説明

垂直磁気トンネル接合構造体並びにそれを含む磁性素子、及びその製造方法

【課題】垂直磁気トンネル接合構造体並びにそれを含む磁性素子、及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の垂直磁気トンネル接合は、上部磁性層及び下部磁性層のうちいずれか1層の磁性層に自由層を含み、トンネリング層と自由層との間に、分極強化層と交換遮断層とが積層されており、該交換遮断層は、非晶質の非磁性層であり、該分極強化層は、Fe層、体心立方(bcc)構造を有するFe系合金層、CoFeB系非晶質合金層、L21型ホイスラ(Heusler)合金層及びそれらの複合層のうちいずれか1層であり、該非晶質非磁性層は、ジルコニウム・ベース非晶質合金層、チタン・ベース非晶質合金層、パラジウム・ベース非晶質合金層、アルミニウム・ベース非晶質合金層及びそれらの複合層のうちいずれか1層であり、また該非晶質非磁性層は、全体的には非晶質であるが、局所的にはナノ結晶構造を有するものでありうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性素子に係り、特に、垂直磁気トンネル接合構造体並びにそれを含む磁性素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAM(magnetic random access memory)は、不揮発性を有し、高速動作が可能であり、高集積を期待することができる次世代不揮発性メモリである。MRAMは、トンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magnetoresistance)現象を利用してデータを書き込む。
【0003】
既存の磁場(magnetic field)を用いることによって情報を保存する一般的なMRAMの場合、サイズ縮小(scalability)に困難がある。
【0004】
最近紹介されているスピン電流(spin current)のスピン移行トルク(STT:spin transfer torque)によって情報を保存するSTT−MRAMの場合、サイズ縮小の困難を解決できると評価されている。
【0005】
しかし、STT−MRAMの磁性層は、小サイズであるために、磁性層は、熱的揺動(thermal fluctuation)現象を引き起こすことがある。
【0006】
磁性層の熱的安定性は、KV/KTに比例する。従って、磁気異方性エネルギーK(magnetic anisotropy)が大きいほど、そして体積Vが大きいほど熱的に安定する。
【0007】
これにより、50nm以下のセルサイズを有する高集積MRAMでは、大きな磁気異方性エネルギー(high K)を有する垂直磁気異方性(PMA:perpendicular magnetic anisotropy)物質が使われる。
【0008】
PMA物質を利用してMTJ(magnetic tunnel junction)構造体を製作する場合、PMA物質のスピン分極(spin polarization)値が水平磁気異方性(IMA:in−plane magnetic anisotropy)物質、例えば、CoFeBより低い。従って、PMA物質/トンネリング膜(tunnel barrier)/PMA物質の構造体では、実質的に大きなTMRを期待し難いことが知られている。
【0009】
このために、PMA物質の大きな磁気異方性エネルギー(high K)を利用しつつ、大きなTMRを確保するために、分極強化層(PEL:polarization enhancing layer)をPMA物質層とトンネリング膜との間に挿入する技術が最近紹介されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一実施形態は、PMA物質層を含むMTJ構造体を提供することである。
【0011】
本発明の一実施形態は、かようなMTJ構造体を含む磁性素子を提供することである。
【0012】
本発明の一実施形態は、かようなMTJ構造体及び磁性素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態によるMTJ構造体は、上部磁性層及び下部磁性層のうちいずれか1層の磁性層に自由層を含み、トンネリング層と自由層との間に、分極強化層(PEL)と交換遮断層(EBL)とが積層されている。前記交換遮断層は、非晶質の非磁性層でありうる。
【0014】
前記分極強化層は、Fe層、体心立方(bcc:body−centered cubic)構造を有するFe系合金層、CoFeB系非晶質合金層、L21型ホイスラ(Heusler)合金層、またはそれらの複合層でありうる。
【0015】
前記非晶質非磁性層は、ジルコニウム・ベース非晶質合金層、チタン・ベース非晶質合金層、パラジウム・ベース非晶質合金層、アルミニウム・ベース非晶質合金層、またはそれらの複合層でありうる。また、前記非晶質非磁性層は、全体的には非晶質であるが、局所的には、ナノ結晶構造を有するものでありうる。
【0016】
前記上部磁性層及び下部磁性層のうち、前記自由層を含まない磁性層は、前記トンネリング層と接触する他の分極強化層を含むことができる。
【0017】
本発明の一実施形態による磁性素子は、スイッチング素子と、これに連結されて情報を保存するストレージ・ノードを含む磁気メモリ素子であり、前記ストレージ・ノードは、少なくとも前記交換遮断層を含む垂直MTJ構造体でありうる。
【0018】
本発明の他の実施形態による磁性素子は、MTJ構造体を磁気ヘッドに含むMPM(magnetic packet memory)であり、前記MTJ構造体は、少なくとも前記交換遮断層を含む垂直MTJ構造体でありうる。
【0019】
本発明のさらに他の実施形態による磁性素子は、MTJ構造体を利用して論理演算を行う磁性論理素子(logic device)であり、前記MTJ構造体は、少なくとも前記交換遮断層を含む垂直MTJ構造体でありうる。
【0020】
本発明の一実施形態による垂直MTJ構造体の製造方法は、下部層上に下部磁性層を形成する段階、前記下部磁性層上に、トンネリング層を形成する段階、及び前記トンネリング層上に、上部磁性層を形成する段階を含み、前記下部磁性層を形成する段階と、前記上部磁性層を形成する段階とのうちいずれか1つの段階は、スピン分極電流によって磁化方向が変わり、垂直磁気異方性を示す自由層を形成する段階を含み、前記トンネリング層と前記自由層との間に、分極強化層(PEL)と交換遮断層(EBL)とを積層する。
【0021】
かような製造方法において、前記自由層を含まない磁性層を形成する段階で、前記トンネリング層と接触する他の分極強化層を形成できる。
【0022】
前記交換遮断層は、非晶質非磁性層から形成されうる。
【0023】
前記分極強化層は、Fe層、体心立方構造を有するFe系合金層、CoFeB系非晶質合金層、L21型ホイスラ合金層、またはそれらの複合層から形成されうる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一実施形態によるMTJ構造体を利用すれば、スイッチング時間を短縮させることができる。すなわち、MTJ構造体のスピン・トルク・スイッチング(spin torque switching)が速くなる。また、MTJ構造体の状態反転に必要なスピン電流を減らすことができる。これにより、該MTJ構造体を含む磁性素子、例えば、磁気メモリ素子の動作速度を速め、動作に必要な電流は、減らすことができる。併せて、分極強化層を具備することで、大きなTMRを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】PMA物質層/分極強化層/トンネリング膜/分極強化層/PMA物質層の構造で、分極強化層とPMA物質層との交換相互作用の強さによるスピン・トルク・スイッチング特性を示したグラフである。
【図2】PMA物質層/分極強化層/トンネリング膜/分極強化層/PMA物質層の構造で、分極強化層の飽和磁化(saturation magnetization)によるスピン・トルク・スイッチング特性を示したグラフである。
【図3】本発明の一実施形態による、PMA物質層を含むMTJ構造体を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態による、PMA物質層を含むMTJ構造体を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態によるMTJ構造体を含む磁性素子の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態によるMTJ構造体が適用された磁性素子の他の例を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態によるMTJ構造体を含むMRAMの製造方法を段階別に示した断面図である。
【図8】本発明の実施形態によるMTJ構造体を含むMRAMの製造方法を段階別に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態による磁気トンネル接合(MTJ)並びにそれを含む磁性素子、及びその製造方法について、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。この過程で、図面に図示された層や領域の厚みは、明細書の明確性のために誇張されて図示されている。
【0027】
まず、本発明の一実施形態による垂直MTJ構造体について説明する。
【0028】
その前に、図1及び図2について述べる。
【0029】
図1は、分極強化層(PEL)と垂直磁気異方性(PMA)物質との交換相互作用(exchange interaction)と、スイッチング時間(switching time)との関係を示している。
【0030】
図1で横軸は、スピン電流密度Jを示し、縦軸は、スイッチング時間tSWを示している。
【0031】
図1で第1グラフ群G1は、(a)垂直MTJ構造体の分極強化層とPMA物質との交換相互作用Aexが所定の値である場合における、(b)垂直MTJ構造体の磁化方向が固定された磁性層の磁化方向と、スピン電流によって磁化方向が自由に変化しうる自由層の磁化方向とが、反平行から平行に反転されるときのスイッチング時間を示している。第2グラフ群G2は、前記所定の交換相互作用で、前記磁化方向が固定された磁性層と前記自由層との磁化方向が、平行から反平行に反転されるときのスイッチング時間を示している。
【0032】
第1グラフ群G1及び第2グラフ群G2で、第1グラフ(△)は、交換相互作用が0.8Aexである場合におけるスピン電流密度によるスイッチング時間を示し、第2グラフ(◇)は、交換相互作用が0.4Aexである場合における第3グラフ(□)は、交換相互作用が0.2Aexである場合における、第4グラフ(○)は、交換相互作用が0.1Aexである場合における、スピン電流密度によるスイッチング時間を示している。
【0033】
図1を参照すれば、分極強化層とPMA物質層との交換相互作用の強さ、すなわち交換フィールド(exchange field)の強さが大きくなるほど、スピン・トルク(spin torque)によるスイッチング時間が長くなるということが分かる。これは、交換相互作用Aexの強さが弱いほど、垂直MTJ構造体で、スピン・トルクによるスイッチングがさらに良好に起こることを意味する。前記垂直MTJ構造体は、PMA物質層を含むMTJ構造体を意味する。
【0034】
図2は、PMA物質層/分極強化層/トンネリング膜/分極強化層/PMA物質層の構造で、分極強化層の飽和磁化Mによるスピン・トルク・スイッチング特性を示している。
【0035】
図2で横軸は、スピン電流密度Jを示し、縦軸は、スイッチング時間tSWを示している。
【0036】
図2で第1グラフ群G11は、垂直MTJ構造体の分極強化層のMが所定の値であるとき、垂直MTJ構造体の磁化方向が固定された磁性層の磁化方向と、スピン電流によって磁化方向が自由に変化しうる自由層の磁化方向とが、反平行から平行に反転されるときのスイッチング時間を示している。また、第2グラフ群G22は、前記所定のM値で、前記磁化方向が固定された磁性層と前記自由層との磁化方向が、平行から反平行に反転されるときのスイッチング時間を示している。
【0037】
第1グラフ群G11及び第2グラフ群G22で、第1グラフ(△)は、分極強化層のM値が600emu/cmである場合における、スピン電流密度によるスイッチング時間を示し、第2グラフ(◇)は、分極強化層のM値が800emu/cmである場合における、第3グラフ(□)は、分極強化層のM値が1,000emu/cmである場合における、スピン電流密度によるスイッチング時間を示している。
【0038】
図2を参照すれば、分極強化層のM値が大きくなるほど、スピン・トルク・スイッチングが速くなることが分かる。従って、M値の大きな分極強化層が、スピン・トルク・スイッチングに対してさらに有利であることが分かる。
【0039】
図1及び図2の結果を参照すれば、M値が大きな分極強化層を使用し、かような分極強化層とPMA物質層との交換相互作用を減らすことができる垂直MTJ構造体で、スピン・トルク・スイッチングがさらに良好に起こるものと見られる。
【0040】
図3は、図1及び図2の結果を基に形成したものであり、本発明の一実施形態による垂直MTJ構造体を示している。
【0041】
図3を参照すれば、第1MTJ構造体C1は、順次に積層された下部磁性層L1、トンネリング層34及び上部磁性層U1を含む。下部磁性層L1は、シード層20、並びにその上に順次に積層されたピニング(pinning)層22、ピンド(pinned)層24及び第1分極強化層32を含むことができる。ピニング層22とピンド層24は、PMA物質層でありうる。第1分極強化層32によって、スピン電流は、スピン特性を失わずに上部磁性層U1に伝達されうる。トンネリング層34は、例えば、MgO層またはアルミニウム酸化物層(例えば、Al)でありうる。上部磁性層U1は、トンネリング層34上に形成された第2分極強化層36、並びにその上に順次に積層された交換遮断層(EBL:exchange blocking layer)38、PMA物質の自由層(free magnetic layer)40及びキャッピング層42を含むことができる。第2分極強化層36は、第1分極強化層32と同じ物質でありうる。第2分極強化層36によって、スピン電流による自由層40のスピン分極率を上げることができ、それにより、TMRが大きくなりうる。また、第2分極強化層36は、大きなM値を有する。従って、図2で説明したように、スピン・トルクによるスイッチングが速くなりうる。交換遮断層38は、自由層40と第2分極強化層36との交換相互作用Aexを遮断したり減少させる。すなわち、交換遮断層38は、自由層40と第2分極強化層36との交換フィールドを遮断したり、またはその強さを弱める。従って、図1で説明したとおり、スピン・トルクによる自由層40のスイッチングは、さらに速くなりうる。自由層40と第2分極強化層36との交換相互作用が遮断されたり減少する場合、自由層40による第2分極強化層36の磁化拘束力が消えたり弱まるために、交換遮断層38が存在しないときより小さな値のスピン分極電流を使用しても、第2分極強化層36の垂直磁化状態を反転させることができ、結局、自由層40の磁化状態を反転させることができる。自由層40の磁化状態は、情報を意味するので、交換遮断層38が存在することによって、情報を書き込むため、あるいはスピン・トルク・スイッチングのためのスピン分極電流を減らすことができる。キャッピング層42は、自由層40あるいは第1MTJ構造体C1の表面を保護するための保護膜でありうる。
【0042】
自由層40は、PMA物質層でありうる。例えば、自由層40は、FePt、CoPtのようにL10構造(L10 structure)の結晶化された構造(ordered structure)を有する物質層でありうる。自由層40はまた、Co/Pt層、Co/Ni層またはCo/Pd層のような、多層システム(multilayer system)あるいは多層の積層構造を有する物質層でもありうる。Co/Pt層は、Co層とPt層とが順次に積層された物質層を意味し、Co/Ni層並びにCo/Pd層も同様である。自由層40はまた、Tb、Gdのような希土類(rare−earth)と、Fe、Co、Niのような遷移金属とを含む合金層でもありうる。自由層40として使われるかようなPMA物質は、約10〜10emu/ccほどの十分なK値を有している。ピニング層22及び/またはピンド層24は、自由層40と同じ物質でありうる。
【0043】
第2分極強化層36は、Mの大きなFe層、体心立方(bcc)構造を有するFe系合金層、CoFeB系非晶質合金層、L21型ホイスラ合金層、またはそれらの複合層でありうる。第2分極強化層36は、自由層40のストレイ・フィールド(stray field)によって、そして自由層40と第2分極強化層36との交換フィールドによって垂直磁化を示す。従って、第2分極強化層36は、前記ストレイ・フィールドまたは前記交換フィールドによって垂直磁化されうるほどの厚みを有することができる。第2分極強化層36の厚みは、熱処理温度及び時間に依存し、自由層40として使われるPMA物質の異方性定数、Mまたは厚みによって変わりうる。第2分極強化層36の厚みは、0.3〜3nmほどであるが、この範囲に限定されるものではない。
【0044】
第2分極強化層36がFe系合金層であるとき、第2分極強化層36は、例えば、鉄(Fe)を含有し、10%以下で、バナジウム(V)やモリブデン(Mo)などを含有し、Mを制御できる合金層(例えば、FeV層、FeMo層など)であり、FeCo層やFeNi層でもありうる。
【0045】
第2分極強化層36がCoFeB系非晶質合金層であるとき、第2分極強化層36は、例えば、Feが豊富な(Fe rich)CoFeB層(Fe:40%以上、B:10−30%)、またはCoが豊富な(Co rich)FeCoB層(Co:40%以上、B:10−30%)でありうる。
【0046】
第2分極強化層36がL21型ホイスラ合金層であるとき、第2分極強化層36は、例えば、CoMnSi層、CoSiAl層、CoCr(1−x)FeAl層またはCoFeAl(1−x)Si層でありうる。
【0047】
前述の第2分極強化層36の物質層は、第1分極強化層32の物質層としても使われる。このとき、第1分極強化層32及び第2分極強化層36は、同じ物質層でもあり、異なる物質層でもありうる。例えば、第1分極強化層32及び第2分極強化層36は、いずれもFe系合金層であり、第1分極強化層32は、Fe系合金層である一方、第2分極強化層36は、CoFeB系合金層でもありうる。
【0048】
第1MTJ構造体C1にスピン分極電流が印加されれば、Kが小さく、Mが大きな第2分極強化層36がまず励起されてスイッチングされつつ、自由層40のスイッチングを手伝い、その結果、スピン分極電流密度Jを下げることができる。
【0049】
第2分極強化層36のKが小さいために、さらに小さなスピン分極電流で第2分極強化層36を励起させるためには、Mが大きく、自由層40と第2分極強化層36と交換フィールドが小さいことが有利である。自由層40と第2分極強化層36との間に備わった交換遮断層38は、自由層40と第2分極強化層36との交換フィールドを遮断したり減らす役割を行うので、自由層40のスイッチングに必要なスピン分極電流密度をさらに下げることができる。
【0050】
交換遮断層38は、0.2nm〜1nmほどの厚みを有する非磁性層でありうる。交換遮断層38として使われる物質層は、第2分極強化層36として使われる物質層によって変わりうる。例えば、第2分極強化層36が非晶質のCoFeB系合金層であるとき、交換遮断層38は、非晶質の非磁性層でありうる。このとき、交換遮断層38は、ジルコニウム・ベース非晶質合金層(Zr based amorphous alloy layer)、チタン・ベース非晶質合金層(Ti based amorphous alloy layer)、パラジウム・ベース非晶質合金層(Pdbased amorphous alloy layer)またはアルミニウム・ベース非晶質合金層(Al based amorphous alloy layer)でありうる。前記ジルコニウム・ベース非晶質合金層は、例えば、Zr−Ti−Al−TM層またはZr−Al−TM層でありうる。ここで「TM」は、遷移金属(transition metal)を示す。前記チタン・ベース非晶質合金層は、例えば、Ti−Ni−Sn−Be−Zr層またはTi−Ni−Cu層でありうる。前記パラジウム・ベース非晶質合金層は、例えば、Pd−Cu−Ni−P層またはPd−Cu−B−Si層でありうる。前記アルミニウム・ベース非晶質合金層は、例えば、Al−Ni−Ce層またはAl−V−Fe層でありうる。
【0051】
また、第2分極強化層36が非晶質のFeCoB系合金層であるとき、交換遮断層38として使われうる非晶質の非磁性層は、Ta、Mo、W、Nb及びVのうちいずれか1層、またはそれらの合金層でありうる。かような層は、全体的には非晶質であるが、局所的には、ナノ結晶構造を有することができる。
【0052】
一方、第2分極強化層36がFe系合金層であるとき、交換遮断層38は、Cr、Cu、Ta、Mo、W、Nb及びVのうちいずれか1層、またはそれらの合金層を使用する非晶質非磁性層でありうる。
【0053】
図4は、本発明の他の実施形態による第2MTJ構造体C2を示す。
【0054】
図3の第1MTJ構造体C1がピンド層24を基準とするとき、ピンド層24が自由層40の下に存在するボトム・ピンド層を有する構造であるならば、図4の第2MTJ構造体C2は、ピンド層24が自由層40の上に存在するトップ・ピンド層を有する構造である。図4の説明で、図3で説明した部材については、同じ参照符号を使用し、それに係る説明は省略する。
【0055】
図4を参照すれば、第2MTJ構造体C2は、順次に積層された下部磁性層L11、トンネリング層34及び上部磁性層U11を含む。下部磁性層L11は、シード層46、並びにその上に順次に積層された自由層40、交換遮断層38及び第2分極強化層36を含む。シード層46は、自由層40の成長に適した物質層でありうる。シード層46は、図3のシード層20と同一であり、又は、異なっていてもよい。上部磁性層U11は、第1分極強化層32、並びにその上に順次に積層されたピンド層24、ピニング層22及びキャッピング層42を含む。
【0056】
以下において、本発明の一実施形態による垂直MTJ構造体を含む磁性素子について説明する。
【0057】
図5は、本発明の一実施形態による垂直MTJ構造体を含む磁気メモリ素子(MRAM)を示している。
【0058】
図5を参照すれば、基板50上に、第1不純物領域52及び第2不純物領域54、並びにゲート56を有するトランジスタが存在する。基板50は、P型またはN型のシリコン基板を始めとして、半導体トランジスタが形成されうるあらゆる基板でありうる。前記トランジスタは、スイッチング素子の一例に過ぎない。従って、前記トランジスタの代わりに、ダイオードが備わりもする。第1不純物領域52及び第2不純物領域54は、基板50と反対になるタイプの不純物がドーピングされた領域でありうる。第1不純物領域52及び第2不純物領域54のうち一つは、ソース領域であり、残りは、ドレイン領域でありうる。ゲート56は、第1不純物領域52及び第2不純物領域54間の基板50上に存在する。ゲート56は、ゲート絶縁膜やゲート電極などを含むことができる。基板50上に、前記トランジスタを覆う層間絶縁層58が存在する。層間絶縁層58に、第2不純物領域54が露出されるコンタクトホール60が形成されており、コンタクトホール60は、導電性プラグ62で充填されている。層間絶縁層58上に、導電性プラグ62の上部面を覆う垂直MTJ構造体64が存在する。該MTJ構造体64は、データが保存されるストレージ・ノードでありうる。MTJ構造体64は、図3の第1MTJ構造体C1または図4の第2MTJ構造体C2でありうる。導電性プラグ62とMTJ構造体64との間に、他の導電性部材がさらに備わりうる。
【0059】
本発明の実施形態によるMTJ構造体は、図5の磁気メモリ素子以外に、MTJ構造体を必要とする他の磁性素子にも適用されうる。例えば、本発明の実施形態によるMTJ構造体は、垂直磁気記録ヘッドにも適用されうる。本発明の実施形態によるMTJ構造体は、図6に図示されているように、MPMの磁区壁移動記録媒体110にデータを書き込んだり、書き込まれたデータを読み取るための磁気ヘッド112に適用されもする。図6で参照符号114は、磁区壁を示し、垂直の矢印は、記録媒体110の各ドメインの垂直磁気分極、すなわち、各ドメインに書き込まれたデータを示す。また、MTJ構造体を利用して論理演算を行う磁性論理素子のMTJ構造体に、図3または図4のMTJ構造体を適用できる。
【0060】
以下において、本発明の一実施形態によるMTJ構造体を含む磁気メモリ素子の製造方法について、図7及び図8を参照しつつ説明する。
【0061】
図7を参照すれば、図5のトランジスタを覆う層間絶縁層58上に、導電性プラグ62の上部面を覆うMTJ層70を形成する。MTJ層70の層構成は、図3の第1MTJ構造体C1または図4の第2MTJ構造体C2と同一でありうる。従って、MTJ層70に係る詳細な説明は省略する。次に、MTJ層70の選択された領域上に、マスク80を形成する。マスク80は、感光膜パターンでありうる。マスク80は、導電性プラグ60を覆う。マスク80は、MTJ構造体が形成される領域を限定する。マスク80を形成した後、マスク80周囲のMTJ層70をエッチングする。エッチングは、層間絶縁層58が露出されるまで実施できる。かようなエッチングにより、図8に図示されているように、層間絶縁層58上に、MTJ構造体70aが形成される。MTJ構造体70aは、図3の第1MTJ構造体C1または図4の第2MTJ構造体C2でありうる。前記エッチング後、マスク80を除去する。
【0062】
前記の説明で多くの事項が具体的に記載されているが、それらは発明の範囲を限定するものとするより、望ましい実施形態の例示として解釈されねばならない。よって、本発明の範囲は、説明された実施形態によって定められるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想によって定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、垂直MTJ構造体が使われるあらゆる電子及び磁性素子に適用されうる。よって、該垂直MTJ構造体は、垂直MTJ構造体が使われた素子、例えば、磁気メモリ素子、磁性論理素子などを含むあらゆる製品に使われうる。
【符号の説明】
【0064】
20,46 シード層
22 ピニング層
24 ピンド層
32 第1分極強化層
36 第2分極強化層
34 トンネリング層
38 交換遮断層
40 自由層
42 キャッピング層
50 基板
52 第1不純物領域
54 第2不純物領域
56 ゲート
58 層間絶縁層
60 コンタクトホール
62 導電性プラグ
64,70a MTJ構造体
70 MTJ層
80 マスク
110 記録媒体
112 磁気ヘッド
114 磁区壁
C1 第1MTJ構造体
C2 第2MTJ構造体
L1,L11 下部磁性層
U1,U11 上部磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部磁性層と、
前記下部磁性層上に形成されたトンネリング層と、
前記トンネリング層上に形成された上部磁性層と、を含み、
前記上部磁性層及び下部磁性層のうちいずれか1層の磁性層は、スピン分極電流によって磁化方向が変わり、垂直磁気異方性を示す自由層を含み、
前記トンネリング層と前記自由層との間に、分極強化層と交換遮断層とが積層されている垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項2】
前記交換遮断層は、非磁性層であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項3】
前記交換遮断層の厚みは、0.2nm〜1nmであることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項4】
前記分極強化層は、Fe層、体心立方(bcc)構造を有するFe系合金層、CoFeB系非晶質合金層、L21型ホイスラ合金層及びそれらの複合層のうちいずれか1層であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項5】
前記交換遮断層は、非晶質非磁性層であることを特徴とする請求項2に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項6】
前記非晶質非磁性層は、ジルコニウム・ベース非晶質合金層、チタン・ベース非晶質合金層、パラジウム・ベース非晶質合金層、アルミニウム・ベース非晶質合金層及びそれらの複合層のうちいずれか1層であることを特徴とする請求項5に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項7】
前記非晶質非磁性層は、Ta、Mo、W、Nb及びVのうちいずれか1層、またはそれらの合金層であることを特徴とする請求項5に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項8】
前記非晶質非磁性層は、局所的にナノ結晶構造を有することを特徴とする請求項5に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項9】
前記非晶質非磁性層は、Cr、Cu、Ta、Mo、W、Nb及びVのうちいずれか1層、またはそれらの合金層であることを特徴とする請求項5に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項10】
前記分極強化層は、非晶質のCoFeB系合金層であることを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項11】
前記分極強化層は、Fe系合金層であることを特徴とする請求項9に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項12】
前記ジルコニウム・ベース非晶質合金層は、Zr−Ti−Al−TM層及びZr−Al−TM層のうちいずれか1層であることを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項13】
前記チタン・ベース非晶質合金層は、Ti−Ni−Sn−Be−Zr層及びTi−Ni−Cu層のうちいずれか1層であることを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項14】
前記パラジウム・ベース非晶質合金層は、Pd−Cu−Ni−P層及びPd−Cu−B−Si層のうちいずれか1層であることを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項15】
前記アルミニウム・ベース非晶質合金層は、Al−Ni−Ce層及びAl−V−Fe層のうちいずれか1層であることを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項16】
前記上部磁性層及び下部磁性層のうち、前記自由層を含まない磁性層は、前記トンネリング層と接触する他の分極強化層を含むことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項17】
前記トンネリング層と前記自由層との間の分極強化層と、前記他の分極強化層は、同じ物質であるか、あるいは異なる物質であることを特徴とする請求項16に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項18】
前記分極強化層は、非晶質のCoFeB系合金層であることを特徴とする請求項7に記載の垂直磁気トンネル接合構造体。
【請求項19】
スイッチング素子と、これに連結されて情報を保存するストレージ・ノードと、を含む磁気メモリ素子において、
前記ストレージ・ノードは、請求項1ないし請求項18のうち、いずれか1項に記載の垂直磁気トンネル接合構造体である磁気メモリ素子。
【請求項20】
磁気トンネル接合構造体を磁気ヘッドに含むMPMにおいて、前記磁気トンネル接合は、請求項1ないし請求項18のうち、いずれか1項に記載の垂直磁気トンネル接合構造体であるMPM。
【請求項21】
磁気トンネル接合構造体を利用して論理演算を行う磁性論理素子において、
前記磁気トンネル接合構造体は、請求項1ないし請求項18のうち、いずれか1項に記載の垂直磁気トンネル接合構造体である磁性論理素子。
【請求項22】
下部層上に、下部磁性層を形成する段階と、
前記下部磁性層上に、トンネリング層を形成する段階と、
前記トンネリング層上に、上部磁性層を形成する段階と、を含み、
前記下部磁性層を形成する段階と、前記上部磁性層を形成する段階とのうちいずれか1つの段階は、スピン分極電流によって磁化方向が変わり、垂直磁気異方性を示す自由層を形成する段階を含み、
前記トンネリング層と前記自由層との間に、分極強化層と交換遮断層とを積層する垂直磁気トンネル接合構造体の製造方法。
【請求項23】
前記自由層を含まない磁性層を形成する段階で、前記トンネリング層と接触する他の分極強化層を形成することを特徴とする請求項22に記載の垂直磁気トンネル接合構造体の製造方法。
【請求項24】
前記交換遮断層は、非晶質非磁性層から形成することを特徴とする請求項22に記載の垂直磁気トンネル接合構造体の製造方法。
【請求項25】
前記分極強化層は、Fe層、体心立方(bcc)構造を有するFe系合金層、FeCoB系非晶質合金層、L21型ホイスラ合金層及びそれらの複合層のうちいずれか1層から形成することを特徴とする請求項22に記載の垂直磁気トンネル接合構造体の製造方法。
【請求項26】
前記非晶質非磁性層は、ジルコニウム・ベース非晶質合金層、チタン・ベース非晶質合金層、パラジウム・ベース非晶質合金層、アルミニウム・ベース非晶質合金層及びそれらの複合層のうちいずれか1層であることを特徴とする請求項24に記載の垂直磁気トンネル接合構造体の製造方法。
【請求項27】
前記非晶質非磁性層は、Ta、Mo、W、Nb及びVのうちいずれか1層、またはそれらの合金層であることを特徴とする請求項24に記載の垂直磁気トンネル接合構造体の製造方法。
【請求項28】
前記非晶質非磁性層は、局所的にナノ結晶構造を有することを特徴とする請求項27に記載の垂直磁気トンネル接合構造体の製造方法。
【請求項29】
前記非晶質非磁性層は、Cr、Cu、Ta、Mo、W、Nb及びVのうちいずれか1層、またはそれらの合金層であることを特徴とする請求項24に記載の垂直磁気トンネル接合構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−129933(P2011−129933A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284360(P2010−284360)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【出願人】(592127149)韓国科学技術院 (129)
【氏名又は名称原語表記】KOREA ADVANCED INSTITUTE OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】373−1,Gusung−dong,Yuseong−ku,Daejeon 305−701 KR
【Fターム(参考)】