説明

変位情報取得システム

【課題】対象物に異常が生じたことを確実に検出して、その異常の発生をいち早く報知することともに、一部の端末装置と本体装置との間で変位情報の送受信ができない状況が生じたときにも、他の端末装置から送信されるべき変位情報を本体装置に確実に送信できるようにする。
【解決手段】対象物Wの所定位置に配置されて、各所定位置における変位情報を取得する複数の端末装置B…と、本体装置Dとを無線通信回線網を介して接続されており、本体装置Dには、各端末装置Bから送信された変位情報に基づき、対象物Wの異常を判定する異常判定手段と、この異常判定手段により異常であると判定したときには、各端末装置B毎に異常を報知する異常報知手段とを設け、また、端末装置には、対象物Wの変位情報を取得する変位情報取得手段と、その変位情報を所定の時間間隔で本体装置に向けて送信する変位情報送信手段とを設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建設現場において掘削形成した縦穴の側壁や建築物の梁や柱等の変位情報をリアルタイムに取得する変位情報取得システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設現場においては、掘削形成した縦穴の側壁の側壁が崩壊しないように、所謂山留め工事を行う。
【0003】
この山留め工事の施工の際に重要なことは、山留めした上記側壁の傾斜の変化を何らかの方法によって計測し、異常があると認められた場合には直ちに補修,補強等の処置を行って安全を確保しなければならない点にある。
【0004】
ところで、側壁等の傾斜の変化を複数の計測位置で同時に計測する傾斜計測システムとして、例えば特開2000−97694号公報(特許文献1)に開示された構成のものがある。
【0005】
その従来の傾斜計測システムの概要は、自ら計測した傾斜値を自己同定情報に対応させて電気信号として出力する傾斜器群と、これらと有線で結合されたコンピュータと、電気信号を受け、自己同定情報に対応させて前記傾斜値をデジタル信号として前記コンピュータに送信するコントローラとからなるものである。
【特許文献1】特開2000−97694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記傾斜計測システムは、傾斜値を所定のサンプリング速度で計測していると考えられるものの、その傾斜値が異常であることについては人的に監視しているに過ぎないために異常の発生を見逃しやすく、従って、システムの信頼性を損なう結果となっている。
【0007】
また、傾斜計から送信された傾斜値をいったんコントローラで受信して所定の信号処理をし、この処理した傾斜値をコンピュータに送信しているため、例えばコントローラとコンピュータとの間に、無線通信を阻害する鉄骨等の構造物を設置してしまったとき等には無線通信が行えないことになる。
この場合、有線通信に切り替えるために、コントローラとコンピュータとの間にケーブル等を敷設しなければならない。
【0008】
さらに、上記のコントローラは全ての傾斜器を制御しているので、その制御中枢となるコントローラが故障した場合には、それに接続されている全ての傾斜器のデータが収集できなくなるという深刻な問題がある。
【0009】
そこで本発明は、対象物に異常が生じたことを確実に検出して、その異常の発生をいち早く報知することを第一の目的とし、この第一の目的とともに、一部の端末装置と本体装置との間で変位情報の送受信ができない状況が生じたときにも、他の端末装置から送信されるべき変位情報を本体装置に確実に送信できる変位情報取得システムの提供を第二の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の構成は次のとおりである。
請求項1に記載した本発明は、対象物の変位情報を取得する複数の端末装置と本体装置とを無線通信回線網を介して接続した構成のものであり、本体装置には、各端末装置から送信された変位情報に基づいて、対象物の異常を判定する異常判定手段と、この異常判定手段により異常であると判定したときには、各端末装置毎に異常を報知する異常報知手段とを設けているとともに、端末装置には、対象物の変位情報を取得する変位情報取得手段と、取得した変位情報を所定の時間間隔で本体装置に向けて送信する変位情報送信手段とを設けていることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載した本体装置に、対象物の変位情報の送信要求を所定の時間間隔で各端末装置に向けて行う送信要求手段が設けられており、変位情報送信手段は、その送信要求に応じて対象物の変位情報を送信することを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載した端末装置のうち、予め設定したもの毎に、変位情報の送信時間間隔を異ならせていることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載の本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の異常判定手段により異常であると判定されたときには、変位情報の送信時間間隔を、その判定以前のときよりも短くする送信時間切替え手段を設けた構成になっている。
【0014】
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載した送信時間切替え手段が、変位情報の送信時間間隔を異常の程度に応じて短くすることを特徴としている。
【0015】
請求項6に記載の本発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の構成に加えて、雨量を検出する雨量検出センサと、この雨量検出センサにより検出した雨量が一定の値を超えたか否かを判定する雨量判定手段とを設けており、送信時間切替え手段は、上記の雨量判定手段により、雨量が一定の基準値を超えたと判定したときには、変位情報の送信時間間隔を、判定以前のときよりも短くすることを内容としている。
【0016】
請求項7に記載の本発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の構成に加えて、地震を検出する地震検出センサと、この地震検出センサにより検出した地震が一定の震度以上であるか否かを判定する地震判定手段とが設けており、送信時間切替え手段は、上記の地震判定手段により、検出した地震が一定の震度を超えたと判定したときには、変位情報の送信時間間隔を、判定以前のときよりも短くすることを内容としている。
【0017】
請求項8に記載の本発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の構成に加えて、各端末装置から、本体装置に送信される変位情報、及び本体装置から各端末装置に送信される送信要求信号をそれぞれ中継する中継装置を設けたことを特徴としている。
【0018】
請求項9に記載の本発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の本体装置にディスプレイが設けられており、異常報知手段は、各端末装置から送信された対象物の変位情報を視覚的な変化に変換して上記ディスプレイに表示している。
【0019】
請求項10に記載の本発明は、請求項1〜19のいずれかに記載の変位情報送信手段が、変位情報とともに、この変位情報を取得した時刻データ及び当該端末装置を識別するための識別情報を送信することを内容としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1〜12に記載した本発明によれば、次の効果を得ることができる。
端末装置では、対象物の変位情報を取得し、この取得した変位情報を所定の時間間隔で本体装置に向けて送信し、本体装置では、各端末装置から送信された変位情報に基づいて対象物の異常を判定し、異常であると判定したときには、各端末装置毎に異常を報知しているので、対象物に異常が生じたことを確実に検出して、その異常の発生をいち早く報知することができる。
【0021】
上記した各請求項に記載した発明で得られる共通の効果の他、各請求項に記載した発明よれば、次の各効果を得ることができる。
請求項3に記載した本発明によれば、予め設定した端末装置毎に、変位情報の送信時間間隔を異ならせているので、端末装置を設置した対象物の状況に合わせて変位情報を取得することができる。
【0022】
請求項4に記載した本発明によれば、異常であるとの判定により、変位情報の送信時間間隔を、その判定以前のときよりも短くしているので、異常な箇所の変位情報を詳細に取得することができる。
【0023】
請求項5に記載した本発明によれば、変位情報の送信時間間隔を異常の程度に応じて短くしているので、異常の程度に応じ、異常な箇所の変位情報を詳細に取得することができる。
【0024】
請求項6に記載した本発明によれば、雨量検出センサにより検出した雨量が一定の基準値を超えたと判定したときには、変位情報の送信時間間隔を、判定以前のときよりも短くしているので、異常な箇所の変位情報を詳細に取得することができる。従って、降雨による異常の発生をいち早く確実に察知することができる。
【0025】
請求項6に記載した本発明によれば、地震検出センサにより検出した地震が一定の震度を超えたと判定したときには、変位情報の送信時間間隔を、判定以前のときよりも短くしているので、異常な箇所の変位情報を詳細に取得することができる。従って、地震による異常の発生をいち早く確実に察知することができる。
【0026】
請求項7に記載した本発明によれば、各端末装置から変位情報の送信が送信要求に応じてなされているか否かを判定し、一の端末装置から変位情報の送信がなされていないと判定したときには、他の端末装置に対して、その一の端末装置から送信されるべき変位情報の送信を要求し、上記一の端末装置に関わる変位情報とともに、自ら変位情報を合わせて送信しているので、一部の端末装置と本体装置との間で変位情報の送受信ができない状況が生じたときにも、その一部の端末装置から送信されるべき変位情報を本体装置に確実に送信することができる。
【0027】
請求項8に記載した本発明によれば、中継装置により、各端末装置から本体装置に送信される変位情報、及び本体装置から各端末装置に送信される送信要求信号をそれぞれ中継しているので、端末装置と本体装置とが直接送受信できないときにも、また、一部の端末装置と本体装置との間で変位情報の送受信ができない状況が生じたときにも、その一部の端末装置から送信されるべき変位情報を本体装置に確実に送信することができる。
【0028】
請求項9に記載した本発明によれば、各端末装置から送信された対象物の変位情報を視覚的な変化に変換して上記ディスプレイに表示しているので、変位の状態を直感的に判別できる。
【0029】
請求項10に記載した本発明によれば、変位情報とともに、この変位情報を取得した時刻データ及び当該端末装置を識別するための識別情報を送信しているので、変位の位置,変位の変化を正確に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る変位情報取得システムの概念図である。
本発明の一実施形態に係る変位情報取得システムAは、対象物Wの変位情報を取得する複数の端末装置B…,中継装置C及び本体装置Dを、例えばLAN(Local Area Network)等の無線通信回線網を介して接続した構成になっている。
【0031】
「対象物」は、石油等の各種プラントや水力発電所等のダム、鉄橋、高速道路、遊園地の大型構造物、送電用鉄塔、トンネル、地下鉄や地下街等の梁や柱,壁等の各種構造物の他、地表等を含んでいる。本実施形態においては、対象物として工事現場における縦穴の側壁を例として説明する。
「変位情報」は、本実施形態においては対象物である側壁Wの傾斜角度であるが、撓みや捩れ若しくは温度等であってもよい。
【0032】
端末装置B…,中継装置C及び本体装置Dは、これらの間で下記の内容からなるパケットデータ1を送受できるようになっている。図2は、パケットデータの内容を示す説明図である。
図2に示すように、パケットデータは、上記した端末装置B…,中継装置C又は本体装置Dを特定するためのID番号等の識別情報1a,変位情報1b、変位情報要求情報1c,その変位情報1bを取得した取得時間1d、メンテナンス要求情報(メンテナンス報告情報)1e(1e´)及びその他のデータ1f等を含んでいる。
【0033】
「メンテナンス要求情報1e」は、端末装置Bからの変位情報の送信が途絶えているときに、本体装置Dから送出されるパケットデータに含まれるものであり、「0」,「1」,「2」のうちのいずれか一の値になっている。
「0」は、端末装置Bに対しての要求がないこと、「1」は、端末装置Bに対して自己診断を行わせること、「2」は、予め設定された端末装置Bへの問いかけ要求を行うことをそれぞれ意味している。
なお、本体装置Dから送出されるパケットデータには、変位情報1b、その変位情報1bを取得した取得時間1dについては「0」となっている。
【0034】
「メンテナンス報告情報1e´」は、端末装置Bから本体装置Dに向けて送出されるパケットデータに含まれるものであり、「0」〜「3」のうちのいずれか一の値になっている。
「0」は、自己診断の結果が正常であること、「1」は、自己診断の結果が異常であること、「2」は、予め設定された端末装置Bからの応答があったこと、「3」は、予め設定された端末装置Bからの応答がないことをそれぞれ意味している。
なお、端末装置Bから送出されるパケットデータには、変位情報要求情報については「0」となっている。
【0035】
まず、本体装置Dについて説明する。
本体装置Dは、ディスプレイ2を備えているパーソナルコンピュータ3に、無線部4、雨量を検出する雨量検出センサ5、地震を検出する地震検出センサ6をインターフェイスを介して接続した構成のものである。
【0036】
パーソナルコンピュータ3、従ってまた本体装置Dは、所要のプログラムを実行することにより次の機能を実現するようになっている。図3は、本体装置Dの機能ブロック図である。
(1)側壁(対象物)Wの変位情報の送信要求を所定の時間間隔で各端末装置Bに向けて行う機能。この機能を送信要求手段D1という。
「所定の時間間隔」は、後述する異常が側壁(対象物)Wに生じていない正常時におけるものであり、例えば1日に2回、すなわち12時間に1回程度のことであるが、状況に応じてこれよりも短い時間間隔又は長い時間間隔にしてもよい。
このような時間間隔に設定することにより、詳細を後述する各端末装置B…に搭載されている電源13の寿命の延命化を図るとともに、側壁(対象物)Wの変位情報を確実に取得できる。
「電源の寿命」は、例えば工期よりも長い期間を想定し、その工期内で切れない程度を想定している。これにより、工期内において、煩雑な各端末装置B…の電源13の交換作業を行う必要がない。
【0037】
また、上記した所定の時間間隔は、各端末装置B毎に異ならせてもよい。換言すると、予め設定した端末装置B毎に、変位情報の送信時間間隔を異ならせた構成にすることができる。
「予め設定した端末装置」は、例えば傾斜の変化が大きいと予め想定される位置に配置される端末装置Bについては、例えば1日に4回、すなわち6時間に1回程度の割合で送信要求をすることにより、傾斜の変化が早いときにも精度よく対応することができる。
また、それとは逆に、例えば傾斜の変化が少ないと予め想定される位置に配置される端末装置Bについては、例えば1日に1回、すなわち24時間に1回程度の割合で送信要求をするようにしてもよい。
【0038】
(2)送信要求手段D1からの送信要求に応じ、各端末装置B…から送信された変位情報に基づいて、側壁Wの異常を判定する機能。この機能を異常判定手段D2という。
変位情報は傾斜角度の変化であり、所定の時間間隔で取得される傾斜角度のうち、連続して取得された相前後する2つの傾斜角度が、判定基準とした傾斜角度を超える変化があったときに、側壁Wに異常が生じていると判定している。具体的には、傾斜角度の変化が1(°)を超え、かつ、2(°)以下の変化であるときや、その傾斜角度の変化が2(°)を超えるとき等である。
【0039】
(3)異常判定手段D2により異常であると判定したとき、各端末装置B毎に異常であることを報知する機能。この機能を異常報知手段D3という。図4は、ディスプレイ2の表示内容を示す説明図である。
パーソナルコンピュータ3内のハードディスク(図示しない)には、後述する各端末装置B…の識別情報とそれらの設置位置情報とを対応付けた端末配置テーブルが記憶されている。
本実施形態においては、端末装置B…を四列三段にして側壁(対象物)Wに配置しているものとすると、図4に示すように、上記端末配置テーブルに基づいて、各端末装置Bを示す点B´が実際のものと同じ配列にしてディスプレイ2に表示されるようになっている。
すなわち、各端末装置Bから送信された側壁(対象物)Wの変位情報を視覚的な変化に変換して上記ディスプレイ2に表示する機能を有している。
本実施形態においては、異常が生じていないときには、すべての点B´が例えば青色で表示されており、異常が生じたときには、異常が生じている端末装置Bに相当する点B´が黄色や赤色で表示されるようになっている。
この場合、「黄色」は上記した傾斜角度の変化が2(°)以下、また、「赤色」は傾斜角度の変化が2(°)を超えるとき等のように、異常の程度を色彩に対応させた表示にしているが、これにより、異常の程度と、側壁Wでの異常が生じている位置を直感的に判別することができる。
その他、異常が生じている側壁W上の位置と異常の程度を音声により報知するようにしてもよく、これと同様の内容をディスプレイ2上にテロップ等で表示するようにしてもよい。
【0040】
(4)異常判定手段D2により異常であると判定されたときには、送信要求手段D1から送信される送信要求の送信時間間隔を、その判定以前のときよりも短くする機能。この機能を送信時間切替え手段D4という。
判定以前のときよりも短い時間間隔としては、本実施形態においては異常の程度に関わらず、例えば2時間に1回と一律に設定しているが、次のようにしてもよい。
・異常の程度に応じた複数段階の時間間隔にする。
具体的には、傾斜角度の変化が1(°)を超え、かつ、2(°)以下の変化のときには例えば2時間に1回、傾斜角度の変化が2(°)を超える変化のときには、1時間に1回というようにしてもよい。
この機能を要約すると、異常判定手段D2により異常であると判定されたときには、送信要求手段D1から送信される送信要求の送信時間間隔を、その判定以前のときよりも異常の程度に応じて短くする機能ということができる。
【0041】
また、本実施形態においては、送信時間切替え手段D4に、次のような機能を併有させている。
下記の雨量判定手段D5により、雨量検出センサ5によって検出した雨量が一定の基準値を超えたと判定したとき、又は下記の地震判定手段D6により、地震検出センサ6によって検出した地震の震度が一定の基準値を超えたと判定したときには、送信要求手段D1から送信される送信要求の送信の時間間隔を、判定以前のときよりも短くする機能。
【0042】
(5)雨量検出センサ5により検出した雨量が一定の基準値を超えたか否かを判定する機能。これを雨量判定手段D5という。
「一定の基準値」とは、例えば側壁Wの傾斜の変化を早めるような悪影響を与える雨量のことである。
【0043】
(6)地震検出センサ6により検出した地震の震度が一定の基準値を超えたか否かを判定する機能。これを地震判定手段D6という。
「一定の基準値」とは、例えば側壁Wの傾斜の変化を早めるような悪影響を与える震度のことである。
なお、本実施形態においては、雨量検出センサ5と地震検出センサ6とを本体装置D側に設けているが、これらを一部の端末装置又は全部の端末装置に設けてもよい。
【0044】
(7)送信要求に応じて、各端末装置B…から変位情報の送信がなされているか否かを判定する機能。これを送受信判定手段D7という。
本実施形態においては、送信要求を送出してから一定の時間が経過するまでに変位情報の送信がないときに、各端末装置B…から変位情報の送信が送信要求に応じてなされていないと判定している。
【0045】
(8)上記した送受信判定手段D7により、一の端末装置から変位情報の送信がなされていないと判定したときには、他の端末装置に対して、その一の端末装置のメンテナンス情報の送信を要求する機能。この機能を、メンテナンス情報要求手段D8という。
「メンテナンス要求情報」は、端末装置Bからの変位情報の送信が途絶えているとき、換言すると、送受信判定手段D7により、一の端末装置から変位情報の送信がなされていないと判定したとき、本体装置Dから送出されるパケットデータに含まれるものであり、その内容は前述したとおりである。
【0046】
次に、端末装置Bについて説明する。図5は、端末装置Bの機能ブロック図である。
端末装置Bは、図1に示すように、傾斜計10、無線部11、メモリを内蔵した処理部12及び電池等の電源13を備えた構成になっている。
傾斜計10は、例えば管内に封入された導電液体と気泡からなるバブルセンサであり、傾斜の変化による気泡の移動が左右2つの電極を覆う面積を変えて導電抵抗の変化を生じさせるとともに、図示しない増幅器を経てアナログ電圧として出力されるようになっている。この傾斜計10が、傾斜検出センサである。
【0047】
処理部12は、所要のプログラムを実行することにより、次の機能を実現している。
(1)対象物Wの変位情報を取得する機能。以下、変位情報取得手段12aという。
この変位情報取得手段12aによる傾斜角度(変位情報)の取得は、本実施形態においては、上記した送信要求手段D1からの送信要求に応じてなされるようになっているが、 その送信要求に拘わらず、一定の時間間隔で取得するようにしてもよい。
【0048】
(2)傾斜検出センサ(傾斜計)10から出力されたアナログ電圧を傾斜角度に換算する機能。この機能を角度換算手段12bという。
なお、各度変換手段12bは、これを必ずしも端末装置Bに設ける必要はなく、本体装置Dに設けた構成にしてもよい。
【0049】
(3)取得した変位情報を所定の時間間隔で本体装置Dに向けて送信する機能。以下、変位情報送信手段12cという。
本実施形態においては、上記した本体装置Dの送信要求手段D1からの送信要求に応じて、側壁Wの傾斜角度を送信する。この場合、傾斜角度とともに、この傾斜角度を取得した取得時間(取得時刻)及び当該端末装置Bを識別するための識別情報を含むパケットデータを送信していることは、前述したとおりである。
【0050】
無線部11は、隣接する他の端末装置Bに届く程度の小さい出力を有するものであり、これにより、電源13の消耗を極力低減させるようにしている。
このため、端末装置Bは、上記した機能の他、各端末装置Bから本体装置Dに向けて送信される変位情報、及び本体装置Dから各端末装置Bに送信される送信要求をそれぞれ中継する機能を有している。この機能をルーティング手段12dという。
すなわち、隣接する他の端末装置に何らかの異常が生じて、その端末装置が送受信機能を欠いているときには、当該他の端末装置を除く他の端末装置を介して本体装置との間で変位情報等の送受を行うようになっている。これにより、いずれかの端末装置に異常が生じても、他の端末装置と本体装置との間で変位情報等の送受を継続して行うことができる。
【0051】
中継装置Cは、各端末装置Bから本体装置Dに向けて送信される変位情報、及び本体装置Dから各端末装置Bに送信される送信要求をそれぞれ中継する機能を有しているものであり、無線部20、メモリを内蔵した処理部21及び電池等の電源22を備えた構成になっている。
なお、この中継装置Cは、一部又は全部の端末装置Bが、本体装置Dの無線部4の送信領域内に配置されていない場合等に、必要に応じて設ければよいものである。
【0052】
上記の構成からなる変位情報取得システムの動作は、次のとおりである。図6は、本システムの動作状態を示すフローチャートである。
<本体装置での動作>
ステップ1(図中S1と略記する。以下同様):初期設定を行う。初期設定は、本体装置Dや端末装置Bの各種の設定を初期化することである。
ステップ2:本体装置D、中継装置C及び各端末装置B…の自己診断を行う。ここで、異常があればステップ3に進んで、NG処理を行う。また、正常であればステップ4に進む。
ステップ3:NG処理を行う。このNG処理は、本システムを作動させないことを内容としている。
【0053】
ステップ4:送信要求の送信時間間隔を設定する。その送信時間間隔は、上記した異常が側壁Wに生じていない状況におけるものであり、前述したように、例えば1日に2回、すなわち12時間に1回程度を想定している。
ステップ5:雨量検出センサ5により検出した雨量が一定の基準値を超えたか否かを判定し、一定の基準以下であればステップ6に進み、その基準値を超えていれば、ステップ7に進む。
ステップ6:地震検出センサ6により検出した震度が一定の基準値を超えているか否かを判定し、一定の基準を超えていればステップ8に進み、一定の基準値以下であればステップ7に進む。
ステップ7:側壁Wの傾斜角度の変化が一定の基準値を超えているか否かを判定し、一定の基準値を超えていればステップ8に進み、その基準値以下であればステップ9に進む。
【0054】
ステップ9:各端末装置B…に対して変位情報等の送信要求を行う。
ステップ10:端末装置Bから受信した変位情報等を格納する。
ステップ11:終了するか否かを判断し、終了しないのであればステップ5に戻り、終了するのであれば、ステップ15に進む。終了するか否かの判断は、予め設定した工期が経過しているか否かを基準としている。
【0055】
ステップ8:異常が生じているときの、送信要求の送信時間間隔に設定する。具体的には、前述したように、傾斜角度の変化が1(°)を超え、かつ、2(°)以下の変化のときには例えば2時間に1回、傾斜角度の変化が2(°)を超える変化を超えるときには、1時間に1回という間隔にする。
【0056】
ステップ12:異常が生じているときの送信時間間隔の設定を解除するか否かを判定し、解除してよければステップ5に戻り、また、解除しないときにはステップ13に進む。
送信時間間隔の設定を解除するか否かの判定は、降雨後や地震発生後の傾斜角度の変化が無くなるか、若しくは予め設定した値以下になったとき等であるが、他の値を基準とすることができる。
【0057】
ステップ13:各端末装置B…に対して、変位情報等の送信要求を行う。
ステップ14:各端末装置B…から受信した変位情報等を格納して、ステップ12に戻る。
ステップ15:終了処理を行う。終了処理は、端末装置B…等の電源を切ること等を内容としている。
【0058】
本発明は前述した実施形態に限るものではなく、次のような変形実施が可能である。
上記の実施形態においては、異常が生じているとの判定により、変位情報を取得する時間間隔を短くする構成のものについて説明したが、異常が生じているとの判定により、変位情報の取得を開始するようにしてもよい。
すなわち、上述した異常判定手段により異常であると判定したときには、各端末装置の変位の取得を開始する情報取得開始手段を設けた構成にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る変位情報取得システムの概念図である。
【図2】パケットデータの内容を示す説明図である。
【図3】本体装置の機能ブロック図である。
【図4】ディスプレイの表示内容を示す説明図である。
【図5】端末装置の機能ブロック図である。
【図6】本システムの動作状態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1a 識別情報
1b 変位情報
1c 取得時間
2 ディスプレイ
5 雨量検出センサ
6 地震検出センサ
10 傾斜検出センサ
12a 変位情報取得手段
12c 変位情報送信手段
B 端末装置
C 中継装置
D 本体装置
D1 送信要求手段
D2 異常判定手段
D3 異常報知手段
D4 送信時間切替え手段
D5 雨量判定手段
D6 地震判定手段
W 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の所定位置にそれぞれ配置されて、それら各所定位置における変位情報を取得する複数の端末装置と、本体装置とを無線通信回線網を介して接続している変位情報取得システムであって、
本体装置には、各端末装置から送信された変位情報に基づいて、対象物の異常を判定する異常判定手段と、この異常判定手段により異常であると判定したときには、各端末装置毎に異常を報知する異常報知手段とを設けているとともに、
端末装置には、対象物の変位情報を取得する変位情報取得手段と、取得した変位情報を所定の時間間隔で本体装置に向けて送信する変位情報送信手段とを設けていることを特徴とする変位情報取得システム。
【請求項2】
本体装置に、対象物の変位情報の送信要求を所定の時間間隔で各端末装置に向けて行う送信要求手段が設けられており、変位情報送信手段は、その送信要求に応じて対象物の変位情報を送信することを特徴とする請求項1に記載の変位情報取得システム。
【請求項3】
予め設定した端末装置毎に、変位情報の送信時間間隔を異ならせていることを特徴とする請求項1又は2に記載の変位情報取得システム。
【請求項4】
異常判定手段により異常であると判定されたときには、変位情報の送信時間間隔を、その判定以前のときよりも短くする送信時間切替え手段を設けていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の変位情報取得システム。
【請求項5】
送信時間切替え手段は、変位情報の送信時間間隔を異常の程度に応じて短くすることを特徴とする請求項4に記載の変位情報取得システム。
【請求項6】
雨量を検出する雨量検出センサと、この雨量検出センサにより検出した雨量が一定の基準値を超えたか否かを判定する雨量判定手段とが設けられており、
送信時間切替え手段は、上記の雨量判定手段により、雨量が一定の基準値を超えたと判定したときには、変位情報の送信時間間隔を、判定以前のときよりも短くすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の変位情報取得システム。
【請求項7】
地震を検出する地震検出センサと、この地震検出センサにより検出した震度が一定の基準値以上であるか否かを判定する震度判定手段とが設けられており、
送信時間切替え手段は、上記の震度判定手段により、検出した震度が一定の基準値を超えたと判定したときには、変位情報の送信時間間隔を、判定以前のときよりも短くすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の変位情報取得システム。
【請求項8】
各端末装置から本体装置に向けて送信される変位情報、及び本体装置から各端末装置に送信される送信要求をそれぞれ中継する中継装置が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の変位情報取得システム。
【請求項9】
本体装置にはディスプレイが設けられており、
異常報知手段は、各端末装置から送信された対象物の変位情報を視覚的な変化に変換して上記ディスプレイに表示することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の変位情報取得システム。
【請求項10】
変位情報送信手段は、変位情報とともに、この変位情報を取得した時刻データ及び当該端末装置を識別するための識別情報を送信することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の変位情報取得システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−101502(P2007−101502A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295373(P2005−295373)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(593106561)高伸建設株式会社 (1)
【出願人】(504417641)マイクロプレシジョン株式会社 (18)
【Fターム(参考)】