説明

圧縮機駆動装置および冷凍サイクル装置

【課題】密閉型圧縮機に搭載される電動機の種類にかかわらず、密閉型圧縮機の圧力または温度の異常上昇を確実に防ぐことができる安全性にすぐれた圧縮機駆動装置および冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】密閉型圧縮機1の密閉ケース1a内に、その密閉ケース1a内の圧力が異常上昇した場合に作動して相巻線に対する短絡路を形成する保護装置15が設けられる。この保護装置15が作動すると、インバータに過電流が流れ、それが過電流検出器42で検出される。このとき、制御部60により、インバータの動作が停止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、密閉型圧縮機の保護機能を備えた圧縮機駆動装置および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機および圧縮機構部からなる密閉型圧縮機の駆動装置として、商用交流電源の電圧を直流に変換し、その直流電圧をスイッチングにより3相の擬似交流電圧に変換して上記電動機の各相巻線に印加するインバータを備えたものがある。この場合、インバータから各相巻線への複数相通電を順次に切換えるべく、各相巻線のうち、非通電状態の相巻線に誘起する電圧が検出され、その検出電圧から電動機のロータ回転位置が検出され、その検出位置に応じてインバータのスイッチングタイミングが制御される。
【0003】
また、このような駆動装置では、温度の異常上昇時に接点が開く保護装置を密閉型圧縮機の密閉ケース内に収容し、その保護装置の作動時に相巻線への通電を遮断するものがある(例えば特許文献1)。この場合、保護装置が作動して相巻線への通電が遮断されると、いわゆる欠相運転となり、各相巻線に誘起する電圧の全てを検出することができなくなる。これに伴い、ロータの回転位置検出が不可能となり、インバータのスイッチング動作が停止して、密閉型圧縮機の異常温度上昇が防止される。
【特許文献1】特開平11−75386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記密閉型圧縮機に搭載される電動機は、永久磁石を有するロータおよび複数の相巻線を有するステータからなる永久磁石電動機である。この永久磁石電動機を駆動するために、上記のように、非通電状態の相巻線に誘起する電圧が検出され、その検出電圧から電動機のロータ回転位置が検出され、その検出位置に応じてインバータのスイッチングタイミングが制御される
一方、電動機としては、永久磁石電動機のほかに、誘導電動機がある。この誘導電動機が搭載された密閉型圧縮機の場合、ロータ回転位置の検出が不要である。このような状況では、上記のように保護装置が密閉型圧縮機の密閉ケースに収容されて、その保護装置が異常温度上昇時に作動しても、欠相運転が生じたまま密閉型圧縮機の運転が継続されてしまい、密閉型圧縮機の異常温度上昇を防止できないという問題がある。
【0005】
この発明は、上記の事情を考慮したもので、密閉型圧縮機に搭載される電動機の種類にかかわらず、密閉型圧縮機の圧力または温度の異常上昇を確実に防ぐことができる安全性にすぐれた圧縮機駆動装置および冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明の圧縮機駆動装置は、複数の相巻線を有する電動機、およびこの電動機により駆動される圧縮機構部を密閉ケースに収容してなる密閉型圧縮機を備えたものにおいて、前記密閉型圧縮機の密閉ケース内に設けられ、密閉ケース内の圧力または温度が異常上昇したときに作動して前記相巻線に対する短絡路を形成する保護装置と、交流電圧を直流に返還し、それをスイッチングにより交流電圧に返還して前記密閉型圧縮機の各相巻線に印加するインバータと、このインバータへの過電流を検出する過電流検出手段と、この過電流検出手段で過電流が検出された場合に前記インバータの動作を停止する制御手段と、を備える。
【0007】
請求項5に係る発明の冷凍サイクル装置は、請求項1ないし請求項4のいずれかに係る発明の圧縮機駆動装置と、前記密閉型圧縮機から吐出される冷媒を凝縮器、減圧器、蒸発器に通して密閉型圧縮機に戻す冷凍サイクルと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明の圧縮機駆動装置および冷凍サイクル装置によれば、密閉型圧縮機に搭載される電動機の種類にかかわらず、密閉型圧縮機の圧力または温度の異常上昇を確実に防ぐことができて、安全性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1において、1は密閉型圧縮機で、永久磁石電動機10およびこの永久磁石電動機10により駆動される圧縮機構部20を密閉ケース1aに収容している。永久磁石電動機10は、ブラシレスDCモータともいい、密閉ケース1aの内周面に接して設けられたステータ11、このステータ11の内側に回転可能に設けられたロータ12、このロータ12の中心軸となるシャフト13を備え、ステータ11の各相巻線への通電により生じる磁界とロータ12に埋設されている複数の永久磁石が作る磁界との相互作用により、ロータ12が回転する。このロータ12の回転動力がシャフト13により圧縮機構部20に伝達される。
【0010】
また、密閉ケース1aの下部に吸込管2a,2bが設けられ、その吸込管2a,2bにアキュームレータ3が接続されている。密閉ケース1aの上部には吐出管4および密封端子部5が設けられ、密封端子部5の上面側と下面側にターミナル端子6およびコネクタ7がそれぞれ設けられている。そして、永久磁石電動機10のステータ11の各相巻線からコネクタ7にかけて複数本のリード線が接続され、そのうちの2本のリード線8,9の相互間に保護装置15が接続されている。保護装置15は、図2に示すように、密閉ケース1a内の圧力(または温度)が異常上昇したときに作動して閉成する常開接点16を有するもので、その作動点と復帰点とが略同じである。
【0011】
さらに、密閉型圧縮機1の吐出管4に凝縮器31の一端が配管接続され、その凝縮器31の他端が減圧器たとえば膨張弁32を介して蒸発器33の一端に配管接続され、その蒸発器33の他端がアキュームレータ3を介して吸込管2a,2bに配管接続されている。すなわち、吸込管2a,2bを通して圧縮機構部20に吸込まれ、それが圧縮機構部20で圧縮されて吐出管4から吐出される。吐出された冷媒は凝縮器31、膨張弁32、蒸発器33、およびアキュームレータ3を通り、吸込管2a,2bに再び吸込まれる。これら密閉型圧縮機1、凝縮器31、膨張弁32、蒸発器33により、冷凍サイクルが構成されている。
【0012】
なお、密閉型圧縮機1の密閉ケース1aの内底部に潤滑油(図示しない)が収容されており、その潤滑油により圧縮機構部20の機械的な潤滑作用が確保されながら圧縮機構部20が冷却される。
【0013】
このような構成の密閉型圧縮機1に対し、図3の圧縮機駆動装置が接続される。
すなわち、商用交流電源40の電圧が順変換部41で直流に変換され、その直流電圧が過電流検出器42を介してスイッチング回路50に印加される。過電流検出器42は、このスイッチング回路50に流れる過電流を検出する。
【0014】
スイッチング回路50は、印加される直流電圧の正側に位置するスイッチング素子と負側に位置するスイッチング素子との直列回路をU,V,Wの3相分有するもので、U相の正側にスイッチング素子U+、負側にスイッチング素子U−、V相の正側にスイッチング素子V+、負側にスイッチング素子V−、W相の正側にスイッチング素子W+、負側にスイッチング素子W−を備え、入力される直流電圧をスイッチングにより3相の擬似交流電圧に変換して出力する。このスイッチング回路50および上記順変換部41により、インバータが構成される。そして、スイッチング回路50のスイッチング素子U+,U−の相互接続点に相巻線Luの非結線端が接続され、スイッチング素子V+,V−の相互接続点に相巻線Lvの非結線端が接続され、スイッチング素子W+,W−の相互接続点に相巻線Lwの非結線端が接続される。相巻線Lu,Lv,Lwは、中性点Cを中心に星形結線されている。なお、スイッチング回路50と相巻線Lu,Lv,Lwとの接続は、上記ターミナル端子6およびコネクタ7を介して行われる。
【0015】
このスイッチング回路50と密閉型圧縮機1との間の通電ラインに、位置検出部43が接続される。位置検出部43は、相巻線Lu,Lv,Lwのうち、非通電状態の相巻線に誘起する電圧を検出し、その検出電圧から永久磁石電動機10のロータ回転位置を検出する。この検出結果が制御部60に供給される。
【0016】
なお、順変換部41、スイッチング回路50、位置検出部43、および制御部60により、永久磁石電動機10の相巻線Lu,Lv,Lwに駆動電圧を供給するインバータが構成されている。
【0017】
制御部60は、主要な機能として、次の(1)(2)の手段を有する。
(1)スイッチング回路50における各直列回路のうち2つの直列回路のそれぞれスイッチング素子がオン,オフして残りの1つの直列回路のスイッチング素子がオンする2相通電を順次に切換えながら行うべく、位置検出部43の検出結果に応じた複数の駆動信号を生成して出力する手段。これら駆動信号がスイッチング回路50の各スイッチング素子に供給される。
【0018】
(2)過電流検出器42で過電流が検出された場合にスイッチング回路50に対する駆動信号の供給を停止してインバータの動作を停止する制御手段。
【0019】
一方、上記保護装置15は、上記したように、永久磁石電動機10のステータ11の各相巻線からコネクタ7にかけて接続された複数本のリード線のうち、2本のリード線の相互間に接続されている。すなわち、図3のように、相巻線Luの非結線端と相巻線Lwの非結線端との間に接続されており、密閉ケース1a内の圧力が異常上昇したときに常開接点16が閉成作動して2つの相巻線Lu,Lwに対する短絡路を形成する。
【0020】
なお、永久磁石電動機10のロータ12に埋設されている複数の永久磁石は、永久磁石電動機10の組立後、ターミナル端子6を介して相巻線Lu,Lv,Lwに着磁電流が流されることにより、着磁される。
【0021】
つぎに、作用について説明する。
スイッチング回路50の各スイッチング素子に対する駆動信号が制御部60で生成され、その駆動信号が同各スイッチング素子に供給される。これにより、スイッチング回路50における2つの直列回路のそれぞれスイッチング素子がオン,オフして残りの1つの直列回路のスイッチング素子がオンする2相通電が順次に切換わり、永久磁石電動機10の相巻線Lu,Lv,Lwにそれぞれ正弦波状の電流が流れ、永久磁石電動機10が動作する。
【0022】
こうして、密閉型圧縮機1が運転されているとき、密閉型圧縮機1の密閉ケース1a内の圧力が異常上昇すると、保護装置15が作動してその常開接点16が閉成する。常開接点16が閉成すると、相巻線Lu,Lwの非結線端の相互間が短絡された状態となり、相巻線Lu,Lwに流れようとする電流が常開接点16を通して流れる。この短絡に伴い、スイッチング回路50に過電流が流れ、それが過電流検出器42で検出される。このとき、制御部60は、過電流検出器42の過電流検出に応答して、スイッチング回路50に対する駆動信号の供給を停止する。駆動信号の供給が停止されると、スイッチング回路50の動作が停止し、永久磁石電動機10の動作が停止して、密閉型圧縮機1の運転が停止する。この運転停止により、密閉型圧縮機1の密閉ケース1a内の圧力の異常上昇が防止される。
【0023】
密閉型圧縮機1の密閉ケース1a内の圧力が下がり、保護装置15が復帰してその常開接点16が開放すると、相巻線Lu,Lwの非結線端に対する短絡路が解除される。これにより、全ての相巻線Lu,Lv,Lwに電流が流れる状態となり、永久磁石電動機10の動作が再開されて、密閉型圧縮機1の運転が再開される。
【0024】
このように、保護装置15の作動に伴って制御部60による過電流保護制御が働くことにより、たとえ密閉型圧縮機1に搭載される電動機が永久磁石電動機10でなく誘導電動機であっても、密閉型圧縮機1の圧力の異常上昇を確実に防ぐことができる。
【0025】
しかも、保護装置15の常開接点16は、圧力の異常上昇時のみ閉成し、それ以外は開いた状態にあるので、永久磁石電動機10の組立後にロータの永久磁石を着磁するべく、ステータの相巻線Lu,Lv,Lwに着磁電流が流されても、その着磁電流が短絡される不具合を生じない。したがって、永久磁石を確実に着磁することができる。
【0026】
また、保護装置15として作動点と復帰点とが略同じものを採用しているが、これは次の理由による。まず、保護装置としては作動点と復帰点との間にディファレンシャルを確保して作動と復帰の頻繁な繰り返しを防ぐのが一般的な構成であり、温度や電流を感知するものであればバイメタルの湾曲形状によってディファレンシャルを安価に確保することができる。ところが、圧力を感知するものでは、ディファレンシャルを確保するためにスナップアクションが必要であり、その採用にあたっては構造の複雑化、大形化、コストアップなどの問題を生じる。本実施形態では、そのような問題に対処するべく、作動点と復帰点とが略同じ保護装置15を採用している。保護装置15が作動と復帰を繰り返したとしても、その作動ごとおよび復帰ごとに制御部60の制御が介在し、密閉型圧縮機1の運転と停止が適切なタイミングで制御されるので、密閉型圧縮機1が頻繁に運転と停止を繰り返す不具合はまったく生じない。ただし、圧力を感知して動作する保護装置で、作動点と復帰点との間にディファレンシャルを確保するようにしてもよい。
【0027】
なお、上記実施形態では、常開接点16を有する保護装置15を例に説明したが、図4に示すように、常開接点16およびその常開接点16に直列接続された電流制限素子17からなる保護装置15を採用してもよい。電流制限素子17として、例えば抵抗器や正特性サーミスタなどが用いられる。この構成によれば、常開接点16の閉成による短絡電流の大きさを適切に制限することができ、スイッチング回路50におけるスイッチング素子の破壊を未然に防ぐことができる。
【0028】
また、上記実施形態では、保護装置15を2つの相巻線の非結線端の相互間に接続する構成としたが、それに限らず、保護装置15を1つの相巻線の非結線端と中性点Cとの間に接続する構成としてもよい。
【0029】
さらに、上記実施形態では、永久磁石電動機10のロータ回転位置を誘起電圧から検出する構成としたが、図5に示すように、スイッチング回路50と密閉型圧縮機1との間の通電ラインに電流センサ44u,44vを設け、これら電流センサ44u,44vの検知電流から永久磁石電動機10のロータ回転位置を検出する構成としてもよい。
【0030】
その他、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】一実施形態に関わる密閉型圧縮機の内部および冷凍サイクルの構成を示す図。
【図2】一実施形態における保護装置の具体的な構成を示す図。
【図3】一実施形態の構成を示すブロック図。
【図4】一実施形態における保護装置の変形例の構成を示す図。
【図5】一実施形態の変形例の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0032】
1…密閉型圧縮機、1a…密閉ケース、2a,2b…吸込管、3…アキュームレータ、4…吐出管、5…密封端子部、6…ターミナル端子、7…コネクタ、10…永久磁石電動機、11…ステータ、12…ロータ、13…シャフト、20…圧縮機構部、15…保護装置、16…常開接点、17…電流制限素子、31…凝縮器、32…膨張弁(減圧器)、33…蒸発器、40…商用交流電源、41…順変換部、42…過電流検出器、43…位置検出部、50…スイッチング回路、60…制御部、Lu,Lv,Lw…相巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相巻線を有する電動機、およびこの電動機により駆動される圧縮機構部を密閉ケースに収容してなる密閉型圧縮機を備えたものにおいて、
前記密閉型圧縮機の密閉ケース内に設けられ、密閉ケース内の圧力または温度が異常上昇したときに作動して前記相巻線に対する短絡路を形成する保護装置と、
交流電圧を直流に返還し、それをスイッチングにより交流電圧に返還して前記密閉型圧縮機の各相巻線に印加するインバータと、
このインバータへの過電流を検出する過電流検出手段と、
この過電流検出手段で過電流が検出された場合に前記インバータの動作を停止する制御手段と、
を備えることを特徴とする圧縮機駆動装置。
【請求項2】
前記電動機は、永久磁石を有するロータおよび複数の相巻線を有するステータからなり、
前記永久磁石は、前記各相巻線に流される着磁電流により着磁される、
ことを特徴とする請求項1に記載の圧縮機駆動装置。
【請求項3】
前記電動機は、永久磁石を有するロータおよび星形結線された複数の相巻線を有するステータからなり、
前記保護装置は、前記各相巻線のうちいずれか2つの相巻線の非結線端の相互間に接続され、密閉ケース内の圧力または温度が異常上昇したときに閉成する常開接点およびその常開接点に直列接続された電流制限素子を有することを特徴とする請求項1に記載の圧縮機駆動装置。
【請求項4】
前記保護装置は、密閉ケース内の圧力が異常上昇したときに作動し、その作動点と復帰点とが略同じであることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機駆動装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧縮機駆動装置と、前記密閉型圧縮機から吐出される冷媒を凝縮器、減圧器、蒸発器に通して密閉型圧縮機に戻す冷凍サイクルと、を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−156236(P2009−156236A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338351(P2007−338351)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(505461072)東芝キヤリア株式会社 (477)
【Fターム(参考)】