説明

動圧軸受式モータ

【課題】動圧軸受式モータにおいて、コストの低廉化を図ることができるとともに、モータ使用時の軸受け温度を考慮することなく、高精度及び安定した強度で動圧軸受部を固定すること。
【解決手段】一端に開口部を有する樹脂製のハウジング110内に、動圧軸受部150を配し、この動圧軸受部150にロータシャフト140を回転自在に支承させる。動圧軸受部150の内周面にはヘリングボーン溝部が形成され、動圧軸受部150とロータシャフト140のとの間には潤滑油が配させる。ハウジング110内の動圧軸受部150の上端部を覆うようにキャップ190が取り付けられている。キャップ190は、開口部を閉塞する蓋上面部の外周縁から垂下する筒状壁部の内周面で、動圧軸受部150の上端部の外周面に圧入により外嵌され、外周面でハウジング110の開口部の内周面に内嵌されて固定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸と軸受けの間に油や空気等の流体を介在させた流体動圧軸受式モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、DVD−ROM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのアウタロータ型のスピンドルモータでは、動圧軸受け式のモータが使用されている。
【0003】
動圧軸受けの構造では、ステータ側のハウジングに圧入されることで固定され、ロータシャフトが挿入される軸受け部として、内周面に動圧溝が形成された軸受け部が用いられる。この軸受け部は、ロータシャフトとの間に形成される軸受け隙間内に潤滑油を保持することによって、回転時に動圧溝によって潤滑油に生じる動圧作用を利用して、ロータシャフトを支持する。動圧軸受け式は、潤滑油膜によってロータシャフトを非接触状態で回動自在に支持でき、従来からスピンドルモータに適用されてきた転がり軸受け式のモータと比較して振動や騒音特性の点で優れている。
【0004】
動圧軸受け式のモータでは、軸受け部を保持する筒状のハウジングは、一般的に、モータ駆動時のロータシャフトの回転による軸受け部の温度範囲(モータ使用温度範囲、軸受け温度ともいう)に耐えうる強度の必要性等から、真鍮などの軟質金属材又は鉛レス黄銅などの金属材により形成される(特許文献1または特許文献2参照)。なお、特許文献1または特許文献2では、ハウジング内には、オイル漏れを防ぐシール材が、軸受け部の上部に、ロータシャフトを挿通させた状態で配置されている。
【特許文献1】特開2005−172244号公報
【特許文献2】特開2003−172336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1又は特許文献2に示す従来の動圧軸受け式の構造のモータにおいて、製作コスト削減を図るため、ハウジングを金属に変えて樹脂により成形したいという要望がある。
【0006】
圧入により軸受け部を保持するハウジングを備える従来の動圧軸受け式のモータ構造において、ハウジングを樹脂製とした場合、ロータシャフトが回転した際に、軸受け部の温度上昇に伴い樹脂製のハウジング自体の温度が上昇する。これによりハウジング自体が変形して、ハウジングの内周面と軸受け部の外周面との圧入部分に隙間が形成され、軸受け部の保持力が低下する恐れがある。
【0007】
これに対して、軸受け部のハウジングに対する圧入力を高くしてハウジングの保持力を高める場合、軸受け部に外周面から応力が加わり、内径寸法を変化させ、内周面に形成された動圧溝による動圧作用に支障を来す恐れがあるという問題がある。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、コストの低廉化を図ることができるとともに、モータ使用時の軸受け温度を考慮することなく、高精度及び安定した強度で動圧軸受部を固定する動圧軸受式モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の動圧軸受式モータは、一端に開口部を有する樹脂製のハウジングと、円筒状の内周面を有し、前記開口部から前記ハウジングに嵌入される軸受け部と、前記軸受け部に回転自在に挿入されるロータシャフトと、前記軸受け部の内周面及び前記内周面に対向するロータシャフトの外周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝と、前記軸受け部の内周面と前記ロータシャフトの外周面との間に保持される動圧発生用潤滑油と、ロータシャフトを回動自在に挿通して、前記ハウジングの開口部側に固定され、前記軸受け部の嵌入方向と逆側の上端部に、当該上端部を覆うように取り付けられて、前記前記軸受け部のスラスト方向への移動を規制するキャップとを備え、前記キャップは、前記ロータシャフトが挿通され、前記開口部を閉塞する蓋上面部と、前記蓋上面部の外周縁から垂下してなる筒状をなし、内周面で、前記軸受け部の上端部の外周面に圧入により外嵌されるとともに、外周面で、前記開口部の内周面に内嵌される筒状壁部とを有する構成を採る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コストの低廉化を図ることができるとともに、モータ使用時の軸受け温度を考慮することなく、高精度及び安定した強度で動圧軸受部を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る動圧軸受式モータの構成を示す要部断面図である。なお、図1では、回転軸線Cを挟み左右で異なる部位の要部断面を示している。
【0013】
本実施の形態に係る動圧軸受式モータ100は、例えば、プロジェクタ、PC等の電子機器に取り付けられる排気ファンモータとして用いられるものとして説明するが、動圧軸受式であればどのモータに適用されてもよく、例えば、ハードディスクドライブ(Hard Disc Drive)のディスク(円盤部分)を回転させるスピンドルモータ等として用いても良い。
【0014】
動圧軸受式モータ100では、平板状の台座の中央部から立設する一端に開口部が形成された有底筒状のハウジング110の外周にステータ120が設けられている。また、ハウジング110内には、ハウジング110内に嵌入された動圧軸受部150を介して、インペラ132を備えるロータ130のロータシャフト140が回転自在に挿入されている。
【0015】
ハウジング110は樹脂製のものであり、台座は、ハウジング110の基端部110aの外周面からラジアル方向外方に張り出すフランジ102により形成され、ハウジング110と一体成形により形成されている。台座の底面とハウジング110の底面とは同一平面である。台座(フランジ)102の上面には、筒状のハウジング110の外周面に沿って、動圧軸受式モータ100を制御するための基板103が配設されている。
【0016】
ハウジング110では、動圧軸受部150の外周に配置された内周面は、軸心に対して、底面側から上方に向かって段階的に後退するように形成され、底面側から順に、シャフト先端部収容部111、軸受収容部112、キャップ収容部113、接着層形成部114を画成している。ハウジング110の底面、言い換えれば、シャフト先端収容部111の内底面115には、ロータシャフト140の先端141が当接するシャフト受けワッシャ116が配置されている。
【0017】
ハウジング110の底部117は軸方向の厚みを有し、この底部117内には、ロータシャフト140の軸線C上に配置され、ロータシャフト140を底面側に吸着させる吸着マグネット170が配設されている。吸着マグネット170において、ハウジング110の内底面115に対向する面とは逆側の面(背面)には、磁性体のバックヨーク172が取り付けられている。なお、吸着マグネット170は、動圧軸受式モータ100を上下逆にした場合でも、ストッパ180とともにロータシャフト140が動圧軸受部150から抜けることを防止する。
【0018】
また、ハウジング110の外周には、ステータ120が、基板上方に所定間隔を空けた位置で外嵌されている。
【0019】
ステータ120では、ハウジング110に外嵌される筒状のステータコア121の外周面からラジアル方向に所定間隔を空けて突極(磁極、スロットともいう)122が突設されており、この突極122にコイル部123が巻回されている。なお、ステータコア121では、突極122以外の部位が、絶縁樹脂からなるコアカバー124により覆われている。このコアカバー124には、一端部で基板に接続された引出棒125が取り付けられ、この引出棒125の他端部にコイル部123のマグネットワイヤが絡げられることで、基板の配線とコイル部123とは導通している。
【0020】
コイル部123のラジアル方向の外側には、所定間隔を空けて、ステータ120の周囲を周方向に回転する環状のロータマグネット133が配置されている。
【0021】
ロータマグネット133は、ここでは、ステータ120の周囲を囲むように配置された円筒状をなし、ロータヨーク134に外周側から保持されている。
【0022】
ロータヨーク134は、筒状の周壁部134aの一方(上方)の開口部縁部から軸心方向に突出する平板環状の上面部134bが設けられており、これら周壁部134aの内周面及び上面部の内面にロータマグネット133が取り付けられている。つまり、ロータヨーク134は底部(上面部134bに相当)の中央部分を開口させ、開口側からステータ120を覆うように配置されたカップ状に形成されている。
【0023】
このロータヨーク134は、外側から被さるように設けられたカップ状のインペラ本体132a内に固定されている。なお、ロータヨーク134は、インペラ本体132a内に、インペラ本体132aの内周面から突出したリブ132bを介して部分的に圧入されることによって固定されている。
【0024】
カップ状のインペラ本体132aでは、底面132cの中央部にハブ136が形成され、このハブ136を介してロータシャフト140がインペラ本体132aの底面132cと直交して取り付けられている。
【0025】
ロータシャフト140は、基端部140a側でインペラ132のハブ136にインサート成形によって一体的に取り付けられ、ハウジング110に嵌入された動圧軸受部150の一端側(上側)の開口部から挿入されている。
【0026】
ロータシャフト140において、動圧軸受部150の他端側から突出した先端部142には周方向に延在するストッパ取り付け溝部144が形成されている。このストッパ取り付け溝部144には、ラジアル方向外方に張り出し、動圧軸受部150の他端側(下側)の下面部に対向して配置する略円盤環状のストッパ180が取り付けられている。
【0027】
ストッパ180は、ロータシャフト140が動圧軸受部150から抜ける方向(上方)に移動した際に、動圧軸受部150の下面部に掛止して、ロータシャフト140の抜脱方向への抜けを防止する。
【0028】
図2は、本発明に係る動圧軸受式モータおけるストッパの斜視図である。
【0029】
ストッパ180は、平板円環状に形成されたストッパ本体部182と、ストッパ本体部182の内周縁から軸心方向に突出し、ロータシャフト140の先端部のストッパ取付溝部144(図1参照)内に配置される内周環部184とを有する。
【0030】
内周環部184は、ストッパ本体部182よりも厚みが薄くなるように形成され、少なくともロータシャフト140の基端部140a(図1参照)側の面、言い換えれば、動圧軸受部150の底面(下面部)152に対向する側の面184aは、ストッパ本体部182の面182aよりも動圧軸受部150の底面(下面部152)から離間している。
【0031】
ストッパ180では、内周環部184を含む内周縁部182bに所定間隔をあけて切り欠き部186が形成されている。
【0032】
この切り欠き部186により周方向に延在する内周環部184は分割される。これにより、ストッパ180をロータシャフト140に取り付ける際に、内周環部184の中央部の開口部にロータシャフト140を先端側から挿入することで、内周環部184は変形してストッパ取付溝部144に嵌合する。
【0033】
また、ストッパ180の内周環部184の厚みは、ストッパ取付溝部144内の溝幅(溝114の底面の軸方向の長さ)よりも短い。これにより、ストッパ180はストッパ取付溝部144内に遊嵌された状態で取り付けられており、ロータシャフト140が回転しても、その回転力を妨げることがない。なお、動圧軸受式モータ100では、ロータシャフト140は、吸着マグネット170によりハウジング110の内底面115側に吸着されているため、ストッパ180をロータシャフト140から外した構成としてもよい。
【0034】
図3は、本発明に係る動圧軸受式モータおける動圧軸受部を説明する側断面図である。
【0035】
図3に示すように、動圧軸受部150は、銅を主成分とする焼結金属などの焼結金属により円筒状に形成されている。なお、動圧軸受部150は、潤滑油又は潤滑グリースを含浸させた含油焼結金属の多孔質体により円筒状に形成されてもよい。
【0036】
この動圧軸受部150の軸受け面である内周面153には、両開口側端部において、動圧発生溝としてのヘリングボーン形状の動圧溝部(ヘリングボーン溝部)154が形成されている。
【0037】
ヘリングボーン溝部154は、内周面の両開口側端部に、内周面から軸心側に突出するヘリングボーン溝形成部155(図ではハッチングで示す)により形成されている。
【0038】
ヘリングボーン溝形成部155は、円周方向に配置された帯状領域155aと、帯状領域において円周方向に延在する両端縁部から、帯状領域155aの内面と同じ内面レベルで軸方向の一方側に傾斜して延びるように、複数所定間隔をあけて設けられた骨部155bとにより形成されている。
【0039】
骨部155b間に形成されたヘリングボーン溝部154は、動圧軸受部150内における潤滑油の補油量を多くすることができ、ポンピング作用で動圧を発生させることによって、ロータシャフト140を精度良く支持している。
【0040】
また、動圧軸受部150の外周面156には、軸方向に沿って形成され、上面部157及び下面部152の外縁部分に接続される外溝156aが形成されている。なお、外溝156aは、外周面156に、ここでは軸心を中心にして対称の位置に複数本形成されている。
【0041】
動圧軸受部150には、ハウジング110内に配置された状態において、内周面153、外周面156、下面部152及び上面部157にはエアの流路が形成されている。具体的には、図に示すように、環状の上面部157及び下面部152のそれぞれにおいて、内周縁及び外周縁にC面加工されてなる環状の内縁流路152a、157a及び外縁流路152b、157bが形成されている。それぞれの外縁流路152b、157bは、外溝156aと連通している。
【0042】
図4は動圧軸受部の底面図であり、図5は動圧軸受部の上面図である。
【0043】
図4に示すように、動圧軸受部150の下面部152には、内縁流路152a及び外縁流路152b間を連通させる連絡流路152cが形成されている。
【0044】
図5に示すように動圧軸受部150の上面部157には、内縁流路157a及び外縁流路157b間を連通させる連絡流路157cが形成されている。また、上面部157において外縁流路157b及び内縁流路157a間の中央部分を軸周りに切り欠いてなり、周方向に延在するとともに、連絡流路157cに連通する環状溝部157dが形成されている。
【0045】
このように、動圧軸受部150では、下面部152及び上面部157のそれぞれにおいて、内周面153と外周面156とを連絡するエアの流路が形成され、外溝156aにより下面部152及び上面部157の流路は、外周面156でも連結されている。
【0046】
これにより動圧軸受部150では、ハウジング110内に嵌入された状態でも、下面部152、外周面156、内周面153及び上面部157を連絡するエア及び潤滑油の流路が形成されている。
【0047】
この動圧軸受部150において上面部157を含む上端部には、ハウジング110に軽圧入により内嵌されるキャップ190が被せられている。動圧軸受部150は、キャップ190と、キャップ190をハウジング110に固定する接着層200と、自身のハウジング110への軽圧入によって、ハウジング110に固定されている。動圧軸受部150は、キャップ190によってスラスト方向への移動が規制された状態で固定される。
【0048】
図6〜図8は本発明に係る動圧軸受式モータおけるキャップの構成に供する図であり、図6はキャップの上面図、図7は同キャップの底面図、図8は同キャップを下側からみた図である。
【0049】
キャップ190は、動圧軸受部150の上面部157上に配置され、中央の開口部190aにロータシャフト140が回転自在に挿通される円盤状の蓋上面部192と、蓋上面部192の外周縁から垂下され、動圧軸受部150の上端部の外周面を覆う筒状壁部194とを有する。
【0050】
キャップ190では、筒状壁部194の下端面の角部及び蓋部の外周縁部及び、開口部の縁部を形成する内周縁部はC面加工が施されている。
【0051】
図7及図8に示すように、蓋上面部192の裏面192aには、下方に突出し、筒状壁部194の内周面194aに沿って配置されたリブ195が形成されている。リブ195により、動圧軸受部150に被さるキャップ190の蓋上面部192は、図1に示すように、動圧軸受部150の上面部157上にリブ195を介して離間した状態で配置され、蓋上面部192の裏面192aと動圧軸受部150の上面部157との間に空気溜まり部196を形成している。
【0052】
また、蓋上面部192の上面の外周縁には、所定間隔をあけて切り欠き部197が形成されている。
【0053】
このように形成されたキャップ190は、軸受収容部112内に嵌入されて、キャップ収容部113内に突出した動圧軸受部150の上端部(ハウジング110のキャップ収容部113内に位置する動圧軸受部150の外周面156及び上面部157)を覆うように取り付けられている。
【0054】
言い換えれば、キャップ190は、ハウジング110内にて、ハウジング110のキャップ収容部113を形成する内周部分と、キャップ収容部113内に下方から突出する動圧軸受部150の上端部との間に、筒状壁部194を介在させて、動圧軸受部150の上端部に軽圧入により取り付けられている。
【0055】
また、キャップ190は、ハウジング110に対しても軽圧入により取り付けられる。具体的には、キャップ190の外周面、つまり、筒状壁部194の外周面は、当該筒状壁部194の外径に対応して形成されたキャップ収容部113の内周面に、押圧した状態で当接している。また、キャップ190の上面(蓋部の上面)は、ハウジング110の上端部よりも低い高さ位置となっている。
【0056】
また、キャップ190は、蓋上面部192の外周縁部分に形成された接着層200によってハウジング110に固定されている。
【0057】
接着層200は、ハウジング110に動圧軸受部150とともに取り付けられたキャップ190の外面と、ハウジング110の内周面の上端部分との間の隙間(接着層形成部)に例えば、UV系の熱硬化する接着剤を充填することにより形成される。なお、接着層形成部114は、ハウジング110のキャップ収容部113に上方で連通し当該キャップ収容部113を囲む内周面よりも、軸心に対して後退した部分と、ハウジング110の上端開口部の内側開口縁に形成されたC面により形成されている。このように接着層200は、ハウジング110における上端部の内周縁のC面部分及び接着層形成部114を画成する内周面と、接着層形成部114内に突出するキャップ190の外面との間に渡って形成されている。
【0058】
また、キャップ190の蓋上面部192には切り欠き部197が形成されているため、蓋上面部192の外縁に沿って形成される接着層200となる接着剤が充填される。これにより、切り欠き部197内に充填される接着剤は、キャップ190を固定する爪部の機能を有することとなり、接着層200は、キャップ190とキャップ190のラジアル方向外側に配置されるハウジング110との間を密閉しつつ、キャップ190及び動圧軸受部150をハウジング110に強固に固定している。
【0059】
また、キャップ190の蓋上面部192の上面は、ハウジング110の上端部よりも高さ位置が低い。このため、ハウジング110の上端部の内周に沿って接着剤を充填すると、キャップ190の蓋部の外周縁部分に接着剤が流れることで、接着領域が大きくなっている。
【0060】
ハウジング110内において動圧軸受部150に被さることで形成されるキャップ190内の空気溜まり部196は、動圧軸受部150の上面部157の内縁流路157a、外縁流路157b、連絡流路157c及び環状溝部157dに連通している。外縁流路157bは、外溝156aに連通している。よって、空気溜まり部196は、動圧軸受部150に形成されたエア経路A1〜A3(図3〜図5参照)に連通している。
【0061】
このようにロータシャフト140が挿入された動圧軸受部150を固定して保持するハウジング110内では、動圧軸受部150の上面部157までオイルが充填されている。
【0062】
ここで、動圧軸受式モータ100の組立方法について説明する。
【0063】
動圧軸受式モータ100では、ハウジング110内の底面にシャフト受けワッシャ116を配置し、ストッパ180を、当該ストッパ180の中央部分を軸心に合わせて、軸受収容部112の底面部分に配置して、動圧軸受部150を軸受収容部112内に嵌入する。
【0064】
このとき動圧軸受部150は、ハウジング110の内周面において軸受収容部112を囲む部分を押圧した状態、つまり、動圧軸受部150は、ハウジング110に対して軽圧入状態で取り付けられる。
【0065】
そして動圧軸受部150内に所定量のオイルを充填させて、キャップ190をハウジング110内に取り付けられた動圧軸受部150の上面部157を含む上端部分に被せる。このとき、キャップ190は、ハウジング110の上面部157の外周面に対して筒状壁部194の内周面が互いに押圧する状態となり、キャップ190はハウジング110に軽圧入により取り付けられる。このキャップ190は、ハウジング110に接着層200により固定する。
【0066】
キャップ190では、筒状壁部194を、動圧軸受部150の略真円の外周に被せる。筒状壁部194には、当該筒状壁部194の一方(上方)の開口を閉塞するように、中央にロータシャフト140が挿通される円形の開口部が形成された円盤状の蓋上面部192が設けられている。このため、動圧軸受部150に取り付けるだけで、蓋上面部192の開口部190aを動圧軸受部150の円形の開口部に対応して、同一軸心で位置させることができる。
【0067】
これにより、動圧軸受部150の上端部にキャップ190が取り付けられた構成であっても、動圧軸受部150に挿入されるロータシャフト140を正確な軸線C上に位置するように、キャップ190の上方から動圧軸受部150に挿入させることができる。
【0068】
そして、挿入されたロータシャフト140は、その先端部で、ハウジング110内において、ストッパ180に係合させる。
【0069】
このように、ロータシャフト140を、内部にオイルを充填させた状態で固定された動圧軸受部150及びキャップ190に挿入すると、動圧軸受部150内のエアが下方に押し出される。
【0070】
動圧軸受部150内において、ロータシャフト140がスラスト方向先端側に移動した際のエアの流れを図1と、図3〜図5のエア経路A1〜A3を参照して説明する。
【0071】
動圧軸受部150の内部にオイルを充填して、上面側からロータシャフト140を挿入して取り付ける際に、動圧軸受部150の底面側に存在するエアは、挿入されるロータシャフト140より挿入方向(ハウジング110の底面方向)に押圧される。押圧されたエアは、下面部152の内縁流路152a、連絡流路152c、外縁流路152bを経て、動圧軸受部150の外面156の外溝156aを通って、上面部157側に抜ける。上面部157に抜けたエアは、上面部157において、外縁流路157bと、連絡流路157cと、環状溝部157dと、内縁流路157aとにより上方に抜ける。
【0072】
上方に抜けたエアはキャップ190内側の空気溜まり部196を通り、キャップ190の蓋上面部192の開口部190aを形成する周面とロータシャフト140の外面との間から上方に抜ける。なお、キャップ190の開口部190aを形成する周面に対向するロータシャフト140の外面部分には撥油剤が塗布されている。
【0073】
空気溜まり部196は、エア抜けのバッファとなり、ロータシャフト140を動圧軸受部150に挿入させた際等、ロータシャフト140が動圧軸受部150に対してスラスト方向に移動する場合でも、動圧式の動圧軸受部150内の潤滑油が動圧軸受部150の上方に飛び出すことがない。
【0074】
このように構成された動圧軸受式モータ100の備える軸受け装置は、一端に開口部を有する樹脂製のハウジング110と、円筒状の内周面を有し、開口部からハウジング110に嵌入される動圧軸受部150と、動圧軸受部150に回転自在に挿入されるロータシャフト140と、動圧軸受部150の内周面及び内周面に対向するロータシャフト140の外周面の少なくとも一方に形成されたヘリングボーン溝部154と、動圧軸受部150の内周面とロータシャフト140の外周面との間に保持される動圧発生用潤滑油と、ロータシャフト140を回動自在に挿通して、ハウジング110の開口部側に固定され、動圧軸受部150の嵌入方向と逆側の上端部に、当該上端部を覆うように取り付けられて、動圧軸受部150のスラスト方向への移動を規制するキャップ190とを備える。このキャップ190は、ロータシャフト140が挿通され、ハウジング110の開口部を閉塞する蓋上面部192と、蓋上面部192の外周縁から垂下してなる筒状をなし、内周面で、動圧軸受部150の上端部の外周面に圧入により外嵌されるとともに、外周面で、ハウジング110の開口部の内周面に内嵌される筒状壁部194とを有する。
【0075】
すなわち、動圧軸受式モータ100では、樹脂製のハウジング110に嵌入されて、ロータシャフト140を受ける動圧軸受部150は、上端部分に被さるキャップ190を介してハウジング110に固定されている。また、キャップ190は、ハウジング110への圧入力とともに、ハウジング110と接着する接着層200によって動圧軸受部150に対する固定の強度向上が図られている。
【0076】
このため、動圧軸受式モータ100では、モータ駆動時のロータシャフト140の回転による動圧軸受部150の軸受け温度によって、動圧軸受部150を外側で保持する樹脂製のハウジング110が変形し、動圧軸受部150の外周面156との間に隙間ができる場合でも、動圧軸受部150のスラスト方向への移動は、ハウジング110に固定されたキャップ190により規制される。これにより、ハウジング110は、キャップ190を介して、動圧軸受部150をスラスト方向に移動させることなく保持できる。
【0077】
よって、動圧軸受部150が嵌入される筒状のハウジング110を、従来の真鍮等の金属筒体に代えて、樹脂製筒状体により形成しても、軸受け温度(モータ使用時の温度範囲)を考慮することなく、動圧軸受部150を安定して固定することができる。
【0078】
また、空気溜まり部196を有するキャップ190によりハウジング110の開口部は閉塞されるため、外部に潤滑油が漏洩することがなく、動圧軸受式モータ100自体の耐久性及び信頼性を確保できる。
【0079】
本実施の形態では、樹脂製のハウジング110に動圧軸受部150を挿入して固定する場合に、従来と異なり、モータ使用時における温度範囲(軸受け温度に耐えうる使用温度範囲)を想定して、ハウジング110に対する動圧軸受部150の圧入力を高めて固定する必要がなく、高い圧入力により動圧軸受部150を変形させることがない。つまり、外周面側からの圧力により動圧軸受部150の内径寸法を変化させることなく動圧軸受部150のハウジング110に固定できる。よって、ハウジング110においてモータ使用時の耐熱温度範囲(軸受け温度に耐えうる範囲)を考慮することなく、動圧軸受式モータ100を組み立てることができる。
【0080】
このように本実施の形態の動圧軸受式モータ100では、樹脂製のハウジング110を用いてコストの低廉化が図られた構造において、ロータ130の回転時の軸受け温度によるハウジング110の温度上昇(モータ使用時の耐熱温度範囲)を考慮することなく、高精度及び安定した強度で動圧軸受部150を固定できる。
【0081】
また、動圧軸受部150単品の精度を維持した状態で動圧式モータを組み立てることができる。
【0082】
さらに、ハウジング110内において、ロータシャフト140の先端部142に形成されたストッパ取り付け溝部144に、ラジアル方向外方に張り出し、動圧軸受部150の他端側(下側)の下面部に対向して位置する略円盤環状のストッパ180が取り付けられている。
【0083】
これにより、ロータシャフト140自体は、スラスト方向の衝撃に対して、スラスト方向への移動が規制される。したがって、輸送時などに衝撃や振動が加わった場合、シャフトがスラスト方向へ移動することによるポンピング動作が起こりにくく、ハウジング110内からの潤滑油の漏洩を防止することができる。
【0084】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。なお、上記本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、種々の改変をなすことができ、そして本発明が該改変させたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る動圧軸受式モータは、コストの低廉化を図ることができるとともに、モータ使用時の軸受け温度を考慮することなく、高精度及び安定した強度で動圧軸受部を保持する効果を有し、排気ファンモータ、スピンドルモータ、ポリゴンスキャナモータとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施の形態に係る動圧軸受式モータの構成を示す要部断面図
【図2】本発明に係る動圧軸受式モータおけるストッパの斜視図
【図3】本発明に係る動圧軸受式モータおける動圧軸受部を説明する側断面図
【図4】本発明に係る動圧軸受式モータおける動圧軸受部の底面図
【図5】本発明に係る動圧軸受式モータおける動圧軸受部の上面図
【図6】本発明に係る動圧軸受式モータおけるキャップの構成に供する図
【図7】本発明に係る動圧軸受式モータおけるキャップの構成に供する図
【図8】本発明に係る動圧軸受式モータおけるキャップの構成に供する図
【符号の説明】
【0087】
100 動圧軸受式モータ
110 ハウジング
140 ロータシャフト
150 動圧軸受部
154 ヘリングボーン溝部
190 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口部を有する樹脂製のハウジングと、
円筒状の内周面を有し、前記開口部から前記ハウジングに嵌入される軸受け部と、
前記軸受け部に回転自在に挿入されるロータシャフトと、
前記軸受け部の内周面及び前記内周面に対向するロータシャフトの外周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝と、
前記軸受け部の内周面と前記ロータシャフトの外周面との間に保持される動圧発生用潤滑油と、
ロータシャフトを回動自在に挿通して、前記ハウジングの開口部側に固定され、前記軸受け部の嵌入方向と逆側の上端部に、当該上端部を覆うように取り付けられて、前記前記軸受け部のスラスト方向への移動を規制するキャップとを備え、
前記キャップは、前記ロータシャフトが挿通され、前記開口部を閉塞する蓋上面部と、
前記蓋上面部の外周縁から垂下してなる筒状をなし、内周面で、前記軸受け部の上端部の外周面に圧入により外嵌されるとともに、外周面で、前記開口部の内周面に内嵌される筒状壁部と、
を有する動圧軸受式モータ。
【請求項2】
前記キャップの筒状壁部の内周面の一部には、軸心方向に突出して設けられ、前記上端部に取り付けされた際に、前記蓋上面部と前記前記軸受け部との間を離間させるリブが形成されている請求項1記載の動圧軸受式モータ。
【請求項3】
前記キャップの上面は、前記ハウジングの開口縁よりも低い位置に配置されており、
前記キャップの上面の外周縁と前記開口縁との間には、前記外周縁と前記開口縁とに跨って接着剤を充填してなる接着層が設けられている請求項1記載の動圧軸受式モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−180294(P2009−180294A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19849(P2008−19849)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】