説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】予備スパッタの安定化を図ることにより膜質や膜厚制御性を向上させた成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】シャッタ板15は、回動経路Rに設けられてターゲット18とシャッタ板15との間にターゲット18を遮蔽するための遮蔽面15Uを有し、また、回動経路Rに設けられてターゲット18とシャッタ板15との間に基板S側に向かって凹設された凹部15Bとを有する。そして、シャッタ板15は、ターゲット18のプレスパッタを実行するとき、その凹部15Bとターゲット18とを対向させ、ターゲット18の本スパッタを実行するとき、その開口15Aとターゲット18とを対向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや磁気デバイスの製造工程では、スパッタリングターゲット(以下単に、ターゲットという。)をイオンによりスパッタしてターゲットから飛散するスパッタ粒子を基板表面に堆積させることにより薄膜を成膜する成膜装置としてのスパッタ装置が広く利用されている。こうしたスパッタ装置においては、一つのスパッタ空間で異なる成膜プロセスを実行する場合、ターゲットの表面にターゲット材料と異なる物質を付着させてしまう。ターゲットに付着する付着物は、スパッタ処理を実行するたびに飛散するため、異なるプロセス間で汚染(以下単に、クロスコンタミネーションという。)を招いてしまう。そこで、上記スパッタ装置では、従来から、こうしたクロスコンタミネーションを回避するための各種の提案がなされている。
【0003】
特許文献1は、基板ステージとターゲットとの間に、成膜空間を区画するためのドーム状の遮蔽手段を回動自在に配設し、成膜空間に残存する汚染物質をターゲットに対して遮蔽する。そして、スパッタ装置は、ターゲットをスパッタするときに遮蔽手段を回動し、遮蔽手段の開口をターゲットに対向させてターゲットに対する遮蔽を解除する。これにより、特許文献1は、プロセス間におけるクロスコンタミネーションを回避させ、各成膜プロセスにおける膜特性の安定化を図ることができる。
【0004】
スパッタ装置には、複数のターゲットを搭載して複数の異なる膜種を積層する、あるいは多成分系の膜種を成膜する多元スパッタ装置が知られている。多元スパッタ装置では、複数の異なるターゲット材料を一つのスパッタ空間に共存させるため、ターゲット間のクロスコンタミネーションの虞がある。そこで、多元スパッタ装置では、従来から、複数のターゲットと基板との間に上記遮蔽手段としてのシャッタ板を設け、シャッタ板の開口と対向するターゲットのみを選択的にスパッタすることにより、ターゲット間のクロスコンタミネーションを回避させている。
【特許文献1】特開2006−307303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スパッタ装置では、成膜初期におけるターゲット表面の清浄化を図るため、本スパッタを実行する前に予備スパッタ(以下単に、プレスパッタという。)を実行する。予備スパッタとは、ターゲットに対してスパッタ処理を施し、基板に対してスパッタ粒子を堆積させることなくターゲットの表層をスパッタするものである。これにより、スパッタ装置では、基板上に薄膜を形成することなく、ターゲット表面の清浄化を図ることができ、成膜初期のターゲット状態を安定化させることができる。ひいては、基板上に形成される薄膜の膜質や膜厚に関する再現性を向上させることができる。
【0006】
プレスパッタを実行する場合、ターゲット前をシャッタ板で遮蔽した状態で放電を開始する、すなわち、ターゲットよりも大きな板状の構造物をターゲットに対して対向させて放電を開始する。そのため、プレスパッタ時の放電状態は、成膜時の放電状態に比べて、カソード/アノード比率に大きな差異を有して、プラズマのインピーダンスも大きく異なり、また0.2Pa未満の低い圧力領域では放電安定性が良くない。特に、上記シャッタを用いる場合、クロスコンタミネーションを抑えるために、シャッタ板とターゲットとの間の距離が極めて狭く設定されるため、本スパッタ時のインピーダンスとプレスパッタ時
のインピーダンスとの間に、極めて大きな差異を生じてしまう。この結果、上記スパッタ装置では、プレスパッタ時の放電状態、すなわち、ターゲットの清浄化の度合いにバラツキを来たして、薄膜の膜質や膜厚に関して再現性を損なう虞がある。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、予備スパッタの安定化を図ることにより膜質や膜厚制御性を向上させた成膜装置及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の成膜装置は、開口を有して基板上で回動するシャッタ板と、前記シャッタ板上に配設されて前記開口の回動経路と対向するターゲットとを有する成膜装置であって、前記シャッタ板は、前記回動経路に設けられて、前記ターゲットと前記シャッタ板との間の距離が前記ターゲットを遮蔽するための第1の距離からなる遮蔽部と、前記回動経路に設けられて、前記ターゲットと前記シャッタ板との間の距離が前記第1の距離より大きい第2の距離からなる予備スパッタ部とを有すること、を要旨とする。
【0009】
請求項1に記載の成膜装置によれば、ターゲットは、シャッタ板の遮蔽部と対向するときに遮蔽され、シャッタ板の予備スパッタ部と対向するときに予備スパッタを可能にする。したがって、本成膜装置は、シャッタ板を回動するだけで、ターゲットに対する遮蔽、予備スパッタ、及び本スパッタをそれぞれ選択的に実行することができる。よって、本成膜装置は、ターゲットの汚染を抑制することができ、かつ、ターゲットの予備スパッタを円滑に実行することができる。この結果、本成膜装置は、本スパッタを円滑に実行することができ、ひいては、薄膜の膜質や膜厚制御性を向上させることができる。
【0010】
請求項2に記載の成膜装置は、請求項1に記載の成膜装置であって、前記回動経路と対向する複数のターゲットを有し、前記開口は、前記複数のターゲットの各々と選択的に対向し、前記予備スパッタ部は、前記複数のターゲットの各々と選択的に対向することを要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の成膜装置によれば、複数のターゲットの各々は、遮蔽部と対向するときに遮蔽され、予備スパッタ部と対向するときに予備スパッタを可能にする。そして、複数のターゲットの各々は、開口と対向するときに本スパッタを可能にする。したがって、この成膜装置は、シャッタ板を回動するだけで、複数のターゲットの各々に対して、遮蔽、予備スパッタ、及び本スパッタをそれぞれ選択的に実行することができる。よって、本成膜装置は、ターゲット間の汚染を抑制することができ、かつ、複数のターゲットの各々を選択的に予備スパッタすることができる。この結果、本成膜装置は、本スパッタを円滑に実行することができ、ひいては、複数のターゲットを用いて成膜する薄膜の膜質や膜厚制御性を向上させることができる。
【0012】
請求項3に記載の成膜装置は、請求項2に記載の成膜装置であって、前記シャッタ板は、一つの前記ターゲットと対向する位置に前記開口を有し、他の前記ターゲットと対向する位置に前記予備スパッタ部を有することを要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の成膜装置によれば、一つのターゲットが開口を介して本スパッタを実行するとき、他のターゲットが予備スパッタを実行することができる。したがって、この成膜装置は、本スパッタと予備スパッタとを並行して処理することができる、よって、この成膜装置は、薄膜の膜質や膜厚制御性を、高いスループットの下で向上させることができる。
【0014】
請求項4に記載の成膜装置は、請求項1〜3のいずれか一つに記載の成膜装置であって、前記シャッタ板は、前記開口に並設された前記予備スパッタ部を有することを要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の成膜装置によれば、開口と予備スパッタ部とが並設されるため、選択されるターゲットは、開口と対向する直前に予備スパッタ部と対向することができる。したがって、選択されるターゲットは、本スパッタを実行する直前に予備スパッタを実行することができる。よって、この成膜装置は、薄膜の膜質や膜厚制御性を、より確実に向上させることができる。
【0016】
請求項5に記載の成膜装置は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の成膜装置であって、前記予備スパッタ部は、前記遮蔽部に設けられた凹部であることを要旨とする。
請求項5に記載の成膜装置によれば、ターゲットは、予備スパッタを実行するとき、その基板の側を遮蔽部で囲まれる。したがって、この成膜装置は、ターゲットを予備スパッタするとき、ターゲットの汚染を、より効果的に抑えることができる。
【0017】
請求項6に記載の成膜装置は、請求項1〜5のいずれか1つに記載の成膜装置であって、前記ターゲットの外周を囲うシールドを有し、前記予備スパッタ部は、前記シールドの内径と同じ内径を有して前記遮蔽部に設けられた円筒状凹部であることを要旨とする。
【0018】
請求項6に記載の成膜装置によれば、ターゲットは、予備スパッタを実行するとき、自身の基板側を、シールドと円筒状凹部(予備スパッタ部)とによって覆うことができる。したがって、この成膜装置は、予備スパッタを実行するときに、ターゲットの汚染を、より確実に抑えることができる。よって、この成膜装置は、薄膜の膜質や膜厚制御性を、より確実に向上させることができる。
【0019】
上記目的を達成するため、請求項7に記載の成膜方法は、開口を有するシャッタ板を基板上で回動し、前記開口の回動経路上に配設されたターゲットに対して前記開口を対向させ、前記開口を介して前記ターゲットをスパッタすることにより前記基板に薄膜を形成する成膜方法であって、前記シャッタ板における前記回動経路に設けられて前記ターゲットとの間に前記ターゲットを遮蔽するための第1の距離を有する遮蔽部を前記ターゲットに対向させることによって前記ターゲットを遮蔽する工程と、前記シャッタ板における前記回動経路に設けられて前記ターゲットとの間に前記第1の距離より大きい第2の距離を有する予備スパッタ部を前記ターゲットに対向させることによって前記ターゲットを予備スパッタする工程と、前記予備スパッタした前記ターゲットに前記開口を対向させて前記ターゲットを本スパッタすることにより前記基板に薄膜を形成する工程とを有する、ことを要旨とする。
【0020】
請求項7に記載の成膜方法によれば、ターゲットと遮蔽部とを対向させることにより、該ターゲットが遮蔽され、シャッタ板を回動して該ターゲットと予備スパッタ部とを対向させることにより、該ターゲットが予備スパッタされる。したがって、本成膜方法は、シャッタ板を回動するだけで、複数のターゲットの各々の遮蔽を行うことができるため、ターゲット間の汚染を抑制することができる。そして、本成膜方法は、複数のターゲットの各々の予備スパッタと、本スパッタとを円滑に実行することができ、ひいては、薄膜の膜質や膜厚制御性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
上記したように、本発明によれば、予備スパッタの安定化を図ることにより膜質や膜厚制御性を向上させた成膜装置及び成膜方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。図1は、成膜装置としてのスパッタ装置10を模式的に示す側断面図であり、図2は、シャッタ板15を示す斜視図である。
【0023】
図1において、スパッタ装置10は、真空ポンプ等からなる排気系PUに連結された真空槽(チャンバ本体11)を有し、外部から搬送される基板Sをチャンバ本体11の内部に搬入する。基板Sとしては、例えば、円盤状のシリコン基板、ガラス基板、AlTiC基板等を用いることができる。
【0024】
チャンバ本体11には、スパッタガスを供給するためのガス供給系12が連結され、ガス供給系12からの所定流量のスパッタガスが供給される。スパッタガスとしては、Ar、Kr、Xe等を用いることができる。また、スパッタガスとしては、窒素や一酸化炭素等の反応ガスを含む構成であっても良い。
【0025】
チャンバ本体11の内部には、基板Sを載置するための円盤状の基板ホルダ13が配設され、基板ホルダ13は、チャンバ本体11に搬入される基板Sを位置決め固定する。基板ホルダ13は、チャンバ本体11の下方に配設されるホルダモータMHの駆動軸に連結され、ホルダモータMHからの駆動力を受けることにより、基板Sの中心を回動中心にして基板Sを回転させる。本実施形態では、基板Sの中心を含む鉛直線を中心軸線Cという。
【0026】
チャンバ本体11の内部には、基板ホルダ13の外周面やチャンバ本体11の内周面を覆う複数の防着板14が配設され、複数の防着板14の各々は、基板ホルダ13の外周面やチャンバ本体11の内壁に対し、スパッタ粒子の付着を抑える。
【0027】
チャンバ本体11の内部には、基板ホルダ13の上方を覆うドーム状のシャッタ板15が配設されている。シャッタ板15は、チャンバ本体11の内部空間(以下単に、成膜空間11Sという。)を上下方向に区画する板材であって、成膜空間11Sを上下方向に貫通する円形孔(以下単に、開口15Aという。)と、基板Sに向けて凹設された有底円筒状凹部(以下単に、凹部15Bという。)とを有する。シャッタ板15は、チャンバ本体11の上方に配設されるシャッタモータMSの駆動軸に連結され、シャッタモータMSからの駆動力を受けることにより、中心軸線Cを回動中心にして回動する。
【0028】
なお、図1においては、シャッタ板15の全体を説明する便宜上、開口15Aと凹部15Bの配置位置を模式的に示すが、図2に示すように、本実施形態の開口15Aと凹部15Bとは、それぞれシャッタ板15に並設されている。本実施形態では、シャッタ板15の回動に伴って移動する開口15Aの軌跡を、回動経路R(図3参照)という。
【0029】
チャンバ本体11の上側には、複数のカソード16が搭載されている。複数のカソード16の各々は、それぞれバッキングプレート17と、バッキングプレート17の基板S側に搭載されるターゲット18と、バッキングプレート17を挟んでターゲット18と対向する磁気装置AMとを有している。
【0030】
各バッキングプレート17は、それぞれ対応するターゲット18を支持固定し、各ターゲット18をチャンバ本体11の上部に位置決め固定する。各バッキングプレート17は、それぞれ外部電源Gに接続され、外部電源Gからの所定の直流あるいは交流電力をターゲット18に供給する。
【0031】
各ターゲット18は、それぞれ円盤状に形成され、基板Sの表面Sa(本実施形態では
、水平面)に対して傾斜した内表面(以下単に、ターゲット面18aという。)を有する。各ターゲット18のターゲット面18aは、シャッタ板15が回動するとき、開口15Aあるいは凹部15Bと対向する位置に配設されている。本実施形態では、各ターゲット面18aの法線を、それぞれターゲット軸線A1とし、各ターゲット軸線A1と中心軸線Cとのなす角度を、傾斜角という。
【0032】
なお、図1においては、複数のカソード16を説明する便宜上、2つターゲット18の配置位置を模式的に示すが、図3(b)に示すように、本実施形態では、3つのターゲット18が回動経路Rと対向する位置に所定角度(本実施形態では、120°:以下単に、回動角θという。)で等配されている。
【0033】
各ターゲット18の外周には、それぞれターゲット18の全周にわたってリング状に形成されるアースシールド19が配設されている。各アースシールド19は、それぞれターゲット18の全周にわたりターゲット軸線A1に沿って延びる凸部19aを有し、ターゲット面18aの全体を、シャッタ板15の遮蔽面15U(図2参照)と凸部19aとによって覆う。凸部19aと遮蔽面15Uとの間の距離は、ターゲット18を成膜空間11Sに対して遮蔽するための距離(例えば、数mm)である。
【0034】
各磁気装置AMは、それぞれバッキングプレート17と対向する磁気回路SMを有し、磁気回路SMは、バッキングプレート17を挟んで対向するターゲット18のターゲット面18aにマグネトロン磁場を形成する。各磁気回路SMは、それぞれ回動モータMRの駆動軸に連結され、対応する回動モータMRからの駆動力を受けることにより、対向するターゲット面18aの周方向に回動し、該ターゲット面18aに沿って所望のマグネトロン磁場を形成する。
【0035】
次に、上記開口15A、凹部15B、及びターゲット18について以下に詳述する。図3(a)及び(b)は、それぞれシャッタ板15及び各ターゲット18を基板Sから見た図である。図4(a)、シャッタ板15を基板Sから見た平面図、図4(b)は、図4(a)のA−A線端面図であって開口15Aを示す図、図4(c)は、図4(a)のB−B線端面図であって凹部15Bを示す図である。
【0036】
図3(a)において、シャッタ板15の内側面15Iには、中心軸線Cを中心とする略円環状の回動経路R(図3に示す二点鎖線)が仮想的に区画されている。回動経路Rは、中心軸線Cを中心にして回動する開口15Aの経路である。
【0037】
回動経路Rにあって開口15Aの近傍には、凹部15Bが並設されている。凹部15Bは、開口15Aの内径と共通する直径(以下単に、開口径Dという。)を有する。この凹部15Bは、シャッタ板15が図3(a)の矢印方向に回動するとき、回動経路Rに沿って回動し、開口15Aは、その凹部15Bに追従して回動する。
【0038】
本実施形態では、この回動経路Rにある遮蔽面15Uが遮蔽部を構成し、回動経路Rにある凹部15Bが予備スパッタ部を構成する。すなわち、本実施形態では、予備スパッタ部が、遮蔽部により囲まれている。
【0039】
図3(b)において、3つのターゲット18の各ターゲット面18aは、それぞれ回動経路Rと対向する部に等配されている。これら3つターゲット面18aは、シャッタ板15が図3(a)の矢印方向に回動するとき、それぞれターゲット軸線A1上で凹部15Bと対向するまで、シャッタ板15の遮蔽面15U(図2参照)と対向し、凹部15Bと対向した直後に、開口15Aと対向する。
【0040】
図3(b)において、3つアースシールド19の凸部19aは、それぞれターゲット18の全周にわたるリング状を呈し、その内径が開口径Dで形成されている。これら3つ凸部19aは、シャッタ板15が図3(a)の矢印方向に回動するとき、それぞれターゲット軸線A1上で凹部15Bと対向するまで、シャッタ板15の遮蔽面15Uと対向する。この間、凸部19aは、該凸部19aに囲まれるターゲット面18aを、アースシールド19と遮蔽面15Uとによって覆い、ターゲット面18aを成膜空間11Sに対して遮蔽する。
【0041】
3つの凸部19aは、シャッタ板15が図3(a)の矢印方向に回動するとき、それぞれ異なるタイミングで凹部15Bと対向する。この際、凸部19aは、該凸部19aに囲まれるターゲット面18aを、アースシールド19と凹部15Bとによって覆い、ターゲット面18aを成膜空間11Sに対して遮蔽する。このとき、ターゲット面18aは、凹部15Bの容積の分だけ広い空間で遮蔽される。
【0042】
3つの凸部19aは、シャッタ板15が図3(a)の矢印方向に回動するとき、それぞれ異なるタイミングで開口15Aと対向する。この際、凸部19aは、該凸部19aに囲まれるターゲット面18aを、成膜空間11Sに開放する。
【0043】
図4(b)は、ターゲット18と開口15Aとが対向する状態を示す。図4(b)において、ターゲット18は、該ターゲット18に対応するカソード16が駆動するとき、該ターゲット18からのスパッタ粒子を基板Sに向けて飛散させる。この際、成膜に寄与するスパッタ粒子の殆どは、開口15Aの内縁と基板Sの外縁とを結ぶ部を飛行する。本実施形態では、開口15Aの内縁と基板Sの外縁とを結ぶ3次元の空間を、堆積空間Fという。
【0044】
図4(c)は、ターゲット18と凹部15Bとが対向する状態を示す。図4(c)において、ターゲット18は、アースシールド19と凹部15Bとにより覆われる。ターゲット18は、アースシールド19の凸部19aの内径と凹部15Bの内径とが共通する開口径Dで形成されるため、成膜空間11Sに対して、より確実に遮蔽される。ターゲット18は、該ターゲット18に対応するカソード16が駆動するとき、該ターゲット18と凹部15Bとの間で放電を開始する。この際、ターゲット18は、自身とシャッタ板15との間の距離を凹部15Bの深さ分だけ広げるため、遮蔽面15Uと対向する場合に比べて、円滑かつ安定にプラズマを生成する。ターゲット18からのスパッタ粒子は、アースシールド19と凹部15Bとによって囲まれる空間に飛散する。すなわち、ターゲット18からのスパッタ粒子は、その殆どが成膜空間11Sに飛散することなく、凹部15Bの底部に堆積する。
【0045】
本実施形態では、凹部15Bの深さを、放電ギャップHという。放電ギャップHとは、ターゲット18と凹部15Bとの間の圧力やターゲット18と凹部15Bとの間のガス種等に応じて決定されるものであって、該ターゲット18の放電を円滑に開始するための距離である。また、放電ギャップHとは、凹部15Bの底部を堆積空間Fに侵入させない距離、すなわち、成膜に寄与するスパッタ粒子の飛行を凹部15Bの底部により阻害しない距離である。
【0046】
スパッタ装置10は、基板Sに対して成膜処理を開始するとき、まず、チャンバ本体11の内部に基板Sを搬入し、基板Sを基板ホルダ13に載置して回転させる。また、スパッタ装置10は、ガス供給系12からのスパッタガスを成膜空間11Sに導入して成膜空間11Sの圧力を所定圧力に調整する。
【0047】
次いで、スパッタ装置10は、シャッタ板15を回動することにより、選択するターゲ
ット18(以下単に、選択ターゲットという。)と凹部15Bとを対向させ、かつ、選択しないターゲット18と遮蔽面15Uとを対向させる。これにより、スパッタ装置10は、選択ターゲットのみを選択的に凹部15Bで遮蔽し、他の2つのターゲット18を遮蔽面15Uで遮蔽する。
【0048】
そして、スパッタ装置10は、選択ターゲットに対応するカソード16を駆動して、選択ターゲットのターゲット面18aにマグネトロン磁場を形成するとともに、該ターゲット面18aに所定の直流あるいは交流電圧を印加する。これにより、スパッタ装置10は、選択ターゲットのターゲット面18aと凹部15Bとの間でのみ放電を開始し、円滑かつ安定した状態で該ターゲット面18aのプレスパッタを実行する。プレスパッタを実行する間、該ターゲット面18aからのスパッタ粒子は、その殆どが成膜空間11Sに飛散することなく、凹部15Bの底部に堆積するため、他の2つのターゲット18との間のクロスコンタミネーションを回避させることができる。
【0049】
スパッタ装置10は、所定のプロセス時間だけプレスパッタを実行すると、カソード16を停止し、シャッタ板15を回動することにより、選択ターゲットと対向する位置から凹部15Bを退避させ、選択ターゲットと開口15Aとを対向させる。また、選択しないターゲット18と遮蔽面15Uとを対向させる。これにより、スパッタ装置10は、選択ターゲットのターゲット面18aのみを成膜空間11Sに開放し、他の2つのターゲット18を遮蔽面15Uで遮蔽する。この際、スパッタ装置10は、凹部15Bと開口15Aとが並設される分だけ、シャッタ板15の回動角を小さくすることができ、シャッタ板15の開閉動作を短時間で実行ことができる。
【0050】
そして、スパッタ装置10は、選択ターゲットに対応するカソード16を駆動して、選択ターゲットのターゲット面18aに再びマグネトロン磁場を形成するとともに、該ターゲット面18aに所定の直流あるいは交流電圧を再び印加する。これにより、スパッタ装置10は、選択ターゲットのターゲット面18aと成膜空間11Sとの間で放電を開始し、清浄化されたターゲット面18aを用いて本スパッタを実行する。本スパッタを実行する間、他の2つのターゲット18がシャッタ板15により遮蔽されるため、選択ターゲットからのスパッタ粒子は、ターゲット18間のクロスコンタミネーションを回避させることができる。
(実施例1)
以下の条件の下でターゲット18と凹部15Bとを対向させてプレスパッタを実行し、プレスパッタ時における直流放電電圧を実施例1として計測した。実施例1の直流放電電圧は、放電の開始時から2〜3秒後に約2〜5V低下した。このプレスパッタにより、ターゲット面18aの清浄化が認められ、プレスパッタを円滑かつ安定に実行できることが認められた。
(プレスパッタ条件)
・ターゲット:Cuターゲット
・スパッタ時間:30秒
・スパッタ直流電力:300W
・スパッタ圧力:0.02Pa〜0.06Pa
なお、ターゲット18と遮蔽面15Uとを対向させて他の条件を実施例1と同じくすることにより直流放電電圧の計測を試みたが、十分な放電現象を得ることができなかった。ターゲット18と遮蔽面15Uとを対向させる場合、放電現象を得るためには、スパッタ圧力を少なくとも0.2Pa以上に変更しなければならず、本スパッタのスパッタ圧力と大きく異なる圧力を要し、プレスパッタと本スパッタとの間に大きな圧力変動を来たしてしまう。すなわち、ターゲット18と遮蔽面15Uとを対向させるプレスパッタでは、初期膜の不安定化を招いてしまう。しかも、この条件においても、放電電圧が2〜5V低下し安定になるまでには、約10秒の時間を要することが認められた。
(実施例2)
以下の条件の下でターゲット18と凹部15Bとを対向させてプレスパッタを実行し、プレスパッタ時における高周波電力の反射波を実施例2として計測した。実施例2の高周波電力の反射波は、放電の開始時から約5秒後に0Wに低下した。このプレスパッタにより、ターゲット面18aの清浄化が認められ、プレスパッタを円滑かつ安定に実行できることが認められた。
(プレスパッタ条件)
・ターゲット:SiOターゲット
・スパッタ時間:30秒
・スパッタ高周波電力:500W
・スパッタ圧力:0.02Pa〜0.06Pa
なお、ターゲット18と遮蔽面15Uとを対向させて他の条件を実施例1と同じくすることにより直流放電電圧の計測を試みたが、十分な放電現象を得ることができなかった。ターゲット18と遮蔽面15Uとを対向させる場合、放電現象を得るためには、スパッタ圧力を少なくとも0.2Pa以上に変更しなければならず、本スパッタのスパッタ圧力と大きく異なる圧力を要し、プレスパッタと本スパッタとの間に大きな圧力変動を来たしてしまう。すなわち、ターゲット18と遮蔽面15Uとを対向させるプレスパッタでは、初期膜の不安定化を招いてしまう。しかも、この条件においても、放電電圧が2〜5V低下し安定になるまでには、約10秒の時間を要することが認められた。
【0051】
次に、上記のように構成した本実施形態の効果を以下に記載する。
(1)上記実施形態において、シャッタ板15は、回動経路Rに設けられてターゲット18とシャッタ板15との間にターゲット18を遮蔽するための遮蔽面15Uを有し、また、回動経路Rに設けられてターゲット18とシャッタ板15との間に基板S側に向かって凹設された凹部15Bとを有する。そして、シャッタ板15は、ターゲット18のプレスパッタを実行するとき、その凹部15Bとターゲット18とを対向させ、ターゲット18の本スパッタを実行するとき、その開口15Aとターゲット18とを対向させる。
【0052】
したがって、スパッタ装置10は、シャッタ板15を回動するだけで、ターゲット18に対する遮蔽、プレスパッタ、及び本スパッタをそれぞれ選択的に実行することができる。よって、スパッタ装置10は、ターゲット18のクロスコンタミを抑制することができ、かつ、ターゲット18のプレスパッタを円滑に実行することができる。
【0053】
(2)上記実施形態において、シャッタ板15は、開口15Aに並設された凹部15Bを有する。したがって、スパッタ装置10は、選択ターゲットと開口15Aと対向する直前に、選択ターゲットと凹部15Bと対向させることができる。よって、スパッタ装置10は、本スパッタを実行する直前にプレスパッタを実行することができる。この結果、スパッタ装置10は、薄膜の膜質や膜厚制御性を、より確実に向上させることができる。
【0054】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態においては、開口15Aと凹部15Bとが、回動経路Rに並設される例について説明した。これに限らず、例えば、図5に示すように、開口15Aと凹部15Bとが並説されない構成であっても良く、さらには、開口15Aと凹部15Bとが異なるターゲット18と対向する構成であっても良い。
【0055】
この構成によれば、スパッタ装置10は、選択ターゲットの本スパッタを実行するとき、他のターゲット18に対して予備スパッタを実行することができる。したがって、本スパッタと予備スパッタとをパラレル処理することができるため、本スパッタと予備スパッタとをシリアル処理する場合に比べ、スループットを向上させることができる。
【0056】
・上記実施形態において、凹部15Bが1つだけ設けられる例について説明した。これに限らず、例えば、図6に示すように、複数の凹部15Bが回動経路Rに設けられる構成であっても良い。また、ターゲット18の数量をNt、開口15Aの数量をNm、凹部15Bの数量をNbとするとき、Nb=Nt−Nmであっても良く、さらには、Nb個の凹部15Bが、それぞれターゲット18と対向する構成であってもよい。
【0057】
この構成によれば、スパッタ装置10は、選択ターゲットを除いた複数のターゲット18に関し、略同じタイミングの下で予備スパッタを実行することができる。したがって、予備スパッタの条件範囲を拡張させることができ、また、予備スパッタから本スパッタに移行する際の条件(例えば、シャッタ板15の回動方向や回動速度等)の自由度を拡張させることができる。
【0058】
・上記実施形態において、スパッタ装置10は、シャッタ板15を上下動させるための駆動機構を有し、ターゲット18と凹部15Bとの間の距離を変更する構成であっても良い。この構成によれば、プレスパッタにおけるインピーダンスの調整範囲を拡張させることができる。
【0059】
・上記実施形態において、スパッタ装置10は、予備スパッタから本スパッタに移行する間、カソード16を停止する。これに限らず、スパッタ装置10は、予備スパッタから本スパッタに移行する間、カソード16を継続的に駆動し続ける構成であっても良い。
【0060】
・上記実施形態においては、ターゲット面18aが基板Sの表面に対して傾斜する斜入射方式のスパッタ装置10について説明した。これに限らず、例えば、スパッタ装置10は、ターゲット面18aと基板Sの表面とは平行であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】成膜装置を模式的に示す断面図。
【図2】シャッタ板を示す斜視図。
【図3】(a)及び(b)は、それぞれシャッタ板及びターゲットを示す平面図。
【図4】(a)〜(c)は、それぞれシャッタ板における凹部と開口の関係を示す図。
【図5】変更例のシャッタ板を示す平面図。
【図6】変更例のシャッタ板を示す平面図。
【符号の説明】
【0062】
R…回動経路、S…基板、10…成膜装置としてのスパッタ装置、15…シャッタ板、15A…開口、15B…凹部、18…ターゲット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有して基板上で回動するシャッタ板と、前記シャッタ板上に配設されて前記開口の回動経路と対向するターゲットとを有する成膜装置であって、
前記シャッタ板は、
前記回動経路に設けられて、前記ターゲットと前記シャッタ板との間の距離が前記ターゲットを遮蔽するための第1の距離からなる遮蔽部と、
前記回動経路に設けられて、前記ターゲットと前記シャッタ板との間の距離が前記第1の距離より大きい第2の距離からなる予備スパッタ部とを有すること、
を特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記回動経路と対向する複数のターゲットを有し、
前記開口は、前記複数のターゲットの各々と選択的に対向し、
前記予備スパッタ部は、前記複数のターゲットの各々と選択的に対向することを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜装置であって、
前記シャッタ板は、
一つの前記ターゲットと対向する位置に前記開口を有し、他の前記ターゲットと対向する位置に前記予備スパッタ部を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の成膜装置であって、
前記シャッタ板は、
前記開口に並設された前記予備スパッタ部を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の成膜装置であって、
前記予備スパッタ部は、
前記遮蔽部に設けられた凹部であることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の成膜装置であって、
前記ターゲットの外周を囲うシールドを有し、
前記予備スパッタ部は、
前記シールドの内径と同じ内径を有して前記遮蔽部に設けられた円筒状凹部であることを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
開口を有するシャッタ板を基板上で回動し、前記開口の回動経路と対向するターゲットに対して前記開口を対向させ、前記開口を介して前記ターゲットをスパッタすることにより前記基板に薄膜を形成する成膜方法であって、
前記シャッタ板における前記回動経路に設けられて前記ターゲットとの間に前記ターゲットを遮蔽するための第1の距離を有する遮蔽部を前記ターゲットに対向させることによって前記ターゲットを遮蔽する工程と、
前記シャッタ板における前記回動経路に設けられて前記ターゲットとの間に前記第1の距離より大きい第2の距離を有する予備スパッタ部を前記ターゲットに対向させることによって前記ターゲットを予備スパッタする工程と、
前記予備スパッタした前記ターゲットに前記開口を対向させて前記ターゲットを本スパッタすることにより前記基板に薄膜を形成する工程とを有することを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−68075(P2009−68075A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237914(P2007−237914)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】