説明

原子層成長装置および原子層成長方法

【課題】紫外線を利用して、プラズマによるダメージの少ない良質な膜を基板上に形成することができる原子層成長装置を提供する。
【解決手段】原子層成長装置は、原料ガスおよび酸化ガスが供給される成膜容器と、成膜容器の成膜室内に配設された、基板が載置される基板ステージと、成膜容器の、成膜室の上方に位置するプラズマ発生室内に配設された、紫外線を発生するプラズマを生成するプラズマ源と、プラズマ発生室と成膜室とを区切るように成膜容器内に配設された、プラズマ発生室から成膜室に紫外線を透過させる紫外線透過板と、を備えている。成膜容器内に供給されたガスは、紫外線透過板を透過した紫外線により活性化されて基板上に酸化膜が生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に原子層単位で薄膜を形成する原子層成長(以下、省略してALD(Atomic Layer Deposition)ともいう)装置および原子層成長方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ALD法は、形成しようとする膜を構成する元素を主成分とする2種類のガスを成膜対象基板上に交互に供給し、基板上に原子層単位で薄膜を形成することを複数回繰り返して所望厚さの膜を形成する薄膜形成技術である。例えば、基板上にSiO2膜を形成する場合、Siを含む原料ガスとOを含む酸化ガスが用いられる。また、基板上に窒化膜を形成する場合、酸化ガスの代わりに窒化ガスが用いられる。
【0003】
ALD法では、原料ガスを供給している間に1層あるいは数層の原料ガスだけが基板表面に吸着され、余分な原料ガスは成長に寄与しない。これを、成長の自己停止作用(セルフリミット機能)という。
【0004】
ALD法は、一般的なCVD(Chemical Vapor Deposition)法と比較して高い段差被覆性と膜厚制御性を併せ持ち、メモリ素子のキャパシタや、「high-kゲート」と呼ばれる絶縁膜の形成への実用化が期待されている。また、300℃程度の低温で絶縁膜が形成可能であるため、液晶ディスプレイなどのように、ガラス基板を用いる表示装置の薄膜トランジスタのゲート絶縁膜の形成への適用なども期待されている。
【0005】
以下、従来のALD装置について説明する。
【0006】
図2は、従来のALD装置の構成を表す一例の概略図である。同図に示すALD装置70は、成膜容器(成膜チャンバ)12と、ガス供給部14aと、排気部16aとによって構成されている。
【0007】
成膜容器12は、金属製の中空箱形であり、接地されている。成膜容器12の内部には、上壁側から下壁側に向かって順に、複数のアンテナ素子26からなるアンテナアレイ28、ヒータ30を内蔵する基板ステージ32が配設されている。アンテナアレイ28は、複数のアンテナ素子26を所定の間隔で平行に配設することによって構成される仮想平面が基板ステージ32と平行に配設されている。
【0008】
アンテナ素子26は、図3に上方からの平面図を示すように、高周波電力の波長の(2n+1)/4倍(nは0または正の整数)の長さの導電体からなる棒状のモノポールアンテナ(アンテナ本体)39が、誘電体からなる円筒部材40に収納されたものである。高周波電力供給部34で発生された高周波電力が分配器36で分配され、各々のインピーダンス整合器38を介して各々のアンテナ素子26に供給されると、アンテナ素子26の周囲にプラズマが発生される。
【0009】
各々のアンテナ素子26は、本出願人が特許文献1で提案したものであり、例えば、供給孔20bから基板ステージ32に向けて供給される酸化ガスのガス流の方向に対して直交する方向に延びるように、電気的に絶縁されて成膜容器12側壁に取り付けられている。また、各々のアンテナ素子26は、所定の間隔で平行に配設されており、隣接して配設されたアンテナ素子26間の給電位置が互いに対向する側壁になるように配設されている。
【0010】
次に、ALD装置70の成膜時の動作を説明する。
【0011】
成膜時には、基板ステージ32上面に基板42が載置される。また、基板ステージ32がヒータ30で加熱され、基板ステージ32上に載置された基板42は、成膜が終了するまで所定の温度に保持される。
【0012】
例えば、基板表面にSiO2膜を形成する場合、成膜容器12内が排気部16aにより水平方向に真空引きされた後、Si成分を含む原料ガスが、ガス供給部14aから、供給管18a、成膜容器12の左壁に形成された供給孔20aを介して成膜容器12内へ水平方向に供給される。これにより、基板42表面に原料ガスが供給され、吸着される。なお、この時、アンテナ素子26によりプラズマは発生されない。
【0013】
続いて、原料ガスの供給が停止され、基板42表面に吸着された原料ガス以外の余剰の原料ガスが、排気部16aにより、成膜容器12から、成膜容器12の右壁に形成された排気孔24a、排気管22aを介して水平方向へ排気される。
【0014】
続いて、酸化ガスが、ガス供給部14aから、供給管18b、成膜容器12の左壁に形成された供給孔20bを介して成膜容器12内に水平方向に供給される。この時同時に、高周波電力供給部34から高周波電力が各々のアンテナ素子26に供給される。これにより、各々のアンテナ素子26の周囲に酸化ガスを用いてプラズマが発生され、基板42表面に吸着された原料ガスが酸化される。
【0015】
その後、酸化ガスの供給およびアンテナ素子26への高周波電力の供給が停止され、酸化に寄与しない余剰の酸化ガスや反応生成物等が、排気部16aにより、成膜容器12の右壁に形成された排気孔24a、排気管22aを介して水平方向に排気される。
【0016】
以上のように、原料ガスの供給→余剰原料ガスの排気→酸化ガスの供給→余剰酸化ガスの排気からなる一連の工程により、基板42上にSiO2膜が原子層単位で形成される。この工程を数回繰り返すことにより、基板42上に所定膜厚のSiO2膜が形成される。
【0017】
【特許文献1】特開2003−86581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記ALD装置70のように、プラズマを用いて酸化ガスの反応活性を高めるALD装置では、基板上に形成された膜のプラズマによるダメージが問題となっている。これに対し、従来、光を利用して活性酸素を生成する手法は存在していたが、大面積かつ均一であり、しかも効率的に紫外線(UV)(真空紫外線(VUV)を含む)を発生させられる光源を搭載したALD装置は存在していなかった。
【0019】
本発明の第1の目的は、前記従来技術の問題点を解消し、紫外線を利用して、プラズマによるダメージの少ない良質な膜を基板上に形成することができる原子層成長装置および原子層成長方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、上記第1の目的に加えて、反応ガスを活性化させるために、大面積かつ均一であり、しかも効率的に紫外線を発生させることができる光源を備える原子層成長装置および原子層成長方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、原料ガスと酸化ガスとを交互に供給して、基板上に酸化膜を生成する原子層成長装置であって、
原料ガスおよび酸化ガスが供給される成膜容器と、前記成膜容器の成膜室内に配設された、前記基板が載置される基板ステージと、前記成膜容器の、前記成膜室の上方に位置するプラズマ発生室内に配設された、紫外線を発生するプラズマを生成するプラズマ源と、前記プラズマ発生室と前記成膜室とを区切るように前記成膜容器内に配設された、前記プラズマ発生室から前記成膜室に前記紫外線を透過させる紫外線透過板と、を備え、
前記成膜容器内に供給されたガスが、前記紫外線透過板を透過した紫外線により活性化されて酸化膜が生成されることを特徴とする原子層成長装置を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、原料ガスと窒化ガスとを交互に供給して、基板上に窒化膜を生成する原子層成長装置であって、
原料ガスおよび窒化ガスが供給される成膜容器と、前記成膜容器の成膜室内に配設された、前記基板が載置される基板ステージと、前記成膜容器の、前記成膜室の上方に位置するプラズマ発生室内に配設された、紫外線を発生するプラズマを生成するプラズマ源と、前記プラズマ発生室と前記成膜室とを区切るように前記成膜容器内に配設された、前記プラズマ発生室から前記成膜室に前記紫外線を透過させる紫外線透過板と、を備え、
前記成膜容器内に供給されたガスが、前記紫外線透過板を透過した紫外線により活性化されて窒化膜が生成されることを特徴とする原子層成長装置を提供する。
【0022】
ここで、前記プラズマ源は、複数のアンテナ素子が平行に配設されて構成されたアンテナアレイであり、前記複数のアンテナ素子の各々は、棒状のアンテナ本体が誘電体で被覆されていることが好ましい。
【0023】
さらに、前記紫外線透過板は、石英、MgF2ガラス、CaF2ガラス、および、LiFガラスのうちのいずれかで構成されていることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、成膜容器の成膜室に、原料ガスと酸化ガスとを交互に供給して、基板上に酸化膜を生成する原子層成長方法であって、
前記成膜容器のプラズマ発生室内において、紫外線を発生するプラズマを生成し、
前記プラズマ発生室と前記成膜室とを区切るように前記成膜容器内に配設された紫外線透過板を介して、前記プラズマ発生室から前記成膜室に透過した紫外線により、前記成膜容器内に供給されたガスを活性化して前記基板上に酸化膜を生成することを特徴とする原子層成長方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、成膜容器の成膜室に、原料ガスと窒化ガスとを交互に供給して、基板上に窒化膜を生成する原子層成長方法であって、
前記成膜容器のプラズマ発生室内において、紫外線を発生するプラズマを生成し、
前記プラズマ発生室と前記成膜室とを区切るように前記成膜容器内に配設された紫外線透過板を介して、前記プラズマ発生室から前記成膜室に透過した紫外線により、前記成膜容器内に供給されたガスを活性化して前記基板上に窒化膜を生成することを特徴とする原子層成長方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、紫外線透過板でプラズマ発生室と成膜室とが区切られており、プラズマ発生室内でプラズマを生成し、成膜室内でプラズマを生成していないので、形成された膜のプラズマによるダメージが極めて少なく、均一で良質な膜を得ることができる。また、本発明では、プラズマ源が成膜室内にないため、成膜室内は凹凸がほとんどなく、パーティクルの問題も大幅に軽減することができる。
【0027】
また、本発明では、例えば、プラズマによって発生された紫外線で酸化ガスを活性化して原料ガスの酸化膜を形成する。紫外線で活性化された酸化に寄与するラジカルは強い酸化力を持っているため、従来よりも膜質の良好な膜を形成できる。言い換えると、膜質の等しい膜を形成する場合、本発明であれば、従来のALD装置と比べて低い温度で膜を形成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の原子層成長装置および原子層成長方法を詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明のALD方法を適用するALD装置の構成を表す一実施形態の概略図である。同図に示すALD装置10は、ALD法を適用して、形成しようとする膜を構成する元素を主成分とする2種類の成膜ガス(原料ガス、および、酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガス)を成膜対象基板上に交互に供給する。その時、反応活性を高めるために、酸素ガスないし窒素ガスを用いて紫外線を発生するプラズマを生成して、基板上に原子層単位で原料ガスの酸化膜ないし窒化膜を形成する。上記処理を1サイクルとして、処理を複数サイクル繰り返すことにより所望厚さの膜を形成する。
【0030】
ALD装置10は、成膜容器12と、ガス供給部14a、14bと、真空ポンプなどの排気部16a、16b、17とによって構成されている。以下、基板42上に酸化膜を形成する場合を例に挙げて説明するが、窒化膜の場合も同様である。
【0031】
ここで、ガス供給部14bは、供給管18cを介して、成膜容器12(後述するプラズマ発生室47)の一方の側壁(図中左壁)に形成された供給孔20cに接続されている。ガス供給部14bは、供給管18cおよび供給孔20cを介して、プラズマ発生室47内に酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスを水平方向に供給する。酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスは、成膜時に所定の流量で常時供給される。
【0032】
また、排気部16bは、排気管22bを介して、プラズマ発生室47の左壁に対向する側壁(図中右壁)に形成された排気孔24bに接続されている。排気部16bは、排気孔24bおよび排気管22bを介して、プラズマ発生室47内に供給された酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスを水平方向に排気する。成膜時にプラズマ発生室47内に供給された酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスは所定の流量で常時排気される。
【0033】
ガス供給部14aは、それぞれ、供給管18a、18bを介して、成膜容器12(後述する成膜室48)の一方の側壁(図中左壁)に形成された供給孔20a、20bに接続されている。ガス供給部14aは、供給管18aおよび供給孔20aを介して、成膜室48内に原料ガスを水平方向に供給する、ないしは、供給管18bおよび供給孔20bを介して、成膜室48内に、例えば、酸素ガスやオゾンガスなどの酸化ガスを水平方向に供給する。原料ガスと酸化ガスの供給は交互に行われる。
【0034】
一方、排気部16aは、排気管22aを介して、成膜室48の、左壁に対向する側壁(図中右壁)に形成された排気孔24aに接続されている。排気部16aは、排気孔24aおよび排気管22aを介して、成膜室48内に交互に供給された原料ガスおよび酸化ガスを水平方向に排気する。また、排気部17は、排気管23を介して、成膜容器12(後述する真空室(ロードロック室)50)の下壁に形成された排気孔25に接続されている。排気部17は、基本的に、排気孔25および排気管23を介して真空室50を真空引きする。
【0035】
図示省略しているが、供給管18a、18bの途中には、ガス供給部14aと成膜室48との導通を制御する開閉弁(例えば、電磁弁)が設けられ、排気管22a,23の途中には、それぞれ、排気部16a,17と成膜室48および真空室50との導通を制御する開閉弁が設けられている。
【0036】
ガス供給部14aから成膜容器12の成膜室48内にガスを供給する場合には供給管18a、18bのいずれかの開閉弁が開放され、成膜室48内に供給されたガスを排気する。また、成膜容器12の真空室50を真空引きする場合には排気管23の開閉弁が開放される。
【0037】
成膜容器12は、金属製の中空箱形であり、接地されている。成膜容器12の内部には、上壁側から下壁側に向かって順に、棒状の複数のアンテナ素子26からなるアンテナアレイ28、紫外線透過板52、ヒータ30を内蔵する基板ステージ32が配設されている。また、成膜容器12の内部空間は、上壁側から下壁側に向かって順に、プラズマ発生室47、成膜室48、真空室50に分離されている。
【0038】
アンテナアレイ28は、ガス供給部14bから供給された酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスを用いて、紫外線を発生するプラズマを生成するプラズマ源である。アンテナアレイ28は、プラズマ発生室47内に配設され、複数のアンテナ素子26が、図1中、プラズマ発生室47の左右の側壁の間に所定の間隔で平行に配設されて構成されている。各々のアンテナ素子26は、基板ステージ32の面(基板42の載置面)と平行な方向に配置され、複数のアンテナ素子26の配列方向は、基板ステージ32の載置面と平行な方向である。
【0039】
図3に示すように、高周波電力供給部34で発生されたVHF帯(例えば、80MHz)の高周波電力(高周波電流)が分配器36で分配され、インピーダンス整合器38を介して、各々のアンテナ素子26に供給される。インピーダンス整合器38は、高周波電源供給部34が発生する高周波電力の周波数の調整とともに用いられ、プラズマの生成中にアンテナ素子26の負荷の変化によって生じるインピーダンスの不整合を是正する。
【0040】
各々のアンテナ素子26は、本出願人が特許文献1で提案したものであり、図1中、紙面に垂直な方向に延びるように、電気的に絶縁されて成膜容器12側壁に取り付けられている。また、隣接するアンテナ素子26間の給電位置が互いに対向する側壁になるように(給電方向が互いに逆向きになるように)配設されている。これにより、電磁波はアンテナアレイ28の仮想平面にわたって均一に形成される。
【0041】
各々のアンテナ素子26は、例えば、銅、アルミニウム、白金等の導電体からなる棒状のモノポールアンテナが、例えば、石英やセラミックスなどの誘電体からなる円筒部材40に収納されて構成されている。アンテナを誘電体で覆うことにより、アンテナとしての容量とインダクタンスが調整され、その長手方向に沿って高周波電力を効率よく伝播させることができ、アンテナ素子26から周囲に電磁波を効率よく放射させることができる。
【0042】
アンテナ素子26の長手方向の電界強度は、高周波電力の供給端でゼロ、先端部(供給端の逆端)で最大となる。従って、隣接するアンテナ素子26間の給電位置が互いに対向する側壁になるように配設し、それぞれのアンテナ素子26に、互いに反対方向から高周波電力を供給することにより、それぞれのアンテナ素子26から放射される電磁波が合成されて均一なプラズマが形成され、膜厚が均一な膜を形成することができる。
【0043】
例えば、アンテナ素子26の直径は約6mm、隣接するアンテナ素子26間の間隔は約50mmである。成膜容器12内の圧力が20Pa程度の場合、高周波電力供給部34から約1500Wの高周波電力を供給すると、アンテナ素子26のアンテナ長が、高周波電力の波長の(2n+1)/4倍(nは0または正の整数)に等しい場合に定在波が生じて共振し、アンテナ素子26の周囲にプラズマが発生される。
【0044】
続いて、紫外線透過板52は、アンテナアレイ28によりプラズマ発生室47内で発生されたプラズマによる紫外線を、プラズマ発生室47から成膜室48に透過させるものである。紫外線透過板52は、プラズマ発生室47と成膜室48とを区切る(仕切る)ように成膜容器12内に配設されている。ALD装置10では、成膜容器12の内部において、紫外線透過板52よりも上壁側の空間がプラズマ発生室47であり、下壁側の空間が成膜室48である。
【0045】
紫外線透過板52の材料(材質)は、紫外線を透過させることができれば何ら制限はなく、例えば、石英(合成石英を含む)や、MgF2ガラス、CaF2ガラス、LiFガラスなどを例示できる。なお、紫外線が透過する材料かどうかは、その材料のバンドギャップによって判断できる。バンドギャップのエネルギーが大きいほど吸収する光の波長は短くなるので、波長400nm以下である紫外線を透過させることができるバンドギャップエネルギーを持つ材料であれば、どのような材料であっても使用できる。例えば、オゾンガスの吸収帯は200〜300nm付近であり、この波長を透過できる材料なら良い。
【0046】
続いて、基板ステージ32は、成膜容器12の内壁面よりも小さい寸法の、例えば矩形の金属板であり、パワーシリンダなどの昇降機構44により上下に昇降される。成膜容器12内部には、側壁の内壁面から中心部に向かって突出するヒータストッパ(すなわち、基板ステージ32のストッパ)46が設けられている。基板ステージ32の縁部上面には、ヒータストッパ46の側面の高さに相当するL字型の段差が設けられている。
【0047】
基板ステージ32が上昇されると、ヒータストッパ46下面と基板ステージ32縁部上面の段差部とが当接して、基板ステージ32上面の高さが、ヒータストッパ46上面の高さと略同一高さ(面一)となるように位置決めされる。この時、成膜容器12の内部は、基板ステージ32よりも上側の空間である成膜室48と、基板ステージ32の下側の空間である真空室50とに分離され、真空室50内が排気部17により真空引きされることによって、成膜室48は密閉される。
【0048】
図1に示すように、基板ステージ32の上面を含む、成膜室48の下壁は、基板42上に所定の膜を形成する時に面一となるように形成されている。
【0049】
一方、基板ステージ32が下降されると、ヒータストッパ46下面と基板ステージ32縁部上面の段差部との間には所定間隔の隙間51ができる。成膜室48に供給された原料ガス等の排気時に基板ステージ32を下降させることによって、成膜室48内に供給された成膜ガスを、この隙間51から、もしくは、この隙間51および排気孔24aの両方から排気させることも可能である。隙間51の寸法は排気孔24aの寸法に比べて大きいため、成膜ガスを成膜室48から高速に排気することができる。
【0050】
次に、ALD装置10の成膜時の動作を説明する。
以下の説明は、縦370mm×横470mm角の基板42表面にSiO2膜を形成した場合の一例である。
【0051】
成膜時には、昇降機構44により、基板ステージ32が下降され、真空室50内において基板ステージ32上面に基板42が載置される。その後、基板ステージ32は、基板ステージ32縁部上面がヒータストッパ46下面に当接する位置まで上昇され、排気部17により真空室50が真空引きされて成膜室48が密閉される。また、基板ステージ32がヒータ30で加熱され、基板ステージ32上に載置された基板42は、成膜が終了するまで所定の温度、例えば、400℃程度に保持される。また、酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスが、ガス供給部14bからプラズマ発生室47内に水平方向に常時供給されつつ、水平方向に常時排気される。
【0052】
成膜室48内が排気部16aにより水平方向に真空引きされて、2〜3Pa程度の圧力とされた後、ガス供給部14aから成膜室48内に、Siを含む原料ガスが約1秒間水平方向へ供給され、20Pa程度の圧力とされる。これにより、基板42表面に原料ガスが吸着される。なお、この時、アンテナアレイ28によりプラズマは発生されない。
【0053】
続いて、原料ガスの供給が停止され、基板42表面に吸着された原料ガス以外の余剰の原料ガスが、排気部16aにより成膜室48から約1秒間水平方向へ排気される。この時、ガス供給部14aから、供給管18aおよび供給孔20aを介して成膜室48内にパージガス(不活性ガス)を供給しながら、排気部16aにより、成膜室48内に供給された原料ガスを排気しても良い。
【0054】
続いて、ガス供給部14aから成膜室48内部へ酸化ガスが約1秒間水平方向へ供給される。この時同時に、高周波電力供給部34から各々のアンテナ素子26に約1500Wの高周波電力が供給される。これにより、アンテナアレイ28により、酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスのプラズマが生成され、そのプラズマによって発生された紫外線が、紫外線透過板52を透過してプラズマ発生室47から成膜室48に供給される。成膜室48内では、紫外線により、酸化ガスが活性化され、酸素ラジカル(酸素の中性ラジカル)が生成される。酸化に寄与するラジカルは基板42表面の全域に拡散され、基板42表面に吸着された原料ガスが酸化されてSiO2膜が形成される。
【0055】
その後、酸化ガスの供給およびアンテナ素子26への高周波電力の供給(すなわち、プラズマの発生)が停止され、酸化に寄与しない余剰の酸化ガスや反応生成物等が排気部16aにより成膜室48から約1秒間水平方向に排気される。この時、ガス供給部14aから、供給管19および供給孔21を介して成膜室48内にパージガスを供給しながら、排気部16aにより、成膜室48内に供給された酸化ガスを排気しても良い。
【0056】
以上のように、原料ガスの供給→余剰原料ガスの排気→酸化ガスの供給→余剰酸化ガスの排気からなる一連の工程により、基板42上にSiO2膜が原子層単位で形成される。この工程を数回繰り返すことにより、基板42上に所定膜厚のSiO2膜が形成される。
【0057】
ALD装置10では、酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスを用いてプラズマを生成し、そのプラズマによって発生された紫外線で酸化ガスを活性化して酸素ラジカルを発生し、原料ガスの酸化膜を形成する。紫外線で活性化(励起)された酸素ラジカルは強い酸化力を持っているため、従来よりも膜質の良好な膜を形成することができる。言い換えると、膜質の等しい膜を形成する場合、ALD装置10であれば、従来のALD装置と比べて低い温度で膜を形成することが可能である。
【0058】
また、ALD装置10では、プラズマ発生室47において、酸素ガスや窒素ガス、およびアルゴン、キセノンなどの希ガスを用いてプラズマを生成しているので、つまり、成膜室48内で酸化ガスを用いてプラズマを生成していないので、形成された膜のプラズマによるダメージが極めて少なく、均一で良質な膜を得ることができる。さらに、ALD装置10では、プラズマ源が成膜室48内にないため、成膜室48内には凹凸がほとんどなく、パーティクルの問題も大幅に軽減することができる。
【0059】
なお、本発明において形成する膜は何ら限定されない。また、原料ガスは、形成する膜に応じて適宜決定すべきものである。また、基板上に膜を形成する場合、プラズマ発生室内の圧力、温度、ガス流量、紫外線を発生するプラズマを生成するためのガスなどは、形成する膜の膜種、成膜容器および基板の寸法等に応じて適宜決定すべきものである。同様に、成膜室内の圧力、温度、処理時間、ガス流量などは、形成する膜の膜種、成膜容器および基板の寸法等に応じて適宜決定すべきものであり、上記実施形態に限定されない。
【0060】
基板上に酸化膜を形成する場合、反応ガスの1つとしてOを含む酸化ガスが用いられ、窒化膜を形成する場合、反応ガスの1つとしてNを含む窒化ガスが用いられる。原料ガスは、酸化膜を形成する場合、形成する酸化膜を構成する元素のうち、O以外の元素を主成分とする反応ガスである。また、原料ガスは、窒化膜を形成する場合、形成する窒化膜を構成する元素のうち、N以外の元素を主成分とする反応ガスである。酸化ガスとしては、反応活性の高いオゾンを用いる方が酸化効率が良く望ましい。
【0061】
アンテナ素子の本数、配置、寸法等に制限はないが、発生されるプラズマの均一性を考慮して、隣接するアンテナ素子間で給電位置が互いに対向する側壁になるように配設することが望ましい。プラズマの生成タイミングは、少なくとも酸化ガスを供給している期間であるが、常時プラズマを生成しても問題はない。プラズマ源は、大面積の場合はアンテナアレイ方式が望ましいが、面積の問題がなければ、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)方式など、どのようなプラズマ源でも利用可能である。
【0062】
また、本発明のALD装置において、昇降機構44および真空室50は必須の構成要素ではない。
【0063】
本発明は、基本的に以上のようなものである。
以上、本発明の原子層成長装置および原子層成長方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の原子層成長方法を適用する原子層成長装置の構成を表す一実施形態の概略図である。
【図2】従来の原子層成長装置の構成を表す一例の概略図である。
【図3】アンテナアレイの構成を表す平面概略図である。
【符号の説明】
【0065】
10,70 原子層成長装置(ALD装置)
12 成膜容器
14a、14b ガス供給部
16a、16b、17 排気部
18a、18b、18c 供給管
20a、20b、20c 供給孔
22a、22b、23 排気管
24a、24b、25 排気孔
26 アンテナ素子
28 アンテナアレイ
30 ヒータ
32 基板ステージ
34 高周波電力供給部
36 分配器
38 インピーダンス整合器
39 アンテナ本体
40 円筒部材
42 成膜対象基板(基板)
44 昇降機構
46 ヒータストッパ
47 プラズマ発生室
48 成膜室
50 真空室
51 隙間
52 紫外線透過板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスと酸化ガスとを交互に供給して、基板上に酸化膜を生成する原子層成長装置であって、
原料ガスおよび酸化ガスが供給される成膜容器と、前記成膜容器の成膜室内に配設された、前記基板が載置される基板ステージと、前記成膜容器の、前記成膜室の上方に位置するプラズマ発生室内に配設された、紫外線を発生するプラズマを生成するプラズマ源と、前記プラズマ発生室と前記成膜室とを区切るように前記成膜容器内に配設された、前記プラズマ発生室から前記成膜室に前記紫外線を透過させる紫外線透過板と、を備え、
前記成膜容器内に供給されたガスが、前記紫外線透過板を透過した紫外線により活性化されて酸化膜が生成されることを特徴とする原子層成長装置。
【請求項2】
原料ガスと窒化ガスとを交互に供給して、基板上に窒化膜を生成する原子層成長装置であって、
原料ガスおよび窒化ガスが供給される成膜容器と、前記成膜容器の成膜室内に配設された、前記基板が載置される基板ステージと、前記成膜容器の、前記成膜室の上方に位置するプラズマ発生室内に配設された、紫外線を発生するプラズマを生成するプラズマ源と、前記プラズマ発生室と前記成膜室とを区切るように前記成膜容器内に配設された、前記プラズマ発生室から前記成膜室に前記紫外線を透過させる紫外線透過板と、を備え、
前記成膜容器内に供給されたガスが、前記紫外線透過板を透過した紫外線により活性化されて窒化膜が生成されることを特徴とする原子層成長装置。
【請求項3】
前記プラズマ源は、複数のアンテナ素子が平行に配設されて構成されたアンテナアレイであり、前記複数のアンテナ素子の各々は、棒状のアンテナ本体が誘電体で被覆されていることを特徴とする請求項1または2に記載の原子層成長装置。
【請求項4】
前記紫外線透過板は、石英、MgF2ガラス、CaF2ガラス、および、LiFガラスのうちのいずれかで構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原子層成長装置。
【請求項5】
成膜容器の成膜室に、原料ガスと酸化ガスとを交互に供給して、基板上に酸化膜を生成する原子層成長方法であって、
前記成膜容器のプラズマ発生室内において、紫外線を発生するプラズマを生成し、
前記プラズマ発生室と前記成膜室とを区切るように前記成膜容器内に配設された紫外線透過板を介して、前記プラズマ発生室から前記成膜室に透過した紫外線により、前記成膜容器内に供給されたガスを活性化して前記基板上に酸化膜を生成することを特徴とする原子層成長方法。
【請求項6】
成膜容器の成膜室に、原料ガスと窒化ガスとを交互に供給して、基板上に窒化膜を生成する原子層成長方法であって、
前記成膜容器のプラズマ発生室内において、紫外線を発生するプラズマを生成し、
前記プラズマ発生室と前記成膜室とを区切るように前記成膜容器内に配設された紫外線透過板を介して、前記プラズマ発生室から前記成膜室に透過した紫外線により、前記成膜容器内に供給されたガスを活性化して前記基板上に窒化膜を生成することを特徴とする原子層成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−194018(P2009−194018A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30514(P2008−30514)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】