説明

半導体装置

【課題】ESD耐性が高い半導体装置を提供する。
【解決手段】P型基板2上にCMOS領域及びDMOS領域が形成された半導体装置1において、P型基板2上にN型エピタキシャル層3を形成し、その上にP型ウェル8を形成し、P型ウェル8の表層にN型のソース層12及びドレイン層13を設ける。そして、ドレイン層13の直下域にN型ベース層31及びディープN型ベース層32を形成し、ソース層12の直下域にP型ベース層33及びディープP型ベース層34を形成する。これにより、ディープN型ベース層32とN型エピタキシャル層3との間に配置されたP型ウェル8のパンチスルー電圧VPTを、ソース層12、P型ウェル8及びドレイン層13からなる寄生横バイポーラトランジスタ42の動作電圧Vt1よりも低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にパワーIC(Integrated Circuit:集積回路)は、制御系を構成する低電圧デバイスと、出力系を構成する高耐圧デバイスとで構成されている。そして、低電圧デバイスが高耐圧デバイスの動作を制御することにより、高耐圧デバイスから大きな出力信号が出力される。制御系を構成する低電圧デバイスは、電圧が例えば3V(ボルト)程度のデジタル信号を扱う回路であり、通常、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)トランジスタによって構成されている。一方、出力系を構成する高耐圧デバイスは、電圧が例えば30Vのアナログ信号を扱う回路であり、例えば、DMOS(Double Diffused Metal Oxide Semiconductor:2重拡散型MOS)トランジスタによって構成されている。
【0003】
そして、同一の基板にCMOSトランジスタ及びDMOSトランジスタを同時に形成する技術として、CDプロセスが知られている。この場合、DMOSトランジスタとしては、LDMOS(Laterally DMOS:横方向DMOS)を形成する。例えば、CMOSを構成する各拡散層に、高耐圧化に必要ないくつかの拡散層を追加するだけで、最小限のプロセス変更で高耐圧LDMOSを得ることができる。また、CMOS及びDMOSに加えてバイポーラトランジスタ(Bipolar Transistor)を同時に形成するBiCDプロセスも知られている。
【0004】
パワーICは、半導体チップが完成した後の各組み立て工程において、種々の静電気放電(ESD:Electro Static Discharge)に曝される可能性がある。従って、通常、パワーICには、ESDに曝されても破壊されないように、外部端子に接続されるパッドに保護回路が接続されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、実際には、パワーICにESDが印加されてから保護回路が動作するまでには時間差があるために、その間は内部回路はESDに耐える必要がある。一方、パワーICの微細化の要請に従い、素子を構成する拡散層の拡散深さはどんどん浅くなっており、それに伴い、ESD耐量もどんどん低くなる傾向にある。その結果、保護回路が動作するまで内部回路が耐えられず、破壊されてしまうという問題が生じている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−26315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ESD耐性が高い半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、第1導電型の半導体基板と、前記半導体基板上に設けられた第2導電型の半導体層と、前記半導体層上に設けられた第1導電型のウェルと前記ウェルの表層に相互に離隔して設けられた第2導電型のソース層及びドレイン層と、前記ウェルにおける前記ドレイン層の直下域に形成され、前記ドレイン層に接続された第2導電型のベース層と、を備え、前記ベース層と前記半導体層との間に配置された前記ウェルのパンチスルー電圧は、前記ソース層、前記ウェル及び前記ドレイン層からなる寄生横バイポーラトランジスタの動作電圧よりも低いことを特徴とする半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ESD耐性が高い半導体装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る半導体装置を例示する平面図であり、
図2は、本実施形態に係る半導体装置を例示する断面図であり、
図3は、本実施形態に係る半導体装置のDMOS領域を例示する断面図である。
本実施形態に係る半導体装置は、パワーICである。
【0011】
図1乃至図3に示すように、本実施形態に係る半導体装置1においては、導電型がP型であり、例えば単結晶のシリコン(Si)からなるP型基板2が設けられている。また、P型基板2上には、導電型がN型であり、例えば単結晶のシリコンからなるN型エピタキシャル層3がエピタキシャル成長により形成されている。一方、半導体装置1においては、CMOS領域C及びDMOS領域Dが設定されている。すなわち、半導体装置1はCDプロセスによって形成されており、CMOS領域C及びDMOS領域Dは同一のチップ上に形成されている。
【0012】
図2に示すように、CMOS領域C及びDMOS領域Dにおいて、P型基板2とN型エピタキシャル層3との間には、導電型がN型であるN型埋込層6が形成されている。また、N型エピタキシャル層3内におけるCMOS領域Cの周辺部及びDMOS領域Dの周辺部には、導電型がN型のN型分離領域7が形成されている。これにより、CMOS領域C及びDMOS領域Dは、N型埋込層6及びN型分離領域7によって他の領域から区画され、素子島となっている。
【0013】
CMOS領域CにはCMOSトランジスタ(図示せず)が形成されており、半導体装置1の制御系回路を構成している。この制御系回路は、例えば、電圧が3Vのデジタル信号によって作動し、これを出力する。一方、DMOS領域DにはLDMOSトランジスタ11が形成されており、半導体装置1の出力系回路を構成している。この出力系回路は、制御系回路の出力信号によって制御され、例えば、電圧が30Vのアナログ信号を導通させる。なお、図1及び図2においては、LDMOSトランジスタ11は図示を省略されている。
【0014】
図3に示すように、DMOS領域D(図1、図2参照)においては、P型基板2とN型エピタキシャル層3との間にN型埋込層6が埋め込まれている。また、N型エピタキシャル層3の表層部には、導電型がP型のP型ウェル8が形成されている。P型ウェル8はエピタキシャル成長によって形成されたものである。そして、P型ウェル8の表層部に、LDMOSトランジスタ11が形成されている。
【0015】
すなわち、P型ウェル8の表層部には、導電型がN型のソース層12及びドレイン層13とが相互に離隔して形成されている。ソース層12及びドレイン層13は、図3の紙面に対して垂直な方向にストライプ状に延びている。また、ソース層12と隣接して導電型がP型のP型層14が形成されている。更に、P型ウェル8の表層部におけるソース層12とドレイン層13との間には、ソース層12に接したチャネル層15と、ドレイン層13に接したドリフト層16とが形成されている。チャネル層15の導電型はP型であり、ドリフト層16の導電型はN型である。チャネル層15とドリフト層16とは接触しておらず、両層間にはP型ウェル8の部分8aが存在している。
【0016】
一方、ソース層12及びP型層14の直上には、金属又は合金からなるソース電極21が設けられており、ソース層12及びP型層14に接続されている。また、ドレイン層13の直上には、金属又は合金からなるドレイン電極22が設けられており、ドレイン層13に接続されている。更に、チャネル層15及びP型ウェル8の部分8aの直上には、ゲート絶縁膜(図示せず)が設けられており、その上にはゲート電極23が設けられている。ゲート電極23は、制御系回路を構成するCMOS領域C(図1参照)に接続されており、制御系回路の出力信号が入力される。また、ソース電極21及びドレイン電極22は、半導体装置1の外部端子に接続されている
【0017】
そして、本実施形態においては、P型ウェル8内におけるドレイン層13の直下域に、N型領域が形成されている。このN型領域は、ドレイン層13に接しており、N型エピタキシャル層3には接していない。具体的には、ドレイン層13の直下域には、N型領域の上層部分として、ドレイン層13に接するN型ベース層31が設けられており、N型ベース層31の直下域には、N型領域の下層部分として、N型ベース層31に接するディープN型ベース層32が設けられている。一例では、N型ベース層31は不純物の拡散によって形成されたものであり、ディープN型ベース層32はイオン注入によって形成されたものである。N型ベース層31、ディープN型ベース層32及びドリフト層16は、ドレイン層13を介してドレイン電極22に接続されている。そして、ディープN型ベース層32とN型エピタキシャル層3との間にはP型ウェル8が介在している。N型エピタキシャル層3とディープN型ベース層32との距離をWとする。
【0018】
一方、P型ウェル8内におけるソース層12の直下域には、P型領域が形成されている。このP型領域は、ソース層12に接しており、N型エピタキシャル層3には接していない。具体的には、ソース層12の直下域にはソース層12に接するP型ベース層33が設けられており、P型ベース層33の直下域にはP型ベース層33に接するディープP型ベース層34が設けられている。一例では、P型ベース層33は不純物の拡散によって形成されたものであり、ディープP型ベース層34はイオン注入によって形成されたものである。P型ベース層33及びディープP型ベース層34は、P型層14を介してソース電極21に接続されている。そして、ディープP型ベース層34とN型エピタキシャル層3との間にはP型ウェル8が介在している。
【0019】
以下、半導体装置1について、上述の層構造によって形成される電気的な構成について説明する。
半導体装置1においては、上述の構成により、ドレイン電極22に接続されているドレイン層13、N型ベース層31及びディープN型ベース層32からなるN型の領域と、P型ウェル8と、N型エピタキシャル層3及びN型埋込層6からなるN型の領域とから、NPN型の寄生縦BJT(Bipolar junction transistor:バイポーラトランジスタ)41が形成される。また、N型のソース層12と、P型ベース層33、ディープP型ベース層34及びP型ウェル8からなるP型の領域と、ドリフト層16及びドレイン層13からなるN型の領域とから、NPN型の寄生横BJT42が形成される。
【0020】
そして、半導体装置1においては、ドレイン層13の直下域にN型ベース層31及びディープN型ベース層32が設けられているため、これらの層を設けない場合と比較して、距離Wが短くなっている。これにより、ディープN型ベース層32とP型ウェル8との界面から生じた空乏層がN型エピタキシャル層3に到達しやすくなっている。そして、ディープN型ベース層32とP型ウェル8との界面から生じた空乏層がN型エピタキシャル層3に到達すると、(ディープN型ベース層32−P型ウェル8−N型エピタキシャル層3)の縦の経路にパンチスルー電流が流れる。すなわち、半導体装置1においては、ディープN型ベース層32とN型エピタキシャル層3との間に配置されたP型ウェル8のパンチスルー電圧VPTが低くなっている。素電荷量をqとし、シリコンの誘電率をεとするとき、上述のパンチスルー電圧VPTは、ポアソン方程式より、下記数式1のように求められる。
【0021】
【数1】

【0022】
一方、寄生横BJT42の動作電圧Vt1は、ソース層12の直下域の部分のシート抵抗によって決定される。半導体装置1においては、ソース層12の直下域にP型ベース層33及びディープP型ベース層34が設けられているため、これらの層を設けない場合と比較して、ソース層12の直下域におけるドーズ量が高くなっており、シート抵抗が低くなっている。これにより、ディープP型ベース層34内を電流が流れたときの電圧上昇が小さく、寄生横BJT42が動作しにくくなっている。すなわち、半導体装置1においては、寄生横BJT42の動作電圧(スナップアップ電圧)Vt1が高くなっている。この結果、動作電圧Vt1がパンチスルー電圧VPTよりも高くなっている。
【0023】
なお、ディープP型ベース層34のドーズ量を高くし過ぎると、P型ウェル8の部分8aにおけるp型不純物濃度が高くなり過ぎてしまい、LDMOSトランジスタ11の閾値電圧が上がってしまうので、ディープP型ベース層34のドーズ量の増加には限界がある。このため、ディープP型ベース層34を形成してシート抵抗を下げるだけでは、寄生横BJT42の動作電圧Vt1を十分に高くすることはできない。従って、VPT<Vt1とするためには、ディープN型ベース層32を形成してパンチスルー電圧VPTを低減することが必要である。
【0024】
そして、本実施形態に係る半導体装置1においては、LDMOSトランジスタ11の降伏電圧をBVdsとし、寄生縦BJT41の降伏電圧をVBVBJTとするとき、上述のパンチスルー電圧VPT及び寄生横BJT42の動作電圧Vt1との関係で、下記数式2が成立する。
【0025】
【数2】

【0026】
以下、上記数式2に記載の寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTについて説明する。P型ウェル8の不純物濃度をNとし、P型ウェル8とそれに接するN型領域との間のアバランシェ降伏電圧をVとし、シリコンのバンドギャップをEとすると、文献「”Physics of Semiconductor Devices”, S.M.Sze, p104」により、アバランシェ降伏電圧Vは、下記数式3の近似式で表わすことができる。なお、シリコンのバンドギャップEは、1.12eVである。
【0027】
【数3】

【0028】
但し、寄生縦BJT41においては、トランジスタ構造による増幅効果のために、降伏電圧は上記数式3で与えられるVの値よりも低くなる。寄生縦BJT41の降伏電圧をVBVBJTとし、寄生縦BJT41の増幅効果を表わす係数をMとすると、降伏電圧VBVBJTは下記数式4により与えられる。なお、本発明者等の実験では、Mを0.2程度にすると、降伏電圧VBVBJTの値が実測値とよく一致する。すなわち、一例では、M=0.2である。
【0029】
【数4】

【0030】
図4は、横軸にP型ウェルのドーズ量をとり、縦軸に各電圧をとって、半導体装置の動作を例示するグラフ図である。
なお、図4の横軸及び縦軸に示す数値は一例であり、本実施形態はこれらの数値には限定されない。
【0031】
図4の横軸に示すP型ウェル8のドーズ量QPWは、P型ウェル8の不純物濃度NとP型ウェル8の深さとの積によって与えられる。例えば、ドレイン層13の直下域においては、P型ウェル8の深さはWである。従って、上記数式1及び図4に示すように、パンチスルー電圧VPTとP型ウェル8のドーズ量QPWとの間には正の相関があり、Pウェル8のドーズ量が増大するほど、パンチスルー電圧VPTは増加する。一方、図4に示すLDMOSトランジスタ11の降伏電圧BVds、寄生横BJT42の動作電圧Vt1、及び寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTは、設計目標値であり、ドーズ量QPW以外の設計パラメータにより、所望の目標値に固定されている。そして、図4に示すように、ドーズ量QPWには上記数式1を満たすような範囲が存在し、P型ウェル8のドーズ量QPWはこの範囲にある。
【0032】
例えば、図4に示す例では、P型ウェル8のドーズ量QPWを2.3×1012cm−2よりも高くすることにより、パンチスルー電圧VPTがLDMOSトランジスタ11の降伏電圧BVdsよりも高くなる。一方、ドーズ量QPWを2.7×1012cm−2未満とすることにより、パンチスルー電圧VPTが寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTよりも低くなる。
【0033】
そして、パンチスルー電圧VPTが寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTよりも低くなるためのWの範囲は、上記数式2及び上記数式4を解くことによって、下記数式5のように与えられる。
【0034】
【数5】

【0035】
図5は、横軸にP型ウェルの不純物濃度Nをとり、縦軸にディープN型ベース層32とN型エピタキシャル層3との距離Wをとって、パンチスルー電圧VPTが寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTよりも低くなるような不純物濃度Nと距離Wとの関係を例示するグラフ図である。
図5に示す直線Lは、パンチスルー電圧VPTが寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTと等しくなる(VPT=VBVBJT)ような不純物濃度Nと距離Wとの関係を表わしており、図5における直線Lの左下側の領域が、VPT<VBVBJTとなるような不純物濃度Nと距離Wとの関係を表わしている。
本実施形態においては、P型ウェル8の不純物濃度N及び距離Wは、少なくとも上記数式5に示すような範囲に設計されており、例えば、図5において、直線Lの左下側の領域の関係を満たすように設計されている。
【0036】
また、本実施形態においては、上述の如く、半導体装置1の各部の寸法及び不純物濃度は、パンチスルー電圧VPTが寄生横BJT42の動作電圧Vt1よりも低くなるように設計されている。すなわち、寄生横BJT42の動作電圧Vt1が、パンチスルー電圧VPTと寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTとの間の大きさとなるように設計されている。
【0037】
次に、上述の如く構成された本実施形態に係る半導体装置1の動作について説明する。
半導体装置1の通常の動作時においては、LDMOSトランジスタ11のソース電極21とドレイン電極22との間(以下、「ソース・ドレイン間」という)に、半導体装置1の外部から電圧が印加される。そして、LDMOSトランジスタ11の動作により、ソース・ドレイン間に電流が流れる。
【0038】
一方、半導体装置1にESDが印加された場合は、以下のように動作する。LDMOSトランジスタ11のソース電極21及びドレイン電極22は、半導体装置1の外部端子に接続されているため、ESDが印加される可能性がある。上記数式2より、ソース・ドレイン間にESDが印加されたときに、ソース・ドレイン間の電圧がLDMOSトランジスタ11の降伏電圧BVdsを超えると、LDMOSトランジスタ11が降伏して導通する。また、ソース・ドレイン間の電圧がパンチスルー電圧VPTを超えると、P型ウェル8においてパンチスルーが発生し、(ディープN型ベース層32−P型ウェル8−N型エピタキシャル層3)からなる縦の経路に沿ってESDが流れる。これにより、ESDはN型エピタキシャル層3及びN型埋込層6に放出される。N型エピタキシャル層3及びN型埋込層6はLDMOSトランジスタ11を構成する各層と比べると面積が大きいため、ESDが流れることによって破壊されることはない。
【0039】
そして、上述の縦の経路をESD電流が流れることにより、ソース・ドレイン間の電圧は低下する。半導体装置1においては、寄生横BJT42の動作電圧(スナップバック電圧)Vt1がパンチスルー電圧VPTよりも高く、また、寄生横BJT42をスナップバックさせるLDMOSトランジスタ11の降伏電流が減少するため、寄生横BJT42がスナップバックしにくい。このため、ESDが、(ソース層12−P型ベース層33−ディープP型ベース層34−P型ウェル8−ドリフト層16−ドレイン層13)からなる横の経路に集中して流れることがない。また、半導体装置1においては、寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTがパンチスルー電圧VPTよりも高いため、寄生縦BJT41が降伏することもない。
【0040】
次に、本実施形態の効果について説明する。
上述の如く、本実施形態に係る半導体装置1においては、ソース・ドレイン間にESDが入力されたときに、このESDは、微細構造が形成された半導体装置1の表層部分を流れることなく、N型エピタキシャル層3及びN型埋込層6に逃がされるため、半導体装置1が破壊されることがない。この結果、本実施形態によれば、ESD耐性が高い半導体装置を得ることができる。
【0041】
以下、この効果を比較例と比較して説明する。
図6は、比較例に係る半導体装置を例示する断面図である。
図6に示すように、比較例に係る半導体装置101においては、上述の本実施形態に係る半導体装置1(図3参照)と比較して、ソース層12の直下域にディープP型ベース層34が設けられておらず、また、ドレイン層13の直下域にN型ベース層31及びディープN型ベース層32が設けられていない。半導体装置101における上記以外の構成は、半導体装置1と同様である。
【0042】
半導体装置101においては、N型ベース層31及びディープN型ベース層32が設けられていないため、半導体装置1(図3参照)と比較して、(ドレイン層13−P型ウェル8−N型エピタキシャル層3)からなる縦の経路のパンチスルー電圧VPTが高い。また、ディープP型ベース層34が設けられていないため、半導体装置1(図3参照)と比較して、ソース層12の直下域におけるドーズ量が低く、シート抵抗が高い。このため、寄生横BJT42の動作電圧(スナップアップ電圧)Vt2は、パンチスルー電圧VPTよりも低い。この結果、比較例に係る半導体装置101においては、寄生横BJT42の動作電圧Vt2、パンチスルー電圧VPT、LDMOSトランジスタ11の降伏電圧BVds、及び寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTとの間に、下記数式6が成立する。例えば、半導体装置101においては、寄生横BJT42の動作電圧Vt2は、LDMOSトランジスタ11の降伏電圧BVdsよりも5V程度高いだけである。
【0043】
【数6】

【0044】
上記数式6より、半導体装置101においては、ソース・ドレイン間にESDが印加されると、ドレイン層13とN型エピタキシャル層3との間でパンチスルーが発生するよりも先に、寄生横BJT42がスナップバックしてしまい、半導体装置101の表層部分に横方向に電流が流れてしまう。これにより、半導体装置101の表層部分に形成された微細構造が破壊されてしまう。
【0045】
図7は、横軸にLDMOSトランジスタのソース・ドレイン間に印加される電圧をとり、縦軸にソース・ドレイン間に流れる電流をとって、本実施形態に係る半導体装置の特性を比較例と比較して例示するグラフ図である。図7に示す実線Lは本実施形態に係る半導体装置1の動作を示しており、破線Lは比較例に係る半導体装置101の動作を示している。
【0046】
図7に示すように、本実施形態においては、寄生横BJTの動作電圧Vt1が、比較例における寄生横BJTの動作電圧Vt2よりも高い。また、比較例に係る半導体装置101に動作電圧Vt2が印加されたときに流れる電流It2は、寄生横BJT42に流れる電流のみであるが、本実施形態に係る半導体装置1に動作電圧Vt1が印加されたときに流れる電流It1は、寄生横BJT42に流れる電流と(ディープN型ベース層32−P型ウェル8−N型エピタキシャル層3)からなる縦の経路に流れるパンチスルー電流との合計値である。
【0047】
このように、本実施形態によれば、ドレイン層13の直下域にN型ベース層31及びディープN型ベース層32を設け、ソース層12の直下域にP型ベース層33及びディープP型ベース層34を設けることにより、これらの層を設けない場合と比較して、ESD耐性を向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態に係る半導体装置1によれば、N型エピタキシャル層3とドレイン層13との間にP型ウェル8が設けられているため、通常動作時においては、ドレイン層13はN型エピタキシャル層3に接続されない。このため、P型基板2とN型エピタキシャル層3との界面に形成されるキャパシタが、ソース・ドレイン間の電圧の変動に伴って充放電されることがなく、高速動作が可能である。
【0049】
更に、前述の本実施形態においては、ソース層12とディープP型ベース層34との間にP型ベース層33を設け、ドレイン層13とディープN型ベース層32との間にN型ベース層31を設けているため、ディープP型ベース層34及びディープN型ベース層32をそれぞれソース層12及びドレイン層13に接続させつつ、深く形成することができる。但し、ディープP型ベース層34をソース層12に直接接続できる場合には、P型ベース層33は省略可能である。同様に、ディープN型ベース層32をドレイン層13に直接接続できる場合には、N型ベース層31は省略可能である。
【0050】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。例えば、前述の実施形態に係る半導体装置の導電型を反転させた半導体装置も、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体装置を例示する平面図である。
【図2】本実施形態に係る半導体装置を例示する断面図である。
【図3】本実施形態に係る半導体装置のDMOS領域を例示する断面図である。
【図4】横軸にP型ウェルのドーズ量をとり、縦軸に各電圧をとって、半導体装置の動作を例示するグラフ図である。
【図5】横軸にP型ウェルの不純物濃度Nをとり、縦軸にディープN型ベース層32とN型エピタキシャル層3との距離Wをとって、パンチスルー電圧VPTが寄生縦BJT41の降伏電圧VBVBJTよりも低くなるような不純物濃度Nと距離Wとの関係を例示するグラフ図である。
【図6】比較例に係る半導体装置を例示する断面図である。
【図7】横軸にLDMOSトランジスタのソース・ドレイン間に印加される電圧をとり、縦軸にソース・ドレイン間に流れる電流をとって、本実施形態に係る半導体装置の特性を比較例と比較して例示するグラフ図である。
【符号の説明】
【0052】
1 半導体装置、2 P型基板、3 N型エピタキシャル層、6 N型埋込層、7 N型分離領域、8 P型ウェル、8a 部分、11 LDMOSトランジスタ、12 ソース層、13 ドレイン層、14 P型層、15 チャネル層、16 ドリフト層、21 ソース電極、22 ドレイン電極、23 ゲート電極、31 N型ベース層、32 ディープN型ベース層、33 P型ベース層、34 ディープP型ベース層、41 寄生縦BJT、42 寄生横BJT、C CMOS領域、D DMOS領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられた第2導電型の半導体層と、
前記半導体層上に設けられた第1導電型のウェルと
前記ウェルの表層に相互に離隔して設けられた第2導電型のソース層及びドレイン層と、
前記ウェルにおける前記ドレイン層の直下域に形成され、前記ドレイン層に接続された第2導電型のベース層と、
を備え、
前記ベース層と前記半導体層との間に配置された前記ウェルのパンチスルー電圧は、前記ソース層、前記ウェル及び前記ドレイン層からなる寄生横バイポーラトランジスタの動作電圧よりも低いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記ウェルにおける前記ソース層の直下域に形成され、前記ソース層に接続された第1導電型のベース層と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体層と前記第2導電型のベース層との間の距離をWとし、前記ウェルの不純物濃度をNとし、前記ウェルを形成する半導体材料のバンドギャップをEとし、前記半導体材料の誘電率をεとし、素電荷量をqとし、前記第2導電型のベース層、前記ウェル及び前記半導体層からなる寄生縦バイポーラトランジスタの増幅効果を表わす係数をMとするとき、下記数式が成立することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。

【請求項4】
前記第2導電型のベース層は、
イオン注入により形成された下層部分と、
不純物の拡散により前記下層部分と前記ドレイン層との間に形成され、前記下層部分及び前記ドレイン層に接続された上層部分と、
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体基板上にはCMOS領域及びDMOS領域が設定されており、前記ソース層及びドレイン層は、前記DMOS領域に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−124085(P2009−124085A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299479(P2007−299479)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】