説明

半導体装置の製造方法

【課題】トランジスタのしきい値電圧制御のために使用する金属酸化膜の膜減り等に起因するしきい値電圧ばらつきを抑制し、所望のしきい値電圧を有するトランジスタを形成することができる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板1上に、高融点金属酸化物を含む材料からなるゲート絶縁膜3が形成され、ゲート絶縁膜3上に金属酸化膜4が形成される。次いで、金属酸化膜4を構成する金属原子を、金属酸化膜4からゲート絶縁膜3の表面部へ拡散させる処理が実施される。当該金属原子の拡散工程後、上記金属酸化膜4がゲート絶縁膜3に対して選択的に除去される。そして、金属原子が拡散されたゲート絶縁膜3上に導電膜7、8が形成され、当該導電膜7、8を加工することでゲート電極30、31が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体集積回路装置の製造方法に関し、特に微細MOS(Metal Oxide Semiconductor)型トランジスタのゲート絶縁膜の一部を構成する金属酸化物層のパターニング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
SoC(System on Chip)など半導体集積回路装置の高機能化、高速化、低消費電力化等による高性能化は、集積回路を構成する半導体素子パターンの微細化によって実現されてきた。しかしながら、近年、物性的限界により素子パターンの微細化による高性能化が困難な状況になっている。例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)デバイスにおいて、シリコンからなるゲート電極と、シリコン酸化膜を主体としたゲート絶縁膜とを用いた従来の構造では、素子動作の高速化の障害となるゲート寄生抵抗の増大や、ゲート絶縁膜界面近傍のシリコンゲート電極の空乏化に起因する見かけ上のゲート絶縁膜容量の低下が問題になる。これらの問題を解決する技術の一つとして、メタルゲート技術が挙げられる。従来のシリコンゲート電極をメタル材料のゲート電極で置き換えることにより、前記の問題が解決される。
【0003】
一方、ゲート絶縁膜においては、従来のスケーリングに従ってトランジスタ素子能力向上のため単純に物理的な膜厚を減少させると、リーク電流が増加し半導体集積回路装置全体としての消費電力が増加してしまう。近年、素子能力向上と消費電力低減を両立させるために、シリコン酸化膜系のゲート絶縁膜に比較して電気的な膜厚が小さく、かつ物理的膜厚を従来よりも大きくできる、比誘電率の高い材料(いわゆるHigh−k膜材料)がゲート絶縁膜材料よして用いられている。そして、32nmノード世代以降の製品においては、前記メタルゲート技術とHigh−k膜材料の組み合わせによりデバイスの高性能化実現に向けた開発が進められている。
【0004】
このような構成において、MOS型トランジスタのしきい値電圧は主としてメタル材料の仕事関数で決まる。そのため、CMOSデバイスにおいて回路動作に適切な特性、閾値電圧を得る場合には、例えば、nチャネルトランジスタとpチャネルトランジスタとのそれぞれで異なるメタル材料を用いる手法が使用されている。例えば、nチャネルのゲート電極材料として炭化タンタル(TaC)膜が使用され、pチャネルのゲート電極材料として窒化モリブデンアルミニウム(MoAlN)膜が使用される。製造コスト低減の観点では、エッチング特性の異なるTa系とMo系メタル材料を同一ケミストリ(エッチングガス)で同時に加工することが好ましい。しかしながら、このような加工では両ゲート電極の寸法および断面形状制御が困難となるため、同一ケミストリを用いて同時に加工することは極めて困難である。そのため、各ゲート電極を別々に加工する必要がある。
【0005】
同時加工時の寸法および断面形状制御を容易にする観点では、nチャネルトランジスタとpチャネルトランジスタのゲートメタル材料を共通にすることが考えられる。この場合、nチャンネル、pチャンネル各トランジスタのしきい値電圧Vthを制御する手法として、High−k膜材料からなる絶縁膜とメタルゲート電極との間に金属酸化物膜を挿入し、それらの金属原子をHigh−k膜中に拡散させることでいわゆる有効仕事関数を調整する技術が知られている(例えば、特許文献1等参照。)。このような金属酸化膜として、例えば、酸化アルミニウム膜(以下、AlO膜という。)、酸化ランタン膜(以下、LaO膜という。)や酸化マグネシウム膜(以下、MgO膜という。)が使用される。
【0006】
nチャネルトランジスタとpチャネルトランジスタの能力を同程度に向上させるためには特にpチャネルトランジスタのしきい値電圧を小さく設定すればよい。特許文献1ではpチャネルトランジスタのしきい値電圧の低減のため、pチャネルトランジスタのHigh−k膜材料からなる絶縁膜上にAlO膜を形成することでしきい値電圧の低減を実現している。
【0007】
図6は従来のCMOS型半導体装置におけるメタルゲートスタック構造(ゲート電極構造)形成プロセスの概略を示す工程断面図である。図6(a)〜図6(f)では、各図において、左方にpチャネルトランジスタ、右方にnチャネルトランジスタを示している。
【0008】
まず、図6(a)に示す工程で、公知のSTI(Shallow Trench Isolation)法によりシリコン基板101上に素子分離領域120が形成される。シリコン基板101の最表面には、非常に薄い界面層絶縁膜102が堆積され、当該界面層絶縁膜102上にHigh−kゲート絶縁膜103が堆積される。なお、図6(a)に示すように、pチャネルトランジスタが形成されるシリコン基板101の領域にはnウェル121が形成され、nチャネルトランジスタが形成されるシリコン基板101の領域にはpウェル122が形成される。
【0009】
次に、図6(b)に示すように、High−kゲート絶縁膜103上に、金属酸化膜104として例えばAlO膜が堆積された後、当該金属酸化膜104上にpチャネルトランジスタ形成領域を被覆するフォトレジストパターン105が形成される。そして、図6(c)に示すように、フォトレジストパターン105をマスクとして金属酸化膜104がエッチング除去され、当該エッチング完了後に、図6(d)に示すようにフォトレジストマスク105が除去される。
【0010】
その後、図6(e)に示すように、フォトレジストマスク105が除去されたシリコン基板101上に、メタル膜107およびシリコン膜108が下層から順に堆積される。そして、シリコン膜108上に、pチャネルトランジスタのゲート電極形成領域と、nチャネルトランジスタのゲート電極形成領域とを被覆するフォトレジストパターン109が形成される。当該フォトレジストパターン109をマスクとしてシリコン膜108、メタル膜107および金属酸化膜104をドライエッチングすることにより、図6(f)に示すように、金属酸化膜104、メタル膜107、シリコン膜108の積層構造からなるpチャネルトランジスタのゲート電極131と、メタル膜107、シリコン膜108の積層構造からなるnチャネルトランジスタのゲート電極130が形成される。その後、フォトレジストパターン109のアッシング除去および薬液を用いた洗浄が行われメタルゲートスタック構造が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−329237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図6に示す従来の製造プロセスでは、図6(d)に示したフォトレジストパターン105を除去する工程において、金属酸化膜104もエッチングされるという問題がある。すなわち、図6(d)に示すように、金属酸化膜104に膜減り106が発生する。一般に、しきい値電圧の制御に使用される金属酸化膜104の必要量(膜厚)は1nm程度であり、この膜厚に占める膜減り106の大きさが大きい場合、金属酸化膜104を含む方のゲート電極131における有効仕事関数のばらつき、ひいてはMOS型トランジスタのしきい値電圧のばらつきが引き起こされることになる。この膜減り106の大きさを極めて高精度に制御することができなければ、現実の半導体装置の量産工程に適用することは困難であると考えられる。
【0013】
ここで一例として、金属酸化膜104としてLaO膜を用いた場合に発生する不具合について図7、図8を用いて説明する。図7は、本発明者らが実験的に得た、LaO膜が図6に示した加工工程で使用される薬液や純水(Deionized Water)等に晒された際の膜減り106の大きさと時間との関係を示す図である。なお、図7において横軸は薬液等に晒されている時間に対応し、縦軸が膜減り量に対応する。ここで使用している薬液等は、例えば、図6(d)に示すフォトレジストパターン105のプラズマアッシング後の薬液洗浄を想定して、純水(室温)、アンモニア水(NH4OH:H2O=1:50 室温)、アンモニア過酸化水素水(NH4OH:H22:H2O=1:4:20 at 65℃)を示している。また、図8は、メタル膜107として、膜厚15nm程度の窒化チタン膜(TiN膜)を使用した際の、LaO膜厚と有効仕事関数(eWF)の関係を示す図である。図8において、横軸がLaO膜厚に対応し、縦軸が有効仕事関数に対応する。
【0014】
図7に示すように、洗浄液として使用される純水(純水リンス)においても、処理時間60秒と非常に短い時間でLaO膜は0.6nm程度の膜減りを示す。また、図8によれば、例えば、有効仕事関数の変動を実際のトランジスタにおけるしきい値電圧ばらつき許容範囲と比較できる50mV以下に抑制するにはLaO膜の膜減りは0.1nm以下でなければならない。図7に示す結果によれば、単に純水リンスを実施するだけで容易にそれ以上の膜減りが発生するため、現実の量産工程において採用することは困難であるという結果になっている。
【0015】
以上のように、High−kゲート絶縁膜103上に形成するしきい値電圧調整用の金属酸化膜104の必要量は一般に1nm以下の極薄膜であるため、ゲート電極加工工程におけるしきい値電圧調整用の金属酸化膜104の残膜制御が困難である。したがって、金属酸化膜104の膜減りおよび残膜ばらつきに起因するしきい値電圧上昇やしきい値電圧ばらつきが発生するため実用化は容易ではない。
【0016】
本発明は、上記従来の事情を鑑みて提案されたものであって、金属酸化膜の膜減りに起因すると考えられるしきい値電圧ばらつきを抑制し、所望のしきい値電圧を有するトランジスタを形成することができる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の課題を解決するため本発明は以下の技術的手段を採用している。すなわち、本発明に係る半導体装置の製造方法では、まず、半導体基板上に、高融点金属酸化物を含む材料からなるゲート絶縁膜が形成される。次いで、ゲート絶縁膜上に金属酸化膜が形成される。続いて、金属酸化膜を構成する金属原子を、金属酸化膜からゲート絶縁膜の表面部へ拡散させる処理が実施される。当該金属原子の拡散工程後に、上記金属酸化膜はゲート絶縁膜に対して選択的に除去される。そして、金属原子が拡散されたゲート絶縁膜上に導電膜が形成され、当該導電膜を加工することでゲート電極が形成される。ここで、金属酸化膜を構成する金属原子は、アルミニウム、ランタン、マグネシウムのいずれか一つを含む構成を採用することができる。
【0018】
この半導体装置の製造方法では、金属酸化膜が晒される加工工程における膜減りを無視できるほど十分厚く金属酸化膜を堆積し、熱処理によって形成された金属拡散領域のみでMOS型トランジスタのしきい値電圧を制御している。この構成によれば、加工工程における金属酸化膜の膜減りに起因する有効仕事関数のばらつきを抑制することができ、適切なしきい値電圧Vthを有するトランジスタを提供することができる。
【0019】
また、本発明に係る他の半導体装置の製造方法では、まず、半導体基板上の、nチャネルMOS型トランジスタを形成すべき第1領域およびpチャネルMOS型トランジスタを形成すべき第2領域に、高融点金属酸化物を含む材料からなるゲート絶縁膜が形成される。次いで、ゲート絶縁膜上に第1の金属酸化膜が形成される。続いて、第1の金属酸化膜上に第1のマスク層が形成される。当該第1のマスク層をマスクとして、第1領域および第2領域のうちの一方の領域上に形成されている第1の金属酸化膜が除去され、ゲート絶縁膜が露出される。続いて、第1のマスク層が除去された後、第1の金属酸化膜を構成する金属原子を、第1の金属酸化膜からゲート絶縁膜の表面部へ拡散させる処理が実施される。第1の金属酸化膜を構成する金属原子の拡散工程後に、上記第1の金属酸化膜はゲート絶縁膜に対して選択的に除去される。そして、金属原子が拡散されたゲート絶縁膜上に導電膜が形成され、当該導電膜を加工することで、第1領域および第2領域のそれぞれにゲート電極が形成される。ここで、第1の金属酸化膜を構成する金属原子は、アルミニウム、ランタン、マグネシウムのいずれか一つを含む構成を採用することができる。
【0020】
この半導体装置の製造方法では、金属酸化膜が晒される加工工程における膜減りを無視できるほど十分厚く金属酸化膜を堆積し、熱処理によって形成された金属拡散領域のみでpチャネルMOS型トランジスタのしきい値電圧またはnチャネルMOS型トランジスタのしきい値電圧を制御している。この構成によれば、加工工程における、pチャネルMOS型トランジスタのしきい値電圧調整またはnチャネルMOS型トランジスタのしきい値電圧調整に使用される金属酸化膜の膜減りに起因する有効仕事関数のばらつきを抑制することができ、適切なしきい値電圧Vthを有するトランジスタを提供することができる。
【0021】
また、半導体装置の製造方法では、第1の金属酸化膜を構成する金属原子の拡散工程後の第1の金属酸化膜を除去する工程と導電膜を形成する工程との間で、以下の工程がさらに実施されてもよい。すなわち、第1の金属酸化膜が除去されたゲート絶縁膜上に、第2の金属酸化膜が形成される。次いで、第2の金属酸化膜上に第2のマスク層が形成される。当該第2のマスク層をマスクとして、第1領域および第2領域のうちの他方の領域上に形成されている第2の金属酸化膜が除去され、ゲート絶縁膜が露出される。続いて、第2のマスク層が除去された後、第2の金属酸化膜を構成する金属原子を、第2の金属酸化膜からゲート絶縁膜の表面部へ拡散させる処理が実施される。第2の金属酸化膜を構成する金属原子の拡散工程後に、上記第2の金属酸化膜はゲート絶縁膜に対して選択的に除去される。そして、第1の金属酸化膜を構成する金属原子と第2の金属酸化膜を構成する金属原子とが拡散されたゲート絶縁膜上に、上記導電膜が形成される。この場合、第1の金属酸化膜を構成する金属原子はアルミニウムを含み、第2の金属酸化膜を構成する金属原子はランタンまたはマグネシウムを含む構成を採用することができる。
【0022】
この半導体装置の製造方法では、金属酸化膜が晒される加工工程における膜減りを無視できるほど十分厚く金属酸化膜を堆積し、熱処理によって形成された金属拡散領域のみでpチャネルMOS型トランジスタのしきい値電圧およびnチャネルMOS型トランジスタのしきい値電圧を制御している。この構成によれば、加工工程における、pチャネルMOS型トランジスタのしきい値電圧調整およびnチャネルMOS型トランジスタのしきい値電圧調整に使用される各金属酸化膜の膜減りに起因する有効仕事関数のばらつきを抑制することができ、適切なしきい値電圧Vthを有するトランジスタを提供することができる。
【0023】
なお、以上の半導体装置の製造方法において、ゲート絶縁膜は、ハフニウムを含むシリコン酸化膜、ハフニウム酸化膜のいずれか一つを含む構成を採用することができる。また、上記導電膜は、シリコン膜、高融点金属ナイトライド膜、高融点金属カーバイド膜、高融点金属のシリコン化合物膜、高融点金属のアルミニウム化合物膜のいずれ一つを含む構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、トランジスタのしきい値電圧制御のために使用する金属酸化膜につき、金属酸化膜形成後の加工工程において発生する膜減りや膜厚ばらつきに起因するトランジスタのしきい値電圧劣化やばらつきの発生を抑制することができる。その結果、適切なしきい値電圧を有するトランジスタを安定して製造することができ、半導体装置を高製造歩留りで安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態における半導体装置の製造過程を示す工程断面図
【図2】本発明の第2の実施形態における半導体装置の製造過程を示す工程断面図
【図3】本発明の第2の実施形態における半導体装置の製造過程を示す工程断面図
【図4】本発明のAl拡散領域を有する高比誘電率ゲート絶縁膜における有効仕事関数と熱処理温度との関係の一例を示す図
【図5】本発明のLa拡散領域を有する高比誘電率ゲート絶縁膜における有効仕事関数と熱処理温度との関係の一例を示す図
【図6】従来の半導体装置の製造過程を示す工程断面図
【図7】薬液に対するLaO膜の膜減り量を示す図
【図8】LaO膜厚と仕事関数の変動との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、CMOSトランジスタを備える半導体集積回路装置(以下、半導体装置という。)の製造に適用した事例として本発明を具体化している。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す工程断面図である。図1では、nチャネルMOS型トランジスタとpチャネルMOS型トランジスタとが隣接して形成された領域の部分を示している。図1(a)〜図1(f)では、各図において、左方にpチャネルMOS型トランジスタ(以下、pチャネルトランジスタという。)、右方にnチャネルMOS型トランジスタ(以下、nチャネルトランジスタという。)を示している。
【0028】
本実施形態の半導体装置の製造方法では、まず、図1(a)に示すように、シリコン基板1に素子分離領域20が形成される。特に限定されないが、本実施形態では、STI法により溝内部にシリコン酸化膜などの絶縁材料を埋め込んだ素子分離領域20が形成されている。また、pチャネルトランジスタが形成されるシリコン基板1の領域にはnウェル21が形成され、nチャネルトランジスタが形成されるシリコン基板1の領域にはpウェル22が形成される。nウェル21およびpウェル22は、例えば、公知の高エネルギーイオン注入により不純物をシリコン基板1に導入することで形成可能である。また、シリコン基板1の最表面には、非常に薄い界面層絶縁膜2が堆積され、当該界面層絶縁膜2上にゲート絶縁膜の主要部となる高比誘電率ゲート絶縁膜3(以下、High−k絶縁膜3という。)が堆積される。本実施形態では、界面層絶縁膜2として、厚さ1nmのシリコン酸化膜をISSG(In Situ Steam Generation)酸化法で形成している。また、High−k絶縁膜3として、高融点金属酸化物系のハフニウムシリコンオキシナイトライド膜(以下、HfSiON膜という。)を、厚さ3nmで形成している。HfSiON膜の組成比としては、Hf/(Hf+Si)=60%(原子数比)、HfSiON膜全体に対する窒素濃度5at%(原子パーセント)を使用することができる。HfSiON膜の堆積方法としては、ALD(Atomic Layer Deposition)法、PVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いることができる。
【0029】
次いで、図1(b)に示すように、High−k絶縁膜3上に、第1の金属酸化膜4が堆積される。本実施形態では、第1の金属酸化膜4として、厚さ2nmのAlO膜(Al23に近い原子組成比を有する)をALD法、PVD法などで形成している。当該第1の金属酸化膜4(以下、AlO膜4という。)上には、pチャネルトランジスタ形成領域(nウェル21上)を被覆するフォトレジストパターン5(第1のマスク層)が公知のリソグラフィ技術を用いて形成される。
【0030】
続いて、図1(c)に示すように、フォトレジストパターン5をマスクとした、APM(Ammonium hydroxide-hydrogen Peroxide Mixture)等のアルカリ性ウェットエッチング処理によりnチャネルトランジスタ形成領域(pウェル22上)のAlO膜4が、下地層であるHigh−k絶縁膜3に対して選択的に除去される。当該エッチングには、例えば、APM(NH4OH:H22:H2O=1:4:20 室温)を用いることができる。本実施形態は、このエッチングにおいてHigh−k絶縁膜3がほとんどエッチングされないという特徴を有している。すなわち、このエッチングにおいて、High−k絶縁膜3は実質的にエッチングされず、AlO膜4のみがエッチング除去される。
【0031】
当該エッチングが完了すると、フォトレジストパターン5が除去される。この工程ではフォトレジストパターン5は、以下の理由により、有機溶剤により除去されることが望ましい。AlO膜4のエッチング(パターニング)は、High−k絶縁膜3上のパターニング、すなわちゲート絶縁膜直上のプロセスである。そのため、フォトレジストパターン5の除去に、従来から広く用いられている酸素プラズマなどのようなプラズマアッシング処理を用いると、High−k絶縁膜3の酸化に起因するゲート絶縁膜の増膜や、アッシング中のプラズマダメージ等に起因するゲート絶縁膜の信頼性寿命低下が懸念される。また、アッシング後に通常に適用されるSPM(Sulfuric acid-hydrogen Peroxide Mixture)/APM等による洗浄を実施すると、AlO膜4がエッチングされるという問題もある。したがって、フォトレジストパターン5の除去は、アッシングレスとするのが望ましいのである。なお、有機溶剤としては具体的に例えばフォトレジスト液のシンナーを用いることができる。有機溶剤であればAlO膜4はほとんどエッチングされることがない。
【0032】
以上のようにしてフォトレジストパターン5が除去された後、所定温度での熱処理が実施される。この熱処理は、nウェル21上のAlO膜4中のAl元素をHigh−k絶縁膜3へ拡散させ、High−k絶縁膜3の表面部に所定深さと所定のAl原子濃度を有するAl拡散領域6(第1の金属拡散領域)を形成する。このとき、熱処理条件は、例えば、N2雰囲気中で900℃、30秒程度にすることができる。当該熱処理条件では、AlO膜4、High−k絶縁膜3において、結晶化は発生せずアモルファス構造が維持される。また、本実施形態では、AlO膜4の堆積時の膜厚は十分厚く設定されている(ここでは、2nm)。ここで、十分厚いとは、AlO膜4は下層の一部がHigh−k絶縁膜3と反応して消費され、残りの上層部は未反応のまま残留することを意味する。
【0033】
次いで、図1(d)に示すように、High−k絶縁膜3との未反応層として残存しているAlO膜4の部分がAPM等のアルカリ性ウェットエッチング処理により除去される。上述のように、当該ウェットエッチング処理では、下地層であるHigh−k絶縁膜3に対しAlO膜4を選択的に除去することができる。すなわち、High−k絶縁膜3中に形成されたAl拡散領域6やHigh−k絶縁膜3自体がエッチングされることはない。
【0034】
続いて、図1(e)に示すように、AlO膜4が除去されたシリコン基板1上に、メタル膜7およびシリコン膜8がHigh−k絶縁膜3を介して下層から順に堆積される。このとき、AlO膜4除去後のシリコン基板1に対して前洗浄などは実行しないことが望ましい。これにより、High−k絶縁膜3中に形成されたAl拡散領域6やHigh−k絶縁膜3自体に膜減りが発生することを防止できる。しかしながら、完成したトランジスタのしきい値電圧が予め定められた許容範囲に収まるような膜減りが生じる程度の前洗浄であれば実行してもよい。また、上記シリコン膜8上には、pチャネルトランジスタのゲート電極形成領域と、nチャネルトランジスタのゲート電極形成領域とを被覆するフォトレジストパターン9が公知のリソグラフィ技術を用いて形成される。なお、本実施形態では、メタル膜7として、PVD法により膜さ10nm程度の窒化チタン(TiN)膜を堆積している。また、シリコン膜8としてCVD法により、厚さ100nm程度の、導電型決定不純物を実質的に含まない(伝導度に寄与しない程度にしか含まない)アモルファスシリコン膜を堆積している。
【0035】
上記フォトレジストパターン9をマスクとした公知のドライエッチング技術により、シリコン膜8およびメタル膜7がドライエッチングされ、図1(f)に示すように、メタル膜7およびシリコン膜8の積層構造からなるpチャネルトランジスタのゲート電極31と、nチャネルトランジスタのゲート電極30が形成される。なお、pチャネルトランジスタのゲート電極31直下のHigh−k絶縁膜3の表面部には、Al拡散領域6が存在する。その後、フォトレジストパターン9のアッシング除去および薬液を用いた洗浄が行われメタルゲートスタック構造が完成する。例えば、シリコン膜8のドライエッチングは、SF6、CH22、O2混合ガス等のフッ素系とフルオロカーボン系の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより実現でき、メタル膜7のドライエッチングは、Cl2ガス等の塩素系のガスを用いたプラズマエッチングにより実現できる。また、フォトレジストパターン9の除去は、O2、N2混合ガスによる酸素プラズマアッシングおよびAPM洗浄により実現できる。なお、図1(f)ではゲート電極30、31の両側にHigh−k絶縁膜3を主体とするゲート絶縁膜残っているが、当該ゲート絶縁膜は、以降の工程で除去される。
【0036】
このように、本実施形態における、シリコン膜8/メタル膜7/金属酸化膜4/High−k絶縁膜3を用いて形成するゲートスタック構造を備える半導体装置の製造方法では、nチャネルトランジスタおよびpチャネルトランジスタのゲート電極構造が、同一のシリコン/メタルゲートスタック構造となり、両ゲート電極の一括加工が可能になる。これにより、nチャネルトランジスタおよびpチャネルトランジスタにおいて互いに異なるメタルゲート材料を用い、nチャネルトランジスタとpチャネルトランジスタとでゲート電極を作り分ける場合よりもはるかに寸法および断面形状制御が容易となり、ゲート電極の加工ばらつきを抑制することができる。さらに、本実施形態は、pチャネルトランジスタ形成領域の金属酸化膜4として十分厚いAlO膜を形成し(図1(b)参照)、AlO膜4の一部をHigh−k絶縁膜3と反応させる。この反応において、AlO膜4を構成する金属原子Alが拡散したAl拡散領域6の深さと当該Al拡散領域6中のAl濃度とを後述のように制御するとともに(図1(c))、反応に消費されずに残ったAlO膜4の部分を除去することによってしきい値電圧を制御する(図1(d))。Al拡散領域6の深さとそのAl濃度は、AlO膜4の厚さが所定厚以下になった場合、AlO膜4の厚さに依存して変動するが、本実施形態ではフォトレジストパターン5の除去工程およびそれに続く洗浄工程のように、AlO膜4の表面が露出しているときの処理によって多少膜厚が減少してもAl拡散領域6の深さとAl濃度が許容の所定範囲に収まる程度に、かつHigh−k絶縁膜3との未反応部分が十分に残存する程度に厚く形成される。
【0037】
従来は、図6に示したように、トランジスタのしきい値電圧を、金属酸化膜104の全体を残し、金属酸化膜104の堆積膜厚によって制御していたため、金属酸化膜104形成後の加工工程における金属酸化膜104の膜減り106に起因して仕事関数ばらつきが発生し、その結果、しきい値電圧ばらつきが発生していた。しかしながら、本実施形態では、上述のように金属酸化膜4を、金属酸化膜4が晒される加工工程における膜減りを無視できるほど十分厚く堆積し、熱処理によって形成されたエッチング液・洗浄薬液に耐性を有する金属拡散領域(上記実施形態ではAl拡散領域6)のみでpチャネルトランジスタのしきい値電圧を制御している。このため、従来発生していた加工工程における金属酸化膜104の膜減り106に起因する仕事関数ばらつきを抑制することができ、ひいてはしきい値電圧ばらつきを抑制することができる。したがって、適正なしきい値電圧Vthを有する半導体装置を安定して製造することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、金属酸化膜4としてAlO膜を採用し、pチャネルトランジスタのゲート絶縁膜側に金属拡散領域(Al拡散領域6)を形成する手法を例示したが、金属酸化膜4としてLaO膜やMgO膜等を用いた場合にも同様の効果を得ることができる。また、nチャネルトランジスタおよびpチャネルトランジスタの両方のゲート絶縁膜に上述の手法により金属拡散領域を設けてもよい。さらに、各トランジスタのしきい値電圧Vthはnチャネルトランジスタ、pチャネルトランジスタにおけるゲート電極直下のチャネル領域にイオン注入で不純物を導入し、不純物濃度を最適化する追加工程によって精密に所望の値に設定することもできる。
【0039】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図2および図3は、本実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す工程断面図である。第1の実施形態と同様に、図2および図3では、nチャネルトランジスタとpチャネルトランジスタとが隣接して形成された領域の部分を示している。図2(a)〜図2(f)、図3(a)〜図3(c)では、各図において、左方にpチャネルトランジスタ、右方にnチャネルトランジスタを示している。
【0040】
本実施形態の半導体装置の製造方法では、まず、図2(a)に示すように、第1の実施形態と同様、シリコン基板1にSTI法により素子分離領域20が形成された後、nウェル21およびpウェル22が形成される。その後、シリコン基板1の最表面に界面層絶縁膜2が堆積され、当該界面層絶縁膜2上にゲート絶縁膜の主要部となるHigh−k絶縁膜3が堆積される。本実施形態では第1の実施形態と同様に、界面層絶縁膜2として厚さ1nmのシリコン酸化膜をISSG酸化法で形成している。また、High−k絶縁膜3として、厚さ3nmのHfSiON膜を形成している。このHfSiON膜は、第1の実施形態で説明したHfSiON膜と同じ成分構成を有する。堆積方法としては、ALD法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0041】
次いで、図2(b)に示すように、High−k絶縁膜3上に、第1の金属酸化膜4が堆積される。本実施形態では、第1の実施形態と同様に、第1の金属酸化膜4として、厚さ2nmのAlO膜(Al23に近い原子組成比を有する)をALD法、PVD法などで形成している。当該第1の金属酸化膜4(以下、AlO膜4という。)上には、pチャネルトランジスタ形成領域(nウェル21上)を被覆するフォトレジストパターン5(第1のマスク層)が公知のリソグラフィ技術を用いて形成される。
【0042】
続いて、図2(c)に示すように、APM等のアルカリ性ウェットエッチング処理、例えばAPM(NH4OH:H22:H2O=1:4:20 室温)を用いて、nチャネルトランジスタ形成領域(pウェル22上)のAlO膜4が、下地層であるHigh−k絶縁膜3に対して選択的に除去される。当該エッチングが完了すると、フォトレジストパターン5が第1の実施形態と同じ材料からなる有機溶剤を使用して除去される。
【0043】
このようにしてフォトレジストパターン5が除去された後、所定温度での熱処理が実施される。第1の実施形態で説明したように、この熱処理は、nウェル21上のAlO膜4中のAl元素をHigh−k絶縁膜3中へ拡散させ、High−k絶縁膜3の表面部に所定深さと所定のAl原子濃度を有するAl拡散領域6(第1の金属拡散領域)を形成する。このとき、熱処理条件は、例えばN2雰囲気中で900℃、30秒程度にすることができる。
【0044】
次いで、図2(d)に示すように、High−k絶縁膜3との未反応層として残存しているAlO膜4の部分がAPM等のアルカリ性ウェットエッチング処理により除去される。
【0045】
さて、本実施形態では、AlO膜4が除去されたシリコン基板1上に、図2(e)に示すように、第2の金属酸化膜14がHigh−k絶縁膜3を介して堆積される。本実施形態では、第2の金属酸化膜14として、厚さ2nmのLaO膜をALD法、PVD法などで形成している。当該第2の金属酸化膜14(以下、LaO膜14という。)上には、nチャネルトランジスタ形成領域(pウェル22上)を被覆するフォトレジストパターン15(第2のマスク層)が公知のリソグラフィ技術を用いて形成される。
【0046】
続いて、図2(f)に示すように、フォトレジストパターン15をマスクとした、希塩酸(例えば0.1wt%HCl水溶液)等の酸性ウェットエッチング処理によりpチャネルトランジスタ形成領域(nウェル21上)のLaO膜14が、下地層であるHigh−k絶縁膜3に対して選択的に除去される。上述のAlO膜4のウェットエッチングと同様に、このエッチングにおいてHigh−k絶縁膜3はほとんどエッチングされない。すなわち、このエッチングにおいて、High−k絶縁膜3は実質的にエッチングされず、LaO膜14のみがエッチング除去される。当該エッチングが完了すると、フォトレジストパターン15が上述のフォトレジストパターン5の除去に使用した有機溶剤を使用して除去される。
【0047】
フォトレジストパターン15が除去された後、所定温度での熱処理が実施される。この熱処理は、pウェル22上のLaO膜14中のLa元素をHigh−k絶縁膜3へ拡散させ、High−k絶縁膜3の表面部に所定深さと所定のLa原子濃度を有するLa拡散領域16(第2の金属拡散領域)を形成する。このとき、熱処理条件は、例えば、N2雰囲気中で800℃、10分程度にすることができる。当該熱処理条件では、High−k絶縁膜3において、結晶化は発生せずアモルファス構造が維持される。また、本実施形態では、LaO膜14の堆積時の膜厚は十分厚く設定されている(ここでは、2nm)。ここで、十分厚いとは、LaO膜14は下層の一部がHigh−k絶縁膜3と反応して消費され、残りの上層部は未反応のまま残留することを意味する。
【0048】
次いで、図3(a)に示すように、High−k絶縁膜3との未反応層として残存しているLaO膜14の部分が、希塩酸等の酸性ウェットエッチング処理により除去される。上述のように、当該ウェットエッチング処理では、下地層であるHigh−k絶縁膜3に対しLaO膜14を選択的に除去することができる。すなわち、High−k絶縁膜3中に形成されたLa拡散領域16、Al拡散領域6、High−k絶縁膜3自体がエッチングされることはない。
【0049】
続いて、図3(b)に示すように、LaO膜14が除去されたシリコン基板1上に、メタル膜7およびシリコン膜8がHigh−k絶縁膜3を介して下層から順に堆積される。このとき、LaO膜14除去後のシリコン基板1に対して前洗浄などは実行しないことが望ましい。これにより、High−k絶縁膜3中に形成されたLa拡散領域16、Al拡散領域6、High−k絶縁膜3自体に膜減りが発生することを防止できる。しかしながら、完成したトランジスタのしきい値電圧が予め定められた許容範囲に収まるような膜減りが生じる程度の前洗浄であれば実行してもよい。また、上記シリコン膜8上には、pチャネルトランジスタのゲート電極形成領域と、nチャネルトランジスタのゲート電極形成領域とを被覆するフォトレジストパターン9が公知のリソグラフィ技術を用いて形成される。第1の実施形態と同様に、本実施形態では、メタル膜7として、PVD法により膜さ10nm程度のTiN膜を堆積している。また、シリコン膜8として、CVD法により厚さ100nm程度の、導電型決定不純物を実質的に含まない(伝導度に寄与しない程度にしか含まない)アモルファスシリコン膜を堆積している。
【0050】
上記フォトレジストパターン9をマスクとした公知のドライエッチング技術により、シリコン膜8およびメタル膜7がドライエッチングされ、図3(c)に示すように、メタル膜7およびシリコン膜8の積層構造からなるpチャネルトランジスタのゲート電極31と、nチャネルトランジスタのゲート電極30が形成される。その後、フォトレジストパターン9のアッシング除去および薬液を用いた洗浄が行われメタルゲートスタック構造が完成する。例えば、シリコン膜8のドライエッチングは、SF6、CH22、O2混合ガス等のフッ素系とフルオロカーボン系の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより実現でき、メタル膜7のドライエッチングは、Cl2ガス等の塩素系のガスを用いたプラズマエッチングにより実現できる。なお、フォトレジストパターン9の除去は、O2、N2混合ガスによる酸素プラズマアッシングおよびAPM洗浄により実現できる。
【0051】
以上のように、本実施形態の半導体装置の製造方法においても、第1の実施形態と同様に、pチャネルトランジスタおよびnチャネルトランジスタのゲート電極の一括加工が可能になる。したがって、寸法および断面形状制御が容易となり、ゲート電極の加工ばらつきを抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態では、nチャネルトランジスタのゲート電極30およびpチャネルトランジスタのゲート電極31について共に金属酸化膜を用いてHigh−k絶縁膜3中に金属拡散領域を形成し、両トランジスタにおけるしきい値電圧を調整・設定する。ゲート電極材料、金属酸化膜材料、High−k絶縁膜材料の選択に依存するが、本実施形態で説明した各具体的材料を用いるときは、pチャネルトランジスタおよびnチャネルトランジスタのしきい値電圧を特に小さく設定することができる。したがって、本実施形態は、高速動作などが要求される高性能MOS型トランジスタ、および当該トランジスタを採用した半導体集積回路の製造に有利である。一方、上記第1の実施形態による製造方法は、特に低いしきい値電圧、高い性能を要求されないトランジスタに好適であり、本実施形態より製造工程が簡単であるという利点がある。
【0053】
上述のように、従来は、トランジスタのしきい値電圧を、金属酸化膜104の全体を残し、金属酸化膜104の堆積膜厚によって制御していたため、金属酸化膜104形成後の加工工程において金属酸化膜104に膜減り106が発生した際には、仕事関数ばらつきが発生し、結果としてしきい値電圧ばらつきが発生していた。このような、ばらつきは、本実施形態のように、第1の金属酸化膜4の形成後に第1の金属酸化膜4を加工し、さらに、第2の金属酸化膜14の形成後に第2の金属酸化膜14を加工する場合には、第1の金属酸化膜4が、エッチング液・洗浄薬液などに長時間晒されるため膜厚の変動が顕著であった。これに対し、本実施形態では、金属酸化膜4のエッチング・洗浄加工工程における膜減りが、金属拡散領域の深さや金属原子濃度のばらつきを介してしきい値電圧のばらつきに及ぼす影響を無視できるほど十分厚く堆積し、かつ熱処理によって形成されたエッチング液・洗浄薬液に耐性を有する金属拡散領域(Al拡散領域6、La拡散領域16)のみでnチャネルトランジスタのゲート電極およびpチャネルトランジスタのゲート電極の有効仕事関数を調整し、両トランジスタのしきい値電圧を制御している。したがって、第1の実施形態と同様に、適正なしきい値電圧Vthを有する半導体装置を安定して製造することができる。
【0054】
図4は、High−k絶縁膜3中にAl拡散領域6を形成したゲート絶縁膜を有するMOS型構造における有効仕事関数と熱処理温度との関係を示す図である。また、図5は、High−k絶縁膜3中にLa拡散領域16を形成したゲート絶縁膜を有するMOS型構造における有効仕事関数と熱処理温度との関係を示す図である。図4および図5から理解できるように、アニール温度により金属拡散領域の金属原子濃度および深さを制御し、実際に有効仕事関数、ひいてはしきい値電圧を制御することが可能である。
【0055】
なお、本実施形態では、nチャネルトランジスタ用の金属酸化膜14としてLaO膜を採用し、nチャネルトランジスタのゲート絶縁膜側にLa拡散領域16を形成する手法を例示したが、金属酸化膜14としてMgO膜等を採用し、La拡散領域16に代えてMg拡散領域を形成した場合にも同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態においても、nチャネルトランジスタのゲート電極30、pチャネルトランジスタのゲート電極31直下のチャネル領域にイオン注入により不純物を導入し、チャネル不純物濃度を最適化する追加工程によってしきい値電圧を所望の値に精密に設定することができる。
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、トランジスタのしきい値電圧制御のために使用する金属酸化膜につき、金属酸化膜形成後の加工工程において発生する膜減りや膜厚ばらつきに起因するトランジスタのしきい値電圧劣化やばらつきの発生を抑制することができる。その結果、適切なしきい値電圧を有するトランジスタを安定して製造することができ、半導体装置を高製造歩留りで安定して製造することができる。
【0057】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において各種の変形や応用を加えることができる。すなわち、上記実施形態では、ゲート絶縁膜の主体としてHfSiON膜を採用した事例に基づいて説明したが、ゲート絶縁膜には、酸化ハフニウムシリケート(HfSiO)のようなハフニウムを含むシリコン酸化膜、あるいはHfO2のようなハフニウム酸化膜のような、高融点金属酸化物を含む材料を採用することができる。例えば、ハフニウムを含むこれらのHigh−k絶縁膜の比誘電率は4〜25であり、酸化シリコン(SiO2)膜に少量のハフニウムを添加した膜では4に近く、HfO2膜では25に近い。また、上記実施形態では、ゲート電極用の導電膜をTiN膜としたが、他に多結晶シリコン膜やアモルファスシリコン膜のようなシリコン膜、窒化タンタル(TaN)のような高融点金属ナイトライド膜、炭化タンタル(TaC)や炭化チタン(TiC)のような高融点金属カーバイド膜、窒化タンタルシリサイド(TaSiN)のような高融点金属のシリコン化合物膜、窒化モリブデンアルミニウム(MoAlN)のような高融点金属のアルミニウム化合物膜も仕事関数、しきい値電圧を適切に調整するために使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、メタルゲート電極と高比誘電率ゲート絶縁膜を含むゲートスタック構造を備える半導体集積回路装置を、しきい値電圧ばらつきを抑制して安定して製造することができ、半導体装置の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0059】
1、101 シリコン基板
2、102 界面層絶縁膜
3、103 High−kゲート絶縁膜
4 AlO膜(第1の金属酸化膜)
5 フォトレジストパターン(第1のマスク層)
6 Al拡散領域(第1の金属拡散領域)
7、107 メタル膜
8、108 シリコン膜
9、109 フォトレジストパターン
14 LaO膜(第2の金属酸化膜)
15 フォトレジストパターン(第2のマスク層)
16 La拡散領域(第2の金属拡散領域)
20、120 素子分離領域
21、121 nウェル
22、122 pウェル
30 nチャネルトランジスタのゲート電極
31 pチャネルトランジスタのゲート電極
104 金属酸化膜
105 フォトレジストパターン
106 金属酸化膜の膜減り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に、高融点金属酸化物を含む材料からなるゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に金属酸化膜を形成する工程と、
前記金属酸化膜を構成する金属原子を、前記金属酸化膜から前記ゲート絶縁膜の表面部へ拡散させる工程と、
前記金属原子の拡散工程後に、前記金属酸化膜を前記ゲート絶縁膜に対して選択的に除去する工程と、
前記金属原子が拡散された前記ゲート絶縁膜上に導電膜を形成する工程と、
前記導電膜を加工してゲート電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
半導体基板上の、nチャネルMOS型トランジスタを形成すべき第1領域およびpチャネルMOS型トランジスタを形成すべき第2領域に、高融点金属酸化物を含む材料からなるゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に第1の金属酸化膜を形成する工程と、
前記第1の金属酸化膜上に第1のマスク層を形成し、前記第1のマスク層をマスクとして前記第1領域および前記第2領域のうちの一方の領域上に形成されている前記第1の金属酸化膜を除去するとともに前記ゲート絶縁膜を露出する工程と、
前記第1のマスク層を除去した後、前記第1の金属酸化膜を構成する金属原子を、前記第1の金属酸化膜から前記ゲート絶縁膜の表面部へ拡散させる工程と、
前記第1の金属酸化膜を構成する金属原子の拡散工程後に、前記第1の金属酸化膜を前記ゲート絶縁膜に対して選択的に除去する工程と、
前記金属原子が拡散された前記ゲート絶縁膜上に導電膜を形成する工程と、
前記導電膜を加工して前記第1領域および前記第2領域のそれぞれにゲート電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1の金属酸化膜を構成する金属原子の拡散工程後の第1の金属酸化膜を除去する工程と前記導電膜を形成する工程との間に、
前記ゲート絶縁膜上に第2の金属酸化膜を形成する工程と、
前記第2の金属酸化膜上に第2のマスク層を形成し、前記第2のマスク層をマスクとして前記第1領域および前記第2領域のうちの他方の領域上に形成されている前記第2の金属酸化膜を除去するとともに前記ゲート絶縁膜を露出する工程と、
前記第2のマスク層を除去した後、前記第2の金属酸化膜を構成する金属原子を、前記第2の金属酸化膜から前記ゲート絶縁膜の表面部へ拡散させる工程と、
前記第2の金属酸化膜を構成する金属原子の拡散工程後に、前記第2の金属酸化膜を前記ゲート絶縁膜に対して選択的に除去する工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化膜を構成する金属原子は、アルミニウム、ランタン、マグネシウムのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の金属酸化膜を構成する金属原子は、アルミニウム、ランタン、マグネシウムのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1の金属酸化膜を構成する金属原子はアルミニウムを含み、前記第2の金属酸化膜を構成する金属原子はランタンまたはマグネシウムを含むことを特徴とする請求項3記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記ゲート絶縁膜は、ハフニウムを含むシリコン酸化膜、ハフニウム酸化膜のいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記導電膜は、シリコン膜、高融点金属ナイトライド膜、高融点金属カーバイド膜、高融点金属のシリコン化合物膜、高融点金属のアルミニウム化合物膜のいずれ一つを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−251508(P2010−251508A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99048(P2009−99048)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】