説明

内燃機関

【課題】ガス燃料と液体燃料とを併用する場合に、燃料が排気ポート側に貫通するのを抑制できるとともに、混合気の形成を良好にできるクランク室圧縮式2行程の内燃機関を提供する。
【解決手段】クランク室圧縮式2行程の内燃機関であって、燃焼室18にガス燃料又は液体燃料を単独もしくは併用して供給するガス燃料供給弁20と液体燃料供給弁14とを備え、該液体燃料供給弁14を気筒軸線aを挟んで排気ポート3c側に配置し、上記ガス燃料供給弁20を気筒軸線aを挟んで反排気ポート側に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク室圧縮式2行程の内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク室圧縮式の2行程(サイクル)内燃機関では、燃料の吹き抜けを抑制して燃費の向上を図る観点から、気筒内に燃料を直接供給する燃料噴射弁を備えることが有効である。この燃料噴射弁としては、噴射ノズルから高圧のガソリン燃料を噴射するタイプのものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、上記2サイクル内燃機関においては、燃料コストの低減等を図るために、ガス燃料を用いる場合がある。
【特許文献1】特開平10−252479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来の2サイクル内燃機関において、ガス燃料のみを用いた場合には、機関の運転領域によっては燃焼が安定しない場合がある。この燃焼を安定化させるには、ガス燃料供給弁と液体燃料供給弁とを備えるとともに、ガス燃料又は液体燃料を単独もしくは併用して供給することが有効であると考えられる。
【0005】
そこで、本願出願人は、燃焼室内に燃料を直接供給するガス燃料供給弁と液体燃料供給弁とを配置することを検討している。ところが、これらの燃料供給弁の配置位置の如何によっては、燃焼室内に供給した燃料が排気ポートを貫通して吹き抜けたり、ガス燃料と液体燃料との混合気の形成がうまくできなかったりする場合があり、この点での対策が必要となる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、ガス燃料と液体燃料とを併用する場合に、燃料が排気ポート側に貫通するのを抑制できるとともに、混合気の形成を良好にできるクランク室圧縮式2行程の内燃機関を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、クランク室圧縮式2行程の内燃機関であって、燃焼室内に、ガス燃料を直接噴射するガス燃料供給弁と液体燃料を直接噴射する液体燃料供給弁とを備え、該液体燃料供給弁は気筒軸線を挟んで排気ポート側に配置され、上記ガス燃料供給弁は上記気筒軸線を挟んで反排気ポート側に配置されていることを特徴とする内燃機関。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、気筒軸線方向に見たとき、上記液体燃料供給弁は、排気ポート中心及び上記気筒軸線を通過する直線と重なり、かつ該気筒軸線より排気ポート側に位置するよう配置され、上記ガス燃料供給弁は、上記直線と重なり、かつ上記気筒軸線より反排気ポート側に位置し、さらに上記液体燃料供給弁に略対向するように配置されていることを特徴としている。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1において、上記ガス燃料供給弁は複数設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1において、上記ガス燃料は、LPG,CNG又は水素の何れかであり、上記液体燃料は、50%蒸留温度≦250度の石油系燃料であることを特徴としている。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4において、機関温度,吸気温度,機関負荷,クランク軸回転速度等の運転状態検知信号に基づいて上記ガス燃料と液体燃料との供給割合を制御する燃料供給弁制御手段を備えていることを特徴としている。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1において、低負荷運転時には、上記液体燃料供給弁のみを作動させるとともに、該液体燃料供給弁を間引き運転する運転制御手段を備えていることを特徴としている。
【0013】
請求項7の発明は、請求項6において、上記運転制御手段は、上記間引き運転の間引き率を低負荷ほど大きくなるように制御することを特徴としている。
【0014】
請求項8の発明は、請求項1又は2において、気筒軸線方向に見たとき、上記液体燃料供給弁とガス燃料供給弁との間の略中央に点火プラグが配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る内燃機関によれば、液体燃料供給弁を排気ポート側に、ガス燃料供給弁を反排気ポート側に配置したので、質量が大きく貫通力の強い液体燃料を排気ポート側から燃焼室内に、つまり反排気ポート側に向けて供給することとなり、液体燃料が排気ポートを貫通して吹き抜けてしまうのを抑制することができる。
【0016】
また液体燃料は貫通力が強いため燃焼室内の下方部分に偏在し、一方、該液体燃料に比べて質量が小さく貫通力の弱いガス燃料は反排気ポート側から燃焼室内に供給することにより液体燃料の上側に、つまり燃焼室内の上方部分に偏在することとなる。その結果、燃焼室全体に燃料が行き渡るので、燃料と空気との混合気の均一化を図ることができる。その結果、空気利用率の向上により出力を高めることができ、理論空燃比もしくはこれに近似の空燃比燃焼が得られ、排気ガス性状の悪化が抑制され、ひいては三元触媒との組み合わせも可能となる。
【0017】
請求項2の発明では、液体燃料供給弁を排気ポート中心及び気筒軸線を通る直線と重なり、かつ排気ポート側に位置するように配置し、ガス燃料供給弁を液体燃料供給弁に対向する側に配置したので、液体燃料の排気ポート側への貫通をより確実に抑制でき、また液体燃料とガス燃料とが衝突によって混合し、均一混合気の形成を促進できる。
【0018】
請求項3の発明では、ガス燃料供給弁を複数設けたので、燃焼室内の上方でのG(新気と残留ガス)/F(燃料)比の均一化を促進できる。即ち、部分負荷時には、ガス燃料供給弁からのガス燃料量は少量であるため貫通力が弱く、新気との混合は不十分になり易い。本発明では、複数のガス燃料供給弁を配置することにより、各ガス燃料供給弁の弁隙間の周長を長くすることができ、これによりガス燃料を燃焼室内の広い範囲に供給することが可能となり、燃焼室内の上方でのG/F比の均一化を促進することができる。
【0019】
請求項4の発明では、ガス燃料にLPG,CNG又は水素の何れかを用い、液体燃料に50%蒸留温度≦250度の石油系燃料(例えばケロシン)を用いたので、燃焼室内の上方に偏在する着火性の良好なガス燃料に点火することにより、気化温度の高い燃焼室内下方に偏在する液体燃料の蒸発を促進しながら運転することが可能となる。これによりガソリンより着火性の劣る液体燃料を、周囲が極低温の環境下であっても使用可能となる。
【0020】
請求項5の発明では、機関運転状態に基づいてガス燃料と液体燃料との供給割合を制御するようにしたので、例えば、吸気温度,機関温度が低温の条件下では、着火性の良好なガス燃料を100%もしくは予め設定した所定割合で供給することにより、低温環境での機関の始動及び運転が可能となる。また機関の暖機状態によりガス燃料の供給割合を減少させることにより、体積当たりの発熱量が少ないガス燃料の消費を低減することができ、特に輸送用車両の内燃機関に好適である。
【0021】
請求項6の発明では、低負荷運転時には液体燃料供給弁のみを作動させるとともに、間引き運転を行なうようにしたので、低負荷運転時の燃焼を安定化させることができる。即ち、極低負荷運転時にはスロットル開度が小さいため新気が少なく、残留ガスの割合が多くなるので、G/F比が極めて大きくなり、安定的な燃焼を行なうことは困難である。本発明では、液体燃料供給弁を間引き運転するようにしたので、燃料供給サイクルにおける1回当りの燃料供給量を、燃料を供給しないサイクルの分だけ増加することにより、安定燃焼可能なG/F比とすることができ、その結果、上記燃焼を安定させることができる。
【0022】
請求項7の発明では、上記間引率を低負荷ほど大きくしたので、極低負荷運転時であっても燃焼を安定させることができる。
【0023】
請求項8の発明では、点火プラグを、液体燃料供給弁とガス燃料供給弁との間の略中央に配置したので、燃焼ガスによる各燃料供給弁への熱影響を抑制できる。即ち、燃焼ガス温度は、通常点火プラグ近傍が最も高温となるが、本発明では、点火プラグを液体燃料供給弁とガス燃料供給弁の略中間に配置したので、両燃料供給弁の何れも燃焼ガスにより異常に昇温することはなく、各燃料供給弁の燃焼熱に対する信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0025】
図1ないし図4は、本発明の一実施形態によるクランク室圧縮式2行程(サイクル)の内燃機関を説明するための図であり、図1は2サイクル内燃機関の断面図、図2はシリンダヘッドの要部断面図、図3はシリンダヘッドの底面図、図4はガス燃料供給装置の構成図である。
【0026】
図において、1はクランク室圧縮式2サイクル内燃機関を示している。この内燃機関1は、以下の概略構造を有する。上下2分割式クランクケース2の上合面2bにシリンダブロック3がボルト締め結合され、該シリンダブロック3の上合面3aにシリンダヘッド4がボルト締め結合されている。
【0027】
上記クランクケース2のクランク室2a内にクランク軸5が配置されるとともに、上記シリンダブロック3のシリンダボア3b内にピストン6が配置され、該ピストン6はコンロッド7により上記クランク軸5のクランクピン5aに連結されている。
【0028】
上記クランクケース2には、クランク室2aに連通する吸気通路2cが形成されている。該吸気通路2cには、逆流防止用リード弁10を介して、スロットルバルブ11を内蔵するスロットルボディ12が接続されている。該スロットルボディ12の上流側にはエアクリーナ13が接続されている。
【0029】
上記シリンダブロック3の気筒軸線aを挟んで上記吸気通路2cの反対側には排気ポート3cが形成されている。またシリンダブロック3には、クランク室2aで一次圧縮された空気をシリンダボア3b内に導入する複数の掃気ポート3dが形成されている。各掃気ポート3dのシリンダ側開口は、主たる掃気流が反排気ポート側を指向するように上記シリンダボア3bに配置されている。
【0030】
上記シリンダヘッド4のシリンダボア3bに対向する下合面には、燃焼凹部4aが凹設されている。この燃焼凹部4aは、クランク軸方向に見て、気筒軸線aを挟んで排気ポート3c側に位置する傾斜面と、気筒軸線aを挟んで排気ポートの反対側に位置する傾斜面とを有するペントルーフ型のものであり、該燃焼凹部4aと上死点近傍におけるピストン6の頂面6aとで燃焼室18が形成される。ここで、本発明における燃焼凹部は、ペントルーフ型に限られるものではなく、例えば半球状のドーム型であってもよい。
【0031】
上記シリンダヘッド4には、上記燃焼室18に連通するガス燃料供給通路4cが形成されている。このガス燃料供給通路4cは、上記燃焼凹部4aの反排気ポート側傾斜面に開口する2つの下流端開口4d,4dと、シリンダヘッド4の反排気ポート側外壁面に開口する1つの外部接続開口4eとを有している。該外部接続開口4eは、小径のガス供給孔4kを有するプレート4gによって略閉塞されており、これにより蓄圧室4fが形成されている。
【0032】
上記蓄圧室4fは、詳細には、外部接続開口4eに続いて燃焼室18側に斜め下方に延びる2つの分岐通路4h,4hに分岐して上記各下流端開口4dに連通しており、かつ最大負荷時における必要燃料量を確保できる容量を有している。
【0033】
上記シリンダヘッド4には、燃焼室18に連通する弁装着穴4iが形成されており、該弁装着穴4iは上記燃焼凹部4aの排気ポート側傾斜面に開口している。
【0034】
上記内燃機関1は、燃焼室18内にガス燃料又は液体燃料を単独もしくは併用して直接噴射供給する一対のポペット弁型のガス燃料供給弁20,20と、1つのソレノイド型の液体燃料供給弁14とを備えている。
【0035】
上記液体燃料供給弁14は、シリンダヘッド4の弁装着穴4iに装着されており、該液体燃料供給弁14の噴射口14aは、シリンダボア3bの反排気ポート側壁面で、かつ掃気ポート3dの開口の上側部分に指向している。
【0036】
上記液体燃料供給弁14は、クランク軸方向に見て、気筒軸線aを挟んで排気ポート3c側に配置され、上記各ガス燃料供給弁20は、気筒軸線aを挟んで反排気ポート側に配置されており、詳細には以下の配置構造となっている。
【0037】
上記液体燃料供給弁14は、気筒軸線aに対して排気ポート側に約60度傾斜させて配置され、上記各ガス燃料供給弁20は、気筒軸線aに対して反排気ポート側に約25度傾斜させて配置されている。即ち、ガス燃料供給弁20は、液体燃料供給弁14より気筒軸線a側に起立した状態に配置されている。
【0038】
上記液体燃料供給弁14は、気筒軸線a方向に見ると、排気ポート3cの中心及びシリンダボア3bの中心、つまり気筒軸線aを通る直線b上に重なるように配置され、かつ気筒軸線aを通るクランク軸5と平行な直線cより排気ポート3c側に位置するよう配置されている。
【0039】
上記各ガス燃料供給弁20は、上記液体燃料供給弁14に略対向する側に配置され、かつ上記直線cより反排気ポート側に位置し、かつ上記直線bを挟んだ両側に位置するようクランク軸方向に並列配置されている。
【0040】
上記シリンダヘッド4の燃焼凹部4aには一対の点火プラグ35,35が装着されており、該各点火プラグ35はクランク軸方向に並列配置されている。
【0041】
上記各点火プラグ35は、クランク軸方向に見ると、気筒軸線aに対して排気ポート側に約25度傾斜させて配置されており、気筒軸線a方向に見ると、上記液体燃料供給弁14とガス燃料供給弁20との間の略中央に位置するよう配置され、さらに上記直線cより排気ポート側で、かつ上記直線bを挟んだ両側に配置されている。詳細には、各点火プラグ35は、これの電極35a,35aが直線cに一致又は近接し、かつ各ガス燃料供給弁20に対向するよう配置されている。
【0042】
上記液体燃料供給弁14には液体燃料供給装置15が接続されている。この液体燃料供給装置15は、50%蒸留温度≦250度の石油系燃料(例えばケロシン)が充填された燃料タンク15aと、該燃料タンク15aと上記液体燃料供給弁14とを接続する燃料供給管15bと、該燃料供給管15bの途中に介設され、燃料タンク15a内の液体燃料を加圧して液体燃料供給弁14に圧送する燃料ポンプ15cとを有している。上記液体燃料供給弁14は、後述するECU53により内燃機関1の運転状態に応じて燃料噴射量,燃料噴射タンミンイグが制御される。
【0043】
上記各ガス燃料供給弁20は、シリンダヘッド4の下流端開口4d,4dの周縁に当接する傘形状の弁板20bに弁軸20aを一体形成してなるポペット弁型のものである。
【0044】
上記弁軸20aは、上記分岐通路4h内を通ってシリンダヘッド4の上面から上方に突出しており、該シリンダヘッド4に圧入された円筒状のバルブガイド部材25により摺動自在に案内されている。また上記弁軸20aの上端部には、リテーナ21を介してバルブリフタ21aが装着されており、該バルブリフタ21aはシリンダヘッド4により摺動自在に支持されている。また上記リテーテ21とシリンダヘッド4との間にはガス燃料供給弁20を常時閉方向に付勢するバルブスプリング22が配設されている。
【0045】
上記シリンダヘッド4の上面には、該シリンダヘッド4とで略密閉された動弁室27を形成するヘッドカバー8が装着されている。該動弁室27内には、上記各燃料供給弁20を開閉駆動するカム軸31が収容されている。このカム軸31は、上記クランク軸5と平行に配置されており、該クランク軸5により不図示のタイミングベルトを介して回転駆動される。
【0046】
上記ガス燃料供給通路4cにはガス燃料供給装置が接続されている。このガス燃料供給装置は、図4に示すように、LPG,CNG,又は水素の何れかからなるガス燃料が充填された燃料タンク41と、該燃料タンク41の吐出口41aにその上流端が接続され、下流端が上記燃料供給通路4cの上流端開口4eのプレート4gに接続されたガス燃料供給管40とを有している。
【0047】
ここで、上記燃料タンク41内のガス圧力は大気圧より高く設定されており、例えばCNGは20〜24メガパスカル、LPGは2.0メガパスカルとなっている。
【0048】
上記ガス燃料供給管40には、上流側から順に手動バルブ42,燃料フィルタ43,圧力センサ44,シャットオフバルブ45,圧力レギュレータ46,流量制御弁47,逆止弁48がそれぞれ介設されている。また上記燃料タンク41の吐出口41aには、シャットオフバルブ49,燃料圧力センサ50が接続されており、かつ逆止弁51を介して燃料補給口52が接続されている。上記逆止弁48は、燃料供給通路4c側から燃料タンク41側への流れを阻止するものであり、上記燃料供給通路4cの上流端開口4eの近傍に配置されている。
【0049】
上記各圧力センサ44,50からの検出信号はECU53に入力され、該ECU53は、これらの検出信号に基づいて、シャットオフバルブ45,49及び流量制御弁47を制御するように構成されている。このシャットオフバルブ45,49は、メインスイッチをオフにしたとき,車両が転倒したとき等に閉じるように構成されている。また上記流量制御弁47には、開口面積を制御する比例制御式弁,又は開弁時間を制御するインジェクタ式弁が採用されている。
【0050】
上記ECU53は、機関温度,吸気温度,機関負荷,クランク軸回転速度等の運転状態検知信号に基づいて燃焼室18内に供給するガス燃料と液体燃料との供給割合を制御する燃料供給弁制御手段として機能する。詳細には、機関温度,吸気温度が設定値より低温度の場合には、ガス燃料を100%もしくは予め設定した高割合で供給し、機関温度が上昇するとガス燃料の供給割合を減少させるよう構成されている。
【0051】
また上記ECU53は、低負荷運転時には液体燃料供給弁14のみを作動させるとともに、該液体燃料供給弁14を例えば3回転に1回燃料の供給を停止するというような間引き運転を行い、かつ低負荷時ほど間引き率が大きくなるよう制御する運転制御手段として機能する。そしてECU53は、この間引運転においては、燃料供給を行なうサイクルにおける燃料量を燃料供給を停止したサイクルにおける燃料分だけ増加するように上記液体燃料供給弁14を制御する。
【0052】
なお、上記間引運転においては、ガス燃料供給弁20は通常通り開閉されるものの、上記ガス燃料供給装置のシャットオフバルブ45が閉じられることからガス燃料は供給されない。
【0053】
本実施形態では、ソレノイド型の液体燃料供給弁14を排気ポート3c側に、ポペット弁型のガス燃料供給弁20を反排気ポート側に配置したので、貫通力の強い液体燃料を排気ポート3c側から燃焼室18内に、つまり反排気ポート側に向けて噴射供給することとなり、液体燃料が排気ポート3cを貫通して吹き抜けてしまうのを抑制することができる。
【0054】
また燃料供給弁14の噴射口14aが掃気ポート3dの上側部分に指向しており、また液体燃料は貫通力が強いため燃焼室18内の下方部分に偏在する。一方、ガス燃料供給弁20は液体燃料供給弁14よりも起立状態に配置されているものの、ガス燃料は傘形状の弁板20bの周縁から燃焼凹部4aの表面に沿うよう噴射され、しかもガス燃料は液体燃料に比べて貫通力が弱いので、液体燃料の上側、つまり燃焼室18内の上方部分に偏在することとなる。そのため、燃焼室全体に燃料が行き渡り、燃料が欠損している部分がなくなるので、燃料と空気との混合気の均一化を図ることができる。その結果、空気利用率の向上により出力を高めることができ、理論空燃比もしくはこれに近似の空燃比燃焼が得られ、排気ガス性状の悪化が抑制され、ひいては三元触媒との組み合わせも可能となる。
【0055】
本実施形態では、液体燃料供給弁14を排気ポート中心及び気筒軸線aを通る直線b上に重なるように配置し、かつ気筒軸線aを通るクランク軸と平行な直線cより排気ポート3c側に配置し、ガス燃料供給弁20を液体燃料供給弁14に対向する側で、かつ上記直線cより反排気ポート側に配置したので、液体燃料の排気ポート側への貫通をより確実に抑制でき、また液体燃料とガス燃料とが衝突によってよく混合し、均一混合気の形成を促進できる。
【0056】
本実施形態では、ガス燃料供給弁20を2本設けたので、燃焼室18内の上方でのG/F比の均一化を促進できる。即ち、部分負荷時には、ガス燃料量は少量であるため貫通力が弱く、新気との混合は不十分になり易い。本実施形態では、2本のガス燃料供給弁20,20を配置したので、各ガス燃料供給弁20の弁板20bと開口4dとの隙間の周長を長くすることができ、これによりガス燃料を燃焼室18内の広い範囲に供給することが可能となり、燃焼室18内の上方でのG/F比の均一化を促進することができる。
【0057】
本実施形態では、ガス燃料としてLPG,CNG又は水素の何れかを用い、液体燃料として50%蒸留温度≦250度の石油系燃料、例えばケロシンを用いたので、燃焼室18内の上方に偏在する着火性の良好なガス燃料に点火することにより、気化温度の高い燃焼室18内下方に偏在する液体燃料の蒸発を促進しながら運転することが可能となる。これによりガソリンより着火性の劣る液体燃料を、周囲が極低温度の環境であっても使用可能となる。
【0058】
本実施形態では、ECU53により機関温度,吸気温度,機関負荷,クランク軸回転速度に基づいてガス燃料と液体燃料との供給割合を制御するようにしたので、吸気温度,機関温度が設定値より低温の条件下では、着火性の良好なガス燃料を100%もしくは予め設定した所定割合で供給することにより、低温環境での機関の始動及び運転が可能となる。また機関の暖機状態によりガス燃料の供給割合を減少させることにより、体積当たりの発熱量が少ないガス燃料の消費を低減することができ、特に輸送用車両に搭載される内燃機関に好適である。
【0059】
本実施形態では、低負荷運転時には液体燃料のみで間引き運転を行なうようにしたので、低負荷運転時における燃焼を安定化させることができる。即ち、特に2サイクル内燃機関の場合、極低負荷運転時にはG/F比が極めて大きくなり、安定燃焼を行なうことは困難である。本実施形態では、液体燃料供給弁14により、燃料供給を所定サイクル毎に停止するとともに、燃料供給サイクルにおいては燃料供給量を燃料供給停止サイクルの分だけ間引運転を行なうことにより、燃料供給サイクルにおける燃料量を安定燃焼可能なG/F比となるよう増加することができ、その結果、燃焼を安定化できる。また間引運転を行なうにあたり、電磁力で開閉制御されるソレノイド型の液体燃料供給弁20のみを作動させることとしたので、この間引運転を容易確実にかつ精度よく行なうことができる。ちなみにガス燃料供給弁20はクランク軸5で駆動するよう構成されているので、このガス燃料供給弁20による間引き運転は構造が複雑となり、困難である。
【0060】
本実施形態では、一対の点火プラグ35を、液体燃料供給弁14とガス燃料供給弁20との間の略中央に配置したので、燃焼ガスによる各燃料供給弁14,20への熱影響を抑制できる。即ち、燃焼ガス温度は、点火プラグ近傍が最も高温となるが、本実施形態では、各点火プラグ35を各燃料供給弁14,20の略中間に配置したので、各燃料供給弁14,20の燃焼ガスによる異常昇温を回避でき、各供給弁の熱に対する信頼性を確保することができる。
【0061】
本実施形態では、ガス燃料供給弁20を、弁板20bに弁軸20aを形成してなるポペット弁型のものとしたので、燃焼室18に開口する下流端開口4dを大径とすることができ、短期間に必要なガス燃料を供給することができる。これにより、充填効率を向上でき、高負荷時の出力性能を向上できるとともに、燃費及び排気ガス性状を良好にできる。
【0062】
なお、上記実施形態では、一対の点火プラグ35を各ガス燃料供給弁20に対向するように配置した場合を説明したが、本発明では、図5に示すように、1つの点火プラグ35を、液体燃料供給弁14と各ガス燃料供給弁20との間の略中央で、かつクランク軸に平行な直線cより排気ポート3c側にて上記直線bに重なるように配置してもよい。このようにした場合には、隣接するガス燃料供給弁20,20からの燃料が合流するガス燃料中心部で、かつ液体燃料供給弁14から噴射される液体燃料の中心部に電極35aが位置することとなり、1つの点火プラグ35で安定した燃焼が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態によるクランク室圧縮式2行程の内燃機関の断面図である。
【図2】上記内燃機関のシリンダヘッドの断面図である。
【図3】上記内燃機関のシリンダヘッドの底面図である。
【図4】上記内燃機関のガス燃料供給装置の構成図である。
【図5】上記実施形態の他の実施形態によるシリンダヘッドの底面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 内燃機関
3c 排気ポート
14 液体燃料供給弁
18 燃焼室
20 ガス燃料供給弁
35 点火プラグ
53 ECU(燃料供給弁制御手段,運転制御手段)
a 気筒軸線
b 直線
c 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室圧縮式2行程の内燃機関であって、燃焼室内に、ガス燃料を直接噴射するガス燃料供給弁と液体燃料を直接噴射する液体燃料供給弁とを備え、該液体燃料供給弁は気筒軸線を挟んで排気ポート側に配置され、上記ガス燃料供給弁は上記気筒軸線を挟んで反排気ポート側に配置されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
請求項1において、気筒軸線方向に見たとき、上記液体燃料供給弁は、排気ポート中心及び上記気筒軸線を通過する直線と重なり、かつ該気筒軸線より排気ポート側に位置するよう配置され、上記ガス燃料供給弁は、上記直線と重なり、かつ上記気筒軸線より反排気ポート側に位置し、さらに上記液体燃料供給弁に略対向するように配置されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項3】
請求項1において、上記ガス燃料供給弁は複数設けられていることを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
請求項1において、上記ガス燃料は、LPG,CNG又は水素の何れかであり、上記液体燃料は、50%蒸留温度≦250度の石油系燃料であることを特徴とする内燃機関。
【請求項5】
請求項4において、機関温度,吸気温度,機関負荷,クランク軸回転速度等の運転状態検知信号に基づいて上記ガス燃料と液体燃料との供給割合を制御する燃料供給弁制御手段を備えていることを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
請求項1において、低負荷運転時には、上記液体燃料供給弁のみを作動させるとともに、該液体燃料供給弁を間引き運転する運転制御手段を備えていることを特徴とする内燃機関。
【請求項7】
請求項6において、上記運転制御手段は、上記間引き運転の間引き率を低負荷ほど大きくなるように制御することを特徴とする内燃機関。
【請求項8】
請求項1又は2において、気筒軸線方向に見たとき、上記液体燃料供給弁とガス燃料供給弁との間の略中央に点火プラグが配置されていることを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−2431(P2008−2431A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175032(P2006−175032)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】