半導体結合超伝導三端子素子
【課題】超伝導電極層としてMgB2、接合部にInGaAsチャネル層を用い、第三電極を用いて超伝導電流を制御する半導体結合超伝導三端子素子において、超伝導電極層の成長時のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制し、接合特性を改善した半導体結合超伝導三端子素子を提供することにある。
【解決手段】超伝導電流のチャネル層となるInGaAs層とソース電極となる第1のMgB2超伝導電極層及びドレイン電極となる第2のMgB2超伝導電極層とその二つの超伝導電極間のInGaAs層中に流れる超伝導電流を制御する第三電極とを有する半導体結合超伝導三端子素子において、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層6との層間にAu層6が挿入された。
【解決手段】超伝導電流のチャネル層となるInGaAs層とソース電極となる第1のMgB2超伝導電極層及びドレイン電極となる第2のMgB2超伝導電極層とその二つの超伝導電極間のInGaAs層中に流れる超伝導電流を制御する第三電極とを有する半導体結合超伝導三端子素子において、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層6との層間にAu層6が挿入された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、InGaAsチャネル層を接合部に持つ半導体結合超伝導三端子素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のInGaAsチャネル層を用いた半導体結合超伝導三端子素子の断面構造を図5に示す。図5に示すように、半導体結合超伝導三端子素子は、半絶縁性のInPからなる基板7の上にn型のInGaAsからなるチャネル層6を備えている。この素子は、チャネル層6の上にMgB2超伝導電極層(ソース電極)1及びMgB2超伝導電極層(ドレイン電極)2を備えると共に、チャネル層6の上にゲート絶縁層5を介して金属ゲート電極層(第三電極)3を備えている。金属ゲート電極層3は、電圧を印加することにより超伝導電極層1,2間におけるチャネル層6に流れる超伝導電流を制御している。
【0003】
MgB2は、二元化合物、シンプルな結晶構造でありながら、金属間化合物超伝導体中、最高の超伝導臨界温度TC(〜39K)を有しており、半導体結合超伝導三端子素子の動作温度上昇のための新しい超伝導電極として有望な材料である(非特許文献1参照)。通常、MgB2超伝導電極層1,2の成膜には、電子ビーム共蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などが用いられる(非特許文献2参照)。従来構造では、n型のInGaAsからなるチャネル層の上に直接MgB2超伝導電極層を成膜することで、超伝導電極層とチャネル層とのオーミック接触を実現している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jun Nagamatsu et al., "Superconductivity at 39K in magnesium diboride", NATURE , vol 410, p.63-64, 2001 MARCH 1
【非特許文献2】内藤方夫, "MgB2薄膜・接合作製の現状とデバイス応用への展望", 低温工学, 41巻, 11号, p.463-473, 2006年
【非特許文献3】G. E. Blonder et al., "Transition from metallic to tunneling regimes in superconducting microconstrictions: Excess current, charge imbalance, and supercurrent conversion", PHYSICAL REVIEW B, VOLUME 25, NUMBER 7, P.4515-4532, 1982 APRIL 1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、n型のInGaAsからなるチャネル層の上に直接MgB2超伝導電極層を成膜して作製した半導体結合超伝導三端子素子の微分抵抗のバイアス電圧依存性(測定温度:18K)のグラフを図6(a)に示す。ここでは、n型InGaAsチャネル層の厚さを210nmとした。但し、この測定時には、金属ゲート電極3とゲート絶縁層5を形成していない素子を用いた。
【0006】
このグラフに示されるように、微分抵抗は、約210Ωの高抵抗であり、アンドレーエフ反射による超伝導ギャップ電圧以下での微分抵抗の低減も観測することはできなかった。この原因は、図6(b)に示すMgB2/InGaAs界面でのMgのSTEM−EDSマッピングから分かるように、MgB2成長時、MgがInGaAsチャネル層に拡散し、InGaAsチャネル層の特性劣化を引き起こしているものと考えられる。
【0007】
以上のことから、本発明は上述したような課題を解決するために為されたものであって、超伝導電極層としてMgB2、接合部にInGaAsチャネル層を用い、第三電極を用いて超伝導電流を制御する半導体結合超伝導三端子素子において、超伝導電極層の成長時のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制し、接合特性を改善した半導体結合超伝導三端子素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決する第1の発明に半導体結合超伝導三端子素子は、
超伝導電流のチャネル層となるInGaAs層とソース電極となる第1のMgB2超伝導電極層及びドレイン電極となる第2のMgB2超伝導電極層とその二つの超伝導電極層間のInGaAs層中に流れる超伝導電流を制御する第三電極とを有する半導体結合超伝導三端子素子において、
前記MgB2超伝導電極層と前記InGaAsチャネル層との層間にAu層が挿入された
ことを特徴とする。
【0009】
上述した課題を解決する第2の発明に係る半導体結合超伝導三端子素子は、
第1の発明に係る半導体結合超伝導三端子素子であって、
前記第三電極は前記基板の下に設けられる
ことを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決する第3の発明に係る半導体結合超伝導三端子素子は、
第1の発明に係る半導体結合超伝導三端子素子であって、
前記チャネル層の下にキャリア供給層が設けられる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る半導体結合超伝導三端子素子によれば、超伝導電極としてMgB2、接合部にInGaAsチャネル層を用い、第三電極を用いて超伝導電流を制御する半導体結合超伝導三端子素子において、MgB2超伝導電極層とInGaAsチャネル層との層間にAu層を挿入することにより、超伝導電極層の成長時のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制し、超伝導電極層とチャネル層の接合特性を改善することができる。これにより、半導体結合超伝導三端子素子の動作温度上昇が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子の断面を模式的に示した図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子の断面を模式的に示した図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子の断面を模式的に示した図である。
【図4】半導体結合超伝導三端子素子の特性を示す図であって、図4(a)にその微分抵抗のバイアス電圧依存性を示し、図4(b)にMgB2/Au/InGaAs界面でのMgのSTEM−EDSマッピング結果を示す。
【図5】従来の半導体結合超伝導三端子素子の断面を模式的に示した図である。
【図6】従来の半導体結合超伝導三端子素子の特性を示す図であって、図6(a)にその微分抵抗のバイアス電圧依存性を示し、図6(b)に従来のMgB2/InGaAs界面でのMgのSTEM−EDSマッピング結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、MgB2超伝導電極層とInGaAsチャネル層との層間にAu層を挿入することにより、超伝導電極層の成長中のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制することが最大の特徴である。
本発明に係る半導体結合超伝導三端子素子について、各実施例にて詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の第1の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子について図1および図4を参照して説明する。
【0015】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10は、図1に示すように、半絶縁性のInPからなる基板7の上にn型のInGaAsからなるチャネル層6を備える。この素子10は、チャネル層6の上にゲート絶縁層5を介して金属ゲート電極層(第三電極)3を備えると共に、チャネル層6の上にAu挿入層4を介してMgB2超伝導電極層(ソース電極)1及びMgB2超伝導電極層(ドレイン電極)2を備える。金属ゲート電極3は、電圧を印加することにより超伝導電極層1,2間のInGaAsチャンネル層6に流れる超伝導電流を制御する。
【0016】
すなわち、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10は、MgB2超伝導電極層1,2とチャネル層6との層間にAu挿入層4が挿入されたものである。本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10と図6に示した従来の半導体結合超伝導三端子素子とは、このAu挿入層4が、MgB2超伝導電極層1,2とn型InGaAsチャネル層6との間に挿入されているところが異なっている。本構造は、Au挿入層4を成膜した後に、MgB2超伝導電極層1,2の成膜することで、容易に得ることができる。なお、MgB2超伝導電極層1,2及び金属ゲート電極3の成膜法としては、電子ビーム共蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などが挙げられる。
【0017】
Au挿入層4の成膜法としては、電子ビーム共蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などが挙げられる。
【0018】
ここで、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10の微分抵抗のバイアス電圧依存性(測定温度:18K)のグラフを図4(a)に示す。ここでは、Au挿入層4の厚さは、5nm、n型のInGaAsからなるチャネル層6の厚さは、210nmである。但し、この測定時には、金属ゲート電極3とゲート絶縁層5を形成していない素子を用いた。同グラフの横軸は、超伝導電極層1,2間の電圧であり、超伝導電極層(ソース電極)1の電位に対して超伝導電極層(ドレイン電極)2の電位が高い場合を正としている。
【0019】
このグラフに示されるように、微分抵抗は、約5.6Ωの低抵抗となり、図6(a)に示した従来構造に比べて、約1/40の改善が得られていることが分かる。また、バイアス電圧の絶対値が、約9mV以下の領域で、微分抵抗の低下が観測されている。これは、MgB2/InGaAs界面の良好なオーミック接触により、超伝導ギャップ電圧以下でのアンドレーエフ反射による微分抵抗の低減が観測出来ていることを示している(非特許文献3参照)。
【0020】
また、図4(b)に本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10におけるMgB2/Au/InGaAs界面でのMgのSTEM−EDSマッピング結果を示す。このSTEM−EDSマッピングでは、InGaAsチャネル層中にMgの拡散領域は確認できなかった。これらのことから、Au挿入層4により、MgB2の成膜(成長)時のInGaAsチャネル層6へのMgの拡散が抑制され、InGaAsチャネル層6の特性劣化が起こらないことが分かった。また、Au挿入層4の厚さは、2nmでも、ほぼ同等の改善効果があることが分かっている。
【0021】
したがって、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10によれば、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層6との層間にAu挿入層4を挿入することにより、超伝導電極層1,2の成膜時のMgのInGaAsチャネル層6への拡散を抑制でき、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層6の接合特性を改善することができる。これにより、半導体結合超伝導三端子素子10の動作温度上昇を期待できる。
【実施例2】
【0022】
本発明の第2の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子について図2を参照して具体的に説明する。
【0023】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子は、実施例1において、InGaAs層中に流れる超伝導電流を制御する第三電極が基板側にあることを特徴としている。
【0024】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子20は、図2に示すように、p型のInPからなる基板21の上にp型のInGaAs層22を備え、p型InGaAs層22の上にn型のInGaAsからなるチャネル層6を備える。この素子20は、チャネル層6の上にAu挿入層4を介してMgB2超伝導電極層(ソース電極)1及びMgB2超伝導電極層(ドレイン電極)2を備えると共に、基板21の下に金属ゲート電極(第三電極)23を備える。金属ゲート電極23は、電圧を印加することにより超伝導電極層1,2間のInGaAsチャネル層6に流れる超伝導電流を制御する。
【0025】
したがって、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子20によれば、上述した第1の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10と同様、MgB2超伝導電極層1,2の成膜時のMgのInGaAsチャネル層6への拡散を抑制し、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層6の接合特性を改善することができる。
【実施例3】
【0026】
本発明の第3の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子について図3を参照して具体的に説明する。
【0027】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子は、実施例1において、半導体としてInGaAsチャネル層を有する高電子移動度トランジスタを用いることを特徴としている。
【0028】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子30は、図3に示すように、半絶縁性のInPからなる基板7の上に、InAlAsからなるバッファ層31、n型のInAlAsからなるキャリア供給層32、InAlAsからなるスペーサ層33、InGaAsからなるチャネル層34が順番に設けられたものである。チャネル層34の上にAu挿入層4を介してMgB2超伝導電極層(ソース電極)1及びMgB2超伝導電極層(ドレイン電極)2が備えられる。チャネル層34の上にInAlAsゲートコンタクト層35を介して金属ゲート電極(第三電極)36が備えられる。スペーサ層33とチャネル層34との界面におけるスペーサ層33側に二次元電子ガス37が形成される。金属ゲート電極36は、電圧を印加して二次元電子ガス37の濃度を変化させることにより、超伝導電極層1,2間のInGaAsチャネル層34に流れる超伝導電流を制御する。
【0029】
したがって、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子30によれば、上述した第1の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10と同様、MgB2超伝導電極層1,2の成膜時のMgのInGaAsチャネル層34への拡散を抑制し、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層34の接合特性を改善することができる。
【0030】
なお、上記では、チャネル層34の下にキャリア供給層32を設けた逆構造の半導体結合超伝導三端子素子30を用いて説明したが、チャネル層の上にキャリア供給層を設けた順構造の半導体結合超伝導三端子素子とすることも可能である。このような半導体結合超伝導三端子素子であっても、上述の半導体結合超伝導三端子素子30と同様な作用効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は半導体結合超伝導三端子素子に関するものであり、MgB2超伝導電極層の成長中のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制してMgB2超伝導電極層とInGaAsチャネル層の接合特性を改善することができるので、光通信産業などにおいて、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 MgB2超伝導電極層(ソース電極)
2 MgB2超伝導電極層(ドレイン電極)
3 金属ゲート電極(第三電極)
4 Au挿入層
5 ゲート絶縁層
6 n型InGaAsチャネル層
7 半絶縁性InP基板
10 半導体結合超伝導三端子素子
20 半導体結合超伝導三端子素子
21 p型InP基板
22 p型InGaAs層
23 金属ゲート電極
30 半導体結合超伝導三端子素子
31 InAlAsバッファ層
32 n型InAlAsキャリア供給層
33 InAlAsスペーサ層
34 InGaAsチャネル層
35 InAlAsゲートコンタクト層
36 金属ゲート電極
37 二次元電子ガス
【技術分野】
【0001】
本発明は、InGaAsチャネル層を接合部に持つ半導体結合超伝導三端子素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のInGaAsチャネル層を用いた半導体結合超伝導三端子素子の断面構造を図5に示す。図5に示すように、半導体結合超伝導三端子素子は、半絶縁性のInPからなる基板7の上にn型のInGaAsからなるチャネル層6を備えている。この素子は、チャネル層6の上にMgB2超伝導電極層(ソース電極)1及びMgB2超伝導電極層(ドレイン電極)2を備えると共に、チャネル層6の上にゲート絶縁層5を介して金属ゲート電極層(第三電極)3を備えている。金属ゲート電極層3は、電圧を印加することにより超伝導電極層1,2間におけるチャネル層6に流れる超伝導電流を制御している。
【0003】
MgB2は、二元化合物、シンプルな結晶構造でありながら、金属間化合物超伝導体中、最高の超伝導臨界温度TC(〜39K)を有しており、半導体結合超伝導三端子素子の動作温度上昇のための新しい超伝導電極として有望な材料である(非特許文献1参照)。通常、MgB2超伝導電極層1,2の成膜には、電子ビーム共蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などが用いられる(非特許文献2参照)。従来構造では、n型のInGaAsからなるチャネル層の上に直接MgB2超伝導電極層を成膜することで、超伝導電極層とチャネル層とのオーミック接触を実現している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jun Nagamatsu et al., "Superconductivity at 39K in magnesium diboride", NATURE , vol 410, p.63-64, 2001 MARCH 1
【非特許文献2】内藤方夫, "MgB2薄膜・接合作製の現状とデバイス応用への展望", 低温工学, 41巻, 11号, p.463-473, 2006年
【非特許文献3】G. E. Blonder et al., "Transition from metallic to tunneling regimes in superconducting microconstrictions: Excess current, charge imbalance, and supercurrent conversion", PHYSICAL REVIEW B, VOLUME 25, NUMBER 7, P.4515-4532, 1982 APRIL 1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、n型のInGaAsからなるチャネル層の上に直接MgB2超伝導電極層を成膜して作製した半導体結合超伝導三端子素子の微分抵抗のバイアス電圧依存性(測定温度:18K)のグラフを図6(a)に示す。ここでは、n型InGaAsチャネル層の厚さを210nmとした。但し、この測定時には、金属ゲート電極3とゲート絶縁層5を形成していない素子を用いた。
【0006】
このグラフに示されるように、微分抵抗は、約210Ωの高抵抗であり、アンドレーエフ反射による超伝導ギャップ電圧以下での微分抵抗の低減も観測することはできなかった。この原因は、図6(b)に示すMgB2/InGaAs界面でのMgのSTEM−EDSマッピングから分かるように、MgB2成長時、MgがInGaAsチャネル層に拡散し、InGaAsチャネル層の特性劣化を引き起こしているものと考えられる。
【0007】
以上のことから、本発明は上述したような課題を解決するために為されたものであって、超伝導電極層としてMgB2、接合部にInGaAsチャネル層を用い、第三電極を用いて超伝導電流を制御する半導体結合超伝導三端子素子において、超伝導電極層の成長時のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制し、接合特性を改善した半導体結合超伝導三端子素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決する第1の発明に半導体結合超伝導三端子素子は、
超伝導電流のチャネル層となるInGaAs層とソース電極となる第1のMgB2超伝導電極層及びドレイン電極となる第2のMgB2超伝導電極層とその二つの超伝導電極層間のInGaAs層中に流れる超伝導電流を制御する第三電極とを有する半導体結合超伝導三端子素子において、
前記MgB2超伝導電極層と前記InGaAsチャネル層との層間にAu層が挿入された
ことを特徴とする。
【0009】
上述した課題を解決する第2の発明に係る半導体結合超伝導三端子素子は、
第1の発明に係る半導体結合超伝導三端子素子であって、
前記第三電極は前記基板の下に設けられる
ことを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決する第3の発明に係る半導体結合超伝導三端子素子は、
第1の発明に係る半導体結合超伝導三端子素子であって、
前記チャネル層の下にキャリア供給層が設けられる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る半導体結合超伝導三端子素子によれば、超伝導電極としてMgB2、接合部にInGaAsチャネル層を用い、第三電極を用いて超伝導電流を制御する半導体結合超伝導三端子素子において、MgB2超伝導電極層とInGaAsチャネル層との層間にAu層を挿入することにより、超伝導電極層の成長時のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制し、超伝導電極層とチャネル層の接合特性を改善することができる。これにより、半導体結合超伝導三端子素子の動作温度上昇が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子の断面を模式的に示した図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子の断面を模式的に示した図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子の断面を模式的に示した図である。
【図4】半導体結合超伝導三端子素子の特性を示す図であって、図4(a)にその微分抵抗のバイアス電圧依存性を示し、図4(b)にMgB2/Au/InGaAs界面でのMgのSTEM−EDSマッピング結果を示す。
【図5】従来の半導体結合超伝導三端子素子の断面を模式的に示した図である。
【図6】従来の半導体結合超伝導三端子素子の特性を示す図であって、図6(a)にその微分抵抗のバイアス電圧依存性を示し、図6(b)に従来のMgB2/InGaAs界面でのMgのSTEM−EDSマッピング結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、MgB2超伝導電極層とInGaAsチャネル層との層間にAu層を挿入することにより、超伝導電極層の成長中のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制することが最大の特徴である。
本発明に係る半導体結合超伝導三端子素子について、各実施例にて詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の第1の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子について図1および図4を参照して説明する。
【0015】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10は、図1に示すように、半絶縁性のInPからなる基板7の上にn型のInGaAsからなるチャネル層6を備える。この素子10は、チャネル層6の上にゲート絶縁層5を介して金属ゲート電極層(第三電極)3を備えると共に、チャネル層6の上にAu挿入層4を介してMgB2超伝導電極層(ソース電極)1及びMgB2超伝導電極層(ドレイン電極)2を備える。金属ゲート電極3は、電圧を印加することにより超伝導電極層1,2間のInGaAsチャンネル層6に流れる超伝導電流を制御する。
【0016】
すなわち、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10は、MgB2超伝導電極層1,2とチャネル層6との層間にAu挿入層4が挿入されたものである。本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10と図6に示した従来の半導体結合超伝導三端子素子とは、このAu挿入層4が、MgB2超伝導電極層1,2とn型InGaAsチャネル層6との間に挿入されているところが異なっている。本構造は、Au挿入層4を成膜した後に、MgB2超伝導電極層1,2の成膜することで、容易に得ることができる。なお、MgB2超伝導電極層1,2及び金属ゲート電極3の成膜法としては、電子ビーム共蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などが挙げられる。
【0017】
Au挿入層4の成膜法としては、電子ビーム共蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などが挙げられる。
【0018】
ここで、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10の微分抵抗のバイアス電圧依存性(測定温度:18K)のグラフを図4(a)に示す。ここでは、Au挿入層4の厚さは、5nm、n型のInGaAsからなるチャネル層6の厚さは、210nmである。但し、この測定時には、金属ゲート電極3とゲート絶縁層5を形成していない素子を用いた。同グラフの横軸は、超伝導電極層1,2間の電圧であり、超伝導電極層(ソース電極)1の電位に対して超伝導電極層(ドレイン電極)2の電位が高い場合を正としている。
【0019】
このグラフに示されるように、微分抵抗は、約5.6Ωの低抵抗となり、図6(a)に示した従来構造に比べて、約1/40の改善が得られていることが分かる。また、バイアス電圧の絶対値が、約9mV以下の領域で、微分抵抗の低下が観測されている。これは、MgB2/InGaAs界面の良好なオーミック接触により、超伝導ギャップ電圧以下でのアンドレーエフ反射による微分抵抗の低減が観測出来ていることを示している(非特許文献3参照)。
【0020】
また、図4(b)に本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10におけるMgB2/Au/InGaAs界面でのMgのSTEM−EDSマッピング結果を示す。このSTEM−EDSマッピングでは、InGaAsチャネル層中にMgの拡散領域は確認できなかった。これらのことから、Au挿入層4により、MgB2の成膜(成長)時のInGaAsチャネル層6へのMgの拡散が抑制され、InGaAsチャネル層6の特性劣化が起こらないことが分かった。また、Au挿入層4の厚さは、2nmでも、ほぼ同等の改善効果があることが分かっている。
【0021】
したがって、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10によれば、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層6との層間にAu挿入層4を挿入することにより、超伝導電極層1,2の成膜時のMgのInGaAsチャネル層6への拡散を抑制でき、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層6の接合特性を改善することができる。これにより、半導体結合超伝導三端子素子10の動作温度上昇を期待できる。
【実施例2】
【0022】
本発明の第2の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子について図2を参照して具体的に説明する。
【0023】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子は、実施例1において、InGaAs層中に流れる超伝導電流を制御する第三電極が基板側にあることを特徴としている。
【0024】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子20は、図2に示すように、p型のInPからなる基板21の上にp型のInGaAs層22を備え、p型InGaAs層22の上にn型のInGaAsからなるチャネル層6を備える。この素子20は、チャネル層6の上にAu挿入層4を介してMgB2超伝導電極層(ソース電極)1及びMgB2超伝導電極層(ドレイン電極)2を備えると共に、基板21の下に金属ゲート電極(第三電極)23を備える。金属ゲート電極23は、電圧を印加することにより超伝導電極層1,2間のInGaAsチャネル層6に流れる超伝導電流を制御する。
【0025】
したがって、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子20によれば、上述した第1の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10と同様、MgB2超伝導電極層1,2の成膜時のMgのInGaAsチャネル層6への拡散を抑制し、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層6の接合特性を改善することができる。
【実施例3】
【0026】
本発明の第3の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子について図3を参照して具体的に説明する。
【0027】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子は、実施例1において、半導体としてInGaAsチャネル層を有する高電子移動度トランジスタを用いることを特徴としている。
【0028】
本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子30は、図3に示すように、半絶縁性のInPからなる基板7の上に、InAlAsからなるバッファ層31、n型のInAlAsからなるキャリア供給層32、InAlAsからなるスペーサ層33、InGaAsからなるチャネル層34が順番に設けられたものである。チャネル層34の上にAu挿入層4を介してMgB2超伝導電極層(ソース電極)1及びMgB2超伝導電極層(ドレイン電極)2が備えられる。チャネル層34の上にInAlAsゲートコンタクト層35を介して金属ゲート電極(第三電極)36が備えられる。スペーサ層33とチャネル層34との界面におけるスペーサ層33側に二次元電子ガス37が形成される。金属ゲート電極36は、電圧を印加して二次元電子ガス37の濃度を変化させることにより、超伝導電極層1,2間のInGaAsチャネル層34に流れる超伝導電流を制御する。
【0029】
したがって、本実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子30によれば、上述した第1の実施例に係る半導体結合超伝導三端子素子10と同様、MgB2超伝導電極層1,2の成膜時のMgのInGaAsチャネル層34への拡散を抑制し、MgB2超伝導電極層1,2とInGaAsチャネル層34の接合特性を改善することができる。
【0030】
なお、上記では、チャネル層34の下にキャリア供給層32を設けた逆構造の半導体結合超伝導三端子素子30を用いて説明したが、チャネル層の上にキャリア供給層を設けた順構造の半導体結合超伝導三端子素子とすることも可能である。このような半導体結合超伝導三端子素子であっても、上述の半導体結合超伝導三端子素子30と同様な作用効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は半導体結合超伝導三端子素子に関するものであり、MgB2超伝導電極層の成長中のMgのInGaAsチャネル層への拡散を抑制してMgB2超伝導電極層とInGaAsチャネル層の接合特性を改善することができるので、光通信産業などにおいて、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 MgB2超伝導電極層(ソース電極)
2 MgB2超伝導電極層(ドレイン電極)
3 金属ゲート電極(第三電極)
4 Au挿入層
5 ゲート絶縁層
6 n型InGaAsチャネル層
7 半絶縁性InP基板
10 半導体結合超伝導三端子素子
20 半導体結合超伝導三端子素子
21 p型InP基板
22 p型InGaAs層
23 金属ゲート電極
30 半導体結合超伝導三端子素子
31 InAlAsバッファ層
32 n型InAlAsキャリア供給層
33 InAlAsスペーサ層
34 InGaAsチャネル層
35 InAlAsゲートコンタクト層
36 金属ゲート電極
37 二次元電子ガス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導電流のチャネル層となるInGaAs層とソース電極となる第1のMgB2超伝導電極層及びドレイン電極となる第2のMgB2超伝導電極層とその二つの超伝導電極層間のInGaAs層中に流れる超伝導電流を制御する第三電極とを有する半導体結合超伝導三端子素子において、
前記MgB2超伝導電極層と前記InGaAsチャネル層との層間にAu層が挿入された
ことを特徴とする半導体結合超伝導三端子素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体結合超伝導三端子素子であって、
前記第三電極は前記基板の下に設けられる
ことを特徴とする半導体結合超伝導三端子素子。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体結合超伝導三端子素子であって、
前記チャネル層の下にキャリア供給層が設けられる
ことを特徴とする半導体結合超伝導三端子素子。
【請求項1】
超伝導電流のチャネル層となるInGaAs層とソース電極となる第1のMgB2超伝導電極層及びドレイン電極となる第2のMgB2超伝導電極層とその二つの超伝導電極層間のInGaAs層中に流れる超伝導電流を制御する第三電極とを有する半導体結合超伝導三端子素子において、
前記MgB2超伝導電極層と前記InGaAsチャネル層との層間にAu層が挿入された
ことを特徴とする半導体結合超伝導三端子素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体結合超伝導三端子素子であって、
前記第三電極は前記基板の下に設けられる
ことを特徴とする半導体結合超伝導三端子素子。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体結合超伝導三端子素子であって、
前記チャネル層の下にキャリア供給層が設けられる
ことを特徴とする半導体結合超伝導三端子素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図4】
【図6】
【図2】
【図3】
【図5】
【図4】
【図6】
【公開番号】特開2012−38984(P2012−38984A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179169(P2010−179169)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度 科学技術振興機構「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度 科学技術振興機構「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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