題】ミキシングが悪化することにより、未燃焼燃料が増大し、出力が低下することを防止する。
【解決手段】コントロールユニット6が、燃料噴射弁5を制御することにより、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するの同時に、作動している吸気バルブに向けて要求量の燃料を全て噴射させる。これにより、吸気ポート3に燃料噴霧が滞留し、吸気ポート3の壁面に燃料が付着することを防止できるので、ミキシングが悪化することにより、未燃焼燃料が増大し、出力が低下することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒毎に設けられた複数の吸気バルブに向けて燃料噴射可能な燃料噴射弁を有する内燃機関の制御装置及び燃料噴射弁に関し、より詳しくは、ミキシングが悪化することにより、未燃焼燃料(HC)が増大し、出力が低下することを防止するための技術に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、気筒毎に2つの吸気バルブを有する内燃機関が知られており(例えば特許文献1を参照)、このような内燃機関では、低温運転状態時には、一方の吸気バルブの作動を停止し、作動を停止させた吸気バルブ付近に燃料噴霧を指向させることにより、低速回転から高速回転までの全域にわたって燃焼を促進させるようにしている。
【特許文献1】特開平6−341362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来までの内燃機関では、燃料噴射弁が片方の吸気ポート内に設けられているために、高温運転状態時、2つの吸気バルブの傘部背面に燃料を直接当てることにより、吸気バルブの熱によって燃料の気化を促進することが難しい。また、従来までの内燃機関は、作動を停止させた吸気バルブ付近に燃料噴霧を指向させる構成になっているために、吸気ポートに燃料噴霧が滞留し、吸気ポートの壁面に燃料が付着することがある。このため、従来までの内燃機関によれば、ミキシングが悪化することにより、未燃焼燃料が増大し、出力が低下する恐れがある。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ミキシングが悪化することにより、未燃焼燃料が増大し、出力が低下することを防止可能な内燃機関の制御装置及び燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る内燃機関の制御装置は、気筒毎に設けられた複数の吸気バルブに向けて燃料噴射可能な燃料噴射弁を有する内燃機関の制御装置であって、燃料噴射弁の燃料噴霧特性を変更する噴霧特性変更手段と、複数の吸気バルブのうち、少なくとも一つの吸気バルブの作動が停止されるのに応じて、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するのと同時に、作動している吸気バルブに向けて要求量の燃料を全て噴射するように噴霧特性変更手段を制御する制御手段とを備える。
【0006】
このような本発明に係る内燃機関の制御装置の構成によれば、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するので、吸気ポートに燃料噴霧が滞留し、吸気ポートの壁面に燃料が付着することを防止できる。すなわち、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、ミキシングが悪化することにより、未燃焼燃料が増大し、出力が低下することを防止できる。
【0007】
なお、噴霧特性変更手段は、複数の燃料噴射孔を有するノズルプレートと、ノズルプレートを変位させる駆動手段とを備え、燃料噴射孔は、複数の吸気バルブに向けて燃料を噴射可能な第1の噴射孔群と、作動している吸気バルブのみに向けて燃料を噴射可能な第2の噴射孔群とを有し、制御手段は、駆動手段を制御して第1の噴射孔群と第2の噴射孔群とを切り替えるようにノズルプレートを変位させることにより、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するのと同時に、作動している吸気バルブに向けて燃料を噴射させることが望ましい。
【0008】
このような本発明に係る内燃機関の制御装置の構成によれば、1つの燃料噴射弁で吸気バルブに燃料を噴射し、複数の燃料噴射弁を備える必要が無いので、内燃機関のコストを低下させることができるの同時に、吸気ポートの設計自由度を大きくすることができる。また、複数の吸気バルブに燃料を当てることができるので、吸気バルブが有する熱によって燃料の気化を促進することができる。
【0009】
また、制御手段は、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するのと同時に、作動している吸気バルブに向けて燃料を噴射させる際、吸気工程噴射を行うように燃料噴射弁を制御することが望ましい。
【0010】
このような本発明に係る内燃機関の制御装置の構成によれば、スワールが生じることにより、吸気ポート内における燃料の壁流分が減少し、燃料噴霧のミキシングが向上するので、燃費やエミッションを向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る燃料制御弁は、気筒毎に設けられた複数の吸気バルブに向けて燃料噴射可能な燃料噴射弁であって、複数の燃料噴射孔を有するノズルプレートと、ノズルプレートを変位させる駆動手段とを備え、燃料噴射孔は、前記複数の吸気バルブに向けて燃料を噴射可能な第1の噴射孔群と、作動している吸気バルブのみに向けて燃料を噴射可能な第2の噴射孔群とを有する。
【0012】
このような本発明に係る燃料制御弁の構成によれば、1つの燃料噴射弁で吸気バルブに燃料を噴射し、複数の燃料噴射弁を備える必要が無いので、内燃機関のコストを低下させることができるの同時に、吸気ポートの設計自由度を大きくすることができる。また、複数の吸気バルブに燃料を当てることができるので、吸気バルブが有する熱によって燃料の気化を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、例えば図1に示すような内燃機関に適用することができる。以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる内燃機関の構成及びその制御方法について詳しく説明する。
【0014】
〔内燃機関の構成〕
本発明の実施形態となる内燃機関1は、図1に示すように、1つの気筒2に対し2つの吸気ポート3を備え、各吸気ポート3に吸気バルブ4a,4bが設けられている。また、この内燃機関1では、一方の吸気ポート3に燃料噴射弁5が設けられ、本発明に係る制御手段として機能するコントロールユニット(C/U)6が、内燃機関1を冷却するための冷却水の温度を検出する水温センサ7の検出結果に従って、吸気バルブ4a,4b及び燃料噴射弁5の動作を制御するように構成されている。
【0015】
〔燃料噴射弁の構成〕
上記燃料噴射弁5は、図2に示すように、燃料噴射口側から順に、開口径Aの燃料噴射孔11aを複数有する第1ノズルプレート11と、開口径Aの燃料噴射孔12aと開口径A/2の燃料噴射孔12bを複数有する第2ノズルプレート12とを備える。また、第2ノズルプレート12の外周端には、形状記憶合金により形成されたスプリング13が当接され、スプリング13をヒータ14で加熱することにより、第2のノズルプレート12は、図3に示すように、径方向に伸縮可能なように構成されている。
【0016】
このような構成を有する燃料噴射弁5は、コントロールユニット6の制御に従って第2のノズルプレート12を径方向に伸縮させることにより、第1ノズルプレート11の燃料噴射孔11aの開口位置と第2ノズルプレート12の燃料噴射孔12bの開口位置とが一致し、吸気バルブ4aと吸気バルブ4bの双方に燃料を噴射可能な第1の噴射位置(図4(a)参照)と、第1ノズルプレート11の燃料噴射孔11aの開口位置と第2ノズルプレート12の燃料噴射孔12aの開口位置とが一致し、吸気バルブ4bにのみ燃料を噴射可能な第2の噴射位置(図4(b)参照)との間で、燃料の噴射方向を切り替える。なお、この実施形態では、燃料制御弁5の通常時の噴射位置は第1の噴射位置になるように構成されている。
【0017】
そして、このような構成を有する内燃機関1では、コントロールユニット6が以下に示す噴射制御処理を実行することにより、ミキシングが悪化することにより、未燃焼燃料が増大し、出力が低下することを防止する。以下、図5に示すフローチャートを参照して、噴射制御処理を実行する際のコントロールユニット6の動作について詳しく説明する。
【0018】
〔噴射制御処理〕
図5に示すフローチャートは、車両のイグニッションスイッチがオン状態になるのに応じて開始となり、噴射制御処理はステップS1の処理に進む。
【0019】
ステップS1の処理では、コントロールユニット6が、水温センサ7を介して冷却水の温度を読み込む。なお、この処理の際、コントロールユニット6は、内燃機関1の負荷情報や内燃機関1の回転数情報を読み込み、これらの情報を考慮して制御を行ってもよい。これにより、このステップS1の処理は完了し、噴射制御処理はステップS1の処理からステップS2の処理に進む。
【0020】
ステップS2の処理では、コントロールユニット6が、冷却水の温度が所定値以上であるか否かを判別する。そして、判別の結果、冷却水の温度が所定値以上である場合、コントロールユニット6は、内燃機関1の運転温度は高い状態(HOT状態)にあると判断し、噴射制御処理をステップS6の処理に進める。一方、冷却水の温度が所定値以下である場合には、コントロールユニット6は、内燃機関1の運転温度は低い状態(COLD状態)にあると判断し、噴射制御処理をステップS3の処理に進める。
【0021】
ステップS3の処理では、コントロールユニット6が、吸気バルブ4aの作動を禁止する同時に、吸気バルブ4bを作動させる。また、コントロールユニット6は、ヒーター14のデューティをオン状態にし、第2のノズルプレート12を径方向に伸縮させることにより、吸気バルブ4bにのみ燃料が噴射されるように燃料噴射弁5の噴射位置を第2の噴射位置に制御する。これにより、このステップS3の処理は完了し、噴射制御処理はステップS3の処理からステップS4の処理に進む。
【0022】
ステップS4の処理では、コントロールユニット6が、要求される燃料噴射量を全て吸気バルブ4bに噴射するように噴射量分担率を設定する。これにより、このステップS4の処理は完了し、噴射制御処理はステップS4の処理からステップS5の処理に進む。
【0023】
ステップS5の処理では、コントロールユニット6が、吸気行程において燃料を噴射するように燃料の噴射時期を設定する。これにより、このステップS5の処理は完了し、噴射制御処理はステップS5の処理からステップS6の処理に進む。
【0024】
ステップS6の処理では、コントロールユニット6が、吸気バルブ4aと吸気バルブ4bを作動させる。これにより、このステップS6の処理は完了し、噴射制御処理はステップS6の処理からステップS7の処理に進む。
【0025】
ステップS7の処理では、コントロールユニット6が、吸気バルブ4aと吸気バルブ4bの双方に燃料を均等に噴射するように噴射量分担率を設定する。これにより、このステップS7の処理は完了し、噴射制御処理はステップS7の処理からステップS8の処理に進む。
【0026】
ステップS8の処理では、コントロールユニット6が、排気行程において燃料を噴射するように燃料の噴射時期を設定する。これにより、このステップS8の処理は完了し、噴射制御処理はステップS8の処理からステップS9の処理に進む。
【0027】
ステップS9の処理では、コントロールユニット6が、設定情報に従って燃料を噴射するように燃料噴射弁5を制御する。これにより、このステップS9の処理は完了し、噴射制御処理はステップS9の処理から再びステップS1の処理に戻る。
【0028】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態となる内燃機関1によれば、コントロールユニット6が、燃料噴射弁5を制御することにより、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するのと同時に、作動している吸気バルブに向けて要求量の燃料を全て噴射させるので、吸気ポート3に燃料噴霧が滞留し、吸気ポート3の壁面に燃料が付着することを防止できる。すなわち、本発明の実施形態となる内燃機関1によれば、ミキシングが悪化することにより、未燃焼燃料が増大し、出力が低下することを防止できる。
【0029】
また、本発明の実施形態となる内燃機関1によれば、燃料噴射弁5は、吸気バルブ4aと吸気バルブ4bの双方に燃料を噴射可能なように構成され、複数の燃料噴射弁を備える必要が無いので、内燃機関1のコストを低下させることができるの同時に、吸気ポート3の設計自由度を大きくすることができる。また、コントロールユニット6は、高温運転状態時には、吸気バルブ4aと吸気バルブ4bの双方に燃料を当てることができるので、吸気バルブが有する熱によって燃料の気化を促進することができる。
【0030】
さらに、本発明の実施形態となる内燃機関1によれば、コントロールユニット6は、吸気バルブ4bに向けて燃料を噴射させる際、吸気工程噴射を行うように燃料噴射弁5を制御するので、スワールが生じることにより、吸気ポート3内における燃料の壁流分が減少し、燃料噴霧のミキシングが向上し、燃費やエミッションを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、各気筒毎に複数の吸気バルブを有する内燃機関の駆動制御に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態となる内燃機関の構成を示す模式図である。
【図2】図1に示す燃料制御弁の構成を示す断面図である。
【図3】図2に示す第2ノズルプレートの構成を示す平面図である。
【図4】図2に示す燃料噴射弁の動作を説明するための断面図である。
【図5】本発明の実施形態となる噴射制御処理の流れを示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0033】
1:内燃機関
2:気筒
3:吸気ポート
4a,4b:吸気バルブ
5:燃料噴射弁
6:コントロールユニット(C/U)
7:水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒毎に設けられた複数の吸気バルブに向けて燃料噴射可能な燃料噴射弁を有する内燃機関の制御装置であって、
前記燃料噴射弁の燃料噴霧特性を変更する噴霧特性変更手段と、
複数の吸気バルブのうち、少なくとも一つの吸気バルブの作動が停止されるのに応じて、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するのと同時に、作動している吸気バルブに向けて要求量の燃料を全て噴射するように前記噴霧特性変更手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記噴霧特性変更手段は、複数の燃料噴射孔を有するノズルプレートと、当該ノズルプレートを変位させる駆動手段とを備え、
前記燃料噴射孔は、前記複数の吸気バルブに向けて燃料を噴射可能な第1の噴射孔群と、作動している吸気バルブのみに向けて燃料を噴射可能な第2の噴射孔群とを有し、
前記制御手段は、前記駆動手段を制御して第1の噴射孔群と第2の噴射孔群とを切り替えるようにノズルプレートを変位させることにより、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するのと同時に、作動している吸気バルブに向けて燃料を噴射させること
を特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記制御手段は、作動が停止された吸気バルブへの燃料噴射を禁止するのと同時に、作動している吸気バルブに向けて燃料を噴射させる際、吸気工程噴射を行うように燃料噴射弁を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
気筒毎に設けられた複数の吸気バルブに向けて燃料噴射可能な燃料噴射弁であって、
複数の燃料噴射孔を有するノズルプレートと、
前記ノズルプレートを変位させる駆動手段とを備え、
前記燃料噴射孔は、前記複数の吸気バルブに向けて燃料を噴射可能な第1の噴射孔群と、作動している吸気バルブのみに向けて燃料を噴射可能な第2の噴射孔群とを有することを特徴とする燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−37846(P2006−37846A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219079(P2004−219079)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】